(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180788
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】昇降機作業告知方法及び昇降機作業告知システム
(51)【国際特許分類】
B66B 5/00 20060101AFI20221130BHJP
B66B 3/00 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
B66B5/00 G
B66B5/00 D
B66B3/00 Q
B66B3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087472
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 才明
(72)【発明者】
【氏名】大西 友治
(72)【発明者】
【氏名】東田 一夫
(72)【発明者】
【氏名】三之宮 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】國信 脩平
【テーマコード(参考)】
3F303
3F304
【Fターム(参考)】
3F303BA01
3F303CA10
3F303CB41
3F303DA08
3F303DB11
3F303DB21
3F303DB26
3F303DC01
3F303DC34
3F303EA00
3F303EA02
3F303EA03
3F303EA09
3F304BA01
3F304BA07
3F304BA26
3F304EA00
3F304EA22
3F304ED05
3F304ED06
3F304ED07
3F304ED11
3F304ED16
(57)【要約】
【課題】昇降機の保全作業時に設置した札による告知が正しく行われていない状況が発生した場合の対処ができるようにする。
【解決手段】表示部と無線通信部とセンサ部とを有して、相互に通信可能な複数の点検札110c~110fと、その複数の点検札110c~110fと無線通信が可能な端末200とを備える。それぞれの点検札110c~110fは、センサ部の検出値に基づいて、乗り場の配置位置からの落下又は移動を検出し、落下又は移動を検出した点検札からの通知により、昇降機の作業を行う作業員又は管理者が所持する端末200が表示を行うようにした。
【選択図】
図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示部と無線通信部とセンサ部とを有して、相互に通信可能な複数の点検札で、昇降機の作業を行う際に告知を行う昇降機作業告知方法であって、
前記複数の点検札のそれぞれを、前記昇降機の各階の乗り場に配置し、前記表示部で昇降機の作業中に関する表示を行い、
それぞれの前記点検札は、前記センサ部の検出値に基づいて、乗り場の配置位置からの落下又は移動を検出し、
落下又は移動を検出した前記点検札からの通知により、昇降機の作業を行う作業員又は管理者が所持する端末が表示を行う
昇降機作業告知方法。
【請求項2】
それぞれの前記点検札は、前記センサ部として接近を検出する接近検出センサを含むと共に、音声出力部を有し、それぞれの前記点検札の前記接近検出センサが前記端末を所持しない者の接近を検出した場合に、前記音声出力部が警告用の音声を出力する
請求項1に記載の昇降機作業告知方法。
【請求項3】
さらに、それぞれの前記点検札は画像センサを有し、それぞれの前記点検札の前記接近検出センサが前記端末を所持しない者の接近を検出した場合に、前記画像センサが撮影した映像の伝送又は録画を行う
請求項2に記載の昇降機作業告知方法。
【請求項4】
落下又は移動を検出した前記点検札からの通知により、前記端末が表示を行う際には、通知を行った前記点検札が設置された乗り場の階を表示する
請求項1に記載の昇降機作業告知方法。
【請求項5】
表示部と無線通信部とセンサ部と演算処理部とを有し、前記無線通信部での無線通信により相互に通信可能な複数の点検札と、
昇降機の作業を行う作業員又は管理者が所持し、前記複数の点検札と無線通信が可能な端末と、を備え、
昇降機の作業を行う際に、前記複数の点検札を前記昇降機の乗り場の近傍に配置し、前記表示部が前記昇降機の作業に関する告知を行う昇降機作業告知システムであって、
前記複数の点検札の演算処理部は、内蔵されたセンサ部の検出値に基づいて、それぞれの点検札が乗り場の配置位置からの落下又は移動を検出したとき、無線通信部により落下又は移動の情報を送信し、
前記端末は、前記落下又は移動の情報の受信で、前記点検札の落下又は移動を表示する
昇降機作業告知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降機作業告知方法及び昇降機作業告知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
建築物に設置される昇降機であるエレベーターは、利用者が乗り込むかご、乗りかごが昇降する昇降路、ロープを駆動するモータ,制御盤、かごとロープで接続された釣合い重り、かごや釣合い重りの緩衝器を設置するピット、乗り場ドアや三方枠、乗りかごを呼ぶための押し釦、乗りかごの位置を知らせる乗り場表示器などで構成されている。
【0003】
このような構成のエレベーターの保全作業は、昇降路の頂部に配置された機器や、昇降路の下部に配置された制御盤などの保全作業になり、多岐の場所での作業が必要になる。このため、保全作業中は、エレベーターが利用できなくなる。
【0004】
このようなエレベーターの保全作業中には、エレベーターの利用者に保全作業中であることを各階の乗り場で知らせる必要があるため、各階の乗り場の押し釦などに、作業中であることを示す札を設置している。具体的には、作業中と印刷された札を押し釦などに貼り付けて、保全作業中であるためエレベーターが利用できないことを表示している。この札を見た利用者は、エレベーターの利用ができないことが分かると共に、作業中のエレベーターに近づかない方がよい状況であると認識することができる。
【0005】
このような札を貼り付ける作業や回収する作業は、作業員による手作業で行われており、基本的には全ての階の乗り場に貼り付ける必要があるため、手間がかかっていた。また、作業後に札の回収を忘れた場合の再回収にも手間がかかり、貼り付けられた札が子供などに持ち去られた場合の対処なども必要になって、保全作業であることを示すための札の管理にはかなりの時間を要していた。
【0006】
このような作業中を示す札の設置や回収の手間を省くためには、例えば、エレベーターの乗り場に設置された表示器に、点検中であることを表示することが提案されている(特許文献1を参照)。
特許文献1に記載される技術は、保全作業を開始する前に、作業員が持つ携帯端末を用いてエレベーターの制御装置に特定の指令を与えることにより、乗り場の表示器に点検中であることを表示する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された技術は、エレベーターの制御装置により動作可能になるエレベーターの機種しか対応できず、制御装置が対応することができない既存のエレベーターへの適用が困難であった。
また、特許文献1に記載されるように、エレベーター側が制御装置からの指示に対応した表示を行うように構成するためには、乗り場の表示器として、点検中であることを表示できる多機能化された表示機能が必要になり、昇降機のシステム構成が複雑化してしまうという問題もあった。
【0009】
さらに、特許文献1に記載されるように、乗り場表示器により点検中の表示を行う場合でも、エレベーターが何らかの原因で電源遮断するような故障が生じた際には、表示器による表示ができないため、結局は従来のように、札を貼り付けることになってしまう。
【0010】
また、従来の札などを使用して点検中の表示を行うようにした場合、札そのものは、乗り場に粘着材や磁石で貼り付けられ、作業ごとに貼り付け作業と剥がす作業を繰り返している。このため、粘着材や磁石の劣化などで札が貼り付けられた箇所から自然に剥がれて落下する可能性がある。札が正しく乗り場に装着されていないと、利用者への作業中の告知が正しくできない状態となり、好ましくない。
【0011】
なお、ここではエレベーターの保全作業を例にして説明したが、エスカレーターなどのその他の昇降機の保全作業時にも、作業中であることの告知には同様の問題がある。
【0012】
本発明の目的は、昇降機の保全作業時に設置した札による告知が正しく行われていない状況が発生した場合の対処ができる昇降機作業告知方法及び昇降機作業告知システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
本願は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、表示部と無線通信部とセンサ部とを有して、相互に通信可能な複数の点検札で、昇降機の作業を行う際に告知を行う昇降機作業告知方法であって、その複数の点検札と無線通信が可能な端末とを備えたものに適用される。
そして、それぞれの点検札は、センサ部の検出値に基づいて、乗り場の配置位置からの落下又は移動を検出し、落下又は移動を検出した点検札からの通知により、昇降機の作業を行う作業員又は管理者が所持する端末が表示を行うようにした。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、乗り場に配置された点検札が落下又は移動した場合、作業員又は管理者が所持する端末に通知が行くため、作業員や管理者で作業の中断や、落下又は移動した点検札の再取り付け等の対処を迅速に行うことができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施の形態例に係る昇降機作業告知システムを適用するエレベーターの構成例を示す図である。
【
図2】本発明の一実施の形態例に係る昇降機作業告知システムの構成例を示す図である。
【
図3】本発明の一実施の形態例に係る昇降機作業告知システムの点検札の表面構成の例を示す図である。
【
図4】本発明の一実施の形態例に係る昇降機作業告知システムの点検札の裏面構成の例を示す図である。
【
図5】本発明の一実施の形態例に係る昇降機作業告知システムの点検札と端末との通信状態の例を示す図である。
【
図6】本発明の一実施の形態例に係る昇降機作業告知システムの作動状態の例(かごに乗り込む場合の例)を示す図である。
【
図7】本発明の一実施の形態例に係る昇降機作業告知システムの設置時の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】本発明の一実施の形態例に係る昇降機作業告知システムの点検札の処理を示すフローチャートである。
【
図9】本発明の一実施の形態例に係る昇降機作業告知システムの作動状態の例(かご上に乗り込む場合の例)を示す図である。
【
図10】本発明の一実施の形態例に係る昇降機作業告知システムの作動状態の例(ドア開を警告する場合の例)を示す図である。
【
図11】本発明の一実施の形態例に係る昇降機作業告知システムの回収時の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図12】本発明の一実施の形態例に係る昇降機作業告知システムの作動状態の例(回収時の例)を示す図である。
【
図13】本発明の一実施の形態例に係る昇降機作業告知システムの作動状態の例(未回収の点検札がある場合の例)を示す図である。
【
図14】本発明の一実施の形態例に係る昇降機作業告知システムの点検札の監視処理の流れを示すフローチャートである。
【
図15】本発明の一実施の形態例に係る昇降機作業告知システムの作動状態の例(点検札が落下した場合の例)を示す図である。
【
図16】本発明の一実施の形態例に係る昇降機作業告知システムの作動状態の例(点検札が持ち去られた場合の例)を示す図である。
【
図17】本発明の一実施の形態例に係る昇降機作業告知システムの作動状態の例(点検札の気圧センサのキャリブレーションの例)を示す図である。
【
図18】本発明の一実施の形態例に係る昇降機作業告知システムの作動状態の例(点検札に接近した者がある場合の例)を示す図である。
【
図19】本発明の一実施の形態例に係る昇降機作業告知システムの作動状態の例(点検札の表示変更時の例)を示す図である。
【
図20】本発明の一実施の形態例に係る昇降機作業告知システムの作業員の監視処理の流れを示すフローチャートである。
【
図21】本発明の一実施の形態例に係る昇降機作業告知システムの作動状態の例(作業員の監視時の例)を示す図である。
【
図22】本発明の他の実施の形態例に係る昇降機作業告知システムを適用するエスカレーターの構成例を示す図である。
【
図23】本発明の他の実施の形態例に係る昇降機作業告知システムの作動状態(点検札の表示設定例)を示す図である。
【
図24】本発明の他の実施の形態例に係る昇降機作業告知システムの作動状態(点検札の設置例)を示す図である。
【
図25】本発明の他の実施の形態例に係る昇降機作業告知システムの作動状態(点検札の別の表示設定例)を示す図である。
【
図26】本発明の他の実施の形態例に係る昇降機作業告知システムの作動状態(開口部警告例)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態例(以下、「本例」と称する)に係る昇降機作業告知システムを、
図1~
図21を参照して説明する。
本例は、昇降機の一つであるエレベーターの点検作業時に、その作業などを告知するシステムである。
【0017】
[エレベーターの概略構成]
図1は、本例の昇降機作業告知システムが適用されるエレベーターの概略構成を示す。
図1に示すエレベーター1は、乗りかご2、乗りかご2が昇降する昇降路3、ロープ4を駆動するモータ5、制御盤6、乗りかご2とロープ4で接続された釣合い重り7、乗りかご2や釣合い重り7の緩衝器8を設置するピット9を備える。
図1の例では、制御盤6もピット9内に配置されている。
また、エレベーター1は、各階の乗り場に、乗り場ドア10が配置され、それぞれの乗り場ドア10の周囲には三方枠11が設置されている。さらに、各階の乗り場には、表示機能付き押し釦12が設けられている。
【0018】
このような構成のエレベーター1は、定期的に点検作業を行う必要がある。点検作業時には、乗りかご2や乗り場ドア10の点検の他に、昇降路3の頂部の機器13や釣合い重り7などを点検する必要がある。このため、作業員は、乗りかご2の上部に乗り込むことがある。乗りかご2の上部に乗り込む際には、作業員は、乗りかご2が停止した階の直上階の乗り場ドア10を開いて、乗り込む。
従来、このような点検作業時には、各階の乗り場に、「点検作業中」などと印刷された点検札を貼り付け、利用者に作業中を告知するようにしていた。これに対して、本例の場合には、この点検札を電子装置で構成して、適切な表示や通知を行うようにしている。
【0019】
[昇降機作業告知システムの構成]
図2~
図4は、本例の昇降機作業告知システム100の構成を示す。
図2に示すように、本例の昇降機作業告知システム100は、薄型の札状の複数枚の点検札110a,110b,110c,・・・と、それぞれの点検札110a,110b,110c,・・・が接続される充電器120とを備える。なお、以下の説明では、個々の点検札110a,110b,110c,・・・を区別する必要がない場合には、末尾のアルファベットを除いて、点検札110と称する。
【0020】
図2では説明を簡単にするために、点検札110は3枚用意した例を示すが、実際には点検札110は、少なくとも作業を行うエレベーターの全ての乗り場の数(階数)だけ必要とする。また、乗りかご2内や制御盤6に点検札110を取り付ける場合には、さらに点検札110として、1枚又は2枚多く必要とする。
【0021】
充電器120は、筐体121内に設けられたスリット122a,122b,122c,122dを有する。ここでも、個々のスリット122a,122b,122c,・・・を区別する必要がない場合には、末尾のアルファベットを除いて、スリット122と称する。この充電器120のスリット122に、それぞれの点検札110が装着される。
図2に示すスリット122の数も一例であり、図示された数に限定されない。
また、充電器120は、給電コネクタ123を備え、給電コネクタ123を介して外部から電源が供給され、スリット122に装着された点検札110内の蓄電池を充電させる。
【0022】
また、
図3に示すように、充電器120は、近距離の無線通信Waを行う無線通信部124を内蔵する。この無線通信Waとしては、例えば無線LAN(Local Area Network)やBluetooth(登録商標)が使用され、作業員が作業時に所持する携帯端末200と近距離の無線通信が行われる。また、それぞれの点検札110も、同様に無線通信Waを行う無線通信部を内蔵する。
また、充電器120は、蓄電池125を備える。蓄電池125は、点検札110に供給する充電用電源を得るためのものである。但し、充電器120に商用交流電源などが用いられる場合には、蓄電池125は省略してもよい。
【0023】
点検札110を使用しない収納時には、それぞれの点検札110は、全て充電器120に接続した状態とされ、作業員は、保全作業の実行時に、必要な枚数の点検札110を充電器120から外して、乗り場などに取り付ける。
【0024】
携帯端末200は、スマートフォンとして構成されたものであり、例えば、点検札110や充電器120と無線通信を行うことで、点検札110についての情報が表示部210に表示される。
図2の例では、表示部210に表示される情報211は、点検札110に関する連携枚数、通信強度、点検札の高さ、故障有無などである。また、携帯端末200は、振動や音の出力で各種警告を行うこともできる。また、携帯端末200には気圧センサが内蔵され、気圧から高さを検出する機能を備える。
なお、携帯端末200は、無線通信部による無線通信で所定のネットワークに接続することで、本例のシステムの管理者が運営する管理サーバ302や管理者用の端末303とデータの送受信を行うこともできる。管理サーバ302や管理者用の端末303は、
図6などで後述する。
【0025】
図3及び
図4は、点検札110と充電器120の構成を示す。
図3は点検札110の表面側の構成を示し、
図4は点検札110の裏面側の構成を示す。
点検札110は、フィルム状のパネル117に収められている、カメラ111、センサ部112、端子部113、情報処理部114、点灯部115a,115b,115c、表示部116、及び無線通信部118を有する。また、図示は省略するが、点検札110には、スピーカ、マイクロフォン、及び蓄電池が内蔵されている。
なお、カメラ111などの一部の構成要素については、フィルム状のパネル117から若干突出した状態で配置されている。
【0026】
カメラ111は、点検札110の周囲を撮影する画像センサを備える。
センサ部112は、気圧センサ、加速度センサ、地磁気センサ、位置測位センサ、接近検出センサなどで構成される。センサ部112が気圧センサを備えることで、気圧値から、点検札110の設置高さ又は設置階を計測することができる。また、点検札110が乗りかご2に設置される場合には、気圧値から、乗りかご2の現在の高さを計測することもできる。
但し、正確な高さ又は設置階を計測するためには、点検作業を開始する前に、予めキャリブレーションを行って、気圧値と高さ(階)との対応を初期設定する必要がある。
【0027】
加速度センサや地磁気センサは、点検札110の落下や移動を検出するために使用される。
位置測位センサとしては、例えばGPS(global positioning system)による測位を行うものが適用可能である。
接近検出センサとしては、赤外線センサなどが使用される。あるいは、カメラ111を接近検出センサとして使用してもよい。この接近検出センサで人物の点検札110への接近を検出した場合には、携帯端末200の接近の検出も電波強度などに基づいて行われる。すなわち、携帯端末200が接近しておらず、かつ接近検出センサで人物の接近を検出した場合、点検札110は、作業員以外の者である一般の利用者が接近したと判断する。
【0028】
端子部113は、充電器120と接続した際に、情報の送受信を行うための接点と、充電器120から受電用の電源を取得する接点とを備える。この端子部113は、点検札110の表面と裏面の上側に配置されている。
情報処理部114は、センサ部112によるセンサ情報の取得や、点灯部115a,115b,115c及び表示部116での点灯や表示の制御や、無線通信部118による通信の制御を行う。情報処理部114は、例えば演算処理の制御を行う制御部であるCPU(Central Processing Unit)と、プログラムなどを記憶すると共に演算処理を実行するワークエリアを備えたメモリなどの演算処理部で構成される。
【0029】
点灯部115a,115b,115cは、緑、黄、赤などのそれぞれ異なる色を点灯する発光ダイオードなどの表示部で構成される。すなわち、点検札110は、緑の点灯部115a、黄の点灯部115b、赤の点灯部115cを備える。
点灯部115a,115b,115cの点灯は、情報処理部114による制御で行われる。点灯部115a,115b,115cの点灯は、各階の乗り場に点検札110が設置された場合に、その点検札110が設置された階と、乗りかご2の高さとに基づいて点灯する。点灯部115a,115b,115cの点灯色の設定については後述する。
【0030】
表示部116は、液晶ディスプレイや電子ペーパなどで構成され、文字や画像などを表示する。表示部116による表示は、携帯端末200からの指令に基づいた情報処理部114による制御で行われる。なお、点灯部115a,115b,115cと表示部116は一体に構成してもよい。つまり、表示部116の一部が、緑、黄、赤などに点灯する構成としてもよい。
【0031】
無線通信部118は、無線LANやBluetooth(登録商標)を使用して、充電器120や携帯端末200と近距離の無線通信Waを行う。なお、既に説明したように充電器120の給電コネクタ123は、外部のネットワークと接続する機能を備えるため、点検札110は、充電器120を介して、外部のネットワークに接続された端末と通信を行うこともできる。例えば、点検札110は、充電器120を介して、保守点検を管理する管理者用の端末と通信を行うこともできる。
【0032】
また、
図4に示すように、点検札110の裏面側には、貼付け部119が配置される。この貼付け部119は、粘着体又は磁性体で構成される。貼付け部119があることで、点検札110は、
図1に示す三方枠11や押し釦12に貼付けることができ、かつ自在に着脱可能になる。
【0033】
[無線通信ネットワークの構成]
図5は、本例の昇降機作業告知システム内の通信ネットワーク構成の例を示す。
図5の例では、2枚の点検札110a,110bと、充電器120と、2台の携帯端末200a,200bとでメッシュ型ネットワークNWが構成される例を示している。他の点検札110c,110dは、充電器120に接続されたままで、使用されていない。
また、
図5の例では、作業員が2人の場合を示し、各作業員は、携帯端末200a,200bのいずれかを所持するものとする。また、各点検札110a,110bや充電器120は、携帯端末200a,200bを経由して、
図6などで後述する管理サーバ302や管理者用の端末303にデータを送信することもできる。
【0034】
メッシュ型ネットワークNWで通信を行うことで、各携帯端末200a,200bの表示部210では、例えば、自らの端末の高さと、他の端末の高さと、各点検札110a,110bの高さと、未使用の点検札110c,110dの枚数が情報211として表示される。
各端末200a,200bや各点検札110a,110bの高さは、それぞれに内蔵された気圧センサの検出値から判断することができる。
【0035】
なお、
図5の例では、メッシュ型ネットワークNWで、システム内の各機器である各点検札110a,110bや各端末200a,200b同士が、直接通信できる場合を示している。これに対して、設置状況によって直接無線通信ができない機器が存在する場合には、メッシュ型ネットワークNW内の他の点検札110、充電器120、携帯端末200などで中継して、通信できる構成としてもよい。
【0036】
[保全作業時の使用例]
図6は、エレベーター1の保全作業時に、点検札110を配置して使用した例を示す。
エレベーター1の保全作業を行う前に、作業員は作業中のため使用できないことを利用者に通知するため、例えば各階の押し釦12の近傍に、合計で4枚の点検札110c,110d,110e,110fを貼付ける。
また、
図6の例では、乗りかご2内にも、1枚の点検札110gを貼り付けるようにしている。
【0037】
それぞれの点検札110c~110gは、
図5で説明したメッシュ型ネットワークNWで通信を行うことが可能であり、作業員が所持する携帯端末200とも通信を行うことができる。
図6に示す各点検札110c~110g間及び携帯端末200とのデータ伝送時の通信強度D1~D3は、メッシュ型ネットワークNWで通信が行われる際の強度の例を示す。このデータ伝送時の通信強度D1~D3は、通信距離の遠近や壁等の遮蔽物により、強の通信強度D1、並の通信強度D2、弱の通信強度D3のように変化する。
【0038】
なお、乗りかご2に貼付けた点検札110gと、各階に貼付けた点検札110c~110fとの通信も、距離に応じて、強の通信強度D1、並の通信強度D2、弱の通信強度D3に変化する。
各階の乗り場の点検札110c~110fは、乗りかご2の上下の移動U1に伴った通信強度D1,D2,D3の変化と、各点検札110c~110gで検出される高さとに基づいて、各階の乗り場と乗りかご2との相対高さを判定する。そして、その判定結果に基づいて、乗り場の点検札110c~110fは、各点灯部115a,115b,115cのいずれかを点灯させる。
【0039】
なお、
図6の例では、携帯端末200の通信機能を利用して、携帯端末200がネットワーク301に接続された管理サーバ302と通信を行う構成になっている。本例のシステムによる保全作業を管理する管理者の端末303には、管理サーバ302に蓄積された情報に基づいて、保全作業の進行状況や、各点検札110c~110gの状況などが表示される。
【0040】
図7は、
図6に示すように各階の乗り場に点検札110を配置する設置時の処理の流れを示すフローチャートである。
まず、作業員は、保全作業を行うエレベーターの階数に応じて、充電器120から必要な枚数の点検札110を取り出す(ステップS11)。例えば、4つの乗り場を備えたエレベーターの場合、乗りかご2内に貼り付けるものを含めて、5枚の点検札110を充電器120から取り出す。
そして、作業員は、取り出した点検札110を、各階の乗り場2の三方枠11又は押し釦12の近傍と、乗りかご2内に貼り付ける(ステップS12)。
【0041】
次に、作業員は、携帯端末200を操作して、設置した各点検札110の初期化処理を開始する(ステップS13)。初期化処理としては、少なくとも各点検札110内の蓄電池の充電残量が十分か否かの判断処理と、それぞれの点検札110並びに携帯端末200の高さのキャリブレーション処理とが行われる。
【0042】
高さのキャリブレーション時には、例えば
図6に示すように、携帯端末200を所持した作業員が2階にいる状況で、キャリブレーションを行った場合、そのときの携帯端末200に内蔵された気圧センサの検出値を、2階の気圧値とする。
そして、各点検札110は、自身の気圧センサの検出値と、その2階の気圧値とを比較して、各点検札110の設置階や高さを判断する。このとき、例えば携帯端末200との通信強度D1(最も強い強度)の点検札110dが、携帯端末200と同じ階(2階)と判断する。あるいは、作業員が携帯端末200を使って、どの点検札110が基準階(1階)に設置されたものかを入力してもよい。
【0043】
次に、各点検札110は、これらの初期化処理が完了したか否かを判断する(ステップS14)。ステップS14で初期化処理が完了していない場合(ステップS14のNO)、点検札110は、ステップS13に戻って初期化処理を継続して行う。
そして、ステップS14で初期化処理が完了した場合(ステップS14のYES)、点検札110は、充電残量や気圧センサの計測値などに異常があるか否かを判断する(ステップS15)。
【0044】
ステップS15で異常がない場合(ステップS15のNO)、各点検札110の表示部116は、「点検中」の文字表示を開始する(ステップS16)。
そして、乗り場に設置された点検札110c~110fは、自身の設置階と、乗りかご2に貼り付けられた点検札110gの高さに応じて、点灯部115a,115b,115cの点灯を開始する(ステップS17)。なお、点灯部115a,115b,115cの点灯処理の詳細は、
図8のフローチャートで説明する。
その後、各点検札110は、作業員が所持する携帯端末200への情報送信を開始する(ステップS18)。これにより、作業員はエレベーターの保全作業を開始することができる。
【0045】
また、ステップS15で異常がある場合(ステップS15のYES)、異常があった点検札110は、携帯端末200に異常内容を通知する(ステップS19)。作業員は、携帯端末200の表示部210での表示から、充電残量の低下やセンサ異常などの異常を確認し、異常のある点検札110を別のものに交換する。点検札110を別のものに交換した場合、作業員は、携帯端末200を操作して、交換された点検札110に対して、再度ステップS13の初期化処理を実行する。
【0046】
図8は、自身の設置階と、乗りかご2に貼り付けられた点検札110gの高さに応じて、点灯部115a,115b,115cの点灯を制御する処理の例を示す。
まず、各階の点検札110は、自身の設置階と乗りかご2の現在の高さとを判断し、自身の設置階の乗り場ドア10と乗りかご2の位置がほぼ一致しているか否かを判断する(ステップS21)。
【0047】
ステップS21で、自身の設置階の乗り場ドア10と乗りかご2の位置がほぼ一致している場合(ステップS21のYES)、点検札110は、緑の点灯部115aを点灯させる(ステップS22)。また、自身の点検札110の近くの携帯端末200に対して、点検札110は、乗り込み注意を通知し、通知した乗り込み注意を携帯端末200に表示する。
また、ステップS21で、自身の設置階の乗り場ドア10と乗りかご2の位置が一致していない場合(ステップS21のNO)、点検札110は、自身の設置階の乗り場ドア10の直下になる高さに、乗りかご2があるか否かを判断する(ステップS23)。
【0048】
ステップS23で、自身の設置階の乗り場ドア10の直下になる高さに、乗りかご2がある場合(ステップS23のYES)、点検札110は、黄の点灯部115bを点灯させる(ステップS24)。また、自身の点検札110の近くの携帯端末200に対して、点検札110は、乗り込み注意を通知し、通知した乗り込み注意を携帯端末200に表示する。
さらに、ステップS23で、自身の設置階の乗り場ドア10の直下になる高さに、乗りかご2がない場合(ステップS23のNO)、点検札110は、赤の点灯部115cを点灯させる(ステップS25)。また、自身の点検札110の近くの携帯端末200に対して、点検札110は、ドア開禁止を通知し、通知したドア開禁止を携帯端末200に表示する。
ステップS22,S24,S25の点灯を行った後、点検札110は、乗りかご2の位置に変化があるごとに、ステップS21の判断に戻る。
【0049】
既に説明した
図6では、
図8に示す点灯処理を行った場合の点灯状態の例を示している。
図6では、乗りかご2が、2階に停止した状態である。この
図6に示す状態では、2階の乗り場と乗りかご2の高さが一致している。このため、2階の点検札110dは、緑の点灯部115aが点灯する。
また、2階の直上の3階の乗り場は、直下に乗りかご2が位置している状態である。このため、3階の点検札110eは、黄の点灯部115bが点灯する。さらに、1階の乗り場の点検札110cと4階の乗り場の点検札110fは、乗りかご2が近くにない状態であるため、赤の点灯部115cが点灯する。
【0050】
また、
図6の例では、作業員は2階におり、携帯端末200の表示部210で表示される情報211として、各点検札110の高さ又は階と、自身の高さである携帯端末200の高さを表示する。さらに、携帯端末200の表示部210には、点検札110から通知される情報に基づいて、コメント「注意してかごに乗ってください」などのコメントが表示される。このコメントは、乗りかご2内や乗りかご2の上に搭乗できない位置の場合には、ドア開を禁止するなどの警告のコメントに変更される。
【0051】
図9は、
図6に示す乗りかご2の位置から、乗りかご2の下方向への移動U1があり、1階と2階の間に停止した状態を示している。
このとき、2階の乗り場と乗りかご2の高さがほぼ一致している。このため、2階の点検札110dは、緑の点灯部115aが点灯する。
一方、その他の階の乗り場では、全て乗りかご2がない状態である。このため、1階、3階、4階の点検札110c,110e,110fは、赤の点灯部115cが点灯する。
【0052】
図10は、
図9に示す位置に乗りかご2が停止した状態のまま、作業員が3階に移動した状態を示している。
このとき、各階の点検札110c~110fの各点灯部115a,115b,115cの点灯状態には変化がない。一方、作業員が所持する携帯端末200は、3階の点検札110eとの通信強度が強の通信強度D1となり、3階の点検札110eからの通知を受信する。すると、携帯端末200は、ドア開を禁止するコメント「ハッチドアを開けないで下さい」を表示する。また、携帯端末200は、振動や警告音の出力で、ドア開を禁止している状態を警告することもできる。
【0053】
このように本例の昇降機作業告知システムによると、保全作業中には、各階の乗り場の近傍に貼り付けた点検札110により、作業中と表示され、点検中であることを昇降機の利用者に良好に告知することができる。
また、各階の乗り場の点検札110は、設置階や高さを検出することができ、かつ乗りかご2に設置された点検札110との相対高さも判断できるため、作業員が乗りかご2に搭乗する際や、乗りかご2の上に乗り込む際に、乗り込める状況かどうかが点灯部115の点灯色で分かる。
【0054】
また、点検札110の判断結果が携帯端末200に通知されるため、作業員は携帯端末200の表示からも、乗りかご2に乗り込めるかどうかを判断することができるので、作業員は間違った階の乗り場ドアを開けるような事故を防止することができる。
また、本例の昇降機作業告知システムは、昇降機側の制御システムとは独立した構成になっており、かつ各点検札110は内蔵された蓄電池で作動するため、保全作業のために昇降機の電源が投入されていない状況であっても、利用者への告知や作業員への危険状態の警告などを確実に行うことができる。
【0055】
[作業終了後の回収処理]
図11は、エレベーターの保全作業終了後の、点検札の回収処理の流れを示すフローチャートである。
まず、作業員は、各階の乗り場と乗りかご2内に貼り付けられた点検札110を取り外して、回収する(ステップS31)。
そして、作業員は、取り外した各点検札110を、充電器120に接続する(ステップS32)。このとき、充電器120に接続された点検札110は、表示部116での「点検中」の表示を終了する。
その後、充電器120は、接続された点検札110の枚数を確認する(ステップS33)。このステップS33における、回収した点検札110枚数の確認で、充電器120は、全ての点検札110が接続されているか否かを判断する(ステップS34)。
【0056】
ステップS34で、全ての点検札110が接続されている場合(ステップS34のYES)、充電器120は、作業員が所持する携帯端末200に回収終了の通知を送信すると共に、接続された点検札110への充電を開始する(ステップS35)。また、点検札110に保持されたデータがある場合には、充電器120は、データも回収する。ここで回収するデータには、例えば保全作業中にセンサ部112が検出したデータや、カメラ111が撮影した画像データが含まれる。
ステップS35の通知を受信した携帯端末200は、表示部210が点検札の全枚数回収完了が表示され、回収処理を終了する(ステップS36)。
【0057】
一方、ステップS34で、点検札110に接続されていないものがある場合(ステップS34のNO)、充電器120は、作業員が所持する携帯端末200に、未回収の点検札があることの通知を送信する(ステップS37)。この通知を受信した携帯端末200には、未回収の点検札110が設置された乗り場の階が表示される(ステップS38)。
【0058】
ステップS38における未回収札の設置階の表示後、充電器120は、未回収の点検札110が接続されたか否かを判断する(ステップS39)。
ステップS39で未回収の点検札110が接続された場合(ステップS39のYES)、ステップS33の枚数確認に移る。また、ステップS39で未回収の点検札110が接続されない場合(ステップS39のNO)、ステップS37の未回収の点検札110の通知処理に戻る。
【0059】
図12及び
図13は、点検札の回収時の状態を示す。
図12は、各階の乗り場から取り外した点検札110が、全て充電器120に接続されて回収が完了した状態を示している。
この
図12に示す状態のとき、作業員が所持する携帯端末200には、無線通信Waで回収完了が通知される。この通知を受信した携帯端末200は、例えば「点検札:全て揃いました 状態:充電を開始しました データを回収しました」と表示する。
【0060】
図13は、回収時に1枚の点検札110fが回収を忘れて残っている状態を示す。
この
図13に示す状態のとき、携帯端末200の表示部210には、充電器120からの通知により、残っている点検札110fの高さ又は設置階が表示される。例えば「点検札の高度×× コメント点検札No.6を忘れています」と表示される。
また、残っている点検札110fは、赤の点灯部115cを点灯させる。
なお、乗りかご2内に貼り付けられた点検札110が回収忘れである場合には、携帯端末200の表示部210には、「乗りかご内の点検札を忘れています」と表示させる。このときには、乗りかご2の停止階を表示してもよい。
【0061】
このように本例の昇降機作業告知システムによると、点検札110の回収時に回収忘れが発生したとき、回収を忘れた点検札110の設置階が、携帯端末200の表示部210に表示され、作業員は忘れた点検札110を迅速に回収することができる。もし設置階が表示されない場合には、全ての階の乗り場を順に回る必要があるが、本例の場合には作業員は、直ちに忘れた点検札110が設置された階に向かって回収することができる。したがって、回収作業を効率よく行うことができる。
【0062】
[作業中に点検札が剥がれて落下した場合の処理]
図14は、保全作業中に各階の乗り場に設置された点検札110が行う監視処理の流れを示す。
まず、各点検札110は、センサ部112の検出データから、落下又は移動があるか否かを判断する(ステップS41)。ステップS41の落下の判断は、例えば加速センサの検出値から行われる。また、移動の判断は、位置測位センサでの測位位置から行われる。
【0063】
ステップS41で、落下又は移動を検出したとき(ステップS41のYES)、該当する点検札110は、携帯端末200に落下又は移動を通知する(ステップS42)。その後、点検札110は、取り付けられたカメラ111での撮影を開始し、撮影した映像を記録する(ステップS43)。また、点検札110は、スピーカから音声ガイダンスを出力し、落下又は移動時の処理を終了する(ステップS44)。
【0064】
また、ステップS41で、落下と移動のいずれも検出していない場合(ステップS41のNO)、点検札110は、携帯端末200の所持者以外が接近しているか否かを判断する(ステップS45)。ステップS45で、携帯端末200の所持者以外が接近している状況でないと判断したとき(ステップS45のNO)、点検札110は、ステップS41の判断に戻る。
そして、ステップS45で、携帯端末200の所持者以外が接近していると判断したとき(ステップS45のYES)、該当する点検札110は、携帯端末200に部外者接近を通知して、接近時の処理を終了する(ステップS46)。
【0065】
図15は、1階の乗り場に貼り付けた点検札110cが剥がれた場合の例を示す。
図15の例では、1階の乗り場の点検札110cが剥がれて床上に落下した状態を示している。この落下は、センサ部112内の加速度センサで検出される。
このような状態が発生すると、例えば携帯端末200の表示部210に、表示情報211として、「No.3 剥がれ検知。確認要す」が表示され、作業員に剥がれが告知される。
【0066】
また、床上に落下した点検札110cが、子供401などに持ち去られた場合、点検札110cに内蔵された位置測位センサでの測位位置の変化や加速度センサでの検出値から該当する持ち運びが検出され、カメラ111での撮影が開始される。また、点検札110cに内蔵されたスピーカから、音声ガイダンスV1が出力される。
音声ガイダンスV1としては、例えば「拾って頂きありがとうございます。×××―××××―××××に連絡お願いします。」と出力される。
【0067】
図16は、点検札110cが持ち去られた場合の処理の例を示す。
例えば、持ち去られた点検札110cが携帯端末200と無線通信が可能なエリア内であるとき、携帯端末200で作業員が話した音声V2を、点検札110cに伝送し、点検札110c内のスピーカから、その作業員の音声V3を出力させる。例えば、
図16に示すように、作業員が話した「聞こえますか?」という音声を出力させることができる。
【0068】
また、同時に、点検札110cのカメラ111が撮影した映像を携帯端末200で受信できる場合には、携帯端末200の表示部210にカメラ映像を表示し、持ち去った人物402を確認することができる。また、点検札110cにマイクロフォンが内蔵されている場合には、持ち去った人物402の会話音声403を取得して、携帯端末200で出力させることができる。
【0069】
このように本例の昇降機作業告知システムによると、乗り場などに貼り付けた点検札110が剥がれて落下した場合、そのことが携帯端末200に通知され、作業員は直ちに剥がれた点検札110を貼り直す等の対処ができるようになる。また、剥がれた点検札110が持ち去られた場合、カメラ111での撮影や音声の出力を行って、適切に警告できるようになり、いたずら等を適切に防止することができる。
【0070】
[異常検出時の例]
図17は、点検札110に異常が発生した場合の例である。
図17の例では、点検札110aは正常であり、点検札110bに気圧センサの異常が発生した場合を示す。
このとき、点検札110bからの通知により、携帯端末200の表示部210では、点検札異常、点検札No.1:気圧計などの表示を行うことができる。
また、異常が発生した点検札110bは、例えば全ての点灯部115a,115b,115cを同時に点灯させて、異常であることを表示させるようにすることもできる。
【0071】
[点検中に接近者がいる場合の処理]
図18は、保全作業中に点検札110aに接近者がいる場合の例を示す。
点検札110aに取り付けられたカメラ111で撮影した映像や接近検出センサの検出データから、カメラ111の撮影範囲410に接近者411がいる場合、作業員420が所持した携帯端末200に対して警告AL1を行う。例えば、点検札110aは、携帯端末200の表示部210に接近の警告表示を行うと共に、携帯端末200の振動213により、作業員420に警告する。
また、点検札110aに接近者がいる場合、点検札110aに内蔵されたスピーカが、「点検中です。エレベーターは利用できません。」の音声案内を出力する。
【0072】
なお、ここでの接近者411は、既に説明したように、作業員420以外のものであり、例えば子供など作業員420でない者が点検札110に接近した場合である。
【0073】
[点検札の表示変更例]
ここまでの例では、点検札110の表示部116は、「点検中」と表示するようにした。これに対して、表示部116は、そのときの状態に応じた表示を行うようにしてもよい。
例えば、
図19に示すように、表示部116が「点検中」と表示した状態から、携帯端末200がエレベーターへの作業員の接近を検出した場合に、表示部116が「投入禁止」などの作業指示を行うようにしてもよい。この「投入禁止」は、エレベーターの電源を投入してエレベーターの起動を禁止するための表示である。例えば、乗りかご2内の点検札110でこのような「投入禁止」の表示を行うことで、他の箇所での点検などが同時に行われているために、電源投入が禁止されることが分かるようになる。
また、図示は省略するが、点灯部115a,115b,115cでの点灯の代わりに、表示部116での文字の表示で、乗り込み可能、乗り込み注意、乗り込み禁止などを告知するようにしてもよい。
【0074】
[ピット内に点検札を配置した場合の処理]
図20は、ピット内に点検札を配置した場合の処理の流れを示す。
例えば、
図1に示すエレベーター1のピット9内に作業員が入り、制御盤6の点検を行うことを想定する。このとき、制御盤6の近傍に点検札110を配置する。
そして、配置した制御盤6の近傍の点検札110のカメラ111で、ピット9内を撮影する(ステップS51)。
次に、点検札110は、ステップS51で撮影した映像の解析を行い、直近の一定時間以内に、映像に何らかの動きがあるか否かを判断する(ステップS52)。
【0075】
ステップS52で一定時間以内に映像に何らかの動きがある場合(ステップS52のYES)、ステップS51に戻って撮影を継続して行う。そして、ステップS52で一定時間以内に映像に全く動きがなくなった場合(ステップS52のNO)、ピット9内で作業中の作業員が所持する携帯端末200に、作業員の存在確認の通知を行う(ステップS53)。作業員の存在確認の通知を受信した携帯端末200は、振動や音声出力などにより、作業員に対して存在確認があったことを告知する。
【0076】
そして、携帯端末200は、ステップS53での通知に対する作業員からの応答操作があるか否かを判断する(ステップS54)。
ステップS54で作業員からの応答操作がある場合(ステップS54のYES)、ステップS51に戻って撮影を継続して行う。
また、ステップS54で作業員からの応答操作がない場合には(ステップS54のNO)、携帯端末200は、ネットワーク301を経由して作業員の動きが一定時間ないことを管理サーバ302に通知し、管理サーバ302に接続された管理者端末303に異常の発生を通知する(ステップS55)。
【0077】
図21は、ピット9内で作業員430が作業している状態を示す。
図21の例では、制御盤6の近傍に点検札110hを貼り付ける。点検札110hのカメラ111は、作業中に作業員430が存在する範囲である点検札110hの周囲を撮影する。ここで、作業員430に一定期間動きがない状態が継続したとき、その作業員430が所持する携帯端末200に通知を送り、携帯端末200でのアラームAL2を行う。
【0078】
アラームAL2としては、表示部210での警告表示と、携帯端末200の振動213とを行う。ここで、携帯端末200の表示部210のタッチ214などの応答がある場合に、作業員430が作業を継続して実行できる状況なので、管理者端末303側への異常発生の通知を行わない。
【0079】
一方、携帯端末200の表示部210のタッチ214などの応答がない場合には、作業員430に何らかの異常があるとして、管理者端末303側への異常発生の通知処理を行う。
このように、本例の点検札110により作業員の監視を行うことで、作業中に作業員が動かなくなる状況が発生した場合、管理者端末303に直ちに通報を行うことができる。したがって、作業員の救助などを迅速に行うことができる。
【0080】
[変形例]
なお、ここまで説明した実施の形態例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。例えば、点検札110が備えるカメラは省略してもよい。また、点検札110のセンサ部112として、上述した全てのセンサを備える必要はなく、一部のセンサを省略してもよい。
また、
図3などに示した点検札110の形状は一例を示したものであり、その他の形状としてもよい。例えば、スマートフォン等と称される携帯端末そのものを点検札として使用してもよい。
また、上述した実施の形態例では、回収時に点検札110が接続される機器は、充電器120とした。これに対して、充電機能を備えない筐体121を用意して、その筐体121に点検札110が回収される構成としてもよい。
【0081】
また、上述した実施の形態例では、エレベーターの保全作業に適用した例について説明した。これに対して、本発明は、その他の昇降機の保全作業時に適用してもよい。例えば、本発明は、エスカレーターの保全作業時に点検中などを通知するシステムとしてもよい。
図22は、エスカレーター500の構成例を示す。
図22に示すエスカレーター500は、移動手すり512と、その移動手すり512の駆動装置513と、内デッキ514と、上部乗り場501と、下部乗り場502と、複数の踏み段504とを備える。
また、上部乗り場501の操作部501aと、下部乗り場502の操作部502aとを有し、上部機械室505内には、駆動装置506と制御盤507とが配置される。さらに、エスカレーター500は、下部機械室508も備える。
【0082】
このようなエスカレーター500の保全作業を行う際には、上部乗り場501の操作部501aと、下部乗り場502の操作部502aに、既に説明した点検札110を貼り付ける。
この場合の点検札110については、例えば
図23に示すように、携帯端末200からの指令の伝送で、表示部116に表示中の「点検中」の文字を、「操作禁止」の文字に変更する。「操作禁止」は一例であり、エスカレーターの点検時に適したその他の文字表示としてもよい。
【0083】
図24は、エスカレーター500の保全作業時に、3枚の点検札110j,110k,110mを用意する。そして、上部乗り場501の操作部501aに点検札110jを貼り付け、下部乗り場502の操作部502aに点検札110kを貼り付ける。したがって、操作部501a,502aの操作ボタンは、点検札110m,110kで隠れた状態であり、操作ボタンを押すためには、点検札110m,110kを剥がす必要がある。
さらに上部乗り場501の上部機械室505内に、点検札110mを貼り付ける。
また、
図24の例では、2人の作業員601,602で保全作業を行うものとし、作業員601は上部乗り場501の操作部501aの近傍で作業を行い、作業員602は下部機械室508で作業を行う。
【0084】
そして、
図24の例では、上部乗り場501の操作部501aに貼り付けた点検札110jが、何らかの要因で剥がれたとする。
このとき、作業員601が所持する携帯端末200aでは、点検札110jが剥がれたことの警告AL11を行う。警告AL11としては、端末自身の振動213と、表示部210での剥がれたことの警告表示や、共同作業員の確認を求める表示を行う。また、表示文字と同様の内容の音声を出力してもよい。
【0085】
さらに、下部乗り場502の操作部502aに貼り付けた点検札110kでも、剥がれたことを示す警告AL12が行われ、さらに下部機械室508内の作業員602が所持する携帯端末200bでも、警告AL13が行われる。
図24の例では、警告AL13として、「エスカレーターが動きます 退避してください」との表示がなされる。また、同様の内容の音声を出力してもよい。
このようにエスカレーターの保全作業時にも点検札110を用意して、乗り場などに貼り付けることで、各作業員601,602への通知を適切に行うことができる。
【0086】
図25は、エスカレーター500の点検中において、エスカレーター500を動かす運転中に変化したときの、点検札110の表示部116の表示文字の変化例を示す。
すなわち、携帯端末200からの指令に基づいて、表示部116に表示させる文字を、「点検中」から、「運転中」に変化させる。運転中以外でも、エスカレーターの保全作業時に適したその他の文字表示としてもよい。
このように本例のシステムをエスカレーターの点検に適用することで、運転が行われる状況になった場合の作業員への警告を良好に行うことができ、作業時の安全性を確保することができる。
【0087】
また、エスカレーター500の保全作業では、
図26に示すように、踏み段504の一部を外して、開口部521を設けた状態で、作業員601が操作部501aを操作して、踏み段504を例えば下方向523に駆動させる場合がある。作業員601の位置からは、開口部521が視認できないため、態勢を崩して開口部521に巻き込まれる可能性がある。
【0088】
このような保全作業を行う際には、上部乗り場501の上部機械室505内の点検札110mのカメラ111で踏み段504を撮影し、点検札110mで開口部521が上部機械室505に到達するのを検出させる。そして、開口部521が上部機械室505に到達するのを検出したタイミングで、点検札110mから携帯端末200aに通知し、携帯端末200aで開口部が到達したことの警告AL14を行う。
これにより、作業員601は、開口部521が到達するタイミングが分かり、注意できるようになり、作業の安全性が確保されるようになる。
【0089】
なお、警告AL14を行うと同時に、踏み段504を一時停止して、携帯端末200aで警告AL14に対する応答操作が行われることで、一時停止を解除するようにして、より確実な安全性確保動作を行うようにしてもよい。
また、上部機械室505内が暗い場合には、点検札110mの点灯部115a,115b,115cなどを点灯させるか、あるいは表示部116を最大輝度で表示させてもよい。
【0090】
このように、本例の点検札110を用意して、表示を変更するだけで、エレベーターの他に、エスカレーターなどの他の昇降機の保全作業時に適用が可能になる。
【符号の説明】
【0091】
1…エレベーター、2…乗り場、3…昇降路、4…ロープ、5…モータ、6…制御盤
8…緩衝器、9…ピット、10…乗り場ドア、11…三方枠、12…表示機能付き押し釦、13…機器、100…昇降機作業告知システム、110,110a~110m…点検札、111…カメラ、112…センサ部、113…端子部、114…情報処理部、115,115a,115b,115c…点灯部(表示部)、116…表示部、117…パネル、118…無線通信部、119…貼付け部、120…充電器、121…筐体、122,122a~122d…スリット、123…給電コネクタ、124…無線通信部、125…蓄電池、200,200a,200b…携帯端末、210…表示部、301…ネットワーク、302…管理サーバ、303…管理者端末、500…エスカレーター、501…上部乗り場、501a…操作部、502…下部乗り場、502a…操作部、504…踏み段、505…上部機械室、506…駆動装置、507…制御盤、508…下部機械室、513…駆動装置、514…内デッキ、521…開口部