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特開2022-1803766員環環状サルフェートを含有する電解質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180376
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】6員環環状サルフェートを含有する電解質
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20221129BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20221129BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20221129BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20221129BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20221129BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20221129BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20221129BHJP
   C07F 5/04 20060101ALN20221129BHJP
   C07D 327/10 20060101ALN20221129BHJP
   C07D 317/42 20060101ALN20221129BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M10/052
H01M4/131
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/58
C07F5/04 C
C07D327/10
C07D317/42
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022134615
(22)【出願日】2022-08-26
(62)【分割の表示】P 2019514230の分割
【原出願日】2017-09-12
(31)【優先権主張番号】62/394,284
(32)【優先日】2016-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】591001248
【氏名又は名称】ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】バークハート, スティーヴン
(72)【発明者】
【氏名】カータキス, コスタンティノス
(72)【発明者】
【氏名】リーヴァイ-ポリス, ブライアン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高温サイクル条件下での電池性能が改善され、電解質の室温保存性および安定性が改善された電解質溶媒配合物を提供する。
【解決手段】フルオロエチレンカーボネートなどの環状カーボネートを含む少なくとも1つの電解質成分と、1,3プロピレンサルフェートなどの6員環ヘテロ環状サルフェートを含む少なくとも1つの添加剤と、を含む電解質組成物が開示される。開示した電解質組成物は、フッ素化非環状カルボン酸エステルなどのさらなる電解質成分と、リチウムホウ素化合物などのさらなる添加剤と、マレイン酸無水物などの環状カルボン酸無水物と、を含むことができる。これらの電解質組成物は、リチウムイオン電池などの電気化学セルにおいて有用になる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状カーボネートを含む少なくとも1つの電解質成分と、
式(I):
(式中、n=1であり、R15~R18は、各々独立して、水素またはビニル、アリル、アセチレン、プロパルギル、またはC~Cアルキル基を表し、ここで、前記ビニル、アリル、アセチレン、プロパルギル、またはC~Cアルキル基は、各々非置換であってもよく、または部分的にもしくは完全にフッ素化されていてもよい)で表される6員環ヘテロ環状サルフェートを含む少なくとも1つの添加剤と、
少なくとも1つの電解質塩と、
を含む電解質組成物。
【請求項2】
前記6員環ヘテロ環状サルフェートが、1,3プロピレンサルフェートを含む、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項3】
前記環状カーボネートが、少なくとも1つのエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、エチルプロピルビニレンカーボネート、フッ素化カーボネート、またはこれらの混合物を含む、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項4】
前記フッ素化カーボネートが、4-フルオロエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ジフルオロ-4-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ジフルオロ-4,5-ジメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5-トリフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、またはこれらの混合物から選択される、請求項3に記載の電解質組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1つの電解質成分が、フッ素化非環状カルボン酸エステルをさらに含む、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項6】
前記フッ素化非環状カルボン酸エステルが、式:
-COO-R
(式中、
i)Rは、H、アルキル基、またはフルオロアルキル基であり;
ii)Rは、アルキル基またはフルオロアルキル基であり;
iv)RおよびRのいずれかまたは両方はフッ素を含み;
v)RおよびRは、一組とみなして少なくとも2個以上7個以下の炭素原子を含む)
で表される、請求項5に記載の電解質組成物。
【請求項7】
およびRが、少なくとも2個のフッ素原子をさらに含むが、RとRのいずれもFCH-基またはFCH-基を含まないことを条件とする、請求項6に記載の電解質組成物。
【請求項8】
前記フッ素化非環状カルボン酸エステルが、CH-COO-CHCFH、CHCH-COO-CHCFH、FCHCH-COO-CH、FCHCH-COO-CHCH、CH-COO-CHCHCFH、CHCH-COO-CHCHCFH、FCHCHCH-COO-CHCH、CH-COO-CHCF3、CHCH-COO-CHCFH、CH-COO-CHCF、H-COO-CHCFH、H-COO-CHCF、またはこれらの混合物を含む、請求項6に記載の電解質組成物。
【請求項9】
前記フッ素化非環状カルボン酸エステルがCH-COO-CHCFHを含む、請求項8に記載の電解質組成物。
【請求項10】
非フッ素化非環状カーボネートをさらに含む、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項11】
前記非フッ素化非環状カーボネートが、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、またはこれらの混合物を含む、請求項10に記載の電解質組成物。
【請求項12】
前記少なくとも1つの電解質成分が、フッ素化非環状カーボネートをさらに含む、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項13】
前記フッ素化非環状カーボネートが、式:
-OCOO-R
(式中、
i)Rはフルオロアルキル基であり;
ii)Rは、アルキル基またはフルオロアルキル基であり;
iii)RおよびRは、一組とみなして少なくとも2個以上7個以下の炭素原子を含む)
で表される、請求項12に記載の電解質組成物。
【請求項14】
およびRが、少なくとも2個のフッ素原子をさらに含むが、RとRのいずれもFCH-基または-FCH-基を含まないことを条件とする、請求項13に記載の電解質組成物。
【請求項15】
前記フッ素化非環状カーボネートが、CH-OC(O)O-CHCFH、CH-OC(O)O-CHCF、CH-OC(O)O-CHCFCFH、HCFCH-OCOO-CHCH、CFCH-OCOO-CHCH、またはこれらの混合物を含む、請求項13に記載の電解質組成物。
【請求項16】
前記フッ素化非環状カーボネートが、CH-OC(O)O-CHCFHを含む、請求項15に記載の電解質組成物。
【請求項17】
前記少なくとも1つの電解質成分が、フッ素化非環状エーテルをさらに含む、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項18】
前記フッ素化非環状エーテルが、式:
-O-R
(式中、
i)Rはフルオロアルキル基であり;
ii)Rは、アルキル基またはフルオロアルキル基であり;
iii)RおよびRは、一組とみなして少なくとも2個以上7個以下の炭素原子を含む)
で表される、請求項17に記載の電解質組成物。
【請求項19】
およびRが、少なくとも2個のフッ素原子をさらに含むが、RとRのいずれもFCH-基または-FCH-基を含まないことを条件とする、請求項18に記載の電解質組成物。
【請求項20】
リチウムホウ素化合物、環状スルトン、環状サルフェート、環状カルボン酸無水物、またはこれらの組み合わせから選択される添加剤をさらに含む、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項21】
前記環状カルボン酸無水物がマレイン酸無水物を含む、請求項20に記載の電解質組成物。
【請求項22】
前記リチウムホウ素化合物が、リチウムテトラフルオロボレート、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート、Li1212-x(式中、xは、0~8である)、リチウムフルオリドとアニオン受容体であるB(OCとの混合物、またはこれらの混合物から選択される、請求項20に記載の電解質組成物。
【請求項23】
前記ヘテロ環状サルフェートが、1,3-プロピレンサルフェートであり、n=1であり、かつ、R15、R16、R17、およびR18の各々がHである、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項24】
前記6員環ヘテロ環状サルフェートを含む前記少なくとも1つの添加剤が、(1)高温サイクル条件下の電池性能、および(2)室温安定性から選択される前記電解質の少なくとも1つの性能を改善するのに十分な量で存在する、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項25】
前記十分な量が、前記全電解質組成物の、0.1重量%~約12重量%の範囲である、請求項24に記載の電解質組成物。
【請求項26】
前記電解質組成物が、25℃で少なくとも200時間エージングさせた後、NMRにより測定した場合に、前記全電解質配合物に対して0.01モル%を超えるFECの酸素化生成物(4-ヒドロキシ-1,3-ジオキソラン-2-オン)を示さない、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項27】
前記電解質組成物が、25℃で200~840時間の範囲でエージングさせた後、NMRにより測定した場合に、前記全電解質配合物に対して0.01モル%を超えるFECの酸素化生成物を示さない、請求項26に記載の電解質組成物。
【請求項28】
(a)ハウジングと、
(b)前記ハウジング中に配置され、かつ互いにイオン伝導的接触しているアノードおよびカソードと、
(c)電解質組成物であって、
環状カーボネートを含む少なくとも1つの電解質成分と、
式(I):
(式中、n=1であり、R15~R18は、各々独立して、水素またはビニル、アリル、アセチレン、プロパルギル、またはC~Cアルキル基を表し、ここで、前記ビニル、アリル、アセチレン、プロパルギル、またはC~Cアルキル基は、各々非置換であってもよく、または部分的にもしくは完全にフッ素化されていてもよい)で表される6員環ヘテロ環状サルフェートを含む少なくとも1つの添加剤と、
少なくとも1つの電解質塩、
を含み、
前記ハウジング中に配置され、かつ前記アノードと前記カソードとの間にイオン伝導的経路を提供する、前記電解質組成物と、
(d)前記アノードと前記カソードとの間の多孔質セパレータと、
を備える電気化学セル。
【請求項29】
前記電気化学セルがリチウムイオン電池である、請求項28に記載の電気化学セル。
【請求項30】
前記カソードが、Li/Li参照電極に対して4.6Vを超える電位範囲において30mAh/g超の容量を示すカソード活物質、またはLi/Li参照電極に対して4.35V以上の電位まで充電されるカソード活物質を含む、請求項28に記載の電気化学セル。
【請求項31】
前記カソードが、
a)活物質としてのスピネル構造を有するリチウム含有マンガン複合酸化物であって、式:
LiNiMn2-y-z4-d
(式中、xは0.03~1.0であり;xは充放電中のリチウムイオンおよび電子の放出および取り込みに従って変化し;yは0.3~0.6であり;MはCr、Fe、Co、Li、Al、Ga、Nb、Mo、Ti、Zr、Mg、Zn、V、およびCuのうちの1つ以上を含み;zは0.01~0.18であり;dは0~0.3である)で表される前記リチウム含有マンガン複合酸化物;または
b)式:
x(Li2-w1-vw+v3-e)・(1-x)(LiMn2-z4-d
(式中、
xは約0.005~約0.1であり;
AはMnまたはTiのうちの1つ以上を含み;
QはAl、Ca、Co、Cr、Cu、Fe、Ga、Mg、Nb、Ni、Ti、V、Zn、ZrまたはYのうちの1つ以上を含み;
eは0~約0.3であり;
vは0~約0.5であり;
wは0~約0.6であり;
MはAl、Ca、Co、Cr、Cu、Fe、Ga、Li、Mg、Mn、Nb、Ni、Si、Ti、V、Zn、Zr、またはYのうちの1つ以上を含み;
dは0~約0.5であり;
yは約0~約1であり;
zは約0.3~約1であり;
前記LiMn2-z4-d構成部分はスピネル構造を有し、前記Li2-ww+v1-v3-e構成部分は層状構造を有する)の構造で表される複合材料;または
c)LiMn(式中、Jは、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Cu、V、Ti、Zr、Mo、B、Al、Ga、Si、Li、Mg、Ca、Sr、Zn、Sn、希土類元素またはこれらの組み合わせであり;Zは、F、S、Pまたはこれらの組み合わせであり;0.9≦a≦1.2であり、1.3≦b≦2.2であり、0≦c≦0.7であり、0≦d≦0.4である)、または、
d)LiNiMnCo2-f
(式中、
Rは、Al、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、Zr、Ti、希土類元素、またはこれらの組み合わせであり;
Zは、F、S、P、またはこれらの組み合わせであり;
0.8≦a≦1.2であり、0.1≦b≦0.9であり、0.0≦c≦0.7であり、0.05≦d≦0.4であり、0≦e≦0.2であり、b+c+d+eの合計は約1であり、0≦f≦0.08である);または、
e)Li1-b,R
(式中、
Aは、Ni、Co、Mn、またはこれらの組み合わせであり;
RはAl、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、Zr、Ti、希土類元素、またはこれらの組み合わせであり;
Dは、O、F、S、P、またはこれらの組み合わせであり;
0.90≦a≦1.8であり、0≦b≦0.5である)を含む、請求項28に記載の電気化学セル。
【請求項32】
前記カソードが、
Li1-xDO4-f
(式中、
AはFe、Mn、Ni、Co、V、またはこれらの組み合わせであり;
RはAl、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、Zr、Ti、希土類元素、またはこれらの組み合わせであり;
DはP、S、Si、またはこれらの組み合わせであり;
ZはF、Cl、S、またはこれらの組み合わせであり;
0.8≦a≦2.2であり;
0≦x≦0.3であり;
0≦f≦0.1である)を含む、請求項28に記載の電気化学セル。
【請求項33】
請求項28に記載の電気化学セルを含む、電子デバイス、輸送装置、または通信機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書での開示は、フルオロエチレンカーボネートなどの環状カーボネートを含む少なくとも1つの電解質成分と、1,3プロピレンサルフェートなどの6員環ヘテロ環状サルフェートを含む少なくとも1つの添加剤と、を含む電解質組成物に関する。高温サイクル条件および/または室温安定性を含む電池性能の改善により、これらの電解質組成物は、リチウムイオン電池などの電気化学セルにおいて有用になる。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはこれらの金属を含む化合物から製造された電極を含有する電池、例えば、リチウムイオン電池は、典型的には、電解質と、添加剤と、電池において使用される電解質のための非水性溶媒とを包含する。添加剤は、電池の性能および安全性を高めることができ、そのため好適な溶媒が、電解質に加えて添加剤も溶解させなければならない。溶媒はまた、活性電池系において一般的な条件下で安定でなければならない。
【0003】
リチウムイオン電池において使用される電解質溶媒は、典型的には、有機カーボネート化合物または混合物を含んでおり、典型的には、例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、またはジエチルカーボネートなどの1つ以上の直鎖カーボネートを含む。エチレンカーボネートなどの環状カーボネートを含むこともできる。しかしながら、約4.35Vを超えるカソード電位においてこれらの電解質溶媒は分解する可能性があり、これは電池性能の損失をもたらし得る。
【0004】
これらの問題の結果として、グラファイトアノードまたはアノード複合体(例えばSiを含有する)を利用するいくつかのリチウムイオン電池は、電極表面上に不動態化または固体電解質界面層(SEI)を形成する反応に関与する特定の有機添加剤を含む電解質配合物を含有する。これらの層は、理想的には、電気絶縁性であるがイオン伝導性であり、電解質の分解の防止に役立ち、それによってサイクル寿命を延ばし、低温および高温での電池の性能を改善する。アノード電極上では、SEIは電解質の還元的分解を抑制することができ、カソード電極上では、SEIは電解質成分の酸化を抑制することができる。
【0005】
しかし、特定の有機添加剤は電解質成分の望ましくない反応と相関しており、室温安定性の低下および配合物の劣化の増大をもたらす。したがって、高温サイクル条件下での電池性能が改善され、電解質の室温保存性および安定性が改善された電解質溶媒配合物が依然として必要とされている。室温での電解質配合物の安定性は製品化のための重要な要件である。
【発明の概要】
【0006】
一態様では、
電解質組成物であって、
環状カーボネートを含む少なくとも1つの電解質成分と、
式(I):
(式中、n=1であり、R15~R18は、各々独立して、水素またはビニル(HC=CH-)、アリル(HC=CH-CH-)、アセチレン(HC≡C-)、プロパルギル(HC≡C-CH-)、またはC~Cアルキル基を表し、ここで、ビニル、アリル、アセチレン、プロパルギル、またはC~Cアルキル基は、各々非置換であってもよく、または部分的にもしくは完全にフッ素化されていてもよい)で表される6員環ヘテロ環状サルフェートを含む少なくとも1つの添加剤と、
少なくとも1つの電解質塩と、
を含む電解質組成物が提供される。
【0007】
別の実施形態では、
(a)ハウジングと、
(b)ハウジング中に配置され、かつ互いにイオン伝導的接触しているアノードおよびカソードと、
(c)電解質組成物であって、
環状カーボネートを含む少なくとも1つの電解質成分と、
式(I):
(式中、n=1であり、R15~R18は、各々独立して、水素またはビニル(HC=CH-)、アリル(HC=CH-CH-)、アセチレン(HC≡C-)、プロパルギル(HC≡C-CH-)、またはC~Cアルキル基を表し、ここで、ビニル、アリル、アセチレン、プロパルギル、またはC~Cアルキル基は、各々非置換であってもよく、または部分的にもしくは完全にフッ素化されていてもよい)で表される6員環ヘテロ環状サルフェートを含む少なくとも1つの添加剤と、
少なくとも1つの電解質塩と、
を含む電解質組成物、
を備える電気化学セルが開示される。
【0008】
開示された発明の他の態様は、本来固有であり得るか、または本出願の単一の実施例において具体的にあるいは完全に具体化されて具体的に記載されていなくても、本明細書に提供される開示から理解され得る。そして、これは、それにもかかわらず、本出願において提供される説明、実施例および請求の範囲全体、すなわち、本明細書全体から、当業者によって合成され得る。
【0009】
上におよび本開示の全体にわたって使用される以下の用語は、別記しない限り、以下のとおり定義されるものとする。
【0010】
本明細書で使用される用語「電解質組成物」は、最低でも、電解質塩のための溶媒と電解質塩とを含む化学組成物であって、電気化学セルで電解質を供給することができる組成物を意味する。電解質組成物は、他の成分、例えば、安全性、信頼性およびまたは効率における電池の性能を強化する添加剤を含むことができる。
【0011】
本明細書で使用される用語「電解質塩」は、電解質組成物の溶媒に少なくとも部分的に可溶性であり、かつ電解質組成物の溶媒中で少なくとも部分的にイオンへと解離して導電性電解質組成物を形成するイオン塩を意味する。
【0012】
本明細書で定義される「電解質溶媒」は、フッ素化溶媒を含む電解質組成物のための溶媒または溶媒の混合物である。
【0013】
用語「アノード」は、そこで酸化が起こる、電気化学セルの電極を意味する。二次(すなわち再充電可能)電池では、アノードは、そこで放電中に酸化が起こり、充電中に還元が起こる電極である。
【0014】
用語「カソード」は、そこで還元が起こる、電気化学セルの電極を意味する。二次(すなわち再充電可能)電池では、カソードは、そこで放電中に還元が起こり、充電中に酸化が起こる電極である。
【0015】
用語「リチウムイオン電池」は、リチウムイオンが、放電中にアノードからカソードへ、充電中にカソードからアノードへ移動するタイプの再充電可能電池を意味する。
【0016】
リチウムとリチウムイオンとの間の平衡電位は、約1モル/リットルのリチウムイオン濃度を与えるのに十分な濃度でリチウム塩を含有する非水性電解質と接触しているリチウム金属を使用する参照電極の電位であり、参照電極の電位がその平衡値(Li/Li)から有意に変化しないよう十分に小さい電流が流される。このようなLi/Li参照電極の電位は、本明細書では0.0Vの値を割り当てられる。アノードまたはカソードの電位は、アノードまたはカソードと、Li/Li参照電極のそれとの間の電位差を意味する。本明細書では、電圧は、そのいずれの電極も0.0Vの電位では動作し得ない、セルのカソートとアノードとの間の電圧差を意味する。
【0017】
エネルギー貯蔵デバイスは、電池またはキャパシタなどの、必要に応じて電気エネルギーを供給するように設計されているデバイスである。本明細書で想定されるエネルギー貯蔵デバイスは、少なくとも部分的に電気化学的供給源からエネルギーを提供する。
【0018】
本明細書で使用される用語「SEI」は、電極の活物質上に形成される固体電解質界面層を意味する。リチウムイオン二次電気化学セルは、充電されていない状態で組み立てられ、使用のために充電される必要がある(形成と呼ばれるプロセス)。リチウムイオン二次電気化学セルの最初の数回の充電事象(電池形成)中に、電解質の成分は、負極活物質の表面で還元されるか、そうでない場合は分解されるかまたは組み込まれ、正極活物質の表面で酸化されるか、そうでない場合は分解されるかまたは組み込まれ、活物質上に固体電解質界面を電気化学的に形成する。電気絶縁性であるがイオン伝導性であるこれらの層は、電解質の分解の防止に役立ち、またサイクル寿命を延ばし、電池の性能を改善することができる。アノード上では、SEIは電解質の還元的分解を抑制することができ、カソード上では、SEIは電解質成分の酸化を抑制することができる。
【0019】
本明細書で使用される用語「アルキル基」は、1~20個の炭素を含み不飽和を含まない直鎖、分枝鎖、および環状の炭化水素基を意味する。直鎖アルキルラジカルの例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、およびドデシルが挙げられる。直鎖アルキル基の分枝鎖異性体の例としては、イソプロピル、iso-ブチル、tert-ブチル、sec-ブチル、イソペンチル、ネオペンチル、イソヘキシル、ネオヘキシル、およびイソオクチルが挙げられる。環状アルキル基の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、およびシクロオクチルが挙げられる。
【0020】
本明細書で用いられる用語「フルオロアルキル基」は、少なくとも1個の水素がフッ素によって置換されているアルキル基を意味する。
【0021】
本明細書で用いられる用語「カーボネート」は、具体的には、炭酸のジアルキルジエステル誘導体である有機カーボネートを意味し、有機カーボネートは、一般式:ROCOOR(式中、RおよびRは、各々独立して、少なくとも1個の炭素原子を有するアルキル基から選択され、ここで、アルキル置換基は、同じであっても異なっていてもよく、飽和であっても不飽和であってもよく、置換されていてもいなくてもよく、連結した原子によって環状構造を形成することができ、またはアルキル基のいずれかもしくは両方の置換基として環状構造を含み得る)を有する。
【0022】
語句「一組とみなして」は、記載されている組み合わせの要素の総数を意味する。例えば、語句「R1およびR2は、一組とみなして少なくとも2個以上7個以下の炭素原子を含む」は、R1およびR2中の炭素原子の総数が少なくとも2個であり、R1およびR2の各々が少なくとも2個の炭素原子を有するという意味ではない。
【0023】
フルオロエチレンカーボネートなどの環状カーボネートを含む少なくとも1つの電解質成分と、1,3プロピレンサルフェートなどの6員環ヘテロ環状サルフェートを含む少なくとも1つの添加剤と、を含む電解質組成物が開示される。開示された電解質組成物は、高温サイクル条件および/または室温安定性を含む電池性能の改善により、これらの電解質組成物が、リチウムイオン電池などの電気化学セルにおいて有用になることが示された。
【0024】
一態様では、
電解質組成物であって、
環状カーボネートを含む少なくとも1つの電解質成分と、
式(I):
(式中、R15~R18は、各々独立して、水素または任意選択的にフッ素化されたビニル(HC=CH-)、アリル(HC=CH-CH-)、アセチレン(HC≡C-)、プロパルギル(HC≡C-CH-)、またはC~Cアルキル基を表し、ここで、ビニル、アリル、アセチレン、プロパルギル、またはC~Cアルキル基は、各々非置換であってもよく、または部分的にもしくは完全にフッ素化されていてもよい)で表される6員環ヘテロ環状サルフェートを含む少なくとも1つの添加剤と、
少なくとも1つの電解質塩、
を含む電解質組成物が提供される。
【0025】
一実施形態では、開示された電解質組成物は、式(I):
(式中、R15~R18は、各々独立して、水素または任意選択的にフッ素化されたビニル、アリル、アセチレン、プロパルギル、またはC~Cアルキル基を表し、ここで、ビニル、アリル、アセチレン、プロパルギル、またはC~Cアルキル基は、各々非置換であってもよく、または部分的にもしくは完全にフッ素化されていてもよく、nは1である)で表される1つ以上の6員環ヘテロ環状サルフェートを含むことができる。
【0026】
好適なヘテロ環状サルフェートの例は、1,3-プロピレンサルフェートであり、n=1ならびにR15、R16、R17、およびR18の各々がHである。
【0027】
一実施形態では、ヘテロ環状サルフェートは、全電解質組成物の約0.1重量%~約12重量%、または約0.5重量%から約10重量%未満、約0.5重量%から約5重量%未満、または約0.5重量%~約3重量%、または約1.0重量%~約2重量%で存在する。一実施形態では、ヘテロ環状サルフェートは、全電解質組成物の約1重量%~約3重量%、または約1.5重量%~約2.5重量%、または約2重量%で存在する。
【0028】
一実施形態では、開示された電解質組成物は、1つ以上の環状カーボネートを含み得る。環状カーボネートは、フッ素化されていてもフッ素化されていなくてもよい。好適な環状カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート;プロピレンカーボネート;ビニレンカーボネート;ビニルエチレンカーボネート;ジメチルビニレンカーボネート;エチルプロピルビニレンカーボネート;4-フルオロエチレンカーボネート;4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン;4,5-ジフルオロ-4-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オン;4,5-ジフルオロ-4,5-ジメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン;4,4-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン;4,4,5-トリフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン;テトラフルオロエチレンカーボネート;およびそれらの混合物が挙げられる。4-フルオロエチレンカーボネートは、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンまたはフルオロエチレンカーボネートとしても知られている。一実施形態では、環状カーボネートは、エチレンカーボネート;プロピレンカーボネート;ビニレンカーボネート;ビニルエチレンカーボネート;ジメチルビニレンカーボネート;エチルプロピルビニレンカーボネート;4-フルオロエチレンカーボネート;4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン;4,5-ジフルオロ-4-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オン;4,5-ジフルオロ-4,5-ジメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン;4,4-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン;または4,4,5-トリフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンを含む。一実施形態では、環状カーボネートは、エチレンカーボネートを含む。一実施形態では、環状カーボネートは、プロピレンカーボネートを含む。一実施形態では、環状カーボネートは、フルオロエチレンカーボネートを含む。一実施形態では、環状カーボネートは、ビニレンカーボネートを含む。第1の溶媒として、純度が電池グレードであるか、または少なくとも約99.9%、より具体的には少なくとも約99.99%の純度レベルを有する環状カーボネートを使用することが望ましい。このような環状カーボネートは典型的には市販されている。
【0029】
一実施形態では、開示された電解質組成物は、1つ以上の非フッ素化非環状カーボネートを含み得る。好適な非フッ化非環状カーボネートとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジ-tert-ブチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、エチルブチルカーボネート、プロピルブチルカーボネート、またはこれらの混合物が挙げられる。一実施形態では、非フッ素化非環状カーボネートは、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート、またはエチルメチルカーボネートを含む。一実施形態では、非フッ素化非環状カーボネートはジメチルカーボネートを含む。一実施形態では、非フッ素化非環状カーボネートはジエチルカーボネートを含む。一実施形態では、非フッ素化非環状カーボネートはエチルメチルカーボネートを含む。第2の溶媒として、純度が電池グレードであるか、または少なくとも約99.9%、より具体的には少なくとも約99.99%の純度レベルを有する非フッ素化環状カーボネートを使用することが望ましい。このような非フッ素化非環状カーボネートは典型的には市販されている。
【0030】
本明細書に開示の電解質組成物はまた、フッ素化非環状カルボン酸エステル、フッ素化非環状カーボネート、フッ素化非環状エーテル、またはこれらの混合物から選択される少なくとも1種の電解質成分を含む。
【0031】
いかなる理論にも束縛されるものではないが、本明細書に開示の電解質組成物において本明細書に開示の電解質成分を使用すると、電気化学的サイクルの後に、電極の活物質上に形成される固体の電解質界面(SEI)層の組成を改質できると考えられる。この改質は、電池の性能およびそのサイクル寿命の耐久性に有益な影響を有し得る。
【0032】
一実施形態では、少なくとも1つの電解質成分は、次式:
-COO-R
(式中、
i)Rは、H、アルキル基、またはフルオロアルキル基であり;
ii)Rは、アルキル基またはフルオロアルキル基であり;
iii)RおよびRのいずれかまたは両方はフッ素を含み;
iv)RおよびRは、一組とみなして少なくとも2個以上7個以下の炭素原子を含む)で表されるフッ素化非環状カルボン酸エステルを含む。
【0033】
一実施形態では、RはHであり、Rはフルオロアルキル基である。一実施形態では、Rはアルキル基であり、Rはフルオロアルキル基である。一実施形態では、Rはフルオロアルキル基であり、Rはアルキル基である。一実施形態では、Rはフルオロアルキル基であり、Rはフルオロアルキル基であり、RおよびRは互いに同じであっても異なっていてもよい。一実施形態では、Rは1個の炭素原子を含む。一実施形態では、Rは2個の炭素原子を含む。
【0034】
別の実施形態では、RおよびRは本明細書の上記で定義したとおりであり、RおよびRは、一組とみなして少なくとも2個以上7個以下の炭素原子を含み、さらに少なくとも2個のフッ素原子を含むが、RとRのいずれもFCH-基またはFCH-基を含まないことを条件とする。
【0035】
一実施形態では、上記式におけるR中の炭素原子の数は、1、3、4、または5である。
【0036】
別の実施形態では、上記式におけるR中の炭素原子の数は1である。
【0037】
好適なフッ素化非環状カルボン酸エステルの例としては、限定するものではないが、CH-COO-CHCFH(2,2-ジフルオロエチルアセテート、CAS番号-1550-44-3)、CH-COO-CHCF(2,2,2-トリフルオロエチルアセテート、CAS番号406-95-1)、CHCH-COO-CHCFH(2,2-ジフルオロエチルプロピオネート、CAS番号1133129-90-4)、CH-COO-CHCHCFH(3,3-ジフルオロプロピルアセテート)、CHCH-COO-CHCHCFH(3,3-ジフルオロプロピルプロピオネート)、FCHCH-COO-CH、FCHCH-COO-CHCH、およびFCHCHCH-COO-CHCH(エチル4,4-ジフルオロブタノエート、CAS番号1240725-43-2)、H-COO-CHCFH(ジフルオロエチルホルメート、CAS番号1137875-58-1)、H-COO-CHCF(トリフルオロエチルホルメート、CAS番号32042-38-9)、ならびにこれらの混合物が挙げられる。一実施形態では、フッ素化非環状カルボン酸エステルは、2,2-ジフルオロエチルアセテート(CH-COO-CHCFH)を含む。一実施形態では、フッ素化非環状カルボン酸エステルは、2,2-ジフルオロエチルプロピオネート(CHCH-COO-CHCFH)を含む。一実施形態では、フッ素化非環状カルボン酸エステルは、2,2,2-トリフルオロエチルアセテート(CH-COO-CHCF)を含む。一実施形態では、フッ素化非環状カルボン酸エステルは、2,2-ジフルオロエチルホルメート(H-COO-CHCFH)を含む。
【0038】
一実施形態では、フッ素化非環状カルボン酸エステルはCH-COO-CHCFHを含み、電解質組成物は、リチウムビス(オキサラト)ボレート、エチレンサルフェート、およびマレイン酸無水物をさらに含む。
【0039】
別の実施形態では、少なくとも1つの電解質成分は、式
-OCOO-R
(式中、
i)Rはフルオロアルキル基であり;
ii)Rはアルキル基またはフルオロアルキル基であり;
iii)RおよびRは、一組とみなして少なくとも2個以上7個以下の炭素原子を含む)
で表されるフッ素化非環状カーボネートである。
【0040】
一実施形態では、Rはフルオロアルキル基であり、Rはアルキル基である。一実施形態では、Rはフルオロアルキル基であり、Rはフルオロアルキル基であり、RおよびRは互いに同じであっても異なっていてもよい。一実施形態では、Rは1個の炭素原子を含む。一実施形態では、Rは2個の炭素原子を含む。
【0041】
別の実施形態では、RおよびRは上で定義したとおりであり、RおよびRは、一組とみなして少なくとも2個以上7個以下の炭素原子を含み、かつさらに少なくとも2個のフッ素原子を含むが、RとRのいずれもFCH-基または-FCH-基を含まないことを条件とする。
【0042】
好適なフッ素化非環状カーボネートの例としては、限定するものではないが、CH-OC(O)O-CHCFH(メチル2,2-ジフルオロエチルカーボネート、CAS番号916678-13-2)、CH-OC(O)O-CHCF(メチル2,2,2-トリフルオロエチルカーボネート、CAS番号156783-95-8)、CH-OC(O)O-CHCFCFH(メチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルカーボネート、CAS番号156783-98-1)、HCFCH-OCOO-CHCH(エチル2,2-ジフルオロエチルカーボネート、CAS番号916678-14-3)、およびCFCH-OCOO-CHCH(エチル2,2,2-トリフルオロエチルカーボネート、CAS番号156783-96-9)が挙げられる。
【0043】
別の実施形態では、少なくとも1つの電解質成分は、式
-O-R
(式中、
i)Rはフルオロアルキル基であり;
ii)Rはアルキル基またはフルオロアルキル基であり;
iii)RおよびRは、一組とみなして少なくとも2個以上7個以下の炭素原子を含む)
で表されるフッ素化非環状エーテルである。
【0044】
一実施形態では、Rはフルオロアルキル基であり、Rはアルキル基である。一実施形態では、Rはフルオロアルキル基であり、Rはフルオロアルキル基であり、RおよびRは互いに同じであっても異なっていてもよい。一実施形態では、Rは1個の炭素原子を含む。一実施形態では、Rは2個の炭素原子を含む。
【0045】
別の実施形態では、RおよびRは上で定義したとおりであり、RおよびRは、一組とみなして少なくとも2個以上7個以下の炭素原子を含み、かつさらに少なくとも2個のフッ素原子を含むが、RとRのいずれもFCH-基または-FCH-基を含まないことを条件とする。
【0046】
好適なフッ素化非環状エーテルの例としては、限定されないが、HCFCFCH-O-CFCFH(CAS番号16627-68-2)およびHCFCH-O-CFCFH(CAS番号50807-77-7)が挙げられる。
【0047】
別の実施形態では、電解質成分は、フッ素化非環状カルボン酸エステル、フッ素化非環状カーボネート、および/またはフッ素化非環状エーテルを含む混合物である。本明細書で使用される用語「これらの混合物」は、例えば2種以上のフッ素化非環状カルボン酸エステルの混合物、および例えばフッ素化非環状カルボン酸エステルとフッ素化非環状カーボネートとの混合物などの、溶媒の分類の中での混合物と溶媒の分類間の混合物の両方を包含する。非限定的な例としては、2,2-ジフルオロエチルアセテートと2,2-ジフルオロエチルプロピオネートとの混合物;および2,2-ジフルオロエチルアセテートと2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネートとの混合物が挙げられる。
【0048】
本明細書で用いるのに好適なフッ素化非環状カルボン酸エステル、フッ素化非環状カーボネート、およびフッ素化非環状エーテルは、公知の方法を使用して調製されてもよい。例えば、塩化アセチルを(塩基性触媒ありまたはなしで)2,2-ジフルオロエタノールと反応させて、2,2-ジフルオロエチルアセテートを形成してもよい。さらに、2,2-ジフルオロエチルアセテートおよび2,2-ジフルオロエチルプロピオネートは、Wiesenhoferらによって記載された方法(国際公開第2009/040367A1号パンフレット、実施例5)を使用して調製されてもよい。あるいは、2,2-ジフルオロエチルアセテートは、本明細書の以下の実施例に記載された方法を使用して調製され得る。他のフッ素化非環状カルボン酸エステルは、異なる出発カルボキシレート塩を使用して同じ方法を使用して調製されてもよい。同様に、メチルクロロホルメートを2,2-ジフルオロエタノールと反応させてメチル2,2-ジフルオロエチルカーボネートを形成してもよい。HCFCFCH-O-CFCFHの合成は、塩基(例えばNaH等)の存在下で2,2,3,3-テトラフルオロプロパノールをテトラフルオロエチレンと反応させることによって行うことができる。同様に、2,2-ジフルオロエタノールとテトラフルオロエチレンとの反応により、HCFCH-O-CFCFHが得られる。あるいは、これらのフッ素化電解質成分のいくつかは商業的に入手してもよい。電解質組成物において使用するためには、電解質成分を少なくとも約99.9%、より具体的には少なくとも約99.99%の純度レベルまで精製することが望ましい。精製は、真空蒸留または回転バンド蒸留などの蒸留方法を使用して行ってもよい。
【0049】
本明細書に開示の電解質組成物は、電解質塩も含む。好適な電解質塩としては、限定するものではないが、
リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF)、
リチウムジフルオロホスフェート(LiPO)、
リチウムビス(トリフルオロメチル)テトラフルオロホスフェート(LiPF(CF)、
リチウムビス(ペンタフルオロエチル)テトラフルオロホスフェート(LiPF(C)、
リチウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(LiPF(C)、
リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、
リチウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド、
リチウム(フルオロスルホニル)(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、
リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、
リチウムテトラフルオロボレート、
リチウムパークロレート、
リチウムヘキサフルオロアルセネート、
リチウムトリフルオロメタンスルホネート、
リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド、
リチウムビス(オキサラト)ボレート、
リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート、
Li1212-x(式中、xは0~8に相当する)、および
リチウムフルオリドとB(OCなどのアニオン受容体との混合物
が挙げられる。2つ以上のこれらまたは同等の電解質塩の混合物もまた使用してもよい。
【0050】
一実施形態では、電解質塩は、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを含む。一実施形態では、電解質塩は、リチウムヘキサフルオロホスフェートを含む。電解質塩は、約0.2M~約2.0M、例えば約0.3M~約1.7M、または例えば約0.5M~約1.2M、または例えば0.5M~約1.7Mの量で電解質組成物中に存在することができる。
【0051】
任意選択的には、本明細書に記載の電解質組成物は、リチウムホウ素化合物、環状スルトン、環状サルフェート、環状カルボン酸無水物、またはこれらの組み合わせから選択される添加剤をさらに含有してもよい。いくつかの実施形態では、電解質組成物は、リチウムホウ素化合物、環状スルトン、環状サルフェート、環状カルボン酸無水物、またはこれらの組み合わせから選択される添加剤をさらに含み、電解質成分は、式:
-COO-R
(式中、
i)Rは、H、アルキル基、またはフルオロアルキル基であり;
ii)Rは、アルキル基またはフルオロアルキル基であり;
iv)RおよびRのいずれかまたは両方はフッ素を含み;
v)RおよびRは、一組とみなして少なくとも2個以上7個以下の炭素原子を含む)
で表されるフッ素化非環状カルボン酸エステルを含む。いくつかの実施形態では、フッ素化非環状カルボン酸エステルは、CH-COO-CHCFHを含む。
【0052】
いくつかの実施形態では、電解質組成物は、リチウムホウ素化合物をさらに含む。好適なリチウムホウ素化合物としては、リチウムテトラフルオロボレート、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート、他のリチウムホウ素塩、Li1212-x(式中のxは0~8である)、リチウムフルオリドとB(OCなどのアニオン受容体との混合物、またはこれらの混合物が挙げられる。一実施形態では、電解質組成物は、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート、リチウムテトラフルオロボレート、またはこれらの混合物から選択される少なくとも1つのリチウムボレート塩をさらに含む。いくつかの実施形態では、電解質組成物は、リチウムビス(オキサラト)ボレートを含む。いくつかの実施形態では、電解質組成物は、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレートを含む。いくつかの実施形態では、電解質組成物は、リチウムテトラフルオロボレートを含む。リチウムボレート塩は、電解質組成物の総重量に基づいて、0.1~約10重量%の範囲、例えば0.1~約5.0重量%、または0.3~約4.0重量%、または0.5~2.0重量%の範囲で電解質組成物中に存在してもよい。リチウムホウ素化合物は商業的に入手することができ、または当該技術分野において公知の方法によって調製することができる。
【0053】
いくつかの実施形態では、電解質組成物は環状スルトンをさらに含む。好適なスルトンとしては、式:
(式中、各Aは、独立して水素、フッ素、または任意選択的にフッ素化されたアルキル、ビニル、アリル、アセチレン、またはプロパルギル基である)で表されるものが挙げられる。ビニル(HC=CH-)、アリル(HC=CH-CH-)、アセチレン(HC≡C-)、またはプロパルギル(HC≡C-CH-)基は、各々非置換であってもよく、または部分的にもしくは完全にフッ素化されていてもよい。各Aは、他のA基の1つ以上と同一であっても異なっていてもよく、A基のうちの2つまたは3つが一緒に環を形成していてもよい。2つ以上のスルトンの混合物も使用してもよい。好適なスルトンとしては、1,3-プロパンスルトン、3-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、4-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、5-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、および1,8-ナフタレンスルトンが挙げられる。一実施形態では、スルトンは、1,3-プロパンスルトンを含む。一実施形態では、スルトンは、3-フルオロ-1,3-プロパンスルトンを含む。
【0054】
一実施形態では、スルトンは、全電解質組成物の約0.01~約10重量%、または約0.1重量%~約5重量%、または約0.5重量%~約3重量%、または約1重量%~約3重量%、または約1.5重量%~約2.5重量%、または約2重量%で存在する。
【0055】
いくつかの実施形態では、電解質組成物は、環状カルボン酸無水物をさらに含む。好適な環状カルボン酸無水物としては、式(I)~式(VIII):
(式中、R~R14は、各々独立して、H、F、任意選択的にF、アルコキシ、および/またはチオアルキル置換基で置換された直鎖または分枝鎖のC~C10アルキルラジカル、直鎖または分枝鎖のC~C10アルケンラジカル、またはC~C10アリールラジカルである)で表される化合物からなる群から選択されるものが挙げられる。アルコキシ置換基は、1個~10個の炭素を有することができ、直鎖または分枝鎖であることができ、アルコキシ置換基の例としては、-OCH、-OCHCH、およびOCHCHCHが挙げられる。チオアルキル置換基は、1個~10個の炭素を有することができ、直鎖または分枝鎖であることができ、チオアルキル置換基の例としては、-SCH、-SCHCH、およびSCHCHCHが挙げられる。好適な環状カルボン酸無水物の例としては、マレイン酸無水物;コハク酸無水物;グルタル酸無水物;2,3-ジメチルマレイン酸無水物;シトラコン酸無水物;1-シクロペンテン-1,2-ジカルボン酸無水物;2,3-ジフェニルマレイン酸無水物;3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物;2,3-ジヒドロ-1,4-ジチイオノ-[2,3-c]フラン-5,7-ジオン;およびフェニルマレイン酸無水物が挙げられる。これらの環状カルボン酸無水物の2つ以上の混合物も使用することができる。一実施形態では、環状カルボン酸無水物は、マレイン酸無水物を含む。一実施形態では、環状カルボン酸無水物は、マレイン酸無水物、コハク酸無水物、グルタル酸無水物、2,3-ジメチルマレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、またはこれらの混合物を含む。環状カルボン酸無水物は、Sigma-Aldrich,Inc.(Milwaukee,WI)などの特殊化学品会社から入手することができ、または当該技術において公知の方法を使用して調製することができる。少なくとも約99.0%、例えば、少なくとも約99.9%の純度レベルまで環状カルボン酸無水物を精製することが望ましい。精製は、当該技術において公知の方法を使用して行うことができる。
【0056】
いくつかの実施形態では、電解質組成物は、電解質組成物の総重量に基づいて、約0.1重量%~約5重量%の環状カルボン酸無水物を含む。いくつかの実施形態では、環状カルボン酸無水物は、下限および上限により規定される重量パーセントで電解質組成物中に存在する。範囲の下限は、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、または2.5であり、範囲の上限は、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、または5.0である。全ての重量パーセントは電解質組成物の総重量を基準とする。
【0057】
いくつかの実施形態では、電解質組成物は、6員環より多い員数の環を含有するヘテロ環状サルフェートをさらに含む。好適なヘテロ環状サルフェートとしては、式(I):
(式中、R15~R18は、各々独立して、水素、ハロゲン、C~C12アルキル基、またはC~C12フルオロアルキル基を表し、nは1、2、または3の値を有する)で表される化合物が挙げられる。
【0058】
一実施形態では、R15~R18は、独立して、水素または任意選択的にフッ素化されたビニル、アリル、アセチレン、プロパルギル、またはC~Cアルキル基である。ビニル(HC=CH-)、アリル(HC=CH-CH-)、アセチレン(HC≡C-)、プロパルギル(HC≡C-CH-)、またはC~Cアルキル基は、各々非置換であってもよく、または部分的にもしくは完全にフッ素化されていてもよい。
【0059】
一実施形態では、ヘテロ環状サルフェートは、全電解質組成物の約0.1重量%~約12重量%、または約0.5重量%から約10重量%未満、約0.5重量%から約5重量%未満、または約0.5重量%~約3重量%、または約1.0重量%~約2重量%で存在する。一実施形態では、ヘテロ環状サルフェートは、全電解質組成物の約1重量%~約3重量%、または約1.5重量%~約2.5重量%、または約2重量%で存在する。
【0060】
任意選択的に、本明細書に開示の電解質組成物は、特にリチウムイオン電池で使用するための従来の電解質組成物において有用である、当業者に公知の添加剤をさらに含んでもよい。例えば、本明細書に開示の電解質組成物は、リチウムイオン電池の充電および放電中に発生するガスの量を低減するために有用であるガス低減添加剤も含み得る。ガス低減添加剤は、任意の有効量でも使用されることが可能であるが、電解質組成物の約0.05重量%~約10重量%、あるいは約0.05重量%~約5重量%、またはあるいは電解質組成物の約0.5重量%~約2重量を構成するように含まれ得る。
【0061】
通常、公知である好適なガス低減添加剤は、例えば、フルオロベンゼン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、またはハロアルキルベンゼンなどのハロベンゼン;1,3-プロパンスルトン;コハク酸無水物;エチニルスルホニルベンゼン;2-スルホ安息香酸環状無水物;ジビニルスルホン;トリフェニルホスフェート(TPP);ジフェニルモノブチルホスフェート(DMP);γ-ブチロラクトン;2,3-ジクロロ-1,4-ナフトキノン;1,2-ナフトキノン;2,3-ジブロモ-1,4-ナフトキノン;3-ブロモ-l,2-ナフトキノン;2-アセチルフラン;2-アセチル-5-メチルフラン;2-メチルイミダゾール1-(フェニルスルホニル)ピロール;2,3-ベンゾフラン;2,4,6-トリフルオロ-2-フェノキシ-4,6-ジプロポキシ-シクロトリホスファゼンおよび2,4,6-トリフルオロ-2-(3-(トリフルオロメチル)フェノキシ)-6-エトキシ-シクロトリホスファゼンなどのフルオロ-シクロトリホスファゼン;ベンゾトリアゾール;パーフルオロエチレンカーボネート;アニソール;ジエチルホスホネート;2-トリフルオロメチルジオキソランおよび2,2-ビストリフルオロメチル-1,3-ジオキソランなどのフルオロアルキル置換ジオキソラン;トリメチレンボレート;ジヒドロ-3-ヒドロキシ-4,5,5-トリメチル-2(3H)-フラノン;ジヒドロ-2-メトキシ-5,5-ジメチル-3(2H)-フラノン;ジヒドロ-5,5-ジメチル-2,3-フランジオン;プロペンスルトン;ジグリコール酸無水物;ジ-2-プロピニルオキサレート;4-ヒドロキシ-3-ペンテン酸γ-ラクトン;CFCOOCHC(CH)(CHOCOCF;CFCOOCHCFCFCFCFCHOCOCF;α-メチレン-γ-ブチロラクトン;3-メチル-2(5H)-フラノン;5,6-ジヒドロ-2-ピラノン;ジエチレングリコール,ジアセテート;トリエチレングリコールジメタクリレート;トリグリコールジアセテート;1,2-エタンジスルホン酸無水物;1,3-プロパンジスルホン酸無水物;2,2,7,7-テトラオキシド1,2,7-オキサジチエパン;3-メチル-,2,2,5,5-テトラオキシド1,2,5-オキサジチオラン;ヘキサメトキシシクロトリホスファゼン;4,5-ジメチル-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン;2-エトキシ-2,4,4,6,6-ペンタフルオロ-2,2,4,4,6,6-ヘキサヒドロ-1,3,5,2,4,6-トリアザトリホスホリン;2,2,4,4,6-ペンタフルオロ-2,2,4,4,6,6-ヘキサヒドロ-6-メトキシ-1,3,5,2,4,6-トリアザトリホスホリン;4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン;1,4-ビス(エテニルスルホニル)-ブタン;ビス(ビニルスルホニル)-メタン;1,3-ビス(エテニルスルホニル)-プロパン;1,2-ビス(エテニルスルホニル)-エタン;エチレンカーボネート;ジエチルカーボネート;ジメチルカーボネート;エチルメチルカーボネート;および1,1’-[オキシビス(メチレンスルホニル)]ビス-エテンである。
【0062】
使用可能な他の好適な添加剤は、シラン、シラザン(Si-NH-Si)、エポキシド、アミン、(2個の炭素を含有する)アジリジン、炭酸リチウムオキサレートの塩、B、ZnO、およびフッ素化無機塩などのHF捕捉剤である。
【0063】
別の実施形態では、本明細書においては、ハウジングと、ハウジング内に配置され、かつ互いにイオン伝導的接触しているアノードおよびカソードと、ハウジング内に配置され、アノードとカソードとの間にイオン導電経路を提供する本明細書で上述した電解質組成物と、アノードとカソードとの間の多孔質セパレータと、を備える電気化学セルが提供される。いくつかの実施形態では、電気化学セルはリチウムイオン電池である。
【0064】
いくつかの実施形態では、ハウジング中に配置される電解質組成物の電解質成分は、フッ素化非環状カルボン酸エステルを含み、フッ素化非環状カルボン酸エステルは、CH-COO-CHCF、CHCH-COO-CHCFH、FCHCH-COO-CH、FCHCH-COO-CHCH、CH-COO-CHCHCFH、CHCH-COO-CHCHCFH、FCHCHCH-COO-CHCH、CH-COO-CHCF、CHCH-COO-CHCFH、CH-COO-CHCF、H-COO-CHCFH、H-COO-CHCF、またはこれらの混合物を含む。
【0065】
いくつかの実施形態では、ハウジング中に配置される電解質組成物の電解質成分は、フッ素化非環状カーボネートを含み、フッ素化非環状カーボネートは、CH-OC(O)O-CHCFH、CH-OC(O)O-CHCF、CH-OC(O)O-CHCFCFH、HCFCH-OCOO-CHCH、CFCH-OCOO-CHCH、またはこれらの混合物を含む。
【0066】
いくつかの実施形態では、ハウジング中に配置される電解質組成物の電解質成分は、フッ素化非環状エーテルを含み、フッ素化非環状エーテルは、HCFCFCH-O-CFCFHまたはHCFCH-O-CFCFHを含む。
【0067】
ハウジングは、電気化学セル構成要素を収納するための任意の好適な容器であってもよい。ハウジング材料は当該技術分野で周知であり、例えば、金属およびポリマーハウジングを含むことができる。ハウジングの形状は特に重要ではないが、好適なハウジングは、小さいまたは大きい円筒、プリズムケースまたはパウチの形状に製造することができる。アノードおよびカソードは、電気化学セルのタイプに応じて任意の好適な導電性材料からなってもよい。アノード材料の好適な例としては、限定されないが、リチウム金属、リチウム金属合金、リチウムチタネート、アルミニウム、白金、パラジウム、黒鉛、遷移金属酸化物、およびリチウム化酸化スズが挙げられる。カソード材料の好適な例としては、限定されないが、黒鉛、アルミニウム、白金、パラジウムの他、リチウムまたはナトリウム、インジウムスズ酸化物を含む電気活性遷移金属酸化物、および例えばポリピロールおよびポリビニルフェロセンなどの導電性ポリマーが挙げられる。
【0068】
多孔質セパレータは、アノードとカソードとの間の短絡を防ぐのに役立つ。多孔質セパレータは、典型的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド、またはこれらの組み合わせなどの微孔性ポリマーの単層または多層シートからなる。あるいは、多孔質セパレータは、フッ素化ポリマーで少なくとも部分的にコーティングされた基材層を備えてもよい。多孔質セパレータの孔径は、イオンの輸送がアノードとカソードとの間のイオン伝導的接触を提供できるように十分大きいが、直接、あるいは粒子貫入またはアノードおよびカソード上に形成し得るデンドライトからのアノードおよびカソードの接触を防ぐように十分小さい。本明細書で用いるのに好適な多孔質セパレータの例は、米国特許出願第12/963,927号明細書(2010年12月9日出願、米国特許出願公開第2012/0149852号明細書、現在米国特許第8,518,525号明細書)に開示されている。
【0069】
アノードまたはカソードとして機能することができる多くの異なるタイプの材料が知られている。いくつかの実施形態では、カソードとしては、例えばLiCoO、LiNiO、LiMn、LiCo0.2Ni0.2、LiV、LiNi0.5Mn1.5;LiFePO、LiMnPO、LiCoPO、およびLiVPOFなどのリチウムおよび遷移金属を含むカソード電気活物質を挙げることができる。他の実施形態では、カソード活物質としては、例えば、
LiCoG(式中、0.90≦a≦1.8であり、0.001≦b≦0.1である);
LiNiMnCo2-f(式中、0.8≦a≦1.2であり、0.1≦b≦0.9であり、
0.0≦c≦0.7であり、0.05≦d≦0.4であり、0≦e≦0.2であり、b+c+d+eの合計が約1であり、0≦f≦0.08である);
Li1-b,R(式中、0.90≦a≦1.8であり、0≦b≦0.5である);
Li1-b2-c(式中、0.90≦a≦1.8であり、0≦b≦0.5であり、0≦c≦0.05である);
LiNi1-b-cCo2-d(式中、0.9≦a≦1.8であり、0≦b≦0.4であり、0≦c≦0.05であり、0≦d≦0.05である);
Li1+zNi1-x-yCoAl(式中、0<x<0.3であり、0<y<0.1であり、0<z<0.06である)
を挙げることができる。
【0070】
上の化学式において、Aは、Ni、Co、Mn、またはこれらの組み合わせであり;Dは、O、F、S、P、またはこれらの組み合わせであり;Eは、Co、Mn、またはこれらの組み合わせであり;Gは、Al、Cr、Mn、Fe、Mg、La、Ce、Sr、V、またはこれらの組み合わせであり;Rは、Al、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、Zr、Ti、希土類元素、またはこれらの組み合わせであり;Zは、F、S、P、またはこれらの組み合わせである。好適なカソードとしては、米国特許第5,962,166号明細書;同第6,680,145号明細書;同第6,964,828号明細書;同第7,026,070号明細書;同第7,078,128号明細書;同第7,303,840号明細書;同第7,381,496号明細書;同第7,468,223号明細書;同第7,541,114号明細書;同第7,718,319号明細書;同第7,981,544号明細書;同第8,389,160号明細書;同第8,394,534号明細書;および同第8,535,832号明細書、ならびにこれらの中の参照文献の中に開示されているものが挙げられる。「希土類元素」とは、La~Luのランタニド元素、ならびにYおよびScを意味する。
【0071】
別の実施形態では、カソード材料はNMCカソード;すなわち、LiNiMnCoOカソード、より具体的には、Ni:Mn:Coの原子比が1:1:1であるカソード(LiNi1-b-cCo2-d(式中、0.98≦a≦1.05であり、0≦d≦0.05であり、b=0.333であり、c=0.333であり、RがMnを含む))またはNi:Mn:Coの原子比が5:3:2であるカソード(LiNi1-b-cCo2-d(式中、0.98≦a≦1.05であり、0≦d≦0.05であり、c=0.3であり、b=0.2であり、RがMnを含む))である。
【0072】
別の実施形態では、カソードは、式LiMn(式中、Jは、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Cu、V、Ti、Zr、Mo、B、Al、Ga、Si、Li、Mg、Ca、Sr、Zn、Sn、希土類元素またはこれらの組み合わせであり;Zは、F、S、Pまたはこれらの組み合わせであり;0.9≦a≦1.2であり、1.3≦b≦2.2であり、0≦c≦0.7であり、0≦d≦0.4である)の材料を含む。
【0073】
別の実施形態では、本明細書に開示の電気化学セルまたはリチウムイオン電池中のカソードは、Li/Li参照電極に対して4.6Vより高い電位範囲において30mAh/gより大きい容量を示すカソード活物質を含む。このようなカソードの一例は、カソード活物質としてのスピネル構造を有するリチウム含有マンガン複合酸化物を含む安定化マンガンカソードである。本明細書で用いるのに好適なカソード中のリチウム含有マンガン複合酸化物は、式LiNiMn2-y-z4-d(式中、xは0.03~1.0であり;xは充放電中のリチウムイオンおよび電子の放出および取り込みに従って変化し;yは0.3~0.6であり;MはCr、Fe、Co、Li、Al、Ga、Nb、Mo、Ti、Zr、Mg、Zn、V、およびCuのうちの1つ以上を含み;zは0.01~0.18であり;dは0~0.3である)の酸化物を含む。上の式の一実施形態では、yは0.38~0.48であり、zは0.03~0.12であり、dは0~0.1である。上の式の一実施形態では、Mは、Li、Cr、Fe、Co、およびGaのうちの1つ以上である。安定化されたマンガンカソードは米国特許第7,303,840号明細書に記載されているように、マンガン含有スピネル成分とリチウムを豊富に含む層状構造とを含有するスピネル層状複合材料も含み得る。
【0074】
別の実施形態では、カソードは、式:
x(Li2-w1-vw+v3-e)・(1-x)(LiMn2-z4-d
(式中、
xは約0.005~約0.1であり;
AはMnまたはTiのうちの1つ以上を含み;
QはAl、Ca、Co、Cr、Cu、Fe、Ga、Mg、Nb、Ni、Ti、V、Zn、ZrまたはYのうちの1つ以上を含み;
eは0~約0.3であり;
vは0~約0.5であり;
wは0~約0.6であり;
MはAl、Ca、Co、Cr、Cu、Fe、Ga、Li、Mg、Mn、Nb、Ni、Si、Ti、V、Zn、Zr、またはYのうちの1つ以上を含み;
dは0~約0.5であり;
yは約0~約1であり;
zは約0.3~約1であり;
LiMn2-z4-d構成部分はスピネル構造を有し、Li2-ww+v1-v3-e構成部分は層状構造を有する)
の構造で表される複合材料を含む。
【0075】
別の実施形態では、式
x(Li2-w1-vw+v3-e)・(1-x)(LiMn2-z4-d
において、xは約0~約0.1であり、他の変数についての全ての範囲は本明細書の上で述べたとおりである。
【0076】
別の実施形態では、本明細書に開示のリチウムイオン電池の中のカソードは、
Li1-xDO4-f
(式中、
AはFe、Mn、Ni、Co、V、またはこれらの組み合わせであり;
RはAl、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、Zr、Ti、希土類元素、またはこれらの組み合わせであり;
DはP、S、Si、またはこれらの組み合わせであり;
ZはF、Cl、S、またはこれらの組み合わせであり;
0.8≦a≦2.2であり;
0≦x≦0.3であり;
0≦f≦0.1である)を含む。
【0077】
別の実施形態では、本明細書に開示のリチウムイオン電池または電気化学セル中のカソードは、Li/Li参照電極に対して約4.1V以上、または4.35V以上、または4.5V超、または4.6V以上の電位まで充電されるカソード活物質を含む。他の例は、4.5Vを超える上限充電電位まで充電される、米国特許第7,468,223号明細書に記載されているものなどの層状-層状大容量酸素放出カソードである。
【0078】
いくつかの実施形態では、カソードは、Li/Li参照電極に対して4.6Vを超える電位範囲で30mAh/gを超える容量を示すカソード活物質、またはLi/Li参照電極に対して4.35V以上の電位まで充電されるカソード活物質を含む。
【0079】
本明細書で用いるのに好適なカソード活物質は、Liu et al(J. Phys.Chem.C 13:15073-15079,2009)で記載される水酸化物前駆体法などの方法を使用して調製することができる。その方法では、水酸化物前駆体が、必要量のマンガン、ニッケルおよび他の望まれる金属酢酸塩を含有する溶液からKOHの添加によって析出する。得られる析出物をオーブン乾燥し、次いで、約800~約1000℃において、酸素中、3~24時間、必要量のLiOH・HOと一緒に焼成する。あるいは、カソード活物質は、米国特許第5,738,957号明細書(Amine)に記載されているように、固相反応法またはゾル-ゲル法を使用して調製することができる。
【0080】
本明細書で用いるのに好適なカソード活物質を含有するカソードは、有効量のカソード活物質(例えば、約70重量%~約97重量%)と、ポリビニリデンジフルオリドなどのポリマーバインダーと、導電性カーボンとを、N-メチルピロリドンなどの好適な溶媒中で混合してペーストを生成し、その後これをアルミニウム箔などの集電体上にコーティングし、乾燥させてカソードを形成するなどの方法により調製してもよい。
【0081】
本明細書に開示の電気化学セルまたはリチウムイオン電池は、リチウムイオンを吸蔵および放出することができるアノード活物質を含むアノードをさらに含む。好適なアノード活物質の例としては、例えば、リチウム-アルミニウム合金、リチウム-鉛合金、リチウム-ケイ素合金、およびリチウム-スズ合金などのリチウム合金;黒鉛およびメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)などの炭素材料;黒リン、MnPおよびCoPなどのリン含有材料;SnO、SnOおよびTiOなどの金属酸化物;アンチモンまたはスズを含有するナノ複合材料、例えばアンチモン;アルミニウム、チタン、またはモリブデンの酸化物を含有するナノ複合材料、およびYoonら(Chem.Mater.21,3898-3904,2009)によって記載されているものなどのカーボン;ならびにLiTi12およびLiTiなどのリチウムチタネートが挙げられる。一実施形態では、アノード活物質は、リチウムチタネートまたは黒鉛である。別の実施形態では、アノードは黒鉛である。
【0082】
アノードは、例えば、フッ化ビニル系コポリマーなどのバインダーを有機溶媒または水に溶解または分散させた後にこれを活性、導電性材料と混合してペーストを得る、カソードについて上述したものと同様の方法によって製造することができる。ペーストは、集電体として使用されることになる、金属箔、好ましくはアルミ箔または銅箔上へコーティングされる。ペーストは、活性物質が集電体に結合するように、好ましくは熱を用いて乾燥される。好適なアノード活物質およびアノードは、Hitachi、NEI Inc.(Somerset,NJ)、およびFarasis Energy Inc.(Hayward,CA)などの企業から市販されている。
【0083】
本明細書に開示されるような電気化学セルは、様々な用途に使用することができる。例えば、電気化学セルは、グリッド貯蔵のために、またはコンピュータ、カメラ、ラジオ、電動工具、通信機器、もしくは輸送装置(動力車、自動車、トラック、バスまたは飛行機等)などの様々な電子的に駆動するまたは補助される装置(「電子デバイス」)における電源として使用することができる。本開示は、本開示の電気化学セルを含む電子デバイス、輸送装置、または通信機器にも関する。
【0084】
別の実施形態では、本明細書で記載される成分を組み合わせることによって電解質組成物を形成するための方法が提供される。例えば、一実施形態では、方法は、環状カーボネートを含む少なくとも1つの電解質成分と、式(I):
(式中、n=1であり、R15~R18は、各々独立して、水素またはビニル(HC=CH-)、アリル(HC=CH-CH-)、アセチレン(HC≡C-)、プロパルギル(HC≡C-CH-)、またはC~Cアルキル基を表し、ここで、ビニル、アリル、アセチレン、プロパルギル、またはC~Cアルキル基は、各々非置換であってもよく、または部分的にもしくは完全にフッ素化されていてもよい)で表される6員環ヘテロ環状サルフェートを含む少なくとも1つの添加剤と、少なくとも1つの電解質塩と、を組み合わせることを含む。
【0085】
成分は任意の好適な順序で混合することができる。混合する工程は、順次にまたは同時に電解質組成物の個々の成分を添加することによって行うことができる。第1の溶液が形成された後、所望の濃度の電解質塩を有する電解質組成物を製造するために、第1の溶液にある量の電解質塩が添加され、次いで所望の量の電解質成分が添加される。典型的には、電解質組成物は、均一な混合物を形成するために成分の添加中および/または添加後に攪拌される。
【実施例0086】
本明細書に開示の概念を以下の実施例で説明するが、これらはこの意図が明示的に述べられていない限り、請求項の範囲の限定として使用または解釈されることは意図されていない。上記の考察およびこれらの実施例から、当業者は、本明細書に開示された概念の本質的な特性を確認することができ、その趣旨および範囲から逸脱せずに、様々な用途および条件に適合させるために様々な変更および改良を行い得る。
【0087】
使用される略語の意味は以下のとおりである:「℃」は、セルシウス度を意味し;「g」はグラムを意味し、「mg」はミリグラムを意味し、「μg」はマイクログラムを意味し、「L」はリットルを意味し、「mL」はミリリットルを意味し、「μL」はマイクロリットルを意味し、「mol」はモルを意味し、「mmol」はミリモルを意味し、「M」はモル濃度を意味し、「wt%」は重量パーセントを意味し、「mm」はミリメートルを意味し、「μm」はマイクロメートルを意味し、「ppm」は百万分の一を意味し、「h」は時間を意味し、「min」は分を意味し、「psig」は平方インチゲージあたりのポンドを意味し、「kPa」はキロパスカルを意味し、「A」はアンペアを意味し、「mA」はミリアンペアを意味し、「mAh/g」はグラムあたりのミリアンペア時間を意味し、「V」はボルトを意味し、「xC」は、xと、Ahで表される電池の公称容量に数値的に等しいAにおける電流との積である定電流を意味し、「rpm」は分あたりの回転数を意味し、「NMR」は核磁気共鳴分光法を意味し、「GC/MS」はガスクロマトグラフィー/質量分析を意味し、「Ex」は実施例を意味し、「Comp.Ex」は比較例を意味する。
【0088】
実施例1
以下の実施例は、LiBOBおよびマレイン酸無水物(MA)を含む、1MのLiPF、75重量%の2,2ジフルオロエチルアセテート(以下「DFEA」)、25重量%のフルオロエチレンカーボネート(FEC)中の1,3プロピレンサルフェート配合物の室温安定性を示す。この実施例について得られた配合物は、とりわけ、75重量%DFEA+25重量%FEC(DFEAおよびFECの重量に基づいて)+0.85重量%LiBOB+1.5重量%1,3プロピレンサルフェート+0.5重量%MA(全配合物の重量に基づいて)を含む1M LiPFを含む。
【0089】
電解質の調製:2,2-ジフルオロエチルアセテート(DFEA)の調製
酢酸カリウムとHCFCHBrとを反応させることにより、以下の実施例において使用される2,2-ジフルオロエチルアセテートを調製した。以下は、調製のために使用される手順である。
【0090】
酢酸カリウム(Aldrich,Milwaukee,WI、99%)を100℃で0.5~1mmHg(66.7~133Pa)の真空下にて4~5時間乾燥させた。乾燥した材料は、カールフィッシャー滴定により決定された5ppm未満の含水率を有していた。ドライボックス中において、212グラム(2.16モル、8モル%過剰)の乾燥酢酸カリウムを、重い磁気攪拌子を入れた1.0Lの3口丸底フラスコ内に置いた。フラスコをドライボックスから取り出し、ドラフトチャンバー内に移し、熱電対ウェル、ドライアイスコンデンサー、および添加漏斗を備え付けた。
【0091】
スルホラン(500mL、Aldrich、99%、カールフィッシャー滴定により決定された600ppmの水)を融解し、窒素を流しながら液体として3口丸底フラスコに添加した。攪拌を開始し、反応媒体の温度を約100℃にした。HCFCHBr(290g、2mol、E.I.du Pont de Nemours and Co.,99%)を滴下漏斗に入れ、ゆっくりと反応媒体に添加した。添加は弱発熱であり、反応媒体の温度は、添加の開始後15~20分で120~130℃に上昇した。HCFCHBrの添加は、125~135℃の内部温度を維持する速度に保持した。添加には約2~3時間要した。反応媒体をさらに6時間、120~130℃で攪拌した(典型的には、この時点での臭化物の変換率は約90~95%であった)。次いで、反応媒体を室温まで冷却し、一晩攪拌した。翌朝、加熱をさらに8時間再開した。
【0092】
この時点で出発臭化物はNMRにより検出できず、粗反応媒体は0.2~0.5%の1,1-ジフルオロエタノールを含有していた。反応フラスコ上のドライアイスコンデンサーを、Teflon(登録商標)バルブを有するホースアダプターに置き換え、コールドトラップ(-78℃、ドライアイス/アセトン)を通してフラスコを機械式真空ポンプに接続した。1~2mmHg(133~266Pa)の真空下、40~50℃で反応生成物をコールドトラップに移した。移動は約4~5時間要し、約98~98.5%の純度の220~240gの粗HCFCHOC(O)CHが得られ、これには少量のHCFCHBr(約0.1~0.2%)、HCFCHOH(0.2~0.8%)、スルホラン(約0.3~0.5%)、および水(600~800ppm)が混入していた。粗生成物のさらなる精製は、大気圧での回転バンド蒸留を用いて実施した。106.5~106.7℃の沸点を有するフラクションを集め、不純物プロファイルをGC/MSを使用して監視した(毛管カラムHP5MS、フェニル-メチルシロキサン、Agilent 19091S-433、30.m、250μm、0.25μm、キャリヤーガス-He、流量1mL/分、温度プログラム:40℃、4分、温度傾斜30℃/分、230℃、20分)。典型的には、240gの粗生成物の蒸留により、99.89%の純度の約120gのHCFCHOC(O)CH(250~300ppmのHO)および99.91%の純度の80gの材料(約280ppmの水を含有)が得られた。水がカールフィッシャー滴定により検出されなくなるまで(すなわち<1ppm)、3Aモレキュラーシーブで処理することによって蒸留生成物から水を除去した。
【0093】
LiBOBの精製:リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)の精製
窒素パージされたドライボックス中で、以下の手順を使用して、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB、Sigma Aldrich、757136-25G)を精製した。Teflonコーティングされた攪拌子を備えた500mLのエルレンマイヤーフラスコに、25gのLiBOBを入れた。これに、125mLの無水アセトニトリル(Sigma Aldrich、Fluka、モレキュラーシーブ)を添加した。油浴を使用して、フラスコを45℃で10分間加熱した。真空を用いて、微細孔ガラスフリット(Chemglass、F、60mL)に通して、500mLのフィルターフラスコ中に混合物を濾過した。
【0094】
溶液を室温まで冷却して透明溶液を形成し、125mLの冷トルエン(-25℃の冷凍庫、Sigma Aldrich CHROMASOLV(登録商標))を添加した。直ちに析出が観察され、この混合物を20分間静置し、さらに固体を形成させた。微細孔ガラスフリット(Chemglass、F、60mL)に通して、500mLの丸底中に溶液を濾過した。フィルターケーキを低温の無水トルエン(2×20mL)で洗浄し、ガラス漏斗を使用して円筒状の長首フラスコに移した。このフラスコにしっかり蓋をし、グローブボックスから取り出してKugelrohrに取り付け、その後これを高真空に接続した。このフラスコを一晩室温で高真空(60~100ミリトル)下にて乾燥させ、次いで、さらに3日間、140℃で高真空(60~80ミリトル)下にて乾燥させた。この時点で、フラスコに蓋をし、さらに精製するためにドライボックスに戻した。以下に記載のようにプロピレンカーボネートを使用してLiBOBをさらに精製した。
【0095】
プロピレンカーボネートの精製(LiBOBを精製するために使用するため)
プロピレンカーボネート(PC、Aldrich、HPLC用CHROMASOLV、99.7%)をドライボックスに移し、活性化したモレキュラーシーブを添加した。300mLのPCを攪拌子を備えた丸底フラスコに入れた。これを、Vigreuxカラムを有する一体型蒸留装置に取り付けた。その後、装置を高真空(約500ミリトル)下に置き、溶液を攪拌しながら脱気した。その後、温度を50℃まで上げ、次いで90℃まで上げた。最終的に真空度は約250ミリトルまで上昇し、PCフラクションは蒸留され始めた。7つのフラクションを集めた。最後の2つのフラクション(合計約290mL)をさらなる精製に使用した。
【0096】
LiBOBの犠牲部分を使用して、分別蒸留したプロピレンカーボネート中に残っている任意の不純物を捕捉した。10.2gのLiBOB(Rockwood Lithium,Frankfurt,Germany)を200mLの蒸留PCと混合した。これを100℃のドライボックス内で一晩攪拌した。その後混合物を単純な蒸留装置と接続し、PCを蒸留し、丸底フラスコに回収した。PCの蒸留を補助するためにヒートガンを複数回使用した。この回収したPCを、その後ドライボックスに移し、LiBOBを精製するために使用した。
【0097】
LiBOBの精製
グローブボックス内で、Teflonコーティングされた攪拌子を備えた250mLの丸底フラスコに、17gのLiBOB(上述したとおり、アセトニトリルおよびトルエンを用いて予め精製されたもの)および75mLの精製されたプロピレンカーボネートを添加した。この混合物を、グローブボックス中で室温で約2時間攪拌した。温度を60℃まで上げ、約15分間攪拌した。
その後、この管を単純な蒸留装置に取り付けた。丸底フラスコの受け器および固定されたゴム管を用いて蒸留装置を密封した。その後、装置をドライボックスから取り出した。ゴム管をシュレンクライン/高真空に接続し、装置を真空(約150ミリトル)下に置いた。受け器のフラスコをドライアイス/アセトントラップで囲み、LiBOB/PCフラスコを油浴中(55~70℃)で加熱した。温度は高真空の効率に基づいて調節した。温度が高すぎる場合には、LiBOBが蒸留ヘッドの頂部に集まり始める。PCの大部分が除去された後、液滴が蒸留ヘッドから移動するのを助けるためにヒートガンを使用した。液滴が現れなくなるまでこれを繰り返した。その後、ドライアイス/アセトン受け器トラップを液体窒素トラップと交換し、油浴温度を115~130℃までゆっくり上昇させた(これも真空に依存する)。ヒートガンを再度使用して蒸留ヘッド中のPCの液滴を除去した。それ以上PCが除去されなくなるまでこれを繰り返した。
【0098】
その後、装置を熱/液体窒素から取り出し、窒素下に置いた。LiBOBを冷却し、PCを室温まで温めた後、次いで、装置の管を窒素下に保つために鉗子を用いて固定した。その後、前室に連続的に約20分間窒素を流してパージすることにより、これをドライボックスに移した。
【0099】
ES(エチレンサルフェート)の精製
グローブボックス中で、ドライアイス/アセトン用のインサートを備えた昇華装置に、12gのエチレンサルフェート(ChemImpex,Wood Dale,Illinois)を入れた。これをドライボックス中で密封し、取り出して高真空(約100ミリトル)に接続した。管を最初に真空にした後で、バルブを開けて昇華装置を真空にした。インサートをドライアイスおよびアセトンで満たし、昇華装置の底部を60℃に予熱した油浴中に沈めた。これを約4時間、または全ての白色固体がコールドフィンガーに付着するまで加熱した。この時点で、中身を真空に保つためにバルブを密閉した。管を窒素下に置き、取り出した。その後、捕捉されたドライアイス/アセトンを空にし、昇華装置の外側をきれいにした。これをグローブボックスの中に移し、プラスチック製の漏斗を用いて白色固体を乾燥したガラス容器の中に集めた。次いで、CDCl3中のESのNMRを取得して添加剤の純度を確認し、ガラス容器を必要になるまで冷凍庫に保管した。
【0100】
MA(マレイン酸無水物)の精製
グローブボックス中で、ドライアイス/アセトン用のインサートを備えた大型の昇華装置に、27gのマレイン酸無水物(Aldrich,Milwaukee,Wisconsin)を入れた。これをドライボックス中で密封し、取り出して高真空(約100ミリトル)に接続した。管を最初に真空にした後で、バルブを開けて昇華装置を真空にした。インサートをドライアイスおよびアセトンで満たし、昇華装置の底部を60℃に予熱した油浴中に沈めた。これを約1時間加熱してからさらに7時間85℃まで上げるか、または全ての昇華した白色固体がコールドフィンガーに付着するまで加熱した。この時点で、中身を真空に保つためにバルブを密閉した。管を窒素下に置き、取り出した。その後、ドライアイス/アセトントラップ中の材料を空にし、昇華装置の外側をきれいにした。これをグローブボックスに移し、プラスチック製の漏斗を用いて白色固体を乾燥したガラス容器の中に集めた。次いで、CDCl3中のMAのNMRを取得して純度を確認し、ガラス容器を必要になるまでドライボックスに保管した。
【0101】
1,3プロピレンサルフェートの精製
グローブボックス中で、ドライアイス/アセトン用のインサートを備えた小型の昇華装置に、5gの1,3-プロピレンサルフェート(Aldrich,Milwaukee,WI)を入れた。これをドライボックスの中で密封し、取り出して高真空(約100ミリトル)に接続した。管を最初に真空にした後で、バルブを開けて昇華装置を真空にした。インサートをドライアイスおよびアセトンで満たし、昇華装置の底部を30℃に予熱した油浴中に沈めた。6時間後、温度を45℃まで上げた。約8時間後、材料を真空下で単離し、油浴を約15時間止めた。真空下で加熱を再開し、昇華装置を45℃までさらに8時間加熱した。次いで、これを高真空から取り出し、その後の取り扱いのためにN2パージしたドライボックスに移した。生成物の純度を確認するためにCD2Cl2を用いてNMRを得た。
【0102】
電解質の調製
2,2-ジフルオロエチルアセテートとフルオロエチレンカーボネート(FEC,BASF,Independence,OH)とを3:1の重量比で窒素パージされたドライボックス内で混合することによって電解質を調製した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥させ、0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターに通して濾過した。
【0103】
2.0176gの上記混合物を、0.0229gのLiBOBと混合した。材料を穏やかに攪拌して成分を溶解させた。0.0356gの1,3-プロピレンサルフェート、0.0113gのMA、および0.2556gのLiPF(BASF,Independence,OH)を添加した。材料を配置して、穏やかに攪拌して成分を溶解させ、最終配合物を調製した。
1,3プロピレンサルフェートの室温安定性は、室温(25℃)で5週間エージングした後に色において目に見える変化を示さなかった。
【0104】
約0.6mLのエージングした電解質試料を充填することによって、Norell(登録商標)天然石英5mm管内で、NMR試料を調製した。
【0105】
1Hおよび19F NMRデータを使用して、電解質配合物中の成分の濃度を測定した。環状サルフェートとFECとの反応の程度、結果として室温での配合物の安定性の指標として、FECの酸素化生成物を使用した。酸素化FECの量は、全試料組成物のモル百分率として計算した。プロトンおよびフッ素NMRスペクトルを使用して、存在する試料種の相対積分を測定した。
【0106】
低フッ素バックグラウンドで5mm HF{C}プローブを使用して、Varian Inova NMRで500MHzにて、プロトンおよびフッ素NMRを収集した。試料を、5mmの石英管の中で純材料として27℃で分析し、ドライボックス内で調製し、ドライボックスから取り出した際に、湿気にさらされる可能性を回避するために、試料をN流下の磁気に素早く入れた。基準周波数を設定するために、最初に、同一組成の50%DMSO-d6、50%電解質の標準試料を実施した(1スキャン、プロトンNMR)。プロトンまたはフッ素グラジエントシムマップを使用して純試料をシム処理し、試料をロック解除して実施した。プローブはプロトンとフッ素に同時に二同調され、フッ素をわずかに好んだ。受信機のゲインは必要に応じて調整され、多くの場合、ソフトウェアの自動ゲインルーチンによって選択された値よりわずかに低く設定される。
【0107】
プロトンNMR:8998.9Hzのスペクトル窓、4.67秒の観測時間、30秒の緩和遅延、84058の収集ポイント数、-156.9Hzの送信機オフセット、57dBで1μsのパルス幅(約15度のパルス)を用いて、溶媒参照をDMSOに設定してロック解除し、128のトランジェント(またはスキャン)を収集した。スペクトルを0.5HzのLBで処理し、128kポイントまでゼロフィリングした。
【0108】
フッ素NMR:149253.7Hzのスペクトル窓、1.67秒の観測時間、9.3秒の緩和遅延、498508の収集ポイント数、-9568.4Hzの送信機オフセット、30度パルスに相当するパルス幅(各試料について測定された90度パルス幅)、ブロックサイズ4を用いて、溶媒参照をDMSOに設定してロック解除し、1200のトランジェント(またはスキャン)を収集した。スペクトルを2HzのLBで処理し、512kポイントまでゼロフィリングした。
【0109】
フッ素スペクトルは、-74.720ppmでのLiPFダブレットの中心共鳴への化学シフトに関して参照され、プロトンスペクトルは、2.1358ppmでの2,2ジフルオロエチルアセテートの-CHシングレットへの化学シフトに関して参照される。様々な電解質成分を定量するために、2,2ジフルオロエチルアセテートについての-128.25ppmにおけるフッ素NMR共鳴の強度を、6.02ppmにおけるトリプレットのプロトンNMR三重線と比較して、プロトンNMRデータについての相関係数を決定した。次いで、この係数をプロトンNMRのために他の種に適用して、それらを19F積分に対する相対強度に基準化した。FECについての-124.47ppmにおける19Fマルチプレット積分および6.40ppmにおける1Hマルチプレット積分もまた相関係数を二重チェックするために使用された。F NMRによって測定された他の種は、フッ素化ホスフェートエステル、HFおよびジフルオロエタノールであった。LiBOBは、その反応生成物、LiFBCおよびLiBFと共にこの分析に含まれていなかった。
【0110】
プロトンスペクトルにおける6.82ppmのダブレットの二重線は、酸素化FEC分子の-CH(OH)-に帰属された。1H NMRデータは、マレイン酸無水物および1,3プロピレンサルフェートなどの他の添加剤、ならびにプロピレンカーボネートなどの少量の不純物について得られた。
【0111】
主成分については、この分析の誤差はその成分に対して5~10%であった。しかし、エチレンサルフェートおよび1,3プロピレンサルフェートについては、この誤差は、大部分がFEC共鳴との重なりあっている問題があるために、成分濃度の10~20%に近かった。しかし、反応生成物である酸素化FEC材料の外観を監視することによってより正確なデータを得ることができる。この値は、まだ、成分濃度の10~20%の範囲内で正確である。
【0112】
上述のように、配合物の反応の程度および室温での安定性の指標としてFECの酸素化生成物を使用した。この場合、室温で5週間のエージング後、FECの酸素化生成物である、4-ヒドロキシ-1,3-ジオキソラン-2-オンは非常に少なかった。配合組成物全体の0.0050モル%の値を、この種について測定した。
室温で5週間のエージング後、配合物は目視検査で色を発色しなかった。
【0113】
本明細書に記載される実施形態では、電解質組成物は、25℃で少なくとも200時間、例えば最大5週間(840時間)エージングさせた後、NMRにより測定した場合に、全電解質配合物に対して0.01モル%を超えるFECの酸素化生成物(4-ヒドロキシ-1,3-ジオキソラン-2-オン)を示さない。
【0114】
実施例2
以下の実施例は、組成物:1M LiPF+4:21:75 FEC:PC:DFEA(FEC、PCおよびDFEAの総重量に基づいて重量%/重量%/重量%)+0.85重量%LiBOB+1.5重量%1,3-プロピレンサルフェート+0.5重量%MA(全配合物の重量に基づいて)の調製について記載する。本実施例の電解質は、窒素をパージしたドライボックスの中で、12.8816gの2,2-ジフルオロエチルアセテート、0.6821gのフルオロエチレンカーボネート(FEC,BASF,Independence,OH)および3.6056gのプロピレンカーボネート(PC,BASF,Independence,OH)を混合することにより調製した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥させ、0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターに通して濾過した。
【0115】
1.9991gの上記混合物を、0.0233gのLiBOBと混合した。材料を穏やかに攪拌して成分を溶解させた。0.0351gの1,3-プロピレンサルフェート、0.0113gのMA、および0.2655gのLiPF(BASF,Independence,OH)を添加した。材料を配置して、穏やかに攪拌して成分を溶解させ、最終配合物を調製した。
【0116】
4重量%のFEC、21重量%のプロピレンカーボネートおよび75重量%のDFEA(2,2ジフルオロエチルアセテート)を含有するフッ素化電解質配合物中の1,3プロピレンサルフェート配合物の室温安定性を色の変化によって決定した。本実施例では、室温で5週間のエージング後に目に見える色の変化はなかった。
【0117】
約0.6mLのエージングした電解質試料を充填することによって、Norell(登録商標)天然石英5mm管内で、NMR試料を調製した。配合物の反応の程度、室温での安定性の指標としてFECの酸素化生成物を使用した。この生成物の濃度を定量するための実施例1に記載したのと同じ手順だが、ただしプロピレンカーボネートも、1H NMRデータにおいて測定および定量した。この場合、室温で5週間のエージング後、FECの酸素化生成物である、4-ヒドロキシ-1,3-ジオキソラン-2-オンは配合組成物全体の0.00081モル%にすぎなかった。
【0118】
室温で5週間のエージング後、配合物は目視検査で色を発色しなかった。
【0119】
比較例A
本実施例は、エチレンサルフェート配合物:1M LiPF6+4:21:75 FEC:PC:DFEA+0.85重量%LiBOB+1.5重量%エチレンサルフェート+0.5重量%MAの本発明の実施例2と同様の安定性に対する室温安定性を示す。
【0120】
電解質組成物1M LiPF+4:21:75 FEC:PC:DFEA(FEC、PCおよびDFEAの総重量に基づいて重量%/重量%/重量%)+0.85重量%LiBOB+1.5重量%エチレンサルフェート+0.5重量%MA(全配合物の重量に基づいて)を、窒素をパージしたドライボックスの中で、12.8807gの2,2-ジフルオロエチルアセテート、0.6879gのフルオロエチレンカーボネート(FEC,BASF,Independence,OH)および3.6061gのプロピレンカーボネート(PC,BASF,Independence,OH)を混合することにより調製した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥させ、0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターに通して濾過した。
【0121】
5.9997gの上記混合物を、0.0620gのLiBOBと混合した。材料を穏やかに攪拌して成分を溶解させた。0.0350gのMAおよび0.7957gのLiPF(BASF,Independence,OH)を添加した。材料を配置して、穏やかに攪拌して成分を溶解させた。使用直前に0.1051gのエチレンサルフェートを添加し、穏やかに攪拌して最終配合物を調製した。この配合物を分析前に5週間エージングさせた。
【0122】
5週間後、以下の比較配合物 4:21:75 FEC:PC:DFEA+0.85LiBOB+1.5ES+0.5MAは、目に見える劣化の兆候を示した。目視検査では、電解質はエージング後に色が変化し、そして今度は黄色味を帯びていることが明らかであった。
【0123】
約0.6mLのエージングした電解質試料を充填することによって、Norell(登録商標)天然石英5mm管内で、NMR試料を調製した。環状サルフェートとFECとの反応の程度、および室温でのその安定性の指標として、FECの酸素化生成物を使用した。電解質成分を定量するための手順において1,3-プロピレンサルフェートの代わりにエチレンサルフェートの共鳴を使用したことを除いて、実施例1に記載したのと同じ手順を使用してこの生成物の濃度を定量した。加えて、プロピレンカーボネート(電解質成分)も1H NMRデータにおいて定量した。
【0124】
この反応生成物のNMRは、実施例2と比較して、1H NMRスペクトルにおいて6.8ppmでFECの酸素化生成物である4-ヒドロキシ-1,3-ジオキソラン-2-オンの濃度の増加を示した。この場合、濃度は約0.026モル%であり、これは実施例2で観察されたものの30倍超である。
【0125】
比較例B
本実施例は、LiBOBおよびマレイン酸無水物を含む1MのLiPF、75重量%のDFEA、25重量%のFEC中のエチレンサルフェート配合物の本発明の実施例1と同様の安定性に対する室温安定性を示す。
【0126】
電解質組成物75重量%DFEA+25重量%FEC(DFEAおよびFECの重量に基づいて)+0.85重量%LiBOB+1.5重量%エチレンサルフェート+0.5重量%MA(全配合物の重量に基づいて)を含む1M LiPFを、窒素をパージしたドライボックスの中で、2,2-ジフルオロエチルアセテートとフルオロエチレンカーボネート(FEC,BASF,Independence,OH)とを3:1の重量比で混合することによって調製した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥させ、0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターに通して濾過した。
【0127】
6.0003gの上記混合物を、0.0626gのLiBOBと混合した。材料を穏やかに攪拌して成分を溶解させた。0.0349gのMAおよび0.7664gのLiPF(BASF,Independence,OH)を添加した。材料を配置して、穏やかに攪拌して成分を溶解させた。使用直前に0.1048gのエチレンサルフェートを添加し、穏やかに攪拌して最終配合物を調製した。これを分析前に5週間エージングさせた。
【0128】
5週間後、以下の比較配合物75重量%DFEA+25重量%FEC+0.85LiBOB+1.5ES+0.5MAを含む1M LiPFは、目に見える劣化の兆候を示した。目視検査では、電解質はエージング後に色が変化し、そして今度は黄色味を帯びていることが明らかであった。
【0129】
約0.6mLのエージングした電解質試料を充填することによって、Norell(登録商標)天然石英5mm管内で、NMR試料を調製した。環状サルフェートとFECとの反応の程度、および室温でのその安定性の指標として、FECの酸素化生成物を使用した。電解質成分を定量するための手順において1,3-プロピレンサルフェートの代わりにエチレンサルフェートの共鳴を使用したことを除いて、実施例1に記載したのと同じ手順を使用してこの生成物の濃度を定量した。
【0130】
この反応生成物のNMRは、実施例1と比較して、1H NMRスペクトルにおいて6.8ppmでFECの酸素化生成物である4-ヒドロキシ-1,3-ジオキソラン-2-オンの濃度の増加を示した。この場合、濃度は約2.2モル%であり、これは実施例1で観察されたものの400倍超である。
【0131】
本発明で記載されるサルフェートを含有する電解質が、FECとの反応に関しては、エチレンサルフェートを含有する電解質に対してより安定であり、そして室温で少なくとも5週間エージングした後に変色しないことを、実施例1および2ならびに比較例AおよびBは、はっきりと示した。
【0132】
実施例4
本実施例は、10重量%の1,3プロピレンサルフェートの溶液をFEC中で調製したことを記載する。10重量%の1,3プロピレンサルフェートおよび90重量%のフルオロエチレンカーボネートを含有する混合物を25℃でエージングさせた。13日後、この溶液はわずかに着色したが、下記の比較例Dに示すエチレンサルフェートを含む比較溶液よりも明らかに発色がずっと少なかった。
【0133】
比較例D
10重量%のエチレンサルフェートの溶液を、FEC中で調製した。10重量%のエチレンサルフェートおよび90重量%のフルオロエチレンカーボネートを含有する混合物を25℃でエージングさせた。13日後、この溶液は濃褐色であった。
【0134】
実施例5
実施例1の記載と同じであるが次の相違点を有する手順を使用して電解質を調製した。2,2-ジフルオロエチルアセテートとフルオロエチレンカーボネート(FEC,BASF,Independence,OH)とを3:1の重量比で窒素パージされたドライボックス内で混合することによって電解質を調製した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥させ、0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターに通して濾過した。
【0135】
5.9998gの上記混合物を、0.0705gのLiBOBと混合した。材料を穏やかに攪拌して成分を溶解させた。0.0350gのMAおよび0.7688gのLiPF(BASF,Independence,OH)を添加した。材料を配置して、穏やかに攪拌して成分を溶解させた。使用直前に0.1043gの1,3-プロピレンサルフェートを添加し、最終配合物を調製した。
【0136】
比較例E
実施例1の記載と同じであるが次の相違点を有する手順を使用して電解質を調製した。2,2-ジフルオロエチルアセテートとフルオロエチレンカーボネート(FEC,BASF,Independence,OH)とを3:1の重量比で窒素パージされたドライボックス内で混合することによって電解質を調製した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥させ、0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターに通して濾過した。
【0137】
9.0204gの上記混合物を、0.1042gのLiBOBと混合した。材料を穏やかに攪拌して成分を溶解させた。0.0520gのMAおよび1.1503gのLiPF(BASF,Independence,OH)を添加した。材料を穏やかに攪拌して成分を溶解させた。次いで0.1566のエチレンサルフェートを添加し、電気化学的評価のために、配合物を次の4~6時間以内にパウチセルに導入した。
【0138】
実施例5と比較例Eの性能の比較を、以下の表に示す。この場合、示されるように、1,3プロピレンサルフェート組成物を含有する電解質は優れたサイクル寿命性能および増加した放電容量(サイクル10で)を示した。
【0139】
【0140】
パウチセルの評価:実施例5および比較例E
パウチセル
パウチセルは、Pred Materials(New York,N.Y.)から購入し、NMC532カソードと黒鉛アノードとを含有する200mAhのセルであった。
使用の前に、パウチセルをドライボックスの前室の中で、真空下80℃で一晩乾燥させた。約900μLの電解質組成物を底部を通して注入し、底部の端を真空シーラーで密封した。各実施例および比較例について、同じ電解質組成物を用いて2つのパウチセルを調製した。
【0141】
パウチセルの評価手順
セルを、フォームパッドを取り付けたアルミニウム板を通して電極に66kPaの圧力を加える固定具の中に配置した。セルを環境チャンバー(モデルBTU-433、Espec North America,Hudsonville,Michigan)の中に保持し、形成手順(25℃で)および高温サイクル(45℃で)について電池テスター(Series 4000、Maccor,Tulsa,OK)を使用して試験した。次の手順では、セルがNMC1g当たり170mAhの容量を持つと仮定して、Cレートの電流を決定した。そのため、セル内のNMC1g当たりそれぞれ8.5、42.5、および170mAの電流を使用して、テスターに0.05C、0.25C、および1.0Cの電流をかけた。
【0142】
以下のサイクル手順を用いてパウチセルをコンディショニングした。最初のサイクルでは、セルを0.25Cで36分間充電した。これは約15%の充電状態に相当する。引き続き、これを開回路電圧で4時間休止させた。最初の充電は、0.25Cの定電流(CC)を使用して4.35Vまで継続した。電流が0.05C未満に低下する(または先細になる)まで、セルを4.35Vで定電圧(CV)に保持した。引き続き、これを0.5Cで3.0VまでCC放電した。
【0143】
2回目のサイクルについては、セルを0.2Cの定電流(CC充電)で4.35Vまで充電し、引き続き電流が0.05C未満に低下するまで4.35VでCV電圧保持工程を行った。引き続き、これを0.2Cで3.0VまでCC放電した。このサイクルをセルの容量のチェックとして使用した。
1Cで4.35VまでのCC充電と、電流を0.05Cまで漸減させるCV定電圧工程と、それに続く1.0Cでの3.0Vまでの放電サイクルとからなる1C-CCCVプロトコルを使用してさらに10回サイクルを行った。
【0144】
以下に記載の25℃での形成サイクルおよび45℃でのサイクルの実施では、セルは10分間の休止およびその後の各充電および各放電工程も有していた。形成中およびサイクル中にセルに圧力(66kPa)をかけ、セルを脱気し、最終の放電サイクル後に再密封した。
【0145】
サイクルプロトコル
セルを45℃の環境チャンバーの中に入れ、サイクルを行った:1Cでの4.35VまでのCC充電+0.05CまでのCV充電、および1Cでの3.0VまでのCC放電。
【0146】
80%容量維持率までのサイクル寿命は、45℃でのサイクル中に達成された最大容量の80%に達するのに必要なサイクル数であり、10回のサイクルで観察された放電容量と共に表に表示されている。
【0147】
実施例5と比較例Eの性能の比較を、上記に示す。この場合、上記表で示されるように、1,3プロピレンサルフェート組成物を含有する電解質は優れたサイクル寿命性能および増加した放電容量(サイクル10で)を示した。
【手続補正書】
【提出日】2022-09-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の一発明。
【外国語明細書】