(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180918
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】電極シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20221130BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20221130BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20221130BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/587
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087680
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大久保 壮吉
(72)【発明者】
【氏名】上薗 知之
(72)【発明者】
【氏名】宮島 桃香
(72)【発明者】
【氏名】嶋崎 汀
(72)【発明者】
【氏名】松山 美由紀
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA17
5H050CB08
5H050DA11
5H050EA23
5H050GA02
5H050GA03
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】改良された電極シートの製造方法を提供すること。
【解決手段】集電箔2上に電極層3を有する電極シート1の製造方法は、未圧縮電極シート11を、第1Aロール110Aと第1Bロール110Bとの間隙GP1に通し加熱して中途電極シート21を形成する第1ロールプレス工程S2と、中途電極シートを第2Aロール120Aと第2Bロール120Bとの間隙GP2に通し加熱して電極シートを形成する第2ロールプレス工程S3とを備える。工程S2は、第1Aロールの第1A外周面温度TR1A及び第1Bロールの第1B外周面温度TR1Bを所定の温度範囲内として行い、工程S3は、第2Aロールの第2A外周面温度TR2A及び第2Bロールの第2B外周面温度TR2Bを所定の温度範囲内として行う。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1表面2A及び上記第1表面2Aとは逆側の第2表面2Bを有する集電箔2と、
活物質粒子6、及び、
上記活物質粒子6同士を結着する共に、上記活物質粒子6と上記集電箔2の上記第2表面2Bとを結着するバインダ樹脂7を含み、
上記集電箔2の上記第2表面2B上に定着された電極層3と、を有する
電極シート1の製造方法であって、
上記集電箔2と、
上記集電箔2の上記第2表面2B上に形成され、
上記活物質粒子6の表面6Sに、上記活物質粒子6よりも小径でバインダ樹脂7からなるバインダ粒子17が複数結合した複合粒子15が堆積した
未圧縮電極層13と、を有し、
シート温度TSが常温の未圧縮電極シート11を、
第1Aロール110Aと第1Bロール110Bとの第1ロール間隙GP1に通して厚み方向DTに圧縮しつつ、上記第1ロール間隙GP1において上記未圧縮電極シート11を加熱して、上記集電箔2の上記第2表面2B上に中途電極層23が定着された中途電極シート21を形成する第1ロールプレス工程S2と、
上記中途電極シート21を、第2Aロール120Aと第2Bロール120Bとの第2ロール間隙GP2に通して厚み方向DTに圧縮しつつ、上記第2ロール間隙GP2において上記中途電極シート21を加熱して、上記電極シート1を形成する第2ロールプレス工程S3と、を備え、
上記第1ロールプレス工程S2は、
上記集電箔2の上記第1表面2Aに接触させる上記第1Aロール110Aの上記第1A外周面110AGの第1A外周面温度TR1Aを、上記バインダ樹脂7の溶融開始温度Ti+5℃~上記溶融開始温度Ti+25℃の温度範囲内(Ti+5℃≦TR1A≦Ti+25℃)とし、
上記未圧縮電極層13の電極層外面13Uに接触させる上記第1Bロール110Bの上記第1B外周面110BGの第1B外周面温度TR1Bを、上記第1A外周面温度TR1Aよりも低く、かつ、上記バインダ樹脂7の上記溶融開始温度Ti+5℃以下の温度範囲内(TR1B<TR1A,TR1B≦Ti+5℃)として行い、
上記第2ロールプレス工程S3は、
上記集電箔2の上記第1表面2Aに接触させる上記第2Aロール120Aの上記第2A外周面120AGの第2A外周面温度TR2Aを、上記バインダ樹脂7の溶融開始温度Ti+10℃~上記溶融開始温度Ti+25℃の温度範囲内(Ti+10℃≦TR2A≦Ti+25℃)とし、
上記中途電極層23の電極層外面23Uに接触させる上記第2Bロール120Bの上記第2B外周面120BGの第2B外周面温度TR2Bを、上記第2A外周面温度TR2Aよりも低くして行う
電極シート1の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電極シート1の製造方法であって、
前記第1ロールプレス工程S2は、
前記第1B外周面温度TR1Bを、前記第1A外周面温度TR1Aより10℃以上低く、かつ、前記バインダ樹脂7の前記溶融開始温度Ti+5℃以下の温度範囲内(TR1B≦TR1A-10℃,TR1B≦Ti+5℃)として行う
電極シート1の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電極シート1の製造方法であって、
前記第2ロールプレス工程S3は、
前記第2B外周面温度TR2Bを前記第2A外周面温度TR2Aよりも10℃以上低く(TR2A≦TR2B-10℃)して行う
電極シート1の製造方法。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の電極シート1の製造方法であって、
前記活物質粒子6は、黒鉛粒子であり、
前記バインダ樹脂7は、PVDFである
電極シート1の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、集電箔の一方或いは両方の表面上に電極合材層を設けた電極シートが知られている。このような電極シートの製造方法に関する従来技術として、例えば、特許文献1(特許文献1の特許請求の範囲等を参照)が挙げられる。
【0003】
この特許文献1には、まず、溶媒を含まず、活物質粉体とバインダ粉体とを混合して、活物質粒子の表面に複数のバインダ粒子を結合させた複合粒子からなる混合粉体を用意する。そして、これを静電気力によって飛翔させて集電箔の表面上に堆積させた未圧縮の電極層を有する未圧縮の電極シートを形成する。その後、ロールプレス工程において、対向して回転する一対のホットロール(第1ロールと第2ロール)の間隙に、この未圧縮の電極シートを通す(ロールプレスする)。これにより、電極層に含まれるバインダ樹脂を軟化または溶融させつつ、電極層と集電箔とを圧縮することで、活物質粒子とバインダ樹脂とを有する電極層が集電箔の表面に接着された電極シートを製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電極層の一部が剥離してバインダ樹脂及び活物質粒子がロール表面に付着したり、ロール表面には付着しないが電極層の一部が集電箔から剥離して浮き上がる場合があった。本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、改良された電極シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記課題を解決するための本発明の一態様は、第1表面及び上記第1表面とは逆側の第2表面を有する集電箔と、活物質粒子、及び、上記活物質粒子同士を結着する共に、上記活物質粒子と上記集電箔の上記第2表面とを結着するバインダ樹脂を含み、上記集電箔の上記第2表面上に定着された電極層と、を有する電極シートの製造方法であって、上記集電箔と、上記集電箔の上記第2表面上に形成され、上記活物質粒子の表面に、上記活物質粒子よりも小径でバインダ樹脂からなるバインダ粒子が複数結合した複合粒子が堆積した未圧縮電極層と、を有し、シート温度が常温の未圧縮電極シートを、第1Aロールと第1Bロールとの第1ロール間隙に通して厚み方向に圧縮しつつ、上記第1ロール間隙において上記未圧縮電極シートを加熱して、上記集電箔の上記第2表面上に中途電極層が定着された中途電極シートを形成する第1ロールプレス工程と、上記中途電極シートを、第2Aロールと第2Bロールとの第2ロール間隙に通して厚み方向に圧縮しつつ、上記第2ロール間隙において上記中途電極シートを加熱して、上記電極シートを形成する第2ロールプレス工程と、を備え、上記第1ロールプレス工程は、上記集電箔の上記第1表面に接触させる上記第1Aロールの上記第1A外周面の第1A外周面温度TR1Aを、上記バインダ樹脂の溶融開始温度Ti+5℃~上記溶融開始温度Ti+25℃の温度範囲内(Ti+5℃≦TR1A≦Ti+25℃)とし、上記未圧縮電極層の電極層外面に接触させる上記第1Bロールの上記第1B外周面の第1B外周面温度TR1Bを、上記第1A外周面温度TR1Aよりも低く、かつ、上記バインダ樹脂の上記溶融開始温度Ti+5℃以下の温度範囲内(TR1B<TR1A,TR1B≦Ti+5℃)として行い、上記第2ロールプレス工程は、上記集電箔の上記第1表面に接触させる上記第2Aロールの上記第2A外周面の第2A外周面温度TR2Aを、上記バインダ樹脂の溶融開始温度Ti+10℃~上記溶融開始温度Ti+25℃の温度範囲内(Ti+10℃≦TR2A≦Ti+25℃)とし、上記中途電極層の電極層外面に接触させる上記第2Bロールの上記第2B外周面の第2B外周面温度TR2Bを、上記第2A外周面温度TR2Aよりも低くして行う電極シートの製造方法である。
【0007】
本件のバインダ樹脂は、動的粘弾性測定で得られる損失正接tanδの温度特性のうち、バインダ樹脂の融点Tm以下の温度域の温度特性について見ると、温度の上昇と共に直線状にゆっくり上昇していた損失正接tanδが、温度が融点Tmに近づくと、温度の上昇と共に直線状に急激に上昇するように変化する特性を有する。この急激上昇変化の開始点の温度を、バインダ樹脂の「溶融開始温度」Tiとする。
即ち、バインダ樹脂について、ガラス転移点を越えたゴム状態の温度から融点Tmを超えて溶融した温度までの温度範囲(例えばTm-50℃~Tm+20℃の範囲)に亘り、温度と動的粘弾性との関係を測定し、損失弾性率G”、貯蔵弾性率G’及びこれらの比である損失正接tanδ(=G”/G’)の温度特性を得る。すると、ガラス転移点よりも融点Tmに近づいた温度領域では、バインダ樹脂の損失弾性率G”及び貯蔵弾性率G’はいずれも、温度の上昇と共に徐々に低下する。しかし、さらに温度が融点Tmに近づくと、損失弾性率G”及び貯蔵弾性率G’は温度の上昇と共に急激に低下するようになる。但し、温度が融点Tmに達しバインダ樹脂が溶融状態になると、一転して、損失弾性率G”及び貯蔵弾性率G’の急減は収まり、温度の上昇と共にゆっくり減少するように推移する。損失弾性率G”及び貯蔵弾性率G’がこのように推移するため、これらの比であるバインダ樹脂の損失正接tanδ(=G”/G’)は、ガラス転移点よりも融点Tmに近づいた温度領域では、温度の上昇と共に徐々にかつ概ね直線状に上昇する。温度の上昇と共に損失弾性率G”及び貯蔵弾性率G’が共に減少するが、温度が高いほどバインダ樹脂が軟化するために加えられた振動エネルギーが損失となる割合が増加するためであると推測される。しかし、さらに温度が融点Tmに近づくと、温度の上昇と共に損失正接tanδが急激に(ランプ関数状に)上昇する領域が現れる。バインダ樹脂の一部が溶融し始め、損失弾性率G”及び貯蔵弾性率G’が急減するが、貯蔵弾性率G’の減少割合が大きく、温度上昇と共に損失正接tanδ即ち損失が著しく増加するためと推測される。ところが、温度が融点Tmに達しバインダ樹脂が溶融状態になると、一転して、損失正接tanδは高い値であるが概ね一定の値に落ち着く。そこで、バインダ樹脂が溶融し始めて、温度の増加と共に、損失正接tanδが急増し始める温度を「溶融開始温度」Tiとする。
【0008】
なお、上述の損失正接tanδの温度特性を取りうる樹脂は、ガラス転移点及び融点を有する結晶性樹脂であり、PVDF(ポリ塩化ビニリデン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのフッ素系樹脂や、PE(ポリエチレン),PP(ポリプロピレン),PA(ポリアミド),POM(ポリアセタール、ポリオキシメチレン),PET(ポリエチレンテレフタレート),PBT(ポリブチレンテレフタレート),PPS(ポリフェニレンサルファイド),PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)などが挙げられる。
【0009】
上述の製造方法では、第1ロールプレス工程において、集電箔の第1表面に第1A外周面を接触させる第1Aロールの第1A外周面の第1A外周面温度TR1Aを、バインダ樹脂の溶融開始温度Ti+5℃以上(TR1A≧Ti+5℃)として、ロールプレスを行う。従って、第1Aロールの第1A外周面に接する集電箔の温度TCも、概ね、バインダ樹脂の溶融開始温度Ti+5℃以上の温度(TC≒TR1A≧Ti+5℃)となる。このため、未圧縮電極層のうち、集電箔の第2表面付近に存在する複合粒子のバインダ粒子が十分軟化したり溶融して、溶融したバインダ樹脂を介して活物質粒子を、集電箔の第2表面に確実に付着させることで、未圧縮電極層をプレスして形成した中途電極層を集電箔に確実に定着させ得る。
【0010】
加えて、第1Aロールの第1A外周面温度TR1Aを、溶融開始温度Ti+25℃以下の温度(TR1A≦Ti+25℃)とするので、第1Aロールの第1A外周面に接する集電箔の温度TCも、概ね、バインダ樹脂の溶融開始温度Ti+25℃以下の温度(TC≒TR1A≦Ti+25℃)になる。このため、未圧縮電極層のうち、集電箔の第2表面付近に存在する複合粒子のバインダ粒子が溶融したバインダ樹脂の粘度が低下して粘着力が低下し過ぎることが無く、集電箔の第2表面に一旦付着したバインダ樹脂及び活物質粒子が、即ち、圧縮中の中途電極層が、集電箔の第2表面から剥がれて第1Bロールの第1B外周面に付着することが防止できる。
【0011】
さらに上述の製造方法では、第1ロールプレス工程において、未圧縮電極層の電極層外面に接触させる第1Bロールの第1B外周面の第1B外周面温度TR1Bを、集電箔の第1表面に接触させる第1Aロールの第1A外周面の第1A外周面温度TR1Aよりも低くして、第1回目のロールプレスを行う。このため、未圧縮電極層のうち、電極層外面側の部位の温度が、集電箔側の部位よりも低くなり、バインダ樹脂が相対的に溶融し難くなるので、未圧縮電極層や中途電極層の一部が第1Bロールに付着して剥離することが生じにくい。
【0012】
また第1B外周面温度TR1Bを、バインダ樹脂の溶融開始温度Ti+5℃以下の温度範囲内(TR1B<TR1A,TR1B≦Ti+5℃)として、第1回目のロールプレスを行う。
従って、第1Bロールの第1B外周面に接する未圧縮電極層の電極層外面の温度TEも、バインダ樹脂の溶融開始温度Ti+5℃以下の温度(TE≒TR1B≦Ti+5℃)となる。しかも、予備加熱をしていない、シート温度が常温の未圧縮電極シートを、第1ロール間隙に通して厚さ方向に圧縮しつつ、第1ロール間隙において未圧縮電極シートを加熱するので、加熱される期間は短い。このため、第1Bロールの第1B外周面に接する未圧縮電極層の電極層外面の温度TEは、バインダ樹脂の溶融開始温度Tiに達しない(TE<Ti)か、達したとしてもその期間はごく短く、しかも高々TE≦Ti+5℃であるので、電極層外面においてバインダ樹脂が十分には溶融しない。このため、未圧縮電極層の電極層外面付近に存在する複合粒子のバインダ粒子が溶融して、溶融したバインダ樹脂やバインダ樹脂を介した活物質粒子が、第1Bロールの第1B外周面に付着することが抑制される。
【0013】
さらに上述の製造方法では、第2ロールプレス工程において、集電箔の第1表面に第2A外周面を接触させる第2Aロールの第2A外周面の第2A外周面温度TR2Aを、バインダ樹脂の溶融開始温度Ti+10℃以上(TR2A≧Ti+10℃)として、2回目のロールプレスを行う。従って、第2Aロールの第2A外周面に接する集電箔の温度TCも、概ね、バインダ樹脂の溶融開始温度Ti+10℃以上の温度(TC≒TR2A≧Ti+10℃)となる。このため、中途電極層のうち、集電箔の第2B表面付近に存在するバインダ樹脂を十分に溶融させ、活物質粒子を集電箔の第2表面にさらに確実に付着させて、電極層を集電箔に十分に定着させることができ、完成した電極シートにおいて、集電箔に対する電極層の良好な剥離強度を得ることができる。
【0014】
しかも、第2Aロールの第2A外周面温度TR2Aを、溶融開始温度Ti+25℃以下の温度(TR2A≦Ti+25℃)とするので、第2Aロールの第2A外周面に接する集電箔の温度TCも、概ね、バインダ樹脂の溶融開始温度Ti+25℃以下の温度(TC≒TR2A≦Ti+25℃)になる。このため、第2ロールプレス工程の際、中途電極層のうち、集電箔の第2表面付近に存在する溶融したバインダ樹脂の粘度が低下して粘着力が低下し過ぎることが無く、集電箔の第2表面に一旦付着したバインダ樹脂及び活物質粒子が、即ち、圧縮中の電極層の一部が、集電箔の第2表面から剥がれて第2Bロールの第2B外周面に付着するなどの不具合を防止することができる。
【0015】
一方、第2ロールプレス工程では、中途電極層の電極層外面に接触させる第2Bロールの第2B外周面の第2B外周面温度TR2Bを、集電箔の第1表面に接触させる第2Aロールの第2A外周面の第2A外周面温度TR2Aよりも低くして、第2回目のロールプレスを行う。従って、第2Bロールの第2B外周面に接する中途電極層の電極層外面の温度TEも、第2A外周面温度TR2A以下の温度(TE≒TR2B≦TR2A)となる。なお、第2A外周面温度TR2Aは、上述のように、バインダ樹脂の溶融開始温度Ti+10℃~溶融開始温度Ti+25℃の温度範囲内(Ti+10℃≦TR2A≦Ti+25℃)にしてある。
【0016】
この第2ロールプレス工程でロールプレスされる中途電極層は、第1ロールプレス工程でロールプレスされる未圧縮電極層とは異なり、既に第1ロールプレス工程で加熱及び圧縮され、バインダ樹脂で活物質粒子が結着している。このため、第2ロールプレス工程において、第2ロール間隙では、中途電極層を、この中途電極層と集電箔との間の接着力と、中途電極層と第2Bロールとの間の結着力で厚さ方向に引き合うことになる。そして、この2つの接着力及び結着力の大小が、(プレス後の)電極層が集電箔に付着したままとなるか、電極層の一部が集電箔から剥離して第2Bロールに付着するかに大きな影響を与えると考えられる。
【0017】
これに対し、上述のように、第2B外周面温度TR2Bを第2A外周面温度TR2Aよりも低く、つまり、中途電極層の電極層外面の温度TEを、集電箔の温度TC及び中途電極層のうち集電箔の第2B表面付近よりも低くすることで、中途電極層と集電箔との間の接着力に比して、中途電極層と第2Bロールとの間の結着力を低下させることができ、完成した電極シートにおいて、電極層を集電箔に確実に定着させておくことができる。
【0018】
なお、「常温」とは+5℃~+35℃の温度範囲内の温度をいう。
【0019】
また、第2Aロールの第2A外周面の第2A外周面温度TR2Aを、バインダ樹脂の溶融開始温度Ti+15℃以上(Ti+15℃≦TR2A)として、2回目のロールプレスを行うのがさらに好ましい。即ち、第2A外周面温度TR2Aを、上記バインダ樹脂の溶融開始温度Ti+15℃~上記溶融開始温度Ti+25℃の温度範囲内(Ti+15℃≦TR2A≦Ti+25℃)として、2回目のロールプレスを行うのがさらに好ましい。このようにすると、中途電極層のうち、集電箔の第2B表面付近に存在するバインダ樹脂を十分に溶融させて、活物質粒子を集電箔の第2表面にさらに確実に付着させることができ、電極シートにおいて集電箔に対する電極層のさらに良好な剥離強度を得ることができる。
【0020】
(2)に記載の電極シートの製造方法であって、前記第1ロールプレス工程は、前記第1B外周面温度TR1Bを、前記第1A外周面温度TR1Aより10℃以上低く、かつ、前記バインダ樹脂の前記溶融開始温度Ti+5℃以下の温度範囲内(TR1B≦TR1A-10℃,TR1B≦Ti+5℃)として行う電極シートの製造方法とすると良い。
【0021】
この製造方法の第1ロールプレス工程では、第1B外周面温度TR1Bを、第1A外周面温度TR1Aよりも10℃以上低く、しかも、バインダ樹脂の溶融開始温度Ti+5℃以下の温度範囲内として行う。このように、第1B外周面温度TR1Bを第1A外周面温度TR1Aに比して十分低くすることで、中途電極層をなすバインダ樹脂及び活物質粒子を、集電箔に確実に接着させる一方、第1Bロールの第1B外周面にバインダ樹脂や活物質粒子が付着するのを確実に抑制することができる。
【0022】
(3)(1)又は(2)に記載の電極シートの製造方法であって、前記第2ロールプレス工程は、前記第2B外周面温度TR2Bを、前記第2A外周面温度TR2Aよりも10℃以上低くして行う電極シートの製造方法とすると良い。
【0023】
この製造方法の第2ロールプレス工程では、第2B外周面温度TR2Bを、第2A外周面温度TR2Aよりも10℃以上低くして行う。このように、第2B外周面温度TR2Bを、第2A外周面温度TR2Aに比して十分低くする。これにより、完成した電極シートにおいて、電極層をなすバインダ樹脂及び活物質粒子を集電箔に確実に接着させて、集電箔に対する電極層の良好な剥離強度を得ることができる一方、第2Bロールの第2B外周面にバインダ樹脂や活物質粒子が付着するのを確実に抑制することができる。
【0024】
(4)(1)~(3)のいずれかに記載の電極シートの製造方法であって、前記活物質粒子は、黒鉛粒子であり、前記バインダ樹脂は、PVDFである電極シートの製造方法とすると良い。
【0025】
この製造方法では、電極層に用いる活物質粒子を黒鉛粒子とし、バインダ樹脂をPVDFとするので、適切に電極シートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図3】バインダ樹脂の動的粘弾性(貯蔵弾性率G’損失弾性率G”、損失正接tanδ)の温度特性、及び溶融開始温度Ti及び融点Tmを示すを示すグラフである。
【
図4】実施形態に係り、負極シートの製造工程を示すフローチャートである。
【
図5】実施形態に係り、負極シートの製造を示す説明図である。
【
図6】実施形態に係り、第1ロールプレス工程において、集電箔と未圧縮負極層とを圧縮して中途負極シートを形成する様子を示す説明図である。
【
図7】実施形態に係り、第2ロールプレス工程において、集電箔と中途負極層とを圧縮して負極シートを形成する様子を示す説明図である。
【
図8】第1ロールプレス工程における、第1A外周面温度TR1A及び第1B外周面温度TR1Bと、各調査例に係る中途負極シートの良否との関係を示すグラフである。
【
図9】第2ロールプレス工程における第2A外周面温度TR2A及び第2B外周面温度TR2Bを変更した各調査例と、負極シートにおける集電箔-負極層間の剥離強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(実施形態)
以下、本発明を具体化した実施形態を、
図1~
図7の図面を参照しつつ説明する。本実施形態は、リチウムイオン二次電池の負極シートの製造に、本発明を適用したものである。すなわち、本実施形態では、電極シートの製造方法として、負極シート1の製造方法を例示する。本実施形態では、帯状の集電箔2と、この集電箔2の一方の表面2B上に形成された帯状の負極層3(電極層)と、を備える帯状の負極シート1(電極シート)を製造する(
図1,
図2参照)。
【0028】
まず、本実施形態に係る負極シート1について説明する。上述したように、長手方向DLに長い帯状の負極シート1は、長手方向DLに長い帯状の集電箔2と、長手方向DLに長い帯状の負極層3とを備える。集電箔2は、一対の表面である第1表面2A及び第2表面2Bを有している。一方、負極層3は、集電箔2の第2表面2B上のうち、幅方向DWの中央に形成されている。このため、この負極シート1は、幅方向DWの中央に位置し、集電箔2と負極層3とが重なる重ね部1Sのほか、幅方向DWの両側(
図1の上側、下側)に位置し、集電箔2が露出する箔露出部2Eである集電部1Cとを有している。
【0029】
負極シート1のうち、集電箔2は厚さ8μmの銅箔からなる。また、負極層3は、黒鉛粒子である活物質粒子6と、活物質粒子6同士及び活物質粒子6と集電箔2とを結着するバインダ樹脂7とからなる。活物質粒子6である黒鉛粒子としては、例えば、球状黒鉛、鱗片状黒鉛が挙げられ,本実施形態では球状黒鉛を用いた。また、バインダ樹脂7としては、PTFE,PVDFなどのフッ素系樹脂が挙げられ、本実施形態ではバインダ樹脂7としてPVDFを用いた。本実施形態で用いたバインダ樹脂7(PVDF)は、溶融開始温度Tiが155℃(Ti=155℃)である(
図3参照)。
【0030】
なお、バインダ樹脂7(PVDF)の溶融開始温度Tiの値は、以下のようにして取得する。即ち、アイティー計測制御株式会社製の動的粘弾性測定装置DVA-220を用い、0.05gのバインダ樹脂7を10Hzで歪ませた条件で動的粘弾性(貯蔵弾性率G’、損失弾性率G”)及び損失正接tanδ(=G”/G’)を測定する。そして、温度Tの増加と共に、バインダ樹脂が融け始めることにより貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”が急減し、逆に、損失正接tanδが急増し始める温度Tを「溶融開始温度」Tiとする。具体的には、
図3に示すバインダ樹脂7の損失正接tanδの温度特性のうち、バインダ樹脂7の融点Tm(164℃)を含む温度域(例えば、100~164℃の温度域)において、温度Tの上昇と共に直線状にゆっくり上昇していた損失正接tanδが、温度Tが融点Tmに近づくと、温度Tの上昇と共に直線状に急激に上昇するように変化する。この急激上昇変化の開始点の温度Tを溶融開始温度Tiとする。
【0031】
さらに具体的には、
図3において「●」で示される損失正接tanδの測定点のうち、100~150℃の温度域の測定点から得た、温度Tの増加と共に、tanδが直線状かつ僅かに上昇することを示す回帰直線LAと、156~164℃の温度域の測定点から得た、温度Tの増加と共にtanδが直線状かつ急激に上昇することを示す回帰直線LBとの交点CRPを得る。そしてこの交点CRPに対応する温度Tを、溶融開始温度Tiとする。本実施形態のバインダ樹脂7では、溶融開始温度Tiは155℃(Ti=155℃)であることが理解出来る。
【0032】
なお、融点Tmは、温度Tの上昇と共に貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”が急減するのが収まり、温度の上昇と共にゆっくり減少するように推移に切り替わる温度であり、融点TmはTm=164℃である。
【0033】
次いで、本実施形態の負極シート1の製造方法について説明する(
図4~
図6参照)。まず、堆積工程S1において、長さ200m×幅100mm×厚さ8μmの寸法を有する帯状の集電箔2の第2表面2B上に複合粒子15を、幅55mm×厚さ180μmに堆積させた未圧縮負極層13を有する未圧縮負極シート11を形成する。
なお、この堆積工程S1に用いる複合粒子15は、活物質粒子6の粉体とバインダ粒子17の粉体とを、重量比で97.5:2.5の割合で混合して得たものである。さらに詳細には、ハイスピードミキサ(アーステクニカ製)を用いて、活物質粒子6とバインダ粒子17とを、上述の割合で混合して、活物質粒子6にこれよりも小径のバインダ粒子17が複数付着した複合粒子15を作製したものである。
【0034】
堆積工程S1では、
図4において破線で示す堆積装置DPにより、集電箔2の第2表面2B上に複合粒子15が堆積した未圧縮負極層13を形成する。この堆積装置DPで用いる堆積手法としては、例えば、静電気力により、複合粒子15を集電箔2に向けて飛翔させ、集電箔2上に複合粒子15を堆積させて未圧縮負極層13を形成する手法が挙げられる。
更に具体的には、上述の複合粒子15と磁性キャリア粒子(図示しない)とを混合して、複合粒子15を磁性キャリア粒子に静電吸着させた複合キャリア粒子(図示しない)を得る。得られた複合キャリア粒子をマグネットロール(図示しない)のロール表面に磁気吸着させて成膜領域(図示しない)に移動させ、集電箔2を巻き付けたバックアップロール(図示しない)とマグネットロールとの間に掛けた直流電圧により、磁性キャリア粒子に吸着された複合粒子15に静電気力Fsを掛けて、複合粒子15をマグネットロールから集電箔2に向けて飛翔させ、堆積させる手法が挙げられる。
【0035】
次いで、第1ロールプレス工程S2において、シート圧縮装置100のうち第1プレス部110を用いて、未圧縮負極シート11を厚さ方向DTに圧縮して、中途負極シート21を形成する(
図5,
図6参照)。
【0036】
その後、第2ロールプレス工程S3において、シート圧縮装置100のうち第2プレス部120を用いて、中途負極シート21を厚さ方向DTに圧縮して、負極シート1を完成する(
図5,
図7参照)。
【0037】
先ず、このシート圧縮装置100について説明する。シート圧縮装置100は、第1プレス部110と第2プレス部120と有している。このうち、第1プレス部110は、第1Aロール110A及び第1Bロール110Bを有している。第1Bロール110Bは、その軸線110BXが、第1Aロール110Aの軸線110AXと平行になるように配置されており、第1Aロール110Aと第1Bロール110Bとは、第1ロール間隙GP1を開けて対向している。また、第1Aロール110A及び第1Bロール110Bは、
図5,
図6に矢印で示すように、順方向(第1Aロール110Aは時計回りに、第1Bロール110Bは反時計回りに)に回転しており、第1ロール間隙GP1に挟まれた未圧縮負極シート11は、厚さ方向DTに圧縮され、搬送方向DHに送られて、中途負極シート21となる。
【0038】
また、第2プレス部120は、第2Aロール120A及び第2Bロール120Bを有している。第2Bロール120Bは、その軸線120BXが、第2Aロール120Aの軸線120AXと平行になるように配置されており、第2Aロール120Aと第2Bロール120Bとは、第2ロール間隙GP2を開けて対向している。また、第2Aロール120A及び第2Bロール120Bも、
図5,
図7に矢印で示すように、順方向に(第2Aロール120Aは時計回りに、第2Bロール120Bは反時計回りに)回転しており、第2ロール間隙GP2に挟まれた中途負極シート21は、厚さ方向DTに圧縮され、搬送方向DHに送られて、負極シート1となる。
本実施形態では、第1プレス部110及び第2プレス部120には、それぞれテスター産業株式会社製SA602小型卓上ロールプレスを用いており、各ロール110A,110B,120A,120BはいずれもΦ100×165mmである。
【0039】
本実施形態では、
図5,
図6において下方に位置する第1Aロール110Aは、第1A外周面110AGの温度である第1A外周面温度TR1Aが、TR1A=160℃にされている。一方、
図5,
図6において、第1Aロール110Aの上方に位置する第1Bロール110Bは、第1B外周面110BGの温度である第1B外周面温度TR1Bが、TR1B=150℃にされている。なお、本件では、このような第1A外周面温度TR1Aと第1B外周面温度TR1Bの組合せを、(160/150)と略記することがある。
【0040】
また、
図5,
図7において下方に位置する第2Aロール120Aは、第2A外周面120AGの温度である第2A外周面温度TR2Aが、TR2A=180℃にされている。一方、
図5,
図7において、第2Aロール120Aの上方に位置する第2Bロール120Bは、第2B外周面120BGの温度である第2B外周面温度TR2Bが、TR2B=170℃にされている。なお、本件では、このような第2A外周面温度TR2Aと第2B外周面温度TR2Bの組合せも、(180/170)と略記することがある。さらに、第1A外周面温度TR1Aと第1B外周面温度TR1B、及び、第2A外周面温度TR2Aと第2B外周面温度TR2Bの組合せを、(160/150)//(180/170)と略記することもある。
【0041】
各外周面温度TR1A,TR1B,TR2A,TR2Bは、いずれも、デジタル温度計(CUSTOM社製デジタル温度計CT-1310)に表面温度測定用センサプローブ(CUSTOM社製センサプローブIK-500)を装着し、このセンサプローブの先端を各ロールの外周面に接触させて測定した。
【0042】
なお、本実施形態では、第1ロール間隙GP1におけるロールプレスに先立って、例えば特許文献1に記載のように、一方のロールに対して30度を越える大きな抱き角を形成して接触させ、プレスに先立って予備的に未圧縮負極シート11を加熱していない。即ち、第1ロール間隙GP1を通す前の未圧縮負極シート11のシート温度TSは常温、つまり、5~35℃の範囲内の温度であり、予備加熱を行うことなく、シート温度TSが常温の未圧縮負極シート11を、第1Aロール110Aと第1Bロール110Bとの間の第1ロール間隙GP1に通している。但し、ロールプレス加工上、第1Aロール110A或いは第1Bロール110Bに対して10度以下の抱き角を形成して、未圧縮負極シート11を第1ロール間隙GP1に通すことはあり得る。
【0043】
更に具体的には、
図5,
図6に示すように、第1ロールプレス工程S2では、集電箔2が図中下側になり、未圧縮負極層13が上側になるようにして、未圧縮負極シート11を第1ロール間隙GP1に向けて投入し、第1Aロール110Aの第1A外周面110AGを集電箔2の第1表面2Aに接触させ、第1Bロール110Bの第1B外周面110BGを未圧縮負極層13の負極層外面13Uに接触させる。
【0044】
そして、線圧が600kN/mとなる第1ロール間隙GP1の大きさとして、第1Aロール110A及び第1Bロール110Bを周速1m/minで回転させてロールプレスを行い、未圧縮負極シート11を1m/minで搬送する。かくして、第1ロール間隙GP1において、未圧縮負極シート11を厚さ方向DTに圧縮すると共に、第1Aロール110A及び第1Bロール110Bによって未圧縮負極シート11を加熱して、バインダ樹脂7によって、活物質粒子6同士を結着させて中途負極層23を形成すると共に、活物質粒子6を集電箔2の第2表面2Bに結着させる。即ち、中途負極層23を集電箔2の第2表面2Bに接着する。これにより、帯状の中途負極層23を有する帯状の中途負極シート21が連続的に形成される。
【0045】
また、第2Aロール120Aと第2Bロール120Bとの間の第2ロール間隙GP2におけるロールプレスに先立っても、一方のロールに対して30度を越える大きな抱き角を形成して接触させ、プレスに先立って予備的に中途負極シート21を加熱してはいない。但し、ロールプレス加工上、第2Aロール120A或いは第2Bロール120Bに対して10度以下の抱き角を形成して、中途負極シート21を第2ロール間隙GP2に通すことはあり得る。
【0046】
また、中途負極シート21は、既に、前述の第1ロール間隙GP1における第1Aロール110A及び第1Bロール110Bからの加熱によって昇温している。しかし、本実施形態では、第1プレス部110と第2プレス部120との間で、中途負極シート21が冷却され、第2プレス部120の第2ロール間隙GP2に投入されるまでに、中途負極シート21のシート温度TSが、バインダ樹脂7の溶融開始温度Ti(=155℃)を下回っている。具体的には、第1ロール間隙GP1を通って昇温された中途負極シート21は、搬送中に冷却され、シート温度TSが100℃以下(例えば常温)となった以降に、第2ロール間隙GP2に通される。このため、第2ロール間隙GP2に投入される時点では、中途負極シート21の中途負極層23をなすバインダ樹脂7は凝固(固化)した状態となっている。
【0047】
図5,
図7に示すように、第2ロールプレス工程S3では、集電箔2が図中下側になり、中途負極層23が上側になるようにして、中途負極シート21を第2ロール間隙GP2に向けて投入し、第2Aロール120Aの第2A外周面120AGを集電箔2の第1表面2Aに接触させ、第2Bロール120Bの第2B外周面120BGを中途負極層23の負極層外面23Uに接触させる。
【0048】
そして、線圧が600kN/mとなる第2ロール間隙GP2の大きさとして、第2Aロール120A及び第2Bロール120Bを、第1Aロール110A及び第1Bロール110Bと同じ周速1m/minで回転させてロールプレスを行い、中途負極シート21を1m/minで搬送する。かくして、第2ロール間隙GP2において、中途負極シート21を厚さ方向DTに圧縮すると共に、第2Aロール120A及び第2Bロール120Bによって中途負極シート21を加熱して、バインダ樹脂7によって活物質粒子6同士を更に強く結着させて負極層3を形成すると共に、活物質粒子6を集電箔2の第2表面2Bに更に強固に結着させる。即ち、負極層3を集電箔2の第2表面2Bに接着する。そして、これにより、帯状の負極層3を有する帯状の負極シート1が連続的に形成される。
【0049】
その後は、巻き取り工程S4において、完成した帯状の負極シート1を図示しないリールに巻き取る。
【0050】
本実施形態では、また、第2ロールプレス工程S3を行った後の負極シート1について見ると、負極層3の一部が剥離して欠損状態となる一方、バインダ樹脂7及び活物質粒子6が第2Bロール120Bの第2B外周面120BGに付着する不具合も、第2B外周面120BGには付着しないが負極層3の一部が集電箔2から剥離して浮き上がる不具合も生じず、負極層3が集電箔2に密着した良好な帯状の負極シート1が得られた。
【0051】
さらに、第1プレス部110と第2プレス部120との間で得られる(第1ロールプレス工程S2のみ行った)中途負極シート21について見ても、中途負極層23の一部が剥離して欠損状態となる一方、バインダ樹脂7及び活物質粒子6が第1Bロール110Bの第1B外周面110BGに付着する不具合も、第1B外周面110BGには付着しないが、中途負極層23の一部が集電箔2から剥離して浮き上がる不具合も生じず、中途負極層23が集電箔2に密着した良好な帯状の中途負極シート21が得られた。
【0052】
なお、本実施形態において、良好な負極シート1を得るには、第1ロールプレス工程S2において、上述のような良好な中途負極シート21を得ておくことが必要である。中途負極層23の一部が欠損状態となっている場合は勿論好ましくない。加えて、中途負極層23の一部が集電箔2から剥離して浮き上がる不具合を生じている場合も、第2ロール間隙GP2に投入した際に、負極層3の一部が剥がれたり、負極層3に皺が生じるなどの不具合に繋がり、好ましくないからである。
【0053】
そこで先ず、第1ロールプレス工程S2における条件について検討する。
本実施形態では第1ロールプレス工程S2において、前述のように、第1Aロール110Aの第1A外周面温度TR1AをTR1A=160℃とした。即ち、第1A外周面温度TR1Aは、バインダ樹脂7(PVDF)の溶融開始温度Ti(=155℃)よりも5℃高い温度にした(TR1A=Ti+5℃)。一方、第1Bロール110Bの第1B外周面温度TR1BをTR1B=150℃とした。即ち、第1B外周面温度TR1Bを、第1A外周面温度TR1Aよりも低く(TR1B<TR1A)、かつ、バインダ樹脂7の溶融開始温度Ti(=155℃)よりも5℃低い温度にしてある(TR1B=Ti-5℃)。
【0054】
このように本実施形態では、集電箔2の第1表面2Aに接触させる第1Aロール110Aの第1A外周面110AGの第1A外周面温度TR1Aを、バインダ樹脂の溶融開始温度Tiよりも5℃以上(TR1A≧Ti+5℃)の温度、具体的には丁度5℃高い温度としてロールプレスを行った。このため、第1Aロール110Aの第1A外周面110AGに接する集電箔2の温度TCも、第1A外周面温度TR1Aと同程度の温度、即ち、概ねバインダ樹脂7の溶融開始温度Ti+5℃以上(TC≒TR1A>Ti+5℃)の温度、即ち、バインダ粒子17(バインダ樹脂7)が十分軟化したり融ける温度となる。このため、未圧縮負極層13のうち、集電箔2の第2表面2B付近に存在する複合粒子15のバインダ粒子17が十分軟化したり溶融して、バインダ樹脂7を介して活物質粒子6を、集電箔2の第2表面2Bに確実に付着させることができる。
【0055】
即ち、第1A外周面温度TR1Aが低すぎて、バインダ粒子17が溶融しないが、加圧によりバインダ粒子17(バインダ樹脂7)を介して活物質粒子6同士を結着させることはでき、層状(膜状)の中途負極層23を形成することはできるが、中途負極層23と集電箔2との接着力が余り高くないために、中途負極層23の一部が集電箔2から剥離して浮き上がる不具合を防止できた。その一方、第1A外周面温度TR1Aが高過ぎではない(溶融開始温度Ti+25℃を越えていない)ので、溶融したバインダ樹脂7の粘度が低くなりすぎて粘着力が低下し、中途負極層23の一部が集電箔2から剥離して第1Bロール110Bの第1B外周面110BGに付着する不具合も防止できたと考えられる。
【0056】
さらに本実施形態では、第1ロールプレス工程S2において、第1B外周面温度TR1Bを第1A外周面温度TR1Aよりも低く(TR1B<TR1A)して、第1回目のロールプレスを行った。このため、未圧縮負極層13のうち、負極層外面13U側の部位では、集電箔2側の部位よりも温度が低くなり、バインダ樹脂7が相対的に溶融し難くなるので、未圧縮負極層13や中途負極層23が第1Bロール110Bに付着して剥離することが生じにくくなっている。
【0057】
またこの本実施形態では、第1B外周面110BGの第1B外周面温度TR1Bを、バインダ樹脂の溶融開始温度Ti+5℃以下の温度範囲内(TR1B≦Ti+5℃)、具体的には、バインダ樹脂7の溶融開始温度Tiよりも丁度5℃低い温度、即ち、バインダ粒子17(バインダ樹脂7)が溶融しない温度とした。すると、第1ロール間隙GP1において、第1Bロール110Bの第1B外周面110BGに接する未圧縮負極層13の負極層外面13U(中途負極層23の負極層外面23U)の温度TEも、第1B外周面温度TR1Bと同程度の温度、即ち、概ねバインダ樹脂7の溶融開始温度Tiよりも低い温度(TE≒TR1B<Ti)となる。
このため、第1プレス部110による圧力によって、バインダ粒子17(バインダ樹脂7)を介して活物質粒子6同士を結着させることはでき、中途負極層23を形成することができる。しかし、バインダ粒子17による付着力は比較的弱く、第1Bロール110Bの第1B外周面110BGに、バインダ粒子17(バインダ樹脂7)やこれを介して活物質粒子6が付着することは抑制される。
【0058】
(調査例)
そこで適切に中途負極シート21を形成する条件を検討するべく、以下の調査を行った。即ち、本実施形態の第1ロールプレス工程S2と同様にして中途負極シート21を形成するが、第1ロールプレス工程S2における第1A外周面温度TR1A及び第1B外周面温度TR1Bの温度を変えた各調査例の中途負極シート21について、良否を確認した結果を
図8に示す。
図8において、前述の実施形態の中途負極シート21は、TR1A=160℃、TR1B=150℃の調査例に相当する。
【0059】
この
図8において、○印で示す例は、中途負極層23の集電箔2からの剥離も第1Bロール110Bの第1B外周面110BGへの活物質粒子6等の付着もなく、中途負極層23の集電箔2からの剥離による浮き上がりも生じていなかった場合を示す。この○印で示す例は、形成された中途負極層23が集電箔2に適切に接着している一方、第1Bロール110Bには付着し難い場合に生じると考えられる。
【0060】
一方、△印で示す例は、中途負極層23が集電箔2から剥離して浮き上がりを生じた場合を示す。この△印の例は、第1A外周面温度TR1Aが低すぎて、バインダ粒子17が溶融せず、第1ロールプレス工程S2における加圧によりバインダ粒子17(バインダ樹脂7)を介して活物質粒子6同士を結着させることはでき、中途負極層23を形成することはできたが、中途負極層23と集電箔2との接着力が余り高くない。一方、第1B外周面温度TR1Bも溶融開始温度Ti(Ti=155℃)を下回っているため、第1Bロール110B側でもバインダ粒子17は溶融せず、中途負極層23が第1Bロール110Bに付着する力が低い。このため、中途負極層23の一部が剥離して第1Bロール110Bに付着することはないが、集電箔2から剥離して浮き上がる不具合となったと考えられる。
【0061】
他方、×印で示す例は、中途負極層23の一部が集電箔2から剥離して欠損を生じる一方、第1Bロール110Bの第1B外周面110BGへの活物質粒子6等の付着が生じた場合を示す。この×印の例は、形成された中途負極層23が、集電箔2よりも第1Bロール110Bに付着しやすい場合に生じると考えられる。
【0062】
この
図8の結果から、先ず、第1B外周面温度TR1Bについて言うと、この第1B外周面温度TR1Bを、第1A外周面温度TR1Aよりも低く、かつ、バインダ樹脂7の溶融開始温度Ti+5℃以下の温度範囲内(TR1B<TR1AかつTR1B≦Ti+5℃、本実施形態では、TR1B<TR1AかつTR1B≦160℃)として、ロールプレスを行うと良いことが判る。
【0063】
このようにすると、第1ロール間隙GP1において、第1Bロール110Bの第1B外周面110BGに接する未圧縮負極層13の負極層外面13U(負極層3の負極層外面3U)の温度TEも、バインダ樹脂7の溶融開始温度Ti+5℃以下の温度(TE≒TR1B≦Ti+5℃)となる。しかも、予備加熱をせず、シート温度TSが常温の未圧縮負極シート11を、第1ロール間隙GP1に通して厚さ方向DTに圧縮しつつ、第1ロール間隙GP1において未圧縮負極シート11を加熱するので、加熱される期間は短い。このため、第1Bロール110Bの第1B外周面110BGに接する未圧縮負極層13の負極層外面13Uの温度TEは、バインダ樹脂7の溶融開始温度Tiに達しない(TE<Ti)か、達したとしてもその期間はごく短く、しかも高々TE≦Ti+5℃であるので、負極層外面においてバインダ樹脂7が十分には溶融しない。このため、未圧縮負極層13の負極層外面13U付近に存在する複合粒子15のバインダ粒子17が溶融して、溶融したバインダ樹脂7やバインダ樹脂を介した活物質粒子6が、第1Bロール110Bの第1B外周面110BGに付着することが抑制される。
【0064】
加えてこの
図8の結果から、第1A外周面温度TR1Aについて言うと、この第1A外周面温度TR1Aを、バインダ樹脂7の溶融開始温度Ti+5℃~溶融開始温度Ti+25℃の温度範囲内(Ti+5℃≦TR1A≦Ti+25℃、本実施形態等では、160℃≦TR1A≦180℃)として、ロールプレスを行うと良いことが判る。
【0065】
第1ロールプレス工程において、第1A外周面温度TR1Aをバインダ樹脂7の溶融開始温度Ti+5℃以上(Ti+5℃≦TR1A,本実施形態等では160℃≦TR1A)として、ロールプレスを行うと、第1Aロール110Aの第1A外周面110AGに接する集電箔2の温度TCも、概ね、バインダ樹脂7の溶融開始温度Ti+5℃以上の温度(Ti+5℃≦TC≒TR1A、本実施形態等では160℃以上の温度)となる。このため、未圧縮負極層13のうち、集電箔2の第2表面2B付近に存在する複合粒子15のバインダ粒子17が溶融して、溶融したバインダ樹脂7を介して活物質粒子6を、集電箔2の第2表面2Bに確実に付着させることができる。
【0066】
加えて、第1A外周面温度TR1Aを、溶融開始温度Ti+25℃以下の温度(TR1A≦Ti+25℃,本実施形態等ではTR1A≦180℃)とするので、第1Aロール110Aの第1A外周面110AGに接する集電箔2の温度TCも、概ね、バインダ樹脂7の溶融開始温度Ti+25℃以下の温度(TC≒TR1A≦Ti+25℃,本実施形態等ではTC≒TR1A≦180℃)にできる。このため、未圧縮負極層13のうち、集電箔2の第2表面2B付近に存在する複合粒子15のバインダ粒子17が溶融したバインダ樹脂7の粘度が低下して粘着力が低下し過ぎることが無く、集電箔2の第2表面2Bに一旦付着したバインダ樹脂7及び活物質粒子6が、即ち、圧縮直後の中途負極層23が、集電箔2の第2表面2Bから剥がれて第1Bロール110Bの第1B外周面110BGに付着することが防止できる。
【0067】
なおさらに、第1ロールプレス工程S2は、第1B外周面温度TR1Bを、第1A外周面温度TR1Aより10℃以上低く、かつ、バインダ樹脂7の溶融開始温度Ti+5℃以下の温度範囲内(TR1B≦TR1A-10℃かつTR1B≦Ti+5℃、本実施形態等では、TR1B≦TR1A-10℃かつTR1B≦160℃)として行うと良い。
【0068】
このように、第1B外周面温度TR1Bを第1A外周面温度TR1Aに比して十分低くすることで、バインダ樹脂7及び活物質粒子6が、第1Bロール110Bの第1B外周面110BGに付着するのを確実に抑制することができる。
【0069】
以上では、未圧縮負極シート11から中途負極シート21の形成、即ち、第1ロールプレス工程S2における、第1Aロール110A及び第1Bロール110Bの温度と、中途負極シート21の良否との関係について検討した。
次いで、中途負極シート21から負極シート1の形成、即ち、第2ロールプレス工程S3における、第2Aロール120A及び第2Bロール120Bの温度と、負極シート1の良否との関係について検討する。
【0070】
第1A外周面温度TR1Aを160℃、第1B外周面温度TR1Bを150℃として共通した第1ロールプレス工程S2を行った上で、第2A外周面温度TR2Aと第2B外周面温度TR2Bを異ならせて第2ロールプレス工程S3を行った4種の例(比較例1,2及び実施例1,2)の負極シート1について、集電箔2と負極層3との間の剥離強度PSを測定した。各例(4例)は、第2ロールプレス工程S3における第2A外周面温度TR2Aと第2B外周面温度TR2Bを、(150/140),(160/150),(170/160),(180/170)の組合せとした。即ち、第1A外周面温度TR1Aと第1B外周面温度TR1B、及び、第2A外周面温度TR2Aと第2B外周面温度TR2Bを、比較例1では(160/150)//(150/140)とし、比較例2では(160/150)//(160/150)とし、実施例1では(160/150)//(170/160)とし、実施例2では(160/150)//(180/170)とした。
【0071】
なお別途、基準例として、上述の第2ロールプレス工程S3を行わず、第1ロールプレス工程S2のみを行って中途負極シート21を形成した例(160/150)についても、剥離強度PSを得た。
【0072】
負極シート1における集電箔2と負極層3との剥離強度PSは、90℃剥離強度試験(JIS K6854-1:1999、ISO 8510-1:1990)に準拠した試験方法で得た。具体的には、負極シート1のうち負極層3に剥離用シールを貼り、株式会社ダンベル製のSD型レバー式試料裁断機SDL-100を用い剥離用シールを貼り付けた負極シート1を10mm×150mmの寸法に打ち抜いて、測定サンプルを作製する。90度剥離強度試験機(テスター産業社製TE-3001)を用い、測定サンプルをセットして、距離と剥離強度との関係を測定し、最大値となった時点での剥離強度を当該サンプルの「剥離強度(90°剥離強度)」とした。
【0073】
図9に、第2ロールプレス工程S3における第2A外周面温度TR2A及び第2B外周面温度TR2Bを変更した各例(比較例、実施例、基準例)と、負極シート1における集電箔2と負極層3との間の剥離強度PSとの関係を示す。
【0074】
この
図9によれば、第1ロールプレス工程S2のみを行った基準例の中途負極シート21の剥離強度PSは、0.60N/mであった。一方、第1ロールプレス工程S2に加えて第2ロールプレス工程S3を行った負極シート1の剥離強度PSは、(160/150)//(150/140)の比較例1ではPS=0.35N/mであり、(160/150)//(160/150)の比較例2ではPS=0.52N/mであり、(160/150)//(170/160)の実施例1ではPS=0.97N/mであり、(160/150)//(180/170)の実施例2ではPS=1.12N/mであった。また、(160/150)の基準例ではPS=0.60N/mであった。
【0075】
なお、第2ロールプレス工程S3を行った各例(比較例1,2及び実施例1,2)では、いずれも、負極層3の集電箔2からの剥離も第2Bロール120Bの第2B外周面120BGへの活物質粒子6等の付着もなく、負極層3の集電箔2からの剥離による浮き上がりも生じていなかった。
また、
図8において、第1ロールプレス工程S2の温度条件を(160/150)とした場合には○印となっていることから理解できるように、各例(基準例、比較例1,2、実施例1,2)に共通の第1ロールプレス工程S2を行った後の中途負極層23は、いずれも、中途負極層23の集電箔2からの剥離も第1Bロール110Bの第1B外周面110BGへの活物質粒子6等の付着もなく、中途負極層23の集電箔2からの剥離による浮き上がりも生じていなかった。
【0076】
さらに、第1ロールプレス工程S2に加えて第2ロールプレス工程S3を行った負極シート1の4例(比較例1,2及び実施例1,2)同士を比較すると、第2ロールプレス工程S3における第2A外周面温度TR2A及び第2B外周面温度TR2Bが高いほど、集電箔2に対する負極層3の剥離強度が高くなることが判る。
【0077】
第2ロールプレス工程S3において、第2Aロール120Aの熱は集電箔2に伝わる。このため、第2A外周面温度TR2Aの温度が高いほど、集電箔2に接着している中途負極層23のうち、集電箔2の第2表面2B付近の温度も高くなる。このため、この部位に存在するバインダ樹脂7が軟化したり溶融して、活物質粒子6を集電箔2の第2表面2Bにさらに確実に付着させることができ、完成した負極シート1において、集電箔2に対する負極層3のさらに良好な剥離強度PSが得られたと考えられる。
【0078】
但し、比較例1,2の負極シート1は、第2ロールプレス工程S3を行っているにも拘わらず、第2ロールプレス工程S3を行っていない基準例の中途負極シート21よりも、剥離強度PSが低い結果となった。一方、実施例1,2の負極シート1は、基準例の中途負極シート21よりも高い剥離強度PSが得られた。
【0079】
このような結果となった理由は、以下であると推測される。即ち、第2ロールプレス工程S3において、中途負極シート21は、第2プレス部120から単に厚さ方向DTに線状の押圧力(線圧)を受けるだけではない。中途負極シート21のうち、線圧が掛かっている第2ロール間隙GP2に位置する部分では、集電箔2と中途負極層23とのポアソン比の違いから、集電箔2と中途負極層23との間にせん断力が掛かる。また、中途負極層23のうち、第2ロール間隙GP2に位置し、圧力が掛けられて局所的に密度が高くなった部位は、長手方向DLの上流側DLU或いは下流側DLLに逃げるように移動しようとするので、集電箔2と中途負極層23との間にせん断力が掛かる。これらのため、第2ロールプレス工程S3の初期段階で、集電箔2と中途負極層23との間の接着が破壊され、これらの間の接着力が一旦大きく低下する。
【0080】
しかし、第2Aロール120Aの第2A外周面温度TR2Aをバインダ樹脂7の溶融開始温度Tiよりも十分高くした(実施例1ではTi+15℃、実施例2ではTi+25℃とした)場合には、中途負極層23のうち、集電箔2の第2表面2B付近の温度も十分高くでき、この部位のバインダ樹脂7を十分に溶融させることができる。すると、第2ロール間隙GP2におけるロールプレス後に、集電箔2と(中途負極層23が圧縮された)負極層3とを溶融したバインダ樹脂7を介して再度結合させることができ、集電箔2と負極層3との間に十分な接着力(剥離強度PS)を得ることができる。特に、実施例1,2のように第2A外周面温度TR2Aを十分高くし、中途負極層23のうち、集電箔2の第2表面2B付近のバインダ樹脂7を十分に溶融させて、その後に固化させれば、集電箔2と負極層3とをしっかり接着させることができ、基準例よりも剥離強度PSを向上させることができたと考えられる。
【0081】
一方、第2Aロール120Aの第2A外周面温度TR2Aをバインダ樹脂7の溶融開始温度Tiよりも低くした(比較例1ではTi-5℃とした)場合、或いは溶融開始温度Tiよりも十分には高くしない(実施例2ではTi+5℃とした)場合には、前述のせん断力による集電箔2と中途負極層23との間の接着力の低下を十分に回復できないため、第2ロールプレス工程S3を行っていない基準例の中途負極シート21よりも、剥離強度PSが低下したと考えられる。
【0082】
従って、負極シート1の剥離強度PSの観点からは、第2ロールプレス工程S3において、第2Aロール120Aの第2A外周面温度TR2Aを、バインダ樹脂7の溶融開始温度Ti+10℃以上(TR2A≧Ti+10℃、即ち、TR2A≧165℃)とすると良いことが判る。更には、第2A外周面温度TR2Aの温度が高いほど、良好な剥離強度PSが得られることを考慮すると、第2A外周面温度TR2Aを、バインダ樹脂7の溶融開始温度Ti+15℃以上(TR2A≧Ti+15℃、即ち、TR2A≧170℃)とすると良いことが判る。
【0083】
但し、第1ロールプレス工程S2で中途負極シート21を形成する場合において、第1Aロール110Aの第1A外周面温度TR1Aを高くしすぎた場合(TR1A≧190℃とした場合)には、×印の不具合を生じた(
図8参照)のと同じく、第2Aロール120Aの第2A外周面温度TR2Aを極端に高くすると、第2ロールプレス工程S3において溶融したバインダ樹脂7の粘度が下がりすぎて、集電箔2と中途負極層23(負極層3)との粘着力が低下する。すると、負極層3が集電箔2から剥離して第2Bロール120Bの第2B外周面120BGに付着しやすくなる。そこで、第1ロールプレス工程S2と同じく、第2ロールプレス工程S3でも、第2A外周面温度TR2Aは180℃以下(TR2A≦Ti+25℃)とする良いことが判っている。
【0084】
つまり、第2Aロール120Aの第2A外周面120AGの第2A外周面温度TR2Aを、バインダ樹脂7の溶融開始温度Ti+10℃~溶融開始温度Ti+25℃の温度範囲内(Ti+10℃≦TR2A≦Ti+25℃)とすること、具体的には、TR2A=165℃~180℃とすると良いことが判る。
【0085】
但し、前述のように、第2ロールプレス工程S3における加圧によって、集電箔2と中途負極層23との間にせん断力が掛かるため、この第2ロールプレス工程S3の初期段階で、集電箔2と中途負極層23との間の接着力が一旦大きく低下すると推測される。従って、第1ロールプレス工程S2により、まずは、中途負極層23に剥離や浮きが生じておらず、集電箔2に中途負極層23が定着している中途負極シート21が作製されることが必要である一方、第1ロールプレス工程S2における、第1A外周面温度TR1A及び第1B外周面温度TR1Bの値や違いが、負極シート1の剥離強度PSに及ぼす影響は、少ないと考えられる。
【0086】
次いで、第2Aロール120Aの第2A外周面温度TR2Aと第2Bロール120Bの第2B外周面温度TR2Bとの関係について考察する。前述の4例(比較例及び実施例、
図9参照)は、いずれも、第2ロールプレス工程S3において、第2A外周面温度TR2Aに対し、第2B外周面温度TR2Bを10℃だけ低い温度とした(TR2B=TR2A-10℃)。しかし、TR2B=TR2A-10℃とする場合に限定されない。
【0087】
即ち、第2ロールプレス工程S3においても、第2B外周面温度TR2Bを、第2A外周面温度TR2Aよりも低く(TR2B<TR2A)するとよい。第2ロールプレス工程S3では、第2ロール間隙GP2から排出される際に、中途負極層23を圧縮し形成した負極層3を、負極層3と集電箔2との間に生じる接着力と、負極層3と第2Bロール120Bのとの間に生じる結着力とで引き合う。そして、負極層3と集電箔2との間の接着力が、負極層3と第2Bロール120Bのとの間の結着力よりも大きい場合には、完成した負極シート1において、負極層3は剥離せず集電箔2に接着させることができる。しかし逆の場合には、負極層3の一部が剥離して欠損し第2Bロール120Bに付着すると考えられる。
【0088】
ここで、前述のように第2A外周面温度TR2Aが高すぎる場合を除くと、負極層3と集電箔2との間の接着力は、負極層3のうち集電箔2付近の部位におけるバインダ樹脂7の溶融状態つまり温度に影響され、温度が高いほど接着力が高くなると考えられる。一方、中途負極層23と第2Bロール120Bのとの間の結着力も、中途負極層23のうち負極層外面23U付近の部位におけるバインダ樹脂7の溶融状態つまり温度に影響されると考えられ、温度が高いほど結着力も高くなると考えられる。そこで、中途負極層23(負極層3)と集電箔2との間の接着力の方が高くなるように、第2B外周面温度TR2Bを、第2A外周面温度TR2Aよりも低くする(TR2B<TR2A)。
【0089】
次いで、実施例2の温度条件(160/150)//(180/170)について検討する。この実施例2では、第2A外周面温度TR2Aと第2B外周面温度TR2Bを(180/170)としたが、前述のように、この実施例2の負極シート1は、負極層3の集電箔2からの剥離も、負極層3の集電箔2からの浮き上がりも生じなかった。
一方、もし第1ロールプレス工程S2で、第1A外周面温度TR1Aと第1B外周面温度TR1Bを(180/170)とした場合には、
図8において×印となっていることから判るように、中途負極層23の一部が集電箔2から剥離して欠損を生じる一方、第1Bロール110Bに活物質粒子6等が付着することが判る。
【0090】
このような差が生じるのは、以下の理由によると考えられる。即ち、第1ロールプレス工程S2において第1Bロール110Bの第1B外周面110BGに接するのは、未圧縮負極層13をなす未圧縮の複合粒子15である。これに対し、第2ロールプレス工程S3において第2Bロール120Bの第2B外周面120BGに接するのは、第1ロールプレス工程S2で一旦圧縮されて形成された中途負極層23である。このことから、未圧縮負極層13をなす複合粒子15に比して、既に圧縮された中途負極層23は、第2Bロール120Bの第2B外周面120BGに付着しにくくなっており、第2ロールプレス工程S3において、第2A外周面温度TR2Aと第2B外周面温度TR2Bを(180/170)とした場合でも、負極層3の一部が剥離して第2Bロール120Bに付着しなかったと考えられる。
【0091】
具体的には、第2B外周面温度TR2Bを170℃(溶融開始温度Ti+15℃)まで高くしても、第2Bロール120Bに負極層3の一部が剥離して付着する可能性は低い。従って、前述のように、第2B外周面温度TR2Bを、第2A外周面温度TR2Aよりも低くし(TR2B<TR2A)、かつ、第2A外周面温度TR2AをTi+10℃≦TR2A≦Ti+25℃とする条件下では、第1ロールプレス工程S2で第1B外周面温度TR1Bをバインダ樹脂7の溶融開始温度Ti+5℃以下の温度範囲内(TR1B≦Ti+5℃)に制限としたのはと異なり、第2B外周面温度TR2Bの大きさをバインダ樹脂の溶融開始温度Tiとの関係で制限する条件は付さなくても足りる。
【0092】
なお、さらに好ましくは、第2B外周面温度TR2Bを、第2A外周面温度TR2Aよりも十分低くすると良く、温度差を10℃以上(TR2B≦TR2A-10℃)とすると良い。
これにより、完成した負極シート1において、負極層3をなすバインダ樹脂7及び活物質粒子6を集電箔2に確実に接着させて、集電箔2に対する負極層3の良好な剥離強度PSを得ることができる。その一方、負極層3が剥離して、第2Bロール120Bの第2B外周面120BGにバインダ樹脂7や活物質粒子6が付着するのを確実に抑制することができる。
【0093】
特に、本実施形態及び各調査例では、活物質粒子6として黒鉛粒子を用い、バインダ樹脂7としてPVDFを用いている。このため、適切に負極シート1を製造することができる。
【0094】
以上において、本発明を実施形態及び各調査例、各例(基準例、比較例、実施例)に即して説明したが、本発明は上述の実施形態等に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
例えば、堆積工程S1において、未圧縮負極シート11の未圧縮負極層13を形成するに当たり、上述の実施形態では、複合粒子15を一旦磁性キャリア粒子に吸着させ、マグネットロールで成膜領域まで複合粒子15を搬送した上で、静電気力によって複合粒子15を集電箔2に向けて飛翔させて、集電箔2上に複合粒子15を堆積させて未圧縮負極層13を形成する堆積装置DPを用いた。
しかし、集電箔2上に複合粒子15が堆積した未圧縮負極層13を有する未圧縮負極シート11を形成すれば良く、例えば、外周面に凹凸形状を設けたグラビアロール(図示ししない)を用い、このグラビアロールの凹部に複合粒子15を充填し、静電気力で、凹部内の複合粒子15を集電箔2の第2表面2Bに連続的に移動させ、集電箔2上に複合粒子15を堆積させて未圧縮負極層13を形成する堆積装置DPを用いるようにしても良い。
また、静電気力を用いることなく、集電箔2の第2表面2B上に複合粒子15を散布し堆積させて、未圧縮負極層13を形成する堆積装置DPを用いても良い。
【0095】
また、前述した実施形態等では、第1ロールプレス工程S2に引き続いて、第2ロールプレス工程S3を行った例を示した。しかし、第1ロールプレス工程S2の後、製造された中途負極シート21を一旦巻き取り、その後、中途負極シート21に対して、第2ロールプレス工程S3を行うようにしても良い。
【符号の説明】
【0096】
1 負極シート(電極シート)
2 集電箔
2A (集電箔の)第1表面
2B (集電箔の)第2表面
3 負極層(電極層)
3U (負極層の)負極層外面
6 活物質粒子
7 バインダ樹脂
11 未圧縮負極シート(未圧縮電極シート)
13 未圧縮負極層(未圧縮電極層)
13U (未圧縮負極層の)負極層外面(電極層外面)
15 複合粒子
17 バインダ粒子
21 中途負極シート(途中電極シート)
23 中途負極層(中途電極層)
23U (中途負極層の)負極層外面(電極層外面)
DL (負極シート、未圧縮負極シート、中途負極シートの)長手方向
110 第1プレス部
110A 第1Aロール
110AG (第1Aロールの)第1A外周面
110B 第1Bロール
110BG (第1Bロールの)第1B外周面
GP1 第1ロール間隙
120 第2プレス部
120A 第2Aロール
120AG (第2Aロールの)第2A外周面
120B 第2Bロール
120BG (第2Bロールの)第2B外周面
GP2 第2ロール間隙
TR1A 第1A外周面温度
TR1B 第1B外周面温度
TR2A 第2A外周面温度
TR2B 第2B外周面温度
T 温度
Ti (バインダ樹脂の)溶融開始温度
Tm (バインダ樹脂の)融点
TS (負極シート、未圧縮負極シート、中途負極シートの)シート温度
TC (集電箔の)集電箔温度
TE (負極層、未圧縮負極層、中途負極シートの負極層外面の)外面温度
PS 剥離強度
S2 第1ロールプレス工程
S3 第2ロールプレス工程