(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180300
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】積層体及びその製造方法、並びにその積層体の製造に適した金属印刷用インキ組成物及びオーバープリントニス組成物のセット
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20221129BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20221129BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20221129BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20221129BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20221129BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20221129BHJP
C09D 161/28 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
B32B15/08 G
B05D7/14 P
B05D7/24 301R
B05D3/02 Z
C09D11/54
C09D201/00
C09D161/28
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065742
(22)【出願日】2022-04-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2021086609
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 康太
(72)【発明者】
【氏名】荒木 隆史
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J038
4J039
【Fターム(参考)】
4D075AC21
4D075AC23
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4F100AB01A
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(57)【要約】
【課題】金属印刷用インキ組成物とオーバープリントニスとを用いて金属基材上にこれらから形成された層が順次積層されてなる積層体を形成させる場合において、オーバープリントニス組成物に含まれる硬化剤を十分に反応させ、良好な特性の硬化塗膜を備えた積層体を製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明では、オーバープリントニス組成物に含まれる硬化剤の硬化反応を促進する触媒を含む一方で、それ自身にはその触媒により硬化反応を促進される硬化剤を含まない金属印刷用インキ組成物を用いて印刷を行い、その後オーバープリントニス組成物を塗工して焼付けを行う。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材の表面にインキ層及び硬化したニス層が順次形成されてなる積層体の製造方法であって、前記ニス層を形成するためのオーバープリントニス組成物が、触媒により硬化反応を生じて硬化する硬化性樹脂を含むものであり、
(a)前記硬化性樹脂を硬化するための触媒を含む一方で、前記触媒により硬化反応を生じる硬化性樹脂を含まない金属印刷用インキ組成物を前記金属基材の表面に印刷する印刷工程と、
(b)前記印刷工程にて印刷された面に、前記触媒により硬化反応を生じる硬化性樹脂を含むオーバープリントニス組成物を塗工するニス塗工工程と、
(c)前記ニス塗工工程を経た前記金属基材を加熱することで、前記オーバープリントニス組成物を硬化させる熱硬化工程と、を備えることを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項2】
前記オーバープリントニス組成物が、前記硬化性樹脂を硬化させるための触媒を含まないことを特徴とする請求項1記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記オーバープリントニス組成物が水性であることを特徴とする請求項1記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記硬化性樹脂が、メラミン樹脂及びベンゾグアナミン樹脂からなる群より選択される少なくとも一つであることを特徴とする請求項1記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記触媒が酸触媒である請求項1記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記酸触媒が、ブロック酸触媒である請求項5記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
金属基材の表面にインキ層及び硬化したニス層が形成された積層体であって、
前記インキ層が、硬化性樹脂を硬化させる作用を備えた触媒を含む一方で、前記触媒により硬化する硬化性樹脂を含まず、
前記ニス層が、前記触媒により硬化する硬化性樹脂の硬化物を含むことを特徴とする積層体。
【請求項8】
前記ニス層が、前記硬化性樹脂を硬化させるための触媒を含まないことを特徴とする請求項7記載の積層体。
【請求項9】
前記硬化物が、メラミン樹脂及びベンゾグアナミン樹脂からなる群より選択される少なくとも一つの硬化物である請求項7又は8記載の積層体。
【請求項10】
下記(A)及び(B)からなる金属印刷用インキ組成物及びオーバープリントニス組成物のセット。
(A)下記(B)のオーバープリントニス組成物に含まれる硬化性樹脂を硬化するための触媒を含む一方で、前記触媒により硬化する硬化性樹脂を含まない金属印刷用インキ組成物
(B)上記(A)のインキ組成物に含まれる前記触媒により硬化する硬化性樹脂を含むオーバープリントニス組成物
【請求項11】
前記オーバープリントニス組成物が、前記硬化性樹脂を硬化させるための触媒を含まないことを特徴とする請求項10記載のセット。
【請求項12】
前記オーバープリントニス組成物が水性であることを特徴とする請求項10又は11記載のセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及びその製造方法、並びにその積層体の製造に適した金属印刷用インキ組成物及びオーバープリントニス組成物のセットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属素材、例えば亜鉛引き又は錫引き鉄板、アルミニウム板あるいはこれら金属素材からなる金属缶などの金属外面の印刷には、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などのバインダー樹脂と鉱物油又は高級アルコール等の有機溶剤を主たるビヒクル成分とする金属印刷用インキ組成物が使用されている。
【0003】
また、これら印刷表面には、インキ塗膜の密着性、耐折り曲げ性、耐衝撃性、耐摩擦性等を向上させるため、オーバープリントニスによるコーティングが行われるのが一般的である。これらオーバープリントニスとしては、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等のバインダー樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の硬化剤、及び鉱物油やセロソルブ系等の有機溶剤からなる溶剤タイプのものが広く使用されている。
【0004】
そして、金属外面の印刷に際しては、オフセット印刷機、ドライオフセット印刷機等を用いてインキの印刷を行ってから、コーター等を用いてウエットオンウエットでオーバープリントニスをインキ被膜上に塗布し、その後150~280℃で焼付けが行われている。この焼付けの際、オーバープリントニスに含まれているメラミン樹脂やベンゾグアナミン樹脂等の硬化剤は、加熱により硬化剤分子同士で架橋反応を生じることで高分子量化して硬化する。これにより、オーバープリントニスは硬化し、上記のような諸特性を獲得する。
【0005】
なお、近年では、溶剤による大気汚染の問題、印刷作業環境における衛生面あるいは安全性の面から、金属印刷の分野においても、従来用いてきた溶剤タイプのオーバープリントニスではなく、水性タイプのものを採用するのが一般的となっている。水性タイプのオーバープリントニスを採用する場合の問題点として、それが塗工される下地となる金属印刷用インキ組成物との相性が挙げられる。すなわち、金属印刷用インキ組成物のインキ塗膜上に、水性オーバープリントニスを塗布した場合、水性オーバープリントニスのはじき、水性オーバープリントニスのインキ膜中へのもぐり込みなどの現象を生じ、その結果、塗膜の光沢又は密着性等の品質が著しい低下をきたすという問題があった。このような問題を解決するために、金属印刷用のインキ組成物では処方の面で様々な工夫が行われ、解決が図られてきている(例えば、特許文献1~4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平5-75031号公報
【特許文献2】特公平5-40791号公報
【特許文献3】特公平5-40792号公報
【特許文献4】特開昭64-60670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記のように硬化剤を含むオーバープリントニスを用いる場合、硬化剤分子の架橋を促進して塗膜強度を高めることを目的として触媒を用いることがある。この触媒は、オーバープリントニスに添加されるものであるが、オーバープリントニスの保管中や印刷中には硬化せずに焼付けの際に初めて硬化触媒としての作用を発現するように、例えばブロック酸触媒のような熱潜在性の触媒が用いられることになる。しかしながら、熱潜在性の触媒といえども、室温での保管中に徐々に硬化剤分子の硬化反応を生じさせて、オーバープリントニスの可使時間(ポットライフ)を短くさせる可能性もある。また、上記のように水性のオーバープリントニスが普及する現状に鑑みれば、熱潜在性の触媒には水溶性が求められることになるが、熱により保護基が除去されて触媒作用を有する酸等を発生させる熱潜在性の触媒の場合、保護基の存在により水性溶媒への溶解性が十分でない場合もある。
【0008】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、金属印刷用インキ組成物とオーバープリントニスとを用いて金属基材上にこれらから形成された層が順次積層されてなる積層体を形成させる場合において、オーバープリントニス組成物に含まれる硬化剤を十分に反応させ、良好な特性の硬化塗膜を備えた積層体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、オーバープリントニス組成物に含まれる硬化剤の硬化反応を促進する触媒を含む一方で、それ自身にはその触媒により硬化反応を促進される硬化剤を含まない金属印刷用インキ組成物を用いて印刷を行い、その後オーバープリントニス組成物を塗工して焼付けを行うと、オーバープリントニスから形成された塗膜の硬度が高くなることを見出した。本発明は、以上の知見に基づいて完成されたものであり、次のようなものを提供する。
【0010】
本発明は、金属基材の表面にインキ層及び硬化したニス層が順次形成されてなる積層体の製造方法であって、上記ニス層を形成するためのオーバープリントニス組成物が、触媒により硬化反応を生じて硬化する硬化性樹脂を含むものであり、(a)上記硬化性樹脂を硬化するための触媒を含む一方で、上記触媒により硬化反応を生じる硬化性樹脂を含まない金属印刷用インキ組成物を上記金属基材の表面に印刷する印刷工程と、(b)上記印刷工程にて印刷された面に、上記触媒により硬化反応を生じる硬化性樹脂を含むオーバープリントニス組成物を塗工するニス塗工工程と、(c)上記ニス塗工工程を経た上記金属基材を加熱することで、上記オーバープリントニス組成物を硬化させる熱硬化工程と、を備えることを特徴とする積層体の製造方法である。
【0011】
上記オーバープリントニス組成物は、上記硬化性樹脂を硬化させるための触媒を含まないことが好ましい。
【0012】
上記オーバープリントニス組成物は、水性であることが好ましい。
【0013】
上記硬化性樹脂は、メラミン樹脂及びベンゾグアナミン樹脂からなる群より選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0014】
上記触媒は、酸触媒であることが好ましい。
【0015】
上記酸触媒は、ブロック酸触媒であることが好ましい。
【0016】
本発明は、金属基材の表面にインキ層及び硬化したニス層が形成された積層体であって、上記インキ層が、硬化性樹脂を硬化させる作用を備えた触媒を含む一方で、上記触媒により硬化する硬化性樹脂を含まず、上記ニス層が、上記触媒により硬化する硬化性樹脂の硬化物を含むことを特徴とする積層体でもある。
【0017】
上記ニス層は、上記硬化性樹脂を硬化させるための触媒を含まないことが好ましい。
【0018】
上記硬化物は、メラミン樹脂及びベンゾグアナミン樹脂からなる群より選択される少なくとも一つの硬化物であることが好ましい。
【0019】
本発明は、下記(A)及び(B)からなる金属印刷用インキ組成物及びオーバープリントニス組成物のセットでもある。
(A)下記(B)のオーバープリントニス組成物に含まれる硬化性樹脂を硬化するための触媒を含む一方で、上記触媒により硬化する硬化性樹脂を含まない金属印刷用インキ組成物
(B)上記(A)のインキ組成物に含まれる上記触媒により硬化する硬化性樹脂を含むオーバープリントニス組成物
【0020】
上記オーバープリントニス組成物は、上記硬化性樹脂を硬化させるための触媒を含まないことが好ましい。
【0021】
上記オーバープリントニス組成物は、水性であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、金属印刷用インキ組成物とオーバープリントニスとを用いて金属基材上にこれらから形成された層が順次積層されてなる積層体を形成させる場合において、オーバープリントニス組成物に含まれる硬化剤を十分に反応させ、良好な特性の硬化塗膜を備えた積層体を製造する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の積層体の製造方法の一実施態様、積層体の一実施形態、及び金属印刷用インキ組成物及びオーバープリントニス組成物のセットの一実施形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施態様や実施形態に何ら限定されるものでなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0024】
<積層体の製造方法>
まずは、本発明の積層体の製造方法の一実施態様について説明する。本発明の積層体の製造方法は、金属基材の表面にインキ層及び硬化したニス層が順次形成されてなる積層体の製造方法であって、上記ニス層を形成するためのオーバープリントニス組成物が、触媒により硬化反応を生じて硬化する硬化性樹脂を含むものであり、(a)上記硬化性樹脂を硬化するための触媒を含む一方で、上記触媒により硬化反応を生じる硬化性樹脂を含まない金属印刷用インキ組成物を上記金属基材の表面に印刷する印刷工程と、(b)上記印刷工程にて印刷された面に、上記触媒により硬化反応を生じる硬化性樹脂を含むオーバープリントニス組成物を塗工するニス塗工工程と、(c)上記ニス塗工工程を経た上記金属基材を加熱することで、上記オーバープリントニス組成物を硬化させる熱硬化工程と、を備えることを特徴とする。
【0025】
本発明における積層体とは、金属基材上に、金属印刷用インキ組成物を用いた印刷によりインキ層が形成され、さらにその表面にオーバープリントニス組成物(以下、単に「ニス組成物」とも呼ぶ。)でコーティングされた後で焼付けが行われて、硬化したニス層が形成されたものである。ニス組成物には硬化剤として硬化性樹脂が含まれており、焼付けの工程でこれが硬化することで、インキ層の表面にコーティングされたニス組成物は硬化したニス層を形成させる。金属基材としては、亜鉛引き又は錫引き鉄板、アルミニウム板等が挙げられる。そして、本発明の積層体の好ましい例としては、画像や文字情報の印刷された金属缶が挙げられる。以下、各工程について説明する。
【0026】
[印刷工程(a)]
印刷工程は、後述するニス組成物に含まれる硬化性樹脂を硬化するための触媒を含む一方で、上記触媒により硬化反応を生じる硬化性樹脂を含まない金属印刷用インキ組成物を上記金属基材の表面に印刷する工程である。
【0027】
本工程で用いる金属印刷用インキ組成物(以下、単に「インキ組成物」とも呼ぶ。)は、硬化性樹脂を硬化させるための触媒を含む一方で、その触媒により硬化反応を生じる硬化性樹脂を含まない。このようなインキ組成物は、金属印刷用として通常用いられているインキ組成物をベースとして、これに触媒を添加したものであってもよい。この場合、ベースとなるインキ組成物としては、当該触媒により硬化する硬化性樹脂を含まないものであれば特に限定されない。
【0028】
このような触媒としては、後述するニス組成物に含まれる硬化性樹脂を硬化させるものであれば特に問わない。好ましい態様として、後述するニス組成物にメラミン樹脂やベンゾグアナミン樹脂のような、酸により硬化反応を触媒される硬化剤(すなわち硬化性樹脂)を用いるとともに、触媒として酸触媒を用いることを挙げることができる。このような酸触媒としては、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルジナフタレンジスルホン酸、ジノニルジナフタレンモノスルホン酸、アルキルリン酸等のような有機酸化合物が挙げられる。また、これら有機酸化合物は、アミン化合物のような塩基性化合物と塩を形成していてもよい。本発明では、このような塩も酸触媒と呼ぶ。
【0029】
また、触媒は、熱潜在性触媒であってもよい。熱潜在性触媒は、常温では触媒作用を発揮しないが、加熱に伴い触媒作用を発現する化合物である。このような熱潜在性触媒としては、加熱に伴って、後述するニス組成物に含まれる硬化性樹脂を硬化させる反応を触媒するものであれば特に問わない。好ましい態様として、後述するニス組成物にメラミン樹脂やベンゾグアナミン樹脂のような、酸により硬化反応を触媒される硬化剤を用いるとともに、インキ組成物に熱潜在性の酸触媒、すなわちブロック酸触媒を用いることを挙げられる。
【0030】
ブロック酸触媒としては、加熱により酸を生じるものであれば特に限定されない。ブロック酸触媒が酸を生じる温度としては、本発明における焼付けの際の温度を考慮して150~280℃程度のものを例示できるが、これ以外の温度のものであっても本発明の効果を損なわない程度のものであれば特に限定されない。このようなブロック酸触媒としては、各種のものが市販されており、加熱によりp-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、アルキルリン酸等の有機酸を生じるものを好ましく挙げることができる。このような市販品の一例としては、KING INDUSTRIES社製のNACURE5225、NACURE5528、NACURE5925、NACURE2500、NACURE4167等を挙げることができる。より好ましい態様として、加熱によりp-トルエンスルホン酸を生じるブロック酸触媒を用いることを挙げることができる。
【0031】
インキ組成物中の触媒の添加量としては、組成物全体に対して0.025~1.25質量%程度を好ましく挙げられ、0.075~1質量%程度をより好ましく挙げられ、0.125~0.75質量%程度をさらに好ましく挙げられる。一般に、熱潜在性触媒等の触媒を用いる場合、触媒の添加に伴う可使時間(ポットライフ)の低下というものが添加量を制限する一つの要因となるが、本発明で用いるインキ組成物には触媒により硬化する成分が含まれないので、理論的には触媒の添加量に上限はないことになる。しかし、コストやインキ組成物の印刷適性等の面から上記の範囲が好ましい添加量として例示される。
【0032】
インキ組成物を構成するその他の成分としてはこの種のインキ組成物で通常用いられるものを挙げることができるので、こうした成分を適宜組み合わせてインキ組成物とすればよい。このような成分としては、樹脂成分、着色成分、溶剤成分等を挙げることができる。
【0033】
樹脂成分は、着色成分を定着させるためのバインダーとしての機能や、印刷に必要な粘弾性を付与する機能をもたらすものである。このような樹脂成分の一例としては、マレイン化ロジン、フマル化ロジン、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フマル酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性アルキッド樹脂、ロジン変性ポリエステル樹脂等といったロジン変性樹脂に加え、ポリエステル樹脂、石油樹脂、エポキシ樹脂、ケトン樹脂、アミノ樹脂、アルキッド樹脂等を挙げることができる。インキ組成物中における樹脂成分の含有量としては、組成物全体に対して10~60質量%が好ましく挙げられ、組成物全体に対して15~55質量%がより好ましく挙げられ、組成物全体に対して20~55質量%がさらに好ましく挙げられる。
【0034】
着色成分は、インキ組成物に着色力を付与するための成分である。着色顔料としては、従来から金属印刷用インキ組成物に使用される有機及び/又は無機顔料を特に制限無く挙げることができる。このような着色顔料の一例としては、ジスアゾイエロー(ピグメントイエロー12、ピグメントイエロー13、ピグメントイエロー17、ピグメントイエロー1)、ハンザイエロー等のイエロー顔料、ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウオッチングレッド等のマゼンタ顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー等のシアン顔料、カーボンブラック等の黒色顔料、蛍光顔料等が例示される。また、インキ組成物に金色や銀色等の金属色を付与するための金属粉顔料も本発明では着色顔料として扱う。このような金属粉顔料としては、金粉、ブロンズパウダー、アルミニウムパウダーをペースト状に加工したアルミニウムペースト、雲母パウダー等を挙げることができる。着色顔料の添加量としては、組成物の全体に対して5~50質量%程度が例示されるが、特に限定されない。
【0035】
溶剤成分としては、沸点範囲が230~400℃程度の脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、アルキルベンゼン等の芳香族炭化水素、高級アルコール、ポリオキシエチレングリコールエーテル類等を挙げることができる。インキ組成物中における溶剤の量は、所望するインキ組成物の粘度によって異なる。すなわち、インキ組成物が所望とする粘度となるように溶剤の量を決定すればよい。このような粘度としては、ラレー粘度計による25℃での値が10~70Pa・sであることを例示できるが、特に限定されない。
【0036】
インキ組成物は、金属基材の表面に印刷される。このときの印刷方法としては、オフセット印刷、オフセット水なし印刷、樹脂凸版印刷等が挙げられ、印刷対象となる金属基材の形状や印刷される図柄の内容等を考慮して適宜採用すればよい。
【0037】
印刷工程を経た金属基材は、ニス塗工工程に付される。
【0038】
[ニス塗工工程(b)]
ニス塗工工程は、上記印刷工程にて印刷された面に、上記インキ組成物に含まれる触媒により硬化反応を生じる硬化性樹脂を含むオーバープリントニス組成物を塗工する工程である。
【0039】
本工程で用いるニス組成物は硬化性樹脂を含み、その硬化性樹脂は、後述する熱硬化工程における加熱(すなわち焼付け)にて分子間架橋することで硬化する。この硬化は触媒の存在無しにも進行するものだが、その場合、得られる硬化膜の硬度が不十分となる場合がある。一方で、ニス組成物へ触媒のような硬化を促進する成分を添加すると、熱硬化工程における加熱で十分な硬化を得ることはできるが、たとえ用いた触媒が熱潜在性触媒であったとしてもニス組成物のポットライフが短くなるという問題を生じるし、また、近年採用が進む水性のニス組成物には溶解性の点で熱潜在性触媒を添加するのが難しい場合もある。ところで、ニス組成物は、インキ組成物により形成されたインキ膜に接して金属基材の表面に塗工されるので、塗工により形成されたニス膜には、その下地であるインキ膜からの成分の移行が可能である。本発明者らはこの点に注目し、上述のように、インキ組成物へニス組成物の硬化を促進させるための触媒を添加するとの技術的思想に至った。本発明がこのような思想に基づいて完成されたものであることは既に述べた通りである。
【0040】
本工程で用いるニス組成物には、硬化性樹脂が硬化剤として含まれる。この硬化性樹脂は、加熱により分子間架橋して高分子量化することでニス組成物を硬化させる。ニス組成物には焼付けにより硬化する特性が求められることから、市販されるニス組成物にはこうした硬化性樹脂が含まれるのが一般的である。また、市販のニス組成物に硬化性樹脂を添加して用いてもよい。このような硬化性樹脂としては、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ウレア樹脂、イソシアナート樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でも、メラミン樹脂及びベンゾグアナミン樹脂よりなる群から選択される少なくとも一種のものが好ましく挙げられ、メチル化メラミン樹脂がより好ましく挙げられ、中でもフルエーテル型のメチル化メラミン樹脂が好ましく挙げられる。フルエーテル型のメチル化メラミン樹脂としては、オルネクス社製のCymel303LF等が好ましく挙げられる。なお、メラミン樹脂やベンゾグアナミン樹脂は、酸により硬化反応が触媒される成分となる。したがって、硬化性樹脂としてこれらのものを用いる場合、上記インキ組成物には、酸触媒が用いられることになり、触媒に熱潜在性を持たせるのであればブロック酸触媒が用いられることになる。
【0041】
ニス組成物には、それに含まれる硬化性樹脂の硬化を促進するための触媒が含まれてもよいが、上記のように、これを硬化するための触媒は焼付け時にインキ膜から供給される。このような観点からは、ニス組成物には硬化性樹脂の硬化を促進するための触媒が含まれる必要はない。なお、ニス組成物のポットライフを長くするとの観点からは、ニス組成物には熱潜在性触媒を含めてこうした触媒が含まれない方が好ましい。
【0042】
また、既に述べたように、近年では環境負荷を低減させるために水性のニス組成物の採用が増えている。ニス化合物のポットライフを長くするとの観点からは、触媒として熱潜在性触媒を用いることも有効だが、熱潜在性触媒の中には水性溶媒への溶解性が乏しいものも多く、そのような観点からも、ニス組成物が触媒を含まなくてもよいとする本発明の製造方法は好ましく適用される。このため、本発明で用いるニス組成物は、水性であることを好ましく挙げることができる。
【0043】
本工程は、前の工程である印刷工程を経て形成されたインキ膜の表面へコーター等によりニス組成物を塗工するものだが、その際、インキ膜を構成するインキ組成物が乾燥しない状態(ウエットオンウエット)で塗工されることが好ましい。
【0044】
本発明で用いるニス組成物は、上記の硬化性樹脂に加えて、ニス組成物において通常用いられる成分を特に制限なく用いることができる。
【0045】
本工程によりニス組成物の塗工を受けた金属基材は、熱硬化工程に付される。
【0046】
[熱硬化工程(c)]
熱硬化工程は、上記ニス塗工工程を経た金属基材を加熱することで、金属基材の表面に塗工されたニス組成物を硬化させる工程である。この工程を経ることにより、塗工されたニス組成物に含まれる硬化性樹脂が分子間架橋し硬化する。その結果、金属基材の表面にインキ層及び硬化したニス層が形成され、本発明の目的物である積層体が得られる。
【0047】
本工程における加熱は、金属印刷の際に通常行われる焼付けと同じものである。その焼付けの条件としては、150~280℃で数秒~数分間加熱することを挙げられるが、特に限定されない
【0048】
<積層体>
次に本発明の積層体について説明する。本発明の積層体は、金属基材の表面にインキ層及び硬化したニス層が形成されたものであり、上記インキ層が、硬化性樹脂を硬化させる作用を備えた触媒を含む一方で、上記触媒により硬化する硬化性樹脂を含まず、上記ニス層が、上記触媒により硬化する硬化性樹脂の硬化物を含むことを特徴とする。すなわち、この積層体は、上記本発明の積層体の製造方法で製造された積層体と同じものである。その内容は既に説明した通りなので、ここでの説明を省略する。なお、上記「触媒」には、本発明の積層体の製造方法にて述べた「熱潜在性触媒」が熱硬化工程における加熱(焼付け)を受けて分解して生成したもの(すなわち触媒としての活性成分)も含まれる。
【0049】
本発明の積層体において、ニス層には硬化性樹脂を硬化させるための触媒を含まないことが好ましい。また、ニス層に含まれる、硬化性樹脂の硬化物は、メラミン樹脂の硬化物であることを好ましく挙げることができる。これらのことも既に述べた通りである。
【0050】
<金属印刷用インキ組成物及びオーバープリントニス組成物のセット>
次に、本発明の金属印刷用インキ組成物及びオーバープリントニス組成物のセットについて説明する。このセットは、上記本発明の積層体の製造方法で用いられるインキ組成物とニス組成物とを組み合わせたものであり、下記(A)及び(B)からなる。すなわち、(A)は、下記(B)のオーバープリントニス組成物に含まれる硬化性樹脂を硬化するための触媒を含む一方で、上記触媒により硬化する硬化性樹脂を含まない金属印刷用インキ組成物である。また、(B)は、上記(A)のインキ組成物に含まれる触媒により硬化する硬化性樹脂を含むオーバープリントニス組成物である。これらの内容については既に述べた通りなので、ここでの説明を省略する。
【0051】
本発明のセットにおいて、(B)のニス組成物は、それに含まれる硬化性樹脂を硬化させるための触媒を含まないことが好ましい。また、本発明のセットにおいて、(B)のニス組成物は、水性であることが好ましい。これらのことも既に述べた通りである。
【実施例0052】
以下、実施例を示すことにより本発明の積層体の製造方法についてさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0053】
[アルキッド樹脂の調製]
トリメチロールプロパン37.8質量部、ヤシ油脂肪酸37.0質量部及び無水フタル酸32.0質量部を窒素雰囲気下にて230℃で加熱してエステル化を行った。これらのエステル化反応は、常法に従って行い、酸価3.0mgKOH/g、油長36.7、重量平均分子量2599、数平均分子量1465のアルキッド樹脂を得た。
【0054】
[試験用インキの調製]
上記の手順で得たアルキッド樹脂55質量部、フタロシアニンブルー15:3 28質量部、リニアアルキルベンゼン(LAB)24.5質量部、及びαオレフィン(出光興産株式会社製、リニアレン168)5質量部を混合し、三本ロールミルで混練することでオフセット水なし印刷用インキ組成物を調製した。このインキ組成物にブロック酸触媒1(p-トルエンスルホン酸ブロック酸触媒、King Industories社製、Nacure2500)、ブロック酸触媒2(ドデシルベンゼンスルホン酸ブロック酸触媒、King Industories社製、Nacure5225)、ブロック酸触媒3(アルキルリン酸ブロック酸触媒、King Industories社製、Nacure4167)、酸触媒1(ジノニルナフタレンジスルホン酸、King Industories社製、Nacure155)、酸触媒2(ジノニルナフタレンモノスルホン酸、King Industories社製、Nacure1051)、酸触媒3(ドデシルベンゼンスルホン酸、King Industories社製、Nacure5076)、又は酸触媒4(アルキルリン酸、King Industories社製、Nacure4000)を表1~2の配合量にて添加して実施例1~15のインキ組成物を調製した。なお、ブロック酸触媒及び酸触媒のいずれも添加しないインキ組成物を比較例1のインキ組成物とした。表1~2に示した各配合量は質量部である。また、ブロック酸触媒1~3の有効成分量は25%であり、酸触媒1の有効成分量は55%であり、酸触媒2の有効成分量は50%であり、酸触媒3の有効成分量は70%であり、酸触媒4の有効成分量は100%である。これら有効成分量をもとに、各インキ組成物に添加された触媒の添加量を算出して表1~2の「触媒添加量」欄に示した。
【0055】
[鉛筆硬度]
各実施例及び比較例のインキ組成物のそれぞれについて、RIテスター(株式会社明製作所製)4分割ロールを用いてインキ組成物0.1ccをアルミニウム板上に展色し、次いで、硬化剤としてメラミン樹脂を含み、かつブロック酸触媒及び酸触媒のいずれも含有しない水性オーバープリントニスをウエットオンウエットで塗工した。なお、水性オーバープリントニスの塗工は、焼付け後の固形分が0.2mg/cm2となる塗工量とし、165線(165line/inch)のハンドプルーファーを用いて行った。得られた試験片を電気オーブンで200℃にて2分間加熱した。その後、展色片を室温に戻し、JIS K5600に基づき展色表面の鉛筆硬度を測定した。その結果を表1~2の「鉛筆硬度」欄に示す。
【0056】
【0057】
【0058】
表1~2に示す通り、下地であるインキ組成物がブロック酸触媒及び酸触媒のいずれも含まない比較例1では鉛筆硬度がBだったが、インキ組成物にブロック酸触媒又は酸触媒を添加することで鉛筆硬度がHB~2Hに改善されることがわかる。以上のように、本発明によれば、オーバープリントニス組成物に含まれる硬化剤を十分に反応させ、良好な特性の硬化塗膜を備えた積層体が得られると理解される。
金属基材の表面にインキ層及び硬化したニス層が順次形成されてなる積層体の製造方法であって、前記ニス層を形成するためのオーバープリントニス組成物が、触媒により硬化反応を生じて硬化する硬化性樹脂を含むものであり、
(a)前記硬化性樹脂を硬化するための触媒を含む一方で、前記触媒により硬化反応を生じる硬化性樹脂を含まない金属印刷用インキ組成物を前記金属基材の表面に印刷する印刷工程と、
(b)前記印刷工程にて印刷された面に、前記触媒により硬化反応を生じる硬化性樹脂を含むオーバープリントニス組成物を塗工するニス塗工工程と、
(c)前記ニス塗工工程を経た前記金属基材を加熱することで、前記オーバープリントニス組成物を硬化させる熱硬化工程と、を備え、
前記硬化性樹脂がメラミン樹脂及びグアナミン樹脂からなる群より選択される少なくとも一つであり、前記オーバープリントニス組成物が前記硬化性樹脂を硬化させるための触媒を含まないことを特徴とする積層体の製造方法。
本発明は、金属基材の表面にインキ層及び硬化したニス層が順次形成されてなる積層体の製造方法であって、上記ニス層を形成するためのオーバープリントニス組成物が、触媒により硬化反応を生じて硬化する硬化性樹脂を含むものであり、(a)上記硬化性樹脂を硬化するための触媒を含む一方で、上記触媒により硬化反応を生じる硬化性樹脂を含まない金属印刷用インキ組成物を上記金属基材の表面に印刷する印刷工程と、(b)上記印刷工程にて印刷された面に、上記触媒により硬化反応を生じる硬化性樹脂を含むオーバープリントニス組成物を塗工するニス塗工工程と、(c)上記ニス塗工工程を経た上記金属基材を加熱することで、上記オーバープリントニス組成物を硬化させる熱硬化工程と、を備え、上記硬化性樹脂がメラミン樹脂及びグアナミン樹脂からなる群より選択される少なくとも一つであり、上記オーバープリントニス組成物が上記硬化性樹脂を硬化させるための触媒を含まないことを特徴とする積層体の製造方法である。
本発明は、金属基材の表面にインキ層及び硬化したニス層が形成された積層体であって、上記インキ層が、硬化性樹脂を硬化させる作用を備えた触媒を含む一方で、上記触媒により硬化する硬化性樹脂を含まず、上記ニス層が、上記触媒により硬化する硬化性樹脂の硬化物を含み、かつ上記硬化性樹脂を硬化させるための触媒を含まず、上記硬化物が、メラミン樹脂及びベンゾグアナミン樹脂からなる群より選択される少なくとも一つの硬化物であることを特徴とする積層体でもある。