(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180784
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】加飾性水系組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/03 20060101AFI20221130BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20221130BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20221130BHJP
A61K 8/81 20060101ALI20221130BHJP
B01J 13/00 20060101ALI20221130BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20221130BHJP
C08L 33/26 20060101ALI20221130BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
A61K8/03
A61K8/34
A61Q19/00
A61K8/81
B01J13/00 B
C09K3/00 103G
C08L33/26
A61K8/73
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087468
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100118706
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 陽
(72)【発明者】
【氏名】福田 瞳
(72)【発明者】
【氏名】坂本 裕太
(72)【発明者】
【氏名】岩部 美紀
(72)【発明者】
【氏名】山中 淳平
(72)【発明者】
【氏名】豊玉 彰子
(72)【発明者】
【氏名】奥薗 透
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 結
【テーマコード(参考)】
4C083
4G065
4J002
【Fターム(参考)】
4C083AB032
4C083AC111
4C083AC121
4C083AC122
4C083AC482
4C083AD091
4C083AD092
4C083AD111
4C083AD301
4C083AD341
4C083BB26
4C083CC02
4C083DD39
4C083EE06
4C083EE12
4C083FF05
4G065AA01
4G065AB05X
4G065AB22Y
4G065AB38Y
4G065CA11
4G065DA02
4G065EA03
4J002BG131
4J002EC046
4J002GB00
4J002HA07
(57)【要約】
【課題】コロイド結晶に基づく濁りの少ない構造色を呈し、電解質の添加に対する影響が小さく、コロイド結晶の分散性が良好で、化粧料として好適に用いることができる加飾性水系組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本開示の加飾性水系組成物は水系分散媒に平均粒子径が10nm以上1000nm以下であるコロイド粒子3~10重量%と、ポリオール類1~20重量%とが含有されている。コロイド粒子はコロイド結晶を形成しており、このコロイド結晶による光の干渉により、キラキラとした構造色を呈する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系分散媒に平均粒子径が10nm以上1000nm以下であるコロイド粒子3~10重量%と、ポリオール類1~20重量%とが含有されており、該コロイド粒子はコロイド結晶を形成している加飾性水系組成物。
【請求項2】
前記コロイド粒子の比重は該水系分散媒の比重の0.9倍~1.1倍である請求項1に記載の加飾性水系組成物。
【請求項3】
前記コロイド粒子はコンドロイチン硫酸の水難溶性塩及びアルギン酸の水難溶性塩の少なくとも1種からなる請求項1又は2に記載の加飾性水系組成物。
【請求項4】
前記コロイド粒子はN-イソプロピルアクリルアミド、アクリルアミド、アクリル酸ブチル及びジメタクリル酸ポリエチレングリコール(n=18)の少なくとも1種を構成モノマーとするポリマーが架橋剤によって架橋されている請求項1又は2に記載の加飾性水系組成物。
【請求項5】
前記ポリオール類は、1,3-ブチレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、ヘキサンジオール、1,5-ペンタンジオール、ペンチレングリコール、イソペンチルジオール、プロパンジオール、1、2-プロピレングリコール、ジプロピレングリコールの少なくとも1種である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の加飾性水系組成物。
【請求項6】
水溶性増粘剤を0.01~2重量%含有する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の加飾性水系組成物。
【請求項7】
前記コロイド粒子の粒子径の変動係数は40%以下である請求項1乃至6のいずれか1項の加飾性水系組成物。
【請求項8】
水系分散媒と、平均粒子径が10nm以上1000nm以下のコロイド粒子3~10重量%と、ポリオール類1~20重量%とを混合することを含む、加飾性水系組成物の製造方法。
【請求項9】
前記コロイド粒子は架橋された親水性の高分子である請求項8に記載の加飾性水系組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、オパール型あるいは剛体球系のコロイド結晶が水系分散媒中に分散されており、構造色を示す加飾性水系組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コロイド結晶とは、粒子径の揃った粒子が周期的に規則正しく並んで秩序構造を形成したものをいう。コロイド結晶は、通常の結晶と同様に、格子面間隔に応じた電磁波をBragg回折する。その回折波長は、製造条件(粒子濃度、粒子径、粒子あるいは媒体の屈折率など)を選ぶことで、可視光領域に設定することができる。このため、コロイド結晶を水系分散媒中に分散させ、加飾性水系組成物とする技術が開発されている。これらのコロイド結晶の分散液は可視光の干渉によりキラキラした構造色を有する液体となるため、化粧水等に応用することが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では分散媒中において荷電型コロイド結晶を形成させることにより、オパール様の構造色を呈する微粒子分散液を調製し、これを化粧品に応用しようと提案している。荷電型コロイド結晶とは表面電荷によって荷電したコロイド粒子の分散系(荷電コロイド系)において、粒子間に働く静電反発力によって形成されたコロイド結晶である。荷電コロイド系において静電反発力が小さいときは、コロイド粒子はブラウン運動により自由に動き回るために、ランダムな位置になる(
図1における「粒子間の相互作用が弱いとき」を参照)。ところが、静電反発力が強くなると粒子が他の粒子からできるだけ遠ざかろうとする結果、所定の格子間隔で並んだコロイド結晶を形成する(
図1における「粒子間の相互作用が十分強いとき」を参照)。静電反発力は長距離におよぶため、粒子濃度の低い(すなわち、粒子間の距離の長い)ところで結晶が生成する。
【0004】
しかし、この荷電型コロイド結晶の分散液では、塩濃度が高くなると静電相互作用が遮蔽され粒子間が近付きやすくなるため、ファンデルワールス力が勝るようになり、コロイド粒子を一定の距離に保つことが困難となる。例えば、コロイド粒子が希薄な場合には、塩濃度が数10μM以上で荷電型コロイド結晶は形成されなくなる。また、コロイド粒子の濃度が10vol%以上では、塩濃度が0.1mM程度以上で荷電型コロイド結晶は形成されなくなる。このため、塩濃度0.1mM以上で安定な荷電型コロイドを形成させることはできない。化粧水等の化粧品にはイオン性の添加物やpHのバッファーが含まれていたりするため、化粧品の加飾等に荷電型コロイド結晶を利用することは事実上困難となっていた。
【0005】
この問題を解決するため、本発明者らはオパール型コロイド結晶が水系分散媒に分散した液を開発し、これを加飾性水系組成物として化粧品に利用することを提案している(特許文献2)。オパール型コロイド結晶は、粒子同士接触し充填した結晶構造を有している(
図2右端図参照)。コロイド微粒子が最密充填結晶されたオパール型コロイド結晶の体積分率は、結晶構造によっても異なり、体心立方格子で0.68、面心立方格子では0.74程度である。
【0006】
オパール型コロイド結晶では、コロイド粒子間の立体的な反発によって距離を保っており、表面電荷どうしの斥力によってコロイド粒子間の距離を保っているわけではない。このため、塩濃度が高くなってもコロイド結晶の状態を保つことができる。したがって、イオン性の添加物やpHのバッファーが含まれている化粧品の加飾等に利用することが可能となる。
【0007】
しかしながら、特許文献2のオパール型コロイド結晶の分散液からなる加飾性水系組成物では、分散媒に溶解可能な高分子を添加し、コロイド粒子どうしが接近した場合に溶解している高分子が入ることができない狭い領域(以下「枯渇領域」という)を発生させ(
図3参照)、これにより浸透圧差を生じさせてオパール型コロイド結晶を形成させることを原理としている(
図3参照)。このため、
図4に示すように、水溶性の高分子1を溶解している分散媒2中に微細なオパール型コロイド結晶3が浮遊している状態となっており(
図4参照)、光がオパール型コロイド結晶3によって散乱するため白濁するという問題があった。また、分散している微細なオパール型コロイド結晶3は沈降し易いため、粘度の低い分散媒を用いた場合において、分散安定性に欠けるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6-100432号
【特許文献2】WO2019/160132
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示は上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、コロイド結晶に基づく濁りの少ない構造色を呈し、電解質の添加に対する影響が小さく、コロイド結晶の分散性が良好で、化粧料として好適に用いることができる加飾性水系組成物及びその製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の加飾性水系組成物は、水系分散媒に平均粒子径が10nm以上1000nm以下であるコロイド粒子3~10重量%と、ポリオール類1~20重量%とが含有されており、該コロイド粒子はコロイド結晶を形成していることを特徴とする。
【0011】
本開示の加飾性水系組成物では、水系分散媒中にコロイド結晶が形成されている(本明細書において水系分散媒とは水を50質量%以上含む均一な媒質と定義され、例えば、純粋な水以外に、水-アルコール混合液等も含む概念である)。また、コロイド結晶を形成しているコロイド粒子は3~10質量%という高い割合で添加されているため、密に存在するコロイド結晶どうしが接触することによって移動の自由が制限され、沈降し難く、分散安定性に優れている。さらに、コロイド粒子の含有量が多いため、コロイド結晶が系全体に広がり、光散乱が起こり難く、濁りが少なくて透明感に富んでいる。また、コロイド結晶は荷電型コロイド結晶ではなく、オパール型(あるいは剛体球系)のコロイド結晶となるため(
図2参照)、電解質の添加による影響を受け難い。さらに、コロイド結晶を形成しているコロイド粒子の平均粒子径は10nm以上1000nm以下とされているため、可視光線に対して回折現象を起こし、構造色を呈する。さらに、ポリオール類が1~20重量%含まれているために、コロイド粒子が多量に含まれていることによる「べたつき感」が緩和され、化粧料として好適に用いることができる。
【0012】
コロイド結晶が沈降することを防ぐという観点から、コロイド粒子の比重は水系分散媒の比重の0.9倍~1.1倍とされていることが好ましい。
【0013】
また、コロイド粒子はN-イソプロピルアクリルアミド、アクリルアミド、アクリル酸ブチル及びジメタクリル酸ポリエチレングリコール(n=18)の少なくとも1種を構成モノマーとするポリマーが架橋剤によって架橋されているものであることが好ましい。このようなコロイド粒子は架橋剤によって網目構造を形成するため、1)中実粒子の場合よりも粒子径が大きくなり、オパール型(あるいは剛体球系)のコロイド結晶となり易い。2)見かけの比重が水系分散媒に近づき、コロイド結晶が沈殿し難く分散安定性に優れたものとなる。
【0014】
また、ポリオール類とは一分子中に2つ以上の水酸基を有するアルコールをいう。例えば、1,3-ブチレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、ヘキサンジオール、1,5-ペンタンジオール、ペンチレングリコール、イソペンチルジオール、プロパンジオール、1、2-プロピレングリコール、ジプロピレングリコールの少なくとも1種を用いることができる。
【0015】
本開示の加飾性水系組成物では、さらに水溶性増粘剤を0.01~2重量%含有することも好ましい。水溶性増粘剤によって粘度を大きくすることにより、コロイド結晶が沈降し難くなり、分散安定性を高めることができるからである。
【0016】
また、コロイド粒子の粒子径の変動係数は40%以下とされていることが好ましい。こうであれば、コロイド結晶の格子の乱れが少なくなるため、コロイド結晶化が容易となり、単色光に近い鮮やかな色を呈する。
【0017】
本開示の加飾性水系組成物は、水系分散媒と、平均粒子径が10nm以上1000nm以下であるコロイド粒子3~10重量%と、ポリオール類1~20重量%とを混合することによって製造することができる。こうして得られた組成物は、コロイド粒子からなるコロイド結晶の水系分散液となる。
【0018】
前記コロイド粒子として架橋された親水性の高分子を好適に用いることができる。このようなコロイド粒子であれば、親水性であることから水系分散媒に分散しやすく、網目構造を有することから見かけの比重が水系分散液に近づき、コロイド結晶が沈降し難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】荷電型コロイド結晶の形成を示す模式図である。
【
図3】コロイド系への高分子の溶解による枯渇効果を示す模式図である。
【
図4】特許文献2の加飾性水系組成物の模式拡大図である。
【
図5】本開示の加飾性水系組成物の模式拡大図である。
【
図6】実施形態の加飾性水系組成物の製造方法を示す工程図及び模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示を具体化した実施形態を図面を参照しつつ説明する。
実施形態の加飾性水系組成物の模式図を
図5に示す。この加飾性水系組成物は、水系分散媒4中にオパール型のコロイド結晶5が分散されている。コロイド結晶5は規則正しく並んだコロイド粒子6から形成されており、コロイド粒子6は3重量%~10重量%と多量に含まれている。このため、コロイド結晶5どうしが接触することによって移動の自由が制限され、沈降し難い状態となっている。
コロイド結晶5の沈降を防ぐという観点から、コロイド粒子6の比重は水系分散媒4の比重の0.9倍~1.1倍とされていることが好ましい。さらに好ましいのは0.99倍~1.01倍であり、最も好ましいのは0.995倍~1.005倍である。
特に、コロイド粒子が架橋された高分子であって網目構造を形成する場合においては、系全体の体積に対するコロイド粒子6の体積%が大きくなり、コロイド粒子6の混み具合は極めて大きいものとなることから、コロイド結晶5がさらに沈降し難くなる。また、コロイド結晶5は密な状態となるため系全体に広がり、光散乱が起こり難く、濁りが少なくて透明感に富むものとなる。
さらに、コロイド粒子6の平均粒子径が10nm以上1000nm以下とされているため、可視光線に対して回折現象を起こし、構造色を呈する。さらに好ましいのは20nm以上830nm以下であり、最も好ましいのは100nm以上500nmである。なお、可視光の波長範囲の下限は360~400nmといわれているが、コロイド粒子が2次凝集している場合もあるので、下限以下の平均粒子径のコロイド粒子であっても可視光の回折現象は可能である。
また、コロイド粒子6の粒子径の変動係数は40%以下とすれば、コロイド結晶内の乱れが少なく、単色光に近い鮮やかな色を呈する。変動係数は、好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下、さらにより好ましくは10%以下である。
【0021】
また、実施形態の加飾性水系組成物では、コロイド粒子が3~10重量%と多量に含まれていることによる「べたつき感」を解消するためにポリオール類が1~20重量%含まれている。このため化粧料として好適に用いることができる。ポリオール類としては、例えば、1,3-ブチレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、ヘキサンジオール、1,5-ペンタンジオール、ペンチレングリコール、イソペンチルジオール、プロパンジオール、1、2-プロピレングリコール、ジプロピレングリコールの少なくとも1種を用いることができる。
【0022】
本開示の加飾性水系組成物では、さらに水溶性増粘剤を0.01~2重量%含有することも好ましい。水溶性増粘剤によって粘度を増すことにより、さらにコロイド結晶が沈降し難くなり、分散安定性を高めることができるからである。水溶性増粘剤は特に限定されないが、例えば化粧品として使用する場合には、カルボキシビニルポリマーがさっぱりした使用感の観点から好ましい。水溶性増粘剤は1種のみ用いてもよいが、複数種を混合して用いてもよい。
【0023】
その他の水溶性増粘剤としては、例えば、グアーガム、キサンタンガム、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子、2-アクリルアミド-2-プロパンスルホン酸(アクリロイルジメチルタウリン酸) 又はその塩(AMPS)を構成単位として有する重合体及び/又は共重合体(架橋重合体含む)等のタウレート系高分子系増粘剤、アクリレート系合成高分子系増粘剤の少なくとも1種を用いることができる。
【0024】
タウレート系高分子系増粘剤としては、例えば、(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/メタクリル酸ベヘネス-25)クロスポリマー(Aristoflex(登録商標)HMB、クラリアントジャパン社)、(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/ビニルピロリドン)コポリマー(Aristoflex(登録商標)AVC、クラリアントジャパン社)、(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/アクリル酸カルボキシルエチル)クロスポリマー(Ari stoflex(登録商標)TAC、クラリアントジャパン社)、ポリアクリレートクロスポリマー-11(Aristoflex(登録商標)Velvet、クラリアントジャパン社)、(ジメチルアクリルアミド/アクリロイルジメチルタウリンナトリウム) クロスポリマー、(アクリル酸ヒドロキシエチル/ アクリロイルジメチルタウリンナトリウム)コポリマー(SEPINOV EMT10 ピノブ、SEPPIC社)、(アクリル酸ナトリウム/アクリロイルジメチルタウリン/ジメチルアクリルアミド)クロスポリマー(SEPINOV P88、SEPPIC社) 、(アクリル酸ナトリウム/アクリロイルジメチルタウリンナトリウム) コポリマー(SIMULGEL EG、SEPPIC社)、(アクリロイルジメチルタウリンナトリウム/メタクリルアミドラウリン酸)コポリマー(AMO-51、大東化成工業社)、及び(アクリルアミド/アクリロイルジメチルタウリンナトリウム/アクリル酸)コポリマー(アキュダインSCP、ダウケミカル社)等を使用することができる。
【0025】
アクリレート系合成高分子系増粘剤としては、例えば、(アクリレート/メタクリル酸ステアレス-20)共重合体(ACULYN(登録商標)22、ダウケミカル社)、(アクリレーツ/C10-30アルキルアクリレート)クロスポリマー(PEMULEN(登録商標)TR-1、PEMULEN(登録商標)TR-2、Lubrizol社)等を使用することができる。
【0026】
その他の水溶性増粘剤としては、例えば、アラビアガム、カラギーナン、カラヤガム、トラガカントガム、キャロブガム、クインスシード( マルメロ)、カゼイン、デキストリン、ゼラチン、ペクチン酸ナトリウム、アラギン酸ナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルメチルエーテル(PVM)、PVP(ポリビニルピロリドン)、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリントガム、ジアルキルジメチルアンモニウム硫酸セルロース、キサンタンガム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ベントナイト、ヘクトライト、ケイ酸アルミニウムマグネシウム(ビーガム)、ラポナイト、無水ケイ酸等を使用することができる。
【0027】
化粧料における水溶性増粘剤の好ましい含有量は、用いる水溶性増粘剤の種類によって適宜選択すればよいが、例えばカルボキシビニルポリマーを用いる場合、その含有量は0.05~0.3質量%が好ましい。
【0028】
また、コロイド結晶を形成するコロイド粒子は、親水性の高分子からなる粒子であることが好ましい。こうであれば、水系分散媒中でコロイド結晶粒子を安定に分散させることが容易となる。このようなコロイド粒子を構成する高分子として、例えばポリN-イソプロピルアクリルアミド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリエーテル、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。また、水溶性イオン性高分子としては、ポリビニルピリジン、ポリビニルベンジルアンモニウム、ポリペプチド等のカチオン性高分子や、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリペプチド、ヒアルロン酸等が挙げられる。また、コンドロイチン硫酸やアルギン酸などの多糖類からなる天然のアニオン性高分子を用いることもできる。例えばアルギン酸をコロイド粒子とする場合には、水溶性のアルギン酸塩(例えばアルギン酸ナトリウム)の水溶液にカルシウムイオンを添加して水難溶性塩とすることで、コロイド粒子を調製することができる。
さらに好ましいのは、架橋された高分子からなる親水性のコロイド粒子である。このコロイド粒子では、架橋された網目構造の中を分散媒が自由に通り抜けることができるため、コロイド粒子の見かけの比重が分散媒に極めて近くなり、コロイド結晶が沈殿せずに安定に分散媒中に分散されることとなる。
一方、ポリスチレン等の疎水性高分子からなる疎水性粒子であっても、解離基によって修飾されていれば、水系分散媒に分散可能となるため、用いることができる。このような高分子としてはスチレンとスチレンスルホン酸の共重合体等が挙げられる。
【0029】
<製造方法>
本開示の加飾性水系組成物は、
図6に示す工程に従って製造することができる。
(コロイド粒子調整工程S1)
まず、コロイド粒子調整工程S1として、架橋された高分子からなる親水性コロイド粒子を調整する。すなわち、高分子の原料となるモノマーと、架橋剤と、重合開始剤と、界面活性剤とを精製水中に分散・混合し、加温することにより乳化重合を行う。これにより、架橋された高分子からなるコロイド粒子が分散媒に分散した液となる。
【0030】
(コロイド粒子精製工程S2)
さらに、こうして得られたコロイド粒子の分散液に食塩水を加え、撹拌後、液温を50℃以上まで加熱し、静置することでコロイド粒子を沈降させる。さらに上澄み液をデカンテーションにより除去し、蒸留水を加える。これらの操作を繰り返すことにより、乳化重合において添加した界面活性剤や重合開始剤を除去する。なお、コロイド粒子の精製方法として、デカンテーションの代わりに透析法、膜分離法を用いてもよい。
【0031】
(コロイド粒子乾燥工程S3)
上澄み液を除去し、下層部に沈殿したコロイド粒子を乾燥することにより、コロイド粒子粉体を得る。なお、コロイド粒子乾燥工程S3を行うことなく、水系分散媒に分散させた状態で、次のコロイド結晶化工程S4に移行してもよい。
【0032】
(コロイド結晶化工程S4)
コロイド粒子乾燥工程S3によって得られたたコロイド粒子粉体をポリオール類の水溶液に分散させた後、静置することで、コロイド粒子粉体からなるコロイド結晶が分散した加飾性水系組成物となる(
図5参照)。こうして得られた加飾性水系組成物に光が照射された場合、コロイド結晶によって光が干渉し、キラキラとした構造色を呈するようになる。
【実施例0033】
以下、本開示をさらに具体化した実施例について比較例と比較しつつ説明する。
・コロイド粒子の調製
モノマーとしてN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM、富士フイルム和光純薬株式会社)及びアクリルアミド(AAm、富士フイルム和光純薬株式会社)を用い、さらに架橋剤としてN,N’-メチレンビスアクリルアミド(BIS、富士フイルム和光純薬株式会社)を用いて乳化重合を行い、コロイド粒子の分散液を調製した。以下、詳述する。
NIPAM(31.2g)、AAm(2.34g)及びBIS(2.50g)をMilli-Q水(356.0g)に溶解したモノマー溶液を用意した。また、重合開始剤としてペルオキソ二硫酸カリウム(KPS、富士フイルム和光純薬株式会社)(0.2g)を脱イオン水(70.0g)に溶解した溶液を用意した。1Lの四口セパラ型丸底フラスコに乳化剤としてラウレス4カルボン酸ナトリウムの25%水溶液(2.68g)及び脱イオン水(224.40g)を加えて混合し、85℃に加温した。そして、窒素気流下、モノマー溶液を3.5時間かけて滴下した。なお、モノマー溶液の滴下中において重合開始剤水溶液を30分毎に1回、7.0mLずつ加えた。そして85℃に保ったまま、150rpmで4時間撹拌して乳化重合を行うことにより、N-イソプロピルアクリルアミドとアクリルアミドの共重合体がBISによって架橋されたコロイド粒子の分散液を得た。この分散液中の粒子の粒子径を動的光散乱を用いて測定した。なお、粒子径の変動係数(%)は、(粒子径の標準偏差/平均粒子径)×100によって算出した(以下同様)。合成した4-5wt%のコロイド粒子の分散液を5μm径のフィルターに通して凝集およびダストを除いた。このサンプル20μLを、0.1mMNaCl水溶液5mLに添加して、日機装株式会社「ナノトラック粒度分析計(UPA-EX150)」、屈折率(1.48、媒体(水;1.33)により、個数頻度粒度分布を求め、個数平均粒子径を算出した。その結果、平均粒子径は211nmであり、粒子径の変動係数は25%であった。
【0034】
・コロイド粒子の精製
以上のようにして得られたコロイド粒子の分散液にNaCl水溶液を全体で0.07wt%になるように加え、撹拌後、50℃で30分間静置し、コロイド粒子を沈降させた。そして上層部を除き、再度NaCl水溶液を0.07wt%になるように加えた。この操作を数回繰り返して界面活性剤を除去し、コロイド粒子の水分散液を得た。
・コロイド粒子の粉体化
こうして精製されたコロイド粒子の水分散液を剥離紙の上にとり、窒素気流下、80~95℃で乾燥し、乾燥物を粉砕してコロイド粒子の粉体を得た。この粉体を水に再溶解させた際の粒子径を動的光散乱を用いて測定した結果、平均粒子径は201nmであり、粒子径の変動係数は37%であった。
【0035】
<加飾性水系組成物の製造>
上記のようにして得られたコロイド粒子の粉体を用い、次に示す手順で実施例1~9および比較例1~8の組成物を製造した。
1,3-ブタンジオールにコロイド粒子の粉体をディスパー撹拌分散して湿潤させたものを、プロペラで撹拌した水の中へ徐々に添加した。その後、室温でプロペラ撹拌を継続し、よく分散させた後、グリセリンを添加した。そして、メチルパラベン(パラオキシ安息香酸メチル)を1,3-ブタンジオールに加温溶解させた溶液を添加した。さらに、実施例6~9及び比較例1~3ではカルボマー(架橋されたポリアクリル酸、Carbopole(登録商標)980Lubrizol社)の水酸化カリウム中和物水溶液を添加し、プロペラ撹拌にて均一化することで、実施例1~9及び比較例1~3の加飾性水系組成物を製造した。ここで、1,3-ブタンジオールがポリオール類であり、カルボマーが増粘剤である。なお、実施例1~5及び比較例4~8ではカルボマーは添加せず、その他については同様にして組成物を得た。各薬剤の仕込み比率を表1に示す。
【0036】
<評 価>
上記のようにして得られた実施例1~9及び比較例1~8の加飾性水系組成物の外観の加飾性及び皮膚に塗布した場合の使用感について、以下の方法により評価した。
【0037】
(外観の加飾性)
加飾性水系組成物の外観の加飾性を目視にて観察した。
評価基準は以下のとおりである。
◎:コロイド結晶に基づく構造色が優位に観察される
○:コロイド結晶に基づく構造色が観察される
△:コロイド結晶に基づく構造色がわずかに観察される
×:コロイド結晶に基づく構造色が観察されない
【0038】
(使用感)
加飾性水系組成物を化粧品専門パネル5名の顔に塗布し、べたつき及びぬるつきに対する使用感について、悪い:1点、やや悪い:2点、普通:3点、やや良い:4点、良い:5点、の5段階で採点し、5名の平均点を用いて評価を行った。
評価基準は以下のとおりである。
◎:平均点が4.5以上、
○:平均点が3.5以上4.5未満、
△:平均点が2.5以上3.5未満、
×:平均点が2.5未満
【0039】
【0040】
評価結果を表1に示す。
・外観の加飾性について
コロイド粒子の濃度が3~10質量%である実施例1~9では外観の加飾性が〇又は◎であり、コロイド結晶に基づく構造色が観察された。これに対して、コロイド粒子の濃度が1質量%の比較例2及び比較例5では外観の加飾性が△となり、コロイド結晶に基づく構造色はわずかに観察できる程度となった。また、コロイド粒子の濃度が11質量%の比較例3及び比較例6においても、外観の加飾性は△であり、コロイド結晶に基づく構造色はわずかに観察できる程度となった。以上の結果から、コロイド結晶に基づく構造色が観察されるための好適な範囲は3~10質量%であることが分かった。
なお、実施例1~5では水溶性の高分子であるカルボマー(架橋されたポリアクリル酸)は含まれておらず、その他の水溶性高分子も含まれていないことから、コロイド粒子間に枯渇引力は働かないと考えられる。それにもかかわらずコロイド結晶に基づく構造色が観察されたのは、コロイド粒子の濃度が3~10質量%という高濃度で含まれていることにより、オパール型(あるいは剛体球系)のコロイド結晶が形成されたためである。
また、カルボマー(架橋されたポリアクリル酸)が添加された実施例6~9ではカルボマーのカルボキシ基を中和するために水酸化カリウムが0.05質量%(モル換算で8.91mmol)添加されており、この電解質濃度では電解質濃度が高すぎて荷電型コロイド結晶は形成されないことから、観察された構造色はオパール型コロイド結晶あるいは剛体球系コロイド結晶に基づく構造色である。
【0041】
・使用感について
ポリオール類として1,3-ブタンジオールが10~20質量%添加された実施例1~9では使用感が〇又は◎であり、良好な評価となった。また、1,3-ブタンジオールが10質量%添加された比較例1~6においても使用感が〇の評価となった。これに対して1,3-ブタンジオールが添加されていない比較例7では△、25質量%添加された比較例8では×となり、添加しなかったり、20質量%を超えて添加したりする場合に、使用感が悪くなることが分かった。
【0042】
各実施形態及び実施例における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態及び実施例によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。
本開示の加飾性水系組成物は、オパール型(あるいは剛体球系)のコロイド結晶が水系分散媒中に分散しておりBragg回析によってキラキラとした濁りの少ない構造色を示す。また、その構造色は塩濃度が0.1mM程度では変化ないため、化粧水等の化粧品に好適に用いることができる。