(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180609
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】血小板ペレット溶解物の調製及び神経学的障害の処置のためのその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 35/19 20150101AFI20221129BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20221129BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20221129BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20221129BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20221129BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20221129BHJP
C12N 5/078 20100101ALN20221129BHJP
【FI】
A61K35/19 A
A61P25/00
A61P25/16
A61P25/28
A61P27/02
A61P25/14
C12N5/078
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159630
(22)【出願日】2022-10-03
(62)【分割の表示】P 2019501758の分割
【原出願日】2017-03-23
(31)【優先権主張番号】16305332.5
(32)【優先日】2016-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】513005017
【氏名又は名称】サントル・ホスピテリエ・レジオナル・エ・ユニヴェルシテール・ドゥ・リール
(71)【出願人】
【識別番号】518057608
【氏名又は名称】ユニベルシテ・ドゥ・リール
(71)【出願人】
【識別番号】516340364
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・デュ・リトラル・コート・ドパール
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】518340614
【氏名又は名称】タイペイ・メディカル・ユニヴァーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィッド・ドゥヴォス
(72)【発明者】
【氏名】ティエリー・ビュルヌーフ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-クリストフ・ドゥヴジャン
(72)【発明者】
【氏名】ミン-リ・チョウ
(57)【要約】
【課題】血小板溶解物は、炎症の強力な誘発剤及び神経突起成長の阻害剤として神経学的障害において原因となる役割を果たすタンパク質である血漿由来フィブリノゲンを含有する35。このことは、ヒトの神経変性障害(例えばパーキンソン病)の分野における血小板溶解物の適用が依然として報告されていない理由でありうる。
【解決手段】改変熱処理血小板ペレット溶解物を調製する方法であって、a)血小板ペレット溶解物を準備する工程、b)この血小板ペレット溶解物を20~40分にわたり55℃~65℃の温度で熱処理する工程、c)工程b)の熱処理血小板ペレット溶解物を精製して、工程a)の血小板ペレット溶解物の総タンパク質含有量の70%未満の総タンパク質含有量を有する改変熱処理血小板ペレット溶解物を得る工程を含む方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変熱処理血小板ペレット溶解物を調製する方法であって、
a)血小板ペレット溶解物を準備する工程、
b)血小板ペレット溶解物を20~40分にわたり55℃~65℃の温度で熱処理する工程、
c)工程b)の熱処理血小板ペレット溶解物を精製して、工程a)の血小板ペレット溶解物の総タンパク質含有量の70%未満の総タンパク質含有量を有する改変熱処理血小板ペレット溶解物を得る工程
を含む方法。
【請求項2】
工程c)の精製が、遠心分離又はろ過で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程b)での熱処理が、55℃~60℃の温度で、より好ましくは約56℃の温度で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程b)での熱処理の持続時間が、約30分である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程c)の後に、
- 血小板ペレット溶解物を含有する上清を約-80℃で凍結保存する工程
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
非熱処理血小板ペレット溶解物の総タンパク質含有量の、70%未満、60%未満、より好ましくは50%未満の総タンパク質含有量を有する、改変熱処理血小板ペレット溶解物。
【請求項7】
1.5mg/mL未満、好ましくは1mg/mL未満、より好ましくは0.5mg/mL未満、更により好ましくは0.1mg/mL~0.3mg/mLのフィブリノゲンを有する、請求項6に記載の改変熱処理血小板ペレット溶解物。
【請求項8】
非熱処理血小板ペレット溶解物のPF4含有量の50%超、好ましくは60%超、より好ましくは70%超のPF4含有量を有する、請求項6又は7に記載の改変熱処理血小板ペレット溶解物。
【請求項9】
薬物としての使用のための、請求項6から8のいずれか一項に記載の改変熱処理血小板ペレット溶解物。
【請求項10】
神経学的障害の処置における、請求項9に記載の使用のための改変熱処理血小板ペレット溶解物。
【請求項11】
神経学的障害が、神経変性障害、神経炎症性障害、神経発達障害、神経血管障害及び脳傷害から選択される、請求項10に記載の使用のための改変熱処理血小板ペレット溶解物。
【請求項12】
神経学的障害が、多発性硬化症(MS)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脳卒中、加齢性黄斑変性(AMD)、アルツハイマー病(AD)、血管性認知症、前頭側頭型認知症、意味性認知症及びレビー小体型認知症から選択される神経変性障害である、請求項11に記載の使用のための改変熱処理血小板ペレット溶解物。
【請求項13】
神経変性障害が、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、加齢性黄斑変性及びアルツハイマー病から選択される、請求項12に記載の使用のための改変熱処理血小板ペレット溶解物。
【請求項14】
神経学的障害が、低酸素症又は外傷性脳損傷から選択される脳傷害である、請求項11に記載の使用のための改変熱処理血小板ペレット溶解物。
【請求項15】
改変熱処理血小板ペレット溶解物が、髄腔内経路、眼内経路、鼻腔内経路又は脳室内経路で投与される、請求項9から14のいずれか一項に記載の使用のための改変熱処理血小板ペレット溶解物。
【請求項16】
改変熱処理血小板ペレット溶解物が、脳室内経路で投与され、より具体的には右側脳室に投与され、好ましくは脳室内孔に閉じ込められ、より好ましくは第3の脳室に投与される、請求項15に記載の使用のための改変熱処理血小板ペレット溶解物。
【請求項17】
前記血小板ペレット溶解物が、ポンプで投与されるように適合されている、請求項16に記載の使用のための改変熱処理血小板ペレット溶解物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の血小板ペレット溶解物を得る方法、血小板ペレット自体、並びに神経学的障害(例えば神経変性障害、神経炎症性障害、神経発達障害及び/又は神経血管障害(即ち脳卒中))だけでなく脳傷害(外傷性脳傷害、低酸素症等)の結果を処置するためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
神経変性障害(例えばパーキンソン病(PD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)及びアルツハイマー病(AD))を処置するために神経保護、神経回復及び神経新生をもたらす効果的な「疾患修飾戦略」を開発することは、これらの障害が患者及び介護者に課す大きな社会的な及び経済的な影響を考慮すれば、緊急的な必要性がある。
【0003】
ニューロンの喪失及びその後の中枢神経系の傷害(例えば、出産又は心停止又は重度の外傷性脳損傷の後の重度の低酸素症)を補償するために神経回復及び神経新生をもたらす効果的な処置の開発も、有効な処置の欠如を考慮して大いに待たれている。
【0004】
ニューロンのシグナル伝達経路の活性因子及び調節因子としてのニューロトロフィンが神経学的障害の論理的な治療戦略を示すという相当な証拠がある1。単一組換え神経栄養成長因子の適用は、細胞モデル及び動物モデルの両方で神経の保護及び回復に関する有望な結果をもたらしている2、3。
【0005】
血小板由来成長因子-CC(PDGF-CC)は、ニューロン損傷のいくつかの動物モデルにおいて強力な神経保護因子であることが判明した4が、脳室内(ICV)経路を介して投与されたPDGF-BB及び脳由来神経栄養因子(BDNF)は神経新生を刺激した5。加えて、局所的な脳卒中の光血栓モデルにおけるBDNFの全身投与は、神経新生を誘発し、感覚運動機能を改善することができた6。形質転換成長因子-β(TGF-β)は、パーキンソニズムの動物モデルにおいてドーパミン作動性ニューロンの発達及び生存並び神経保護を促進することができ、片側パーキンソニズムラットにおいてグリア由来神経栄養因子(GDNF)の栄養効果を増強した8。
【0006】
前臨床研究は、塩基性線維芽成長因子(b-FGF)9及び血管上皮成長因子-β(VEFG-β)10による神経保護、並びにGDNFによる神経保護及び神経回復の促進11~15を示した。
【0007】
残念なことに、高用量の単一成長因子のICV投与を含む全ての無作為化臨床試験は、実質的に肯定的な臨床効果を得るのに完全に失敗している16~18。
【0008】
現在、そのような複雑で多面的な神経変性病変において単一のニューロトロフィンを投与することは、有意義な治療成績を得るには不十分である。
【0009】
そのため、より強力であろういくつかの組換えニューロトロフィンを組み合わせる新規のアプローチを開発することが必要とされているが、これは概念的に困難であり、そのため、再生医療の他の分野から生じたより実用的な戦略が正当化される。
【0010】
血小板濃縮物は必須医薬品のWHOモデルリストで十分に確立された治療薬であり19、血小板減少症に起因する出血性障害の予防及び処置で概して使用される20。止血での役割20、21に加えて、血小板は創傷治癒及び組織修復において重要な生理機能を発揮する21~23。
【0011】
血小板及び血小板溶解物が評価される再生医療24及び細胞療法25の適用の範囲が広がっている。組織治癒における血小板の治療上の利点は多因子であり、α-顆粒中に主に貯蔵され、相乗的に作用する無数の生物活性メディエータの結果である22~24、26。これには、神経栄養成長因子(例えば、PDGF(-AAアイソフォーム、-ABアイソフォーム及び-BBアイソフォーム)、BDNF、VEGF、TGF-β、bFGF又は上皮成長因子(EGF))が含まれる。脳卒中の動物モデルにおける血小板溶解物の頭蓋内送達は、内因性神経幹細胞(eNSC)の増殖並びに脳室下領域及び病変部周辺皮質における血管新生を刺激し、機能転帰の改善及び傷害の減少を引き起こし、神経保護効果を示唆することが近年になって分かった27。
【0012】
しかしながら、血小板溶解物は、炎症の強力な誘発剤及び神経突起成長の阻害剤として神経学的障害において原因となる役割を果たすタンパク質である血漿由来フィブリノゲンを含有する35。このことは、ヒトの神経変性障害(例えばパーキンソン病)の分野における血小板溶解物の適用が依然として報告されていない理由でありうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、血小板ペレット溶解物(PPL)が特定の条件下で調製される場合には、より良好な神経保護効果及び神経回復を誘発することによって神経学的障害の処置を増強することができるという予期しない発見に基づく。
【0015】
具体的には、本発明者らは、PPLの調製の最中の熱処理により溶解物の総タンパク質含有量が低下し、神経保護能力及び神経回復能力の増強が促進されることを発見している。
【0016】
そのため、第1の態様では、本発明は、改変熱処理血小板ペレット溶解物(modified heat-treated platelet pellet lysate)を調製する方法であって、
a)血小板ペレット溶解物を準備する工程、
b)この血小板ペレット溶解物を20~40分にわたり55℃~65℃の温度で熱処理する工程、
c)工程b)の熱処理血小板ペレット溶解物を精製して、工程a)の血小板ペレット溶解物の総タンパク質含有量の70%未満の総タンパク質含有量を有する改変熱処理血小板ペレット溶解物を得る工程
を含む方法に関する。
【0017】
驚くべきことに、更に予想外にも、そのようにして得られた改変熱処理PPLは、非熱処理PPL又は37℃で処理されたPPLと比較して神経保護の改善をもたらす。インビトロアッセイは、特に低用量及び高用量においてニューロン細胞の生存率が改変熱処理PPLにより有意に改善されることを示している。更に、改変熱処理PPLはインビトロアッセイにおいて神経回復を誘発する。
【0018】
いかなる理論にも拘束されることを望まないが、本発明者らは、本発明のPPLの神経回復及び神経保護活性の改善は、このPPLの総タンパク質含有量の減少の結果であると考える。55℃~65℃の温度での熱処理は、タンパク質の沈殿を誘発し、沈殿したタンパク質が除去されると考えられる工程c)の後に、出発PPL中の総タンパク質含有量と比べて有意に低い、本発明に係る改変熱処理PPL中の総タンパク質含有量がもたらされると考えられる。実際には、この改変熱処理PPLは、工程a)のPPLの総タンパク質含有量の70%未満の総タンパク質含有量を有する。好ましくは、この総タンパク質含有量は工程a)のPPLの総タンパク質含有量の60%未満であり、特に50%未満である。この改変熱処理PPLの総タンパク質含有量は例えば4~6mg/mLである場合がある。
【0019】
本発明に係る熱処理はまた、様々な相対的タンパク質組成ももたらす場合がある。例えば、熱処理により、出発PPLの調製の最中に除去されなかった血漿由来フィブリノゲン及び血小板フィブリノゲンが除去され、フィブリノゲン含有量が低下している改変熱処理PPLがもたらされると思われる。
【0020】
有利には、改変熱処理PPLは、1.5mg/mL未満、好ましくは1mg/mL未満、より好ましくは0.5mg/mL未満、更により好ましくは0.1mg/mL~0.3mg/mLのフィブリノゲンを有する。更に、このPPLの成長因子含有量はまた、本発明に係る熱処理によっても変更されうる。例えば、これによりBDNF、bFGF、EGF及びHGFの濃度は、正常な新鮮PPL(PPLF)又は期限切れの(expired)PPL(PPLE)と比較して有意に相対的に減少するが、VEGF及びTGFβの濃度は実質的に変化しないままである。新鮮なPPLという用語は、採取から5日以内(期限切れではない)に処理された血小板濃縮物から調製された血小板ペレット溶解物を指す。期限切れのPPLという用語は、5日の保存を超えて処理された血小板濃縮物から調製された血小板ペレット溶解物を指す。
【0021】
一実施形態では、PPLF及びPPLEの両方から得られた改変血小板ペレット溶解物の成長因子中の相対的含有量(総タンパク質1mg当たりで表現される)は、BDNF、bFGF及びHGFに関しては有意に減少し、PDGF-AB及びEGFに関しては変化しないままであり、TGFβに関しては有意に増加する。VEGF及びPF4の含有量は、PPLFから得られた改変血小板ペレット溶解物の場合には変化しないままであり、PPLEから得られた改変血小板ペレット溶解物の場合には増加する。
【0022】
一実施形態では、改変熱処理PPLは、本発明の方法の工程a)のPPLのPF4含有量の50%超、好ましくは60%超、より好ましくは70%超のPF4含有量を有する。
【0023】
熱処理工程b)は、好ましくは55℃~60℃の温度で、より好ましくは約56℃の温度で実施することができる。神経保護及び神経回復の再現性に関する最も有望な結果は、約56℃で処理されたPPLの場合に実際に得られた。
【0024】
好ましい実施形態では、熱処理の持続時間は、約30分である。
【0025】
更に、PPLは、熱処理の後、精製する工程c)の前に好ましくは約2~5℃の温度まで少なくとも5分にわたり冷却することができる。
【0026】
熱処理PPLの精製は、当分野で公知の任意の方法(例えば遠心分離又はろ過)により実行することができる。
【0027】
遠心分離は、有利には、例えば9000×gから11000×gで少なくとも15分にわたり、約2~約6℃の温度で実行することができる。
【0028】
ろ過を使用する場合、熱処理PPLは、有利には、5μm~0.2μmの孔径を有するフィルターに通され、好ましくは、5μm~0.2μmの各孔径を有する、孔径が減少する一連の2つ以上の連続フィルターが使用される。
【0029】
有利には、工程c)での熱処理PPL溶解物の精製は、遠心分離により実行される。いかなる理論にも拘束されることを望まないが、本発明者らは、上記で説明した低温での遠心分離は、沈殿する低温不溶性成分(例えばフィブリノゲン)の更なる除去に寄与することができると考える。
【0030】
本発明の方法は、熱処理工程後に、-20℃~-85℃の、好ましくは-25℃~-50℃の、より好ましくは約-30℃の温度範囲で、工程c)で得られた改変熱処理PPLを凍結して保存する工程を更に含んでいてもよい。或いは、改変熱処理PPLは、保存する前に凍結乾燥させることができる。
【0031】
更なる実施形態では、本発明の方法は、工程c)の後に、任意選択の凍結又は凍結乾燥の前に、溶媒洗浄処理(S/D処理)若しくは低温殺菌(安定剤の存在下での10時間にわたる60℃での熱処理)等のウイルス不活性化の工程、及び/又は15、20若しくは35nmの専用のウイルスフィルター又は同等の病原体除去フィルターを使用したナノろ過によるウイルス若しくはプリオンの除去の工程を更に含む。そのため、得られた改変熱処理PPLは、ウイルス及びプリオンに関して安全である。用語「ウイルス不活性化」は、ウイルスは血小板ペレット溶解物中に維持されているが、例えばこのウイルスの脂質コートを溶解させることにより又はこのウイルスのビリオン構造を破壊することにより生育不能となっている状況を指す。
【0032】
用語「ウイルス除去」は、ウイルス(強固で大きなサイズの構造を有する)がフィルター上での保持により血小板ペレット溶解物から除去されるが、血小板ペレット溶解物成分はそのようなウイルス除去フィルターを通過して更なる処理36、37のために回収される状況を指す。
【0033】
工程a)で準備される出発血小板ペレット溶解物(PPL)を公知の方法に従って調製することができる38。この血小板ペレット溶解物を例えば下記のように調製することができる:
i.血小板濃縮物を準備する工程、
ii.前記血小板濃縮物を遠心分離して、血小板ペレット及び第1の上清を得る工程、
iii.この上清を除去し、このペレットを生理学的緩衝液に懸濁させる工程、
iv.前記懸濁ペレットを凍結解凍する工程、
v.工程iv)で得られた懸濁液を遠心分離して、血小板ペレット溶解物及び第2の上清を得る工程。
【0034】
工程i)で準備される血小板濃縮物を、自己の又は同種の血小板源から(具体的には全血から)適切で標準的な収集方法により又はアフェレーシス手順により得ることができ、血漿中に又は血漿と血小板との組み合わせの添加溶液中に又は血小板添加溶液のみに懸濁させることができる39。更に、この血小板濃縮物は白血球を減少させることができる。
【0035】
工程iii)で使用される適切な生理学的緩衝液は、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、HEPES緩衝液、Tris-HCl緩衝液若しくは酢酸ナトリウム緩衝液、又は生理食塩水である。
【0036】
本発明に係る方法の工程a)で使用される血小板ペレット溶解物(PPL)は新鮮なPPL(PPLF)又は期限切れのPPL(PPLE)であることができ、好ましくはPPLFであることができる。
【0037】
第2の態様では、本発明は、非熱処理PPLの総タンパク質含有量の、70%未満、60%未満、より好ましくは50%未満の総タンパク質含有量を有する改変熱処理PPLに関する。この改変熱処理PPLの総タンパク質含有量は例えば4~6mg/mLであることができる。本発明に係る改変熱処理PPLを、本明細書の上記で説明した方法により得ることができる。有利には、本発明の改変熱処理PPLは、1.5mg/mL未満、好ましくは1mg/mL未満、より好ましくは0.5mg/mL未満、更により好ましくは0.1mg/mL~0.3mg/mLのフィブリノゲンを有する。
【0038】
一実施形態では、本発明の改変熱処理PPLは、非熱処理PPLのPF4含有量の50%超、好ましくは60%超、より好ましくは70%超のPF4含有量を有する。
【0039】
上記で記載されたように、本発明の改変熱処理PPLは神経回復及び改善された神経保護活性をもたらす。
【0040】
そのため、第3の態様では、本発明は、生物学的製剤又は「生物療法」としての(特に神経学的障害及び好ましくは神経変性障害の処置及び/又は予防での)使用のための本発明に係る改変血小板ペレット溶解物に関する。換言すると、本発明はまた、神経学的障害を処置する及び/又は予防する方法であって、必要とする患者への本発明の改変血小板ペレット溶解物の治療上有効な量の投与を含む方法にも関する。好ましくは、この患者は温血動物であり、より好ましくはヒトである。
【0041】
本発明の意味における神経学的障害として下記が挙げられるがこれらに限定されない:神経変性障害;神経血管障害;神経炎症性障害;自閉症等の神経発達障害;脳傷害、例えば出産若しくは心停止の後の重度の低酸素症、又は重度の頭蓋傷害/外傷性の脳損傷、即ち、ハンディキャップにつながるニューロンの有意な喪失をもたらす重度の傷害。
【0042】
本発明の意味における神経変性障害として下記が挙げられるがこれらに限定されない:多発性硬化症(MS)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脳卒中、加齢性黄斑変性(AMD)、網膜の変性疾患、及び認知症(例えば、限定されないがアルツハイマー病(AD)、血管性認知症、前頭側頭型認知症、意味性認知症、レビー小体型認知症)。好ましい神経変性疾患は、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症である。
【0043】
好ましい実施形態では、この神経変性障害は、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症及びアルツハイマー病から選択される。特に好ましい実施形態では、この神経変性障害はパーキンソン病である。別の好ましい実施形態では、この神経変性障害は筋萎縮性側索硬化症である。
【0044】
好ましい他の神経学的障害として中枢神経系の傷害が挙げられ、例えば、出産若しくは心停止の後の重度の低酸素症、又は重度の頭蓋の外傷、即ち、ハンディキャップにつながるニューロンの有意な喪失をもたらす重度の傷害が挙げられる。この傷害の後の改変熱処理PPLによる初期の処置により、生理学的な神経回復能力及び神経新生能力が増強される可能性がある。
【0045】
改変熱処理PPLはそれ自体で投与されてもよいし、天然の又は合成されたナノ粒子40又はマイクロ粒子にカプセル封入されてもよいし、少なくとも1種の薬学的に許容される担体、希釈剤、添加剤及び/又はアジュバントを更に含む薬剤溶液に含まれてもよい。この薬剤溶液は、神経学的障害を寛解させることができる又は神経学的障害の処置において有益であることができる複合体、分子、ペプチド、塩、ベクター又は任意の他の化合物を更に含んでいてもよい。
【0046】
投与経路及び投与レジメンは当然のことながら、病気の重症度、患者の年齢、体重及び性別等に依存する。
【0047】
本発明の改変熱処理PPLをあらゆる患者の処置に使用することができ、特に、哺乳動物等の温血動物の処置に使用することができ、好ましくはヒトの処置に使用することができる。
【0048】
有利には、インビボ試験で実証されているように、本発明に係る改変熱処理PPLは脳投与に適している。具体的には、前記改変熱処理PPLは、髄腔内投与(例えば、脊髄の病理である筋萎縮性側索硬化症の場合)又は例えば右側脳室(好ましくは、改変血小板ペレット溶解物が第3の脳室に投与されうるように脳室内孔に閉じ込められている)への脳室内(ICV)投与に適している。例えば、この目的のためにALZETポンプ(Alzetから市販されている)等のポンプを使用することができる。
【0049】
本発明の改変熱処理PPLの投与を、当業者に既知の任意の他の方法(例えば鼻腔内投与、筋肉内投与若しくは眼内投与、又は器官の灌流若しくは注入(即ち、脳組織の一部の直接注入))により実施することもできる。
【0050】
投与に使用される曝露量は、様々なパラメータに応じて適合させることができ、具体的には、使用される投与様式、関連する病理又は処置の所望の持続時間に応じて適合させることができる。
【0051】
定義
下記の定義及び説明は、本明細書及び特許請求の範囲の両方を含む本出願全体を通して使用される用語に関する。
【0052】
「神経保護活性」又は「神経保護」は、神経毒の影響を受けていない神経細胞と比較した、神経毒の影響を受けた神経細胞の神経の構造及び/又は機能の保存を意味する。神経保護は、ニューロンの喪失を停止させることにより又は少なくとも遅延させることにより、疾患の進行及び二次的な傷害を予防すること又は遅延させることを目的とする。例えば、神経保護は、パーキンソン病の影響を受けていない患者と比較した、パーキンソン病の影響を受けた患者の線条体及び/又は黒質緻密部でのニューロンの数の保存を指す。
【0053】
「神経回復」は、損傷した神経活動の構造及び機能の回復の既存の変化及び刺激の補償を意味する。
【0054】
用語「患者」は、医療を待っている若しくは受けている又は医療処置の対象である若しくは対象となる温血動物(より好ましくはヒト)を指す。
【0055】
用語「ヒト」は、両方の性別及び発育の任意の段階(即ち、新生児、乳幼児、若年者、青年期、成人)での対象を指す。一実施形態では、ヒトは青年期又は成人であり、好ましくは成人である。
【0056】
用語「処置する」、「処置すること」及び「処置」は、本明細書で使用される場合、状態若しくは疾患及び/又はその付随する症状を軽減する又は抑制することを含むことを意図されている。
【0057】
用語「予防する」、「予防すること」及び「予防」は、本明細書で使用される場合、状態若しくは疾患及び/又はその付随する症状の発症を遅延させる若しくは防止する方法、患者が状態若しくは疾患を獲得するのを妨げる方法、又は患者が状態若しくは疾患を獲得するリスクを低減する方法を指す。
【0058】
用語「治療上有効な量」(又は単純に「有効な量」)は、本明細書で使用される場合、本発明の改変血小板ペレット溶解物が投与される個体で所望の治療効果又は予防効果を達成するのに十分な本発明の改変血小板ペレット溶解物の量を意味する。
【0059】
用語「投与」又はその異形(例えば「投与する」)は、本発明の変形型血小板ペレット溶解物を、単独で又は薬学的に許容される溶液の一部として、状態、症状又は障害を処置する又は予防する患者に与えることを意味する。
【0060】
本発明は、下記の実施例及び図面を参照することにより、より理解されるだろう。この実施例は、本発明の特定の実施形態を代表することを意図しており、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】アフェレーシス血小板濃縮物からの血小板溶解物及び血小板ペレット溶解物の調製の様式を示す図である。血小板溶解物(PL)を、血小板濃縮物(PC)の3回の凍結/解凍サイクルにより得た。血小板ペレット溶解物(PPL)の調製のために、血小板をペレット化して血漿を除去し、3回の凍結/解凍サイクルに供し、遠心分離して細胞残渣を除去した。アリコートを試験まで-80℃で凍結した。
【
図2】PL及びPPLのタンパク質キャラクタリゼーションを示す図である。
図2A:PL、PPL
F及びPPL
Eの総タンパク質含有量(mg/ml)の比較。
図2B、
図2C:それぞれPL及びPPLのゾーン電気泳動パターン。
図2D:非還元の及び還元のPPLのSDS-PAGEパターン。
図2E:PPLの2次元電気泳動パターン;pH3~10で等電点電気泳動分離を行なった。
【
図3】(PPL
F及びPPL
Eから)56℃(+)で熱処理した改変PPL並びに37℃(-)で処理したPPLのタンパク質キャラクタリゼーションを示すグラフである。
図3A:総タンパク質含有量(mg/ml);含有量を、PDGF-AB、BDNF、FGF、VEGF、EGF、HGF、THG-β及びPF4でのng/ml(
図3B)及びng/タンパク質mg(
図3C)で表す。
【
図4】改変熱処理PPL及び37℃で処理したPPLのタンパク質組成の比較を示す図である。37℃処理したPPL(対照PPL)又は45、56若しくは65℃で熱処理した改変PPLのフィブリノゲン及びvWFのウェスタンブロット分析(
図4A)並びに非還元条件及び還元条件下でのSDS-PAGEパターン(
図4B)。サイトカインアレイで測定した場合の、37℃で処理したPPL(対照)と比較した、56℃又は65℃で熱処理した改変PPLでのサイトカインの相対的変動。
【
図5】サイトカインアレイにより測定した、56又は65℃で熱処理した改変PPL中の様々なサイトカイン及びタンパク質の、37℃で処理したPPL(対照)と比較した相対的な増加又は減少を示す表である。データを平均及び標準偏差(SD)で表す。
【
図6】37℃で処理したPPL(対照)又は56若しくは65℃で熱処理した改変PPLのサイトカインアレイデータを示す写真である。データを平均及び標準偏差(SD)で表す。
【
図7】サイトカインアレイにより検出可能な、56℃で熱処理した改変PPLの、37℃で処理したPPL(対照)に対するサイトカインの増加及び減少の比を示すグラフである。
*p<0.05。
【
図8】サイトカインアレイにより検出可能な、65℃で熱処理した改変PPLの、37℃で処理したPPL(対照)に対するサイトカインの増加及び減少の比を示すグラフである。
*p<0.05。
【
図9】神経回復に対する改変熱処理PPLの効力を示すグラフである。
図9A:改変熱処理PPL(56℃)の添加前にメナジオンで処理したNSC-34細胞の生存率。説明文:PPL:改変熱処理PPL、m:メナジオン、m3h+PPL:改変熱処理PPLの添加前のメナジオンによる3時間の処理、m2h+PPL:改変熱処理PPLの添加前にメナジオンによる2時間の処理、m1h+PPL:改変熱処理PPLの添加前のメナジオンによる1時間の処理。
図9B:改変熱処理PPL(56℃)の添加前にスタウロスポリン(straurosporine)で処理したNSC-34細胞の生存率。説明文:PPL:改変熱処理PPL、STS:スタウロスポリン、STS3h+PPL:改変熱処理PPLの添加前のスタウロスポリンによる3時間の処理、STS2h+PPL:改変熱処理PPLの添加前のスタウロスポリンによる2時間の処理、STS1h+PPL:改変熱処理PPLの添加前のスタウロスポリンによる1時間の処理。
図9C:改変熱処理PPLの添加前にメナジオンで処理したNSC-34細胞の酸化ストレス。
【
図10】PPLによるLUHMESの処理の毒性及び神経保護効果の欠如を示すグラフである。
図10A:MPP+曝露なしに37℃で処理したPPL(PPL対照)の様々な濃度(0.1~5%)による処理。
図10B:30μMのMPP+への曝露前に1時間にわたる、1(0)、3、6及び7~10日(>6)内のPCから調製された2%PPLによる処理。
図10C:30μMのMPP+への曝露前の37℃で処理したPPL(PPL対照)の様々な用量(0.025~15%)による処理。データを、標準培地中で増殖し、MPP+に曝露されていないLUHMES細胞の生存率(100%)の%として表す。
【
図11】MPP+曝露前の45℃、56℃及び65℃で熱処理した0.5~15%の改変PPL又は37℃で処理したPPLによるLUHMES細胞の処理の神経保護効果を示すグラフ。37℃で処理したPPL(A)、又は45℃(B)、56℃(C)若しくは65℃(D)で熱処理した改変PPL。37℃で処理したPPL(対照)又は45、56若しくは65℃で熱処理した改変PPLの増加する用量でのLUHMES細胞の処理によりもたらされる神経保護の程度(E)。データを、標準培地中で増殖し、MPP+に曝露されていないLUHMES細胞の生存率(100%)の%として表す。
【
図12】MPTP中毒させたマウスでのPPLの神経保護効果を示すグラフである。+:示した条件対対照条件に関してp<0.05;*:示した条件対MPTP条件に関してp<0.05。
【発明を実施するための形態】
【実施例0062】
本明細書、図面及び特許請求の範囲の全体を通して下記の略語を使用する。
BAFF:B細胞活性化因子
BDNF:脳由来神経栄養因子
C5/C5a:補体成分5/活性化型;
CSF:脳脊髄液
Ctrl:対照
Dkk-1:Dickkopf WNTシグナル伝達経路阻害剤1
DPPIV:ジペプチジルペプチダーゼIV
EGF:上皮成長因子
EMMPRIN:細胞外マトリックスメタロプロテイナーゼ誘導因子
ENA-78:上皮由来好中球活性化ペプチド78
FGF:線維芽細胞成長因子
FGF-β:線維芽細胞成長因子-β
Fas L:fasリガンド
G-CSF:顆粒球コロニー刺激因子
GDF-15:成長分化因子15
HGF:肝細胞成長因子
IGFBP-2:インスリン様成長因子結合タンパク質-2
IL:インターロイキン
IP-10:インターフェロンタンパク質10
I-TAC:インターフェロン誘導性T細胞アルファ走化性因子
kDa:キロダルトン
LIF:白血病抑制因子
MCP:単球走化性サイトカイン(monocyte chemoattractant cytokine)
MCP-1:単球走化性サイトカイン1
M-CSF:単球コロニー刺激因子
MIF:遊走阻止因子
MIG:インターフェロンガンマ誘導性モノカイン
MIP-1a/1b:マクロファージ炎症性タンパク質
MIP-3a:マクロファージ炎症性タンパク質
MM:分子質量
MPP+:1-メチル-4-フェニルピリジニウム
MMP:マトリックスメタロプロテアーゼ
MMP-9:マトリックスメタロプロテアーゼ9
Neg Ctrl:陰性対照
PBS:リン酸緩衝生理食塩水
PC:血小板濃縮物
PDGF:血小板由来成長因子
PDGF-AB:血小板由来成長因子-AB
PDGF-AB/BB:血小板由来成長因子-AB/BB
PF4:血小板因子4
PL:血小板溶解物
PPL:血小板ペレット溶解物
PPLE:期限切れのPC由来の血小板ペレット溶解物
PPLF:期限切れではないPC由来の血小板ペレット溶解物
RANTES:活性化時に制御される正常T細胞の発現及び分泌(regulated on Activation Normal T cell Expressed and Secreted)
RAGE:高度糖化最終産物用のレセプター
RBP4:レチノール結合タンパク質4
SDS-PAGE:ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動
TGF-β:形質転換成長因子-β
TNF:腫瘍壊死因子。
SHBG:ステロイドホルモン結合グロブリン
ST2:インターロイキン1レセプター様1
TARC:胸腺及び活性化制御ケモカイン
TFF3:トレフォイル因子ファミリ3
TfR:トランスフェリンレセプター
uPAR:ウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベーターレセプター
VEGF:血管内皮成長因子
vWF:Von Willebrand因子
【0063】
材料及び方法
- 血漿及び血小板の採取
Institutional Review Board of Taipei Medical Universityが本研究を承認した(第201301020号)。血小板濃縮物をTaipei Blood Center(Guandu、Taiwan)から入手した。この血小板濃縮物を、ボランティアの健康なドナーからアフェレーシス(MCS+; Haemonetics社、Braintree、MA、USA)により得た、白血球が減少していない血小板濃縮物から採取した。血小板及び他の血液細胞の総数を、ABC Vet(ABX Diagnostics社、Montpellier、France)を使用して、既に説明されているように各寄贈について測定した。
【0064】
血小板濃縮物を22±2℃にて血小板撹拌器で保持した。
【0065】
採取から5日以内に処理した血小板濃縮物(期限切れではない)を使用してPPLF(「新鮮なPPL」)を調製し、5日の保存を超えているものを使用してPPLE(「期限切れのPPL」)を調製した。
【0066】
- 血小板ペレット溶解物の調製
血小板溶解物を無菌条件下で調製し、
図1で要約した。血漿中に懸濁させた治療グレードのアフェレーシス血小板濃縮物を使用して、-80/30℃±1℃での3回の凍結-解凍サイクル及び22±2℃での30分にわたる4500×gでの遠心分離によりペレット化して細胞残渣を除去することにより、血小板溶解物(PL)対照を調製した。本発明の方法の工程a)において出発物質として使用する血小板ペレット溶解物(PPL)を調製するために、血小板濃縮物(200~250mL)を遠心分離し(3000×g;30分;22±2℃)、血漿上清を注意深く除去し、ペレットの表面を無菌PBS 2mLで緩やかに洗浄した。PBS(最初のPC体積の10%)を添加し、この混合物を緩やかにピペッティングして血小板を懸濁させ、次いで3回の凍結-解凍サイクル(-80/30±1℃)に供し、遠心分離(4500×g;30分;22±2℃)により清澄化した。このPPLのアリコート(500μl)を、使用するまで-80℃で冷凍保存した。30分にわたる45、56、65±1℃での乾燥浴中における熱処理及び氷上での少なくとも5分間の冷却により、いくつかの熱処理PPLを調製し、次いで遠心分離した(10000×g;15分;4±2℃)。37±1℃で乾燥浴を使用して、同様の方法で対照PPLも調製した。次いで、上清(熱処理PPL又は37℃で処理したPPL)を-80℃で冷凍保存した。
【0067】
- 血小板ペレット溶解物のタンパク質組成、電気泳動プロファイル及びウェスタンブロット分析
様々なPPLの総タンパク質を、標準としてのウシ血清アルブミン(Thermo Fischer Scientific社、Waltham、MA、USA)及びナノドロップ(NanoDrop社; Wilmington、DE、USA)を使用するマイクロブラッドフォードアッセイで測定した。タンパク質ゾーン電気泳動及びリポタンパク質電気泳動を、SPIFE 3000(Helena社、Texas、USA;タンパク質試料0.5mLをロードする)を使用して実行した。既に説明されているように30、4%~12%勾配ゲル、試薬、Invitrogen社(Carlsbad、CA、USA)の電気泳動システム、及び予め染色したタンパク質分子量標準(Proteinラダー、Thermo社)を使用して、非還元条件下及び還元条件下でドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を実施した。
【0068】
2次元ゲル電気泳動のために、試料を最初に2-D Clean-upキット(GE Healthcare社、Little Chalfont、United Kingdom)を使用して脱塩し、pH 3~10勾配で等電点分画電気泳動(Ettan IPGphor 3、GE Healthcare社、Little Chalfont、United Kingdom)を実施し、4~12%ポリアクリルアミドゲルを使用してSDS-PAGEを実施した。タンパク質検出を、Protein Gel Fast Stain Solution染色(Strong Biotech社、Taipei、Taiwan)を使用して行なった。
【0069】
ウェスタンブロット分析を行なってフィブリノゲン及びvWFを検出した。簡潔に言うと、熱処理PPL試料を4×試料緩衝液(0.35M Tris(pH6.8)、10質量/体積%SDS、30体積/体積%グリセロール、0.6M DTT及び0.012質量/体積%ブロモフェノールブルー)と混合し、5分にわたり95℃まで加熱した。タンパク質をSDS-PAGEで分離し、続いて二フッ化ポリビニリデン(PVDF)膜に移した。この膜をTBS-0.1% Tween 20中の5%脱脂乳でブロックし、ウサギ抗ヒトフィブリノゲン抗体(GeneTex社、California、USA)及びウサギ抗ヒトVon Willebrand因子(vWF)抗体(Agilent's Dako社、California、USA)と共に順次インキュベートした。HRP-コンジュゲート二次抗体を使用し、続いて増強化学発光(ECL)検出(GeneTex社、California、USA)を使用した。
【0070】
- ELISA及びサイトカインアレイによる成長因子及びサイトカインの含有量
成長因子を、既に説明されているように31~33、供給業者の指示に従ってQuantikine ELISAキット(R&D Systems社、Minneapolis、MN、USA)を使用して3回の反復で測定した。
【0071】
血小板ペレット溶解物試料を、PDGF-AB測定のために500倍に希釈し(37℃で処理した試料及び56℃で処理した試料の両方);BDNFのために500倍及び50倍に希釈し(それぞれ37℃及び56℃);bFGFのために10倍に希釈する及び希釈せず(それぞれ37℃及び56℃);VEGFのために5倍に希釈し(37℃及び56℃の両方);EGFのために100倍に希釈し(それぞれ37℃及び56℃の両方);HGFのために希釈せず(37℃及び56℃の両方);TGF-βのために400倍に希釈し(37℃及び56℃の両方);PF4のために1×106倍に希釈した。希釈係数は、血小板溶解物に関してそれぞれ200倍、100倍、1倍、2倍、50倍、2倍、100倍及び1×105倍であった。
【0072】
TGF-β1測定のために、試料40μLを10分にわたり1N HCl 20μLで酸性化し、次いで1.2N NaOH/0.5M HEPES 20μLで中和した31。
【0073】
ヒトXLサイトカインアレイを使用して、製造業者の指示(R&D Systems社)に従って、56℃若しくは65℃で熱処理した又は熱処理していないPPL 150μgで2回の反復にて102個のサイトカイン/成長因子の相対含有量を検出した。Imagine Jソフトウェアを使用してシグナル強度を定量化した。
【0074】
- LUHMES細胞の維持及び分化
LUHMES細胞をDr. Scholzの研究室(University of Konstanz、Germany)から入手し、説明されているように培養した28。
【0075】
簡潔に言うと、未分化LUHMES細胞を、37℃で3時間にわたり水中の50μg/mLポリ-L-オルニチン及び1μg/mLフィブロネクチン(Sigma-Aldrich社、St. Louis、MO、USA)をプレコートしたNunclon(商標)(Nunc社、Roskilde、Denmark)プラスチック細胞培養フラスコ及びマルチウェルプレートを使用して増殖させた。このコーティング溶液の除去後、培養フラスコを無菌蒸留水で洗浄し、次いで空気乾燥させた。細胞を、加湿95%空気、5%CO2雰囲気下で37℃にて増殖させた。増殖培地は、1×N-2栄養補助剤(Invitrogen社、Karlsruhe、Germany)、2mM L-グルタミン(Gibco社、Rockville、MD、USA)及び40ng/mL組換えbFGF(R&D Systems社)を含有する改良型ダルベッコ改変イーグル培地(改良型DMEM)/F12であった。約80%のコンフルエンスに達した場合に、細胞を0.025%トリプシン溶液(Gibco社、Rockville、MD、USA)で解離させ、3×106個の細胞/フラスコで継代させた。神経細胞への分化を誘発するために、2×106個のLUHMESを播種し、24時間にわたり増殖培地中でT75フラスコ中に増殖させ、次いで1×N-2栄養補助剤、2mM L-グルタミン(Gibco社)、1mMジブチリルcAMP(Sigma-Aldrich社)、1μg/mLテトラサイクリン(Sigma-Aldrich社)及び2ng/mL組換えヒトGDNF(R&D Systems社)を含有する改良型DMEM/F12中で増殖させた。分化条件での培養の2日後、5日目の更なる実験のためにLUHMESを24ウェルプレートに培養した。
【0076】
- LUHMES細胞の神経毒刺激及び生存率アッセイ
分化した時点で(5日目)、細胞を1時間にわたり様々な濃度の血小板ペレット溶解物(0.025~15%;体積/体積)に曝露し、続いて30μM MPP+(Sigma-Aldrich社)に曝露した。細胞生存率をMTTで48時間後に評価した。
【0077】
この細胞培養培地にMTT(3-(4,5-ジメチル-2-チアゾリル)-2,5-ジフェニル-2H-テトラゾリウムブロミド)アッセイを0.5mg/ml(最終濃度)で添加した。37℃での1時間のインキュベーション後、この培地を除去し、生存細胞中に存在する紫色結晶を10分にわたる激しい振盪下にてDMSOで溶解させた。アリコートを96ウェルプレートに移し、570nm(バックグラウンド値として690nm)での吸光度を検出した。
【0078】
各条件を、対照をそれぞれ含有する2つの異なる細胞培養プレートを使用して2回の反復で評価した。データを、LUHMESがMPP+に曝露されていない対照条件と比較した生存率%で表した。
【0079】
- 改変熱処理PPL(56℃)により誘発される神経回復
分化を促すために、2日にわたり培養フラスコ中において0.5%FBS、4mM L-グルタミン、1%PS及び1μM all transレチノイン酸を補充した改良型DMEM/F12中で神経幹細胞(NSC-34)を増殖させた。次いで、細胞を、6時間にわたり、0.5%FSBを含む分化培養中において1つのウェル当たり3×104個の細胞の濃度にて24ウェルプレート中で播種した。次いで、この培地をFBSフリー分化培地と置き換えた。3日後、培地を、処理のためにレチノイン酸フリー分化培地に変更した。NSC-34細胞を1時間、2時間又は3時間にわたりメナジオン又はスタウロスポリン(STS)で最初に処理した後、合計で24時間にわたり改変熱処理PPLを添加(5%)した。細胞生存率及び酸化ストレスを、それぞれヨウ化プロピジウム及びヒドロエチジンを使用するフローサイトメトリーにより評価した。統計解析をノンパラメトリックマンホイットニー検定で行なった。
【0080】
- マウス1-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジンモデル(MPTP-マウスモデル)における定位固定手順及び血小板ペレット溶解物注入
全ての動物手順を、国内の及び国際的なガイドライン(1987年10月19日の法令87-848;French Ministry of Agriculture and Forestry, Veterinary Service for Animal Health and Welfare)に従って行なった。使用したマウスは5ヶ月齢であり、体重は28~30gであった。
【0081】
PPLを、マウスの脳脊髄液の推定量(40μL)の1%、2.5%、5%及び10%で注射した。
【0082】
脳カニューレを、必要な前後方向の及び側方向の定位座標(B-0.34mm、L+1mm、Paxinos及びWatson脳アトラスに従う)で挿入し、次いでアクリルセメントで頭蓋骨に固定した。
【0083】
Alzetポンプ(Durect社、Cupertino、CA、USA)を生理食塩水(対照)又は血小板ペレット溶解物で満たし、特定のカニューレに接続し、手術前に37℃で刺激した。ポンプ本体を、脳カニューレの挿入直前にマウスの背部に皮下挿入した。手術の2日後、マウスの一部をMPTPで急性的に中毒させた(2時間の間隔での20mg/kgのMPTPの4回の腹腔内注射)。血小板ペレット溶解物を7日(中毒後、5日)かけて連続的に注射し、マウスをこの実験の継続期間中の毒性の徴候に関して観察した。
【0084】
黒質中に存在するチロシンヒドロキシラーゼ陽性細胞の免疫染色及び計数により、血小板ペレット溶解物のあらゆる神経保護効果の予備評価を行なった。マウス麻酔、ホルムアルデヒド灌流、脳スライス切片、及び抗体とのインキュベーション、及びTH陽性ニューロンの計数を、既に説明されているように行なった34。
【0085】
- 統計分析
結果を平均±標準偏差(SD)で表す。データの正規分布を調べた後に、一方向ANOVAを使用して統計分析を実施した。非正規分布の場合にはウィルコクソン及びクラスカル-ウォリスのノンパラメトリックテキストを実施した。<0.05のP値を統計的に有意と見なした。
【0086】
結果
出発血小板濃縮物の血球の総数及び血小板溶解物のキャラクタリゼーション
血小板ペレット溶解物及び血小板溶解物を調製するために使用した血小板濃縮物は、1240±252×109個/Lの血小板、0.08±0.05×1012個/Lの赤血球及び0.5±0.2×109個/Lの白血球の平均総数を有した。
【0087】
PPLのタンパク質組成を最初にキャラクタライズした。PPL
F及びPPL
Eのタンパク質含有量(
図2A)(約11mg/ml)は有意には異なっておらず(p>0.05)、PLの場合(約65mg/ml)と比べてはるかに低かった(p<0.001)。
【0088】
PPL
F(
図2C)及び/又はPPL
E(図示せず)と比較したPL(
図2B)のゾーン電気泳動パターンは、アルブミン及びガンマ領域で、更にはアルファ1、アルファ2及びベータとして移動するタンパク質の割合が低いことを示し、アルブミン/ガンマ(A/G)は低かった(0.5対1.6)。
【0089】
PPL
FのSDS-PAGEパターン(
図2D)(及びPPL
E;図示せず)は、それぞれ非還元条件下及び還元条件下における約60、48及び15kDa並びに約68、48及び15kDaでの顕著なバンドを有する分子量の幅広い分布を有するタンパク質を示した。2D電気泳動パターン(
図2D)は、PPLが、血小板プロテオームの複雑さと一致する複数の成分で構成されていることを示した。
【0090】
そのため、このキャラクタリゼーションは、血小板ペレット溶解物が血小板溶解物と比較して特有のタンパク質組成を有することを示した。
【0091】
熱処理によりタンパク質の含有量が変更される
血小板ペレット溶解物を最初に30分にわたり56℃で処理して、本発明に係る改変熱処理PPLを得た。
【0092】
熱により、正常なPPL
F、PPL
E及びPL対照(p<0.001)と比べて熱処理したPPL
E(p<0.01)及びPPL
F(p<0.001)の両方で有意に低い上清中の総タンパク質含有量(
図3A)をもたらすタンパク質沈殿が誘発された。
【0093】
成長因子の含有量は、ELISAで測定した場合に(
図3B)又はタンパク質1mg当たりで表した場合に(
図3C)、熱により差次的に影響を受けた。
【0094】
PDGF-AB、BDNF、bFGF、EGF及びHGFの濃度は、それぞれの非熱処理PPLF又はPPLEと比較して劇的に減少した(p<0.001)が、VEGF、TGF-β及びCXCL4/PF4(PPLE)に関する有意な差異はなかった。
【0095】
熱処理したPPLF中の及びPPLE中の(即ち、改変熱処理PPL中の)成長因子の相対的含有量(総タンパク質1mg当たりで表す)は、BDNF、bFGF及びHGFに関しては有意に減少し(p<0.001)、PDGF-AB、VEGF(PPLF中)及びEGFに関しては変化しないままであり(p>0.05)、VEGF(PPLE中)、TGF-β及びPF4に関しては有意に増加した(p<0.001)。
【0096】
45、56及び65℃での熱処理の影響を、非還元PPL又は還元PPLのSDS-PAGEプロファイルで調べた(
図4B)。
【0097】
56℃及び65℃での熱処理は、様々な分子量のタンパク質の除去を特徴とするタンパク質組成の大きな変化をもたらした。ウェスタンブロット分析(
図4A)は、56℃及び65℃での熱処理により血小板由来フィブリノゲン(約270kDaのMM)が除去されたがvWFは比較的影響を受けないままであることを示した。
【0098】
56℃又は65℃で熱処理した改変PPL中のサイトカインと37℃で処理したPPL(対照)とを比較するアレイは、PDGF-AA、PDGF-AB/BB及びアディポネクチン等のいくつかのPPL成分の相対的富化(
図4C、
図5及び
図6)並びにBDNF、EGF及び他のものの相対的貧化を明らかにした。更に、56℃又は65℃で熱処理した改変PPLの37℃で処理したPPLに対するサイトカイン比は、内容物の相対的変動を示した。
【0099】
実際には、56℃で加熱処理した改変PPLの37℃で処理したPPLに対する比は、リポカリン-2、アディノペクチン及びC-反応性タンパク質の相対的含有量は増加したが補体因子D、ENA-78、BDNF、アンジオポエチン-1及びエンドグリンの相対的含有量は減少することを示す(
図7)。
【0100】
65℃で熱処理した改変PPLの37℃で処理したPPLに対する比はリポカリン-2、アディノペクチン、PDGF-AA及びPDGF-AB/BBの相対的含有量の増加を示すが、補体因子D、ENA-78、BDNF、アンジオポエチン-1、エンドグリン、Dkk-1、CD14、C-反応性タンパク質、EGF、トロンボスポンジン-1、RANTES、RBP4、ビタミンD及びアンジオゲニンの相対的含有量は減少する(
図8)。
【0101】
血小板ペレット溶解物はLHUMES細胞の生存率を保護し、MPP+の前に添加された場合に有意な神経保護活性を発揮し、熱処理は血小板ペレット溶解物の神経保護活性を改善する。
インビトロでのPPL神経保護能力を更に証明するために、LUHMES細胞に対する0.1~5%(体積/体積)PPLの毒性の欠如(
図10A)を最初に確認した。
【0102】
図10Bは、2%のPPL
F及びPPL
Eによる細胞の1時間前処理が、MTTアッセイにより明らかなように30μMのMPP+に対して非常に有意な(P<0.001)保護を発揮したことを示す。
【0103】
様々な用量のPPL
F(0.025~15%)で処理した場合には用量応答効果を観測し、最大の神経保護が2%PPL
F処理で達成された(
図10C)。
【0104】
従って、PPLF及びPPLEの両方がMPP+神経毒攻撃からLUHMES細胞を保護する。
【0105】
神経保護活性に関して、0.5~15%のPPL、37℃で処理したPPL(
図11A)又は45℃(
図11B)、56℃(
図11C)若しくは65℃(
図11D)で熱処理した改変PPLは、0.5%という低い濃度であっても非常に有意な神経保護活性を維持した。56℃での熱処理により、より低い用量で細胞生存率が改善された。56℃又は65℃にて0.5%用量の改変熱処理PPLで処理したLUHMES細胞は、37℃で処理した0.5%のPPL(対照)で処理したLUHMES細胞と比べて良好な生存率を示す。この定性的改善も、56℃及び65℃での15%用量の熱処理PPLにより観測した。
【0106】
様々な用量のPPLによる神経保護を比較する
図11Eは、最高温度(56℃及び65℃)で処理したPPLの場合に効力が0.5~15%の範囲で類似していることを示す。
【0107】
対照的に、用量応答効果は非熱処理PPL又は45℃で加熱したPPLのみで見られ、このことは、より低い投与量(0.5%)での効力の欠如、又はタンパク質過負荷に起因するであろう、より高い投与量(10~15%)での毒性若しくは阻害効果を示唆する。
【0108】
マウスでの血小板ペレット溶解物の脳室内注入は急性毒性を誘発せず、神経保護及び神経回復をもたらした。
37℃で処理したPPL及び本発明に係る改変熱処理PPLのICV注射の可能性を検証するための実験は、4つの選択した投与量(1%、2.5%、5%及び10%)にて明らかな悪影響はないことを示した。この実験の1週間の持続時間にわたりPPL注入後に即時の検出可能な毒性効果はなかった。この手順と関連する死亡率は低かった(10匹の動物中1匹)。
【0109】
サイトメトリー分析は、NSC-34細胞の生存率が神経毒メナジオン又はスタウロスポリンへの曝露から1時間後、2時間後又は3時間後に改変熱処理PPLによる処理でほぼ完全に回復されることを証明した(
図9A及び
図9B)。これらの結果は、本発明に係る改変熱処理PPLが神経回復を誘発することを示す。酸化ストレスの評価は、これらの結果を裏付ける。実際には、メナジオン処理により誘発される酸化ストレス(対照のパーセンテージで表した+1200%)は、本発明に係る改変熱処理PPLによる処理後に正常値近くまで減少した(
図9C)。黒質中でのTH陽性ニューロンの検出及び計数(
図12)は、対照のビヒクル溶液(Veh)と比較してMPTPの有意な(p<0.05)神経毒効果を予想通りに証明した。5又は10%PPLのみでは、TH陽性細胞の数に有意な効果はなかった。興味深いことに、本発明者らは、10%がMPTPに対して強くて有意な(p<0.05)神経保護効果を示すことを観測した。そのため、PPLのICV注入は、総CFS体積の少なくとも10%までの用量で安全であるように見え、MPTP中毒に対する神経保護をもたらした。
【0110】
神経毒メナジオン又はスタウロスポリンへの1時間、2時間又は3時間の曝露後のNSC-34細胞の処理もまた、37℃で処理したPPLで実行した。この実験の結果は、神経保護が得られるが、上記で説明した改変熱処理PPLでの処理と比較して20%低いことを示す(
図9A及び
図9Bを参照されたい)。
【0111】