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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181007
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】通信装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04L 27/00 20060101AFI20221130BHJP
   H04W 12/06 20210101ALI20221130BHJP
【FI】
H04L27/00 Z
H04W12/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087819
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】慶應義塾
(71)【出願人】
【識別番号】501061319
【氏名又は名称】学校法人 東洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100122275
【弁理士】
【氏名又は名称】竹居 信利
(72)【発明者】
【氏名】陳 寅
(72)【発明者】
【氏名】中澤 仁
(72)【発明者】
【氏名】朱 金暁
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067EE12
(57)【要約】
【課題】無線通信デバイスの識別に利用可能な、無線通信デバイスが放射する無線通信信号の特徴の種類を豊富化し、無線通信デバイスの識別に寄与できる通信装置及びプログラムを提供する。
【解決手段】既知のデータを表す無線通信信号を受信して得た受信信号を取得し、当該受信信号に基づき、所定の信号空間内の信号点の移動軌跡の情報を生成し、当該生成した移動軌跡の情報を用い、受信信号に基づく、所定信号空間内での信号点間の移動軌跡のフラクタル次元情報を演算する通信装置である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既知のデータを表す無線通信信号を受信して得た受信信号を取得する取得手段と、
前記受信信号に基づき、所定の信号空間内の信号点の移動軌跡の情報を生成し、当該生成した移動軌跡の情報を用い、前記受信信号に基づく、所定信号空間内での信号点間の移動軌跡のフラクタル次元情報を演算する演算手段と、
を含み、
当該演算したフラクタル次元情報が、前記無線通信信号の発信元の認証処理に供される通信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の通信装置であって、
前記演算手段は、前記所定信号空間内の信号点のいずれかを参照シンボルの信号点として、前記受信信号から得た、当該参照シンボル以外のシンボルに係る信号点を、参照シンボルの信号点に変換して、前記フラクタル次元情報を演算する通信装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の通信装置であって、
前記受信信号に基づき、前記フラクタル次元情報とは異なる所定の特徴量情報を生成する特徴量演算手段をさらに含み、
前記演算されたフラクタル次元情報と、前記特徴量演算手段により演算された所定の特徴量情報とが前記無線通信信号の発信元の認証処理に供される通信装置。
【請求項4】
請求項3に記載の通信装置であって、
前記特徴量情報は、
キャリア周波数誤差、
振幅誤差、
受信信号の信号点のI/Qバランス、
位相誤差、
SYNC相関のうち少なくとも一つである通信装置。
【請求項5】
コンピュータを、
既知のデータを表す無線通信信号を受信して得た受信信号を取得する取得手段と、
前記受信信号に基づき、所定の信号空間内の信号点の移動軌跡の情報を生成し、当該生成した移動軌跡の情報を用い、前記受信信号に基づく、所定信号空間内での信号点間の移動軌跡のフラクタル次元情報を演算する演算手段と、
当該演算したフラクタル次元情報を用いて、前記無線通信信号の発信元の認証処理を行う手段と、
として機能させるプログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信デバイスの普及により、通信先となっている無線通信デバイスの識別が重要な課題となってきている。従来、無線通信デバイスの識別の方法としては、IMEI(International Mobile Equipment Identity)などの固有の識別情報を、無線通信デバイスに記憶させておく方法などが採用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Vladimir Brik et al., Wireless device identification with radiometric signatures, In Proceedings of the 14th ACM International Conference on Mobile Computing and Networking, MobiCom ’08, page 116127, New York, USA, 2008, Association for Computing Machinery
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の方法では、固有の識別情報を盗用するなどのなりすましが防止しきれないといった問題点があった。そこで近年、無線通信デバイスが放射する無線通信信号の特徴(radiometric feature)に基づく無線通信デバイスの識別方法が研究されている(非特許文献1)。ここで無線通信デバイスの識別に用いられる無線通信信号の特徴としては、周波数誤差、SYNC相関、I/Qオフセット、振幅誤差、位相誤差などが研究されている。しかしながら、既存の無線通信信号の特徴の種類が少ないため、達成した識別精度が不十分である。さらに、識別精度を向上するため、無線通信信号から抽出できる、無線通信信号の特徴の種類を豊富化することが求められている。
【0005】
本発明は上記実情に鑑みて為されたもので、無線通信デバイスの識別に利用可能な、無線通信デバイスが放射する無線通信信号の特徴の種類を豊富化し、無線通信デバイスの識別に寄与できる通信装置及びプログラムを提供することを、その目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記従来例の問題点を解決するための本発明の一態様は、通信装置であって、既知のデータを表す無線通信信号を受信して得た受信信号を取得する取得手段と、前記受信信号に基づき、所定の信号空間内の信号点の移動軌跡の情報を生成し、当該生成した移動軌跡の情報を用い、前記受信信号に基づく、所定信号空間内での信号点間の移動軌跡のフラクタル次元情報を演算する演算手段と、を含み、当該演算したフラクタル次元情報が、前記無線通信信号の発信元の認証処理に供されることとしたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、無線通信デバイスが放射する無線通信信号の特徴の種類の一つとして受信信号に係る所定の信号空間内の信号点の移動軌跡の情報のフラクタル次元情報を用いることを可能として、無線通信デバイスの識別に利用可能な、無線通信デバイスが放射する無線通信信号の特徴の種類を豊富化し、無線通信デバイスの識別に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の形態に係る通信装置の構成例を表すブロック図である。
図2】本発明の実施の形態に係る通信装置の例を表す機能ブロック図である。
図3】本発明の実施の形態に係る通信装置の動作例を表すフローチャート図である。
図4】本発明の実施の形態に係る通信装置が行う演算処理の内容を表す説明図である。
図5】本発明の実施の形態に係る通信装置が行う演算処理の内容を表すもう一つの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本発明の実施の形態に係る通信装置1は、図1に例示するように、制御部11と、記憶部12と、操作部13と、出力部14と、通信部15とを含んで構成される。
【0010】
ここで制御部11は、CPU等のプログラム制御デバイスであり、記憶部12に格納されたプログラムに従って動作する。本実施の形態の一例においてこの制御部11は、既知のデータを表す無線通信信号を受信して得た受信信号を取得し、当該受信信号に基づき、所定の信号空間内の信号点の移動軌跡の情報を生成して、当該生成した移動軌跡の情報を用い、受信信号に基づく、所定信号空間内での信号点間の移動軌跡のフラクタル次元情報を演算する。そして制御部11は、当該演算したフラクタル次元情報を用いて、無線通信信号の発信元の認証処理を行う。この制御部11の詳しい動作の内容については後に説明する。
【0011】
記憶部12は、制御部11によって実行されるプログラムを保持するメモリデバイス等である。本実施の形態の例では、この記憶部12は、制御部11のワークメモリとしても動作する。
【0012】
操作部13は、利用者の操作を受け入れて、当該操作の内容を表す情報を制御部11に出力する。出力部14は、制御部11から入力される指示に従い、情報を表示あるいは音声として鳴動して出力する。
【0013】
通信部15は、他の通信装置2(この通信装置2は通信装置1と同じ構成となるものであるが、ここでは区別のため符号を変えて説明する)が送出する無線通信信号を受信して受信信号を出力する受信部151と、制御部11から入力される指示に従って、指示された情報を無線通信信号に変調し、他の通信装置2へと送出する送信部152とを含む。
【0014】
次に、制御部11の動作について説明する。制御部11は、図2に例示するように、取得部21と、特徴量演算部22と、認証処理部24とを機能的に含んで構成されている。また、特徴量演算部22は、フラクタル演算部221と、他の特徴量演算部222とを含む。なお、後に説明するように、他の特徴量演算部222は、必ずしも必要ではないが、ここでは例示的な構成として他の特徴量演算部222を備える例を示している。
【0015】
取得部21は、既知の(送信されるデータが予め知られている)データを表す無線通信信号を受信して得た受信信号を、通信部15から取得する。本実施の形態の一例では、この既知のデータを表す無線通信信号は、IEEE802.11bのプリアンブル信号であるものとする。このプリアンブル信号は、固定された「0」または「1」を表す信号の列である。なお、使用する通信方式に応じて、この既知のデータ部分は異なることとなる。
【0016】
以下、この既知のデータ列が、
【数1】
であるものとする。ここでxは、I/Q変調されたシンボルであり、BPSK(Binary Phase Shift Keying)では「0」または「1」、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)では「00」、「01」、「10」、または「11」…などである。
【0017】
また以下では、受信信号を、
【数2】
と表記する。ここでx′i(i=0,1,…,N)は、シンボルxiに対応する、所定の信号空間での信号点の位置を表す。ここでは、所定の信号空間としてI/Q空間(横軸にI、縦軸にQ成分をとった二次元空間)を用いる。
【0018】
特徴量演算部22のフラクタル演算部221は、取得部21が取得した受信信号に基づき、所定の信号空間としてのI/Q空間内での信号点の移動軌跡の情報を生成する。具体的にこのフラクタル演算部221は、I/Q空間での、受信信号が表す各信号点x′i(i=0,1,…,N)の位置を時系列順に結んでできる折れ線、すなわち、受信信号が表す信号点の移動軌跡の情報を次のように生成する。まずフラクタル演算部221は、計算を容易にするために、どのシンボルに対応する信号点も、同じ、所定の参照シンボルの信号点となるよう、受信信号の各信号点のうち、参照シンボル以外のシンボルに対応する信号点を、I/Q空間内で回転させる(つまり移相する)。
【0019】
例えば受信信号がBPSKで変調されたものであったときには「1」のシンボルを参照シンボルとして、シンボル「0」に対応する信号点x′iについては上記I/Q空間内でπだけ回転させる。これによると、当該所定の参照シンボルの信号点の周囲での信号の変動が表された状態となる。
【0020】
なお、ここではBPSKのように移相のみで各シンボルに対応する信号点を、参照シンボルの信号点に変換できる例を示したが、QAM等、振幅が互いに異なる信号点を含む信号の場合には、フラクタル演算部221は、増幅(負の増幅を含む)及び移相により、各シンボルに対応する信号点を、参照シンボルの信号点に変換すればよい。
【0021】
フラクタル演算部221は、予め定めたスケールパラメータτを用い、受信信号の(n-1)・τ番目のシンボル(所定の参照シンボルに一致させたもの)と、n・τ番目のシンボル(所定の参照シンボルに一致させたもの)との距離Lτ,nを、当該シンボルの信号点間のユークリッド距離:
【数3】
を求めて記憶する。なお、ここでτは2以上の自然数とする。
【0022】
また、フラクタル演算部221は、
【数4】
を求めて記憶する。
【0023】
そしてフラクタル演算部221は、当該生成した移動軌跡の情報を用い、取得部21が取得した受信信号に基づく、上記所定信号空間内での信号点間の移動軌跡のフラクタル次元情報を演算して、受信信号の特徴量の一つとして出力する。
【0024】
ここでは、スケールファクターτを2以上(例えば「3」とする)としたときのあるシンボル列でのLτ,nの総和と、対応するシンボル列でのL1,nの総和との比の対数を、τの対数で除した値に比例する値を、上記移動軌跡のフラクタル次元とする。一例として、このフラクタル次元は、
【数5】
としておけばよい。
【0025】
ここで、
【数6】
は、aを超えない最大の整数を表す。このフラクタル次元の定義は、H E Schepers, J H G M Van Beek, and James B Bassingthwaighte, “Four methods to estimate the fractal dimension from self-affine signals (medical application)”, IEEE Engineering in Medicine and Biology Magazine, 11(2):57-64, 1992に記載の方法に基づくものである。
【0026】
他の特徴量演算部222は、受信信号に基づいて、CFO(キャリア周波数誤差)、振幅誤差、I/Qバランス、位相誤差、SYNC相関など、予め定めた少なくとも一つの種類の特徴量を演算して出力する。これらの特徴量の演算については広く知られているので、ここでの詳しい説明は省略する。
【0027】
なお、CFOは、例えば、Weikun Hou, Xianbin Wang, Jeanyves Chouinard, and Ahmed Refaey, “Physical layer authentication for mobile systems with time-varying carrier frequency offsets”, IEEE Transactions on Communications, 62(5):1658-1667, 2014に開示されており、振幅誤差、I/Qオフセット、位相誤差、SYNC相関等については、VladimirBrik, SumanBanerjee, MarcoGruteser, and SanghoOh, “Wire- less device identification with radiometric signatures”, In Proceedings of the 14th ACM International Conference on Mobile Computing and Networking, MobiCom ’08, page 116127, New York, NY, USA, 2008. Association for Computing Machineryに開示されている。また、I/Qバランスについては、N. T. Nguyen, G. Zheng, Z. Han, and R. Zheng, “Device fingerprinting to enhance wireless security using nonparametric bayesian method”, In 2011 Proceedings IEEE INFOCOM, pages 1404-1412, 2011に開示がある。
【0028】
認証処理部24は、フラクタル演算部221が演算したフラクタル次元の情報と、他の特徴量演算部222が演算した特徴量の情報とに基づいて、受信信号の元となった無線通信信号の発信元となった他の通信装置2を認証する。
【0029】
具体的にこの認証処理部24は、認証処理を行うに先立って、学習処理を実行しておく。この学習処理では、認証の対象となり得る複数の通信装置2ごとに、それぞれの通信装置2からの受信信号に基づき、フラクタル演算部221によるフラクタル次元の情報と、他の特徴量演算部222が演算する特徴量の情報とを得ておき、上記通信装置2ごとの、対応するフラクタル次元を含む複数種類の特徴量を所定の順序で配列した分類対象特徴ベクトルを生成しておく。
【0030】
そして認証処理部24は、分類対象特徴ベクトルを、広く知られたクラスタリングの方法を用いて分類し、各通信装置2を分類するための条件を得ておく。具体的にここでのクラスタリングの方法は、k近傍法や、サポートベクターマシンなどでよい。これらによる分類の結果が、各通信装置2を分類するための条件(分類条件)となる。
【0031】
また認証処理を実行する際には、認証処理部24は、認証の対象となった通信装置2からの受信信号を受けて、フラクタル演算部221が演算したフラクタル次元の情報と、他の特徴量演算部222が演算した特徴量の情報とを用いて、これらを所定の順で配列して分類対象特徴ベクトルを生成する。
【0032】
そして認証処理部24は、各通信装置2を分類するための分類条件となったk近傍法でのクラスタリングの結果等を用い、生成した分類対象特徴ベクトルを分類する。認証処理部24は、この分類の結果、どの通信装置2と同じ分類に属することとなったかにより、認証の対象となった通信装置がどの通信装置2であるかを認証し、その認証の結果を出力する。
【0033】
なお、ここでは認証処理部24が、フラクタル演算部221が演算したフラクタル次元の情報と、他の特徴量演算部222が演算した特徴量の情報との双方に基づいて、分類対象特徴ベクトルを生成し、受信信号の元となった無線通信信号の発信元となった通信装置2を認証することとしたが、本実施の形態はこれに限られず、認証処理部24は、フラクタル次元の情報によって認証を行ってもよい。例えば、既知のデータに基づく無線通信信号を複数回受信した後に、当該複数回受信した無線通信信号に基づく受信信号のそれぞれから上記フラクタル次元の情報を得て、ベクトル情報を生成し、分類処理を実行してもよい。この場合には、認証処理にフラクタル次元以外の特徴量を用いないので、他の特徴量演算部222は必ずしも必要ではない。
【0034】
[動作]
本実施の形態は以上の構成を基本的に備えており、次のように動作する。本実施の形態の通信装置1は、認証の対象となり得る通信装置2(無線通信信号を送信する側)j(j=1,2,…のそれぞれについて予め、各通信装置2に固有な、通信装置を特定する情報(装置特定情報)Tj(j=1,2,…)を割り当てておき、これら各通信装置2に係る特徴を機械学習する処理を実行しておく。
【0035】
この機械学習の過程では、通信装置1は、認証の対象となり得る通信装置2の各々が送出する、既知のデータ(後の認証処理で用いるデータと必ずしも同一でなくてよい)に基づく無線通信信号をそれぞれ受信して受信信号
【数2】
を得ておく。
【0036】
そして通信装置1は、各通信装置2からの無線通信信号に基づいて取得した受信信号ごとに、以下の処理を繰り返す。すなわち通信装置1は、対応する通信装置2から取得した受信信号を参照し、I/Q空間での、受信信号の各信号点x′i(i=0,1,…,N)の移動軌跡の情報を生成する。すなわち通信装置1は、まず、いずれのシンボルに対応する受信点も、同じ、所定の参照シンボルの信号点となるよう、受信信号の各信号点のうち、参照シンボル以外のシンボルに対応する信号点を、I/Q空間内で座標変換する。
【0037】
通信装置1は、予め定めたスケールパラメータτ(例えば「3」とする)を用い、受信信号の(n-1)・τ番目のシンボル(所定の参照シンボルに一致させたもの)と、n・τ番目のシンボル(所定の参照シンボルに一致させたもの)との距離Lτ,nを、当該シンボルの信号点間のユークリッド距離:
【数3】
として演算して記憶する。
【0038】
また、通信装置1は、
【数4】
を求めて記憶する。
【0039】
通信装置1は、こうして生成したI/Q空間での信号点の移動軌跡の情報を用い、取得した受信信号に基づく、上記所定信号空間内での信号点間の移動軌跡のフラクタル次元情報を次の式により演算して出力する。
【数5】
【0040】
また通信装置1は、取得した受信信号に基づいて、CFO(キャリア周波数誤差)の特徴量を演算する。通信装置1は、これら、フラクタル次元を求める処理と特徴量を求める処理とを通信装置2ごとに繰り返す。
【0041】
通信装置1は、こうして、認証の対象となり得る通信装置2ごとに、当該通信装置2から送出した無線通信信号に基づく受信信号に係るフラクタル次元情報を含む複数種類の特徴量の情報を得る。そして、認証の対象となり得る通信装置2-j(j=1,2,…)ごとに、得られたフラクタル次元情報を含む複数種類の特徴量の情報を所定の順に配列した分類対象特徴ベクトルVj(j=1,2,…)を得て、これを所定のクラスタリングの処理(例えばk近傍法)により分類して各通信装置2の認証の判断の基準となる分類条件を得ておく。k近傍法を用いる場合、分類条件は、クラスラベルである装置特定情報Njと、対応する分類対象特徴ベクトルVjとを関連付けたものとなる。
【0042】
その後、通信装置1は、図3に例示する認証処理を実行可能となる。通信装置1は、認証の対象となった通信装置2から無線通信信号を受信し、受信信号
【数2】
を得ると、当該受信信号に基づいてI/Q空間での、受信信号の各信号点x′i(i=0,1,…,N)の移動軌跡の情報を生成する。すなわち通信装置1は、まず、いずれのシンボルに対応する受信点も、同じ、所定の参照シンボルの信号点となるよう、受信信号の各信号点のうち、参照シンボル以外のシンボルに対応する信号点を、I/Q空間内で座標変換する(S11)。
【0043】
通信装置1は、予め定めたスケールパラメータτ(例えば「3」とする)を用い、受信信号の(n-1)・τ番目のシンボル(所定の参照シンボルに一致させたもの)と、n・τ番目のシンボル(所定の参照シンボルに一致させたもの)との距離Lτ,nを、当該シンボルの信号点間のユークリッド距離:
【数3】
として演算して記憶する。
【0044】
また、通信装置1は、
【数4】
を求めて記憶する。
【0045】
通信装置1は、こうして生成したI/Q空間での信号点の移動軌跡の情報を用い、取得した受信信号に基づく、上記所定信号空間内での信号点間の移動軌跡のフラクタル次元情報を次の式により演算して出力する(S12)。
【数5】
【0046】
具体的な例として、BPSKで変調された無線通信信号の受信信号は、図4に例示するようにシンボル「0」に対応する信号点Zと、シンボル「1」に対応する信号点Yとが存在し、受信信号の信号点x′は、送信側となった通信装置に固有の性質等により、これら本来の信号点Y,Zから若干ずれた位置となる。本実施の形態では、まずシンボル「1」に対応する受信信号の信号点yをπだけ移相して(以下、移相した信号点を区別するときには「変換信号点」と呼ぶ)、シンボル「0」に対応する受信信号の信号点y′に変換する。なお、図4では図示した内容を分かりやすくするため、信号点yの一つ信号点y1を、πだけ移相して、信号点y1′とした例を示しているが、実際には信号点yのそれぞれをπだけ移相し、この結果、すべての受信信号の信号点が、参照シンボル(ここではシンボル「0」)Z近傍の位置に変換される。
【0047】
この信号を時系列順に連結した例を図5に示す。図5(a)は第1の通信装置2aが放出した無線通信信号の受信信号に基づく信号点(位置を変換した変換信号点を含む)の移動軌跡であり、図5(b)は第1の通信装置2aとは異なる第2の通信装置2bが放出した無線通信信号の受信信号に基づく信号点(位置を変換した変換信号点を含む)の移動軌跡である。
【0048】
通信装置1は、図5(a),図5(b)に例示したような信号点の移動軌跡(信号点を時系列に結んだ折れ線となる)のフラクタル次元情報を求める。ここでの例では、図5(a)に示した信号点の移動軌跡のフラクタル次元情報は1.54であり、図5(b)に示した信号点の移動軌跡のフラクタル次元情報は1.86である。
【0049】
また通信装置1は、取得した受信信号に基づいて、CFO(キャリア周波数誤差)の特徴量を演算する(S13)。なお、ここでは便宜的に、ステップS12,S13の処理をこの順に説明しているが、ステップS11からS13までの処理は並列的に実行されてもよいし、ステップS12,S13の処理順はここでの説明とは逆順であってもよい。
【0050】
通信装置1は、こうして、認証の対象となった他の通信装置1についてのフラクタル次元情報と、それ以外の特徴量の情報とを得る。そして、これらフラクタル次元情報を含む複数種類の特徴量の情報を所定の順に配列した分類対象特徴ベクトルVtargetを生成し(S14)、当該生成した分類対象特徴ベクトルVtargetを、学習処理により得た分類条件を用いて分類する(S15)。
【0051】
具体的に、上述のように学習処理中に得た分類対象特徴ベクトルVj(j=1,2,…)とそれに対応する装置特定情報Nj(j=1,2,…)とを関連付けて保持している場合、通信装置1は、当該分類条件として保持している分類対象特徴ベクトルの各々Vjと、ステップS14で生成した分類対象特徴ベクトルVtargetとの距離(ユークリッド距離でよい)djを求める。そして求めた距離djのうち最小の距離に対応する、分類条件に係る分類対象特徴ベクトルVk(Vkは、分類対象ベクトルVjのいずれか)を見出す。通信装置1は、分類条件から、当該見出した対象特徴ベクトルVkに関連付けられた装置特定情報Nkを得て分類の結果とする。そして通信装置1は、当該得られた、装置特定情報を出力する(S16)。
【0052】
[変形例]
ここまでの説明において用いた受信信号のシンボルの列に基づくフラクタル次元の演算方法は一例であり、フラクタル次元の演算方法は他の方法であってもよい。例えば、H E Schepers, J H G M Van Beek, and James B Bassingthwaighte, “Four methods to estimate the fractal dimension from self-affine signals (medical application)”, IEEE Engineering in Medicine and Biology Magazine, 11(2):57-64, 1992に開示された他の方法を利用して行ってもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 通信装置、11 制御部、12 記憶部、13 操作部、14 出力部、15 通信部、21 取得部、22 特徴量演算部、24 認証処理部、151 受信部、152 送信部、221 フラクタル演算部、222 特徴量演算部。

図1
図2
図3
図4
図5