(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180359
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】潤滑油制御式点火エンジン燃焼
(51)【国際特許分類】
F02B 23/10 20060101AFI20221129BHJP
F02M 25/06 20160101ALI20221129BHJP
F02M 25/00 20060101ALI20221129BHJP
F02D 13/02 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
F02B23/10 320
F02B23/10 310G
F02M25/06
F02M25/00 S
F02D13/02 L
F02D13/02 J
F02D13/02 D
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022131649
(22)【出願日】2022-08-22
(62)【分割の表示】P 2020500828の分割
【原出願日】2018-07-18
(31)【優先権主張番号】62/534,096
(32)【優先日】2017-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】513159376
【氏名又は名称】プロメテウス アプライド テクノロジーズ,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ソティロポロ,マリア-エマニュエラ
(72)【発明者】
【氏名】トッツィ,ルイージ,ピー.
(57)【要約】 (修正有)
【課題】一貫した点火と効率的な燃焼開始が可能な潤滑油制御式点火(LOCI)エンジンを提供する。
【解決手段】第1に、潤滑油は、すでに任意の燃焼エンジンに不可欠であり、今後、二元燃料技術の場合のように、二次燃料を収容し、補助燃料システムに依存しなければならないといった必要はない。第2に、点火及び燃焼の開始は、潤滑油の制御式自動点火を利用して、火花点火技術で起こるような異常燃焼の発生を防止する。第3に、LOCI燃焼は、予混合火炎の進行を特徴とし、したがって、LOCI燃焼は、持続時間が制御可能であり、エンジン負荷-回転数領域が狭い予混合圧縮着火技術とは異なって、広いエンジン負荷-回転数領域をもたらす。適応吸気弁閉鎖は、シリンダ内圧縮温度を制御して、潤滑油噴霧の一貫した自動点火を実現する程度に十分に高くするために使用することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室を備える内燃機関であって、前記燃焼室は、
ライナ及びシリンダヘッドを含むシリンダと、
燃焼空間を形成するために、前記シリンダ内に移動可能に配置されたピストン頂面と、
前記燃焼空間内の予混合空気-燃料混合物と、
前記燃焼空間に存在する潤滑油の噴霧と、を備え、
前記予混合空気-燃料混合物は、前記燃焼空間に存在する前記潤滑油の噴霧が自動点火した結果として燃焼し、
前記シリンダヘッド及びライナの近くの流速は、10~20m/sであり、
前記シリンダヘッド及びライナの近くのラムダ値は、1.9よりも小さく、
前記シリンダヘッド及びライナの近くの前記空気-燃料混合物は、800Kよりも高い温度を有する、内燃機関。
【請求項2】
前記ピストン頂面はクラウンを備え、前記クラウンは、
前記シリンダの長手軸に実質的に垂直な中央スキッシュ部分と、
前記中央スキッシュ部分の半径方向外側に配置された傾斜外側部分と、を備え、
前記ピストンヘッドが動作することで、前記シリンダヘッド及びライナの近くの流動渦流速度が10~20m/sになる、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記シリンダヘッド及びライナの近くのラムダ値を1.9よりも小さくするために、前記シリンダの前記長手軸に実質的に平行な1つ又は複数の取込口をさらに含む、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記シリンダヘッド及びライナの近くの空気-燃料混合物温度を800Kよりも高くするために、所定のエンジン圧縮比及び吸気弁タイミングを有する、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記空気-燃料混合物温度は、潤滑油自動点火温度、燃料メタン価、エンジンオイル消費率、エンジン負荷、及びエンジン圧縮比の1つ又は複数に基づいて求められる、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項6】
少量の潤滑油が、一貫した自動点火及び効率的な燃焼開始を達成するために、前記燃焼空間に直接噴射される、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項7】
前記燃焼空間に直接噴射される潤滑油の前記量は、二元燃料エンジン点火システムの最新の技術によって、エンジン燃焼室に直接噴射される二次燃料の量の5%未満である、請求項6に記載の内燃機関。
【請求項8】
適応吸気弁閉鎖タイミング制御システムを含む内燃機関であって、吸気弁閉鎖タイミングは、潤滑油自動点火温度、燃料メタン価、エンジンオイル消費率、エンジン負荷、エンジン圧縮比、及びエンジン空気-燃料混合物の1つ又は複数に基づいて選択される、内燃機関。
【請求項9】
前記吸気弁閉鎖タイミングは、前記エンジン負荷に基づいて調整される、請求項8に記載の内燃機関。
【請求項10】
前記吸気弁閉鎖タイミングは、前記エンジン負荷が約50%の負荷よりも高い場合に進められ、前記エンジン負荷が約50%の負荷よりも低い場合に遅らされる、請求項8に記載の内燃機関。
【請求項11】
前記吸気弁閉鎖タイミングは、前記潤滑油自動点火温度が、約700Kよりも低い場合に進められ、前記潤滑油自動点火温度が、約700Kよりも高い場合に遅らされる、請求項8に記載の内燃機関。
【請求項12】
前記吸気弁閉鎖タイミングは、前記燃料メタン価が、約70よりも低い場合に進められ、前記燃料メタン価温度が、約70よりも高い場合に遅らされる、請求項8に記載の内燃機関。
【請求項13】
前記吸気弁閉鎖タイミングは、前記エンジンオイル消費率が、約0.2g/kW-hよりも高い場合に進められ、前記エンジンオイル消費率が、約0.2g/kW-hよりも低い場合に遅らされる、請求項8に記載の内燃機関。
【請求項14】
前記吸気弁閉鎖タイミングは、前記エンジン圧縮比が、約13よりも高い場合に進められ、前記エンジン圧縮比が、約13よりも低い場合に遅らされる、請求項8に記載の内燃機関。
【請求項15】
前記吸気弁閉鎖タイミングは、エンジン空気-燃料混合物が、約1.8ラムダよりも低い場合に進められ、前記エンジン空気-燃料混合物が、約1.8ラムダよりも高い場合に遅らされる、請求項8に記載の内燃機関。
【請求項16】
エンジン燃焼室と、
適応吸気弁閉鎖タイミング制御システムと、を備える内燃機関であって、前記適応吸気弁閉鎖タイミング制御システムは、
エンジンコントローラと、
吸気弁と、
前記エンジンコントローラに接続された吸気弁アクチュエータと、を備え、
前記エンジンコントローラは、潤滑油自動点火温度、燃料メタン価、エンジンオイル消費率、エンジン負荷、エンジン圧縮比、及びエンジン空気-燃料混合物の1つ又は複数の入力パラメータ値を受け取るように構成され、前記エンジン燃焼室に存在する潤滑油噴霧の一貫した自動点火を引き起こすように、前記吸気弁の開閉を制御して、前記空気-燃料混合物の圧縮温度を制御するために、フィードバック信号を前記吸気弁アクチュエータに供給するように構成される、内燃機関。
【請求項17】
前記エンジン燃焼室に存在する前記潤滑油噴霧の一貫した自動点火は、ピストン位置に対して選択されたタイミングで行われて、エンジン効率を最大にし、排気物質を最小限にする、請求項16に記載の内燃機関。
【請求項18】
前記吸気弁アクチュエータは、前記エンジンコントローラによって制御される電気機械弁アクチュエータである、請求項16に記載の内燃機関。
【請求項19】
前記吸気弁アクチュエータは、潤滑油自動点火温度、燃料メタン価、エンジンオイル消費率、エンジン負荷、エンジン圧縮比、及びエンジン空気-燃料混合物の1つ又は複数に基づいて制御される、請求項16に記載の内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
I.関連出願の相互参照
本願は、「潤滑油制御式点火エンジン燃焼」と題し、2017年7月18日に出願された米国特許出願第62/534,096号の優先権を主張するものである。当該特許出願の全体は、参照により、本開示と一貫性のある範囲で本明細書に援用される。
【0002】
II.発明の分野
本開示は、概略的には、潤滑油制御式点火エンジン燃焼のためのシステム及び方法に関し、より詳細には、エンジンでの点火及び燃焼の開始を潤滑油を用いて制御し、それにより、火花点火又は二元燃料点火技術を使用する高出力密度エンジンに特有の異常燃焼の発生を防止する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0003】
III.発明の背景
以下の参照文献は、自動点火に関する問題について記載しており、参照により、本開示と一貫性のある範囲で本明細書に援用される。
1.Walker R. N., et al: Comparison of Diesel Pilot Ignition (DPI) and Reactivity Controlled Compression Ignition (RCCI) in a Heavy-Duty Engine. Proceedings of the ASME, 2015 Internal Combustion Engine Division Fall Technical Conference ICEF2015, November 8-11, 2015, Houston, TX, USA ICEF2015-1128.
2.Yasueda S., et al.: The abnormal combustion affected by lubricating oil ignition in premixed gas engine. Proceedings of the ASME Internal Combustion Engine Division Spring Technical Conference, 2012, ICES2012-81042.
3.Yasueda S., et al.: Predicting Autoignition caused by Lubricating Oil in Gas Engines. CIMAC Congress 2013, Shanghai, Paper No. 37.
4.Zhu S., et al.: A Method for Developing Countermeasures for Lubricating Oil Preignition in Natural Gas Engines. Proceedings of the 9th Dessau Gas Engine Conference, 2015.
5.Dahnz C., et al.: Irregular combustion in supercharged spark ignition engines - pre-ignition and other phenomena. International Journal of Engine Research 2010, 11:485, DOI 10.1243/14680874JER609.
6.Tozzi L.らによる「リーンバーン予燃焼室(Lean-Burn Pre-Combustion Chamber)」、米国、日本、欧州、及びカナダで2017年2月6日に出願された米国特許出願第62/292,301号。
7.Singh, S., et al.: “Development of a flame propagation model for dual-fuel partially premixed compression ignition engines”. Internal Journal of Engine Research, 7(1), pp. 75-75.
8.Hiltner, J., et al.: “Homogeneous charge compression ignition with natural gas: Fuel composition implications”. SAE Technical Paper 2002-01-0417.
9.Tinschmann G., et al.: Large Gas Engines - 75mg/Nm3 @ 15% 02 NOx-Engine-Internal Measures or Exhaust Aftertreatment? CIMAC Congress 2013, Shanghai, Paper No. 296.
10.Liu, J., et al.: “Effect of pilot fuel quantity on the emission characteristics of a CNG/Diesel dualfuel engine with optimized pilot injection timing”, Applied Energy, 110, pp. 201-206.
【発明の概要】
【0004】
燃焼を開始するために、点火プラグ又はマイクロパイロットオイルインジェクタを使用する、最新の天然ガスエンジンなどの高出力密度内燃機関では、上記の参照文献2、3、5にさらに詳細に説明されているように、高いレベルの出力密度の達成を妨げる無制御式エンジン潤滑油自動点火により、燃焼が異常になることがある。
【0005】
予混合燃焼エンジンで燃焼を開始するのに使用される公知の技術には以下:
・上記の参照文献(9)に記載されている火花点火(SI)と、
・上記の参照文献(10)に記載されているマイクロパイロット着火(MPI)と、
・上記の参照文献(8)に記載されている予混合圧縮着火(HCCI)と、
・上記の参照文献(1)に記載されている反応性制御式圧縮着火(Reactivity Controlled Compression Ignition(RCCI))と、
・上記の参照文献(7)に記載されている部分予混合圧縮着火(PPCI)と、が含まれる。
【0006】
上記に列挙した技術に関して、SI、MPI、RCCI、及びPPCIは、上記の参照文献2、3、4、5及び6に記載されているように、異常燃焼を引き起こす潤滑油自動点火から悪影響を受けやすい。さらに、MPI、RCCI、及びPPCI(二元燃料技術)は、燃焼室への二次燃料の噴射を必要とし、これは、コスト及び複雑性を大幅に増大させ、これらの技術をあまり望ましくないものにする。他方で、HCCIを用いた動作は、狭いエンジン負荷-回転数領域に制限され、これは、HCCIを一般に実用的でないものにする。
【0007】
当技術分野における前述の欠陥に対処する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
IV.図面の簡単な説明
【
図1】特定の実施形態によるエンジン燃焼室を示している。
【
図2】特定の実施形態による潤滑油制御式点火で燃焼を行うための低サイクル及び高サイクル線図を含む複数の燃焼圧線図を示している。
【
図3】特定の実施形態による直線状又は非渦流取込口を有するエンジン燃焼室を示している。
【
図4】特定の実施形態による適応吸気弁制御タイミングシステムを示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
V.詳細な説明
対照的に、潤滑油制御式点火(LOCI)エンジン燃焼は、特定の実施形態の少なくとも以下の利点を得るために、上記の発明の背景セクションで説明した公知の技術の欠点を解決する。第1に、潤滑油は、すでに任意の燃焼エンジンに不可欠であり、今後、上記のすべての二元燃料技術の場合のように、二次燃料を収容し、補助燃料システムに依存しなければならないといった必要はない。第2に、点火及び燃焼の開始は、潤滑油の制御式自動点火を利用して、SI技術で起こるような異常燃焼の発生を防止する。第3に、LOCI燃焼は、予混合火炎の進行を特徴とし、したがって、LOCI燃焼は、持続時間を制御可能であり、エンジン負荷-回転数領域が狭いHCCI技術とは異なって、広いエンジン負荷-回転数領域をもたらす。
【0010】
図1に示し、下記にさらに詳細に説明するように、少量のエンジン潤滑油が燃焼室に直接噴射される実施形態は、二次燃料化学物質の必要性をなくすという利点と、公知の二元燃料法(RCCI、PPCI、及びMPI)で使用される二次燃料の量の数分の一しか必要としない潤滑油の化学反応性を使用するという利益とを有して、一貫した点火と効率的な燃焼開始とを達成する。
【0011】
特定の実施形態では、ライナ及びシリンダヘッドを含むシリンダと、燃焼空間を形成するために、シリンダ内に移動可能に配置されたピストン頂面と、燃焼空間内の予混合空気-燃料混合物と、燃焼空間に存在する潤滑油の噴霧とを含む燃焼室と、を含み、予混合空気-燃料混合物は、燃焼空間に存在する潤滑油の噴霧が自動点火した結果として燃焼し、シリンダヘッド及びライナの近くの流速は、10~20m/sであり、シリンダヘッド及びライナの近くのラムダ値は、1.9よりも小さく、シリンダヘッド及びライナの近くの空気-燃料混合物は、800Kよりも高い温度を有する内燃機関が開示される。ピストン頂面は、シリンダの長手軸に実質的に直角な中央スキッシュ部分と、中央スキッシュ部分の半径方向外側に配置された傾斜外側部分とを含むクラウンを含むことができ、ピストンヘッドが動作することで、シリンダヘッド及びライナの近くの流動渦流速度が、10~20m/sになる。内燃機関は、シリンダヘッド及びライナの近くのラムダ値を1.9よりも小さくするために、シリンダの長手軸に実質的に平行な1つ又は複数の取込口をさらに含むことができる。内燃機関は、シリンダヘッド及びライナの近くの空気-燃料混合物温度を800Kよりも高くするために、所定のエンジン圧縮比及び吸気弁タイミングを有することができる。空気-燃料混合物温度は、潤滑油自動点火温度、燃料メタン価、エンジンオイル消費率、エンジン負荷、及びエンジン圧縮比の1つ又は複数に基づいて求めることができる。一貫した自動点火及び効率的な燃焼開始を達成するために、少量の潤滑油を燃焼空間に直接噴射することができる。燃焼空間に直接噴射される潤滑油の量は、二元燃料エンジン点火システムの最新の技術によって、エンジン燃焼室に直接噴射される二次燃料の量の5%未満とすることができる。
【0012】
特定の実施形態では、適応吸気弁閉鎖タイミング制御システムを含む内燃機関が開示され、吸気弁閉鎖タイミングは、潤滑油自動点火温度、燃料メタン価、エンジンオイル消費率、エンジン負荷、エンジン圧縮比、及びエンジン空気-燃料混合物の1つ又は複数に基づいて選択される。吸気弁閉鎖タイミングは、エンジン負荷に基づいて調整することができる。吸気弁閉鎖タイミングは、エンジン負荷が約50%よりも高い場合に進めることができ、エンジン負荷が約50%よりも低い場合に遅らせることができる。吸気弁閉鎖タイミングは、潤滑油自動点火温度が、約700Kよりも低い場合に進めることができ、潤滑油自動点火温度が、約700Kよりも高い場合に遅らせることができる。吸気弁閉鎖タイミングは、燃料メタン価が、約70よりも低い場合に進めることができ、燃料メタン価温度が、約70よりも高い場合に遅らせることができる。吸気弁閉鎖タイミングは、エンジンオイル消費率が、約0.2g/kW-hrよりも高い場合に進めることができ、エンジンオイル消費率が、約0.2g/kW-hrよりも低い場合に遅らせることができる。吸気弁閉鎖タイミングは、エンジン圧縮比が約13よりも高い場合に進めることができ、エンジン圧縮比が約13よりも低い場合に遅らせることができる。吸気弁閉鎖タイミングは、エンジン空気-燃料混合物が、約1.8ラムダよりも低い場合に進めることができ、エンジン空気-燃料混合物が、約1.8ラムダよりも高い場合に遅らせることができる。
【0013】
特定の実施形態では、エンジン燃焼室及び適応吸気弁閉鎖タイミング制御システムを含み、適応吸気弁閉鎖タイミング制御システムは、エンジンコントローラと、吸気弁と、エンジンコントローラに接続された吸気弁アクチュエータとを含む内燃機関が開示され、エンジンコントローラは、潤滑油自動点火温度、燃料メタン価、エンジンオイル消費率、エンジン負荷、エンジン圧縮比、及びエンジン空気-燃料混合物の入力パラメータ値を受け取るように構成され、エンジン燃焼室に存在する潤滑油噴霧の一貫した自動点火を引き起こすように、吸気弁の開閉を制御して、空気-燃料混合物の圧縮温度を制御するために、フィードバック信号を吸気弁アクチュエータに供給するように構成される。エンジン燃焼室に存在する潤滑油噴霧の一貫した自動点火は、ピストン位置に対して選択されたタイミングで行われて、エンジン効率を最大にし、排気物質を最小限にすることができる。吸気弁アクチュエータは、エンジンコントローラによって制御される電気機械弁アクチュエータとすることができる。吸気弁アクチュエータは、潤滑油自動点火温度、燃料メタン価、エンジンオイル消費率、エンジン負荷、エンジン圧縮比、及びエンジン空気-燃料混合物の1つ又は複数に基づいて制御することができる。
【0014】
燃焼を開始するために、点火プラグ又はマイクロパイロットオイルインジェクタを使用する、最新の天然ガスエンジンなどの高出力密度内燃機関では、高いレベルの出力密度の達成を妨げる無制御式のエンジン潤滑油自動点火により、燃焼が異常になることがある。
【0015】
特定の実施形態において、
図1は、エンジン潤滑油がエンジン燃焼室に入ることができ、そのエンジン燃焼室で、流れの動的力によって、エンジン潤滑油を微細な噴霧に細分化することができる機構を示している。
図1に示すように、潤滑油120は、弁ガイド110と吸気弁130との間から出て、取込口140に入り、取込口140から燃焼室150に入ることができる。それに代えて、又はそれに加えて、潤滑油160は、リングパック170から出て、燃焼室150に入ることができる。それに代えて、又はそれに加えて、潤滑油は、マイクロパイロットオイルインジェクタ(又は点火プラグ)180を通じて、燃焼室に直接噴射することができる。前述の供給源のいずれかからの潤滑油は、潤滑油噴霧190を形成することができる。
【0016】
特定の実施形態では、エンジンでの点火及び燃焼の開始を、潤滑油を用いて制御し、それにより、火花点火又は二元燃料点火技術(例えば、マイクロパイロット着火)を使用する高出力密度エンジンに特有の異常燃焼の発生を防止する方法及び装置が開示される。
【0017】
特定の実施形態では、エンジンの燃焼室の中にすでに存在する潤滑油噴霧は、エンジンシリンダ内に存在する燃料空気混合物の信頼でき、効率的な燃焼を推進する点火源として使用することができる。
【0018】
図2は、様々な状況に対する様々な燃焼圧線図を示している。示すように、火花点火又はマイクロパイロット着火を用いた異常燃焼220及び深刻な異常燃焼210の場合に、シリンダ燃焼ピーク圧は、通常の平均的な燃焼圧230よりも大幅に高いことがあり、これは、エンジン障害の原因になり得る。対照的に、潤滑油制御式点火を用いた燃焼の場合、異常な燃焼サイクルはなく、絶対低サイクル240と絶対高サイクル250との間の変動範囲はきわめて狭く、優れた燃焼安定性を示している。
【0019】
特定の実施形態では、エンジンシリンダ内空気-燃料混合物温度、ラムダ、及び流速を使用して、エンジン燃焼室に存在する潤滑油噴霧の自動点火を正確に制御することができる。
【0020】
図3に示す特定の実施形態では、ピストン頂面を含むことができ、ピストン頂面は、シリンダの長手軸に実質的に直角とすることができる中央スキッシュ部分310と、所望の流速の渦流330を得るために使用できる、中央スキッシュ部分の半径方向外側に配置された傾斜外側面320とを有するクラウンを含む。所望のラムダを得るために使用することができる直線状又は非渦流取込口140の例も
図3に示されている。
【0021】
特定の実施形態では、エンジン吸気弁閉鎖(IVC)タイミングは、エンジンシリンダ空気-燃料混合物圧縮温度を制御するのに使用することができ、以下の主パラメータに対して選択することができる。
a.潤滑油自動点火温度
b.燃料メタン価(MN)
c.エンジンオイル消費率
d.エンジン負荷
e.エンジン回転数
f.エンジン幾何学的圧縮比(CR)
g.空気-燃料混合比(AFR)
【0022】
特定の実施形態では、適応吸気弁閉鎖(IVC)は、ピストン位置が、効率的な燃焼事象をもたらすためにより好都合な場合に、シリンダ内圧縮温度を制御して、その時点で潤滑油噴霧の一貫した自動点火を実現する程度に十分に高くするために使用することができる。
【0023】
特定の実施形態では、IVCタイミングと特定のエンジンパラメータとの間の以下の関係を使用して、安定した燃焼開始(SOC)を維持することができる。
【0024】
以下のパラメータは、潤滑油噴霧の一貫した自動点火を実現するために、早期のIVCを必要とする。
i.約700Kよりも低い自動点火温度を有する潤滑油
ii.約70よりも低いMNを有する低MN燃料
iii.約0.2g/kW-hよりも高いオイル消費率を有するエンジン
iv.約50%負荷よりも高いエンジン負荷状態
v.約13よりも高いCRを有するエンジン
vi.約1.8ラムダよりも低いAFRを有する空気-燃料混合物
【0025】
以下のパラメータは、潤滑油噴霧の一貫した自動点火を実現するために、遅いIVCを必要とする。
vii.約700Kよりも高い自動点火温度を有する潤滑油
viii.約70よりも高いMNを有する低MN燃料
ix.約0.2g/kW-hよりも低いオイル消費率を有するエンジン
x.約50%負荷よりも低いエンジン負荷状態
xi.約13よりも低いCRを有するエンジン
xii.約1.8ラムダよりも高いAFRを有する空気-燃料混合物
【0026】
適応IVCタイミングは、基本IVCタイミングが以下に対して設定される場合に使用することができる。
a.潤滑油自動点火温度
b.燃料MN
c.エンジンオイル消費率
d.エンジン負荷
e.エンジンCR
f.エンジンAFR
【0027】
特定の実施形態では、適応IVCタイミングは、基本IVCタイミングが、潤滑油自動点火温度に対して調整される場合に使用することができるので、早期のIVCは、約700Kよりも低い潤滑油自動点火温度に使用することができ、遅いIVCは、約700Kよりも高い潤滑油自動点火温度に使用することができる。
【0028】
特定の実施形態では、適応IVCタイミングは、基本IVCタイミングが、燃料MNに対して調整される場合に使用することができるので、早期のIVCは、約70よりも低い燃料MNに使用することができ、遅いIVCは、約70よりも高い燃料MNに使用することができる。
【0029】
特定の実施形態では、適応IVCタイミングは、基本IVCタイミングが、エンジンオイル消費率に対して調整される場合に使用することができるので、遅いIVCは、約0.2g/kW-hよりも低いエンジンオイル消費に使用することができ、早期のIVCは、約0.2g/kW-hよりも高いエンジンオイル消費に使用することができる。
【0030】
特定の実施形態では、適応IVCタイミングは、基本IVCタイミングが、エンジン負荷に対して調整される場合に使用することができるので、遅いIVCは、約50%の負荷よりも低いエンジン負荷に使用することができ、早期のIVCは、約50%の負荷よりも高いエンジン負荷に使用することができる。
【0031】
特定の実施形態では、適応IVCタイミングは、基本IVCタイミングが、エンジンCRに対して調整される場合に使用することができるので、遅いIVCは、約13よりも低いエンジンCRに使用することができ、早期のIVCは、約13よりも高いエンジンCRに使用することができる。
【0032】
特定の実施形態では、適応IVCタイミングは、基本IVCタイミングが、エンジンAFRに対して調整される場合に使用することができるので、早期のIVCは、約1.8のラムダよりも低いエンジンAFRに使用することができ、遅いIVCは、約1.8のラムダよりも高いエンジンAFRに使用することができる。
【0033】
特定の実施形態において、
図4は、吸気弁410が、エンジンコントローラ430によって制御される電気機械アクチュエータ420により動作できる場合の適応IVCタイミング制御400を示している。タイミングは、(1)燃料MN、エンジンオイル消費率、エンジンAFR、及びエンジン負荷に対するフィードバック信号440、並びに/又は(2)特定の潤滑油自動点火温度及びエンジン圧縮比に対して選択された値に基づくことができる。
【0034】
適応IVCタイミング制御システムを必要としない実施形態では、方法及びシステムは、
図1に示すように、マイクロパイロットオイルインジェクタ180を用いて、少量のエンジン潤滑油を燃焼室に直接噴射することを含むことができ、それにより、選択された量の潤滑油を自動点火に供給して、効率的で一貫した燃焼開始を達成することができる。
【0035】
特定の実施形態では、シリンダヘッド及びライナの近くの10~20m/sの範囲の流速を使用して、一貫した潤滑油滴噴霧を達成することができる。特定の実施形態では、シリンダヘッド及びライナの近くの1.9よりも小さいラムダ値を使用して、一貫した火炎伝播を達成することができる。特定の実施形態では、シリンダヘッド及びライナの近くの800Kを超えるシリンダ内空気-燃料混合物温度を使用して、潤滑油の一貫した自動点火を達成することができる。特定の実施形態は、適応IVCタイミング制御システムを含むことができ、一方、他の実施形態は、少量のエンジン潤滑油の燃焼室への直接噴射を利用することができる。
【0036】
本発明が特定の実施形態に関連して説明されたが、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができ、等価物を代用することができると当業者には分かるであろう。さらに、特定の状況、材料、組成物、方法、作業、又は複数の作業を本発明の目的、趣旨、及び範囲に適合させて多くの修正を行うことができる。すべてのそのような修正は、本明細書に添付された特許請求の範囲内であるものとされる。特に、本明細書に開示した方法は、特定の順序で行われる特定の作業に関連して説明されたが、これらの作業は、本発明の教示から逸脱することなく等価の方法を形成するために、組み合わせる、又は細分化する、又は順序を変えることができる。したがって、本明細書で特に指定されない限り、作業の順序及びグループ分けは、本発明を限定するものではない。
【手続補正書】
【提出日】2022-09-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
適応吸気弁閉鎖タイミング制御システムを含む内燃機関であって、エンジン燃焼室に存在する潤滑油噴霧の一貫した自動点火を引き起こすように、吸気弁閉鎖タイミングは、潤滑油自動点火温度、燃料メタン価、エンジンオイル消費率、エンジン圧縮比、及び空気-燃料混合物の1つ又は複数に基づいて選択される、内燃機関。
【請求項2】
前記吸気弁閉鎖タイミングは、前記潤滑油自動点火温度が、約700Kよりも低い場合に進められ、前記潤滑油自動点火温度が、約700Kよりも高い場合に遅らされる、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記吸気弁閉鎖タイミングは、前記燃料メタン価が、約70よりも低い場合に進められ、前記燃料メタン価が、約70よりも高い場合に遅らされる、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記吸気弁閉鎖タイミングは、前記エンジンオイル消費率が、約0.2g/kW-hよりも高い場合に進められ、前記エンジンオイル消費率が、約0.2g/kW-hよりも低い場合に遅らされる、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記吸気弁閉鎖タイミングは、前記エンジン圧縮比が、約13よりも高い場合に進められ、前記エンジン圧縮比が、約13よりも低い場合に遅らされる、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項6】
前記吸気弁閉鎖タイミングは、エンジン空気-燃料混合物が、約1.8ラムダよりも低い場合に進められ、前記エンジン空気-燃料混合物が、約1.8ラムダよりも高い場合に遅らされる、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項7】
エンジン燃焼室と、
適応吸気弁閉鎖タイミング制御システムと、を備える内燃機関であって、前記適応吸気弁閉鎖タイミング制御システムは、
エンジンコントローラと、
吸気弁と、
前記エンジンコントローラに接続された吸気弁アクチュエータと、を備え、
前記エンジンコントローラは、潤滑油自動点火温度、燃料メタン価、エンジンオイル消費率、エンジン圧縮比、及びエンジン空気-燃料混合物の1つ又は複数の入力パラメータ値を受け取るように構成され、前記エンジン燃焼室に存在する潤滑油噴霧の一貫した自動点火を引き起こすように、前記吸気弁の開閉を制御して、前記空気-燃料混合物の圧縮温度を制御するために、フィードバック信号を前記吸気弁アクチュエータに供給するように構成される、内燃機関。
【請求項8】
前記エンジン燃焼室に存在する前記潤滑油噴霧の一貫した自動点火は、ピストン位置に対して選択されたタイミングで行われて、エンジン効率を最大にし、排気物質を最小限にする、請求項7に記載の内燃機関。
【請求項9】
前記吸気弁アクチュエータは、前記エンジンコントローラによって制御される電気機械弁アクチュエータである、請求項7に記載の内燃機関。
【請求項10】
前記吸気弁アクチュエータは、潤滑油自動点火温度、燃料メタン価、エンジンオイル消費率、エンジン負荷、エンジン圧縮比、及びエンジン空気-燃料混合物の1つ又は複数に基づいて制御される、請求項7に記載の内燃機関。
【外国語明細書】