(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181004
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
F16C 3/18 20060101AFI20221130BHJP
F16C 17/02 20060101ALI20221130BHJP
F01M 1/06 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
F16C3/18
F16C17/02 Z
F01M1/06 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087816
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】宮内 勇馬
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 るな
【テーマコード(参考)】
3G313
3J011
3J033
【Fターム(参考)】
3G313BC20
3G313FA05
3J011AA07
3J011BA02
3J011KA02
3J011MA23
3J033AA03
3J033BA11
3J033CD02
3J033GA05
(57)【要約】
【課題】カムジャーナルの軸受部分における潤滑性を維持しつつ、カムシャフトの変形に伴うカムジャーナルの摩耗を抑制する。
【解決手段】エンジン1は、気筒2の吸排気用の開口を開閉する吸気弁25A及び排気弁25Bを備えたエンジン本体10と、前記開口を開放するよう吸気弁25A、排気弁25Bを押下するカム山231を備えたカムシャフト21A、21Bと、潤滑油を介してカムシャフト21A、21Bを軸支する軸受部材30と、を備える。カムシャフト21A、21Bは、カム山231に近接した領域に配置され軸受部材30で軸支されるカムジャーナル24と、カム山231と周方向に対向する位置に形成され、カムジャーナル24の径方向内側へ窪む凹部4とを含む。凹部4は、カムジャーナル24の軸方向中央部243よりも軸方向の端部241、242の方が深い凹部である。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸排気用の開口を有する気筒と、前記開口を開閉する弁体とを備えたエンジン本体と、
前記開口を開放するよう前記弁体を押下するカム山を備えたカムシャフトと、
潤滑油を介して前記カムシャフトを軸支する軸受部材と、を備え、
前記カムシャフトは、
前記軸受部材で軸支されるカムジャーナルと、
前記カムジャーナルにおける前記カム山と周方向に対向する位置に形成され、前記カムジャーナルの径方向内側へ窪む凹部と、を含み、
前記凹部は、前記カムジャーナルの軸方向中央側よりも軸方向端部の方が深い凹部であることを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関において、
前記凹部は、前記カムジャーナルの軸方向中央側から前記軸方向端部に向けて徐々に深さが深くなる凹部である、内燃機関。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の内燃機関において、
前記凹部は、前記カムジャーナルの軸方向及び周方向において所定の軸方向幅及び周方向幅を有し、
前記凹部の前記軸方向幅は、前記カムシャフトの回転方向上流側の方が下流側よりも幅広である、内燃機関。
【請求項4】
請求項3に記載の内燃機関において、
前記カムジャーナルを周方向に展開した平面形状における、前記凹部の平面視の形状は、
前記周方向幅の回転方向上流端近傍において急峻な曲線で軸方向中央側に膨らむ膨出部と、前記膨出部から前記周方向幅の回転方向下流端へ緩い曲線で至る緩曲部と、
を有する形状である、内燃機関。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の内燃機関において、
一つの気筒に対して吸気用及び排気用の開口が2つずつ備えられ、
前記弁体として、吸気用カムシャフト及び排気用カムシャフトの各々が、前記2つの開口を各々開閉する第1弁体及び第2弁体を備え、
前記カムシャフトは、前記第1弁体及び前記第2弁体を各々押下する第1カム山及び第2カム山を含み、
前記カムジャーナルは、前記第1カム山と前記第2カム山とに挟まれる位置に配置されている、内燃機関。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の内燃機関において、
一つの気筒に対して吸気用及び排気用の開口が2つずつ備えられ、
前記弁体として、吸気用のカムシャフト及び排気用のカムシャフトの各々が、前記2つの開口を各々開閉する第1弁体及び第2弁体を備え、
前記カムシャフトは、前記第1弁体及び前記第2弁体を各々押下する第1カム山及び第2カム山を含み、
前記カムジャーナルとして、前記第1カム山と前記第2カム山とを挟むように配置された一対のカムジャーナルを備える、内燃機関。
【請求項7】
請求項6に記載の内燃機関において、
前記エンジン本体は、所定の配列方向に一列に並ぶ複数の気筒を有し、
前記カムシャフトは、前記配列方向に延在するように配置され、
前記カムシャフトが備える前記カムジャーナルのうち、前記配列方向の一端側又は他端側に位置するカムジャーナルは、前記第1カム山又は前記第2カム山と対向する側にだけ前記凹部が設けられている、内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カムシャフトのカムジャーナルを、潤滑油を介して軸受部材で軸支する構造を備えた内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関は、気筒の吸気ポートを開閉する吸気弁及び排気ポートを開閉する排気弁を動作させるカムシャフトを備える。前記カムシャフトは、吸気弁又は排気弁のステムエンドを押下するカム山と、シリンダヘッドの軸受部材に軸支される部分となるカムジャーナルとを備える。前記カムジャーナルは、潤滑油を介して滑り軸受で軸支される。特許文献1には、クランクシャフトの被軸支部分となるクランクジャーナルではあるが、その外表面に複数の凹部を設け、潤滑油の保持性を高めるようにした内燃機関が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関の燃費向上には、各種の機械的損失の低減が求められる。上記の潤滑油についても、粘度が低い低粘度油を使用することが、摺動面の摩擦損失の抑制の観点から望ましい。しかし、低粘度油を使用した場合、カムジャーナルの軸受部分で潤滑不良が発生し、カムジャーナルに摩耗が発生する懸念がある。また、カムシャフトには、カム山が吸気弁又は排気弁を押下したときに軸方向と交差する方向に荷重が加わるため、変形力が作用する。このため、カムジャーナル自体の変形による摩耗の発生も問題となる。
【0005】
本発明の目的は、カムジャーナルの軸受部分における潤滑性を維持しつつ、カムシャフトの変形に伴うカムジャーナルの摩耗を抑制できる内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面に係る内燃機関は、吸排気用の開口を有する気筒と、前記開口を開閉する弁体とを備えたエンジン本体と、前記開口を開放するよう前記弁体を押下するカム山を備えたカムシャフトと、潤滑油を介して前記カムシャフトを軸支する軸受部材と、を備え、前記カムシャフトは、前記軸受部材で軸支されるカムジャーナルと、前記カムジャーナルにおける前記カム山と周方向に対向する位置に形成され、前記カムジャーナルの径方向内側へ窪む凹部とを含み、前記凹部は、前記カムジャーナルの軸方向中央側よりも軸方向端部の方が深い凹部であることを特徴とする。
【0007】
カム山が弁体を押下すると、当該弁体の押下荷重がカムシャフトに作用する。前記押下荷重は、カムシャフトの軸方向と交差する方向の荷重であり、カム山の部分を前記弁体の押下方向とは反対側に変形させるような荷重である。カムシャフトは、当該カムシャフトを軸支するためのカムジャーナルを備える。このため、前記押下荷重に基づく変形力は、カムジャーナルの周面を軸受部材側に接近させる方向に作用する。つまり、カム山と周方向に対向する位置において、カムジャーナルの周面が軸受部材に接触し易い状態を形成する。
【0008】
上記の内燃機関によれば、前記カム山と周方向に対向する位置に凹部が形成され、且つ、前記凹部はカムジャーナルの軸方向中央側よりも前記軸方向端部の方が深い凹部である。このため、弁体の押圧荷重がカムシャフトに加わっても、前記カム山と周方向に対向する位置において、前記カムジャーナルの周面と軸受部材との間のクリアランスは前記凹部によって確保され、両者の接触を回避することができる。一方、前記凹部が設けられない領域では、カムジャーナルの周面と軸受部材との間のクリアランスを小さく設定することが可能である。このため、低粘度油を潤滑油として用いても、油抜けが生じ難く、潤滑性を確保することができる。従って、カムジャーナルの軸受部分で潤滑性の維持と、カムジャーナルの摩耗防止とを両立することができる。
【0009】
上記の内燃機関において、前記凹部は、前記カムジャーナルの軸方向中央側から前記軸方向端部に向けて徐々に深さが深くなる凹部であることが望ましい。
【0010】
弁体の押下荷重がカムシャフトに加わると、前記カム山と周方向に対向する位置において、カムジャーナルの軸方向端部が最も軸受部材に接近する方向に変形し、軸方向中央に向かうに連れて変形量が少なくなる。上記の内燃機関によれば、このようなカムジャーナルの変形態様にマッチした深さ分布を有する凹部とすることができ、より好適に潤滑性を確保と摩耗防止とを図ることができる。
【0011】
上記の内燃機関において、前記凹部は、前記カムジャーナルの軸方向及び周方向において所定の軸方向幅及び周方向幅を有し、前記凹部の前記軸方向幅は、前記カムシャフトの回転方向上流側の方が下流側よりも幅広であることが望ましい。
【0012】
とりわけ、前記カムジャーナルを周方向に展開した平面形状における、前記凹部の平面視の形状は、前記周方向幅の回転方向上流端近傍において急峻な曲線で軸方向中央側に膨らむ膨出部と、前記膨出部から前記周方向幅の回転方向下流端へ緩い曲線で至る緩曲部と、を有する形状であることがより望ましい。
【0013】
本発明者らの解析によれば、弁体の押下荷重は、前記カム山と周方向に対向する位置において、カムシャフトの回転方向上流側部分の方が下流側の部分よりも大きい傾向があることが判明した。より詳しくは、回転方向上流端近傍において最も大きな荷重が加わり、回転方向下流端に向かうに連れて前記荷重が漸減してゆくことが判明した。上記の内燃機関によれば、このような荷重傾向に沿った軸方向幅を有する凹部とすることができ、カムジャーナルと軸受部材との接触をより確実に防止することができる。
【0014】
上記の内燃機関において、一つの気筒に対して吸気用及び排気用の開口が2つずつ備えられ、前記弁体として、吸気用カムシャフト及び排気用カムシャフトの各々が、前記2つの開口を各々開閉する第1弁体及び第2弁体を備え、前記カムシャフトは、前記第1弁体及び前記第2弁体を各々押下する第1カム山及び第2カム山を含み、前記カムジャーナルは、前記第1カム山と前記第2カム山とに挟まれる位置に配置されている構成とすることができる。
【0015】
この内燃機関によれば、カムジャーナルが第1カム山と第2カム山とに挟まれる位置に配置されるので、当該カムジャーナルに対して凹部は、前記第1カム山と周方向に対向する位置と、前記第2カム山と周方向に対向する位置とに各々設けられる。従って、前記第1カム山が第1弁体から、前記第2カム山が第2弁体から各々受ける押下荷重がカムシャフトに加わっても、前記カムジャーナルの周面と軸受部材との間のクリアランスを各々の凹部によって確保することができる。
【0016】
上記の内燃機関において、一つの気筒に対して吸気用及び排気用の開口が2つずつ備えられ、前記弁体として、吸気用のカムシャフト及び排気用のカムシャフトの各々が、前記2つの開口を各々開閉する第1弁体及び第2弁体を備え、前記カムシャフトは、前記第1弁体及び前記第2弁体を各々押下する第1カム山及び第2カム山を含み、前記カムジャーナルとして、前記第1カム山と前記第2カム山とを挟むように配置された一対のカムジャーナルを備える構成とすることができる。
【0017】
この内燃機関によれば、一対のカムジャーナルの一方には、第1カム山が第1弁体から受ける押下荷重が、他方には第2カム山が第2弁体から受ける押下荷重が専ら作用する。これら押下荷重が加わっても、前記一対のカムジャーナルの各々の周面と軸受部材との間のクリアランスを、各々の凹部によって確保することができる。
【0018】
上記の内燃機関において、前記エンジン本体は、所定の配列方向に一列に並ぶ複数の気筒を有し、前記カムシャフトは、前記配列方向に延在するように配置され、前記カムシャフトが備える前記カムジャーナルのうち、前記配列方向の一端側又は他端側に位置するカムジャーナルは、前記第1カム山又は前記第2カム山と対向する側にだけ前記凹部が設けられている構成とすることができる。
【0019】
第1カム山と第2カム山とを挟むように一対のカムジャーナルを配置する態様では、前記配列方向の一端側又は他端側に位置するカムジャーナルについては、軸方向の内側にしかカム山が存在しない。上記の内燃機関によれば、カムシャフトの端部に位置するカムジャーナルについて、前記第1カム山又は前記第2カム山と対向する側にだけ前記凹部が設けられる。従って、無用にカムジャーナルと軸受部材との間にクリアランスが形成されることはなく、潤滑性の確保とカムジャーナルの摩耗防止とを両立させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、カムジャーナルの軸受部分における潤滑性を維持しつつ、カムシャフトの変形に伴うカムジャーナルの摩耗を抑制できる内燃機関を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明に係る内燃機関の一例であるエンジンの外観を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、上記エンジンが備える動弁機構の断面を含む、上記エンジンの気筒列方向に沿った縦断面図である。
【
図4】
図4は、カムによる弁体の押圧動作を説明するための模式図である。
【
図5】
図5(A)~(C)は、カムによる弁体の押圧動作を経時的に示す図、
図5(D)は、カムに加わる押下荷重を示すグラフである。
【
図6】
図6は、カムシャフトの一例を示す図であって、カムの回転位相とカムジャーナルに加わる弁体の押下荷重の位置との関係を示す図である。
【
図7】
図7は、弁体の押下荷重が加わったときのカムジャーナルの変形状況を示す模式図である。
【
図8】
図8(A)は、カムジャーナルに設けられる凹部の一例を示す簡略断面図、
図8(B)は、前記凹部の作用を示す図である。
【
図9】
図9は、本発明の第1実施形態に係るカムシャフトを示す断面図である。
【
図10A】
図10Aは、前記凹部の軸方向プロファイルを示す、カムジャーナル表面の展開図である。
【
図10B】
図10Bは、前記凹部の深さ方向プロファイルを示す、カムジャーナル表面の展開図である。
【
図11】
図11は、カムシャフトの一例を示す図であって、カムの回転位相とカムジャーナルに加わる弁体の押下荷重の位置との関係を示す図である。
【
図12】
図12は、本発明の第2実施形態に係るカムシャフトを示す断面図である。
【
図13】
図13(A)~(C)は、第2実施形態のカムシャフトにおいて形成される凹部の軸方向プロファイルを示す、カムジャーナル表面の展開図である。
【
図14】
図14(A)~(C)は、前記凹部の変形例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態に係る内燃機関を詳細に説明する。本実施形態では、内燃機関の一例として、自動車等の車両の走行駆動用の動力源として前記車両に搭載されるエンジンを例示する。
【0023】
[エンジンの構造]
図1は、本実施形態に係るエンジン1の外観を示す斜視図である。エンジン1は、4サイクル直列4気筒のエンジンである。
図1及び他のいくつかの図には、エンジン1の前側、後側を各々示すF、Rの方向表示が付されている。エンジン1は、エンジン本体10と、エンジン本体10の上部に組み込まれた動弁機構20とを含む。
図2は、動弁機構20の断面を含む、エンジン1の気筒列方向に沿った縦断面図である。
図3は、動弁機構20の斜視図である。
【0024】
エンジン本体10は、シリンダブロック11及びシリンダヘッド12を備える。シリンダブロック11は、エンジン前後方向F-R(所定の配列方向)に沿って一列に並ぶ4つの気筒2を有する。各気筒2の内部には、ピストンが往復摺動可能に収容されている。シリンダブロック11は、さらに多くの気筒2を含んでいても良く、例えば直列6気筒のエンジン1用であっても良い。また、エンジン本体10の下方内部には、前記ピストンの往復運動を回転運動に変換するクランクシャフト16が配設されている。
【0025】
シリンダヘッド12は、シリンダブロック11の上面に取り付けられ、気筒2の上部開口を塞いでいる。シリンダヘッド12には、気筒2内に吸気を取り入れる開口である吸気ポート14と、
図1及び
図2には現れない排気用の開口である排気ポートとが形成されている。各気筒2は、吸気2バルブ×排気2バルブの4バルブ形式にて、吸気系及び排気系と接続されている。
図1及び
図2には、第1吸気ポート14A及び第2吸気ポート14Bのペアからなる吸気ポート14が4セット、気筒配列方向に並んでいる様子が表出している。
【0026】
シリンダヘッド12には、吸気ポート14を開閉する吸気弁25A(弁体)と、前記排気ポートを開閉する排気弁25B(弁体)とが装備されている。動弁機構20は、シリンダヘッド12の上面に組付けられている。この動弁機構20を覆うように、シリンダヘッド12の上面には、図略のシリンダヘッドカバーが取り付けられる。
【0027】
動弁機構20は、吸気弁25A及び排気弁25Bが吸気ポート14及び前記排気ポートを開閉するよう駆動する機構である。動弁機構20により、吸気弁25A及び排気弁25Bが前記クランクシャフトの回転に連動するように駆動される。この駆動により、吸気弁25Aのバルブヘッド251が吸気ポート14のポート開口14H(
図4)を開閉する。排気弁25Bも同様である。
【0028】
吸気弁25A及び排気弁25Bは、ポペット型バルブであり、実際に吸気ポート14及び前記排気ポートを開閉するバルブヘッド251と、バルブヘッド251から上方に延びるステム252と、ステム252の上端であって動弁機構20から押下力を受けるステムエンド253とを備える。ステム252にはバルブスプリング254が挿通されている。バルブスプリング254の一端は、ステム252に固定されたスプリング座255に当止されている。
【0029】
[動弁機構の詳細]
続いて、動弁機構20の詳細構造及び動作について説明する。動弁機構20は、吸気弁用カムシャフト21A及び排気弁用カムシャフト21Bと、ローラーロッカーアーム26と、ラッシュアジャスタ27と、潤滑油を介してカムシャフト21A、21Bを軸支する軸受部材30とを含む。吸気弁用カムシャフト21A及び排気弁用カムシャフト21Bは、クランクシャフト16とチェーン又はベルトで連結され、クランクシャフト16の回転に連動して軸回りに回転駆動される。
【0030】
吸気弁用カムシャフト21Aは、直列に並ぶ8つの吸気弁25Aの上方に配置されている。同様に、排気弁用カムシャフト21Bは、直列に並ぶ8つの排気弁25Bの上方に配置されている。吸気弁用カムシャフト21A及び排気弁用カムシャフト21Bは各々、シャフト本体22、カム23及びカムジャーナル24を備えている。シャフト本体22は、吸気弁25A又は排気弁25Bの配列長に対応した長さで、エンジン前後方向F-Rに直線状に延在している。シャフト本体22の内部には、冷却オイルの流通乃至は軽量化等の目的で、カムシャフト21A、21Bの軸方向に延びる中空孔22Hが形成されている。
【0031】
カム23は、8つの吸気弁25A又は8つの排気弁25Bの配置位置に各々対応する箇所において、シャフト本体22に配設されている。カム23は、カム山231及びベースサークル232を備える。カム山231は、カム23の長径部であり、吸気ポート14又は前記排気ポートを開放するよう、ローラーロッカーアーム26を介して吸気弁25A又は排気弁25Bを押下する。なお、ローラーロッカーアーム26を介することなく、カム山231が吸気弁25A又は排気弁25Bを直接押下する直動式の構成としても良い。ベースサークル232は、カム23の短径部であり、シャフト本体22よりも大きい径を有している。
【0032】
カムジャーナル24は、カムシャフト21A、21Bが軸受部材30によって軸支される部分である。カムジャーナル24は、シャフト本体22よりもやや大径に形成され、カム23に近接した領域に配置される。本実施形態では、一つの気筒13に対して配設される一対のカム23の間に、一つのカムジャーナル24が配置されている。
【0033】
ローラーロッカーアーム26は、カム23の押下力を梃子の作用を利用して吸気弁25A又は排気弁25Bへ伝達させる部材であり、8つのカム23の各々に対して配置されている。ローラーロッカーアーム26は、カム23の周面と接触するローラー261と、このローラー261を軸支するスイングアーム262とを含む。スイングアーム262の一端側には、吸気弁25A又は排気弁25Bのステムエンド253を押下するコンタクト部263が形成されている。スイングアーム262の他端側は、当該スイングアーム262の揺動支点となるピボット部264が形成されている。
【0034】
ラッシュアジャスタ27は、ステムエンド253とコンタクト部263との間のバルブクリアランスを自動調整する。ラッシュアジャスタ27としては、エンジンオイルの油圧を利用した油圧式ラッシュアジャスタを用いることができる。ラッシュアジャスタ27は、摩耗等によって前記バルブクリアランスが拡がると、内部に貯留するオイル量を多くして前記バルブクリアランスを縮小させる。
【0035】
軸受部材30は、カムシャフト21A、21Bの各カムジャーナル24を、潤滑油を介して軸支する。軸受部材30は、ヘッド側軸受31及びカムキャップ32を含む。ヘッド側軸受31とカムキャップ32との係合により作られる軸支体により、カムジャーナル24が保持されている。ヘッド側軸受31は、シリンダヘッド12に一体的に形成された軸受部分であり、カムジャーナル24の下半分の環状周面を軸支する。カムキャップ32は、カムジャーナル24の上半分の環状周面を軸支する半円形の軸受部分を備えた部材であり、ヘッド側軸受31にネジ止め等により固定される。ヘッド側軸受31及びカムキャップ32の内周面と、カムジャーナル24の外周面との間には、潤滑油が供給される。カムシャフト21A、21Bが軸回りに回転すると前記潤滑油の油膜圧力が発生し、その油膜によってカムジャーナル24の回転が支えられる。
【0036】
図4は、カム23による吸気弁25Aの押圧動作を説明するための模式図である。なお、排気弁25Bについても以下の説明と同様の動作となる。カム23の周面は、
図4では図略のバルブスプリング254のバネ力により、常時ローラーロッカーアーム26のローラー261の周面に当接している。
図4では、カム23のベースサークル232がローラー261と接している状態を実線で示している。この状態では、スイングアーム262のコンタクト部263は、吸気弁25Aのステムエンド253を実質的に押下していない。このため、吸気弁25Aのバルブヘッド251はバルブシート15に当接しており、吸気ポート14のポート開口14Hは閉じられている。
【0037】
図4の状態からカム23が時計方向への回転が進むと、図中で点線にて示す通り、カム23のカム山231がローラー261と接する状態となる。この状態では、カムリフト分だけローラー261が下方に押下され、スイングアーム262はピボット部264を揺動点として下方に傾く。この傾き動作により、コンタクト部263はステムエンド253を下方に押し下げる。このため、バルブヘッド251はバルブシート15から下方へ離間して気筒13内に進入し、ポート開口14Hを開放する。この際、カム23の、カム山231と周方向に対向する位置には、
図4において点線の矢印で示すように、吸気弁25Aの押下荷重Fが作用することになる。この押下荷重Fについて、さらに説明を加える。
【0038】
[弁体の押下荷重とその影響]
図5(A)~(C)は、カム23のカム山231による吸気弁25Aの押圧動作を経時的に示す図、
図5(D)は、カム23に加わる押下荷重Fを示すグラフである。
図5(A)は、カム山231がローラー261に接し始める接触初期(カムシャフト21Aの回転方向の位相=θ1)の状態を示している。カム山231とローラー261との接触位置から、カム23の径方向の反対側に向けて押下荷重Fが作用する。この接触初期は、
図5(D)に示すように、押下荷重Fは急激に大きくなる時期である。これは、吸気弁25Aの押下開始時に、カム23が比較的大きな押圧力を要することによる。
【0039】
図5(B)は、カム山231のローラー261への接触が進んだ接触中期の前半(回転方向の位相=θ2)の状態を示している。スイングアーム262は、ピボット部264を揺動支点として比較的大きく下方に揺動し、コンタクト部263は吸気弁25Aを押し下げている。この状態は、まだカム山231の頂点がローラー261に接する前の状態であるものの、
図5(D)に示すように押下荷重Fは最大となる状態である。
【0040】
図5(C)は、カム山231とローラー261との接触が終わりに近い接触後期(回転方向の位相=θ3)の状態を示している。位相=θ2以降は、緩やかに押下荷重Fが低下してゆく。カム山231の頂点を過ぎた後は、吸気弁25Aが上昇する方向の動作をすることもあり、押下荷重Fがより緩やかに低下する傾向となる。さらに回転が進んで、カム山231とローラー261との係合が外れると、押下荷重Fは消失する。
【0041】
図5(A)~(C)には、カム山231とローラー261との接触によってカム23に押下荷重Fが作用するカム高荷重箇所PAが示されている。カム高荷重箇所PAは、カム山231と周方向に対向する箇所、換言するとカムシャフト21Aの軸心を挟んでカム山231と反対側の箇所においてカム23に発生する。図中において、カム高荷重箇所PAが三日月型の形状で表されている。これは、押下荷重Fの分布を模式的に示すために、押下荷重Fが大きい箇所ほど、径方向の厚みが厚くなるよう描いている為である。但し、カム高荷重箇所PAは、実際には単純な三日月型を描く荷重分布ではなく、
図5(D)に示す通り、荷重重心が回転方向上流側に偏心した荷重分布となる。
【0042】
図6は、
図1~
図3に示した吸気弁用カムシャフト21A(排気弁用カムシャフト21B)を簡略的に示す図であって、カム23の回転位相と、カムジャーナル24に加わる吸気弁25A(排気弁25B)の押下荷重の位置との関係を示す図である。図中の#1~#4の符号は、エンジン前後方向F-Rに並ぶ4つの気筒13を示している。既述の通り、吸気弁用カムシャフト21Aには、4バルブ形式の#1~#4気筒の各々に対して2個のカム23が配置され、2個のカム23の中間にカムジャーナル24が配置されている。
【0043】
このような配置関係とされる結果、シャフト本体22においてカムジャーナル24はカム23(カム山231)に近接した領域に配置されている。ここで、「近接した領域」とは、カム23が受ける押下荷重Fによってシャフト本体22に変形力が作用する領域である。例えば、
図2に示すように、カムジャーナル24とカム23との軸方向の間隔が、カム23の一つ分の軸方向幅程度であることは、「近接した領域」の典型例である。
【0044】
図6では、#4気筒に対応する吸気弁25Aがローラーロッカーアーム26を介してカム山231で押下され、#1~#3気筒についてはカム山231がローラー261と係合しない位相にある状態を示している。#4気筒のカム23については、上述したカム高荷重箇所PAに現に押下荷重Fが作用している。一方、#1~#3気筒のカム23については、カム高荷重箇所PAとなる箇所に押下荷重Fは作用していない。
【0045】
カム23においてカム高荷重箇所PAに押下荷重Fが作用すると、連動してカムジャーナル24にも高荷重が加わるジャーナル高荷重箇所PBが発生する。ジャーナル高荷重箇所PBの発生位置は、カム高荷重箇所PAと同じく、カム山231を周方向に対向する位置である。このジャーナル高荷重箇所PBでは、カム23に加わる押下荷重Fに由来する、カムジャーナル24の変形が生じる。
図7は、吸気弁25Aの押下荷重Fが加わったときのカムジャーナル24の変形状況を示す模式図である。
【0046】
カムジャーナル24は、ヘッド側軸受31とカムキャップ32との係合によって作られる滑り軸受の軸支体によって、回転自在に支持されている。ヘッド側軸受31及びカムキャップ32の内周面とカムジャーナル24の外周面との間には、潤滑油の油膜LBが形成されている。カム山231がローラーロッカーアーム26のローラー261を押下すると、カム山231と周方向に対峙するカム高荷重箇所PAに向けて押下荷重Fが作用する。この押下荷重Fは、
図7に点線で示す如く、カム23を上方に持ち上げるようにカムシャフト21A(シャフト本体22)を変形させる変形力Fwを発生させる。なお、
図7ではカム23の変形が誇張して描かれている。
【0047】
このようにカム23が変形すると、カム23に近接しているカムジャーナル24にもジャーナル高荷重箇所PBが発生し、カムジャーナル24も変形する。本実施形態では、一対のカム23に挟まれる位置にカムジャーナル24が配置されており、これら一対のカム23が上方に持ち上がるようにシャフト本体22が変形する。このため、カムジャーナル24は、軸方向の両端部が持ち上げられるように弓なりに変形する。このような変形は、カムジャーナル24のF側及びR側端部付近の外周面を、カムジャーナル24の上半分の環状周面を軸支しているカムキャップ32の内周面に接近させる。つまり、カムジャーナル24がカムキャップ32に接触し易い状態が形成されてしまう。#1~#3気筒についても、カム23の回転方向の位相が#4気筒と同じになるときに、カムジャーナル24のジャーナル高荷重箇所PBに変形が生じることとなる。
【0048】
機械抵抗の抑制には、ヘッド側軸受31及びカムキャップ32の内周面とカムジャーナル24との間の隙間を小さくし、これにより油膜LBを可及的に薄くすることが望ましい。しかし、前記隙間を小さくすると、押下荷重Fがカム23に加わることに起因するカムジャーナル24の変形により、カムジャーナル24とカムキャップ32との接触が生じ、かえって機械抵抗の増大、摩耗の促進を招来することになりかねない。この問題に鑑み、本実施形態では、全体的には前記隙間を小さく保ちつつ、カムジャーナル24とカムキャップ32との接触を回避できる形状的工夫を、カムジャーナル24に施している。以下、この形状的工夫について説明する。
【0049】
[本実施形態のカムジャーナル]
本実施形態では、上記のようなカムジャーナル24の弓なり変形が生じたとしても、カムジャーナル24とカムキャップ32との接触を回避出来ると共に、潤滑油の維持性を損なわないようにした、カムジャーナル24の具体例を示す。
図8を参照して、本実施形態のカムジャーナル24は、当該カムジャーナル24の径方向内側へ窪む凹部4を備える。凹部4は、カム山231と周方向に対向する位置、つまりカム山231の突出位置と反対側の位置において、カムジャーナル24の周面に形成される。また、凹部4は、カムジャーナル24の軸方向中央側よりも前記軸方向端部の方が深い凹部である。
【0050】
図8(A)は、カムジャーナル24に設けられる凹部4の一例を示す簡略断面図、
図8(B)は、凹部4の作用を示す図である。ここでは、カムジャーナル24のF側に近接するカム23のカム山231が、押下荷重Fを受ける位相にあるとする。この場合、カムジャーナル24のF側であってカム山231と反対側の領域に、
図6に示したようなジャーナル高荷重箇所PBが発生する。凹部4は、そのような領域に対応する部分を凹没させるように設けられている。
【0051】
凹部4は、カムジャーナル24の軸方向中央部243からF側端部241(軸方向端部)に向けて徐々に深さが深くなる傾きを持つ断面形状を有している。すなわち、F側端部241において凹部4は、最も径方向内側へ深く窪んでいる。
図7に示したように、押下荷重Fがカム23に加わると、カム山231と周方向に対向する位置において、カムジャーナル24のF側端部241が最もカムキャップ32に接近する方向に変形し、軸方向中央に向かうに連れて変形量が少なくなる。つまりF側端部241付近の変形量が最も大きくなる。凹部4は、このようなカムジャーナル24の変形態様にマッチした深さ分布を有している。なお、
図8では凹部4の深さが誇張して描かれており、実際の凹部4の最深部の深さは、数ミクロン~数十ミクロン程度である。
【0052】
図8(A)には、カムキャップ32の内周面とカムジャーナル24の外周面との間のクリアランスG1、G2が示されている。凹部4が形成されていないR側端部242寄りの箇所のクリアランスG1は、滑り軸受の潤滑油粘度等を考慮して設定される標準クリアランスに設定されている。一方、凹部4が形成されているF側端部241寄りの箇所のクリアランスG2は、G1に比べて大きく、F側端部241において最も大きくなっている。
【0053】
図8(B)には、押下荷重Fが加わったときの、カム23及びカムジャーナル24(凹部4)の変形態様が点線で示されている。既述の通り、押下荷重Fがカム23に加わると、カム23が上方に持ち上がるようにシャフト本体22が変形する。この変形に追従して、カムジャーナル24のF側端部241寄りの部分が、カムキャップ32に接近する方向に変形する。このような変形が生じても、凹部4が存在していることにより、カムジャーナル24とカムキャップ32との間のクリアランスG3が確保される。従って、両者の接触を回避することができる。
【0054】
凹部4は、カムジャーナル24におけるF側端部241寄りの部分の全周に設けられるのではなく、ジャーナル高荷重箇所PBに対応する箇所だけを凹没させるように設けられる。凹部4をカムジャーナル24に形成することは、対峙するカムキャップ32との間のクリアランスを拡張することとなり、潤滑油が前記クリアランスから逃げ出す油抜けを生じさせ得る。本実施形態では、ジャーナル高荷重箇所PBに対応する箇所だけに凹部4が設けられ、凹部4が設けられない領域では、カムジャーナル24の周面とカムキャップ32との間は標準のクリアランスG1に設定される。従って、前記油抜けは最小限に抑制される。
【0055】
また、凹部4は、カムジャーナル24の軸方向中央部243からF側端部241に向けて徐々に深さが深くなるプロファイルを有する。この点においても、前記クリアランスが徒に拡張しない工夫が為されている。このため、例えば0W8クラスの低粘度油を潤滑油として用いても、前記油抜けが生じ難く、潤滑性を確保することができる。従って、カムキャップ32(軸受部材30)における潤滑性の維持と、カムジャーナル24の摩耗防止とを両立することができる。
【0056】
[凹部の配置位置と具体的形状/第1実施形態]
続いて、カムシャフト21A、21Bに対する凹部4の配置位置、及び、凹部4の具体的形状について説明する。凹部4は、
図6に示した、カムジャーナル24のジャーナル高荷重箇所PBに相当する位置に設けられる。
図9は、第1実施形態に係るカムシャフト21A、21Bを示す断面図である。
図9には、
図6の#4気筒に対応するカムジャーナル24及び軸受部材30と、これに近接するカム23と、凹部4の形成態様とが示されている。#1~#3気筒についても、ジャーナル高荷重箇所PBに同様な凹部4が形成される。
【0057】
図6及び
図9に示す吸気弁用カムシャフト21Aのカムジャーナル24は、一対のカム23に挟まれるように配置されている。F側のカム山231(第1カム山)は、第1吸気ポート14A(
図2)を開閉する吸気弁25A(第1弁体)を押下し、R側のカム山231(第2カム山)は、第2吸気ポート14Bを開閉する吸気弁25A(第2弁体)を押下する。排気弁用カムシャフト21Bの場合も同様である。カムジャーナル24は、F側カム山231とR側カム山231との双方に近接して挟まれる位置に配置されている。
【0058】
このような配置では、カムジャーナル24におけるF側カム山231及びR側カム山231と周方向に対向する位置に、それぞれジャーナル高荷重箇所PBが発生する。従って、凹部4として、カムジャーナル24のF側に第1凹部4aが、R側に第2凹部4bが、各々設けられる。第1凹部4aは、カムジャーナル24のF側端部241において最も深く、軸方向中央部243に向けて徐々に浅くなる形状を有している。第2凹部4bは、R側端部242において最も深く、軸方向中央部243に向けて徐々に浅くなる形状を有している。このような配置により、F側カム山231及びR側カム山231から押下荷重Fがカムシャフト21Aに加わっても、カムジャーナル24の周面とカムキャップ32との間のクリアランスを第1凹部4a及び第2凹部4bによって確保することができる。
【0059】
次に、凹部4の具体的形状について説明する。
図10Aは、凹部4の軸方向プロファイルを示す、カムジャーナル24の表面の展開図、すなわちカムジャーナル24を周方向に展開した平面形状を示す図である。凹部4は、カムジャーナル24の軸方向(幅方向)及び周方向(回転方向)において所定の軸方向幅及び周方向幅を有している。凹部4の前記軸方向幅は、カムジャーナル24(カムシャフト21A、21B)の回転方向上流側の方が下流側よりも幅広である形状を有している。つまり、凹部4の平面視の形状を、回転方向において上流側と下流側(回転方向の前半側と後半側と同義)との二つに区分した場合、凹部4は前記下流側より前記上流側の方が比較的広い前記軸方向幅を有している。なお、軸方向幅は、カムジャーナル24のF側端部241又はR側端部242から凹部4の軸方向中央側のエッジまでの長さである。また、周方向幅は、回転方向に沿った凹部の幅である。
【0060】
より詳しくは、カムジャーナル24を周方向に展開した平面視の形状において、凹部4は、回転方向上流側の膨出部41と、回転方向下流側の緩曲部42とを備える滴型の形状を有している。膨出部41は、凹部4の前記周方向幅の回転方向上流端近傍において、急峻な曲線で軸方向中央側に膨らむ部分である。緩曲部42は、膨出部41から前記周方向幅の回転方向下流端へ緩い曲線で至る部分である。つまり、凹部4の軸方向中央側のエッジは、回転方向上流端からF側端部241又はR側端部242に対して急峻に立ち上がり、回転方向上流側の領域において最大幅となるピーク位置に至り、以降は緩やかにF側端部241又はR側端部242に接近する曲線形状を有している。
【0061】
このような凹部4の平面視形状は、
図5(D)に示した、カム23に加わる押下荷重Fの分布に対応している。押下荷重Fの分布は、カム山231の頂点がローラー261と接するよりも回転方向上流側の位相=θ2にピークを有し、荷重重心が回転方向上流側に偏心した滴型の分布を有している。つまり、回転方向上流端近傍において最も大きな押下荷重Fがカム23に加わり、回転方向下流端に向かうに連れて押下荷重Fが漸減してゆく傾向がある。このような荷重傾向がカム23のカム高荷重箇所PA(
図6)に現れ、これに追従してカムジャーナル24のジャーナル高荷重箇所PBにも同様な荷重傾向が現れる。このため、ジャーナル高荷重箇所PBは、回転方向上流側に荷重重心が偏心した滴型の分布を有する。このようなジャーナル高荷重箇所PBの荷重傾向に沿うように、凹部4の軸方向プロファイルもまた、回転方向上流側が幅広となるような滴型の形状を有している。これにより、カムジャーナル24とカムキャップ32との接触を確実に防止することができる。
【0062】
凹部4の窪み深さも、ジャーナル高荷重箇所PBの荷重傾向に沿うように設定される。つまり、カムジャーナル24において荷重が大きく加わる部分ほど、凹部4の深さが深く設定される。
図10Bは、回転方向に沿った凹部4の深さ方向プロファイルを示す、カムジャーナル24の展開側面図である。このプロファイルは、F側端部241又はR側端部242における凹部4の深さ方向プロファイルである。なお、このプロファイルも、深さ方向のサイズを誇張している。
【0063】
凹部4は、窪み形状において、回転方向上流側の上流傾斜部43と、回転方向下流側の下流傾斜部44とを備えている。上流傾斜部43は、凹部4の周方向幅の回転方向上流端から回転方向中央部LCに向かう方向に第1の傾きL1で深くなる傾斜面を有する。凹部4の最深部MDは、回転方向中央部LCよりも上流側に位置している。下流傾斜部44は、最深部MDから回転方向下流端に向けて第2の傾きL2で浅くなる傾斜面を有する。第1の傾きL1と第2の傾きL2との関係は、両者の傾き方向を揃えた場合、L1>L2の関係にある。つまり、凹部4は、回転方向の上流側で急峻に深くなり、最深部MDよりも下流側では緩やかに浅くなる窪み形状を有している。例えば、L1,L2をカムジャーナル24の周面の接線に対してなす角で比較する場合、L1は、L2の1.2倍~3倍程度に設定することができる。
【0064】
本発明者らの解析によれば、カムシャフト21A、21Bの変形に伴うカムジャーナル24とカムキャップ32との直接接触によるエネルギー損失は、接触の前半期間が比較的急峻に立ち上がり、後半期間は比較的に緩やかに下降する特性を示す。前記直接接触は、カムジャーナル24の摩耗要因となるので、接触の前半期間では摩耗量が大きく、後半期間では摩耗量が小さいということになる。従って、第1の傾きL1及び第2の傾きL2を備えた深さプロファイルを有する凹部4をカムジャーナル24に設けることで、上記のエネルギー損失特性に即した接触摩耗回避対策を施すことができる。
【0065】
図10Bに示す凹部4の回転方向の深さプロファイルを、
図10Aに示した軸方向プロファイルに関連付けると、凹部4の軸方向幅が長い部分ほど、凹部4の軸方向端部(F側端部241又はR側端部242)における深さが深いという関係となる。なお、軸方向の深さプロファイルは、軸方向中央側(滴型のエッジ)からF側端部241又はR側端部242に向けて徐々に深さが深くなる凹部4である点は、
図8(A)に示した基本例と同様である。
【0066】
つまり、ジャーナル高荷重箇所PBの荷重分布に沿って、荷重が大きい箇所は比較的深く、荷重が小さい所は比較的浅くなるように、凹部4の深さプロファイルが設定される。この実施形態によれば、凹部4の軸方向幅が長く且つ窪みが深い部分が、カムジャーナル24において最も大きい押下荷重Fを受ける部分に配置される。従って、カムジャーナル24のカムキャップ32への接触による摩耗を的確に回避することができる。
【0067】
[凹部の配置位置と具体的形状/第2実施形態]
続いて、
図6とは異なるタイプのカムシャフト21A、21Bに、本発明を適用する例について説明する。
図11は、異なるタイプの吸気弁用カムシャフト21A(排気弁用カムシャフト21B)を簡略的に示す図であって、カム23の回転位相と、カムジャーナル24に加わる押下荷重Fの位置との関係を示す図である。図中の#1~#4の符号は、エンジン前後方向F-Rに並ぶ4つの気筒13を示している。4バルブ形式の#1~#4気筒の各々に対して2個のカム23が配置されている点は、
図6の例と同じである。
図6と相違する点は、
図11のカムシャフト21Aでは、2個のカム23を挟むように、カムジャーナル24(カムキャップ32)が配置されている点である。
【0068】
カムシャフト21Aのシャフト本体22は、#1~#4気筒が各々備える一対の吸気弁25Aを押下する一対のカム23(第1カム山及び第2カム山)を4組備えている。さらに、シャフト本体22は、一対のカム23を挟むように配置された、第1~第5カムジャーナル24A、24B、24C、24D、24Eを備える。これら5つのカムジャーナル24A~24Eの上半面は、それぞれカムキャップ32A、32B、32C、32D、32Eで軸支されている。
図11では、#4気筒に対応する吸気弁25Aがローラーロッカーアーム26を介してカム山231で押下され、#1~#3気筒についてはカム山231がローラー261と係合しない位相にある状態を示している。すなわち、#4気筒のカム23のカム高荷重箇所PAだけに現に押下荷重Fが作用している。
【0069】
図6に示すカムシャフト21Aでは、一つのカムジャーナル24が#1~#4気筒のいずれかの一対のカム23で挟まれる構造である。このため、一対のカム23のカム高荷重箇所PAによって作られる2つのジャーナル高荷重箇所PBは、カムジャーナル24の周面の同じ位相の部分に現れる。しかし、
図11のタイプのカムシャフト21Aでは、2つのジャーナル高荷重箇所PBがカムジャーナル24の周面の異なる位相の部分に現れたり、1つのジャーナル高荷重箇所PBしか現れなかったりする。
【0070】
#1~#4気筒の配列方向において、最もF側の第1カムジャーナル24Aについては、#1気筒のF側カム23のカム山231(第1カム山)と周方向に対向する箇所(周方向180度の位置)において、当該第1カムジャーナル24AのR側にだけジャーナル高荷重箇所PBが生じることになる。一方、最もR側の第5カムジャーナル24Eについては、#4気筒のR側カム23のカム山231(第2カム山)と周方向に対向する箇所(周方向0度の位置)において、そのF側にだけジャーナル高荷重箇所PBが生じることになる。
【0071】
一方、F側2番目の第2カムジャーナル24Bについては、カム山231の突出位相の異なる#1気筒のR側カム23と#2気筒のF側カム23とから押下荷重Fの影響を受ける。従って、第2カムジャーナル24BのF側とR側とに、各カム23のカム山231とそれぞれ周方向に対向する箇所にジャーナル高荷重箇所PBが生じ得る。
図11の例では、第2カムジャーナル24BのF側では周方向180度の位置が、R側では周方向270度の位置が、それぞれジャーナル高荷重箇所PBの発生予定箇所となる。第3、第4カムジャーナル24C、24Dについても、第2カムジャーナル24Bと同様に、異なる周方向位置においてF側とR側とにジャーナル高荷重箇所PBが現れる。
【0072】
図12は、第2実施形態に係るカムシャフト21A(21B)を示す断面図である。
図12には、
図11の#4気筒に対応する一対のカム23と、これらのカム23を挟むように配置された第4、第5カムジャーナル24D、24E及びその軸受部材30と、第4、第5カムジャーナル24D、24Eに対する凹部4の形成態様と、が示されている。
【0073】
既述の通り、第5カムジャーナル24Eについては、#4気筒のR側カム23のカム山231と反対側の箇所だけがジャーナル高荷重箇所PBとなる。従って、凹部4として、第5カムジャーナル24EのF側におけるジャーナル高荷重箇所PBにだけ、第1凹部4Aが設けられる。第1凹部4Aは、第5カムジャーナル24EのF側端において最も深く、軸方向中央側に向けて徐々に浅くなる形状を有している。
【0074】
第4カムジャーナル24Dについては、カム山231の突出位相の異なる#3気筒のR側カム23と#4気筒のF側カム23とから押下荷重Fの影響を受ける。このため、第4カムジャーナル24DのR側には、#4気筒のF側カム23のカム山231と反対側に対応する箇所に、第2凹部4Bが設けられる。一方、第4カムジャーナル24DのF側には、#3気筒のR側カム23のカム山231と反対側に対応する箇所に、第3凹部4Cが設けられる。第2凹部4Bは第4カムジャーナル24Dの周方向0度の位置に、第3凹部4Cは、周方向90度の位置に、各々設けられる。
【0075】
第1カムジャーナル24Aについては、第5カムジャーナル24Eとミラーの態様で、第2、第3カムジャーナル24B、24Cについては第4カムジャーナル24Dと同様にして、それぞれ凹部4が形成される。このような凹部4の配置により、各々のカム23のカム山231から押下荷重Fがカムシャフト21Aに加わっても、カムジャーナル24の周面とカムキャップ32との間のクリアランスを各々の凹部4によって確保することができる。
【0076】
図13(A)~(C)は、第2実施形態のカムシャフト21Aにおいて形成される凹部4の軸方向プロファイルを示す、カムジャーナル表面の展開図である。
図13(A)は、最もF側の第1カムジャーナル24Aに設けられる凹部4を、周方向に展開した平面形状として示す図である。第1カムジャーナル24Aは、その周方向180度の位置に形成され、R側端部242から軸方向中央側に延びる一つの凹部4を備える。この凹部4は、先に
図10Aで例示したものと同様の、滴型の形状を有する。すなわち、凹部4は、回転方向上流側の膨出部41と、回転方向下流側の緩曲部42とを備える。第5カムジャーナル24Eの凹部4は、この第1カムジャーナル24Aと対称に、F側端部241を基準として形成される。なお、凹部4の深さプロファイルは、
図10Bに例示した通りに設定される。
【0077】
図13(B)は、第2カムジャーナル24Bに設けられる凹部4を示す。第2カムジャーナル24Aは、F側端部241から軸方向中央側に延びるF側凹部4と、R側端部242から軸方向中央側にR側凹部4とを備える。これら凹部4も、膨出部41及び緩曲部42を備える滴型の形状を有する。F側凹部4は、第2カムジャーナル24Bの周方向180度の位置付近に、R側凹部4は周方向270度の位置付近に形成される。第4カムジャーナル24Dについても、同様の位相関係で、F側及びR側凹部4が設けられる。
【0078】
図13(C)は、第3カムジャーナル24Cに設けられる凹部4を示す。第3カムジャーナル24Cも、F側端部241から軸方向中央側に延びるF側凹部4と、R側端部242から軸方向中央側にR側凹部4とを備える。これら凹部4も、膨出部41及び緩曲部42を備える滴型の形状を有し、第3カムジャーナル24Cの周方向に互いに対向する位置関係で配置される。F側凹部4は、第3カムジャーナル24Cの周方向90度の位置付近に、R側凹部4は周方向270度の位置付近に形成される。
【0079】
以上説明した第2実施形態によれば、一つのカムジャーナル24について、F側とR側とで異なる周方向位置にジャーナル高荷重箇所PBが発生するようなカムシャフト21Aであっても、カムジャーナル24の各々の周面と軸受部材30(カムキャップ32)との間のクリアランスを、各々の凹部4によって確保することができる。また、カムシャフト21Aの端部に位置する第1、第5カムジャーナル24A、24Eについては、近接する一つのカム23に対応した一つの凹部4だけが設けられる。従って、無用にカムジャーナル24A、24Eと軸受部材30との間にクリアランスが形成されることはなく、潤滑性の確保とカムジャーナルの摩耗防止とを両立させることができる。
【0080】
[変形例]
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような変形実施形態を取ることができる。
【0081】
(1)上記実施形態では、直列4気筒のエンジン1に対応したカムシャフト21A、21Bを例示した。カムシャフト21A、21Bは、他の多気筒型エンジン、例えば直列6気筒用のカムシャフトであっても良い。
【0082】
(2)上記実施形態では、カムジャーナル24の軸方向中央側から軸方向端部(F側端部241又はR側端部242)に向けて徐々に深さが深くなる凹部4を例示した。凹部4は、カムジャーナル24の軸方向中央側よりも軸方向端部の方が深いという関係を満たす限りにおいて、種々の変形実施形態を取ることができる。
図14(A)~(C)に、変形例に係る凹部4-1、4-2、4-3を示す。
【0083】
図14(A)は、階段型の窪み形状を有する凹部4-1を示すカムジャーナル24の概略断面図である。凹部4-1は、傾斜のない水平部45と、傾きを有する傾斜部46とが交互に連なる窪み形状を有し、カムジャーナル24の軸方向中央側よりも軸方向端部の方が窪み深さが深くなっている。
図14(B)は、一つの水平部47と一つの傾斜部48とで構成された凹部4-2を示している。傾斜部48は、カムジャーナル24の軸方向中央側に配置され、水平部47は傾斜部48の最深端から軸方向端部に至っている。
図14(C)は、凹凸傾斜部49を有する凹部4-3を示している。凹凸傾斜部49は、出没を繰り返しながらカムジャーナル24の軸方向中央側から軸方向端部へ、全体としては深くなる傾斜部である。このような凹部4-1、4-2、4-3であっても、上述の凹部4と同様の作用効果を奏する。
【符号の説明】
【0084】
1 エンジン(内燃機関)
10 エンジン本体
13 気筒
14 吸気ポート
14H ポート開口(吸排気用の開口)
21A 吸気弁用カムシャフト(カムシャフト)
21B 排気弁用カムシャフト(カムシャフト)
23 カム
231 カム山
24 カムジャーナル
241 F側端部(軸方向端部)
242 R側端部(軸方向端部)
243 軸方向中央部
25A、25B 吸気弁、排気弁(弁体)
30 軸受部材
31 ヘッド側軸受
32 カムキャップ(軸受部材)
4 凹部
41 膨出部
42 緩曲部