(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181013
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】空気流量演算システム
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20221130BHJP
【FI】
F02D45/00 360Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087828
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】522193547
【氏名又は名称】株式会社エー・アンド・デイ
(72)【発明者】
【氏名】安野 啓介
(72)【発明者】
【氏名】小島 桂一郎
【テーマコード(参考)】
3G384
【Fターム(参考)】
3G384AA01
3G384AA07
3G384BA04
3G384CA11
3G384CA14
3G384DA04
3G384DA20
3G384EC01
3G384ED05
3G384ED06
3G384FA08Z
3G384FA56Z
3G384FA57Z
3G384FA86Z
(57)【要約】
【課題】エンジンに流入する空気流量を高精度に算出することができる空気流量演算システムを提供する。
【解決手段】エンジンEGに流入する空気の吸気圧を計測する吸気圧センサ10と、吸気圧センサ10が計測した吸気圧を用いてエンジンEGの筒内に流入する空気流量を算出する情報処理装置100とを備えた空気流量演算システムWであって、情報処理装置100は、吸気圧センサ10が計測した吸気圧を微分し、微分して得られた微分値からエンジンEGの挙動が定常及び過渡のいずれかであるかを判定し、吸気圧センサ10が計測した吸気圧から、判定した挙動に応じて定めたフィルタ演算式により高周波成分を除去するフィルタ処理を行うフィルタ処理部110と、フィルタ処理部110によりフィルタ処理された吸気圧を用いてエンジンEGの筒内に流入する空気流量を算出する空気流量演算部120と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの吸気管に設置され該エンジンに流入する空気の吸気圧を計測する吸気圧センサと、該吸気圧センサが計測した吸気圧を用いて該エンジンの筒内に流入する空気流量を算出する情報処理装置とを備えた空気流量演算システムであって、
前記情報処理装置は、
前記吸気圧センサが計測した吸気圧を微分し、該微分して得られた微分値から該エンジンの挙動が定常及び過渡のいずれかであるかを判定し、前記吸気圧センサが計測した吸気圧から、前記判定した挙動に応じて定めたフィルタ演算式により高周波成分を除去するフィルタ処理を行うフィルタ処理部と、
前記フィルタ処理部によりフィルタ処理された吸気圧を用いて前記エンジンの筒内に流入する空気流量を算出する空気流量演算部と、を備えていることを特徴とする空気流量演算システム。
【請求項2】
前記フィルタ処理部は、
前記吸気圧の微分値が所定閾値以下であれば前記エンジンの挙動が定常であると判定し、該定常に対応して定めたカットオフ周波数が設定されている第1フィルタ演算式を用いて、前記吸気圧センサが計測した吸気圧から高周波成分を除去し、
前記吸気圧の微分値が前記所定閾値より大きければ前記エンジンの挙動が過渡であると判定し、該過渡に対応して定めたカットオフ周波数が設定されている第2フィルタ演算式を用いて、前記吸気圧センサが計測した吸気圧から高周波成分を除去することを特徴とする請求項1に記載の空気流量演算システム。
【請求項3】
前記過渡と判定されたときに用いられる前記第2フィルタ演算式は、前記定常と判定したときに用いられる前記第1フィルタ演算式よりもカットオフ周波数が高くなっていることを特徴とする請求項2に記載の空気流量演算システム。
【請求項4】
前記エンジンの回転軸の回転数を計測するエンコーダを備え、
前記フィルタ処理部は、
前記高周波成分を除去する前に、前記エンコーダが計測した前記回転数を取得し、該取得した回転数から変動周波数を算出し、該算出した変動周波数を用いて、前記吸気圧センサが計測した吸気圧から変動成分を除去するようになっていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の空気流量演算システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気流量演算システムに関し、例えば、エンジンに設置された吸気圧センサの計測値からエンジンの燃焼制御に必要な空気流量を算出する空気流量演算システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のエンジンに流入する空気の圧力(吸気圧)を計測する吸気圧センサの計測値から燃焼制御に必要となる、エンジンに流入する空気流量(バルブ通過流量)を算出する手法が知られている。例えば、非特許文献1には、吸気圧センサの計測値からエンジンのバルブ通過流量を算出する手法が提案されている。
【0003】
なお、非特許文献1には、下記の(式1)に示すように、吸気圧からバルブ通過流量の算出するための演算式が開示されている。
【数1】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】西馬 功泰、二木 一、木村 英紀 著、「拡張カルマンフィルタを用いた自動車エンジン制御のための筒内吸気量推定」、計測自動制御学会論文集、Vol.33,No.5,397/402(1997)、1997年5月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した従来技術のように、エンジンに設置された吸気圧センサが計測した吸気圧(エンジンに流入する空気の吸気圧)から空気流量(バルブ通過流量)を算出する場合、エンジンのサイクル変動に起因した圧力変動が吸気圧でも観測され、バルブ通過流量が振動した形で算出されるという課題が生じる。そのため、上述した従来技術では、エンジンに流入する空気の吸気圧からエンジンに流入する空気流量(バルブ通過流量)を高精度に算出できなかった。
なお、エンジンの回転数より算出されるサイクル変動周波数から、ノッチフィルタにより、上記の圧力変動を取り除くことができるが、ノッチフィルタの設定パラメータを一意に設定すると、変動の大きさや燃焼バラツキに起因する周波数のばらつきにより、全ての領域で適切なフィルタ処理ができない。特に過渡応答特性を維持したパラメータ調整を実施すると、定常での変動を抑えることが困難になる。また、過渡及び定常の両者を満足するパラメータ調整は、エンジンの回転数に応じて可変するノッチフィルタの構成では実現できない。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、エンジンに流入する空気流量を高精度に算出することができる空気流量演算システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は、エンジンの吸気管に設置され該エンジンに流入する空気の吸気圧を計測する吸気圧センサと、該吸気圧センサが計測した吸気圧を用いて該エンジンの筒内に流入する空気流量を算出する情報処理装置とを備えた空気流量演算システムであって、前記情報処理装置は、前記吸気圧センサが計測した吸気圧を微分し、該微分して得られた微分値から該エンジンの挙動が定常及び過渡のいずれかであるかを判定し、前記吸気圧センサが計測した吸気圧から、前記判定した挙動に応じて定めたフィルタ演算式により高周波成分を除去するフィルタ処理を行うフィルタ処理部と、前記フィルタ処理部によりフィルタ処理された吸気圧を用いて前記エンジンの筒内に流入する空気流量を算出する空気流量演算部と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
また、前記フィルタ処理部は、前記吸気圧の微分値が所定閾値以下であれば前記エンジンの挙動が定常であると判定し、該定常に対応して定めたカットオフ周波数が設定されている第1フィルタ演算式を用いて、前記吸気圧センサが計測した吸気圧から高周波成分を除去し、前記吸気圧の微分値が前記所定閾値より大きければ前記エンジンの挙動が過渡であると判定し、該過渡に対応して定めたカットオフ周波数が設定されている第2フィルタ演算式を用いて、前記吸気圧センサが計測した吸気圧から高周波成分を除去することが望ましい。
また、前記過渡と判定されたときに用いられる前記第2フィルタ演算式は、前記定常と判定したときに用いられる前記第1フィルタ演算式よりもカットオフ周波数が高くなっていることが望ましい。
【0009】
このように、本発明の空気流量演算システムでは、エンジンに流入する空気の吸気圧を計測する吸気圧センサが計測した吸気圧を微分して得られた微分値からエンジンの挙動が定常及び過渡のいずれかであるかを判定している。また、本発明の空気流量演算システムでは、上記の判定した挙動に応じて定めたフィルタ演算式により、計測した吸気圧から高周波成分を除去するフィルタ処理を行っている。すなわち、本発明では、エンジンの挙動が定常か過渡かに応じてフィルタ演算式を切り替えて、吸気圧センサが計測した吸気圧から高周波成分を除去するフィルタ処理を行っている。
【0010】
そして、上記のように、エンジンの挙動が定常か過渡かによりフィルタ演算式を切り替えているのは以下の理由による。
具体的には、エンジンの挙動が定常の場合、計測した吸気圧の変動をできるだけ除去することが望ましい。また、エンジンの挙動が過渡の場合、吸気圧の応答が高いため、計測した吸気圧の変動除去よりも応答性を優先することが望ましい。そのため、本発明では、挙動に応じて定めたフィルタ演算式により高周波成分を除去するフィルタ処理を行う構成を採用している。
【0011】
上記の構成に示すように、本発明では、エンジンの挙動が過渡の場合と、エンジンの挙動が定常の場合のそれぞれにおいて、定めておいたフィルタ演算式を用いて高周波成分を除去するフィルタ処理を行っているため、過渡及び定常の両者において適切なフィルタ処理を行うことができる。その結果、本発明によれば、吸気圧センサが計測した計測値から、エンジンに流入する空気の吸気圧の真値に近い正確な吸気圧を算出することができる。
また、本発明によれば、フィルタ演算処理をして得られた「正確な吸気圧」を用いて、エンジンに流入する空気流量(バルブ通過流量)を算出できる。すなわち、本発明によれば、エンジンの燃焼制御に必要な空気流量を正確に算出することができる。
【0012】
また、前記エンジンの回転軸の回転数を計測するエンコーダを備え、前記フィルタ処理部は、前記高周波成分を除去する前に、前記エンコーダが計測した前記回転数を取得し、該取得した回転数から変動周波数を算出し、該算出した変動周波数を用いて、前記吸気圧センサが計測した吸気圧から変動成分を除去するようになっていることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、エンジンに流入する空気流量を高精度に算出することができる空気流量演算システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態の空気流量演算システムのシステム構成を示した模式図である。
【
図2】本発明の実施形態の空気流量演算システムを構成する情報処理装置に設けられたフィルタ処理部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態の空気流量演算システムについて図面に基づいて説明する。
【0016】
先ず、本実施形態の空気流量演算システムの全体構成について、
図1を用いて説明する。ここで、
図1は、本実施形態の空気流量演算システムのシステム構成を示した模式図である。
【0017】
図示するように、本実施形態の空気流量演算システムWは、自動車のエンジンEGの吸気管1に設置された吸気圧センサ10と、エンジンEGの回転軸に設置されたエンコーダ50と、エンジンEGに流入する空気流量を算出する情報処理装置(以下、「エンジン制御装置」という)100とを備えている。なお、図中の符号5がスロットルバルブを示し、符号7が排気管を示している。
【0018】
吸気圧センサ10は、エンジンEGに流入する空気の圧力(吸気圧(P))を計測し、エンジン制御装置100に計測した吸気圧(P)を送信する。
エンコーダ50は、エンジンEGの回転軸の回転数(NE)を計測し、エンジン制御装置100に計測した回転数(NE)を送信する。
【0019】
エンジン制御装置100は、吸気圧センサ10が計測した吸気圧(P)を微分し、微分して得られた微分値(dp)からエンジンEGの挙動が「定常(定常運転)」か「過渡(過渡運転)」のいずれかであるかを判定し、判定した挙動に応じて定めたフィルタ演算式により高周波成分を除去するフィルタ処理を行うフィルタ処理部110と、フィルタ処理部110によりフィルタ処理された吸気圧(P´)を用いてエンジンEGの筒内に流入する空気流量(Flow)を算出する空気流量演算部120と、空気流量演算部120が算出した空気流量(Flow)や各種センサ(図示せず)の計測値を用いてエンジンの動作を制御するエンジン制御部130とを有している。
【0020】
なお、本実施形態は、エンジン制御装置100の各構成部(フィルタ処理部110、空気流量演算部120及びエンジン制御部130)のうち、フィルタ処理部110の構成に特徴があるため、以下では、エンジン制御装置100の各構成部のうちフィルタ処理部110の構成について詳細に説明し、空気流量演算部120及びエンジン制御部130の構成の説明を簡略化する。
【0021】
フィルタ処理部110は、吸気圧センサ10が計測した吸気圧(P)を取得すると共に、エンコーダ50が計測したエンジンEGの回転軸の回転数(NE)を取得する。また、フィルタ処理部110は、取得した吸気圧(P)を微分して得られた微分値(時間微分値)からエンジンEGの挙動が「定常(定常運転)」及び「過渡(過渡運転)」のいずれかであるのかを判定する。
また、フィルタ処理部110は、取得した回転数から算出した変動周波数をもとに、その1次、2次、3次の変動成分をそれぞれ求め、取得した吸気圧(P)から、1次、2次、3次の変動成分を除去する。
【0022】
また、フィルタ処理部110は、「定常」及び「過渡」に応じてフィルタ(フィルタ演算式)を切り替え、取得した吸気圧(P)から変動成分を除去した値から、切り替えたフィルタ(フィルタ演算式)を用いて高周波成分を除去して、空気流量演算部120に「変動成分及び高周波成分」が除去された吸気圧(P´)を出力する。
具体的には、フィルタ処理部110は、吸気圧(P)の微分値(時間微分値)から「定常」と判定したときには、取得した吸気圧(P)から変動成分を除去した値から、「定常」に対応付けられているフィルタ(第1フィルタ演算式)を用いて高周波成分を除去する。
また、フィルタ処理部110は、吸気圧(P)の微分値(時間微分値)から「過渡」と判定したときには、取得した吸気圧(P)から変動成分を除去した値から、「過渡」に対応付けられているフィルタ(第2フィルタ演算式)を用いて高周波成分を除去する。
【0023】
空気流量演算部120は、フィルタ処理部110から出力された吸気圧(P´)を取得し、取得した吸気圧(P´)と、取得したエンジン回転数、図示しないセンサから取得したバルブタイミング等を用いて、エンジンEGの筒内に流入する空気流量(Flow)を算出する。
なお、空気流量演算部120が行う「エンジンEGの筒内に流入する空気流量(Flow)の算出処理は周知技術であるため、詳細な説明を省略する。
【0024】
エンジン制御部130は、空気流量演算部120が算出した「エンジンEGの筒内に流入する空気流量(Flow)」を取得すると共に、図示しない各種センサの計測値を取得する。また、エンジン制御部130は、取得した空気流量(Flow)及び各種センサの計測値を用いてエンジンEGの動作を制御する。
なお、エンジン制御部130の機能は、周知技術であるため、詳細な説明を省略する。
【0025】
また、エンジン制御装置100のハードウェア構成について特に限定しないが、エンジン制御装置100は、例えば、CPU、補助記憶装置、主記憶装置、ネットワークインターフェース及び入出力インターフェースを備えるECU(engine control unit)やコンピュータにより構成することができる。この場合、入出力インターフェースには、各種センサ(吸気圧センサ10、エンコーダ50等の各種センサ)が接続されている。また、補助記憶装置には、「フィルタ処理部110、空気流量演算部120、エンジン制御部130」の機能を実現するためのプログラムが記憶されている。そして、「フィルタ処理部110、空気流量演算部120、エンジン制御部130」の機能は、前記CPUが前記プログラムを前記主記憶装置にロードして実行することにより実現される。
【0026】
次に、本実施形態の空気流量演算システムWを構成するエンジン制御装置100のフィルタ処理部110の構成について
図2を参照しながら説明する。
図2は、本実施形態の空気流量演算システムを構成する情報処理装置(エンジン制御装置)に設けられたフィルタ部の構成を示すブロック図である。
【0027】
フィルタ処理部110は、エンジンEGの挙動が「定常」及び「過渡」のいずれかであるかを判定する判定処理部111と、吸気圧センサ10が計測した吸気圧(P)から「エンジンEGの回転軸の回転数(NE)から求めた変動成分」を除去する変動成分除去処理部112と、判定処理部111が判定した判定結果(エンジンの挙動が「定常」或いは「過渡」なのか)に対応するフィルタ(フィルタ演算式)を用いて吸気圧(P)から上記変動成分以外の高周波を除去する高周波除去処理部113とを有している。
【0028】
判定処理部111は、吸気圧センサ10が計測した吸気圧(P)を取得し、その取得した吸気圧(P)から予め定めた所定高周波を除去するフィルタ演算部111aと、フィルタ演算部111aで所定高周波が除去された吸気圧を微分(時間微分)する微分演算部111bと、微分演算部111bが演算して得られた「吸気圧の微分値(dp)」からエンジンEGの挙動が「定常」及び「過渡」のいずれかであるかを判定する閾値判定部111cとを有している。
【0029】
閾値判定部111cは、微分演算部111bが演算した「吸気圧(P)の微分値(dp)」が閾値(e)より大きいか否か(dp>e、or、dp≦e)により、エンジンEGの挙動が「定常」及び「過渡」のいずれかであるかを判定する。そして、閾値判定部111cは、高周波除去処理部113に、判定結果(「dp>e」及び「dp≦e」のいずれか)を送信する。
なお、判定結果が「dp>e」の場合、エンジンEGの挙動が「過渡」と判定されていることを示しており、判定結果が「dp≦e」の場合、エンジンEGの挙動が「定常」と判定されていることを示している。
【0030】
変動成分除去処理部112は、エンコーダ50が計測したエンジンEGの回転軸の回転数(NE)を取得し、その取得した回転数(NE)から変動周波数(F=NE/60*Cylnum/4*2)を算出する回転次数周波数算出部112aと、吸気圧センサ10が計測した吸気圧(P)を取得し且つ吸気圧(P)からエンジンEGの回転の1次の変動成分を除去するノッチフィルタ(第1ノッチフィルタ)112bと、吸気圧(P)からエンジンEGの回転の2次の変動成分を除去するノッチフィルタ(第2ノッチフィルタ)112cと、エンジンEGの回転の3次の変動成分を除去するノッチフィルタ(第3ノッチフィルタ)112dとを有している。
なお、上記の変動周波数(F=NE/60*Cylnum/4*2)に示す「Cylnum」は、エンジンEGの気筒数である。
【0031】
回転次数周波数算出部112aは、ノッチフィルタ(第1ノッチフィルタ)112bに対して、上記の算出した変動周波数(F=NE/60*Cylnum/4*2)である1次の変動成分(エンジンEGの回転の一次変動成分)を出力する。
また、回転次数周波数算出部112aは、ノッチフィルタ(第2ノッチフィルタ)112cに対して、上記の算出した変動周波数(F=NE/60*Cylnum/4*2)を2倍して求めた「変動周波数(F)の2次の変動成分(エンジンEGの回転の2次変動成分)」を出力する。
また、回転次数周波数算出部112aは、ノッチフィルタ(第3ノッチフィルタ)112dに対して、上記の算出した変動周波数(F=NE/60*Cylnum/4*2)を3倍して求めた「
変動周波数(F)の3次の変動成分」を出力する(エンジンEGの回転の3次変動成分)を出力する。
【0032】
ノッチフィルタ(第1ノッチフィルタ)112bは、吸気圧センサ10が計測した吸気圧(P)を取得すると共に、回転次数周波数算出部112aから変動周波数(F)の1次の変動成分を取得し、吸気圧(P)から変動周波数(F)の1次の変動成分を除去し、ノッチフィルタ(第2ノッチフィルタ)112cに出力する。
なお、ノッチフィルタ(第1ノッチフィルタ)112bが行う演算式は、下記の(式2)に示す通りであり、Fが1次の変動成分、a、bがフィルタの調整項を示している。
【数2】
【0033】
ノッチフィルタ(第2ノッチフィルタ)112cは、回転次数周波数算出部112aから変動周波数(F)の2次の変動成分を取得し、ノッチフィルタ(第1ノッチフィルタ)112bが出力した1次の変動成分が除去された吸気圧(P)から変動周波数(F)の2次の変動成分を除去し、ノッチフィルタ(第3ノッチフィルタ)112dに出力する。
なお、ノッチフィルタ(第2ノッチフィルタ)112cが行う演算式は、下記の(式3)に示す通りであり、Fが2次の変動成分、a、bがフィルタの調整項を示している。
【数3】
【0034】
ノッチフィルタ(第3ノッチフィルタ)112dは、回転次数周波数算出部112aから変動周波数(F)の3次の変動成分を取得し、ノッチフィルタ(第2ノッチフィルタ)112cが出力した1次、2次の変動成分が除去された吸気圧(P)から変動周波数(F)の3次の変動成分を除去し、高周波除去処理部113に出力する。
なお、ノッチフィルタ(第3ノッチフィルタ)112dが行う演算式は、下記の(式4)に示す通りであり、Fが3次の変動成分、a、bがフィルタの調整項を示している。
【数4】
【0035】
高周波除去処理部113は、判定処理部111が出力する判定結果を受け付け、受け付けた判定結果に応じて高周波成分の除去に用いるフィルタ(フィルタ演算式)を切り替えるスイッチ部113aと、エンジンEGの挙動が「定常」の際に高周波を除去する定常フィルタ(一次フィルタ)113bと、エンジンEGの挙動が「過渡」の際に高周波を除去する過渡フィルタ(一次フィルタ)113cとを備えている。
【0036】
スイッチ部113aは、受け付けた判定結果が「dp≦e」の場合(エンジンEGの挙動が「定常」の場合)、定常フィルタ113bを用いて、変動成分除去処理部112から出力された「計測値である吸気圧(P)から変動成分が除去された吸気圧」から高周波成分を除去する。また、スイッチ部113aは、空気量演算部120に、定常フィルタ113bにより高周波成分が除去された吸気圧(P´)を出力する。
また、スイッチ部113aは、受け付けた判定結果が「dp>e」の場合(エンジンEGの挙動が「過渡」の場合)、過渡フィルタ113cを用いて、変動成分除去処理部112から出力された「計測値である吸気圧(P)から変動成分が除去された吸気圧」から高周波成分を除去する。また、スイッチ部113aは、空気量演算部120に、定常フィルタ113bにより高周波成分が除去された吸気圧(P´)を出力する。
【0037】
なお、エンジンEGの挙動が「定常」のときに用いられる定常フィルタ113bは、変動成分除去処理部112から「計測値である吸気圧(P)から変動成分が除去された吸気圧」を取得し、その取得した吸気圧に対して、下記の(式5)に示す演算式(フィルタ演算式)を用いて高周波成分を除去する。
下記の(式5)では、dがカットオフ周波数のパラメータを示している。
【数5】
【0038】
また、エンジンEGの挙動が「過渡」のときに用いられる過渡フィルタ113cは、変動成分除去処理部112から「計測値である吸気圧(P)から変動成分が除去された吸気圧」を取得し、その取得した吸気圧に対して、下記の(式6)に示す演算式(フィルタ演算式)を用いて高周波成分を除去する。
下記の(式6)では、cがカットオフ周波数のパラメータを示しており、(式6)のパラメータの「c」が、(式5)のパラメータ「d」よりも小さい値になっている(「c<d」になっている)。すなわち、過渡と判定したときに用いられる(式6)の演算式は、定常と判定したときに用いられる(式5)の演算式よりもカットオフ周波数が高くなっている。
なお、(式5)、(式6)の「c、d」は調整項である。
【数6】
【0039】
このように、エンジンEGの挙動が「定常」か「過渡」かによりフィルタを切り替えているのは以下の理由による。
具体的には、吸気圧センサ10が計測した吸気圧(P)の圧力微分値(dp)が所定閾値(e)より小さい場合(dp≦e;エンジンEGが定常挙動である場合)、変動をできるだけ除去することが望ましいため、(式5)の演算処理式を用いている定常フィルタ113b、すなわち、強いフィルタ(カットオフ周波数の低いフィルタ)を適用している。
また、吸気圧(P)の圧力微分値(dp)が所定閾値(e)より大きい場合(dp>e;エンジンEGが過渡挙動である場合)、吸気圧の応答が高いため、その挙動を維持するために、カットオフ周波数に対応したパラメータ「c」が設定された、(式6)の演算処理式を用いている過渡フィルタ113c、すなわち、弱いフィルタ(カットオフ周波数の高いいフィルタ)を適用して変動除去よりも応答性を優先している。
【0040】
このように、本実施形態の空気流量演算システムWによれば、エンジンEGの吸気管1に設置された吸気圧センサ10が計測した計測値(吸気圧(P))に対して、エンジンEGの挙動が過渡の場合と、エンジンEGの挙動が定常の場合の両者において適切なフィルタ処理を行うことができる。その結果、本実施形態によれば、吸気圧センサ10が計測した計測値(P)から、エンジンEGに流入する空気の圧力の真値に近い正確な空気圧(P´)を算出することができる。
また、本実施形態の空気流量演算システムWは、フィルタ処理して得られた「正確な空気圧(P´)」を用いて、エンジンEGに流入する空気流量(バルブ通過流量)を算出しているため、高精度な空気流量(バルブ通過流量)が得られる。すなわち、本実施形態によれば、エンジンEGの燃焼制御に必要な空気流量を正確に算出することができるため、エンジンEGの燃焼制御を高精度に行うことができる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態によれば、エンジンEGに流入する空気流量を高精度に算出することができる空気流量演算システムWを提供することができる。
【0042】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々の変更が可能である。
【0043】
例えば、上述した実施形態の空気流量演算システムWでは、エンジン制御装置100が、エンジンEGの吸気管1に設置された吸気圧センサ10が計測した計測値(吸気圧(P))に対して、エンジンEGの挙動(定常、過渡)に応じて切り替えたフィルタ処理を行うことにより、エンジンEGに流入する空気の圧力の真値に近い正確な空気圧(P´)を算出し、その空気圧(P´)を用いて、エンジンEGの燃焼制御に必要な空気流量(バルブ通過流量)を算出しているが、特にこれに限定されるものではない。
エンジンEGの挙動(定常、過渡)に応じて切り替えたフィルタ処理により得られた空気圧(P´)を、空気流量(バルブ通過流量)の算出処理以外のエンジン制御の演算処理に用いるようにしても良い。
【符号の説明】
【0044】
EG…エンジン
1…吸気管
5…スロットルバルブ
7…排気管
W…空気流量演算システム
10…吸気圧センサ
50…エンコーダ
100…エンジン制御装置(情報処理装置)
110…フィルタ処理部
111…判定処理部
111a…フィルタ演算部
111b…微分演算部
111c…閾値判定部
112…変動成分除去処理部
112a…回転次数周波数算出部
112b…ノッチフィルタ(第1ノッチフィルタ)
112c…ノッチフィルタ(第2ノッチフィルタ)
112d…ノッチフィルタ(第3ノッチフィルタ)
113…高周波除去処理部
113a…スイッチ部
113b…定常フィルタ
113c…過渡フィルタ
120…空気流量演算部
130…エンジン制御部