(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180758
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】推進システムと推進方法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/093 20060101AFI20221130BHJP
E21D 9/06 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
E21D9/093 H
E21D9/06 302E
E21D9/06 311A
E21D9/093 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087430
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】西岡 尊寿
(72)【発明者】
【氏名】岩下 篤
(72)【発明者】
【氏名】室賀 大二郎
(72)【発明者】
【氏名】日▲高▼ 直俊
(72)【発明者】
【氏名】亀田 佳明
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054AA02
2D054AA03
2D054AA04
2D054AB05
2D054AC18
2D054AD02
2D054AD16
2D054AD27
2D054GA04
2D054GA25
2D054GA62
2D054GA63
(57)【要約】
【課題】掘進機と後続の推進函体群が少なくとも曲線区間を備える推進方向に推進される推進施工において、掘進機が方向制御する際の蛇行を抑制できる推進システムと推進方法を提供する。
【解決手段】掘進機10が姿勢制御を行いながら掘進し、掘進機10の掘進方向後方に連接する複数の推進函体30,30A,30Bからなる推進函体群50が推進される、推進システム100であり、方向制御ジャッキ18を備えている掘進機10と、推進函体群50と、掘進機10と推進函体群50を推進させる、推進ジャッキを備えた推進装置60とを有し、推進函体群50のうち、推進方向の異なる少なくとも二箇所において、地盤Gに反力を取るグリッパ装置40が設けられている。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘進機が姿勢制御を行いながら掘進し、該掘進機の掘進方向後方に連接する複数の推進函体からなる推進函体群が推進される、推進システムであって、
方向制御ジャッキを備えている前記掘進機と、
前記推進函体群と、
前記掘進機と前記推進函体群を推進させる、推進ジャッキを備えた推進装置とを有し、
前記推進函体群のうち、推進方向の異なる少なくとも二箇所において、地盤に反力を取るグリッパ装置が設けられていることを特徴とする、推進システム。
【請求項2】
前記掘進機の後端にあって、前記推進函体群の推進方向の最前に位置する最前推進函体が、該推進方向の異なる少なくとも二箇所において、前記グリッパ装置を備えていることを特徴とする、請求項1に記載の推進システム。
【請求項3】
前記掘進機の後端にあって、前記推進函体群の推進方向の最前に位置する最前推進函体と、該最前推進函体の後方に位置する少なくとも一基の前記推進函体が前記グリッパ装置を備えていることを特徴とする、請求項1に記載の推進システム。
【請求項4】
前記推進函体群は推進方向において少なくとも曲線区間を有しており、
前記グリッパ装置は、前記曲線区間の径方向外側と径方向内側にある、第一グリッパ装置と第二グリッパ装置を含み、
推進方向の異なる少なくとも二箇所にあるそれぞれの前記グリッパ装置が、相互に独立して制御自在であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の推進システム。
【請求項5】
前記掘進機が可動そりを備えていることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の推進システム。
【請求項6】
前記グリッパ装置は、シリンダと、該シリンダから突出自在なロッドと、該ロッドの先端に取り付けられている受圧版とを有することを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の推進システム。
【請求項7】
掘進機が姿勢制御を行いながら掘進し、該掘進機の掘進方向後方に連接する複数の推進函体からなる推進函体群が、少なくとも曲線区間を備える推進方向に推進される、推進方法であって、
前記掘進機は方向制御ジャッキを備え、該掘進機の掘進方向後方に前記推進函体群があり、該掘進機と該推進函体群を推進させる、推進ジャッキを備えた推進装置があり、前記推進函体群のうち、推進方向の異なる少なくとも二箇所において、地盤に反力を取るグリッパ装置が設けられており、
前記掘進機による掘進と、前記推進ジャッキによるジャッキ推力により、前記推進函体群を地盤内に推進させ、
前記曲線区間における前記掘進機の方向制御の際は、前記異なる少なくとも二箇所に設けられている前記グリッパ装置にて地盤に反力を取りながら前記掘進機の方向制御と推進を行い、次いで、前記グリッパ装置による地盤への固定を解除し、前記推進ジャッキのジャッキ推力により前記推進函体群を推進させることを特徴とする、推進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推進システムと推進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
推進工法では、複数の推進函体同士をリング継手(一方の推進函体の端部に他方の推進函体の端部を差し込む形態や、ボルト接合等される形態)を介して接続することにより、地中に推進函体群を施工する。
推進函体群の縦断線形には、直線線形の他、円形や複数の曲率を有する曲線線形、直線と曲線が混在した線形等、様々な縦断線形が存在するが、縦断線形の中に少なくとも曲線区間(曲線線形)を備えた推進函体群の推進においては、曲線区間において、掘進機と後続の推進函体群のスムーズな推進を図るべく、掘進機のカッタヘッドの側方からコピーカッタを地中に張り出して余掘りを行い、余掘り部に滑材を充填しながら掘進機の掘進と推進函体群の推進を行う施工方法が一般的である。この際、余掘り部に充填されている滑材の中に掘進機が存在することから、掘進過程で掘進機が蛇行する恐れがある。
縦断方向の曲線線形が鉛直面内における曲線線形の場合には、余掘り部の滑材の中で、上昇しながら曲線区間を掘進する掘進機には、自重に加えて後続の推進函体群の重量が作用することから、掘進機の蛇行は一層顕著になる。
仮に、掘進機が方向制御ジャッキ(もしくは推進ジャッキ)を備え、掘進方向の変更を自身の方向制御ジャッキにて実行可能な形態であっても、上記するように鉛直面内の曲線区間において掘進過程の掘進機が方向制御する際には、掘進機の蛇行を抑制することは困難である。このことは、可動そりによって自身のピッチングやローリングの修正を行いながら姿勢制御を可能にした掘進機においても同様である。
【0003】
例えば、鉛直面内において単円の円周トンネルを推進工法により施工する場合に、掘進機が円周トンネルの頂部にさしかかり、頂部を超えて降下曲線区間に移行しようとする際に、掘進機には自身の自重と後方の推進函体群の重量が最大限作用し得ることになり、余掘り部に充填された滑材の中で最も掘進機の蛇行抑制が困難な施工区間となり得ることが本発明者等により特定されている。
以上のことから、掘進機と後続の推進函体群が少なくとも曲線区間を備える推進方向に推進される推進施工において、掘進機が方向制御する際の蛇行を抑制できる推進システムと推進方法が望まれる。
【0004】
ここで、特許文献1には、軟弱地盤と硬質地盤の双方のトンネル施工仕様に対応して仕様切り替えが可能なトンネル掘削機が提案されている。具体的には、トンネル掘削機が、円筒状をなす掘削機本体と、トンネル軸方向後方に向けて伸長することにより掘削機本体を前進させるシールドジャッキと、シールドジャッキの反力を受ける反力受け構造体と、トンネルの坑壁に押し付けられることにより反力受け構造体をトンネルの坑壁に固定するメイングリッパ装置とを備え、シールドジャッキと反力受け構造体とを連結可能とし、シールドジャッキの短縮によって反力受け構造体とメイングリッパ装置をトンネル軸方向前方に向けて引き込むようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のトンネル掘削機では、メイングリッパ装置が鋼殻の上下に一対のグリッパ用ジャッキを備え、それぞれのグリッパ用ジャッキはトンネル幅方向に伸縮可能に構成されている。すなわち、トンネルの縦断方向(推進工法では、推進方向)においては、縦断方向に直交する一つの断面(推進方向の一箇所)において、上下に一対のグリッパ用ジャッキが張り出す構成となっており、従って、仮に上記するように鉛直面内における円周トンネルにこのトンネル掘削機を適用したとしても、縦断方向の一つの断面(推進方向の一箇所)において、グリッパ用ジャッキが地盤から反力を取ることができるに過ぎず、掘進機が掘進方向を変更する方向制御の際に課題となる蛇行を十分に抑制できるとは言い難い。
【0007】
本発明は、掘進機と後続の推進函体群が少なくとも曲線区間を備える推進方向に推進される推進施工において、掘進機が方向制御する際の蛇行を抑制できる推進システムと推進方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成すべく、本発明による推進システムの一態様は、
掘進機が姿勢制御を行いながら掘進し、該掘進機の掘進方向後方に連接する複数の推進函体からなる推進函体群が推進される、推進システムであって、
方向制御ジャッキを備えている前記掘進機と、
前記推進函体群と、
前記掘進機と前記推進函体群を推進させる、推進ジャッキを備えた推進装置とを有し、
前記推進函体群のうち、推進方向の異なる少なくとも二箇所において、地盤に反力を取るグリッパ装置が設けられていることを特徴とする。
【0009】
本態様によれば、方向制御ジャッキを備えている掘進機の後方にある推進函体群のうち、推進方向の異なる少なくとも二箇所において、地盤に反力を取るグリッパ装置が設けられていることにより、掘進機の後方の推進函体群において推進方向(縦断方向)の二箇所で地盤に反力を取ることができ、地盤に反力を取った推進函体群に掘進機が反力を取りながら方向制御を実行できるため、方向制御の際の掘進機の蛇行を抑制しながら推進施工を行うことが可能になる。
ここで、「推進方向の異なる少なくとも二箇所」とは、推進方向の異なる二箇所以上を意味しており、かつ、推進函体群が地盤に反力を取ることができる複数箇所を意味している。例えば、上記する鉛直面内にある円周トンネルにおいては、掘進機の位置によって、地盤に反力を取ることができる二箇所のグリッパ装置の形態が相違する。
【0010】
具体的には、円周トンネルの頂部近傍(円周トンネルの12時近傍の位置)では、掘進機の後方近傍位置にある一方のグリッパ装置のグリッパを径方向内側(下方)に張り出し、その後方の他方の位置にあるグリッパ装置のグリッパを径方向外側(上方)に張り出すことにより、二つのグリッパ装置にて推進函体群の蛇行が抑制される。すなわち、このケースでは、推進方向の二箇所は、より具体的には、前方箇所が一つの推進函体の下方位置となり、後方箇所が例えば他の一つの推進函体の上方位置となる。
他の例として、例えば、鉛直面内にある円周トンネルにおいて掘進機が6時の位置から3時の位置に向かって掘進している際には、掘進機の後方近傍位置にある一方のグリッパ装置のグリッパを径方向外側へ張り出し、その後方の他方の位置にあるグリッパ装置のグリッパを径方向内側へ張り出すことにより、二つのグリッパ装置にて推進函体群の蛇行が抑制される。
さらに他の例として、水平面内にある円周トンネルにおいても、掘進機の後方近傍位置にある一方のグリッパ装置のグリッパを径方向外側へ張り出し、その後方の他方の位置にあるグリッパ装置のグリッパを径方向内側へ張り出すことにより、二つのグリッパ装置にて推進函体群の蛇行が抑制される。
このように、曲線区間が鉛直面内にある場合と水平面内にある場合や、曲線区間における掘進機の位置等により、推進函体群が地盤に有効な反力を取るための、各グリッパ装置から張り出されるグリッパの張り出し方向は相違し、「推進方向の異なる少なくとも二箇所」はこのグリッパの張り出し方向を含む意味である。
【0011】
グリッパ装置を備えた推進函体において、グリッパは、推進函体の上下に張り出す形態、推進函体の左右に張り出す形態などがあり、必要に応じて上下左右に張り出す形態であってもよい。また、例えば上下に張り出す形態を取り上げた場合に、上下にそれぞれ複数のグリッパが張り出すことにより、地盤に対してより効果的に反力を取ることができる。例えば、推進函体の正面視形状が横長矩形である場合は、推進函体の横長の上下の側面にそれぞれ、間隔を置いて複数のグリッパが張り出すことにより、推進函体の横長の上下の側面の可及的全域において地盤から反力を取ることが可能になる。また、複数のグリッパが張り出すことによって受圧面積を大きくすることができ、地盤に対して効果的に反力を取ることが可能になる。
【0012】
推進システムを構成する推進装置には、元押しジャッキを備えている元押し装置や、この元押し装置に加えて、中押しジャッキを備えている中押し装置が含まれる。また、掘進機の方向制御ジャッキが推進ジャッキとしても機能する場合は、方向制御ジャッキも推進装置に含まれる。また、掘進機は、例えば前胴と後胴を有し、後胴が方向制御ジャッキ(もしくは推進ジャッキ)を備えている形態等を挙げることができる。
【0013】
また、本発明による推進システムの他の態様は、
前記掘進機の後端にあって、前記推進函体群の推進方向の最前に位置する最前推進函体が、該推進方向の異なる少なくとも二箇所において、前記グリッパ装置を備えていることを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、推進函体群を構成する一基の推進函体が、推進方向の異なる少なくとも二箇所にグリッパ装置を備えていることにより、複数の推進函体のグリッパ装置の同時制御に比べて制御が容易となる。また、掘進機の後端にあって推進函体群の最前に位置する最前推進函体がグリッパ装置を備えていることにより、掘進機の方向制御に際して最も効果的に地盤に反力を取ることができる。
【0015】
また、本発明による推進システムの他の態様は、
前記掘進機の後端にあって、前記推進函体群の推進方向の最前に位置する最前推進函体と、該最前推進函体の後方に位置する少なくとも一基の前記推進函体が前記グリッパ装置を備えていることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、相互に離れた位置にある例えば二基の推進函体がグリッパ装置を備えていることにより、推進函体の推進方向の長さが短い場合でも、地盤に反力を取るのに有効な離間をもって複数(例えば二つ)のグリッパ装置にて推進函体群を地盤に固定することができる。また、グリッパ装置を備える一方の推進函体が、掘進機の後端にあって推進函体群の最前に位置する最前推進函体であることから、上記するように掘進機の方向制御に際して最も効果的に地盤に反力を取ることができる。
【0017】
また、本発明による推進システムの他の態様において、
前記推進函体群は推進方向において少なくとも曲線区間を有しており、
前記グリッパ装置は、前記曲線区間の径方向外側と径方向内側にある、第一グリッパ装置と第二グリッパ装置を含み、
推進方向の異なる少なくとも二箇所にあるそれぞれの前記グリッパ装置が、相互に独立して制御自在であることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、グリッパ装置が、曲線区間の径方向外側と径方向内側にそれぞれグリッパを出没させる、第一グリッパ装置と第二グリッパ装置を含んでいることにより、曲線区間におけるグリッパ装置の位置に応じて、地盤に対して有効な反力を取るのに適した位置にあるグリッパを選択的に張り出させることが可能になる。また、推進方向の異なる少なくとも二箇所にあるそれぞれのグリッパ装置が、相互に独立して制御されることにより、各グリッパ装置のグリッパの張り出し方向や張り出し量を所望に調整することができる。ここで、各グリッパ装置は独立して制御されるものの、地盤に対して有効な反力を取るべく、各グリッパ装置の張り出し方向や張り出し量、張り出しのタイミングは相互に関連した制御が実行される。
【0019】
また、本発明による推進システムの他の態様は、
前記掘進機が可動そりを備えていることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、掘進機が方向制御ジャッキに加えて可動そりを備えていることにより、より一層方向制御性能に優れ、自身のピッチングやローリングに対して臨機に修正可能な掘進機となる。曲線区間では、後方の推進函体群の備える複数のグリッパ装置にて地盤に反力を取りながら、掘進機は、方向制御ジャッキと可動そりのいずれか一方を可動させ、もしくは双方を可動させて、方向制御を行うことができる。
【0021】
また、本発明による推進システムの他の態様において、
前記グリッパ装置は、シリンダと、該シリンダから突出自在なロッドと、該ロッドの先端に取り付けられている受圧版とを有することを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、グリッパ装置が、シリンダからロッド(グリッパ)を突出させて、ロッドの先端に受圧版を備えていることから、受圧面積を大きくできることにより地盤から効果的に反力を取ることができる。また、受圧版の平面積を調整することで、地耐力が小さな地盤からも所望の反力を取ることが可能になることから、例えば施工対象の地盤が軟弱地盤の場合に特に効果的となる。
【0023】
また、本発明による推進方法の一態様は、
掘進機が姿勢制御を行いながら掘進し、該掘進機の掘進方向後方に連接する複数の推進函体からなる推進函体群が、少なくとも曲線区間を備える推進方向に推進される、推進方法であって、
前記掘進機は方向制御ジャッキを備え、該掘進機の掘進方向後方に前記推進函体群があり、該掘進機と該推進函体群を推進させる、推進ジャッキを備えた推進装置があり、前記推進函体群のうち、推進方向の異なる少なくとも二箇所において、地盤に反力を取るグリッパ装置が設けられており、
前記掘進機による掘進と、前記推進ジャッキによるジャッキ推力により、前記推進函体群を地盤内に推進させ、
前記曲線区間における前記掘進機の方向制御の際は、前記異なる少なくとも二箇所に設けられている前記グリッパ装置にて地盤に反力を取りながら前記掘進機の方向制御と推進を行い、次いで、前記グリッパ装置による地盤への固定を解除し、前記推進ジャッキのジャッキ推力により前記推進函体群を推進させることを特徴とする。
【0024】
本態様によれば、曲線区間における掘進機の方向制御の際に、推進函体群において推進方向の異なる少なくとも二箇所に設けられているグリッパ装置にて地盤に反力を取りながら掘進機の方向制御と推進を行い、次いで、グリッパ装置による地盤への固定を解除し、元押し装置や中押し装置等の推進ジャッキのジャッキ推力によって、後方のグリッパ装置を含めた推進函体群を推進させることにより、方向制御の際の掘進機の蛇行を抑制しながら推進施工を行うことが可能になる。この際、掘進機の可動ソリを張り出したままにすることにより、掘進機の蛇行をより一層抑制することができる。本態様の推進方法は、上記するように、余掘り部の滑材の内部にある掘進機の方向制御の際に生じ得る蛇行抑制が最も困難なケースの一つである、鉛直面内における円周トンネルの推進施工に好適である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の推進システムと推進方法によれば、掘進機と後続の推進函体群が少なくとも曲線区間を備える推進方向に推進される推進施工において、掘進機が方向制御する際の蛇行を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施形態に係る推進システムの全体構成を説明する図であって、施工対象の鉛直面内における円周トンネルをともに示した図である。
【
図2】グリッパ装置を備えた推進函体の一例を示す斜視図である。
【
図5】制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図7】実施形態に係る推進方法の一例を示す工程図である。
【
図8】
図7に続いて実施形態に係る推進方法の一例を示す工程図である。
【
図9】
図8に続いて実施形態に係る推進方法の一例を示す工程図である。
【
図10】
図9に続いて実施形態に係る推進方法の一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、実施形態に係る推進システムと推進方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0028】
[実施形態に係る推進システム]
はじめに、
図1乃至
図6を参照して、実施形態に係る推進システムの一例について説明する。ここで、
図1は、実施形態に係る推進システムの全体構成を説明する図であって、施工対象の鉛直面内における円周トンネルをともに示した図である。また、
図2は、グリッパ装置を備えた推進函体の一例を示す斜視図であり、
図3は、グリッパ装置の内部構成を示す図であり、
図4は、
図1のIV部の拡大図である。
【0029】
図1に示すように、地中Gにおいて施工済みの本線トンネルHT(例えば本線シールドトンネル)と、その側方にあるランプトンネルRT(例えばランプシールドトンネル)とを地中で接続して拡幅するに当たり、ランプトンネルRTを利用してその下方に鉛直に延設する立坑Tを施工する。尚、この立坑は、鉛直方向でなく、斜め下方に延設する形態であってもよい。
【0030】
立坑Tは、鉛直方向に所定間隔で配設される切梁Kにより、土圧や土水圧を支保しながら所定深度まで造成され、立坑Tの下方に反力架台Sを設置し、反力架台Sに対して元押しジャッキを備える元押し装置60を設置する。
【0031】
ランプトンネルRTから立坑Tを介して、元押し装置60の前方に推進函体30が順次吊り下ろされ、推進方向前方に位置する掘進機10の後方において複数の推進函体30が連接され、複数の推進函体30により形成される推進函群50が地中GをX1方向に推進されることにより、鉛直面内にある円周トンネルCTが施工される。
【0032】
図示例の円周トンネルCTは、本線トンネルHTとランプトンネルRTを包囲する単円であるが、楕円形やトラック状など、多様な縦断線形のトンネルであってよく、少なくとも曲線区間を有していればよい。施工された円周トンネルCTを起点として、不図示の複数の掘進機が拡幅区間に亘って複数のシールドトンネルを数珠つなぎ状に施工する。例えば、間隔を置いて複数の先行シールドトンネルが施工された後、隣接する先行シールドトンネルの一部を切削しながらそれらの間に後行シールドトンネルが施工され、隣接する先行シールドトンネルと後行シールドトンネルの内部に鉄筋コンクリート製の大断面環状体を施工することにより、この大断面環状体(大断面トンネル)を土留めに適用しながら大断面トンネル内を掘削し、本線トンネルHTとランプトンネルRTを相互に連通することによって拡幅部が施工される。
【0033】
推進システム100は、掘進機10と、推進函体群50と、元押し装置60(推進装置の一例)とを有する。推進函体群50は、掘進機10の後端にあって、推進函体群50の推進方向の最前に位置する最前推進函体30Aがグリッパ装置40を備え、さらに、最前推進函体30Aの後方に位置する(図示例は後方六番目)の推進函体30Bがグリッパ装置40を備えている。すなわち、推進函体群50は、推進方向の異なる少なくとも二箇所において、地盤Gに反力を取るグリッパ44(
図3参照)を出没自在とするグリッパ装置40が設けられている。
【0034】
尚、推進函体群に含まれるグリッパ装置40を備えた推進函体30A,30Bは、任意の位置に三基以上設けられてもよいが、少なくとも推進函体群50の最前にある推進函体30Aがグリッパ装置40を備えていることにより、掘進機10の方向制御の際に地盤Gから反力を効果的に取ることができ、方向制御の際に掘進機10は推進函体群50に対して反力を取り易くなる。また、例えば、推進函体群50の最前に位置する推進函体が、推進方向の異なる二箇所にグリッパ装置40を備えていてもよく、この場合は、推進方向の二箇所で地盤Gから有効に反力を取るべく、最前の推進函体の中で推進方向にある程度の離間を有してそれぞれのグリッパ装置40を配置するのがよく、そのために当該推進函体群が推進方向にある程度の長さを有しているのが好ましい。
【0035】
また、図示例は、元押し装置60が推進装置であるが、推進函体群の中に中押しジャッキを備えた中押し装置(図示せず)が介在する場合は、元押し装置60と中押し装置が推進装置を構成する。
【0036】
図2に示すように、グリッパ装置40を備える推進函体30Aは、正面視矩形で横長の鋼殻31の内部において、鋼殻31の径方向外側面32から円周トンネルCTの径方向外側にグリッパ44をX2方向に出没自在な複数(図示例は四つ)の第一グリッパ装置40Aと、鋼殻31の径方向内側面33から円周トンネルCTの径方向内側にグリッパ44をX3方向に出没自在な複数(図示例は四つ)の第二グリッパ装置40Bとを有する。
【0037】
ここで、推進函体30Aの備える第一グリッパ装置40Aと第二グリッパ装置40Bの数や配置形態は図示例に限定されない。また、図示を省略するが、グリッパ装置40を備えていない一般の推進函体30は、
図2に示す鋼殻31を備え、鋼殻31の内部において、径方向外側面32と径方向内側面33を繋ぐ複数の隔壁を備えている。
【0038】
図示例のように、正面視矩形で横長の鋼殻31の径方向外側面32と径方向内側面33において、複数の第一グリッパ装置40Aと第二グリッパ装置40Bからグリッパ44を張り出すことにより、地盤Gから効果的に反力を取ることができる。
【0039】
図3に示すように、グリッパ装置40は、シリンダ41と、シリンダ41から突出自在なロッド42と、ロッド42の先端に取り付けられている受圧版43とを有し、ロッド42と受圧版43によりグリッパ44が構成される。グリッパを構成するロッド42は、シリンダ41に内包される油圧ジャッキである。
【0040】
受圧版43の平面積は、施工対象の地盤Gの地耐力と、地盤Gから取る反力との関係に基づいて設定されるのが好ましい。図示例のようにロッド42に比べて平面積の大きな受圧版43を介して地盤Gに反力を取ることにより、地耐力が小さい場合でも受圧版43の受圧面積を調整することで所望の反力を得ることができるため、例えば施工対象地盤が軟弱地盤の場合であっても、地盤改良を行うことなく地盤に反力を取って掘進機10の方向制御を行うことが可能になる。
【0041】
図1に示すように、掘進機10が鉛直面内における円周トンネルCTの頂部(12時)にさしかかり、頂部を超えて降下曲線区間に移行しようとする際に、掘進機10には自身の自重と後方の推進函体群50の重量が最大限作用し得ることになり、方向制御の際に蛇行が生じ得る。このことを、
図1のIV部の拡大図である
図4を参照して説明する。
【0042】
図4に示すように、掘進機10の後端にあって、推進函体群50の推進方向の最前に位置する最前推進函体30Aと、最前推進函体30Aの後方六基目に位置する推進函体30Bがグリッパ装置40を備えている。
【0043】
図示例の掘進機10は、前胴11と後胴12を有し、前胴11は前面にカッタヘッド15を備え、後胴12は方向制御ジャッキ18を備えている。また、カッタヘッド15の内部には、その側方から不図示のコピーカッタが出入り自在に内蔵されており、曲線区間に入る際に地中Gにコピーカッタを張り出して余掘りを行い、余掘り部Eに対して滑材Uを充填することにより、掘進機10と後続の推進函体群50の曲線区間におけるスムーズな推進を図ることができる。また、図示を省略するが、掘進機10は、自身のピッチングやローリングの修正を行う際に地中に張り出し自在な、複数の可動そりを備えていてもよい。
【0044】
曲線区間におけるスムーズな推進を可能にするべく、余掘り部Eを造成して滑材Uを充填する一方で、滑材Uの中において図示例のように鉛直斜め上方へ上昇しながら曲線区間を掘進する掘進機10には、自重W1に加えて後続の推進函体群50の重量W2が最大限作用し得る。そして、これらの作用荷重により、曲線区間の推進方向へ随時方向制御を図る掘進機10には、カッタヘッド15を下方へ落ち込ませようとする方向の回転モーメントMが作用し、この回転モーメントMによって掘進機10は往々にして蛇行する。また、図示を省略するが、掘進機10が円周トンネルCTの縦断線形における
図1及び
図4以外の位置にある場合においても、作用荷重の大きさとこれに起因する回転モーメントの大きさは掘進機10の位置に応じて相違するものの、作用する自重と後続の推進函体群50の重量に起因する回転モーメントによって掘進機10が蛇行し易くなることに変わりは無い。
【0045】
そこで、図示例の円周トンネルCTの頂部においては、最前推進函体30Aの第二グリッパ装置40Bから、円周トンネルCTの径方向内側(下方)にグリッパ44を突出させ、滑材Uを超えて地盤Gに反力R1を取るとともに、後方の推進函体30Bの第一グリッパ装置40Aから、円周トンネルCTの径方向外側(上方)にグリッパ44を突出させ、滑材Uを超えて地盤Gに反力R2を取る制御が実行される。
【0046】
このように、推進函体群50が、掘進機10の近傍において、推進方向の二箇所で円周トンネルCTの径方向外側と径方向内側にグリッパ44を突出させて地盤Gに反力R1,R2を取ることにより、まず、推進函体群50を地盤Gに固定することができる。そして、地盤Gに固定された推進函体群50に掘進機10が反力を取りながら方向制御ジャッキ18を作動することにより、掘進機10が余掘り部Eの滑材Uの中に存在しながらも、作用する回転モーメントMに抗しながら所望の推進方向に方向制御を行いながら掘進することが可能になる。また、上記するように、掘進機10の後端にある最前推進函体30Aが地盤Gに反力を取ることから、推進函体群50が地盤Gから反力を効果的に取ることができ、方向制御の際に掘進機10は推進函体群50に対して反力を取り易くなる。
【0047】
掘進機10が図示例とは異なる位置にある場合には、地盤Gから有効な反力を取るべく、最前推進函体30Aの第一グリッパ装置40Aから径方向外側にグリッパ44を張り出し、後方の推進函体30Bの第二グリッパ装置40Bから径方向内側にグリッパ44を張り出すケースもある。また、推進函体群50をより安定的に地盤Gに固定するべく、推進函体群が推進方向に三基以上のグリッパ装置40を備えた推進函体を備えていてもよい。
【0048】
図2に示すように、推進函体30A(30B)が径方向外側と径方向内側の双方にグリッパ44を突出自在な第一グリッパ装置40Aと第二グリッパ装置40Bを備えていることにより、円周トンネルCTの場所に応じて、地盤Gに反力を取るのに好適な第一グリッパ装置40Aと第二グリッパ装置40Bのいずれか一方からグリッパ44を張り出すことが可能になる。
【0049】
推進システム100では、その構成要素である推進装置60が立坑T内にある元押し装置であるとして既に説明しているが、掘進機10の備える方向制御ジャッキ18も推進ジャッキに含めて、元押しジャッキとともに推進装置60を構成するとしてもよい。
【0050】
掘進機10は、方向制御ジャッキ18の制御に加えて、後方にある二基の推進函体30A,30Bのそれぞれのグリッパ装置40を同時制御する制御装置20を備える。尚、方向制御ジャッキ18を制御する制御装置を掘進機10が備え、推進函体30Aの各グリッパ装置40を同時制御する別の制御装置を立坑Tや地上の管理棟(図示せず)等が備えていてもよい。
【0051】
二基の推進函体30A,30Bのそれぞれのグリッパ装置40(第一グリッパ装置40A、第二グリッパ装置40B)は、制御装置20によって独立して制御されるが、地盤Gに対してそれぞれ有効な反力R1,R2を取るべく、各グリッパ装置40の張り出し方向や張り出し量、張り出しのタイミングは、相互に関連する態様で制御装置20により制御される。
【0052】
ここで、
図5及び
図6を参照して、掘進機10が内部に備える制御装置20について説明する。
図5は、制御装置のハードウェア構成の一例を示す図であり、
図6は、制御装置の機能構成の一例を示す図である。
【0053】
図5に示すように、制御装置20は、パーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer)等の情報処理装置(コンピュータ)により構成される。制御装置20を構成するコンピュータは、接続バス26により相互に接続されているCPU(Central Processing Unit)21、主記憶装置22、補助記憶装置23、入出力IF(interface)24、及び通信IF25を備えている。主記憶装置22と補助記憶装置23は、コンピュータが読み取り可能な記録媒体である。尚、上記の構成要素はそれぞれ個別に設けられてもよいし、一部の構成要素を設けないようにしてもよい。
【0054】
CPU21は、MPU(Microprocessor)やプロセッサとも呼ばれ、CPU21は、単一のプロセッサであってもよいし、マルチプロセッサであってもよい。CPU21は、コンピュータからなる制御装置20の全体の制御を行う中央演算処理装置である。CPU21は、例えば、補助記憶装置23に記憶されたプログラムを主記憶装置22の作業領域にて実行可能に展開し、プログラムの実行を通じて周辺機器の制御を行うことにより、所定の目的に合致した機能を提供する。
【0055】
主記憶装置22は、CPU21が実行するコンピュータプログラムや、CPU21が処理するデータ等を記憶する。主記憶装置22は、例えば、フラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を含む。補助記憶装置23は、各種のプログラム及び各種のデータを読み書き自在に記録媒体に格納し、外部記憶装置とも呼ばれる。補助記憶装置23には、例えば、OS(Operating System)、各種プログラム、各種テーブル等が格納される。OSは、例えば、通信IF25を介して接続される外部装置等とのデータの受け渡しを行う通信インターフェースプログラムを含む。外部装置等には、例えば、元押し装置60の備える元押しジャッキ、推進函体30A,30Bの備えるグリッパ装置40の他、ネットワークに接続する管理棟にある設計担当者等の有するパーソナルコンピュータ(図示せず)等が含まれる。
【0056】
補助記憶装置23は、例えば、主記憶装置22を補助する記憶領域として使用され、CPU21が実行するコンピュータプログラムや、CPU21が処理するデータ等を記憶する。補助記憶装置23は、不揮発性半導体メモリ(フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM))を含むシリコンディスク、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)装置、ソリッドステートドライブ装置等である。また、補助記憶装置23として、CDドライブ装置、DVDドライブ装置、BDドライブ装置といった着脱可能な記録媒体の駆動装置が例示され、着脱可能な記録媒体として、CD、DVD、BD、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)メモリカード等が例示される。
【0057】
入出力IF24は、制御装置20に接続する機器との間でデータの入出力を行うインターフェイスである。入出力IF24には、例えば、キーボード、タッチパネルやマウス等のポインティングデバイス、マイクロフォン等の入力デバイス等が接続する。制御装置20は、入出力IF24を介して、入力デバイスを操作する操作者からの操作指示等を受け付ける。
【0058】
また、入出力IF24には、例えば、液晶パネル(LCD:Liquid Crystal Display)や有機ELパネル(EL:Electroluminescence)等の表示デバイス、プリンタ、スピーカ等の出力デバイスが接続される。例えば、掘進機10は、カッタヘッド15において切羽圧力を計測する圧力計を備え、前胴11と後胴12の鋼殻の周囲にも圧力計を備えており、制御装置20には、各圧力計から随時送信される切羽圧力に関する計測データや、前胴11と後胴12の周面に作用する土圧に関する計測データが送信され、表示されるようになっている。また、掘進機10が内部に備えるジャイロ等の位置センサから、掘進機10の現在位置が随時制御装置20に送信され、掘進機10の計画推進線形と実際の推進線形が同画面に表示され、三次元的なずれが随時表示されるようになっている。
【0059】
通信IF25は、制御装置20が接続するネットワークとのインターフェイスである。通信IF25は、インターネット等の公衆ネットワーク、携帯電話網等の無線ネットワーク、VPN(Virtual Private Network)等の専用ネットワーク、LAN(Local Area Network)等、様々なネットワークを介して、元押し装置60や推進函体30A,30Bの備えるグリッパ装置40に対して制御信号を送信し、管理棟等におけるパーソナルコンピュータ等に対して、各種センサにより計測される計測データや制御装置20による各装置の制御内容(制御対象の元押しジャッキ60のストローク量、制御対象の推進函体30A,30Bの備えるグリッパ装置40のグリッパ44の張り出し量や双方の張り出しのタイミング、グリッパ44の張り出しにより得られる地盤Gからの反力等)に関するデータを送信する。
【0060】
図6に示すように、制御装置20は、CPU21によるプログラムの実行により、少なくとも、入力部202、演算部204、駆動制御部206、及び格納部208の各種機能を提供する。ここで、上記処理機能の少なくとも一部が、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)等によって提供されてもよく、同様に、上記処理機能の少なくとも一部が、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、数値演算プロセッサ、画像処理プロセッサ等の専用LSI(large scale integration)やその他のデジタル回路等であってもよい。
【0061】
入力部202には、圧力計により計測された、元押しジャッキ60によるジャッキ推力データ、カッタヘッド15に作用する切羽圧力に関する計測データ、前胴11と後胴12の周面に作用する土圧に関する計測データ、位置センサにより計測された掘進機10の現在位置データ等が随時入力され、入力部202を介して格納部208に随時格納される。
【0062】
また、入力部202には、円周トンネルが通過する各土層の物性値が入力され、各土層の摩擦係数μが格納部208に格納される。この摩擦係数μは、演算部204において推進装置60のジャッキ推力を算出するに当たり、推進函体群50の周面摩擦力を算出する際に用いられる。
【0063】
演算部204では、例えば、曲線区間において掘進機10が方向制御する際に、各圧力計による計測データに基づいて、掘進機10に作用する回転モーメント等を算出する。例えば、掘進機10が
図4に示す位置にある場合には、作用する回転モーメントMに抗しながら計画縦断線形に沿って掘進機10の方向制御を行うに当たり、後方の推進函体群50を推進方向の二箇所において反力R1,R2で地盤Gに固定するための、推進函体30Aの第一グリッパ装置40Aと推進函体30Bの第二グリッパ装置40Bの各グリッパ44の張り出し量等を算出する。
【0064】
また、演算部204では、推進函体群50の延長(全周面積)と、格納部208に格納されている推進函体群50が通過する各土層の摩擦係数μと、推進函体群50に取り付けられている圧力計による計測値とに基づいて周面摩擦力を都度算出し、算出された周面摩擦力に基づいて必要ジャッキ推力の演算を実行する。
【0065】
駆動制御部206では、演算部204による演算結果に基づき、掘進機10の方向制御の際は、推進函体30A,30Bの備える各グリッパ装置40に対して、所定のタイミングでグリッパ44を所定量張り出させる制御信号を送信する。一方、推進装置60のジャッキ推力によって掘進機10と推進函体群50を推進させる際は、演算部204にて演算された必要ジャッキ推力以上のジャッキ推力を発生させる制御信号を推進装置60に送信する。
【0066】
掘進機10の方向制御に関し、例えば、
図4に示す位置に掘進機10が存在する場合は、掘進機10を下方へ落ち込ませる回転モーメントMが掘進機10に作用することから、制御装置20により、まず、前方にある推進函体30Aの第一グリッパ装置40Aのグリッパ44を、径方向内側(下方)へ張り出させて地盤Gに反力を取って掘進機10の下方への落ち込みを抑制する制御を実行する。次いで、制御装置20により、後方にある推進函体30Bの第二グリッパ装置40Bのグリッパ44を、径方向外側(上方)へ張り出させて地盤Gに反力を取ることにより、推進函体群50の前方領域を地盤Gに固定する制御を実行する。この際、双方のグリッパ44により地盤Gから反力R1,R2を受けるべく、それぞれのグリッパ44の張り出し量と張り出しのタイミングは、制御装置20にて相互に関連しながら制御される。
【0067】
[実施形態に係る推進方法]
次に、
図7乃至
図10を参照して、実施形態に係る推進方法の一例について説明する。ここで、
図7乃至
図10は順に、実施形態に係る推進方法の一例を示す工程図である。
【0068】
図示例は、推進システム100を構成する掘進機10が、
図4に示すように円周トンネルCTの頂部もしくは頂部近傍にある場合を取り上げている。
図4を参照して既に説明したように、掘進機10には、作用する自重W1と推進函体群50の重量W2により、カッタヘッド15を下方へ落ち込ませようとする方向の回転モーメントMが生じ、この回転モーメントMにより、余掘り部Eの滑材Sの内部にある掘進機10を方向制御する際に、掘進機10には蛇行が生じ得る。
【0069】
そこで、蛇行を抑制しながら、計画縦断線形に沿って曲線区間を掘進機10が随時方向制御しながら推進するべく、まず、推進函体群50の最前にある最前推進函体30Aの備える第二グリッパ装置40Bから、グリッパ44を径方向内側(下方)へY1方向に張り出す。このグリッパ44の張り出しと同時に、もしくは所定時間経過後に、後方の推進函体30Bの備える第一グリッパ装置40Aから、グリッパ44を径方向外側(上方)へY2方向に張り出すことにより、推進函体群50を挟んで対角位置にある地盤Gの二箇所に反力を取って、推進函体群50の前方領域(掘進機10側の領域)を地盤Gに固定する。
【0070】
推進函体群50の前方領域を地盤Gに固定した後、
図8に示すように、径方向外側の方向制御ジャッキ18AをY3方向へ摺動させて縮め、径方向内側の方向制御ジャッキ18BをY4方向へ摺動させて伸長させることにより、回転モーメントMと逆向きの時計回りであるY5方向に掘進機10を引き上げ、回転モーメントMに起因する掘進機10の蛇行を修正もしくは抑制する。
【0071】
掘進機10の蛇行を修正もしくは抑制した上で、あらためて、上下の方向制御ジャッキ18(18A,18B)をそれぞれ所望に制御することにより、掘進機10を曲線区間の縦断線形に沿って方向制御する。図示例では、曲線区間の縦断線形に沿うように、径方向内側の方向制御ジャッキ18Bに比べて径方向外側の方向制御ジャッキ18Aを相対的に伸長させる制御や、あるいは、径方向内側の方向制御ジャッキ18Bのみを縮める制御等が実行される。
【0072】
掘進機10の方向制御に続いて、
図9に示すように、地盤Gに反力を取っていた最前推進函体30Aの第二グリッパ装置40Bのグリッパ44をY6方向に戻し(引き込み)、さらに、後方の推進函体30Bの第一グリッパ装置40Aのグリッパ44をY7方向に戻す(引き込む)ことにより、地盤Gに対する推進函体群50の固定を解除する。
【0073】
地盤Gに対する推進函体群50の固定を解除した後、
図10に示すように、方向制御ジャッキ18の一部もしくは全部を摺動させ(
図10では、径方向内側の方向制御ジャッキ18BのみをY8方向に摺動)、掘進機10の方向制御を図りながら、掘進機10のカッタヘッド15を作動させて掘進機10を掘進させ、推進装置60を作動させることにより、ジャッキ推力によって掘進機10と推進函体群50をX1方向へ推進させる。
【0074】
以後、円周トンネルCTの縦断線形の各位置において、地盤Gへの推進函体群50の固定と、当該位置において掘進機10に作用する外力(回転モーメント等)を解消するように方向制御ジャッキ18を駆動させて掘進機10の蛇行を抑制し、さらに方向制御ジャッキ18にて掘進機10を計画縦断線形に沿って方向制御した後、地盤Gへの推進函体群50の固定を解除し、推進装置60のジャッキ推力により、掘進機10と推進函体群50の推進を行うサイクルを繰り返し実行する。ジャッキ推力によって掘進機10が推進される過程においても、方向制御ジャッキ18による掘進機10の方向制御が随時実行される。
図1に示す円周トンネルCTの推進施工では、掘進機10が立坑Tに到達することにより、円周トンネルCTが推進施工される。
【0075】
上記推進方法は、掘進機10が備える制御装置20による各機器(方向制御ジャッキ18,グリッパ装置40、元押しジャッキ60等)の制御内容となる。
【0076】
図示例の推進方法によれば、推進システム100を適用することにより、少なくとも曲線区間を備える推進方向に、余掘り部Eの滑材Uの中にある掘進機10と推進函体群50を推進する際に、掘進機10の蛇行を抑制しながら、計画された縦断線形に沿って掘進機10を掘進させ、推進函体群50を推進させることができる。
【0077】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0078】
10:掘進機
11:前胴
12:後胴
15:カッタヘッド
18:方向制御ジャッキ(推進ジャッキ)
18A:径方向外側の方向制御ジャッキ
18B:径方向内側の方向制御ジャッキ
20:制御装置
30:推進函体
30A:最前推進函体(推進函体)
30B:推進函体
31:鋼殻
32:径方向外側面
33:径方向内側面
40:グリッパ装置
41:シリンダ
42:ロッド(ジャッキ)
43:受圧版
44:グリッパ
40A:第一グリッパ装置
40B:第二グリッパ装置
50:推進函体群
60:元押し装置(元押しジャッキ、推進装置)
100:推進システム
G:地盤(地中)
CT:円周トンネル
HT:本線トンネル
RT:ランプトンネル
T:立坑
K:切梁
S:反力架台
E:余掘り部
U:滑材
R1,R2:反力
M:回転モーメント