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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180852
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】フロントフォーク
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/32 20060101AFI20221130BHJP
   F16F 9/19 20060101ALI20221130BHJP
   F16F 9/346 20060101ALI20221130BHJP
   F16F 9/50 20060101ALI20221130BHJP
   F16F 9/54 20060101ALI20221130BHJP
   B62K 25/08 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
F16F9/32 H
F16F9/19
F16F9/346
F16F9/50
F16F9/54
B62K25/08 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087578
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】514241869
【氏名又は名称】KYBモーターサイクルサスペンション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】勇井 理
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 清哉
【テーマコード(参考)】
3D014
3J069
【Fターム(参考)】
3D014DE04
3D014DE08
3J069AA53
3J069AA54
3J069CC10
3J069CC16
3J069CC34
3J069EE05
3J069EE10
3J069EE19
3J069EE62
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ストローク状態によらず安定した減衰力を発生可能であって減衰力の発生応答性を良好にし得るフロントフォークの提供。
【解決手段】フロントフォーク1は、車軸側チューブ3と車体側チューブ4とシリンダ10を有し、シリンダ10内を液体が充填される液室Lと気体が充填される気室Gとに区画するフリーピストン14と、シリンダ10内に軸方向へ移動可能に挿入されるとともに液室L内を伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン11と、一端が車体側チューブ4に連結されるとともに他端がシリンダ10内に挿入されるとともにピストン11に連結されるロッド12とを有して、伸縮体2内に収容されて伸縮時に減衰力を発生する緩衝器Dとを備え、伸側室R1と伸縮体2内であって緩衝器Dの外方との連通が常時断たれており、フリーピストン14は、気室G内に充填される気体の圧力のみによって液室Lを加圧している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸側チューブと、前記車軸側チューブに対して軸方向に相対移動可能な車体側チューブとを有する伸縮体と、
前記車軸側チューブに連結されるシリンダと、前記シリンダ内に軸方向へ移動可能に挿入されるとともに前記シリンダ内を液体が充填される液室と気体が充填される気室とに区画するフリーピストンと、前記シリンダ内に軸方向へ移動可能に挿入されるとともに前記液室内を伸側室と圧側室とに区画するピストンと、一端が前記車体側チューブに連結されるとともに他端が前記シリンダ内に挿入されるとともに前記ピストンに連結されるロッドとを有して、前記伸縮体内に収容されて伸縮時に減衰力を発生する緩衝器とを備え、
前記伸側室と前記伸縮体内であって前記緩衝器の外方との連通が常時断たれており、
前記フリーピストンは、前記気室内に充填される気体の圧力のみによって前記液室を加圧する
ことを特徴とするフロントフォーク。
【請求項2】
前記シリンダの気室部分の内径は、液室部分の内径よりも大きい
ことを特徴とする請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項3】
前記シリンダは、
一端が前記車軸側チューブに連結されるとともに内周に前記フリーピストンが摺動自在に挿入されるリザーバ筒と、
前記リザーバ筒の他端に連結されるとともに前記ピストンが摺動自在に挿入される液室筒とを有し、
前記リザーバ筒と前記液室筒との間で挟持されて前記シリンダ内に嵌合して前記液室内であって前記圧側室と前記気室との間に加圧室を区画するとともに、前記圧側室と前記加圧室とを連通する排出ポートと吸込ポートとを有するバルブケースとを備えた
ことを特徴とする請求項1または2に記載のフロントフォーク。
【請求項4】
前記車軸側チューブの下端を閉塞するアクスルブラケットを備え、
前記リザーバ筒は、外周に前記アクスルブラケットと前記車軸側チューブとの間で挟持されるフランジを有して、前記車軸側チューブに連結される
ことを特徴する請求項3に記載のフロントフォーク。
【請求項5】
前記伸縮体内であって前記緩衝器外に液体を貯留する液溜室を備え、
前記リザーバ筒は、
下方側に内径が上方側の内径よりも大きい内周大径部と、
前記内周大径部を貫通して前記液溜室を前記加圧室に連通させるとともに前記フリーピストンによって開閉されるリリーフ孔とを有し、
前記フリーピストンは、前記リザーバ筒に対して前記気室を圧縮する方向へ移動して前記気室の容積が所定容積未満となると前記リリーフ孔を開放する
ことを特徴とする請求項3または4に記載のフロントフォーク。
【請求項6】
前記リザーバ筒は、内周であって前記内周大径部の上方に内径が前記内周大径部より小径の内周小径部と、内周であって前記内周小径部と前記内周大径部との間に下方へ向かうほど拡径するテーパ部とを有し、
前記フリーピストンは、有底筒状であって、前記底部の外周に内周小径部の内周に摺接可能なシールリングを有し、
前記シールリングが前記テーパ部に対向すると前記リリーフ孔を開放する
ことを特徴とする請求項5に記載のフロントフォーク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントフォークに関する。
【背景技術】
【0002】
フロントフォークは、自動二輪車等の鞍乗型車両における車体と前側の車輪の車軸との間に介装されて前輪を懸架して車体を弾性支持するとともに、伸縮時に減衰力を発生して車体と車輪の振動を抑制する。
【0003】
このようなフロントフォークは、たとえば、車体に連結されるアウターチューブと、アウターチューブ内に摺動自在に挿入されて車軸に連結されるインナーチューブとで構成されて伸縮可能なチューブ部材と、チューブ部材内に収容されて伸縮時に減衰力を発生する緩衝器とを備えている。
【0004】
緩衝器は、インナーチューブに下端が連結されるシリンダと、一端がインナーチューブの下端を閉塞するアクスルブラケットに連結されるガイドロッドと、環状であってガイドロッドの外周とシリンダの内周とに摺接して軸方向へ移動可能であるとともにシリンダ内を油室とスプリング室とに区画するフリーピストンと、シリンダ内に嵌合されるとともにガイドロッドの他端に装着されて油室をフリーピストンに面しない作動室とフリーピストンに面する加圧室とに区画する仕切部材と、スプリング室に収容されるとともにフリーピストンを加圧室側へ向けて付勢するコイルスプリングと、シリンダ内に摺動自在に挿入されるとともに作動室を伸側室と圧側室とに区画するピストンと、ピストンに連結されてシリンダ内に移動自在に挿入されるとともに上端がアウターチューブに連結されるピストンロッドとを備えて構成される。このように構成されたフロントフォークは、フリーピストンをコイルスプリングで付勢してシリンダ内を加圧してシリンダ内の作動油の油柱剛性を高めることで、伸縮し始めから応答性よく減衰力を発生できる。
【0005】
また、チューブ部材内であってチューブ部材と緩衝器との間の空間は、アウターチューブとインナーチューブとの間に設けられるブッシュを潤滑する作動油を貯留する油溜室として利用されており、シリンダ内のコイルスプリングを収容するスプリング室が油溜室に常時連通されて作動油が充満されている。そして、油温が低くなってシリンダ内で作動油量が不足すると、スプリング室を介してシリンダ内に作動油を供給する通路がガイドロッドに設けられており、フロントフォークの減衰力発生応答性が良好に保たれている。
【0006】
さらに、従来のフロントフォークでは、シリンダの上端に設けられてピストンロッドを支持するロッドガイドに油溜室に通じる通路が設けられるとともに、ピストンロッドのピストンの近傍には、外径がロッドガイドの内径よりも小径な小径部が形成されている。従来のフロントフォークは、最伸長する際にピストンロッドの小径部をロッドガイド内に侵入させて、小径部とロッドガイドとの間に伸側室と前記通路とを連通する環状隙間を形成し、前記通路を介して伸側室内に混入した気体を油溜室へ排出する。このように、従来のフロントフォークは、最伸長時に伸側室と油溜室とを連通させるリリーフ機構を備えることで、フロントフォーク内でシリンダを下方へピストンロッドを上方へ向けた姿勢で緩衝器を正立配置させ得る。そして、フロントフォーク内で緩衝器を正立配置させると、フロントフォークは、懸架ばねのイニシャル荷重やピストンに設けられたバルブの開度の調整を行うアジャスタをフロントフォークの上端に設置できるという利益を享受できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-176487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、このように構成されたフロントフォークでは、加圧室を加圧するためにコイルスプリングでフリーピストンを付勢しており、フリーピストンの変位に対するコイルスプリングの弾発力の変化が大きい。よって、緩衝器の最伸長時と最収縮時とで加圧状態が著しく変化するため、緩衝器のストロークの状態によって発生減衰力が変化してしまう問題がある。なお、フリーピストンの変位に対するコイルスプリングの弾発力の変化を少なくするには、コイルスプリングのばね定数を小さくすればよいが、そうすると、加圧室を十分に加圧するには非常に長いコイルスプリングが必要となり密着長も必然的に長くなるため、このようなコイルスプリングを利用することはフロントフォークのストローク長を確保できなくなるので現実的ではない。
【0009】
また、従来のフロントフォークは、最伸長時に伸側室と油溜室とを連通させるリリーフ機構を備える関係上、伸側室と緩衝器の外方の油溜室とが完全に遮断されていないために、油溜室内の気体がシリンダ内へ混入する可能性を否定できない。そして、緩衝器の作動室内に気体が混入すると、フロントフォークの伸縮の切り換わり時において減衰力の発生応答性が悪化する場合がある。
【0010】
このように従来のフロントフォークでは、ストロークの状態によって減衰力が変化するとともに減衰力の発生応答性が悪化するという問題がある。
【0011】
そこで、本発明は、ストローク状態によらず安定した減衰力を発生可能であって減衰力の発生応答性を良好にし得るフロントフォークの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成するため、本発明のフロントフォークは、車軸側チューブと、車軸側チューブに対して軸方向に相対移動可能な車体側チューブとを有する伸縮体と、車軸側チューブに連結されるシリンダと、シリンダ内に軸方向へ移動可能に挿入されるとともにシリンダ内を液体が充填される液室と気体が充填される気室とに区画するフリーピストンと、シリンダ内に軸方向へ移動可能に挿入されるとともに液室内を伸側室と圧側室とに区画するピストンと、一端が車体側チューブに連結されるとともに他端がシリンダ内に挿入されるとともにピストンに連結されるロッドとを有して、伸縮体内に収容されて伸縮時に減衰力を発生する緩衝器とを備え、伸側室と伸縮体内であって緩衝器の外方との連通が常時断たれており、フリーピストンは、気室内に充填される気体の圧力のみによって液室を加圧することを特徴としている。
【0013】
このように構成されたフロントフォークでは、フリーピストンを気室内の気体の圧力のみ付勢してシリンダ内を加圧するので、フロントフォークの伸縮によってフリーピストンが気室の容積を変化させても気室内の圧力変動を小さくできる。また、フロントフォークによれば、伸側室と伸縮体内であって緩衝器の外方との連通が常時断たれており、液溜室内の気体がシリンダ内へ混入することもない。
【0014】
また、フロントフォークにおけるシリンダの気室部分の内径を液室部分の内径よりも大きくしてもよい。このように構成されたフロントフォークによれば、フロントフォークのストローク長を長くできる点で有利となる。
【0015】
さらに、フロントフォークは、シリンダが、一端が車軸側チューブに連結されるとともに内周にフリーピストンが摺動自在に挿入されるリザーバ筒と、リザーバ筒の他端に連結されるとともにピストンが摺動自在に挿入される液室筒とを備え、リザーバ筒と液室筒との間で挟持されてシリンダ内に嵌合して液室内であって圧側室と気室との間に加圧室を区画するとともに、圧側室と加圧室とを連通する排出ポートと吸込ポートとを有するバルブケースとを備えていてもよい。
【0016】
このように構成されたフロントフォークによれば、シリンダがリザーバ筒と液室筒とで構成されているので容易にシリンダに対して内径が液室部分より大径の気室を形成できる。また、このフロントフォークによれば、バルブケースをリザーバ筒と液室筒とで挟持する構造を採用することでガイドロッドが不要となってフリーピストンの受圧面積を大きくできるので、ロッドのストロークに対するフリーピストンの変位量を低減でき、より一層、緩衝器のストロークの状態による発生減衰力の変動を低減できる。
【0017】
さらに、フロントフォークは、車軸側チューブの下端を閉塞するアクスルブラケットを備え、リザーバ筒が外周にアクスルブラケットと車軸側チューブとの間で挟持されるフランジを有して、車軸側チューブに連結されてもよい。このように構成されたフロントフォークによれば、車軸側チューブとアクスルブラケットとでリザーバ筒が挟持されるので、緩衝器を車軸側チューブに固定するための新たな部品が必要とならず、部品点数を削減できるとともに重量を軽減できる。
【0018】
また、フロントフォークは、伸縮体内であって緩衝器外に液体を貯留する液溜室を備え、リザーバ筒は下方側に内径が上方側の内径よりも大きい内周大径部と、内周大径部を貫通して液溜室を加圧室に連通させるとともにフリーピストンによって開閉されるリリーフ孔とを備え、フリーピストンがリザーバ筒に対して気室を圧縮する方向へ移動して気室の容積が所定容積未満となるとリリーフ孔を開放してもよい。このように構成されたフロントフォークによれば、過剰となった液体を液溜室へ排出できるので、シリンダ内が過剰に高圧となってしまうのを防止できる。
【0019】
また、フロントフォークにおけるリザーバ筒は、内周であって内周大径部の上方に内径が内周大径部より小径の内周小径部と、内周であって内周小径部と内周大径部との間に下方へ向かうほど拡径するテーパ部とを有し、フリーピストンは、有底筒状であって底部の外周に内周小径部の内周に摺接可能なシールリングを有し、シールリングがテーパ部に対向するとリリーフ孔を開放してもよい。このように構成されたフロントフォークによれば、フリーピストンがリリーフ孔を開放する際に、フリーピストンの底部の外周に装着されたシールリングがリリーフ孔の開口の縁に接触しないので、シールリングを傷めることがない。
【発明の効果】
【0020】
以上より、本発明のフロントフォークによれば、ストローク状態によらず安定した減衰力を発生可能であって減衰力の発生応答性を良好にし得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】鞍乗型車両に適用された本発明のフロントフォークを正面図である。
図2】本発明の一実施の形態のフロントフォークの断面図である。
図3】本発明の一実施の形態のフロントフォークの一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。本発明の一実施の形態におけるフロントフォーク1は、図1から図3に示すように、伸縮体2と、伸縮体2内に収容される緩衝器Dとを備えて構成されており、鞍乗型車両Vの車体Bと前輪Wの車軸Waとの間に対をなして介装されている。そして、フロントフォーク1は、伸縮時に緩衝器Dが発生する減衰力で鞍乗型車両Vの車体Bと前輪Wとの振動を抑制する。
【0023】
以下、フロントフォーク1の各部について詳細に説明する。伸縮体2は、車軸側チューブとしてのインナーチューブ3とインナーチューブ3に対して軸方向に相対移動可能な車体側チューブとしてのアウターチューブ4とを備えている。そして、伸縮体2は、アウターチューブ4とアウターチューブ4内に摺動自在に挿入されたインナーチューブ3とで構成された倒立姿勢のテレスコピック型の伸縮体となっている。
【0024】
そして、鞍乗型車両Vが凹凸のある路面を走行するなどして前輪Wが上下に振動すると、インナーチューブ3がアウターチューブ4内に出入りして伸縮体2が伸縮する。このように、伸縮体2が伸縮すると、インナーチューブ3とアウターチューブ4との内方に収容された緩衝器Dも伸縮して減衰力を発生する。なお、伸縮体2は、アウターチューブを車軸側チューブとし、インナーチューブを車体側チューブとした正立型とされてもよい。フロントフォーク1内には、伸縮体2を伸長方向に付勢する懸架スプリング16が緩衝器Dとともに収容されており、フロントフォーク1は、車体Bと前輪Wとの間に介装されると懸架スプリング16の弾発力によって車体Bを弾性支持する。
【0025】
伸縮体2の上端となるアウターチューブ4の上端の開口部は、キャップ5で塞がれている。その一方、伸縮体2の下端となるインナーチューブ3の下端の開口部は、前輪Wの車軸Waを把持するアクスルブラケット6によって閉塞されている。さらに、アウターチューブ4の下端内周には、インナーチューブ3の外周に摺接する環状のシール部材7が設けられており、アウターチューブ4とインナーチューブ3との内部の空間は閉鎖空間とされている。
【0026】
このようにして伸縮体2内は閉鎖された空間とされており、その伸縮体2内に緩衝器Dが収容されている。また、伸縮体2内であって緩衝器Dの外方は、液体を気体とともに貯留する液溜室R4とされている。
【0027】
つづいて、緩衝器Dは、車軸側チューブとしてのインナーチューブ3に連結されるシリンダ10と、シリンダ10内に軸方向へ移動可能に挿入されるとともにシリンダ10内を液体が充填される液室Lと気体が充填される気室Gとに区画するフリーピストン14と、シリンダ10内に軸方向へ移動可能に挿入されるとともに液室L内を伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン11と、一端が車体側チューブとしてのアウターチューブ4に連結されるとともに他端がシリンダ10内に挿入されるとともにピストン11に連結されるロッド12とを備えている。なお、緩衝器Dに利用される液体は、本実施の形態では、作動油とされているが、作動油以外の液体の使用も可能である。また、気体には、窒素等の不活性ガスの利用が好ましいが大気の利用も可能である。
【0028】
シリンダ10は、図2中で下端となる一端がインナーチューブ3に連結されるとともに内周にフリーピストン14が摺動自在に挿入されるリザーバ筒30と、リザーバ筒30の他端に連結されるとともにピストン11が摺動自在に挿入される液室筒33とを備えている。このように、リザーバ筒30は、液室筒33の下端に螺着される筒状のソケット部31と、筒状であってソケット部31の図2中下端に連なりソケット部31よりも内径が大径なフリーピストン収容部32とを備えている。
【0029】
シリンダ10におけるリザーバ筒30内にはフリーピストン14が摺動自在に挿入されており、シリンダ10内が液体としての作動油が充填される液室Lと気体が充填される気室Gとに区画される。また、シリンダ10内には、液室L内を伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン11が軸方向へ移動可能に挿入されるとともに、液室L内であって圧側室R2と気室Gとの間に加圧室R3を形成するバルブケース23が固定されている。
【0030】
ソケット部31は、図3に示すように、環状であってフリーピストン収容部32の上端に連なる基部31aと、基部31aの図3中上端の外周から立ち上がるとともに内径が基部31aよりも大径な筒状の連結部31bとを備えている。基部31aは、外径が図3中下方へ向かうほど大径となっており、径方向の肉厚が図3中下方へ向かうほど厚くなっている。また、連結部31bの図3中上端の内周には螺子部31cが設けられている。
【0031】
フリーピストン収容部32は、図3に示すように、筒状であって、液室筒33側となる上端が基部31aの下端の外周に連なり、内周の軸方向の途中に下方へ向かうほど拡径するテーパ部32aを備えている。よって、フリーピストン収容部32の内径は、図3中でテーパ部32aより上方側より下方側の方が大径となっていて、フリーピストン収容部32は、内周であってテーパ部32aより図3中上方の内周小径部32bと、テーパ部32aより図3中下方の内周大径部32cとを備えている。また、内周大径部32cの下端側の外径の一部が拡径されていて、当該拡径された部位(拡径部位32d)の外周の軸方向の下端にフランジ32eが設けられるとともに、当該拡径部位32dにおけるフランジ32eよりも上方にはシールリング35が装着される環状溝32fが設けられている。さらに、フリーピストン収容部32は、内周大径部32cの前述した拡径部位32dよりも液室筒33側となる上方側に内周大径部32cを貫通するリリーフ孔32gを備えている。
【0032】
液室筒33は、図3に示すように、リザーバ筒30側となる下端の近傍の外周にリザーバ筒30におけるソケット部31の連結部31bの内周の螺子部31cに螺合する螺子部33aを備えるとともに、図2に示すように、上端の近傍の内周に螺子部33bを備えている。液室筒33の上端の螺子部33bには、ロッド12の外周に摺接する筒状のブッシュ15aとシールリング15bとを備えたロッドガイド15が螺着されている。また、ロッドガイド15の液室筒33内に嵌合される部分の外周にはシールリング15cが設けられており、ロッドガイド15と液室筒33との間がシールされている。
【0033】
つづいて、ロッド12は、図2に示すように、上端がアウターチューブ4の上端を閉塞するキャップ5に連結されており、下端側がロッドガイド15の内周を通してシリンダ10内に挿入されている。このようにロッド12がロッドガイド15内に挿通されると、ロッド12の外周にブッシュ15aが摺接してロッド12の軸方向への移動が案内されるとともに、ロッド12の外周に摺接するシールリング15bによってロッド12の外周がシールされる。ロッド12がシリンダ10に対して軸方向へ移動すると、ロッド12におけるシールリング15bが摺接する部分が上下方向へ移動するが、ロッド12におけるシールリング15bが摺接する範囲における外周の直径は一定となっている。よって、ロッド12がシリンダ10に対して軸方向へストロークが許容される範囲で移動しても、シールリング15bは、常に、ロッド12の外周を緊迫してロッド12の外周をシールする。
【0034】
よって、ロッド12とロッドガイド15との間はシールリング15bにより、シリンダ10とロッドガイド15の間は、シールリング15cにより密にシールされており、従来のフロントフォークに収容される緩衝器とは異なり、常時、シリンダ10内の伸側室R1と伸縮体2内であって緩衝器Dの外方である液溜室R4との連通が断たれていて、伸側室R1と液溜室R4とが直接連通されることはない。なお、キャップ5には、懸架スプリング16の図2中上端を支持する上方側スプリングシート17の位置をアウターチューブ4に対して軸方向となる上下方向へ調節可能なアジャスタ51が設けられている。
【0035】
懸架スプリング16の下端は、シリンダ10における液室筒33の上端に取り付けられたロッドガイド15の上方に設けられた筒状のオイルロックケース18の図2中上端に装着された環状の下方側スプリングシート19によって支持されている。このように、懸架スプリング16は、アジャスタ51およびキャップ5を介してアウターチューブ4に取り付けられる上方側スプリングシート17と、オイルロックケース18、ロッドガイド15およびシリンダ10を介してインナーチューブ3に取り付けられる下方側スプリングシート19との間に圧縮状態で介装されており、伸縮体2を常時伸長方向へ向けて付勢している。なお、ユーザは、アジャスタ51の回転操作によって上方側スプリングシート17の位置を変更して懸架スプリング16に与える初期荷重が変化させることができるので、鞍乗型車両Vの車高を調節できる。
【0036】
また、ロッド12の外周には、環状のオイルロックピース20が装着されている。インナーチューブ3とアウターチューブ4とが接近しフロントフォーク1が最収縮近傍まで収縮すると、シリンダ10内へのロッド12の侵入に伴って、オイルロックピース20がロッドガイド15の上方に設けられたオイルロックケース18内に侵入する。オイルロックピース20の外周とオイルロックケース18の内周には、適度な隙間が設けられており、オイルロックケース18内から作動油が流出する流れに抵抗が付与される。よって、オイルロックピース20がオイルロックケース18に侵入すると、オイルロックケース18内の圧力が上昇してフロントフォーク1のそれ以上の収縮が妨げられるので、フロントフォーク1の最収縮時の衝撃が緩和される。
【0037】
戻って、図2に示すように、シリンダ10内に挿入されたロッド12の下端の外周には、ピストン11が装着されている。ピストン11は、シリンダ10の内周に摺接しており、ロッド12とともにシリンダ10に対して上下方向となる軸方向へ移動可能であり、前述したように、シリンダ10内を伸側室R1と圧側室R2とに区画している。また、ピストン11は、伸側室R1と圧側室R2とを連通する伸側ポート11aと圧側ポート11bとを備えている。そして、ピストン11の圧側室R2側には、伸側ポート11aの出口端を開閉する伸側バルブとしての伸側リーフバルブ21がロッド12の外周に固定された状態で積層され、ピストン11の伸側室R1側には、圧側ポート11bの出口端を開閉する圧側バルブとしてのチェックバルブ22がロッド12の外周に固定された状態で積層されている。
【0038】
伸側リーフバルブ21は、本実施の形態の緩衝器Dでは複数枚の環状板を積層して構成された積層リーフバルブとされており、内周がロッド12の外周に固定されて外周側の撓みが許容されている。また、伸側リーフバルブ21は、作動油が伸側室R1から圧側室R2へ伸側ポート11aを介して移動する際に作動油の流れに抵抗を与え、作動油が圧側室R2から伸側室R1へ向かって移動するのを阻止する。
【0039】
チェックバルブ22は、本実施の形態の緩衝器Dでは、ロッド12の外周に軸方向移動可能に装着された環状板と環状板をピストン11に向けて付勢するばねとで構成されている。また、チェックバルブ22は、圧側室R2から伸側室R1へ圧側ポート11bを介して移動する作動油の流れに対しては開弁して作動油の通過を略抵抗なく許容し、伸側室R1から圧側室R2へ向かって移動しようとする作動油の流れに対しては閉弁して当該作動油の流れを阻止する。なお、チェックバルブ22の構成は一例であって変更可能である。また、チェックバルブ22の代わりに圧側ポート11bを通過する作動油の流れに抵抗を与える減衰バルブを設けてもよい。
【0040】
なお、ロッド12は、中空となっており、ピストン11の伸側ポート11aおよび圧側ポート11bを迂回して伸側室R1と圧側室R2とを連通するバイパス通路Pを備えていて、内部に当該バイパス通路Pの流路面積を変更可能なニードルバルブNを備えている。なお、ニードルバルブNは、キャップ5に設けられたアジャスタ52の回転操作によってロッド12中を軸方向に移動して前記バイパス通路Pの流路面積を変更できる、ユーザはアジャスタ52の操作によって緩衝器Dが発生する減衰力を調節できる。
【0041】
つづいて、バルブケース23は、円盤状の本体部24と、本体部24の中央からピストン側となる上方側へ向かって延びる軸部25と、軸部25の外周に装着される環状のバルブディスク26を備えている。本体部24は、外周にフランジ24aと、フランジ24aを挟んで両側にそれぞれ液室筒33の内周に密着するシールリング24bとリザーバ筒30のソケット部31の内周に密着するシールリング24cとを備えるとともに、本体部24の下端から上端へ貫通する透孔24dを備えている。
【0042】
バルブディスク26は、環状であって軸部25の外周に装着されており、圧側室R2と加圧室R3とを連通する排出ポート26aと吸込ポート26bと、外周に装着されて液室筒33の内周に密着するシールリング26cとを備えており、液室筒33との間をシールして圧側室R2と加圧室R3とを仕切っている。
【0043】
このように構成されたバルブケース23は、リザーバ筒30に液室筒33を螺合する際に、本体部24の外周のフランジ24aがリザーバ筒30のソケット部31の段部31dと液室筒33の下端との間で挟持されることでシリンダ10に不動に取り付けられる。よって、バルブケース23をシリンダ10内に位置決めするためにリザーバ筒30内に挿通されるガイドロッドが不要となる。
【0044】
また、バルブディスク26の加圧室R3側には、排出ポート26aの出口端を開閉する環状のベースバルブ27の内周側が軸部25の外周にバルブディスク26とともに固定された状態で積層され、バルブディスク26の圧側室R2側には、吸込ポート26bの出口端を開閉する環状のチェックバルブ28の内周がバルブディスク26とともに軸部25の外周に固定された状態で積層されている。
【0045】
ベースバルブ27は、本実施の形態のフロントフォーク1では複数枚の環状板を積層して構成された積層リーフバルブとされており、内周が軸部25の外周に固定されて外周側の撓みが許容されている。また、ベースバルブ27は、作動油が圧側室R2から加圧室R3へ排出ポート26aを介して移動する流れのみを許容して、当該作動油の流れに抵抗を与えるとともに、作動油が加圧室R3から圧側室R2へ向かって移動するのを阻止する。
【0046】
チェックバルブ28は、本実施の形態のフロントフォーク1では、軸部25の外周に軸方向移動可能に装着された環状板と環状板をバルブディスク26に向けて付勢するばねとで構成されている。また、チェックバルブ28は、加圧室R3から圧側室R2へ吸込ポート26bを介して移動する作動油の流れに対しては開弁して略抵抗なく作動油の通過を許容し、圧側室R2から加圧室R3へ向かって移動する作動油の流れに対しては閉弁して当該作動油の流れを阻止する。
【0047】
なお、バルブケース23は、排出ポートと吸込ポートとを備えるとともにベースバルブ27とチェックバルブ28とを保持できる構造を備えていればよい。よって、たとえば、バルブケース23は、シリンダ10に固定されるとともに排出ポートと吸込ポートとを備えるバルブディスクと、バルブディスクの軸方向の両端にベースバルブ27とチェックバルブ28とが装着される軸部とを備えていてもよい。
【0048】
つづいて、インナーチューブ3の下端を閉塞するアクスルブラケット6は、図2および図3に示すように、インナーチューブ3の下端外周に螺着される有底筒状の筒部6aと、筒部6aの下端に設けられて車軸Waを把持するC型の把持部6bと、把持部6bの内方から開口して筒部6aの底部を貫く孔6cとを備えている。また、アクスルブラケット6における筒部6aの内周には、インナーチューブ3の下端外周に設けられた螺子部3aが螺合される螺子部6dと、螺子部6dよりも底部側の内径が2段階に小径となっていて筒部6aの内周には螺子部6d側の第1段部6eと第1段部6eより底部側の第2段部6fとが設けられている。なお、アクスルブラケット6は、図示はしないが、前輪Wのブレーキキャリパ等の取り付ける取付部を備えていてもよい。
【0049】
ここで、リザーバ筒30におけるフリーピストン収容部32のフランジ32eは、第1段部6eの内径より大径であって、フリーピストン収容部32の下端の拡径部位32dは筒部6aの第1段部6eより底部側の内周に嵌合可能となっている。また、フランジ32eの外径は、インナーチューブ3の内径よりも大径となっており、フリーピストン収容部32の内周大径部32cの拡径部位32dは、インナーチューブ3の下端に嵌合するものの、フリーピストン収容部32の内周大径部32cの拡径部位32dよりも上方の外径はインナーチューブ3の内径よりも小径となっている。さらに、フリーピストン収容部32の下端からフランジ32eの下端までの軸方向長さは、アクスルブラケット6の筒部6aにおける第1段部6eから第2段部6fまでの軸方向長さよりも短い。よって、シリンダ10におけるリザーバ筒30をアクスルブラケット6内に挿入すると、リザーバ筒30は、フランジ32eがアクスルブラケット6の第1段部6eに当接するまでアクスルブラケット6の筒部6a内に挿入できる。そして、フランジ32eがアクスルブラケット6の第1段部6eに当接するまでアクスルブラケット6の筒部6a内に挿入してから、インナーチューブ3の下端をアクスルブラケット6の筒部6aに螺子締結すると、フランジ32eがインナーチューブ3の下端とアクスルブラケット6の第1段部6eとで挟持され、シリンダ10がインナーチューブ3に固定的に連結される。
【0050】
また、インナーチューブ3内にフリーピストン収容部32における内周大径部32cの下端の拡径部位32dが嵌合して、シールリング35がインナーチューブ3の内周に密着するので、インナーチューブ3とリザーバ筒30との間がシールされる。さらに、筒部6aの底部の近傍の内周にも、シールリング36が装着されており、フリーピストン収容部32の拡径部位32dのフランジ32eより下方側が筒部6aの第1段部6eより底部側に嵌合するため、シールリング36によってアクスルブラケット6とリザーバ筒30との間がシールされる。
【0051】
このようにしてインナーチューブ3に連結されたシリンダ10のリザーバ筒30内には、フリーピストン14が軸方向移動自在に挿入れている。フリーピストン14は、シリンダ10内を作動油が充填される液室Lと気体が封入される気室Gとに区画している。気室G内には、アクスルブラケット6の筒部6aの底部に設けられた孔6cに装着されたエアバルブ53を通じて気体が充填される。なお、気室G内の圧力の調整は、エアバルブ53から気体を給排することで行うことができる。また、エアバルブ53は、アクスルブラケット6の筒部6aの底部に設けられた孔6cに装着されているので、アクスルブラケット6の把持部6bで前輪Wの車軸Waを把持すると、孔6cが車軸Waによって閉塞されるため保護される。
【0052】
フリーピストン14は、図3に示すように、円盤状の底部14aと、底部14aの下端外周に連なる筒部14bとを備えて有底筒状とされている。フリーピストン14は、底部14aの外周をリザーバ筒30におけるフリーピストン収容部32の内周小径部32bの内周に摺接させるとともに、筒部14bの拡径された下端部14cを内周大径部32cの内周に摺接させて、シリンダ10内を液室Lと気室Gとに仕切っている。フリーピストン14は、底部14aの外周に形成された環状溝14d内に装着されて内周小径部32bの内周に摺接するシールリング14eと、下端部14cの外周に形成された環状溝14f内に装着されてシールリング14gとを備えている。なお、前述したように、バルブケース23がシリンダ10におけるリザーバ筒30と液室筒33とで挟持されてシリンダ10内に固定される構造を採用しているため、リザーバ筒30内にバルブケース23を位置決めするガイドロッドが不要なっており、従来のフロントフォークのように、フリーピストン14をガイドロッドの外周に摺接させる必要はなく、フリーピストン14の受圧面積を大きくできる。
【0053】
フリーピストン14は、気室G内の気体の圧力によって常に加圧室R3を圧縮する方向へ付勢されており、加圧室R3内は、常時、気室G内の気体の圧力によって加圧されている。このように加圧室R3が加圧されると、加圧室R3に連通されるシリンダ10内の伸側室R1および圧側室R2も加圧されて、シリンダ10内の作動油の油柱剛性が高められている。作動油には気体が溶け込んでいるために作動油は弾性を示し、作動油の見掛け上の弾性係数が低くなると緩衝器Dの減衰力発生応答性が悪化するが、前述のようにシリンダ10内を加圧することで油柱剛性が高められて緩衝器Dの減衰力発生応答性を向上できる。
【0054】
なお、フリーピストン14は、リザーバ筒30内を底部14aがリザーバ筒30のソケット部31の基部31aに当接する位置から筒部14bの下端がアクスルブラケット6の筒部6aの途中の第2段部6fに当接する位置までの範囲で図3中上下方向となる軸方向へ移動できる。そして、フリーピストン14の下端部14cは、常時、フリーピストン収容部32の内周大径部32cのリリーフ孔32gよりも図3中下方側に摺接してリリーフ孔32gを上方へ跨いで移動することはない。フリーピストン14の底部14aの外周は、フリーピストン14の筒部14bの下端とアクスルブラケット6の第2段部6fとの距離が所定距離未満となるまでは内周小径部32bの内周に摺接している。
【0055】
リリーフ孔32gの開口は、フリーピストン14が軸方向へ移動しても常にフリーピストン14のシールリング14e,14g間となる位置に設置されている。よって、フリーピストン14の筒部14bの下端と第2段部6fとの距離が所定距離以上となる範囲でフリーピストン14が移動する限り、リリーフ孔32gと液室Lとの連通はシールリング14eによって断たれている。ところが、フリーピストン14が図3中下方へ移動して筒部14bの下端と第2段部6fとの距離が所定距離未満となると気室Gの容積が所定容積未満となり、シールリング14eがフリーピストン収容部32における内周小径部32bを越えてテーパ部32a或いは内周大径部32cに対向するようになって、フリーピストン収容部32の内周との間に隙間が生じるようになる。このようにフリーピストン14が気室Gを圧縮して気室Gの容積が所定容積未満となると、リリーフ孔32gと液室Lとが連通状態となって、リリーフ孔32gを介してシリンダ10内の加圧室R3が液溜室R4に連通されるようになる。ここで、緩衝器Dの長期間に亘る伸縮によってロッド12の外周に付着した液溜室R4内の作動油がシールリング15bを僅かずつ乗り越えてシリンダ10内に侵入することで、或いは、作動油の温度上昇による体積増加によって、加圧室R3内の作動油量が規定量よりも多くなる場合がある。このような場合、フリーピストン14が気室Gの容積が所定容積未満となるまでリザーバ筒30内を下方へ後退するとリリーフ孔32gを開放して、過剰となった作動油を液溜室R4へ排出できるので、本実施の形態のフロントフォーク1では、シリンダ10内が過剰に高圧となってしまうのを防止できる。なお、フリーピストン14がリリーフ孔32gを開放する際の気室Gの容積である所定容積は、任意に設定できるが、気室Gの容積が所定容積となった際の気室G内の圧力がロッド12の外周をシールするシールリング15bが許容できる圧力を超えないように設定されるとよい。
【0056】
本実施の形態のフロントフォーク1は、以上の通り構成されており、以下にその作動について説明する。まず、フロントフォーク1が伸長する場合、インナーチューブ3とアウターチューブ4との相対的な軸方向の離間に伴って、シリンダ10に対してロッド12に連結されるピストン11が図1中上方へ移動する。シリンダ10内の伸側室R1は、ピストン11の移動によって圧縮されて縮小し、シリンダ10内の圧側室R2は、ピストン11の移動によって拡大する。圧縮される伸側室R1内の作動油は、伸側リーフバルブ21を押し開いてピストン11の伸側ポート11aを通過して拡大される圧側室R2へ移動する。伸側リーフバルブ21が伸側ポート11aを通過する作動油の流れに抵抗を与えるので、伸側室R1の圧力が圧側室R2の圧力よりも高くなり、緩衝器Dがフロントフォーク1の伸長を妨げる伸側減衰力を発揮する。
【0057】
フロントフォーク1の伸長時には、シリンダ10からロッド12が退出し、ロッド12がシリンダ10から退出する体積分の作動油がシリンダ10内の圧側室R2で不足する。このように圧側室R2で作動油が不足するために、圧側室R2の圧力が加圧室R3内の圧力よりも低下して、チェックバルブ28が撓んで吸込ポート26bを開放する。よって、圧側室R2で不足する作動油は、加圧室R3から吸込ポート26bを通じて圧側室R2に供給される。リザーバ筒30内では、加圧室R3から作動油が圧側室R2へ移動するためにフリーピストン14が図2中上方へ移動して加圧室R3を縮小させるとともに気室Gを拡大させ、ロッド12がシリンダ10から退出する体積の補償がなされる。このように、フロントフォーク1の伸長時には、伸縮体2と緩衝器Dがともに伸長して、伸側リーフバルブ21によってフロントフォーク1の伸長を妨げる伸側減衰力を発生する。
【0058】
つづいて、フロントフォーク1が収縮する場合、インナーチューブ3とアウターチューブ4との相対的な軸方向の接近に伴って、シリンダ10に対してロッド12に連結されるピストン11が図1中下方へ移動する。シリンダ10内の圧側室R2は、ピストン11の移動によって圧縮されて縮小し、シリンダ10内の伸側室R1は、ピストン11の移動によって拡大する。圧縮される圧側室R2内の作動油は、チェックバルブ22を押し開いてピストン11の圧側ポート11bを通過して拡大される伸側室R1へ移動する。チェックバルブ22は、圧側ポート11bを通過する作動油の流れに抵抗を殆ど与えないので、圧側室R2の圧力と伸側室R1の圧力はほぼ等圧となる。
【0059】
フロントフォーク1の収縮時には、シリンダ10内へロッド12が侵入し、ロッド12がシリンダ10内へ侵入する体積分の作動油がシリンダ10内で過剰となる。このようにシリンダ10内で過剰となった作動油は、ベースバルブ27を押し開いて排出ポート26aを通過して加圧室R3へ移動する。ベースバルブ27が排出ポート26aを通過する作動油の流れに抵抗を与えるので、シリンダ10内の全体の圧力が上昇し、緩衝器Dはフロントフォーク1の収縮を妨げる圧側減衰力を発揮する。
【0060】
リザーバ筒30内では、作動油がシリンダ10内から加圧室R3内へ排出されるためにフリーピストン14が下方へ後退して加圧室R3を拡大させるとともに気室Gを縮小させ、ロッド12がシリンダ10内へ侵入する体積の補償がなされる。このように、フロントフォーク1の収縮時には、緩衝器Dが伸縮体2とともに収縮して、ベースバルブ27によってフロントフォーク1の収縮を妨げる圧側減衰力を発生する。
【0061】
本実施の形態のフロントフォーク1では、シリンダ10内を加圧するフリーピストン14が気室G内に封入された気体のみによって付勢されており、コイルスプリングを備えていない。気体の圧力は体積に反比例するため、体積変化に対して圧力の変動が少ない領域で気体を用いればフリーピストン14の移動量に対して気室G内の圧力変動は小さくなる。このように、フリーピストン14を気室G内の気体の圧力のみで付勢してシリンダ10内を加圧することで、フロントフォーク1の伸縮によってフリーピストン14がリザーバ筒30に対して変位して気室Gの容積を変化させても気室G内の圧力変動を小さくできる。よって、緩衝器Dの最伸長時と最収縮時とで加圧状態が著しく変化するのを抑制でき、本実施の形態のフロントフォーク1では、緩衝器Dのストロークの状態によって発生減衰力が大きく変化することはない。
【0062】
以上、本実施の形態のフロントフォーク1は、インナーチューブ(車軸側チューブ)3と、インナーチューブ(車軸側チューブ)3に対して軸方向に相対移動可能なアウターチューブ(車体側チューブ)4とを有する伸縮体2と、インナーチューブ(車軸側チューブ)3に連結されるシリンダ10と、シリンダ10内に軸方向へ移動可能に挿入されるとともにシリンダ10内を作動油(液体)が充填される液室Lと気体が充填される気室Gとに区画するフリーピストン14と、シリンダ10内に軸方向へ移動可能に挿入されるとともに液室L内を伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン11と、一端がアウターチューブ(車体側チューブ)4に連結されるとともに他端がシリンダ10内に挿入されるとともにピストン11に連結されるロッド12とを有して、伸縮体2内に収容されて伸縮時に減衰力を発生する緩衝器Dとを備え、伸側室R1と伸縮体2内であって緩衝器Dの外方との連通が常時断たれており、フリーピストン14は、気室G内に充填される気体の圧力のみによって液室Lを加圧している。
【0063】
このように構成されたフロントフォーク1では、フリーピストン14を気室G内の気体の圧力のみで付勢してシリンダ10内を加圧するので、フロントフォーク1の伸縮によってフリーピストン14が気室Gの容積を変化させても気室G内の圧力変動を小さくできる。よって、本実施の形態のフロントフォーク1によれば、緩衝器Dの最伸長時と最収縮時とで加圧状態が著しく変化するのを抑制でき、緩衝器Dのストロークの状態による発生減衰力の変動を低減できる。また、本実施の形態のフロントフォーク1によれば、伸側室R1と伸縮体2内であって緩衝器Dの外方との連通が常時断たれており、液溜室R4内の気体がシリンダ10内へ混入することもないので、減衰力発生応答性が悪化することもない。以上より、本実施の形態のフロントフォーク1によれば、ストローク状態によらず安定した減衰力を発生可能であって減衰力の発生応答性を良好に保ち得る。さらに、本実施の形態のフロントフォーク1によれば、気室G内の気体の圧力の調節によって、減衰力および減衰力発生応答性を容易にチューニングできる。また、本実施の形態のフロントフォーク1によれば、コイルスプリングを備えていないので、その分、従来のフロントフォークに比較して重量を軽減できる。
【0064】
また、本実施の形態のフロントフォーク1では、シリンダ10の気室G部分(フリーピストン収容部32)の内径が液室L部分(液室筒33)の内径よりも大きくなっている。よって、本実施の形態のフロントフォーク1では、フリーピストン14の断面積を大きくでき、緩衝器Dの伸縮時におけるフリーピストン14の変位量を小さくできるので、シリンダ10の気室G部分の全長を短くできる。したがって、本実施の形態のフロントフォーク1によれば、フロントフォーク1のストローク長を長くできる点で有利となる。
【0065】
さらに、本実施の形態のフロントフォーク1は、シリンダ10が、一端がインナーチューブ(車軸側チューブ)3に連結されるとともに内周にフリーピストン14が摺動自在に挿入されるリザーバ筒30と、リザーバ筒30の他端に連結されるとともにピストン11が摺動自在に挿入される液室筒33とを備え、リザーバ筒30と液室筒33との間で挟持されてシリンダ10内に嵌合して液室L内であって圧側室R2と気室Gとの間に加圧室R3を区画するとともに、圧側室R2と加圧室R3とを連通する排出ポート26aと吸込ポート26bとを有するバルブケース23とを備えている。
【0066】
このように構成された本実施の形態のフロントフォーク1によれば、シリンダ10がリザーバ筒30と液室筒33とで構成されているので容易にシリンダ10に対して内径が液室L部分より大径の気室Gを形成できる。また、本実施の形態のフロントフォーク1によれば、バルブケース23をリザーバ筒30と液室筒33とで挟持する構造を採用することでガイドロッドが不要となってフリーピストン14の受圧面積を大きくできるので、ロッド12のストロークに対するフリーピストン14の変位量を低減でき、より一層、緩衝器Dのストロークの状態による発生減衰力の変動を低減できる。
【0067】
また、本実施の形態のフロントフォーク1は、インナーチューブ(車軸側チューブ)3の下端を閉塞するアクスルブラケット6を備え、リザーバ筒30が外周にアクスルブラケット6とインナーチューブ(車軸側チューブ)3との間で挟持されるフランジ32eを有して、インナーチューブ(車軸側チューブ)3に連結されている。このように構成されたフロントフォーク1によれば、インナーチューブ(車軸側チューブ)3とアクスルブラケット6とでリザーバ筒30が挟持されるので、緩衝器Dをインナーチューブ(車軸側チューブ)3に固定するための新たな部品が必要とならず、部品点数を削減できるとともに重量を軽減できる。
【0068】
さらに、本実施の形態のフロントフォーク1は、伸縮体2内であって緩衝器D外に作動油(液体)を貯留する液溜室R4を備え、リザーバ筒30が下方側に内径が上方側の内径よりも大きい内周大径部32cと、内周大径部32cを貫通して液溜室R4を加圧室R3に連通させるとともにフリーピストン14によって開閉されるリリーフ孔32gとを備え、フリーピストン14がリザーバ筒30に対して気室Gを圧縮する方向へ移動して気室Gの容積が所定容積未満となるとリリーフ孔32gを開放する。このように構成されたフロントフォーク1によれば、フリーピストン14が気室Gの容積が所定容積未満となるまでリザーバ筒30内を下方へ後退するとリリーフ孔32gを開放して、過剰となった作動油を液溜室R4へ排出できるので、シリンダ10内が過剰に高圧となってしまうのを防止できる。なお、本実施の形態のフロントフォーク1では、リザーバ筒30におけるフリーピストン収容部32は、軸方向の途中にテーパ部32aと、テーパ部32aより上方側の内径が小径の内周小径部32bと、テーパ部32aより下方側の内径が大径の内周大径部32cと、内周大径部32cを貫通するリリーフ孔32gとを備えており、フリーピストン14は、底部14aの外周が内周小径部32bの内周に摺接し、フリーピストン14の筒部14bの下端部14cの外周が内周大径部32cに摺接しているので、底部14aの外周のシールリング14eがテーパ部32aに対向するとリリーフ孔32gを開放できる。このように構成された本実施の形態のフロントフォーク1では、内周が大径の内周大径部32cにリリーフ孔32gが設けられているためフリーピストン14がリリーフ孔32gを開放する際に、フリーピストン14の底部14aの外周に装着されたシールリング14eがリリーフ孔32gの開口の縁に接触しないので、シールリング14eを傷めることがない。
【0069】
なお、伸縮体2は、アウターチューブを車軸側チューブとし、インナーチューブを車体側チューブとした正立型とされてもよい。また、バルブケース23、ベースバルブ27およびチェックバルブ28を廃止してもよく、その場合には、圧側バルブをチェックバルブ22ではなく液体の流れに抵抗を与える減衰バルブとして、緩衝器Dを所謂単筒型緩衝器として構成してもよい。
【0070】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0071】
1・・・フロントフォーク、2・・・伸縮体、3・・・インナーチューブ(車軸側チューブ)、4・・・アウターチューブ(車体側チューブ)、6・・・アクスルブラケット、10・・・シリンダ、11・・・ピストン、12・・・ロッド、14・・・フリーピストン、23・・・バルブケース、26a・・・排出ポート、26b・・・吸込ポート、27・・・ベースバルブ、28・・・チェックバルブ、30・・・リザーバ筒、32c・・・内周大径部、32e・・・フランジ、32g・・・リリーフ孔、33・・・液室筒、D・・・緩衝器、G・・・気室、L・・・液室、R1・・・伸側室、R2・・・圧側室、R3・・・加圧室、R4・・・液溜室
図1
図2
図3