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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180806
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】ロータリー錠、鞄及び収容ケース
(51)【国際特許分類】
   E05B 13/08 20060101AFI20221130BHJP
   E05B 65/52 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
E05B13/08 D
E05B65/52 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087504
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000152664
【氏名又は名称】株式会社日乃本錠前
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水口 碧惟
(72)【発明者】
【氏名】江口 環
(57)【要約】
【課題】 レバーの捻りのみで施錠操作又は開錠操作ができるロータリー錠、鞄及び収容ケースを提供する。
【解決手段】 ロータリー錠10は、施錠対象部材に設けられるベース18と、施錠対象部材と対をなす施錠対象部材に設けられる鉤受部12と、鉤受部12に係合するフック17と、引き起こして回転させることによりフック17をベース18に平行に鉤受部から離れる向きへスライドをさせる羽根レバーと、羽根レバーの回転運動をフック17の前記スライドに変換する運動変換機構19,22と、フック17が回転可能に固定される旋回棒49と、旋回棒49に巻き付けられてフック17を鉤受部12から離れる方向に跳ね上げさせる付勢部34と、を備える。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
施錠対象部材に設けられるベースと、
前記施錠対象部材と対をなす施錠対象部材に設けられる鉤受部と、
前記鉤受部に係合するフックと、
引き起こして回転させることにより前記フックを前記ベースに平行に前記鉤受部から離れる向きへスライドをさせる羽根レバーと、
前記羽根レバーの回転運動を前記フックの前記スライドに変換する運動変換機構と、
前記フックが回転可能に固定される旋回棒と、
前記フックに当接して前記フックを前記鉤受部から離れる方向に跳ね上げさせ付勢部と、を備えることを特徴とするロータリー錠。
【請求項2】
前記運動変換機構を構成して前記フックに接続されるスライダと、
前記フックの前記旋回棒との接続部に設けられる開口部と、
前記スライダに設けられて前記開口部に挿入されて前記フックの前記旋回棒の周りの回転を所定範囲に制限する回転制限板と、を備える請求項1に記載のロータリー錠。
【請求項3】
前記ベースに前記フックのスライド方向に長手方向を沿わせて設けられた一対のスリットと、
前記運動変換機構を構成して前記フックに接続されるスライダと、
前記スライダを収容して前記ベース上をスライドするスライダカバーと、
前記スライダカバーから突起する抑制ばね係止爪と、
前記スライダカバーの前記抑制ばね係止爪の前記スリット内でのスライドを弾性的に抵抗する抑制ばねと、を備える請求項1に記載のロータリー錠。
【請求項4】
前記抑制ばねは、前記抑制ばね係止爪に設けられた切り欠きにより前記ベースに固定されるとともに前記抑制ばね係止爪が前記スリットから離脱することを防止する請求項3に記載のロータリー錠。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のロータリー錠を備えることを特徴とする鞄。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のロータリー錠を備えることを特徴とする収容ケース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羽根レバーを回転させて施錠操作をするロータリー錠に関する。
【背景技術】
【0002】
スーツケースや、クーラーボックス、金庫、箪笥などの収容ケースを施錠する錠前の1つに、ロータリー錠がある。ロータリー錠は、羽根レバーを引き起こして一方向に回転させることでフックをせり出させる錠前である。
ロータリー錠は、錠本体部と鉤受部とが、例えばケース本体とその蓋部とに分かれて固定される。羽根レバーを逆回転させてせり出たフックを引き込ませることで、フックをこの鉤受部に掛けてさらに締め付けて施錠することができる。
鉤受部がフックの張力で強固に締め付けられた状態で羽根レバーを錠本体部の留め機構側に倒してさらに施錠すると、羽根レバーが錠本体部に固定される。羽根レバーを引き起こすことも回転させることもできないため、収容ケースを開けることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-209640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では、施錠操作又は開錠操作の際に複数の細かい動作をしなければならないという課題があった。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、レバーの捻りのみで施錠操作又は開錠操作ができるロータリー錠、鞄及び収容ケースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態に係るロータリー錠は、施錠対象部材に設けられるベースと、前記施錠対象部材と対をなす施錠対象部材に設けられる鉤受部と、前記鉤受部に係合するフックと、引き起こして回転させることにより前記フックを前記ベースに平行に前記鉤受部から離れる向きへスライドをさせる羽根レバーと、前記羽根レバーの回転運動を前記フックの前記スライドに変換する運動変換機構と、前記フックが回転可能に固定される旋回棒と、前記フックに当接して前記フックを前記鉤受部から離れる方向に跳ね上げさせ付勢部と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、レバーの捻りのみで施錠操作又は開錠操作ができるロータリー錠、鞄及び収容ケースが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係るロータリー錠が設けられた収容ケースの部分斜視図。
図2図1の斜視図から収容ケース、羽根レバー及びネジを不図示にした斜視図。
図3図2の斜視図からスライダカバー、タンブラ台座、2枚のディスク及び鉤受部を不図示にした斜視図。
図4】スライダカバーを左下側から見上げた斜視図。
図5】フック周辺の構成の側面断面図。
図6】羽根レバー及び軸回転機構を左下側から見上げた斜視図。
図7】スライダカバー内の各部材の配置を示す裏面図。
図8】ベース内の各部材の配置を示す裏面図。
図9】(A),(B) 抑制ばねの変形と各種部材の変位との関係を説明する説明図。
図10】(A)~(D) 実施形態に係るロータリー錠の動作の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は、実施形態に係るロータリー錠10が設けられた収容ケース11の部分斜視図である。
収容ケース11は、例えば、スーツケース、クーラーボックス、救急箱又は箪笥など、ケース本体11aの開口部が閉じられるケースである。また、ロータリー錠10の適用対象部材は、収容ケース11以外にも、例えば鍵付きの日記帳など相互間の位置決めが必要な2部材であってもよい。
以下、クーラーボックスのように、ロータリー錠10の本体部(以下、「錠本体部」という)13がケース本体11aに固定され、ロータリー錠10の鉤受部12が蓋部11bに固定された例で説明する。
【0010】
ロータリー錠10の鉤受部12は、図1に示されるように、例えば「一」字状の留め板18bに「I」字状の平板を接続したT字状の平板に曲げ加工が施されて成形される。鉤受部12の鉤形状は、蓋部11bにネジ14で留められた留め板18b側に向けて「I」字状の平板部分が湾曲させることで成形される。
この鉤受部12には、錠本体部13のフック17が係合する。
【0011】
ロータリー錠10の錠本体部13は、図1に示されるように、主に、ケース本体11aに固定されるベース18と、ベース18に沿ってスライド可能なスライダ19と、スライダ19に連動して平行移動するフック17と、スライダ19を覆うスライダカバー21と、スライダ19をスライダカバー21内でスライドさせるための軸回転機構22と、軸回転機構22を軸回転させる羽根形の回転つまみである羽根レバー23と、羽根レバー23をロックするシリンダ錠24と、で構成される。
【0012】
以下、ケース本体11aに錠本体部13が固定された状態において、スライダ19がスライドする方向を「前後方向」、スライダ19のスライド面上で前後方向に直行方向を「左右方向」、これら前後方向及び左右方向の両方に直行する方向でケース本体11aから離れる向きを「上」、逆にケース本体11aへ近づく向きを「下」という。さらに、このスライドによりフック17がせり出る向きを「前」、フック17がスライダカバー21内に引き込まれる向きを「後」という。
【0013】
次に、図1の斜視図から幾つかの部材を不図示にした図2及び図3を先に用いて、ベース18を基準にそれぞれの部材の接続関係について説明する。
図2は、図1から収容ケース11、羽根レバー23、ネジ14を不図示にした斜視図である。
なお、図2において、スライダカバー21及びタンブラ台座26は想像線(一点破線)で記載している。
図3は、図2から、さらにスライダカバー21、タンブラ台座26、2枚のディスク22b,22c及び鉤受部12を不図示にした斜視図である。
なお、図3において、スライダ19は想像線(一点破線)で記載している。
【0014】
ベース18は、図3に示されるように、例えば十字架形状を有する1枚の金属板が折りたたまれて、一面が開口した箱形状に成形されている。
この金属板の4つの端面は、箱形状の外側に向けてさらに屈曲して、箱18cの開口部をケース本体11aに合わせた際に面接触する留め板18bとなっている。この留め板18bが例えば4点でネジ14で留められることで、ベース18はケース本体11aに固定される。
【0015】
ベース18の後端部の留め板18eには、図2及び図3に示されるように、タンブラ台座26(図2)がクリックばね32とともに固定される。タンブラ台座26にはシリンダ錠24のロータ27と略同一の内径を有するタンブラ孔25(図2)が設けられている。このタンブラ孔25にロータ27が上方から差し込まれる。このタンブラ孔25から下方へ突出するロータ27には、このタンブラ孔25の僅かに下位部分に水平な外れ防止スリットが設けられる。この外れ防止スリットには、外れ防止板29が嵌め込まれる。この外れ防止板29がタンブラ孔25の径よりも大きいため、シリンダ錠24はタンブラ台座26に固定され、上方向に外力が加わっても外れ止めスリットから抜けることがない。
【0016】
ロータ27には、鍵でタンブラ孔25に対してロータ27を軸回転させるための鍵孔28が設けられたヘッド部37が設けられている。
ヘッド部37は、円盤形状に鍵孔方向に直行する方向に長径を有する楕円形状が重ね合わせられたような形状を有している。
鍵で鍵孔28を左右方向に向かせることで、この楕円形状の長径が前後方向を向き、図1に示されるように、羽根レバー23の係合孔39にシリンダ錠24が掛けられた状態の羽根レバー23を上方からヘッド部37が押さえて固定する。
【0017】
また、ベース18の箱天井面18aには、左右一対の長方形スリット孔41が前後方向に長手方向を沿わせて設けられる。また、長方形スリット孔41の前側には、前側が後側よりも箱天井面18aの左右中心線側に幅広に開口する左右一対の二段型スリット孔42が設けられている。
この長方形スリット孔41及び二段型スリット孔42には、スライダカバー21の突起46,47が嵌め込まれる。
【0018】
ここで、図4は、スライダカバー21を左下から見上げた斜視図である。
スライダカバー21は、図4に示されるように、例えば一枚の十字架形状の金属板の対向する2辺が2度同じ向きに折り返されて内側を向くスライドレール21cを有する箱形状に成形される。スライダカバー21の天井部21aとスライドレール21cとの間には、スライダ19がスライドレール21c上をスライド可能に収容される。また、天井部21aの後端辺は下方に向けて一度折り曲げられて、スライドレール21cの後端に被せられる。
【0019】
また、左右のスライドレール21cの内辺には、長方形スリット孔41及び二段型スリット孔42の位置に併せられたそれぞれ左右一対の外れ防止爪46及び抑制ばね係止爪47が前後に並んで下側に突出している。
外れ防止爪46は、二段型スリット孔42の幅広側の開口部に挿入可能でこの開口部とほぼ同一形状を有するようにスライダカバー21の左右対称軸Cに向けて内側にさらに屈曲している。
また、抑制ばね係止爪47は、長方形スリット孔41へ挿入可能なように、長方形スリット孔41とほぼ同一形状にされている。
【0020】
外れ防止爪46及び抑制ばね係止爪47が長方形スリット孔41及び二段型スリット孔42に挿入された後に後向きに僅かにずらされることで、外れ防止爪46が二段型スリット孔42の幅狭な開口部に嵌まり込み、スライダカバー21がベース18に固定される。なお、抑制ばね係止爪47の後部には、長方形スリット孔41の後端部の板が入り込めるように後側切欠56が入れられている。この後側切欠56によって、スライダカバー21は、ベース18上を僅かに前後方向にスライドすることができる。
【0021】
図2及び図3に戻って各部材の説明を続ける。
スライダ19は、図2に示されるように、例えば長方形の平面板19aの左右の端辺部分が前方に向かって延伸している一枚の金属板が折り曲げられて成形される。
この左右の端辺部分は、前端部分が湾曲して左右2つの円筒19bを形成している。
この左右の円筒19bには、1本の旋回棒49が左右方向に沿って架設される。また、円筒19bを有する左右の端辺部分は上下方向に凹凸が形成されるように折り曲げられて、スライドレール21cをスライドするスライド脚19cを形成している。
【0022】
また、スライダ19の平面板19aの前端の左右中央部から回転制限板51が一段下方に下がってから屈曲して旋回棒49の中心軸より僅かに低い位置に向けて突出している。
また、旋回棒49には、フック17の後端部がフック17を回転可能に接続される。
フック17の板状の後端部には、湾曲して円筒状に成形された接続筒17aが形成されている。この接続筒17aに旋回棒49を通すことで、フック17は旋回棒49の周りを軸回転可能に旋回棒49に接続される。
【0023】
また、この接続筒17aには、スライダ19の回転制限板51が挿入されるための回転制限孔(開口部)52が設けられている。
ここで、図5はフック17周辺の構成の側面断面図である。
回転制限孔52は、例えば、90°程度の開口角度などフック17の回転を許容したい範囲で設けられる。回転制限孔52に回転制限板51が挿入されることにより、フック17の軸回転は、回転制限孔52の下端縁又は上端縁が回転制限板51に当たるまでの範囲に限定される。
【0024】
また、旋回棒49には、図2及び図3に示されるように、フック17を挟むように、トーションばねである跳ね上げばね(付勢部)34が巻き回される。跳ね上げばね34の腹部は、フック17の下部に配置されて、フック17が上方に跳ね上がるように力を付与する。なお、跳ね上げばね34の巻き回しの末端部は、旋回棒49から例えばスライダ19の左右のスライド脚19cの上面に下方から引っ掛けられて留められる。このように跳ね上げばね34を配置することで、フック17には常時上方に跳ね上げられる力がかかる。
なお、付勢部34は、トーションばねに限らず、板ばねや皿ばねさらには複数のばねを組み合わせたものであってもよい。
また、付勢部34の固定先は、旋回棒49に限定されず、例えばスライダ19であってもよい。
【0025】
また、スライダ19には、図1図3に示されるように、軸回転機構22が設けられる。
軸回転機構22は、スライダカバー21上で位置決めされる回転軸芯22aと、回転軸芯22aの周りに回転する直径の異なる2枚のディスク(レバー接続ディスク22b,回転伝達ディスク22c)と、キャップ22dと、で構成される。回転軸芯22aは2枚のディスク22b,22c及びキャップ22dをかしめにより連結させる。
2枚のディスクのうち径が小さい方のレバー接続ディスク22bには、羽根レバー23の架け爪23aが嵌め込まれるレバー用切欠45が設けられている。
【0026】
レバー用切欠45に羽根レバー23が嵌め込まれた後に、上方からキャップ22dが被せられることで、羽根レバー23は、軸回転機構22に固定される。レバー用切欠45に嵌め込まれて固定された羽根レバー23は、架け爪23aを軸としてスライダカバー21上で任意の角度に起立させたり倒したりすることができる。また、回転軸芯22aの周りに羽根レバー23を捻ることもできる。
【0027】
レバー接続ディスク22bは、図1に示されるように、スライダカバー21に天井部21aの前後左右の略中央部に設けられたレバー接続ディスク22bとより僅かに大きい直径のディスク孔21b(図4)に嵌め込まれる。
また、回転伝達ディスク22cは、スライダカバー21とスライダ19との間に配置され、レバー接続ディスク22b及びキャップ22dとともに回転軸芯22aでかしめられることでスライダカバー21に固定される。
回転伝達ディスク22cの直径はディスク孔21bよりも大きいため、回転伝達ディスク22cは、スライダカバー21とスライダ19との間に留まる。
【0028】
また、図6は、羽根レバー23及び軸回転機構22を左下から見上げた斜視図である。なお、図6において、回転軸芯22a以外の軸回転機構22は想像線で図示している。レバー接続ディスク22bの底面には、回転伝達ディスク22cにレバー接続ディスク22bの回転を伝えるための回転伝達突起22fが設けられている。
また、回転伝達ディスク22cには、この回転伝達突起22fが嵌め込まれる回転伝達孔22eが設けられている。
また、回転伝達孔22eの底面には、回転運動突起22gが設けられている。
この回転運動突起22gは、羽根レバー23を回転させることによってレバー接続ディスク22bを介して回転軸芯22aの周りを周回する。
なお、2つのディスク22b,22cは適宜一体成型されてもよい。レバー接続ディスク22bと回転伝達ディスク22cとが一体成型される場合、ディスク22b,22cの回転運動も一体的になるため、回転伝達突起22f及び回転伝達孔22eが設けられなくてもよい。
【0029】
次に、図7及び図8を用いて、錠本体部13の裏面における各部材の配置について説明する。
図7は、スライダカバー21内の各部材の配置を示す裏面図である。
つまり、錠本体部13からベース18、タンブラ台座26、シリンダ錠24及び羽根レバー23を除いて図示した裏面図である。
図8は、ベース18内の各部材の配置を示す裏面図である。
図8では、ベース18の箱天井面18a上に配置されている部材以外の各部材は図示を省略している。
【0030】
軸回転機構22の回転伝達ディスク22cは、前述のようにスライダカバー21とスライダ19の間に挟まれて配置される。
そして、回転伝達ディスク22cの回転運動突起22gは、図7に示されるように、スライダ19の平面板19aに設けられた移動孔57に嵌め込まれる。
移動孔57は、回転運動突起22gと同程度の直径を有する左右2つの円を平行な2本の直線で結んだいわゆるレーストラック形状の孔又は溝である。
【0031】
回転運動突起22gが回転軸芯22aの周りを回転すると、この回転に伴って、スライダ19も回転運動をしようとする。しかし、スライダ19はスライダカバー21による左右へのスライドが制限されているため、前後方向にスライドすることしかできない。
ここで、移動孔57はレーストラック形状をしているため、スライダ19を左右方向にスライドさせなくても、回転運動突起22gの左右方向の運動は、回転運動突起22gが移動孔57内を左右に移動することで、吸収することができる。
【0032】
つまり、回転運動突起22gの円運動は、移動孔57内の左右方向の運動とスライダ19の前後方向の運動とを組み合わせることで維持することができる。すわなち、回転伝達ディスク22c及び移動孔57を組み合わせることで、羽根レバー23の捻りがスライダ19の直線運動に変換される。つまり、軸回転機構22及びスライダ19が組み合わされて、羽根レバー23の回転運動をフック17の直線運動に変換する運動変換機構を構成することになる。
【0033】
また、前述のように、ベース18の箱天井面18aに設けられた左右の長方形スリット孔41からベース18の下方向に向けて抑制ばね係止爪47が突出している。
この抑制ばね係止爪47の前側切欠55には、図7及び図8に示されるように、トーションばねである抑制ばね36の腕部36aが左右それぞれ掛けられる。
【0034】
腕部36aは、抑制ばね係止爪47に掛けられた位置から僅かに左右方向の外側において、前方に向かって屈曲してベース18の箱側面に沿って配置される。
また、抑制ばね36は、ベース18の前側の箱側面に当接している。抑制ばね36が当接しているこの箱側面から前方に屈曲している留め板18bは、一部が前側の箱側面からの留め板18bの中央部にかけて箱側面に沿う一辺を残して四角く切れ込みが入れられている。そして、この一部が前側の箱側面から留め板18bとは反対側に屈曲して抑制ばね36をベース18の箱内に収める押さえ板18dとなる。
このような抑制ばね36の配置構造により、スライダカバー21は、ベース18に対して前向きに変位しようとすると抑制ばね係止爪47を介して後向きにばね力を受ける。
【0035】
ここで、図9(A),(B)は、抑制ばね36の変形と各種部材の変位との関係を説明する説明図である。図9(A),(B)ではともに、ロータリー錠10の裏面を図示している。
図9(A)では、ロータリー錠10の非施錠状態を示している。
ロータリー錠10の非施錠状態では、フック17が中程度に引き出されている。よって、スライダカバー21には前方へ引き寄せる力はかかっていない。
【0036】
図9(B)では、ロータリー錠10の施錠状態を示している。
ロータリー錠10の施錠状態では、フック17がスライダカバー21内に最大限に引き込まれた状態で羽根レバー23がシリンダ錠24に掛けられている。つまり、回転伝達ディスク22cの回転運動突起22gがよりシリンダ錠24に近づいている状態である。
よって、フック17とレバー接続ディスク22bとの距離が最小の状態になっているため、鉤受部12とレバー接続ディスク22bとの距離も最小になっている。
【0037】
一方、レバー接続ディスク22bはスライダカバー21に嵌め込まれて一体的にスライドするため、このときスライダカバー21もベース18上を前側にスライドして鉤受部12に最も近づこうとする。
よって、抑制ばね係止爪47が長方形スリット孔41に対して前側に移動し、抑制ばね36の腕部36aを前側に押す。
【0038】
この抑制ばね係止爪47による力で抑制ばね36は巻きが強まる方向に撓み、この撓みに対する復元力で抑制ばね係止爪47を弾性的に押し返す。
この結果、スライダカバー21には後向きに力を受ける。また、スライダカバー21とスライダ19は軸回転機構22を介して連結しているため、フック17にも抑制ばね36による後向きの弾性力が働く。
よって、羽根レバー23をシリンダ錠24で施錠する際には、フック17には、鉤受部12との係合を引き締める方向に力が働くことになる。
【0039】
次に、このように構成されたロータリー錠10の動作について、図10(A)~(D)を用いて説明する。
まず、スライダ19が最大限に引き出されている状態から、図10(A)に示されるように、羽根レバー23を一方向に例えば30°回転させる。このとき、回転運動突起22gが後ろに向かって回転するため、スライダ19がスライダカバー21の内部に引き込まれる。このとき、未だフック17はスライダカバー21とは非接触な状態なため、フック17は跳ね上げばね34のばね力で跳ね上げられた状態にある。
【0040】
次に、図10(B)に示されるように、羽根レバー23を最初の状態から80°回転させると、回転運動突起22gがさらにシリンダ錠24に近づくように回転して、スライダ19をスライダカバー21内にさらに引き込む。このとき、フック17の上面がスライダカバー21の天井部21aの下面に当たり、跳ね上げばね34のばね力に抗してフック17の先端を水平方向に倒す。
【0041】
次に、図10(C)に示されるように、羽根レバー23をさらに回転させて、最初の状態から120°回転させる。このとき、フック17はさらにスライダカバー21内に引き込まれて、ほぼ水平状態にまで倒される。そして、鉤受部12の鉤部にフック17が引っかかる。
【0042】
さらに羽根レバー23の捻りを続け、図10(D)に示されるように、最初の状態から180°回転させると、回転運動突起22g、回転軸芯22a及びシリンダ錠24は直線状に並び、回転運動突起22gがシリンダ錠24に近づく。
このとき、フック17は最もスライダカバー21内に引き込まれた状態になろうとするが、フック17は鉤受部12に掛けられているため、スライダカバー21が鉤受部12に近づこうとする。
スライダカバー21が鉤受部12に近づこうとしてベース18の箱天井面18a上を前方に変位しようとすると、抑制ばね36が撓みスライダカバー21に後向きの力をかける。
【0043】
よって、スライダカバー21は、力がかかっていないときと比較して例えば数mm程度の距離δだけ前方に変位して、抑制ばね36の復元力とこの抑制ばね36の復元力に対する鉤受部12からの抗力との両方を受ける。
よって、羽根レバー23を最初の状態から180°回転させた際には、フック17と鉤受部12とを締め付ける力が常時発生していることになる。
この状態で、羽根レバー23をシリンダ錠24側に倒してシリンダ錠24を鍵で回転させると、シリンダ錠24のヘッド部37が羽根レバー23の上面を押さえて施錠する。
【0044】
よって、フック17が跳ね上がっている状態から、羽根レバー23を回転させるだけで、ロータリー錠10を施錠状態にすることができる。
また、シリンダ錠24の施錠後、さらに羽根レバー23を逆回転させることにより、同様に羽根レバー23のみの操作によりロータリー錠10は、自動で開錠される。
つまり、開錠時も、羽根レバー23の捻りのみで、鉤受部12とフック17との引き締めが解かれ、フック17が徐々に引き出されるとともに跳ね上げられる。
【0045】
以上のように、実施形態に係るロータリー錠10によれば、以下の効果を発揮する。
(1)跳ね上げばね34を用いることで、フック17がスライダカバー21から引き出された際に、フック17が旋回棒49を軸として跳ね上げ回転をする。よって、羽根レバー23の捻りのみで鉤受部12からフック17が外れてロータリー錠10を開錠することができる。
【0046】
(2)スライダ19を利用することで、開錠時には跳ね上げられていたフック17がスライダカバー21に引き込まれるにつれて、水平状態に徐々に近づいて鉤受部12に嵌まり込ませることができる。よって、羽根レバー23を半回転捻るのみで、施錠することもできる。
つまり、ロータリー錠10は、一般的なロータリー錠にワンストロックの施錠機構を併せ持っている。
【0047】
(3)フック17に回転制限孔52を設けて回転制限板51を挿入することで、フック17が跳ね上がった際に、際限なく回転することを防止することができる。よって、施錠又は開錠の際のフック17のバタつきを抑制して操作性が向上する。また、開錠後もフック17の意匠面が目立つように維持され、観者に意匠としておしゃれな印象を与えることができる。
【0048】
(4)抑制ばね係止爪47に前側切欠55を入れて抑制ばね36を嵌まり込ませることで、抑制ばね36がスライダカバー21のベース18からの離脱を防止することができる。
【0049】
(5)スライダカバー21をベース18に対して変位可能に接続して、抑制ばね36で弾性的に固定することで、フック17と鉤受部12との締め付け力を発生させることができる。
【0050】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。
これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0051】
例えば、ベースや、鉤受部及びシリンダ錠台座をネジ留めする例で説明したが、留め具はこれに特に限定されず、例えばボルトとナットであってもよい。
また、シリンダ錠は典型的な一例を示したもので、既知又は市販のいずれのシリンダ錠を用いてもよい。
また、ベースや、スライダ、スライダカバー等は一枚の金属板を加工して成形する例で説明したが、成形態様はこれに限定されず、例えば鋳造や射出成型であってもよい。
【符号の説明】
【0052】
10…ロータリー錠、11(11a,11b)…収容ケース(ケース本体,蓋部)、12…鉤受部、13…錠本体部、14…ネジ、17(17a)…フック(接続筒)、18(18a~18e)…ベース、18a…箱天井面、18b…留め板、18c…箱、18d…押さえ板、18e…留め板、19(19a~19c)…スライダ、19a…平面板、19b…円筒、19c…スライド脚、21(21a,21b,21c)…スライダカバー(天井部,ディスク孔,スライドレール)、22(22a~22g)…軸回転機構、22a…回転軸芯、22b…レバー接続ディスク、22c…回転伝達ディスク、22d…キャップ、22e…回転伝達孔、22f…回転伝達突起、22g…回転運動突起、23(23a)…羽根レバー(架け爪)、24…シリンダ錠、25…タンブラ孔、26…タンブラ台座、27…ロータ、28…鍵孔、29…防止板、32…クリックばね、34…跳ね上げばね(付勢部)、36(36a)…抑制ばね(腕部)、37…ヘッド部、39…係合孔、41…長方形スリット孔、42…二段型スリット孔、44…カバー面、45…レバー用切欠、46…防止爪(突起)、47…抑制ばね係止爪(突起)、49…旋回棒、51…回転制限板、52…回転制限孔、55…前側切欠、56…後側切欠、57…移動孔。
図1
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図10