(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180837
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】成膜装置及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
B05B 13/02 20060101AFI20221130BHJP
B05B 12/20 20180101ALI20221130BHJP
B05B 14/00 20180101ALI20221130BHJP
B05B 13/04 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
B05B13/02
B05B12/20
B05B14/00
B05B13/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087555
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】隈川 隆博
【テーマコード(参考)】
4D073
4F035
【Fターム(参考)】
4D073AA01
4D073BB03
4D073CC07
4D073CC08
4D073DB03
4D073DB12
4F035CA02
4F035CA05
4F035CB05
4F035CD05
4F035CD13
4F035CD18
(57)【要約】
【課題】成膜対象物の複数箇所に効率的に成膜する成膜装置および成膜方法を提供する。
【解決手段】成膜装置は、成膜対象物の周面に位置する複数の成膜領域に成膜する成膜装置であって、開口を有しており、前記開口を介して前記成膜領域が露出するように前記成膜対象物を固定する固定枠と、前記成膜対象物に向けて成膜材料を噴出する噴出装置と、前記固定枠及び/又は前記噴出装置を回転軸周りに回転させて、前記成膜対象物に対する前記成膜材料の噴出位置を回転方向に変化させる駆動装置と、を備え、前記固定枠及び/又は前記噴出装置の回転動作に伴い、複数の前記成膜領域に対して前記成膜材料が噴出される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜対象物の周面に位置する複数の成膜領域に成膜する成膜装置であって、
開口を有しており、前記開口を介して前記成膜領域が露出するように前記成膜対象物を固定する固定枠と、
前記成膜対象物に向けて成膜材料を噴出する噴出装置と、
前記固定枠及び/又は前記噴出装置を回転軸周りに回転させて、前記成膜対象物に対する前記成膜材料の噴出位置を回転方向に変化させる駆動装置と、
を備え、
前記固定枠及び/又は前記噴出装置の回転動作に伴い、複数の前記成膜領域に対して前記成膜材料が噴出される、成膜装置。
【請求項2】
前記駆動装置は、前記固定枠及び/又は前記噴出装置を前記回転軸に沿う軸方向に移動させて、前記成膜対象物に対する前記成膜材料の噴出位置を前記軸方向に変化させる、
請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記回転方向における前記噴出装置に対する前記固定枠の相対速度Sと、前記軸方向における前記固定枠に対する前記噴出装置の相対速度Vとは、
0.25mm/sec≦|V|≦5mm/sec、80≦|S/V|≦500
で示される2つの関係式を満たす、
請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記駆動装置は、前記固定枠に対して前記噴出装置を前記軸方向に相対移動させている間、前記噴出装置に対する前記固定枠の相対的な回転を停止させる、
請求項2に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記固定枠は、円柱形状を有し、前記円柱形状の中心軸が前記回転軸に沿うように配置される、
請求項1から4のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項6】
前記固定枠には、前記成膜対象物が収納される収納空間が形成されており、
前記回転軸に垂直な平面において、前記開口の開口幅は、前記収納空間に近づくほど小さくなる、
請求項1から5のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項7】
前記固定枠の側面は、表面コートに覆われている、
請求項1から6のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項8】
前記固定枠と前記噴出装置との間に位置し、前記成膜対象物に対する前記成膜材料の照射領域を制限するマスクを更に備える、
請求項1から7のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項9】
前記マスクによって制限される照射領域の寸法は、前記開口の開口幅よりも小さい、
請求項8に記載の成膜装置。
【請求項10】
前記マスクの表面は、マスクコートに覆われている、
請求項8または9に記載の成膜装置。
【請求項11】
前記固定枠を複数備え、
前記噴出装置による前記成膜対象物への成膜と、前記固定枠への前記成膜対象物の装填及び前記固定枠からの前記成膜対象物の取り出しの少なくとも一方とを、並行して実行可能である、
請求項1から10のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項12】
前記固定枠の側面を洗浄する洗浄装置をさらに備える、
請求項1から11のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項13】
前記洗浄装置は、高圧ガスを前記側面に吹き付ける、
請求項12に記載の成膜装置。
【請求項14】
前記洗浄装置は、前記側面に対してブラシ洗浄を行う、
請求項12に記載の成膜装置。
【請求項15】
複数の前記成膜対象物は、開口を有する収納枠に、該開口を介して前記周面が露出するように積層して収納され、
前記固定枠は、前記成膜材料が、前記固定枠の開口及び前記収納枠の開口を介して前記成膜対象物に到達するように、前記収納枠を収納可能である、
請求項1から14のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項16】
前記固定枠は、前記成膜対象物の積層方向に沿って重ねるように、前記複数の収納枠を収納可能である、
請求項15に記載の成膜装置。
【請求項17】
成膜対象物の周面に位置する複数の成膜領域に成膜する成膜方法であって、
噴出装置から前記成膜対象物に向けて成膜材料を噴出させる工程と、
前記成膜対象物及び/又は前記噴出装置を回転軸周りに回転させて、前記成膜対象物に対する前記成膜材料の噴出位置を回転方向に変化させる工程と、
を含み、
前記成膜対象物及び/又は前記噴出装置の回転動作に伴い、複数の前記成膜領域に対して前記成膜材料が噴出され、成膜が行われる、
成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成膜方法として、高速粒子衝突技術や溶射法が知られている。高速粒子衝突技術の一例として、特許文献1には、成膜対象物に固相状態の粒子を高速で衝突させることで金属膜を形成する成膜方法が開示されている。溶射法の一例として、特許文献2には、膜の材料をプラズマ溶射することで電池の構成膜を形成する成膜方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-076872号公報
【特許文献2】特開平6―196179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1又は特許文献2の成膜方法を用いて複数箇所に成膜する場合、材料ロスを低減するためには、成膜箇所を変更する度に材料の噴出を一時的に停止し、当該材料の噴出装置に対する成膜対象物の相対位置や相対姿勢を変更する必要があり、成膜効率が低い。
【0005】
本開示は、成膜対象物の複数箇所に効率的に成膜する成膜装置および成膜方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の成膜装置は、成膜対象物の周面に位置する複数の成膜領域に成膜する成膜装置であって、開口を有しており、前記開口を介して前記成膜領域が露出するように前記成膜対象物を固定する固定枠と、前記成膜対象物に向けて成膜材料を噴出する噴出装置と、前記固定枠及び/又は前記噴出装置を回転軸周りに回転させて、前記成膜対象物に対する前記成膜材料の噴出位置を回転方向に変化させる駆動装置と、を備え、前記固定枠及び/又は前記噴出装置の回転動作に伴い、複数の前記成膜領域に対して前記成膜材料が噴出される。
【0007】
本開示の成膜方法は、成膜対象物の周面に位置する複数の成膜領域に成膜する成膜方法であって、噴出装置から前記成膜対象物に向けて成膜材料を噴出させる工程と、前記成膜対象物及び/又は前記噴出装置を回転軸周りに回転させて、前記成膜対象物に対する前記成膜材料の噴出位置を回転方向に変化させる工程と、を含み、前記成膜対象物及び/又は前記噴出装置の回転動作に伴い、複数の前記成膜領域に対して前記成膜材料が噴出され、成膜が行われる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、成膜対象物の複数箇所に効率的に成膜する成膜装置および成膜方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る成膜装置を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る固定枠に成膜対象物を収納する様子を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、固定枠への成膜対象物の固定方法の一例を示す成膜装置の縦断面図である。
【
図4】
図4は、第2実施形態に係る成膜装置を説明する斜視図である。
【
図5】
図5は、第2実施形態に係る収納枠を説明する斜視図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態に係る成膜装置の横断面図である。
【
図7】
図7は、変形例1に係る成膜装置の横断面図である。
【
図8】
図8は、変形例2に係る成膜装置の横断面図である。
【
図9】
図9は、変形例3に係る成膜装置の横断面図である。
【
図10】
図10は、変形例4に係る成膜装置の横断面図である。
【
図11】
図11は、変形例5に係る成膜装置が実行する成膜方法を説明する横断面図である。
【
図12】
図12は、変形例6に係る成膜装置を示す横断面図である。
【
図13】
図13は、変形例7に係る成膜装置が実行する成膜方法を説明する横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の各実施形態及び各変形例について、図面を参照しつつ説明する。なお、各図において共通する構成要素については同一の符号を付し、それらの説明は適宜省略する。
【0011】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る成膜装置100を模式的に示す斜視図である。
図2は、第1実施形態に係る固定枠20に成膜対象物1を収納する様子を示す斜視図である。
図3は、固定枠20への成膜対象物1の固定方法の一例を示す縦断面図である。
【0012】
本実施形態では、成膜対象物1である直方体形状の電子部品を複数積層して、それぞれの成膜対象物1の4つの側面を成膜領域12として、電極を形成する場合を例に挙げて説明する。なお、成膜対象物1の周面11のうちの成膜領域12を除く領域には、後述の成膜材料3が付着しないように所定の表面加工が施されている。表面加工だけでなく、成膜対象物1の成膜領域12以外の部位が、成膜されにくい材料で形成されていてもよい。
【0013】
成膜装置100は、固定枠20、噴出装置60、及び、駆動装置80を備えている。固定枠20は、成膜対象物1を収納する。噴出装置60は、成膜対象物1に向けて成膜材料3を噴出する装置である。駆動装置80は、固定枠20及び噴出装置60を駆動する装置である。
【0014】
固定枠20は、枠体21、軸部25、押さえ部材26(
図3参照)、及び、弾性保持部27(
図3参照)を備えている。
【0015】
枠体21は、中空の直方体形状を有しており、その内部に収納空間24が形成されている(
図2参照)。収納空間24は、複数の成膜対象物1を積層した状態で収納可能である。また、枠体21の4つの側面23のそれぞれには、開口30が形成されている。成膜対象物1は、成膜領域12がそれぞれ開口30を介して露出されるように収納空間24に収納され、固定される。回転軸2に垂直な平面において、枠体21は、成膜対象物1の4隅を保持する。
【0016】
軸部25、25は、枠体21の底面及び押さえ部材26の上面に、互いに同軸となるように設けられる。軸部25、25は、駆動装置80によって回転軸2(
図1参照)周りに回転される。回転軸2は、軸部25、25に沿って固定枠20を貫いている。これにより、枠体21、ひいては、成膜対象物1が、回転軸2周りに回転する。
【0017】
図3の押さえ部材26は、枠体21の収納空間24を塞ぐ蓋である。複数の成膜対象物1は、押さえ部材26によって積層方向に加圧され、成膜対象物1同士の隙間が圧縮された状態で収納空間24に保持される。これにより、同一の成膜対象物1において厚みがばらついていたとしても、圧縮により隙間が吸収されるので、固定枠20内の成膜対象物1が安定した姿勢で保持される。
【0018】
弾性保持部27、27は、固定枠20の底部と最下位置の成膜対象物1との間及び押さえ部材26と最上位置の成膜対象物1との間に配置されている。これにより、成膜対象物1の表面(特に、最上位置の成膜対象物1の上面及び最下位置の成膜対象物1の下面)が保護される。
【0019】
固定枠20の材料は、噴出装置60からの成膜材料3の吹き付け圧に耐えられる物質であることが望ましく、例えば、SUS材、又は、超鋼材である。
【0020】
図1の噴出装置60は、回転軸2に対して垂直方向に成膜材料3を噴出するように配置される。これにより、噴出装置60は、開口30を介して成膜対象物1に成膜材料3を吹き付けることができる。噴出装置60には、例えば、固相状態かつ粒子状の成膜材料3を超音速となるように加速して噴出するコールドスプレーガンが適用される。コールドスプレーガンは、成膜材料3の噴出状態が安定するまでに時間を要するので、成膜工程においては間断なく連続して成膜材料3を噴出させることが好ましい。
【0021】
駆動装置80は、固定枠20及び/又は噴出装置60を回転軸2周りに回転させる機構及び回転軸2に沿う軸方向(成膜対象物1の積層方向)に移動させる機構を含む。駆動装置80は、例えば、固定枠20を回転軸2周りに回転させる。これにより、同一の成膜対象物1において、成膜対象物1に対する成膜材料3の噴出位置が回転方向に変化する。すなわち、成膜材料3が吹き付けられる成膜領域12が変更される。したがって、成膜材料3の噴出を止めることなく、同一の成膜対象物1における複数の成膜領域12に対して、成膜を行うことができる。
【0022】
また、駆動装置80は、例えば、噴出装置60を回転軸2に沿う軸方向に移動させる。これにより、成膜対象物1に対する成膜材料3の噴出位置が軸方向に変化する。成膜材料3の噴出を止めることなく、同一の開口30から露出している複数の成膜対象物1の成膜領域12に対して、成膜を行うことができる。
【0023】
次に、成膜装置100を用いた成膜方法の一例について説明する。具体的には、成膜対象物1に対する成膜材料3の噴出位置を、回転方向及び軸方向に変化させながら、成膜する場合について説明する。
【0024】
噴出装置60が成膜材料3を噴出している間、駆動装置80は、固定枠20を回転させながら、噴出装置60を軸方向に移動させる。このとき、噴出装置60に対する固定枠20の回転方向における相対速度(ここでは、固定枠20の周速)S、及び、固定枠20に対する噴出装置60の軸方向における相対速度(ここでは、噴出装置60の移動速度)Vが、以下の(1)及び(2)式で示されている関係式を満たすことで、成膜装置100は、安定した成膜を実行できる。
0.25mm/sec≦|V|≦5mm/sec (1)
80≦|S/V|≦500 (2)
【0025】
また、成膜装置100を用いた成膜方法の他の一例として、駆動装置80は、噴出装置60を軸方向に移動させている間、固定枠20の回転を停止させてもよい。より具体的には、成膜装置100は、1つの開口30が噴出装置60に対向するように固定枠20の向きを固定し、当該開口30から露出された成膜領域12に対する成膜を行う。そして、当該成膜領域12に対する成膜が完了した後、駆動装置80は、固定枠20を回転させて別の開口30が噴出装置60に対向するようにし、その開口30から露出された成膜領域12に対する成膜を行う。噴出装置60は、固定枠20の回転中も成膜材料3の噴出を継続する。
【0026】
このとき、駆動装置80は、噴出装置60を回転軸2に平行に、つまり、1次元的に移動させてもよいし、成膜材料3の噴出方向に垂直な平面に沿って、つまり、2次元的に移動させてもよい。例えば、駆動装置80は、
図1に示されているように、軌跡7に沿って噴出装置60を移動させてもよい。
【0027】
なお、駆動装置80は、固定枠20を回転させずに、噴出装置60を回転軸2周りに回転させることで、同一の成膜対象物1において、成膜材料3が吹き付けられる成膜領域12を変更させてもよい。
【0028】
また、駆動装置80は、噴出装置60を軸方向に移動させずに、噴出装置60に対して固定枠20を軸方向に移動させることで、成膜材料3の照射対象の成膜対象物1を変更させてもよい。
【0029】
上述したように、本実施形態にかかる成膜装置100は、成膜対象物1の周面11に位置する複数の成膜領域12に成膜する成膜装置100~108であって、開口30を有しており、開口30を介して成膜領域12が露出するように成膜対象物1を固定する固定枠20と、成膜対象物1に向けて成膜材料3を噴出する噴出装置60と、固定枠20及び/又は噴出装置60を回転軸2周りに回転させて、成膜対象物1に対する成膜材料3の噴出位置を回転方向に変化させる駆動装置80と、を備えている。固定枠20及び/又は噴出装置60の回転動作に伴い、複数の成膜領域12に対して成膜材料3が噴出される。
【0030】
よって、噴出装置60による成膜材料3の噴出を継続しながら、周方向に並んで配置された複数の成膜領域12に成膜できるので、成膜対象物1の複数の成膜領域12に効率的に成膜することができる。
【0031】
例えば、特許文献1及び2の成膜方法を利用する場合、材料ロスを少なくするためには、材料の照射対象の成膜領域を変更するたびに、材料の噴出を一時的に停止し、噴出装置に対する成膜対象物の相対位置又は相対姿勢を変更し直す必要がある。特に、成膜対象物が小型の電子部品の場合、成膜対象物に対する噴出装置の相対位置又は相対姿勢の変更に要する工数や時間が多くなる。
【0032】
本実施形態に係る成膜装置100は、上述の固定枠20と、噴出装置60と、駆動装置80と、を備えているので、成膜材料3の照射対象の成膜領域12を容易に変更することができる。よって、成膜材料3の噴出を継続しつつ、成膜材料3の照射対象の成膜領域12を変化させたとしても、成膜材料3のロスは小さい。特に、コールドスプレーガンのように、噴出状態が安定するまでに時間を要する噴出装置60を用いる場合、成膜材料3を間断なく連続して噴出させることで、成膜時間を短縮することができる。
【0033】
また、一度固定枠20に成膜対象物1を固定させれば、噴出装置60に対して固定枠20を相対的に回転させることで、成膜材料3の照射対象の成膜領域12を変化させることができる。このため、成膜装置100は、例えば、本実施形態のように、成膜対象物1における周方向の異なる面に成膜領域12がある場合に、当該成膜領域12に対して、効率的に成膜できる。
【0034】
駆動装置80は、回転軸2周りに固定枠20を回転させる。この場合、噴出装置60を回転軸2周りに回転させる場合と比べて、成膜装置100を小型化できる。
【0035】
また、駆動装置80は、固定枠20及び/又は噴出装置60を回転軸2に沿う軸方向に移動させて、成膜対象物1に対する成膜材料3の噴出位置を軸方向に変化させる。これにより、積層された複数の成膜対象物1の成膜領域12のように、複数の成膜領域12が軸方向に並んで位置している場合に、当該成膜領域12に対して効率的に成膜することができる。
【0036】
また、回転方向における噴出装置60に対する固定枠20の相対速度Sと、軸方向における固定枠20に対する噴出装置60の相対速度Vとは、上述の(1)及び(2)式を満たす。これにより、成膜装置100は、安定した成膜を実行できる。
【0037】
また、成膜装置100を用いて成膜を行うに際して、別の成膜方法が採用されてもよい。例えば、固定枠20に対して噴出装置60を軸方向に相対移動させている間、噴出装置60に対する固定枠20の相対的な回転を停止させてもよい。この場合、駆動装置80は、所定厚さで成膜を行うために固定枠20に対する噴出装置60の相対速度Vだけを高精度に制御すればよいので、駆動制御が簡単になる。
【0038】
上述の実施形態では、成膜領域12は、成膜対象物1の4つの側面にそれぞれ位置しているが、成膜領域12は複数であればよく、例えば、対向する2つの側面のみに成膜領域12が位置していてもよい。この場合、固定枠20には、1つの成膜対象物1の成膜領域12の数に合わせた数の開口30が形成されていてもよい。
【0039】
また、成膜対象物1の形状は、円柱形状であり、曲面状の側面に複数の成膜領域12が位置していてもよい。このような場合であっても、本実施形態に係る成膜装置100によれば、成膜対象物1の複数箇所に効率的に成膜することができる。
【0040】
さらに、成膜領域12は、成膜対象物1の平面状の面に複数位置していてもよい。この場合、駆動装置80は、固定枠20に対する噴出装置60の相対位置を変更することで、噴出装置60から噴出される成膜材料3の照射対象の成膜領域12を変更する。このような場合でも、成膜対象物1の複数の成膜領域12に効率的に成膜することができる。
【0041】
[第2実施形態]
図4は、第2実施形態に係る成膜装置101を説明する斜視図である。
図5は、第2実施形態に係る収納枠40を説明する斜視図である。
図6は、第2実施形態に係る成膜装置101の横断面図である。なお、
図6において、噴出装置60及び駆動装置80の図示を省略している。
【0042】
本実施形態に係る成膜装置101は、固定枠20、噴出装置60、及び、駆動装置80を備えている。第2実施形態に係る成膜装置101は、第1実施形態に係る成膜装置100と比較して、成膜対象物1が収納枠40に収納された状態で、固定枠20に収納されている点が異なる。以下、主に第1実施形態と異なる点を説明する。
【0043】
収納枠40は、成膜装置101の一構成要素ではなく、成膜対象物1の搬送用ケースである。収納枠40は、
図5に示されているように、枠体41及び押さえ部材42を備えている。枠体41は、その内部に収納空間44が形成されている。また、枠体41の4つの側面のそれぞれには、開口50が形成されている。成膜対象物1は、成膜領域12がそれぞれ開口50を介して露出されるように収納空間24に収納され、固定される。押さえ部材42は、固定枠20の押さえ部材26と同じ機能及び構成を有する部材である。
【0044】
収納枠40は、複数の成膜対象物1を積層した状態で収納可能である。成膜対象物1は、例えば、一般的なパーツフィーダー等の収納装置を利用して収納枠40に収納される。回転軸2に垂直な平面において、収納枠40は、
図6に示されているように、成膜対象物1の4隅を保持する。
【0045】
本実施形態の固定枠20は、収納枠40を複数個収納可能である。例えば、
図4に示されているように、複数の成膜対象物1を収納している収納枠40は、成膜対象物1の積層方向に沿って重ねられて固定枠20に収納される。なお、収納枠40に収納され、さらに、固定枠20に収納されている成膜対象物1の成膜領域12は、固定枠20の開口30及び収納枠40の開口50を介して露出される。
【0046】
固定枠20は、押さえ部材26により圧縮するように収納枠40を保持する。回転軸2に垂直な平面において、固定枠20は、
図6に示されているように、収納枠40の4隅の外側を支持する形状を有する。
【0047】
固定枠20の開口30の開口幅X1は、収納枠40の開口50の開口幅X2以下の長さを有する。上述したように、噴出装置60は、コールドスプレー法により固相の粒子状の成膜材料3を高速で成膜対象物1に衝突させる装置である。例えば、樹脂材料等の脆性材料にコールドスプレー法により成膜材料3を吹き付けた場合、樹脂材料がブラストされ、削れてしまう虞がある。しかし、固定枠20の開口30の開口幅X1を、収納枠40の開口50の開口幅X2以下の長さとすることで、成膜材料3が収納枠40に吹き付けられなくなり、削れ等の収納枠40の損傷を抑制できる。よって、収納枠40は、固定枠20に比べて強度が小さくてもよく、樹脂材料等、比較的安価な材料で作製されてもよい。また、開口30の開口幅X1が、開口50の開口幅X2以下の長さを有することで、収納枠40に対する成膜材料3の付着を抑制できる。
【0048】
第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。
【0049】
第2実施形態では、複数の成膜対象物1は、開口50を有する収納枠40に、開口50を介して周面11が露出するように積層して収納されており、固定枠20は、成膜材料3が、固定枠20の開口30及び収納枠40の開口50を介して成膜対象物1に到達するように、収納枠40を収納可能である。よって、複数の成膜対象物1をまとめて搬送することができるとともに、まとめて固定枠20に固定できる。
【0050】
また、固定枠20は、成膜対象物1の積層方向に沿って重ねるように、複数の収納枠40を収納可能である。なお、固定枠20に対する収納枠40の収納数は限定されず、1つであってもよい。
【0051】
第2実施形態において、成膜対象物1に位置する成膜領域12の数は複数であればよい。収納枠40は、1つの成膜対象物1の成膜領域12の数に合わせた数の開口50が形成されていてもよい。
【0052】
以上、本開示の第1及び第2実施形態に基づいて具体的に説明したが、本開示は上記第1及び第2実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。以下、変形例について説明する。
【0053】
[変形例1]
以下、変形例1について、主に第2実施形態と異なる点を説明する。
【0054】
図7は、変形例1に係る成膜装置102の横断面図である。なお、
図7において、駆動装置80の図示を省略している。変形例1に係る固定枠20は、円柱形状を有し、固定枠20の中心軸が回転軸2に沿うように配置されている。
【0055】
成膜時に固定枠20に成膜材料3が吹き付けられるため、固定枠20の側面23に成膜材料3が付着する。この側面23を洗浄するために、成膜装置102は、ブラシ112を有する洗浄装置110をさらに備えてもよい。この場合、回転軸2に対して垂直な平面において、固定枠20の外形が円形であることにより、洗浄装置110は、安定したブラシ洗浄を実行でき、側面23から成膜材料3を効果的に落とすことができる。
【0056】
なお、成膜装置102は、ブラシ洗浄用の洗浄装置110に代えて、高圧ガスを側面23に吹き付ける洗浄装置110を備えていてもよい。
【0057】
[変形例2]
以下、変形例2について、主に第2実施形態と異なる点を説明する。
【0058】
図8は、変形例2に係る成膜装置103の横断面図である。なお、
図8において、駆動装置80の図示を省略している。変形例2に係る固定枠20には、第2実施形態と同様、収納枠40が収納される収納空間24が形成されている。開口30は、回転軸2に垂直な平面において、開口幅X1が収納空間24に近づくほど小さくなるように形成されている。
【0059】
よって、回転軸2周りに固定枠20及び/又は噴出装置60が回転し、成膜領域12に対して噴出装置60が斜め方向に位置する場合であっても、成膜材料3が固定枠20に遮蔽されることなく、成膜領域12に吹き付けられる。したがって、成膜材料3をより一層無駄なく有効利用することができる。
【0060】
[変形例3]
以下、変形例3について、主に変形例1と異なる点を説明する。
図9は、変形例3に係る成膜装置104の横断面図である。なお、
図9において、噴出装置60及び駆動装置80の図示を省略している。変形例1に係る固定枠20と同様に、変形例3に係る固定枠20は、円柱形状を有し、固定枠20の中心軸が回転軸2に沿うように配置されている。
【0061】
変形例3に係る固定枠20の側面23は、表面コート5に覆われている。表面コート5の材料は、例えば、フッ素ゴムやシリコンゴム等の耐熱性の低弾性材料、または、セラミックコート等の硬度が高い材料である。
【0062】
このように、固定枠20の側面23が表面コート5に覆われているので、成膜領域12に向けて噴出された成膜材料3が、固定枠20の側面23に付着しにくくなる。また、側面23に成膜材料3が付着したとしても、ブラシ洗浄や高圧ガスの吹き付け等の洗浄処理により、側面23から成膜材料3を除去することが容易である。
【0063】
特に、表面コート5の材料を低弾性材料とすることで、成膜材料3が側面23に対してより一層付着しにくくなる。また、洗浄処理により、側面23から成膜材料3を除去することがより一層容易になる。その理由は、表面コート5の材料を硬度が高い材料とすると、成膜材料3の粒子が側面23に衝突した際に変形し、アンカー効果により側面23に比較的強く付着してしまう場合があり、クリーニング性が低下する傾向があるからである。
【0064】
[変形例4]
以下、変形例4について、主に変形例1と異なる点を説明する。
図10は、変形例4に係る成膜装置105の横断面図である。なお、
図10において、噴出装置60及び駆動装置80の図示を省略している。変形例3に係る固定枠20と同様に、変形例3に係る固定枠20は、円柱形状を有し、固定枠20の中心軸が回転軸2に沿うように配置されており、さらに、固定枠20の側面23が表面コート5で覆われている。
【0065】
変形例4に係る固定枠20は、側面23に加えて、開口30を囲む開口側面28も表面コート5で覆われている。変形例4によれば、変形例3と同様の作用・効果が得られる。
【0066】
[変形例5]
以下、変形例5について、主に変形例1と異なる点を説明する。
図11は、変形例5に係る成膜装置106が実行する成膜方法を説明する横断面図である。なお、
図11において、駆動装置80の図示を省略している。
【0067】
変形例5に係る成膜装置106は、固定枠20、噴出装置60、及び、駆動装置80に加えて、マスク90を備えている。マスク90は、固定枠20と噴出装置60との間に配置される。これにより、成膜対象物1に対する成膜材料3の照射領域が制限される。マスク90によって制限される照射領域の寸法X3は、開口30の開口幅X1よりも小さい。したがって、成膜時において、固定枠20に対する成膜材料3の吹きつけを防止できる。
【0068】
特に、1つの開口30から露出された成膜領域12に対する成膜を完了させてから、固定枠20を回転させ、別の開口30から露出された成膜領域12に対する成膜を行う方法が採用される場合に、成膜時の固定枠20に対する成膜材料3の吹き付け防止効果が高い。
【0069】
なお、マスク90が回転軸2に垂直な平面において円形状を有する固定枠20に倣った形状を有することで、成膜時における、固定枠20に対する成膜材料3の付着、成膜材料3の回り込みによるマスク90の固定枠20側の表面への成膜材料3の付着、及び、成膜装置106内部の成膜材料3による汚染が抑制される。
【0070】
なお、変形例5に係る固定枠20とは異なる外形の固定枠20を有する第1実施形態、第2実施形態、及び、変形例3に係る成膜装置100、101、103が、マスク90をさらに備えていてもよい。
【0071】
[変形例6]
以下、変形例6について、主に変形例5と異なる点を説明する。
図12は、変形例5に係る成膜装置107を示す横断面図である。なお、
図12において、駆動装置80の図示を省略している。
【0072】
変形例6に係るマスク90の表面91は、マスクコート6に覆われている。この表面91は、噴出装置60側の表面である。マスクコート6の材料は、表面コート5と同じ材料である。
【0073】
このように、マスク90の表面91がマスクコート6に覆われているので、マスク90の表面91に成膜材料3が付着しにくくなる。また、洗浄処理により、マスク90の表面91から成膜材料3を除去することが容易となる。
【0074】
[変形例7]
以下、変形例7について、主に変形例5と異なる点を説明する。
図13は、変形例7に係る成膜装置108が実行する成膜方法を説明する横断面図である。なお、
図13において、駆動装置80の図示を省略している。
【0075】
成膜装置108は、固定枠20を複数個備えている。また、成膜装置108は、装填エリア210、成膜エリア220、及び、取出エリア230を備えている。
【0076】
装填エリア210では、成膜対象物1が収納された収納枠40を固定枠20に装填する動作(以下、「装填動作」と称す。)が実行される。成膜エリア220では、成膜対象物1に対する成膜動作が実行される。取出エリア230では、成膜済みの成膜対象物1を固定枠20から取り出す動作(以下、「取出動作」と称す。)が実行される。
【0077】
成膜装置108は、各エリアで、収納枠40の装填動作、成膜動作、及び取出動作を並行して実行する。そして、各動作が完了すると、成膜装置108は、収納枠40が収納された固定枠20を装填エリア210から成膜エリア220に移動させ、成膜済の成膜対象物1が収納された固定枠20を成膜エリア220から取出エリア230に移動させ、空の固定枠20を取出エリア230から装填エリア210に移動させる。そして、成膜装置108は、各エリアで、固定枠20に対して、装填動作、成膜動作、及び、取出動作を実行する。このように、成膜装置108は、固定枠20のエリア間の移動、及び、各エリアでの装填動作、成膜動作、及び、取出動作を次々に実行する。
【0078】
変形例7に係る成膜装置108は複数の固定枠20を有するので、上述のように、成膜対象物1が収納された固定枠20を成膜エリア220に迅速に供給する動作を実行できる。上述したように、噴出装置60は、コールドスプレー法を利用して成膜材料3を噴出する装置である。このため、成膜材料3の噴出時のガス圧と成膜材料3の供給量とを安定させるうえで、成膜材料3の噴出を途中で停止させることなく、継続的に噴出させることが望ましい。
【0079】
変形例7に係る成膜装置108によれば、固定枠20に収納された成膜対象物1を途切れることなく成膜エリア220に供給できる。よって、噴出装置60による成膜材料3の噴出を継続しつつ、成膜材料3を有効利用できる。すなわち、成膜材料3の噴出時のガス圧と成膜材料3の供給量とを安定させつつ成膜材料3の噴出に使用されるガス及び成膜材料3の使用量を大幅に削減しながら、大量の成膜対象物1に対して成膜することができる。
【0080】
なお、成膜装置108は、固定枠20を4以上有する場合、装填動作、及び、成膜動作を並行して実行すれば、固定枠20に収納された成膜対象物1を途切れることなく成膜エリア220に供給できる。すなわち、少なくとも装填動作、及び、成膜動作を並行して実行すれば、成膜材料3の噴出時のガス圧と成膜材料3の供給量とを安定させつつ成膜材料3の噴出に使用されるガス及び成膜材料3の使用量を大幅に削減しながら、大量の成膜対象物1に対して成膜することができる。また、成膜装置108は、取出動作、及び、成膜動作を並行して実行することで、空の固定枠20を早急に準備することができる。
【0081】
なお、
図13にはマスク90が示されているが、成膜装置108は必ずしもマスク90を備えていなくてもよい。
【0082】
[その他の変形例]
変形例1に係る成膜装置102に限らず、成膜装置100、101、103~108も、ブラシ洗浄用の洗浄装置110又は高圧ガスを側面23に吹き付ける洗浄装置110を備えていてもよい。
【0083】
図7~
図13には、成膜対象物1は収納枠40に収納された状態で固定枠20に収納されていることが示されている。しかしながら、変形例1~7において、収納枠40に収納されていない成膜対象物1が固定枠20に収納されていてもよい。
【0084】
上述した各実施形態及び各変形例では、噴出装置60は、コールドスプレーガンであるとして説明した。噴出装置60は、粒子状の成膜材料3を音速以下の速度で加速して、噴出する装置であってもよい。また、噴出装置60は、成膜材料3を溶射する装置であってもよい。
【0085】
成膜装置100~108が、成膜により電極を形成する装置であることを例に説明したが、膜を形成する装置であれば電極の形成に限定されない。また、成膜対象物1は、必ずしも電子部品でなくてもよく、例えば、電子部品、製鉄プロセスで使用される鋳型、および、ロール、並びに、自動車のホイール、および、ガスタービンの構成部品等の各種金属部材であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本開示に係る成膜装置および成膜方法は、成膜対象物の複数箇所に成膜する成膜装置および成膜方法に好適である。
【符号の説明】
【0087】
1 成膜対象物
2 回転軸
3 成膜材料
4 中心軸
5 表面コート
6 マスクコート
7 軌跡
11 周面
12 成膜領域
20 固定枠
21 枠体
23 側面
24 収納空間
25 軸部
26 押さえ部材
27 弾性保持部
28 開口側面
30 開口
40 収納枠
41 枠体
42 押さえ部材
44 収納空間
50 開口
60 噴出装置
61 噴出口
80 駆動装置
90 マスク
91 表面
100 成膜装置
110 洗浄装置
112 ブラシ
210 エリア
220 エリア
230 エリア
X1 開口幅
X2 開口幅
X3 照射領域の寸法