(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180534
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】移動局、移動局用RFフロントエンドモジュール、及びフロントエンド集積回路
(51)【国際特許分類】
H04B 7/06 20060101AFI20221129BHJP
H01Q 3/36 20060101ALI20221129BHJP
H04B 7/08 20060101ALI20221129BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
H04B7/06 950
H01Q3/36
H04B7/08 800
H01Q21/06
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150900
(22)【出願日】2022-09-22
(62)【分割の表示】P 2018556226の分割
【原出願日】2017-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2016240622
(32)【優先日】2016-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】志村 竜宏
(57)【要約】 (修正有)
【解決手段】移動局は、ベースバンドプロセッサと、ベースバンドプロセッサに接続され、複数のアンテナモジュール及びコントローラを備えたRFフロントエンドモジュールと、を備える。複数のアンテナモジュールは、それぞれ、アンテナ素子A
11~A
mnと、アンテナ素子に接続された可変移相器801、803と、を備える。ベースバンドプロセッサは、複数の前記アンテナ素子によって形成されるアンテナビームの向きを示すビーム制御信号を出力する。コントローラは、ベースバンドプロセッサからビーム制御信号を受信し、ビーム制御信号に基づいて、可変移相器に対する位相制御量を決定し、決定した位相制御量に基づいて可変位相器を制御する。
【効果】ベースバンドプロセッサにおいてビームを制御しても、ベースバンドプロセッサの制御負荷の増大を抑えることができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースバンドプロセッサと、
前記ベースバンドプロセッサに接続され、複数のアンテナモジュール及びコントローラを備えたRFフロントエンドモジュールと、
を備え、
複数の前記アンテナモジュールは、それぞれ、アンテナ素子と、前記アンテナ素子に接続された可変移相器と、を備え、
前記ベースバンドプロセッサは、複数の前記アンテナ素子によって形成されるアンテナビームの向きを示すビーム制御信号を出力するよう構成され、
前記コントローラは、
前記ベースバンドプロセッサから前記ビーム制御信号を受信し、
前記ビーム制御信号に基づいて、前記可変移相器に対する位相制御量を決定し、決定した位相制御量に基づいて前記可変位相器を制御するよう構成されている
移動局。
【請求項2】
前記コントローラは、前記ビーム制御信号に基づいて、複数の前記アンテナモジュールのうち、通信に用いられる1又は複数の使用アンテナモジュールを選択し、1又は複数の前記使用アンテナモジュールが有する前記可変移相器を制御する
請求項1に記載の移動局。
【請求項3】
前記コントローラは、アンテナビームの向きと各可変移相器の位相制御量とが対応付けられたテーブルを参照することで、前記位相制御量を決定する
請求項1又は2に記載の移動局。
【請求項4】
前記RFフロントエンドモジュールは、前記ビーム制御信号を一つの端子だけで受信する
請求項1~3のいずれか1項に記載の移動局。
【請求項5】
前記コントローラは、前記アンテナ素子によって送信又は受信された信号の位相をモニタすることで、前記位相制御量を補正する
請求項1~4のいずれか1項に記載の移動局。
【請求項6】
複数のアンテナモジュールと、
コントローラと、を備え、
複数の前記アンテナモジュールは、それぞれ、アンテナ素子と、前記アンテナ素子に接続された可変移相器と、を備え、
前記コントローラは、
複数の前記アンテナ素子によって形成されるアンテナビームの向きを示すビーム制御信号をベースバンドプロセッサから受信し、
前記ビーム制御信号に基づいて、前記可変移相器に対する位相制御量を決定し、決定した位相制御量に基づいて前記可変位相器を制御するよう構成されている
移動局用RFフロントエンドモジュール。
【請求項7】
基板と、
前記基板に形成された複数のアンテナ素子と、
前記基板に設けられ、ベースバンドプロセッサと接続されるフロントエンド集積回路と、
を備え、
前記フロントエンド集積回路は、複数の前記アンテナ素子に対応して設けられた複数の可変移相器と、コントローラと、を備え、
前記コントローラは、
複数の前記アンテナ素子によって形成されるアンテナビームの向きを示すビーム制御信号を前記ベースバンドプロセッサから受信し、
前記ビーム制御信号に基づいて、前記可変移相器に対する位相制御量を決定し、決定した位相制御量に基づいて前記可変位相器を制御するよう構成されている
移動局用RFフロントエンドモジュール。
【請求項8】
ベースバンドプロセッサ及び複数のアンテナ素子に接続されるフロントエンド集積回路であって、
複数の前記アンテナ素子に対応して設けられた複数の可変移相器と、
コントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
複数の前記アンテナ素子によって形成されるアンテナビームの向きを示すビーム制御信号を前記ベースバンドプロセッサから受信し、
前記ビーム制御信号に基づいて、前記可変移相器に対する位相制御量を決定し、決定した位相制御量に基づいて前記可変位相器を制御するよう構成されている
フロントエンド集積回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モバイル通信基地局と通信する移動局等に関する。
本出願は、2016年12月12日出願の日本出願第2016-240622号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
モバイル通信においては、基地局と移動局との間で通信が行われる。特許文献1は、基地局によるビームフォーミングを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本発明の一態様は、移動局である。実施形態において、移動局は、ベースバンドプロセッサと、前記ベースバンドプロセッサに接続され、複数のアンテナモジュール及びコントローラを備えたRFフロントエンドモジュールと、を備える。
【0005】
実施形態において、複数の前記アンテナモジュールは、それぞれ、アンテナ素子と、前記アンテナ素子に接続された可変移相器と、を備える。
【0006】
実施形態において、前記ベースバンドプロセッサは、複数の前記アンテナ素子によって形成されるアンテナビームの向きを示すビーム制御信号を出力するよう構成される。実施形態において、前記コントローラは、前記ベースバンドプロセッサから前記ビーム制御信号を受信し、前記ビーム制御信号に基づいて、前記可変移相器に対する位相制御量を決定し、決定した位相制御量に基づいて前記可変位相器を制御するよう構成されている。
【0007】
本発明の他の態様は、RFフロントエンドモジュールである。本発明の他の態様は、フロントエンド集積回路である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、移動局を搭載した車両を示す図である。
【
図3】
図3は、RFフロントエンドモジュールの回路図である。
【
図5】
図5は、第2実施形態のRFフロントエンドモジュールを示す図である。
図5(a)は、RFフロントエンドモジュールを示す平面図であり、
図5(b)は、同モジュールの側面図であり、
図5(c)は同モジュールの断面図である。
【
図7】
図7は、RFフロントエンドモジュールの回路図である。
【
図9】
図9は、RFフロントエンドモジュールの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示が解決しようとする課題]
高速なモバイル通信の実現のためには、ミリ波又は準ミリ波などの高い周波数の利用が望まれる。しかし、高い周波数での通信は、伝搬損失が大きい。伝播損失を補償して、安定した高速通信をするため、基地局だけでなく、移動局もビームフォーミングをすることが望まれる。
【0010】
ここで、移動局は、ベースバンドプロセッサを有しているのが一般的である。ベースバンドプロセッサは、ベースバンド処理を含むモバイル通信処理を実行する半導体集積回路である。ベースバンドプロセッサは、送受信回路に接続される。ベースバンドプロセッサは、生成したベースバンド信号を送受信回路に与え、送受信回路からベースバンド信号を取得する。
【0011】
より適切なモバイル通信処理の観点からは、モバイル通信処理を実行するベースバンドプロセッサにおいて、ビームを制御することが望まれる。
【0012】
しかし、ベースバンドプロセッサにおいて、ビームを制御すると、ベースバンドプロセッサの制御負荷の増大を招く。つまり、ビームを制御するには、複数のアンテナ素子それぞれに接続された複数の可変移相器を制御する必要があり、制御負荷が大きい。また、より高い利得を得るため、アンテナ素子の数は増大する傾向にあり、制御負荷が大きくなり易い。
【0013】
しかも、ベースバンドプロセッサにおいて、多くの可変移相器を制御する場合には、ベースバンドプロセッサと多くの可変移相器とを接続する制御信号線の数が多くなり、移動局の大型化を招く。
【0014】
ベースバンドプロセッサでビーム制御を行っても、ベースバンドプロセッサにおける制御負荷の増大を抑制することが望まれる。
【0015】
[本開示の効果]
本開示によれば、ベースバンドプロセッサにおいてビームを制御しても、ベースバンドプロセッサの制御負荷の増大を抑えることができる。
[1.実施形態の概要]
【0016】
(1)実施形態に係る移動局は、ベースバンドプロセッサと、前記ベースバンドプロセッサに接続され、複数のアンテナモジュール及びコントローラを備えたRFフロントエンドモジュールと、を備え、複数の前記アンテナモジュールは、それぞれ、アンテナ素子と、前記アンテナ素子に接続された可変移相器を有する送受信回路と、を備え、前記ベースバンドプロセッサは、複数の前記アンテナ素子によって形成されるアンテナビームの向きを示すビーム制御信号を出力するよう構成され、前記コントローラは、前記ベースバンドプロセッサから前記ビーム制御信号を受信し、前記ビーム制御信号に基づいて、前記可変移相器に対する位相制御量を決定し、決定した位相制御量に基づいて前記可変位相器を制御するよう構成されている。かかる構成によれば、可変移相器の制御はRFフロントエンドモジュールのコントローラによって行われ、ベースバンドプロセッサは、可変移相器を制御する必要がないので、ベースバンドプロセッサでビーム制御を行っても、ベースバンドプロセッサにおける制御負荷の増大を抑制することができる。
【0017】
(2)前記コントローラは、前記ビーム制御信号に基づいて、複数の前記アンテナモジュールのうち、通信に用いられる1又は複数の使用アンテナモジュールを選択し、1又は複数の前記使用アンテナモジュールが有する前記可変移相器を制御するのが好ましい。この場合、使用アンテナモジュールの選択によっても、ビームの変更が可能となる。
【0018】
(3)前記コントローラは、アンテナビームの向きと各可変移相器の位相制御量とが対応付けられたテーブルを参照することで、前記位相制御量を決定するのが好ましい。この場合、位相制御量の決定が容易となる。
【0019】
(4)前記RFフロントエンドモジュールは、前記ビーム制御信号を一つの端子だけで受信するのが好ましい。この場合、大型化を防止できる。
【0020】
(5)前記コントローラは、前記アンテナ素子によって送信又は受信された信号の位相をモニタすることで、前記位相制御量を補正するのが好ましい。この場合、位相制御量のキャリブレーションをコントローラによって行うことができる。
【0021】
(6)実施形態に係るRFフロントエンドモジュールは、複数のアンテナモジュールと、
コントローラと、を備え、複数の前記アンテナモジュールは、それぞれ、アンテナ素子と、前記アンテナ素子に接続された可変移相器と、を備え、前記コントローラは、複数の前記アンテナ素子によって形成されるアンテナビームの向きを示すビーム制御信号をベースバンドプロセッサから受信し、前記ビーム制御信号に基づいて、前記可変移相器に対する位相制御量を決定し、決定した位相制御量に基づいて前記可変位相器を制御するよう構成されている。かかる構成によれば、可変移相器の制御はRFフロントエンドモジュールのコントローラによって行われ、ベースバンドプロセッサは、可変移相器を制御する必要がないので、ベースバンドプロセッサでビーム制御を行っても、ベースバンドプロセッサにおける制御負荷の増大を抑制することができる。
【0022】
(7)実施形態に係るRFフロントエンドモジュールは、基板と、前記基板に形成された複数のアンテナ素子と、前記基板に設けられ、ベースバンドプロセッサと接続されるフロントエンド集積回路と、を備え、前記フロントエンド集積回路は、複数の前記アンテナ素子に対応して設けられた複数の可変移相器と、コントローラと、を備え前記コントローラは、複数の前記アンテナ素子によって形成されるアンテナビームの向きを示すビーム制御信号を前記ベースバンドプロセッサから受信し、前記ビーム制御信号に基づいて、前記可変移相器に対する位相制御量を決定し、決定した位相制御量に基づいて前記可変位相器を制御するよう構成されている。かかる構成によれば、可変移相器の制御はフロントエンド集積回路のコントローラによって行われ、ベースバンドプロセッサは、可変移相器を制御する必要がないので、ベースバンドプロセッサでビーム制御を行っても、ベースバンドプロセッサにおける制御負荷の増大を抑制することができる。
【0023】
(8)実施形態に係るフロントエンド集積回路は、ベースバンドプロセッサ及び複数のアンテナ素子に接続されるフロントエンド集積回路であって、複数の前記アンテナ素子に対応して設けられた複数の可変移相器と、コントローラと、を備え、前記コントローラは、複数の前記アンテナ素子によって形成されるアンテナビームの向きを示すビーム制御信号を前記ベースバンドプロセッサから受信し、前記ビーム制御信号に基づいて、前記可変移相器に対する位相制御量を決定し、決定した位相制御量に基づいて前記可変位相器を制御するよう構成されている。かかる構成によれば、可変移相器の制御はフロントエンド集積回路のコントローラによって行われ、ベースバンドプロセッサは、可変移相器を制御する必要がないので、ベースバンドプロセッサでビーム制御を行っても、ベースバンドプロセッサにおける制御負荷の増大を抑制することができる。
【0024】
[2.実施形態の詳細]
【0025】
[2.1 第1実施形態の移動局]
【0026】
図1は、移動局10が搭載された車両20を示している。実施形態の移動局10は、車載移動局であるが、移動局10は、車両20に搭載されていなくてもよい。移動局10は、モバイル通信基地局30と通信をする。モバイル通信基地局30(以下、単に基地局30ともいう)は、建物の屋上、鉄塔の上などの比較的高い場所に設置され、地上の移動局と通信する。モバイル通信は、高速通信の実現のため、ミリ波又は準ミリ波が利用される通信であるのが好ましい。ミリ波又は準ミリ波が利用されるモバイル通信は、例えば、第5世代モバイルネットワーク(5G)である。
【0027】
ミリ波又は準ミリ波が利用される通信では、高い周波数のため、伝搬損失が大きい。本実施形態のモバイル通信では、伝播損失の補償のため、ビームフォーミングが行われる。ビームフォーミングをすることで、特定の方向に指向性を向けて利得を向上させることができる。本実施形態では、ビームフォーミングは、基地局30だけでなく移動局10によっても行われ、高速通信を可能とする。ビームフォーミングを行うため、移動局10は、複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナ100を有する。
【0028】
車両20は、例えば、バス・電車などの交通機関における車両である。実施形態に係る移動局10は、無線LAN無線部40と接続されている。無線LAN無線部40は、無線LANアクセスポイントであり、車内の無線LAN端末50に対して、無線LANサービスを提供する。車内の無線LAN端末50は、例えば、車両20の乗客が有する携帯電話、スマートフォン、タブレット、又はノートパソコンなどである。乗客が有する無線LAN端末50は、無線LAN及びモバイル通信ネットワークを介して、インターネット接続が可能である。無線LAN無線部40は、移動局10とは別の筐体内に設けられていても良いし、移動局10の筐体内に設けられていても良い。
【0029】
図2中の(a)は、移動局10内部に設けられた移動局モジュール60を示している。移動局モジュール60は、図示しない筐体内に設けられる。移動局モジュール60を内蔵した筐体は、車両20に取り付けられる。移動局10は、車両20の外部の基地局30との通信のため、例えば、車両20の天井20aに取り付けられる。移動局10は、車両20の側面に設置されてもよい。
【0030】
実施形態において、移動局モジュール60は、ベースバンドプロセッサ70を備える。ベースバンドプロセッサ70は、基板61に実装されている。ベースバンドプロセッサ70は、ベースバンド処理を含むモバイル通信処理を実行する半導体集積回路である。モバイル通信処理は、基地局30とのモバイル通信に必要とされる処理である。
【0031】
実施形態において、ベースバンド処理は、デジタル信号処理により、ベースバンド信号を生成し、送信のため出力することを含む。ベースバンドプロセッサ70は、ベースバンド信号をRFフロントエンドモジュール90に出力する。RFフロントエンドモジュール90は、変調・増幅などの送信RF信号処理を行い、RF信号を送信する。
【0032】
RFフロントエンドモジュール90は、受信したRF信号の増幅・復調などの受信RF信号処理を行って得られたベースバンド信号をベースバンドプロセッサ70に与える。実施形態において、ベースバンドプロセッサ70によるベースバンド処理は、RFフロントエンドモジュール90から与えられたベースバンド信号を処理することを含む。
【0033】
実施形態のRFフロントエンドモジュール90は、フロントエンド集積回路(フロントエンドIC;FEIC)80と複数のアンテナ素子A11,・・,Amnとを備える。フロントエンドIC80は、基板61に実装されている。実施形態において、フロントエンドIC80は、トランシーバ(送受信機)77を介して、ベースバンドプロセッサ70と接続されている。
【0034】
トランシーバ77は、基板61に実装されている。トランシーバ77は、ベースバンドプロセッサ70から与えられたベースバンド信号をRF信号に変調する。トランシーバ77は、RF信号をフロントエンドIC80に出力する。フロントエンドIC80は、トランシーバ77から与えられたRF信号に対する位相制御・増幅などの信号処理を行い、信号処理後のRF信号をアンテナ素子A11,・・,Amnへ出力する。また、フロントエンドIC80は、アンテナ素子A11,・・,Amnによって受信したRF信号に対して、増幅・位相制御などの信号処理を行う。フロントエンドIC80は、信号処理後のRF信号を、トランシーバ77に出力する。トランシーバ77は、RF信号をベースバンド信号に復調する。トランシーバ77は、ベースバンド信号を、ベースバンドプロセッサ70に出力する。なお、フロントエンドIC80は、トランシーバ77を内蔵してもよい。この場合、フロントエンドICは、ベースバンドプロセッサ70に、直接接続される。
【0035】
実施形態において、フロントエンドIC80による信号処理は、アンテナビームの向きを変更するための位相制御を含む。フロントエンドIC80は、アンテナビームの向きを変更するため、位相制御に加えて振幅制御を行っても良い。位相制御等については後述する。
【0036】
ベースバンドプロセッサ70は、ベースバンド信号の入出力のための端子73を有する。また、フロントエンドIC80は、RF信号の入出力のための端子83を有する(
図3参照)。ベースバンドプロセッサ70の端子73とフロントエンドIC80の端子83とは、トランシーバ77を介して、基板61に形成された信号線(配線)63,64によって接続されている。なお、フロントエンドIC80が、トランシーバ77を内蔵する場合、端子83は、ベースバンドプロセッサ70からのベースバンド信号の入出力のための端子となる。
【0037】
実施形態の複数のアンテナ素子A
11,・・,A
mnは、アレイアンテナ100を構成する。複数のアンテナ素子A
11,・・,A
mnによってアンテナビームが形成される。実施形態の複数のアンテナ素子A
11,・・,A
mnは、基板61上に形成されている。ここで、n,mは、それぞれ、1以上の整数である。実施形態において、アレイアンテナ100に含まれるアンテナ素子A
11,・・,A
mnの数はm×n個である。アンテナ素子A
11,・・,A
mnの数が多いほど、高い利得を得ることができる。
図2に示すアンテナ素子A
11,・・,A
mnの配列は、m×nの2次元配列であるが、3次元配列であってもよいし、1次元配列であってもよい。
【0038】
実施形態のアンテナ素子A11,・・,Amnは、基板61に形成された平面アンテナ素子である。平面アンテナとしては、例えば、パッチアンテナ素子を採用できる。パッチアンテナ素子は、誘電体の基板61の表面に形成される。基板61としては、例えば、フレキシブルプリント基板を用いることができる。
【0039】
複数のアンテナ素子A11,・・,Amnは、給電線によってフロントエンドIC80に接続されている。フロントエンドIC80は、複数のアンテナ素子A11,・・,Amnの数に対応した数の出力端子87を有している。基板61には、複数のアンテナ素子A11,・・,Amnと複数の出力端子87とを接続する複数の給電線Lが形成されている。実施形態の給電線Lは、誘電体の基板61に形成されたマイクロストリップラインである。
【0040】
図2中の(a)において、フロントエンドIC80及び複数のアンテナ素子A
11,・・,A
mnは、基板61によって一体化されている。つまり、実施形態のRFフロントエンドモジュール90では、共通の基板61を介して、フロントエンドIC80及び複数のアンテナ素子A
11,・・,A
mnが一体化されている。フロントエンドIC80及び複数のアンテナ素子A
11,・・,A
mnの一体化により、フロントエンドIC80と複数のアンテナ素子A
11,・・,A
mnとを、ケーブルで接続する必要がない。ケーブルの不要化により、移動局10の小型化が可能である。また、ケーブルの不要化により、ケーブルによる信号パワーのロスの発生を回避できる。
【0041】
図2中の(a)において、RFフロントエンドモジュール90及びベースバンドプロセッサ70は、基板61によって一体化されている。つまり、実施形態の移動局モジュール60では、共通の基板61を介して、RFフロントエンドモジュール90及びベースバンドプロセッサ70が一体化されている。
【0042】
図2中の(b)に示すように、ベースバンドプロセッサ70は、RFフロントエンドモジュール90が設けられている基板61bとは、別体の基板61aに実装されていてもよい。この場合、ベースバンドプロセッサ70とRFフロントエンドモジュール90とは、ケーブル610を介して接続される。ケーブル610は、両端に差込コネクタ611,612を備える。差込コネクタ611,612は、基板61a,61bに設けられた受側コネクタ621,622に差し込まれる。基板61aの受側コネクタ621は、基板61aに形成された配線63,64a及びトランシーバ77を介して、ベースバンドプロセッサ70に設けられた端子73,75に接続される。基板61bの受側コネクタ622は、基板61bに形成された配線64bを介して、フロントエンドIC80に設けられた端子83,85に接続される。
【0043】
図2においては、基板61,61a,61bは、平面形状であるが、立体的形状であってもよい。
図2において、基板61,61bにおいて、フロントエンドIC80が設けられている範囲における基板61,61bの第1面631と、アンテナ素子A
11,・・,A
mnが設けられている範囲における基板61,61bの第2面632とは、面一であるが、例えば、交差していてもよい。第1面631と第2面632とは、基板の厚さ方向の異なる位置にあってもよい。
【0044】
図3に示すように、実施形態のベースバンドプロセッサ70によるモバイル通信処理は、アンテナビームを制御する処理(ビーム制御)76を含む。以下では、「アンテナビームを制御する処理」を単に、「ビーム制御」という。ビーム制御76は、例えば、通信相手である基地局30の向きに、アンテナビームを向けるために行われる。ベースバンドプロセッサ70は、基地局30とのモバイル通信処理によって基地局30が存在する向きを把握できるため、基地局30が存在する向きに基づいて、適切なアンテナビームの向きを決定する。適切なビーム制御76により、高速通信が可能となる。
【0045】
ビームの向きを変更するには、送受信信号の位相制御831が必要となる。位相制御では、複数のアンテナ素子A11,・・,Amnに接続された複数の可変移相器801,803が制御される。可変位相器801,803を制御するには、可変移相器801,803に対する位相制御量を決定し、位相制御量に基づいて位相を調整する処理が必要となる。
【0046】
実施形態のビーム制御76では、位相制御831までは行われない。つまり、実施形態のベースバンドプロセッサ70は、アンテナビームの向きを決定し、そのアンテナビームの向きを示すビーム制御信号を、RFフロントエンドモジュール90に与えることまでは行うが、アンテナビームの向きに応じた位相制御831までは行わない。複数の可変位相器801,803の制御が必要となる位相制御831を行わないことにより、ベースバンドプロセッサ70の処理負荷が軽減される。処理負荷軽減の効果は、可変位相器801,803の数が多くなった場合に特に大きくなる。なお、ビーム制御信号は、アンテナビームの向きを示すが、複数の可変移相器それぞれの位相調整量を直接的には示さない。
【0047】
実施形態のフロントエンドIC80は、ベースバンドプロセッサ70が決定したアンテナビームの向きに基づいて、位相制御831を行う。位相制御831では、複数の可変移相器に対する位相制御量が決定され、可変移相器が制御される。フロントエンドIC80は、位相制御831のため、ベースバンドプロセッサ70が決定したアンテナビームの向きを示すビーム制御信号を、ベースバンドプロセッサ70から受信する。
【0048】
ベースバンドプロセッサ70は、ビーム制御信号を出力する端子75を備える。フロントエンドIC80は、ビーム制御信号が入力される端子85を備える。
図2中の(a)において、端子75と端子85との間は、基板61に形成された配線65によって接続される。
図2中の(b)においては、端子75と端子85との間は、配線65a,65b及びケーブル610によって接続される。
【0049】
ビーム制御信号はビームの向きを示すシンプルな信号でよいため、ビーム制御信号用の配線65は、例えば、1本で足りる。この場合、配線65が接続される端子75の数も1つでよく、ベースバンドプロセッサ70の小型化が可能である。また、ビーム制御信号が流れる配線65は、ベースバンドプロセッサ70とフロントエンドIC80とを接続するものでよいため、移動局モジュール60の小型化が容易である。
【0050】
仮に、ベースバンドプロセッサ70が多数の可変位相器を直接制御する場合、ベースバンドプロセッサ70から可変位相器へ繋る配線又はケーブルが多数必要となる。それに応じて、ベースバンドプロセッサ70が備えるべき端子の数も多くなる。配線及び端子の数が増大すると、多くのスペースが必要となって移動局モジュール60が大型化する。しかし、配線及び端子の数の増大が抑えられていると、移動局モジュール60の小型化が可能である。
【0051】
図3に示すように、RFフロントエンドモジュール90は、複数のアンテナモジュールM
11,・・,M
mnを備える。実施形態のアンテナモジュールは、送受信用である。複数のアンテナモジュールM
11,・・,M
mnは、それぞれ、送受信回路TR
11,・・,TR
mn及びアンテナ素子A
11,・・,A
mnを備える。なお、
図3に示すRFフロントエンドモジュール90の回路において、アンテナ素子A
11,・・,A
mn及び給電線Lを除いたものが、フロントエンドIC80の内部回路に相当する。
【0052】
図3に示すRFフロントエンドモジュール90(フロントエンドIC80)は、分配合成器810を備える。分配合成器810は、複数の送受信回路TR
11,・・,TR
mnに接続されている。トランシーバ77によって生成された送信RF信号は、分配合成器810によって、複数の送受信回路TR
11,・・,TR
mnに分配される。送信RF信号は、送受信回路TR
11,・・,TR
mnが有する可変位相器801によって位相調整がなされる。アンテナ素子送信RF信号は、振幅調整がなされてもよい。可変移相器801は、増幅器805を介して、アンテナ素子A
11,・・,A
mnに接続されている。位相調整された送信RF信号は、増幅器805によって増幅され、アンテナ素子A
11,・・,A
mnから送信される。
【0053】
各アンテナ素子A11,・・,Amnによって受信された受信RF信号は、対応する送受信回路TR11,・・,TRmnに与えられる。受信RF信号は、送受信回路TR11,・・,TRmnが有する増幅器807によって増幅される。送受信回路TR11,・・,TRmnが有する可変位相器803は、増幅器807を介して、アンテナ素子A11,・・,Amnに接続されている。受信RF信号は、可変位相器803によって位相調整がなされる。受信RF信号は、振幅調整がなされてもよい。複数の送受信回路TR11,・・,TRmnから出力された受信RF信号は、分配合成器810によって合成される。フロントエンドIC80は、合成された受信RF信号を、トランシーバ77に出力する。トランシーバ77は、合成された受信RF信号をベースバンド信号に復調する。
【0054】
RFフロントエンドモジュール90(フロントエンドIC80)は、コントローラ830を備える。コントローラ830は、RFフロントエンドモジュール90(フロントエンドIC80)内の制御を担う。コントローラ830は、プロセッサとメモリを備える。メモリには、コンピュータプログラムが格納されている。コンピュータプログラムは、プロセッサにより実行される。コンピュータプログラムの実行により、コントローラ830は、その機能を発揮する。
【0055】
コントローラ830は、ベースバンドプロセッサ70から出力されたビーム制御信号を受信する。コントローラ830は、ビーム制御のため、ビーム制御信号に基づいて位相制御831を行う。位相制御831では、ビーム制御信号から、複数のアンテナモジュールM11,・・,Mmnそれぞれの可変移相器801,803に対する位相制御量を決定する位相制御831を行う。
【0056】
位相制御831は、例えば、ビーム制御信号に基づいて、
図4に示す参照テーブル832を参照し、ビーム制御信号が示す値に対応する各可変位相器801,803の位相制御量を決定する。ビーム制御信号が示す値は、例えば、ビーム角である。
【0057】
図4に示す参照テーブル832は、コントローラ830のメモリに格納されている。
図4に示す参照テーブル832は、ビーム制御信号が示すビームの向きであるビーム角201と、位相制御量202とが対応付けられたものである。参照テーブル832の位相制御量202は、アンテナビームをビーム角に向けるための位相制御量202である。参照テーブル832では、ビーム角201と振幅制御量とが対応付けられていても良い。
【0058】
参照テーブル832において、位相制御量(振幅制御量)202は、複数のアンテナモジュールM
11,・・,M
mnそれぞれの可変位相器801,803について設定されている。
図4では、例えば、ビーム角が15°の場合、各アンテナモジュールM
11,・・,M
mnそれぞれの可変移相器801,803の位相制御量として、θ
11
15,・・θ
mn
15が設定されている。他のビーム角についても同様に、ビーム角に応じた位相制御量が設定されている。
【0059】
コントローラ830は、参照テーブル832を参照することで、ビーム制御信号が示すビーム角201に対応する位相制御量θ11,・・θmnを容易に決定することができる。
【0060】
位相制御831では、決定した位相制御量θ
11,・・θ
mnに基づいて、可変移相器801,803を制御することも行われる。
図3に示すように、可変移相器801,803の制御では、コントローラ830が、各アンテナモジュールM
11,・・,M
mnそれぞれの可変移相器801,803へ、位相制御信号θ
11,・・,θ
mnを出力する。
図3に示す位相制御信号θ
11,・・,θ
mnは、コントローラ830が決定した位相制御量θ
11,・・,θ
mnを示す。可変移相器801,803は、与えられた位相制御信号θ
11,・・,θ
mnに基づいて、送信信号又は受信信号の位相を調整する。
【0061】
コントローラ830は、複数の位相制御信号線850を介して、複数のアンテナモジュールM11,・・,Mmnそれぞれの可変移相器801,803に接続されている。位相制御信号θ11,・・,θmnは、位相制御信号線850によって、可変移相器801,803に与えられる。実施形態では、信号線850は、集積回路であるフロントエンドIC80内に形成されているため、基板61上に位相制御信号線850を形成する場合に比べて、位相制御信号線850の数が多くても大型化が抑制される。
【0062】
なお、
図3では、1つの位相制御信号線850が1つの送受信回路TR
11,・・,TR
mnに含まれる2つの可変移相器801,803の両方に接続されているが、1つの可変移相器に対して一つの信号線が接続されていてもよい。すなわち、送信系と受信系とでそれぞれ独立して位相が調整されてもよい。また、コントローラ830は、ビーム制御のため、ビーム制御信号に基づいて信号の振幅制御をしてもよい。この場合、コントローラ830と送受信回路TR
11,・・,TR
mnそれぞれ含まれる減衰器との間が、振幅制御信号線によって接続される。
【0063】
図3に示すRFフロントエンドモジュール90は、モニタアンテナモジュールM
Dも備える。モニタアンテナモジュールM
Dは、送受信アンテナモジュールM
11,・・,M
mnと同様に、アンテナ素子A
Dと、送受信回路TR
Dと、を有する。アンテナ素子Apは、フロントエンドIC80外の基板61に設けられ、送受信回路TR
Dは、フロントエンドIC80内に設けられている。送受信回路TR
Dは、例えば、増幅器815,817を有する。
【0064】
モニタアンテナモジュールMDは、送受信アンテナモジュールM11,・・,Mmnから送信されたモニタRF信号を、モニタのために受信する。モニタアンテナモジュールMDによって受信されたRF信号は、コントローラ830に与えられる。コントローラ830は、コントローラ830が決定した位相制御量に応じた位相で信号が出力されているか否かを監視し、必要に応じて、位相制御量を補正するキャリブレーション処理835を行う。これにより、送受信回路及びアンテナ素子が正しく動作しているかを監視することができる。実施形態において、キャリブレーション処理835は、RFフロントエンドモジュール90(フロントエンドIC80)内のコントローラ830によって行われるため、モニタ信号をベースバンドプロセッサ70に与える必要がない。ベースバンドプロセッサ70がモニタ信号の監視を行わないことで、ベースバンドプロセッサ70の処理負荷が軽減される。
【0065】
なお、送受信回路及びアンテナ素子の監視においては、モニタアンテナモジュールMDから送信したモニタRF信号を、送受信アンテナモジュールM11,・・,Mmnにて受信してもよい。この場合、受信したモニタRF信号は、コントローラ830に与えられ、コントローラ830にて位相制御量の補正などのキャリブレーション処理835を行うのが好ましい。
【0066】
[2.2 第2実施形態の移動局]
【0067】
図5~
図8は、第2実施形態の移動局を示している。なお、第2実施形態において特に説明しない点については、第1実施形態と同様である。
【0068】
図5は、第2実施形態の移動局のRFフロントエンドモジュール90を示している。
図5中の(a)は、RFフロントエンドモジュール90の平面図、
図5中の(b)は、RFフロントエンドモジュール90の側面図、及び、
図5中の(c)は、RFフロントエンドモジュール90の断面図である。
【0069】
図5のRFフロントエンドモジュール90は、ベース110を有する。
図5に示すベース110は、車両に取り付けられる。ベース110は、例えば、車両の天井に取り付けられる。ベース110は、例えば、ボルト等の締結具、接着剤、又は溶接などによって、車両に取り付けられる。ベース110は、複数のアンテナ素子A
11,・・A
48の支持体である。
【0070】
アンテナ素子A
11,・・A
48は、例えば、パッチアンテナ素子である。パッチアンテナ素子は、誘電体基板の表面に形成されるものであるため、ベース110は、誘電体基板によって構成されている。誘電体基板としては、フレキシブルプリント配線基板を用いることができる。なお、
図5において、ベース110及び複数のアンテナ素子A
11,・・A
48は、露出しているが、図示しないレドームによって覆われて、保護されるのが好ましい。
【0071】
図5中の(c)において、トランシーバ77及びフロントエンドIC80は、基板であるベース110に実装されている。第2実施形態においても、フロントエンドIC80とアンテナ素子A
11,・・A
48との間は、基板であるベース110に形成された給電線(例えば、マイクロストリップライン)によって接続される。なお、
図5中の(c)において、トランシーバ77及びフロントエンドIC80は、ベース110の内部に設けられているが、ベース110の外表面に設けられていても良い。また、ベースバンドプロセッサ70は、ベース110に設けられていても良いし、ベース110とは別体の基板に設けられていても良い。トランシーバ77も、ベース110とは別体の基板に設けられていても良い。
【0072】
図5に示すように、第2実施形態において、アンテナ素子A
11,・・A
48を支持するベース110は、錐体状である。錐体は、角錐体(n角錐体)でもよいし、円錐体でもよい。錐体状には、完全な錐体だけでなく、錐台を含むものとする。錐台は、角錐台でもよいし、円錐台でもよい。
【0073】
図5に示すベース110は、8角錐体状(n=8)であり、8個の傾斜面211を有する。ベース110の傾斜面211には、複数のアンテナ素子が配置されている。アンテナ素子は、8個(n個)の傾斜面211それぞれに形成されている。各傾斜面211には、傾斜面に沿った径方向に4個(複数)のアンテナ素子が1列に配置されている。
【0074】
図5においては、垂直方向(Z方向)における4つの高さ位置それぞれに、8個のアンテナ素子が配置されている。同じ高さの8個のアンテナ素子(例えば、アンテナ素子A
11,A
12,A
13,A
14,A
15,A
16,A
17,A
18)に着目すると、その8個のアンテナ素子は、水平面において円周状に等間隔で配置されている。垂直方向の各段のアンテナ素子の円周方向位置は揃っている。
図5において、円周方向に隣接する任意の2つのアンテナ素子の間の円周方向角θは45°である。なお、同じ高さの8個のアンテナ素子は、水平面において8角形リング状に配置されているということもできる。
【0075】
図5に示すように、垂直方向の各段のアンテナ素子は、それぞれ、水平面において、円周状等間隔配置である。上から2段目のアンテナ素子A
21,・・,A
28は、最上段のアンテナ素子A
11,・・,A
18よりも径方向外方に配置され、アンテナ素子A
11,・・,A
18が描く円周よりも大きな円周を描くように配置されている。また、同様に、上から3段目のアンテナ素子A
31,・・,A
38は2段目のアンテナ素子A
21,・・,A
28よりも径方向外方向に配置され、上から4段目のアンテナ素子
31,・・,A
38は3段目のアンテナ素子
31,・・,A
38よりも径方向外方に配置されている。
【0076】
平面アンテナ素子(パッチアンテナ素子)であるアンテナ素子A11,・・A48は、傾斜面211の表面に形成されているため、アンテナ素子A11,・・A48の面方向が、傾斜している。したがって、各アンテナ素子A11,・・A48は、水平面においては径方向外方であって、垂直面においては、斜め上方に向く指向性を持つ。
【0077】
第2実施形態では、アンテナ素子A11,・・A48が傾斜面211に配置されているため、大きな利得を得やすいアンテナ正面方向が斜め上方を向いている。基地局30は、一般に、高所に配置されているため、アンテナ正面方向が垂直方向であったり、水平方向であったりする場合に比べて、アンテナ正面方向が斜め上方であると、基地局30との通信において高い利得を得やすい。
【0078】
複数のアンテナ素子の円周状配置を得るという観点からは、ベース110は、筒状に形成されていてもよい。ベース110は、円筒状であってもよいし、多角形筒状(n角筒状:nは3以上の整数)であってもよい。多角形は円を近似するため、多角形筒状のベース110でも、アンテナ素子の円周状配置は得られる。nの値は特に限定されないが、nは、6以上であるのが好ましく、12以上であるのがより好ましく、24以上であるのがさらに好ましい。nが大きいほど、水平面全方向への対応が容易となる。
【0079】
なお、アンテナ素子の円周状配置は、各アンテナ素子の一部(好ましくはアンテナ水平方向中心)が、仮想的な円周上に位置していれば足り、アンテナ素子の全体が仮想的な円周上に位置している必要はない。なお、支持体が円筒状であれば、アンテナ素子の全体が仮想的な円周上に位置している配置を容易に得ることができる。
【0080】
図6において、符号220は、1個のアンテナ素子によって形成されるビーム220の指向性を示している。
図6では、垂直方向に同じ高さにある8個のアンテナ素子A
11,A
12,A
13,A
14,A
15,A
16,A
17,A
18だけを示しているが、他の方さのアンテナ素子A
21,・・,A
48についても、各段において、同様の指向性を有する。
【0081】
図6に示すように、各アンテナ素子A
11,・・,A
18によって形成されるビーム220は、互いに水平面周方向に重複するように、それらの水平ビーム幅が設定されている。したがって、円周方向の複数のアンテナ素子A
11,・・,A
18を用いることにより、水平面全方向にビームを向けることができる。ここで、「水平面全方向にビームを向けることができる」とは、円周方向における複数のアンテナ素子A
11,・・,A
18のうちのいずれかだけを用いて、水平面全方向に含まれる任意の方向にビームを向けることを含むとともに、円周方向における複数のアンテナ素子A
11,・・,A
18全てを同時に用いて、水平面全方向に無指向のビームを向けることの双方を含む。
【0082】
図6の符号251,252,253,254,255,256,257,258は、円周方向における複数のアンテナ素子A
11,・・,A
18のうちの一部のアンテナ素子を用いて場合のアンテナビームを示している。例えば、符号251は、アンテナ素子A
11及びアンテナ素子A
12が、使用アンテナ素子として選択された場合に形成されるビームを示している。
【0083】
同様に、符号252は、アンテナ素子A12及びアンテナ素子A13が、使用アンテナ素子として選択された場合に形成されるビームを示す。符号253は、アンテナ素子A13及びアンテナ素子A14が、使用アンテナ素子として選択された場合に形成されるビームを示す。符号254は、アンテナ素子A14及びアンテナ素子A15が、使用アンテナ素子として選択された場合に形成されるビームを示す。符号255は、アンテナ素子A15及びアンテナ素子A16が、使用アンテナ素子として選択された場合に形成されるビームを示す。符号256は、アンテナ素子A16及びアンテナ素子A17が、使用アンテナ素子として選択された場合に形成されるビームを示す。符号257は、アンテナ素子A17及びアンテナ素子A18が、使用アンテナ素子として選択された場合に形成されるビームを示す。符号258は、アンテナ素子A18及びアンテナ素子A11が、使用アンテナ素子として選択された場合に形成されるビームを示す。
【0084】
図6に示すように、使用アンテナ素子の切り替えにより、周方向の様々な方向のビームを形成することができる。また、複数の使用アンテナ素子で送受信される信号の位相(振幅)を制御することで、複数の使用アンテナ素子をアレイアンテナとして機能させることができる。この場合、例えば、ビーム251の向きを
図6に示す向きから変更することができる。
【0085】
このように、水平面でのビームの向きを変更することで、基地局が移動局10からみてどの方向にあっても、基地局30との安定した通信が可能となる。
【0086】
図6では、水平面におけるビームの向きの変更を示しているが、傾斜面211に沿って並んだ4つのアンテナ素子をアレイアンテナとして用いることで、垂直面における指向性を変えることができる。移動局10と基地局30との垂直方向の相対的位置に応じて、垂直面における指向性を変えるチルト角制御をすることで、基地局30の向きにおいて大きな利得を得ることができ、安定した高速通信が可能となる。
【0087】
このように、第2実施形態では、複数のアンテナ素子A11,・・A48のうちの一部の1又は複数のアンテナを使用アンテナ素子として選択して、水平面及び垂直面における所望の向きにアンテナビームを形成することができる。また、複数の使用アンテナ素子をアレイアンテナとして機能させることで、複数の使用アンテナ素子によって形成されるビームの向きを変更することもできる。
【0088】
使用アンテナ素子の自由な選択のため、第2実施形態のRFフロントエンドモジュール90(フロントエンドIC80)は、スイッチSW11,・・,SW48を備えている。スイッチSW11,・・,SW48は、例えば、分配合成器810と、各アンテナモジュールA11,・・,A48との間に配置され、複数のスイッチSW11,・・,SW48は、複数のアンテナモジュールA11,・・,A48それぞれに対応して設けられている。スイッチSW11,・・,SW48が、ONになると、対応するアンテナアンテナモジュールM11,・・,M48が、使用アンテナモジュールとして選択される。使用アンテナモジュールは、RF信号の送信又は受信に用いられるアンテナモジュールである。スイッチSW11,・・,SW48が、OFFになると、対応するアンテナアンテナモジュールM11,・・,M48は、RF信号の送受信に使用されない非使用アンテナモジュールとなる。
【0089】
第2実施形態のコントローラ830は、ビーム制御信号に応じたビームを形成するために適した1又は複数の使用アンテナモジュールを選択するためのスイッチ制御831を行う。さらに、第2実施形態のコントローラ830は、複数の使用アンテナモジュールのアンテナ素子(複数の使用アンテナ素子)によって送信又は受信される信号の位相制御831を行うことにより、使用アンテナ素子によって形成されるビームの向きを調整する。
【0090】
コントローラ830は、例えば、スイッチ制御及び位相制御831を、ビーム制御信号に基づき、
図8に示す参照テーブルを参照することで行う。第2実施形態においては、ビームは、水平面及び垂直面において制御可能であるため、ビーム制御信号は、水平面ビーム角及び垂直面ビーム角を示す信号である。ベースバンドプロセッサ70は、基地局30が存在する向きに応じて、アンテナビームの水平面ビーム角及び垂直面ビーム角を決定し、決定した水平面ビーム角及び垂直面ビーム角を示すビーム制御信号を出力し、コントローラ830に与える。
【0091】
図8に示す参照テーブル832は、水平面ビーム角201a及び垂直面ビーム角201bの組み合わせそれぞれに、位相制御量202及びスイッチ制御情報203を対応付けたものである。スイッチ制御情報203は、アンテナモジュールM
11,・・,M
48のうち、使用アンテナモジュールとして選択されるアンテナモジュールについては、「ON」が設定され、非使用アンテナモジュールとなるアンテナモジュールについては、「OFF」が設定されている。いずれのアンテナモジュールが、使用アンテナモジュールになるかは、
水平面ビーム角201a及び垂直面ビーム角201bの組み合わせに応じて、設定されている。
【0092】
図8において、水平面ビーム角201aの「ALL」は、全てのアンテナモジュールM
11,・・,M
48が使用アンテナモジュールとして選択されることを示す。全てのアンテナモジュールM
11,・・,M
48が選択された場合、ビームは水平面無指向となる。
【0093】
参照テーブル832の位相制御量202においては、使用アンテナモジュールとして選択されたアンテナモジュールについて、ビーム制御信号が示す水平面ビーム角201a及び垂直面ビーム角201bに応じた位相制御量が設定されている。なお、非使用アンテナモジュールについては、位相制御量は設定されていない。
【0094】
コントローラ830は、参照テーブル832を参照することで、使用アンテナモジュールを容易に決定することができるとともに、ビーム制御信号が示す水平面ビーム角201a及び垂直面ビーム角201bに対応する位相制御量θ11,・・θmnを容易に決定することができる。
【0095】
コントローラ830は、選択された使用アンテナモジュールに対応するスイッチをONにし、非使用アンテナモジュールに対応するスイッチをOFFにする制御831を行う。
図7に示すように、コントローラ830は、複数のスイッチ制御線860を介して、複数のスイッチSW
11,・・,SW
48に接続されている。コントローラ830は、使用アンテナモジュールに対応するスイッチをONにするスイッチ制御信号を出力し、スイッチ制御信号を、スイッチ制御線860を介して、スイッチに与える。
【0096】
さらに、コントローラ830は、決定した位相制御量θ
11,・・θ
mnに基づいて、使用アンテナモジュールの可変移相器801,803の位相を調整する位相制御831も行う。なお、
図7では、位相制御信号線850は、省略して描かれているが、
図3と同様に存在する。また、第2実施形態においても、振幅制御をしてもよい。
【0097】
図9は、第2実施形態の変形例を示している。
図9のRFフロントエンドモジュールは、無指向アンテナモジュールMaを備えている。無指向アンテナモジュールMaは、無指向性アンテナ素子Aaと、増幅器825,827等を有する送受信回路TRaと、を有する。また、
図9のRFフロントエンドモジュールは、スイッチSWaを備えている。スイッチSWaは、使用アンテナモジュールとして、アンテナモジュールM
11,・・,M
48に代えて、無指向アンテナモジュールMaを選択するためのものである。スイッチSWaは、コントローラ830によって制御される。
【0098】
コントローラ830は、通信に使用するアンテナモジュールとして、無指向性アンテナ素子Aaを有する無指向アンテナモジュールMaと、指向性アンテナ素子A11,・・,A48を有するアンテナモジュールM11,・・,M48のいずれを使用するかを決定する。コントローラ830は、例えば、ビーム制御信号が、水平面無指向性のビームを示している場合、スイッチSWaを制御し、無指向アンテナモジュールMaを通信に使用するアンテナモジュールとして選択する。アンテナモジュールM11,・・,M48を通信に使用するアンテナモジュールとして選択した場合のスイッチ制御及び位相制御は、前述のとおりである。
【0099】
無指向性が求められる場合には、無指向性のアンテナ素子Aaを使用することで、より適切な無指向性を得ることができる。
【0100】
[3.付記]
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0101】
10 移動局
20 車両
20a 天井
30 モバイル通信基地局
40 無線LAN無線部
50 無線LAN端末
60 移動局モジュール
61,61a,61b 基板
63,64 信号線
64a,64b 配線
65,65a,65b 配線
70 ベースバンドプロセッサ
73,75 端子
77 トランシーバ
80 フロントエンド集積回路
83,85 端子
87 出力端子
90 RFフロントエンドモジュール
100 アレイアンテナ
110 ベース
211 傾斜面
610 ケーブル
611,612 差込コネクタ
621,622 受側コネクタ
631 第1面
632 第2面
801,803 可変移相器
805 増幅器
807 増幅器
810 分配合成器
815,817 増幅器
825,827 増幅器
830 コントローラ
832 参照テーブル
835 キャリブレーション処理
850 位相制御信号線
860 スイッチ制御線
A11,・・,Amn アンテナ素子
L 給電線
TR11,・・,TRmn 送受信回路
【手続補正書】
【提出日】2022-09-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースバンドプロセッサと、
前記ベースバンドプロセッサに接続され、複数のアンテナモジュール及びコントローラを備えたRFフロントエンドモジュールと、
を備え、
複数の前記アンテナモジュールは、それぞれ、アンテナ素子と、前記アンテナ素子に接続された可変移相器と、を備え、
前記ベースバンドプロセッサは、複数の前記アンテナ素子によって形成されるアンテナビームの向きを示すビーム制御信号を出力するよう構成され、
前記コントローラは、
前記ベースバンドプロセッサから前記ビーム制御信号を受信し、
前記ビーム制御信号に基づいて、前記可変移相器に対する位相制御量を決定し、決定した位相制御量に基づいて前記可変移相器を制御するよう構成され、
前記RFフロントエンドモジュールは、
無指向性アンテナモジュールと、
前記複数のアンテナモジュール及び前記無指向性アンテナモジュールのいずれか一方を前記ベースバンドプロセッサに接続し、通信に用いられる使用アンテナモジュールとして選択するスイッチと、をさらに備え、
前記コントローラは、前記ビーム制御信号に基づいて、前記スイッチを制御する
移動局。
【請求項2】
前記コントローラは、前記ビーム制御信号に基づいて、複数の前記アンテナモジュールのうち、通信に用いられる1又は複数の使用アンテナモジュールを選択し、1又は複数の前記使用アンテナモジュールが有する前記可変移相器を制御する
請求項1に記載の移動局。
【請求項3】
前記コントローラは、アンテナビームの向きと各可変移相器の位相制御量とが対応付けられたテーブルを参照することで、前記位相制御量を決定する
請求項1又は2に記載の移動局。
【請求項4】
前記RFフロントエンドモジュールは、前記ビーム制御信号を一つの端子だけで受信する
請求項1~3のいずれか1項に記載の移動局。
【請求項5】
前記コントローラは、前記アンテナ素子によって送信又は受信された信号の位相をモニタすることで、前記位相制御量を補正する
請求項1~4のいずれか1項に記載の移動局。
【請求項6】
複数のアンテナモジュールと、
コントローラと、
無指向性アンテナモジュールと、
前記複数のアンテナモジュール及び前記無指向性アンテナモジュールのいずれか一方をベースバンドプロセッサに接続し、通信に用いられる使用アンテナモジュールとして選択するスイッチと、
を備え、
複数の前記アンテナモジュールは、それぞれ、アンテナ素子と、前記アンテナ素子に接続された可変移相器と、を備え、
前記コントローラは、
複数の前記アンテナ素子によって形成されるアンテナビームの向きを示すビーム制御信号を前記ベースバンドプロセッサから受信し、
前記ビーム制御信号に基づいて、前記可変移相器に対する位相制御量を決定し、決定した位相制御量に基づいて前記可変移相器を制御するとともに、前記ビーム制御信号に基づいて、前記スイッチを制御するよう構成されている
移動局用RFフロントエンドモジュール。
【請求項7】
基板と、
前記基板に形成された複数のアンテナ素子と、
前記基板に設けられ、ベースバンドプロセッサと接続されるフロントエンド集積回路と、
を備え、
前記フロントエンド集積回路は、複数の前記アンテナ素子に対応して設けられた複数の可変移相器と、コントローラと、
無指向性アンテナモジュールと、
前記複数の可変移相器及び前記無指向性アンテナモジュールのいずれか一方を前記ベースバンドプロセッサに接続し、通信に用いられる使用デバイスとして選択するスイッチと、
を備え、
前記コントローラは、
複数の前記アンテナ素子によって形成されるアンテナビームの向きを示すビーム制御信号を前記ベースバンドプロセッサから受信し、
前記ビーム制御信号に基づいて、前記可変移相器に対する位相制御量を決定し、決定した位相制御量に基づいて前記可変移相器を制御するとともに、前記ビーム制御信号に基づいて、前記スイッチを制御するよう構成されている
移動局用RFフロントエンドモジュール。
【請求項8】
ベースバンドプロセッサ、複数のアンテナ素子、及び無指向性アンテナモジュールに接続されるフロントエンド集積回路であって、
複数の前記アンテナ素子に対応して設けられた複数の可変移相器と、
コントローラと、
前記複数の可変移相器及び前記無指向性アンテナモジュールのいずれか一方を前記ベースバンドプロセッサに接続し、通信に用いられる使用デバイスとして選択するスイッチと、を備え、
前記コントローラは、
複数の前記アンテナ素子によって形成されるアンテナビームの向きを示すビーム制御信号を前記ベースバンドプロセッサから受信し、
前記ビーム制御信号に基づいて、前記可変移相器に対する位相制御量を決定し、決定した位相制御量に基づいて前記可変移相器を制御するとともに、前記ビーム制御信号に基づいて、前記スイッチを制御するよう構成されている
フロントエンド集積回路。