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特開2022-180402磁気記録媒体基板用ガラス、磁気記録媒体基板、磁気記録媒体および磁気記録再生装置用ガラススペーサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180402
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】磁気記録媒体基板用ガラス、磁気記録媒体基板、磁気記録媒体および磁気記録再生装置用ガラススペーサ
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/085 20060101AFI20221129BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20221129BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20221129BHJP
   C03C 3/093 20060101ALI20221129BHJP
   C03C 3/095 20060101ALI20221129BHJP
   C03C 3/097 20060101ALI20221129BHJP
   G11B 5/73 20060101ALI20221129BHJP
   G11B 5/82 20060101ALI20221129BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
C03C3/085
C03C3/087
C03C3/091
C03C3/093
C03C3/095
C03C3/097
G11B5/73
G11B5/82
G11B5/84 C
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138270
(22)【出願日】2022-08-31
(62)【分割の表示】P 2020073228の分割
【原出願日】2017-11-14
(31)【優先権主張番号】P 2016221389
(32)【優先日】2016-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩一
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和明
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐熱性、剛性およびガラス安定性に優れ、比重が低く、かつ適度な熱膨張係数を有する磁気記録媒体基板用ガラスを提供する。
【解決手段】モル%表示にてSiO含有量が45~68%、Al含有量が5~20%、SiOとAlの合計含有量が60~80%、B含有量が0~5%、MgO含有量が3~28%、CaO含有量が0~18%、BaOおよびSrOの合計含有量が0~2%、アルカリ土類金属酸化物の合計含有量が12~30%、アルカリ金属酸化物の合計含有量が3.5~15%、Sn酸化物およびCe酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、Sn酸化物およびCe酸化物の合計含有量が0.05~2.00%、ガラス転移温度が625℃以上、ヤング率が83GPa以上、比重が2.85以下、かつ100~300℃における平均線膨張係数が48×10-7/℃以上の非晶質の酸化物ガラスが提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%表示にて、
SiOの含有量が52~68%、
Alの含有量が12~18%、
SiOとAlの合計含有量(SiO+Al)が80%以下、
の含有量が0~5%、
MgOの含有量が3~28%、
CaOの含有量が0~18%、
TiOの含有量が0~5%、
ZrOの含有量が0~3%、
BaOおよびSrOの合計含有量(BaO+SrO)が0~2%、
アルカリ土類金属酸化物の合計含有量(MgO+CaO+SrO+BaO)が12~30%、
アルカリ土類金属酸化物の合計含有量に対するMgOおよびCaOの合計含有量のモル比{(MgO+CaO)/(MgO+CaO+SrO+BaO)}は、0.75~1.00、
アルカリ金属酸化物の合計含有量(LiO+NaO+KO)が3.5~13%、
アルカリ金属酸化物の合計含有量に対するLiO含有量のモル比{LiO/(LiO+NaO+KO)}が0.4~1、
LiOの含有量が8%以下、
NaOの含有量が6%以下、
Oの含有量が5%以下、
TiOの含有量が0~5%、
HfO、Nb、Ta、LaおよびYの合計含有量(HfO+Nb+Ta+La+Y)が0~5%、
ZrOの含有量が0~3%、
ZnOの含有量が0~3%、
の含有量が0~2%、
である、非晶質の酸化物ガラスである磁気記録媒体基板用ガラス。
【請求項2】
比弾性率が31MNm/kg以上である、請求項1に記載の磁気記録媒体基板用ガラス。
【請求項3】
1250℃の温度を維持したまま16時間放置し、その後室温まで冷却した後に、ガラスの結晶の有無を光学顕微鏡にて倍率40~100倍で観察したときに、結晶が確認されない、請求項1または2に記載の磁気記録媒体基板用ガラス。
【請求項4】
ガラスの単位質量あたりの泡の密度が、光学顕微鏡にて倍率40~100倍で観察される直径0.03mm超の泡の密度として、50個/kg未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体基板用ガラス。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体基板用ガラスからなる磁気記録媒体基板。
【請求項6】
請求項5に記載の磁気記録媒体基板上に磁気記録層を有する磁気記録媒体。
【請求項7】
請求項6に記載の磁気記録媒体を含む磁気記録再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体基板用ガラス、磁気記録媒体基板、磁気記録媒体および磁気記録再生装置用ガラススペーサに関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク等の磁気記録媒体用の基板(磁気記録媒体基板)としては、従来、アルミニウム合金製の基板が用いられていた。しかし、アルミニウム合金製基板については、変形しやすい、研磨後の基板表面の平滑性が十分ではない等の点が指摘されている。そのため現在では、ガラス製の磁気記録媒体基板が広く用いられている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-64921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気記録媒体基板上に磁気記録層を形成する工程では、通常、高温での成膜が行われるか、または成膜後に高温で熱処理が行われる。したがって、磁気記録媒体基板用のガラスには、高温処理に耐え得る高い耐熱性を有すること、具体的には高いガラス転移温度を有することが求められる。
【0005】
一方、磁気記録媒体を組み込んだ磁気記録再生装置(一般にHDD(ハードディスクドライブ)と呼ばれる)は、中央部分をスピンドルモータのスピンドルおよびクランプで押さえて磁気記録媒体そのものを回転させる構造となっている。そのため、磁気記録媒体基板とスピンドル部分を構成するスピンドル材料の各々の熱膨張係数に大きな差があると、使用時に周囲の温度変化に対してスピンドルの熱膨張・熱収縮と磁気記録媒体基板の熱膨張・熱収縮にずれが生じてしまい、結果として磁気記録媒体が変形してしまう現象が生じる。このような現象が生じると書き込んだ情報をヘッドが読み出せなくなってしまい、記録再生の信頼性を損なう原因となる。したがって磁気記録媒体基板用のガラスには、スピンドル材料(例えばステンレス等)と同程度の適度な熱膨張係数を有することが求められる。
【0006】
更に、磁気記録媒体の薄板化や記録密度の高密度化に伴い、スピンドルモータの回転中における磁気記録媒体の反りやたわみの一層の低減や、磁気記録媒体の実用強度に対する要求も高まっている。これら要求に対応するためには、磁気記録媒体基板用のガラスの剛性が高いこと、具体的にはヤング率が高いことが望ましい。
【0007】
加えて、磁気記録媒体基板用のガラスは、低比重化することが望ましい。低比重化することにより磁気記録媒体基板を軽量化することができるからである。基板の軽量化により、磁気記録媒体の軽量化がなされ、磁気記録媒体の回転に要する電力を減少させ、HDDの消費電力を抑えることができる。
【0008】
更に、磁気記録媒体基板用のガラスは、ガラス安定性に優れることも望ましい。ここでガラス安定性とは、融液状態のガラスにおける結晶の析出のしにくさを意味し、例えば、融液状態のガラスを液相温度付近の保持温度で長時間保持した後の結晶の析出の有無や程度で評価することができる。また、保持温度を下げても結晶が析出しにくいほど、ガラス安定性に優れると言える。ガラス安定性に優れるガラスは、より低い成形温度での成形が可能であるため、成形装置の構成部材である発熱体、炉体、パイプ等の寿命を延ばすことができる。また、揮発、脈理および成形泡の発生を抑制するためには、成形温度を下げることによりガラス粘度を上げて成形することが望ましいが、ガラス安定性に劣るガラスは成形温度を下げると結晶が析出してしまう。これに対し、ガラス安定性に優れるガラスであれば、結晶の析出を抑制しつつ成形温度を下げることができる。
【0009】
以上の通り、磁気記録媒体基板用のガラスには、耐熱性、剛性およびガラス安定性に優れること、比重が低いこと、ならびに適度な熱膨張係数を有することが望まれる。
【0010】
そこで本発明の一態様は、耐熱性、剛性およびガラス安定性に優れ、比重が低く、かつ適度な熱膨張係数を有する磁気記録媒体基板用ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、モル%表示にて、
SiOの含有量が45~68%、
Alの含有量が5~20%、
SiOとAlの合計含有量(SiO+Al)が60~80%、
の含有量が0~5%、
MgOの含有量が3~28%、
CaOの含有量が0~18%、
BaOおよびSrOの合計含有量(BaO+SrO)が0~2%、
アルカリ土類金属酸化物の合計含有量(MgO+CaO+SrO+BaO)が12~30%、
アルカリ金属酸化物の合計含有量(LiO+NaO+KO)が3.5~15%、
であり、
Sn酸化物およびCe酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、Sn酸化物およびCe酸化物の合計含有量が0.05~2.00%であり、
ガラス転移温度が625℃以上、
ヤング率が83GPa以上、
比重が2.85以下、かつ
100~300℃における平均線膨張係数が48×10-7/℃以上である非晶質の酸化物ガラスである磁気記録媒体基板用ガラス、
に関する。
【0012】
上記磁気記録媒体基板用ガラスは、上記ガラス組成を有することにより、ガラス転移温度が625℃以上の高い耐熱性、ヤング率が83G以上の高い剛性、2.85以下の比重、および上記の適度な熱膨張係数を兼ね備えることができ、かつ優れたガラス安定性を示すことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、耐熱性および剛性に優れ、比重が低く、適度な熱膨張係数を有し、かつガラス安定性に優れる磁気記録媒体基板用ガラスを提供することができる。更に、一態様によれば、上記磁気記録媒体基板用ガラスからなる磁気記録媒体基板、およびこの基板を含む磁気記録媒体を提供することもできる。更に一態様によれば、磁気記録装置用ガラススペーサを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[磁気記録媒体基板用ガラス]
本発明の一態様は、上記ガラス組成を有し、ガラス転移温度が625℃以上、ヤング率が83GPa以上、比重が2.85以下、かつ100~300℃における平均線膨張係数が48×10-7/℃以上である非晶質の酸化物ガラスである磁気記録媒体基板用ガラス(以下、単に「ガラス」とも記載する。)に関する。
【0015】
上記ガラスは、非晶質のガラスであって、かつ酸化物ガラスである。非晶質のガラスとは、結晶化ガラスとは異なり、結晶相を含まず、昇温によりガラス転移現象を示すガラスである。また、酸化物ガラスとは、ガラスの主要ネットワーク形成成分が酸化物であるガラスである。
以下、上記ガラスについて、更に詳細に説明する。
【0016】
<ガラス組成>
本発明および本明細書では、ガラス組成を、酸化物基準のガラス組成で表示する。ここで「酸化物基準のガラス組成」とは、ガラス原料が熔融時にすべて分解されてガラス中で酸化物として存在するものとして換算することにより得られるガラス組成をいうものとする。また、特記しない限り、ガラス組成はモル基準(モル%、モル比)で表示するものとする。
本発明および本明細書におけるガラス組成は、例えばICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)等の方法により求めることができる。定量分析は、ICP-AESを用い、各元素別に行われる。その後、分析値は酸化物表記に換算される。ICP-AESによる分析値は、例えば、分析値の±5%程度の測定誤差を含んでいることがある。したがって、分析値から換算された酸化物表記の値についても、同様に±5%程度の誤差を含んでいることがある。
また、本発明および本明細書において、構成成分の含有量が0%または含まないもしくは導入しないとは、この構成成分を実質的に含まないことを意味し、この構成成分の含有量が不純物レベル程度以下であることを指す。不純物レベル程度以下とは、例えば、0.01%未満であることを意味する。
【0017】
以下に、上記ガラスのガラス組成について説明する。
【0018】
SiOは、ガラスのネットワーク形成成分であり、ガラス安定性を向上させる働きを有する。また、SiOは、化学的耐久性の向上にも寄与する成分である。上記ガラスにおけるSiOの含有量は、熱膨張係数の向上ならびに熔融性および成形性の維持の観点から、68%以下であり、65%以下であることが好ましく、64%以下であることがより好ましく、63%以下であることが更に好ましく、62%以下であることが一層好ましい。また、上記ガラスにおけるSiOの含有量は、耐熱性および化学的耐久性の維持の観点から、45%以上であり、48%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、52%以上であることが更に好ましく、53%以上であることが一層好ましく、54%以上であることがより一層好ましい。
【0019】
Alもガラスのネットワーク形成成分であり、耐熱性を向上させる働きを有する。また、Alは、化学的耐久性を向上させる働きも有する。耐熱性および化学的耐久性向上の観点から、上記ガラスにおけるAlの含有量は、5%以上であり、8%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、12%以上であることが更に好ましく、13%以上であることが一層好ましい。また、ガラス安定性向上の観点から、上記ガラスにおけるAlの含有量は、20%以下であり、18%以下であることが好ましく、17%以下であることがより好ましく、16%以下であることが更に好ましい。
【0020】
SiOおよびAlのそれぞれの含有量については、上記の通りである。更に、上記ガラスにおいて、SiOおよびAlの合計含有量(SiO+Al)は、ガラス構造を安定化する観点から60%以上であり、65%以上であることがより好ましく、67%以上であることが更に好ましく、69%以上であることが一層好ましく、70%以上であることがより一層好ましい。また、熔融時のガラスの粘性特性の観点から、上記ガラスにおけるSiOおよびAlの合計含有量(SiO+Al)は80%以下であり、78%以下であることが好ましく、77%以下であることがより好ましく、76%以下であることが更に好ましく、75%以下であることが一層好ましい。
【0021】
もガラスのネットワーク形成成分であり、ガラスの比重を低下させる成分であり、熔融性を向上させる成分でもある。しかしながら、Bは、熔融時に揮発しやすく、ガラス成分比率を不安定にしやすい。また、過剰導入により、化学的耐久性を低下させる傾向がある。以上の点から、上記ガラスにおけるBの含有量は、0~5%とする。Bの含有量は、3%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましく、1%以下であることが更に好ましく、0.5%以下であることが一層好ましく、0.3%以下であることがより一層好ましい。
【0022】
アルカリ土類金属酸化物であるMgO、CaO、SrOおよびBaOの中で、MgOは、ガラスのヤング率および比弾性率を高める働き、熱膨張係数を大きくする働き、ならびにガラスの熔融性や成形性を良化する働きを有する。なお比弾性率について詳細は後述する。上記の働きを良好に得る観点から、上記ガラスにおけるMgOの含有量は、3%以上であり、5%以上であることが好ましく、6%以上であることがより好ましく、7%以上であることが更に好ましく、8%以上であることが一層好ましい。また、化学的耐久性を維持する観点から、上記ガラスにおけるMgOの含有量は28%以下であり、26%以下であることが好ましく、23%以下であることがより好ましく、20%以下であることが更に好ましく、17%以下であることが一層好ましく、15%以下であることがより一層好ましい。
【0023】
上記ガラスにおけるCaOの含有量は0%以上である。CaOも、ガラスのヤング率および比弾性率を高める働き、熱膨張係数を大きくする働き、ならびにガラスの熔融性や成形性を良化する働きを有する。これらの働きを良好に得る観点から、上記ガラスにおけるCaOの含有量は、1%以上であることが好ましく、2%以上であることがより好ましく、3%以上であることが更に好ましく、4%以上であることが一層好ましく、5%以上であることがより一層好ましい。また、化学的耐久性を維持する観点から、上記ガラスにおけるCaOの含有量は18%以下であり、15%以下であることが好ましく、13%以下であることがより好ましく、12%以下であることが更に好ましい。
【0024】
SrOは、ガラスの熔融性、成形性およびガラス安定性を良化し、熱膨張係数を大きくする働きを有する。化学的耐久性の維持、低比重化および原料コストの低減の観点から、上記ガラスにおけるSrOの含有量は0~2%であることが好ましい。SrOの含有量のより好ましい範囲は0~1%、更に好ましい範囲は0~0.5%、SrOを含有しないこと、即ちSrOの含有量が0%であることが最も好ましい。
【0025】
BaOおよびSrOは、いずれもガラスの比重を上昇させる成分である。ガラスの低比重化の観点から、上記ガラスにおけるBaOおよびSrOの合計含有量(BaO+SrO)は0~2%であり、0~1%であることが好ましく、0~0.5%であることがより好ましく、BaOおよびSrOを含有しないこと、即ちBaOおよびSrOの合計含有量(BaO+SrO)が0%であることが最も好ましい。
【0026】
BaOもガラスの熔融性、成形性およびガラス安定性を良化し、熱膨張係数を大きくする働きを有する。化学的耐久性の維持、低比重化および原料コストの低減の観点からは、上記ガラスにおけるBaO含有量は0~2%であることが好ましく、0~1%であることがより好ましく、0~0.5%であることが更に好ましく、BaOを含有しないこと、即ちBaOの含有量が0%であることが最も好ましい。
【0027】
上記ガラスにおけるアルカリ土類金属酸化物の合計含有量(MgO+CaO+SrO+BaO)は、ガラスの熔融性、安定性の観点から12%以上であり、14%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましく、16%以上であることが更に好ましい。また、ガラスの化学的耐久性の観点から、上記ガラスにおけるアルカリ土類金属酸化物の合計含有量(MgO+CaO+SrO+BaO)は30%以下であり、28%以下であることが好ましく、26%以下であることがより好ましく、25%以下であることが更に好ましい。
【0028】
アルカリ土類金属酸化物の中で、MgOはガラスのヤング率および比弾性率を高める働きを有し、かつ比重の増大を抑えることに寄与する成分でもある。したがって、MgOは、ガラスの高ヤング率化、高比弾性率化および低比重化のために非常に有用な成分であり、特に高ヤング率化および低比重化に有効である。また、CaOもガラスのヤング率および比弾性率を高める働きを有し、比重の増大を抑えることに寄与する成分でもあり、かつガラスの熱膨張係数を大きくするためにも有効な成分である。一方、SrOとBaOは比重や原料コストを増大させる。以上の観点から、上記ガラスにおいて、アルカリ土類金属酸化物の合計含有量に対するMgOおよびCaOの合計含有量のモル比{(MgO+CaO)/(MgO+CaO+SrO+BaO)}は、0.75~1.00であることが好ましい。上記モル比の下限については、0.80以上であることがより好ましく、0.85以上であることが更に好ましく、0.90以上であることが一層好ましく、0.95以上であることがより一層好ましい。
【0029】
LiOは、アルカリ金属酸化物の中でもガラスの熔融性および成形性を向上させる働きが強く、また、ヤング率を増加させて磁気記録媒体基板に好適な剛性を付与させるために好適な成分である。LiOは、熱膨張係数を大きくする成分でもある。また、上記ガラスを化学強化用のガラスとする場合は、化学強化時のイオン交換を担う成分でもある。他方、LiOは、ガラス転移温度を低下させる成分でもある。以上の働きを考慮し、上記ガラスにおけるLiOの含有量は、0~10%であることが好ましい。LiOの含有量の下限については、0.5%以上であることがより好ましく、1.0%以上であることが更に好ましく、2.0%以上であることが一層好ましい。また、LiOの含有量の上限については、8%以下であることがより好ましく、7%以下であることが更に好ましく、6%以下であることが一層好ましい。
【0030】
NaOは、ガラスの熔融性および成形性を向上させ、熱膨張係数を大きくし、清澄時にはガラスの粘性を低下させて泡切れを促進させる働きを有する成分である。また、上記ガラスを化学強化用のガラスとする場合は、化学強化時のイオン交換を担う成分でもある。以上の働きを考慮し、上記ガラスにおけるNaOの含有量は、0~10%であることが好ましい。NaOの含有量の下限については、0.5%以上であることがより好ましく、1.0%以上であることが更に好ましく、2.0%以上であることが一層好ましい。また、NaOの含有量の上限については、8%以下であることがより好ましく、7%以下であることが更に好ましく、6%以下であることが一層好ましい。
【0031】
Oも、ガラスの熔融性および成形性を向上させる働きを有するとともに熱膨張係数を大きくする成分である。ただし、過剰に導入すると化学的耐久性、特に耐酸性が低下するとともに、ガラス基板としたときの基板表面からのアルカリ溶出が増大し、析出したアルカリが磁気記録層等の膜物性に影響を及ぼす可能性がある。以上の点を考慮し、上記ガラスにおけるKOの含有量は0~5%であることが好ましく、0~3%であることがより好ましく、0~2%であることが更に好ましく、0~1%であることが一層好ましく、KOを含有しないことが最も好ましい。
【0032】
LiO、NaOおよびKOは、上記のようにガラスの熔融性および成形性を向上させ、熱膨張係数を大きくする成分である。これら成分の働きを良好に得る観点から、上記ガラスにおけるアルカリ金属酸化物の合計含有量(LiO+NaO+KO)は3.5%以上であり、4%以上であることがより好ましい。一方、ガラスの耐熱性および化学的耐久性を維持する観点から、上記ガラスにおけるアルカリ金属酸化物の合計含有量(LiO+NaO+KO)は15%以下であり、13%以下であることが好ましく、12%以下であることがより好ましく、11%以下であることが更に好ましい。なおガラスがアルカリ金属酸化物を2種以上含有することにより、混合アルカリ効果によって、ガラス表面からのアルカリの溶出を低減ないし防止する効果を得ることができる。
【0033】
LiOは、アルカリ金属酸化物の中でもガラスのヤング率を増加させるとともに、熱膨張係数を大きくするためにより効果的に寄与する成分である。そこで、一態様では、ヤング率の増加や熱膨張係数の向上の観点から、アルカリ金属酸化物の合計含有量に対するLiO含有量のモル比{LiO/(LiO+NaO+KO)}が0.4~1であることが好ましい。モル比{LiO/(LiO+NaO+KO)}が上記範囲である上記ガラスの一態様では、90GPa以上のヤング率を得ることができる。一態様では、モル比{LiO/(LiO+NaO+KO)}の下限については、0.5以上であることがより好ましく、0.6以上であることが更に好ましく、0.7以上であることが一層好ましく、0.8以上であることがより一層好ましい。
【0034】
NaOは、アルカリ金属酸化物の中でもガラスの熔融性および成形性を向上させ、熱膨張係数を大きくするためにより効果的に寄与する成分である。更に、NaOはLiOに比べてガラス転移温度が低下する影響が小さい。そこで、一態様では、耐熱性の向上や熱膨張率向上の観点から、アルカリ金属酸化物の合計含有量に対するNaO含有量のモル比{NaO/(LiO+NaO+KO)}が0.4~1であることが好ましい。モル比{NaO/(LiO+NaO+KO)}が上記範囲である上記ガラスの一態様では、ガラス転移温度を690℃以上とすることができる。一態様では、モル比{NaO/(LiO+NaO+KO)}の下限については、0.5以上であることがより好ましく、0.6以上であることが更に好ましく、0.7以上であることが一層好ましく、0.8以上であることがより一層好ましい。
【0035】
TiOは、ガラス安定性や化学的耐久性を向上させると共に、ヤング率を高める働きを有するが、過剰に導入するとガラスの液相温度が上昇し、耐失透性の悪化や比重の上昇を招く場合がある。したがって、上記ガラスにおけるTiOの含有量は0~8%であることが好ましく、0~6%であることがより好ましく、0~5%であることが更に好ましく、0~4%であることが一層好ましく、0~3%であることがより一層好ましく、0~2%であることが更により一層好ましい。
【0036】
HfO、Nb、Ta、LaおよびYは、化学的耐久性、特に耐アルカリ性を向上させる働きを有する。ただし、過剰導入により熔融性が悪化し、比重が増加する場合がある。したがって、熔融性を維持しつつ、化学的耐久性、特に耐アルカリ性を向上させる観点から、HfO、Nb、Ta、LaおよびYの合計含有量(HfO+Nb+Ta+La+Yの)は0~5%であることが好ましい。その下限については、0.3%以上であることが好ましく、0.5%以上であることがより好ましく、1.0%以上であることが更に好ましい。また、その上限については、5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、2%以下であることが更に好ましい。
【0037】
ZrOは、化学的耐久性を向上させる働きを有すると共に、ヤング率を高める働きも有する。ただし、過剰導入によりガラスの熔融性が低下し、原料の熔けの残りが生じる場合がある。したがって、上記ガラスにおけるZrOの含有量は、0~5%であることが好ましく、0~3%であることがより好ましく、0~2%であることが更に好ましく、0~1%であることが一層好ましい。
【0038】
ZnOは、熔融性を向上させると共にヤング率を高める働きを有するが、過剰導入によって液相温度が上昇するため、上記ガラスにおけるZnOの含有量は0~3%であることが好ましい。ZnOの含有量は、0~2%であることがより好ましく、0~1%であることが更に好ましく、0%であってもよい。
【0039】
は、少量導入することができるが、過剰導入により化学的耐久性が低下する傾向があるため、上記ガラスにおけるPの含有量は0~2%であることが好ましい。Pの含有量は、0~1%であることがより好ましく、Pを含有しないこと、即ちPの含有量が0%であることが更に好ましい。
【0040】
上記ガラスは、清澄効果を得る観点から、Sn酸化物およびCe酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、かつSn酸化物およびCe酸化物の合計含有量は0.05%~2.00%である。Sn酸化物およびCe酸化物の合計含有量が0.05%以上であることにより、十分な清澄効果を得ることができ、泡の残存を低減ないし抑制することができる。また、上記合計含有量が2.00%以下であることにより、ガラス熔解時に熔融ガラスが吹き上がり生産性が低下することを防ぐことができる。Sn酸化物およびCe酸化物の合計含有量の下限については、0.10%以上であることが好ましく、0.15%以上であることがより好ましく、0.20%以上であることが更に好ましい。また、Sn酸化物およびCe酸化物の合計含有量の上限については、1.50%以下であることが好ましく、1.20%以下であることがより好ましく、1.00%以下であることが更に好ましい。
【0041】
Sn酸化物は、ガラスの熔融温度が比較的高い状態(1400~1600℃程度の温度域)での清澄を促進させる働きを有する。Sbや亜砒酸等の環境に悪影響を及ぼす清澄剤の使用が制限される中、ガラス転移温度の高いガラスの泡の除去をするために、上記ガラスにSn酸化物(例えば、SnO)を導入することが好ましい。Sn酸化物の含有量は、清澄効果を得る観点から、0.01%以上であることが好ましく、0.05%以上であることがより好ましく、0.10%以上であることが更に好ましく、0.15%以上であることが一層好ましく、0.20%以上であることがより一層好ましい。また、Sn酸化物の含有量は、2.00%以下であることが好ましく、1.50%以下であることがより好ましく、1.00%以下であることが更に好ましく、0.80%以下であることが一層好ましい。
【0042】
Ce酸化物は、Sn酸化物と同様にガラスの清澄作用を示す成分である。Ce酸化物は、ガラスの熔融温度が比較的低い状態(1200~1400℃程度の温度域)で酸素を取り込んでガラス成分として定着させる働きがあり、清澄剤として上記ガラスにCe酸化物(例えば、CeO)を導入することが好ましい。Ce酸化物の含有量は、清澄効果を得る観点から、0.01%以上であることが好ましく、0.05%以上であることがより好ましく、0.10%以上であることが更に好ましく、0.20%以上であることが一層好ましい。また、Ce酸化物の含有量は、1.00%以下であることが好ましく、0.80%以下であることがより好ましく、0.50%以下であることが更に好ましく、0.40%以下であることが一層好ましい。
【0043】
上記ガラスは、Sn酸化物およびCe酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、Sn酸化物およびCe酸化物の中で、一態様ではSn酸化物のみ含み、他の一態様ではCe酸化物のみ含み、また他の一態様ではSn酸化物およびCe酸化物の両方を含む。特に上記ガラスにSn酸化物とCe酸化物とを共存させることにより、広い温度域での清澄作用を得ることができるので、上記ガラスはSn酸化物およびCe酸化物の両方を含むことが好ましい。
【0044】
清澄剤として従来広く用いられていたSbは、環境負荷低減の観点から、使用を控えることが望ましい。そこで上記ガラスにおけるSbの含有量は、0~0.5%の範囲であることが好ましい。Sbの含有量は、0.2%以下であることがより好ましく、0.1%以下であることが更に好ましく、0.05%以下であることが一層好ましく、0.02%以下であることがより一層好ましく、Sbを含まないことが特に好ましい。
【0045】
上記ガラスは、Feを、Feに換算して、0.5%以下程度含むことができる。Feの含有量は、Feに換算して、0.2%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがより好ましく、0.05%以下であることが更に好ましく、Feを含有しないことが一層好ましい。
【0046】
Pb、Cd、As等は環境に悪影響を与える物質なので、これらの導入は避けることが好ましい。
【0047】
上記ガラスは、所定のガラス組成が得られるように、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、水酸化物等のガラス原料を秤量、調合し、十分混合して、熔融容器内で、例えば1400~1600℃の範囲で加熱、熔解し、清澄、攪拌して十分泡切れがなされた均質化した熔融ガラスを成形することにより作製することができる。例えば、ガラス原料を熔解槽において1400~1550℃で加熱して熔解し、得られた熔融ガラスを清澄槽において昇温して1450~1600℃に保持した後、降温して1200~1400℃でガラスを流出し成形することが好ましい。
【0048】
<ガラス特性>
上記ガラスは、以上記載した組成調整を行うことにより、以下に記載する各種ガラス特性を有することができる。
【0049】
(ガラス転移温度)
先に記載したように、磁気記録媒体基板は、通常、基板上に磁気記録層を形成する工程で高温処理に付される。例えば、磁気記録媒体の高密度記録化のために近年開発されている磁気異方性エネルギーが高い磁性材料を含む磁気記録層を形成するためには、通用、高温で成膜が行われるか、または成膜後に高温で熱処理が行われる。磁気記録媒体基板がこのような高温処理に耐え得る耐熱性を有さないと、高温処理において高温に晒されて基板の平坦性が損なわれてしまう。これに対し、上記ガラスは、耐熱性の指標であるガラス転移温度(以下、「Tg」とも記載する。)が625℃以上である。ガラス転移温度が625℃以上である高い耐熱性を有するガラスからなる基板であれば、高温処理後にも優れた平坦性を維持することができる。ただし、上記ガラスは、高温処理を必要とする磁性材料を含む磁気記録層を有する磁気記録媒体の基板用ガラスに限定されるものではなく、各種磁性材料を備えた磁気記録媒体の作製に用いることができる。ガラス転移温度は、630℃以上であることが好ましく、640℃以上であることがより好ましく、650℃以上であることが更に好ましく、660℃以上であることが一層好ましく、670℃以上であることがより一層好ましく、675℃以上であることが更に一層好ましく、680℃以上であることが更により一層好ましい。また、ガラス転移温度の上限は、例えば770℃程度であるが、ガラス転移温度が高いほど耐熱性の観点から好ましいため、特に限定されるものではない。
【0050】
(ヤング率)
先に記載した磁気記録媒体の剛性向上に対する要求に対応するために、磁気記録媒体基板用ガラスは高い剛性を有することが望ましい。この点に関して、上記ガラスは、剛性の指標であるヤング率が83G以上である。83G以上のヤング率を示す高い剛性を有する磁気記録媒体基板用ガラスによれば、スピンドルモータの回転中の基板変形を抑制することができるため、基板変形に伴う磁気記録媒体の反りやたわみも抑制することができる。上記ガラスのヤング率は、85GPa以上であることが好ましく、86GPa以上であることがより好ましく、88GPa以上であることが更に好ましく、90GPa以上であることが一層好ましい。ヤング率の上限は、例えば120GPa程度であるが、ヤング率が高いほど剛性が高く好ましいため特に限定されるものではない。
【0051】
(比重)
上記ガラスの比重は2.85以下であり、2.80以下であることが好ましく、2.75以下であることがより好ましく、2.70以下であることが更に好ましく、2.65以下であることが一層好ましい。磁気記録媒体基板用ガラスの低比重化により、磁気記録媒体基板を軽量化することができ、更には磁気記録媒体の軽量化、これによりHDDの消費電力抑制が可能になる。比重の下限は、例えば2.40程度であるが、比重が低いほど好ましいため特に限定されるものではない。
【0052】
(比弾性率)
比弾性率は、ガラスのヤング率を密度で除したものである。ここで密度とはガラスの比重に、g/cmという単位を付けた値と考えればよい。より変形しにくい基板を提供する観点から、上記ガラスの比弾性率は31MNm/kg以上であることが好ましく、33MNm/kg以上であることがより好ましく、34MNm/kg以上であることが更に好ましい。比弾性率の上限は、例えば40MNm/kg程度であるが、比弾性率が高いほど好ましいため特に限定されるものではない。
【0053】
(熱膨張係数)
磁気記録媒体の信頼性向上の観点からは、先に記載したように磁気記録媒体基板用ガラスは適度な熱膨張係数を有することが望ましい。一般にHDDのスピンドル材料は、100~300℃の温度範囲において70×10-7/℃以上の平均線膨張係数(熱膨張係数)を有するものであり、磁気記録媒体基板用ガラスの100~300℃における平均線膨張係数が48×10-7/℃以上であれば、スピンドル材料との熱膨張係数の差が少なく磁気記録媒体の信頼性向上に寄与することができる。上記ガラスの100~300℃における平均線膨張係数(以下、「α」とも記載する。)は48×10-7/℃以上であり、50×10-7/℃以上であることがより好ましく、51×10-7/℃以上であることが更に好ましい。また、上記ガラスの100~300℃における平均線膨張係数(α)は、90×10-7/℃以下であることが好ましい。
【0054】
(ガラス安定性)
上記ガラスは、高いガラス安定性を示すことができる。ガラス安定性の評価方法としては、詳細を後述する1300℃16時間保持テストおよび1250℃16時間保持テストを挙げることができる。1300℃16時間保持テストにおいて評価結果Aであることが好ましく、1300℃16時間保持テストにおいて評価結果Aであって、かつ1250℃16時間保持テストにおいて評価結果AまたはBであることがより好ましく、両保持テストにおいて評価結果Aであることが更に好ましい。
【0055】
(泡密度)
上記ガラスは、先に記載した組成調整により、泡の低減も可能である。ガラス中の泡に関しては、単位質量あたりの泡の密度が、光学顕微鏡(倍率40~100倍)により観察される直径0.03mm超の泡の密度として、好ましくは50個/kg未満であり、より好ましくは20個/kg未満であり、更に好ましくは10個/kg未満であり、一層好ましくは2個/kg以下であり、最も好ましくは0個/kgである。
【0056】
[磁気記録媒体基板]
本発明の一態様にかかる磁気記録媒体基板は、上記磁気記録媒体基板用ガラスからなる。
【0057】
磁気記録媒体基板は、ガラス原料を加熱することにより熔融ガラスを調製し、この熔融ガラスをプレス成形法、ダウンドロー法またはフロート法のいずれかの方法により板状に成形し、得られた板状のガラスを加工する工程を経て製造することができる。例えば、プレス成形方法では、ガラス流出パイプから流出する熔融ガラスを所定体積に切断し、所要の熔融ガラス塊を得て、これをプレス成形型でプレス成形して薄肉円盤状の基板ブランクを作製する。次いで、得られた基板ブランクに中心孔を設けたり、内外周加工、両主表面にラッピング、ポリッシングを施す。次いで、酸洗浄およびアルカリ洗浄を含む洗浄工程を経て、ディスク状の基板を得ることができる。
【0058】
上記磁気記録媒体基板は、一態様では、表面および内部の組成が均質である。ここで、表面および内部の組成が均質とは、イオン交換が行われていない(即ち、イオン交換層を有さない)ことを意味する。例えば、磁気記録媒体を組み込んだHDD(ハードディスクドライブ)が外部衝撃を受け難い環境下で用いられる場合等において、イオン交換層を有さない磁気記録媒体基板を用いることができる。なお、イオン交換層を有さない磁気記録媒体基板は、イオン交換処理を施していないため、製造コストを大幅に低減できる。
【0059】
また、上記磁気記録媒体基板は、一態様では、表面の一部または全部に、イオン交換層を有する。イオン交換層は圧縮応力を示すため、イオン交換層の有無は、主表面に対して垂直に基板を破断し、破断面においてバビネ法により応力プロファイルを得ることによって確認することができる。「主表面」とは、基板の磁気記録層が設けられる面または設けられている面である。こうした面は、磁気記録媒体基板の表面のうち、最も面積の広い面であることから、主表面と呼ばれ、ディスク状の磁気記録媒体の場合、ディスクの円形状の表面(中心孔がある場合は中心孔を除く。)に相当する。また、イオン交換層の有無は、基板表面からアルカリ金属イオンの深さ方向の濃度分布を測定する方法等によっても確認することができる。
【0060】
イオン交換層は、高温下、基板表面にアルカリ塩を接触させ、このアルカリ塩中のアルカリ金属イオンと基板中のアルカリ金属イオンを交換させることにより形成することができる。イオン交換(「強化処理」、「化学強化」とも呼ばれる。)については、公知技術を適用することができ、一例として、WO2011/019010A1の段落0068~0069を参照できる。
【0061】
上記磁気記録媒体基板は、例えば厚みが1.5mm以下、好ましくは1.2mm以下、より好ましくは1mm以下であり、厚みの下限は好ましくは0.3mmである。また、上記磁気記録媒体基板は、好ましくは中心孔を有するディスク形状である。
【0062】
上記磁気記録媒体基板は、非晶質ガラスからなる。非晶質ガラスによれば、結晶化ガラスと比べて基板に加工したとき優れた表面平滑性を実現できる。
【0063】
[磁気記録媒体]
本発明の一態様は、上記磁気記録媒体基板上に磁気記録層を有する磁気記録媒体に関する。
【0064】
磁気記録媒体は、磁気ディスク、ハードディスク等と呼ばれ、各種磁気記録再生装置、例えば、デスクトップパソコン、サーバ用コンピュータ、ノート型パソコン、モバイル型パソコンなどの内部記憶装置(固定ディスクなど)、画像および/または音声を記録再生する携帯記録再生装置の内部記憶装置、車載オーディオの記録再生装置などに好適である。本発明および本明細書において、「磁気記録再生装置」とは、磁気的に情報の記録を行うこと、磁気的に情報の再生を行うこと、の一方または両方が可能な装置をいうものとする。
【0065】
磁気記録媒体は、例えば、磁気記録媒体基板の主表面上に、主表面に近いほうから順に、少なくとも付着層、下地層、磁性層(磁気記録層)、保護層、潤滑層が積層された構成になっている。
例えば、磁気記録媒体基板を、真空引きを行った成膜装置内に導入し、DC(Direct Current)マグネトロンスパッタリング法にてAr雰囲気中で、磁気記録媒体基板の主表面上に付着層から磁性層まで順次成膜する。付着層としては例えばCrTi、下地層としては例えばCrRuを用いることができる。上記成膜後、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法によりCを用いて保護層を成膜し、同一チャンバ内で、表面に窒素を導入する窒化処理を行うことにより、磁気記録媒体を形成することができる。その後、例えばPFPE(ポリフルオロポリエーテル)をディップコート法により保護層上に塗布することにより、潤滑層を形成することができる。
【0066】
磁気記録媒体のより一層の高密度記録化のためには、磁気記録層は、磁気異方性エネルギーの高い磁性材料を含むことが好ましい。この点から好ましい磁性材料としては、Fe-Pt系磁性材料またはCo-Pt系磁性材料を挙げることができる。なおここで「系」とは、含有することを意味する。即ち、上記磁気記録媒体は、磁気記録層としてFeおよびPt、またはCoおよびPtを含む磁気記録層を有することが好ましい。かかる磁性材料を含む磁気記録層およびその成膜方法については、WO2011/019010A1の段落0074および同公報の実施例の記載を参照できる。また、そのような磁気記録層を有する磁気記録媒体は、エネルギーアシスト記録方式と呼ばれる記録方式による磁気記録装置に適用することが好ましい。エネルギーアシスト記録方式の中で、レーザー光等の照射により磁化反転をアシストする記録方式は熱アシスト記録方式、マイクロ波によりアシストする記録方式はマイクロ波アシスト記録方式と呼ばれる。それらの詳細については、WO2011/019010A1の段落0075を参照できる。
【0067】
ところで近年、磁気ヘッドへDFH(Dynamic Flying Height)機構を搭載させることにより、磁気ヘッドの記録再生素子部と磁気記録媒体表面との間隙の大幅な狭小化(低浮上量化)を達成し、更なる高記録密度化を図ることが行われている。DFH機構とは、磁気ヘッドの記録再生素子部の近傍に極小のヒーター等の加熱部を設けて、素子部周辺のみを媒体表面方向に向けて突き出す機能である。こうすることで、磁気ヘッドと媒体の磁気記録層との距離(フライングハイト)が近づくため、より小さい磁性粒子の信号も拾うことができるようになり、更なる高記録密度化を達成することが可能となる。しかしその一方で、磁気ヘッドの素子部と媒体表面との間隙(フライングハイト)が極めて小さくなる。磁気記録媒体基板の表面に泡に起因する凹凸が存在すると、磁気記録媒体の表面にこの凹凸が反映され、磁気記録媒体の表面平滑性は低下してしまう。表面平滑性に劣る磁気記録媒体表面に磁気ヘッドを近接させると、磁気ヘッドが磁気記録媒体表面に接触して磁気ヘッドが破損するおそれがあるため、接触を防ぐためにフライングハイトをある程度確保せざるを得ない。以上の点から、磁気記録媒体基板には、高い表面平滑性を有する磁気記録媒体を作製すべく基板の泡を低減することが望ましい。基板の泡を低減することは、フライングハイトの狭小化を可能にするからである。上記磁気記録媒体基板は、好ましくは泡が低減されているため、かかる基板を備えた上記磁気記録媒体は、フライングハイトが極狭小化されたDFH機構を搭載した磁気記録装置にも好適である。
【0068】
上記磁気記録媒体基板(例えば磁気ディスク基板)、磁気記録媒体(例えば磁気ディスク)とも、その寸法に特に制限はないが、例えば、高記録密度化が可能であるため媒体および基板を小型化することも可能である。例えば、公称直径2.5インチは勿論、更に小径(例えば1インチ、1.8インチ)、または3インチ、3.5インチ等の寸法のものとすることができる。
【0069】
[磁気記録再生装置用ガラススペーサ]
本発明の一態様は、
モル%表示にて、
SiOの含有量が45~68%、
Alの含有量が5~20%、
SiOとAlの合計含有量(SiO+Al)が60~80%、
の含有量が0~5%、
MgOの含有量が3~28%、
CaOの含有量が0~18%、
BaOおよびSrOの合計含有量(BaO+SrO)が0~2%、
アルカリ土類金属酸化物の合計含有量(MgO+CaO+SrO+BaO)が12~30%、
アルカリ金属酸化物の合計含有量(LiO+NaO+KO)が3.5~15%、
であり、
Sn酸化物およびCe酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、Sn酸化物およびCe酸化物の合計含有量が0.05~2.00%であり、
ガラス転移温度が625℃以上、
ヤング率が83GPa以上、
比重が2.85以下、かつ
100~300℃における平均線膨張係数が48×10-7/℃以上である非晶質の酸化物ガラスからなる磁気記録再生装置用ガラススペーサ、
に関する。
【0070】
磁気記録媒体は、磁気記録再生装置において、情報を磁気的に記録および/または再生するために用いることができる。磁気記録再生装置は、通常、磁気記録媒体をスピンドルモータのスピンドルに固定するため、および/または、複数の磁気記録媒体の間の距離を保つために、スペーサを備えている。近年、かかるスペーサとして、ガラススペーサを用いることが提案されている。このガラススペーサにも、磁気記録媒体基板用のガラスについて先に詳述した理由と類似の理由から、耐熱性、剛性およびガラス安定性に優れること、比重が低いこと、ならびに適度な熱膨張係数を有することが望まれる。これに対し、上記ガラスは、先に本発明の一態様にかかる磁気記録媒体基板用ガラスについて詳述した通り、優れた耐熱性、剛性およびガラス安定性、低い比重、ならびに適度な熱膨張係数を有することができるため、磁気記録再生装置用ガラススペーサとして好適である。
【0071】
磁気記録再生装置用のスペーサはリング状の部材であって、ガラススペーサの構成、製造方法等の詳細は公知である。また、ガラススペーサの製造方法については、磁気記録媒体基板用ガラスの製造方法および磁気記録媒体基板の製造方法に関する上記記載も参照できる。また、本発明の一態様にかかる磁気記録再生装置用ガラススペーサのガラス組成、ガラス特性等のその他の詳細については、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体基板用ガラス、磁気記録媒体基板および磁気記録媒体に関する上記記載を参照できる。
なお、磁気記録媒体の回転時に生じる静電気を除去するために、ガラスペーサの表面に、浸漬法、蒸着法、スパッタリング法等により導電性膜を形成することもできる。また、ガラススペーサは、研磨加工により表面平滑性を高くすることができ(例えば、平均表面粗さが1μm以下)、これにより磁気記録媒体とスペーサとの密着度を強めて位置ずれの発生を抑制することができる。
【0072】
[磁気記録再生装置]
本発明の一態様は、
本発明の一態様にかかる磁気記録媒体;および
本発明の一態様にかかるガラススペーサ、
の少なくとも一方を含む磁気記録再生装置、
に関する。
【0073】
磁気記録再生装置は、少なくとも1つの磁気記録媒体と、少なくとも1つのスペーサを含み、更に、通常、磁気記録媒体を回転駆動させるためのスピンドルモータと、磁気記録媒体に対して情報の記録および/または再生を行うための少なくとも1つの磁気ヘッドを含む。
上記の本発明の一態様にかかる磁気記録再生装置は、少なくとも1つの磁気記録媒体として本発明の一態様にかかる磁気記録媒体を含むことができ、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体を複数含むこともできる。上記の本発明の一態様にかかる磁気記録再生装置は、少なくとも1つのスペーサとして本発明の一態様にかかるガラススペーサを含むことができ、本発明の一態様にかかるガラススペーサを複数含むこともできる。磁気記録媒体の熱膨張係数とスペーサの熱膨張係数との差が小さいことは、両者の熱膨張係数の差に起因して生じ得る現象、例えば、磁気記録媒体の歪み、磁気記録媒体の位置ずれによる回転時の安定性の低下等、の発生を抑制する観点から好ましい。この観点から、本発明の一態様にかかる磁気記録再生装置は、少なくとも1つの磁気記録媒体として、また複数の磁気記録媒体が含まれる場合にはより多くの磁気記録媒体として、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体を含み、かつ、少なくとも1つのスペーサとして、また複数のスペーサが含まれる場合にはより多くのスペーサとして、本発明の一態様にかかるガラススペーサを含むことが好ましい。また、例えば、本発明の一態様にかかる磁気記録再生装置は、磁気記録媒体に含まれる磁気記録媒体基板を構成するガラスと、ガラススペーサを構成するガラスとが、同一のガラス組成を有するものであることができる。
【0074】
本発明の一態様にかかる磁気記録再生装置は、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体および本発明の一態様にかかるガラススペーサの少なくとも一方を含むものであればよく、その他の点については磁気記録再生装置に関する公知技術を適用することができる。一態様では、磁気ヘッドとして、磁化反転をアシスト(磁気信号の書き込みを補助)するためのエネルギー源(例えばレーザー光源等の熱源、マイクロ波等)と、記録素子部と、再生素子部とを有するエネルギーアシスト磁気記録ヘッドを用いることができる。このような、エネルギーアシスト磁気記録ヘッドを含むエネルギーアシスト記録方式の磁気記録再生装置は、高記録密度かつ高い信頼性を有する磁気記録再生装置として有用である。また、レーザー光源等を有する熱アシスト磁気記録ヘッドを備えた熱アシスト記録方式等のエネルギーアシスト記録方式の磁気記録再生装置に用いられる磁気記録媒体の製造時には、磁気異方性エネルギーが高い磁性材料を含む磁気記録層を磁気記録媒体基板上に形成することが行われる場合がある。このような磁気記録層を形成するためには、通常、高温で成膜が行われるか、または成膜後に高温で熱処理が行われる。このような高温での処理に耐え得る高い耐熱性を有し得る磁気記録媒体基板として、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体基板は好ましい。ただし、本発明の一態様にかかる磁気記録再生装置は、エネルギーアシスト方式の磁気記録再生装置に限定されるものではない。
【実施例0075】
以下に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。ただし、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0076】
[実施例No.1~No.47、比較例1~5、参考例1]
表1に示す組成のガラスが得られるように、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等の原料を秤量し、混合して調合原料とした。この調合原料を熔融槽に投入して1400~1600℃の範囲で加熱、熔解して得られた熔融ガラスを、清澄槽において1400~1550℃で6時間保持した後、温度を低下(降温)させて1200~1400℃の範囲に1時間保持してから熔融ガラスを成形して、下記評価のためのガラス(非晶質の酸化物ガラス)を得た。
【0077】
[評価方法]
(1)ガラス転移温度(Tg)、平均線膨張係数(α)
各ガラスのガラス転移温度Tgおよび100~300℃における平均線膨張係数αを、熱機械分析装置(TMA;Thermomechanical Analysis)を用いて測定した。
【0078】
(2)ヤング率
各ガラスのヤング率を超音波法にて測定した。
【0079】
(3)比重
各ガラスの比重をアルキメデス法にて測定した。
【0080】
(4)比弾性率
上記(2)で得られたヤング率および(3)で得られた比重から、比弾性率を算出した。
【0081】
(5)ガラス安定性
各ガラス100gを白金製の坩堝に入れて、炉内温度を1250℃または1300℃に設定した加熱炉内に各坩堝を投入し、炉内温度を維持したまま16時間放置(保持テスト)した。16時間経過後、加熱炉内から坩堝を取り出し、坩堝内のガラスを耐火物上に移して室温まで冷却し、各ガラスの結晶の有無を光学顕微鏡で観察し、以下の基準で評価した。
A:光学顕微鏡で拡大観察(倍率40~100倍)して結晶が確認されない。
B:光学顕微鏡で拡大観察(倍率40~100倍)して結晶が確認されるが、目視観察で結晶が確認されない。
C:目視観察で結晶が確認される。
【0082】
(6)泡密度ランクの評価
上記で得られた熔融ガラスから厚さ約1.2mmのガラス板(基板ブランク)を作製した。このガラス板の表面を平坦かつ平滑に研磨し、研磨面からガラス内部を光学顕微鏡で拡大観察(倍率40~100倍)し、直径が0.03mm超の泡(以下、単に「泡」と記載する。)の数をカウントした。拡大観察した領域に相当するガラスの質量で、カウントした泡の数を割ったものを泡の密度とした。
泡密度ランクを、上記方法で求めた泡の密度に応じてSランク~Fランクで評価した。具体的には、泡密度が0個/kgのものをSランク、泡が存在し、泡密度が2個/kg以下のものをAランク、泡密度が2個/kg超10個/kg未満のものをBランク、泡密度が10個/kg以上20個/kg未満のものをCランク、泡密度が20個/kg以上50個/kg未満のものをDランク、泡密度が50個/kg以上80個未満のものをEランク、泡密度が80個/kg以上のものをFランクとした。
【0083】
以上の結果を表1(表1-1~表1-6)に示す。
【0084】
【表1-1】
【0085】
【表1-2】
【0086】
【表1-3】
【0087】
【表1-4】
【0088】
【表1-5】
【0089】
【表1-6】
【0090】
表1に示す結果から、実施例の磁気記録媒体基板用ガラスは、いずれも耐熱性および剛性に優れ、低比重であり、適度な熱膨張係数を有し、かつガラス安定性に優れることが確認された。
ガラス安定性に関して、上記方法により行われる保持テストにおいて、より低い温度で評価結果が良好なほど、熔融状態で結晶が析出しにくいガラスであり、成形温度を下げて成形することができる。成形温度を下げるほど、発熱体、炉体、パイプ等の成形装置の構成部材の寿命を延ばすことができる。特に、プレス成形により基板ブランクを作製する場合には、成形温度は低いほど好ましい。また、成形温度を下げることができれば、ガラス粘度を上げて成形することができるため、揮発、脈理および成形泡の発生を抑制することができる。
一方、比較例1の磁気記録媒体基板用ガラスは、特開2010-64921号公報(特許文献1)の実施例9、比較例2の磁気記録媒体基板用ガラスは同公報の実施例18、比較例3の磁気記録媒体基板用ガラスは同公報の実施例27、比較例4の磁気記録媒体基板用ガラスは同公報の実施例29、比較例5の磁気記録媒体基板用ガラスは同公報の実施例30の組成を有する。比較例1の磁気記録媒体基板用ガラスはSiOおよびAlの合計含有量が過剰であり、比較例4および比較例5の磁気記録媒体基板用ガラスは、SiOの含有量ならびにSiOおよびAlの合計含有量が過剰である。更に、比較例4および比較例5の磁気記録媒体基板用ガラスは、アルカリ土類酸化物の合計含有量が少ない。また、比較例1~3の磁気記録媒体基板用ガラスは、アルカリ金属酸化物を含まないか、またはアルカリ金属酸化物の含有量が少ない。かかる比較例1~5の磁気記録媒体基板用ガラスは、いずれも熱膨張係数が低く、しかもガラス安定性に劣っていた。
また、表1に示す実施例のガラスは、いずれも泡密度ランクがS、AまたはBであり、泡の発生が抑制されていることも確認された。
これに対し、Sn酸化物およびCe酸化物の合計含有量が0.05質量%を下回る参考例1の磁気記録媒体基板用ガラスは、泡の発生が顕著(泡密度ランクE)であった。
【0091】
[磁気記録媒体基板の作製]
(1)基板ブランクの作製
次に、下記方法AまたはBにより、円盤状の基板ブランクを作製した。また、同様の方法により、磁気記録再生装置用ガラススペーサ作製のためのガラスブランクを得ることができる。
(方法A)
清澄、均質化した上述の実施例の熔融ガラスを流出パイプから一定流量で流出するとともにプレス成形用の下型で受け、下型上に所定量の熔融ガラス塊が得られるよう流出した熔融ガラスを切断刃で切断した。そして熔融ガラス塊を載せた下型をパイプ下方から直ちに搬出し、下型と対向する上型および胴型を用いて、直径66mm、厚さ1.2mmの薄肉円盤状にプレス成形した。プレス成形品を変形しない温度にまで冷却した後、型から取り出してアニールし、基板ブランクを得た。なお、上述の成形では複数の下型を用いて流出する熔融ガラスを次々に円盤状の基板ブランクに成形した。
(方法B)
清澄、均質化した上述の実施例の熔融ガラスを円筒状の貫通孔が設けられた耐熱性鋳型の貫通孔に上部から連続的に鋳込み、円柱状に成形して貫通孔の下側から取り出した。取り出したガラスをアニールした後、マルチワイヤーソーを用いて円柱軸に垂直な方向に一定間隔でガラスをスライス加工し、円盤状の基板ブランクを作製した。
なお、本実施例では上述の方法A、Bを採用したが、円盤状の基板ブランクの製造方法としては、下記方法C、Dも好適である。また、下記方法C、Dは、磁気記録再生装置用ガラススペーサ作製のためのガラスブランクの製造方法としても好適である。
(方法C)
上述の実施例の熔融ガラスをフロートバス上に流し出し、シート状のガラスに成形(フロート法による成形)し、次いでアニールした後にシートガラスから円盤状のガラスをくり貫いて基板ブランクを得ることもできる。
(方法D)
上述の実施例の熔融ガラスをオーバーフローダウンドロー法(フュージョン法)によりシート状のガラスに成形、アニールし、次いでシートガラスから円盤状のガラスをくり貫いて基板ブランクを得ることもできる。
【0092】
(2)ガラス基板の作製
上述の各方法で得られた基板ブランクの中心に貫通孔をあけて、外周、内周の研削加工を行い、円盤の主表面をラッピング、ポリッシング(鏡面研磨加工)して直径65mm、厚さ0.8mmの磁気ディスク用ガラス基板に仕上げた。また、同様の方法により、磁気記録再生装置用ガラススペーサ作製のためのガラスブランクを、磁気記録再生装置用ガラススペーサに仕上げることができる。
上記で得られたガラス基板は、1.7質量%の珪弗酸(H2SiF)水溶液、次いで、1質量%の水酸化カリウム水溶液を用いて洗浄し、次いで純水ですすいだ後に乾燥させた。実施例のガラスから作製した基板の表面を拡大観察したところ、表面荒れなどは認められず、平滑な表面であった。
【0093】
[磁気記録媒体(磁気ディスク)の作製]
以下の方法により、実施例のガラスから得られたガラス基板の主表面上に、付着層、下地層、磁気記録層、保護層、潤滑層をこの順に形成し、磁気ディスクを得た。
【0094】
まず、真空引きを行った成膜装置を用いて、DCマグネトロンスパッタリング法にて、Ar雰囲気中で、付着層、下地層および磁気記録層を順次成膜した。
【0095】
このとき、付着層は、厚さ20nmのアモルファスCrTi層となるように、CrTiターゲットを用いて成膜した。続いて枚葉・静止対向型成膜装置を用いて、Ar雰囲気中で、DCマグネトロンスパッタリング法にて下地層としてCrRuからなる10nm厚の層を形成した。また、磁気記録層は、厚さ10nmのFePtまたはCoPt層となるように、FePtまたはCoPtターゲットを用いて成膜温度400℃にて成膜した。
【0096】
磁気記録層までの成膜を終えた磁気ディスクを成膜装置から加熱炉内に移しアニールした。アニール時の加熱炉内の温度は、650~700℃の範囲とした。
【0097】
続いて、エチレンを材料ガスとしたCVD法により水素化カーボンからなる保護層を3nm形成した。この後、PFPE(パーフロロポリエーテル)を用いてなる潤滑層をディップコート法により形成した。潤滑層の膜厚は1nmであった。
以上の製造工程により、磁気ディスクを得た。得られた磁気ディスクを、DFH機構を備えたハードディスクドライブ(フライングハイト:8nm)に搭載し、磁気ディスクの主表面上の記録用領域に、1平方インチあたり20ギガビットの記録密度で磁気信号を記録したところ、磁気ヘッドと磁気ディスク表面が衝突する現象(クラッシュ障害)は確認されなかった。
【0098】
本発明の一態様によれば、高密度記録化に最適な磁気記録媒体を提供することができる。
【0099】
最後に、前述の各態様を総括する。
【0100】
一態様によれば、モル%表示にて、SiOの含有量が45~68%、Alの含有量が5~20%、SiOとAlの合計含有量(SiO+Al)が60~80%、Bの含有量が0~5%、MgOの含有量が3~28%、CaOの含有量が0~18%、BaOおよびSrOの合計含有量(BaO+SrO)が0~2%、アルカリ土類金属酸化物の合計含有量(MgO+CaO+SrO+BaO)が12~30%、アルカリ金属酸化物の合計含有量(LiO+NaO+KO)が3.5~15%であり、Sn酸化物およびCe酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、Sn酸化物およびCe酸化物の合計含有量が0.05~2.00%であり、ガラス転移温度が625℃以上、ヤング率が83GPa以上、比重が2.85以下、かつ100~300℃における平均線膨張係数が48×10-7/℃以上である非晶質の酸化物ガラスである磁気記録媒体基板用ガラスが提供される。
【0101】
また、一態様によれば、モル%表示にて、SiOの含有量が45~68%、Alの含有量が5~20%、SiOとAlの合計含有量(SiO+Al)が60~80%、Bの含有量が0~5%、MgOの含有量が3~28%、CaOの含有量が0~18%、BaOおよびSrOの合計含有量(BaO+SrO)が0~2%、アルカリ土類金属酸化物の合計含有量(MgO+CaO+SrO+BaO)が12~30%、アルカリ金属酸化物の合計含有量(LiO+NaO+KO)が3.5~15%であり、Sn酸化物およびCe酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、Sn酸化物およびCe酸化物の合計含有量が0.05~2.00%であり、ガラス転移温度が625℃以上、ヤング率が83GPa以上、比重が2.85以下、かつ100~300℃における平均線膨張係数が48×10-7/℃以上である非晶質の酸化物ガラスである磁気記録再生装置用ガラススペーサが提供される。
【0102】
上記磁気記録媒体基板用ガラスは、耐熱性および剛性に優れ、比重が低く、適度な熱膨張係数を有し、かつ優れたガラス安定性を示すことができる。上記磁気記録再生装置用ガラススペーサも同様である。
【0103】
一態様では、上記酸化物ガラスのLiOの含有量は0~8モル%であり、NaOの含有量は0~10モル%であり、かつKOの含有量は0~5モル%である。
【0104】
一態様では、上記酸化物ガラスは、Sn酸化物およびCe酸化物を含有する。
【0105】
一態様では、上記酸化物ガラスのアルカリ土類金属酸化物の合計含有量に対するMgOおよびCaOの合計含有量のモル比{(MgO+CaO)/(MgO+CaO+SrO+BaO)}は、0.75~1.00である。
【0106】
一態様では、上記酸化物ガラスのアルカリ金属酸化物の合計含有量に対するLiO含有量のモル比{LiO/(LiO+NaO+KO)}は、0.4~1である。
【0107】
一態様では、上記酸化物ガラスのアルカリ金属酸化物の合計含有量に対するNaO含有量のモル比{NaO/(LiO+NaO+KO)}は、0.4~1である。
【0108】
一態様では、上記酸化物ガラスのCaOの含有量は、2~15%である。
【0109】
一態様によれば、上記磁気記録媒体からなる磁気記録媒体基板が提供される。
【0110】
一態様では、上記磁気記録媒体基板は、表面および内部の組成が均質である。
【0111】
一態様では、上記磁気記録媒体基板は、表面の一部または全部に、イオン交換層を有する。
【0112】
一態様によれば、上記磁気記録媒体基板上に磁気記録層を有する磁気記録媒体が提供される。
【0113】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
例えば、上記に例示されたガラス組成に対し、明細書に記載の組成調整を行うことにより、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体基板用ガラスおよび磁気記録再生装置用ガラススペーサを作製することができる。
また、明細書に例示または好ましい範囲として記載した事項の2つ以上を任意に組み合わせることは、もちろん可能である。