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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180298
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】金属加工油剤及び金属加工方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 173/00 20060101AFI20221129BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20221129BHJP
   C10M 105/24 20060101ALI20221129BHJP
   C10M 129/40 20060101ALI20221129BHJP
   C10M 133/04 20060101ALI20221129BHJP
   C10N 30/18 20060101ALN20221129BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20221129BHJP
   C10N 40/22 20060101ALN20221129BHJP
【FI】
C10M173/00
C10M169/04
C10M105/24
C10M129/40
C10M133/04
C10N30:18
C10N30:06
C10N40:22
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062531
(22)【出願日】2022-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2021087126
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】常盤 祐平
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BB16A
4H104BB16C
4H104LA03
4H104LA09
4H104PA22
(57)【要約】
【課題】消泡性に優れ且つ加工性に優れた金属加工油剤を提供する。
【解決手段】金属加工油剤は、ネオデカン酸、直鎖脂肪酸、有機アミン及び水を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネオデカン酸、直鎖脂肪酸、有機アミン及び水を含む
金属加工油剤。
【請求項2】
前記ネオデカン酸と前記直鎖脂肪酸との重量比が、1:0.1~1:5である
請求項1に記載の金属加工油剤。
【請求項3】
前記直鎖脂肪酸の炭素数が8~9である
請求項1又は請求項2に記載の金属加工油剤。
【請求項4】
ネオデカン酸、有機アミン及び水を含む
金属加工油剤。
【請求項5】
請求項1、請求項2及び請求項4のいずれか1項に記載の金属加工油剤を使用して、金属材を加工する金属加工方法。
【請求項6】
請求項3に記載の金属加工油剤を使用して、金属材を加工する金属加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属加工油剤及びそれを用いた金属加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、切削加工や研削加工などの金属加工分野において、潤滑を目的に金属加工油剤が使用されている。このような金属加工油剤として、潤滑成分に起因する発泡を抑制するために、例えばシリコーン系の消泡剤を含む金属加工油剤が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5487516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
消泡剤を添加した金属加工油剤においては、消泡剤の表面張力の低さから、加工対象である金属材に消泡剤が残ると液体をはじくことがあり、金属材の二次加工性に影響を及ぼすという問題があった。また、金属材の加工時に消泡剤が系外に持ち出され易く、消泡剤の持ち出し後の金属加工油剤における消泡性が低下する。そこで、消泡剤を使用することなく発泡を抑制することが望まれていた。
【0005】
本開示の主な目的は、消泡性に優れ且つ加工性に優れた金属加工油剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討の結果、ネオデカン酸、直鎖脂肪酸、有機アミン及び水を含む金属加工油剤が、消泡性に優れ且つ加工性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本開示の一態様に係る金属加工油剤は、ネオデカン酸、直鎖脂肪酸、有機アミン及び水を含む。
【0008】
上述の金属加工油剤において、前記ネオデカン酸と前記直鎖脂肪酸との重量比が、1:0.1~1:5であってもよい。
【0009】
上述の金属加工油剤において、前記直鎖脂肪酸の炭素数が8~9であってもよい。
【0010】
本開示の一態様に係る金属加工油剤は、ネオデカン酸、有機アミン及び水を含む。
【0011】
本開示の一態様に係る金属加工方法は、上述のいずれかの金属加工油剤を使用して、金属材を加工する。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、消泡性に優れ且つ加工性に優れた金属加工油剤を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】直鎖脂肪酸の炭素数が同じである実施例1、4~6、実施例7及び比較例1に基づいて、ネオデカン酸のモル分率と、消泡性及び加工性との関係を求めたグラフである。
図2】直鎖脂肪酸の炭素数が同じである実施例2、実施例3及び比較例2に基づいて、ネオデカン酸のモル分率と、消泡性及び加工性との関係を求めたグラフである。
図3】比較例1~3に基づいて、直鎖脂肪酸の炭素数と、消泡性及び加工性との関係を求めたグラフである。
図4】比較例2及び比較例4~6に基づいて、イソノナン酸のモル分率と、消泡性及び加工性との関係を求めたグラフである。
図5】比較例8~10及び比較例14に基づいて、オクチル酸のモル分率と、消泡性及び加工性との関係を求めたグラフである。
図6】比較例11~14に基づいて、オクチル酸のモル分率と、消泡性及び加工性との関係を求めたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
(金属加工油剤)
本発明の実施形態に係る金属加工油剤は、ネオデカン酸、直鎖脂肪酸、有機アミン及び水を含む。
【0016】
実施形態に係る金属加工油剤は、脂肪酸としてネオデカン酸と、直鎖脂肪酸とを含む。ネオデカン酸と直鎖脂肪酸とを併用することで、両者の共存による相乗効果を顕著に発現させ、優れた消泡性と加工性とを両立させることができる。
【0017】
ネオデカン酸とは、分鎖状のアルキル基を有し、炭素数10の脂肪酸である。
直鎖脂肪酸とは、直鎖状のアルキル基を有する脂肪酸のことである。直鎖脂肪酸は、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のいずれであってもよく、飽和脂肪酸であることが好ましい。直鎖脂肪酸とネオデカン酸との相乗効果を高め、優れた消泡性及び加工性を得る観点から、直鎖脂肪酸は、炭素数8~9が好ましく、炭素数9がより好ましい。
直鎖脂肪酸としては、例えばオクタン酸、ノナン酸、デカン酸等が挙げられる。なかでも、オクタン酸及びノナン酸が好ましく、ノナン酸がより好ましい。直鎖脂肪酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0018】
ネオデカン酸と直鎖脂肪酸との含有量は、重量比(ネオデカン酸:直鎖脂肪酸)で、1:0.1~1:5であることが好ましい。上記比率の範囲内でネオデカン酸と直鎖脂肪酸とを併用することで、両者の共存による相乗効果を高め、優れた消泡性と加工性とを両立させるとともに、金属加工油剤の液安定性を高めることができる。ネオデカン酸と直鎖脂肪酸との含有量は、1:1~1:5又は1:1.5~1:5がより好ましく、1:1.8~1:5がさらに好ましく、1:1.8~1:4.6が最も好ましい。
【0019】
金属加工油剤におけるネオデカン酸と直鎖脂肪酸との混合物の含有量は、限定的ではないが、金属加工油剤の総量を基準として金属加工油剤全体を100重量部としたとき、5重量部以上7重量部以下とすることが好ましい。この場合、優れた消泡性と加工性とを両立させるとともに、金属加工油剤の液安定性を高めることができる。ネオデカン酸と直鎖脂肪酸との混合物の下限は、より好ましくは5.5重量部であり、さらに好ましくは5.7重量部である。基油の総量の上限は、より好ましくは6.5重量部であり、さらに好ましくは6.2重量部である。
【0020】
実施形態に係る金属加工油剤は、水を含む。使用する水は、水道水、工業用水、イオン交換水、蒸留水等いずれでもよく、その水は硬水であるか軟水であるかを問わない。金属加工油剤における水の含有量については、他の配合成分の種類や含有量等に応じて適宜設定できる。例えば、水の含有量は、金属加工油剤の総量を基準として金属加工油剤全体を100重量部としたとき、水を50重量部以上60重量部以下とすることが好ましい。この場合、優れた消泡性と加工性とを両立させるとともに、金属加工油剤の液安定性を高めることができる。
【0021】
実施形態に係る金属加工油剤は、有機アミンを含む。有機アミンとしては、例えばメチルアミン、ジメチルアミン等のモノアミン、エチレンジアミンなどのジアミン、ジエチレントリアミンなどのトリアミン等のアルキルアミン類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン等のアルカノールアミン類、芳香族アミン類、ベンジルジアルキルアミン、トリベンジルアミン等のアラルキルアミン類等が挙げられる。優れた消泡性と加工性とを両立させるとともに、金属加工油剤の液安定性及び防食性を高める観点から、なかでも、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン等のアルカノールアミン類が好ましく、トリエタノールアミンがより好ましい。有機アミンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0022】
金属加工油剤における有機アミンの含有量については、他の配合成分の種類や含有量等に応じて適宜設定できる。例えば、有機アミンの含有量は、金属加工油剤の総量を基準として金属加工油剤全体を100重量部としたとき、30重量部以上40重量部以下とすることが好ましい。この場合、優れた消泡性と加工性とを両立させるとともに、金属加工油剤の液安定性及び防錆性を高めることができる。
【0023】
金属加工油剤は、上記各成分以外に、本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて、各種添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば防錆剤、防食剤、凝集剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0024】
防錆剤としては、例えば炭素数6~36の脂肪族モノカルボン酸及びジカルボン酸とそのアミド、炭素数6~36のアルケニルコハク酸とそのアミド、芳香族カルボン酸、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。防錆剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。防錆剤を含む場合、その含有量は、例えば、金属加工油剤の総量を基準として金属加工油剤全体を100重量部としたとき、防錆剤の総量を1重量部以上5重量部以下とすることができる。
【0025】
防食剤としては、例えばリン酸エステル、アルキルホスホン酸、メタ珪酸ソーダ等が挙げられる。防食剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。防食剤を含む場合、その含有量は、例えば、金属加工油剤の総量を基準として金属加工油剤全体を100重量部としたとき、防食剤の総量を0.001重量部以上1重量部以下とすることができる。
【0026】
凝集剤としては、例えばポリアクリル酸エステル系凝集剤、ポリイミン系凝集剤等が挙げられる。凝集剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。凝集剤を含む場合、その含有量は、例えば、金属加工油剤の総量を基準として金属加工油剤全体を100重量部としたとき、凝集剤の総量を0.001重量部以上2重量部以下とすることができる。
【0027】
pH調整剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基、トリエチルアミン等の有機塩基等が挙げられる。pH調整剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。pH調整剤を含む場合、その含有量は、例えば、金属加工油剤の総量を基準として金属加工油剤全体を100重量部としたとき、pH調整剤の総量を0.001重量部以上1重量部以下とすることができる。
【0028】
実施形態に係る金属加工油剤は、上記添加剤以外にも、本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて、防腐剤、防かび剤、潤滑剤(界面活性剤など)等も添加することができる。各添加剤の含有量は従来技術に従い適宜選択されればよい。
【0029】
実施形態に係る金属加工油剤は、特定の組み合わせに係る脂肪酸、水及びアミンを含むことにより、優れた加工性とともに、優れた消泡性を発揮することができるため、上記脂肪酸、水及びアミン以外に、消泡を目的とする消泡剤の添加を不要とする。
【0030】
実施形態の金属加工油剤は水溶性状であり、そのまま金属材の加工に使用できる。また、実施形態に係る金属加工油剤を原液とし、さらに水等の希釈剤で希釈して得られるクーラント(冷却剤)として金属材の加工に使用することもできる。
【0031】
実施形態に係る金属加工油剤を希釈剤で希釈して使用する場合、希釈倍率は、金属加工油剤の組成及び金属加工時に求められる性能に応じて適宜調整すればよい。希釈して使用する場合は、通常1.5倍以上100倍以下に希釈して使用する。本発明の効果をより一層高め、加工特性を向上させるという観点から、好ましくは5倍以上50倍以下、より好ましくは5倍以上30倍以下である。
【0032】
実施形態に係る金属加工油剤のpHは、8.5以上9.8以下であることが好ましく、8.7以上9.5以下であることがより好ましく、9.0以上9.3以下であることがさらに好ましい。
【0033】
実施形態に係る金属加工油剤を水で希釈して使用する場合、使用時における金属加工油剤のpHは、8.0以上9.3以下であることが好ましく、より好ましくは8.5以上9.0以下である。金属加工油剤の水希釈液のpHが前記範囲であると、水希釈液の腐敗を抑制することができる。
【0034】
実施形態の金属加工油剤は、上記各成分を混合することによって得られる。
【0035】
実施形態に係る金属加工油剤は、優れた消泡性及び加工性を有するため、金属材の切削、研削、研磨及び切断等の各種の金属加工に好適に利用することができる。加工対象とする金属の種類としては、例えば、鉄系金属及びその合金、ステンレス系、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金等の非鉄金属及びその合金等が挙げられる。
【0036】
(金属加工方法)
本発明の実施形態に係る金属加工方法は、上記の実施形態に係る金属加工油剤を用いて金属材を加工する。金属加工としては、切削、研削、研磨及び切断等の各種の金属加工に好適に利用することができる。加工対象とする金属の種類としては、例えば上述した金属等が挙げられる。本発明の実施形態に係る金属加工方法においては、上述の金属加工油剤を用いているため、金属加工油剤の発泡を抑制し、良好な加工を行うことができる。
【0037】
上記では、ネオデカン酸、直鎖脂肪酸、有機アミン及び水を含む金属加工油剤について述べた。実施形態に係る金属加工油剤は、消泡性に優れ且つ加工性に優れるという観点においては、脂肪酸として直鎖脂肪酸を含まず、ネオデカン酸を含むことができる。即ち、実施形態に係る金属加工油剤は、ネオデカン酸、有機アミン及び水を含む。
【実施例0038】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0039】
1.金属加工油剤の調製
[実施例1]
下記の表1に示すオクタン酸(直鎖脂肪酸、炭素数8)、ネオデカン酸(分鎖脂肪酸、炭素数10)、水、有機アミン、防錆剤、防食剤、凝集剤を、同表に示す組成(重量%で示す)となるようにそれぞれ秤取し、撹拌機中で均一になるまで混合して、実施例1の金属加工油剤を得た。ネオデカン酸とオクタン酸との配合比(重量比)、及び脂肪酸全体におけるネオデカン酸のモル分率を表1に併記する。なお、下記表1の各実施例及び比較例において使用された脂肪酸全体のモル数は全て同じである。
【0040】
[実施例2~3]
直鎖脂肪酸として炭素数9のノナン酸を配合し、各成分の配合比率を表1に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2~3の金属加工油剤を調製した。ネオデカン酸とノナン酸との配合比(重量比)、及び脂肪酸全体におけるネオデカン酸のモル分率を表1に併記する。
[実施例4~6]
各成分の配合比率を表1に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4~6の金属加工油剤を調製した。ネオデカン酸とオクタン酸との配合比(重量比)、及び脂肪酸全体におけるネオデカン酸のモル分率を表1に併記する。
【0041】
[実施例7]
脂肪酸として、ネオデカン酸のみを配合し、各成分の配合比率を表1に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例7の金属加工油剤を調製した。
【0042】
[比較例1]
脂肪酸として、オクタン酸(直鎖脂肪酸、炭素数8)のみを配合し、各成分の配合比率を表1に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の金属加工油剤を調製した。
【0043】
[比較例2]
脂肪酸として、ノナン酸(直鎖脂肪酸、炭素数9)のみを配合し、各成分の配合比率を表1に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の金属加工油剤を調製した。
【0044】
[比較例3]
脂肪酸として、デカン酸(直鎖脂肪酸、炭素数10)のみを配合し、各成分の配合比率を表1に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、比較例3の金属加工油剤を調製した。
【0045】
[比較例4~6]
脂肪酸として、ノナン酸(直鎖脂肪酸、炭素数9)と、イソノナン酸(分鎖脂肪酸、炭素数9)とを配合し、各成分の配合比率を表1に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、比較例4~6の金属加工油剤を調製した。脂肪酸全体におけるイソノナン酸のモル分率を表1に併記する。
【0046】
[比較例7]
脂肪酸として、イソノナン酸(分鎖脂肪酸、炭素数9)のみを配合し、各成分の配合比率を表1に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、比較例7の金属加工油剤を調製した。
【0047】
[比較例8~10]
脂肪酸として、オクタン酸(直鎖脂肪酸、炭素数8)と、オクチル酸(分鎖脂肪酸、炭素数8)とを配合し、各成分の配合比率を表1に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、比較例8~10の金属加工油剤を調製した。脂肪酸全体におけるオクチル酸のモル分率を表1に併記する。
【0048】
[比較例11~13]
脂肪酸として、ノナン酸(直鎖脂肪酸、炭素数9)と、オクチル酸(分鎖脂肪酸、炭素数8)とを配合し、各成分の配合比率を表1に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、比較例11~13の金属加工油剤を調製した。脂肪酸全体におけるオクチル酸のモル分率を表1に併記する。
【0049】
[比較例14]
脂肪酸として、オクチル酸(分鎖脂肪酸、炭素数8)のみを配合し、各成分の配合比率を表1に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、比較例14の金属加工油剤を調製した。
【0050】
【表1-1】
【0051】
【表1-2】
【0052】
2.性能評価
[消泡性の評価]
試験液として、上記表1の試料原液を水で5重量部に希釈したものを用いた。上記実施例及び比較例の各水希釈液300gを、目盛り付きの容器を有するミキサーに投入し、10℃下で1分間攪拌した。攪拌停止後、所定時間経過毎に、液面上にある泡量(ml)を計測し、消泡性を評価した。泡量が小さい程、消泡性に優れる。結果を下記表2に示す。
【0053】
[加工性の評価]
試験液として、上記表1の試料原液を水で5重量部に希釈したものを用いた。下記被削材を用い、下記条件にてタップ加工を行い、加工時に受けるタッピングトルク値(切削抵抗)を測定し、加工性を評価した。トルク値が小さい程、加工性に優れる。結果を下記表2に示す。
切削工具:ロールタップ(M4×0.7)
切削材:AC4C
切削速度:5.0m/min
下穴:φ3.7mm
N数:5(トルク値は5穴の平均値で評価)
【0054】
【表2-1】
【0055】
【表2-2】
【0056】
図1は、直鎖脂肪酸の炭素数が同じである実施例1、4~6、実施例7及び比較例1に基づいて、ネオデカン酸のモル分率と、消泡性及び加工性との関係を求めたグラフである。図1の横軸は、ネオデカン酸のモル分率である。図1の左縦軸はトルク値(N・m)、右縦軸は5分後の泡量(ml)である。図1中の実線は、ネオデカン酸のモル分率とトルク値との関係を示すグラフである。図1中の破線は、ネオデカン酸のモル分率と泡量との関係を示すグラフである。図1中の実線矢印で示す方向は加工性の好ましい方向であり、破線矢印で示す方向は消泡性の好ましい方向である。
【0057】
表1及び表2、並びに図1より、ネオデカン酸、オクタン酸(直鎖脂肪酸)、有機アミン及び水を含む実施例の場合、ネオデカン酸を含まない比較例と比べて、消泡性が向上していることが分かる。また、実施例の場合、比較例と比べて、加工性が向上していることが分かる。すなわち、実施例の場合、比較例と比べて、消泡性を向上させるとともに、加工性を向上させることができた。
【0058】
図2は、直鎖脂肪酸の炭素数が同じである実施例2、実施例3及び比較例2に基づいて、ネオデカン酸のモル分率と、消泡性及び加工性との関係を求めたグラフである。図2の横軸は、ネオデカン酸のモル分率である。図2の左縦軸はトルク値(N・m)、右縦軸は5分後の泡量(ml)である。図2中の実線は、モル分率とトルク値との関係を示すグラフである。図2中の破線は、モル分率と泡量との関係を示すグラフである。図2中の実線矢印及び破線矢印で示す方向は図1と同様である。
【0059】
表1及び表2、並びに図2より、ネオデカン酸、ノナン酸(直鎖脂肪酸)、有機アミン及び水を含む実施例の場合、ネオデカン酸を含まない比較例と比べて、消泡性が向上していることが分かる。また、実施例の場合、比較例と比べて、加工性がほぼ一定又は向上していることが分かる。すなわち、実施例の場合、比較例と比べて、消泡性を向上させるとともに、加工性を維持又は向上させることができた。
【0060】
トルク値は、オクタン酸を含む実施例の場合0.59N・m以下であり、ノナン酸を含む実施例の場合0.55N・m以下であった。直鎖脂肪酸は、炭素数8~9が好ましく、炭素数9がより好ましい。
【0061】
ネオデカン酸と直鎖脂肪酸との含有量は、1:0.1~1:5が好ましく、1:1~1:5又は1:1.5~1:5がより好ましく、1:1.8~1:5がさらに好ましく、1:1.8~1:4.6が最も好ましい。
【0062】
図3は、比較例1~3に基づいて、直鎖脂肪酸の炭素数と、消泡性及び加工性との関係を求めたグラフである。図3の横軸は、直鎖脂肪酸の炭素数である。図3の左縦軸はトルク値(N・m)、右縦軸は10分後の泡量(ml)である。図3中の実線は、炭素数とトルク値との関係を示すグラフである。図3中の破線は、炭素数と泡量との関係を示すグラフである。図3中の実線矢印及び破線矢印で示す方向は図1と同様である。
【0063】
図4は、比較例2及び比較例4~7に基づいて、イソノナン酸のモル分率と、消泡性及び加工性との関係を求めたグラフである。図4の横軸は、イソノナン酸のモル分率である。図4の左縦軸はトルク値(N・m)、右縦軸は7分後の泡量(ml)である。図4中の実線は、モル分率とトルク値との関係を示すグラフである。図4中の破線は、モル分率と泡量との関係を示すグラフである。図4中の実線矢印及び破線矢印で示す方向は図1と同様である。
【0064】
表1及び表2、並びに図3より、ネオデカン酸を含まず、直鎖脂肪酸を含む比較例の場合、直鎖脂肪酸の炭素数(炭化水素鎖長)の増加に伴い、加工性が向上する一方で、消泡性が低下していることが分かる。また、表1及び表2、並びに図4より、ネオデカン酸を含まず、イソノナン酸と直鎖脂肪酸とを含む比較例の場合、イソノナン酸のモル分率の低下に伴い、加工性が向上する一方で、消泡性が低下していることが分かる。すなわち、比較例において、加工性と消泡性とはトレードオフの関係にある。これは、潤滑に寄与する成分(脂肪酸)が金属材表面に吸着し、吸着膜を形成することで加工性が発揮され、また、空気表面に吸着し、吸着膜を形成することで泡が安定化されるためであると推定される。表1及び表2、並びに図1及び2に示すように、直鎖脂肪酸とネオデカン酸とを混在させることで、加工性と消泡性とのトレードオフを解消し、加工性と消泡性とを両立できることが分かった。
【0065】
図5は、比較例8~10及び比較例14に基づいて、オクチル酸のモル分率と、消泡性及び加工性との関係を求めたグラフである。図6は、比較例11~14に基づいて、オクチル酸のモル分率と、消泡性及び加工性との関係を求めたグラフである。図5及び図6の横軸は、オクチル酸のモル分率である。図5の左縦軸はトルク値(N・m)、右縦軸は5分後の泡量(ml)である。図6の左縦軸はトルク値(N・m)、右縦軸は10分後の泡量(ml)である。図5及び図6中の実線は、モル分率とトルク値との関係を示すグラフである。図5及び図6中の破線は、モル分率と泡量との関係を示すグラフである。図5及び図6中の実線矢印及び破線矢印で示す方向は図1と同様である。
【0066】
表1及び表2、並びに図5より、ネオデカン酸を含まず、オクチル酸とオクタン酸(直鎖脂肪酸)とを含む比較例の場合、オクチル酸のモル分率の低下に伴い、加工性が向上する一方で、消泡性が低下していることが分かる。同様に、表1及び表2、並びに図6より、ネオデカン酸を含まず、オクチル酸とノナン酸(直鎖脂肪酸)とを含む比較例の場合、オクチル酸のモル分率の低下に伴い、加工性が向上する一方で、消泡性が低下していることが分かる。すなわち、ネオデカン酸を含まない比較例において、加工性と消泡性とはトレードオフの関係にある。
【0067】
実施例1、実施例4及び比較例8より、直鎖脂肪酸にネオデカン酸を添加した実施例では、直鎖脂肪酸にオクチル酸を添加した比較例と比べて、消泡性を向上させつつ、加工性の低下を抑制できることが分かった。
【0068】
実施例3、比較例4及び比較例11より、直鎖脂肪酸にネオデカン酸を添加した実施例では、直鎖脂肪酸にイソノナン酸又はオクチル酸を添加した比較例と比べて、消泡性を向上させつつ、加工性の低下を抑制できることが分かった。
【0069】
表1及び表2、並びに図1より、ネオデカン酸、有機アミン及び水を含む実施例7の場合、ネオデカン酸を含まない比較例と比べて、消泡性及び加工性に優れることが分かった。
【0070】
以上より、本開示の金属加工油剤は、消泡性に優れ且つ加工性に優れることが確認された。
【0071】
今回開示した実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。各実施例にて記載されている技術的特徴は互いに組み合わせることができ、本発明の範囲は、特許請求の範囲内での全ての変更及び特許請求の範囲と均等の範囲が含まれることが意図される。
【0072】
各実施形態に記載した事項は相互に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した独立請求項及び従属請求項は、引用形式に関わらず全てのあらゆる組み合わせにおいて、相互に組み合わせることが可能である。さらに、特許請求の範囲には他の2以上のクレームを引用するクレームを記載する形式(マルチクレーム形式)を用いているが、これに限るものではない。マルチクレームを少なくとも一つ引用するマルチクレーム(マルチマルチクレーム)を記載する形式を用いて記載してもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6