(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180823
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0271 20160101AFI20221130BHJP
H01M 8/02 20160101ALI20221130BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20221130BHJP
【FI】
H01M8/0271
H01M8/02
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087533
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 将樹
(72)【発明者】
【氏名】杉本 和彦
(72)【発明者】
【氏名】吉本 規寿
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA02
5H126AA13
5H126BB06
5H126DD02
5H126DD04
5H126GG11
(57)【要約】
【課題】本開示は、燃料電池の保管期間中におけるカルボニル化合物による触媒の被毒を抑制することによって、保管期間終了後に燃料電池を再起動した場合の電圧の低下を抑制できる燃料電池を提供する。
【解決手段】本開示における燃料電池は、アノード触媒層を有するアノード電極と、カソード触媒層を有するカソード電極と、電解質膜と、を有する電極-膜接合体と、アノードセパレータと、アノード側ガスシール部材と、アノードセパレータと電極-膜接合体との間に配置されるアノードガス拡散層と、カソードセパレータと、カソード側ガスシール部材と、カソードセパレータと電極-膜接合体との間に配置されるカソードガス拡散層と、を備え、カルボニル化合物を還元するヒドリド還元剤を含む液体が配置された燃料電池である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード触媒層を有するアノード電極と、カソード触媒層を有するカソード電極と、前記アノード電極と前記カソード電極との間に配置される電解質膜と、を有する電極-膜接合体と、
前記アノード電極に対向するアノードセパレータと、
前記アノードセパレータと前記電極-膜接合体との間を封止するアノード側ガスシール部材と、
前記アノードセパレータと前記電極-膜接合体との間に配置されるアノードガス拡散層と、
前記カソード電極に対向するカソードセパレータと、
前記カソードセパレータと前記電極-膜接合体との間を封止するカソード側ガスシール部材と、
前記カソードセパレータと前記電極-膜接合体との間に配置されるカソードガス拡散層と、を備え、
カルボニル化合物を還元するヒドリド還元剤を含む液体が配置された、燃料電池。
【請求項2】
前記ヒドリド還元剤を含む液体を、前記アノードセパレータと前記アノード触媒層との間、及び、前記カソードセパレータと前記カソード触媒層との間の少なくともいずれかに配置した、請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
前記ヒドリド還元剤を含む液体を、前記アノードセパレータと前記アノード触媒層との間の領域において、前記アノード側ガスシール部材と前記アノードガス拡散層との間に配置した、請求項1記載の燃料電池。
【請求項4】
前記ヒドリド還元剤を含む液体を、前記カソードセパレータと前記カソード触媒層との間の領域において、前記カソード側ガスシール部材と前記カソードガス拡散層との間に配置した、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記ヒドリド還元剤を含む液体を、前記燃料電池の内部に充満させた、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項6】
前記ヒドリド還元剤は金属水素化物である、請求項1から5のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記ヒドリド還元剤は金属非含有ヒドリド供与体である、請求項1から5のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項8】
前記ヒドリド還元剤は遷移金属ヒドリド錯体である、請求項1から5のいずれか1項に記載の燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、保管期間終了後の再起動時に電圧低下を抑制する燃料電池を開示する。この燃料電池は、発電運転の停止後、アノードガス流路またはカソードガス流路に加湿された不活性ガスを封入した状態で保管を実施する、燃料電池の停止保管方法を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、燃料電池の保管中に、燃料電池の構成部品に含まれるカルボニル化合物による触媒の被毒を抑制することによって、保管期間終了後に燃料電池を再起動した場合の電圧の低下を抑制できる燃料電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示における燃料電池は、アノード触媒層を有するアノード電極と、カソード触媒層を有するカソード電極と、前記アノード電極と前記カソード電極との間に配置される電解質膜と、を有する電極-膜接合体と、前記アノード電極に対向するアノードセパレータと、前記アノードセパレータと前記電極-膜接合体との間を封止するアノード側ガスシール部材と、前記アノードセパレータと前記電極-膜接合体との間に配置されるアノードガス拡散層と、前記カソード電極に対向するカソードセパレータと、前記カソードセパレータと前記電極-膜接合体との間を封止するカソード側ガスシール部材と、前記カソードセパレータと前記電極-膜接合体との間に配置されるカソードガス拡散層と、を備え、カルボニル化合物を還元するヒドリド還元剤を含む液体が配置された、燃料電池である。
【発明の効果】
【0006】
本開示における燃料電池は、ガスシールに残留する過酸化物架橋剤から生成するカルボニル化合物を、ヒドリド還元剤によりアルコールに還元する。そのため、燃料電池を構成する部材に、過酸化物架橋剤に由来するカルボニル化合物が含まれる場合であっても、カルボニル化合物による触媒層の被毒を抑制できる。従って、燃料電池の保管期間中における触媒被毒を抑制することにより、保管期間終了後に燃料電池を再起動した場合の電圧低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施の形態1における燃料電池の構成を示す外観斜視図
【
図2】実施の形態1における燃料電池を
図1のA-A線で切断した断面図
【
図3】実施の形態1における燃料電池のセル積層体の断面図
【
図4】実施の形態1における燃料電池のセルユニットの断面図
【
図5】実施の形態2における燃料電池のセルユニットの断面図
【
図6】実施の形態3における燃料電池のセルユニットの断面図
【
図7】実施の形態4における燃料電池のセルユニットの断面図
【発明を実施するための形態】
【0008】
(本開示の基礎となった知見等)
発明者らが本開示に想到するに至った当時、アノード触媒層、カソード触媒層及び電解質としての高分子電解質膜を有する電極-膜接合体を、ガス流路が形成されたセパレータで挟持して燃料電池を形成する技術があった。この燃料電池には、電極-膜接合体とセパレータとの間に、系外へのガスリークを抑制するガスシールが配置される。
この燃料電池は、アノード電極及びカソード電極のそれぞれに設けられた触媒層の触媒作用によって水素含有ガスと空気との電気化学反応を進行させ、外部回路に電子を取り出す構成を有する。
しかしながら、燃料電池を発電停止状態で保管する場合、保管期間終了後に再起動した際に、発電停止前と比較して電圧が低下することがあった。発明者らは、この事象をもたらす要因についての探索を行った。そして発明者らは、ガスシール製造過程において、ガスシールを構成するゴム材の架橋剤として過酸化物架橋剤が使用された場合、製造後のガスシールのゴム材に、架橋剤の分解生成物であるカルボニル化合物が残留していることを発見した。さらに、発明者らは、カルボニル化合物が保管期間中にガスシールから徐々に溶出して触媒層の白金表面に吸着して被毒し、保管期間終了後に燃料電池を再起動した際に、電気化学反応を阻害して発電電圧を低下させると言う課題を発見し、その課題を解決するために、本開示の主題を構成するに至った。
そこで、本開示は、燃料電池の保管中に、燃料電池の構成部品に含まれるカルボニル化合物による触媒の被毒を抑制することによって、保管期間終了後に燃料電池を再起動した場合の電圧の低下を抑制できる燃料電池を提供する。
【0009】
以下、図面を参照しながら実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
なお、添付図面及び以下の説明は、当事者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0010】
(実施の形態1)
以下、
図1~
図4を用いて、実施の形態1を説明する。
【0011】
[1-1.燃料電池の構成]
図1は、本発明の実施の形態1における燃料電池90の構成を示す外観斜視図である。
図2は、本発明の実施の形態1における燃料電池90を
図1のA-A線で切断した断面図である。
図3は、本発明の実施の形態1におけるセル積層体3を
図1のA-A線で切断した断面図である。
【0012】
図1に示すように、本実施の形態の燃料電池90は、セルを積層したスタック部2を集電板60,61で挟んだ構成を有する。スタック部2の外側にはエンドプレート70,77が配置され、エンドプレート70とエンドプレート77とに跨がってボルト80が配置される。ボルト80は、エンドプレート70、77間を締結することにより、集電板60、61及びスタック部2を加圧する。
【0013】
エンドプレート70の上面には、燃料ガス導入口71、燃料ガス排出口72、酸化剤ガス導入口73、酸化剤ガス排出口74、冷却媒体導入口75、及び、冷却媒体排出口76が設けられる。燃料ガス導入口71は燃料ガスをスタック部2に導入し、燃料ガス排出口72は燃料ガスを排出する。酸化剤ガス導入口73は、酸化剤ガスをスタック部2に導入し、酸化剤ガス排出口74は酸化剤ガスを排出する。冷却媒体導入口75は、冷却媒体をスタック部2に導入する。冷却媒体排出口76は、冷却媒体を排出する。燃料ガスは、水素、或いは水素を含有するガスである。酸化剤ガスは酸素を含むガスであり、具体的には空気である。冷却媒体は、イオン交換水等の流体である。
【0014】
図3に示すように、本実施の形態のセル積層体3は、セルユニット4と冷却セパレータ38とを複数積層して構成される。セルユニット4は、アノードセパレータ31とカソードセパレータ35との間に電極-膜-枠接合体10(電極-膜接合体)が挟まれた構成を有する。
【0015】
後述するように、アノードセパレータ31には燃料ガスが流れる燃料ガス流路が形成され、カソードセパレータ35には酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス流路が形成されている。冷却セパレータ38には、冷却媒体が流れる冷却媒体流路が形成されている。
【0016】
本実施の形態では、冷却セパレータ38がアノードセパレータ31及びカソードセパレータ35とは別の部材として構成される例を説明するが、これは一例である。冷却セパレータ38は、アノードセパレータ31と一体に構成されてもよい。この場合、アノードセパレータ31は、電極-膜-枠接合体10のアノード電極と対向する一方の主面に燃料ガス流路が形成され、他方の主面に冷却媒体流路が形成された構成となる。或いは、冷却セパレータ38は、カソードセパレータ35と一体に構成されてもよい。この場合、カソードセパレータ35は、電極-膜-枠接合体10のカソード電極と対向する一方の主面に酸化剤ガス流路が形成され、他方の主面に冷却媒体流路が形成された構成となる。
【0017】
[1-2.セルの構成]
図4に示すように、本実施の形態のセルユニット4は、電極-膜-枠接合体10と、アノードセパレータ31と、カソードセパレータ35とを有する。
【0018】
電極-膜-枠接合体10は、電解質膜15と、電解質膜15を挟んで一方の主面に配置されたアノード触媒層16と、他方の主面に配置されたカソード触媒層17と、アノード触媒層16の外側に配置されたガス拡散層20(アノードガス拡散層)と、カソード触媒層17の外側に配置されたガス拡散層22(カソードガス拡散層)と、枠体19と、を備える。ガス拡散層20は、アノード触媒層16を挟んで電解質膜15と反対側に配置される。ガス拡散層22は、カソード触媒層17を挟んで電解質膜15と反対側に配置される。
【0019】
アノード触媒層16及びガス拡散層20はアノード電極51を構成する。アノード電極51に対向して、アノードセパレータ31が配置される。カソード触媒層17及びガス拡散層22はカソード電極52を構成する。カソード電極52に対向して、カソードセパレータ35が配置される。
【0020】
本実施の形態の燃料電池90は、高分子電解質膜である電解質膜15を電解質として用いる固体高分子型燃料電池である。
電解質膜15は、水素イオン伝導性を有する高分子電解質膜であり、具体的には、水素イオン交換基としてスルホン酸基を有するパーフルオロスルホン酸系の高分子材料で構成される。電解質膜15は、アノード触媒層16で生成する水素イオンをカソード触媒層17に輸送する。
【0021】
アノード触媒層16は、水素の酸化反応に対する触媒を含む層であり、具体的には、白金(Pt)を担持したカーボン粒子と高分子電解質樹脂とを含む。アノード触媒層16には、アノードセパレータ31に形成された燃料ガス流路32を通じて燃料ガスが供給される。アノード触媒層16が含む触媒は、燃料ガスに含まれる水素を水素イオンに解離する電気化学反応を促進する。
【0022】
カソード触媒層17は、酸素の還元反応に対する触媒を含む層であり、具体的には、白金を担持したカーボン粒子と高分子電解質樹脂とを含む。カソード触媒層17には、カソードセパレータ35に形成された酸化剤ガス流路36を通じて酸化剤ガスが供給される。カソード触媒層17が含む触媒は、アノード触媒層16から電解質膜15を通ってカソード触媒層17に移動する水素イオンと、酸化剤ガスに含まれる酸素とから水を生成する電気化学反応を促進する。
【0023】
ガス拡散層20は、アノード触媒層16に接して配置される。ガス拡散層20は、燃料ガス流路32から供給される燃料ガスを拡散させてアノード触媒層16に供給する機能、及び、アノード触媒層16との間で電子の授受を行う機能を有する。
ガス拡散層22は、カソード触媒層17に接して配置される。ガス拡散層22は、酸化剤ガス流路36から供給される酸化剤ガスを拡散させてカソード触媒層17に供給する機能、及び、カソード触媒層17との間で電子の授受を行う機能を有する。
【0024】
ガス拡散層20、及び、ガス拡散層22は、ガス透過性と電子伝導性を併せ持つ導電性カーボンペーパーを主な構成部材として構成される。例えば、ガス拡散層20、22は、カーボンペーパーを用いて作製された多孔質構造を有する導電性基材に、フッ素樹脂に代表される撥水性高分子樹脂を分散させた構成であってもよい。
【0025】
アノードセパレータ31、及び、カソードセパレータ35は、機械的強度と導電性を有する板状部材である。アノードセパレータ31、及び、カソードセパレータ35は、ガス透過性を有しないことが好ましい。アノードセパレータ31、及び、カソードセパレータ35は、例えば、圧縮カーボンで構成されてもよい。或いは、アノードセパレータ31及びカソードセパレータ35は、黒鉛粉末と熱硬化性樹脂の混練物を加熱成型することによって製造された部材であってもよい。
【0026】
枠体19は、非導電性の材料で構成される部材であり、電解質膜15の外周領域に額縁状に形成される。枠体19は、具体的には樹脂材料で構成され、ハンドリング性の観点から、機械的強度を有する硬質の樹脂材料を用いて構成されることが好ましい。
【0027】
枠体19は、電解質膜15、アノード触媒層16、カソード触媒層17、及び、ガス拡散層20、22の周囲を囲むように配置される。枠体19は、電極-膜-枠接合体10の外周部分で露出する電解質膜15を覆うように電極-膜-枠接合体10を支持する。
【0028】
アノードセパレータ31及びカソードセパレータ35は、
図1に示したように矩形の板状部材である。電解質膜15、アノード触媒層16、カソード触媒層17、ガス拡散層20、及びガス拡散層22の形状は特に限定されないが、好ましい実施の形態としては、矩形のシート状または板状部材である。これら電解質膜15、アノード触媒層16、カソード触媒層17、及び、ガス拡散層20、22の平面視におけるサイズは、アノードセパレータ31及びカソードセパレータ35よりも小さい。
これに対し、枠体19は、平面視において、アノードセパレータ31及びカソードセパレータ35と同一または近いサイズである。このため、電極-膜-枠接合体10は、平面視においてアノードセパレータ31及びカソードセパレータ35とほぼ同一のサイズとなる。
【0029】
電極-膜-枠接合体10とアノードセパレータ31との間には、ガス拡散層20の周囲を囲むようにガスシール41(アノード側ガスシール部材)が配置される。具体的には、ガスシール41は、アノードセパレータ31の周縁部に配置される。ガスシール41は、可撓性樹脂や合成ゴム等で構成される枠形状の弾性体である。ガスシール41は、アノードセパレータ31と枠体19との間を封止して、燃料ガスの外部への漏出を遮断又は抑制する。
【0030】
電極-膜-枠接合体10とカソードセパレータ35との間には、ガス拡散層22の周囲を囲むようにガスシール42(カソード側ガスシール部材)が配置される。具体的には、ガスシール42は、カソードセパレータ35の周縁部に配置される。ガスシール42は、可撓性樹脂や合成ゴム等で構成される枠形状の弾性体であり、カソードセパレータ35と枠体19との間を封止して、酸化剤ガスの漏出を遮断又は抑制する。
【0031】
[1-3.ガスシールの架橋剤の影響]
ガスシール41、42は、種々の合成樹脂や合成ゴムを採用することができる。具体的には、ガスシール41、42の材料として、シリコーンゴム、天然ゴム、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリエステル系及びポリアミド系等の熱可塑性エラストマー、フッ素ゴム等を用いることができる。好ましくは、ガスシール41、ガスシール42は、燃料電池90に組み込まれた場合の耐久性に優れるフッ素ゴムが用いられる。フッ素ゴムは、フッ化ビニリデン系(FKM)、テトラフルオロエチレン-プロピレン系(FEPM)、テトラフルオロエチレン-パープルオロビニルエーテル系(FFKM)のいずれであってもよい。
【0032】
合成ゴムの架橋剤として、有機過酸化物架橋剤が用いられることがある。有機過酸化物架橋剤を利用して製造された合成ゴム部品は、有機過酸化物架橋剤が熱分解して生成した分解生成物を含む。ジクミルパーオキサイド(DCP)、過酸化ジベンゾイル、ジ(4-メチルベンゾイル)ペルオキシド(PMB)を架橋剤として製造された製品は、架橋剤の分解生成物として芳香族カルボニル化合物を含有する。より具体的には、有機過酸化物架橋剤としてジクミルパーオキサイド(ビス(1‐メチル‐1‐フェニルエチル)=ペルオキシド、DCP)を用いて製造された合成ゴム製品は、カルボニル化合物を含有する。ここで、ジクミルパーオキサイドは、ビス(1‐メチル‐1‐フェニルエチル)=ペルオキシドの別名である。具体的な例として、フッ素ゴムの架橋剤としてジクミルパーオキサイドが用いられる。
【0033】
発明者らは、ガスシール41、42に含まれるカルボニル化合物、特に、芳香族カルボニル化合物が、アノード触媒層16及びカソード触媒層17に含まれる白金に付着すると、白金を被毒して燃料ガス中の水素と空気との電気化学反応を阻害し、発電電圧を低下させる要因となるとの知見を得た。
【0034】
すなわち、ガスシール41、42の製造時に架橋剤として有機過酸化物架橋剤を用いた場合、架橋剤の熱分解によりカルボニル化合物が生成する。このカルボニル化合物は、製造後のガスシール41、42中に残留しており、長時間をかけて少しずつ放出されて、燃料電池90の内部に拡散される。燃料電池90の発電運転を停止させて燃料電池90を保管する場合、保管期間中は、燃料ガスや酸化剤ガスが燃料電池90に流れない。そのため、ガスシール41から放出されたカルボニル化合物の一部は、ガスシール41と枠体19により封止された空間内を移動し、ガス拡散層20を経由してアノード触媒層16の白金表面に付着する。同様に、ガスシール42から放出されたカルボニル化合物の一部は、ガス拡散層22を経由してカソード触媒層17の白金表面に付着する。燃料電池90の保管期間が長いほど、白金表面へのカルボニル化合物の付着量が増加し、被毒が進行する。このように白金が被毒されることに起因して、保管期間終了後に燃料電池90を再起動させた際に、発電停止前と比較して発電電圧が低下することがあった。
これに対し、本実施の形態のセルユニット4は、ヒドリド還元剤を含む液体が配置されたことにより、アノード触媒層16及びカソード触媒層17の被毒を抑制し得る。
【0035】
[1-4.ヒドリド還元剤を含む液体]
図4に示すように、セルユニット4には、作用液体8が配置されている。作用液体8は、ヒドリド還元剤を含む液体である。より具体的には、作用液体8は、液体とヒドリド還元剤との混合物である。ヒドリド還元剤は、有機カルボニル化合物をアルコールにヒドリド還元する物質であればよい。詳細には、上記有機過酸化物架橋剤の分解生成物であるカルボニル化合物と反応して、アルコールを生成する物質であればよい。ヒドリド還元剤の好ましい例として、金属水素化物、遷移金属ヒドリド錯体、及び、金属非含有ヒドリド供与体が挙げられる。金属水素化物の例として、水素化アルミニウム、水素化アルミニウムリチウム、及び、水素化ホウ素ナトリウムが挙げられる。遷移金属ヒドリド錯体の例として、トリフェニルホスフィンロジウム錯体、ホスフィン-エチレンジアミン-ルテニウム錯体が挙げられる。金属非含有ヒドリド供与体の例として、アルミニウムイソプロポキシドが挙げられる。
【0036】
作用液体8の主たる成分である液体は、水、エタノール、及び、その他の有機溶媒から選択される。ヒドリド還元剤と液体とは、互いに反応しない組合せで選択されることが好ましい。例えば、ヒドリド還元剤の種類を問わず、液体として、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、その他の有機溶媒を選択できる。その他の有機溶媒は、例えば、エーテル溶媒、及び、脂肪族飽和炭化水素である。エーテル溶媒の例として、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1,2-ジメトキシエタン(DME)が挙げられる。脂肪族飽和炭化水素は、n-ペンタンやn-ヘキサン等の直鎖アルカンや、これらの構造異性体が例として挙げられる。構造異性体とは、イソヘキサン等の枝分かれを有する炭化水素、及び、シクロヘキサン等の環状構造を有する異性体が挙げられる。作用液体8は、上記に挙げた液体のうち複数を混合したものであってもよい。例えば、作用液体8は、水とエタノールの混合物を含んでもよい。
【0037】
作用液体8において、ヒドリド還元剤は液体に溶解した状態であってもよい。また、作用液体8は、固体のヒドリド還元剤が液体と混合した状態であってもよい。また、ヒドリド還元剤が液体に溶解した状態と、固体のヒドリド還元剤が液体と混合した状態とが併存してもよい。
【0038】
固体のヒドリド還元剤が液体と混合した作用液体8の具体的な例として、ヒドリド還元剤を含む粒子または粉末が液体に分散した状態、ヒドリド還元剤を含むペーストが挙げられる。ヒドリド還元剤の粒子および粉末は、ヒドリド還元剤からなる粒子や粉末であってもよいし、ヒドリド還元剤に基材やバインダーを混合させて粒子状或いは粉末状に形成したものであってもよい。また、これらは焼結処理を経て形成されてもよい。
【0039】
図4に示すように、実施の形態1のセルユニット4には、アノード電極51とカソード電極52の両方に、作用液体8が配置される。
アノード電極51においては、枠体19、アノードセパレータ31、及びガスシール41で封止された空間内に作用液体8が配置される。例えば、作用液体8は、ガスシール41とガス拡散層20との間や燃料ガス流路32に存在する。作用液体8は、例えば、枠体19、アノードセパレータ31、ガスシール41の表面に付着する。また、作用液体8は、アノードセパレータ31とアノード触媒層16との間に位置し、ガス拡散層20に浸潤してもよい。また、作用液体8は、ガス拡散層20とガスシール41との間の空間にあってもよい。作用液体8は、空間を浮遊するミストであってもよい。作用液体8は、上記空間を流動可能であってもよい。作用液体8の量は上記空間を満たす量よりも少ない。上記空間において、作用液体8以外の部分は燃料ガスで満たされてもよいし、不活性ガスが存在してもよい。不活性ガスは、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等を用いることができる。
【0040】
カソード電極52においては、枠体19、カソードセパレータ35、及びガスシール42で封止された空間内に作用液体8が配置される。例えば、作用液体8は、ガスシール42とガス拡散層22との間や酸化剤ガス流路36に存在する。作用液体8は、例えば、枠体19、カソードセパレータ35、ガスシール42の表面に付着する。また、作用液体8は、カソードセパレータ35とカソード触媒層17との間に位置し、ガス拡散層22に浸潤してもよい。また、作用液体8は、ガス拡散層22とガスシール42との間の空間にあってもよい。作用液体8は、ミスト状で空間を浮遊していてもよいし、ガス拡散層20に浸潤してもよい。また、作用液体8は、上記空間において移動可能であってもよい。作用液体8の量は上記空間を満たす量よりも少ない。上記空間において、作用液体8以外の部分は酸化剤ガスで満たされてもよいし、不活性ガスが存在してもよい。
【0041】
[1-5.ヒドリド還元剤の作用]
アノード電極51においてガスシール41から放出されたカルボニル化合物は、ガスシール41で封止された空間に拡散する。このカルボニル化合物は、作用液体8に含まれるヒドリド還元剤に接触し、アルコールに還元される。これにより、アノード触媒層16の白金の被毒が抑制される。
【0042】
カソード電極52においてガスシール42から放出されたカルボニル化合物は、ガスシール42で封止された空間に拡散する。このカルボニル化合物は、トラップ層23に担持されたヒドリド還元剤に接触して、アルコールに還元される。これにより、カソード触媒層17の白金の被毒が抑制される。
【0043】
図4に示す構成は、例えば、燃料電池90の保管を開始する際に、燃料ガス導入口71及び酸化剤ガス導入口73から作用液体8を注入することで、実現できる。この場合、余剰の作用液体8を、燃料ガス排出口72及び酸化剤ガス排出口74から排出させてもよい。また、燃料電池90を構成する各セルユニット4に作用液体8が行き渡るように、作用液体8を、気体とともに燃料ガス導入口71に注入してもよい。酸化剤ガス導入口73においても同様に、気体とともに作用液体8を注入してもよい。ここで、作用液体8とともに注入される気体は、空気や不活性ガスが挙げられる。
【0044】
[1-6.効果等]
以上のように、本実施の形態において、燃料電池90は、電極-膜-枠接合体10と、アノードセパレータ31と、カソードセパレータ35と、ガスシール41、42と、ガス拡散層20、22と、を備える。電極-膜-枠接合体10は、アノード触媒層16を有するアノード電極51と、カソード触媒層17を有するカソード電極52と、アノード電極51とカソード電極52との間に配置される電解質膜15と、を有する。アノードセパレータ31は、アノード電極51に対向する。ガスシール41は、アノードセパレータ31と電極-膜-枠接合体10との間を封止する。ガス拡散層20は、アノードセパレータ31と電極-膜-枠接合体10との間に配置される。カソードセパレータ35は、カソード電極52に対向する。ガスシール42は、カソードセパレータ35と電極-膜-枠接合体10との間を封止する。ガス拡散層22は、カソードセパレータ35と電極-膜-枠接合体10との間に配置される。燃料電池90には、カルボニル化合物を還元するヒドリド還元剤を含む作用液体8が配置される。
【0045】
この構成によれば、燃料電池90を構成する部品からカルボニル化合物がアノード電極51及び/またはカソード電極52において放出される場合に、カルボニル化合物をヒドリド還元剤によってアルコールに還元する。これにより、カルボニル化合物による触媒の被毒を抑制できる。
これにより、燃料電池90を構成する部材に、過酸化物架橋剤に由来するカルボニル化合物が含まれる場合であっても、燃料電池90の保管中における触媒の被毒を抑制できる。従って、燃料電池90を、保管終了後に再起動した場合に、触媒の被毒に起因する発電電圧の低下を抑制できる。また、燃料電池90を構成する部材にカルボニル化合物が含まれない場合であっても、ヒドリド還元剤の存在が燃料電池90の機能を損なうおそれはない。
【0046】
燃料電池90において、ヒドリド還元剤を含む作用液体8を、アノードセパレータ31とアノード触媒層16との間、及び、カソードセパレータ35とカソード触媒層17との間の少なくともいずれかに配置してもよい。この構成によれば、ガスシール41及びガスシール42の少なくともいずれかからカルボニル化合物が放出される場合に、このカルボニル化合物をアルコールに還元することによって、触媒の被毒を抑制できる。
【0047】
実施の形態1のセルユニット4は、アノードセパレータ31、カソードセパレータ35、枠体19、及び、ガスシール41、42で囲まれる空間において、電解質膜15のアノード側とカソード側の両方に作用液体8が配置されている。この構成によれば、電解質膜15のアノード側の空間、及び、カソード側の空間のいずれにおいても、カルボニル化合物による触媒の被毒を抑制できる。従って、燃料電池90を保管終了後に再起動した場合の電圧低下を、より効果的に抑制できる。
【0048】
作用液体8を、アノードセパレータ31とアノード触媒層16との間、及び、カソードセパレータ35とカソード触媒層17との間のいずれかに配置した構成は、実施の形態2、及び、実施の形態3で説明する。
【0049】
作用液体8に含まれるヒドリド還元剤は金属水素化物であってもよい。作用液体8に含まれるヒドリド還元剤は金属非含有ヒドリド供与体であってもよい。また、作用液体8に含まれるヒドリド還元剤は遷移金属ヒドリド錯体であってもよい。
【0050】
強い還元作用を有するヒドリド還元剤を利用する場合、ガスシール41、42等から放出されるカルボニル化合物を、アノード触媒層16及び/またはカソード触媒層17に到達する前に、より確実に還元することができ、触媒の被毒を抑制できる。また、水と反応しにくいヒドリド還元剤を利用する場合、作用液体8の主たる成分として水を利用できる。このため、作用液体8の取り扱いが容易になるという利点がある。
【0051】
(実施の形態2)
以下、
図5を用いて、実施の形態2を説明する。
【0052】
[2-1.構成]
図5は、燃料電池90を構成するセルユニット5の構成を示す断面図である。セルユニット5は、セルユニット4と同様に、電極-膜-枠接合体10、ガス拡散層20、22、アノードセパレータ31、カソードセパレータ35、及び、ガスシール41、42を備え、セルユニット4に替えて設けられる。セルユニット5の構成及び機能のうち、実施の形態1と共通する構成及び機能については説明を省略する。
【0053】
セルユニット5では、作用液体8が電解質膜15のカソード側に配置されている。詳細には、作用液体8が、電極-膜-枠接合体10、枠体19、カソードセパレータ35及びガスシール42で囲まれる空間に、配置される。これに対し、電解質膜15のアノード側には作用液体8が配置されていない。
【0054】
図5に示す構成は、例えば、燃料電池90の保管を開始する際に、酸化剤ガス導入口73から作用液体8を注入することで、実現できる。この場合、余剰の作用液体8を、酸化剤ガス排出口74から排出させてもよい。また、燃料電池90を構成する各セルユニット5に作用液体8が行き渡るように、作用液体8を気体とともに酸化剤ガス導入口73から注入してもよい。さらに、燃料電池90の保管を開始する際に、燃料ガス導入口71から空気あるいは不活性ガスを注入してもよい。
【0055】
[2-2.効果等]
燃料電池90には、カルボニル化合物を還元するヒドリド還元剤を含む作用液体8が配置される。実施の形態2のセルユニット5には、作用液体8が、カソードセパレータ35とカソード触媒層17との間の領域において、ガスシール42とガス拡散層22との間に配置される。
この構成によれば、ガスシール42からカルボニル化合物が放出される場合に、このカルボニル化合物をアルコールに還元することによって、電解質膜15のカソード側の空間において触媒の被毒を抑制できる。従って、燃料電池90を保管終了後に再起動した場合の電圧低下を、効果的に抑制できる。
【0056】
(実施の形態3)
以下、
図6を用いて、実施の形態3を説明する。
【0057】
[3-1.構成]
図6は、燃料電池90を構成するセルユニット6の構成を示す断面図である。セルユニット6は、実施の形態1で説明したセルユニット4、或いは、実施の形態2で説明したセルユニット5に替えて、燃料電池90に設けられる。
【0058】
セルユニット6は、セルユニット4と同様に、電極-膜-枠接合体10、ガス拡散層20、22、アノードセパレータ31、カソードセパレータ35、及び、ガスシール41、42を備える。セルユニット5の構成及び機能のうち、実施の形態1、2と共通する構成及び機能については説明を省略する。
【0059】
セルユニット6では、作用液体8が電解質膜15のアノード側に配置されている。詳細には、作用液体8が、電極-膜-枠接合体10、枠体19、アノードセパレータ31及びガスシール41で囲まれる空間に、配置される。これに対し、電解質膜15のカソード側には作用液体8が配置されていない。
【0060】
図6に示す構成は、例えば、燃料電池90の保管を開始する際に、燃料ガス導入口71から作用液体8を注入することで、実現できる。この場合、余剰の作用液体8を、燃料ガス排出口72から排出させてもよい。また、燃料電池90を構成する各セルユニット6に作用液体8が行き渡るように、作用液体8を気体とともに燃料ガス導入口71から注入してもよい。
さらに、燃料電池90の保管を開始する際に、酸化剤ガス導入口73から空気あるいは不活性ガスを注入してもよい。
【0061】
[3-2.効果等]
燃料電池90には、カルボニル化合物を還元するヒドリド還元剤を含む作用液体8が配置される。実施の形態3のセルユニット6には、作用液体8が、アノードセパレータ31とアノード触媒層16との間の領域において、ガスシール41とガス拡散層20との間に配置される。
この構成によれば、ガスシール41からカルボニル化合物が放出される場合に、このカルボニル化合物をアルコールに還元することによって、電解質膜15のアノード側の空間において触媒の被毒を抑制できる。従って、燃料電池90を保管終了後に再起動した場合の電圧低下を、効果的に抑制できる。
【0062】
(実施の形態4)
以下、
図7を用いて、実施の形態4を説明する。
【0063】
[4-1.構成]
図7は、燃料電池90を構成するセルユニット7の構成を示す断面図である。セルユニット7は、実施の形態1で説明したセルユニット4、実施の形態2で説明したセルユニット5、或いは、実施の形態3で説明したセルユニット6に替えて、燃料電池90に設けられる。
【0064】
セルユニット7は、セルユニット4と同様に、電極-膜-枠接合体10、ガス拡散層20、22、アノードセパレータ31、カソードセパレータ35、及び、ガスシール41、42を備える。セルユニット7の構成及び機能のうち、実施の形態1-3と共通する構成及び機能については説明を省略する。
【0065】
セルユニット7では、作用液体8が電解質膜15のアノード側及びカソード側の空間を満たしている。詳細には、アノード触媒層16、枠体19、アノードセパレータ31、及びガスシール41で囲まれるアノード側の空間が作用液体8で満たされる。また、カソード触媒層17、枠体19、カソードセパレータ35、及びガスシール42で囲まれるカソード側の空間が、作用液体8で満たされる。アノード側およびカソード側の空間を満たす作用液体8には、上述のようにヒドリド還元剤が含まれる。
【0066】
図7に示す構成は、例えば、燃料電池90の保管を開始する際に、燃料ガス導入口71及び酸化剤ガス導入口73から作用液体8を注入することで、実現できる。この場合、余剰の作用液体8が燃料ガス排出口72及び酸化剤ガス排出口74から排出されるまで、作用液体8を注入することにより、燃料電池90内部の燃料ガス及び酸化剤ガスを、作用液体8によって完全に置換してもよい。
【0067】
[4-2.効果等]
燃料電池90には、カルボニル化合物を還元するヒドリド還元剤を含む作用液体8が配置される。実施の形態4のセルユニット7には、作用液体8が、セルユニット7の空間を満たすように配置される。つまり、燃料電池90の内部に作用液体8が充満している。
この構成によれば、ガスシール41、42からカルボニル化合物が放出される場合に、このカルボニル化合物が速やかにアルコールに還元され、カルボニル化合物がアノード触媒層16及びカソード触媒層17に到達しない。このため、触媒の被毒を効果的に抑制でき、燃料電池90を保管終了後に再起動した場合の電圧低下を抑制できる。
【0068】
[5.燃料電池の保管方法]
実施の形態1-4に開示した構成は、燃料電池90を運転停止状態で保管する場合に適用可能である。すなわち、実施の形態1-4を適用して、燃料電池90を作成する組立工程と、燃料電池90に作用液体8を注入する注入工程と、を含む燃料電池90の保管方法を実現できる。
【0069】
組立工程では、例えば、電極-膜-枠接合体10、枠体19、ガスシール41、42、アノードセパレータ31、カソードセパレータ35、及び冷却セパレータ38を積層することによりセル積層体3が形成される。また、セル積層体3を積層してスタック部2が形成される。さらに、組立工程では、スタック部2に集電板60,61及びエンドプレート70,77が取り付けられ、ボルト80によって加圧および固定される。
【0070】
実施の形態1を適用する場合、注入工程では、燃料ガス導入口71、及び、酸化剤ガス導入口73から作用液体8を注入する。
実施の形態2を適用する場合、注入工程では、酸化剤ガス導入口73から作用液体8を注入する。この場合、燃料ガス導入口71から燃料ガス或いは不活性ガスを注入してもよい。
実施の形態3を適用する場合、注入工程では、燃料ガス導入口71から作用液体8を注入する。この場合、酸化剤ガス導入口73から酸化剤ガス或いは不活性ガスを注入してもよい。
上記の3つの場合において、作用液体8を注入する際に、気体とともに作用液体8を注入してもよい。
【0071】
実施の形態4を適用する場合、注入工程では、燃料ガス導入口71、及び、酸化剤ガス導入口73から作用液体8を注入する。この場合、燃料ガス排出口72及び酸化剤ガス導入口73から作用液体8が流出するまで、作用液体8の注入を行ってもよい。
【0072】
組立工程と注入工程の間に、燃料電池90を運転させる運転工程を含めてもよい。この運転工程では、燃料ガス導入口71から燃料ガスを注入し、酸化剤ガス導入口73から酸化剤ガスを注入して、燃料電池90に発電を行わせる。
【0073】
高粘度の作用液体8を用いる場合、注入工程を行わず、組立工程において作用液体8を配置してもよい。例えば、組立工程において作用液体8をアノードセパレータ31、カソードセパレータ35、ガスシール41、42等に塗布し、或いは、セルユニット4、5、6の内部の空間に作用液体8を滴下することによって配置してもよい。
【0074】
注入工程の後、燃料電池90を保管する保管工程を含んでもよい。この場合、保管工程の後に、作用液体8を燃料電池90から排出する排出工程を含んでもよい。排出工程では、燃料ガス排出口72及び/または酸化剤ガス排出口74から作用液体8を排出させる。排出工程において、燃料ガス導入口71及び/または酸化剤ガス導入口73から気体を注入して、作用液体8の排出を促進させてもよい。排出工程の後に、燃料電池90を運転する運転工程を含んでもよい。運転工程は、燃料電池90を使用環境に設置した後に、燃料電池90を発電装置として使用する工程である。排出工程は、燃料電池90を使用環境に輸送する前に行ってもよいし、燃料電池90を設置後に行ってもよい。
【0075】
(他の実施の形態)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施の形態1から4を説明した。しかしながら、上述の各実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【0076】
例えば、上記各実施の形態において示したヒドリド還元剤および液体は一例であり、上記に示した以外の材料を用いて本開示の構成を実現してもよい。また、燃料電池90を構成する部材の形状やサイズについても各実施の形態から適宜に変更可能であることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本開示は、固体高分子形電解質を用いた燃料電池に適用することにより、架橋剤を利用して製造された部品を用いる場合に、燃料電池の保管中における触媒の被毒を抑制できる。これにより、燃料電池の保管終了後の再起動時に発電電圧が低下する現象を抑制できる。具体的には、燃料電池車や定置型燃料電池等の燃料電池に、本開示は適用可能である。
【符号の説明】
【0078】
2 スタック部
3 セル積層体
4、5、6、7 セルユニット
8 作用液体
10 電極-膜-枠接合体(電極-膜接合体)
15 電解質膜
16 アノード触媒層
17 カソード触媒層
19 枠体
20 ガス拡散層(アノードガス拡散層)
22 ガス拡散層(カソードガス拡散層)
31 アノードセパレータ
32 燃料ガス流路
35 カソードセパレータ
36 酸化剤ガス流路
38 冷却セパレータ
41 ガスシール(アノード側ガスシール)
42 ガスシール(カソード側ガスシール)
51 アノード電極
52 カソード電極
60、61 集電板
70、77 エンドプレート
90 燃料電池