(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180774
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】内燃機関用潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20221130BHJP
C10M 129/54 20060101ALI20221130BHJP
C10M 159/22 20060101ALI20221130BHJP
C10M 171/02 20060101ALI20221130BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20221130BHJP
C10N 10/12 20060101ALN20221130BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20221130BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20221130BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M129/54
C10M159/22
C10M171/02
C10N10:04
C10N10:12
C10N30:00 Z
C10N40:25
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087450
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村本 朱
(72)【発明者】
【氏名】常岡 秀雄
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB24C
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104BG10C
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104DB06C
4H104EB08
4H104FA02
4H104FA06
4H104LA20
4H104PA41
(57)【要約】
【課題】良好な省燃費性能およびLSPIの低減効果を兼ね備えた内燃機関用潤滑油組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】(A)1種以上の鉱油系基油を含む、100℃における動粘度が2.5mm2/s以上4.0mm2/s以下である潤滑油基油、および
(B)組成物全量基準で0.1質量%以上10質量%以下のマグネシウムサリシレートを含む、内燃機関用潤滑油組成物であって、
150℃におけるHTHS粘度が、1.6mPa・s以上2.5mPa・s以下である、前記内燃機関用潤滑油組成物により、前記課題を解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1種以上の鉱油系基油を含む、100℃における動粘度が2.5mm2/s以上4.0mm2/s以下である潤滑油基油、および
(B)組成物全量基準で0.1質量%以上10質量%以下のマグネシウムサリシレート
を含む、内燃機関用潤滑油組成物であって、
150℃におけるHTHS粘度が、1.6mPa・s以上2.5mPa・s以下である、前記内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項2】
(B)マグネシウムサリシレートの含有量が、組成物全量基準で0.1質量%以上3.0質量%以下であり、そして
(C)粘度指数向上剤の含有量が、組成物全量基準で0.1質量%以上10質量%以下である、請求項1に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項3】
摩擦調整剤として、(D)モリブデン系摩擦調整剤を組成物全量基準で0.01質量%以上10質量%以下さらに含む、請求項1または2に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項4】
前記マグネシウムサリシレートの塩基価が、350mgKOH/g以下である、請求項1~3のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項5】
150℃におけるHTHS粘度が、1.6mPa・s以上2.0mPa・s以下である、請求項1~4のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項6】
以下の式(6)で計算するLSPI頻度指標が、0以下である、請求項1~5のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
式(6)
LSPI頻度指標=6.59×Ca-26.6×P-5.12×Mo+1.69
(式(6)中、Caは組成物中のカルシウム含有量(質量%)を表し、Pは組成物中のリン含有量(質量%)を表し、Moは組成物中のモリブデン含有量(質量%)を表す。)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用潤滑油組成物に関する。本発明は、詳細には、乗用車用の内燃機関用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用内燃機関には、小型高出力化、省燃費化、排ガス規制対応など、様々な要求がなされている。特に、自動車用内燃機関の燃費向上を目的として、エンジンのダウンサイジングターボ化が進んでいる。
【0003】
ダウンサイジングターボエンジンでは、通常のエンジンよりも高圧縮比となり、エンジンの低回転時における異常燃焼(LSPI:Low Speed Pre-Ignition(低速プレイグニッション))発生頻度の上昇が課題となっている(非特許文献1)。LSPIが発生するのは、内燃機関用潤滑油中のカルシウム系清浄剤が影響すると考えられている。このため、内燃機関用潤滑油の清浄性および中和性を維持するために、金属系清浄剤のうちの一部をマグネシウム系清浄剤に置き換えた内燃機関用潤滑油も開発されている(特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開第2017-105886号公報
【特許文献2】特開第2016-196667号公報
【0005】
【非特許文献1】Fujimoto, K.; Yamashita, M.; Hirano, S.; Kato, K. et al., "Engine Oil Development for Preventing Pre-Ignition in Turbocharged Gasoline Engine", SAE Int. J. Fuels Lubr. 7(3):2014, doi:10.4271/2014-01-2785.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、金属系清浄剤のうちマグネシウム系清浄剤が増加した場合にも燃費のさらなる向上が求められている。特許文献1および2に記載の内燃機関用潤滑油では、良好な省燃費性能およびLSPIの低減効果が得られない場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、省燃費性能およびLSPIの低減効果を兼ね備えた内燃機関用潤滑油組成物について、鋭意検討した。本発明者らは、検討の結果、内燃機関用潤滑油における150℃における特定のHTHS粘度と、金属系清浄剤としてマグネシウムサリシレートとを組み合わせることで、LSPIの低減効果と燃費性能のさらなる向上を両立できることを見出した。すなわち、本発明者らは、以下の構成を採用することによって、前記課題を解決できることを見出し、発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、かかる知見に基づきなされたもので、次の通りのものである。
<1>
(A)1種以上の鉱油系基油を含む、100℃における動粘度が2.5mm2/s以上4.0mm2/s以下である潤滑油基油、および
(B)組成物全量基準で0.1質量%以上10質量%以下のマグネシウムサリシレート
を含む、内燃機関用潤滑油組成物であって、
150℃におけるHTHS粘度が、1.6mPa・s以上2.5mPa・s以下である、前記内燃機関用潤滑油組成物。
<2>
(B)マグネシウムサリシレートの含有量が、組成物全量基準で0.1質量%以上3.0質量%以下であり、そして
(C)粘度指数向上剤の含有量が、組成物全量基準で0.1質量%以上10質量%以下である、<1>に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
<3>
摩擦調整剤として、(D)モリブデン系摩擦調整剤を組成物全量基準で0.01質量%以上10質量%以下さらに含む、<1>または<2>に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
<4>
前記マグネシウムサリシレートの塩基価が、350mgKOH/g以下である、<1>~<3>のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
<5>
150℃におけるHTHS粘度が、1.6mPa・s以上2.0mPa・s以下である、<1>~<4>のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
<6>
以下の式(6)で計算するLSPI頻度指標が、0以下である、<1>~<5>のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
式(6)
LSPI頻度指標=6.59×Ca-26.6×P-5.12×Mo+1.69
(式(6)中、Caは組成物中のカルシウム含有量(質量%)を表し、Pは組成物中のリン含有量(質量%)を表し、Moは組成物中のモリブデン含有量(質量%)を表す。)。
【発明の効果】
【0009】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物によれば、良好な省燃費性能およびLSPIの低減効果を兼ね備えた内燃機関用潤滑油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔A〕潤滑油基油
本発明の潤滑油組成物においては、潤滑油基油として、鉱油系基油を用いることができる。
【0011】
本発明の潤滑油組成物に用いられる鉱油系基油としては、原油を常圧蒸留して得られる留出油が挙げられる。または、この留出油をさらに減圧蒸留して得られる留出油を、各種の精製プロセスで精製した潤滑油留分も使用することができる。精製プロセスとしては、水素化精製、溶剤抽出、溶剤脱ろう、水素化脱ろう、硫酸洗浄、白土処理などを、適宜組み合わせることができる。これらの精製プロセスを適宜の順序で組み合わせて処理することにより、本発明で使用できる潤滑油基油を得ることができる。異なる原油あるいは留出油を異なる精製プロセスの組合せに供することにより得られた、性状の異なる複数の精製油の混合物も使用可能である。
【0012】
本発明の潤滑油組成物に用いられる鉱油系基油としては、API分類におけるグループIII基油に属するものを用いることが好ましい。APIグループIII基油は、硫黄分が0.03質量%以下、飽和分が90質量%以上、且つ粘度指数が120以上の鉱油系基油である。複数の種類のグループIII基油を用いてもよく、一種のみを用いてもよい。
【0013】
本発明の潤滑油組成物においては、潤滑油基油として鉱油系基油のみを含むこともでき、その他の潤滑油基油を含むこともできる。具体的には、本発明の潤滑油組成物において、鉱油系基油の含有量は、潤滑油基油基準で、例えば、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、または99質量%以上であることができる。
その他の潤滑油基油としては、例えば合成系基油を用いることができる。合成系基油としては、例えば、ポリ-α-オレフィンなどのポリオレフィン、ポリエステル、ポリアルキレングリコール、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、およびGTL基油などが挙げられる。
【0014】
本発明の潤滑油組成物に含まれる潤滑油基油の100℃における動粘度は、2.5mm2/s以上4.0mm2/s以下である。本発明の潤滑油基油の100℃における動粘度は、好ましくは3.0mm2/s以上、より好ましくは3.2mm2/s以上、さらに好ましくは3.4mm2/s以上である。また、上限は、好ましくは3.9mm2/s以下、より好ましくは3.8mm2/s以下、さらに好ましくは3.6mm2/s以下である。具体的な範囲としては、2.5mm2/s以上4.0mm2/s以下、好ましくは3.0mm2/s以上3.9mm2/s以下、より好ましくは3.2mm2/s以上3.8mm2/s以下、さらに好ましくは3.4mm2/s以上3.6mm2/s以下である。潤滑油基油の100℃における動粘度が4.0mm2/s以下であることにより、十分な省燃費性能を得ることができる。また、潤滑油基油の100℃における動粘度が2.5mm2/s以上であることにより、潤滑箇所での油膜形成を確保でき、潤滑油組成物の蒸発損失も小さくすることができる。
前記の100℃における動粘度は、全ての潤滑油基油を混合した状態での動粘度、すなわち、基油全体としての動粘度を意味する。すなわち、複数の基油が含まれる場合の、特定の1つの潤滑油基油の動粘度を意味するものではない。
なお、本明細書において「100℃における動粘度」とは、ASTM D-445に準拠して測定された100℃での動粘度を意味する。
【0015】
本発明の潤滑油組成物において、潤滑油基油の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、例えば、50質量%以上95質量%以下、好ましくは60質量%以上95質量%以下、より好ましくは70質量%以上95質量%以下、さらに好ましくは80質量%以上95質量%以下、最も好ましくは85質量%以上95質量%以下である。
【0016】
〔B〕マグネシウムサリシレート
本発明の潤滑油組成物では、金属系清浄剤として、マグネシウムサリシレートを用いる。マグネシウムサリシレートに加えて、他の金属系清浄剤を含むことができるが、マグネシウムサリシレートのみを含むことが好ましい。
【0017】
マグネシウムサリシレートとしては、以下の式(1)で表される化合物を例示できる。
【0018】
【0019】
前記式(1)中、R1はそれぞれ独立に炭素数14~30のアルキル基またはアルケニル基を表し、nは1または2を表す。Mgはマグネシウムを表す。nとしては1が好ましい。なおn=2であるとき、R1は異なる基の組み合わせであってもよい。
マグネシウムサリシレートは、炭酸塩で過塩基化されていてもよく、ホウ酸塩で過塩基化されていてもよい。
【0020】
本発明の潤滑油組成物に含まれるマグネシウムサリシレートの含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上である。上限は、10質量%以下、好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは4質量%以下である。具体的な範囲としては、0.1質量%以上10質量%以下、好ましくは0.2質量%以上8質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上4質量%以下である。マグネシウムサリシレートの含有量が0.1質量%以上であることにより有効な省燃費性能と清浄効果が得られ、またマグネシウムサリシレートの含有量が10質量%以下であることにより省燃費性能およびLSPIの低減効果が両立できる。
【0021】
本発明の潤滑油組成物に含まれるマグネシウムサリシレート由来のマグネシウムの量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは500質量ppm以上、より好ましくは1000質量ppm以上である。上限は、好ましくは2000質量ppm以下、より好ましくは1600質量ppm以下である。具体的な範囲としては、好ましくは500質量ppm以上2000質量ppm以下、より好ましくは1000質量ppm以上1600質量ppm以下である。マグネシウムの含有量を前記範囲内にすることにより、LSPIの発生を抑えながら、エンジン内部の清浄性を高く保つことができる。
【0022】
(塩基価)
本発明の潤滑油組成物に含まれるマグネシウムサリシレートの塩基価は、省燃費性のさらなる向上の観点から、好ましくは140mgKOH/g以上、より好ましくは180mgKOH/g以上、さらに好ましくは200mgKOH/g以上である。上限は、好ましくは500mgKOH/g以下、より好ましくは400mgKOH/g以下、さらに好ましくは350mgKOH/g以下である。具体的な範囲としては、好ましくは140mgKOH/g以上500mgKOH/g以下、より好ましくは180mgKOH/g以上400mgKOH/g以下、さらに好ましくは200mgKOH/g以上350mgKOH/g以下である。なお、前記塩基価は、JIS K 2501 5.2.3により測定される値である。
塩基価が低い方が、MgCO3による阻害効果が少ないので、省燃費性を更に向上することができる。
【0023】
本発明の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内において、マグネシウムサリシレート以外の金属系清浄剤、例えばフェネート系清浄剤、スルホネート系清浄剤、マグネシウムサリシレート以外のサリシレート系清浄剤を含むことができるが、マグネシウムサリシレートのみを含むことが好ましい。
【0024】
本発明者らは、マグネシウムサリシレートを清浄剤として用い、さらに、150℃におけるHTHS粘度を1.6mPa・s以上2.5mPa・s以下に調整することにより、LSPIの低減効果および省燃費性能を兼ね備えた内燃機関用潤滑油組成物を調製することが可能であることを見出した。マグネシウムサリシレート以外のマグネシウムを含む金属系清浄剤を用いても、このような内燃機関用潤滑油組成物は得られなかった。これは驚くべきことである(後述の実施例および比較例)。
【0025】
〔C〕粘度指数向上剤
本発明の潤滑油組成物は、粘度指数向上剤を含むことが好ましい。粘度指数向上剤としては、内燃機関用潤滑油組成物の分野で一般に使用されているものを使用することができる。具体的には、ポリメタクリレート、オレフィンコポリマー、ポリブテン、ポリイソブテン、ポリイソブチレン、ポリスチレン、エチレン-プロピレン共重合体、およびスチレン-ジエン共重合体およびその水素化物等が使用できる。ポリメタクリレートが好ましい。
【0026】
本発明の潤滑油組成物に含まれる粘度指数向上剤の重量平均分子量は、好ましくは10,000以上、より好ましくは50,000以上、さらに好ましくは100,000以上である。上限は、好ましくは800,000以下、より好ましくは500,000以下、さらに好ましくは400,000以下である。具体的な範囲としては、好ましくは10,000以上800,000以下、より好ましくは50,000以上500,000以下、さらに好ましくは100,000以上400,000以下である。
高分子ポリマーの重量平均分子量は、それぞれゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で求められる値(ポリスチレン換算により得られた分子量)を意味する。
【0027】
本発明の潤滑油組成物に含まれる粘度指数向上剤の含有量は、潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度が、1.6mPa・s以上2.5mPa・s以下となるように適宜調整することが好ましい。本発明の潤滑油組成物に粘度指数向上剤が含まれる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上である。上限は、10質量%以下、好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。具体的な範囲としては、0.1質量%以上10質量%以下、好ましくは0.2質量%以上8質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上3質量%以下である。
【0028】
〔D〕モリブデン系摩擦調整剤
本発明の潤滑油組成物は、(D)モリブデン系摩擦調整剤を摩擦調整剤としてさらに含むことが好ましい。成分(D)としては、モリブデンジチオカーバメート(以下、単にMoDTCと称することがある。)が好ましい。
【0029】
MoDTCとしては、例えば次の式(2)で表される化合物を用いることができる。
【0030】
【0031】
前記式(2)中、R2~R5は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数2~24のアルキル基または炭素数6~24の(アルキル)アリール基、好ましくは炭素数4~13のアルキル基または炭素数10~15の(アルキル)アリール基である。アルキル基は第1級アルキル基、第2級アルキル基、第3級アルキル基のいずれでもよく、また直鎖でも分枝状でもよい。なお「(アルキル)アリール基」は「アリール基もしくはアルキルアリール基」を意味する。アルキルアリール基において、芳香環におけるアルキル基の置換位置は任意である。X1~X4はそれぞれ独立に硫黄原子または酸素原子であり、X1~X4のうち少なくとも1つは硫黄原子である。
【0032】
MoDTC以外のモリブデン系摩擦調整剤としては、例えば、モリブデンジチオホスフェート、酸化モリブデン、モリブデン酸、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫黄を含有する有機モリブデン化合物等を挙げることができる。
【0033】
本発明の潤滑油組成物にモリブデン系摩擦調整剤が含まれる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上である。上限は、10質量%以下、好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。具体的な範囲としては、0.01質量%以上10質量%以下、好ましくは0.1質量%以上8質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上5質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以上2質量%以下である。
【0034】
本発明の潤滑油組成物に含まれるモリブデン系摩擦調整剤由来のモリブデンの量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは100質量ppm以上、より好ましくは500質量ppm以上である。上限は、好ましくは2000質量ppm以下、より好ましくは1000質量ppm以下である。具体的な範囲としては、好ましくは100質量ppm以上2000質量ppm以下、より好ましくは500質量ppm以上1000質量ppm以下である。モリブデン含有量が前記下限値以上であることにより、省燃費性能、およびLSPI抑制能をさらに高めることができる。またモリブデン含有量が前記上限値以下であることにより、潤滑油組成物の貯蔵安定性を高めることができる。
【0035】
(その他の添加剤)
本発明の潤滑油組成物は、さらに、摩耗防止剤、酸化防止剤または分散剤を含むことができる。
【0036】
摩耗防止剤としては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を添加することが好ましい。例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛としては、次の一般式(3)に示す化合物を挙げることができる。
【0037】
【0038】
前記一般式(3)中のR6~R9は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~24の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基であり、R6~R9のうち少なくとも1つは、炭素数1~24の直鎖状または分枝状のアルキル基である。このアルキル基は、第1級でも、第2級でも、第3級であってもよい。
本発明の潤滑油組成物においては、これらのジアルキルジチオリン酸亜鉛は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。ジアルキルジチオリン酸亜鉛としては、第1級アルキル基を有するジチオリン酸亜鉛(プライマリーZnDTP)または第2級アルキル基を含有するジチオリン酸亜鉛(セカンダリーZnDTP)が好ましく、特には、第2級のアルキル基のジチオリン酸亜鉛を主成分とするものが、耐摩耗性を高めるため好ましい。
【0039】
本発明の潤滑油組成物にジアルキルジチオリン酸亜鉛が含まれる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上である。上限は、10質量%以下、好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。具体的な範囲としては、0.01質量%以上10質量%以下、好ましくは0.1質量%以上8質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上5質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以上2質量%以下である。
【0040】
本発明の潤滑油組成物に含まれるジアルキルジチオリン酸亜鉛由来のリンの量は、組成物全量基準で、好ましくは100質量ppm以上、より好ましくは500質量ppm以上である。上限は、好ましくは2000質量ppm以下、より好ましくは1000質量ppm以下である。具体的な範囲としては、好ましくは100質量ppm以上2000質量ppm以下、より好ましくは500質量ppm以上1000質量ppm以下である。
【0041】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤等の公知の酸化防止剤を使用可能である。例としては、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化-α-ナフチルアミンなどのアミン系酸化防止剤、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)などのフェノール系酸化防止剤などを挙げることができる。
潤滑油組成物が酸化防止剤を含む場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常5.0質量%以下であり、好ましくは3.0質量%以下であり、また好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上である。
【0042】
分散剤としては、無灰分散剤、例えば、コハク酸イミドまたはベンジルアミンなどが挙げられる。
潤滑油組成物が分散剤を含む場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常5.0質量%以下であり、また好ましくは0.1質量%以上である。
【0043】
本発明の潤滑油組成物は、さらにその性能を向上するために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている他の添加剤を含むことができる。そのような添加剤としては、摩耗防止剤または極圧剤、流動点降下剤、腐食防止剤、防錆剤、金属不活性化剤、消泡剤等の添加剤を挙げることができる。
【0044】
(内燃機関用潤滑油組成物)
本発明の潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度は、1.6mPa・s以上2.5mPa・s以下である。150℃におけるHTHS粘度が2.5mPa・s以下であることにより、良好な省燃費性能を得ることができる。1.6mPa・sを下回ると、潤滑性不足となる可能性がある。
本発明の潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度は、1.6mPa・s以上2.5mPa・s以下、好ましくは1.6mPa・s以上2.4mPa・s以下、より好ましくは1.6mPa・s以上2.3mPa・s以下、より好ましくは1.6mPa・s以上2.2mPa・s以下、さらに好ましくは1.6mPa・s以上2.1mPa・s以下、最も好ましくは1.6mPa・s以上2.0mPa・s以下である。
なお、150℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D 4683に規定される150℃での高温高せん断粘度を示す。
【0045】
本発明の潤滑油組成物の粘度指数は、120以上220以下であることが好ましく、より好ましくは140以上200以下である。潤滑油組成物の粘度指数が140以上であることにより、150℃における低いHTHS粘度を維持しながら省燃費性能をさらに向上させることができる。また、潤滑油組成物の粘度指数が220を超える場合には、蒸発性が悪化するおそれがある。
なお、本明細書において粘度指数とは、JIS K 2283-1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0046】
本発明の潤滑油組成物の40℃における動粘度は、好ましくは10mm2/s以上、より好ましくは14mm2/s以上、さらに好ましくは16mm2/s以上、最も好ましくは18mm2/s以上である。上限は、好ましくは30mm2/s以下、より好ましくは28mm2/s以下、さらに好ましくは25mm2/s以下、最も好ましくは22mm2/s以下である。具体的な範囲としては、好ましくは10mm2/s以上30mm2/s以下、より好ましくは14mm2/s以上28mm2/s以下、さらに好ましくは16mm2/s以上25mm2/s以下、最も好ましくは18mm2/s以上22mm2/s以下である。潤滑油組成物の40℃における動粘度が30mm2/s以下であることにより、十分な省燃費性能を得ることができる。また、潤滑油組成物の40℃における動粘度が10mm2/s以上であることにより、潤滑箇所での油膜形成を確保でき、潤滑油組成物の蒸発損失も減少させることができる。
なお、本明細書において「40℃における動粘度」とは、ASTM D-445に準拠して測定された40℃での動粘度を意味する。
【0047】
本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、好ましくは3mm2/s以上、より好ましくは4mm2/s以上である。上限は、好ましくは7mm2/s以下、より好ましくは5mm2/s以下である。具体的な範囲としては、好ましくは3mm2/s以上7mm2/s以下、より好ましくは4mm2/s以上5mm2/s以下である。
【0048】
本発明の潤滑油組成物の15℃における密度(ρ15)は、好ましくは0.860以下、より好ましくは0.850以下である。なお、本明細書において15℃における密度とは、JIS K 2249-1995に準拠して15℃において測定された密度を意味する。
【0049】
本発明の潤滑油組成物を用いることにより、LSPI発生頻度を低減することができる。本明細書において、LSPI発生頻度とは、エンジンの低回転時における異常燃焼発生頻度を意味する。
非特許文献1には、潤滑油組成物を内燃機関の潤滑に用いたときのLSPIの発生頻度は、該潤滑油組成物のCa含有量と正の相関を有し、該潤滑油組成物のP含有量およびMo含有量と負の相関を有することが報告されている。より具体的には、潤滑油組成物中の各元素の含有量に基づいて、LSPI頻度の指標を次の回帰式(6)で推定できることが報告されている。
式(6)
LSPI頻度指標=6.59×Ca-26.6×P-5.12×Mo+1.69
(式(6)中、Caは組成物中のカルシウム含有量(質量%)を表し、Pは組成物中のリン含有量(質量%)を表し、Moは組成物中のモリブデン含有量(質量%)を表す。)
【0050】
本発明の潤滑油組成物の前記式(6)によるLSPI頻度指標(計算値)は、好ましくは0以下であり、より好ましくは0.1以下であり、より好ましくは0.2以下であり、より好ましくは0.3以下であり、より好ましくは0.4以下であり、さらに好ましくは0.5以下であり、最も好ましくは0.6以下である。
【0051】
本発明の潤滑油組成物の蒸発損失量は、250℃におけるNOACK蒸発量は、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、15質量%以下であることが特に好ましい。潤滑油基油成分のNOACK蒸発量が30質量%を超える場合、潤滑油の蒸発損失が大きく、粘度増加等の原因となるため好ましくない。なお本明細書においてNOACK蒸発量とは、ASTM D 5800に準拠して測定される潤滑油の蒸発量である。潤滑油組成物の250℃におけるNOACK蒸発量の下限は特に制限されるものではないが、通常5質量%以上である。
【実施例0052】
実施例を用いて、以下に本発明を説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。なお、特に説明のない限り、%は質量%を示す。
【0053】
<潤滑油の配合>
各実施例および各比較例について表1~2に示す配合割合で、基油および添加剤を配合することによって、試験用潤滑油組成物を調製した。得られた試験用潤滑油組成物に対して、次に示す評価を行った。評価結果を表1~2に示す。
【0054】
(A)基油
・基油1:グループIII基油(鉱油) 動粘度3.3mm2/s(100℃)、粘度指数 112
・基油2:グループIII基油(鉱油) 動粘度4.3mm2/s(100℃)、粘度指数 123
表1~2に示した質量比で基油を混合し、潤滑油基油を調製した。表中、基油の数値は基油全量基準での質量比を表している。
【0055】
(2)添加剤
表1~2に記載の通り、添加剤を添加した。添加剤の詳細は以下の通りである。添加剤の配合量は、潤滑油組成物全量基準である。
(B)金属系清浄剤
・金属系清浄剤1:カルシウムサリシレート(カルシウム含有量が8.0質量%、塩基価:225mgKOH/g)
・金属系清浄剤2:カルシウムスルホネート(カルシウム含有量が12.5質量%、塩基価:320mgKOH/g)
・金属系清浄剤3:マグネシウムサリシレート(マグネシウム含有量が7.4質量%、塩基価:342mgKOH/g)
・金属系清浄剤4:マグネシウムサリシレート(マグネシウム含有量が6.1質量%、塩基価:292mgKOH/g)
・金属系清浄剤5:マグネシウムサリシレート(マグネシウム含有量が4.3質量%、塩基価:218mgKOH/g)
・金属系清浄剤6:マグネシウムサリシレート(マグネシウム含有量が8.3質量%、塩基価:390mgKOH/g)
・金属系清浄剤7:マグネシウムスルホネート(マグネシウム含有量が9.1質量%、塩基価:405mgKOH/g)
(C)粘度指数向上剤
・粘度指数向上剤1:ポリメタクリレート(重量平均分子量380,000)
(D)摩擦調整剤
・摩擦調整剤1:モリブデンジチオカーバメート(モリブデン含有量が9.1質量%、硫黄含有量が10.8質量%)
【0056】
・摩耗防止剤1:ジアルキルジチオリン酸亜鉛(亜鉛含有量が9.3質量%、リン含有量が9.3質量%、硫黄含有量が17.6質量%、セカンダリーZnDTP)
・分散剤1:コハク酸ポリイミド(窒素含有量1.75質量%)
・酸化防止剤1:アミン系酸化防止剤
・酸化防止剤2:フェノール系酸化防止剤
【0057】
<評価方法>
(1)省燃費性能
各試験用潤滑油組成物について、モータリングエンジントルク試験を行った。各試験用潤滑油組成物について、当該潤滑油組成物(油温95℃)により潤滑されたDOHCエンジン(排気量2.0L)の出力軸を電動モータにより一定速度で回転させるのに必要なトルクを測定した。測定は1000rpmで行い、比較例1における測定値に対するトルクの低減率を算出した。トルクの低減率が高いほど省燃費性能に優れることを意味する。
【0058】
(2)LSPI頻度計算値
前述の式(6)を用いて、各試験用潤滑油組成物のLSPI頻度指標を算出した。結果はLSPI頻度指標が低いほどLSPI抑制能が良いことを示す。
【0059】
各試験用潤滑油組成物の評価結果を以下の表1~2に示す。なお、実施例1~4および比較例1~7の各試験用潤滑油組成物の15℃における密度は、いずれも0.850以下である。
【0060】
【0061】
【0062】
マグネシウムサリシレートを金属系清浄剤として用い、150℃におけるHTHS粘度を1.7に調整した実施例1~4は、比較例1に対して省燃費性能が改善し、LSPI頻度計算値も低くなった。
カルシウムサリシレートを金属系清浄剤として用いた比較例1は、LSPI頻度計算値が高くなった。
150℃におけるHTHS粘度を2.6に調整した比較例2は、比較例2に対して省燃費性能が悪化した。
カルシウムサリシレートを金属系清浄剤として用い、150℃におけるHTHS粘度を2.6に調整した比較例3は、比較例1に対して省燃費性能が悪化し、LSPI頻度計算値が高くなった。
マグネシウムスルホネートを金属系清浄剤として用いた比較例4は、省燃費性能が悪化した。
カルシウムサリシレートを金属系清浄剤として用い、モリブデン系摩擦調整剤の添加量を減少させた比較例5は、LSPI頻度計算値が高くなった。
カルシウムスルホネートを金属系清浄剤として用いた比較例5は、省燃費性能が悪化し、LSPI頻度計算値が高くなった。
カルシウムスルホネートを金属系清浄剤として用い、150℃におけるHTHS粘度を1.6に調整した比較例6は省燃費性能が悪化し、LSPI頻度計算値が高くなった。