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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180342
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】ゼラチン組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/281 20160101AFI20221129BHJP
【FI】
A23L29/281
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084808
(22)【出願日】2022-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2021087157
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】306007864
【氏名又は名称】ユニテックフーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩政 菜津紀
【テーマコード(参考)】
4B041
【Fターム(参考)】
4B041LC04
4B041LC06
4B041LD03
4B041LE03
4B041LK05
4B041LK07
4B041LK13
4B041LK17
4B041LP25
(57)【要約】
【課題】従来のゼラチンを含む様々な製品と比べて、新たな物性を有し、より幅広く活用し得るゼラチン組成物を提供する。
【解決手段】ゼラチンと、ヌクレオチド及び/又はアミノ酸を含むゼラチン組成物を提供する。ゼラチンと、ヌクレオチド及び/又はアミノ酸の組み合わせや、添加量等を調整することにより、従来のゼラチン組成物と比べて、可食性、生分解性、耐熱性、レンジアップや湯煎等の加熱における溶解性、耐水性等の新たな物性を有し、より幅広く活用し得るゼラチン組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチンと、ヌクレオチド及び/又はアミノ酸を含むゼラチン組成物。
【請求項2】
ヌクレオチドがグアニル酸、イノシン酸又はそれらの塩から選ばれるいずれか一種以上であり、アミノ酸がグルタミン、グルタミン酸又はそれらの塩から選ばれる一種以上である請求項1に記載のゼラチン組成物。
【請求項3】
さらに酸及び/又はpH調整剤を含む請求項1又は2に記載のゼラチン組成物。
【請求項4】
ゲル又はフィルムの形状である請求項1~3のいずれかに記載のゼラチン組成物。
【請求項5】
耐熱性ゼラチン組成物である請求項1~4のいずれかに記載のゼラチン組成物。
【請求項6】
ゼラチンと、ヌクレオチド及び/又はアミノ酸を混合する工程を含む請求項1~5のいずれかに記載のゼラチン組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のゼラチン組成物の製造方法であって、さらに製膜する工程を含むゼラチン組成物の製造方法。
【請求項8】
ヌクレオチドがグアニル酸、イノシン酸又はそれらの塩から選ばれるいずれか一種以上であり、アミノ酸がグルタミン、グルタミン酸又はそれらの塩から選ばれる一種以上である請求項6又は7に記載のゼラチン組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゼラチンと、ヌクレオチド及び/又はアミノ酸から選ばれるいずれか一種以上を含むゼラチン組成物に関する。また、当該ゼラチン組成物の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スーパー、コンビニエンスストアやレストラン等で、弁当、総菜等の調理済みの食品が幅広く販売されるようになり、様々なメニューが開発されている。
これらの調理済みの食品は、製造後購入されるまで、さらにはきっ食されるまでの間に風味、食感や美味しそうな外観等を維持するために、増粘多糖類やゲル化剤を添加して具からの水分の染み出しを抑制したり、酸化防止剤を添加して変色を防止したりする等の工夫がなされている。
【0003】
また、カレーライス、中華丼、親子丼等のルウや具がご飯に染み込むのを防ぐために、ルウや具とご飯の間にプラスチック製のフィルムを挟む等の工夫もされているが、きっ食時にプラスチック製のフィルムを取り除く必要があり、ゴミが生じる等の問題があった。
プラスチック製のフィルムの替わりとして、寒天やカラギナンを用いて耐熱性を高めた可食性フィルムも開発されているが、レンジアップ(電子レンジによる加熱)では十分に溶けず、異物感を与える等の問題もあった。
そこで、本発明者らは調理済みの食品の提供において、製造後購入されるまで、さらにはきっ食されるまでの間に、具からの水分の染み出し等を防止でき、風味、食感や美味しそうな外観等が維持でき、かつ、きっ食時にゴミや異物感が生じない物質等の提供を試みた。
【0004】
ゼラチンは動物の皮膚や骨等から流出される成分であり、安全にきっ食できるものとして、食品や医薬品等の様々な分野において幅広く使用されている。
例えば、特許文献1では、電子レンジを用いて各種食品に焦げ色、焼き色を鮮明、且つ容易に着色できる可食性フィルムを提供するためにゼラチン等の天然起源系成膜剤を用いることが記載されている。また、特許文献2では、γ-ポリグルタミン酸及び/又はその塩からなる群より選ばれた少なくとも一種と、ゼラチン等の水溶性高分子を組み合わせて口腔衛生用可食性フィルムを提供することが記載されている。
このようにゼラチンを含む様々な製品が提供されているが、実際の使用において有用なものが得られているとはいえず、従来のゼラチンを含む製品と比べて新たな物性を有し、より幅広く活用し得るゼラチン組成物の提供が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-041621号公報
【特許文献2】特開2007-326808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は従来のゼラチンを含む様々な製品と比べて、新たな物性を有し、より幅広く活用し得るゼラチン組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは鋭意研究に取り組んだ結果、ゼラチンと、ヌクレオチド及び/又はアミノ酸を含むゼラチン組成物が、従来のゼラチンを含む様々な製品と比べて、新たな物性を有し、より幅広く活用し得るゼラチン組成物となり得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明によって得られるゼラチン組成物は、使用目的に応じて物性を調整することができ、必要に応じて可食性、生分解性や耐熱性等を有する。さらに、耐水性、レンジアップや湯煎等の加熱における溶解性(以下、単に加熱における溶解性と示す場合がある)等も有し、水分活性が低く保存性が高いゼラチン組成物等となり得る。
本発明のゼラチン組成物が、加熱における溶解性を有するゼラチンフィルムであれば、調理済みの食品の提供においてこれを用いることにより、製造後購入されるまで、さらにはきっ食されるまでの間に、具からの水分の染み出しや、染み出した水分のご飯等の他の食品への染み込み等を防止できる。さらに、このようなゼラチンフィルムは、風味、食感や美味しそうな外観等が維持でき、かつ、きっ食時にゴミや異物感が生じない物質として使用し得る。
また、本発明のゼラチン組成物が耐熱性を有するゼラチンフィルムであれば、高温条件下における保存性を高めることもできる。具体的には冬場の常温状態(±10℃前後)に限らず、夏場の常温状態(40℃前後)で一定時間保管した場合でも水分移行が少なく、フィルムとして充分な強度を有しつつ、レンジアップ等の加熱において溶解する性質を示すゼラチンフィルム等となり得る。
さらに、加熱における溶解性が低いゼラチンフィルムであって、可食性、生分解性等を有する場合は、食品や医薬品等の包装材料、包装容器等、ゴミが生じない梱包資材や、再生医療等製品のための資材等として使用し得る。
そして、本発明のゼラチン組成物がゼラチンゲルである場合においても、耐熱性を有し、ゲル化点が高いゼラチンゲル等であれば、液体のまま噴霧、塗布、浸漬等により物質をコーティングし、ゲル状の被膜を作るコーティング剤等として使用し得る。
【0009】
すなわち、本発明は次の(1)~(8)に示されるゼラチン組成物等に関する。
(1)ゼラチンと、ヌクレオチド及び/又はアミノ酸を含むゼラチン組成物。
(2)ヌクレオチドがグアニル酸、イノシン酸又はそれらの塩から選ばれるいずれか一種以上であり、アミノ酸がグルタミン、グルタミン酸又はそれらの塩から選ばれる一種以上である上記(1)に記載のゼラチン組成物。
(3)さらに酸及び/又はpH調整剤を含む上記(1)又は(2)に記載のゼラチン組成物。
(4)ゲル又はフィルムの形状である上記(1)~(3)のいずれかに記載のゼラチン組成物。
(5)耐熱性ゼラチン組成物である上記(1)~(4)のいずれかに記載のゼラチン組成物。
(6)ゼラチンと、ヌクレオチド及び/又はアミノ酸を混合する工程を含む上記(1)~(5)のいずれかに記載のゼラチン組成物の製造方法。
(7)上記(6)に記載のゼラチン組成物の製造方法であって、さらに製膜する工程を含むゼラチン組成物の製造方法。
(8)ヌクレオチドがグアニル酸、イノシン酸又はそれらの塩から選ばれるいずれか一種以上であり、アミノ酸がグルタミン、グルタミン酸又はそれらの塩から選ばれる一種以上である上記(6)又は(7)に記載のゼラチン組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、従来のゼラチンを含む様々な製品と比べて、新たな物性を有し、より幅広く活用し得る、ゲルやフィルム等の形状のゼラチン組成物の提供が可能となった。
本発明のゼラチン組成物は使用目的に応じて物性を調整することができ、可食性、生分解性、耐熱性、レンジアップや湯煎等の加熱における溶解性、耐水性等を有し得る。さらに水分活性が低く、保存性が高いゼラチン組成物ともなり得る。このような本発明のゼラチン組成物は食品、医薬品、工業製品等の分野において幅広く活用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ゼラチン組成物(ゼラチンフィルム)の耐水性を示した図である(実施例1-3)。
図2】ゼラチン組成物(ゼラチンフィルム)による食材から分離した水分のろ紙への染み込み防止機能(10℃、1日間保管)を示した図である(実施例1-6)。
図3】ゼラチン組成物(ゼラチンフィルム)による食材から分離した水分のろ紙への染み込み防止機能(40℃、30分、60分及び180分保管)を示した図である(実施例1-6)。
図4】ゼラチン組成物(ゼラチンフィルム)のレンジアップにおける溶解性を示した図である(実施例1-6)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の「ゼラチン組成物」とは、少なくともゼラチンと、ヌクレオチド及び/又はアミノ酸を含む物質のことを指す。ヌクレオチド及び/又はアミノ酸はいずれか一種以上が含まれていればよく、二種以上組み合わせて含まれてもよい。
さらに、本発明の「ゼラチン組成物」は、酸又はpH調整剤を含むものであってもよく、その他の成分を一種以上含むものであってもよい。ここで、その他の成分として例えば、グラニュー糖、食塩、果汁、果肉、野菜、糖質、甘味料、乳化剤、増粘多糖類、界面活性剤、ビタミン類、乳、乳製品、乳飲料、乳酸菌飲料、畜肉、魚肉、肉加工品、動植物性タンパク質、タンパク質分解物、穀物、脂質、油脂、糖質、糖類、食物繊維、ミネラル類、酸味料、香料、でん粉、加工澱粉、デキストリン、グリセリン、卵、着色料、色素、保存料、酸化防止剤、発色剤、賦形剤、ポリフェノール、アルコール性飲料、炭酸飲料、清涼飲料、お茶、コーヒー、ジュース、スープ、エキス又はその他調味料等が挙げられる。本発明の「ゼラチン組成物」を食品や医薬品等、経口摂取されるものに使用する場合は、これらの成分としてヒト等の動物が安全に摂取できる成分を選択する必要がある。
【0013】
本発明の「ゼラチン組成物」に含まれる「ゼラチン」は、本発明のゼラチン組成物の製造において有用なゼラチンであれば従来知られているいずれのものであってもよく、牛、豚、鶏等から独自に抽出して調製したものを用いることもできる。
このようなゼラチンとして例えば、牛骨由来の250LB、235LB、150LBや80LB(いずれもRousselot社)、豚皮由来の300PS、250PS60、200PSや100PS(いずれもRousselot社)等が挙げられる。特にブルーム値(ゼラチン6.67w/w%時のゲル強度(g))が80~320(g)となるゼラチンであることが好ましく、メッシュサイズは問わない。
また、森永クックゼラチン(森永製菓株式会社)、ゼライスゼラチンパウダー(ゼライス株式会社)、ニッピ食用ゼラチン(株式会社ニッピ)、新田ニューシルバー(新田ゼラチン株式会社)等も本発明のゼラチン組成物に使用することができる。
本発明の「ゼラチン組成物」に使用するこれらの「ゼラチン」は一種以上であればよく、二種以上組み合わせてもよい。
【0014】
本発明の「ゼラチン組成物」に含まれる「ヌクレオチド」は、グアニル酸、イノシン酸又はそれらの塩から選ばれるいずれか一種以上であればよく、二種以上組み合わせてもよい。これらは市販のものであってもよく、独自に抽出して調製したものであってもよい。
このようなグアニル酸やグアニル酸塩として例えば、グアノシン5'- 一リン酸二ナトリウム(東京化成工業株式会社)、グアノシン5'- 一リン酸二ナトリウムn水和物(富士フイルム和光純薬株式会社)、CJTIDE GMP(シージェイジャパン株式会社)等が挙げられる。特にCJTIDE GMP(シージェイジャパン株式会社)を用いることが好ましい。
また、イノシン酸やイノシン酸塩としては例えば、イノシン5'- 一リン酸二ナトリウム水和物(東京化成工業株式会社)、イノシン5’- 一リン酸二ナトリウムn水和物(富士フイルム和光純薬株式会社)、核酸IMP(大象株式会社)、CJTIDE IMP(シージェイジャパン株式会社)等が挙げられ、特にCJTIDE IMP(シージェイジャパン株式会社)を用いることが好ましい。
【0015】
本発明の「ゼラチン組成物」に含まれる「アミノ酸」は、グルタミン、グルタミン酸又はそれらの塩から選ばれる一種以上であればよく、二種以上組み合わせてもよい。これらは市販のものであってもよく、独自に抽出して調製したものであってもよい。
このようなグルタミンとして、例えば、L(+)-グルタミン(富士フイルム和光純薬株式会社)等が挙げられ、グルタミン酸として例えば、L-グルタミン酸(富士フイルム和光純薬株式会社)等が挙げられる。また、グルタミン酸塩として例えば、L(+)-グルタミン酸水素ナトリウム一水和物(富士フイルム和光純薬株式会社)等が挙げられる。
【0016】
本発明の「ゼラチン組成物」に含まれる「酸又はpH調整剤」は、本発明のゼラチン組成物の製造において有用な酸又はpH調整剤であれば従来知られているいずれのものであってもよく、独自に抽出して調製したものを用いることもできる。ここで、本発明の「pH調整剤」とはpHを変える働きを持つ物質を指し、このような物質であれば食品添加物に限らずいずれのものであってもよい。「pH調整剤」として例えば、リン酸、塩酸、硝酸等を使用することができ、特に塩酸等を使用することが好ましい。
本発明に使用し得る「酸」として例えば、クエン酸、グルコン酸、フィチン酸、乳酸、リンゴ酸、酢酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸等の有機酸が挙げられる。特にクエン酸、グルコン酸、フィチン酸、乳酸、リンゴ酸であることが好ましく、これらの「酸」は一種以上であればよく、二種以上組み合わせてもよい。製造するゼラチンゲルの用途に応じて酸の種類を選択することが好ましく、例えば、食用のゼラチンゲルを製造する場合は、ヒト等の動物が安全にきっ食できる酸から選択できる。
【0017】
本発明の「ゼラチン組成物」は液体、ゾル、ゲル、フィルム、シート等のいずれの形状であってもよく、特にゼラチンゲル、ゼラチンフィルム等の形状であることが好ましい。
ここで、ゼラチンゲルとは、少なくともゼラチンと、ヌクレオチド及び/又はアミノ酸を含む凝集性の分散系であり、固体の特徴を有する力学挙動を示す物質のことを指す。
また、ゼラチンフィルムとは、少なくともゼラチンと、ヌクレオチド及び/又はアミノ酸を含むものが膜を形成している物質のことを指す。
ゼラチンフィルムはフィルム状又はシート状であればよく、用途によって大きさや厚みを調整することができる。例えば、本発明のゼラチンフィルムを、調理済みの食品の提供において、製造後購入されるまで、さらにはきっ食されるまでの間に、具からの水分の染み出しや、染み出した水分のご飯等の他の食品への染み込み等が防止でき、風味、食感や美味しそうな外観等が維持でき、かつ、きっ食時にゴミや異物感が生じない物質として使用する場合には、厚み(平均)が0.003~0.5mmのゼラチンフィルムであることが好ましく、厚み(平均)が0.016~0.123mmのゼラチンフィルム、0.105~0.120mmのゼラチンフィルム、0.1~0.4mmや0.3~0.35mmのゼラチンフィルム等であってもよい。
ここで「厚み(平均)」とは、マイクロメーター(Mitutoyo社製、MDC-25M)を用い、製造したゼラチンフィルムの3か所を任意に選択して測定し、その平均を求めたものを指す。
【0018】
本発明の「ゼラチン組成物」は可食性、生分解性等の性質を有することが好ましく、使用目的に応じて、さらに耐熱性、レンジアップ等の加熱における溶解性、耐水性等を有するものであることが好ましい。また、本発明の「ゼラチン組成物」はさらに、水分活性(Aw)が0.2~0.6の範囲であることが好ましく、さらに0.313~0.553、特に0.32~0.4と低く、保存性が高いゼラチン組成物であることが好ましい。
【0019】
「耐熱性」とは、本発明の「ゼラチン組成物」に40℃~70℃程度の熱を加えた場合に、「ゼラチン組成物」が完全に溶解せず、形状を保持している状態のことを指す。
例えば、本発明の「ゼラチン組成物」がゼラチンフィルムの形状の場合は、40℃のお湯の上に浮かべた後、完全に溶けてなくなるまでの時間を調べることで耐熱性を評価することができる。
また、本発明の「ゼラチン組成物」がゼラチンゲルの形状の場合は、40℃、50℃、60℃、70℃等のそれぞれの温度となるように熱を加えた場合に、ゼラチンゲルの表面に乗せた鉄球が、ゼラチンゲルの溶解により、ゼラチンゲルの下部まで落下する時間を調べることで耐熱性を評価することができる。
いずれの場合においても、ゼラチンのみからなるゼラチンフィルムやゼラチンゲル等の比較品と比べて、完全に溶解せず、形状を保持している時間が長い場合に「耐熱性」があるといえる。
【0020】
「加熱における溶解性」とは、調理済みの食品を再加熱してきっ食する際等を想定しており、本発明のゼラチン組成物をレンジアップによって加熱した場合や、70℃を超える温度で湯煎等して加熱した場合に、ゼラチン組成物が溶解するか否かを調べることで評価することができる。
例えば、本発明の「ゼラチン組成物」がゼラチンフィルムの形状の場合は、ラップの上に各ゼラチンフィルムをおいて水滴を垂らして30秒経過した後、各ゼラチンフィルム上の余分な水を除き、これをレンジアップ(600W, 1分)した際に、溶解するか否かを調べることで評価することができる。
また「耐水性」とは、本発明の「ゼラチン組成物」が水等の水分に触れた場合に完全に溶解せず、形状を保持している状態のことを指す。
例えば、本発明の「ゼラチン組成物」がゼラチンフィルムの形状の場合は、冷水(10℃以下)上に浮かべた際に、完全に溶けてなくなるまでの時間を調べることで耐水性を評価することができる。この場合、ゼラチンのみからなるゼラチンフィルム等の比較品と比べて、完全に溶けてなくなるまでの時間が長い場合に「耐水性」があるといえる。
また、「離水率」とは、本発明の「ゼラチン組成物」の全重量に対して、「ゼラチン組成物」を一定時間保存した際にゼラチン組成物から生じた水分の量の割合を示したものを指す。例えば、本発明の「ゼラチン組成物」がゼラチンゲルの場合は、ゼラチンゲルに特定の穴をあけ、24時間、10℃で保存した際に発生した離水の量を調べることで離水率(%)を評価することができる。
【0021】
本発明の「ゼラチン組成物」がゼラチンフィルムの形状の場合、ゼラチンを1.0w/w%以上含むことが好ましく、特に1.5~20.0w/w%、さらに3.0~11.0w/w%含むことが好ましい。
本発明の「ゼラチン組成物」が「ヌクレオチド」を含む場合は、「ヌクレオチド」を1.0w/w%以上含むことが好ましく、特に1.0~10.0w/w%、さらに4.0~8.0w/w%含むことが好ましい。
また、「アミノ酸」を含む場合、「アミノ酸」を1.0w/w%以上含むことが好ましく、特に1.0~10.0w/w%、さらに4.0~8.0w/w%含むことが好ましい。
また、本発明の「ゼラチン組成物」がゼラチンゲルの形状の場合、ゼラチンを0.1~15.0w/w%となるように含むものであることが好ましく、特に0.5~13.0w/w%、さらに3.0~11.0w/w%となるように含むものであることが好ましい。
また、グアニル酸及び/グアニル酸塩を0.1~15.0w/w%となるように含むものであることが好ましく、特に2.0~13.0w/w%、さらに3.0~11.0w/w%となるように含むものであることが好ましい。
【0022】
本発明の「ゼラチン組成物」のpHはどの範囲でもよいが、pH7.0以下であることが好ましい。「ゼラチン組成物」のpHは6.0以下であることがより好ましく、さらに5.0以下、特に4.0以下であることが好ましい。「酸又はpH調整剤」は、これらのpHに調製するのに適した量を使用することが好ましい。
なお、その他の成分として、グリセリンを含む場合は、任意の量で使用できるが、一般的な使用量で添加することが好ましい。
【0023】
本発明の「ゼラチン組成物」は、使用目的に応じて物性を調整することができ、食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、工業製品等の様々な用途に使用できる。
本発明の「ゼラチン組成物」がゼラチンゲルの形状の場合、食品として例えば、ゼリー、ムース、ババロア、プリン、グミキャンディー、ヨーグルト、マシュマロ、水ようかん、ファットスプレッド、レトルト食品(カレー、ハンバーグ、非常食等)、冷凍食品(餃子、小籠包、シュウマイ、ハンバーグ、クリームコロッケ、メンチカツ等)、レンジ調理用のチルド食品(麺類、汁物、総菜等)、生鮮食品(青果物、魚介類等)、サプリメント(錠剤、被覆錠、糖衣錠、カプセル及び液剤等)、美容食品等に使用できる。また、このゼラチンゲルは、これらの食品に添加する添加物として使用することもできる。
工業製品としては、例えば、写真用或いは化粧品用の粘性保持のための剤、接着剤、墨、ガムテープ、塗料、人工皮革、研磨紙等に使用できる。また、このゼラチンゲルは、これらの工業製品に添加する添加剤等として使用することもできる。
さらに本発明のゼラチンゲルを医療用に使用する場合は、例えば、錠剤、被覆錠剤、チュアブル錠、丸剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、エリキシル剤、リモナーゼ剤、経口ゼリー剤等の経口製剤、ソフトカプセル、座薬、トローチ、湿布薬、再生医療の材料等に使用できる。また、このゼラチンゲルは、これらの医薬品に添加する添加物として使用することもできる。
【0024】
本発明の「ゼラチン組成物」がゼラチンフィルムの形状の場合は、例えば、そのままフィルム状の食品、医薬品、医薬部外品等としたり、必要な成分を付与してフィルム状の口臭清涼剤、冷感剤、薬等としたりして使用することができる。また、ゲル状、ゾル状、顆粒状、粉末状等のハンドリング性が低い食品や医薬品等を包むオブラート等として使用することもできる。
さらに弁当や総菜等の仕切りとして、調理済みの食品の提供において、製造後購入されるまで、さらにはきっ食されるまでの間に、具からの水分染み出し等が防止でき、風味、食感や美味しそうな外観等が維持でき、かつ、きっ食時にゴミや異物感が生じない物質として使用することもできる。このような用途で使用する場合は、弁当や総菜等をきっ食する際のレンジアップや70℃以上の湯煎等の再加熱において溶解し、食感や風味に影響を与えないゼラチンフィルムであることが好ましい。
このゼラチンフィルムがさらに、可食性、生分解性等を有する場合は、食品や医薬品等の包装材料、包装容器等、ゴミが生じない梱包資材、再生医療等製品のための資材等に使用し得る。
【0025】
本発明の「ゼラチン組成物の製造方法」は、ゼラチンと、ヌクレオチド及び/又はアミノ酸を混合する工程を含む製造方法であればよく、例えば、酸及び/又はpH調整剤をさらに混合する工程等、ゼラチン組成物の製造に有用なその他の工程を含むものであってもよい。また、「ゼラチン組成物」がゼラチンフィルムの形状の場合は、製膜する工程を含んでいてもよい。
【0026】
このような「ゼラチン組成物の製造方法」として、例えば、ゼラチンを水等に分散させたゼラチンの分散液を作成し、これにヌクレオチド及び/又はアミノ酸を混合する方法等が挙げられる。この際、ヌクレオチド及び/又はアミノ酸は粉末でも良いが、溶液を用いるとより好ましい。また、ゼラチンとヌクレオチド及び/又はアミノ酸を混合したものを水等に分散させた分散液を用いてもよい。
これらのゼラチンの分散液、ヌクレオチドやアミノ酸を含む溶液や、ゼラチンとヌクレオチド及び/又はアミノ酸を混合したものの分散液はいずれも40~80℃の範囲内になるように温めた状態で混合等に用いることが好ましい。
そして、これらの溶液を酸及びpH調整剤等を用いてpH7.0以下、好ましくはpH6.0以下に調整した後、必要に応じてグリセリン等のその他の成分を加え、重量調整することが好ましい。pHを4.0以下に調整すると、ゼラチン組成物の耐熱性が高まる傾向がある。pHは特に3.8以下に調整することが好ましい。
【0027】
ゼラチンフィルムの形状の「ゼラチン組成物」を製造する場合、様々な製膜方法を利用できる。例えば、これらの溶液に支持体を浸した後、支持体上に残った溶液を乾燥することで、ゼラチンフィルムを製造することができる。支持体は溶液に浸しても変性することのない素材からなる物質であって、板状等の平坦な面を有する物質であることが好ましい。このような支持体として例えば、ポリプロピレン樹脂の板(PP板)、ガラス板等が挙げられる。
また容器内でゲル化したものを、網等の上に静置して乾燥させて製膜することでゼラチンフィルムを製造することもできる。
乾燥はゼラチンフィルムが製造できる方法であれば従来知られるいずれの乾燥方法であってもよく、例えば、温風乾燥、自然乾燥等が挙げられる。支持体上に残った溶液をすぐに乾燥してゼラチンフィルムを製造してもよく、支持体上で一定時間溶液を保持し、ゲル化させた後に乾燥してゼラチンフィルムを製造してもよい。
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明の具体的な実施態様について説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0029】
〔試料〕
各ゼラチン組成物や比較品の製造にあたり、次の試料を使用した。
1.ゼラチン(いずれもRousselot社)
1)250LB60(牛骨由来、ブルーム値:250)
2)250PS60(豚皮由来、ブルーム値:250)
3)150LB60(牛骨由来、ブルーム値:150)
4)100PS30(豚皮由来、ブルーム値:100)
2.ヌクレオチド
1)グアニル酸(GMP):CJTIDE GMP(シージェイジャパン株式会社)
2)イノシン酸(IMP):CJTIDE IMP(シージェイジャパン株式会社)
3.アミノ酸
1)グルタミン(Gln):L(+)-グルタミン(富士フイルム和光純薬株式会社)
2)グルタミン酸ナトリウム(Glu-Na):L(+)-グルタミン酸水素ナトリウム一水和物(富士フイルム和光純薬株式会社)
4.pH調整剤
1)氷酢酸:氷酢酸(健栄製薬株式会社)
2)クエン酸:クエン酸フソウ(無水)(扶桑化学工業株式会社)
【0030】
〔機器〕
1.スターラー:REXIM RS-6AN(AS ONE)
2.攪拌機:NZ-1100(EYELA)
3.恒温槽:CBC-201(EYELA)
【0031】
〔実施例1〕
ゼラチン組成物の製造方法(1)
次の〔方法1〕又は〔方法2〕より、ゼラチンとヌクレオチド及び/又はアミノ酸を含むゼラチンフィルムを製造した。
【0032】
〔方法1〕
次のA~Gの工程により、ゼラチンフィルムを製造した。
A.ゼラチンを攪拌機(500rpm)で攪拌しながらイオン交換水に分散させた。
B.上記Aの工程により得られたゼラチンの分散液を40℃の恒温槽で15分間保持した。
C.上記Bの工程を経たゼラチン溶液に、熱湯で溶解したヌクレオチド及び/又はアミノ酸を加えた。
D.上記Cの工程を経た溶液に、pH調整剤(クエン酸を熱湯で溶解したもの)を加えpH4.0以下に調整した。
E.上記Dの工程を経た溶液を40℃で攪拌機(500rpm)を用いて5分間攪拌した後、攪拌を続けながら80℃まで加温した。
F.上記Eの工程によって溶液が80℃に達温した後、イオン交換水を加えて重量調整した。
G.上記Fの工程を経た溶液に支持体を浸した後、支持体を引き上げ、次のいずれかの方法で乾燥を行い、ゼラチンフィルムを製造した。
G1:ゼラチン溶液の付着面を上向きにした支持体の各辺にドライヤーで5分間ずつ風をあて乾燥した後、さらに、室温で一晩乾燥した(ゲル化無)。
G2:支持体のゼラチン溶液の付着面をラップに押し付け、そのまま室温で一晩静置しゲル化した後、ラップを外して自然乾燥した(ゲル化有)。
【0033】
〔方法2〕
次のA~Gの工程により、ゼラチンフィルムを製造した。
A.ゼラチンをスターラー(500rpm)で攪拌しながらイオン交換水に分散させた。
B.上記Aの工程により得られたゼラチンの分散液を恒温槽で60℃まで加温した。
C.上記Bの工程において、60℃に達温した後、直ちにゼラチン溶液に、熱湯で溶解したヌクレオチド及び/又はアミノ酸を加えた。
D.上記Cの工程を経た溶液に、pH調整剤(氷酢酸)を加えpH4.0以下に調整した。
E.上記Dの工程を経た溶液にグリセリンを添加した。
F.上記Eの工程を経た溶液を恒温水槽(60℃)で15分間保持した後、イオン交換水を加えて重量調整した。
G.上記Fの工程を経た溶液に支持体を浸した後、支持体を引き上げ、次のいずれかの方法で乾燥を行い、ゼラチンフィルムを製造した。
G1:ゼラチン溶液の付着面を上向きにした支持体の各辺にドライヤーで5分間ずつ風をあて乾燥させた。これをさらに、室温で一晩乾燥させた。
G2:支持体のゼラチン溶液の付着面をラップに押し付け、そのまま4℃で30分間静置しゲル化させた後、支持体の各辺にドライヤーで5分間ずつ風をあて乾燥させた。これをさらに、室温で一晩乾燥させた。
【0034】
〔評価方法〕
各ゼラチンフィルムや比較品について、次の方法によってその性質を評価した。
1.厚み(平均)
マイクロメーター(Mitutoyo社製、MDC-25M)を用い、製造した各ゼラチンフィルムの3か所を任意に選択して測定し、その平均を厚みとした。
2.水分活性(Aw)
AquaLab Series 3 TE(Decagon Devices, Inc.)を用いて水分活性を調べた。
3.耐熱性
1cm×1cmの各ゼラチンフィルムや比較品を40℃のお湯の上に浮かべた後、完全に溶けてなくなるまでの時間を調べ、耐熱性を評価した。
4.加熱における溶解性
ラップの上に1cm×1cmの各ゼラチンフィルムや比較品をおいて水滴を垂らして30秒経過した後に、各ゼラチンフィルムや比較品上の余分な水を除き、これをレンジアップ(600W, 1分)し、加熱における溶解性を評価した。
5.耐水性
冷水(10℃以下)上に1cm×1cmの各ゼラチンフィルムや比較品をおいて溶解するまでの時間を調べ、耐水性を評価した。
【0035】
〔実施例1-1〕
〔ゼラチンフィルム1A~1F〕
ヌクレオチドとしてグアニル酸を用い、表1に示す配合で〔方法1〕によってゼラチンフィルムを製造した。比較品も同様に製造した。
なお、ゼラチンフィルム1C~1FについてはpH調整の段階でゲル化が始まったため、〔方法1〕のEの工程において、40℃で攪拌機(500rpm)を用いて5分間攪拌する工程を省き、80℃で攪拌機(500rpm)を用いて5分間攪拌した。
製造した各ゼラチンフィルム、比較品について、厚み、水分活性、耐熱性等の評価結果を表2に示した。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
表2に示されるように、ゼラチン3.0w/w%のみ用いてゼラチンフィルムの製造を試みたところ(比較品a)、ゲル化工程を経ない場合、支持体からゼラチンフィルムをはがすことができず、厚み、水分活性、耐熱性及び溶解性を測定することができなかった。ゲル化工程を経た場合、支持体からはがすことはできたが、耐熱性が低く、瞬時に溶解してしまい、ゼラチンフィルムとしての使用が困難であった。
一方、ゼラチン3.0w/w%にグアニル酸を組み合わせることによって(1A、1B)、耐熱性が向上し、溶解性のあるゼラチンフィルムが製造できることが確認できた。
また、ゼラチン6.9w/w%のみ用いた場合(比較品b)、ゲル化工程の有無にかかわらずゼラチンフィルムが製造できるが、耐熱性が低かった。これに対してゼラチン6.9w/w%とグアニル酸を組み合わせることによって耐熱性が向上し、溶解性のあるゼラチンフィルムが製造できることが確認できた(1C)。さらに、ゼラチンの由来原料やブルーム値等を問わず、耐熱性が高く、溶解性のあるゼラチンフィルム1C~1Fが製造できることも確認できた。
【0039】
〔実施例1-2〕
〔ゼラチンフィルム1G~1K〕
ヌクレオチドとしてグアニル酸を用い、表3に示す配合で〔方法2〕によってゼラチンフィルムを製造した。比較品も同様に製造した。
製造した各ゼラチンフィルム、比較品について、厚み、水分活性、耐熱性、溶解性等の評価結果を表4に示した。
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
表4に示されるように、ゼラチン20w/w%に対して、1~5w/w%のいずれの量のグアニル酸を組み合わせた場合でもゼラチンフィルムが得られるが、ゲル化を経ないで得られたゼラチンフィルムでは、グアニル酸を5w/w%添加した場合(1K)に、100秒以上の高い耐熱性を有するゼラチンフィルムが得られることが確認できた。
また、グアニル酸を3w/w%や4w/w%組み合わせ、ゲル化工程を経て得られたゼラチンフィルムは、グアニル酸を5w/w%組み合わせ、ゲル化工程を経ないで得られたゼラチンフィルムよりも、耐熱性が向上したものとなることが確認できた(1I、1J)。
【0043】
〔実施例1-3〕
〔ゼラチンフィルム1L~1Q〕
ヌクレオチドとしてグアニル酸及び/又はイノシン酸を用い、表5に示す配合で〔方法1〕によってゼラチンフィルムを製造した。比較品も同様に製造した。
製造した各ゼラチンフィルム、比較品について、厚み、水分活性、耐熱性等の評価結果を表6に示した。
また、各ゼラチンフィルムと、比較として市販のフィルム(比較品f、染み込み防止用セパレータ―:加工デンプン、ゼラチン、カラギナン等配合)をそれぞれコップに入れた冷水(9.6℃)上に浮かべ、溶解するまでの時間を測定することで各ゼラチンフィルムの耐水性を調べた。
【0044】
【表5】
【0045】
【表6】
【0046】
表6に示されるように、ゼラチン6.9w/w%に対して、イノシン酸を組み合わせた場合(1P)、ゼラチンのみからなるゼラチンフィルム(比較品d)と比べて耐熱性の高いゼラチンフィルムが得られることが確認できた。
また、グアニル酸とイノシン酸の量を調製することで、ゼラチンのみからなるゼラチンフィルム(比較品d)よりも耐熱性が高いが、グアニル酸のみを組み合わせたゼラチンフィルム(1M)よりも耐熱性の低い、使用目的に応じたゼラチンフィルム(1L、1N、1O、1Q)が調製できることも確認できた。
【0047】
さらに、図1に示されるように、市販のフィルム(比較品f)は冷水上に浮かべた後15分経過で完全に溶解するのに対して、ゼラチンフィルム1Lは60分以上経過しても溶解しないことが確認できた。溶解をさらに進めるために、冷水上に浮かべた後、30分経過した段階で、ゼラチンフィルム1Lの上に水滴を垂らしてみたが、60分以上経過しても溶解せず、高い耐水性を有することが確認できた。また、ゼラチンフィルム(1M~1Q)も、市販のフィルム(比較品f)と比べて長時間溶解せず保持することができた。
【0048】
〔実施例1-4〕
〔ゼラチンフィルム2A、2B〕
アミノ酸としてグルタミンを用い、表7に示す配合で〔方法2〕によってゼラチンフィルムを製造した。比較品も同様に製造した。
製造した各ゼラチンフィルム、比較品について、厚み、水分活性、耐熱性等の評価結果を表8に示した。
【0049】
【表7】
【0050】
【表8】
【0051】
表8に示すように、ゼラチン20w/w%に対してグルタミン4w/w%を組み合わせた場合、ゲル化工程を経ることで耐熱性の高いゼラチンフィルムが得られることが確認できた(2A)。これは、ゲル化工程を経ず、グルタミン5w/w%を組み合わせた場合(2B)よりも高い耐熱性であった。また、これらのゼラチンフィルムはいずれも加熱における溶解性を有するものであった。
【0052】
〔実施例1-5〕
〔ゼラチンフィルム3A~3G〕
ヌクレオチドとしてグアニル酸及び/又はイノシン酸、アミノ酸としてグルタミンを用い、表9に示す配合で〔方法2〕により、表10に示す配合で〔方法1〕によってゼラチンフィルムを製造した。各比較品も同様に製造した。
製造した各ゼラチンフィルム、比較品について、厚み、水分活性、耐熱性等の評価結果を表11に示した。
【0053】
【表9】
【0054】
【表10】
【0055】
【表11】
【0056】
表11に示されるように、ゼラチンとグアニル酸、イノシン酸を組み合わせた場合(3E)、ゼラチンとグルタミン、イノシン酸を組み合わせた場合(3F)、ゼラチンとグアニル酸、グルタミン及びイノシン酸を組み合わせた場合(3G)のいずれにおいても、ゼラチンのみを含むゼラチンフィルム(比較品d)と比べて高い耐熱性を有するゼラチンフィルムが得られることが確認できた。また、これらの耐熱性はゲル化工程を経ることにより、さらに高まることも示された。これらのゼラチンフィルムはいずれも溶解性を有するものであった。
この耐熱性及び溶解性の効果は、ゼラチンとグアニル酸、グルタミンを組み合わせた場合(3A)、ゼラチンとグアニル酸、イノシン酸を組み合わせた場合(3B)、ゼラチンとグルタミン、イノシン酸を組み合わせた場合(3C)及び、ゼラチンとグアニル酸、グルタミン及びイノシン酸を組み合わせた場合(3D)においても同様であった。
【0057】
〔実施例1-6〕
ゼラチンフィルムの機能評価
上記実施例1-1~1-5と同様の方法によって製造した表12に示す各ゼラチンフィルムについて、次の評価方法によって、本発明のゼラチンフィルムの機能を評価した。
比較としてゼラチンフィルム等をまったく使用しない場合(比較品e)、市販のフィルム(比較品f)を用いた場合についても検討した。
【0058】
〔評価方法〕
1.食材から分離した水分の染み込み防止機能
1)ろ紙(ADVANTEC社製、No.101)の上にフィルム(4.5cm×4.5cm)を置き、その上に円筒リング(直径3.9cm、内径3cm、高さ1cm)をセットした。各ゼラチンフィルムの中央の厚みをマイクロメーター(Mitutoyo社製、MDC-25M)を用いて測定した。
2)上記1)の円筒リングの中に食材(市販のカレーから具を除いたもの)を5g入れた後、10℃で1日間静置した。
3)静置後、食材から分離した水分のろ紙への染み込み状態を撮影し、目視にて評価した。
4)その後、食材を入れた円筒リングを40℃に移して静置し、一定時間後に再び染み込み状態を評価した。
【0059】
2.加熱における溶解性
1)上記1の4)の工程で三晩静置した後、食材を入れた円筒リングをそのままレンジアップ(600W, 30秒)し、加熱における溶解性を評価した。
2)上記2)で溶解しない場合は、食材の上にイオン交換水を霧吹きした後、さらにレンジアップ(600W, 1分)し、加熱における溶解性を評価した。
【0060】
【表12】
【0061】
〔評価結果〕
1.食材から分離した水分の染み込み防止機能
図2に示されるように、10℃で1日間静置した場合、ゼラチンフィルム等をまったく使用しない場合(比較品e)や市販のフィルムを用いた場合(比較品f)は食材から分離した水分のろ紙への染み込みが生じるのに対して本願発明のゼラチンフィルムを用いた場合はいずれも染み込みが抑制されることが確認できた。
従って、この結果より、スーパーやコンビニエンスストア等で冷蔵(10℃前後)にて陳列される弁当や総菜等の調理済みの食品の提供にあたり、本発明のゼラチンフィルムによって、保管の間に具から生じた水分等がご飯等の他の食品に染み込むのを防止し、調味済み食品の風味、食感や美味しそうな外観等を維持できることが示唆された。
【0062】
また、図3に示されるように、40℃で一定時間静置した場合、ゼラチンフィルム等をまったく使用しない場合(比較品e)や市販のフィルムを用いた場合(比較品f)は、30分間経過した段階で、食材から分離した水分のろ紙への染み込みが生じるのに対して、本願発明のゼラチンフィルムを用いた場合はいずれも染み込みが抑制されることが確認できた。
特にゼラチンフィルム1Mを用いた場合は、この効果が顕著であり、40℃で60分間静置した場合や、180分間静置した場合においても、食材から分離した水分のろ紙への染み込みがほとんど見られなかった。さらに40℃で一晩静置した場合や二晩静置した場合は若干の染み込みが見られるものの、ゼラチンフィルム等をまったく使用しない場合(比較品e)や市販のフィルムを用いた場合(比較品f)と比べて明らかに染み込みが抑制されることが確認できた。
従って、この結果より、冷蔵(10℃前後)にて陳列されている弁当や総菜等の調理済みの食品が購入され、きっ食されるまでに、夏場の常温状態(40℃前後)で一定時間保管された場合でも、本発明のゼラチンフィルムを用いることによって、保管の間に具から生じた水分等がご飯等の他の食品に染み込むのを防止し、調味済み食品の風味、食感や美味しそうな外観等を維持できることが示唆された。
【0063】
2.加熱における溶解性
三晩静置後、各ゼラチンフィルムの様子を確認したところ、図4に示されるように、市販のフィルムも本発明のゼラチンフィルムも食材を入れた円筒リングの下部に膜を張ったような状態で保持されていた。なお、ゼラチンフィルム1Mは一部が破れていた。
これをそのままレンジアップ(600W, 30秒)したところ、1Mの一部は溶解した。さらに、イオン交換水を霧吹きしてレンジアップ(600W, 1分)したところ、ゼラチンフィルム1Mは溶解したが、市販のフィルム(比較品f)は溶解せず、膜を張ったような状態で保持されていた。
従って、この結果より、本願発明のゼラチンフィルムは、保管後、加熱によって溶解するため、食材とともにきっ食することができ、食材から分離した水分の染み込み防止機能を有しながら、きっ食時にゴミや異物感が生じない物質として使用できることが確認できた。
なお、本発明のゼラチンフィルムは、ゼラチンと、ヌクレオチド及び/又はアミノ酸等の安全にきっ食できるものから構成されており、これらが加熱によって溶解し、調理済みの食品に付加された場合でも、食品の風味、食感や美味しそうな外観等が維持されており、美味しくきっ食することができた。
【0064】
〔実施例2〕
ゼラチン組成物の製造方法(2)
〔ゼラチンフィルム4A〕
ヌクレオチドとしてグアニル酸を用い、表13に示す配合で次の〔方法3〕によってゼラチンフィルムを製造した。比較品も同様に製造した。
製造したゼラチンフィルム、比較品について、実施例1と同様の評価方法によって厚み、水分活性、耐熱性を調べ、評価結果を表13に示した。
【0065】
〔方法3〕
次のA~Fの工程により、ゼラチンフィルムを製造した。
A.攪拌機(500rpm)で攪拌しながらイオン交換水にゼラチン、ヌクレオチド及び/又はアミノ酸を分散させた。
B.上記Aの工程により得られた分散液をそのまま攪拌しながら80℃の恒温槽で5分間保持し、溶解した。
C.上記Bの工程により得られた溶液にpH調整剤(クエン酸を熱湯で溶解したもの)を加えpH4.0以下に調整した。
D.上記Cの工程を経た溶液を80℃で攪拌機(500rpm)を用いて5分間攪拌した後、イオン交換水を加えて重量調整した。
E.上記Dの工程を経た溶液を容器に充填した後、10℃で一晩冷却してゲル化した。
F.上記Eの工程によって得られたゲルを容器から取り出して網の上に静置し、室温で自然乾燥させ、ゼラチンフィルムを得た。
【0066】
【表13】
【0067】
表13に示されるように、ゼラチン1.5w/w%に対して、グアニル酸を組み合わせた場合(4A)、ゼラチンのみからなるゼラチンフィルム(比較品g)と比べて水分活性が低く、耐熱性の高いゼラチンフィルムが得られることが確認できた。
また、ゼラチンのみからなるゼラチンフィルム(比較品g)は40℃のお湯の上に浮かべた場合、瞬時に溶けてなくなったのに対して、このゼラチンフィルム(厚み:0.105-0.120mm)は14分06秒もの長い間完全に溶解せず、高い耐熱性を有することが確認できた。さらに、容器への溶液の充填量を多くして製造したゼラチンフィルム(厚み:0.3-0.35mm)も1分42秒経過するまで完全に溶解せず、耐熱性を有することが確認できた。
【0068】
〔実施例3〕
ゼラチン組成物の製造方法(3)
〔ゼラチンゲル1A~1K〕
ヌクレオチドとしてグアニル酸を用い、表14、15に示す配合(w/w%)で次のA~Eの工程によってゼラチンゲル(pH3.80)を製造した。
製造したゼラチンゲルについて、次の評価方法によって、耐熱性、透明度、離水率を調べた。
【0069】
〔製造方法〕
A.攪拌機(500rpm)で攪拌しながらイオン交換水にゼラチン、ヌクレオチド及び/又はアミノ酸を分散させた。
B.上記Aの工程により得られた分散液をそのまま攪拌しながら80℃の恒温槽で5分間保持し、溶解した。
C.上記Bの工程により得られた溶液にpH調整剤(クエン酸を熱湯で溶解したもの)を加えpH7.0以下に調整した。
D.上記Cの工程を経た溶液を80℃で攪拌機(500rpm)を用いて5分間攪拌した後、イオン交換水を加えて重量調整した。
E.上記Dの工程を経た溶液を容器に充填した後、10℃で一晩冷却してゲル化し、ゼラチンゲルを得た。
【0070】
〔評価方法〕
1.耐熱性
遠沈管内(15mL)で製造した各ゼラチンゲル(10g)の表面に鉄球(直径10mm、4.0g)を乗せ、40℃、50℃、60℃又は70℃に加温し、鉄球が遠沈管の下まで落下する時間を測定し、耐熱性を評価した。
2.透明度
色差計を用いて、セル(縦50mm、横38mm、幅13mm)内に製造したゼラチンゲル(12~15g)の明度(L値)を測定した。
3.離水率
プリンカップ(容量:80ml、サイズ:上部直径64mm、下部直径45mm、高さ35mm)内で製造した各ゼラチンゲルに直径23mmの円形の金属製の筒(クッキー型)を刺し込んだ後、筒を引き抜くことでゲルの中心部を除去した。その後、24時間、10℃で保存し、発生した離水の量を測定した。製造時のゲル重量に対して、保存後に発生した離水量の割合を計算し、離水率(%)を求めた。
【0071】
【表14】
【0072】
【表15】
【0073】
表14、15に示されるように、得られたゼラチンゲルはいずれも40℃、50℃、60℃又は70℃で温められた場合でもすぐに溶解せず、耐熱性を有することが確認できた。さらに、60℃という高温で温められた場合でも60分以上という長時間においても溶解しない高い耐熱性を示すゼラチンゲル(1F、1K)も得られた。
透明度はゼラチンゲル1Aが55.14、1Bが47.8、1Cが38.03、1Hが41.03であり、ゼラチンとグアニル酸の配合を調製することで様々な透明度のゼラチンゲルが製造できることが確認できた。さらに、離水率がゼラチンゲル1A、1Bともに0%、1Hが1.02%と非常に低く、いずれのゼラチンゲルにおいても24時間、10℃で保存した場合でも離水が生じにくい安定したゼラチンゲルであることも確認できた。
なお、MCRレオメーターを用いてゼラチンゲル1Aのゲル化点を測定したところ59.8℃と高く、60℃に近い温度でも液体の状態を保っていた。その為、液体のまま噴霧、塗布、浸漬等により物質をコーティングし、ゲル状の被膜を作るコーティング剤等として使用できることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によって、従来のゼラチンを含む様々な製品等と比べて、新たな物性を有し、より幅広く活用し得るゼラチン組成物の提供が可能となった。
本発明のゼラチン組成物は使用目的に応じて物性を調整することができ、可食性、生分解性、耐熱性、レンジアップや湯煎等の加熱における溶解性、耐水性等を有し得る。さらに水分活性が低く、保存性が高いゼラチン組成物ともなり得る。このような本発明のゼラチン組成物は食品、医薬品、工業製品等の分野において幅広く活用し得る。
図1
図2
図3
図4