IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 川崎重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ガスエンジンシステム 図1
  • 特開-ガスエンジンシステム 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180751
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】ガスエンジンシステム
(51)【国際特許分類】
   F02M 21/02 20060101AFI20221130BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
F02M21/02 G
F02M21/02 301R
F02M21/02 301A
F02D45/00 368Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087418
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 幹生
(72)【発明者】
【氏名】野中 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】仲井 雅人
【テーマコード(参考)】
3G384
【Fターム(参考)】
3G384AA14
3G384DA54
3G384ED07
3G384FA29B
3G384FA32B
3G384FA38B
(57)【要約】
【課題】シリンダカットを行うときの燃料噴射弁からの水素の漏れを防ぐことができるガスエンジンシステムを提供する。
【解決手段】ガスエンジンシステム1は、水素を燃料とする、複数のシリンダ41を有するガスエンジン4と、シリンダ41へ空気を供給する給気路3を含む。給気路3には、シリンダ41とそれぞれ対応する複数の燃料噴射弁6が設けられている。燃料噴射弁6へは、燃料供給路7を通じて水素が供給される。燃料供給路7は、燃料主流路71と、燃料主流路71から分岐して燃料噴射弁6へそれぞれつながる複数の燃料分岐路73を含む。燃料分岐路73には、複数の遮断弁74がそれぞれ設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を燃料とする、複数のシリンダを有するガスエンジンと、
前記複数のシリンダへ空気を供給する給気路と、
前記給気路に設けられた、前記複数のシリンダとそれぞれ対応する複数の燃料噴射弁と、
前記複数の燃料噴射弁へ水素を供給する、燃料主流路、および前記燃料主流路から分岐して前記複数の燃料噴射弁へそれぞれつながる複数の燃料分岐路を含む燃料供給路と、
前記複数の燃料分岐路にそれぞれ設けられた複数の遮断弁と、
を備える、ガスエンジンシステム。
【請求項2】
前記複数の遮断弁と前記複数の燃料噴射弁との間で前記複数の燃料分岐路から分岐する複数の放出路と、
前記複数の放出路にそれぞれ設けられた複数の放出弁と、をさらに備える、請求項1に記載のガスエンジンシステム。
【請求項3】
前記複数のシリンダから排ガスを排出する排気路と、
前記排気路に設けられた、排ガス中の水素濃度を検出する検出器と、をさらに備える、請求項1または2に記載のガスエンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を燃料とするレシプロエンジンであるガスエンジンを含むガスエンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
レシプロエンジンでは、一般的に石油やメタンなどが燃料として使用される。近年では、水素をレシプロエンジンの燃料として使用することも提案されている(例えば、特許文献1参照)。水素を燃料として使用すれば、二酸化炭素などの地球温暖化ガスを削減することができる。
【0003】
水素を燃料とするレシプロエンジンであるガスエンジンは複数のシリンダを有し、これらのシリンダへは給気路を通じて空気が供給される。給気路には、複数のシリンダとそれぞれ対応する複数の燃料噴射弁が設けられる。複数の燃料噴射弁へは燃料供給路を通じて水素が供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-299890号公報
【特許文献2】特開2013-174146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2には、炭化水素系のガスを燃料とするガスエンジンが開示されている。このガスエンジンでは、燃料供給路が、遮断弁が設けられた燃料主流路と、その燃料主流路から分岐して複数の燃料噴射弁(特許文献2では「ガス供給電磁弁」と称呼)へそれぞれつながる複数の燃料分岐路を含む。このため、水素を燃料とするガスエンジンの燃料供給路も、特許文献2の燃料供給路と同様に構成することが考えられる。
【0006】
ところで、レシプロエンジンでは、いずれかのシリンダで異常燃焼や失火が発生した場合に、そのシリンダでの燃焼を停止した上で他のシリンダでの燃焼を継続することがある(いわゆるシリンダカット)。特定のシリンダでの燃焼の停止は、そのシリンダに対応する燃料噴射弁を閉状態に維持することによって行われる。
【0007】
水素を燃料とするガスエンジンでシリンダカットを行う場合、水素の分子量は小さいために、燃料噴射弁を閉状態に維持したとしても燃料噴射弁の隙間から水素が漏れてシリンダへ供給されることが想定される。水素は燃性範囲が広いという特性を有するため、水素が漏れてシリンダへ供給されると、水素濃度が低くても着火するおそれがある。
【0008】
そこで、本発明は、シリンダカットを行うときの燃料噴射弁からの水素の漏れを防ぐことができるガスエンジンシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明のガスエンジンシステムは、水素を燃料とする、複数のシリンダを有するガスエンジンと、前記複数のシリンダへ空気を供給する給気路と、前記給気路に設けられた、前記複数のシリンダとそれぞれ対応する複数の燃料噴射弁と、前記複数の燃料噴射弁へ水素を供給する、燃料主流路、および前記燃料主流路から分岐して前記複数の燃料噴射弁へそれぞれつながる複数の燃料分岐路を含む燃料供給路と、前記複数の燃料分岐路にそれぞれ設けられた複数の遮断弁と、を備える、ことを特徴とする。
【0010】
上記の構成によれば、シリンダカットを行うときに、シリンダカットの対象となるシリンダに対応する遮断弁を開状態から閉状態に切り換えれば、燃料噴射弁からの水素の漏れを防ぐことができる。遮断弁は燃料噴射弁とは異なり、流路の完全な遮断が可能であるためである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シリンダカットを行うときの燃料噴射弁からの水素の漏れを防ぐことができるガスエンジンシステムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係るガスエンジンシステムの概略構成図である。
図2】変形例のガスエンジンシステムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に、本発明の一実施形態に係るガスエンジンシステム1を示す。ガスエンジンシステム1は、陸上に設置されて発電機の駆動に使用してもよいし、船舶に搭載されて推進プロペラまたは発電機の駆動に使用されてもよい。
【0014】
具体的に、ガスエンジンシステム1は、複数のシリンダ41および図略のクランクシャフトを有するガスエンジン4と、後述する燃料噴射弁6などを制御する制御装置8を含む。本実施形態では、ガスエンジンシステム1が過給機2も含む。ただし、過給機2は省略されてもよい。
【0015】
ガスエンジン4は、水素を燃料とするレシプロエンジンである。ガスエンジン4は、4ストロークエンジンであってもよいし、2ストロークエンジンであってもよい。また、ガスエンジン4は、水素のみを燃焼させるガス専焼エンジンであってもよいし、水素と燃料油の一方または双方を燃焼させる二元燃料エンジンであってもよい。
【0016】
シリンダ41の数は、例えば5~18である(図1では、図面の簡略化のために4つのみを図示)。シリンダ41は、クランクシャフトの軸方向に沿って一列で配列されてもよいし、二列で配列されてもよい。図示は省略するが、各シリンダ41内にはピストンが配置され、このピストンとシリンダヘッドとの間に燃焼室が形成される。各シリンダ41には、燃焼室圧力を検出する圧力計9が設けられている。
【0017】
全てのシリンダ41は、給気路3により過給機2の圧縮機21と接続されるとともに、排気路5により過給機2のタービン22と接続されている。給気路3を通じて圧縮機21からシリンダ41へ空気が供給され、排気路5を通じてシリンダ41からタービン22へ排ガスが排出される。
【0018】
給気路3は、シリンダ41の並び方向に延びる給気マニホールド32と、給気マニホールド32を圧縮機21と接続する上流路31と、給気マニホールド32をシリンダ41と接続する複数の流入路33を含む。
【0019】
排気路5は、シリンダ41の並び方向に延びる排気マニホールド52と、シリンダ41を排気マニホールド52と接続する複数の流出路51と、排気マニホールド52をタービン22と接続する下流路53を含む。
【0020】
給気路3の流入路33には、複数の燃料噴射弁6がそれぞれ設けられている。すなわち、燃料噴射弁6はシリンダ41とそれぞれ対応する。各燃料噴射弁6から水素が噴射されることで空気と水素の混合気が生成され、この混合気が対応するシリンダ41の燃焼室に導入される。燃焼室では混合気が図略の点火装置によって点火されて燃焼される。
【0021】
点火装置は、副室内で燃焼室内よりも高濃度の混合気に点火し、副室から燃焼室内に火炎を伝播させる副室式点火装置であってもよいし、パイロット燃料を燃料室内に噴射するパイロット燃料噴射弁であってもよい。
【0022】
燃料噴射弁6へは、燃料供給路7を通じて水素が供給される。燃料供給路7は、図略の燃料タンクから延びる燃料主流路71と、燃料主流路71から分岐して燃料噴射弁6へそれぞれつながる複数の燃料分岐路73を含む。燃料主流路71には第1遮断弁72が設けられており、燃料分岐路73には複数の第2遮断弁74がそれぞれ設けられている。
【0023】
さらに、本実施形態では、第2遮断弁74と燃料噴射弁6との間で各燃料分岐路73から放出路75が分岐しており、この放出路75に放出弁76が設けられている。放出路75は、水素を放出しても問題ない空間(例えば、ガスエンジンシステム1を含む設備の外部)まで延びている。
【0024】
燃料噴射弁6、第1遮断弁72、第2遮断弁74および放出弁76は、制御装置8により制御される。ただし、図1では、図面の簡略化のために一部の信号線のみを描いている。例えば、制御装置8は、ROMやRAMなどのメモリと、HDDやSSDなどのストレージと、CPUを有するコンピュータであり、ROMまたはストレージに記憶されたプログラムがCPUにより実行される。
【0025】
制御装置8は、上述した圧力計9と電気的に接続されている。制御装置8は、シリンダ41ごとに、圧力計9で検出される燃焼室圧力に基づいて、当該シリンダ41で異常燃焼や失火が発生したか否かを判定する。なお、燃焼室圧力に基づいて異常燃焼や失火が発生したか否かを判定する方法は公知であるので、ここでの説明は省略する。
【0026】
制御装置8は、全てのシリンダ41で異常燃焼も失火も発生していないと判定した場合、第1遮断弁72および第2遮断弁74を開状態に維持するとともに、放出弁76を閉状態に維持する。また、制御装置8は、クランクシャフトの位相角に応じて各燃料噴射弁6を閉状態と開状態のどちらかに切り換える。
【0027】
一方、制御装置8は、いずれかのシリンダ41で異常燃焼や失火が発生したと判定した場合、その異常燃焼または失火が発生したシリンダ41(以下、「異常シリンダ41」という)での燃焼を停止してシリンダカットを行う。具体的に、制御装置8は、シリンダカットの対象となる異常シリンダ41に対応する第2遮断弁74を開状態から閉状態に切り換える。遮断弁は燃料噴射弁とは異なり、流路の完全な遮断が可能であるため、異常シリンダ41に対応する第2遮断弁74を閉状態に切り換えることによって、燃料噴射弁6からの水素の漏れを防ぐことができる。
【0028】
さらに、制御装置8は、異常シリンダ41に対応する放出弁76を閉状態から開状態に切り換える。これにより、燃料分岐路73における第2遮断弁74と燃料噴射弁6との間の部分に残存する水素を放出路75を通じて放出することができる。その結果、万が一の事態が起きても、燃料分岐路73を介した燃料主流路71への延焼を防ぐことができる。
【0029】
(変形例)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0030】
例えば、全ての放出路75が省略されてもよい。
【0031】
また、図2に示す変形例のガスエンジンシステム1Aのように、排気路5に、排ガス中の水素濃度を検出する検出器91が設けられてもよい。検出器91は下流路53に設けられることが望ましいが、排気マニホールド52に設けられてもよい。この構成であれば、燃料噴射弁6および/または点火装置の故障の有無を検知することができる。その結果、安全面の向上が期待できる。
【0032】
(まとめ)
本発明のガスエンジンシステムは、水素を燃料とする、複数のシリンダを有するガスエンジンと、前記複数のシリンダへ空気を供給する給気路と、前記給気路に設けられた、前記複数のシリンダとそれぞれ対応する複数の燃料噴射弁と、前記複数の燃料噴射弁へ水素を供給する、燃料主流路、および前記燃料主流路から分岐して前記複数の燃料噴射弁へそれぞれつながる複数の燃料分岐路を含む燃料供給路と、前記複数の燃料分岐路にそれぞれ設けられた複数の遮断弁と、を備える、ことを特徴とする。
【0033】
上記の構成によれば、シリンダカットを行うときに、シリンダカットの対象となるシリンダに対応する遮断弁を開状態から閉状態に切り換えれば、燃料噴射弁からの水素の漏れを防ぐことができる。遮断弁は燃料噴射弁とは異なり、流路の完全な遮断が可能であるためである。
【0034】
上記のガスエンジンシステムは、前記複数の遮断弁と前記複数の燃料噴射弁との間で前記複数の燃料分岐路から分岐する複数の放出路と、前記複数の放出路にそれぞれ設けられた複数の放出弁と、をさらに備えてもよい。この構成によれば、シリンダカットを行うときに、シリンダカットの対象となるシリンダに対応する遮断弁を開状態から閉状態に切り換えるとともに、シリンダカットの対象となるシリンダに対応する放出弁を閉状態から開状態に切り換えれば、燃料分岐路における遮断弁と燃料噴射弁との間の部分に残存する水素を放出することができる。これにより、万が一の事態が起きても、燃料分岐路を介した燃料主流路への延焼を防ぐことができる。
【0035】
上記のガスエンジンシステムは、前記複数のシリンダから排ガスを排出する排気路と、前記排気路に設けられた、排ガス中の水素濃度を検出する検出器と、をさらに備えてもよい。この構成によれば、燃料噴射弁および/または点火装置の故障の有無を検知することができる。その結果、安全面の向上が期待できる。
【符号の説明】
【0036】
1 ガスエンジンシステム
3 給気路
4 ガスエンジン
41 シリンダ
5 排気路
6 燃料噴射弁
7 燃料供給路
71 燃料主流路
73 燃料分岐路
74 遮断弁
75 放出路
76 放出弁
91 検出器
図1
図2