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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181024
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】被服用編地、及びそれを含む被服
(51)【国際特許分類】
   D04B 21/16 20060101AFI20221130BHJP
   D04B 1/16 20060101ALI20221130BHJP
   D04B 1/00 20060101ALI20221130BHJP
   D04B 21/00 20060101ALI20221130BHJP
   A41D 13/00 20060101ALI20221130BHJP
   A41D 31/00 20190101ALI20221130BHJP
   A41D 31/12 20190101ALI20221130BHJP
【FI】
D04B21/16
D04B1/16
D04B1/00 A
D04B21/00 A
A41D13/00 115
A41D31/00 502C
A41D31/12
A41D31/00 503
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087845
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】田島 和弥
(72)【発明者】
【氏名】白石 篤史
【テーマコード(参考)】
3B011
4L002
【Fターム(参考)】
3B011AB11
3B011AC08
3B011AC17
3B011AC18
4L002AA07
4L002AB02
4L002AC00
4L002BA00
4L002CA00
4L002CA01
4L002EA00
4L002EA02
4L002EA03
4L002FA01
(57)【要約】
【課題】吸水性を維持しつつ、保水量を抑制することで、多量発汗時における汗処理性及び軽快性が向上した被服用編地及びそれを含む被服を提供することができる。
【解決手段】本発明は、繊維糸(I)及び繊維糸(II)を含む被服用編地であって、繊維糸(I)は、疎水性繊維糸及び撥水性繊維糸からなる群から選ばれる一つ以上の繊維糸であり、繊維糸(II)は、親水性繊維糸であり、前記被服用編地は、10000mm2当たりの繊維糸間の隙間量が4500mm3以下であり、前記被服用編地を10秒間吸水させ、地面に対して垂直方向に30秒間吊り下げた後の保水量が100g/m2以上300g/m2以下であることを特徴とする、被服用編地に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維糸(I)及び繊維糸(II)を含む被服用編地であって、
繊維糸(I)は、疎水性繊維糸及び撥水性繊維糸からなる群から選ばれる一つ以上の繊維糸であり、
繊維糸(II)は、親水性繊維糸であり、
前記被服用編地は、10000mm2当たりの繊維糸間の隙間量が4500mm3以下であり、
前記被服用編地を10秒間吸水させ、地面に対して垂直方向に30秒間吊り下げた後の保水量が100g/m2以上300g/m2以下であることを特徴とする、被服用編地。
【請求項2】
前記被服用編地において、繊維糸(II)を含む親水領域のJIS L 1907 A法(滴下法)に準じて測定した吸水時間が180秒以下である、請求項1に記載の被服用編地。
【請求項3】
繊維糸(I)及び繊維糸(II)の合計量を100重量部とした場合、繊維糸(I)及び繊維糸(II)の重量割合は、繊維糸(I):繊維糸(II)で、3:97~90:10である、請求項1又は2に記載の被服用編地。
【請求項4】
前記被服用編地において、1cm2当たりに少なくとも1本の繊維糸(II)が配置されている、請求項1~3のいずれかに記載の被服用編地。
【請求項5】
前記被服用編地において、前記親水領域の面積は10%以上95%以下である、請求項1~4のいずれかに記載の被服用編地。
【請求項6】
前記被服用編地は、厚みが0.3mm以上0.9mm以下である、請求項1~5のいずれかに記載の被服用編地。
【請求項7】
前記被服用編地は、目付が60g/m2以上180g/m2以下である、請求項1~6のいずれかに記載の被服用編地。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の被服用編地を含むことを特徴とする、被服。
【請求項9】
前記被服は、スポーツ用被服である、請求項8に記載の被服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多量発汗時における快適性が向上した被服用編地、及びそれを含む被服に関する。
【背景技術】
【0002】
暑い季節や運動時には多量の発汗をすると、べたつき感や濡れ感といった不快感が生じる。そこで、多量発汗時の汗を処理し得る生地として、様々なものが提案されている。例えば、特許文献1には、吸水性を有する編物に撥水性を有する樹脂を部分的に固着させた部分吸水編物が記載されている。特許文献2には、水分を吸収する第一部位及び第一部位から水分を受け取って外部に誘導する第二部位を備えた撥水性編物が記載されている。特許文献3には、撥水剤が付与された撥水部と、吸水性を有する吸水部を備えた編地が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許2013-133572号公報
【特許文献2】特開2016-211099号公報
【特許文献3】特開2016-108716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1~3に記載されている従来の編物では、吸水性と保水量の抑制の両立が不十分であり、多量発汗時に編物が汗を多量保持し、運動パフォーマンスの低下や不快感が生じる恐れがあった
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、吸水性を維持しつつ、保水量を抑制することで、多量発汗時における汗処理性及び軽快性が向上した被服用編地及びそれを含む被服を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、繊維糸(I)及び繊維糸(II)を含む被服用編地であって、繊維糸(I)は、疎水性繊維糸及び撥水性繊維糸からなる群から選ばれる一つ以上の繊維糸であり、繊維糸(II)は、親水性繊維糸であり、前記被服用編地は、10000mm2当たりの繊維糸間の隙間量が4500mm3以下であり、前記被服用編地を10秒間吸水させ、地面に対して垂直方向に30秒間吊り下げた後の保水量が100g/m2以上300g/m2以下であることを特徴とする、被服用編地に関する。
【0007】
本発明は、また、前記被服用編地を用いたことを特徴とする被服に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、吸水性を維持しつつ、保水量を抑制することで、多量発汗時における汗処理性及び軽快性が向上した被服用編地及びそれを含む被服を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1の被服用編地の見本の表写真である。
図2】実施例1の被服用編地の見本の裏写真である。
図3】実施例2の被服用編地の見本の表写真である。
図4】実施例2の被服用編地の見本の裏写真である。
図5】実施例3の被服用編地の見本の表写真である。
図6】実施例3の被服用編地の見本の裏写真である。
図7】実施例4の被服用編地の見本の表写真である。
図8】実施例4の被服用編地の見本の裏写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の発明者らは、伸縮性及び通気性を有する編地において、多量発汗時における汗処理性及び軽快性を向上させるために検討を重ねた。その結果、編地に疎水性繊維糸及び撥水性繊維糸からなる群から選ばれる一つ以上の繊維糸(I)及び親水性繊維糸(II)を含ませ、繊維糸間の隙間量及び編地の飽和保水量を所定の値にすることで、多量発汗時に汗を素早く処理でき、汗処理性に優れるとともに、編地の吸汗による重量増加が抑制され、軽快性に優れることを見出した。
被服用編地が汗処理性に優れることで、該被服用編地を用いた被服を着用した際、多量発汗しても肌面におけるべたつき感や濡れ感が軽減される。また、被服用編地が軽快性に優れることで、該被服用編地を用いた被服を着用した際、多量発汗しても衣服の汗による増量が抑制され、運動パフォーマンスの低下や不快感が軽減される。
【0011】
繊維糸(I)は、疎水性繊維糸及び撥水性繊維糸からなる群から選ばれる一つ以上の繊維糸である。被服用編地が疎水性繊維糸及び撥水性繊維糸からなる群から選ばれる一つ以上の繊維糸(I)を含むことにより、編地表面の水分が移動しやすくなる。繊維糸(I)は、紡績糸、マルチフィラメント糸、マルチフィラメント糸を加工した捲縮糸等いかなるものも使用できる。疎水性繊維糸としては、例えば、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、及びポリエステル繊維等の疎水性繊維で構成された繊維糸等が挙げられる。撥水性繊維糸としては、有機繊維糸を撥水加工した撥水加工糸等が挙げられ、有機繊維糸としては、天然繊維及び/又は合成繊維を含む繊維糸が挙げられ、速乾性の観点から、疎水性繊維を含む繊維糸を撥水加工した撥水加工糸が好ましい。繊維糸(I)は、具体的には、ポリプロピレン繊維糸、ポリエステル(PET等)撥水加工糸、アクリル系撥水加工糸、ナイロン撥水加工糸、アセテート撥水加工糸及びエチレンビニルアルコール撥水加工糸から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。撥水加工糸は、繊維又は糸の状態で撥水加工されたものでもよく、編地の状態で撥水加工されたものでもよい。
【0012】
撥水加工は、特に限定されないが、以下のように行うことができる。例えば、糸条をチーズ形状に巻き返し撥水加工剤へ浸漬後、ドライ・キュアにより架橋反応させる方法;撥水加工剤の付与設備を設置した仮撚加工機や撚糸機を用い、繰り返し、これらの機上で糸条に撥水加工剤を付与した後、ドライ・キュアにより架橋反応させる方法;原糸製造段階の紡糸・延伸機上に撥水加工剤の付与設備を設け、これらの機上で糸条に撥水加工剤を付与した後、ドライ・キュアにより架橋反応させる方法等がある。
【0013】
前記撥水加工剤としては、シリコーン系撥水剤、フッ素系撥水剤等、通常の合成繊維の撥水剤として使用されるものを用いればよく、特に限定されない。中でも、耐久性の観点から、フッ素系撥水剤が好ましい。また、耐久性の観点から、前記撥水剤に、アミノプラスト樹脂、多官能ブロックイソシアネート基含有ウレタン樹脂、エチレンカーボネート等を添加してもよい。
【0014】
繊維糸(II)は、親水性繊維糸である。被服用編地が親水性繊維糸(II)を含むことにより、体表面から排出される汗を吸収することができる。繊維糸(II)は、紡績糸、マルチフィラメント糸、マルチフィラメント糸を加工した捲縮糸等いかなるものも使用できる。親水性繊維糸としては、特に限定されないが、コットン、レーヨン、アセテート、トリアセテート等のセルロース繊維紡績糸、ナイロン繊維糸、これらの繊維とポリエステル繊維との混紡糸、これらの繊維とポリエステル(PET等)のマルチフィラメント糸との複合紡績糸(精紡交撚糸を含む)、ポリエステル繊維糸を親水化処理したポリエステル親水加工糸、アクリル系繊維糸を親水化処理したアクリル系親水加工糸、ポリウレタン繊維糸を親水化処理したポリウレタン親水加工糸等が挙げられる。親水加工糸は、親水化された樹脂を用いたものでもよく、繊維又は糸の状態で親水化処理されたものでもよく、編地の状態で親水化処理されたものでもよい。繊維糸(II)としては、一つの親水性繊維糸を単独で用いてもよく、二つ以上の親水性繊維糸を併用してもよい。
【0015】
糸又は編地の親水化処理は、特に限定されないが、以下のように行うことができる。例えば、編地を染色加工工程における染色と同時の浴中で親水加工した後、又は、染色後、親水性物質が入った浴槽に編地を浸漬後、ドライ・キュアにより架橋反応させる方法;糸条をチーズ形状に巻き返し親水性物質で浸漬後、ドライ・キュアにより架橋反応させる方法;親水性物質の付与設備を設置した仮撚加工機や撚糸機を用い、繰り返し、これらの機上で糸条に親水性物質を付与した後、ドライ・キュアにより架橋反応させる方法;原糸製造段階の紡糸・延伸機上に親水性物質の付与設備を設け、これらの機上で糸条に親水性物質を付与した後、ドライ・キュアにより架橋反応させる方法等がある。繊維糸(I)と繊維糸(II)が編み込まれた編地を染色加工工程における染色と同時の浴中で親水加工した場合、繊維糸(I)は疎水性及び撥水性を維持しながら、繊維糸(II)のみ親水化させることができる。
【0016】
前記親水性物質としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル繊維の親水化処理に用いる場合は、ポリエステル系繊維と親和性のある吸水剤であるポリエチレングリコール、テレフタル酸及びポリエチレングリコールをブロック重合して得られるブロック共重合体等を用いることができる。
【0017】
前記被服用編地は、被服用編地を10秒間吸水させ、地面に対して垂直方向に30秒間吊り下げた後の保水量が100g/m2以上300g/m2以下である。「被服用編地を10秒間吸水させ、地面に対して垂直方向に30秒間吊り下げた後の保水量」は、被服用編地の飽和保水量に相当するものである。前記被服用編地の飽和保水量が100g/m2以上であると、発汗時、特に多量の発汗時に汗を吸収しやすく、汗処理性に優れる。また、前記被服用編地の飽和保水量が300g/m2以下であると、発汗時、特に多量の発汗時の編地の吸汗による過度な重量増加を抑制し、軽快性に優れる。前記被服用編地の飽和保水量は、105g/m2以上290g/m2以下であることが好ましく、115g/m2以上280g/m2以下であることがより好ましく、120g/m2以上270g/m2以下であることがさらに好ましく、125g/m2以上265g/m2以下であることが特に好ましい。前記被服用編地の飽和保水量は、繊維糸(I)及び繊維糸(II)の割合、繊維糸間の隙間量等に基づいて調整することができる。例えば、繊維糸(I)の割合が多いと、被服用編地の飽和保水量は低くなる。また、繊維糸間の隙間量が小さいと、被服用編地の飽和保水量は低くなる。
【0018】
本明細書において、「飽和保水量」は、具体的には、被服用編地を100mm×100mmにカットした試料を用い、該試料の重量を測定してWa(g)とし、該試料を水槽内の水に10秒間浸漬した後、地面に対して垂直方向に30秒間吊り下げた後の重量を測定してWb(g)とし、下記数式(1)で算出することができる。
飽和保水量(g/m2)=(Wb-Wa)×100 (1)
【0019】
前記被服用編地において、繊維糸(II)を含む親水領域は、JIS L 1907 A法(滴下法)に準じて測定した吸水時間が180秒以下であることが好ましく、60秒以下であることがより好ましく、40秒以下であることがさらに好ましく、20秒以下であることが特に好ましい。発汗時に汗を速やかに吸収しやすく、汗処理性が高まる。また、前記被服用編地は、任意に5箇所を選択し、JIS L 1907 A法の滴下法に準じて吸水時間を測定した際に、5箇所中最も短い吸水時間が180秒以下であることが好ましく、60秒以下であることがより好ましく、40秒以下であることがさらに好ましく、20秒以下であることが特に好ましい。
【0020】
前記被服用編地は、繊維糸(I)及び繊維糸(II)の合計量を100重量部とした場合、繊維糸(I)と繊維糸(II)の重量割合は、繊維糸(I):繊維糸(II)で、を3:97~90:10であることが好ましく、4:96~85:15であることがより好ましく、5:95~80:20であることがさらに好ましい。繊維糸(I)と繊維糸(II)の重量割合が上述した範囲内であると、汗の吸収量を適切な範囲に調整しやすい。
【0021】
前記被服用編地において、裏面(肌側)における繊維糸(I)を含む撥水又は疎水領域の面積(A)と繊維糸(II)を含む親水領域の面積(B)の合計を100%とした場合、Bは10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましく、20%以上であることがさらに好ましい。これにより、汗を吸収しやすくなる。また、Bは95%以下であることが好ましく、90%以下であることがより好ましく、85%以下であることがさらに好ましい。これにより、汗を吸収しつつ、吸汗量が多くなりすぎることを抑制することができる。前記被服用編地は、汗処理の均一性の観点から、1cm2当たりに少なくとも1本の繊維糸(II)が配置されていることが好ましい。
【0022】
本明細書において、疎水又は撥水領域の面積(A)は、デジタルマイクロスコープ(例えば、製品品番VH-Z25、キーエンス社製)を用いて測定した無負荷の編地の状態での繊維糸(I)の太さと、単位面積あたりの編地を構成している繊維糸(I)の本数を掛け合わせたものをいう。また、編地状態で樹脂を塗布して疎水又は撥水領域を構成した場合は、編地の単位面積あたりの樹脂の塗布面積をいう。疎水又は撥水領域以外を親水領域とし、親水領域の面積(B)の割合を下記数式(6)で算出することができる。
Bの割合=B/(A+B)×100 (6)
【0023】
前記被服用編地は、10000mm2当たりの繊維糸間の隙間量(以下において、「単位隙間量」ともきす)が4500mm3以下である。本発明において、単位隙間量は、編地の厚み方向に貫通し、タテ及びヨコ方向の長さがいずれも0.3mm以上の貫通孔を除く、繊維糸間の隙間の量を意味する。編地において、繊維糸間の隙間と貫通孔は異なる働きをしている。具体的には、繊維糸間の隙間には水が保持されるのに対し、貫通孔には水が保持されない。被服用編地の単位隙間量が上述した範囲であると、被服用編地の保水量が抑えられ、ひいては被服用編地の吸汗による重量増加を抑制することができる。前記被服用編地の10000mm2当たりの繊維糸間の隙間量は、4300mm3以下であることが好ましく、4200mm3以下であることがより好ましく、4100mm3以下であることがさらに好ましく、4000mm3以下であることが特に好ましい。前記被服用編地の単位隙間量は、伸縮性及び吸汗性の観点から、2000mm3以上であることが好ましく、2200mm3以上であることがより好ましく、2400mm3以上であることがさらに好ましく、2600mm3以上であることが特に好ましい。被服用編地の単位隙間量は、生機設計段階で、編み機のゲージ、度目、編歩条件を、使用する糸の特性(組成、太さ及び伸縮性等)、組織を考慮しながら設定することで調整することができる。
【0024】
本明細書において、「単位隙間量」は、例えば下記のように測定算出することができる。
(1)開口率を測定算出する。
(a)編地の画像を印刷した紙から、4点の貫通孔の中心を結んだ線分で形成された四角形の範囲を切り取り、開口率測定用試料とする。
(b)開口率測定用試料の重量W1(g)を測定する。
(c)開口率測定用試料に含まれている貫通孔を切り取り、貫通孔を切り取った後の開口率測定用試料の重量W2(g)を測定する。
(d)下記数式(2)で開口率(α)を算出する。
α=(1-W2/W1) (2)
なお、開口率は、編地において、貫通孔が占める割合を意味し、被服用編地が貫通孔を有しない場合は、αを0となる。
(2)見かけ体積を測定算出する。
(a)100mm(L)×100mm(W)にカットした編地を試料とする。
(b)試料の厚みT(mm)を測定する。
(c)下記数式(3)で見かけ体積(Da)を算出する。
Da=(L×W×T)mm3 (3)
(3)実体積を測定算出する。
(a)メスシリンダーに一定量の水を入れ、目盛りを読み取る(S1)。
(b)上記(2)の見かけ体積を測定した試料と同様に100mm(L)×100mm(W)にカットした編地(厚みT)をメスシリンダーに入れ、目盛りを読み取る(S2)。
(c)下記数式(4)で実体積を算出する。
Vd=(S2-S1)mm3 (4)
(4)編地の単位隙間量を下記数式(5)で算出する。
単位隙間量(mm3/10000mm2)=[Da×(1-α)]-Vd (5)
【0025】
前記被服用編地は、特に限定されないが、編地の厚み方向に貫通し、タテ及びヨコ方向の長さがいずれも0.3mm以上の貫通孔を有してもよい。該貫通孔は、被服用編地の編地重量100%に対して、300%の水分を湿潤させた状態で、貫通孔が垂直方向となるように吊り下げたとき、空隙を維持することが好ましい。これにより、通気性を保つことができる。前記貫通孔は、一方向に配列していることが好ましい。一方向とは、編地のタテ、ヨコ、斜めのいずれでもよいが、タテ又はヨコに配列しているのが好ましい。被服にしたときに貫通孔はタテに配列させるのが好ましいからである。貫通孔に接する少なくとも一部には撥水又は疎水領域が配置され、他の部分には親水領域が配置されている好ましい。この構造により、貫通孔付近から親水領域に水分が移動しやすい状態になり、貫通孔付近の水の膜は形成されなくなる。この結果、前記被服用編地は、発汗により濡れた状態においても貫通孔の通気性が確保され、有効発汗量を増やし、運動パフォーマンスを低下させず、発汗時にも快適性を保ちやすい。貫通孔の平面形状は、丸、楕円、四角、ひし形、三角、多角形、不定形のどのような形状でもよい。
【0026】
前記被服用編地の開口率は、1%以上50%以下であることが好ましく、より好ましくは2%以上40%以下である。これにより、さらに有効発汗量を増やし、運動パフォーマンスを低下させず、発汗時にも快適性を保ちやすい。
【0027】
被服用編地は、編物であればよく、例えば、丸編、緯編、及び経編のいずれでもよい。丸編は、シングル丸編(シングルジャージ-)でもよく、ダブル丸編(ダブルジャージー)でもよい。緯編は、平編(天竺編)、リブ編(ゴム編)及びパール編(ガータ編)の基本組織に加えて、浮編、タック編、レース編、両畦編、片畦編、ペレリン編、アイレット編、スムース編(両面編)、振り編、移し編、針抜編、添糸編、ラーベン編、ひねり編等の変化組織でもよい。経編は、シングル・バンダイク編(シングル・アトラス編)、シングル・コード編(プレーン・コード編)、ベルリン編、二目編(ダブル・スティッチ)、シェル編、トリコット編(ダブル・デンビー編)、アトラス編、コード編、ハーフ・トリコット編、サテン編(変形トリコット)、ミラニーズ編等が挙げられる。被服用編地としては、例えば、シングル丸編、トリコット編等を好適に用いることができる。被服用編地は、ワンウェイ編地でもよく、ツーウェイ編地でもよく、ポリウレタン繊維糸等の弾性糸を含んでもよい。
【0028】
前記被服用編地は、特に限定されないが、厚みが0.90mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.80mm以下であり、さらに好ましくは0.70mm以下である。厚みが上述した範囲内であると、暑熱環境下でスポーツ等を行う場合でも、清涼感を感じることができる。前記被服用編地は、耐久性及び汗を吸収して保持しやすい観点から、厚みが0.30mm以上であることが好ましく、0.35mm以上であることがより好ましい。
【0029】
前記被服用編地は、特に限定されないが、目付が180g/m2以下であることが好ましく、より好ましくは170g/m2以下であり、さらに好ましくは160g/m2以下である。目付が上述した範囲内であると、暑熱環境下でスポーツ等を行う場合でも、清涼感を感じることができる。前記被服用編地は、耐久性の観点から、目付が60g/m2以上であることが好ましく、より好ましくは70g/m2以上であり、さらに好ましくは80g/m2以上である。
【0030】
本発明の被服は、前記被服用編地を含む。被服としては、特に限定されず、上半身に着用するものであってもよく、下半身に着用するものであってもよく、全身に着用するものであってもよい。例えば、シャツ、Tシャツ、インナーシャツ、トレーニング用ウォーマー、ブリーフ、タイツ等が挙げられる。特に発汗の多い暑熱時期に使用するスポーツ用被服に好適に用いることができる。本発明の被服において、前記被服用編地は、全体に用いられてもよく、部分的に用いられてもよい。例えば、汗が出やすい脇や背中等に部分的に用いることができる。
【実施例0031】
以下実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0032】
実施例及び比較例で用いた評価測定方法を説明する。
【0033】
(単位隙間量)
(1)開口率を測定算出した。
(a)編地の画像を印刷した紙から、4点の貫通孔の中心を結んだ線分で形成された四角形の範囲を切り取り、開口率測定用試料とした。
(b)開口率測定用試料の重量W1(g)を測定した。
(c)開口率測定用試料に含まれている貫通孔を切り取り、貫通孔を切り取った後の開口率測定用試料の重量W2(g)を測定した。
(d)下記数式(2)で開口率(α)を算出した。
α=(1-W2/W1) (2)
なお、開口率は、編地において、貫通孔が占める割合を意味し、編地が貫通孔を有しない場合は、αを0となる。
(2)見かけ体積を測定算出した。
(a)100mm(L)×100mm(W)にカットした編地を試料とした。
(b)試料の厚みT(mm)を測定した。
(c)下記数式(3)で見かけ体積(Da)を算出した。
Da=(L×W×T)mm3 (3)
(3)実体積を測定算出した。
(a)メスシリンダーに一定量の水を入れ、目盛りを読み取る(S1)。
(b)上記(2)の見かけ体積を測定した試料と同様に100mm(L)×100mm(W)にカットした試料(厚みT)をメスシリンダーに入れ、目盛りを読み取った(S2)。
(c)下記数式(4)で実体積を算出した。
Vd=(S2-S1)mm3 (4)
(4)編地の単位隙間量を下記数式(5)で算出した。
単位隙間量(mm3/10000mm2)=[Da×(1-α)]-Vd
【0034】
(親水領域の面積割合)
疎水又は撥水領域の面積(A)は、裏面(肌側)において、デジタルマイクロスコープ(製品品番VH-Z25、キーエンス社製)を用いて、無負荷の編地の状態での繊維糸(I)の太さを測定し、単位面積あたりの編地を構成している繊維糸(I)の本数を掛け合わすことで算出した。疎水又は撥水領域以外を親水領域とし、親水領域の面積(B)の割合を下記数式(6)で算出した。
Bの割合(%)=B/(A+B)×100mm3 (6)
【0035】
(飽和保水量)
編地を100mm×100mmにカットした試料を用い、該試料の重量を測定してWa(g)とし、該試料を水槽内の水に10秒間浸漬した後、地面に対して垂直方向に30秒間吊り下げた後の重量を測定してWb(g)とし、飽和保水量を下記数式(1)で算出した。
飽和保水量(g/m2)=(Wb-Wa)×100 (1)
【0036】
(吸水時間)
親水領域の吸水時間をJIS L 1907 A法(滴下法)に準じて測定した。
【0037】
(実施例1~4、比較例1~7)
繊維糸(I)及び繊維糸(II)として下記表1に示すものを用い、下記表1に示す条件で編地を作製した。実施例1は3本の内1本、実施例2は4本の内3本、実施例3は3本の内1本、実施例4は3本の内2本の割合で親水性繊維が配置されていた。図1~8に、それぞれ、実施例1~4の編地の見本の表写真及び裏写真を示した。ポリエステル親水加工糸は、ポリエステル繊維糸を親水性ポリエステル樹脂加工剤で親水化処理したものであり、ポリエステル撥水加工糸は、ポリエステル繊維糸をフッ素系撥水剤で撥水加工したものであり、ポリウレタン親水加工糸は、ポリウレタン繊維糸を親水性ポリエステル樹脂加工剤で親水化処理したものである。
【0038】
(参考例1)
タテ糸としてポリエステル親水加工糸(マルチフィラメント:56dtex、72本;67dtex、72本)を用い、ヨコ糸としてポリエステル親水加工糸(マルチフィラメント:83dtex、72本)を用い、二重織組織の織物を作製した。糸密度は、タテ糸162本/2.54cm、ヨコ糸134本/2.54cmとした。
【0039】
実施例1~4及び比較例1~7で得られた編地の単位隙間量、親水領域の面積割合、飽和保水量及び親水領域の吸水時間を上述したとおりに測定し、その結果を下記表2に示した。
【0040】
(着用試験)
実施例1~4及び比較例2、4、6、7の編地を用いてシャツを縫製し、着用試験を行った。着用試験は、7月~9月初旬に関西エリアにて、対象シャツを着用し(対象シャツより肌側に何も着用しなかった)、運動を行い、多量発汗時の(1)重量感、(2)吸汗速乾、(3)べたつき感、及び(4)着心地を官能検査(SD法、両極尺度、5段階)で評価した。その結果を下記表3に示した。
被験者は健常な20~40代の日本人男性11名である。
運動:5min/km、30分のランニングで行った。
評点は、普段の運動時の感覚を基準(ふつう)にして評価した。
評価基準は、-2(悪い)、-1(やや悪い)、0(ふつう)、1(やや良い)、2(良い)とした。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
表1~表3から分かるように、実施例の場合、多量発汗時の重量感、吸汗速乾、べたつき感、及び着心地のいずれも良好であった。
一方、編地が疎水性繊維糸及び撥水性繊維糸からなる群から選ばれる一つ以上の繊維糸(I)を含まず、飽和保水量が300g/m2を超える比較例の場合、大量発汗時の重量感に劣る。また、単位隙間量が4500mm3を超えており、飽和保水量が300g/m2を超える比較例の場合、大量発汗時の重量感に劣る。
親水性繊維糸(II)を含まない比較例の場合、汗処理ができず、吸汗速乾、べたつき感、及び着心地が劣る。
すなわち、比較例よりも実施例の方が、多量発汗でウェアが濡れた時の重量感と汗処理性が優れていることが確認できた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8