(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181003
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
F16C 3/14 20060101AFI20221130BHJP
F16C 17/02 20060101ALI20221130BHJP
F01M 1/06 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
F16C3/14
F16C17/02 Z
F01M1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087815
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】宮内 勇馬
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 るな
【テーマコード(参考)】
3G313
3J011
3J033
【Fターム(参考)】
3G313BA01
3G313BC01
3G313FA05
3J011AA07
3J011BA02
3J011KA02
3J011MA23
3J011NA01
3J011SB01
3J033AA02
3J033BA01
3J033CD02
3J033GA05
(57)【要約】
【課題】クランクジャーナルの軸受部分における潤滑性を維持しつつ、クランクシャフトの変形に伴うクランクジャーナルの摩耗を抑制する。
【解決手段】エンジン1は、気筒2及びピストン21を備えたエンジン本体10と、クランクシャフト3と、潤滑油を介してクランクシャフト3を軸支する主軸受4とを備える。クランクシャフト3は、主軸受4のジャーナルメタル43で軸支されるクランクジャーナル31と、クランクジャーナル31の軸方向端部から径方向外側へ延出するカウンタウェイト33とを含む。クランクジャーナル31は、カウンタウェイト33の延出位置に対応する部分に形成され、径方向内側へ窪む凹部5を備える。凹部5は、クランクジャーナル31の軸方向中央側よりも軸方向端部の方が深い凹部である。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒及び該気筒に往復摺動可能に収容されたピストンを備えたエンジン本体と、
前記ピストンの往復運動を回転運動に変換するクランクシャフトと、
潤滑油を介して前記クランクシャフトを軸支する軸受部材と、を備え、
前記クランクシャフトは、前記軸受部材で軸支されるクランクジャーナルと、前記クランクジャーナルの軸方向端部から径方向外側へ延出するカウンタウェイトとを含み、
前記クランクジャーナルは、前記カウンタウェイトの延出位置に対応する部分に形成され、径方向内側へ窪む凹部を備え、
前記凹部は、前記クランクジャーナルの軸方向中央側よりも前記軸方向端部の方が深い凹部であることを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関において、
前記凹部は、前記クランクジャーナルの軸方向中央側から前記軸方向端部に向けて徐々に深さが深くなる凹部である、内燃機関。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の内燃機関において、
前記凹部は、前記クランクジャーナルの軸方向及び周方向において所定の軸方向幅及び周方向幅を有し、
前記凹部の前記軸方向幅は、前記クランクシャフトの回転方向上流側の方が下流側よりも幅広である、内燃機関。
【請求項4】
請求項3に記載の内燃機関において、
前記クランクジャーナルを周方向に展開した平面形状における、前記凹部の平面視の形状は、
前記周方向幅の回転方向上流端近傍において急峻な曲線で軸方向中央側に膨らむ膨出部と、前記膨出部から前記周方向幅の回転方向下流端へ緩い曲線で至る緩曲部と、
を有する形状である、内燃機関。
【請求項5】
請求項4に記載の内燃機関において、
前記凹部は、前記軸方向幅が長い部分ほど、前記軸方向端部における深さが深い、内燃機関。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の内燃機関において、
前記凹部は、前記クランクジャーナルの軸方向及び周方向において所定の軸方向幅及び周方向幅を有し、
前記凹部の深さは、前記周方向幅の回転方向上流端から下流側に向けて第1の傾きで深くなり、回転方向中央部よりも上流側に最深部が形成され、前記最深部から回転方向下流端に向けて第2の傾きで浅くなるプロファイルを有し、
前記第1の傾きは、前記第2の傾きよりも大きい傾きである、内燃機関。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の内燃機関において、
前記エンジン本体は、所定の配列方向に一列に並ぶ複数の気筒を有し、
2つの気筒間に位置する前記クランクジャーナルは、
軸方向の一端側端部から径方向外側へ延出する第1カウンタウェイトと、
前記第1カウンタウェイトと周方向に対向する位置又は周方向の同位置において、軸方向の他端側端部から径方向外側へ延出する第2カウンタウェイトと、
前記第1カウンタウェイトの延出位置に対応する部分に形成され、前記軸方向の一端側端部から前記軸方向の中央に向けて凹設された第1凹部と、
前記第2カウンタウェイトの延出位置に対応する部分に形成され、前記軸方向の他端側端部から前記軸方向の中央に向けて凹設された第2凹部と、
を備える内燃機関。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の内燃機関において、
前記エンジン本体は、所定の配列方向に一列に並ぶ複数の気筒を有し、
前記配列方向の一端側又は他端側の気筒よりも軸方向外側に位置する前記クランクジャーナルは、
軸方向の内側端部から径方向外側へ延出する端部カウンタウェイトと、
前記端部カウンタウェイトの延出位置に対応する部分に形成され、前記内側端部から前記軸方向の外側に向けて凹設された配列端凹部と、
を備える内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランクシャフトのクランクジャーナルを、潤滑油を介して軸受部材で軸支する構造を備えた内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関は、気筒に往復摺動可能に収容されたピストンの往復運動を回転運動に変換するクランクシャフトを備える。クランクシャフトのクランクジャーナルは、潤滑油を介して滑り軸受で軸支される。特許文献1には、クランクジャーナルの外表面に複数の凹部を設け、潤滑油の保持性を高めるようにした内燃機関が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関の燃費向上には、各種の機械的損失の低減が求められる。上記の潤滑油についても、粘度が低い低粘度油を使用することが、摺動面の摩擦損失の抑制の観点から望ましい。しかし、低粘度油を使用した場合、クランクジャーナルの軸受部分で潤滑不良が発生し、クランクジャーナルに摩耗が発生する懸念がある。また、クランクシャフトには、ピストンが燃焼圧力を受けたときに軸方向と交差する方向に押圧されるため、変形力が作用する。このため、クランクジャーナル自体の変形による摩耗の発生も問題となる。
【0005】
本発明の目的は、クランクジャーナルの軸受部分における潤滑性を維持しつつ、クランクシャフトの変形に伴うクランクジャーナルの摩耗を抑制できる内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面に係る内燃機関は、気筒及び該気筒に往復摺動可能に収容されたピストンを備えたエンジン本体と、前記ピストンの往復運動を回転運動に変換するクランクシャフトと、潤滑油を介して前記クランクシャフトを軸支する軸受部材と、を備え、前記クランクシャフトは、前記軸受部材で軸支されるクランクジャーナルと、前記クランクジャーナルの軸方向端部から径方向外側へ延出するカウンタウェイトとを含み、前記クランクジャーナルは、前記カウンタウェイトの延出位置に対応する部分に形成され、径方向内側へ窪む凹部を備え、前記凹部は、前記クランクジャーナルの軸方向中央側よりも前記軸方向端部の方が深い凹部であることを特徴とする。
【0007】
ピストンが燃焼圧力を受けると、クランクシャフトには軸方向と交差する方向の押圧力が作用する。一方、カウンタウェイトは相応の重量物であって、一般に慣性力の軽減のためピストンとクランクシャフトとの連結部の対極位置に配置される。このため、ピストンからの押圧力がクランクシャフトに加わると、カウンタウェイトがクランクジャーナル側に倒れ込むような変形力(荷重)が発生する。この変形力は、カウンタウェイトの延出位置に対応するクランクジャーナルの周面を、軸受部材に接近させる方向に作用する。つまり、カウンタウェイトの延出位置において、クランクジャーナルの周面が軸受部材に接触し易い状態を形成する。
【0008】
上記の内燃機関によれば、カウンタウェイトの延出位置に対応する部分に凹部が形成され、且つ、前記凹部はクランクジャーナルの軸方向中央側よりも前記軸方向端部の方が深い凹部である。このため、ピストンからの押圧力が加わっても、カウンタウェイトの延出位置に対応するクランクジャーナルの周面と軸受部材との間のクリアランスは前記凹部によって確保され、両者の接触を回避することができる。一方、前記凹部が設けられない領域では、クランクジャーナルの周面と軸受部材との間のクリアランスを小さく設定することが可能である。このため、低粘度油を潤滑油として用いても、油抜けが生じ難く、潤滑性を確保することができる。従って、クランクジャーナルの軸受部分で潤滑性の維持と、クランクジャーナルの摩耗防止とを両立することができる。
【0009】
上記の内燃機関において、前記凹部は、前記クランクジャーナルの軸方向中央側から前記軸方向端部に向けて徐々に深さが深くなる凹部であることが望ましい。
【0010】
ピストンからの押圧力がクランクシャフトに加わると、カウンタウェイトの延出位置において、クランクジャーナルの軸方向端部が最も軸受部材に接近する方向に変形し、軸方向中央に向かうに連れて変形量が少なくなる。上記の内燃機関によれば、このようなクランクジャーナルの変形態様にマッチした深さ分布を有する凹部とすることができ、より好適に潤滑性を確保と摩耗防止とを図ることができる。
【0011】
上記の内燃機関において、前記凹部は、前記クランクジャーナルの軸方向及び周方向において所定の軸方向幅及び周方向幅を有し、前記凹部の前記軸方向幅は、前記クランクシャフトの回転方向上流側の方が下流側よりも幅広であることが望ましい。
【0012】
とりわけ、前記クランクジャーナルを周方向に展開した平面形状における、前記凹部の平面視の形状は、前記周方向幅の回転方向上流端近傍において急峻な曲線で軸方向中央側に膨らむ膨出部と、前記膨出部から前記周方向幅の回転方向下流端へ緩い曲線で至る緩曲部と、を有する形状であることがより望ましい。
【0013】
本発明者らの解析によれば、カウンタウェイトの倒れ込みによりクランクジャーナルに作用する荷重は、カウンタウェイトの延出位置において、回転方向上流側部分の方が下流側の部分よりも大きい傾向があることが判明した。より詳しくは、回転方向上流端近傍において最も大きな荷重が加わり、回転方向下流端に向かうに連れて前記荷重が漸減してゆくことが判明した。上記の内燃機関によれば、このような荷重傾向に沿った軸方向幅を有する凹部とすることができ、クランクジャーナルと軸受部材との接触をより確実に防止することができる。
【0014】
上記の内燃機関において、前記凹部は、前記軸方向幅が長い部分ほど、前記軸方向端部における深さが深いことが望ましい。
【0015】
この内燃機関によれば、凹部の軸方向幅が長い部分において、軸受部材とのクリアランスを大きくすることができる。このような、軸方向幅が長く且つ窪みが深い部分を、クランクジャーナルにおいてカウンタウェイトから最も倒れ込み荷重を受ける部分に配置することで、クランクジャーナルの接触摩耗を的確に回避することができる。
【0016】
上記の内燃機関において、前記凹部は、前記クランクジャーナルの軸方向及び周方向において所定の軸方向幅及び周方向幅を有し、前記凹部の深さは、前記周方向幅の回転方向上流端から下流側に向けて第1の傾きで深くなり、回転方向中央部よりも上流側に最深部が形成され、前記最深部から回転方向下流端に向けて第2の傾きで浅くなるプロファイルを有し、前記第1の傾きは、前記第2の傾きよりも大きい傾きであることが望ましい。
【0017】
本発明者らの解析によれば、クランクシャフトの変形に伴うクランクジャーナルと軸受部材との直接接触によるエネルギー損失は、接触の前半期間が比較的急峻に立ち上がり、後半期間は比較的に緩やかに下降する特性を示す。前記直接接触は、クランクジャーナルの摩耗要因となるので、接触の前半期間では摩耗量が大きく、後半期間では摩耗量が小さいということになる。従って、上記の深さプロファイルを有する凹部をクランクジャーナルに設けることで、上記のエネルギー損失特性に即した接触摩耗回避対策を施すことができる。
【0018】
上記の内燃機関において、前記エンジン本体は、所定の配列方向に一列に並ぶ複数の気筒を有し、2つの気筒間に位置する前記クランクジャーナルは、軸方向の一端側端部から径方向外側へ延出する第1カウンタウェイトと、前記第1カウンタウェイトと周方向に対向する位置又は周方向の同位置において、軸方向の他端側端部から径方向外側へ延出する第2カウンタウェイトと、前記第1カウンタウェイトの延出位置に対応する部分に形成され、前記軸方向の一端側端部から前記軸方向の中央に向けて凹設された第1凹部と、前記第2カウンタウェイトの延出位置に対応する部分に形成され、前記軸方向の他端側端部から前記軸方向の中央に向けて凹設された第2凹部と、を備える構成とすることができる。
【0019】
この内燃機関によれば、フルカウンタ型のカウンタウェイトを有するクランクシャフトのクランクジャーナルについて、潤滑性の維持と摩耗防止とを両立することができる。上記の形態では、燃焼圧力がピストンに加わると、クランクジャーナルを挟むように立設されている第1、第2カウンタウェイト間が狭くなるような変形挙動が生じる。このような変形挙動に伴うクランクジャーナルと軸受部材との接触を、第1凹部及び第2凹部の形成によって未然に防止することができる。
【0020】
上記の内燃機関において、前記エンジン本体は、所定の配列方向に一列に並ぶ複数の気筒を有し、前記配列方向の一端側又は他端側の気筒よりも軸方向外側に位置する前記クランクジャーナルは、軸方向の内側端部から径方向外側へ延出する端部カウンタウェイトと、前記端部カウンタウェイトの延出位置に対応する部分に形成され、前記内側端部から前記軸方向の外側に向けて凹設された配列端凹部と、を備える構成とすることができる。
【0021】
フルカウンタ型のカウンタウェイトを有するクランクシャフトでも、配列方向の一端側又は他端側の気筒よりも軸方向外側に位置する前記クランクジャーナルについては、軸方向の内側端部にから延出する端部カウンタウェイトしか存在しない。この内燃機関によれば、クランクシャフトの端部に位置するクランクジャーナルについて、端部カウンタウェイトに対応した配列端凹部のみが形成される。従って、無用にクランクジャーナルと軸受部材との間にクリアランスが形成されることはなく、潤滑性の確保とクランクジャーナルの摩耗防止とを両立させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、クランクジャーナルの軸受部分における潤滑性を維持しつつ、クランクシャフトの変形に伴うクランクジャーナルの摩耗を抑制できる内燃機関を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明に係る内燃機関の一例であるエンジンの外観を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、上記エンジンの気筒列方向に沿った縦断面図である。
【
図3】
図3は、4気筒エンジンのクランクシャフトの側面図である。
【
図4】
図4は、クランクジャーナルの変形を説明するための模式図である。
【
図5】
図5は、燃焼圧力によりクランクジャーナルに加わる荷重を示す図である。
【
図6】
図6(A)は、クランクジャーナルに設けられる凹部の一例を示す簡略断面図、
図6(B)は、前記凹部の作用を示す図である。
【
図7】
図7は、前記凹部の配置箇所を付記したクランクシャフトの側面図である。
【
図8】
図8(A)~(C)は、前記凹部を有するクランクジャーナルの具体例を示す側面図である。
【
図9】
図9は、前記凹部の軸方向プロファイルを示す、クランクジャーナル表面の展開図である。
【
図10】
図10は、前記凹部の深さ方向プロファイルを示す、クランクジャーナルの側面図である。
【
図11】
図11は、6気筒エンジンのクランクシャフトの側面図である。
【
図12】
図12(A)~(C)は、前記凹部の変形例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態に係る内燃機関を詳細に説明する。本実施形態では、内燃機関の一例として、自動車等の車両の走行駆動用の動力源として前記車両に搭載されるエンジンを例示する。
【0025】
[エンジンの構造]
図1は、本実施形態に係るエンジン1の外観を示す斜視図である。
図2は、エンジン1の気筒列方向に沿った縦断面図である。エンジン1は、4サイクル直列4気筒のエンジンである。
図1及び他のいくつかの図には、エンジン1の前側、後側を各々示すF、Rの方向表示が付されている。エンジン1は、エンジン本体10と、エンジン本体10内に組み込まれたクランクシャフト3と、クランクシャフト3を軸支する主軸受4とを含む。
【0026】
エンジン本体10は、シリンダブロック11、シリンダヘッド12及びロアシリンダブロック13を備える。シリンダブロック11は、エンジン前後方向F-R(所定の配列方向)に沿って一列に並ぶ4つの気筒2を有する。各気筒2の内部には、ピストン21が往復摺動可能に収容されている。シリンダブロック11は、さらに多くの気筒2を含んでいても良く、例えば直列6気筒のエンジン用であっても良い。
【0027】
シリンダヘッド12は、シリンダブロック11の上面に取り付けられ、気筒2の上部開口を塞いでいる。シリンダヘッド12には、気筒2内に吸気を取り入れる吸気ポート14と、
図1及び
図2には現れない排気ポートとが形成されている。各気筒2は、吸気2バルブ×排気2バルブの4バルブ形式にて、吸気系及び排気系と接続されている。
図1及び
図2には、第1吸気ポート14A及び第2吸気ポート14Bのペアからなる吸気ポート14が4セット、気筒配列方向に並んでいる様子が表出している。さらに、シリンダヘッド12には、吸気弁を動作させる吸気弁用カムシャフト15と、排気弁を動作させる排気弁用カムシャフト16とが組み込まれている。シリンダヘッド12の上面には、図略のシリンダヘッドカバーが取り付けられる。
【0028】
ロアシリンダブロック13は、シリンダブロック11の下面に取り付けられ、クランクシャフト3を支持するブロックである。ロアシリンダブロック13は、クランクシャフト3を支持する部分がエンジン前後方向に並ぶラダーフレーム構造を有している。
【0029】
クランクシャフト3は、ピストン21の往復運動を回転運動に変換する、エンジン1の回転出力軸である。
図3は、クランクシャフト3の側面図であり、図示している回転方向の位相は、
図2の断面図と同じである。クランクシャフト3は、クランクジャーナル31、クランクピン32、カウンタウェイト33及びクランクアーム34を含む。ここで例示しているクランクシャフト3は、フルカウンタウェイト型である。
【0030】
クランクジャーナル31は、クランクシャフト3の回転軸となる部分であって、主軸受4にて軸支される部分である。クランクピン32は、コンロッド22を介してピストン21と連結される部分である。コンロッド22は、上端側に小端部23を、下端側に大端部24を備える。小端部23は、ピストンピン25を介してピストン21と結合されている。大端部24は、クランクピン32に結合されている。クランクアーム34は、クランクジャーナル31とクランクピン32とを繋ぐ部分である。
【0031】
カウンタウェイト33は、ピストン21及びコンロッド22の運動に伴う慣性力を軽減する部材である。カウンタウェイト33は、クランクジャーナル31の軸方向(F-R方向)端部から径方向外側へ延出するように配置されている。カウンタウェイト33が配置される周方向位置は、クランクピン32の対極位置である。換言すると、クランクアーム34において、クランクピン32と連結されている部分とは反対側の部分から、カウンタウェイト33が径方向外側へ延出している。
【0032】
クランクシャフト3は、直列4気筒のエンジン1に対応したものである。
図3に示す#1、#2、#3、#4の矢印は、4つの気筒2の各コンロッド22が配置される位置を示している。#1気筒2は、軸方向(気筒配列方向)の先端側(一端側)気筒、#4気筒2は、気筒配列方向の後端側(他端側)気筒である。#1~#4気筒2の各々に対応して、クランクシャフト3はクランクピン32として、第1、第2、第3、第4クランクピン32A、32B、32C、32Dを備えている。
【0033】
クランクジャーナル31としては、#1気筒2よりも軸方向のF側に位置する第1クランクジャーナル31Aと、第1~第4クランクピン32A~32Dの各ピン間に位置する第2、第3、第4クランクジャーナル31B、31C、31Dと、#4気筒2よりも軸方向のR側に位置する第5クランクジャーナル31Eとが備えられている。カウンタウェイト33としては、第1クランクピン32Aを挟むように配置された第1、第2カウンタウェイト33A、33Bと、第2クランクピン32Bを挟むように配置された第3、第4カウンタウェイト33C、33Dと、第3クランクピン32Cを挟むように配置された第5、第6カウンタウェイト33E、33Fと、第4クランクピン32Dを挟むように配置された第7、第8カウンタウェイト33G、33Hとが備えられている。
【0034】
主軸受4は、ジャーナル支持部41及びキャップ42を含む。ジャーナル支持部41は、ロアシリンダブロック13にラダー状に複数配置されたフレームに形成された半円状のキャビティ部分であり、クランクジャーナル31を下方から支持している。キャップ42は、各ジャーナル支持部41に対して上側から被せるように取り付けられる半円形の凹部である。ジャーナル支持部41とキャップ42との係合により作られる軸支体により、クランクジャーナル31が保持されている。
【0035】
ジャーナル支持部41及びキャップ42とクランクジャーナル31との間には、ジャーナルメタル43(軸受部材)が介在されている。ジャーナルメタル43は、滑り軸受であり、潤滑油を介してクランクジャーナル31の外周面を直接軸支する軸受部材である。ジャーナルメタル43は、二つ割れの環状金属片の組み合わせからなる円環体からなる。ジャーナルメタル43の内周面とクランクジャーナル31の外周面との間には潤滑油が供給される。クランクシャフト3(クランクジャーナル31)が軸回りに回転すると前記潤滑油の油膜圧力が発生し、その油膜によってクランクジャーナル31の回転が支えられる。
【0036】
コンロッド22の大端部24とクランクピン32との間にも、ジャーナルメタル43と同様な滑り軸受からなるコンロッドメタル44が介在されている。コンロッドメタル44の内周面とクランクピン32の外周面との間にも潤滑油が供給される。
【0037】
[クランクジャーナルへ加わる荷重]
次に、クランクシャフト3の回転時にクランクジャーナル31に加わる荷重について説明する。
図4は、
図3の第1クランクピン32A(クランクピン32)及び第2クランクジャーナル31B(クランクジャーナル31)を拡大した模式図であって、ジャーナルメタル43の断面を付記した図である。上述の通り、ジャーナルメタル43とジャーナルメタル43との間には、潤滑油の油膜LBが形成されている状態を示している。
【0038】
第2クランクジャーナル31Bは、#1気筒2と#2気筒2との間に位置するクランクジャーナルである(
図3)。第2クランクジャーナル31BのF側端部31f(軸方向の一端側端部)からは、第2カウンタウェイト33Bが径方向外側の下方に向かうように延出している。一方、第2カウンタウェイト33Bと周方向に180°対向する位置において、第2クランクジャーナル31BのR側端部31r(軸方向の他端側端部)からは、第3カウンタウェイト33Cが径方向外側の上方へ延出している。なお、第3クランクジャーナル31CのF側端部31f、R側端部31rから径方向外側に延出している第4、第5カウンタウェイト33D、33Eは、周方向の同位置に配置されたカウンタウェイト対の例である。
【0039】
第1クランクピン32Aには、#1気筒2のピストン21が受ける燃焼圧力が、コンロッド22の大端部24から入力される。
図4の矢印は、燃焼圧力が第1クランクピン32Aに加わった場合の力線Fを模式的に示している。力線Fは、第1クランクピン32Aからクランクアーム34を通り、第2クランクジャーナル31Bに向かう。力線Fに沿って燃焼圧力が第2クランクジャーナル31Bに加わると、第1クランクピン32Aと対極位置にある第2カウンタウェイト33Bが第2クランクジャーナル31B側に倒れ込むような変形力(荷重)が発生する。換言すると、第1クランクピン32Aを挟んで配置されている第1カウンタウェイト33A(
図3)と第2カウンタウェイト33Bとの間隔が拡開させるような変形力が発生する。
図4において、そのような第2カウンタウェイト33Bの変形を誇張して、点線で示している。
【0040】
上記の変形力は、第2カウンタウェイト33Bの延出位置に対応する第2クランクジャーナル31Bの外周面、つまりF側端部31f付近の外周面を、ジャーナルメタル43の内周面に接近させる方向に作用する。つまり、第2カウンタウェイト33Bの延出位置において、第2クランクジャーナル31BのF側端部31fがジャーナルメタル43に接触し易い状態が形成されてしまう。
【0041】
機械抵抗の抑制には、クランクジャーナル31とジャーナルメタル43との間の隙間を小さく、これにより油膜LBを可及的に薄くすることが望ましい。しかし、前記隙間を小さくすると、燃焼圧力の荷重が加わることに起因するクランクジャーナル31の変形により、クランクジャーナル31とジャーナルメタル43との接触が生じ、かえって機械抵抗の増大、摩耗の促進を招来することになりかねない。
【0042】
図5は、燃焼圧力によりクランクジャーナル31に加わる荷重の測定例を示すグラフである。前記グラフは、クランクジャーナル31の外周面を展開し、その外周面に加わる荷重を濃度分布で示している。濃い濃度の部分程、高い荷重が作用していることを示す。前記グラフの横軸はクランクジャーナル31の軸方向幅、縦軸は周方向幅に相当する。また、縦軸にはクランクジャーナル31の回転方向が付記されている。
図5で示しているクランクジャーナル31は、周方向の同位置から第4、第5カウンタウェイト33D、33Eが延出している第3クランクジャーナル31Cを想定している。
【0043】
荷重の高い高荷重箇所PAは、回転方向の180度付近に生じている。回転方向=180度付近では、第4、第5カウンタウェイト33D、33Eが下方に位置し、且つ、第2、第3クランクピン32B、32Cに燃焼圧力が加わる。このような回転方向のタイミングに、第4、第5カウンタウェイト33D、33Eから第3クランクジャーナル31Cに高荷重が作用していることが、
図5から判る。
【0044】
高荷重箇所PAは、単純な半円状の波紋を描く荷重分布ではなく、重心が回転方向上流側に偏心した滴型の荷重分布を備えている。これは、気筒2内において圧縮上死点付近で主に発生する燃焼により生じる大きな燃焼圧力が、ピストン21及びコンロッド22を介して一気に第3クランクジャーナル31Cに加わることに依ると考えられる。すなわち、前記燃焼圧力が一気に加わる高荷重箇所PAの回転方向上流側では、第3クランクジャーナル31Cに加わる荷重が比較的大きくなる。そして、回転が進み回転方向下流側に向かうに連れて、徐々に荷重が小さくなってゆく。当然、高荷重箇所PAにおいて、より大きな荷重が加わる回転方向上流側の方が、第3クランクジャーナル31Cの変形量が大きくなる。つまり、回転方向上流側の方が、より第3クランクジャーナル31Cがジャーナルメタル43へ接近し易い状態となる。
【0045】
[本実施形態のクランクジャーナル]
本実施形態では、上記のような高荷重箇所PAが生じたとしても、クランクジャーナル31とジャーナルメタル43との接触を回避出来ると共に、潤滑油の維持性を損なわないようにした、クランクジャーナル31の具体例を示す。
図6を参照して、本実施形態のクランクジャーナル31は、径方向内側へ窪む凹部5を備える。凹部5は、カウンタウェイト33の延出位置に対応する部分に形成される。また、凹部5は、クランクジャーナル31の軸方向中央側よりも前記軸方向端部の方が深い凹部である。
【0046】
図6(A)は、第2クランクジャーナル31B(クランクジャーナル31)に設けられる凹部5の一例を示す簡略断面図、
図6(B)は、凹部5の作用を示す図である。第2クランクジャーナル31Bでは、
図4に示したように、F側端部31fにおける第2カウンタウェイト33Bの延出位置付近に、
図5に示したような高荷重箇所PAが発生する。凹部5は、第2クランクジャーナル31Bにおける前記延出位置に対応する部分を凹没させるように設けられている。
【0047】
凹部5は、第2クランクジャーナル31Bの軸方向中央側からF側端部31f(軸方向端部)に向けて徐々に深さが深くなる傾きを持つ断面形状を有している。すなわち、F側端部31fにおいて凹部5は、最も径方向内側へ深く窪んでいる。これは、
図5の荷重分布において説明した通り、燃焼圧力が加わると、F側端部31fにおける第2カウンタウェイト33Bの延出位置付近の荷重が最も大きくなる、つまりF側端部31f付近の変形量が最も大きくなることに対応したものである。なお、
図6では凹部5の深さが誇張して描かれており、実際の凹部5の最深部の深さは、数ミクロン~数十ミクロン程度である。
【0048】
図6(A)には、ジャーナルメタル43の内周面と第2クランクジャーナル31Bの外周面との間のクリアランスG1、G2が示されている。凹部5が形成されていないR側端部31r寄りの箇所のクリアランスG1は、滑り軸受の潤滑油粘度等を考慮して設定される標準クリアランスに設定されている。一方、凹部5が形成されているF側端部31f寄りの箇所のクリアランスG2は、G1に比べて大きく、F側端部31f付近で最も大きくなっている。
【0049】
図6(B)には、燃焼圧力が加わったときの、第2カウンタウェイト33B及び第2クランクジャーナル31Bの変形態様が点線で示されている。燃焼圧力が第1クランクピン32Aに加わると、第2カウンタウェイト33Bが第2クランクジャーナル31BのR側端部31rの方向に倒れ込むように変形する。これに呼応して、第2クランクジャーナル31BのF側端部31f寄りの部分がジャーナルメタル43に接近する方向に変形する。
【0050】
このような変形が生じた場合、凹部5が存在しないと、第2クランクジャーナル31BのF側端部31f付近がジャーナルメタル43に接触し得る。しかし、凹部5が存在していると、前記変形が生じてもなお、第2クランクジャーナル31Bとジャーナルメタル43との間のクリアランスG3が確保されることとなり、両者の接触を回避することができる。
【0051】
凹部5は、第2クランクジャーナル31BにおけるF側端部31f寄りの部分の全周に設けられるのではなく、高荷重箇所PAに対応する箇所だけを凹没させるように設けられる。凹部5を第2クランクジャーナル31Bに形成することは、対峙するジャーナルメタル43との間のクリアランスを拡張することとなり、潤滑油が前記クリアランスから逃げ出す油抜けを生じさせる。本実施形態では、高荷重箇所PAに対応する箇所だけに凹部5が設けられ、凹部5が設けられない領域では、第2クランクジャーナル31Bの周面とジャーナルメタル43との間は標準のクリアランスG1に設定される。従って、前記油抜けは最小限に抑制される。
【0052】
また、
図4に点線で示したように、燃焼圧力が第1クランクピン32Aに加わった場合、F側端部31fが最もジャーナルメタル43に接近する方向に変形し、軸方向中央に向かうに連れて変形量が少なくなる。この変形傾向にマッチするように、凹部5は、第2クランクジャーナル31Bの軸方向中央側からF側端部31fに向けて徐々に深さが深くなるプロファイルを有する。この点においても、前記クリアランスが徒に拡張しない工夫が為されている。このため、例えば0W20クラスの低粘度油を潤滑油として用いても、前記油抜けが生じ難く、潤滑性を確保することができる。従って、ジャーナルメタル43における潤滑性の維持と、クランクジャーナル31の摩耗防止とを両立することができる。
【0053】
[凹部の配置位置と具体的形状]
続いて、クランクシャフト3に対する凹部5の配置位置と、凹部5の具体的形状について説明する。
図7は、直列4気筒用のフルカウンタ型クランクシャフト3の、クランクジャーナル31に対する凹部5の配置箇所を付記した側面図である。
図8(A)~(C)は、凹部5を有するクランクジャーナル31の具体例を示す側面図である。
【0054】
クランクシャフト3が備える第1~第5クランクジャーナル31A~31Eには、それぞれ1個又は2個の凹部5が配設されている。詳しくは、気筒配列方向のF側端の#1気筒2の配置位置よりも軸方向外側(F側)に位置する第1クランクジャーナル31Aについては、第1カウンタウェイト33A(端部カウンタウェイト)が、軸方向の内側端部(R側端部31r)から径方向外側へ延出している。
図8(A)は、第1クランクジャーナル31A単体の側面図である。第1クランクジャーナル31Aには、第1カウンタウェイト33Aの延出位置に対応する部分に、一つの凹部5(配列端凹部)が設けられている。凹部5は、R側端部31rから軸方向の中央側(F側)に向けて凹設されている。凹部5は、R側端部31rにおいて最も深く、F側に向けて徐々に浅くなる形状を有している。
【0055】
気筒配列方向のR側端の#4気筒2の配置位置よりも軸方向外側(R側)に位置する第5クランクジャーナル31Eについては、第1クランクジャーナル31Aとは対称に凹部5が配置される。第5クランクジャーナル31Eには、第8カウンタウェイト33H(端部カウンタウェイト)が、軸方向の内側端部(F側端部31f)から径方向外側へ延出している。第5クランクジャーナル31Aは、第8カウンタウェイト33Hの延出位置に対応する部分に、一つの凹部5(配列端凹部)が形成されている。
【0056】
このように、一つのカウンタウェイト33A、33Hだけを備える第1、第5クランクジャーナル31A、31Eについては、当該カウンタウェイト33A、33Hに対応した一つの凹部5のみが形成される。従って、無用にクランクジャーナル31A、31Eとジャーナルメタル43との間に大きなクリアランスが形成されないので潤滑性を確保でき、且つ、クランクジャーナル31A、31Eの摩耗防止を図ることができる。
【0057】
第2クランクジャーナル31Bは、そのF側端部31fから第2カウンタウェイト33Bが、R側端部31rから第3カウンタウェイト33Cが、周方向に互いに180度位相を異ならせて、径方向外側へ延出している。
図8(B)は、第2クランクジャーナル31B単体の側面図である。第2クランクジャーナル31Bは、2つの凹部5を有している。すなわち、第2カウンタウェイト33Bの延出位置に対応して、一つの凹部5(第1凹部)が、F側端部31fから軸方向の中央に向けて凹設されている。また、第3カウンタウェイト33Cの延出位置に対応して、他の一つの凹部5(第2凹部)が、R側端部31rから軸方向の中央に向けて凹設されている。第4クランクジャーナル31Dも、第2クランクジャーナル31Bと同様な2つの凹部5を備えている。
【0058】
第3クランクジャーナル31Cは、そのF側端部31fから第4カウンタウェイト33Dが、R側端部31rから第5カウンタウェイト33Eが、周方向の同位置において、径方向外側へ延出している。
図8(C)は、第3クランクジャーナル31C単体の側面図である。第3クランクジャーナル31Cも、2つの凹部5を有している。すなわち、第4カウンタウェイト33Dの延出位置に対応して、一つの凹部5(第1凹部)が、F側端部31fから軸方向の中央に向けて凹設されている。また、第5カウンタウェイト33Eの延出位置に対応して、他の一つの凹部5(第2凹部)が、R側端部31rから軸方向の中央に向けて凹設されている。
【0059】
次に、凹部5の具体的形状について説明する。
図9は、凹部5の軸方向プロファイルを示す、クランクジャーナル31の表面の展開図、すなわちクランクジャーナル31を周方向に展開した平面形状を示す図である。ここに示すクランクジャーナル31は、
図7に示す第2クランクジャーナル31B又は第4クランクジャーナル31Dに対応する、2つの凹部5が180度位相を異ならせて配置されるタイプを例示している。
【0060】
凹部5は、クランクジャーナル31の軸方向(幅方向)及び周方向(回転方向)において所定の軸方向幅及び周方向幅を有している。凹部5の前記軸方向幅は、クランクシャフト3の回転方向上流側の方が下流側よりも幅広である形状を有している。つまり、凹部5の平面視の形状を、回転方向において上流側と下流側(回転方向の前半側と後半側と同義)との二つに区分した場合、凹部5は前記下流側より前記上流側の方が比較的広い前記軸方向幅を有している。なお、軸方向幅は、クランクジャーナル31のF側端部31f又はR側端部31rから凹部5の軸方向中央側のエッジまでの長さである。また、周方向幅は、回転方向に沿った凹部の幅である。
【0061】
より詳しくは、クランクジャーナル31を周方向に展開した平面視の形状において、凹部5は、回転方向上流側の膨出部51と、回転方向下流側の緩曲部52とを備える滴型の形状を有している。膨出部51は、凹部5の前記周方向幅の回転方向上流端近傍において、急峻な曲線で軸方向中央側に膨らむ部分である。緩曲部52は、膨出部51から前記周方向幅の回転方向下流端へ緩い曲線で至る部分である。つまり、凹部5の軸方向中央側のエッジは、回転方向上流端からF側端部31f又はR側端部31rに対して急峻に立ち上がり、回転方向上流側の領域において最大幅となるピーク位置に至り、以降は緩やかにF側端部31f又はR側端部31rに接近する曲線形状を有している。
【0062】
このような凹部5の平面視形状は、
図5に示したクランクジャーナル31の高荷重箇所PAの平面視形状に対応している。既述の通り、カウンタウェイト33の倒れ込みによりクランクジャーナル31に作用する荷重は、カウンタウェイト33の延出位置において、回転方向上流側部分の方が下流側の部分よりも大きい傾向がある。詳しくは、回転方向上流端近傍において最も大きな荷重が加わり、回転方向下流端に向かうに連れて前記荷重が漸減してゆく傾向がある。このため、高荷重箇所PAは、回転方向上流側に荷重重心が偏心した滴型の分布を有する。このような高荷重箇所PAの荷重傾向に沿うように、凹部5の軸方向プロファイルもまた、回転方向上流側が幅広となるような滴型の形状を有している。これにより、クランクジャーナル31とジャーナルメタル43との接触を確実に防止することができる。
【0063】
凹部5の窪み深さも、高荷重箇所PAの荷重傾向に沿うように設定される。つまり、クランクジャーナル31において荷重が大きく加わる部分ほど、凹部5の深さが深く設定される。
図10は、回転方向に沿った凹部5の深さ方向プロファイルを示す、クランクジャーナル31の側面図である。このプロファイルは、F側端部31f又はR側端部31rにおける凹部5の深さ方向プロファイルである。なお、このプロファイルも、深さ方向のサイズを誇張している。
【0064】
凹部5は、窪み形状において、回転方向上流側の上流傾斜部53と、回転方向下流側の下流傾斜部54とを備えている。上流傾斜部53は、凹部5の周方向幅の回転方向上流端から回転方向中央部LCに向かう方向に第1の傾きL1で深くなる傾斜面を有する。凹部5の最深部MDは、回転方向中央部LCよりも上流側に位置している。下流傾斜部54は、最深部MDから回転方向下流端に向けて第2の傾きL2で浅くなる傾斜面を有する。第1の傾きL1と第2の傾きL2との関係は、両者の傾き方向を揃えた場合、L1>L2の関係にある。つまり、凹部5は、回転方向の上流側で急峻に深くなり、最深部MDよりも下流側では緩やかに浅くなる窪み形状を有している。例えば、L1,L2をクランクジャーナル31の周面の接線に対してなす角で比較する場合、L1は、L2の1.2倍~3倍程度に設定することができる。
【0065】
本発明者らの解析によれば、クランクシャフト3の変形に伴うクランクジャーナル31とジャーナルメタル43との直接接触によるエネルギー損失は、接触の前半期間が比較的急峻に立ち上がり、後半期間は比較的に緩やかに下降する特性を示す。前記直接接触は、クランクジャーナル31の摩耗要因となるので、接触の前半期間では摩耗量が大きく、後半期間では摩耗量が小さいということになる。従って、第1の傾きL1及び第2の傾きL2を備えた深さプロファイルを有する凹部5をクランクジャーナル31に設けることで、上記のエネルギー損失特性に即した接触摩耗回避対策を施すことができる。
【0066】
上記の凹部5の回転方向の深さプロファイルを、
図9に示した軸方向プロファイルに関連付けると、凹部5の軸方向幅が長い部分ほど、凹部5の軸方向端部(F側端部31f又はR側端部31r)における深さが深いという関係となる。なお、軸方向の深さプロファイルは、軸方向中央側(滴型のエッジ)からF側端部31f又はR側端部31rに向けて徐々に深さが深くなる凹部5である点は、
図6に示した基本例と同様である。
【0067】
つまり、高荷重箇所PAの荷重分布に沿って、荷重が大きい箇所は比較的深く、荷重が小さい所は比較的浅くなるように、凹部5の深さプロファイルが設定される。この実施形態によれば、凹部5の軸方向幅が長く且つ窪みが深い部分が、クランクジャーナル31においてカウンタウェイト33から最も倒れ込み荷重を受ける部分に配置される。従って、クランクジャーナル31のジャーナルメタル43への接触による摩耗を的確に回避することができる。
【0068】
[変形例]
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような変形実施形態を取ることができる。
【0069】
(1)上記実施形態では、フルカウンタ型のカウンタウェイト33を有するクランクシャフト3を例示した。クランクシャフト3は、ハーフカウンタ型のものであっても良い。
図7に示したクランクシャフト3をハーフカウンタ型に改変する場合、例えば、第3、第5、第7カウンタウェイト33C、33E、33Gが省かれる。このようなハーフカウンタ型のクランクシャフト3においても、
図7と同様の箇所において第1~第5クランクジャーナル31A~31Eに凹部5を設ければ良い。なお、カウンタウェイトが省かれている箇所について、凹部5の軸方向幅、周方向幅及び窪み深さを小さく設定する、或いは、凹部5の形成自体を省いても良い。
【0070】
(2)上記実施形態では、直列4気筒のエンジン1に対応したクランクシャフト3を例示した。
図11は、直列6気筒のエンジン1に対応したフルカウンタ型のクランクシャフト3Aを示す側面図である。直列6気筒用のクランクシャフト3Aでも、凹部5の配置の考え方は上掲のクランクシャフト3と同様である。クランクジャーナル31の、カウンタウェイト33の延出位置に対応する部分に、凹部5が各々形成される。なお、
図11において点線で示している凹部5は、クランクジャーナル31の表出部分の背面側に配置されていることを示す。
【0071】
(3)上記実施形態では、クランクジャーナル31の軸方向中央側から軸方向端部(F側端部31f又はR側端部31r)に向けて徐々に深さが深くなる凹部5を例示した。凹部5は、クランクジャーナル31の軸方向中央側よりも軸方向端部の方が深いという関係を満たす限りにおいて、種々の変形実施形態を取ることができる。
図12(A)~(C)に、変形例に係る凹部5A、5B、5Cを示す。
【0072】
図12(A)は、階段型の窪み形状を有する凹部5Aを示す第2クランクジャーナル31Bの概略断面図である。凹部5Aは、傾斜のない水平部55と、下方に傾斜する下り傾斜部56とが交互に連なる窪み形状を有し、第2クランクジャーナル31Bの軸方向中央側よりも軸方向端部の方が窪み深さが深くなっている。
図12(B)は、一つの水平部57と一つの下り傾斜部58とで構成された凹部5Bを示している。下り傾斜部58は、第2クランクジャーナル31Bの軸方向中央側に配置され、水平部57は下り傾斜部58の最深端から軸方向端部に至っている。
図12(C)は、凹凸傾斜部59を有する凹部5Cを示している。凹凸傾斜部59は、出没を繰り返しながら第2クランクジャーナル31Bの軸方向中央側から軸方向端部へ、全体としては深くなる傾斜部である。このような凹部5A、5B、5Cであっても、上述の凹部5と同様の作用効果を奏する。
【符号の説明】
【0073】
1 エンジン(内燃機関)
10 エンジン本体
2 気筒
21 ピストン
22 コンロッド
3 クランクシャフト
31、31A~31E クランクジャーナル
31f F側端部(軸方向の一端側端部)
31b R側端部(軸方向の他端側端部)
33 カウンタウェイト
33A 第1カウンタウェイト(端部カウンタウェイト)
33E 第4カウンタウェイト(端部カウンタウェイト)
4 主軸受
43 ジャーナルメタル(軸受部材)
5、5A、5B、5C 凹部
51 膨出部
52 緩曲部
53 上流傾斜部
54 下流傾斜部
55 水平部
56 下り傾斜部
57 水平部
58 下り傾斜部
59 凹凸傾斜部