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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181014
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】制振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 7/09 20060101AFI20221130BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
F16F7/09
F16F15/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087830
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000124096
【氏名又は名称】株式会社パイオラックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青沼 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 敦士
【テーマコード(参考)】
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
3J048AC01
3J048BE12
3J048EA36
3J066AA03
3J066AA26
3J066CA06
3J066CB06
(57)【要約】
【課題】安定した制振効果を得ることができる制振装置を提供する。
【解決手段】
この制振装置10は、固定部材1と、固定部材1に対して近接離反するように移動する移動部材3との間に配置され、それらからの振動を抑制するものであって、移動部材3に固定されるベース部材20と、ベース部材20に制動されながら軸方向移動可能に支持される軸部材30と、軸部材30の先端側に、ボールジョイント部を介して回動自在に連結され、固定部材1に当接する、荷重受け部材50とを有しており、ボールジョイント部は、軸部材30に設けられ、先端に球状部33を有する支持部32と、荷重受け部材50に設けられ、球状部33を抜け止め保持する保持部53とからなる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部材と、該固定部材に対して近接離反するように移動する移動部材との間に配置され、前記固定部材及び/又は前記移動部材の振動を抑制する、制振装置であって、
前記固定部材又は前記移動部材のいずれか一方に固定されるベース部材と、
前記ベース部材に制動されながら軸方向移動可能に支持される軸部材と、
前記軸部材の先端側に、ボールジョイント部を介して回動自在に連結され、前記固定部材又は前記移動部材のいずれか他方に当接する、荷重受け部材とを有しており、
前記ボールジョイント部は、
前記軸部材又は前記荷重受け部材のいずれか一方に設けられ、先端に球状部を有する支持部と、
前記軸部材又は前記荷重受け部材のいずれか他方に設けられ、前記球状部を抜け止め保持する保持部とからなることをと特徴とする制振装置。
【請求項2】
前記ボールジョイント部は、
前記支持部が突設された第1基部と、
該第1基部に対向して配置された第2基部とを有しており、
前記第1基部の、前記支持部の外周に、凹状部が形成されており、
前記第2基部に、枠状をなした前記保持部が突設されており、
該保持部に、前記支持部の球状部が収容された状態で、前記荷重受け部材が、前記ボールジョイント部を介して回動するときに、前記保持部の先端側が、前記第1基部の凹状部内に入り込み可能とされている請求項1記載の制振装置。
【請求項3】
前記ベース部材及び前記軸部材をカバーするカバー部材を有しており、
前記保持部は、前記荷重受け部材側に設けられ、前記球状部を囲む周壁を有しており、該周壁の内周に、前記支持部の球状部を抜け止め保持する爪部が設けられており、
前記荷重受け部材の、前記保持部の周壁の外周に隣接する位置にスリットが形成されており、
前記カバー部材は、筒状部と、該筒状部の先端側に配置された先端閉塞部とを有しており、
前記先端閉塞部からは、前記スリットに嵌合する突部が突設されている請求項1又は2記載の制振装置。
【請求項4】
前記ベース部材は、シリンダを有しており、
前記軸部材は、
前記シリンダ内に軸方向移動可能に挿入される軸部と、
該軸部の外周に装着され、前記シリンダ内周に摺接することで、撓み変形して制動力を付与する変形部を有する制振リングとを有する請求項1~3のいずれか1つに記載の制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定部材と、該固定部材に対して近接離反するように移動する移動部材との間に配置され、固定部材又は移動部材の振動を抑制する、制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の荷室側のボディ等の固定部材の開口部には、バックドア等の移動部材が開閉可能に取付けられている。この移動部材と固定部材との間には、移動部材又は固定部材の振動を抑制するための、振動防止装置が配置されていることが多い。
【0003】
上記のようなものとして、下記特許文献1には、ピストン本体及びその両端面から突出した一対のピストンロッドを有するピストンと、ピストン本体をスライド可能に収容するシリンダ本体及び一対のピストンロッドをスライド支持する筒部を有し、内部に粘性流体が充填されるシリンダと、一方のピストンロッドをシリンダの筒部から突出させて、ピストンロッド先端部を、開口部周縁又は開閉体に当接するように付勢する弾性手段とを備える、自動車用開閉体の振動防止装置が記載されている。
【0004】
ピストンの一対のピストンロッドは、シリンダの一対の筒部に同軸的にそれぞれ挿入されて、スライド支持されている。また、各ピストンロッドの外周には、シールリングがそれぞれ装着されており、筒部内周とピストンロッド外周とのシール性が確保されている。更に、一方のピストンロッドの先端部には、ワッシャプレートが固着されており、該ワッシャプレートに、弾性当接部材が装着されており、この弾性当接部材が、自動車の開口部の周縁に当接するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2013/008608A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の振動防止装置では、開口部に対して開閉体が閉じられた状態で、開口部に対して開閉体の角度がバラつく(自動車の開口部に対して、開閉体が平行ではない状態)ことがあった。この場合、弾性当接部材の全体が開口部周縁に当接せず、所定部分のみが開口部周縁に当接し、同開口部の周縁から荷重を受ける事態が生じる。その結果、開口部周縁からの荷重の入力角度が、ピストンロッドやシリンダの軸心に対してバラついて(平行でなくなる)、筒部の軸心に対してピストンロッドの軸心が傾くことがある。この場合、制振性能が安定しないことがあった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、安定した制振効果を得ることができる、制振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、固定部材と、該固定部材に対して近接離反するように移動する移動部材との間に配置され、前記固定部材及び/又は前記移動部材の振動を抑制する、制振装置であって、前記固定部材又は前記移動部材のいずれか一方に固定されるベース部材と、前記ベース部材に制動されながら軸方向移動可能に支持される軸部材と、前記軸部材の先端側に、ボールジョイント部を介して回動自在に連結され、前記固定部材又は前記移動部材のいずれか他方に当接する、荷重受け部材とを有しており、前記ボールジョイント部は、前記軸部材又は前記荷重受け部材のいずれか一方に設けられ、先端に球状部を有する支持部と、前記軸部材又は前記荷重受け部材のいずれか他方に設けられ、前記球状部を抜け止め保持する保持部とからなることをと特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、固定部材に移動部材を近接させて、荷重受け部材が固定部材に当接した状態で、固定部材又は移動部材の振動等によって、荷重受け部材が荷重を受ける際に、その入力角度がバラついて、軸部材の軸心に対して傾いたとしても、ボールジョイント部の球状部を介して荷重を受けるため、その荷重を球状部の中心を通る方向の分力に変換して、ベース部材の軸心に対する軸部材の軸心の傾きを抑制することができる。その結果、ベース部材内にて軸部材を安定した姿勢で軸方向移動させることができ、安定した制振効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る制振装置の、一実施形態を示す分解斜視図である。
図2】同制振装置において、カバー部材以外を組付けた状態の、組付け斜視図である。
図3図2の状態から更にカバー部材も組付けた状態の、組付け斜視図である。
図4】本発明に係る制振装置の断面図である。
図5】同制振装置を構成するベース部材の側面図である。
図6】同制振装置を構成する荷重受け部材の側面図である。
図7】同制振装置を構成する荷重受け部材の背面図である。
図8】同制振装置を構成するカバー部材の背面図である。
図9】同制振装置において、固定部材と移動部材との角度にバラツキがない状態の断面図である。
図10】同制振装置において、固定部材と移動部材との角度にバラツキが生じ、ボールジョイント部を介して荷重受け部材が回動した状態の断面図である。
図11】本発明に係る制振装置の、他の実施形態を示す断面図である。
図12】本発明に係る制振装置の、更に他の実施形態を示す断面図である。
図13】同制振装置を構成する荷重受け部材の背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(制振装置の、一実施形態)
以下、図1~10を参照して、本発明に係る制振装置の、一実施形態について説明する。
【0012】
図9及び図10に示すように、この制振装置10は、固定部材1と、該固定部材1に対して近接離反するように移動する移動部材3との間に配置され、固定部材1及び/又は移動部材3の振動を抑制するためのものである。図1に示すように、移動部材3には、制振装置10を取付けるための、取付孔5が形成されている。なお、この実施形態の取付孔5は、略長孔状をなしているが、丸孔状や角形孔等であってもよく、特に限定はされない。
【0013】
固定部材1としては、例えば、車体パネルや車体フレーム、グローブボックスのボックス等が挙げられ、移動部材3としては、例えば、車両のドア(スライドドア、ハッチバックドア等も含む)や、グローブボックスのリッド、ボンネット等を挙げることができる。
【0014】
図1及び図4に示すように、この実施形態の制振装置10は、固定部材1に固定されるベース部材20と、該ベース部材20に制動されながら軸方向移動可能に支持される軸部材30(この実施形態では、ベース部材20内に収容され制動されながら軸方向移動可能に支持される)と、軸部材30の先端側に、ホールジョイント部を介して回動自在に連結され、移動部材3に当接する、荷重受け部材50と、ベース部材20及び軸部材30の間に介装され、荷重受け部材50を移動部材3側に近接する方向に付勢するバネ部材45と、ベース部材20及び軸部材30をカバーし、ゴムや弾性エラストマー等の弾性材料からなるカバー部材60と、から主として構成されている。
【0015】
まず、図1図4、及び図5を参照して、ベース部材20について説明する。
【0016】
この実施形態のベース部材20は、略円環フランジ状をなした環状基部21と、この環状基部21の裏側(移動部材3に対向する側)の内周縁から延出した、略円筒状をなした筒部23と、環状基部21の表側の外周縁のやや内側部分から、筒部23に対して同心状に延出し、且つ、筒部23よりも拡径した形状をなす、略円筒状のシリンダ25とを有している。なお、図4に示すように、ベース部材20の軸心(筒部23及びシリンダ25の軸心)を、符号「C1」で表す。
【0017】
また、筒部23の外周であって径方向に対向する位置には、スリット27аを介して撓み変形可能な、一対の係止片27,27が形成されている。更に、環状基部21の裏側であって、筒部23の基端部外周には、移動部材3の表側に当接する当接突部21aが複数突設されている(図5,9参照)。また、図4に示すように、環状基部21の内周縁部からは、環状突起状をなした、抜け止め部21bが突設されている。
【0018】
そして、図9に示すように、筒部23を移動部材3の取付孔5に挿入すると、取付孔5の裏側周縁に一対の係止片27,27が係止すると共に、移動部材3の表側に、複数の当接突部21аが当接して、移動部材3にベース部材20が固定され、ひいては制振装置10全体が移動部材3に取付けられるようになっている。
【0019】
次に、図1及び図4等を参照して、軸部材30について説明する。
【0020】
この実施形態の軸部材30は、略円盤状をなした第1基部31と、この第1基部31の表側(荷重受け部材50の第2基部51と対向する側)中央から突出し、先端に球状部33を設けた支持部32と、第1基部31の裏側から延出した軸部35とから、主として構成されている。
【0021】
図4に示すように、上記第1基部31は、ベース部材20の環状基部21に対向して配置されると共に、軸部材30の軸方向移動によって、ベース部材20の環状基部21に対して近接離反するようになっている。また、第1基部31は、荷重受け部材50の後述する第2基部51に対しても、対向して配置されるようになっている。更に図1に示すように、第1基部31の表側の外周縁部には、テーパ面31аが形成されている。このテーパ面31аによって、図10に示すように、荷重受け部材50の回動時に、屈曲変形するカバー部材60の筒状部61に、第1基部31が干渉しにくくなっている。
【0022】
また、第1基部31の表側の径方向中央から、略円柱状をなした支持部32が突出しており、この支持部32の突出方向先端に、略球体状をなすと共に、支持部32の外径よりも拡径した、球状部33が連設されている。
【0023】
なお、図4に示すように、軸部材30の軸心(支持部32、球状部33、軸部35の軸心)を、符号「C2」で表す。また、球状部33は、支持部32に対して同軸上(軸心C2上)に設けられている。
【0024】
更に、第1基部31の表側であって、支持部32の突出方向の基端側外周に、第1基部31の表面から所定深さで凹んだ、環状凹状をなした凹状部38が形成されている。なお、支持部32と凹状部38との関係を言い換えると、第1基部31の表側の径方向中央部分に、第1基部31の表面側から所定深さで凹んだ、円形凹状をなした凹状部38が形成されており、この凹状部38の底面の径方向中央から支持部32が突出している、とも言える。また、図4に示すように、凹状部38の内周面38aは、凹状部38の底面から第1基部31の表面に向けて次第に拡径するテーパ状をなしている。
【0025】
図4に示すように、軸部35は、第1基部31の裏側から延出し、第1基部31よりも縮径した略円柱状をなした第1軸部36と、この第1軸部36の延出方向先端面の径方向中央部から、第1軸部36と同軸状に延出し、且つ、第1軸部36よりも縮径した、略円筒状をなした第2軸部37とからなる。第1軸部36は、ベース部材20のシリンダ25内に挿入可能な外径で形成されており、第2軸部37は、ベース部材20の環状基部21の抜け止め部21b内に挿入可能な外径で形成されている。そして、第1軸部36は、シリンダ25内に軸方向移動可能(スライド可能)に挿入されると共に、第2軸部37は、シリンダ25や筒部23内に軸方向移動可能に挿入されるようになっている。
【0026】
図4に示すように、第2軸部37は、ベース部材20の抜け止め部21bに挿入されて、その先端部に、抜け止め部21bよりも大径のワッシャ48が配置される。そして、第2軸部37の内周にボルト47が螺合されて、ワッシャ48が第2軸部37の先端部に固定されることで、抜け止め部21bにワッシャ48が係止可能となり、ベース部材20に対して軸部材30が抜け止め保持されるようになっている。
【0027】
また、第1軸部36の延出方向先端部側の外周には、環状の溝状をなしたリング装着溝36аが形成されている。このリング装着溝36аに、環状リング状をなした制振リング40が装着されている。図1に示すように、この制振リング40は、ゴムや弾性エラストマー等の弾性材料から形成されており、その外周には、シリンダ25の内周に摺接することで、撓み変形して制動力を付与する変形部41,43が設けられている。この実施形態の制振リング40は、厚さ方向の一端から他端側に向けて折り返されてなる変形部41と、厚さ方向の他端から一端側に向けて折り返されてなる変形部43とが、周方向に沿って交互に配置された構成となっている。
【0028】
そして、ベース部材20に対して軸部材30が軸方向移動したときに(シリンダ25内にて第1軸部36が軸方向移動したときに)、変形部41,43の先端部が、シリンダ25の内周に摺接して、適宜撓み変形することで、シリンダ25と軸部35との間に制動力が付与されるようになっている。
【0029】
また、図4に示すように、コイルバネからなるバネ部材45は、圧縮された状態で、ベース部材20のシリンダ25の外側、及び、軸部材30の第1軸部36の外側に配置され、その軸方向基端部が、ベース部材20の環状基部21の表側に当接支持され、軸方向先端部が、軸部材30の第1基部31の裏側に当接支持される。その結果、軸部材30は、その第1基部31が、ベース部材20の環状基部21から離反する方向に、バネ部材45によって常時付勢されるようになっている。
【0030】
次に、図1図6、及び図7等を参照して、荷重受け部材50について説明する。
【0031】
この実施形態の荷重受け部材50は、軸部材30側の第1基部31に対向して配置された、略円形板状をなした第2基部51と、該第2基部51の裏側(第1基部31に対向する側)から突設された、枠状をなした保持部53とを有している。
【0032】
図9及び図10に示すように、上記第2基部51は、その表側が、カバー部材60の先端閉塞部63を介して、固定部材1に間接的に当接する。
【0033】
また、枠状をなした保持部53の内部には、軸部材30側に設けた球状部33が収容保持されるようになっている。図7に示すように、この実施形態における保持部53は、第2基部51の裏側であって、その径方向中央を中心Oとする仮想円R上において均等な隙間をあけて配置された、複数の周壁54を有している(この実施形態の保持部53は、3つの周壁54を有している)。すなわち、この実施形態の保持部53は、軸方向に延びる切欠き(上記「隙間」を意味する)を介して分離配置された複数の周壁54からなる枠状となっているとも言え、これらの複数の周壁54によって球状部33を囲んで、同球状部33を収容保持可能となっている。なお、各周壁54は、外周及び内周が曲面状をなし、前記仮想円Rに沿って周方向に所定幅で広がる略円弧状の壁となっている。
【0034】
ところで、本発明における「枠状をなした保持部」とは、周方向に連続した壁からなり、球状部を囲んで収容保持可能とした枠状の保持部であってもよく、上記保持部53のように、切欠きを介して分離配置された複数の周壁54からなり、球状部33を囲んで収容保持可能とした枠状構造であってもよい。
【0035】
また、図4に示すように、各周壁54は、突出方向の基端側が肉薄で、突出方向途中から突出方向の先端54а(自由端)に至る範囲が肉厚となっており、周壁54の撓み変形性能及び剛性が確保されている。更に、各周壁54の内周であって、突出方向の先端54a側からは、爪部55が、第2基部51の径方向の中心Oに向けて、それぞれ突設されている。この爪部55は、径方向内方への突出量が最も大きい頂部55аが、球状部33の最大外径よりも小さく形成されている(図4参照)。そのため、枠状の保持部53内に挿入されて収容保持された球状部33が、保持部53から抜け外れようとしても、保持部53を構成する各周壁54の爪部55によって、球状部33を囲んで抑えつけるので、保持部53からの球状部33の抜け止めが図られるようになっている。
【0036】
なお、この実施形態においては、軸部材30側に設けた、球状部33を有する支持部32と、荷重受け部材50側に設けた保持部53とが、本発明における「ボールジョイント部」をなしている。また、図10に示すように、保持部53は、ボールジョイント部を介して荷重受け部材50が回動するときに、その先端(ここでは保持部53を構成する周壁54の先端54a)側が、第1基部31の凹状部38内に入り込み可能とされている。
【0037】
そして、荷重受け部材50は、図2の矢印F1に示すように、軸部材30の軸心C2回りに360°回動可能であると共に、図2の矢印F2に示すように、軸部材30の第1基部31に近接離反する方向に回動可能となっており、フレキシブルな回動性能が確保されるようになっている。
【0038】
なお、図4に示すように、各周壁54の先端54a側の外周縁部には、周壁54を次第に肉薄とするテーパ面54bが形成されている。このテーパ面54bと、凹状部38のテーパ状をなした内周面38aとによって、ボールジョイント部を介しての荷重受け部材50の回動時に、周壁54の先端54aを、第1基部31の表面に干渉しにくくさせて、凹状部38内に入り込みやすくなっている。
【0039】
また、図4に示すように、爪部55の、頂部55аに隣接し且つ周壁54の突出方向基端側に位置する部分には、球状部33の曲面に適合する曲面55bを有しており、該曲面55bが球状部33の外周に密接するようになっている。
【0040】
図4及び図7に示すように、各周壁54の突出方向基端側であって、外周に隣接する位置には、外側スリット57が形成されており、各周壁54の突出方向基端側であって、内周に隣接する位置には、内側スリット58が形成されている。すなわち、この実施形態では、各周壁54の基端側の外周及び内周に隣接する位置に、一対のスリット57,58が形成されている。
【0041】
図7に示すように、前記外側スリット57は、周壁54の曲面形状に沿って延びる略円弧状をなしていると共に、周壁54の周方向幅よりも幅広に形成されている。一方、内側スリット58は、外側スリット57よりも幅狭の切欠きとなっている。
【0042】
各周壁54は、基端部側の外周及び内周に形成された一対のスリット57,58によって、撓み変形しやすくなっている。また、図4に示すように、外側スリット57には、カバー部材60の突部65が嵌合する。すなわち、外側スリット57が、本発明における「スリット」をなしている。なお、内側スリット58は、周壁54の先端内側に配置された爪部55の、形成用の型抜き孔としても機能する。
【0043】
次に、図1図3、及び図4等を参照して、カバー部材60について説明する。
【0044】
この実施形態のカバー部材60は、伸縮可能な蛇腹状をなした筒状部61と、該筒状部61の先端側に配置されて、同筒状部61の先端を閉塞する先端閉塞部63とを有している。筒状部61の基端部62側は開口しており、同基端部62の内周側には、環状の嵌合溝62aが形成されている(図4参照)。この嵌合溝62aに、ベース部材20の環状基部21の外周縁部が嵌合することで、ベース部材20にカバー部材60が装着されるようになっている。
【0045】
なお、この実施形態のカバー部材60は、ベース部材20の環状基部21及びシリンダ25、軸部材30の第1基部31、支持部32、第1軸部36、荷重受け部材50の第2基部51及び保持部53、バネ部材45をカバーするようになっている(図4参照)。
【0046】
また、筒状部61の基端部62の外周縁部からは、スカート状に広がるシールフランジ部62bが、斜めが外方に向けて延出している。このシールフランジ部62bは、移動部材3に形成した取付孔5にベース部材20を取付けるときに、適宜撓み変形して、移動部材3の取付孔5の表側周縁に弾性的に当接するようになっている(図9参照)。
【0047】
一方、先端閉塞部63は、ベース部材20にカバー部材60が装着された状態で、その内面側(荷重受け部材50の第2基部51との対向面側)が荷重受け部材50の第2基部51の表側に当接すると共に、外面側が固定部材1に直接的に当接するようになっている(図9参照)。
【0048】
また、図8に示すように、先端閉塞部63の内面側であって、第2基部51に形成した複数の外側スリット57に対応する位置からは、同外側スリット57に適合する略円弧状をなした突部65が、均等な間隔をあけて複数突設されている。各突部65は、第2基部51の対応する外側スリット57にそれぞれ嵌合するようになっている(図4参照)。その結果、先端閉塞部63は、第2基部51に対して位置決め及び回り止めされた状態で、当接するようになっている。
【0049】
以上説明した実施形態では、ベース部材20が移動部材3に固定されているが、ベース部材は固定部材に固定されていてもよい。また、この実施形態の場合、球状部33を有する支持部32は軸部材30に設けられており、保持部53は荷重受け部材50に設けられているが、支持部を荷重受け部材側に設けると共に、保持部を軸部材側に設けてもよい(これについては、他の実施形態にて説明する)。更に、この実施形態の制振装置10は、カバー部材60を有するが、カバー部材60はなくてもよく、荷重受け部材50を固定部材1や移動部材3に直接的に当接させてもよい。
【0050】
また、振動装置を構成する、ベース部材、軸部材、制振リング、荷重受け部材、カバー部材等の、形状や構造は、上記態様に限定されるものではない。
【0051】
例えば、ベース部材としては、そのシリンダや筒部が、矩形筒状や、多角形の筒状、楕円筒状等であってもよく、また、取付孔に対するベース部材の固定構造としては、碇足状のクリップによる固定や、ボルトやナットによる固定等であってもよい。
【0052】
また、軸部材としては、その第1基部が、矩形板状や、多角形の板状、楕円形の板状等であってもよく、軸部が、矩形や、多角形、楕円形の柱状・筒状等であってもよい(この場合、シリンダ等に対して回転規制可能となる)。更に、この実施形態では、ベース部材20に対する軸部材30の制動力付与構造が、変形部41,43を有する制振リング40となっているが、制動力付与構造としては、例えば、複数のОリングをシリンダ内周に摺接させたり、軸部外周とシリンダ内周との間に粘性流体を充填させたり、等であってもよい。更に、ベース部材と軸部材との抜け止め保持構造は、ボルト47やワッシャ48のみならず、抜け止め爪等によるものでもよい。
【0053】
また、荷重受け部材の第2基部としては、矩形板状や、多角形の板状、楕円形の板状等であってもよく、固定部材や移動部材に当接可能であればよい。更に、荷重受け部材の保持部としては、本実施形態のように、切欠きを介して分離配置された複数の周壁54からなり全体として枠状をなした保持部53のみならず、連続した壁による、矩形枠状や、多角形の枠状、円形枠状、楕円形の枠状等であってもよく、球状部を囲んで収容保持可能な形状であればよい。
【0054】
(作用効果)
次に、上記構成からなる本発明に係る制振装置10の作用効果について説明する。
【0055】
図9には、固定部材1に対して移動部材3を近接させて、荷重受け部材50の第2基部51が、カバー部材60の先端閉塞部63を介して、固定部材1に間接的に当接した状態が示されている。図9の場合、固定部材1に対する移動部材3の角度にバラツキがない状態、すなわち、固定部材1と移動部材3との角度が平行(固定部材1の面方向と移動部材3の面方向とが平行)な状態となっている。この場合、荷重受け部材50に対する荷重W(荷重受け部材50が、カバー部材60を介して固定部材1から受ける反作用力)の入力角度は、ベース部材20及び軸部材30の軸心C1,C2に対して平行であり、荷重Wの入力角度はバラついてない。なお、荷重受け部材50は、バネ部材45によって付勢されて、カバー部材60を介して固定部材1に間接的に当接した状態に維持されている。
【0056】
一方、図10には、固定部材1に対して移動部材3を近接させて、荷重受け部材50の第2基部51が、カバー部材60の先端閉塞部63を介して、固定部材1に間接的に当接したときに、固定部材1に対する移動部材3の角度にバラツキが生じた場合が示されている(固定部材1と移動部材3との角度が平行ではない状態となっている)。この場合、荷重受け部材50に対する荷重Wの入力角度が、ベース部材20及び軸部材30の軸心C1,C2に対して斜めとなって、荷重Wの入力角度がバラつくことになる。
【0057】
しかし、この制振装置10においては、軸部材30の先端側に、ボールジョイント部を介して回動自在に連結された荷重受け部材50を設けたので、次のような作用をなす。すなわち、上記のような荷重Wを荷重受け部材50が受けて、荷重Wの入力角度がバラついて、軸部材30の軸心C2に対して傾いたとしても、ボールジョイント部の球状部33を介して、荷重Wを受けるため、その荷重Wを球状部33の中心を通る方向の分力F1と、それに直角な分力F2とに変換して、ベース部材20の軸心C1に対する軸部材30の軸心C2の傾きを抑制することができる(荷重Wの分力F1が、軸部材30の軸心C2に沿った方向となり、且つ、同分力F1は分力F2よりも大きいため、軸部材30を、ベース部材20の軸心C1に対して傾かせようとする力が作用しない)。
【0058】
そして、図10に示す状態で、固定部材1及び/又は移動部材3から振動を受けると、ベース部材20のシリンダ25内にて、軸部材30の第1軸部36が軸方向移動し、制振リング40の変形部41,43がシリンダ25内周に摺接するので、制動力が発揮されて振動が吸収されるため、固定部材1及び/移動部材3の振動を抑制することができる。この際、上記の段落番号0057で説明したように、ベース部材20の軸心C1に対する軸部材30の軸心C2の傾きが抑制されるので、ベース部材20内にて軸部材30を安定した姿勢で軸方向移動させることができ、安定した制振効果を得ることができる。
【0059】
また、この実施形態においては、図4図10に示すように、ボールジョイント部は、支持部32が突設された第1基部31と、第1基部31に対向して配置された第2基部51とを有しており、第1基部31の、支持部32の外周に、凹状部38が形成されており、第2基部51に、枠状をなした保持部53が突設されており、保持部53に、支持部32の球状部33が収容された状態で、荷重受け部材50が、ボールジョイント部を介して回動するときに、保持部53の先端54а側が、第1基部31の凹状部38内に入り込み可能とされている。
【0060】
上記態様によれば、荷重受け部材50が、ボールジョイント部を介して回動するときに、図10に示すように、保持部53の先端54а側が、第1基部31の凹状部38内に入り込み可能とされているので、制振装置10を軸方向においてコンパクトにすることができる。また、ボールジョイント部を介しての荷重受け部材50の回動時に、保持部53の先端54а側が、第1基部31に干渉することを防止でき、ボールジョイント部の回動範囲を広げることができる。
【0061】
更に、この実施形態においては、図1図4に示すように、ベース部材20及び軸部材30をカバーするカバー部材60を有しており、保持部53は、荷重受け部材50側に設けられ、球状部33を囲む周壁54を有しており、周壁54の内周に、支持部32の球状部33を抜け止め保持する爪部55が設けられており、荷重受け部材50の、保持部53の周壁54の外周に隣接する位置に外側スリット57が形成されており、カバー部材60は、筒状部61と、筒状部61の先端側に配置された先端閉塞部63とを有しており、先端閉塞部63からは、外側スリット57に嵌合する突部65が突設されている。
【0062】
上記態様によれば、荷重受け部材50の、保持部53の周壁54の外周に隣接する位置に外側スリット57が形成されているので、保持部53の周壁54を撓みやすくすることができ、球状部33を保持部53内に挿入して、爪部55で抜け止め保持する際の、組付け作業性を向上させることができる。
【0063】
また、図4に示すように、外側スリット57には、カバー部材60の突部65が嵌合するので、保持部53に球状部33を組付けて、爪部55で抜け止め保持した状態で、保持部53の周壁54の撓み変形(外側への撓み変形)を抑制することができ、保持部53内に収容保持した球状部33を抜けにくくすることができる。
【0064】
更に、外側スリット57にカバー部材60の突部65が嵌合するので、荷重受け部材50に対して、カバー部材60の先端閉塞部63を位置ずれしにくくすることができる。
【0065】
また、この実施形態においては、図1図4に示すように、ベース部材20は、シリンダ25を有しており、軸部材30は、シリンダ25内に軸方向移動可能に挿入される軸部35と、軸部35の外周に装着され、シリンダ25内周に摺接することで、撓み変形して制動力を付与する変形部41,43を有する制振リング40とを有する。
【0066】
上記態様によれば、軸部材30の軸部35の軸心が傾こうとした際に、ボールジョイント部を介して荷重受け部材50が適宜回動して、軸部材30の軸部35の軸心の傾きを抑制できるので、ベース部材20のシリンダ25内にて、軸部材30の軸部35外周に装着された制振リング40の変形部41,43を、シリンダ25の内周に対して、偏りを少なくしてなるべく均等に摺接させることができ、安定した制振効果を得ることができる。
【0067】
(振動装置の、他の実施形態)
図11には、本発明に係る制振装置の、他の実施形態が示されている。なお、前記実施形態と実質的に同一部分には同符号を付してその説明を省略する。
【0068】
この実施形態の制振装置10Aは、支持部32及び保持部53を設けた部材が、前記実施形態とは逆となっている。
【0069】
すなわち、軸部材30Aの第1基部31の表側に、前記実施形態と同様に、複数の周壁54からなる保持部53が突設されている。一方、荷重受け部材50Aの第2基部51の裏側中央から、前記実施形態と同様の、球状部33を有する支持部32が突設されている。そして、荷重受け部材50側の支持部32の球状部33が、軸部材30A側の保持部53内に収容されて、爪部55により抜け止め保持される。
【0070】
また、荷重受け部材50Aの第2基部51の表側中央には、凹部51аが形成されており、この凹部51аに、カバー部材60の先端閉塞部63から突設した突部65が嵌合して、カバー部材60の先端閉塞部63の位置決めが図られている。
【0071】
そして、この実施形態においても、前記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0072】
(振動装置の、更に他の実施形態)
図12及び図13には、本発明に係る制振装置の、更に他の実施形態が示されている。なお、前記実施形態と実質的に同一部分には同符号を付してその説明を省略する。
【0073】
この実施形態の制振装置10Bは、主として、荷重受け部材50Bの形状が、前記実施形態の荷重受け部材50,50Aと異なっている。
【0074】
すなわち、図13に示すように、この実施形態における荷重受け部材50Bは、軸方向から見て略長方形状をなした枠状の保持部53Bが設けられている。この保持部53Bを構成する周壁は、互いに平行に配置された一対の壁部56,56と、該一対の壁部56,56に対して直交配置され且つ壁部56よりも短い長さとされた一対の壁部59,59とからなる枠状を呈している。
【0075】
また、各壁部56の内側に爪部55が突設されており、各壁部56の基端外側に外側スリット57、基端内側に内側スリット58が形成されている。更に、壁部59の内側からは、球状部33の外周面に当接して、球状部33のガタツキを抑える、当接突部59аが突設されている。また、一対の壁部59,59の基端内面どうしは、連結壁59bで連結されており、この連結壁59bの内面側にも、球状部33が当接するようになっている。
【0076】
そして、この実施形態においても、前記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0077】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で、各種の変形実施形態が可能であり、そのような実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0078】
1 固定部材
3 移動部材
5 取付孔
10,10A,10B 制振装置
20 ベース部材
25 シリンダ
30,30A 軸部材
31 第1基部
32 支持部
33 球状部
35 軸部
38 凹状部
40 制振リング
41,43 変形部
45 バネ部材
50,50A,50B 荷重受け部材
51 第1基部
53,53B 保持部
54 周壁
54а 先端
55 爪部
57 外側スリット(スリット)
60 カバー部材
61 筒状部
63 先端閉塞部
65 突部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13