(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180685
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】水素除去装置、原子力発電プラント、および水素除去方法
(51)【国際特許分類】
G21C 9/06 20060101AFI20221130BHJP
C01B 3/00 20060101ALI20221130BHJP
G21D 3/08 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
G21C9/06
C01B3/00 Z
G21D3/08 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087292
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】矢野 資
(72)【発明者】
【氏名】滝井 太一
(72)【発明者】
【氏名】木藤 和明
(72)【発明者】
【氏名】富永 和生
(72)【発明者】
【氏名】松崎 隆久
(72)【発明者】
【氏名】浜田 克紀
【テーマコード(参考)】
4G140
【Fターム(参考)】
4G140AB03
(57)【要約】
【課題】水素除去の速度を低下させることなく、かつ、熱暴走を回避しながら水素を安全に除去することが可能な水素除去装置、原子力発電プラント、および水素除去方法を提供する。
【解決手段】水素含有ガスから水素を除去する水素除去装置51は、水素含有ガスが通過する筐体3内に2種以上の金属酸化物からなる顆粒1,2が充填されており、金属酸化物は、少なくとも一つは水素との反応が発熱反応のものであり、かつ少なくとも一つは水素との反応が吸熱反応のものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素含有ガスから水素を除去する水素除去装置であって、
前記水素含有ガスが通過する筐体内に2種以上の金属酸化物からなる顆粒が充填されており、
前記金属酸化物は、少なくとも一つは前記水素との反応が発熱反応のものであり、かつ少なくとも一つは前記水素との反応が吸熱反応のものである
ことを特徴とする水素除去装置。
【請求項2】
請求項1に記載の水素除去装置において、
前記発熱反応となる前記金属酸化物と前記吸熱反応となる前記金属酸化物との充填比率が、前記反応における発熱量と吸熱量とが等しくなるように決定されたものである
ことを特徴とする水素除去装置。
【請求項3】
請求項1に記載の水素除去装置において、
前記発熱反応となる前記金属酸化物が、酸化銅と酸化鉛のうちの1つ以上を含む
ことを特徴とする水素除去装置。
【請求項4】
請求項1に記載の水素除去装置において、
前記吸熱反応となる前記金属酸化物が、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化スズのうちの1つ以上を含む
ことを特徴とする水素除去装置。
【請求項5】
請求項1に記載の水素除去装置において、
前記発熱反応となる前記金属酸化物が酸化銅であり、かつ、前記吸熱反応となる前記金属酸化物が酸化鉄である
ことを特徴とする水素除去装置。
【請求項6】
請求項5に記載の水素除去装置において、
前記酸化銅の充填質量が、前記酸化鉄の充填質量の0.58倍以上である
ことを特徴とする水素除去装置。
【請求項7】
請求項5に記載の水素除去装置において、
前記酸化銅の平均直径が30mm以下である
ことを特徴とする水素除去装置。
【請求項8】
請求項6に記載の水素除去装置において、
前記酸化鉄の平均直径が前記酸化銅の平均直径の5分の1以下である
ことを特徴とする水素除去装置。
【請求項9】
請求項5に記載の水素除去装置において、
前記酸化銅または前記酸化鉄のうち少なくとも一方が、短径が長径の3分1以下の扁平形状である
ことを特徴とする水素除去装置。
【請求項10】
請求項5に記載の水素除去装置において、
前記筐体は、
前記酸化銅の顆粒の充填比率が前記酸化鉄の充填比率より高い第1領域と、
前記酸化鉄の顆粒の充填比率が前記酸化銅の充填比率より高い第2領域と、を有する
ことを特徴とする水素除去装置。
【請求項11】
請求項10に記載の水素除去装置において、
前記第1領域と前記第2領域とのいずれを前記水素含有ガスの流れの上流とするかを選択するバルブを更に備えた
ことを特徴とする水素除去装置。
【請求項12】
請求項1に記載の水素除去装置において、
前記筐体の前記水素含有ガスの流れ方向の上流側と下流側との少なくともいずれか一方に配置された送気装置を更に備えた
ことを特徴とする水素除去装置。
【請求項13】
請求項1に記載の水素除去装置において、
前記筐体内の水を排出するドレイン用配管を更に備えた
ことを特徴とする水素除去装置。
【請求項14】
請求項1に記載の水素除去装置を備えた
ことを特徴とする原子力発電プラント。
【請求項15】
水素含有ガスから水素を除去する方法であって、
少なくとも一つは前記水素との反応が発熱反応の金属酸化物の顆粒、および少なくとも一つは前記水素との反応が吸熱反応の金属酸化物の顆粒を充填した筐体内を前記水素含有ガスを通過させる
ことを特徴とする水素除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は安全性に対応した水素除去装置、原子力発電プラント、および水素除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反応材からの酸素遊離を抑えつつ被処理ガスに含まれる水素をスムーズに処理し、反応熱に起因する熱損傷を低減可能な水素除去装置の一例として、特許文献1には、水素除去装置は、導入されたガスが水素と反応する反応材で構成される反応部を通過することで、ガスに含まれる水素を除去する装置であって、この反応部を内包する筐体と、この筐体にガスを導入する入口部と、筐体に導入されて反応部を通過したガスを前記筐体外へ導く出口部と、を備え、反応材は、水素と反応する物質で構成される純粋反応材に、形態を安定化させるとともに水素と反応しない結合材を添加して構成される加工反応材である、ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
原子力発電プラントにおいて、原子炉をより安全に運転するためには、平常時であれ事故時であれ、炉内で発生した水素を除去する必要がある。
【0005】
特に、原子炉圧力容器内に配置された炉心が溶融し水蒸気だけでなく水素が発生するような事態が万が一の確率で発生した場合でも、水素爆発を回避して原子力発電プラントの安全性を確保するために、水素を安定して除去する必要がある。
【0006】
そのための技術の一環として、金属酸化物、具体的には、酸化銅の顆粒を充填した容器を設置し、容器に水素含有ガスを流入させて水素を酸化銅と反応させ、気体または液体の水に変換することで水素を除去することが知られている。
【0007】
しかし、水素と酸化銅との反応は発熱反応であるため、水素除去時に温度が上昇し、温度上昇により反応が加速され、温度上昇と反応加速の繰り返しにより熱暴走する懸念があることも知られている。
【0008】
この熱暴走を防ぐためのひとつの方法は、特許文献1に示されるように、水素と反応しないダミー顆粒を使用する方法があるが、この方法では水素除去の速度を低下させることになる。
【0009】
本発明は、水素除去の速度を低下させることなく、かつ、熱暴走を回避しながら水素を安全に除去することが可能な水素除去装置、原子力発電プラント、および水素除去方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、水素含有ガスから水素を除去する水素除去装置であって、前記水素含有ガスが通過する筐体内に2種以上の金属酸化物からなる顆粒が充填されており、前記金属酸化物は、少なくとも一つは前記水素との反応が発熱反応のものであり、かつ少なくとも一つは前記水素との反応が吸熱反応のものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水素除去の速度を低下させることなく、かつ、熱暴走を回避しながら水素を安全に除去することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】本発明の実施例2の水素除去装置の他の概略図。
【
図6】本発明の実施例4の水素除去装置の他の概略図。
【
図8】本発明の実施例6の水素除去装置に充填される顆粒の概略図。
【
図9】本発明の実施例7の水素除去装置を設置した原子力発電プラントのプラント構成例を示す図。
【
図10】実施例7の水素除去装置を設置した原子力発電プラントのプラント構成の他の例を示す図。
【
図11】実施例7の水素除去装置を設置した原子力発電プラントのプラント構成の更に他の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の水素除去装置、原子力発電プラント、および水素除去方法の実施例を、図面を用いて説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0014】
<実施例1>
本発明の水素除去装置、および水素除去方法の実施例1について
図1を用いて説明する。
【0015】
最初に、水素除去装置の全体構成について
図1を用いて説明する。
図1は実施例1の水素除去装置の概略図である。
【0016】
本実施例1の水素除去装置51は、
図1に示すように、酸化銅顆粒1と酸化鉄顆粒2の混合物10が、メッシュ4とメッシュ5により端部が構成される円筒状の筐体3に充填されたものである。この水素除去装置51では、水素を含むガス(以下では、水素含有ガスと記載する)がメッシュ4から注入され、水素除去処理済のガスがメッシュ5から排出されるものである。
【0017】
水素含有ガスが通過する筐体3内に充填されている混合物10は、2種以上の金属酸化物からなる顆粒1,2として、例えば、酸化銅顆粒1と酸化鉄顆粒2とが選択される。
【0018】
次いで、実施例の水素除去装置51の作用を説明する。
【0019】
酸化銅顆粒1を構成する酸化銅と水素が反応するのは温度が230℃を超えたときであり、酸化鉄顆粒2を構成する酸化鉄が水素と反応するのは温度が300℃を超えたときである。
【0020】
そのため、本実施例の水素除去装置51に水素含有ガスを透過させたときの作用は温度によって異なったものとなる。温度領域ごとに水素除去装置51の作用を説明する。
【0021】
水素除去装置51の筐体3内に流入する水素含有ガスの温度が230℃未満のときでは、酸化銅および酸化鉄のいずれも水素と反応せず、水素含有ガスから水素は除去されない。
【0022】
流入する水素含有ガスの温度が230℃を超え、かつ300℃未満の場合は、水素と酸化銅とが発熱反応を起こし、温度上昇を伴って水素が除去され、処理済ガスとして排出される。この場合の反応は、
2CuO+H2→Cu2O+H2O (1a)
Cu2O+H2→2Cu+H2O (1b)
または、これら反応(1a)と反応(1b)とが連続に起こるものである。反応(1a)と反応(1b)が連続して起こった場合の反応をまとめて表すと、
CuO+H2→Cu+H2O (1)
となる。
【0023】
なお、酸化銅顆粒1を構成する反応前の酸化銅はCuOであってもCu2Oであっても水素の除去は可能である。ただし、反応前の酸化銅をCuOとすると、反応(1a)によりCuOからCu2Oが生成し、さらに、反応(1b)によりCu2OからCuが生成する場合に、最も多くの水素の除去が期待できる。
【0024】
次いで、反応(1a)または反応(1b)の発熱により水素含有ガスの温度が300℃を超えた場合、若しくは、メッシュ4から流入する水素含有ガス自体の温度が300℃を超えた場合について説明する。
【0025】
水素含有ガスの温度が300℃を超えると、発熱反応(1a)や発熱反応(1b)とともに、水素と酸化鉄との吸熱反応が始まる。この場合の酸化鉄と水素の反応は、
3Fe2O3+H2→2Fe3O4+H2O (2a)
Fe3O4+H2→3FeO+H2O (2b)
FeO+H2→Fe+H2O (2c)
または、これら3種の反応のふたつ以上が連続に起こるものである。反応(2a)、反応(2b)および反応(2c)が連続して起こった場合の反応をまとめて表すと、
F2O3+3H2→2Fe+3H2O (2)
となる。
【0026】
上述の発熱反応(1a)や反応(1b)と吸熱反応(2a)、反応(2b)反応(2c)が同時に進み、熱の発生と吸収が相殺しながら水素が除去され、処理済ガスとして排出される。
【0027】
なお、酸化鉄顆粒2を構成する反応前の酸化鉄はFe2O3、Fe3O4、FeOのいずれであっても水素の除去は可能である。ただし、反応前の酸化鉄をFe2O3とし、反応(2a)によりFe2O3からFe3O4が生成し、反応(2b)によりFe3O4からFeOが生成し、反応(2c)によりFeOからFeが生成する場合に、最も多くの水素が除去できる。
【0028】
次いで、酸化銅顆粒1と酸化鉄顆粒2との筐体3への比率などについて説明する。
【0029】
本実施例では、酸化銅の反応の発熱と酸化鉄の反応の吸熱を相殺させることにより熱暴走を回避するため、発熱反応となる酸化銅顆粒1と、吸熱反応となる酸化鉄顆粒2との筐体3への充填比率を、反応における発熱量と吸熱量とが等しくなるように決定することが望ましい。
【0030】
以下では、酸化銅と酸化鉄の両方が全て反応するとして、発熱量と吸熱量が相殺するときの酸化銅と酸化鉄の比率を求める。
【0031】
【0032】
ここで、表1に示すように、酸化銅の反応(1)の発熱量は85.8kJ/mol、酸化鉄の反応(2)の吸熱量は-100kcal/molである。そのため、発熱量と吸熱量を厳密に相殺させるには、酸化銅と酸化鉄とのモル比は100:85.8とすればよいことになる。
【0033】
ここで、酸化銅と酸化鉄とのモル比を質量比に換算する。酸化銅のモル質量が79.55g/mol、酸化鉄のモル質量が159.69g/molなので、発熱と吸熱が相殺するときの酸化銅と酸化鉄との質量比は、100×79.55:85.8×159.69=0.58:1である。つまり、発熱と吸熱とが釣り合うときの酸化銅の質量は酸化鉄の質量の0.58倍のときである。
【0034】
酸化銅と酸化鉄との両方が全て反応するとして、酸化銅の質量は酸化鉄の質量の0.58倍と算出した。しかし、温度が230℃を超え300℃未満のとき酸化鉄は反応せず酸化銅だけが反応するため、酸化銅の消耗は酸化鉄より進行が速いことが考えられる。そのため、酸化銅の質量は酸化鉄の質量の0.58倍以上であることが望ましい。
【0035】
なお、顆粒1,2は、いずれか一方は水素との反応が発熱反応のものであり、もう一方は水素との反応が吸熱反応のものであればよく、酸化銅と酸化鉄との組み合わせに限定されない。例えば、表1に示すように、発熱反応となる金属酸化物は、酸化銅の替わりに、あるいは加えて酸化鉛を選択することができる。また、吸熱反応となる金属酸化物は、酸化鉄に変えて、あるいは加えて酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化スズのうちの1つ以上を含むことができる。
【0036】
いずれの元素からなる金属酸化物を用いる場合にも、発熱反応となる顆粒と吸熱反応となる顆粒との筐体3への充填比率は、反応における発熱量と吸熱量とが等しくなるように決定することが望ましく、初滅量と吸熱量とが等しくなる要素のモル比を調節することが望ましい。
【0037】
また、充填する顆粒は、酸化銅顆粒1であれ、酸化鉄顆粒2であれ、顆粒を小さくすると、顆粒の表面積が増加し反応は速くなる。そのため、本実施例の酸化銅顆粒1の平均粒径は30mm以下とした。なお、本明細書において、「平均粒子径」は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
【0038】
また、水素との反応速度は酸化鉄より酸化銅のほうが高いため、酸化銅顆粒1と酸化鉄顆粒2の直径が同じ場合は発熱量が吸熱量を大きく上回る恐れがあり、温度の上昇が想定より早まる恐れがある。これを回避するために、第1の実施例では、酸化鉄顆粒2の直径を酸化銅顆粒1の直径の1/5以下、望ましくは、1/10以下とすることが望ましい。
【0039】
このように、筐体3に充填する顆粒1,2の平均粒径は反応速度の遅いほうを小さくすることが望ましい。また、顆粒1,2の平均粒径はバラツキが小さいほうが充填効率の観点で望ましい。
【0040】
なお、酸化鉄顆粒2の直径を酸化銅顆粒1の直径の1/5以下にすることには、酸化銅と酸化鉄の反応速度を釣り合わせる効果があることを述べたが、副次的な効果もある。副次的な効果は、大きな顆粒1どうしの隙間に小さな顆粒2が入り、同一体積の筐体3内により多くの金属酸化物顆粒を充填できることである。つまり、水素除去装置51の体積を増やすことなく、水素の除去速度を向上することができる。
【0041】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0042】
上述した本発明の実施例1の水素含有ガスから水素を除去する水素除去装置51は、水素含有ガスが通過する筐体3内に2種以上の金属酸化物からなる顆粒1,2が充填されており、金属酸化物は、少なくとも一つは水素との反応が発熱反応のものであり、かつ少なくとも一つは水素との反応が吸熱反応のものである。
【0043】
これにより、反応による吸熱と発熱との一方に偏らずに済み、好適には発熱と吸熱とが釣り合うため、温度上昇に起因した熱暴走を回避して安定して高い効率で水素含有ガスから水素を除去することができる。
【0044】
また、発熱反応となる金属酸化物と、吸熱反応となる金属酸化物との充填比率を、反応における発熱量と吸熱量とが等しくなるように決定するため、より確実に熱暴走を回避して、安定した水素除去を実現することができる。
【0045】
<実施例2>
本発明の実施例2の水素除去装置、および水素除去方法について
図2および
図3を用いて説明する。
図2および
図3は本実施例2の水素除去装置の概略図である。
【0046】
本実施例2では、
図2に示すように、水素除去装置51Aの筐体3Aに仕切り3A1が設けられており、その内側が2つの領域に分けられている。また、筐体3Aは、メッシュ5側の端部が閉じられている。
【0047】
そのうち一方の領域には酸化銅顆粒比率の高い混合物11が充填されており、酸化銅の顆粒1,2の充填比率が酸化鉄の充填比率より高い第1領域が形成される。
【0048】
また、もう一方の領域には酸化鉄顆粒比率の高い混合物12が充填されており、酸化鉄の顆粒1,2の充填比率が酸化銅の充填比率より高い第2領域が形成される。
【0049】
本実施例の水素除去装置51Aにおける水素含有ガスの流入経路は、酸化銅顆粒比率の高い混合物11、酸化鉄顆粒比率の高い混合物12の順に通過する。
【0050】
この場合、水素含有ガスの温度が230℃以上のとき、第1領域の酸化銅顆粒比率の高い混合物11の部分で水素と酸化銅とが反応し、水素が除去される。この際、第1領域での水素と酸化銅の発熱反応により、水素含有ガスの温度が300℃を超えると、第2領域の酸化鉄顆粒比率の高い混合物12の部分に流入して水素と酸化鉄とが反応し、吸熱を伴い、水素が除去される。
【0051】
このように、水素除去装置51Aに流入する水素含有ガスの温度が300℃未満であっても、第1領域の主体である酸化銅で加熱されることにより流入ガスの温度上昇が期待でき、300℃以上になれば、第1領域に加えて第2領域でも酸化銅と酸化鉄の両方が水素と反応するため、より多くの水素が除去可能である。つまり、本実施例は実施例1の水素除去装置51に比べて低温の水素含有ガスの処理により適している。
【0052】
ここで、筐体3Aの仕切り3A1は、水素含有ガスの流れの方向が酸化銅顆粒比率の高い混合物11で上昇、酸化鉄顆粒比率の高い混合物12で下降となるように配置される。この流れの方向は自然対流を有効に活用したものである。つまり、酸化銅顆粒比率の高い混合物11の部分では発熱反応により水素含有ガスが加熱されて浮上し、酸化鉄比率の高い混合物12の部分では、吸熱反応により水素含有ガスが冷却されて沈降することを利用している。
【0053】
ただし、水素含有ガスが、先に酸化銅顆粒比率の高い混合物11を通過し、後に酸化鉄顆粒比率の高い混合物12を通過すればよく、自然対流を利用しなくても、
図2に示す形態に比べると若干の水素処理能力の低下はあるものの、従来に比べて水素を高い効率で安定して除去することができる。
【0054】
また、
図3に示すように、水素除去装置51Bの筐体3Bに仕切り3B1が設けられており、筐体3Bのメッシュ4側の端部が閉じられているものとすることができる。
【0055】
この水素除去装置51Bでは、水素含有ガスの流入経路は、
図2に示した水素除去装置51Aとは逆に、酸化鉄顆粒比率の高い混合物12、酸化銅顆粒比率の高い混合物11の順に通過する、という2つの領域に分けられているものとしてもよい。
【0056】
この場合、水素含有ガスの温度が300℃を超えるとき、酸化鉄粒比率の高い混合物12の第2領域の部分で水素と酸化鉄とが反応して水素が除去される。また、第2領域での吸熱反応によって酸化銅顆粒比率の高い混合物11の入り口での水素含有ガスの温度が300℃以下となっても、酸化銅顆粒比率の高い混合物11の部分に流入し水素と酸化銅とが反応し水素が除去される。このため。酸化鉄と酸化銅の両方が水素と反応するため、より多くの水素が除去可能である。
【0057】
また、
図3に示す水素除去装置51Bでは、水素含有ガスは、筐体3Bに流入した直後に酸化鉄と水素との反応により冷却されるため、高温の水素含有ガスの処理により適した構造となっている。
【0058】
図3に示す水素除去装置51Bでは、水素含有ガスの流れの方向が、酸化鉄顆粒比率の高い混合物12で下降、酸化銅顆粒比率の高い混合物11で上昇となっている。この流れの方向は自然対流を有効に活用したものである。つまり、酸化鉄比率の高い混合物12の部分では、吸熱反応により水素含有ガスが冷却されて沈降し、酸化銅顆粒比率の高い混合物11の部分では発熱反応により水素含有ガスが加熱されて浮上することを利用している。
【0059】
ただし、水素含有ガスが、酸化鉄顆粒比率の高い混合物12、酸化銅顆粒比率の高い混合物11の順に通過すればよく、自然対流を利用しなくても、
図3に示す形態に比べると若干の水素処理能力の低下はあるものの、従来に比べると高い効率で安定した水素の除去が可能である。
【0060】
なお、
図2に示す水素除去装置51A、
図3に示す水素除去装置51Bのいずれにおいても、第1領域の酸化銅顆粒比率の高い混合物11は酸化銅のみであってもよいし、第2領域の酸化鉄顆粒比率の高い混合物12は酸化鉄のみであってもよい。
【0061】
また、本実施例においても、顆粒1,2は、いずれか一方は水素との反応が発熱反応のものであり、もう一方は水素との反応が吸熱反応のものであればよく、酸化銅と酸化鉄との組み合わせに限定されない。
【0062】
その他の構成・動作は前述した実施例1の水素除去装置51、および水素除去方法と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0063】
本発明の実施例2の水素除去装置51A,51B、および水素除去方法においても、前述した実施例1の水素除去装置51、および水素除去方法とほぼ同様な効果が得られる。
【0064】
また、筐体3A,3Bは、酸化銅の顆粒1,2の充填比率が酸化鉄の充填比率より高い第1領域と、酸化鉄の顆粒1,2の充填比率が酸化銅の充填比率より高い第2領域と、を有することにより、一律の水素除去ではなく、流入する水素ガスの状態に応じた水素除去が可能となる。
【0065】
<実施例3>
本発明の実施例3の水素除去装置、および水素除去方法について
図4を用いて説明する。
図4は実施例3の水素除去装置の概略図である。
【0066】
実施例3では、
図4に示すように、実施例2の水素除去装置51A、51Bと同様に水素除去装置51Cの筐体3Cを仕切り3C1により内側の空間が2分割されており、第1領域となる空間3C2側に酸化銅顆粒比率の高い混合物11を、第2領域となる空間3C3内に酸化鉄顆粒比率の高い混合物12が充填されている。
【0067】
また、筐体3Cはメッシュ4,5側のいずれの端部も閉じられたボックス形状である。また、空間3C2の鉛直上方側の配管27C1や鉛直下方側の配管27C4、空間3C3の鉛直上方側の配管27C3や鉛直下方側の配管27C6がそれぞれ接続されている。更に、配管27C1と配管27C3とを接続する配管27C2、配管27C4と配管27C6とを接続する配管27C5が接続されている。
【0068】
さらに、これらの配管27C1,27C2,27C3,27C4,27C5,27C6の各々のライン上にバルブ21,22,23,24,25,26がそれぞれ設けられている。
【0069】
その上で、6つのバルブ21,22,23,24,25,26のうち、バルブ24,22,26を開く状態は、
図2に示す水素除去装置51Aと等価の構成であり、低温の水素含有ガスからの水素除去に適した構成となる。
【0070】
また、6つのバルブ21,22,23,24,25,26のうち、バルブ21,25,23を開く状態は、
図3に示す水素除去装置51Bと等価の構成であり、高温の水素含有ガスからの水素の除去により適した構成とできる。
【0071】
6つのバルブ21,22,23,24,25,26の開閉制御は、オペレターによるマニュアルでの開閉、バルブ24,22,26またはバルブ21,25,23の一括の開閉制御でもよく、制御装置などによる開閉制御としてもよい。
【0072】
その他の構成・動作は前述した実施例1の水素除去装置51、および水素除去方法と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0073】
本発明の実施例3の水素除去装置51C、および水素除去方法においても、前述した実施例1の水素除去装置51、および水素除去方法とほぼ同様な効果が得られる。
【0074】
また、第1領域と第2領域とのいずれを水素含有ガスの流れの上流とするかを選択するバルブ21,22,23,24,25,26を更に備えたことにより、発熱優位の領域と吸熱優位の領域のいずれを上流とするかを、水素含有ガスの温度によって適宜切り替えられ、様々な状況に対応可能となるため、更に安定した水素除去を実現することができる。
【0075】
なお、本実施例においても、第1領域の酸化銅顆粒比率の高い混合物11は酸化銅のみ(すなわち発熱反応のみ)であってもよいし、第2領域の酸化鉄顆粒比率の高い混合物12は酸化鉄のみ(すなわち吸熱反応のみ)の顆粒のみであってもよい。
【0076】
また、顆粒1,2は、いずれか一方は水素との反応が発熱反応のものであり、もう一方は水素との反応が吸熱反応のものであればよく、酸化銅と酸化鉄との組み合わせに限定されない。
【0077】
<実施例4>
本発明の実施例4の水素除去装置、および水素除去方法について
図5および
図6を用いて説明する。
図5および
図6は、実施例4の水素除去装置の概略図である。
【0078】
図5に示すように、本実施例の水素除去装置51Dは、ボックス形状の筐体3Dの水素含有ガスの流れ方向の下流側の配管27D2に送気装置31が設けられている。上流側の配管27D1には送気装置は設けられない。
【0079】
または、
図6に示すように、水素除去装置51Eは、ボックス形状の筐体3Eの水素含有ガスの流れ方向の上流側の配管27E1に送気装置31が設けられている。下流側の配管27E2には送気装置は設けられない。
【0080】
更には、図示は省略するが、筐体の上流側および下流側の配管のいずれにも送気装置31を設けることができる。
【0081】
送気装置31は、ファンとそれを駆動するモータなどから構成されるものとできるが、流れを作る様々な装置を用いることができ、特に限定されない。
【0082】
その他の構成・動作は前述した実施例1の水素除去装置51、および水素除去方法と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0083】
本発明の実施例4の水素除去装置51D,51E、および水素除去方法においても、前述した実施例1の水素除去装置51、および水素除去方法とほぼ同様な効果が得られる。
【0084】
また、筐体3の水素含有ガスの流れ方向の上流側と下流側との少なくともいずれか一方に配置された送気装置31を更に備えたことにより、水素除去装置51D,51Eを流れるガスの量が増加するので、水素除去量が増加し、より効率的な水素除去を実現することができる。
【0085】
なお、本実施例の水素除去装置51D,51E等においても、筐体3内に充填される顆粒1,2は、いずれか一方は水素との反応が発熱反応のものであり、もう一方は水素との反応が吸熱反応のものであればよい。また、実施例2のように筐体3内を仕切りで分割し、吸熱優位の領域と発熱優位の領域とに分けてもよい。更には、実施例3の配管27C1,27C3,27C4,27C6の上流側や下流側のうち少なくともいずれか一方に本実施例のように送気装置を設けることできる。
【0086】
<実施例5>
本発明の実施例5の水素除去装置、および水素除去方法について
図7を用いて説明する。
図7は実施例5の水素除去装置の概略図である。
【0087】
図5に示すように、本実施例の水素除去装置51Fでは、
図7に示すように、水素から生成した水により水素含有ガスの流れが妨げられることを抑制するために、筐体3Fには、その内側の水を排出するドレイン用配管32が設けられている。
【0088】
その他の構成・動作は前述した実施例1の水素除去装置51、および水素除去方法と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0089】
本発明の実施例5の水素除去装置51F、および水素除去方法においても、前述した実施例1の水素除去装置51、および水素除去方法とほぼ同様な効果が得られる。
【0090】
また、筐体3内の水を排出するドレイン用配管32を更に備えたことにより、ドレイン用配管32により液体の水が排出されるため、液体の水によるガス流れの低下を防ぐことができ、除去が進んでも水素除去効率を高く保てるとともに、冷却された際に結露が生じることを抑制することができる。
【0091】
なお、本実施例のドレイン用配管32の構成を上述の実施例1乃至実施例4のいずれかに記載の水素除去装置51,51A,51B,51C,51D,51Eのいずれかに適用することができる。
【0092】
<実施例6>
本発明の実施例6の水素除去装置、および水素除去方法について
図8を用いて説明する。
図8は実施例6の水素除去装置に充填される顆粒の概略図である。
【0093】
本実施例の水素除去装置は、実施例1乃至実施例5の水素除去装置の筐体内に充填する金属酸化物の顆粒のうち少なくとも一方の形状を
図8に示すように扁平形状としたものである。この
図8において一点鎖線は扁平粒子の対称軸を示す。
【0094】
ここで、経験的には、扁平形状の短径を長径の3分の1以下とすると、顆粒1,2間の隙間の増加の効果は大きくなる。
【0095】
その他の構成・動作は前述した実施例1等と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0096】
本発明の実施例6の水素除去装置、および水素除去方法においても、前述した実施例1の水素除去装置51、および水素除去方法とほぼ同様な効果が得られる。
【0097】
また、酸化銅または酸化鉄のうち少なくとも一方が、短径が長径の3分1以下の扁平形状であることにより、顆粒の表面積が増加することにより、水素除去反応が加速する。また、顆粒間の隙間が増加することにより、ガスが水素除去装置を透過する速度が増加する。これらの複合の効果により、反応の加速と透過速度の増加により水素除去速度がより向上する、との効果が得られる。
【0098】
<実施例7>
本発明の実施例7の水素除去装置を備えた原子力発電プラントについて
図9乃至
図11を用いて説明する。
図9乃至
図11は実施例7の格納容器内もしくは外に水素除去装置が設置された原子力発電プラントのプラント構成例を示す図である。
【0099】
本実施例は、上述の実施例1乃至実施例6の水素除去装置51,51A,51B,51C,51D,51E,51Fのいずれか1つ以上を備えた原子力発電プラントである。これにより原子力発電プラントの安全性を高めることができる。以下では、水素除去装置51を適用した原子力発電プラントの構成例を示すが、水素除去装置51A,51B,51C,51D,51E,51F等であってもよい。なお、本明細書においては、これ以降、原子炉格納容器を格納容器、原子炉圧力容器を圧力容器と記載する。
【0100】
原子力発電プラントの一例を
図9に示す。
図9に示す原子力発電プラント100は、水素除去装置51を格納容器41内に設置した形態である。この場合、圧力容器42内の水素含有ガスは、主蒸気管43とバルブ62を経て水素除去装置51に至り、水素が除去される。
【0101】
水素処理済のガスはバルブ63を経て格納容器41内に排出されてもよいし、バルブ64とサプレッションプール61を経て格納容器41内に排出されてもよい。
【0102】
図10に示す原子力発電プラント100Aは、格納容器41の外部に水素除去装置51を設置した形態である。格納容器41内の水素含有ガスの温度は300℃以下であることから、低温用の実施例2の水素除去装置51Aが最も望ましいが、他の実施例の水素除去装置も好適に適用可能である。
【0103】
この場合、格納容器41内の水素含有ガスは、バルブ72を経て水素除去装置51に至り、水素が除去される。水素処理済のガスはバルブ73を経て格納容器41内に排出されてもよいし、バルブ74を経てサプレッションプール61の存在する空間に排出されてもよい。
【0104】
また、格納容器41内の水素含有ガスの温度が230℃以下の時には、熱源71を利用して水素含有ガスを予め加熱してもよい。このときの熱源の材料は、水蒸気と反応して発熱するものが望ましく、一例を挙げると酸化カルシウムが望ましい。
【0105】
図11に示す原子力発電プラント100Bは、
図9、あるいは
図10に示した沸騰水型原子炉ではなく、加圧水型原子炉である。加圧水型原子炉では、
図11に示すように、圧力容器42内の水素含有ガスは、一次冷却系84とバルブ85とを経て水素除去装置51に至り、水素が除去され、処理済ガスは格納容器41内に排出される。
【0106】
<その他>
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0107】
また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0108】
1…酸化銅顆粒
2…酸化鉄顆粒
3,3A,3B,3C,3D,3E,3F…筐体
3A1,3B1,3C1…仕切り
3C2,3C3…空間
4,5…メッシュ
10…混合物
11…酸化銅顆粒比率の高い混合物(第1領域)
12…酸化鉄顆粒比率の高い混合物(第2領域)
21,22,23,24,25,26…バルブ
27C1,27C2,27C3,27C4,27C5,27C6,27D1,27D2、27E1,27E2…配管
31…送気装置
32…ドレイン用配管
41…格納容器
42…圧力容器
43…主蒸気管
51,51A,51B,51C,51D,51E,51F…水素除去装置
61…サプレッションプール
62,63,64,72,73,74…バルブ
71…熱源
81…加圧器
82…蒸気発生器
83…再循環ポンプ
84…一次冷却系
85…バルブ
100,100A,100B…原子力発電プラント