(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180815
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】前処理液、捺染物の製造方法及びインクセット
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20221130BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20221130BHJP
C09D 11/30 20140101ALI20221130BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20221130BHJP
D06P 5/00 20060101ALI20221130BHJP
D06P 5/30 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
B41M5/00 132
C09D11/54
C09D11/30
B41M5/00 114
B41J2/01 123
B41J2/01 501
D06P5/00 102
D06P5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087520
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】林 暁子
(72)【発明者】
【氏名】山崎 貴久
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正規
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4H157
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056FB03
2C056FC02
2C056HA42
2C056HA46
2H186AB02
2H186AB13
2H186AB54
2H186AB55
2H186AB56
2H186AB58
2H186BA08
2H186DA17
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB58
4H157AA01
4H157AA02
4H157BA15
4H157CA12
4H157CB13
4H157CB14
4H157CB16
4H157CC01
4H157DA01
4H157DA24
4H157DA34
4H157GA06
4J039EA48
4J039FA03
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】画質を向上しつつ白点の発生をも抑制することができる、捺染用インク用の前処理液を提供する。
【解決手段】水及び色材を含む捺染用インク用の前処理液であって、凝集剤及びSP値9(cal/cm3)1/2以上の有機溶剤を含み、水分量が前処理液全量に対して40質量%以下である、前処理液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水及び色材を含む捺染用インク用の前処理液であって、凝集剤及びSP値9(cal/cm3)1/2以上の有機溶剤を含み、水分量が前記前処理液全量に対して40質量%以下である、前処理液。
【請求項2】
前記水分量が前記前処理液全量に対して5質量%以下である、請求項1に記載の前処理液。
【請求項3】
前記有機溶剤のSP値が12(cal/cm3)1/2以下である、請求項1または請求項2に記載の前処理液。
【請求項4】
前記有機溶剤が、前記前処理液全量に対して80質量%以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の前処理液。
【請求項5】
記録媒体に、請求項1~4のいずれか1項に記載の前処理液を付与する工程と、
前記前処理液が付与された前記記録媒体に、水及び色材を含む捺染用インクを付与する工程とを含む、
捺染物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の前処理液と、
水及び色材を含む捺染用インクとを含む、
インクセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、前処理液、捺染物の製造方法、及びインクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
水性インクを用いた捺染用インクジェット印刷方法が普及している。
捺染インクジェット印刷方法において画質を向上させる手法として、インクを凝集させる凝集剤を含む前処理液を使用する方法が知られている(例えば特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-50277号公報
【特許文献2】特開2009-30014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前処理液を使用すると、高い画像濃度や滲み抑制効果により画質は向上し得るものの、綿生地等の布を記録媒体として用いた場合、得られた捺染物に白点が生じ、画質が低下する場合がある。
【0005】
本発明の実施形態は、画質を向上しつつ白点の発生をも抑制することができる、捺染用インク用の前処理液、並びに、画質を向上しつつ白点の発生をも抑制することができる捺染物の製造方法及びインクセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、水及び色材を含む捺染用インク用の前処理液であって、凝集剤及びSP値9(cal/cm3)1/2以上の有機溶剤を含み、水分量が前記前処理液全量に対して40質量%以下である、前処理液に関する。
本発明の他の実施形態は、記録媒体に、上記実施形態の前処理液を付与する工程と、前記処理液が付与された前記記録媒体に、水及び色材を含む捺染用インクを付与する工程とを含む、捺染物の製造方法に関する。
本発明の他の実施形態は、上記実施形態の前処理液と、水及び色材を含む捺染用インクとを含む、インクセットに関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態により、画質を向上しつつ白点の発生をも抑制することができる、捺染用インク用の前処理液を提供することができる。
本発明の他の実施形態により、画質を向上しつつ白点の発生をも抑制することができる、捺染物の製造方法を提供することができる。
本発明の他の実施形態により、画質を向上しつつ白点の発生をも抑制することができるインクセットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を詳しく説明するが、本発明がこれらの実施形態に限定される
ことはなく、様々な修正や変更を加えてもよいことは言うまでもない。
【0009】
<前処理液>
一実施形態の前処理液は、水及び色材を含む捺染用インク用の前処理液であって、凝集剤及びSP値9(cal/cm3)1/2以上の有機溶剤を含み、水分量が前処理液全量に対して40質量%以下である、前処理液である。
以下、「捺染用インク」を、単に「インク」という場合がある。
【0010】
この前処理液は凝集剤を含む。インクは、凝集剤を含む前処理液と接することで凝集するため画質が向上し得る。また、SP値9(cal/cm3)1/2以上の有機溶剤は、極性が高いため水を含む水性インクとなじみやすい。このため、前処理液と水性インク中の色材とが接触しやすくなるため色材を素早く凝集することができ、優れた画質を形成することができる。
【0011】
綿生地等の布を記録媒体として用いた場合に、前処理液を使用すると、得られた捺染物に白点が生じ、画質が低下する場合がある。前処理液を使用した場合に白点が生じる理由は次のように考えられる。綿繊維は水素結合を多く含むセルロースで構成されているため吸水しやすく、吸水後の繊維の膨張量も多い。前処理液を付与されて、吸水した繊維は、膨張し、糸の撚りに乱れが生じ、毛羽立ちが生じる場合がある。毛羽立ちが生じた箇所では、インクは生地に着弾する前に毛羽立ちに着弾してしまう場合があり、生地にインクが到達せず白点が生じる場合がある。
前処理液全量に対する水分量が40質量%以下であると、綿生地等のセルロース繊維を含む布等の記録媒体に前処理液を付与した場合でも、セルロース繊維を膨潤させにくく、記録媒体の毛羽立ちを抑制し、白点の発生を抑制することができる。
【0012】
前処理液は、記録媒体にインクを付与する前に、記録媒体に付与することができる。前処理液は、水及び色材を含む捺染用インク用として好ましく用いることができる。
【0013】
画質の向上の観点から、前処理液は、凝集剤を含むことが好ましい。
凝集剤としては、インク中の色材及び/または樹脂エマルションを、塩析、凝析、アニオンカチオン反応等によって凝集させる物質が好ましく、酸、塩基、イオン性化合物等の電解質が挙げられる。
【0014】
酸としては、塩酸、硫酸等の無機酸、酢酸、乳酸等の有機酸が挙げられる。塩基としては水酸化ナトリウム等の無機塩基、トリエタノールアミン等の有機塩基が挙げられる。イオン性化合物としては塩化カルシウム等の金属塩、カチオン性ポリマーなどが挙げられる。
【0015】
ヘッド目詰まりを防止する観点から、凝集剤は室温で液体の凝集剤であることが好ましい。
【0016】
凝集剤は有機酸であることが好ましい。有機酸は、SP値9(cal/cm3)1/2以上の有機溶剤に溶解しやすいため、記録媒体に対して、有機溶剤とともに均一に分布しやすく、前処理液の塗工ムラが軽減され、画像の濃淡ムラも軽減され得る。臭気を低減する観点から、乳酸がより好ましい。
【0017】
画質の向上の観点から、凝集剤は、前処理液全量に対して、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。凝集剤は、前処理液全量に対し、30質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、12質量%以下がさらに好ましい。凝集剤は、例えば、前処理液全量に対し、1~30質量%が好ましく、3~15質量%がさらに好ましく、5~12質量%がさらに好ましい。
【0018】
画質の向上の観点から、前処理液は、SP値9(cal/cm3)1/2以上の有機溶剤(以下、有機溶剤Sという場合もある。)を含むことが好ましい。
【0019】
ここで、SP値は、Fedors式で求められるSP値であり、具体的には、Fedorsの提唱した下記式により算出した値である。下記式において、Δeiは、i成分の原子または原子団の蒸発エネルギーであり、Δviは、i成分の原子または原子団のモル体積である(Hansen Solubility Parameters:A User’s Handbook,Second Edition,Charles M.Hansen,CRC Press,2007参照)。
δ=[(sumΔei)/(sumΔvi)]1/2
【0020】
画質の向上の観点から、有機溶剤SのSP値は、9(cal/cm3)1/2以上であることが好ましく、10(cal/cm3)1/2以上であることがより好ましく、10.5(cal/cm3)1/2以上であることがさらに好ましい。
前処理液の記録媒体への浸透性の向上とそれによる塗工ムラの軽減の観点から、有機溶剤SのSP値は、20(cal/cm3)1/2以下であることが好ましく、前処理液の凝集力の向上の観点から、有機溶剤SのSP値は、12(cal/cm3)1/2以下であることがより好ましい。
有機溶剤SのSP値は、例えば、9~20(cal/cm3)1/2であることが好ましく、10~20(cal/cm3)1/2であることがより好ましく、10.5~12(cal/cm3)1/2以下であることがさらに好ましい。
【0021】
有機溶剤Sは、水溶性有機溶剤であることがより好ましい。
有機溶剤Sとしては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、等が挙げられる。これらを1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0022】
前処理液の記録媒体への浸透性の向上とそれによる塗工ムラの軽減の観点から、有機溶剤Sは、前処理液全量に対して40質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。一方、有機溶剤Sは、前処理液全量に対して、95質量%以下であることが好ましい。
有機溶剤Sは、前処理液全量に対して、40~95質量%であることが好ましく、80~95質量%であることがより好ましい。
【0023】
前処理液が水を含む場合、水としては、水道水、イオン交換水、脱イオン水等が挙げられる。
白点の発生を抑制する観点から、前処理液の水分量は、前処理液全量に対して40質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましく、水が実質含まれないことがさらに好ましい。
【0024】
前処理液は、界面活性剤を含むこともできる。
界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等のイオン性界面活性剤と、非イオン性界面活性剤があるが、なかでも非イオン性界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0025】
また、界面活性剤は、低分子量系界面活性剤及び高分子量系界面活性剤(一般には分子量が約2000以上のものを指す。)のいずれであってもよいが、高分子量系界面活性剤を好ましく用いることができる。
界面活性剤のHLB値は、5~20であることが好ましい。
【0026】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、シリコーン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系界面活性剤、ポリオキシプロピレンアルキルフェニルエーテル系界面活性剤、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシプロピレン脂肪酸エステル系界面活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル系界面活性剤、グリセリン脂肪酸エステル系界面活性剤等を挙げることができる。これらは、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
これらの中からシリコーン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、又はこれらの組み合わせが好ましく、アセチレングリコール系界面活性剤がより好ましい。
【0028】
アセチレングリコール系界面活性剤の市販品として、例えば、アセチレングリコールの「オルフィンE1010」(商品名、日信化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0029】
上記した界面活性剤は単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
界面活性剤は、前処理液全量に対し、0.1~5質量%が好ましく、0.2~2質量%がより好ましい。
【0030】
前処理液は、例えば、pH調整剤、防腐剤等の他の成分を含有してもよい。
【0031】
前処理液の製造方法は、特に限定されず、公知の方法により適宜製造することができる。例えば、公知の攪拌機に全成分を一括又は分割して投入して撹拌して調製できる。
【0032】
前処理液は、捺染用インク用として好ましく用いることができる。
ここで、前処理液とともに用いることができる捺染用インクについて説明する。
【0033】
捺染用インクは、水及び色材を含むことが好ましい。
【0034】
色材としては、顔料及び染料の何れも使用することができ、単独で使用しても両者を併用してもよい。印刷物の耐候性及び印刷濃度の点から、色材として顔料を使用することが好ましい。
色材は、インク全量に対して0.01~20質量%の範囲で含有されることが好ましい。
【0035】
染料としては、アゾ染料、金属錯塩染料、ナフトール染料、アントラキノン染料、インジゴ染料、カーボニウム染料、キノンイミン染料、キサンテン染料、シアニン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、フタロシアニン染料、金属フタロシアニン染料等を挙げることができる。これらの染料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0036】
顔料としては、アゾ系、縮合多環系、ニトロ系、ニトロソ系の有機顔料(ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウォッチングレッド、ジスアゾイエロー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー、アニリンブラックなど)、コバルト、鉄、クロム銅、亜鉛、鉛、チタン、バナジウム、マンガン、ニッケル等の金属類、金属酸化物及び硫化物、ならびに黄土、群青、紺青などの無機顔料、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック類等が挙げられる。
【0037】
また、顔料として、顔料表面を親水性官能基で修飾した自己分散性顔料を水性溶媒に分散させた顔料分散体を使用することもできる。かかる顔料分散体の市販品としては、例えば、キャボット社製CAB-O-JETシリーズ(CAB-O-JET200、CAB-O-JET300、CAB-O-JET400、CAB-O-JET250C、CAB-O-JET450C、CAB-O-JET260M、CAB-O-JET465M、CAB-O-JET270)、オリヱント化学工業株式会社製BONJET BLACK CW-1、BONJET BLACK CW-2、BONJET BLACK CW-3等が挙げられる。これらの顔料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0038】
水中に顔料を安定して分散させるために、インクは顔料分散剤をさらに含んでもよい。
【0039】
水としては、水道水、イオン交換水、脱イオン水等が挙げられる。水は、インク全量に対して、10~90質量%であることが好ましい。
【0040】
インクは、水溶性有機溶剤を含むことが好ましい。
水溶性有機溶剤としては、室温で液体であり、水に溶解可能な化合物を使用することができ、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合する水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、2-メチル-2-プロパノール等の低級アルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン類;モノアセチン、ジアセチン等のアセチン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類;トリエタノールアミン、1-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、β-チオジグリコール、スルホラン等を用いることができる。水溶性有機溶剤の沸点は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。
【0041】
これらの水溶性有機溶剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。水溶性有機溶剤は、インク全量に対して、5~90質量%であることが好ましい。
【0042】
インクは、界面活性剤を含むことが好ましい。
界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等のイオン性界面活性剤と、非イオン性界面活性剤があるが、なかでも非イオン性界面活性剤を好ましく用いることができる。界面活性剤としては、例えば、上記した前処理液に配合可能な界面活性剤を用いることができる。
【0043】
上記した界面活性剤は単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。界面活性剤は、インク全量に対し、0.1~5質量%であることが好ましい。
【0044】
インクは、定着剤として、水分散性樹脂、水溶性樹脂、又はこれらの組み合わせを含むことが好ましく、水分散性樹脂を含むことがより好ましい。
水分散性樹脂は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。水分散性樹脂は、インク全量に対し、不揮発分量で、0.1~30質量%であることが好ましい。
【0045】
インクは、pH調整剤、防腐剤等の他の成分を含んでよい。
【0046】
インクは、公知の方法で製造することができ、例えばビーズミル等の公知の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。
【0047】
インクの粘度は適宜調節することができるが、たとえば吐出性の観点から、23℃における粘度が1~30mPa・sであることが好ましい。
【0048】
インクは、好ましくは、インクジェット捺染用インクである。インクが用いられるインクジェット方式としては、例えば、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式など、いずれの方式であってもよい。
【0049】
前処理液とともに用いることができる記録媒体としては、例えば、織物、編物、または不織布等の布が挙げられる。
布等の記録媒体は、セルロース繊維を含むことが好ましい。セルロース繊維としては、公知のものであればどのようなものでも用いることができ、例えば、綿、レーヨン、テンセル、キュプラ等を用いることができる。セルロース繊維の他に、例えばポリエステル繊維やナイロン繊維等の他種繊維が混紡、混繊、交撚、交織、交編されたものでもよい。布等の記録媒体は、セルロース繊維を50質量%以上含むことが好ましく、セルロース繊維を75質量%以上含むことがより好ましく、セルロース繊維100質量%であってもよい。
【0050】
<捺染物の製造方法>
一実施形態の捺染物の製造方法は、記録媒体に、前処理液を付与する工程(以下、「工程A」という場合もある。)と、前処理液が付与された記録媒体に、色材及び水を含む捺染用インクを付与する工程(以下、「工程B」という場合もある。)とを含むことが好ましい。
前処理液については、上述の前処理液を用いることができる。捺染用インク、及び、記録媒体については、それぞれ、上述の前処理液とともに用いることができるものとして説明したものを用いることができる。
【0051】
工程Aにおいて、前処理液は、記録媒体上の、少なくともインクで印刷する印刷領域に付与することが好ましく、印刷領域を含む記録媒体の全面に付与してもよい。
前処理液の付与は、特に限定されないが、例えば、パディング法、コーティング法、スクリーン印刷法、インクジェット法、又はスプレー法等の方法によって行うことができる。
前処理液の記録媒体への付与量は、例えば、記録媒体上の付与面積当たり、1~500g/m2、10~200g/m2、または、20~100g/m2であってよい。
【0052】
工程Bでは、前処理液が付与された記録媒体に、インクを付与する。工程Bでは、インクをインクジェット方式で付与し、インクジェット印刷を行うことが好ましい。工程Bにおいて、インクジェット方式は特に限定されず、例えば、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式等のいずれの方式であってもよい。デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドからインク等の液滴を吐出させ、吐出されたインク等の液滴を記録媒体に付着させて画像を印刷することが好ましい。
【0053】
インクの記録媒体への付与量は、記録媒体の付与面積当たり、1~500g/m2が好ましく、3~100g/m2がより好ましく、5~50g/m2がさらに好ましい。
【0054】
捺染物の製造方法は、記録媒体を加熱処理する加熱工程をさらに含んでもよい。
例えば、工程Aの後、及び/又は、工程Bの後に、記録媒体を加熱処理する加熱工程を行うことが好ましい。加熱処理方法は、特に限定されないが、例えば、ホットプレートでの加熱、ヒートプレス法、常圧スチーム法、高圧スチーム法、及びサーモフィックス法が挙げられる。加熱処理時の温度は、例えば、100℃~220℃が好ましく、120~200℃程度がより好ましい。加熱時間は、例えば、10秒~10分が好ましく、30秒~3分程度がより好ましい。
【0055】
<インクセット>
実施形態のインクセットは、前処理液と、色材及び水を含む捺染用インクとを含むことが好ましい。前処理液及び捺染用インクとして、それぞれ上述の前処理液及び捺染用インクを用いることができる。このインクセットは、セルロース繊維を含む布等の記録媒体に好ましく用いることができる。
【実施例0056】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに
限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「質量%」である。表中の各成分
の配合量も「質量%」で示す。
【0057】
<試験片>
綿100%織物を使用した。
【0058】
<前処理液の作製>
表1に前処理液UC1~UC8の処方を示す。表1に記載の配合割合にしたがって、原材料を混合し、スリーワンモーターで100rpmの速度で1分間撹拌し、前処理液UC1~UC8を得た。
【0059】
【0060】
表1に記載の材料の詳細は以下の通りである。
【0061】
グリセリン:富士フイルム和光純薬株式会社製、有機溶剤、沸点290℃
ジエチレングリコール:富士フイルム和光純薬株式会社製、有機溶剤、沸点245℃
ジエチレングリコールモノメチルエーテル:富士フイルム和光純薬株式会社製、有機溶剤、沸点194℃
ジエチレングリコールモノエチルエーテル:富士フイルム和光純薬株式会社製、有機溶剤、沸点202℃
ジエチレングリコールモノブチルエーテル:富士フイルム和光純薬株式会社製、有機溶剤、沸点230℃
乳酸:富士フイルム和光純薬株式会社製、有機酸、沸点122℃(@12mmHg)
オルフィンE1010:日信化学工業株式会社製、界面活性剤
【0062】
<捺染物の作製>
以下の工程を行い、捺染物を作製した。
表2及び3に、各実施例、比較例で第1の工程で使用した前処理液の種類及びその前処理液中の前処理液全量に対する水分量(質量%)を示す。
(第1の工程)
実施例1~5、比較例1及び2では、スプレー法により、表2及び3に示す前処理液を試験片に均一に塗工した。前処理液付与量は64g/m2であった。
比較例3では前処理液を塗工しなかった。
(第2の工程)
第1の工程の後、CAB-O-JET300(キャボットジャパン株式会社製、顔料分15質量%)20g、グリセリン(富士フイルム和光純薬株式会社製)15g、スーパーフレックス470(第一工業製薬株式会社製、ウレタン樹脂エマルション、有効成分38質量%)15g、ジエチレングリコール(富士フイルム和光純薬株式会社製)19g、オルフィンE1010(日信化学工業株式会社製、アセチレングリコール系界面活性剤)1g、イオン交換水30gを混合し、メンブレンフィルターで濾過して得たブラックインクを使用して、試験片に単色ブラックのベタ画像を印刷した。
インク転移量は約20g/m2であった。
(第3の工程)
第2の工程の後、Hotronix Fusionヒートプレスを用いて180℃で60秒間加熱した。
【0063】
<評価>
作製した捺染物に以下の評価を行った。結果を表2及び3に示す。
【0064】
(白点)
捺染物を目視で観察し、白点の程度を以下の基準で評価した。
評価基準
A:白点が観察されない。
B:白点が観察されるが、実使用上問題ないレベルである。
C:白点が多く、実使用上問題ある。
【0065】
(画像濃度)
画像濃度は、捺染物のOD値で評価した。捺染物のOD値は、分光測色計x-Rite eXact(エックスライト社製)用いて測定した。下記の基準で評価した。
評価基準
A:OD値1.35以上
B:OD値1.2以上1.35未満
C:OD値1.2未満
【0066】
【0067】