(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180901
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】回路基板
(51)【国際特許分類】
H01P 3/08 20060101AFI20221130BHJP
H05K 1/02 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
H01P3/08 100
H05K1/02 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087660
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】森田 有
(72)【発明者】
【氏名】富田 雅昭
【テーマコード(参考)】
5E338
5J014
【Fターム(参考)】
5E338AA02
5E338BB75
5E338CC05
5E338CD13
5E338EE13
5J014CA02
5J014CA42
5J014CA53
(57)【要約】
【課題】高周波電流が流れる場合でも、不要放射が抑制される回路基板を構成する。
【解決手段】基板1の裏面に導体箔を備えたグランド部2が形成され、基板1の表面に対し、高周波電流をアンテナ部5に送るため導体箔を線状に備えた伝送線路3が形成され、伝送線路3が、当該伝送線路3を構成する導体箔の幅方向での中間の一部を取り除いた間隙3Gが形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の裏面に導体箔を備えたグランド部を有すると共に、前記基板の表面に高周波電流をアンテナ部に送るための前記導体箔を線状に備えた伝送線路を有し、
前記伝送線路が、当該伝送線路を構成する前記導体箔の幅方向での中間の一部を取り除いた間隙を有する回路基板。
【請求項2】
前記伝送線路が、湾曲または屈曲する非直線部を有しており、前記間隙が、前記非直線部の形状に沿って形成されている請求項1に記載の回路基板。
【請求項3】
前記間隙が、前記伝送線路が延びる方向に沿う姿勢の長孔状に形成されている請求項1又は2に記載の回路基板。
【請求項4】
前記間隙が、前記伝送線路が延びる方向で並ぶ複数の開口状に形成されている請求項1又は2に記載の回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、RFID(Radio Frequency Identification)のように、基板に備えたRFIDチップからの識別情報を電波によって送信する技術として、識別情報を含む高周波信号を基板上の伝送線路を介してアンテナに導く構成を有するものが存在する。基板に備えた伝送線路に高周波信号を送る技術として特許文献1、及び、特許文献2に記載されるものがある。
【0003】
特許文献1には、無線ICタグとして、基板にICチップを備え、基板に対してミアンダ形状の導体で成るアンテナを備えることで、アンテナの放射効率の劣化を抑制する構成が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、基板の表面に形成される高周波電流の経路として、スリットを有するコプレーナ線路を構成する導体パターンを形成することで、高周波信号を効率良く送る構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-81632号公報
【特許文献2】国際公開WO2011/108725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基板に形成された伝送線路に高周波信号を送る場合には、伝送線路同士が近接する場合や伝送線路の形状により、発生した磁界が伝送線路に電磁気学的な干渉を与え、空間に対し予期せぬ電磁波を放射させる、いわゆる不要放射を生ずることもある。
【0007】
特に、伝送線路が湾曲や屈曲する形状のように非直線状である場合には、不要放射が発生する傾向が大きく、アンテナでの放射効率の低下に繋がることもあり改善が臨まれている。
【0008】
ここで、特許文献1に記載されるものと同様に伝送線路をミアンダ形状に形成したものを考えると、伝送線路が近接する位置関係となるため、隣合う伝送線路で発生する磁界が干渉により強めあうこと考えられた。これに対し、特許文献2に記載されるものでは、不要放射の抑制を可能にするものであるが、構成が複雑であり伝送線路の全体の大型化を招くものであった。
【0009】
このような理由から、高周波電流が流れる場合でも、不要放射が抑制される回路基板が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る回路基板の特徴構成は、基板の裏面に導体箔を備えたグランド部を有すると共に、前記基板の表面に高周波電流をアンテナ部に送るための前記導体箔を線状に備えた伝送線路を有し、前記伝送線路が、当該伝送線路を構成する前記導体箔の幅方向での中間の一部を取り除いた間隙を有する点にある。
【0011】
この特徴構成によると、伝送線路が間隙を有するため、伝送線路の幅方向での中間の一部を切り欠いた部位に、一対の線路(分割線路と称する)が平行する位置関係で形成されることになる。一対の分割線路に電流が流れる際に発生する磁界を考えると、アンペールの法則から、夫々の分割線路において、この分割線路の形成方向を中心とする同心円で、これらの円の周方向で同じ方向に磁界が向かう磁場が発生する。
このように平行姿勢となる一対の分割線路に高周波電流が同じ方向に流れた場合には、一対の分割線路で夫々発生する円形の磁界の方向が、間隙においては互いに逆向きとなるため、夫々の磁界が打ち消し合い不要放射を抑制できる。
従って、伝送線路に間隙を形成することにより、高周波電流が流れる場合でも、不要放射が抑制される回路基板が構成された。
【0012】
上記構成に加えた構成として、前記伝送線路が、湾曲または屈曲する非直線部を有しており、前記間隙が、前記非直線部の形状に沿って形成されても良い。
【0013】
これによると、例えば、円弧状に湾曲する形状の伝送線路では高周波電流が流れる際には、伝送線路のうち湾曲する部位で不要放射を発生する傾向が強いものの、非直線部に形状に沿って間隙を形成することにより、この非直線領域で発生する不要放射を積極的に低減できる。
【0014】
上記構成に加えた構成として、前記間隙が、前記伝送線路が延びる方向に沿う姿勢の長孔状に形成されても良い。
【0015】
これによると、間隙が、伝送線路が延びる方向の沿う姿勢の長孔状に形成されることにより、幅方向で分割された一対の伝送線路を所定の長さで形成でき、夫々の伝送線路に高周波電流が流れた場合には、所定の長さとなる伝送線路で発生した磁界が打ち消し合い不要放射の発生を抑制できる。
【0016】
上記構成に加えた構成として、前記間隙が、前記伝送線路が延びる方向で並ぶ複数の開口状に形成されても良い。
【0017】
これによると、間隙が、伝送線路が延びる方向に並ぶ複数の開口状に形成されることにより、幅方向で分割された一対の伝送線路が連続的に形成でき、夫々の伝送線路に高周波電流が流れた場合には、一対の伝送線路で発生した磁界が打ち消し合い不要放射の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】伝送線路が形成された回路基板の構成を示す斜視図である
【
図3】分割線路に作り出される磁界を示す図である。
【
図4】別実施形態(a)の回路基板の平面図である。
【
図5】別実施形態(b)の伝送線路の平面図である。
【
図6】別実施形態(c)の伝送線路の平面図である。
【
図7】別実施形態(d)の伝送線路の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔回路基板〕
図1に示すように、板状の誘電体で成る基板1の裏面の全面に銅等の導電箔を備えてグランド部2を形成し、この基板1の表面にライン状に銅等の導電箔を備えて伝送線路3を形成して回路基板Aが構成されている。
【0020】
この回路基板Aは、伝送線路3がマイクロストリップラインとして形成されるものであり、この伝送線路3に対して給電部4から高周波電流が供給され、この伝送線路3からアンテナ部5に高周波電流が送られる。
【0021】
尚、この回路基板Aでは、グランド部2は、回路基板Aの裏面側に1つの導電箔を有する層として露出して形成されているが、必ずしも基板1の裏面に露出する構成で無くても良く、導電箔は銅以外の金属を用いることも可能である。
【0022】
この回路基板Aは、例えば、識別用のタグや、個人認証のためのIDカード等に用いられるRFID(Radio Frequency Identification)タグ用基板のように、RFIDチップからの識別情報を、所定の周波数の電波によって送信するものを想定している。
【0023】
〔伝送線路〕
図1、
図2に示すように、伝送線路3は、この伝送線路3を構成する導体箔の幅方向での中間の一部を取り除いた間隙3Gが長孔状に形成されている。
【0024】
つまり、伝送線路3は、基板1の表面に経路幅W1で直線状に形成され、幅方向での中間に間隙幅W2で長孔状の間隙3Gが形成されている。更に、間隙3Gを基準に幅方向での外方側に導通幅W3となる一対の分割線路3aが形成されている。この分割線路3aは、等しい値の導通幅W3であり、等しい断面積を有している。
【0025】
高周波電流が流れる伝送線路3では、不要放射を発生することがあり、この不要放射が発生した場合には、不要照射によるエネルギーの損失から、アンテナ部5での放射効率の低下に繋がるものであった。
【0026】
このような不都合を抑制するために、伝送線路3に間隙3Gを形成し、一対の分割線路3aの断面積を等しくしている。これにより、夫々の分割線路3aに高周波電流が流れた場合には、
図3に示すように一対の分割線路3aを断面で捉えると、アンペールの法則により、分割線路3aを中心とする同心円で形成される磁界C(同図では同じ半径となる磁界だけを示している)を作り出せるように構成している。
【0027】
同図には、磁界Cの方向を矢印で示しており、この磁界Cの夫々の方向が、伝送線路3の間隙3Gにおいて互いに逆向きとなり、磁界Cが互いに打ち消し合う結果、不要放射の抑制を実現している。特に、
図3に示すように、一対の分割線路3aに流れる電流が、伝送線路3に流れる電流の1/2になるため、夫々の分割線路3aで発生する磁界Cの強さを半減すると同時に、間隙3Gの部位で磁界Cが打ち消し合うことにより、不要放射の発生を適正に抑制している。
【0028】
〔実施形態の作用効果〕
このように、回路基板Aに形成される伝送線路3の幅方向での中間に間隙3Gを形成するだけで、伝送線路3に高周波電流が流れた場合には、一対の分割線路3aに流れる夫々の電流が作り出す磁界Cの打ち消し合いによって間隙3Gにおいて不要放射を抑制できる。
【0029】
また、一対の分割線路3aに流れる夫々の電流が、伝送線路3に流れる電流の1/2となるように構成することにより、分割線路3aで発生する磁界Cの強さを半減すると同時に、間隙3Gの部位で磁界Cの強さを抑制して不要放射の抑制を実現している。
【0030】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い(実施形態と同じ機能を有するものには、実施形態と共通の番号、符号を付している)。
【0031】
(a)
図4に示すように、基板1に形成された、磁性体を有するパーツや、磁性体のビス等の突起物6を避けるように円弧状にカーブする伝送線路3において、伝送線路3を構成する導体箔の幅方向での中間の一部を取り除いた構造となる間隙3Gが長孔状の間隙3Gを形成する。
【0032】
この間隙3Gは、伝送線路3の湾曲に沿う非直線状に形成されることにより、実施形態と同様に、経路幅W1で、幅方向での中央に間隙幅W2で間隙3Gが形成され、更に、一対の分割線路3aが導通幅W3で形成される。このように間隙3Gを形成することにより、実施形態において
図3を参照して説明したように夫々の分割線路3aを中心にして同心円となる磁界Cが作り出され、この夫々の磁界Cが間隙3Gにおいて打ち消し合うことにより不要放射を実現している。
【0033】
この別実施形態(a)では非直線状の伝送線路3として、例えば、屈曲する形状のものであって良く、ジグザグ状に形成されるものでも良い。
【0034】
(b)
図5に示すように、伝送線路3に対し、伝送線路3を構成する導体箔の幅方向での中間の一部を取り除いた構造で、伝送線路3が延びる方向で列状に並ぶように複数の開口状に形成する。
【0035】
このように複数の間隙3Gを形成した構成でも、間隙3Gによって一対の分割線路3aを形成し、これらの分割線路3aで作り出される夫々の磁界Cを間隙3Gにおいて打ち消し合い、不要放射の抑制を実現する。
【0036】
尚、この別実施形態(b)のように複数の開口状に間隙3Gを形成する場合に間隙3Gの形状は
図5に示す矩形に限らず、円形や、楕円形であっても良い。
【0037】
(c)
図6に示すように、間隙3Gを、端部側ほど幅が小さくなる先細りの長孔状に形成する。伝送線路3に流れる高周波電流を電子の流れとして捉えることも可能であり、この別実施形態(c)のように先細りの長孔状に間隙3Gを形成したものでは、間隙3Gの流れ方向での両端での電子の流れが円滑となり、不要放射を一層良好に実現する。
【0038】
(d)
図7に示すように、伝送線路3を構成する導体箔の幅方向での中間の複数箇所の一部を取り除いた構造となる間隙3Gを形成する。同図では、2つの長孔状の間隙3Gを形成しており、2つの間隙3Gを形成することにより3つの分割線路3aが形成、これらの分割線路3aの夫々で形成された磁界Cのうち隣合うものが間隙3Gにおいて打ち消し合い不要放射を一層良好に実現する。
【0039】
この別実施形態(d)は、3つ以上の長孔状の間隙3Gを伝送線路3に形成するものであっても良く、別実施形態(c)で説明したように先細りの長孔状となるように間隙3Gの形状を設定することも可能である。
【0040】
更に、この別実施形態(d)は、別実施形態(b)で説明したように複数の開口状の間隙3Gを伝送線路3に形成するものに適用することで、伝送線路3の長手方向に沿って並ぶ複数の開口状の間隙3Gを、幅方向に複数列形成することも考えられる。
【0041】
(e)RFID用以外の高周波を伝送する回路基板Aに適用する。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、高周波電流を送る伝送線路を有する回路基板に利用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 基板
2 グランド部
3 伝送線路
3G 間隙
5 アンテナ部
A 回路基板