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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180734
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】振子式制振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20221130BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
F16F15/02 C
E04H9/02 341A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087390
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000134925
【氏名又は名称】株式会社ニチゾウテック
(71)【出願人】
【識別番号】519375136
【氏名又は名称】株式会社ティイソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畑中 章秀
(72)【発明者】
【氏名】松田 良平
(72)【発明者】
【氏名】潘 超
(72)【発明者】
【氏名】金 潤石
(72)【発明者】
【氏名】高 兄均
(72)【発明者】
【氏名】崔 在究
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB11
2E139AC43
2E139AD03
2E139BB02
2E139BB34
2E139BB36
2E139BB42
2E139BB53
2E139BC11
2E139BD33
3J048AD07
3J048BF10
3J048BF16
3J048CB22
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】占有空間を極力小さくすることができるとともに、多方向での固有周期調整が容易に行え、建物の多方向の応答を低減させることを可能にする制振装置を提供する。
【解決手段】制振装置は、構造物と、構造物に取り付けられた振子式同調質量ダンパーと、構造物と振子式同調質量ダンパーとの間に設けられた、フライホイールを有するラック・アンド・ピニオンとを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物と、
前記構造物に取り付けられた振子式同調質量ダンパーと、
前記構造物と前記振子式同調質量ダンパーとの間に設けられた、フライホイールを有する係合部材とを含む、振子式制振装置。
【請求項2】
前記係合部材は、ラックとピニオンである、請求項1に記載の振子式制振装置。
【請求項3】
前記ラックは、前記同調質量ダンパーに設けられ、
前記ピニオンは、前記フライホイールの回転軸として、前記構造物に設けられる、請求項2に記載の振子式制振装置。
【請求項4】
前記ピニオンは、前記フライホイールの回転軸として、前記同調質量ダンパーに設けられ、
前記ラックは、前記構造物に設けられる、請求項2に記載の振子式制振装置。
【請求項5】
前記係合部材は、フライホイールを有するボールねじである、請求項1に記載の振子式制振装置。
【請求項6】
前記フライホイールを有するボールねじは、複数設けられる、請求項5に記載の振子式制振装置。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は振子式制振装置に関し、特に、回転慣性機構を有する振子式制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、占有空間を極力小さくすることができるとともに、多方向での固有周期調整が容易に行え、建物の多方向の応答を低減させることを可能にする制振装置及びこれを備えた建物制振装置が、例えば、特開2020-101081号公報(特許文献1)に提供されている。そのような制振装置は、積層ゴム体(水平バネ要素)を備えた複数の制振柱と、複数の制振柱の積層ゴム体よりも上方に連結して架設された連結梁、連結梁に支持されて連結梁上に設置された錘体と、一端を建物Aに、他端を連結梁に接続して配設されたオイルダンパー及び/又は回転慣性質量ダンパーとを備えて制振装置Bを構成している。
【0003】
一方、制振装置として、同調質量ダンパー(Tuned Mass Damper, 略称「TMD」)が知られている。これは、対象とする構造物に対して副振動系(TMD)を形成することにより、構造物本体の振動を制御するものである。図7に構造物-TMD系の振動モデルを示す。TMDの質量mTは、構造物の質量 msの数%程度である。TMDの固有振動数は、制振対象構造物の固有振動数にほぼ等しい数値に調整されることから、何らかの外乱により構造物が揺れ始めると、それに連成してTMDも揺れ始める。その際、TMDに設置される減衰器CTにより振動エネルギーが吸収されることから、構造物の振動も抑制される。TMDによる制振効果を効率よく発揮させるためには、TMDと構造物の固有振動数の比やTMDの減衰定数を最適な数値に調整する必要がある。「最適な数値」は振動発生の原因となる外乱の特性によって変化し、種々の理論式が提案されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-101081号公報(要約等)
【非特許文献1】山口宏樹:構造振動・制御、共立出版(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
制振装置は、対象とする構造物の振動方向によって、鉛直方向用あるいは水平方向用制振装置に大別される。本発明は水平方向用制振装置を対象とする。図7は水平方向の振動モデルを示し、簡単のために、バネで支持される構造となっているが、本発明では、水平方向振動を実現する方法として、振子構造(図8)を想定する。以下、この振子構造(ただし、単一振子)を有する制振装置のことを「振子式TMD」と呼称する。
【0006】
振子式TMDの固有振動数は振子長さに依存する。すなわち、振子長さの逆数の平方根に比例して固有振動数が変化することから、特に、超高層建物のような長周期構造物(低振動数構造物)に適用する場合、振子長さは相対的に長くなる。
【0007】
しかしながら、上記従来の振子式TMDを超高層建物の屋上などに設置する場合には、長い振子構造を収容するために、高さのある広いスペースを屋上に確保する必要がある上、その振子構造を支持する付帯フレームの構築等が必要となる。また、2方向で異なる固有周期を有する建物に適用する場合には、振子の長さを合理的に変えることができるようにしたり、各方向で異なる長さの振子が必要になるなど、制振システムとして非常に煩雑なものになってしまう。すなわち、振子長さによる設置スペースの制約という問題がある。
【0008】
また、建築物の設計と並行して制振装置を設計する場合、建築物の固有振動数の解析値をもとに振子長さを仮定することになるが、制振装置を実構造物の揺れに同調させるためには、実構造物の固有振動数に合わせて、振子長さを調整する必要がある。振子長さを調整するには、振子長さを直接変更する方法が考えられるが、このためには重錘を一旦、油圧ジャッキ等で支持し、吊部材の固定点を移動させる必要があり、かなり大掛かりな作業になるため、固有振動数の調整が困難であるという問題がある。
【0009】
振子長さの制約を回避し、低い振動数(長周期)の振子を実現する方法として、多段振子式制振装置がある。これを図9に示す。この方式は単純には、一つの振子を多段の振子に分割することで、通常振子による固有振動数を確保しつつ、装置高さを低くできるメリットがある。しかし、機構が複雑になることと、装置の平面寸法が大きくなる問題が生じる。また、結果的に装置の製作および設置費用が増大し、大幅なコストアップを招くことになるという問題がある。
【0010】
この発明は、上記の様な問題点を解消するためになされたもので、占有空間を極力小さくすることができるとともに、各方向に一組の制振装置を配置し、個々の制振装置のフライホイールを調整することで、建物の多方向の固有周期に対応したチューニングを容易に行うことができ、各方向の応答を低減させることを可能にする制振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る、振子式TMDは、構造物と、構造物に取り付けられた振子式同調質量ダンパーと、構造物と振子式同調質量ダンパーとの間に設けられた、フライホイールを有する係合部材とを含む。
【0012】
好ましくは、係合部材は、ラックとピニオンである。
【0013】
ラックは、同調質量ダンパーに設けられ、ピニオンは、フライホイールの回転軸として、構造物に設けられてもよいし、ピニオンは、フライホイールの回転軸として、同調質量ダンパーに設けられ、ラックは、構造物に設けられてもよい。
【0014】
この発明の一実施の形態によれば、係合部材は、フライホイールを有するボールねじである。
【0015】
好ましくは、フライホイールを有するボールねじは複数設けられる。
【発明の効果】
【0016】
この発明においては、振子式TMDに回転慣性機構(フライホイール)を組み込むことで、振子長さを変えることなく、振動数を低下させることができる。また、フライホイールの慣性力を変更するだけで、固有振動数を調整することができ、振動数を調整する作業が大幅に簡素化される。
【0017】
その結果、占有空間を極力小さくすることができるとともに、各方向に一組のTMDを配置し、個々のTMDのフライホイールを調整することで、建物の多方向の固有周期に対応したチューニングを容易に行うことができ、各方向の応答を低減させることを可能にする制振装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】回転慣性機構を有する振子式TMDの力学モデルを示す図である。
図2】この発明の実験に用いた回転慣性機構を有する振子式TMDの構成を示す図である。
図3】この発明の一実施の形態に係る振子式TMDの構成を示す図である。
図4】この発明の他の実施の形態に係る振子式TMDの構成を示す図である。
図5】この発明のさらに他の実施の形態に係る振子式TMDの構成を示す図である。
図6】この発明のさらに他の実施の形態に係る振子式TMDの構成を示す図である。
図7】TMDの振動モデルを示す図である。
図8】振子式TMDのイメージを示す図である。
図9】従来の振子式TMDのイメージを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、この発明の理論的背景について説明する。発明者は、回転慣性機構(フライホイール)を組み込んだ振子式TMDの固有振動数の計算式を導出した。その前提となるフライホイールを有する振子式TMDの力学モデルを図1に示す。
【0020】
【数1】
【0021】
ラック・アンド・ピニオン方式の伝達機構を想定し、フライホイールに作用する力を次式のように定義する。
【0022】
【数2】
【0023】
【数3】
【0024】
【数4】
【0025】
以上、回転慣性に応じて、見かけ上の振子長さを大幅に変化させることができ、前述の実振子長さを変更する方式よりも簡素な現場作業で固有振動数を調整できる。
【0026】
【数5】
【0027】
上記の考察を元に、発明者は、フライホイールを有する振子式TMDの効果等について実験を行なった。実験に用いたフライホイールを有する振子式TMDを図2に示す。
【0028】
図2は、実験に用いた回転慣性機構を有する振子式TMDの具体的構成を示す図である。ここでは、ラック・アンド・ピニオンが設置されており、振子による水平運動に伴いフライホイールが回転し、回転慣性が発生する機構となっている。
【0029】
図2に示すように、TMDの重錘11下面にラック・アンド・ピニオン12、13が設置されており、振子14a,14bによる水平運動に伴い、重錘11が並進運動し、それに取付けられたラック12が移動し、ラック12に係合するピニオン13に取り付けられたフライホイール16が回転して、回転慣性が発生する機構となっている。
【0030】
フライホイールは脱着可能な構造になっており、人力での脱着が可能なように、薄い半円形の円板が複数枚設置されている。ちなみに、後述する実験で用いた交換用の半円形のフライホイールは厚さ10mmとなっており、回転慣性を調整できるように合計8枚設置した。また、半円1枚分の質量は約9kgと、一人でも十分交換できる重さとした。
【0031】
このラック12の位置はTMD質量11の壁面において自由に選択できる。また、ピニオン17の配置はラック12の下部、上部、側部など、どの部分においても構わない。
【0032】
なお、ラック12には適切な曲率を付けた方がよりスムーズにフライホイールが駆動する。曲率は振子の円弧運動に対応し、下向きに設定される。
【0033】
次に、振子式TMDの他の実施の形態について説明する。図3は、振子式TMDの他の実施の形態を示す図である。図3を参照して、この実施の形態においては、振子式TMD20は、TMD質量21にピニオンを軸にしたフライホイール26が設けられ、構造物の床面28の支持部29にラック22が設けられている。
【0034】
図4は、さらに他の実施の形態を示す図である。この実施の形態では、ボールスクリュー方式を用いてフライホイールを駆動させている。図4を参照して、TMDの質量31の壁面と構造物の床面38にボールスクリュー33a,33bを両端ヒンジで固定して、フライホイール36a,36bを駆動させる実施の形態である。ボールスクリュー36a,36bの固定位置は、TMDの質量31の壁面において自由に選択できる。
【0035】
図5は、ボールスクリュー方式を用いてフライホイールを駆動させる実施形態である。TMDの質量41の下面と構造物の床面48との間にボールスクリュー43を両端ヒンジ45a、49で固定して、フライホイール46を駆動させる実施形態である。ボールスクリュー43の固定位置は、TMDの質量41の下面において自由に選択できる。
【0036】
図6は、ボールスクリュー方式を用いてフライホイールを駆動させる実施形態である。TMDの質量51の上面と構造物の天井面58にボールスクリュー53を両端ヒンジ55、58aで固定して、フライホイール56を駆動させる実施形態である。ボールスクリュー53の固定位置は、TMDの質量51の上面において自由に選択できる。
【0037】
次に、実験結果について説明する。回転慣性機構の効果を確認するために、フライホイール16の厚さを変更し、各条件における装置の固有振動数を計測した。表1は実験ケースを示しており、フライホイールなし(No.1)とフライホイールの厚みを変更して回転慣性を付与した実験(No.2~4)を実施した。
【0038】
【表1】
【0039】
回転慣性機構の効果を確認するために、フライホイールの厚さを変更し、各条件における装置の固有振動数を計測した。表2に実験結果を示す。
【0040】
表中には、見かけ上の振子長さを示すが、回転慣性機構がない場合、振子長さ 2.76m だったのが、90mmのフライホイールを設置した場合には、見かけ上の振子長さ(フライホイールが無い通常振子での必要長さ)が4.23m(約1.5倍)となることが分かる。
【0041】
【表2】
【0042】
表3に理論計算との比較を示す。固有振動数は実験装置の方が理論計算よりも若干大きいものの2%程度の誤差で両者はほぼ整合する結果となった。
【0043】
【表3】
【0044】
以上から、次の点が明らかになった。
【0045】
回転慣性機構(フライホイール)を付与することによる振子式TMDの長周期化が実現できる。
【0046】
回転慣性機構による見かけ上の振子長さの調整が可能になる。
【0047】
振子運動を回転運動に変換する機構(ラック・アンド・ピニオン、ボールナット方式)が有効である。
【0048】
回転慣性を付与する部材の交換による振子長さの調整が可能である。
【0049】
単純には円板の厚みや大きさの変更、慣性力調整部材の変更が可能である。
【0050】
図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、本発明は、図示した実施形態に限定されるものではない。本発明と同一の範囲内において、または均等の範囲内において、図示した実施形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
この発明によれば、振子式TMDに回転慣性機構(フライホイール)を組み込むことで、振子長さを変えることなく、簡単に固有振動数を低下させることができるため、振子式TMDとして有利に利用される。
【符号の説明】
【0052】
10 振子式TMD、11 TMD重錘、12 ラック、13 ピニオン、14 振子、16 フライホイール、18 構造物の床面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9