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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180858
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】エレベータ巻上機
(51)【国際特許分類】
   B66B 11/08 20060101AFI20221130BHJP
   H02K 7/108 20060101ALI20221130BHJP
   H02K 5/136 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
B66B11/08 G
H02K7/108
H02K5/136
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087590
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】307043120
【氏名又は名称】サノシーテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519116539
【氏名又は名称】佐野 真義
(71)【出願人】
【識別番号】516172042
【氏名又は名称】佐野 達広
(74)【代理人】
【識別番号】100101432
【弁理士】
【氏名又は名称】花村 太
(72)【発明者】
【氏名】佐野 真義
(72)【発明者】
【氏名】佐野 達広
【テーマコード(参考)】
3F306
5H605
5H607
【Fターム(参考)】
3F306AA07
3F306BA02
3F306BA03
3F306BA09
5H605AA03
5H605BB01
5H605BB05
5H607AA12
5H607BB01
5H607BB02
5H607EE07
5H607EE32
(57)【要約】
【課題】ブレーキ装置が組み込まれた電動モータを備えたマシンルームレス用のエレベータ巻上機として、大型化を抑えながら効率的にモータのダブルブレーキ化を実現する。
【解決手段】エレベータ巻上機において、減速機が歯車箱内にウォームギア段とヘリカルギア段との2段歯車列からなる歯車機構を備え、ウォームギア段の入力軸としての円筒状ウォームが、その長手方向両側から同軸上に延在して歯車箱の外方へ突出する延長回転軸を備え、延長回転軸の一方の端部に出力軸が連結されたブレーキ装置内蔵の第1のモータをシーブ回転駆動用電動モータとして備え、延長回転軸の他方の端部に出力軸が連結されたブレーキ装置内蔵の第2のモータを、円筒状ウォーム及び延長回転軸を介して第1のモータの回転駆動に追従駆動する発電機として備え、第1のモータのブレーキ装置と第2のモータのブレーキ装置とで第1のモータに対するダブルブレーキ機構を構成する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降かごと釣り合い錘とをそれぞれ両端に懸吊したメインロープが巻き掛けられたシーブと、前記シーブを回転駆動させるための電動モータと、前記電動モータの回転を予め定められた回転速度に減速して前記シーブへ出力する減速機と、を備えているエレベータ巻上機において、
前記減速機は、歯車箱内にウォームギア段とヘリカルギア段とが組み合わされた2段歯車列からなる歯車機構を備え、前記ウォームギア段が、入力軸としての円筒状ウォームと該円筒状ウォームに歯合するウォームホイールとから構成され、前記ヘリカルギア段が、前記ウォームホイールに中間軸を介して同軸上で連結されているヘリカルピニオンと該ヘリカルピニオンに歯合すると共にその回転中心軸が出力軸として前記シーブの回転中心軸に連結されているヘリカルギアとから構成されており、
前記円筒状ウォームは、その長手方向両側から同軸上に延在して前記歯車箱の外方へ突出し、前記円筒状ウォームと一体に回転する延長回転軸を備え、
前記歯車箱は、上方の対向する領域に、前記円筒状ウォームを回転可能に水平方向に横架すると同時に前記円筒状ウォームの両側の延長回転軸を外方へ回転可能に突出させる一対の上方壁部を有し、
前記延長回転軸の一方の端部に出力軸が連結され、同一の容器内にモータ本体と一体的にブレーキ装置が配置されている前記シーブの回転駆動のための前記電動モータとしての第1のモータと、前記延長回転軸の他方の端部に出力軸が連結され、同一の容器内にモータ本体と一体的にブレーキ装置が配置され、前記円筒状ウォーム及び前記延長回転軸を介して前記第1のモータの回転駆動に追従駆動する発電機としての第2のモータとを備え、
前記第1のモータのブレーキ装置と前記第2のモータのブレーキ装置とで、第1のモータに対するダブルブレーキ機構が構成されていることを特徴とするエレベータ巻上機。
【請求項2】
前記第1のモータのブレーキ装置と前記第2のモータのブレーキ装置とは、電磁式ディスクブレーキ型の制動機構であることを特徴とする請求項1に記載のエレベータ巻上機。
【請求項3】
前記歯車箱は、前記一対の上方壁部の両側外部に、それぞれ前記第1のモータと前記第2のモータとの各ケーシング端部に設けられているフリンジ部と連結可能なフリンジ構造部が一体的に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のエレベータ巻上機。
【請求項4】
前記第1のモータと前記第2のモータとは、それぞれ防爆規格に適合する防爆容器内にモータ本体とブレーキ装置とが収容されているブレーキ付き防爆モータであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のエレベータ巻上機。
【請求項5】
前記第2のモータで発電された電力を回生電力として回収する回生回路を更に備えたことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のエレベータ巻上機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マシンルームレス用に大型化を抑えながら電動モータのダブルブレーキ化を実現可能とし、さらに防爆用にも適用できるエレベータ巻上機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医薬品等の化学工場やプラントなど、発火性のガスや蒸気、または酸素が存在する雰囲気中、あるいはこれらガスや蒸気を発火温度にしかねない点火源のある場所などの爆発を招き得る危険雰囲気で作動される電気機器には、通常、防爆構造の対策が施されている。防爆構造は、爆発性ガスのある雰囲気で使用できるように、容器内部で爆発性ガスの爆発が起こった際には容器がその圧力に耐え、しかも火炎が外部の爆発性ガスに引火しないようにした全閉構造である。
【0003】
危険雰囲気中で作動される人荷用エレベータにおいても、防爆仕様のものがある。例えば、機械室を除いた部分での電気部品、例えば乗場操作盤やかご内操作盤、照明機器等を防爆構造にし、危険雰囲気の中でも電気的火花が原因となっての爆発を引き起こさないような対策が施されている。
【0004】
ただし、このような防爆使用エレベータは、機械室が非危険雰囲気であることを前提としているため、エレベータ巻上機については防爆対策がなされていない。また、ファンによって、機械室の内圧上昇もしくは強制換気によって危険雰囲気の充満を防止している防爆エレベータも従来考えられている(例えば特許文献1を参照。)。
【0005】
しかし、一方では、巻上機や制御装置を昇降路内に設置して屋上機械室を不要とすることでエレベータ施設構成を簡略化した所謂「マシンルームレスエレベータ」が標準形として広く普及している。また、炭鉱の昇降用など、必ずしも危険雰囲気から遮断された環境に巻上機が設置されるとは限らない。したがって、このような危険雰囲気中で駆動されることが想定されるエレベータ巻上機については、巻上機自体を防爆仕様とすることが求められる。
【0006】
現在、一般的に広く普及しているトラクションロープ式の低速エレベータとしてギア式のエレベータ巻上機が採用されている。このエレベータ巻上機は、エレベータの昇降かごを一端側に釣り合い錘を他端側にそれぞれ吊り下げたメインロープが巻き掛けられているシーブと、シーブを回転駆動するための電動モータと、電動モータの回転運動をシーブに伝達する減速機と、昇降かごを所定の高さ位置(階層)で停止させるためにモータ回転軸に制動をかける制動機構(即ちブレーキ装置)とから主に構成される。したがって、エレベータ巻上機を防爆仕様とするには、電気系部品でないシーブおよび減速機を除いて、まず実施的に火花や過熱が発生し得る電動モータの本体を、防爆規格に適合する強度、剛性を持つの防爆容器内に収容して防爆構造とする。
【0007】
電動モータのブレーキ装置の制動機構としては、機械式、油圧またはエア圧式、あるいは電磁式等があるが、エレベータのモータ用としては、構造が簡単で安価な電磁式が採用されている。電磁式ブレーキは、電磁力を利用して制動力を得るものであるが、その中でも制御性に優れた摩擦式が普及している。摩擦式は、摩擦材の押し付け力を制動力とするものである。
【0008】
この摩擦式には、減速機との間でモータの出力軸の同軸上にブレーキドラムを固定し、該ドラムの外周の左右両側にブレーキアームを介して一対のブレーキシューを配置し、電磁駆動によってブレーキシューをドラム外周に押し付けて制動をかけるブレーキドラム型と、出力軸と反対側のモータ回転軸に同軸上に固定された円盤状のブレーキディスクに対してブレーキシュー等の摩擦材を押し付ける制動動作および解除動作を、ばねの付勢力とこれに抗する電磁駆動部の吸引力とを利用して行うディスクブレーキ型とがある。
【0009】
したがって、防爆用のエレベータ巻上機において、このような通電制御が行われる電磁駆動部を備えたブレーキ装置については、防爆対策が必要となる。しかし、マシンルームレスエレベータの場合、できるだけ大型化することなく防爆対策をすることが望まれる。そこで、ブレーキドラム型のブレーキ装置として、ブレーキドラムおよびブレーキアーム自体は電気部品の範疇に属さないとしてブレーキアームを駆動させる電磁駆動部のみを防爆規格のケーシングで囲んだ防爆用のエレベータ巻上機が開発されている(特許文献2を参照。)。
【0010】
また、ディスクブレーキ型については、例えば、出力側と反対のモータ回転軸周りにショートストロークソレノイドを配置し、ソレノイドの可動鉄芯が制動ばねによって直接的にブレーキディスクに制動力を加え、コイル通電によって固定鉄芯に発生された吸引力によって可動鉄芯を制動ばねの付勢力に抗してブレーキディスクから離反させて制動解除するというコンパクトな設計として、モータ本体を覆う防爆容器内に一体的に内蔵したブレーキ付きモータも考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭59-43780号公報
【特許文献2】特開2013-2549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
エレベータ巻上機のモータブレーキ装置においては、安全性の観点から2系統の制動機構、所謂ダブルブレーキ構造を備えることが望まれる。しかしながら、防爆仕様のエレベータ巻上機、特にコンパクト性が重要なマシンルームレスタイプにおいて、大型化を抑えながら電動モータの制動機構を増やしてダブルブレーキ構造とするのは容易ではない。
【0013】
例えば、ブレーキドラム型では、別のブレーキドラムをさらに増設する場合、ブレーキドラム型の制動機構自体が比較的大型であり、それ自体の防爆対策が必要であることから、巻上機の大型化は避けられず、マシンルームレスタイプには実際的ではない。
【0014】
また、制動機構自体が比較的コンパクトにできるモータ一体型のディスクブレーキ型の場合も、同一防爆容器内に増設することが考えられるが、2つの電磁駆動部同士で磁界が互いに影響し合わないように、距離を取るなどの別の対策が重要となるため、やはり大型化を抑えながらのダブルブレーキ化は困難である。
【0015】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、ブレーキ装置が組み込まれた電動モータを備えたマシンルームレス用のエレベータ巻上機において、大型化を抑えながら効率的にモータのダブルブレーキ化を実現可能としたエレベータ巻上機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、請求項1の発明に係るエレベータ巻上機は、昇降かごと釣り合い錘とをそれぞれ両端に懸吊したメインロープが巻き掛けられたシーブと、前記シーブを回転駆動させるための電動モータと、前記電動モータの回転を予め定められた回転速度に減速して前記シーブへ出力する減速機と、を備えているエレベータ巻上機において、
前記減速機は、歯車箱内にウォームギア段とヘリカルギア段とが組み合わされた2段歯車列からなる歯車機構を備え、前記ウォームギア段が、入力軸としての円筒状ウォームと該円筒状ウォームに歯合するウォームホイールとから構成され、前記ヘリカルギア段が、前記ウォームホイールに中間軸を介して同軸上で連結されているヘリカルピニオンと該ヘリカルピニオンに歯合すると共にその回転中心軸が出力軸として前記シーブの回転中心軸に連結されているヘリカルギアとから構成されており、
前記円筒状ウォームは、その長手方向両側から同軸上に延在して前記歯車箱の外方へ突出し、前記円筒状ウォームと一体に回転する延長回転軸を備え、
前記歯車箱は、上方の対向する領域に、前記円筒状ウォームを回転可能に水平方向に横架すると同時に前記円筒状ウォームの両側の延長回転軸を外方へ回転可能に突出させる一対の上方壁部を有し、
前記延長回転軸の一方の端部に出力軸が連結され、同一の容器内にモータ本体と一体的にブレーキ装置が配置されている前記シーブの回転駆動のための前記電動モータとしての第1のモータと、前記延長回転軸の他方の端部に出力軸が連結され、同一の容器内にモータ本体と一体的にブレーキ装置が配置され、前記円筒状ウォーム及び前記延長回転軸を介して前記第1のモータの回転駆動に追従駆動する発電機としての第2のモータとを備え、
前記第1のモータのブレーキ装置と前記第2のモータのブレーキ装置とで、第1のモータに対するダブルブレーキ機構が構成されていることを特徴とするものである。
【0017】
請求項2の発明に係るエレベータ巻上機は、請求項1に記載のエレベータ巻上機において、前記第1のモータのブレーキ装置と前記第2のモータのブレーキ装置とが、電磁式ディスクブレーキ型の制動機構であることを特徴とするものである。
【0018】
請求項3の発明に係るエレベータ巻上機は、請求項1または2に記載のエレベータ巻上機において、前記歯車箱は、前記一対の上方壁部の両側外部に、それぞれ前記第1のモータと前記第2のモータとの各ケーシング端部に設けられているフリンジ部と連結可能なフリンジ構造部が一体的に設けられているものである。
【0019】
請求項4の発明に係るエレベータ巻上機は、請求項1~3のいずれか1項に記載のエレベータ巻上機において、前記第1のモータと前記第2のモータとは、それぞれ防爆規格に適合する防爆容器内にモータ本体とブレーキ装置とが収容されているブレーキ付き防爆モータであることを特徴とするものである。
【0020】
請求項5の発明に係るエレベータ巻上機は、請求項1~4のいずれか1項に記載のエレベータ巻上機において、前記第2のモータで発電された電力を回生電力として回収する回生回路を更に備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、トラクションロープ式でギア式のエレベータ巻上機として、まず、ウォームギア段とヘリカルギア段とを組み合わせた2段歯車列で歯車機構が構成され、入力軸を含むウォームギア段が比較的小さい減速比で小さく抑えられて駆動源の電動モータへ求められる容量が大容量となることもなく、ブレーキ装置が一体的に同一容器内に収容されてコンパクトに構成されたブレーキ付きモータをシーブ駆動用の電動モータとして組み込むことができる。しかも、入力軸となるウォームギア段の円筒状ウォームのその長手方向両側から延在して円筒状ウォームと一体に回転する延長回転軸のそれぞれが歯車箱の一対の上方壁部から外方へ突出して設けられているため、各延長回転軸の端部にコンパクトなブレーキ付きモータの出力軸を同軸上に連結できる。これによって、減速機の左右に駆動源としての第1のモータと発電機としての第2のモータとの一対を面倒な芯出し作業等を必要とせずに簡便に同軸上に直線的に設置して、第1のモータのブレーキ装置と第2のモータのブレーキ装置とでダブルブレーキ機構を構成して、マシンルームレスエレベータ用、さらには防爆用に適したコンパクトなエレベータ巻上機のダブルブレーキ化が実現できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施例としてのエレベータ巻上機の概略構成図であり、(a)は概略正面図、(b)は第1および第2のモータと歯車機構との連結構造を示す部分説明図である。
図2図1のエレベータ巻上機の歯車箱内のギア構成を示す図1(a)のA-A断面図である。
図3図1のエレベータ巻上機の主に歯車箱を示す概略背面図である。
図4図1のエレベータ巻上機を備えたエレベータ装置全体の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、昇降かごと釣り合い錘とをそれぞれ両端に懸吊したメインロープが巻き掛けられたシーブと、前記シーブを回転駆動させるための電動モータと、前記電動モータの回転を予め定められた回転速度に減速して前記シーブへ出力する減速機と、を備えているトラクションロープ式でギア式のエレベタ巻上機として、減速機が、歯車箱内にウォームギア段とヘリカルギア段とが組み合わされた2段歯車列からなる歯車機構を備え、ウォームギア段が、入力軸としての円筒状ウォームと該円筒状ウォームに歯合するウォームホイールとから構成され、ヘリカルギア段が、ウォームホイールに中間軸を介して同軸上で連結されているヘリカルピニオンと該ヘリカルピニオンに歯合すると共にその回転中心軸が出力軸としてシーブの回転中心軸に連結されているヘリカルギアとから構成されており、円筒状ウォームが、その長手方向両側から同軸上に延在して前記歯車箱の外方へ突出し、円筒状ウォームと一体に回転する延長回転軸を備え、歯車箱が、上方の対向する領域に、円筒状ウォームを回転可能に水平方向に横架すると同時に円筒状ウォームの両側の延長回転軸を外方へ回転可能に突出させる一対の上方壁部を有し、延長回転軸の一方の端部に出力軸が連結され、同一の容器内にモータ本体と一体的にブレーキ装置が配置されている前記シーブの回転駆動のための前記電動モータとしての第1のモータと、延長回転軸の他方の端部に出力軸が連結され、同一の容器内にモータ本体と一体的にブレーキ装置が配置され、円筒状ウォーム及び延長回転軸を介して第1のモータの回転駆動に追従駆動する発電機としての第2のモータとを備え、第1のモータのブレーキ装置と第2のモータのブレーキ装置とで、第1のモータに対するダブルブレーキ機構が構成されているものである。
【0024】
上記構成によって、本発明においては、減速機が、ウォームギア段とヘリカルギア段とを組み合わせた2段歯車列で歯車機構が構成されるため、第1段のウォームギアは比較的小さい減速比のものにすることができ、歯車機構全体のうち入力軸を含むウォームギア段が担う部分が小さく抑えられ、また平行軸で本来非常に運動伝達効率の高いヘリカルギア段との組み合わせであるため、従来のようなウォームギア1段のみから構成される場合に比べて、全体的に伝達効率を高められる。同時に、ウォームギア段による駆動時効率低下の悪影響も小さく抑えられるため、駆動源の電動モータへ求められる容量も従来ほどの大容量となることもなく、大型モータの搭載が回避できる。このため、ブレーキ装置が一体的に同一容器内に収容されてコンパクトに構成されたブレーキ付きモータをシーブ駆動用の電動モータとして組み込むことができ、コンパクト性が求められるマシンルームレスエレベータ用に適した巻上機が構築できる。
【0025】
そして本発明では、入力軸となるウォームギア段の円筒状ウォームは、その長手方向両側から延在して円筒状ウォームと一体に回転する延長回転軸のそれぞれが、歯車箱の上方領域の一対の上方壁部から外方へ突出して設けられているため、延長回転軸の端部に上記のようなコンパクトなブレーキ付きモータの出力軸を同軸上に連結でき、面倒な芯出し作業等を必要とせずに簡便に減速機の左右に第1のモータと第2のモータとの一対を同軸上に直線的に設置することができる。また、第1と第2のモータとは、同一種類のものとすれば、構成が簡便であり、望ましい。
【0026】
これらのモータは、一方の第1のモータをシーブ駆動用の電動モータとし、他方の第2のモータを第1のモータに追従回転する発電機として構成することができる。これによって、第1のモータに内蔵されたブレーキ装置と第2のモータに内蔵されたブレーキ装置とを、第1のモータの回転軸に対して互いの磁場に影響され合うことなく離反した位置に配置された2つの制動機構として良好に機能させることができる。従って、本発明によれば、マシンルームレスエレベータ用の巻上機としてダブルブレーキ化を実現することができる。
【0027】
しかも、第1のモータと前記第2のモータとを、それぞれ防爆規格に適合する防爆容器内にモータ本体とブレーキ装置とが収容されているブレーキ付き防爆モータとすることで、本発明を防爆用エレベータ巻上機とすることができる。即ち、これによって、防爆用エレベータ巻上機のダブルブレーキ化も実現できることになる。なお、防爆用とする場合、歯車箱も防爆規格に適合した機密性および堅牢性を備えたものとすることが好ましい。
【0028】
また、本発明においては、第1のモータの回転駆動時に第2のモータが発電機として回転駆動され、発電されるため、この電力を利用して省エネ化を図ることができる。そのため、昇降かごの運転を制御するために第1のモータの駆動を制御する制御装置に、第2のモータで発電された電力を回生電力として回収して利用する回生回路を備えたものとすれば良い。この回生回路は、回生電力を蓄電したり、停電時に電力供給するよう電源回路を切り換えるものとすることで、回生電力を非常時用電力として利用することができる。もちろん、自己回生回路として第1のモータの動力源として利用することもできる。また、第1のモータと第2のモータとの回転駆動と発電とを定期的に交換するようにしてもよい。これにより個々のモータの寿命が同程度となり、一方のモータのみの故障等の不具合を防ぐことができる。
【0029】
なお、本発明における第1と第2のモータに内蔵されているブレーキ装置は、構造が簡単で安価な電磁式ブレーキが好ましく、よりコンパクトな電磁式ディスクブレーキ型であることが実際的で最適である。中でも、電力供給されない無励磁時に制動ばねによる不勢力でブレーキディスクに制動力がかけられ、通電励磁時に制動力が解除されるタイプのものが簡便な電磁駆動部の構成となり、望ましい。
【0030】
また、実際の第1と第2のモータの巻上機への組み込みは、各出力軸が歯車箱の一対の上方壁部からそれぞれ外方へ突出している延長回転軸の端部に連結した状態で各モータのケーシングを歯車箱の左右両側に取り付けることになる。従って、歯車箱は、一対の上方壁部の両側外部に、それぞれ第1のモータと第2のモータとの各ケーシング端部に設けられているフリンジ部と連結可能なフリンジ構造部を一体的に設けておくことが好適である。
【実施例0031】
本発明の一実施例として、一対の防爆ブレーキ付きモータを備えたマシンルームレス用のエレベータ巻上機を図1~4の概略構成図に示す。図1の(a)は、本エレベータ巻上機の概略正面図、(b)は第1および第2のモータと歯車機構との連結構造を示す部分説明図である。図2はエレベータ巻上機の歯車箱内のギア構成を示す図1(a)のA-A断面図である。図3は本エレベータ巻上機の主に歯車箱を示す背面図である。図4は本実施例によるエレベータ巻上機を備えたエレベータ装置全体の概略構成図である。
【0032】
本実施例によるエレベータ巻上機1は、トラクションロープ式でエレベータ昇降路の上方に設けられるマシンルームレスエレベータ用のものであり、防爆モータを備えた防爆仕様の場合を例示する。
【0033】
本エレベータ巻上機1は、シーブ2と、シーブ2を回転駆動させるための電動モータとしてのブレーキ付きの第1のモータ30と、第1のモータ30の回転を所定の回転速度に減速してシーブ2に出力する減速機4と、減速機4を挟んで第1のモータ30の対称位置に配置された発電機としてのブレーキ付きの第2のモータ40とから構成されている。
【0034】
シーブ2には、一端側に昇降かご100が、他端側に釣り合い錘110が懸吊されているメインロープ120が巻き掛けられており、第1のモータ30の回転力が減速機4を介してシーブ2に伝達され、該シーブ2の回転に伴って、メインロープ120が移動することによって昇降かご100がエレベータ昇降路内を上下方向に走行する。
【0035】
第1のモータ30は、制御装置200によって電源回路210を介してモータ本体の回転駆動と電磁式ブレーキ装置が制御されると共にインバータ回路(不図示)を介して回転数が制御されるものである。よって、その出力制御でシーブ2の回転駆動が制御され昇降かご100の走行の加減速、停止が制御されて、目的階への移動、乗場位置への到達時での停止、および昇降かごの静止状態の保持が実行される。
【0036】
減速機4の歯車機構は、ウォームギア段10とヘリカルギア段15との2段歯車列で構成されている。ウォームギア段10は、円筒状ウォーム11とこれに歯合するウォームホイール13とから成り、ヘリカルギア段15は、ヘリカルピニオン16とこれに歯合するヘリカルギア17とから成る。ヘリカルピニオン16は、ウォームホイール13と中間軸14で同軸上に配置され、ヘリカルギア17の出力軸18がシーブ軸6と同軸上に連結されている。
【0037】
これらの歯車機構は、歯車箱20内に収容されているが、円筒状ウォーム11は、歯車箱20の上方領域に延びる一対の上方壁部(21x,21y)の対向位置に形成された貫通孔(22x,22y)に回転可能に水平方向の横架状態で軸受けを介して軸支され、その長手方向両側から同軸上に延在して円筒状ウォーム11と一体に回転する一対の第1の延長回転軸12xおよび第2の延長回転軸12yがそれぞれ両貫通孔(22x,22y)から外方へ突出している。
【0038】
そして一方の第1の延長回転軸12xが入力軸として端部が第1のモータ30の出力軸32と互いの結合継手(Cx,31)を介して連結されている。他方の第2の延長回転軸12yの端部には、発電機としての第2のモータ40の出力軸42が互いの結合継手(Cy,41)を介して連結されている。従って、第1のモータ30と第2のモータ40は、共に円筒状ウォーム11と同軸上に直線的に配列されている。
【0039】
なお、歯車箱20は、中央領域に分割面を有することなく、外側に突出された第1の延長回転軸12xおよび第2の延長回転軸12yの端部以外の歯車機構のほとんどを内部に収容する一体成形型のものであり、本実施例では、防爆規格に適合する機密性と堅牢性を有するものとした。例えば、鋳鉄製として、FCD450(フェライト・パーライトの球状黒鉛鋳鉄)から成型したものが挙げられる。この歯車箱20の、シーブ2側と対向する背面側の壁部領域には、最大ギア段であるヘリカルギア段15の外径より大きな開口23が形成されており、該開口23を介して、円筒状ウォーム11以外の歯車機構の構成部品のほとんどを挿脱できる構成とした。従って、減速機4の組み立て時に部品を挿入設置したり、またエレベータ巻上機1として設置後の部品交換作業を行う際に該開口23により容易に行える。
【0040】
減速機4の組み立て後には、開口23は、これに嵌合するスリーブ部材26が嵌め込まれる。歯車箱20のシーブ側壁部領域には、中間軸14の一端部を軸支する軸受け保持部24xと出力軸18の一端部を軸支する軸受け保持部25yとが形成されており、スリーブ部材26には、開口23に嵌め込まれた状態で軸受け保持部24xと対向する壁部領域に中間軸14の他端部を軸支する軸受け保持部24yと軸受け保持部25xと対向する壁部領域に出力軸18の他端部を軸支する軸受け保持部25yとが形成されている。これら中間軸14の一対の軸受け保持部(24x,24y)と出力軸18の一対の軸受け保持部(25x,25y)とは、歯車箱20に貫通孔状に形成されているため、各貫通孔状の軸受け保持部の外に露呈する開口をカバー(27x,27y,28x,28y)で覆うものとした。
【0041】
本実施例においては、歯車箱20の一対の上方壁部(21x,21y)の両側外部には、それぞれ延長回転軸(12x,12y)が突出する貫通孔(22x,22y)の周りに、フリンジ構造(29x,29y)が一体的に設けられている。このフリンジ構造(29x,29y)が、第1のモータ30と第2のモータ40との各出力軸側ケーシング端部に設けられているフリンジ部(30F,40F)と連結されることにより、各出力軸(32,42)と円筒状ウォーム11両側との連結状態で減速機4と第1と第2のモータ(30,40)とが安定的に接続されてエレベータ巻上機1が組み立てられる。
【0042】
円筒状ウォーム11を中心に、第1のモータ30と対称位置に連結された第2のモータ40は発電機であり、第1のモータ30に対する回転力が第2の延長回転軸12yを介してその出力軸42を実質的には入力軸として伝達され、第1のモータ30に追従して回転駆動され、発電が行われる。第1のモータ30と第2のモータ40とは、同種のブレーキ付きモータであり、それぞれ、モータ本体と一体的に同一の防爆容器から成るケーシング内に、ブレーキ装置(35,45)が内蔵されている。そして第1のモータ30の第1のブレーキ装置35と第2のモータ40の第2のブレーキ装置45とで、第1のモータに対するダブルブレーキ機構が構成されている。
【0043】
本実施例における第1のモータ30と第2のモータ40とは、第1と第2のブレーキ装置(35,45)として、それぞれ出力軸(32,42)と反対側のモータ回転軸(33,43)の周りにコンパクトに構築されるディスクブレーキ型電磁式制動機構を搭載したものとした。特に、ブレーキディスクに対して制動時に押し付けられて解除時に離反する駆動を、ソレノイドの可動鉄芯で直接的に行う構成としてよりコンパクト化され、モータの大型化がより抑えられたものである。具体的に以下の構成を備えたディスクブレーキ型電磁式ブレーキ装置を備えた。ここで、第1のブレーキ装置35と第2のブレーキ装置45は、互いに同期してダブルブレーキ装置として機能する。
【0044】
即ち、第1のモータ30の停止中は、第1と第2のブレーキ装置(35,45)では、ソレノイドの無励磁状態にて制動ばね(37,47)の付勢力によって、この制動ばねに連結されたソレノイドの可動鉄芯(39,49)の端面側が、ブレーキシューやライニングL等の摩擦材を介して、モータ回転軸(33,43)とハブによって固定されて一体に回転するブレーキディスク(36,46)に押し付けられて制動力を加えている。一方、第1のモータ30が運転中は、固定鉄芯(38,48)周りの電磁コイル(34,44)への通電励磁によって発生する吸引力で、可動鉄芯(39,49)が制動ばね(37,47)に抗して固定鉄芯(38,48)側へ吸着されるため、ブレーキディスク(36,46)が制動状態から開放されている。したがって、第1のモータ30の運転中から外モータへの電力供給の遮断と共にソレノイドへの通電を停止させると、吸引力が消えて可動鉄芯(39,49)は制動ばね(37,47)の付勢力によって移動してブレーキディスク(36,46)に押し付けられ、制動圧力が加えられ、第1のモータ30の回転は完全に停止する。
【0045】
本実施例における第1のモータ30と第1と第2のブレーキ装置(35,45)に対する電力供給の制御とモータ回転数のインバータ制御は、制御装置200の電源回路210を介して行われる。一方、第1のモータ30の回転運転中は、第2のモータ40は追従回転され、発電が行われる。この発電力は、回生電力として回生回路220で回収され、蓄電でき、且つ任意に利用できる。
【0046】
例えば、昇降かご100の内部照明や制御盤等の電源として利用することによって、省エネが図れる。また、回生回路220は、停電時に電源回路210を切り換える構成とすることで、回生電力を非常用電源として利用することもできる。さらに自己回生回路にして第1のモータ30の動力源として利用しても良い。
【0047】
以上のように、本実施例によるエレベータ巻上機1は、全体の装置構成の大型化を抑えながら、簡便な構成でマシンルームレス用および防爆用としてダブルブレーキ化を実現できると共に、エレベータ運転における省エネに寄与することもできる。
【符号の説明】
【0048】
1:エレベータ巻上機
2:シーブ
4:減速機
6:シーブ軸
10:ウォームギア段
11:円筒状ウォーム
12x,12y:延長回転軸
13:ウォームホイール
14:中間軸
15:ヘリカルギア段
16:ヘリカルピニオン
17:ヘリカルギア
18:出力軸
20:歯車箱
21x,21y:一対の上方壁部
22x,22y:貫通孔
23:開口
24x,24y:中間軸の軸受け保持部
25x,25y:出力軸の軸受け保持部
26:スリーブ部材
27x,27y,28x,28y:カバー
29x,29y:フリンジ構造
Cx,Cy:ウォーム側結合継手
30:第1のモータ
40:第2のモータ(発電機)
30F,40F:フリンジ部
31,41:モータ側結合継手
32,42:出力軸(モータ)
33,43:モータ回転軸
34,44:電磁コイル
35:第1のブレーキ装置
45:第2のブレーキ装置
36,46:ブレーキディスク
L:ライニング
37,47:制動ばね
38,48:固定鉄芯
39,49:可動鉄芯
100:昇降かご
110:釣り合い錘
120:メインロープ
200:制御装置
210:電源回路
220:回生回路
図1
図2
図3
図4