(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180821
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】減速機
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20221130BHJP
【FI】
F16H1/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087530
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000229335
【氏名又は名称】日本トムソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【弁理士】
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 覚史
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 都至
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FA36
3J027FB31
3J027FB32
3J027GC03
3J027GC24
3J027GC26
3J027GD04
3J027GD07
3J027GD13
3J027GE05
(57)【要約】
【課題】軸方向におけるコンパクト化が可能な減速機を提供する。
【解決手段】減速機は、複数の外歯を有し、第1貫通孔および第1貫通孔を取り囲むように周方向に並ぶ複数の第2貫通孔が形成された円環状の外歯歯車と、第1貫通孔を貫通する入力軸と、入力軸を外歯歯車に対して周方向に相対的に回転可能に保持する第1軸受と、第2貫通孔を軸方向に貫通する複数の内周ピンと、複数の内周ピンの両端を保持し、入力軸の外周面を取り囲む内周ピンホルダと、外歯歯車の外周面を取り囲む第2軸受と、外歯に噛み合う内歯ピンと、を備えている。第2軸受は、内周ピンホルダに固定された外輪と、外輪よりも径方向の内側に配置され、入力軸よりも低速で回転する出力軸を構成する内輪と、外輪の内周面および内輪の外周面に接触する転動体と、を含む。内輪には、外歯歯車の外周面を取り囲む円環形状を有し、内歯ピンを保持するピン保持部が内周面に沿って形成されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に周方向に沿って並ぶ複数の外歯を有し、軸方向に貫通する第1貫通孔および前記第1貫通孔を取り囲むように前記周方向に並ぶ複数の第2貫通孔が形成された円環状の外歯歯車と、
前記第1貫通孔を貫通し、回転軸の周りに回転可能な入力軸と、
前記外歯歯車と前記入力軸との間に配置され、前記入力軸を前記外歯歯車に対して前記周方向に相対的に回転可能に保持する第1軸受と、
前記第2貫通孔を前記軸方向に貫通する複数の内周ピンと、
前記複数の内周ピンの両端を保持し、前記入力軸の外周面を取り囲む内周ピンホルダと、
前記外歯歯車の前記外周面を取り囲む第2軸受と、
前記外歯に噛み合う内歯ピンと、を備え、
前記第2軸受は、
前記内周ピンホルダに固定された外輪と、
前記外輪よりも径方向の内側に配置され、前記入力軸よりも低速で回転する出力軸を構成する内輪と、
前記外輪の内周面および前記内輪の外周面に接触する転動体と、を含み、
前記内輪には、前記外歯歯車の前記外周面を取り囲む円環形状を有し、前記内歯ピンを保持するピン保持部が内周面に沿って形成されている、減速機。
【請求項2】
前記内輪には、前記径方向に貫通する給油孔が形成されている、請求項1に記載の減速機。
【請求項3】
前記内輪の前記外周面には、前記回転軸を含む断面において、底部から離れるにしたがって軌道面同士の間隔が広がる溝が形成されており、
前記給油孔は、前記溝の底部に形成されている、請求項2に記載の減速機。
【請求項4】
前記内周ピンホルダは、
前記内周ピンの第1端部を保持する円環状の保持部を有する第1ホルダ部と、
前記内周ピンにおける前記第1端部と反対側の第2端部を保持する円環状の保持部を有する第2ホルダ部と、
前記第1ホルダ部および前記第2ホルダ部を繋ぐと共に前記周方向に間隔を空けて配置され、前記第2貫通孔を貫通する柱部と、を含み、
前記柱部の端面を前記第1ホルダ部または前記第2ホルダ部に固定する固定部材であって、前記端面から前記柱部の内部に挿入される前記固定部材をさらに備えた、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の減速機。
【請求項5】
前記柱部の長手方向に垂直な断面形状は、前記周方向に延びる円弧形状であり、
前記第2貫通孔は、前記周方向に延びる長孔である、請求項4に記載の減速機。
【請求項6】
前記複数の内周ピンは、前記周方向において前記柱部を挟むように配置されており、
前記内周ピンは、転がり軸受または滑り軸受である、請求項4または請求項5に記載の減速機。
【請求項7】
前記第2貫通孔の内側に配置され、前記内周ピンに接触する潤滑部材をさらに備えた、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の減速機。
【請求項8】
前記潤滑部材には、前記軸方向に貫通する孔が形成されている、請求項7に記載の減速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、移動用装置における車輪の駆動制御部、ロボットまたは工作機械等において、減速機が用いられている。この種の技術が、例えば特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1に記載された減速機は、一対の偏心部を備えた入力軸と、当該一対の偏心部に接触する一対のサイクロイド歯車と、出力軸を構成するハブと、出力軸ピンホルダと、複数の外周ピンと、当該外周ピンを保持する外周ピンホルダと、当該ハブに支持された内周ピンとを備えている。当該ハブは、クロスローラ軸受を介して外周ピンホルダに支持されている。当該クロスローラ軸受は、外周ピンホルダに固定された外輪と、ハブに固定された内輪と、当該外輪と当該内輪との間に配置された複数のローラとを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された減速機では、外周ピンホルダとクロスローラ軸受の内輪とが軸方向に並んで配置されている。このため、従来の減速機では、軸方向の厚みが大きくなるため、コンパクト化において改善の余地がある。
【0006】
本開示の目的は、軸方向におけるコンパクト化が可能な減速機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に従った減速機は、外周面に周方向に沿って並ぶ複数の外歯を有し、軸方向に貫通する第1貫通孔および当該第1貫通孔を取り囲むように周方向に並ぶ複数の第2貫通孔が形成された円環状の外歯歯車と、第1貫通孔を貫通し、回転軸の周りに回転可能な入力軸と、外歯歯車と入力軸との間に配置され、入力軸を外歯歯車に対して周方向に相対的に回転可能に保持する第1軸受と、第2貫通孔を軸方向に貫通する複数の内周ピンと、当該複数の内周ピンの両端を保持し、入力軸の外周面を取り囲む内周ピンホルダと、外歯歯車の外周面を取り囲む第2軸受と、外歯に噛み合う内歯ピンと、を備えている。第2軸受は、内周ピンホルダに固定された外輪と、当該外輪よりも径方向の内側に配置され、入力軸よりも低速で回転する出力軸を構成する内輪と、当該外輪の内周面および当該内輪の外周面に接触する転動体と、を含む。当該内輪には、外歯歯車の外周面を取り囲む円環形状を有し、内歯ピンを保持するピン保持部が内周面に沿って形成されている。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、軸方向におけるコンパクト化が可能な減速機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施の形態1に係るサイクロイド減速機の外観構造を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、実施の形態1に係るサイクロイド減速機を第1ホルダ部側から見た正面図である。
【
図3】
図3は、実施の形態1に係るサイクロイド減速機を出力軸側から見た背面図である。
【
図4】
図4は、
図2中の線分IV-IVに沿った断面図である。
【
図7】
図7は、サイクロイド歯車の構成を示す斜視図である。
【
図8】
図8は、内周ピンの構成を示す斜視図である。
【
図9】
図9は、実施の形態1に係るサイクロイド減速機の固定軸の構成を示す斜視図である。
【
図10】
図10は、第2ホルダ部および柱部の構成を示す斜視図である。
【
図11】
図11は、出力軸において転動体および内歯ピンが配置された状態を示す斜視図である。
【
図12】
図12は、出力軸において転動体および内歯ピンが省略された状態を示す斜視図である。
【
図15】
図15は、実施の形態2における内周ピン潤滑部材の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態の概要]
本開示に従った減速機は、外周面に周方向に沿って並ぶ複数の外歯を有し、軸方向に貫通する第1貫通孔および当該第1貫通孔を取り囲むように周方向に並ぶ複数の第2貫通孔が形成された円環状の外歯歯車と、第1貫通孔を貫通し、回転軸の周りに回転可能な入力軸と、外歯歯車と入力軸との間に配置され、入力軸を外歯歯車に対して周方向に相対的に回転可能に保持する第1軸受と、第2貫通孔を軸方向に貫通する複数の内周ピンと、当該複数の内周ピンの両端を保持し、入力軸の外周面を取り囲む内周ピンホルダと、外歯歯車の外周面を取り囲む第2軸受と、外歯に噛み合う内歯ピンと、を備えている。第2軸受は、内周ピンホルダに固定された外輪と、当該外輪よりも径方向の内側に配置され、入力軸よりも低速で回転する出力軸を構成する内輪と、当該外輪の内周面および当該内輪の外周面に接触する転動体と、を含む。当該内輪には、外歯歯車の外周面を取り囲む円環形状を有し、内歯ピンを保持するピン保持部が内周面に沿って形成されている。
【0011】
上記減速機では、出力軸を構成する内輪の内周面に内歯ピンが保持される。すなわち、当該内輪が内歯ピンのホルダとして機能する。このため、内輪と内歯ピンのホルダ(外周ピンホルダ)とがそれぞれ別部材として軸方向に並ぶ従来の減速機に比べて、軸方向の厚さをより小さくすることができる。したがって、本開示に従った減速機によれば、従来の減速機に比べて軸方向におけるコンパクト化を図ることができる。
【0012】
上記減速機において、第2軸受の内輪には、径方向に貫通する給油孔が形成されていてもよい。この構成によれば、第2軸受の外輪と内輪との間に供給された潤滑油を、当該給油孔を通じて内輪の径方向内側の領域に導くことができる。これにより、内輪の内周面に保持される内歯ピンを容易に潤滑することができる。
【0013】
上記減速機において、内輪の外周面には、回転軸を含む断面において、底部から離れるにしたがって軌道面同士の間隔が広がる溝が形成されていてもよい。上記給油孔は、当該溝の底部に形成されていてもよい。この構成によれば、第2軸受の外輪と内輪との間に供給された潤滑油が、転動体の転走に伴って軌道面に沿って給油孔へ流れ込み易くなる。
【0014】
上記減速機において、内周ピンホルダは、内周ピンの第1端部を保持する円環状の保持部を有する第1ホルダ部と、内周ピンにおける第1端部と反対側の第2端部を保持する円環状の保持部を有する第2ホルダ部と、第1ホルダ部および第2ホルダ部を繋ぐと共に周方向に間隔を空けて配置され、外歯歯車の第2貫通孔を貫通する柱部と、を含んでいてもよい。上記減速機は、柱部の端面を第1ホルダ部または第2ホルダ部に固定する固定部材であって、当該端面から柱部の内部に挿入される固定部材をさらに備えていてもよい。この構成によれば、固定部材を内周ピンの内部に挿入する必要がないため、当該内周ピンを細く形成することができる。
【0015】
上記減速機において、柱部の長手方向に垂直な断面形状は、周方向に延びる円弧形状であってもよい。第2貫通孔は、周方向に延びる長孔であってもよい。この構成によれば、柱部の端面の面積がより広がるため、固定部材を挿入する位置の制約が小さくなる。したがって、減速機の設計の自由度が向上する。
【0016】
上記減速機において、複数の内周ピンは、周方向において柱部を挟むように配置されていてもよい。内周ピンは、転がり軸受または滑り軸受であってもよい。この構成によれば、転がり軸受または滑り軸受である内周ピンが第2貫通孔の内面との接触によって回転するため、減速機の駆動時における入力軸の回転トルクの上昇を抑えることができる。
【0017】
上記減速機は、第2貫通孔の内側に配置され、内周ピンに接触する潤滑部材をさらに備えていてもよい。この構成によれば、内周ピンを潤滑することができるため、内周ピンの外周面と外歯歯車の第2貫通孔の内面との間の摩擦を低減することができる。これにより、両者の摩擦による損失を低減し、減速機の駆動時における入力軸の回転トルクの上昇を抑えることができる。
【0018】
上記減速機において、潤滑部材には、軸方向に貫通する孔が形成されていてもよい。この構成によれば、潤滑部材が中実の部材である場合に比べて、より軽量化を図ることができる。
【0019】
[実施形態の具体例]
次に、本開示の減速機の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0020】
(実施の形態1)
まず、実施の形態1に係るサイクロイド減速機1(以下、単に「減速機1」とも称する)の構成を説明する。減速機1は、例えばロボットの関節部分や移動用装置における車輪の駆動制御部等に用いられる。
図1は、減速機1の外観構造を示す斜視図である。
図2は、減速機1を第1ホルダ部41側から見た正面図である。
図3は、減速機1を出力軸側から見た背面図である。
図4は、
図2中の線分IV-IVに沿った断面図である。
図5は、
図4中の線分V-Vに沿った断面図である。
図4に示すように、減速機1は、入力軸10と、第1外歯歯車20および第2外歯歯車21(外歯歯車)と、第1偏心軸受15(第1軸受)および第2偏心軸受16(第1軸受)と、内周ピンホルダ40と、第2軸受50と、内歯ピン54とを主に備えている。以下、これらの構成要素をそれぞれ詳細に説明する。
【0021】
入力軸10は、中空円筒形状を有し、回転軸R1の周りに回転可能となっている。
図4に示すように、入力軸10は、第1端部10Aと、軸方向D1において第1端部10Aと反対側の第2端部10Bとを含む。第2端部10Bは、出力軸と反対側の端部であり、内周ピンホルダ40の端面40Bよりも軸方向D1の外側に突出している。第2端部10Bには駆動用モータ(図示しない)が取り付けられ、当該モータを駆動させることにより入力軸10が回転軸R1の周りを所定の回転数で回転する。なお、入力軸は、中空状のものに限定されず、中実状のものが採用されてもよい。
【0022】
入力軸10は、第1端部10Aを含む第1軸部11と、第2端部10Bを含む第2軸部12とを含む。
図4に示すように、第2軸部12の外径は、第1軸部11の外径よりも大きい。一方、第1軸部11および第2軸部12の内径は、略同じである。
【0023】
第2軸部12は、第1支持軸受14の内輪に挿入されている。
図4に示すように、第2軸部12の外周面のうち第1軸部11に隣接する部分には、径方向D2の外側に突出する環状の肩部10Cが設けられている。当該肩部10Cによって、第1支持軸受14の内輪の出力軸側(
図4中の左側)への移動が規制されている。第1軸部11は、第1偏心軸受15、第2偏心軸受16および第2支持軸受17のそれぞれの内輪に挿入されている。入力軸10は、第1支持軸受14および第2支持軸受17によって両端が支持されている。第1偏心軸受15は、第1外歯歯車20と入力軸10(第1軸部11)との間に配置され、入力軸10を第1外歯歯車20に対して周方向に相対的に回転可能に保持する。第2偏心軸受16は、第2外歯歯車21と入力軸10(第1軸部11)との間に配置され、入力軸10を第2外歯歯車21に対して周方向に相対的に回転可能に保持する。
図4に示すように、第1軸部11の外周面には、キー13が挿入されるキー溝11Aが軸方向D1に延びるように形成されている。当該キー13によって、第1偏心軸受15および第2偏心軸受16のそれぞれの内輪が、入力軸10(第1軸部11)の外周面に固定される。
【0024】
第1支持軸受14および第2支持軸受17は、例えば深溝玉軸受である。本実施の形態では、第1支持軸受14の軸方向D1の端面が内周ピンホルダ40によって覆われているため、第1支持軸受14にシールが設けられていないが、シールの有無は特に限定されない。一方、第2支持軸受17にはシールが設けられているが、当該シールが省略されてもよい。
【0025】
第1偏心軸受15および第2偏心軸受16は、例えば円筒ころ軸受である。第1偏心軸受15および第2偏心軸受16は、偏心位相が180°ずれた状態で入力軸10にそれぞれ固定されている。
図6は、第1支持軸受14、第1偏心軸受15、第2偏心軸受16および第2支持軸受17に挿入された入力軸10を示す斜視図である。第1偏心軸受15は、入力軸10の中心(回転軸R1)に対して偏心した内輪、外輪および転動体15A(円筒ころ)に加えて、樹脂製の保持器15Bを有している。同様に、第2偏心軸受16は、入力軸10の中心に対して偏心した内輪、外輪および転動体16A(円筒ころ)に加えて、樹脂製の保持器16Bを有している。
図4に示すように、第1偏心軸受15の内輪には、転動体15Aの軸方向D1の移動を規制する一対の鍔部が設けられており、第2偏心軸受16の内輪には、転動体16Aの軸方向D1の移動を規制する一対の鍔部が設けられている。なお、保持器15B,16Bの材質は特に限定されない。
【0026】
第1外歯歯車20および第2外歯歯車21は、サイクロイド歯車である。第1外歯歯車20は、第1偏心軸受15の外輪に対して径方向D2の外側から嵌められている。第2外歯歯車21は、第2偏心軸受16の外輪に対して径方向D2の外側から嵌められている。
【0027】
図7は、第1外歯歯車20の斜視図である。
図7に示すように、第1外歯歯車20は、外周面に周方向に沿って並ぶ複数の外歯24を有し、軸方向D1に貫通する第1貫通孔22および複数の第2貫通孔23が形成された円環状の部材である。第1貫通孔22は、第1外歯歯車20の中心を含む円形の孔であり、第1偏心軸受15(
図4)の外輪が嵌め込まれると共に入力軸10(
図4)が貫通する。第2貫通孔23は、周方向に延びる円弧状の長孔であり、第1貫通孔22を取り囲むように周方向に並んで形成されている。また第1外歯歯車20には、軽量化やねじの取り付けのために、複数(本実施の形態では4つ)の第3貫通孔25がさらに形成されている。第3貫通孔25は、円形の孔であり、一対の第2貫通孔23によって周方向に挟まれている。第3貫通孔25には、電源コード等が通されてもよい。外歯24は、エピトロコイド平行曲線の形状を有しているが、これに限定されない。また外歯24の数も特に限定されず、所望の減速比を達成するために適宜選択することが可能である。
【0028】
第1外歯歯車20は、例えば熱処理されたJIS(Japanese Industrial Standards)の高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)やクロムモリブデン鋼(SCM)等の鋼材からなるが、これに限定されない。第1外歯歯車20を軽量化するため、例えばアルミニウムや炭素繊維強化プラスチック(CFRP;Carbon Fiber Reinforced Plastics)等の樹脂材料が、第1外歯歯車20の材料として採用されてもよい。なお、第2外歯歯車21は、基本的に第1外歯歯車20と同じものであるため、第2外歯歯車21の詳細な説明は省略する。第2外歯歯車21の第1貫通孔22には、第2偏心軸受16(
図4)の外輪が嵌め込まれると共に入力軸10(
図4)が貫通する。
【0029】
減速機1は、第1外歯歯車20および第2外歯歯車21に形成された複数の第2貫通孔23を軸方向D1に貫通する複数(本実施の形態では8本)の内周ピン60を備えている(
図5)。
図8は、本実施の形態における内周ピン60の構成を示す斜視図であり、転動体63が破線で示されている。
図8に示すように、内周ピン60は、円柱状の軸61と、当該軸61の外径よりも大きい内径を有する円環状の一対の外輪62と、複数の転動体63(ニードルローラ)とを含む転がり軸受である。なお、内周ピンは、転がり軸受に限定されず、例えば滑り軸受であってもよい。
【0030】
図8に示すように、軸61は、両端の角部が面取りされており、外輪62の内側に挿入されている。転動体63は、軸61の外周面と外輪62の内周面との間において環状に配置されている。内周ピン60は、外輪62の外端面および外輪62同士の間に配置されたスラストワッシャ64を含む。スラストワッシャ64は、例えばPEEK(Pоly Ether Ether Ketone)等の熱可塑性樹脂からなるが、これに限定されない。
【0031】
内周ピンホルダ40(
図4)は、複数の内周ピン60の両端を保持し、入力軸10の外周面を取り囲む。
図4に示すように、内周ピンホルダ40は、第1ホルダ部41と、第2ホルダ部42と、柱部43とを含む。第1ホルダ部41の内周面と入力軸10(第2軸部12)の外周面との間には、環状のシール94が配置されている。シール94は、例えばゴム製のものであり、防塵および潤滑剤の漏れ防止のために配置されている。シール94のリップは、入力軸10(第2軸部12)の外周面に接触する。第1外歯歯車20と第1ホルダ部41との間、第1外歯歯車20と第2外歯歯車21との間および第2外歯歯車21と第2ホルダ部42との間には、スラストワッシャが配置されている。このスラストワッシャは、例えばPEEK等の熱可塑性樹脂からなる。これにより、外歯歯車と内周ピンホルダ40との接触による摩耗や外歯歯車同士の接触による摩耗を抑制し、発熱を防ぐことができる。なお、このスラストワッシャおよびシール94は、本開示の減速機における必須の構成要素ではなく、省略されてもよい。
【0032】
図9は、内周ピン60の両端が内周ピンホルダ40によって保持された構造を示す斜視図である。
図9では、入力軸10、第1外歯歯車20および第2外歯歯車21は、省略されている。第1ホルダ部41および第2ホルダ部42は、扁平な円環形状を有し、軸方向D1に対向するように配置されている。第1ホルダ部41は、内周ピン60の第1端部を保持する円環状の保持部を有しており、第2ホルダ部42は、内周ピン60における第1端部と反対側の第2端部を保持する円環状の保持部を有している。より具体的には、第1ホルダ部41および第2ホルダ部42には、内周ピン60の軸61の端部が圧入される孔が周方向に間隔を空けて複数形成されている。
【0033】
柱部43は、第1ホルダ部41および第2ホルダ部42を繋ぐ部分である。
図10は、内周ピンホルダ40から第1ホルダ部41が取り外された状態を示している。本実施の形態では、第2ホルダ部42および柱部43は、一体に形成されている。
図10に示すように、柱部43は、周方向に間隔を空けて複数(4個)配置されると共に、軸方向D1に延びている。
図5に示すように、柱部43は、内周ピン60と共に、第1外歯歯車20および第2外歯歯車21に形成された第2貫通孔23を貫通する。
【0034】
図4に示すように、減速機1は、柱部43の端面(第2ホルダ部42と反対側の面)を第1ホルダ部41に固定するボルトB1(固定部材)を複数備えている。ボルトB1は、柱部43の端面から軸方向D1に沿って当該柱部43の内部に挿入されている。第1ホルダ部41には、ボルトB1が挿入されるボルト孔41Aが形成されており、第2ホルダ部42および柱部43には、ボルトB1の軸部の外周面に形成された雄ねじが噛み合う雌ねじ孔40Aが形成されている。ボルト孔41Aおよび雌ねじ孔40Aは、いずれも貫通孔であり、軸方向D1に延びている。
図4に示すように、第1支持軸受14は、入力軸10(第2軸部12)の外周面と第1ホルダ部41の内周面との間に配置されており、第2支持軸受17は、入力軸10(第1軸部11)の外周面と第2ホルダ部42の内周面との間に配置されている。第1ホルダ部41の外径は、第2ホルダ部42の外径よりも大きい。
【0035】
図5に示すように、柱部43の長手方向(
図5の紙面手前方向)に垂直な断面形状は、周方向に延びる円弧形状となっている。複数の内周ピン60は、周方向において柱部43を両側から挟むように配置されている。すなわち、1つの柱部43および当該1つの柱部43を挟む一対の内周ピン60が、1つの第2貫通孔23に挿入されている。本実施の形態では、柱部43が4つ設けられており、内周ピン60がその倍の8つ設けられているが、これらの数は特に限定されない。しかし、柱部43の数は、3つ以上であることが好ましい。
図5に示すように、内周ピン60は、第2貫通孔23の周方向の内面の1点で接触可能となっている。
【0036】
減速機1は、第2貫通孔23の内側に配置されると共に、内周ピン60に接触する内周ピン潤滑部材70を備えている。
図5に示すように、柱部43の周方向の両側部には、内周ピン60から離れる向きに凹む溝が形成されており、当該溝に内周ピン潤滑部材70が配置されている。内周ピン潤滑部材70は、例えば多孔質の焼結樹脂部材に潤滑剤を含浸させたものであり、軸方向D1(
図5の紙面奥行方向)に延びる中実の円筒形状を有している。なお、本開示の減速機において、内周ピン潤滑部材70は必須の構成要素ではなく、省略されてもよい。
【0037】
図4に示すように、第2軸受50は、第1外歯歯車20および第2外歯歯車21の外周面を取り囲む。本実施の形態における第2軸受50は、クロスローラベアリングであり、外輪51と、当該外輪51よりも径方向D2の内側に配置された内輪52と、外輪51の内周面51Aおよび内輪52の外周面52Aに接触する複数の転動体53と、環状のシール59とを含む。外輪51および内輪52は、例えばJISの高炭素クロム軸受鋼等の熱処理(焼き入れ、焼き戻し)が可能な金属材料からなるが、これに限定されない。なお、第2軸受50は、保持器やセパレータ等をさらに含んでいてもよい。
【0038】
図1に示すように、外輪51は、第1ホルダ部41と略同径であり、複数(本実施の形態では6本)のボルトB2によって第1ホルダ部41の外周部に固定されている。外輪51は、内周ピンホルダ40と共に固定軸を構成している。
図5に示すように、外輪51には、転動体53の投入孔51Bが、当該外輪51を径方向に貫通するように形成されている。当該投入孔51Bは、蓋部材30によって塞がれており、当該蓋部材30はピン31によって投入孔51Bに対して抜け止めされている。また
図5に示すように、外輪51には、グリースニップル32が配置されており、例えばグリース等の潤滑剤を外輪51の内側に供給可能となっている。
【0039】
内輪52は、減速機1の出力軸を構成しており、入力軸10よりも低速で回転軸R1の周りを回転する。内輪52の外端面52D(
図4)には、相手部材(図示しない)が取り付けられる。
図4に示すように、内輪52は、外輪51よりも軸方向D1の厚さが大きく、外輪51よりも軸方向D1の外側に突出している。また内輪52は、第1外歯歯車20および第2外歯歯車21の外周面を取り囲む円環形状を有している。内輪52の内周面と内周ピンホルダ40の第2ホルダ部42の外周面との間には、環状のシール90が配置されている。このシール90は、シール94と同じ形状を有するものである。シール90のリップは、内輪52の内周面のうち内歯ピン54の保持部よりも軸方向D1の外側に形成された環状の凹溝52Cに接触する。
【0040】
図11は、内輪52の外周面に複数の転動体53が並ぶと共に、内輪52の内周面に複数の内歯ピン54が並んだ状態を示す斜視図である。
図12は、転動体53および内歯ピン54が省略された状態での内輪52を示す斜視図である。
図13は、内輪52の平面図である。
図14は、
図13中の線分XIV-XIVに沿った断面図である。
【0041】
図11に示すように、内輪52の外周面には、複数の転動体53(円筒ころ)が周方向の全体に亘って並んでいる。ここで、周方向に隣接する2つの転動体53の転動軸は、互いに直交している。内輪52の内周面には、複数の内歯ピン54が周方向の全体に亘って並んでいる。内歯ピン54は、円柱形状を有しており、長手方向が内輪52の軸方向と一致している。内歯ピン54は、第1外歯歯車20および第2外歯歯車21の外歯24(
図7)に噛み合う。内歯ピン54の数は、特に限定されないが、最大で外歯24(
図7)の数よりも1つ多い。
【0042】
図12に示すように、内輪52には、内歯ピン54(
図11)を保持するピン保持部58が内周面に沿って形成されている。ピン保持部58は、第1環状部56と、当該第1環状部56に対して軸方向D1に離間する第2環状部57とを含む。第1環状部56および第2環状部57は、複数の溝が周方向の全体に亘って連続することにより形成されている。内歯ピン54(
図11)の第1端部が第1環状部56の溝内に嵌め込まれ、内歯ピン54の第2端部(軸方向D1において第1端部と反対側の端部)が第2環状部57の溝内に嵌め込まれる。
図13に示すように、第1環状部56および第2環状部57の溝は、軸方向D1から平面的に見て円弧状の溝である。
【0043】
図4を参照して、減速機1は、環状のピン案内板91および止め輪92を備えている。ピン案内板91および止め輪92は、内輪52の内周面のうち内歯ピン54の保持部よりも軸方向D1の外側の部分に取り付けられている。
図4に示すように、ピン案内板91は、内歯ピン54の第1端部(第1ホルダ部41側の端部)に対して軸方向D1に対向する。止め輪92は、ピン案内板91から見て内歯ピン54と反対側に配置され、当該ピン案内板91に対して軸方向D1に対向する。ピン案内板91は、例えば金属製の板であるが、これに限定されない。
【0044】
減速機1の組立時には、内歯ピン54が第1環状部56の溝および第2環状部57の溝に対して軸方向D1から順に挿入される(
図11、
図12)。その後、ピン案内板91および止め輪92が内輪52の内周面に取り付けられる。これにより、内歯ピン54の軸方向D1における第1ホルダ部41側への移動が規制される。内歯ピン54は、第1外歯歯車20および第2外歯歯車21の外歯24との接触によって軸周りに回転する。
【0045】
内輪52には、外周面52Aから内周面52Bまで径方向に貫通する給油孔55が形成されている。
図14に示すように、給油孔55は、周方向に間隔を空けて複数(本実施の形態では4つ)形成されている。この給油孔55を通じて、内輪52の外周面52A側から内周面52B側へ潤滑油が流れ込む。
【0046】
図4に示すように、内輪52の外周面52Aには、回転軸R1を含む断面において、底部から離れるにしたがって軌道面52AA,52AB同士の間隔が広がる溝が形成されている。給油孔55は、当該溝の底部に形成されている。一方の軌道面52AAは、回転軸R1を含む断面(
図4の断面)において、入力軸10の第1端部10Aから第2端部10Bに向かって縮径している。他方の軌道面52ABは、第2端部10Bから第1端部10Aに向かって縮径している。軌道面52AA,52ABは、転動体53が転走する面である。
【0047】
給油孔55は、油溝93に開口している。
図12に示すように、油溝93は、第1環状部56と第2環状部57との間の環状の領域である。給油孔55を形成することにより、外輪51の外側から供給されるグリース等の潤滑剤を、減速機1の内部まで到達させることができる。
【0048】
次に、実施の形態1に係る減速機1の動作について説明する。
【0049】
まず、モータ(図示しない)が駆動すると、入力軸10が高速で回転する。これに伴って、第1外歯歯車20および第2外歯歯車21の中心が入力軸10の中心の周りを回転(公転)すると共に、第1外歯歯車20および第2外歯歯車21の外歯24(
図7)が内歯ピン54に接触する。このとき、第1外歯歯車20および第2外歯歯車21は、内輪52の内側において揺動するが、内周ピンホルダ40が外輪51に固定されているため、自転しない。また内周ピン60の外輪62(
図8)は、第1外歯歯車20および第2外歯歯車21の第2貫通孔23の内面との接触によって回転する。
【0050】
一方、内歯ピン54は、第1外歯歯車20および第2外歯歯車21の外歯24によって周方向に押される。その結果、内周ピン54を保持する内輪52が、出力軸として、入力軸10よりも低速で回転軸R1の周りを回転する。このとき、内輪52が回転する向きは、入力軸10が回転する向きと同じである。また内輪52の回転軸の位置と入力軸10の回転軸の位置は、互いに一致する。
【0051】
次に、実施の形態1に係る減速機1の作用効果について説明する。
【0052】
減速機1では、出力軸を構成する内輪52の内周面に内歯ピン54が保持される。すなわち、出力軸が内歯歯車として機能する。このため、出力軸と内歯歯車とが軸方向に並ぶ従来の減速機に比べて、軸方向D1の厚さをより低減することができる。したがって、本実施の形態に係る減速機1によれば、従来の減速機に比べて軸方向D1におけるコンパクト化を図ることができる。
【0053】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2に係る減速機について説明する。本実施の形態に係る減速機は、基本的に上記実施の形態1に係る減速機1と同様の構成を備え且つ同様の効果を奏するものであるが、内周ピン潤滑部材の構成において上記実施の形態1に係る減速機1と異なっている。以下、上記実施の形態1に係る減速機1と異なる点についてのみ説明する。
【0054】
図15は、本実施の形態における内周ピン潤滑部材71の構成を示す斜視図である。
図15に示すように、内周ピン潤滑部材71は、円筒形状を有すると共に、軸方向D1に貫通する孔71Aが形成されている。孔71Aは、軸方向D1から見て円形の孔であるが、孔形状はこれに限定されない。これにより、内周ピン潤滑部材が中実である場合に比べて、軽量化を図ることができる。
【0055】
(その他実施の形態)
ここで、その他実施の形態について説明する。
【0056】
第1偏心軸受15および第2偏心軸受16において、外輪が省略されてもよい。この場合、第1偏心軸受15の転動体15Aが第1外歯歯車20の第1貫通孔22の内面に接触し、第2偏心軸受16の転動体16Aが第2外歯歯車21の第1貫通孔22の内面に接触する。
【0057】
駆動用モータは、入力軸10の第2端部10B側に取り付けられる場合に限定されず、例えば第2ホルダ部42の外端面に取り付けられてもよい。
【0058】
第1外歯歯車20および第2外歯歯車21において、第2貫通孔23は長孔に限定されず、真円の孔であってもよい。また第3貫通孔25が省略されてもよい。
【0059】
第2軸受50は、クロスローラベアリングに限定されず、他の種類のベアリングが採用されてもよい。また第2軸受50において、内輪52の給油孔55が省略されてもよい。
【0060】
上記実施の形態1では、第2ホルダ部42と柱部43とが一体に形成されている場合を一例として説明したが、これに限定されない。第1ホルダ部41と柱部43とが一体に形成されていてもよい。この場合、柱部43の端面(柱部43のうち第1ホルダ部41と反対側の面)が、当該端面から柱部43の内部に挿入される固定部材(例えばボルト)によって第2ホルダ部42に固定される。
【0061】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0062】
1 減速機、10 入力軸、10A 第1端部、10B 第2端部、10C 肩部、11 第1軸部、11A キー溝、12 第2軸部、13 キー、14 第1支持軸受、15 第1偏心軸受(第1軸受)、15A 転動体、15B 保持器、16 第2偏心軸受(第1軸受)、16A 転動体、16B 保持器、17 第2支持軸受、20 第1外歯歯車、21 第2外歯歯車、22 第1貫通孔、23 第2貫通孔、24 外歯、25 第3貫通孔、30 蓋部材、31 ピン、32 グリースニップル、40 内周ピンホルダ、40A 雌ねじ孔、40B 端面、41 第1ホルダ部、41A ボルト孔、42 第2ホルダ部、43 柱部、50 第2軸受、51 外輪、51A 内周面、51B 投入孔、52 内輪、52A 外周面、52AA,52AB 側壁、52B 内周面、52C 凹溝、52D 外端面、53 転動体、54 内歯ピン、55 給油孔、56 第1環状部、57 第2環状部、58 ピン保持部、59 シール、60 内周ピン、61 軸、62 外輪、63 転動体、64 スラストワッシャ、70,71 内周ピン潤滑部材、71A 孔、90 シール、91 ピン案内板、92 止め輪、93 油溝、94 シール、B1,B2 ボルト、D1 軸方向、D2 径方向、R1 回転軸