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特開2022-180568スチレン系樹脂組成物、難燃性スチレン系樹脂組成物及び成形体、並びにパッチアンテナ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180568
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂組成物、難燃性スチレン系樹脂組成物及び成形体、並びにパッチアンテナ
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/04 20060101AFI20221129BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20221129BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20221129BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
C08L25/04
C08K5/13
C08K5/17
C08J5/00 CET
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152874
(22)【出願日】2022-09-26
(62)【分割の表示】P 2022501093の分割
【原出願日】2021-02-19
(31)【優先権主張番号】P 2020028494
(32)【優先日】2020-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020072534
(32)【優先日】2020-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020211849
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】500199479
【氏名又は名称】PSジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(72)【発明者】
【氏名】野寺 明夫
(57)【要約】
【課題】本開示の目的は、誘電率や誘電正接、及び色調に優れ、使用環境下による特性低下が少ないスチレン系樹脂成形体を提供することである。
【解決手段】本開示は、繰り返し単位としてスチレン系単量体単位を有するスチレン系樹脂(A1)を含有するスチレン系樹脂組成物であって、
前記スチレン系樹脂(A1)中に含まれるカテコール誘導体は、前記スチレン系樹脂(A1)1g当たり6μg以下であり、且つ前記スチレン系単量体単位のダイマーと前記スチレン系単量体単位のトリマーとの合計量は、前記スチレン系樹脂(A1)1g当たり5000μg以下含有し、誘電率3以下、誘電正接0.02以下であることを特徴とする、スチレン系樹脂組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返し単位としてスチレン系単量体単位を有するスチレン系樹脂(A1)を含有するスチレン系樹脂組成物であって、
前記スチレン系樹脂(A1)中に含まれるカテコール誘導体は、前記スチレン系樹脂(A1)1g当たり6μg以下であり、且つ前記スチレン系単量体単位のダイマーと前記スチレン系単量体単位のトリマーとの合計量は、前記スチレン系樹脂(A1)1g当たり5000μg以下含有し、
前記スチレン系樹脂(A1)は、繰り返し単位としてモノビニルスチレン系単量体単位を有するポリマーマトリックス中にゴム状重合体(a)の粒子が分散されたゴム変性スチレン系樹脂、あるいは前記スチレン系単量体単位と、不飽和カルボン酸系単量体単位及び/又は不飽和カルボン酸エステル系単量体単位とを含むスチレン系共重合樹脂であり、
誘電率3以下、誘電正接0.02以下であることを特徴とする、スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記スチレン系共重合樹脂は、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、スチレン系単量体単位の含有量は69~98質量%であり、不飽和カルボン酸系単量体単位の含有量は16質量%以下であり、不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の含有量は0~15質量%である、請求項1に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(a)の含有量は、前記ゴム変性スチレン系樹脂100質量%に対して、3~20質量%である、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
リン系難燃剤、ブロム系難燃剤、及びヒンダードアミン系化合物(C2)からなる群より選ばれる1種又2種以上をさらに含有する、請求項3に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
酸化防止剤をスチレン系樹脂組成物全体に対して、0.05~5質量%さらに含有し、かつ前記酸化防止剤は、フェノール系化合物、リン系化合物又はチオエーテル系化合物である、請求項4に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項6】
前記スチレン系樹脂(A1)は、熱可塑性スチレン系樹脂(b)である、請求項1~5のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物を成形してなるスチレン系樹脂成形体であって、
0.3~300GHzの周波数を有する電磁波で通信を行う装置の構成要素用、あるいはハウジング又はハウジング部品用である、スチレン系樹脂成形体。
【請求項8】
前記スチレン系樹脂成形体は、送受信装置、携帯電話、タブレット、ラップトップ、ナビゲーションデバイス、監視カメラ、写真撮影用カメラ、センサ、ダイビングコンピュータ、オーディオユニット、リモコン、スピーカ、ヘッドホン、ラジオ、テレビ、照明機器、家電製品、キッチン用品、ドアオープナー又はゲートオープナー、車両中央ロック用操作装置、キーレス自動車用キー、温度測定装置又は温度表示装置、測定装置及び制御装置の構成要素、及びハウジング又はハウジング部品からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項7のスチレン系樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スチレン系樹脂組成物、難燃性スチレン系樹脂組成物及び成形体、並びにパッチアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機、スマートフォン、携帯情報端末、及びWi-Fi機器のような通信機器、弾性表面波(SAW)デバイス、レーダ部品、又はアンテナ部品等の電子デバイスにおいては、通信容量の大容量化或いは通信速度の高速化等を図るために、信号周波数の高周波化(0.3GHz以上)が進められている。このような高周波用途の電子機器に用いられる部材には、高周波信号の質又は強度等の特性を確保するために、誘電損失又は導体損失等に基づく伝送損失を低減することが求められている。
例えば、特許文献1には、高周波用途の電子機器に用いられる部材として、フッ素樹脂、硬化性ポリオレフィン、シアネートエステル系樹脂、硬化性ポリフェニレンオキサイド、アリル変性ポリフェニレンエーテル、ジビニルベンゼン又はジビニルナフタレンで変性したポリエーテルイミド等の高分子材料を用いることが提案されている。そして、特許文献1には、複数のスチレン基を有する架橋成分としてビス(ビニルフェニル)エタンを用いることにより、従来、架橋剤として使用されていたジビニルベンゼンの揮発性及び脆い硬化物の欠点を改善する旨が開示されている。なお、一般的には、スチレン系樹脂は、成形性及び寸法安定性に加え、絶縁性又は誘電特性などの電気特性に優れており、中でも難燃性を付与したスチレン系樹脂組成物は、家電機器、及びOA機器を始め多岐にわたり使用されている現状がある。
【0003】
また、特許文献2には、高周波用パッチアンテナ支持体として、特定のアルカリ金属酸化物を配合したガラスのパッチアンテナ支持体が開示されている。なお、一般的には、スチレン系樹脂は、成形性及び寸法安定性に加え、絶縁性又は誘電特性などの電気特性に優れており、中でも難燃性を付与したスチレン系樹脂組成物は、家電機器、及びOA機器を始め多岐にわたり使用されている現状がある。さらに、特許文献3では、誘電体基板の代表例であるPTFEを誘電体層に使用する技術を開示している。
【0004】
一般的に、スチレン系樹脂は、成形性、寸法安定性に加え、耐衝撃性に優れていることから、広範囲な用途に使用されている。中でも難燃性が付与されたポリスチレン系樹脂組成物は、家電機器、OA機器を始め多岐にわたり使用されており、外装部品や透明部品など意匠性が必要な部材に使用されている。しかしながら、近年ハロゲン含有有機化合物を規制する動きが欧州を中心に活発化していること等から、安価で物性バランスに優れているブロム元素を含まない難燃性樹脂又は難燃性樹脂組成物の需要が高まっている。例えば、特許文献4には、ポリスチレンにホスフィン酸系化合物を添加し難燃性を向上させる技術が開示されている。また、特許文献5にはポリスチレン樹脂にリン系難燃剤とNOR型ヒンダードアミン系化合物を配合する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002-249531号公報
【特許文献2】国際公開2018/051793号公報
【特許文献3】特表2008-537964号公報
【特許文献4】特開2001-192565号公報
【特許文献5】特開2019-183084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1において開示される樹脂は、いわゆる耐熱性に優れたエンジニリングプラスチックであるため、加工性又はリサイクル性に課題が残る硬化性樹脂である。そのため、加工可能な成形体の形状に制限を受ける。さらにスチレン系単量体単位のダイマー・トリマーが前記硬化性樹脂中に多く残存するため、高周波用途で使用されると伝送損失が大きくなってしまう問題が残る。また、上述した通り、高周波用途に対しては伝送損失を低減することが有効であるが、高周波用途としてスチレン系樹脂などの高分子材料を使用する場合、当該使用により使用環境が(例えば、高温環境に)変わるため、さらに継続して使用すると、誘電率又は誘電正接の値が高くなる、或いは黄変するなどの新たな問題が生じる。また、スチレン系樹脂を高周波用途として使用する場合、難燃性を付与する目的で難燃剤を添加すると誘電特性(誘電率及び/又は誘電正接)の値が更に高くなってしまう問題がある。
上記特許文献2において開示されるパッチアンテナ支持体は、ガラスとしては優れるものの、比誘電率及び誘電正接はポリスチレン系樹脂より高く、伝送損失が大きくなる問題点がある。そして、誘電体自体がガラス製のため、破損しやすく、パッチアンテナの形状も自由度が少なくなるなどの課題もある。また、特許文献3において誘電体層として使用しているPTFE等のテフロン系樹脂は、誘電体損失がガラスに比べて低いものの、パッチ基板又はグラウンド基板(以下、基板と称する。)との接着性が悪く、これらの基板がテフロン系樹脂から剥離するという新たな問題が生じる。
【0007】
また、特許文献3のように、誘電体に樹脂を使用する場合、使用環境によって樹脂の酸化劣化により黄変が生じるやすくなる。このような樹脂の黄変は、誘電正接の悪化を招くだけでなく、パッチアンテナが外部にある場合(特に透明用途)おいては、製品外観又はマテリアルリサイクル等の不具合となりうる。
上記特許文献4では、ポリスチレンにホスフィン酸系化合物を添加し難燃性を発現することができるが、ホスフィン化合物は熱安定性が悪く、成形時ガス発生を引き起こし成形品の成形外観が低下するほか、成形機の金型等に付着して連続成形性に問題がある。さらにホスフィン酸系化合物は、加工温度で昇華し喪失してしまうため、難燃効果にばらつきが生じる問題点もあった。また、特許文献5では、成形すると黄変する不良現象を引き起こすため、淡色系の着色材料又は透明材料に使用するには課題があった。
そこで、本開示の目的は、安価で製品形状に制約を受けることが少なく、スチレン系樹脂の優れた誘電特性を保持し、高温条件下の使用環境でもそれら誘電特性を発揮し、かつ黄変が少ないスチレン系樹脂組成物及びその成形体を提供することである。
本開示の他の態様の目的は、基板との接着性、耐衝撃性、誘電率又は誘電正接、及び色調に優れ、使用環境下による特性低下が少ないパッチアンテナを提供することである。
本開示の別の態様の目的は、高い難燃性を安定して示し、色調、成形外観、耐熱性に優れる難燃性のスチレン系樹脂組成物、及び該スチレン系樹脂組成物を含む成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、スチレン系樹脂(A1)中に含まれる、カテコール誘導体の含有量及び前記スチレン系樹脂(A1)の構成単位であるスチレン系単量体単位のダイマー及びトリマーの含有量がそれぞれ特定量以下であると、誘電率3以下、誘電正接0.02以下の誘電特性となり、高温条件下で長期間使用してもそれら誘電特性を発揮し、かつ黄変が少ないスチレン系樹脂組成物及びそれを使用した成形体になることを見出し、本開示を完成するに至った。
本開示の他の態様として、特定の組成を有するスチレン系樹脂組成物を誘電体層として使用することにより、スチレン系樹脂の優れた誘電特性を保持したまま、高温条件下で長期間使用してもそれら誘電特性の低下を抑制し、黄変が少なく、且つ基板との接着性に優れたパッチアンテナを提供できることを見出した。
本開示の別の態様として、スチレン系樹脂に対してホスフィン酸系化合物とNOR型ヒンダードアミン系化合物とを特定の割合で添加した組成物にすることにより、高い難燃性を安定的に示し(=難燃効果のばらつきが低減されている)、色調、成形外観、耐熱性の優れる難燃性スチレン系樹脂組成物が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本開示は以下のとおりである。
[1]本開示は、繰り返し単位としてスチレン系単量体単位を有するスチレン系樹脂(A1)を含有するスチレン系樹脂組成物であって、
前記スチレン系樹脂(A1)中に含まれるカテコール誘導体は、前記スチレン系樹脂(A1)1g当たり6μg以下であり、且つ前記スチレン系単量体単位のダイマーと前記スチレン系単量体単位のトリマーとの合計量は、前記スチレン系樹脂(A1)1g当たり5000μg以下含有し、
誘電率3以下、誘電正接0.02以下であることを特徴とする、スチレン系樹脂組成物である。
[2]本開示において、前記スチレン系樹脂(A1)が、繰り返し単位としてモノビニルスチレン系単量体単位を有するポリマーマトリックス中にゴム状重合体(a)の粒子が分散されたゴム変性スチレン系樹脂、あるいは前記スチレン系単量体単位と、不飽和カルボン酸系単量体単位及び/又は不飽和カルボン酸エステル系単量体単位とを含むスチレン系共重合樹脂であることが好ましい。
[3]本開示において、更に難燃剤(B)を含有することが好ましい。
[4]本開示において、前記難燃剤(B)が、リン系難燃剤、ブロム系難燃剤、及びヒンダードアミン系化合物(C2)からなる群より選ばれる1種又2種以上であることが好ましい。
[5]本開示において、前記スチレン系樹脂(A2)77.0~98.8質量%と、
前記難燃剤(B)として、ホスフィン酸系化合物(C1)1.0~20.0質量%及びヒンダードアミン系化合物(C2)0.2~3.0質量%と、を含有することを特徴とすることが好ましい。
[6]本開示において、前記スチレン系樹脂(A1)は、熱可塑性スチレン系樹脂(b)であることが好ましい。
[7]本開示は、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂組成物を成形してなるスチレン系樹脂成形体であって、
0.3~300GHzの周波数を有する電磁波で通信を行う装置の構成要素用、あるいはハウジング又はハウジング部品用である、スチレン系樹脂成形体。
[8]本開示において、前記スチレン系樹脂成形体は、送受信装置、携帯電話、タブレット、ラップトップ、ナビゲーションデバイス、監視カメラ、写真撮影用カメラ、センサ、ダイビングコンピュータ、オーディオユニット、リモコン、スピーカ、ヘッドホン、ラジオ、テレビ、照明機器、家電製品、キッチン用品、ドアオープナー又はゲートオープナー、車両中央ロック用操作装置、キーレス自動車用キー、温度測定装置又は温度表示装置、測定装置及び制御装置の構成要素、及びハウジング又はハウジング部品からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
[9]本開示は、パッチ基板と、前記パッチ基板と離間して設けられたグラウンド基板と、
前記パッチ基板及び前記グランド基板に挟持された誘電体層と、を有し、
前記誘電体層は、カテコール誘導体、繰り返し単位としてスチレン系単量体単位を有するスチレン系樹脂(A1)、前記スチレン系単量体単位のダイマー及び前記スチレン系単量体単位のトリマーを含有するスチレン系樹脂組成物から構成され、
前記カテコール誘導体は、前記スチレン系樹脂(A1)1g当たり6μg以下であり、
前記スチレン系単量体単位のダイマーと前記スチレン系単量体単位のトリマーとの合計量は、前記スチレン系樹脂(A1)1g当たり5000μg以下含有することを特徴とする、パッチアンテナである。
[10]本開示において、スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、前記難燃剤(B)が、1~30質量%含まれることが好ましい。
[11]本開示において、前記リン系難燃剤が、アルキルフェノールでエステル化されているリン酸エステル化合物又はホスフィン酸系化合物であることが好ましい。
[12]本開示において、前記ブロム系難燃剤が、臭素化ジフェニルアルカン、臭素化フタルイミド、及びトリス(ポリブロモフェノキシ)トリアジン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
[13]本開示において、前記誘電体層に難燃剤(B)を更に含有することが好ましい。
[14]本開示において、前記パッチ基板が、給電点を介して同軸線路と電気的に接続されていることが好ましい。
[15]本開示において、前記パッチ基板は、六角形状であることが好ましい。
[16]本開示において、前記パッチ基板が複数配列された、マイクロアレイ方式であることが好ましい。
[17]本開示は、スチレン系樹脂(A1)77.0~98.8質量%と、
前記難燃剤(B)として、ホスフィン酸系化合物(C1)1.0~20.0質量%及びヒンダードアミン系化合物(C2)0.2~3.0質量%と、を含有する難燃性スチレン系樹脂組成物である。
[18]本開示において、前記ヒンダードアミン系化合物(C2)が、NOR型ヒンダードアミン系であることが好ましい。
[19]本開示において、前記ホスフィン酸系化合物(C1)が、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイドであることが好ましい。
[20]本開示は、上記[17]~[19]のいずれかに記載の難燃性スチレン系樹脂組成物を含むことを特徴とする、成形品。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、誘電率又は誘電正接、及び色調に優れ、使用環境の変化による誘電特性の低下が少ないスチレン系樹脂組成物及びその成形体を提供することができる。
本開示によれば、基板との接着性、誘電率又は誘電正接、耐衝撃性及び色調に優れ、使用環境下による特性低下が少ないパッチアンテナを提供することができる。
本発明によれば、高い難燃性を安定して示し、色調、成形外観、耐熱性の優れるスチレン系樹脂組成物、及び該スチレン系樹脂組成物を含む成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本実施形態のパッチアンテナの一例を示す概略図である。図1(a)は、マイクロストリップ線路を備えたパッチアンテナの概略図であり、図1(b)は、給電点を備えたパッチアンテナの概略図である。
図2図2は、本実施形態のマイクロアレイ方式のパッチアンテナの一例を示す概略図である。
図3図3は、マイクロストリップ線路法による誘電体評価の一例を示す概略図である。
図4図4は、最小銅箔接着性の評価に使用するサンプルの作製方法の一例を示す画像である。
図5図5は、最小銅箔接着性の結果を示す一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態(以下、「本実施形態」と言う。)について詳細に説明するが、本開示は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0013】
[スチレン系樹脂組成物]
本開示に係るスチレン系樹脂組成物は、大別すると2つに分けられる。一つ目のスチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂(A1)と、カテコール誘導体と、前記スチレン系樹脂(A1)を構成する繰り返し単位であるスチレン系単量体のダイマー及び前記スチレン系単量体単位のトリマーと、必要により配合される難燃剤(B)とを含有する態様である。
そして、2つ目のスチレン系樹脂組成物は、難燃性スチレン系樹脂組成物であり、スチレン系樹脂(A2)と、ホスフィン酸系化合物(C1)と、ヒンダードアミン系化合物(C2)とを含有する態様である。後述の通り、スチレン系樹脂(A1)は、カテコール誘導体と、前記スチレン系樹脂(A1)を構成する繰り返し単位であるスチレン系単量体のダイマー及び前記スチレン系単量体単位のトリマーとが物理的に取り込まれているが、スチレン系樹脂(A2)は、前記カテコール誘導体と、スチレン系単量体のダイマー及び前記スチレン系単量体単位のトリマーとが物理的に取り込まれていない形態も包含する。
【0014】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂(A1)(以下、(A1)成分とも称する。)を必須に含有し、当該スチレン系樹脂(A1)1gに対して6μg以下のカテコール誘導体を当該スチレン系樹脂(A1)中に含有し、且つ前記スチレン系樹脂(A1)を構成する繰り返し単位であるスチレン系単量体のダイマーと前記スチレン系単量体単位のトリマーとの合計量が、前記スチレン系樹脂(A1)1gに対して5000μg以下当該スチレン系樹脂(A1)中に含有し、誘電率3以下、誘電正接0.02以下であることを特徴とする。また、必要によりスチレン系樹脂組成物は難燃剤(B)を含有してもよい。したがって、本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、低誘電率・低誘電正接用の材料として使用しうる。
【0015】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物の別の態様は、スチレン系樹脂(A2)(以下、(A2)成分とも称する。)77.0~98.9質量%と、ホスフィン酸系化合物(C1)(以下、(C1)成分とも称する。)1.0~20.0質量%と、ヒンダードアミン系化合物(C2)(以下、(C2)成分とも称する。)0.1~3.0質量%と、を含有することを特徴とする難燃性スチレン系樹脂組成物である。これにより、難燃性が極めて向上し、且つ難燃効果のばらつきが低減された高い難燃性を安定して示し、色調、成形外観、耐熱性の優れる難燃性スチレン系樹脂組成物が得られる。
【0016】
本開示に係るスチレン系樹脂組成物において、(スチレン系樹脂(A1)中に含まれるカテコール誘導体の含有量)/(スチレン系樹脂(A1)1g)が6μg以下であり、且つ(スチレン系樹脂(A1)中に含まれる、スチレン系単量体単位のダイマーとスチレン系単量体単位のトリマーとの合計含有量)/(スチレン系樹脂(A1)1g)が5000μg以下である樹脂を用いると、低誘電率・低誘電正接の性能の低下が少ないことが確認された。高周波用途では、使用環境下の温度が高く、スチレン系樹脂の黄変・劣化が進みやすい環境下であるため、スチレン系樹脂組成物中の4-t-ブチルカテコール、スチレンダイマー、スチレントリマーが所定量以下にすることで低誘電率・低誘電正接の性能の低下が少なくなる。
【0017】
本実施形態において、カテコール誘導体の濃度が、6μg/スチレン系樹脂(A1)1g以下とすることが好ましく、より好ましくは3μg/スチレン系樹脂(A1)1g以下である。濃度が6μg/スチレン系樹脂(A1)1gを超えると、使用時、黄変が大きくなるほか、誘電正接の値が大きくなる。また、スチレン系単量体のダイマーとスチレン系単量体のトリマーとの合計量が5000μg/樹脂組成物中1g以下であることが好ましく、より好ましくは3000μg/樹脂組成物中1g以下である。スチレンダイマーとスチレントリマーの合計量が5000μg/スチレン系樹脂組成物中1gを超えると、使用時、誘電率と誘電正接の値が大きくなる。
【0018】
「スチレン系樹脂(A1):(A1)成分」
本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、スチレン系樹脂(A1)の含有量(カテコール誘導体及びスチレン系単量体のダイマーとトリマーの含有量は除く。以下のスチレン系樹脂(A1)の含有量も同様の意味である。)は、組成物全体(100質量%)に対して、70.0~100質量%であることが好ましく、より好ましくは99.7~100質量%、さらに好ましくは99.75~100質量%である。当該含有量を99.5質量%以上とすることにより、高温度下で長時間使用しても誘電率、誘電正接の増大を防ぐ効果を向上させることができる。また、当該含有量を100質量%以下とすることにより、低誘電率、低誘電正接の効果を奏することができる。
当該スチレン系樹脂(A1)の不純物又は添加剤として、カテコール誘導体と、スチレン系単量体のダイマー及びスチレン系単量体のトリマーとがスチレン系樹脂(A1)に取り込まれている。そのため、例えば、請求項に記載の用語「前記スチレン系樹脂(A1)中に含まれるカテコール誘導体」とは、カテコール誘導体がスチレン系樹脂(A1)に物理的に取り込まれていることをいう。また、スチレン系単量体のダイマー及びスチレン系単量体のトリマーも同様にスチレン系樹脂(A1)に物理的に取り込まれている。
本明細書では、スチレン系樹脂(A1)と、カテコール誘導体と、スチレン系単量体のダイマーと、スチレン系単量体のトリマーとは互いに化学構造などが異なるため、互いに別成分とする。そのため、本明細書において、用語「スチレン系樹脂(A1)の含有量」には、特段の記載が無い限り、スチレン系樹脂(A1)中に取り込まれたカテコール誘導体の含有量と、スチレン系樹脂(A1)中に取り込まれたスチレン系単量体のダイマー及びスチレン系単量体のトリマーの含有量とは含まれない。
【0019】
本実施形態で用いることができるスチレン系樹脂(A1)は、スチレン系単量体と、必要に応じてこれと共重合可能な他のビニル単量体及びゴム状重合体(a)より選ばれる1種以上を重合して得られる樹脂である。具体的には、限定されないが例えば、ポリスチレン、ポリマーマトリックス中にゴム状重合体(a)の粒子が分散されたゴム変性スチレン系樹脂、スチレン系共重合樹脂が挙げられる。そのため、本開示に係るスチレン系樹脂(A1)は、スチレン系単量体単位を必須成分として含有し、必要により、他のビニル単量体単位及び/又はゴム質重合体単量体単位を有する。
本実施形態において、スチレン系樹脂(A1)を構成する繰り返し単位であるスチレン系単量体単位は、モノビニルスチレン系単量体単位であることが好ましい。また、当該スチレン系樹脂(A1)には、2以上のビニル基を有する芳香族化合物(単位)(例えば、ジビニルベンゼン)といった架橋性芳香族ビニル化合物(単位)を4.5質量%以下含有することが好ましく、3質量%以下含有することがより好ましい。これにより、スチレン系単量体単位のダイマー(二量体)及びトリマー(三量体)との合計含有量を低減しやすくなる。
本実施形態で用いることができるスチレン系樹脂(A1)には、カテコール誘導体が当該スチレン系樹脂(A1)1gに対して6μg以下含まれる。また、当該スチレン系樹脂(A1)には、当該スチレン系樹脂(A1)を構成する繰り返し単位であるスチレン系単量体単位のダイマー(二量体)と、当該スチレン系単量体単位のトリマー(三量体)との合計含有量が、当該スチレン系樹脂(A1)1gに対して5000μg以下含まれる。
【0020】
「カテコール誘導体」
本実施形態におけるカテコール誘導体は、スチレン系樹脂(A1)の不純物又は添加剤として含まれるものであり、主にスチレン系樹脂(A1)を形成するスチレン系単量体の製造工程中に含まれるか、或いはスチレン系樹脂(A1)に対して添加剤として予め混合されるものである。カテコール誘導体が所定量(当該スチレン系樹脂(A1)1gに対して6μg)以上含有すると、高温使用下でカテコールがキノン構造となり黄変が生じたり、誘電率や誘電正接を増大させてしまう。
本実施形態におけるカテコール誘導体は、スチレン系樹脂組成物全体(100質量%)に対して、0質量%超0.00006質量%以下であり、好ましくは0質量%超0.00004質量%以下、より好ましくは0質量%超0.00003質量%以下である。
【0021】
本開示に係るカテコール誘導体は、以下の一般式(I)で表わされることが好ましい。
【化1】
(上記一般式(I)中、R、R、R、及びRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~6の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルキル基、又はアリール基である。)
上記炭素原子数1~6の直鎖状、分岐状、若しくは環状のアルキル基としては、炭素原子数1~5の直鎖状又は分岐状のアルキル基が好ましく、炭素原子数1~4の分岐状のアルキル基がより好ましい。当該アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基(n-プロピル基及びイソプロピル基を含む)、ブチル基(n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基及びn-ブチル基を含む)、ペンチル基(n-ペンチル、ネオペンチル、sec-ペンチル基、イソペンチル基、3-ペンチル基及びt-ペンチル基を含む)などが挙げられる。
上記アリール基は、フェニル基、又はナフチル基が挙げられ、当該アリール基の1以上の水素原子は、上記炭素原子数1~5の直鎖状又は分岐状のアルキル基に置換されてもよい。
本開示に係るカテコール誘導体としては、4-t-ブチルカテコール(以下、TBCと略す。)又は3,5-ジ-t-ブチルカテコールが好ましく、4-t-ブチルカテコールが特に好ましい。
本開示に係るスチレン系樹脂組成物において、特に、4-t-ブチルカテコールの濃度が、好ましくは6μg/スチレン系樹脂(A1)1g以下、より好ましくは3μg/スチレン系樹脂(A1)1g以下であると、誘電正接の変化量が小さくなり、かつ黄変を抑制できることが確認される。
【0022】
なお、本実施形態において、カテコール誘導体の含有量は、ガスクロマトグラフィーを用いて測定している。具体的には、以下の測定条件を使用している。
装置:Agilent 6890
試料:樹脂組成物1gをクロロホルム50mlに溶解後、BSTFA(N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド)を用いて、トリメチルシリル誘導体化処理を実施した。
カラム:DB-1(0.25mm i.d.×30m)
液相厚:0.25mm
カラム温度:40℃(5min保持)→(20℃/min 昇温)→320℃(6min保持) 合計25min
注入口温度:320℃
注入法:スプリット法(スプリット比 1:5)
試料量:2μl
MS装置:Agilent MSD5973
イオン源温度:230℃
インターフェイス温度: 320℃
イオン化法:電子イオン化(EI)法
測定法:SCAN法(スキャンレンジm/Z 10~800)
なお、スチレン系樹脂(A1)中のカテコール誘導体の量を所定値以下にする方法としては、スチレン系樹脂(A1)を蒸留精製する手段が挙げられる。
【0023】
「ダイマー及びトリマー」
本実施形態におけるスチレン系単量体のダイマー及びトリマーは、スチレン系樹脂(A1)の不純物として含まれるものであり、主にスチレン系樹脂(A1)を重合する際に生じるスチレン系単量体の二量体(ダイマー)及び三量体(トリマー)をいう。二量体(ダイマー)及び三量体(トリマー)の合計量が所定量(当該スチレン系樹脂(A1)1gに対して5000μg)以上含有すると、ダイマーやトリマーの酸化物がキノン構造となり、黄変が生じたり、誘電率や誘電正接の増大を引き起こす。
本実施形態における二量体(ダイマー)及び三量体(トリマー)は、スチレン系樹脂組成物全体(100質量%)に対して、0質量%超0.5質量%以下であり、好ましくは0質量%超0.3質量%以下、より好ましくは0質量%超0.25質量%以下である。
また、スチレン系単量体のダイマー及びトリマーの化学構造は、後述の通り、使用するスチレン系樹脂(A1)に含まれるスチレン系単量体に依存する。
なお、本実施形態において、スチレン系単量体の二量体(ダイマー)及び三量体(トリマー)の合計量は、ガスクロマトグラフィーを用いて測定している。具体的には、以下の測定状を使用している。
装置:Agilent 6850series GC system
試料:樹脂組成物1gをMEK10mlに溶解後、3mlのメタノールを加えて重合体を沈降させ、溶液中の成分濃度を測定した。
カラム:Agilent 19091Z-413E
入り口温度:250℃
検出器温度:280℃
なお、スチレン系樹脂(A1)中のダイマー及びトリマーの量を所定値以下にする方法としては、スチレン系樹脂(A1)を蒸留精製する手段が挙げられる。
【0024】
<ポリスチレン>
本実施形態において、ポリスチレンとはスチレン系単量体の単独重合体であり、一般的に入手できるものを適宜選択して用いることができる。当該スチレン系単量体は、モノビニルスチレン系単量体であることが好ましい。これにより熱可塑性ポリスチレンを形成しやすくなるだけでなく、スチレン系単量体のダイマー及びトリマーの量を低減することができる。ポリスチレンを構成するスチレン系単量体としては、スチレンの他に、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、ο-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、及びt-ブチルスチレン又はブロモスチレン及びインデン等のスチレン誘導体が挙げられる。特に工業的観点からスチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は、1種又は2種以上使用することができる。ポリスチレンは、上記のスチレン系単量体単位以外の単量体単位を、本開示の効果を損なわない範囲で更に含有することを排除しないが、典型的にはスチレン系単量体単位からなる。
【0025】
<ゴム変性スチレン系樹脂>
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂とは、ポリマーマトリックスとしてのスチレン系樹脂中にゴム状重合体(a)の粒子が分散したものであり、ゴム状重合体(a)の存在下でスチレン系単量体を重合させることにより製造することができる。また、ポリマーマトリックス中のスチレン成分は、モノビニルスチレン系単量体単位から構成されていることが好ましい。これにより熱可塑性ポリスチレンを形成しやすくなるだけでなく、スチレン系単量体のダイマー及びトリマーの量を低減することができる。
【0026】
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂を構成するスチレン系単量体としては、モノビニルスチレン系単量体であることが好ましく、スチレンの他に、例えば、α-メチルスチレン、α-メチルp-メチルスチレン、ο-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、及びt-ブチルスチレン又はブロモスチレン及びインデン等のスチレン誘導体が挙げられる。特に、スチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は、1種若しくは2種以上使用することができる。
【0027】
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂に含まれるゴム状重合体(a)は、例えば、内側に上記のスチレン系単量体より得られるスチレン系単量体単位を含有する樹脂を内包してもよく、及び/又は外側にスチレン系単量体単位を含有する樹脂がグラフトされたものであってよい。
【0028】
前記ゴム状重合体(a)としては、例えば、ポリブタジエン(ポリスチレン又はアクリル系樹脂を内包する形態も含む)、ポリイソプレン、天然ゴム、ポリクロロプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体等を使用できるが、ポリブタジエン又はスチレン-ブタジエン共重合体が好ましい。ポリブタジエンには、シス含有率の高いハイシスポリブタジエン及びシス含有率の低いローシスポリブタジエンの双方を用いることができる。また、スチレン-ブタジエン共重合体の構造としては、ランダム構造及びブロック構造の双方を用いることができる。これらのゴム状重合体(a)は1種若しくは2種以上使用することができる。また、ブタジエン系ゴムを水素添加した飽和ゴムを使用することもできる。
このようなゴム変性スチレン系樹脂の例としては、HIPS(高衝撃ポリスチレン)、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、AAS樹脂(アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン共重合体)、AES樹脂(アクリロニトリル-エチレンプロピレンゴム-スチレン共重合体)等が挙げられる。
【0029】
ゴム変性スチレン系樹脂がHIPS系樹脂である場合、これらのゴム状重合体(a)の中で特に好ましいのは、シス1,4結合が90モル%以上で構成されるハイシスポリブタジエンである。該ハイシスポリブタジエンにおいては、ビニル1,2結合が6モル%以下で構成されることが好ましく、3モル%以下で構成されることが特に好ましい。
なお、該ハイシスポリブタジエンの構成単位に関する異性体としてシス1,4、トランス1,4、又はビニル1,2構造を有する化合物の含有率は、赤外分光光度計を用いて測定し、モレロ法によりデータ処理することにより算出できる。
また、該ハイシスポリブタジエンは、公知の製造法、例えば有機アルミニウム化合物とコバルト又はニッケル化合物を含んだ触媒を用いて、1,3ブタジエンを重合して容易に得ることができる。
【0030】
ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(a)の含有量は、当該ゴム変性スチレン系樹脂100質量%に対して、3~20質量%が好ましく、更に好ましくは5~15質量%である。ゴム状重合体(a)の含有量が3質量%より少ないとスチレン系樹脂の耐衝撃性が低下する虞がある。また、ゴム状重合体(a)の含有量が20質量%を超えると難燃性が低下する虞がある。
なお本開示で、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(a)の含有量は、熱分解ガスクロマトグラフィーを用いて算出される値である。
【0031】
ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(a)の平均粒子径は、耐衝撃性や難燃性の観点から、0.5~4.0μmであることが好ましく、更に好ましくは0.8~3.5μmである。
なお本開示で、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(a)の平均粒子径は、以下の方法により測定することができる。
四酸化オスミウムで染色したゴム変性スチレン系樹脂から厚さ75nmの超薄切片を作製し、電子顕微鏡を用いて倍率10000倍の写真を撮影する。写真中、黒く染色された粒子がゴム状重合体(a)である。写真から、下記数式(N1):
平均粒子径=ΣniDri /ΣniDri (N1)
(上記数式(N1)中、niは、粒子径Driのゴム状重合体(a)粒子の個数であり、粒子径Driは、写真中の粒子の面積から円相当径として算出した粒子径である。)
により面積平均粒子径を算出し、ゴム状重合体(a)の平均粒子径とする。本測定は、写真を200dpiの解像度でスキャナーに取り込み、画像解析装置IP-1000(旭化成社製)の粒子解析ソフトを用いて測定する。
【0032】
ゴム変性スチレン系樹脂の還元粘度(これは、ゴム変性スチレン系樹脂の分子量の指標となる)は、0.50~0.85dL/gの範囲にあることが好ましく、更に好ましくは0.55~0.80dL/gの範囲である。0.50dL/gより小さいと衝撃強度が低下する虞があり、0.85dL/gを超えると流動性の低下により成形性が低下する虞がある。
なお本開示で、ゴム変性スチレン系樹脂の還元粘度は、トルエン溶液中で30℃、濃度0.5g/dLの条件で測定される値である。
【0033】
ゴム変性スチレン系樹脂の製造方法は、特に制限されるものではないが、ゴム状重合体(a)の存在下、スチレン系単量体(及び溶媒)を重合する塊状重合(若しくは溶液重合)、又は反応途中で懸濁重合に移行する塊状-懸濁重合、又はゴム状重合体(a)ラテックスの存在下、スチレン系単量体を重合する乳化グラフト重合にて製造することができる。塊状重合においては、ゴム状重合体(a)とスチレン系単量体、並びに必要に応じて有機溶媒、有機過酸化物、及び/又は連鎖移動剤を添加した混合溶液を、完全混合型反応器又は槽型反応器と複数の槽型反応器とを直列に連結し構成される重合装置に連続的に供給することにより製造することができる。
【0034】
<スチレン系共重合樹脂>
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂とは、スチレン系単量体単位と、当該スチレン系単量体と共重合可能なその他単量体(単位)とを含む樹脂である。スチレン系単量体と共重合可能なその他単量体の一例としては、例えば、スチレン系単量体単位を必須に含有し、且つ不飽和カルボン酸系単量体単位及び/又は不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を任意に含む樹脂である。また、当該スチレン系単量体単位は、当該モノビニルスチレン系単量体単位から構成されていることが好ましい。これにより熱可塑性ポリスチレンを形成しやすくなるだけでなく、スチレン系単量体のダイマー及びトリマーの量を低減することができる。スチレン系共重合樹脂は、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、スチレン系単量体単位の含有量は69~98質量%であることが好ましく、より好ましくは74~96質量%であり、さらに好ましくは77~92質量%の範囲である。スチレン系単量体単位の含有量を69質量%以上とすることにより、樹脂の流動性を向上させることができる。一方、スチレン系単量体単位の含有量を98質量%以下とすることにより、任意成分である、後述の不飽和カルボン酸系単量体単位及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を所望量存在させにくくなり、これらの単量体単位による後述の効果を得にくくなる。
【0035】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂において、不飽和カルボン酸系単量体単位は耐熱性を向上させる役割を果たす。スチレン系共重合樹脂中のスチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、不飽和カルボン酸系単量体単位の含有量は16質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0質量%以上14質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以上13質量%以下である。当該含有量が16質量%を超えると、誘電率や誘電正接の値が高くなり、高周波用途では誘電損失が大きくなる。特に不飽和カルボン酸系単量体単位の含有量を0質量超16質量%以下とすることにより、耐熱性の効果を発揮しやすくなるため、高周波用途の電子機器に特有の状況、すなわち高周波領域の電磁波に暴露されることにより発生する熱の影響を軽減することができる。
また、不飽和カルボン酸系単量体単位の含有量を16質量%以下とすることにより、本実施形態のスチレン系樹脂組成物(特に、難燃性スチレン系樹脂組成物)をマスターバッチとして使用した場合、スチレン系樹脂に対する優れた分散性が発揮され、難燃性が向上できるほか、成形外観、樹脂の流動性、及び機械的物性がより向上する。
【0036】
一般に、スチレン-メタクリル酸-メタクリル酸メチル共重合樹脂を含むスチレン-メタクリル酸系樹脂は、工業的規模ではほとんどの場合、ラジカル重合で生産されているが、本実施形態において、脱揮工程のゲル化反応を抑制するために、種々のアルコールを重合系中に添加して重合を行なうことができる。
【0037】
不飽和カルボン酸エステル系単量体は、不飽和カルボン酸系単量体との分子間相互作用によって不飽和カルボン酸系単量体の脱水反応を抑制するために、及び、樹脂の機械的強度を向上させるために用いることができる。更には、不飽和カルボン酸エステル系単量体は、耐候性、表面硬度等の樹脂特性の向上にも寄与する。
【0038】
本実施形態において、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の含有量は0~15質量%であることが好ましく、より好ましくは1~12質量%、さらに好ましくは2~10質量%である。当該含有量を15質量%以下とすることにより、樹脂の流動性を向上させ、且つ吸水性を抑制することができる。また、不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の含有量を0質量%とすることにより、耐熱性の向上やコスト削減をすることができるが、上記の観点から不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の含有量を0質量%超とすることもできる。特に、不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を0質量%超15質量%以下とすることにより、樹脂の流動性と低い吸水性を維持できるため、精密電子機器用の材料に最適である。
【0039】
なお、不飽和カルボン酸系単量体と不飽和カルボン酸エステル系単量体単位とが隣り合わせで結合した場合、高温、高真空の脱揮装置を用いると、条件によっては脱アルコール反応が起こり、六員環酸無水物が形成される場合がある。本実施形態の共重合樹脂は、この六員環酸無水物を含んでいてもよいが、流動性を低下させることから、生成される六員環酸無水物はより少ない方が好ましい。
【0040】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂中の、スチレン系単量体単位(例えば、スチレン単量体単位)、不飽和カルボン酸系単量体単位(例えば、メタクリル酸単量体単位)及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位(例えば、メタクリル酸メチル単量体単位)の含有量は、それぞれ、プロトン核磁気共鳴(H-NMR)測定機で測定したスペクトルの積分比から求めることができる。
【0041】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂は、スチレン系単量体単位、任意成分である、不飽和カルボン酸系単量体単位及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位以外の単量体単位を、本開示の効果を損なわない範囲で更に含有することを排除しない。しかし、本開示におけるスチレン系共重合樹脂は、典型的には、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を構成成分とすることが好ましい。
【0042】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂を構成するスチレン系単量体としては、スチレン系単量体としては、特に限定されないが例えば、スチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、ο-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、t-ブチルスチレン、ブロモスチレン、インデン等のスチレン誘導体が挙げられる。スチレン系単量体としては、工業的観点からスチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0043】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂を構成する不飽和カルボン酸系単量体としては、特に限定されないが例えば、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸系単量体としては、耐熱性の向上効果が大きく、常温にて液状でハンドリング性に優れることからメタクリル酸が好ましい。これらの不飽和カルボン酸系単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0044】
本実施形態の共重合樹脂を構成する不飽和カルボン酸エステル系単量体としては、特に限定されないが例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、耐熱性低下に対する影響が小さいことから(メタ)アクリル酸メチルが好ましい。これらの不飽和カルボン酸エステル系単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
本実施形態の好適なスチレン系共重合樹脂としては、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-メタクリル酸-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-アクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリル酸-アクリル酸メチル共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル-メタクリル酸ブチル共重合体、スチレンーメタクリル酸ブチル共重合体、又はスチレン-無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。
【0046】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂の重量平均分子量(Mw)は100,000~350,000であることが好ましく、より好ましくは120,000~300,000、さらに好ましくは140,000~240,000である。重量平均分子量(Mw)が100,000~350,000である場合、機械的強度と流動性とのバランスにより優れる樹脂が得られ、またゲル物の混入も少ない。なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、標準ポリスチレン換算で得られる値である。
【0047】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂の重合方法は、特に制限はないが例えば、ラジカル重合法として、塊状重合法又は溶液重合法を好適に採用できる。重合方法は、主に、重合原料(単量体成分)を重合させる重合工程と、重合生成物から未反応モノマー、重合溶媒等の揮発分を除去する脱揮工程とを備える。
【0048】
以下、本実施形態に用いることができるスチレン系共重合樹脂の重合方法の一例について説明する。
スチレン系共重合樹脂を得るために重合原料を重合させる際には、重合原料組成物中に、典型的には重合開始剤及び連鎖移動剤を含有させる。
スチレン系共重合樹脂の重合に用いられる重合開始剤としては、有機過酸化物、例えば、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレート等のペルオキシケタール類、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド類、アセチルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート類、t-ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル類、アセチルアセトンペルオキシド等のケトンペルオキシド類、t-ブチルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類等を挙げることができる。分解速度と重合速度との観点から、なかでも、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサンが好ましい。
スチレン系共重合樹脂の重合に用いられる連鎖移動剤としては、例えば、α-メチルスチレンリニアダイマー、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン等を挙げることができる。
【0049】
スチレン系共重合樹脂の重合方法としては、必要に応じて、重合溶媒を用いた溶液重合を採用できる。用いられる重合溶媒としては、芳香族炭化水素類、例えば、エチルベンゼン、ジアルキルケトン類、例えば、メチルエチルケトン等が挙げられ、それぞれ、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。重合生成物の溶解性を低下させない範囲で、他の重合溶媒、例えば脂肪族炭化水素類等を、芳香族炭化水素類に更に混合することができる。これらの重合溶媒は、全単量体100質量部に対して、25質量部を超えない範囲で使用するのが好ましい。全単量体100質量部に対して重合溶媒が25質量部を超えると、重合速度が著しく低下し、且つ得られる樹脂の機械的強度の低下が大きくなる傾向がある。重合前に、全単量体100質量部に対して5~20質量部の割合で添加しておくことが、品質が均一化し易く、重合温度制御の点でも好ましい。
【0050】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂を得るための重合工程で用いる装置は、特に制限はなく、スチレン系樹脂の重合方法に従って適宜選択すればよい。例えば、塊状重合を採用する場合には、完全混合型反応器を1基、又は複数基連結した重合装置を用いることができる。また脱揮工程についても特に制限はない。塊状重合を採用する場合、最終的に未反応モノマーが、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下になるまで重合を進め、かかる未反応モノマー等の揮発分を除去するために、既知の方法にて脱揮処理する。より詳細には、例えば、フラッシュドラム、二軸脱揮器、薄膜蒸発器、押出機等の通常の脱揮装置を用いることができるが、滞留部の少ない脱揮装置が好ましい。なお、脱揮処理の温度は、通常、190~280℃程度であり、不飽和カルボン酸系単量体(例えば、メタクリル酸)と不飽和カルボン酸エステル系単量体(例えば、メタクリル酸メチル)との隣接による六員環酸無水物の形成を抑制する観点から、190~260℃がより好ましい。また脱揮処理の圧力は、通常0.13~4.0kPa程度であり、好ましくは0.13~3.0kPaであり、より好ましくは0.13~2.0kPaである。脱揮方法としては、例えば加熱下で減圧して揮発分を除去する方法、及び揮発分除去の目的に設計された押出機等を通して除去する方法が望ましい。
【0051】
本実施形態において、前記カテコール誘導体、前記スチレン系単量体単位のダイマーと前記スチレン系単量体単位のトリマーを低減できることから、スチレン系樹脂は熱可塑性スチレン系樹脂であることが好ましい。また、リサイクルや低コストから観点からも熱可塑性スチレン系樹脂のほうが好ましい。熱可塑性スチレン系樹脂とは、架橋成分として2以上のビニル基を有する架橋性芳香族ビニル化合物を4.5質量%未満含むことと定義する。
【0052】
<難燃剤(B):(B)成分>
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物は、難燃性を付与するために難燃剤(B)を含有してもよい。難燃剤(B)の含有量は、スチレン系樹脂組成物全体(100質量%)に対して、好ましくは1~30質量%であり、より好ましくは2~20質量%、さらに好ましくは3~15質量%である。当該含有量が30質量%より多いと誘電率や誘電正接が高くなるほか、使用環境下での誘電率、誘電正接が高くなるほか、黄変の変化が大きい。本実施形態において、難燃剤(B)は、低誘電率、低誘電正接の観点より、リン系難燃剤、ブロム系難燃剤、又はヒンダードアミン系化合物(C2)が好ましい。リン系難燃剤は、特にアルキルフェノールでエステル化した化合物又はホスフィン酸系化合物(C1)が低誘電率・低誘電正接に効果がより大きい。また、ブロム系難燃剤は、臭素化ジフェニルアルカン、臭素化フタルイミド、又はトリス(ポリブロモフェノキシ)トリアジン化合物が低誘電率・低誘電正接に効果がより大きい。これらの難燃剤は、単独、もしくは2種以上組み合わせて利用してもよい。
【0053】
-リン系難燃剤-
リン系難燃剤は、特に制限されず、従来公知の方法によって得られるもの、又は市販品を用いることができる。好ましくは、リン酸エステル化合物、ホスファゼン化合物、ホスホン酸化合物、又はホスフィン酸系化合物(C1)であり、これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でもスチレン系樹脂との相溶性の良いリン酸エステル化合物、ホスホン酸エステル化合物、又はホスフィン酸系化合物(C1)が最も好ましい。
【0054】
リン系難燃剤は、特にリン含有量が3.0質量%以上のものであると、(NOR型)ヒンダードアミン系化合物との難燃性の相乗効果が発現し、少ない添加量で高い難燃性を得ることができる。リン含有量が3.0質量%以上とは、リン系難燃剤中にリン元素が3.0質量%以上含まれるリン化合物のことをいう。
リン系難燃剤は、リン含有量が3.0質量%以上であると好ましく、7.0質量%以上であるとより好ましい。リン含有量が3.0質量%以上であると、(NOR型)ヒンダードアミン系化合物と難燃性に対し相乗効果を発現し、少ない添加量で難燃性が得られるため、低誘電率・低誘電正接には有効であり、使用環境下での変化も少なくすることができる。
なお、リン含有量は、吸光光度法にてリン系難燃剤に含有されているリン原子の含有量を測定することができる。
【0055】
また、リン系難燃剤としては、スチレン系樹脂組成物中での分散が良好となる150℃~300℃で液体、即ち、融点が300℃以下である難燃剤が好ましい。溶融混錬時に固体であるリン系難燃剤(例えば、融点を有さないリン系難燃剤)を用いると、溶融混練時にリン系難燃剤が液体状ではないため、(A1)成分又は(A2)成分に均一に分散せず、物性低下を起こしたり、難燃性が低下したりするおそれがある。
【0056】
--リン酸エステル化合物--
リン酸エステル化合物としては、芳香族リン酸エステル化合物が好ましい。例えば、トリメチルホスフェート(TMP)、トリエチルホスフェート(TEP)、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、クレジルジフェニルホスフェート(CDP)等のモノマー型リン酸エステル系化合物、レゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェート、レゾルシノールビス-ジフェニルホスフェート、ビスフェノールAビス-ジフェニルホスフェート(BADP)、ビスフェノールAビス-ジクレジルホスフェート、ビフェノールビス-ジフェニルホスフェート、ビフェノールビス-ジキシレニルホスフェート等の、オキシ塩化リンと二価のフェノール系化合物とフェノール(又はアルキルフェノール)との反応生成物である芳香族縮合リン酸エステル系化合物等が挙げられる。
これらの中でも好ましくは、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、レゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェート、レゾルシノールビス-ジフェニルホスフェート、ビスフェノールAビス-ジフェニルホスフェート(BADP)、ビフェノールビス-ジフェニルホスフェート、ビフェノールビス-ジキシレニルホスフェートであり、より好ましくは、トリフェニルホスフェート(TPP)、レゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェート、レゾルシノールビス-ジフェニルホスフェートであり、更に好ましくは、レゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェートである。
【0057】
また、リン酸エステル化合物は、耐熱性、成形加工時のモールドデポジットの低減等の観点で、縮合タイプである縮合リン酸エステル系化合物であることが好ましく、特に下記化学式(II)で表される芳香族縮合リン酸エステル系化合物が好ましい。
【化2】
(上記化学式(II)中、R21~R25はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数1~10のアルコキシ基、又はハロゲン原子であり、R21~R25は同一でも異なっていてもよい。n2は0~30の整数であり、好ましくは0~10の整数である。)
上記アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、アミル基、tert-アミル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。
上記シクロアルキル基としてはシクロヘキシル基等が挙げられる。
上記アリール基としては、フェニル基、クレジル基、キシリル基、2,6-キシリル基、2,4,6-トリメチルフェニル基、ブチルフェニル基、ノニルフェニル基等が挙げられる。
上記アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
上記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
【0058】
更に、上記リン酸エステル化合物の中でも、難燃性と透明性の両立という観点から、下記の化合物(II-1)、(II-2)、又は(II-3)で表わされるリン酸エステル化合物が好ましく、化合物(II-2)又は(II-3)がより好ましく、化合物(II-2)が更に好ましい。
当該化合物(II-2)(レゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェート)としては、例えば、大八化学工業株式会社のPX-200等が使用でき、化合物(II-3)(レゾルシノールビス-ジフェニルホスフェート)としては、例えば、大八化学工業株式会社のCR-733S等が使用できる。
【化3】
【0059】
-ホスファゼン化合物-
ホスファゼン化合物としては、例えば、1,1,3,3,5,5-ヘキサ(メトキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5-ヘキサ(エトキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5-ヘキサ(n-プロポキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5-ヘキサ(イソ-プロポキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5-ヘキサ(n-ブトキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5-ヘキサ(イソ-ブトキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5-ヘキサ(フェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5-ヘキサ(p-トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5-ヘキサ(m-トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5-ヘキサ(o-トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5-ヘキサ(4-エチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5-ヘキサ(4-n-プロピルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5-ヘキサ(4-イソ-プロピルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5-ヘキサ(4-t-ブチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5-ヘキサ(4-t-オクチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5-ヘキサ(2,3-ジメチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5-ヘキサ(2,4-ジメチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5-ヘキサ(2,5-ジメチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5-ヘキサ(2,6-ジメチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5-トリス(メトキシ)-1,3,5-トリス(フェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5-トリス(エトキシ)-1,3,5-トリス(フェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5-トリス(n-プロポキシ)-1,3,5-トリス(フェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5-トリス(イソ-プロポキシ)-1,3,5-トリス(フェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5-トリス(n-ブトキシ)-1,3,5-トリス(フェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5-トリス(イソ-ブトキシ)-1,3,5-トリス(フェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5-トリス(メトキシ)-1,3,5-トリス(p-トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5-トリス(メトキシ)-1,3,5-トリス(m-トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5-トリス(メトキシ)-1,3,5-トリス(o-トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5-トリス(エトキシ)-1,3,5-トリス(p-トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5-トリス(エトキシ)-1,3,5-トリス(m-トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5-トリス(エトキシ)-1,3,5-トリス(o-トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5-トリス(n-プロポキシ)-1,3,5-トリス(p-トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5-トリス(n-プロポキシ)-1,3,5-トリス(m-トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5-トリス(n-プロポキシ)-1,3,5-トリス(o-トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5-トリス(イソ-プロポキシ)-1,3,5-トリス(p-トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5-トリス(n-ブトキシ)-1,3,5-トリス(p-トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5-トリス(イソ-ブトキシ)-1,3,5-トリス(p-トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5-トリス(メトキシ)-1,3,5-トリス(4-t-ブチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5-トリス(メトキシ)-1,3,5-トリス(4-t-オクチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5-トリス(n-プロポキシ)-1,3,5-トリス(4-t-ブチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5-トリス(n-プロポキシ)-1,3,5-トリス(4-t-オクチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン等が挙げられる。
【0060】
この中でも好ましくは、1,1,3,3,5,5-ヘキサ(メトキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5-ヘキサ(エトキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5-ヘキサ(フェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5-ヘキサ(p-トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5-トリス(メトキシ)-1,3,5-トリス(フェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5-トリス(エトキシ)-1,3,5-トリス(フェノキシ)シクロトリホスファゼンであり、より好ましくは、1,1,3,3,5,5-ヘキサ(エトキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5-ヘキサ(フェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5-トリス(エトキシ)-1,3,5-トリス(フェノキシ)シクロトリホスファゼンであり、更に好ましくは、1,1,3,3,5,5-ヘキサ(フェノキシ)シクロトリホスファゼンである。
【0061】
-ホスホン酸エステル化合物-
上記ホスホン酸エステル化合物としては、例えば、下記化学式(III)で表されるものが挙げられる。
【化4】
(上記化学式(III)中、R35~R39は、それぞれ独立して、水素原子、又は置換基を有していてもよい一価の炭化水素基であり、R35~R39はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
本明細書中において、一価の炭化水素基としては、鎖状(直鎖及び分岐鎖のいずれでもよい)及び環状(単環、縮合多環、架橋環及びスピロ環のいずれでもよい)のいずれであってもよく、例えば、側鎖を有する環状炭化水素基が挙げられる。また、炭化水素基は、飽和及び不飽和のいずれでもよい。
当該炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基等が挙げられる。
【0062】
上記化学式(III)で表されるホスホン酸エステルの具体例としては、下記式(III-1)~(III-8)で表される化合物が挙げられる。
【化5】
【0063】
「ホスフィン酸系化合物(C1)」
本実施形態に係るホスフィン酸系化合物(C1)としては、一般式(IV)
【化6】
〔上記一般式(IV)中、R4a及びR4bは、それぞれ独立的に同一又は異なり、水素原子、ハロゲン原子又は低級アルキル基を示し、R1cは、水素原子,ハロゲン原子,水酸基,低級アルコキシル基又は低級アルキル基を示し、x、yは、それぞれ独立して、1~4の整数を示す。〕で表わされる化合物及び/又は一般式(V)
【化7】
〔上記一般式(V)中、R5a及びR5bは、それぞれ独立的に同一又は異なり、水素原子、ハロゲン原子又は低級アルキル基を示し、R2cはそれぞれ独立的に同一又は異なり、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、低級アルコキシル基又は低級アルキル基を示し、x又はyはそれぞれ独立して、1~4の整数を示し、zは1~5の整数を示す〕で表わされる化合物などが好ましい。色調や難燃性に優れる観点により、一般式(IV)の化合物がより好ましく、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイドが特に好ましい。
【0064】
尚、一般式(IV)又は(V)中の「低級アルコキシ基、低級アルキル」とは、炭素原子数1~5の直鎖状、分岐状又は環状の、アルコキシ基又はアルキル基をいう。
【0065】
本実施形態において、ホスフィン酸系化合物(C1)としては、例えば、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、又は10-ベンジル-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイドなどが挙げられる。9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイドとしては、例えば、三光株式会社のHCA等が挙げられる。また、10-ベンジル-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイドとしては、例えば、三光株式会社のBCA等が使用できる。
なお、本実施形態において、スチレン系組成物中における上述したリン系難燃剤の好ましい含有量は、難燃剤(B)の好ましい含有量を適用することができる。特に、ホスフィン酸系化合物(C1)の含有量は、スチレン系樹脂組成物全体(100質量%)に対して、好ましくは1~20質量%であり、より好ましくは1.5~18質量%、さらに好ましくは2~12質量%である。
【0066】
「ヒンダードアミン系化合物(C2)」
本実施形態におけるヒンダードアミン系化合物(C2)は、NOR型ヒンダードアミン系化合物であることが好ましい。ヒンダードアミン系化合物(C2)としてNOR型ヒンダードアミン系化合物を使用すると、難燃剤(B)との相乗効果が大きくなる。さらに、ヒンダードアミン系化合物(C2)と、ホスフィン酸系化合物(C1)又はホスホン酸エステルとを併用すると相乗効果により高い難燃性が得られる。また、ヒンダードアミン系化合物(C2)は、光安定化剤としてよく知られるものであり、添加することにより耐光性を付与することもできる。
NOR(アルコキシイミノ基)型ヒンダードアミン系化合物(B)のアルコキシイミノ基とは、ピペリジン環のイミノ基(>N-H)の部分が、NHのままであるN-H型、Hがメチル基で置き換わったN-メチル型に対して、N-アルコキシル基(>N-OR)の構造を有するものであり、N-アルコキシル基はアルキルパーオキシラジカル(R’O・)を捕捉して容易にラジカルとなり難燃効果を発揮する。一方、N-メチル型ヒンダードアミン系化合物又はN-H型ヒンダードアミン系化合物の場合は、難燃性が低下するおそれがある。
上記のアルコキシル基(-OR)は、アルキル基に酸素が結合したアルコキシル基に限定されず、Rは、アルキル基以外に、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基等を含む。
これらアルコキシル基の具体的な例としては、メトキシ基、プロポキシ基、シクロヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基が好ましく、特に、プロポキシ基、シクロヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基等が、分子量が大きくなることでシート及びフィルムからのブリードアウトを抑制できる点から、好ましい。
【0067】
本実施形態で用いるNOR型ヒンダードアミン系化合物は、N-アルコキシル基(>N-OR)の構造を有するものであれば特に限定されない。具体例として、例えば、特表2002-507238号公報、国際公開第2005/082852号、国際公開第2008/003605号等に記載されているNOR型ヒンダードアミン系化合物等が好適例として挙げられる。
【0068】
また、NOR型ヒンダードアミン系化合物は、特に高分子タイプのものが好ましい。高分子タイプとは、一般に、オリゴマー状又はポリマー状化合物である。高分子タイプであると、成形加工のモールドデポジットが低減でき、難燃性と耐熱性の点に優れる。
上記高分子タイプのオリゴマー状又はポリマー状化合物は、繰り返し単位数としては、2~100が好ましく、より好ましくは5~80である。
【0069】
NOR型ヒンダードアミン系化合物の具体例としては、以下の化合物が挙げられる:1-シクロヘキシルオキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-オクタデシルアミノピペリジン;ビス(1-オクチルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)セバケート;2,4-ビス[(1-シクロヘキシルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)ブチルアミノ]-6-(2-ヒドロキシエチルアミノ)-s-トリアジン;ビス(1-シクロヘキシルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アジペート;4,4’-ヘキサメチレンビス(アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン)と、2-クロロ-4,6-ビス(ジブチルアミノ)-s-トリアジンで末端キャップされた2,4-ジクロロ-6-[(1-オクチルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)ブチルアミノ]-s-トリアジンとの縮合生成物であるオリゴマー性化合物;4,4’-ヘキサメチレンビス(アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン)と、2-クロロ-4,6-ビス(ジブチルアミノ)-s-トリアジンで末端キャップされた2,4-ジクロロ-6-[(1-シクロヘキシルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)ブチルアミノ]-s-トリアジンとの縮合性生成物であるオリゴマー性化合物;2,4-ビス[(1-シクロヘキシルオキシ-2,2,6,6-ピペリジン-4-イル)-6-クロロ-s-トリアジン;過酸化処理した4-ブチルアミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンと、2,4,6-トリクロロ-s-トリアジンと、シクロヘキサンと、N,N’-エタン-1,2-ジイルビス(1,3-プロパンジアミン)との反応生成物(N,N’,N’’’-トリス{2,4-ビス[(1-シクロヘキシルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)n-ブチルアミノ]-s-トリアジン-6-イル}-3,3’-エチレンジイミノジプロピルアミン);ビス(1-ウンデカノキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)カーボネート;1-ウンデシルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-オン;ビス(1-ステアリルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)カーボネート。
【0070】
市販品のNOR型ヒンダードアミン系化合物としては、BASF社製FlamestabNOR116FF、TINUVIN NOR371、TINUVIN XT850FF、TINUVIN XT855FF、TINUVIN PA123、株式会社ADEKA製LA-77Y、LA-81、FP-T80等を例示することができる。
NOR型ヒンダードアミン系化合物は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、NOR型ヒンダードアミン系化合物は、光安定化剤としてよく知られるものであり、添加することにより耐光性を付与することもできる。
なお、本実施形態において、スチレン系組成物中における上述したNOR型ヒンダードアミン系化合物の好ましい含有量は、難燃剤(B)の好ましい含有量を適用することができる。
【0071】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルステアレート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルステアレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルベンゾエート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1-オクトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)・ジ(トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)・ジ(トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,4,4-ペンタメチル-4-ピペリジル)-2-ブチル-2-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)マロネート、1-(2-ヒドロキシエチル)-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノ-ル/コハク酸ジエチル重縮合物、1,6-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4-ジクロロ-6-モルホリノ-s-トリアジン重縮合物、1,6-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4-ジクロロ-6-tert-オクチルアミノ-s-トリアジン重縮合物、1,5,8,12-テトラキス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕-1,5,8,12-テトラアザドデカン、1,5,8,12-テトラキス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕-1,5,8-12-テトラアザドデカン、1,6,11-トリス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕アミノウンデカン、1,6,11-トリス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕アミノウンデカン等のヒンダードアミン系化合物が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
特に、ヒンダードアミン系化合物(C2)の含有量は、スチレン系樹脂組成物全体(100質量%)に対して、好ましくは0.2~3質量%であり、より好ましくは0.3~2.5質量%、さらに好ましくは0.5~2質量%である。
【0072】
-ブロム系難燃剤-

本実施形態のブロム系難燃剤は、通常この分野で使用されるブロム系難燃剤(臭素系難燃剤)を限定なく使用することができ、これらの中でも汎用されるものとして、ブロム化ビスフェノールA系又はブロム化ビスフェノールS系化合物(例えば、ブロム化ビスフェノールA類、ブロム化ビスフェノールS類、ブロム化フェニルエーテル類、ブロム化ビスフェノールA系カーボネートオリゴマー、ブロム化ビスフェノールA系エポキシ樹脂)、ブロム化フェニルエーテル類、ブロム化ビスフェノールA系カーボネートオリゴマー、ブロム化ビスフェノールA系エポキシ樹脂、ブロム化スチレン系、ブロム化フタルイミド系、ブロム化ベンゼン類、ブロム化シクロアルカン系、ブロム化イソシアヌレート類等の各難燃剤を挙げることができる。これらのブロム系難燃剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0073】
ブロム化ビスフェノールA類又はブロム化ビスフェノールS類は、1~8個のブロム原子がビスフェノールA残基又はビスフェノールS残基のベンゼン環に結合した化合物を挙げることができ、その例としては、テトラブロムビスフェノールA、テトラブロムビスフェノールAビス(2-ヒドロキシエチルエーテル)、テトラブロムビスフェノールAビス(アリルエーテル)、テトラブロムビスフェノールAビス(2-ブロムエチルエーテル)、テトラブロムビスフェノールAビス(3-ブロムプロピルエーテル)、テトラブロムビスフェノールAビス(2,3-ジブロムプロピルエーテル)、テトラブロムビスフェノールS、テトラブロムビスフェノールSビス(2-ヒドロキシエチルエーテル)及びテトラブロムビスフェノールSビス(2,3-ジブロムプロピルエーテル)等を挙げることができる。
【0074】
市販されているブロム化ビスフェノールA類又はブロム化ビスフェノールS類としては、ブロモケム・ファーイースト(株)の「FR-1524」、グレート・レークス・ケミカル(株)の「Great Lakes BA-50」、「Great Lakes BA-50P」、「Great Lakes BA-59」、「Great Lakes BA-59P」及び「Great Lakes PE-68」、アルベマール(株)の「Saytex RB-100」、帝人化成(株)の「ファイヤガード2000」、「ファイヤガード3000」、「ファイヤガード3100」及び「ファイヤガード3600」、丸菱油化工業(株)の「ノンネンPR-2」、東ソー(株)の「フレームカット121R」、(株)鈴裕化学の「ファイアカットP-680」等を挙げることができる。
【0075】
ブロム化フェニルエーテル類は、1個以上のブロム原子がフェニルエーテル基に結合した化合物であって、例えば、ビス(トリブロムフェノキシ)エタン、ヘキサブロムジフェニルエーテル、オクタブロムジフェニルエーテル、デカブロムジフェニルエーテル及びポリジブロムフェニレンオキサイド等を挙げることができる。
【0076】
市販されているブロム化フェニルエーテル類難燃剤としては、ブロモケム・ファーイースト(株)の「FR-1210」及び「FR-1208」、グレート・レークス・ケミカル(株)の「Great Lakes FF-680」、「Great Lakes DE-83」、「Great Lakes DE-83R」及び「Great Lakes DE-79」、アルベマール(株)の「Saytex 102E」及び「Saytex 111」を挙げることができる。
【0077】
上記ブロム化ビスフェノールA系としては、下記の化学式(VI)で表わされる化学構造を有する化合物であることが好ましく、オリゴマー又は重合体を含む。
【化8】
(上記化学式(VI)中、*は結合手を表わす。)
【0078】
上記化学式(VI)で表わされる化合物の一例であるブロム化ビスフェノールA系カーボネートオリゴマーは、下記化学式(VI-1)
【化9】
で示される基を有する重合物であることが好ましい。なお、オリゴマーとは、重合度が1~10のものをいう。なお、上記化学式(VI-1)中、*は結合手を表わす。
【0079】
上記化学式(VI-1)で示される基の重合物としては、例えば、下記化合物(VI-2)又は(VI-3)で示される難燃剤を挙げることができる。
【化10】
【0080】
上記化合物(VI-1)の市販されている難燃剤としては、帝人化成(株)の「ファイヤガード7000」及び「ファイヤガード7500」を挙げることができる。
また、上記化合物(VI-2)の市販されている難燃剤としては、グレート・レークス・ケミカル(株)の「Great Lakes BC-52」及び「Great Lakes BC-58」等を挙げることができる。
【0081】
上記化学式(VI)で表わされる化合物の一例であるブロム化ビスフェノールA系エポキシ樹脂としては、下記化学式(VII)で示される化合物を挙げることができる。
【化11】
【0082】
上記化学式(VII)の市販されている難燃剤としては、重合度(m)に応じて種々の製品があり、ブロモケム・ファーイースト(株)の「F-2300」、「F-2300H」、「F-2400」及び「F-2400H」、大日本インキ化学工業(株)の「プラサームEP-16」、「プラサームEP-30」、「プラサームEP-100」及び「プラサームEP-500」、阪本薬品工業(株)の「SR-T1000」、「SR-T2000」、「SR-T5000」及び「SR-T20000」等を挙げることができる。
【0083】
また、ブロム化ビスフェノールA系エポキシ樹脂の例として、上記式(VII)の両末端のエポキシ基がブロック化剤で封鎖された化合物及び片側の末端エポキシ基がブロック化剤で封鎖された化合物を挙げることができる。そのブロック化剤としては、エポキシ基を開環付加する化合物であれば限定されないが、フェノール類、アルコール類、カルボン酸類、アミン類及びイソシアネート類等にブロム原子を含有するものを挙げることができ、その中でも難燃効果を向上させる点でブロム化フェノール類が好ましく、ジブロムフェノール、トリブロムフェノール、ペンタブロムフェノール、エチルジブロムフェノール、プロピルジブロムフェノール、ブチルジブロムフェノール及びジブロムクレゾール等を挙げることができる。
【0084】
当該重合物の両末端のエポキシ基がブロック化剤で封鎖された難燃剤の例としては、下記化合物(VII-1)又は(VII-2)で示される難燃剤を挙げることができる。
【化12】
【0085】
上記化合物(VII-1)又は(VII-2)の市販されている難燃剤としては、DIC(株)の「プラサームEC-14」、「プラサームEC-20」及び「プラサームEC-30」、東都化成(株)の「TB-60」及び「TB-62」、阪本薬品工業(株)の「SR-T3040」及び「SR-T7040」等を挙げることができる。
【0086】
また、当該重合物の片側の末端エポキシ基のみがブロック化剤で封鎖された難燃剤の例としては、下記化合物(VII-3)又は(VII-4)で示される難燃剤を挙げることができる。
【化13】
【0087】
上記化合物(VII-3)又は(VII-4)の市販されている難燃剤としては、DIC(株)の「プラサームEPC-15F」、油化シェルエポキシ(株)の「E5354」等を挙げることができる。
【0088】
ブロム化スチレン系難燃剤としては、スチレン骨格のベンゼン環に1~5個のブロム原子が結合した下記化学式(VIII)のブロム化スチレンモノマー
【化14】
及び当該化学式(VIII)の重合体、すなわち、下記化学式(VIIIa)の繰り返し単位を有する重合体(ポリマー)
【化15】
が挙げられ、好ましくは重合体である。
【0089】
ブロム化スチレン系の具体例としては、例えば、ブロムスチレン及びブロム化ポリスチレンを挙げることができ、市販されているブロム化ポリスチレン系難燃剤としては、グレート・レークス・ケミカル(株)の「Great Lakes PDBS-10」及び「Great Lakes PDBS-80」等を挙げることができる。また、前記の難燃剤と製法は異なるが、フェロ(株)の「パイロチェック68PB」もブロム化ポリスチレン系難燃剤の例として挙げることができる。
【0090】
ブロム化フタルイミド系難燃剤としては、フタルイミド基のベンゼン環に1~4個のブロム原子が結合した化合物であって、例えば、モノブロムフタルイミド、ジブロムフタルイミド、トリブロムフタルイミド、テトラブロムフタルイミド、エチレンビス(モノブロムフタルイミド)、エチレンビス(ジブロムフタルイミド)、エチレンビス(トリブロムフタルイミド)及び下記化学式(IX)のエチレンビス(テトラブロムフタルイミド)
【化16】
を挙げることができ、市販されている難燃剤としては、アルベマール(株)の「Saytex BT-93」及び「Saytex BT-93W」を挙げることができる。
【0091】
ブロム化ベンゼン類としては、1個以上のブロム原子がベンゼン環に結合した基からなる化合物であって、テトラブロムベンゼン、ペンタブロムベンゼン、ヘキサブロムベンゼン、ブロムフェニルアリルエーテル、ペンタブロムトルエン、1,1-ビス(ペンタブロムフェニル)エタン、1,2-ビス(ペンタブロムフェニル)エタン及びポリ(ペンタブロムベンジルアクリレート)等を挙げることができ、市販されている難燃剤としては、アルベマール(株)の「Saytex 8010」を挙げることができる。
【0092】
ブロム化シクロアルカン系としては、1~6個のブロム原子が炭素数6~12のシクロアルカン(環状脂肪族炭化水素)に結合したブロム化炭化水素類が挙げられる。該シクロアルカンの例としては、シクロヘキサン及びシクロドデカンを挙げることができ、ブロム化シクロアルカンの例としては、ペンタブロムシクロヘキサン、ヘキサブロムシクロヘキサン、テトラブロムシクロドデカン、ペンタブロムシクロドデカン及びヘキサブロムシクロドデカン等を挙げることができる。
市販されているヘキサブロムシクロドデカンとしては、ブロモケム・ファーイースト(株)の「FR-1206」、アルベマール(株)の「Saytex HBCD」、グレート・レークス・ケミカル(株)の「Great LakesCD-75P」、(株)鈴裕化学の「ファイアカットP-880M」及び第一工業製薬(株)の「ピロガード SR-103」等を挙げることができる。
【0093】
ブロム化イソシアヌレート類としては、炭素数2~6のアルキル基(鎖状脂肪族炭化水素基)にブロム原子が結合したブロム化アルキル基とイソシアヌル酸残基が結合した化合物並びに1~5個のブロム原子がフェノキシ基に結合したブロム化フェノキシ基とイソシアヌル酸残基が結合した化合物を挙げることができる。その具体例としては、トリス(モノブロムプロピル)イソシアヌレート、トリス(2,3-ジブロムプロピル)イソシアヌレート、トリス(トリブロムプロピル)イソシアヌレート、トリス(テトラブロムプロピル)イソシアヌレート、トリス(ペンタブロムプロピル)イソシアヌレート、トリス(ヘプタブロムプロピル)イソシアヌレート、トリス(オクタブロムブチル)イソシアヌレート、トリス(モノブロムフェノキシ)イソシアヌレート、トリス(ジブロムフェノキシ)イソシアヌレート、トリス(トリブロムフェノキシ)イソシアヌレート、トリス(ペンタブロムフェノキシ)イソシアヌレート、トリス(エチルモノブロムフェノキシ)イソシアヌレート及びトリス(プロピルジブロムフェノキシ)イソシアヌレート等を挙げることができる。
市販されているブロム化イソシアヌレート類としては、日本化成(株)の「タイク-6B」及び(株)鈴裕化学の「ファイアカットP-660」等を挙げることができる。
【0094】
前記のような汎用されるブロム系難燃剤以外に、文献にも示され、ブロム系難燃剤メーカーのカタログ等にも示されているものも勿論使用することができる。それらのブロム系難燃剤としては、ブロム化フェノール類、ブロム化フェノキシトリアジン系、ブロム化アルカン系、ブロム化マレイミド系及びブロム化フタル酸類等を挙げることができる。
【0095】
ブロム化フェノール類としては、1~5個のブロム原子がフェノール基に結合した化合物であって、例えば、モノブロムフェノール、ジブロムフェノール、トリブロムフェノール、テトラブロムフェノール及びペンタブロムフェノール等を挙げることができる。
【0096】
ブロム化フェノキシトリアジン系としては、1~5個のブロム原子がフェノキシ基に結合し、そのブロム化フェノキシ基の1~3個がトリアジン環に結合した化合物であって、例えば、モノ(トリブロムフェノキシ)トリアジン、ビス(モノブロムフェノキシ)トリアジン、ビス(トリブロムフェノキシ)トリアジン、トリス(ジブロムフェノキシ)トリアジン及びトリス(トリブロムフェノキシ)トリアジン等を挙げることができ、市販されている難燃剤としては、第一工業製薬(株)の「ピロガード SR-245」を挙げることができる。
【0097】
ブロム化アルカン系としては、炭素数2~6のアルカン(鎖状脂肪族炭化水素)にブロム原子が結合した化合物である。該アルカンの例としては、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン及びヘキサンを挙げることができ、ブロム化アルカンの例としては、ジブロムエタン、テトラブロムエタン、モノブロムプロパン、トリブロムプロパン、ヘキサブロムプロパン、オクタブロムプロパン、テトラブロムブタン、ヘキサブロムブタン、オクタブロムブタン、トリブロムペンタン、ペンタブロムペンタン、オクタブロムペンタン、ジブロムヘキサン、トリブロムヘキサン、テトラブロムヘキサン、ヘキサブロムヘキサン及びオクタブロムヘキサン等を挙げることができる。
【0098】
ブロム化マレイミド系としては、1~5個のブロム原子がフェニルマレイミド基に結合した化合物であって、例えば、モノブロムフェニルマレイミド、ジブロムフェニルマレイミド、トリブロムフェニルマレイミド及びペンタブロムフェニルマレイミド等を挙げることができる。
【0099】
ブロム化フタル酸類としては、1~4個のブロム原子が無水フタル酸に結合した化合物を挙げることができ、その例としては、モノブロム無水フタル酸、ジブロム無水フタル酸、トリブロム無水フタル酸及びテトラブロム無水フタル酸等を挙げることができる。
【0100】
また、難燃性を更に高める目的で、三酸化アンチモン等の難燃助剤を併用することはよく行なわれることであるが、この難燃助剤の添加によって、本開示の効果に何ら影響を与えるものではない。
当該難燃助剤の添加量は、通常、ポリスチレン100質量部に対して、0.5~10質量部使用されるが、物性等との関係で、好ましい使用量は1~7質量部である。
なお、本実施形態において、スチレン系組成物中における上述したブロム系難燃剤の好ましい含有量は、難燃剤(B)の好ましい含有量を適用することができる。
【0101】
<任意添加成分>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、上記スチレン系樹脂(A1)、カテコール誘導体(4-t-ブチルカテコール)及び任意成分である難燃剤(B)の他に、本開示の効果を損なわない範囲で、必要に応じて従来公知の添加剤、加工助剤等の任意添加成分を添加することができる。これら添加剤、加工助剤等としては、酸化防止剤、耐候剤、滑剤、帯電防止剤、充填剤等が挙げられる。
【0102】
上記酸化防止剤としては、フェノール系化合物、リン系化合物、チオエーテル系化合物等が挙げられる。
【0103】
上記フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、2,6-ジフェニル-4-オクタデシロキシフェノール、ジステアリル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ホスホネート、1,6-ヘキサメチレンビス〔(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アミド〕、4,4’-チオビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、2,2’-エチリデンビス(4,6―ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-エチリデンビス(4-sec-ブチル-6-tert-ブチルフェノール)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリス(2,6-ジメチル-3-ヒドロキシ-4-tert-ブチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2,4,6-トリメチルベンゼン、2-tert-ブチル-4-メチル-6-(2-アクリロイルオキシ-3-tert-ブチル-5-メチルベンジル)フェノール、ステアリル〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、テトラキス〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸メチル〕メタン、チオジエチレングリコールビス〔(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6-ヘキサメチレンビス〔(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ビス〔3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)ブチリックアシッド〕グリコールエステル、ビス〔2-tert-ブチル-4-メチル-6-(2-ヒドロキシ-3-tert-ブチル-5-メチルベンジル)フェニル〕テレフタレート、1,3,5-トリス〔(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル〕イソシアヌレート、3,9-ビス〔1,1-ジメチル-2-{(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、トリエチレングリコールビス〔(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート〕等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0104】
上記リン系酸化防止剤としては、例えば、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス〔2-tert-ブチル-4-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニルチオ)-5-メチルフェニル〕ホスファイト、トリデシルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト、ジ(デシル)モノフェニルホスファイト、ジ(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジ(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4,6-トリ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(トリデシル)イソプロピリデンジフェノールジホスファイト、テトラ(トリデシル)-4,4’-n-ブチリデンビス(2-tert-ブチル-5-メチルフェノール)ジホスファイト、ヘキサ(トリデシル)-1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタントリホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ビフェニレンジホスホナイト、9,10-ジハイドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイド、2,2’-メチレンビス(4,6-tert-ブチルフェニル)-2-エチルヘキシルホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-tert-ブチルフェニル)-オクタデシルホスファイト、2,2’-エチリデンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)フルオロホスファイト、トリス(2-〔(2,4,8,10-テトラキス-tert-ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン-6-イル)オキシ〕エチル)アミン、2-エチル-2-ブチルプロピレングリコールと2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノールのホスファイト等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0105】
チオエーテル系酸化防止剤としては、例えば、チオジプロピオン酸ジラウリル、チオジプロピオン酸ジミリスチル、チオジプロピオン酸ジステアリル等のジアルキルチオジプロピオネート類、及びペンタエリスリトールテトラ(β-アルキルメルカプトプロピオン酸エステル類が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0106】
上記耐候剤としては、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤等を用いることができる。
【0107】
上記紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、5,5’-メチレンビス(2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン)等の2-ヒドロキシベンゾフェノン類;2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾ-ル、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾ-ル、2-(2’-ヒドロキシ-5’ -tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2,2’-メチレンビス(4-tert-オクチル-6-(ベンゾトリアゾリル)フェノール)、2-(2’-ヒドロキシ-3’ tert-ブチル-5’-カルボキシフェニル)ベンゾトリアゾール等の2-(2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール類;フェニルサリシレート、レゾルシノールモノベンゾエート、2,4-ジ-tert-ブチルフェニル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、2,4-ジ-tert-アミルフェニル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート類;2-エチル-2’-エトキシオキザニリド、2-エトキシ-4’-ドデシルオキザニリド等の置換オキザニリド類;エチル-α-シアノ-β、β-ジフェニルアクリレート、メチル-2-シアノ-3-メチル-3-(p-メトキシフェニル)アクリレート等のシアノアクリレート類;2-(2-ヒドロキシ-4-オクトキシフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-s-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-4,6-ジフェニル-s-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-プロポキシ-5-メチルフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-s-トリアジン等のトリアリールトリアジン類が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0108】
上記ヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルステアレート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルステアレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルベンゾエート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1-オクトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)・ジ(トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)・ジ(トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,4,4-ペンタメチル-4-ピペリジル)-2-ブチル-2-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)マロネート、1-(2-ヒドロキシエチル)-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノ-ル/コハク酸ジエチル重縮合物、1,6-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4-ジクロロ-6-モルホリノ-s-トリアジン重縮合物、1,6-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4-ジクロロ-6-tert-オクチルアミノ-s-トリアジン重縮合物、1,5,8,12-テトラキス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕-1,5,8,12-テトラアザドデカン、1,5,8,12-テトラキス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕-1,5,8-12-テトラアザドデカン、1,6,11-トリス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕アミノウンデカン、1,6,11-トリス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕アミノウンデカン等のヒンダードアミン系化合物が挙げられる。
これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0109】
上記滑剤としては、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、脂肪酸、脂肪酸金属塩系等を用いることができる。
【0110】
上記脂肪族アミド系滑剤としては、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリル酸アミド等が挙げられる。
これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0111】
上記脂肪族エステル系滑剤としては、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、エルカ酸メチル、ベヘニン酸メチル、ラウリル酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ヤシ脂肪酸オクチルエステル、ステアリン酸オクチル、牛脂脂肪酸オクチルエステル、ラウリル酸ラウリル、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸ベヘニル、ミリスチン酸セチル、炭素数28~30の直鎖状で分岐がない飽和モノカルボン酸(以下モンタン酸と略記する)とエチレングリコールのエステル、モンタン酸とグリセリンのエステル、モンタン酸とブチレングリコールのエステル、モンタン酸とトリメチロールエタンのエステル、モンタン酸とトリメチロールプロパンのエステル、モンタン酸とペンタエリスリトールのエステル、グリセリンモノステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンセスクイオレート、ソルビタントリオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレート等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0112】
上記脂肪酸系滑剤のうち飽和脂肪酸としては、具体的には、ラウリン酸(ドデカン酸)、イソデカン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、ペンタデシル酸、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、マルガリン酸(ヘプタデカン酸)、ステアリン酸(オクタデカン酸)、イソステアリン酸、ツベルクロステアリン酸(ノナデカン酸)、2-ヒドロキシステアリン酸、アラキジン酸(イコサン酸)、ベヘン酸(ドコサン酸)、リグノセリン酸(テトラドコサン酸)、セロチン酸(ヘキサドコサン酸)、モンタン酸(オクタドコサン酸)、メリシン酸等が挙げられ、特に、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、12-ヒドロキシステアリン酸及びモンタン酸等が挙げられる。
上記脂肪酸系滑剤のうち不飽和脂肪酸としては、具体的には、ミリストレイン酸(テトラデセン酸)、パルミトレイン酸(ヘキサデセン酸)、オレイン酸(cis-9-オクタデセン酸)、エライジン酸(trans-9-オクタデセン酸)、リシノール酸(オクタデカジエン酸)、バクセン酸(cis-11-オクタデセン酸)、リノール酸(オクタデカジエン酸)、リノレン酸(9,11,13-オクタデカトリエン酸)、エレステアリン酸(9,11,13-オクタデカトリエン酸)、ガドレイン酸(イコサン酸)、エルカ酸(ドコサン酸)、ネルボン酸(テトラドコサン酸)等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0113】
上記脂肪酸金属塩系滑剤としては、上記脂肪酸系滑剤の脂肪酸のリチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、及びアルミニウム塩等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0114】
上記帯電防止剤としては、カチオン系、アニオン系、ノニオン系、両性系、グリセリン脂肪酸モノエステル等の脂肪酸部分エステル類等を用いることができる。
具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-N-(3-ドデシルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)メチルアンモニウムメソスルフェート、(3-ラウリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムメチルスルフェート、ステアロアミドプロピルジメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウム硝酸塩、ステアロアミドプロピルジメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウムリン酸塩、カチオン性ポリマー、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキル硝酸エステル塩、リン酸アルキルエステル塩、アルキルホスフェートアミン塩、ステアリン酸モノグリセリド、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ジグリセリン脂肪酸エステル、アルキルジエタノールアミン、アルキルジエタノールアミン脂肪酸モノエステル、アルキルジエタノールアミド、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリエーテルブロックコポリマー、セチルベタイン、ヒドロキシエチルイミダゾリン硫酸エステル等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0115】
上記充填剤としては、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、炭素繊維、マイカ、ワラストナイト、ウィスカ等を用いることができる。
【0116】
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物は、上記の添加剤及び加工助剤等その他、ブロッキング防止剤、着色剤、ブルーミング防止剤、表面処理剤、抗菌剤、目ヤニ防止剤(特開2009-120717号公報に記載のシリコーンオイル、高級脂肪族カルボン酸のモノアミド化合物、及び高級脂肪族カルボン酸と1価~3価のアルコール化合物とを反応させてなるモノエステル化合物等の目ヤニ防止剤)等の任意添加成分を含有してもよい。添加剤及び加工助剤等の任意添加成分の合計含有量は、スチレン系樹脂組成物中、0.05~5質量%としてよい。
【0117】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、実質的に、(A1)成分、(B)成分、カテコール誘導体、ダイマー及びトリマー、並びに任意添加成分のみからなっていてもよい。また、(A1)成分、カテコール誘導体、ダイマー及びトリマー、及び(B)成分のみからなっていてもよい。
「実質的に(A1)成分、(B)成分及び任意添加成分のみからなる」とは、スチレン系樹脂組成物の95~100質量%(好ましくは98~100質量%)が(A1)成分、(B)成分であるか、又は(A1)成分(B)成分及び任意添加成分であることを意味する。
なお、本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、本開示の効果を損なわない範囲で(A1)成分(B)成分及び任意添加成分の他に不可避不純物を含んでいてもよい。
【0118】
「難燃性スチレン系樹脂組成物」
本開示は、スチレン系樹脂組成物の別の態様であり、スチレン系樹脂(A2)77.0~98.9質量%と、ホスフィン酸系化合物(C1)1.0~20.0質量%と、ヒンダードアミン系化合物(C2)0.1~3.0質量%と、を含有することを特徴とする難燃性スチレン系樹脂組成物である。
すなわち、スチレン系樹脂組成物が難燃性の効果を重視する場合、本開示は、スチレン系樹脂(A1)の代わりにスチレン系樹脂(A2)を使用し、かつ上述したホスフィン酸系化合物(C1)及びヒンダードアミン系化合物(C2)を含有する難燃性スチレン系樹脂組成物でありうる。
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物において、スチレン系樹脂(A2)は、スチレン系樹脂(A1)と同様の樹脂を適用できるが、カテコール誘導体と、スチレン系単量体のダイマー及びスチレン系単量体のトリマーとが当該スチレン系樹脂(A2)に取り込まれていなくてもよい。
そのため、本実施形態で用いることができるスチレン系樹脂(A2)は、スチレン系単量体と、必要に応じてこれと共重合可能な他のビニル単量体及びゴム状重合体(a)より選ばれる1種以上を重合して得られる樹脂である。具体的には、限定されないが例えば、ポリスチレン、ポリマーマトリックス中にゴム状重合体(a)の粒子が分散されたゴム変性スチレン系樹脂、スチレン系共重合樹脂が挙げられる。そのため、本開示に係るスチレン系樹脂(A2)は、スチレン系単量体を必須成分として含有し、必要により、他のビニル単量体単位(不飽和カルボン酸系単量体単位、不飽和カルボン酸エステル系単量体)及び/又はゴム状重合体(a)単量体単位を有する。
【0119】
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物において、スチレン系樹脂(A2)は、スチレン系樹脂(A1)であることが好ましい。すなわち、本実施形態において、スチレン系樹脂(A2)を構成する繰り返し単位であるスチレン系単量体単位は、モノビニルスチレン系単量体単位であることが好ましい。また、当該スチレン系樹脂(A2)には、2以上のビニル基を有する芳香族化合物(単位)(例えば、ジビニルベンゼン)といった架橋性芳香族ビニル化合物(単位)を4.5質量%以下含有することが好ましく、3質量%以下含有することがより好ましい。これにより、スチレン系単量体単位のダイマー(二量体)及びトリマー(三量体)との合計含有量を低減しやすくなる。
本実施形態で用いることができるスチレン系樹脂(A2)には、カテコール誘導体が当該スチレン系樹脂(A2)1gに対して6μg以下含まれることが好ましい。また、当該スチレン系樹脂(A2)には、当該スチレン系樹脂(A1)を構成する繰り返し単位であるスチレン系単量体単位のダイマー(二量体)と、当該スチレン系単量体単位のトリマー(三量体)との合計含有量が、当該スチレン系樹脂(A2)1gに対して5000μg以下含まれることが好ましい。
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物の好ましい形態は、スチレン系樹脂(A2)77.0~98.9質量%と、ホスフィン酸系化合物(C1)1.0~20.0質量%と、ヒンダードアミン系化合物(C2)0.1~3.0質量%とを必須に含有し、当該スチレン系樹脂(A2)1gに対して6μg以下のカテコール誘導体を当該スチレン系樹脂(A2)中に含有し、且つ前記スチレン系樹脂(A2)を構成する繰り返し単位であるスチレン系単量体のダイマーと前記スチレン系単量体単位のトリマーとの合計量が、前記スチレン系樹脂(A1)1gに対して5000μg以下当該スチレン系樹脂(A2)中に含有し、誘電率3以下、誘電正接0.02以下であることを特徴とする。なお、カテコール誘導体スチレン系単量体のダイマー及びスチレン系単量体単位のトリマーは、スチレン系樹脂(A1)に取り込まれる物質と同様であり、当該内容を援用できる。
【0120】
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物において、スチレン系樹脂(A2)の含有量は、(A2)成分、(C1)成分及び(C2)成分の合計量100質量%に対して、77.0~98.9質量%であり、好ましくは85~97質量%、より好ましくは90~96質量%である。当該含有量を77.0質量%以上とすることにより、耐熱性に優れる。また、当該含有量を98.9質量%以下とすることにより、高い難燃性を得ることができる。
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物において使用可能なホスフィン酸系化合物(C1)及びヒンダードアミン系化合物(C2)は、上述した<ホスフィン酸系化合物(C1)>及び<ヒンダードアミン系化合物(C2)>の内容と同様であり、当該内容を援用する。
本実施形態において、ホスフィン酸系化合物(C1)の含有量は、(A2)成分、(C1)成分及び(C2)成分の合計量100質量%に対して、1.0~20.0質量%であり、好ましくは2.0~15.0質量%であり、より好ましくは3.0~10.0質量%である。1.0質量%以上であれば、難燃性スチレン系樹脂組成物として高い難燃性が得られるとともに色調に優れる。また、20.0質量%以下であれば、耐熱性に優れるスチレン系樹脂組成物を得ることができる。
本実施形態において、ヒンダードアミン系化合物(C2)の含有量は、(A2)成分、(C1)成分及び(C2)成分の合計量100質量%に対して、0.1~3質量%であり、好ましくは0.3~2.5質量%であり、より好ましくは0.5~2.0質量%である。0.1質量%以上であれば、高い難燃性が得られるとともに、ガス発生を抑制することができるため成形外観に優れる製品が得られる。また、3.0質量%以下であれば、色調が優れる。また、ヒンダードアミン系化合物(C2)は、光安定化剤としてよく知られるものであり、添加することにより耐光性を付与することもできる。ガス発生の抑制効果が大きいことから、本実施形態におけるヒンダードアミン系化合物(C2)は、NOR型ヒンダードアミン系化合物であることが好ましい。さらに、ヒンダードアミン系化合物(C2)とホスフィン酸系化合物(C1)とを併用すると相乗効果により高い難燃性が得られる。
【0121】
本開示の難燃性スチレン系樹脂組成物は、難燃剤マスターバッチとして使用してもよく、難燃剤マスターバッチ及び当該難燃剤マスターバッチを含有する組成物を含む。
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物は、上記(A2)成分、(C1)成分及び(C2)成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて従来公知の添加剤、加工助剤等の任意添加成分を添加することができる。難燃性スチレン系樹脂組成物に配合しうる当該任意添加成分は、上記と同様であるため、上記記載内容を援用する。また、添加剤及び加工助剤等の任意添加成分の合計含有量は、難燃性スチレン系樹脂組成物中、0.05~5質量%としてよい。
【0122】
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物は、実質的に(A2)成分、(C1)成分、(C2)成分及び任意添加成分のみからなっていてもよい。また、(A2)成分、(C1)成分及び(C2)成分のみからなっていてもよい。「実質的に(A2)成分、(C1)成分、(C2)成分及び任意添加成分のみからなる」とは、難燃性スチレン系樹脂組成物の95~100質量%(好ましくは98~100質量%)が(A2)成分、(C1)成分及び(C2)成分であるか、又は(A2)成分、(C1)成分、(C2)成分及び任意添加成分であることを意味する。尚、本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で(A2)成分、(C1)成分、(C2)成分及び任意添加成分の他に不可避不純物を含んでいてもよい。
【0123】
[スチレン系樹脂組成物の製造方法]
本実施形態のスチレン系樹脂組成物又は難燃性スチレン系樹脂組成物は、各成分を任意の方法で溶融混練することによって製造することができる。例えば、ヘンシェルミキサーに代表される高速撹拌機、バンバリーミキサーに代表されるバッチ式混練機、単軸又は二軸の連続混練機、ロールミキサー等を単独で、又は組み合わせて用いる方法が挙げられる。混練の際の加熱温度は、通常、180~260℃の範囲で選択される。
【0124】
[パッチアンテナ]
本開示は、パッチ基板と、前記パッチ基板と離間して設けられたグラウンド基板と、前記パッチ基板及び前記グランド基板に挟持された誘電体層と、を有し、前記誘電体層は、カテコール誘導体、繰り返し単位としてスチレン系単量体単位を有するスチレン系樹脂(A1)、前記スチレン系単量体単位のダイマー及び前記スチレン系単量体単位のトリマーを含有するスチレン系樹脂組成物から構成され、前記カテコール誘導体は、前記スチレン系樹脂(A1)1g当たり6μg以下であり、前記スチレン系単量体単位のダイマーと前記スチレン系単量体単位のトリマーとの合計量は、前記スチレン系樹脂(A1)1g当たり5000μg以下含有することを特徴とする、パッチアンテナである。
本実施形態におけるパッチアンテナの構成を、図1を参照して以下説明する。図1(a)及び(b)に示すパッチアンテナ1はいずれも、グラウンド基板4と、絶縁性を有する誘電体層3と、パッチ基板2との順に積層された積層体である。また、図1(a)及び(b)に示すx-y-zは、説明の便宜上設けた、パッチ基板2の重心を中心とする直交座標軸である。パッチ基板2から外方の方向を+z軸方向とし、パッチ基板2からグラウンド基板4への方向を-z軸方向とする。
【0125】
図1(a)には、本実施形態のパッチアンテナの一例として、マイクロストリップ線路4を用いたパッチアンテナ1の一例を示している。図1(a)に示すパッチアンテナ1は、誘電体層3と、誘電体層3の第1の主表面(+z軸方向側の誘電体層2の表面)に形成された方形型のパッチ基板2と、誘電体層3の第2の主表面(-z軸方向側の誘電体層2の表面)に形成されたグランド基板4とを備えている。また、パッチ基板2は、当該パッチ基板2と同一平面上に配置されたマイクロストリップ線路5と電気的に接続されている(図1(a)ではパッチ基板2とマイクロストリップ線路5とが直結されている。)。また、必要により、マイクロストリップ線路5の長軸方向と平行な(1対の)切込部を、パッチ基板2とマイクロストリップ線路4との接合部に設けて、マイクロストリップ線路の先端部分の位置を調整してインピーダンスを調整してもよい。パッチ基板2の幅をW、長さをLとした場合、Lが波長(λ)/2の整数倍に一致する周波数において共振する開放型共振器として駆動する。また、図1(a)に示すパッチアンテナ1は、誘電体層3の上に形成されたパッチ基板2が放射素子の役割を果たし、マイクロストリップ線路5が送受信機(図示せず)と電気的に接続するための給電線路の役割を果たす平面アンテナである。例えば、低誘電率の誘電体層3を使用し,且つW及びhを波長に対して比較的大きな値とすると、放射量が増加するパッチアンテナ1が得られる。
【0126】
図1(b)は、本実施形態のパッチアンテナの一例として、パッチ基板2の背面から給電されるパッチアンテナ1を示している。図1(b)に示すパッチアンテナ1は、誘電体層3と、誘電体層3の第1の主表面(+z軸方向側の誘電体層2の表面)に形成された方形のパッチ基板2と、誘電体層3の第2の主表面(-z軸方向側の誘電体層2の表面)に形成されたグランド基板4とを備えている。誘電体層3には、当該誘電体層3を貫通するスルーホール7が形成されている。スルーホール7は、パッチ基板2の背面(-z軸方向側のパッチ基板2の表面)から、誘電体層3及びグラウンド基板4を貫通して略円柱状に延在する貫通口である。そして、パッチ基板2の表面(+z軸方向側のパッチ基板2の表面)に対して、スルーホールの位置を投影した箇所が、給電点6に対応する。パッチアンテナ1の構成では、同軸線路(例えば、SMAコネクタ等、図面の直線状の点線部)が、スルーホール7に挿入され、且つパッチ基板2と電気的に接続されている。
【0127】
なお、図1(b)では、給電点6の位置を、パッチ基板2の重心から距離d離した箇所に設けており、給電点6をパッチ基板2上の適切な位置に設けることにより、インピーダンス整合を得ることができる。
【0128】
図1(a)及び(b)に示すパッチアンテナ1では、パッチ基板2の形状の一例として、方形状を示しているが、パッチ基板2の形状は特に制限されることはなく、円状、楕円状、又は多角形状であってもよい。例えば、パッチ基板2の1対の対角のコーナーを切り欠いた六角形の場合は、円偏波を放射することができる。
【0129】
また、図1(a)及び(b)に示すパッチアンテナ1のように、x軸方向の適当な位置において給電した場合、電流定在波は、x軸方向において、パッチ基板2の両端部で振幅が0、パッチ基板2の中心部で振幅が最大となる。そのため、電流定在波と電圧定在波との関係から、電圧定在波は、x軸方向において、パッチ基板2の両端部で振幅が最大、中心部で振幅が0となる。これにより、パッチ基板2の外周部に生じるフリンジング電界に起因した磁流がアンテナの主要な放射源となり、+z軸方向に対する放射強度が最大となる。
【0130】
このような+z軸方向に指向性をより高める観点から、パッチアンテナ1は、マイクロアレイ方式であってもよい。例えば、図2に示すパッチアンテナ1は、図1で示したパッチアンテナ1と同様に、グラウンド基板4と、絶縁性を有する誘電体層3と、複数のパッチ基板2との順に積層された積層体である。そして、図2に示すパッチアンテナ1は、適当な間隔で配置された複数のパッチ基板2と、複数のパッチ基板2を励振するための給電回路から成るアンテナである。これにより、+z軸方向に指向性をさらに高めることができる。
【0131】
本実施形態におけるパッチアンテナ1の好ましい形態において、パッチ基板2の平均幅であるW(mm)は、パッチ基板2の平均長さであるL(mm)に対して、約0.75~2.5倍の範囲であることが好ましい。
【0132】
本実施形態におけるパッチアンテナ1の好ましい形態において、パッチアンテナ1の平均厚みであるh(mm)は、動作周波数における自由空間波長λ(mm)の約0.0025~0.0055倍であることが好ましい。
【0133】
以下、本開示のパッチアンテナ1の各構成要素である、誘電体層3、パッチ基板2、グラウンド基板4について説明する。
<誘電体層>
本実施形態において、誘電体層3は、10GHzにおける誘電正接(tanδ)が0.02以下という特性を有することが好ましい。誘電体層3の10GHzにおける比誘電率は、3以下であることが好ましい。また、誘電体層3の10GHzにおける誘電正接を0.02以下とすることによって、5GHzを超えるような高周波領域での誘電損失を低減することができる。
【0134】
誘電体層3の10GHzにおける比誘電率を3以下とすることによっても、高周波領域での誘電損失を低減することができる。誘電体層3の10GHzにおける誘電正接は、0.02以下がより好ましく、0.01以下がさらに好ましい。誘電体層3の比誘電率は3以下がより好ましく、2.5以下がさらに好ましい。
【0135】
本実施形態における誘電体層3は、上記したスチレン系樹脂組成物を含有する。より詳細には、誘電体層3は、スチレン系樹脂組成物から形成されている。また、カテコール誘導体及びスチレン系単量体のダイマーとトリマーの量が上記範囲であると、誘電体の酸化劣化を抑制できる。そのため、黄変による、誘電正接の悪化、製品外観、マテリアルリサイクルなどの不具合を抑制できる。高周波用途では、使用環境下の温度が高く、スチレン系樹脂の黄変・劣化が進みやすい環境下であるため、スチレン系樹脂組成物中の4-t-ブチルカテコール、スチレンダイマー、スチレントリマーが所定量以下にすることで低誘電率・低誘電正接の性能の低下が少なくなる。
なお、本明細書における低誘電(率)とは、3以下をいい、低誘電正接とは、0.02以下をいう。
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物を誘電体層3に用いることによって、パッチアンテナ1の10GHzにおける伝送損失を低減できる。より具体的には、伝送損失を1dB/cm以下まで低減することができる。従って、高周波信号、特に5GHzを超える高周波信号、さらには10GHz以上の高周波信号の質や強度等の特性が維持されるため、そのような高周波信号を扱う高周波デバイスに好適な誘電体層3及びパッチアンテナ1を提供することができる。すなわち、そのような高周波信号を扱う高周波デバイスの特性や品質を向上させることができる。パッチアンテナ1の10GHzにおける伝送損失は、0.5dB/cm以下がより好ましい。
【0136】
<パッチ基板及びグラウンド基板>
本実施形態において、パッチ基板2及びグラウンド基板4は、導体で形成された層であることが好ましい。例えば、パッチ基板2及びグラウンド基板4の厚さは、例えば0.1~50μm程度である。パッチ基板2及びグラウンド基板4を形成する導体は、特に限定されることはなく、例えば、銅、金、銀、アルミニウム、チタン、クロム、モリブデン、タングステン、白金、若しくはニッケル等の金属、又はこれらの金属を少なくとも1種以上を含有する合金あるいは金属化合物が好ましい。また、パッチ基板2及びグラウンド基板4の構造は、一層構造に限らず、例えば、チタン層と銅層との積層構造のような複数の層が積層した構造であってもよい。パッチ基板2及びグラウンド基板4の形成方法は、特に限定されるものではなく、例えば、公知の接着剤による接着、導体ペーストを用いた印刷法、ディップ法、メッキ法、蒸着法、スパッタ、ホットプレス法等の各種公知の形成方法を適用することができる。
【0137】
<マイクロストリップ線路>
本実施形態において、マイクロストリップ線路5は、導体で形成された層であることが好ましい。当該マイクロストリップ線路5を形成する材料としては、上記のパッチ基板2及びグラウンド基板4と同様の材料を適用することができる。また、誘電体層3の比誘電率が高いほど、パッチ基板2又は給電線路(例えば、マイクロストリップ線路5)から生じる電磁界は、誘電体層3内部に強く拘束される傾向を示す。そのため、パッチ基板2にとっては、低誘電率の誘電体層3が好ましい。一方、給電線路にとっては、高誘電率の誘電体層3が好ましい。
【0138】
<好ましい形態>
本実施形態は、繰り返し単位としてスチレン系単量体単位を有するスチレン系樹脂(A1)を含有するスチレン系樹脂組成物であって、
前記スチレン系樹脂(A1)は、繰り返し単位としてモノビニルスチレン系単量体単位を有するポリマーマトリックス中にゴム状重合体(a)の粒子が分散されたゴム変性スチレン系樹脂、あるいは前記スチレン系単量体単位と、不飽和カルボン酸系単量体単位及び/又は不飽和カルボン酸エステル系単量体単位とを含むスチレン系共重合樹脂であり、かつ2つ以上のビニル基を有する芳香族ビニル化合物を0質量%以上4.5質量%以下含有し、
前記スチレン系樹脂(A1)中に含まれるカテコール誘導体は、前記スチレン系樹脂(A1)1g当たり6μg以下であり、且つ前記スチレン系単量体単位のダイマーと前記スチレン系単量体単位のトリマーとの合計量は、前記スチレン系樹脂(A1)1g当たり5000μg以下含有し、
誘電率3以下、誘電正接0.02以下であることを特徴とする、電磁波により通信を行う装置部品用のスチレン系樹脂組成物であることが好ましい。
これにより、高温保持後の低い誘電正接を維持し、黄色度の変化が少なく、かつ金属材料に対する接着強度に優れる樹脂組成物を提供できる。そのため、本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、導光板などの光学用途に使用される材料より、電磁波で通信を行う、いわゆる高周波用途の電子機器に使用されることが好ましい
また、前記スチレン系樹脂(A1)は、スチレン系共重合樹脂であり、かつ当該スチレン系共重合樹脂100質量%に対して、スチレン系単量体単位98質量%以下と、不飽和カルボン酸系単量体単位0~16質量%と、不飽和カルボン酸エステル系単量体単位0~16質量%とを含有する共重合体であることが好ましい。
【0139】
<好ましい使用態様>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物の好ましい形態は、電磁波で通信を行う装置部品又は当該装置部品用の成形体である。
具体的には、本実施形態は、繰り返し単位としてスチレン系単量体単位を有するスチレン系樹脂(A1)を含有するスチレン系樹脂組成物を構成成分として含む電磁波により通信を行う装置部品又は当該装置部品用の成形体であって、
前記スチレン系樹脂(A1)は、繰り返し単位としてモノビニルスチレン系単量体単位を有するポリマーマトリックス中にゴム状重合体(a)の粒子が分散されたゴム変性スチレン系樹脂、あるいは前記スチレン系単量体単位と、不飽和カルボン酸系単量体単位及び/又は不飽和カルボン酸エステル系単量体単位とを含むスチレン系共重合樹脂であり、かつ2つ以上のビニル基を有する芳香族ビニル化合物を0質量%以上4.5質量%以下含有し、
前記スチレン系樹脂(A1)中に含まれるカテコール誘導体は、前記スチレン系樹脂(A1)1g当たり6μg以下であり、且つ前記スチレン系単量体単位のダイマーと前記スチレン系単量体単位のトリマーとの合計量は、前記スチレン系樹脂(A1)1g当たり5000μg以下含有し、
誘電率3以下、誘電正接0.02以下であることを特徴とする、電磁波により通信を行う装置部品又は当該装置部品用の成形体であることが好ましい。
これにより、高温保持後の低い誘電正接を維持し、黄色度の変化が少なく、かつ金属材料に対する接着強度に優れる装置部品を提供できる。そのため、本実施形態の装置部品又は当該装置部品用の成形体は、導光板などの光学用途より、電磁波で通信を行う、いわゆる高周波用途の電子機器に使用されることが好ましい
また、前記スチレン系樹脂(A1)は、スチレン系共重合樹脂であり、かつ当該スチレン系共重合樹脂100質量%に対して、スチレン系単量体単位98質量%以下と、不飽和カルボン酸系単量体単位0~16質量%と、不飽和カルボン酸エステル系単量体単位0~16質量%とを含有する共重合体であることが好ましい。
本実施形態において、電子機器のハウジング材料など高い機械的強度特性が要求される場合、スチレン系樹脂(A1)は、ゴム変性スチレン系樹脂を使用することが好ましい。一方、上述のパッチアンテナなど高周波用途を重視する場合は、優れた耐熱性を示すスチレン系共重合樹脂を使用することが好ましい。
【0140】
[スチレン系樹脂組成物又は誘電体層の物性]
<誘電率・誘電正接>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物又は誘電体層の誘電率は3以下であることが好ましく、より好ましくは2.5以下である。また、当該スチレン系樹脂組成物又は誘電体層の誘電正接は0.02以下、より好ましくは0.01以下である。誘電率が3より大きく、誘電正接が0.02より大きいと0.3GHz以上の高周波では誘電損失が大きくなり、製品に不具合を生じる。
なお、本開示で、誘電率・誘電正接は、JIS C2138に準拠して10GHzで測定される値である。
【0141】
<イエローインデックス>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物又は誘電体層のイエローインデックスは、20以下であることが好ましく、より好ましくは10以下である。20より大きいと着色等に不具合を生じる。なお、本開示で、イエローインデックス(YI)は、JIS K7105に準拠して測定される値である。
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物のイエローインデックスは、5以下であることが好ましく、より好ましくは3以下である。5より大きいと光学用途に使用できない懸念がある。
【0142】
<難燃性>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物又は難燃性スチレン系樹脂組成物の難燃性は、電気製品関連など用途によっては、UL94垂直燃焼試験(UL94-V試験)において、規格内である、即ち、V-0~V-2の難燃性クラスであることが好ましい。また、UL94水平燃焼(UL94-HB試験)において、HB規格内である75mm/分以下の燃焼速度であることが望ましく、また、自動車難燃規格(FMVSS302)などの規格を考慮すると85mm/分以下が好ましい。なお、本開示で、難燃性は、後述の[実施例]の項に記載の方法で評価することができる。
<ビカット軟化温度>
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度は、86℃以上であることが好ましく、より好ましくは88℃以上である。86℃未満であると、使用中、温度が上昇し、製品が変形してしまう虞れがある。なお本開示において、ビカット軟化温度は、ISO 306に準拠して、荷重49N、昇温速度50℃/時間の条件により測定される値である。
【0143】
[成形体]
本実施形態のスチレン系樹脂組成物又は難燃性スチレン系樹脂組成物は、上記の溶融混練成形機により、あるいは、得られたスチレン系樹脂組成物又は難燃性スチレン系樹脂組成物のペレットを原料として、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法、及び発泡成形法等により、成形体を製造することができる。本実施形態の誘電体層3も同様に、上記の溶融混練成形機により、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法、及び発泡成形法等により製造することができる。
本実施形態のスチレン系樹脂組成物を含む成形品若しくは成形体、好ましくは射出成形品又は射出成形体(射出圧縮を含む)又は誘電体層3は、0.3~300GHzの周波数を有する電磁波で通信を行う装置の構成要素、ハウジング又はハウジング部品に関している、ことを特徴とする。特に、本実施形態のスチレン系樹脂組成物を成形してなる成形品若しくは成形体、又は誘電体層3は、送受信装置、携帯電話、タブレット、ラップトップ、ナビゲーションデバイス、監視カメラ、写真撮影用カメラ、センサ、ダイビングコンピュータ、オーディオユニット、リモコン、スピーカ、ヘッドホン、ラジオ、テレビ、照明機器、家電製品、キッチン用品、ドアオープナー又はゲートオープナー、車両中央ロック用操作装置、キーレス自動車用キー、温度測定装置又は温度表示装置、測定装置及び制御装置の構成要素、並びにハウジング又はハウジング部品からなる群から選択される製品に使用されうる。
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物を含む成形品、好ましくは、射出成形品(射出圧縮を含む)、複写機、ファックス、テレビ、ラジオ、テープレコーダー、ビデオデッキ、パソコン、プリンター、電話機、情報端末機、冷蔵庫、電子レンジ等のOA機器、家庭電化製品、電気・電子機器のハウジングや各種部品、発泡断熱材、絶縁フィルム等に好適に用いられる。
【実施例0144】
以下、実施例及び比較例に基づいて本開示の実施形態を更に具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
「測定及び評価方法」
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物の物性の測定及び評価は、次の方法に基づいて行った。
【0145】
(1)スチレン系単量体のダイマー及びスチレン系単量体のトリマー量の測定
装置:Agilent 6850series GC system
試料:樹脂組成物1gをMEK10mlに溶解後、3mlのメタノールを加えて重合体を沈降させ、溶液中の成分濃度を測定した。
カラム:Agilent 19091Z-413E
入り口温度:250℃
検出器温度:280℃
【0146】
(2)4-t-ブチルカテコール量の測定
装置:Agilent 6890
試料:樹脂組成物1gをクロロホルム50mlに溶解後、BSTFA(N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド)を用いて、トリメチルシリル誘導体化処理を実施した。
カラム:DB-1(0.25mm i.d.×30m)
液相厚:0.25mm
カラム温度:40℃(5min保持)→(20℃/min 昇温)→320℃(6min保持) 合計25min
注入口温度:320℃
注入法:スプリット法(スプリット比 1:5)
試料量:2μl
MS装置:Agilent MSD5973
イオン源温度:230℃
インターフェイス温度: 320℃
イオン化法:電子イオン化(EI)法
測定法:SCAN法(スキャンレンジm/Z 10~800)
【0147】
(3)ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(a)の含有量:
ブタジエンセグメントの結合様式を踏まえた上で、熱分解ガスクロマトグラフィーを測定し、ブタジエンセグメント量からゴム状重合体(a)の含有量を算出した。単位は重量%である。
【0148】
(4)スチレン系共重合樹脂のスチレン単量体単位、メタクリル酸単量体単位、及びメタクリル酸メチル単量体単位の含有量の算出法
プロトン核磁気共鳴(H-NMR)測定機で測定したスペクトルの積分比から、樹脂組成を定量した。
・試料調製:樹脂ペレット30mgをd-DMSO 0.75mLに60℃で4~6時間加熱溶解した。
・測定機器:日本電子(株)製 JNM ECA-500
・測定条件:測定温度25℃、観測核H、積算回数64回、繰り返し時間11秒。
【0149】
(スペクトルの帰属)
ジメチルスルホキシド重溶媒中で測定されたスペクトルの帰属について、0.5~1.5ppmのピークは、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、及び六員環酸無水物のα-メチル基の水素、1.6~2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(-COOCH)の水素、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素である。また、6.5~7.5ppmのピークはスチレンの芳香族環の水素である。なお、本実施例及び比較例の樹脂では六員環酸無水物の含有量が少ないため、本測定方法では通常定量化は難しい。
【0150】
(5)誘電率・誘電正接
実施例1~24及び比較例1~11において作製したスチレン系樹脂組成物の誘電特性(誘電率・誘電正接)は、JIS C2138に準拠して10GHzでPNA-Lネットワークアナライザ N5230A(アジレント・テクノロジー(株)製)にて測定した(200℃、荷重49N)。また、前記スチレン系樹脂組成物を80℃のオーブンに500時間暴露した後の誘電正接についても測定した。
【0151】
(6)イエローインデックス(YI)
JIS K7105に準拠して、日本電色株式会社製 色差濁度測定器 COH300A(商品名)にてスチレン系樹脂組成物又は後述の方法で作製した試験片(a)のイエローインデックスYI(常温25℃)を測定した。また、80℃のオーブンに500時間暴露したイエローインデックスYI(80℃)を測定し、YI(80℃)値からYI(常温25℃)値を引いたΔYIについて算出した。
なお、試験片(a)のイエローインデックスYI(常温25℃)については、調色目的を考慮し5以下であることが好ましい。
【0152】
(7)難燃性の評価
(7-1)燃焼等級の評価
後述の方法で作製した試験片(a)(大きさ:127mm×12.7mm、厚み:1.5mm)又は試験片(b)(大きさ:127mm×12.7mm、厚み:0.8mm)を用いて、50W試験炎によるUL94垂直燃焼試験(UL94-V試験)に準拠する方法で難燃性を評価した。
上記試験片(a)又は(b)にガスバーナーの炎を当てて、その燃焼の程度を評価した。
なお、難燃等級には、UL94-V試験によって分類される難燃性のクラスを示した。全ての試験片で試験は5本行い、判定した。分類方法の概要は以下のとおりである。
V-0:5本の合計燃焼時間50秒以下、最大燃焼時間10秒以下、滴下綿着火なし
V-1:5本の合計燃焼時間250秒以下、最大燃焼時間30秒以下、滴下綿着火なし
V-2:5本の合計燃焼時間250秒以下、最大燃焼時間30秒以下、滴下綿着火あり
Not V:UL94の規格外
当該燃焼時間の測定は、UL94-V試験の1回目の接炎後から消火するまでの時間で評価し、5セット行った(1セット2回の接炎)。
なお、試験片(b)を作製した実施例25~実施例33に関しては、各セットの1回目の燃焼時間を表7及び表9に示し、各セットの1回目の燃焼時間の平均偏差を算出することによって燃焼性のばらつきを評価した。
【0153】
(7-2)燃焼速度
上記(7-1)の燃焼性の評価と同様に、後述の実施例1~24及び比較例1~11の欄に記載した方法で作製した試験片(a)(大きさ:127mm×12.7mm、厚み:1.5mm)、又は、後述の実施例25~33及び比較例12~20の欄に記載した方法で作製した試験片(b)(大きさ:127mm×12.7mm、厚み:0.8mm)をそれぞれ3つ用いて、UL94水平燃焼試験によって燃焼速度(mm/分)を測定した。
【0154】
(8)耐熱性の評価
ビカット軟化点により耐熱性の評価を実施した。ISO 306に準拠して、樹脂組成物のビカット軟化温度(℃)を測定した。荷重は49N、昇温速度は50℃/時間とした。
【0155】
(9)90°銅箔引き剥がし強さの評価(最小銅箔接着性)
後述の実施例1~24及び比較例1~11のスチレン系樹脂組成物からなる樹脂シート130mm×130mmに対して、当該樹脂シートと同じ大きさの厚さ35μmの銅箔を、200℃熱プレスにより銅箔を接着した後(図4(a)参照)、塩化第二鉄溶液により銅箔をエッチングし(図4(b)参照)、JIS K 6854-1を準拠した銅箔の引きはがし強さを測定した(図4(c)参照)。
測定条件は以下の通りである。
試験速度:50mm/min
試験片幅:10(mm)
測定数 :n=5
測定環境:23℃±2、50%RH±5%RH
測定装置:万能材料試験機 59R5582型(インストロン社製)
また、本実施例において、90°銅箔引き剥がし強さの値である最小銅箔接着性は、はく離長さ20~100mmの範囲内において、印加する荷重の最小値とした。例えば、図4のような90°銅箔引き剥がし強さの実験結果が得られた場合、Aのピークを最小銅箔接着性として評価した。
【0156】
(10)接着性の評価
後述の方法で作製したフレキシブル両面金属積層板を温度80℃、湿度85%雰囲気下に500時間暴露した後、JIS K5600-5-6(クロスカット法)に準拠して接着性を測定した。試験結果はJIS K5600-5-6(クロスカット法)に準拠し、ます目状に剥離した状況により、分類0(良)~5(悪)の数字で評価した。
【0157】
(11)伝送損失(dB/mm)の評価
誘電体層の伝送損失の測定には、インピーダンスZ=50Ωのマイクロストリップ線路法を用いた。マイクロストリップ線路法は、サンプルの作製が容易であり、面実装部品の実装に適した構造を有するため、伝送損失の測定に広く採用されている。
【0158】
図3は、マイクロストリップ線路法により作製したサンプルを示す斜視図である。当該サンプルは、図3に示すように、スチレン系樹脂組成物からなる誘電体層3と、誘電体層3の一方の面に設けられた、厚さt、幅Wの銅メッキ層をマイクロストリップ線路5とし、他方の面に誘電体層3と一様に接着して設けられた銅メッキ層をグランド基板4とする積層体であり、後述のフレキシブル両面金属積層板に相当する。
【0159】
マイクロストリップ線路法による伝送損失の測定は、初期の透過量(80℃のオーブンに500時間暴露する前の透過量(dB)と負荷試験後の透過量(80℃のオーブンに500時間暴露した後の透過量(dB)とを測定し、それぞれの透過量の絶対値をマイクロストリップ線路5の線路長(75mm)で割った値を伝送損失とした。
【0160】
具体的には、80℃のオーブンに500時間暴露する前のフレキシブル両面金属積層板(サンプル(A))及び、80℃のオーブンに500時間暴露した後のフレキシブル両面金属積層板(サンプル(B))のそれぞれに対して、マイクロストリップ線路5の両端及びグランド基板4を測定機器に接続した後、マイクロストリップ線路5への入射波に対する透過量を測定した(温度23℃、湿度50%RHの条件下)。また、10GHzにおける初期の透過量及び負荷後の透過量の状態調整を行った。
本測定に用いた測定機器を下記に示す。
測定機器: E8363B(Agllent Technologies社製)
測定周波数: 10M-40GHz
なお、初期の透過量、負荷試験後の透過量の測定については、上記した条件以外はすべて同じ条件で測定した。負荷試験後の透過量が初期の透過量に近いほど耐久性の優れていることになる。
【0161】
(12)成形外観の評価
成形外観の評価については、後述の実施例25~実施例33の欄に記載の方法で作製した試験片(a)の表面外観を観察し、以下の評価基準により、シルバーストリーク又は曇りがないものを「○」と評価した。本実施例の「シルバーストリーク又は曇り」の発生の評価方法は、射出成形機で成型した厚さ3mmのプレート上に、目視でシルバーストリーク又は曇りが確認されるか否かで行い、観察した結果を下記基準で評価した。厚さ3mmのプレートは、射出成形機(東芝機械株式会社製、EC60N)により、シリンダー温度200℃、金型温度40℃で成形したものを用いた。
シルバーストリークの評価基準
○:シルバーストリークが発生しなかった。
×:シルバーストリークが発生した成形体が1個以上であった。
曇りの評価基準
○:曇りが発生しなかった。
×:曇りが発生した成形体が1個以上であった。
【0162】
(13)ビカット軟化温度の評価
後述の実施例25~実施例33の欄に記載の方法で作製した試験片(a)について、ISO 306に準拠して、荷重49N、昇温速度50℃/時間の条件によりビカット軟化温度を測定した。
【0163】
「原材料」
実施例で用いた各材料(スチレン系樹脂(A1)、スチレン系樹脂(A2)、難燃剤(B)、添加剤など)は下記の通りである。
[スチレン系樹脂(A1)]
本実施例1~24及び比較例1~11では、スチレン系樹脂(A1)として、以下のGPPS-A、GPPS-B、HIPS-A、HIPS-B、及びスチレン系共重合体(a)~(e)を使用した。
<GPPS―A>
蒸留により精製した、スチレン85重量%、エチルベンゼン15重量%の混合液100重量部に対し、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.05重量部を添加した重合液を5.4リットルの完全混合型反応器に0.70リットル/hrで連続的に仕込み、101℃に調整した。重合体溶液を引き続き、攪拌器を備え3ゾーンで温度コントロール可能な3.0リットルの層流型反応器に連続的に仕込んだ。層流型反応器の温度を113℃/121℃/128℃に調整した。得られた重合溶液を2段ベント付き脱揮押出機連続的に供給し、押出機温度225℃、1段ベント及び2段ベントの真空度を15torrで、未反応単量体及び溶媒を除去し、押出機にて造粒し、スチレン系樹脂(A1)としてGPPS-Aを得た。当該GPPS-Aとあわせて得られた4-t-ブチルカテコールは、1.5μg/gであり、スチレンダイマーとスチレントリマーとの合計量は4530μg/gであった。これら4-t-ブチルカテコールの含有量、及びスチレンダイマーとスチレントリマーとの合計量は、いずれもGPPS-A 1gに対する含有量である。
【0164】
<GPPS―B>
スチレン系樹脂の重合溶液の一部を蒸留による精製をおこなわずに使用した他は、GPPS-Aと同様にスチレン系樹脂(A1)としてGPPS―Bを調製した。当該GPPS-Bとあわせて得られた4-t-ブチルカテコールは1.8μg/gであり、スチレンダイマーとスチレントリマーとの合計量は5880μg/gであった。これら4-t-ブチルカテコールの含有量、及びスチレンダイマーとスチレントリマーとの合計量は、いずれもGPPS-B 1gに対する含有量である。
【0165】
<HIPS―A>
蒸留により精製した、スチレン82.3部に、ムーニー粘度が40であり、かつ5%スチレン溶液粘度である135センチポイズのハイシスポリブタジエンゴムを5部溶解した溶液に、エチルベンゼン13部、1,1’-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.03部、ジ-t-ブチルパーオキサイド0.01部、nドデシルメルカプタン0.05部及び酸化防止剤としてオクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート0.1部を加えた原料液を、内容積6リットルの攪拌機付き槽型第1反応器に連続的に2リットル/Hr.にて供給し、第1反応器出口の固形分濃度35%とするよう、温度を調節し、相転換を完了させ粒子を形成させた。この時の第1反応器の攪拌数を90回転/毎分とした。更に、内容積6リットルの攪拌器付き槽型第2反応器、及び同型、同容量の第3反応器にて重合を継続させた。その際、第2及び第3反応器出口の固形分濃度を各々55~60%、68~73%になるように槽内温度を調整した。次いで、230℃の真空脱揮装置に送り未反応スチレン単量体及び溶媒を除去し、押出機にて造粒し、スチレン系樹脂(A1)としてHIPS―Aを得た。当該HIPS―Aとあわせた得られた4-t-ブチルカテコールは、1.1μg/gであり、スチレンのダイマーとトリマーの合計量は2840μg/gであった。これら4-t-ブチルカテコールの含有量、及びスチレンダイマーとスチレントリマーとの合計量は、いずれもHIPS―A 1gに対する含有量である。
【0166】
<HIPS―B>
スチレン系樹脂の重合溶液の一部を蒸留による精製をおこなわずに使用した他は、HIPS-Aと同様にスチレン系樹脂組成物を調製した。当該HIPS―Bとあわせた得られた4-t-ブチルカテコールは1.7μg/gであり、そのダイマーとそのトリマーの合計量は5380μg/gであった。これら4-t-ブチルカテコールの含有量、及びスチレンダイマーとスチレントリマーとの合計量は、いずれもHIPS―B 1gに対する含有量である。
【0167】
<スチレン系共重合樹脂>
-スチレン系共重合体(a)-
蒸留により精製した、スチレン(ST)71.3質量部、メタクリル酸(MAA)7.3質量部、メタクリル酸メチル(MMA)6.4質量部、エチルベンゼン15.0質量部、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.025質量部から成る重合原料組成液を、1.1リットル/時の速度で、容量が4リットルの完全混合型反応器に、次いで、容量が2リットルの層流型反応器から成る重合装置に、さらに、未反応モノマー、重合溶媒等の揮発分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置に、連続的に順次供給し、樹脂を調製した。
重合工程における重合反応条件は、完全混合反応器は重合温度122℃、層流型反応器は重合温度120~142℃とした。脱揮された未反応ガスは、-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮し、未反応液として回収した。
最終重合液を215℃、2.5kPaの減圧下で30分間乾燥後、押出機にて造粒し、スチレン系共重合体(a)(共重合体(a)とも称す。他の共重合体も同様である。)を得た。また、最終重合液中のスチレン系共重合樹脂分は、式[(乾燥後の試料質量/乾燥前の試料質量)×100%]により測定したところ、65.6質量%であった。スチレン系共重合体(a)の重量平均分子量は214,000(21.4万)であった。
当該スチレン系共重合体(a)とあわせて得られた4-t-ブチルカテコールは、0.6μg/gであり、スチレンダイマーとスチレントリマーとの合計量は3720μg/gであった。これら4-t-ブチルカテコールの含有量、及びスチレンダイマーとスチレントリマーとの合計量は、いずれもスチレン系共重合体(a) 1gに対する含有量である。
スチレン系共重合体(a)の組成比はスチレン単量体単位82.3質量%、メタクリル酸単量体単位9.8質量%、メタクリル酸メチル単量体単位7.9質量%であった。なお、各単量体単位は次のようにプロトン核磁気共鳴(H-NMR)測定機で測定したスペクトルの積分比から、スチレン系共重合体(a)の組成を定量した。
・試料調製:樹脂ペレット30mgをd-DMSO 0.75mLに60℃で4~6時間加熱溶解した。
・測定機器:日本電子(株)製 JNM ECA-500
・測定条件:測定温度25℃、観測核H、積算回数64回、繰り返し時間11秒。
ジメチルスルホキシド重溶媒中で測定されたスペクトルの帰属について、0.5~1.5ppmのピークは、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、及び六員環酸無水物のα-メチル基の水素、1.6~2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(-COOCH)の水素、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素である。また、6.5~7.5ppmのピークはスチレンの芳香族環の水素である。なお、本実施例及び比較例の樹脂では六員環酸無水物の含有量が少ないため、本測定方法では通常定量化は難しい。
【0168】
-スチレン系共重合体(b)-
後述の表1の組成比になるよう、スチレン(ST)、メタクリル酸(MAA)及びメタクリル酸メチル(MMA)の配合比及び重合温度条件等を調整して、上記スチレン系共重合体(a)と同様の方法によりスチレン系共重合体(b)を製造した。
【0169】
-スチレン系共重合体(c)-
後述の表1の組成比になるよう、スチレン(ST)、メタクリル酸(MAA)及びメタクリル酸メチル(MMA)の配合比及び重合温度条件等を調整して、上記スチレン系共重合体(a)と同様の方法によりスチレン系共重合体(c)を製造した。
【0170】
-スチレン系共重合体(d)-
後述の表1の組成比になるよう、スチレン(ST)、メタクリル酸(MAA)、メタクリル酸メチル(MMA)及び重合温度条件等を調整して、上記スチレン系共重合体(a)と同様の方法によりスチレン系共重合体(d)を製造した。
【0171】
-スチレン系共重合体(e)-
後述の表1の組成比になるよう、スチレン(ST)、メタクリル酸(MAA)、メタクリル酸メチル(MMA)及びジビニルベンゼンの配合比及び重合温度条件等を調整して、上記スチレン系共重合体(a)と同様の方法によりスチレン系共重合体(e)を製造した。
【0172】
以下に、上記で得られたスチレン系共重合体(a)~スチレン系共重合体(e)の組成比を表1に示す。
【0173】
【表1】
【0174】
[スチレン系樹脂(A2)]
本実施例25~33及び比較例12~20では、スチレン系樹脂(A2)として、以下のHIPS、GPPS及びスチレン系共重合体(a)を使用した。
<HIPS>
MFR7.0の高衝撃ポリスチレン(HIPS)であるゴム変性スチレン系樹脂を用いた。該HIPSは、ゴム状重合体としてポリブタジエンを使用しており、ゴム状重合体の含有量8.6質量%であった。当該高衝撃ポリスチレン(HIPS)の平均粒子径は1.5μmであった。
【0175】
<GPPS>
MFR2.2のポリスチレン(GPPS、PSジャパン社製、G9401)を用いた。
【0176】
<スチレン系共重合樹脂>
スチレン系樹脂(A2)として、上記のスチレン系共重合体(a)を用いた。
【0177】
[難燃剤(B)]
・ホスホン酸エステル化合物[丸菱油化工業株式会社製、ノンネン73、融点100℃、リン含有量10質量%]
・リン酸エステル(化合物(II-2)):レゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェート[大八化学工業株式会社製、PX-200、融点92℃、リン含有量9.0質量%、縮合タイプ]
・ホスフィン酸系化合物(C1-1):(表中、ホスフィン酸-Aとも称する。)[三光株式会社製、HCA、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド]
・ホスフィン酸系化合物(C1-2):(表中、ホスフィン酸-Bとも称する。)[三光株式会社製、BCA、10-ベンジル-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド]
・ヒンダードアミン系化合物(C2-1):(表中、HALS-Aとも称する。)[BASF社製、FlamestabNOR116FF、NOR型高分子タイプ]
・ヒンダードアミン系化合物(C2-2):(表中、HALS-Bとも称する。)[(株)ADEKA製、アデカスタブ LA-81 NOR型]
・ヒンダードアミン系化合物(C2-3):(表中、HALS-Cとも称する。)[(株)ADEKA製、アデカスタブ LA-77Y NH型]
・ブロム系難燃剤A:ビス(ペンタブロムフェニル)エタン[アルベマール株式会社、Saytex8010]
・ブロム系難燃剤B:2,4,6-トリス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)-1,3,5-トリアジン[第一工業製薬社製、ピロガードSR245]
【0178】
[任意添加成分]
(フェノール系酸化防止剤)
・3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル[BASF社製、Irganox1076]
(リン系酸化防止剤)
・トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト[BASF社製、Irgafos168]
【0179】
[実施例1~24]
表2-1及び表2-2に示す組成比の通り、各成分と、(A1)成分及び(B)成分の合計100質量部に対して、Irganox1076とIrgafos168とを0.2質量部ずつ添加後、予備混合した。得られた予備混合物を一括混合し、二軸押出機(東芝機械社製、TEM-26SS)を用い、180℃~230℃の範囲で溶融押出を行い、混練物としてスチレン系樹脂組成物のペレットを得た。この際、スクリュー回転数は150rpm、吐出量は10kg/hrであった。なお、実施例10~12はそれぞれ4-t-ブチルカテコールを(A1)成分との予備混合で4ppm添加したものを使用した。
このようにして得られたペレットを、寸法127mm×12.7mm×厚み1.5mm又は1.5mmのピンゲート平板金型を備え付けた日本製鋼所社製の射出成形機を用い、シリンダー温度220℃、金型温度50℃、射出圧力(ゲージ圧40-60MPa)、射出速度(パネル設定値)50%、射出時間/冷却時間=5sec/20secで成形して試験片(a)を作製し、各特性の測定及び燃焼性の評価等を実施した。結果を表2-1及び表2-2に示す。
【0180】
さらに伝送損失及び接着性を評価するために、上記実施例1~12のスチレン系樹脂組成物のペレットを用いて、厚さ0.3mmのシートをプレス成形して作成し、厚み12μmの電解銅箔(福田金属箔粉社製CF-T4X-SVR-12)を、銅箔/シート/銅箔の順序で積層した後、温度220℃、圧力1.3MPaの条件で5分間プレスして、フレキシブル両面金属積層板を得た。そして、作製したフレキシブル両面金属積層板の伝送損失及び接着性の評価等を実施した。その結果を表4に示す。
【0181】
[比較例1~11]
比較例1~11は、表3に示すように組成を変更したこと以外は実施例と同様にして、樹脂組成物のペレットを得た後、試験片(a)を作製し、各物性の測定及び評価の結果を表3及び表5に示す。なお、比較例2、4、6、8、9、10及び11では、それぞれ4-t-ブチルカテコールを(A2)成分との予備混合において所定量添加したものを使用した。
【0182】
【表2-1】
【0183】
【表2-2】
【0184】
【表3】
【0185】
表2-1及び表2-2に示すように、実施例1~24は、誘電率、誘電正接及びその変化量、並びに色調に優れることがわかる。使用環境下を想定したオーブンの暴露後でも誘電正接や色調の変化が少ない。さらに難燃剤を添加すると誘電特性や色調の優れた難燃材料にすることができる。
【0186】
表3に示すように、4-t-ブチルカテコール、又はダイマーとトリマーの量が所定量より多い場合、使用環境下を想定したオーブンの暴露後における、誘電正接及びその変化量や色調の変化が、大きくなることが分かる。また、難燃剤を併用した場合、難燃性が低下してしまう。
【0187】
【表4】
【0188】
【表5】
【0189】
表2-1、表2-2及び表4に示すように、実施例1~12のスチレン系樹脂組成物を用いて作製したパッチアンテナは、基板との接着性、誘電率や誘電正接、及び色調に優れることがわかる。使用環境下を想定したオーブンの暴露後でも誘電正接や色調の変化が少なく伝送損失の低下も少ない。さらに難燃剤を添加すると誘電特性や色調の優れた難燃材料にすることができる。一方、表5に示すように、4-t-ブチルカテコール、又はダイマーとトリマーの量が所定量より多いと使用環境下を想定したオーブンの暴露後で誘電正接や色調の変化、伝送損失の低下が大きいことが分かる。また、難燃剤を併用した場合、難燃性が低下してしまう。
また、実施例1~12はいずれもスチレン系樹脂を使用しているため、ガラス製の誘電体より耐衝撃性は優れる。
【0190】
[実施例25~33]
表6に示す組成比で各成分と(A2)成分、(C1)成分及び(C2)成分100質量部に対して、Irganox1076とIrgafos168を0.2質量部ずつ添加後、予備混合した。得られた予備混合物を一括混合し、二軸押出機(東芝機械社製、TEM-26SS)を用い、180℃~230℃の範囲で溶融押出(スクリュー回転数は150rpm、吐出量は10kg/hr)を行い、ペレット状の難燃性スチレン系樹脂組成物を作製した。このようにして得られたペレット状難燃性スチレン系樹脂組成物を、ISO527-2多目的試験片1A型を備え付けた日本製鋼所社製の射出成形機を用い、シリンダー温度220℃、金型温度50℃、射出圧力(ゲージ圧40-60MPa)、射出速度(パネル設定値)50%、射出時間/冷却時間=5sec/20secで成形して試験片(a)を作製し各物性の測定を行った。また、寸法127mm×12.7mm×厚み0.8mmの両端ゲート平板金型により、上記試験片(a)と同条件を用い厚みを変えて試験片(b)を作製し難燃性の測定を行った。その結果を表6に示す。さらに、実施例25~33のUL94-V試験の1セット目の1回目の燃焼時間(秒)の評価結果については、表7に示す。
【0191】
【表6】
【0192】
【表7】
【0193】
[比較例12~20]
比較例12~20は、表8に示すように組成を変更したこと以外は実施例25と同様に実施した。各物性の測定及び評価の結果を表8に示す。さらに、比較例12~20のUL94-V試験における各セットの第1回目の燃焼時間(秒)の評価結果を、表9に示す。
【0194】
【表8】
【0195】
【表9】
【0196】
実施例25~33は、上記表6に示すように、高い難燃性を有し、耐熱性、色調、成形外観に優れる。特にヒンダードアミン系化合物(C2)は、難燃性に関してNOR型のヒンダードアミン系化合物(C2)がホスフィン酸系化合物(C1)との相乗効果が高く、難燃性が高い。また、ホスフィン酸系化合物(C1)が、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイドであるとイエローインデックスが低くなり、色調が良好になる。
【0197】
一方、比較例12~15について、表8に示すように、ヒンダードアミン系化合物(C2)を添加しないと高い難燃性は得られず、シルバーストリークや曇りなど成形品外観が低下する。比較例16~17について、表8に示すように、ホスフィン酸系化合物(C1)を添加しないと難燃性は得られず、イエローインデックスも高く色調の改善が見られない。
比較例18及び19について、表8に示すように、ホスフィン酸系化合物(C1)の量が多いと耐熱性が低下するほか、成形外観が低下する。比較例20について、表8に示すように、ホスホン酸エステルでは色調、及び成形外観に改善が見られない。また、表7及び表9に示すように、実施例25~33の燃焼時間(秒)の平均偏差と比較例12~20の燃焼時間(秒)の平均偏差とを比較すると、実施例の難燃性スチレン系樹脂組成物を用いることにより、難燃効果のばらつきが改善されていることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0198】
本開示のスチレン系樹脂組成物、及び当該組成物を含む成形品又はパッチアンテナは、0.3~300GHzの周波数を有する電磁波で通信を行う装置の構成要素として有効である。そのため、ハウジング又はハウジング部品であり、送受信装置、携帯電話、タブレット、ラップトップ、ナビゲーションデバイス、監視カメラ、写真撮影用カメラ、センサ、ダイビングコンピュータ、オーディオユニット、リモコン、スピーカ、ヘッドホン、ラジオ、テレビ、照明機器、家電製品、キッチン用品、ドアオープナー又はゲートオープナー、車両中央ロック用操作装置、キーレス自動車用キー、温度測定装置又は温度表示装置、測定装置及び制御装置の構成要素等に好適に使用することができる。
【0199】
[符号の説明]
1 パッチアンテナ
2 パッチ基板
3 誘電体層
4 グラウンド基板
5 マイクロストリップ線路
6 給電点
7 スル―ホール
W 幅
L 長さ
h 誘電体層の厚み
t マイクロストリップ線路の厚み
図1
図2
図3
図4
図5