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特開2022-180322銅粉末及びこれを含む導電性組成物、並びに、これを用いた配線構造及び導電性部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180322
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】銅粉末及びこれを含む導電性組成物、並びに、これを用いた配線構造及び導電性部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20221129BHJP
   B22F 1/054 20220101ALI20221129BHJP
   B22F 1/0545 20220101ALI20221129BHJP
   B22F 7/08 20060101ALI20221129BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20221129BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20221129BHJP
   H01B 5/00 20060101ALI20221129BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20221129BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20221129BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20221129BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
B22F1/00 L
B22F1/054
B22F1/0545
B22F7/08 C
B22F9/00 B
C22C9/06
H01B5/00 F
H01B1/02 A
H01B1/00 F
H01B1/22 A
H01B13/00 503D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082148
(22)【出願日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2021086870
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上郡山 洋一
(72)【発明者】
【氏名】今村 大志
(72)【発明者】
【氏名】福里 駿
(72)【発明者】
【氏名】丸山 陽兵
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 優吾
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5G301
5G307
5G323
【Fターム(参考)】
4K017AA02
4K017AA08
4K017BA05
4K017BB06
4K017CA08
4K017DA01
4K017DA07
4K018AA03
4K018BB05
4K018BD04
4K018DA11
4K018JA36
4K018KA32
4K018KA33
5G301AA08
5G301AA14
5G301AB20
5G301AD06
5G301AE02
5G301DA06
5G301DA42
5G301DD01
5G301DD03
5G301DE01
5G307AA08
5G323CA03
5G323CA05
(57)【要約】
【課題】低温焼結性に優れる銅粉末を提供すること。
【解決手段】銅粉末は、銅元素を主体として含み、且つニッケル元素及びコバルト元素のうち少なくとも一種から選ばれる第2元素を含む銅粒子の集合体からなる。銅粉末のBET比表面積S1に対する、X線光電子分光分析によって測定された第2元素の含有量A1の比(A1/S1)が0.05原子%/(m/g)以上である。ICP発光分光分析によって測定された第2元素の含有量T1が0.001質量%以上0.30質量%以下である。銅粉末と分散媒とを含む導電性組成物も提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅元素を主体として含み、且つニッケル元素及びコバルト元素のうち少なくとも一種から選ばれる第2元素を含む銅粒子の集合体からなる銅粉末であって、
前記銅粉末のBET比表面積S1に対する、X線光電子分光分析によって測定された第2元素の含有量A1の比(A1/S1)が0.05原子%/(m/g)以上であり、
ICP発光分光分析によって測定された第2元素の含有量T1が0.001質量%以上0.30質量%以下である、銅粉末。
【請求項2】
前記T1に対する前記A1/S1の比((A1/S1)/T1)が1.4(原子%/(m/g))/質量%以上である、請求項1に記載の銅粉末。
【請求項3】
走査型電子顕微鏡観察によって測定された前記銅粒子の平均粒子径が10nm以上300nm以下である、請求項1又は2に記載の銅粉末。
【請求項4】
炭素元素の含有量が0.15質量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の銅粉末。
【請求項5】
有機高分子化合物が実質的に非含有である、請求項1~4のいずれか一項に記載の銅粉末。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の銅粉末と、分散媒とを含む、導電性組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の導電性組成物を基板上に塗布し、然る後に、該導電性組成物を焼結させる、配線構造の製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載の導電性組成物を2つの電子部品の間に介在させ、然る後に、該導電性組成物を焼結させる、導電性部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅粉末及びこれを含む導電性組成物、並びに、これを用いた配線構造及び導電性部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化や高性能化に伴って、電子機器内の配線形成において、回路配線の微細化による高密度実装や、配線形成プロセスの製造コスト及び環境負荷の低減が求められている。また、パワー半導体の分野では200℃以上の高温駆動によるデバイスの小型化や高性能化が検討されており、構成部材には高耐熱化と高放熱化が求められている。
これらの要求を実現するために、焼結型金属ペーストによる配線形成や接合が検討されており、例えば金属フィラーとして低抵抗を有し且つ高い熱伝導性があり、且つ、安価な銅を用いることが検討されている。
【0003】
本出願人は、耐酸化性が高く、且つ銅単体に近い導電性を有する銅粒子を得ることを目的として、ニッケル及びコバルトのうちの少なくとも一方を含み、ニッケル又はコバルトが粒子の表面域に偏在している銅粒子を提案している(特許文献1参照)。
【0004】
また、特許文献2には、耐酸化性を有する金属粒子を得ることを目的として、アルコール及び有機化合物を含む反応溶媒に銅及びニッケルの化合物を溶解させた状態で、有機-水酸化アンモニウム塩溶液を添加して、銅-ニッケルナノ粒子を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-180563号公報
【特許文献2】特開2011-63828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の粒子は、これを焼結型金属ペーストの製造原料として用いる場合、ニッケルの融点が高いことに起因して、焼結温度を高くする場合があり、低温焼結性の点で改善の余地があった。
【0007】
また特許文献2に記載の粒子は、有機化合物の存在下で製造されるものであるので、有機物が存在している粒子を電気回路の形成や電子部品の接合に用いた場合、該銅粒子の焼結温度が上昇してしまうという不都合がある。
【0008】
したがって本発明の課題は、低温焼結性に優れる銅粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、銅元素を主体として含み、且つニッケル元素及びコバルト元素のうち少なくとも一種から選ばれる第2元素を含む銅粒子の集合体からなる銅粉末であって、
前記銅粉末のBET比表面積S1に対する、X線光電子分光分析によって測定された第2元素の含有量A1の比(A1/S1)が0.05原子%/(m/g)以上であり、
ICP発光分光分析によって測定された第2元素の含有量T1が0.001質量%以上0.30質量%以下である、銅粉末を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低温焼結性に優れる銅粉末が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の銅粉末は、銅元素を主体として含む銅粒子の集合体からなる。なお、「銅元素を主体として含む」とは、例えば銅元素を95質量%以上含む場合をいう。
【0012】
銅粉末を構成する銅粒子は、銅元素以外の第2元素として、ニッケル元素及びコバルト元素のうち少なくとも一種から選ばれる元素を更に含む。銅粒子中の第2元素は、第2元素の単体や、酸化物、水酸化物、銅合金等の第2元素化合物から選ばれる少なくとも一種として含まれる。
【0013】
銅粉末中の第2元素の含有量は、ICP発光分光分析によって測定された含有量T1として、好ましくは0.001質量%以上である。また、T1は好ましくは0.3質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下である。
第2元素の含有量がこのような範囲であることによって、銅に由来する高い導電性及び熱伝導性が十分に維持されたまま、粒子どうしの低温焼結性を高めることができる。また、上述した範囲で第2元素が含まれていることによって、銅粉末の構成粒子が微粒となりやすく、この点でも低温焼結性を高めることができる。
一般的に、ICP発光分光分析での測定によって得られる結果は、銅粉末全体としての第2元素の含有量を意味し、銅粉末を構成する銅粒子中での第2元素の存在状態は考慮されないものである。
【0014】
本発明の銅粉末は、そのBET比表面積と、X線光電子分光分析によって測定された第2元素の含有量とが所定の関係であることに特徴の一つを有する。
詳細には、銅粉末のBET比表面積S1に対する、X線光電子分光分析(XPS)によって測定された第2元素の含有量A1の比(A1/S1)が、好ましくは0.05原子%/(m/g)以上であり、より好ましくは0.10原子%/(m/g)以上であり、好ましくは0.50原子%/(m/g)以下、より好ましくは0.40原子%/(m/g)以下、更に好ましくは0.20原子%/(m/g)以下である。
上述のとおり、A1/S1の単位は「原子%/(m/g)」であり、本明細書におけるA1/S1に関する説明において共通して適用される。
【0015】
XPSは、一般的に、測定対象物の表面及びその近傍に存在する元素を測定する方法である。したがって、XPSによって測定される第2元素の含有量A1は、銅粉末を構成する銅粒子の表面及びその近傍に第2元素が存在しているか否か、並びにその量を表すものである。第2元素は、粒子の表面全体に満遍なく連続して、均一若しくは不均一の厚さで存在する状態、又は海島状に不連続に存在する状態であり得る。
【0016】
そして、第2元素の含有量A1をBET比表面積S1で除することによって得られるA1/S1の値は、粒子表面における単位面積あたりの第2元素の存在量を表すものである。したがって、A1/S1が上述した範囲となっていることによって、粒子どうしの焼結性を阻害することなく低温での焼結性向上を達成することができる。これに加えて、第2元素が粒子表面に存在することによって、耐酸化性を発現させることもできる。このような銅粉末は、例えば後述する製造方法によって好適に製造することができる。
【0017】
一般的に、第2元素を含む銅粒子は銅単体のみで構成された粒子よりも融点が高くなる傾向にあるため、かかる第2元素を含んだ銅粒子であると低温焼結性が達成されがたい。この点につき、前述のT1及びA1/S1が所定の範囲にあることによって、当該第2元素が存在した場合でも低温焼結性が阻害されることなく、低い電気抵抗や、高い熱伝導性等の銅本来の性能が十分に発現したものとなる。また、後述するように、銅粉末の製造過程にて第2金属源を添加することによって、有機物を添加せずとも、粒子径が小さい粒子を簡便に得られる点で有利である。
【0018】
XPSの測定は、例えば以下の方法で行うことができる。すなわち、測定対象となる銅粉末をハンドプレス機にて圧縮成型した後、余剰の粉末をブロワーにて除去する。その後、この圧縮成形物をX線光電子分光分析装置(アルバック・ファイ社製、PHIQuantes)に導入して、以下の条件で測定した値を、第2元素の含有量A1とする。
【0019】
<XPSの測定条件>
X線源としてAlKα1線(1486.8eV、25W)を使用し、X線照射面積:100μmφ、パスエネルギー:26.0eV、試料と検出器のなす角度45°、測定間隔:0.1eV、管電圧:15kV、管電流:1.7mA、スキャン回数は以下の条件で行う。データ解析にはアルバック・ファイ社製「MultiPak9.9」を用いる。
・Ni 2p:8
・Cu 2p:1
・C 1s:5
・N 1s:3
・O 1s:2
・Cl 2p:3
(Cycle数:3)
【0020】
XPS測定による銅粉末の第2元素の含有量A1は、好ましくは0.5原子%以上、より好ましくは1.0原子%以上である。また、A1は好ましくは5.0原子%以下、より好ましくは3.0原子%以下、更に好ましくは2.0原子%以下である。含有量A1がこのような範囲であることによって、第2元素が銅粒子表面に存在しながらも銅粒子どうしの低温焼結性が更に向上する。なお、上述した第2元素の含有量A1は、銅元素、第2元素、炭素元素、酸素元素、窒素元素及び塩素元素の合計量に対する第2元素の原子の量の百分率をいう。
【0021】
銅粉末のBET比表面積S1は、好ましくは4m/g以上、より好ましくは5m/g以上、更に好ましくは6m/g以上である。また、S1は、好ましくは12m/g以下、より好ましくは11m/g以下、更に好ましくは10m/g以下である。BET比表面積S1がこのような範囲であることによって、銅粒子の焼結時の収縮を抑制して、所望の設計寸法や構造を有する焼結体を効率的に得ることができる。
【0022】
銅粉末のBET比表面積S1は、例えば、マイクロトラック・ベル社製の「BELSORP-MR6」を用い、窒素吸着法(BET一点法)で測定することができる。測定粉末の量は0.2gとし、予備脱気条件は大気圧下、60℃で15分間とする。
【0023】
銅粉末は、ICP発光分光分析による第2元素の含有量T1に対するA1/S1の比((A1/S1)/T1)が、好ましくは1.4(原子%/(m/g))/質量%以上である。((A1/S1)/T1)は後述するように大きいほど好ましいが、低温焼結性を発現しやすくする観点からは、10(原子%/(m/g))/質量%以下が現実的である。
上述のとおり、(A1/S1)/T1の単位は「(原子%/(m/g))/質量%」であり、本明細書における(A1/S1)/T1に関する説明において共通して適用される。
【0024】
(A1/S1)/T1の値は、銅粉末を構成する銅粒子中の第2元素が粒子表面側に偏在していること、及びその表面に存在する第2元素の均一性を表す指標である。銅粒子中に含まれる第2元素が粒子内部に比べて粒子表面に高い割合で存在し、且つ、粒子表面に均一に存在したり、粒子表面に比較的少量点在したりする場合は、(A1/S1)/T1が大きくなる傾向にある。一方、第2元素が粒子表面に比べて粒子内部に高い割合で存在したり、あるいは第2元素が粒子表面に比較的多量に偏在したりする場合は、(A1/S1)/T1が小さくなる傾向にある。また、例えば、上述の(A1/S1)/T1の範囲を満たし、且つA1/S1が上述の範囲である場合には、第2元素が銅粒子の粒子表面及びその近傍に存在し、且つ、第2元素が粒子表面に均一に存在することを意味する。
したがって、(A1/S1)/T1が上述の範囲であることによって、銅粒子中における第2元素の含有量が少ないことに加えて、第2元素が銅粒子表面及びその近傍に均一に存在することを意味する。かかる状態にあると、融点が比較的高い第2元素が存在した場合であっても低温焼結性を阻害することなく、低温焼結性を顕著に発揮し得る銅粒子とすることができる。このような銅粉末は、例えば後述する製造方法によって好適に製造することができる。
【0025】
銅粉末は、該粉末を構成する銅粒子に含まれる炭素元素の含有量が少ないことも好ましい。詳細には、銅粒子における炭素元素の含有量は、好ましくは0.15質量%以下、より好ましくは0.12質量%以下、更に好ましくは0.05質量%以下であり、特に好ましくは0.01質量%以下であり、少なければ少ないほど好ましく、非含有が最も好ましいが、0.005質量%以上が現実的である。
炭素元素の含有量がこのような範囲であることによって、銅粉末を焼成する際に有機物による銅の焼結阻害を抑制することができ、低温での焼結性を高めることができる。これに加えて、有機物の存在に起因して焼成時に発生するガスの発生を低減して、導電性が高い緻密な焼結体を得ることができる。このような銅粒子は、例えば後述する製造方法において、有機高分子化合物を非存在としたり、炭素元素を含む溶媒を用いない設計としたりすることで容易に得ることができる。
炭素元素の含有量は、例えば、堀場製作所社製の炭素分析装置EMIA-Expertを用いて測定することができる。
【0026】
銅粉末を構成する銅粒子の平均粒子径は、好ましくは10nm以上、より好ましくは25nm以上、更に好ましくは50nm以上である。また、前記銅粒子の平均粒子径は、好ましくは300nm以下、より好ましくは250nm以下、更に好ましくは200nm以下である。
銅粒子がこのような平均粒子径を有することによって、焼結時の熱エネルギーを粒子に効率的に付与して、低温での焼結性を効果的に発現させることができる。また、銅粉末を導電性組成物の構成材料として用いる場合に、良好な充填性を発現させることができる。
【0027】
銅粒子の平均粒子径は、例えば、倍率3万~5万倍における銅粉末の走査型電子顕微鏡観察像から、粒子どうしが重なり合っていないものを無作為に100個以上選んで測定した粒径(ヘイウッド径)の算術平均粒径である。
【0028】
銅粉末を構成する銅粒子の結晶子サイズは、好ましくは40nm以下であり、より好ましくは35nm以下であり、更に好ましくは33nm以下、特に好ましくは30nm以下であり、好ましくは10nm以上である。銅粒子がこのような結晶子サイズを有することによって、粒子中に結晶子界面を多くして、焼結時に原子拡散を多く発生させて、優れた低温焼結性を発現させることができる。
【0029】
上述の結晶子サイズは、粉末X線回折によって得られる回折ピークの銅における(111)面から以下に示すシェラー(Scherrer)の式によって算出する。本発明ではX線としてCuKα1線を使用して測定範囲2θ=5°~80°で銅粒子のX線回折強度を測定する。
結晶子サイズの算出は、リガク社製の分析ソフトPDXL2を用い、WPPFで解析を行う。X線回折測定装置としては、例えば、リガク社製のSmartLabを用いることができる。
【0030】
シェラーの式:D=Kλ/βcosθ
D:結晶子サイズ(単位:nm)
K:シェラー定数(1.33)
λ:X線の波長(単位:1.54056Å(Kα1))
β:半値全幅(単位:rad)
θ:回折角(単位:rad)
【0031】
銅粉末は、有機高分子化合物を実質的に非含有であることが好ましい。有機高分子化合物は一般に不揮発性であるか揮発しづらい物質であることから、有機高分子化合物が銅粉末に含まれていると、焼結時に発生したボイド発生の原因となり、得られる焼結体に不具合が生じやすいので、このような不具合の発生を抑制することができる。「有機高分子化合物を実質的に非含有」とは、銅粉末に意図的に有機高分子化合物を含有させないが、銅粉末に不可避的に有機高分子化合物が混入することは許容することを意味する。
【0032】
前記の有機高分子化合物としては、例えばゼラチン、カゼイン及びその塩等のタンパク質や、アラビアゴム、デンプン、デキストリン、寒天、アルギン酸及びその塩等の糖重合体;ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース及びエチルセルロース等のセルロース系化合物等が挙げられる。
また前記の有機高分子化合物としては、ポリエチレン、ポリプロピレン及びエチレン-α-オレフィン共重合体等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンポリ塩化ビニル及びポリスチレン等のビニル系ポリマー;ポリ(メタ)アクリル酸又はその塩及びポリ(メタ)アクリル酸アルキル等の(メタ)アクリル酸系ポリマー;ポリエチレングリコール;テルペン重合体、テルペンフェノール重合体等のテルペンポリマー;ポリカーボネート;ポリエーテルサルホン等が挙げられる。
有機高分子化合物と同様に除外されることが好ましいその他の化合物としては、例えばピロリン酸ナトリウム等のリン酸塩、ステアリン酸、ラウリン酸及びオレイン酸といった脂肪酸等が挙げられる。
【0033】
以下に、銅粉末の好適な製造方法を説明する。本発明の製造方法は、銅源である銅化合物と、第2元素源である水溶性の第2元素の塩と、還元性化合物とを混合し、銅化合物を還元して、目的となる銅粒子の集合体からなる銅粉末を得る。
銅粉末の製造方法としては、例えば乾式法や湿式法が挙げられるが、得られる銅粒子の粒径制御を容易にする観点から、水性液中で銅粒子を得る湿式法を採用することが好ましい。以下の説明では、本製造方法の好適な態様である水性液中での湿式法を例にとり説明する。また以下の説明では、特に断りのない限り、各工程を室温(25℃)で行うものとする。
【0034】
まず、銅化合物と、水溶性の第2元素の塩と、還元性化合物とを混合した反応液を調製する。本工程においては、純水等の溶媒に各原料を同時に添加して反応液としてもよく、各原料を任意の順序で溶媒に添加して反応液としてもよい。
【0035】
銅化合物としては、例えば塩化銅、硝酸銅、酢酸銅、硫酸銅等の銅(II)塩、水酸化銅等の銅(II)水酸化物、並びに、酸化銅及び亜酸化銅等の銅酸化物が挙げられる。これらの銅化合物は、無水物であってもよく、水和物であってもよい。銅化合物は、単独で又は複数組み合わせて用いることができる。特に、銅化合物として、好ましくは酸化銅又は亜酸化銅を用いることによって、銅粒子の粒子径を小さく制御できるとともに、得られる銅粒子を焼結したときに、銅化合物に含まれる対イオンの元素に由来するガスの発生が低減されるので好ましい。
【0036】
銅化合物は、反応液中の銅元素の含有量に換算して、好ましくは0.001mol/L以上1mol/L以下、更に好ましくは0.1mol/L以上0.5mol/L以下となるように混合する。このような銅化合物の含有量とすることによって、粒子径及び結晶子サイズが小さい銅粒子を生産性高く得ることができる。
【0037】
水溶性の第2元素の塩は、銅イオンの還元によって生成する銅粒子の粒子径及び結晶子サイズを制御するために用いられる。
水溶性の第2元素の塩としては、例えば水溶性ニッケル塩や、水溶性コバルト塩が挙げられる。
水溶性ニッケル塩としては、例えば、ギ酸ニッケル、酢酸ニッケル等の脂肪族一価カルボン酸のニッケル(II)塩や、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル及び炭酸ニッケル等の無機酸ニッケル(II)塩等が挙げられる。
水溶性コバルト塩としては、例えば、酢酸コバルト等の脂肪族一価カルボン酸のコバルト(II)塩や、塩化コバルト、硝酸コバルト、硫酸コバルト及び炭酸コバルト等の無機酸コバルト(II)塩等が挙げられる。
【0038】
これらの水溶性の第2元素の塩は、無水物であってもよく、水和物であってもよい。これらの水溶性の第2元素の塩は、単独で又は複数組み合わせて用いることができる。
特に、水溶性の第2元素の塩として、好ましくは水溶性ニッケル塩を用い、より好ましくは塩化ニッケル、硝酸ニッケル又は酢酸ニッケルを用い、更に好ましくは塩化ニッケルを用いることによって、得られる銅粒子の粒子径及び結晶子サイズを小さく制御することができる。
【0039】
また、水溶性の第2元素の塩は、反応液中での銅元素のモル量に対する第2元素のモル量の割合が、好ましくは25mol%以下、より好ましくは20mol%以下となるように混合する。上述したモル量の割合を25mol%以下とすることで、第2元素の含有量が粒子全体として低減された銅粒子が得られ、凝集抑制及び耐酸化性と、該銅粒子を焼結させた際の低温焼結性とを兼ね備えた良好なものとすることができる。
また、反応液中での銅元素のモル量に対する第2元素のモル量の割合は、好ましくは3mol%以上、より好ましくは5mol%以上、更に好ましくは10mol%以上となるように混合する。このような範囲とすることで、得られる銅粒子の粒子径及び結晶子サイズを小さく制御できるとともに、銅粒子表面への第2元素の過量な析出を抑制することができる。
【0040】
銅化合物及び水溶性の第2元素の塩を含むスラリーの調製にあたり、銅化合物及び水溶性の第2元素の塩の添加順序や方法に特に制限はない。例えば、固形の銅化合物及び固形の水溶性の第2元素の塩を、純水等の溶媒に任意の順序で又は同時に添加してスラリーとしてもよく、銅化合物及び水溶性の第2元素の塩の少なくとも一方を予め純水等に分散又は溶解させた後、純水等の溶媒に任意の順序で又は同時に添加し、混合してスラリーとしてもよい。いずれの場合であっても、後述する工程においてスラリー中の銅イオンの還元効率を高めて、粒径及び結晶子サイズの小さい銅粒子を得る観点から、スラリーは撹拌されている状態で以後の工程に供されることが好ましい。
【0041】
また、前記のスラリーとは別に、還元性化合物を含む水溶液を調製する。本方法において用いられる還元性化合物は銅イオンを還元するものである。還元性化合物としては、例えば、ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン及び抱水ヒドラジン等のヒドラジン系化合物、水素化ホウ素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、次亜硝酸ナトリウム、亜リン酸、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸、及び次亜リン酸ナトリウム等の化合物が挙げられる。これらの還元性化合物は、無水物であってもよく、水和物であってもよい。これらの還元性化合物は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、ヒドラジンは還元後に不純物の発生や、得られる粒子への不純物の混入が少ないので特に好適に用いられる。還元力が強く、且つ粒子への不純物の混入を抑制する観点から、還元性化合物として、ヒドラジンの無水物又は水和物のみを用いることがより一層好ましい。
【0042】
続いて、銅化合物及び水溶性の第2元素の塩を含むスラリーと、還元性化合物を含む還元性水溶液とを混合して反応液とし、銅化合物に由来する銅イオンを還元させて銅粒子を得る。
反応液は前述のスラリーと還元性化合物を含む水溶液を混合することで調製する。反応液中の還元性化合物の含有量は、銅元素1molに対して、好ましくは1mol以上10mol以下、より好ましくは2mol以上5mol以下、特に好ましくは3mol以上5mol以下となるように調製する。
還元性化合物の含有量をこのような割合とすることによって、第2元素の存在量及びその存在位置を所定の状態に制御しやすく、粒子径及び結晶子サイズが小さい銅粒子を容易に得ることができる。特に、還元性化合物による銅化合物の還元を一回のみ行うことによって、製造工程を簡略化しつつ、第2元素の存在量及びその存在位置が所定の状態に制御され、且つ粒子径及び結晶子サイズが十分に小さい銅粒子を生産性高く得ることができる。
【0043】
銅化合物及び水溶性の第2元素の塩を含むスラリーと、還元性化合物を含む還元性水溶液との混合においては、一方を他方に添加して混合してもよく、これらの水溶液を同時に混合してもよい。一方を他方に添加して混合する場合、一度に添加して一括混合してもよく、滴下等の方法で逐次添加して複数回に分けて混合してもよい。
【0044】
銅の還元反応を制御しやすくして、製造時の取扱い性を高める観点から、銅化合物と、水溶性の第2元素の塩とを純水等の溶媒に混合したスラリーと、還元性化合物を純水等の溶媒に混合した還元性水溶液とをそれぞれ別に調製し、その後、還元性水溶液をスラリーに添加して銅の還元反応を行うことが好ましい。
【0045】
スラリーと還元性水溶液とを逐次添加によって混合する場合、還元性水溶液をスラリーに逐次添加する場合を例にとると、還元性水溶液の添加速度は、好ましくは1mL/min以上、より好ましくは2mL/min以上、更に好ましくは4mL/min以上である。また、200mL/min以下であることが好ましい。このような添加速度とすることで、銅粒子の製造規模によらず、所定の第2元素の含有量、粒子径及び結晶子径を有し、且つ第2元素の存在位置が特定の状態に制御された銅粒子を生産性高く得ることができる。
【0046】
反応液における還元反応条件は、混合開始時点から反応終了時点にわたって、加熱せずに反応させてもよく、加熱条件下で反応させてもよい。
銅粒子の形成に十分な還元反応の進行と、製造コストの低減とを両立させる観点から、混合開始時点から反応終了時点にわたって、0℃超80℃以下を維持するように還元反応させることが好ましい。
【0047】
混合開始時点から反応終了時点までの時間は、目的とする銅粒子の物性によって適宜変更可能であるが、好ましくは10分以上4時間以下、より好ましくは20分以上2.5時間以下、更に好ましくは20分以上1時間以下とすることができる。
また、還元反応を均一に発生させて、粒径のばらつきが少ない銅粒子を得る観点から、混合開始時点から反応終了時点にわたって、反応液の撹拌を継続することも好ましい。
【0048】
本方法で用いられる第2元素は酸化還元電位が銅よりも卑であるので、水溶性の第2元素の塩由来の第2元素のイオンは銅イオンが還元された後に還元され、その結果、生成銅粒子表面に第2金属が存在する形態となりやすい。また、還元性水溶液の添加速度や、混合開始時点から反応終了時点までの時間を適宜調整することで、生成する銅粒子の物性や、第2元素の表面存在量及びその均一性を容易に制御することができる。このことは本製造方法において水溶性ニッケル塩を用いた場合、すなわち第2元素としてニッケル元素を含む場合に有利である。
【0049】
スラリー、還元性水溶液及び反応液を調製するための液媒は、いずれも水のみを用いることによって、不純物の混入を防ぎ、得られる銅粒子の焼結時にガスの発生が更に起こりにくくなるので好ましい。
【0050】
本製造方法は、反応液中に、得られる銅粒子の分散性を高めることを目的として含有される上述の有機高分子化合物の非存在下で還元反応を行った場合であっても、得られる銅粒子の粒径を小さく制御することができる。この理由として、前記スラリーに含まれるニッケル等の第2元素のイオンやその錯形成物が、還元反応で生成した金属銅の粒子表面を保護することにより、銅粒子の成長を適度に抑制するためと考えられる。これに加えて、第2金属が銅の還元反応を促進させたり、反応液中に存在する第2金属塩と還元性化合物との反応生成物が、銅粒子どうしの凝集を抑制したりすることで、得られる銅粒子の粒径を小さく制御することができると考えられる。銅粒子の粒径が小さいことは、焼結時の熱の付与量が少なくても粒子の溶融を進行させることができ、低温焼結性の達成に更に有利である。
【0051】
また、有機高分子化合物の非存在下で還元反応を行うことによって、不純物の一つである有機物の含有量が低減され、焼結時におけるガスの発生が起こりにくい銅粒子を得ることができる。反応液中に有機高分子化合物を非存在とするためには、例えば、銅化合物及び水溶性の第2元素の塩を含むスラリー、還元性水溶液及び反応液の各調製工程において、有機高分子化合物そのもの、及び有機高分子化合物を含有する原材料を用いなければよい。
【0052】
このようにして得られた銅粒子は、純水リパルプ洗浄やデカンテーション法等によって洗浄することができる。純水リパルプ洗浄やデカンテーション法では洗浄スラリーを減圧濾過や加圧濾過、遠心分離、及び自然沈殿させる等して粒子と不純物を含む溶媒を分離した後、ケークや沈降粒子に洗浄溶媒を添加し、再分散することを繰り返し実施する。この工程において一度の処理で分離するスラリー量は、好ましくは82質量%以上98質量%以下、より好ましくは85質量%以上95質量%以下、特に好ましくは88質量%以上92質量%以下である。
【0053】
一度の処理で分離するスラリー量をこのような割合とすることによって、洗浄開始後、3回目までの溶媒の分離工程での粒子の凝集や酸化を抑制することができ、また、洗浄スラリーの過度のpH変化を抑制することができるため第2元素の存在量及びその存在位置を所定の状態に制御した銅粒子を生産性高く得ることができる。但し、洗浄過程で粒子が凝集し、容易に沈降する状態となった場合は一度に処理するスラリー量を調整する必要はない。
また、洗浄溶媒として超純水やpHが9以上の水溶液を用いることもできる。洗浄溶媒としては水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物やアンモニア等の水溶液を用いることが好適である。
【0054】
銅粒子の洗浄は洗浄スラリーの導電率が0.1mS/cm以下となるまで続けることが好ましい。第2元素の存在量を低く抑える観点からは、洗浄を終了する洗浄スラリーの導電率を0.05mS/cm以下とすることが更に好ましく、0.01mS/cm以下とすることが一層好ましい。その後、必要に応じて固液分離を行って得られた固形分を、水やアルコール等の溶媒に再度分散させて、銅粒子の集合体を含むスラリーやインク、ペースト等としてもよい。また、保管スペースを削減し、搬送性を高める観点から、洗浄又は溶媒置換された銅粒子を乾熱乾燥や真空乾燥等の方法で乾燥させて、銅粒子の集合体である乾燥粉とすることが好ましい。
【0055】
以上の工程を経て得られた銅粉末は、粒子どうしの分散性を高めるための有機化合物の層を粒子表面に有していないにもかかわらず、粒子径が小さいものとなる。その理由として、本製造方法による製造時において生成する粒子の凝集の程度が低くなるので、粒径が小さい状態を維持したまま製造できると考えられるためである。また、このようにして得られた粒子は、一般に球状のものとなる。球状の銅粒子は、その分散性を高めやすい観点から好ましい。なお、本発明の効果が奏される限りにおいて、得られた銅粒子が他の元素を不可避的に微量含むことや、銅粒子表面が不可避的に微量酸化されたりすることを排除するものではない。
【0056】
銅粒子の粒子径及び結晶子サイズが小さくなるように制御するためには、例えば原料である銅化合物として、粒子径が小さい酸化銅の粒子を用いる方法が挙げられる。
【0057】
銅粒子は、導電性組成物に配合される金属フィラーとして好適に用いられる。導電性組成物としては、例えば導電ペーストや導電インク等が挙げられる。これらの導電性組成物は、金属フィラーとしての銅粉末と、分散媒と、必要に応じてシランカップリング剤等の添加剤とを含むものである。
【0058】
導電性組成物に用いられる分散媒としては、例えば水、ターピネオール及びジヒドロターピネオール等のアルコール、ポリエチレングリコール及びへキシレングリコール等の多価アルコール、アミン化合物、ケトン、エステル、エチルカルビトール及びブチルカルビトール等のエーテル及び炭化水素が挙げられる。それらの中でも、アミン化合物が好適であり、例えば、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、アミノエチルエタノールアミン、n-ブチルジエタノールアミン、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール等が挙げられる。これらのアミン化合物は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
分散媒と銅粉末の合計100質量%に対する銅粉末の含有割合は、導電性組成物を焼成した際の接合強度を十分なものとしつつ分散媒による銅粒子の還元反応を十分に進行させる観点から、70質量%以上95質量%以下であることが好ましく、75質量%以上90質量%以下がより好ましく、80質量%以上85質量%以下が特に好ましい。
【0060】
導電性組成物に用いられるシランカップリング剤としては、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。またシランカップリング剤は、他のカップリング剤、例えばアルミネート系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤と併用することもできる。
【0061】
シランカップリング剤の含有割合は、低い電気抵抗を得やすくする観点から、銅粉末100質量%に対して8質量%以下であることが好ましく、3質量%以上7質量%以下であることがより好ましい。
【0062】
導電性組成物は、例えばこれを所定の手段によって、基板上に所定のパターンで塗布し、その後これを焼成することで、例えばプリント配線基板等の、配線回路を備える配線構造を形成することができる。またプリント配線基板中のビア充填用材料や、プリント配線基板に電子デバイスを表面実装するときの接合材料として用いることもできる。更に、チップ部品の電極形成に用いることもできる。特に、本発明の銅粒子は、低温焼結性を有するものであるので、配線形成や金属間接合のプロセス温度を低減でき、プリンテッドエレクトロニクスの配線材料やパワー半導体のダイアタッチ材料として好適に用いることができる。上述した各種の導電性部材は、例えば基板やチップ等2つの電子部品の間に上述の導電性組成物を介在させ、その後これを焼結させることによって得ることができる。
【実施例0063】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。以下に示す実施例及び比較例はいずれも有機高分子化合物の非存在下で銅粉末を製造した。
【0064】
〔実施例1〕
(1)銅化合物の調製
0.4mol/Lの硝酸銅水溶液5L及び0.8mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液5Lを、各1L/minの添加速度にて、撹拌状態にした超純水1Lに対して全量を逐次添加した。添加完了後、40℃で8時間撹拌して、酸化銅の粒子を液中に生成させた。その後、リパルプ洗浄、固液分離及び熱風乾燥を経て、原料となる銅化合物としての酸化銅の乾燥粉を得た。この酸化銅の粒子径は、344nmであった。
【0065】
(2)スラリーの調製
銅化合物として上述の酸化銅を用い、水溶性の第2元素の塩として塩化ニッケル六水和物を用いた。19.09g(0.24mol)の酸化銅と、5.82g(0.024mol)の塩化ニッケル六水和物とを775.09gの超純水に分散及び溶解させ、この水溶液を室温(25℃)で撹拌混合して、銅及びニッケルを含むスラリーを得た。このスラリーは、銅元素に対するニッケル元素のモル割合が10mol%となるように調製した。
【0066】
(3)還元性水溶液の調製
還元性化合物としてヒドラジン一水和物を用いた。61.30gのヒドラジン一水和物と、188.70gの超純水を混合して、4.8mol/Lのヒドラジン水溶液250gを得た。
【0067】
(4)銅粉末の合成
前記工程(2)で得られたスラリーに、前記工程(3)で得られたヒドラジン水溶液200gを以下の表1に示す添加速度で全量を逐次添加して、反応液中で還元反応を行った。反応液中におけるヒドラジン濃度は、銅元素1molに対して4molであった。反応液中の銅イオンの最終濃度は0.24mol/L、ニッケルイオンの最終濃度は0.024mol/L、ヒドラジンの最終濃度は0.96mol/Lであった。
反応液は、混合開始時点から反応終了時点にわたって、特に温度調整は行わずに、以下の表1に示す時間にて撹拌して、還元反応を行った。反応終了後、得られた固形物に対し純水リパルプ洗浄を行い、更にエタノールで溶媒置換を行った。その後、減圧濾過し、真空乾燥を行って、目的とする銅粒子の集合体からなる銅粉末を得た。
【0068】
〔実施例2~3、比較例1〕
前記工程(4)にて、ヒドラジン水溶液の添加速度及び還元反応時間を、以下の表1に示す条件とした以外は、実施例1と同様にして、銅粒子の集合体からなる銅粉末を得た。
【0069】
〔比較例2〕
前記工程(2)にて塩化ニッケル六水和物の使用量を11.64g(0.06mol)とし、銅元素に対するニッケル元素のモル割合が20mol%であるスラリーを調製した。このスラリーを用いて、前記工程(4)における反応液中のニッケルイオンの最終濃度を0.048mol/Lとした以外は、実施例1と同様にして、銅粒子の集合体からなる銅粉末を得た。
【0070】
〔比較例3〕
前記工程(4)にて、ヒドラジン水溶液の添加速度及び還元反応時間を、以下の表1に示す条件とした以外は、実施例1と同様にして、銅粒子の集合体からなる銅粉末を得た。
【0071】
〔実施例4〕
銅化合物として前記工程(1)にて得られた酸化銅を用い、水溶性の第2元素の塩として塩化ニッケル六水和物を用いた。9.55g(0.12mol)の酸化銅と、2.91g(0.012mol)の塩化ニッケル六水和物とを387.54gの超純水に分散及び溶解させ、この水溶液を室温(25℃)で撹拌混合して、銅及びニッケルを含むスラリーを得た。このスラリーは、銅元素に対するニッケル元素のモル割合が10mol%となるように調製した。
得られたスラリーに、29.42gのヒドラジン一水和物と90.58gの超純水を混合して調製した還元性水溶液である4.8mol/Lのヒドラジン水溶液100gを一括添加して、反応液中で還元反応を行った。
反応液は、混合開始時点から反応終了時点にわたって、特に温度調整は行わずに、以下の表1に示す時間にて撹拌して、還元反応を行った。反応終了後、得られた固形物に対し純水リパルプ洗浄で、一度の処理で分離するスラリー量を88質量%以上92質量%とし、洗浄スラリーの導電率が0.01mS/cm以下となるまで洗浄した以外は、実施例1と同様にして、銅粒子の集合体からなる銅粉末を得た。
【0072】
〔実施例5〕
0.4mol/Lの硝酸銅水溶液28L及び0.8mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液28Lを、各1L/minの添加速度にて、撹拌状態にした超純水4Lに対して全量を逐次添加した。添加完了後、40℃で8時間撹拌した。その後、80℃で16時間熱処理し、酸化銅の粒子を液中に生成させた。その後、リパルプ洗浄、固液分離及び熱風乾燥を経て、酸化銅の乾燥粉を得た。
銅化合物として前記の酸化銅を用い、水溶性の第2元素の塩として塩化ニッケル六水和物を用いた。38.18g(0.48mol)の酸化銅と、11.64g(0.048mol)の塩化ニッケル六水和物とを1550.19gの超純水に分散及び溶解させ、この水溶液を室温(25℃)で撹拌混合して、銅及びニッケルを含むスラリーを得た。このスラリーは、銅元素に対するニッケル元素のモル割合が10mol%となるように調製した。
得られたスラリーに、105.43gのヒドラジン一水和物と324.57gの超純水を混合して調製した還元性水溶液である4.8mol/Lのヒドラジン水溶液400gを一括添加して、反応液中で還元反応を行った。
反応液は、混合開始時点から反応終了時点にわたって、特に温度調整は行わずに、以下の表1に示す時間にて撹拌して、還元反応を行った。反応終了後、得られた固形物に対しpH調整水によるリパルプ洗浄で、一度の処理で分離するスラリー量を88質量%以上90質量%とし、洗浄スラリーの導電率が0.01mS/cm以下となるまで洗浄した。更にエタノールで溶媒置換を行った。その後、減圧濾過し、真空乾燥を行って、目的とする銅粒子の集合体からなる銅粉末を得た。
【0073】
〔比較例4〕
純水リパルプ洗浄で一度に全てのスラリーを処理した以外は、実施例5と同様にして、銅粒子の集合体からなる銅粉末を得た。
【0074】
〔物性の評価〕
各実施例及び比較例の銅粉末について、XPS測定による第2元素の含有量A1、BET比表面積S1、ICP測定による第2元素の含有量T1、粒子径、結晶子サイズ、炭素元素含有量をそれぞれ、上述した方法で測定、観察した。併せて、A1/S1の値、及び(A1/S1)/T1の値をそれぞれ算出した。結果を表1に示す。
【0075】
〔低温焼結性の評価〕
実施例及び比較例で得られた銅粉末を用い、分散媒と銅粉末の合計100質量%に対して銅粉末の含有量が80質量%となるように、分散媒としてトリエタノールアミンを添加し、シンキー社製の自転・公転真空ミキサーARE-500を用いて予備混練し、その後、3本ロールミルを用いて更に混練した。得られた混練物を、目開きが20μmの篩に通過させ、その通過物をスラリーとして得た。またこれとは別に、シランカップリング剤(信越シリコーン社製、KBM403)を63.1質量%含むメタノール溶液を用意した。
次いで、上記の自転・公転真空ミキサーを用いて、銅粉末100質量%に対してシランカップリング剤が6.0質量%となるように、前記スラリーと前記メタノール溶液とを混合し、目的とする導電性組成物を得た。
そして、この導電性組成物を、ガラス基板上にアプリケータを用いて塗布して塗膜を形成した。この塗膜を、窒素雰囲気下、200℃で30分間熱処理して、銅粒子の焼結体である導電膜を得た。
得られた導電膜について、抵抗率計(三菱化学アナリテック社製、ロレスタMCP-T600)を用いて表面抵抗測定を行った後、膜厚を換算して比抵抗を算出した。比抵抗が低いほど、低温焼結性に優れることを示す。結果を以下の表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
〔実施例6~10〕
上述の〔低温焼結性の評価〕に記載するように、実施例4で得られた銅粉末を用いて作製した導電性組成物を実施例9の導電性組成物とした。
また、上述の〔低温焼結性の評価〕に記載するように、実施例4で得られた銅粉末を用いて導電性組成物を作製する際に、銅粉末100質量%に対するシランカップリング剤含有量が表2に示す含有量となるように変更して作製した導電性組成物を、実施例7,8の導電性組成物とした。また、シランカップリング剤を含有しない以外は同様に作製した導電性組成物を、実施例6の導電性組成物とした。
更に、上述の〔低温焼結性の評価〕に記載するように、実施例4で得られた銅粉末を用いて導電性組成物を作製する際に、分散媒と銅粉末の合計100質量%に対して銅粉末の含有量が85質量%となるように変更して作製した導電性組成物を、実施例10の導電性組成物とした。
【0078】
〔物性の評価〕
実施例6~10で得た導電性組成物を、ガラス基板上にアプリケータを用いて塗布して塗膜を形成した。この塗膜を、窒素雰囲気下、200℃で30分間熱処理して、銅粒子の焼結体である導電膜を得た。
得られた導電膜について、抵抗率計(三菱化学アナリテック社製、ロレスタMCP-T600)を用いて表面抵抗測定を行った後、膜厚を換算して比抵抗を算出した。結果を以下の表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
〔実施例11〕
5mm四方の正方形の銅基板(厚み1mm)上に、スクリーン印刷によって実施例9の導電性組成物を塗布して塗膜を形成した。塗膜は、1mm四方の正方形に形成した。次いで、塗膜の上に3mm四方の正方形の銅チップ(厚み1mm)を載置した。そして、窒素雰囲気下に260℃で30分間焼結を行い、銅基板と銅チップとの間に導電性組成物の焼結体が形成された実施例11の導電性部材を作製した。
【0081】
〔破断強度の評価〕
実施例11の導電性部材について、破断強度を測定した。測定にはXYZTEC社製のボンドテスターCondor Sigmaを用いた。破断強度(MPa)は、破断荷重(N)/接合面積(mm)で定義される値である。測定結果は32MPaであった。本発明の銅粉末を用いて導電性組成物を作製し、当該導電性組成物を用いて作製した導電性部材は、低温での焼成にも関わらず接合強度に優れるものであった。