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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180749
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】LMD装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/14 20140101AFI20221130BHJP
   B23K 26/342 20140101ALI20221130BHJP
【FI】
B23K26/14
B23K26/342
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087416
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂根 雄斗
(72)【発明者】
【氏名】藤田 大河
(72)【発明者】
【氏名】久保 大智
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 諒祐
(72)【発明者】
【氏名】中村 典生
(72)【発明者】
【氏名】林田 潤
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 晃裕
(72)【発明者】
【氏名】堀内 悠平
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA32
4E168EA24
4E168FA01
4E168FB03
(57)【要約】
【課題】飛散した金属パウダーが保護ガラスに付着することを抑制することができるLMD装置を提供する。
【解決手段】一実施形態に係るLMD装置1は、レーザービーム10を反射ミラー22で反射することで保護ガラス23を透過して放出するLMDノズル2と、保護ガラス23を覆うようにLMDノズル2に取り付けられたノズルチップ3を含む。ノズルチップ3は、レーザービーム10を保護ガスと共に放出するための中央穴7、および中央穴7の回りで金属パウダーをキャリアガスと共に放出するための少なくとも1つのパウダー用通路を有する。中央穴7における保護ガラス23側の基端から中間位置70までの近位部71は保護ガラス23から離れるにつれて縮径する逆円錐状であり、中間位置70から先端までの遠位部72における少なくとも一部は保護ガラス23から離れるにつれて拡径する円錐状である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザービームを反射ミラーで反射することで保護ガラスを透過して放出するLMDノズルと、
前記保護ガラスを覆うように前記LMDノズルに取り付けられた、前記レーザービームを保護ガスと共に放出するための中央穴、および前記中央穴の回りで金属パウダーをキャリアガスと共に放出するための少なくとも1つのパウダー用通路を有するノズルチップと、を備え、
前記中央穴における前記保護ガラス側の基端から中間位置までの近位部は前記保護ガラスから離れるにつれて縮径する逆円錐状であり、前記中間位置から先端までの遠位部における少なくとも一部は前記保護ガラスから離れるにつれて拡径する円錐状である、LMD装置。
【請求項2】
前記遠位部は、前記近位部に近い領域で円柱状であり、前記先端に近い領域で円錐状である、請求項1に記載のLMD装置。
【請求項3】
前記遠位部は、全長に亘って円錐状である、請求項1に記載のLMD装置。
【請求項4】
レーザービームを反射ミラーで反射することで保護ガラスを透過して放出するLMDノズルと、
前記保護ガラスを覆うように前記LMDノズルに取り付けられた、前記レーザービームを保護ガスと共に放出するための中央穴、および前記中央穴の回りで金属パウダーをキャリアガスと共に放出するための少なくとも1つのパウダー用通路を有するノズルチップと、を備え、
前記中央穴における前記保護ガラス側の基端から中間位置までの近位部は前記保護ガラスから離れるにつれて縮径する逆円錐状であり、前記中間位置から先端までの遠位部は円柱状である、LMD装置。
【請求項5】
前記レーザービームの焦点は、前記中央穴の前記遠位部内に位置する、請求項1~4の何れか一項に記載のLMD装置。
【請求項6】
前記ノズルチップにおける前記LMDノズルとの接触面には、前記保護ガスが導入される、前記中央穴を取り巻く保護ガス用環状溝が形成されており、
前記ノズルチップには、前記保護ガス用環状溝と前記中央穴とを仕切る隔壁が設けられているとともに、前記保護ガス用環状溝と前記中央穴とを連通する複数の連通穴が前記中央穴の回りに等角度間隔で設けられている、請求項1~5の何れか一項に記載のLMD装置。
【請求項7】
前記複数の連通穴のそれぞれは、前記保護ガス用環状溝から前記中央穴に向かって前記保護ガラスから離れる方向に傾斜している、請求項6に記載のLMD装置。
【請求項8】
前記ノズルチップは、前記少なくとも1つのパウダー用通路の回りでシールドガスを放出するための環状のシールドガス用通路を有し、
前記ノズルチップは、前記LMDノズルと当接する第1部品と、前記第1部品に重ね合わされる、前記第1部品と共に前記中央穴を構成する第2部品と、前記第2部品に重ね合わされる第3部品を含み、
前記シールドガス用通路は、前記第2部品と前記第3部品との間に形成されており、
前記第3部品における前記第2部品との接触面には、前記シールドガスが導入される、前記シールドガス用通路を取り巻くシールドガス用環状溝が形成されており、
前記第3部品には、前記シールドガス用環状溝と前記シールドガス用通路とを仕切る隔壁が設けられており、この隔壁には周方向に分布する複数の開口が設けられている、請求項1~7の何れか一項に記載のLMD装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワーク上へのレーザービームの照射および金属パウダーの供給を行うLMD(Laser Metal Deposition)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ワーク上にレーザービームを照射するとともにその照射位置に金属パウダーを供給して肉盛溶接を行うLMD装置が知られている。例えば、特許文献1には、図10に示すようなLMD装置100が開示されている。
【0003】
具体的に、LMD装置100は、レーザービームを反射ミラー111で反射することで保護ガラス112を透過して放出するLMDノズル110と、保護ガラス112を覆うようにLMDノズル110に取り付けられたノズルチップ120を含む。保護ガラス112は、反射ミラー111の汚染を防止するためのものである。
【0004】
ノズルチップ120は、レーザービームを保護ガスと共に放出するための中央穴121を有する。保護ガスは、LMDノズル110から中央穴121内へ供給される。
【0005】
図11に示すように、ノズルチップ120は、中央穴121の回りで金属パウダーを放出するための4つのパウダー用通路122も有する(図11では、そのうちの2つを図示)。パウダー用通路122は、中央穴121の周囲に90度の等角度間隔で配置されている。一般的に、金属パウダーは、キャリアガスと共に放出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2010/142283号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、図10に示すようなLMD装置100を用いて肉盛溶接を行った場合には、ワーク表面に衝突して飛散した金属パウダーが中央穴121を通って保護ガラス112に付着することがある。
【0008】
そこで、本発明は、飛散した金属パウダーが保護ガラスに付着することを抑制することができるLMD装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明の一つの側面からのLMD装置は、レーザービームを反射ミラーで反射することで保護ガラスを透過して放出するLMDノズルと、前記保護ガラスを覆うように前記LMDノズルに取り付けられた、前記レーザービームを保護ガスと共に放出するための中央穴、および前記中央穴の回りで金属パウダーをキャリアガスと共に放出するための少なくとも1つのパウダー用通路を有するノズルチップと、を備え、前記中央穴における前記保護ガラス側の基端から中間位置までの近位部は前記保護ガラスから離れるにつれて縮径する逆円錐状であり、前記中間位置から先端までの遠位部における少なくとも一部は前記保護ガラスから離れるにつれて拡径する円錐状である、ことを特徴とする。
【0010】
上記の構成によれば、中央穴が中間位置で最小径となるので、この中間位置で保護ガスの流速を上昇させることができる。この流速上昇の効果および中間位置から先端までの遠位部の長さによって、ワーク表面に衝突して飛散した金属パウダーが遠位部を通過し難くすることができる。従って、飛散した金属パウダーが保護ガラスに付着することを抑制することができる。しかも、遠位部の少なくとも一部は円錐状であるので、中央穴の先端では保護ガスの流速を遅くすることができるとともに、保護ガスを広がるように放出することができる。これにより、遠位部が円柱状である場合に比べ、ワーク表面上でのシールド性を向上させることができる。
【0011】
また、本発明の別の側面からのLMD装置は、レーザービームを反射ミラーで反射することで保護ガラスを透過して放出するLMDノズルと、前記保護ガラスを覆うように前記LMDノズルに取り付けられた、前記レーザービームを保護ガスと共に放出するための中央穴、および前記中央穴の回りで金属パウダーをキャリアガスと共に放出するための少なくとも1つのパウダー用通路を有するノズルチップと、を備え、前記中央穴における前記保護ガラス側の基端から中間位置までの近位部は前記保護ガラスから離れるにつれて縮径する逆円錐状であり、前記中間位置から先端までの遠位部は円柱状である、ことを特徴とする。
【0012】
上記の構成によれば、中央穴の遠位部が円柱状であるので、この遠位部で保護ガスの流速を上昇させることができる。この流速上昇の効果および遠位部の長さによって、ワーク表面に衝突して飛散した金属パウダーが遠位部を通過し難くすることができる。従って、飛散した金属パウダーが保護ガラスに付着することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、飛散した金属パウダーが保護ガラスに付着することを抑制することができるLMD装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るLMD装置の断面図である。
図2図1のII-II線に沿った断面図である。
図3図2のIII-III線に沿った断面図である。
図4図2のIV-IV線に沿った断面図である。
図5】前記実施形態におけるノズルチップの第1部品の斜視図である。
図6】別の形状の第1部品の斜視図である。
図7】前記実施形態におけるノズルチップの第3部品の斜視図である。
図8】変形例のLMD装置の断面図である。
図9】別の変形例のLMD装置の断面図である。
図10】従来のLMD装置の断面図である。
図11図10に示すLMD装置のノズルチップの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1~4に、本発明の一実施形態に係るLMD装置1を示す。このLMD装置1は、図略のワーク上にレーザービーム10を照射するとともにその照射位置に金属パウダーを供給して肉盛溶接を行うものである。
【0016】
具体的に、LMD装置1は、レーザービーム10を出射するレーザー発振器を含む装置本体(図示せず)と、その装置本体から延びる棒状のLMDノズル2と、LMDノズル2の先端に取り付けられたノズルチップ3を含む。LMDノズル2は、中空のノズル本体21を含む。ノズル本体21の先端には開口21aが設けられており、その開口21aは保護ガラス23で閉塞されている。保護ガラス23は、サポート24を介してノズル本体21に取り付けられている。
【0017】
ノズル本体21内には、保護ガラス23と対応する位置に反射ミラー22が配置されている。LMDノズル2は、レーザー発振器から出射されたレーザービーム10を反射ミラー22で反射することで保護ガラス23を透過して放出する。
【0018】
ノズルチップ3は、保護ガラス23を覆うようにLMDノズル2に取り付けられている。ノズルチップ3は、レーザービーム10を保護ガスと共に放出するための中央穴7と、中央穴7の回りで金属パウダーをキャリアガスと共に放出するための4つのパウダー用通路8(図2および図3参照)を有する。さらに、本実施形態では、ノズルチップ3が、パウダー用通路8の回りでシールドガスを放出するための環状のシールドガス用通路9を有する。
【0019】
保護ガス、キャリアガスおよびシールドガスは、全てが同じガスであってもよいし、そのうちの1つまたは全てが異なるガスであってもよい。例えば、保護ガス、キャリアガスおよびシールドガスの少なくとも1つはアルゴンガスである。
【0020】
本実施形態では、ノズルチップ3が、LMDノズル2のノズル本体21と当接する板状の第1部品4と、第1部品4に重ね合わされる第2部品5と、第2部品5に重ね合わされる第3部品6を含む。中央穴7およびパウダー用通路8は第1部品4および第2部品5に形成されている。つまり、第2部品5は、第1部品4と共に中央穴7およびパウダー用通路8を構成する。
【0021】
なお、図示は省略するが、ノズル本体21と第1部品4との間、第1部品4と第2部品5との間、および第2部品5と第3部品6との間には、シール性を確保するためのシール材(例えば、Oリング)が挟持されてもよい。
【0022】
第2部品5は、第1部品4と平行な板状部51と、板状部51から中央穴7に沿って第1部品4と反対向きに突出する突出部52を含む。突出部52は、先端に向かって縮径する外周面を有する。一方、第3部品6は、突出部52が挿入される収容穴6aを有し、この収容穴6aの内周面は、突出部52の突出方向に向かって縮径している。この収容穴6aの内周面と突出部52の外周面との間にシールドガス用通路9が形成されている。
【0023】
中央穴7内では、保護ガスが保護ガラス23から離れる方向に流れる。中央穴7は、保護ガラス23側の基端から中間位置70までの近位部71と、中間位置70から先端までの遠位部72を含む。レーザービームの焦点11は、遠位部72内に位置する。
【0024】
近位部71は保護ガラス23から離れるにつれて縮径する逆円錐状である。一方、遠位部72における少なくとも一部は保護ガラス23から離れるにつれて拡径する円錐状である。円錐状のテーパー角度は、遠位部72の内周面からの保護ガスの剥離が生じない程度に設定される(例えば、10度以下)。
【0025】
本実施形態では、遠位部72が、近位部71に近い領域で円柱状であり、先端に近い領域で円錐状である。ただし、図8に示す変形例のLMD装置1Aのように、遠位部72は全長に亘って円錐状であってみもよい。
【0026】
例えば、中央穴7の中間位置70での直径は、中央穴7への保護ガスの供給流量が2.5×10-43/sのときに、当該中間位置70での流速が10~15m/sとなるように設定される。
【0027】
図1~4に戻って、中間位置70は、中央穴7の軸方向において中央穴7の中央よりも先端側に位置することが望ましい。本実施形態では、中間位置70が中央穴7の軸方向(第1~第3部品4~6の重ね合わせ方向でもある)において第2部品5の突出部52の略中央に位置しており、近位部71の長さが遠位部72の長さの約2倍である。
【0028】
中央穴7には、LMDノズル2から保護ガスが供給される。図5に示すように、第1部品4におけるノズル本体21との接触面には、中央穴7を取り巻く保護ガス用環状溝42が形成されているとともに、保護ガス用環状溝42から径方向外向きに延びる保護ガス導入溝41が形成されている。
【0029】
一方、ノズル本体21には、図1に示すように保護ガス導入溝41と連通する保護ガス供給路25が形成されている。この保護ガス供給路25から保護ガス導入溝41を通じて保護ガス用環状溝42へ保護ガスが導入される。
【0030】
図5に示すように、第1部品4には、保護ガス用環状溝42と中央穴7とを仕切る隔壁44が設けられている。また、第1部品4には、保護ガス用環状溝42と中央穴7とを連通する複数の連通穴43が中央穴7の回りに等角度間隔で設けられている。各連通穴43は、保護ガス用環状溝42から中央穴7に向かって保護ガラス23から離れる方向に傾斜している。このため、保護ガスを連通穴43から中央穴7の先端に向かう方向に噴射することができる。
【0031】
4つのパウダー用通路8は、図2に示すように、中央穴7の周囲に90度の等角度間隔で配置されている。なお、パウダー用通路8の先端が中央穴7の先端の周囲に90度の等角度間隔で位置する限り、パウダー用通路8の延在方向は適宜変更可能である。
【0032】
ただし、パウダー用通路8の数は、当該パウダー用通路8の先端が中央穴7の先端の周囲に等角度間隔で位置する限り特に限定されるものではない。あるいは、複数のパウダー用通路8に代えて、中央穴7を取り巻く環状のパウダー用通路8が採用されてもよい。
【0033】
各パウダー用通路8には、LMDノズル2から金属パウダーおよびキャリアガスが供給される。図5に示すように、各パウダー用通路8の基端は、第1部品4におけるノズル本体21との接触面に開口している。一方、ノズル本体21には、図3に示すように4つのパウダー用通路8と連通するパウダー供給路26が形成されている。このパウダー供給路26から各パウダー用通路8へ金属パウダーおよびキャリアガスが導入される。
【0034】
シールドガス用通路9には、LMDノズル2からシールドガスが供給される。図7に示すように、第3部品6における第2部品5との接触面には、シールドガス用通路9(すなわち、上述した収容穴6a)を取り巻くシールドガス用環状溝62が形成されているとともに、シールドガス用環状溝62から径方向外向きに延びるシールドガス導入溝61が形成されている。また、第2部品5および第1部品4には、図4に示すように、シールドガス導入溝61の外側端部と対応する位置に、第2部品5および第1部品4を貫通する貫通穴91が設けられている。
【0035】
一方、ノズル本体21には、貫通穴91と連通するシールドガス供給路27が形成されている。このシールドガス供給路27から貫通穴91およびシールドガス導入溝61を通じてシールドガス用環状溝62へシールドガスが導入される。
【0036】
図7に示すように、第3部品6には、シールドガス用環状溝62とシールドガス用通路9とを仕切る隔壁63が設けられている。この隔壁63には、周方向に分布する複数の開口64が設けられている。
【0037】
本実施形態では、1つの開口64が、シールドガス導入溝61の延長線上に位置している。このため、第3部品6には、シールドガス用環状溝62とシールドガス導入溝61の仮想境界線(シールドガス用環状溝62の外側壁面の延長線)上に邪魔板65が設けられている。
【0038】
以上説明したように、本実施形態のLMD装置1では、中央穴7が中間位置70で最小径となるので、この中間位置で保護ガスの流速を上昇させることができる。この流速上昇の効果および中間位置70から先端までの遠位部72の長さによって、ワーク表面に衝突して飛散した金属パウダーが遠位部72を通過し難くすることができる。従って、飛散した金属パウダーが保護ガラス23に付着することを抑制することができる。
【0039】
(変形例)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0040】
例えば、図9に示す変形例のLMD装置1Bのように、中央穴7の遠位部72の全体が円柱状であってもよい。この構成でも、前記実施形態と同様に、遠位部72で保護ガスの流速を上昇させることができる。この流速上昇の効果および遠位部72の長さによって、ワーク表面に衝突して飛散した金属パウダーが遠位部72を通過し難くすることができる。従って、飛散した金属パウダーが保護ガラス23に付着することを抑制することができる。
【0041】
ただし、図1または図8に示すように遠位部72の少なくとも一部が円錐状であれば、中央穴7の先端では保護ガスの流速を遅くすることができるとともに、保護ガスを広がるように放出することができる。これにより、遠位部72の全体が円柱状である場合に比べ、ワーク表面上でのシールド性を向上させることができる。つまり、加工点酸素濃度を低下させることができる。
【0042】
また、図5に示す第1部品4に代えて、図6に示す第1部品4Aを採用することも可能である。この第1部品4Aでは、当該第1部品4Aにおけるノズル本体21との接触面に形成された保護ガス導入溝41が中央穴7から径方向に延びている。この場合、保護ガスが中央穴7内で旋回流を形成したり、中央穴7内の乱流により中央穴7の先端から逆流したりすることがある。
【0043】
これに対し、図5に示すように中央穴7を取り巻く保護ガス用環状溝42、保護ガス用環状溝42と中央穴7との間の隔壁44、および保護ガス用環状溝42と中央穴7とを連通する連通穴43を有する第1部品4であれば、中央穴7内での保護ガスの流れが整流となるため、保護ガスの逆流などを防止することができる。
【0044】
また、ノズルチップ3が第3部品6を含まずに、ノズルチップ3の脇に、図略の溶融池に向かってシールドガスを放出するシールドガス専用ノズルが設けられてもよい。
【0045】
ところで、ノズルチップ3が第3部品6を含み、この第3部品6と第2部品5との間にシールドガス用通路9が形成される場合、図示は省略するが図6に示す第1部品4Aと同様に、第3部品6における第2部品5との接触面に形成されるシールドガス導入溝61がシールドガス用通路9から径方向に延びてもよい。しかし、この場合には、シールドガスがシールドガス用通路9内で偏って流れたり、シールドガス用通路9内の乱流によりシールドガス用通路9の先端から逆流したりすることがある。
【0046】
これに対し、前記実施形態のように、第3部品6における第2部品5との接触面にシールドガス用通路9を取り巻くシールドガス用環状溝62が形成され、このシールドガス用環状溝62とシールドガス用通路9とを仕切る隔壁63に周方向に分布する複数の開口64が設けられていれば、シールドガス用通路9内でのシールドガスの流れが整流となるため、シールドガスの逆流などを防止することができる。
【0047】
(まとめ)
本発明の一つの側面からのLMD装置は、レーザービームを反射ミラーで反射することで保護ガラスを透過して放出するLMDノズルと、前記保護ガラスを覆うように前記LMDノズルに取り付けられた、前記レーザービームを保護ガスと共に放出するための中央穴、および前記中央穴の回りで金属パウダーをキャリアガスと共に放出するための少なくとも1つのパウダー用通路を有するノズルチップと、を備え、前記中央穴における前記保護ガラス側の基端から中間位置までの近位部は前記保護ガラスから離れるにつれて縮径する逆円錐状であり、前記中間位置から先端までの遠位部における少なくとも一部は前記保護ガラスから離れるにつれて拡径する円錐状である、ことを特徴とする。
【0048】
上記の構成によれば、中央穴が中間位置で最小径となるので、この中間位置で保護ガスの流速を上昇させることができる。この流速上昇の効果および中間位置から先端までの遠位部の長さによって、ワーク表面に衝突して飛散した金属パウダーが遠位部を通過し難くすることができる。従って、飛散した金属パウダーが保護ガラスに付着することを抑制することができる。しかも、遠位部の少なくとも一部は円錐状であるので、中央穴の先端では保護ガスの流速を遅くすることができるとともに、保護ガスを広がるように放出することができる。これにより、遠位部が円柱状である場合に比べ、ワーク表面上でのシールド性を向上させることができる。
【0049】
例えば、前記遠位部は、前記近位部に近い領域で円柱状であり、前記先端に近い領域で円錐状であってもよい。あるいは、前記遠位部は、全長に亘って円錐状であってもよい。
【0050】
また、本発明の別の側面からのLMD装置は、レーザービームを反射ミラーで反射することで保護ガラスを透過して放出するLMDノズルと、前記保護ガラスを覆うように前記LMDノズルに取り付けられた、前記レーザービームを保護ガスと共に放出するための中央穴、および前記中央穴の回りで金属パウダーをキャリアガスと共に放出するための少なくとも1つのパウダー用通路を有するノズルチップと、を備え、前記中央穴における前記保護ガラス側の基端から中間位置までの近位部は前記保護ガラスから離れるにつれて縮径する逆円錐状であり、前記中間位置から先端までの遠位部は円柱状である、ことを特徴とする。
【0051】
上記の構成によれば、中央穴の遠位部が円柱状であるので、この遠位部で保護ガスの流速を上昇させることができる。この流速上昇の効果および遠位部の長さによって、ワーク表面に衝突して飛散した金属パウダーが遠位部を通過し難くすることができる。従って、飛散した金属パウダーが保護ガラスに付着することを抑制することができる。
【0052】
例えば、前記レーザービームの焦点は、前記中央穴の前記遠位部内に位置してもよい。
【0053】
前記ノズルチップにおける前記LMDノズルとの接触面には、前記保護ガスが導入される、前記中央穴を取り巻く保護ガス用環状溝が形成されており、前記ノズルチップには、前記保護ガス用環状溝と前記中央穴とを仕切る隔壁が設けられているとともに、前記保護ガス用環状溝と前記中央穴とを連通する複数の連通穴が前記中央穴の回りに等角度間隔で設けられてもよい。ノズルチップにおけるLMDノズルとの接触面に中央穴から径方向に延びる保護ガス用の導入路が形成されている場合には、保護ガスが中央穴内で旋回流を形成したり、中央穴内の乱流により中央穴の先端から逆流したりすることがある。これに対し、第1保持部材が、中央穴を取り巻く保護ガス用環状溝、保護ガス用環状溝と中央穴との間の隔壁、および保護ガス用環状溝と中央穴とを連通する連通穴を有すれば、中央穴内での保護ガスの流れが整流となるため、保護ガスの逆流などを防止することができる。
【0054】
前記複数の連通穴のそれぞれは、前記保護ガス用環状溝から前記中央穴に向かって前記保護ガラスから離れる方向に傾斜してもよい。この構成によれば、保護ガスを連通穴から中央穴の先端に向かう方向に噴射することができる。
【0055】
前記ノズルチップは、前記少なくとも1つのパウダー用通路の回りでシールドガスを放出するための環状のシールドガス用通路を有し、前記ノズルチップは、前記LMDノズルと当接する第1部品と、前記第1部品に重ね合わされる、前記第1部品と共に前記中央穴を構成する第2部品と、前記第2部品に重ね合わされる第3部品を含み、前記シールドガス用通路は、前記第2部品と前記第3部品との間に形成されており、前記第3部品における前記第2部品との接触面には、前記シールドガスが導入される、前記シールドガス用通路を取り巻くシールドガス用環状溝が形成されており、前記第3部品には、前記シールドガス用環状溝と前記シールドガス用通路とを仕切る隔壁が設けられており、この隔壁には周方向に分布する複数の開口が設けられてもよい。第3部品における第2部品との接触面にシールドガス用通路から径方向に延びる導入路が形成されている場合には、シールドガスがシールドガス用通路内で偏って流れたり、シールドガス用通路内の乱流によりシールドガス用通路の先端から逆流したりすることがある。これに対し、第3部品における第2部品との接触面にシールドガス用通路を取り巻くシールドガス用環状溝が形成され、このシールドガス用環状溝とシールドガス用通路とを仕切る隔壁に周方向に分布する複数の開口が設けられていれば、シールドガス用通路内でのシールドガスの流れが整流となるため、シールドガスの逆流などを防止することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 LMD装置
10 レーザービーム
11 焦点
2 LMDノズル
22 反射ミラー
23 保護ガラス
3 ノズルチップ
4 第1部品
42 保護ガス用環状溝
43 連通穴
44 隔壁
5 第2部品
6 第3部品
62 シールドガス用環状溝
63 隔壁
64 開口
7 中央穴
70 中間位置
71 近位部
72 遠位部
8 パウダー用通路
9 シールドガス用通路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11