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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181102
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】ペプチド
(51)【国際特許分類】
   C07K 5/10 20060101AFI20221130BHJP
   C12P 21/06 20060101ALI20221130BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20221130BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20221130BHJP
【FI】
C07K5/10 ZNA
C12P21/06
A23L27/00 Z
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087940
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本多 裕之
(72)【発明者】
【氏名】清水 一憲
(72)【発明者】
【氏名】竹内 友里
(72)【発明者】
【氏名】池田 彩
【テーマコード(参考)】
4B047
4B064
4H045
【Fターム(参考)】
4B047LE01
4B047LE06
4B047LE07
4B047LF07
4B047LG16
4B047LP18
4B064AG01
4B064CA21
4B064CB01
4B064DA10
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA12
4H045BA13
4H045EA01
4H045FA70
(57)【要約】
【課題】塩味発現又は増強物質を提供すること。
【解決手段】式(1):X1a-R-A(式中:X1aは脂肪族アミノ酸を示す)で示されるアミノ酸配列又は式(2):R-A-X2a(式中:X2aは芳香族アミノ酸又は塩基性アミノ酸を示す)で示されるアミノ酸配列を含む、3又は4アミノ酸からなるペプチド。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):X1a-R-A(式中:X1aは脂肪族アミノ酸を示す)で示されるアミノ酸配列又は式(2):R-A-X2a(式中:X2aは芳香族アミノ酸又は塩基性アミノ酸を示す)で示されるアミノ酸配列を含む、3又は4アミノ酸からなるペプチド。
【請求項2】
前記X1aで示される脂肪族アミノ酸がV、I、L、G、又はAである、又は前記X2aで示される芳香族アミノ酸がF、Y、又はWであり、前記且つX2aで示される塩基性アミノ酸がK、H、又はRである、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
前記式(1)で示されるアミノ酸配列を含む、請求項1又は2に記載のペプチド。
【請求項4】
前記式(1)で示されるアミノ酸配列のN末端側に任意のアミノ酸X1bが付加されてなるアミノ酸配列を含む、請求項1~3のいずれかに記載のペプチド。
【請求項5】
前記X1bがアミド基含有アミノ酸、ヒドロキシ基含有アミノ酸、又は芳香族アミノ酸である、請求項4に記載のペプチド。
【請求項6】
前記X1bで示されるアミド基含有アミノ酸がN、又はQであり、前記X1bで示されるヒドロキシ基含有アミノ酸がS、又はTであり、或いは前記X1bで示される芳香族アミノ酸がF、Y、又はWである、請求項5に記載のペプチド。
【請求項7】
前記X1aで示される脂肪族アミノ酸がV、I、L、又はGである、請求項3~6のいずれかに記載のペプチド。
【請求項8】
配列番号10~12及び20~23のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む、請求項1~7のいずれかに記載のペプチド。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載のペプチドを含有する、タンパク質の酵素分解物又はその精製物。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載のペプチドを含有する、組成物。
【請求項11】
溶液、ゲル、粉末、又は錠剤である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1~8のいずれかに記載のペプチドを含有する、塩味発現又は増強剤。
【請求項13】
嗜好性塩味発現又は増強剤である、請求項9に記載の塩味発現又は増強剤。
【請求項14】
前記ペプチドとしてタンパク質の酵素分解物を含有する、請求項9又は10に記載の塩味発現又は増強剤。
【請求項15】
請求項1~8のいずれかに記載のペプチドを含有する、飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界中で塩分の過剰摂取が問題となっている。世界保健機関 (WHO, World Health Organization) は1日当たりの塩分摂取推奨量を5 gと定めているが、大半の人は1日当たり9~12 gの塩を摂取しているのが現状である。日本でも、日本高血圧学会が令和1年10月に日本高血圧学会減塩推進東京宣言として、「塩分摂取量1日6 gを目指した6つの戦略の実行」を目標に掲げている。塩分の過剰摂取は、健康に対して様々な害を及ぼすことが知られている。特に、塩分の過剰摂取による健康被害の一つである高血圧は、虚血性脳卒中や左心室の肥大による心臓疾患を引き起こす最も大きな要因の一つである。
【0003】
塩分の摂取量を削減するために、ステルス低減法、多感覚適用、塩味代替・増強等の方法がとられてきた。ステルス低減法とは、食事中の塩分を段階的に減らしていき、消費者が塩味の低減に気づかないように減塩する方法である。しかしながら、塩化ナトリウムの量が一定量を下回ると、脳の報酬系が刺激されず、おいしさを感じることができなくなるのと同時に、品質が低下してしまうという課題がある。多感覚適用は、酵母エキスやスパイス、ハーブ、芳香族化合物等を用いて塩味の低減を補う方法であるが、食品との組み合わせによっては塩味を増強することは不可能である。塩味代替物質や塩味増強物質の利用は、塩分含有量を低減しつつ、「おいしさ」としての塩味を強く維持することを目標とした方法であり、現在最も注目を集めている。塩味代替物質は塩化カリウムや塩化アンモニウムといったアルカリ塩酸塩がこれまでに報告されているが、これらの物質には塩味の他に金属のような味や苦味、渋みといった味が含まれていることが知られている。塩味増強物質はL-アルギニンやL-アスパラギン酸等が報告されている。しかし、これらの塩味増強物質は、オフフレーバー (塩味としてふさわしくない味や匂い) を含むことが知られている。これらのことから、塩味代替・増強物質は焼成した食品や乳児用粉乳などに使用が限定されている。以上より、新たな高活性の塩味代替・増強物質の探索が求められている。
【0004】
味覚細胞は、味蕾の上に多数存在し、味を感知して味覚情報を伝達するセンサーである。ヒトの味覚細胞は基本五味 (塩味、甘味、苦味、酸味、旨味) をそれぞれ独立して感知し、毒素や難消化性物質を避け、栄養価の高いものを摂取するように導いている。味蕾の上には、味覚刺激を特異的に受け取る味覚受容体としてGタンパク共役型受容体やイオンチャネルが存在する。塩味を媒介するイオンチャネルの1つとして、Epithelial sodium channel (ENaC) の存在が報告されている。
【0005】
ペプチドは、20種類のアミノ酸がペプチド結合でつながった物質である。ペプチドの多様性は広く、例えば3個のアミノ酸が結合したペプチドの種類は、20x20x20 = 8000種類にも及ぶ。ペプチドの中には、それ自体が何らかの呈味を示すものや、味覚に対して変革作用を持ち、食品のおいしさに寄与する重要な働きをするものが多数ある。その中には塩味増強作用を持つペプチドも含まれており、RA等ジペプチドが塩味増強作用のあるものとして報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Xu, J. J. et al. Scientific Reports. 7, 7483 (2017). DOI:10.1038/s41598-017-07756-x
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、塩味発現又は増強物質を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、式(1):X1a-R-A(式中:X1aは脂肪族アミノ酸を示す)で示されるアミノ酸配列又は式(2):R-A-X2a(式中:X2aは芳香族アミノ酸又は塩基性アミノ酸を示す)で示されるアミノ酸配列を含む、3又は4アミノ酸からなるペプチド、であれば上記課題を解決できることを見出した。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0009】
項1. 式(1):X1a-R-A(式中:X1aは脂肪族アミノ酸を示す)で示されるアミノ酸配列又は式(2):R-A-X2a(式中:X2aは芳香族アミノ酸又は塩基性アミノ酸を示す)で示されるアミノ酸配列を含む、3又は4アミノ酸からなるペプチド。
【0010】
項2. 前記X1aで示される脂肪族アミノ酸がV、I、L、G、又はAである、又は前記X2aで示される芳香族アミノ酸がF、Y、又はWであり、前記且つX2aで示される塩基性アミノ酸がK、H、又はRである、項1に記載のペプチド。
【0011】
項3. 前記式(1)で示されるアミノ酸配列を含む、項1又は2に記載のペプチド。
【0012】
項4. 前記式(1)で示されるアミノ酸配列のN末端側に任意のアミノ酸X1bが付加されてなるアミノ酸配列を含む、項1~3のいずれかに記載のペプチド。
【0013】
項5. 前記X1bがアミド基含有アミノ酸、ヒドロキシ基含有アミノ酸、又は芳香族アミノ酸である、項4に記載のペプチド。
【0014】
項6. 前記X1bで示されるアミド基含有アミノ酸がN、又はQであり、前記X1bで示されるヒドロキシ基含有アミノ酸がS、又はTであり、或いは前記X1bで示される芳香族アミノ酸がF、Y、又はWである、項5に記載のペプチド。
【0015】
項7. 前記X1aで示される脂肪族アミノ酸がV、I、L、又はGである、項3~6のいずれかに記載のペプチド。
【0016】
項8. 配列番号10~12及び20~23のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む、項1~7のいずれかに記載のペプチド。
【0017】
項9. 項1~8のいずれかに記載のペプチドを含有する、タンパク質の酵素分解物又はその精製物。
【0018】
項10. 項1~8のいずれかに記載のペプチドを含有する、組成物。
【0019】
項11. 溶液、ゲル、粉末、又は錠剤である、項10に記載の組成物。
【0020】
項12. 項1~8のいずれかに記載のペプチドを含有する、塩味発現又は増強剤。
【0021】
項13. 嗜好性塩味発現又は増強剤である、項9に記載の塩味発現又は増強剤。
【0022】
項14. 前記ペプチドとしてタンパク質の酵素分解物を含有する、項9又は10に記載の塩味発現又は増強剤。
【0023】
項15. 項1~8のいずれかに記載のペプチドを含有する、飲食品。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、塩味発現又は増強作用を有するペプチドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】A群のペプチドについて、塩味発現又は増強作用を測定した結果を示す(試験例1)。縦軸は塩味応答を示し、横軸はペプチドのアミノ酸配列を示す。
図2】B群のペプチドについて、塩味発現又は増強作用を測定した結果を示す(試験例1)。縦軸は塩味応答を示し、横軸はペプチドのアミノ酸配列を示す。
図3】C群のペプチドについて、塩味発現又は増強作用を測定した結果を示す(試験例1)。縦軸は塩味応答を示し、横軸はペプチドのアミノ酸配列を示す。
図4】D群のペプチドについて、塩味発現又は増強作用を測定した結果を示す(試験例1)。縦軸は塩味応答を示し、横軸はペプチドのアミノ酸配列を示す。
図5】E群のペプチドについて、塩味発現又は増強作用を測定した結果を示す(試験例1)。縦軸は塩味応答を示し、横軸はペプチドのアミノ酸配列を示す。
図6】F群のペプチドについて、塩味発現又は増強作用を測定した結果を示す(試験例1)。縦軸は塩味応答を示し、横軸はペプチドのアミノ酸配列を示す。
図7】本発明のペプチドについて、嗜好性を測定した結果を示す(試験例2)。縦軸は嗜好性を示し、横軸は塩化ナトリウム濃度を示す。
図8】本発明のペプチドについて、嗜好性を測定した結果を示す(試験例2)。縦軸は嗜好性を示し、横軸は被検サンプルを示すを示す。
図9】本発明のペプチドについて、嗜好性を測定した結果を示す(試験例2)。縦軸は嗜好性を示し、横軸は被検サンプルを示すを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0027】
本明細書において、アミノ酸配列中のアミノ酸は一文字表記で示すこともある。
【0028】
本明細書において、アミノ酸配列を構成するアミノ酸(=アミノ酸残基)は、ペプチドを構成できるアミノ酸である限り特に制限されず、天然アミノ酸及び人工アミノ酸のいずれも含む。アミノ酸は、G、A、V、I、L等の脂肪族アミノ酸; C、M等の含硫アミノ酸; K、H、R等の塩基性アミノ酸; N、Q等のアミド基含有アミノ酸; 、S、T等のヒドロキシ基含有アミノ酸; F、Y、W等の芳香族アミノ酸; D、E等の酸性アミノ酸; P等のイミノ酸等が挙げられる。
【0029】
1.ペプチド
本発明は、その一態様において、式(1):X1a-R-A(式中:X1aは脂肪族アミノ酸を示す)で示されるアミノ酸配列又は式(2):R-A-X2a(式中:X2aは芳香族アミノ酸又は塩基性アミノ酸を示す)で示されるアミノ酸配列を含む、3又は4アミノ酸からなるペプチド(本明細書において、「本発明のペプチド」と示すこともある。)、に関する。以下に、これについて説明する。
【0030】
式(1)及び式(2)において、ペプチド構成アミノ酸(=アミノ酸残基)は一文字表記で示される。式(1)及び式(2)中の「-」はその両側のアミノ酸同士がペプチド結合で連結していることを示す。式(1)及び式(2)及びアミノ酸配列においては、左側がN末端側であり、右側がC末端側を示す。
【0031】
X1aで示される脂肪族アミノ酸としては、側鎖が全て水素原子である或いは脂肪族鎖(アルキル基等)である側鎖を有するアミノ酸である限り、特に制限されない。X1aで示される脂肪族アミノ酸としては、例えばV、I、L、G、A等が挙げられ、好ましくはV、I、L、G等が挙げられ、より好ましくはVが挙げられる。
【0032】
X2aで示される芳香族アミノ酸としては、芳香族基(例えば水酸基等で置換されていてもよい1又は2員環のアリール又はヘテロアリール(ヘテロ原子は窒素原子等)基)を含む側鎖を有するアミノ酸である限り、特に制限されない。X2aで示される芳香族アミノ酸としては、例えばF、Y、W等が挙げられ、好ましくはFが挙げられる。
【0033】
X2aで示される塩基性アミノ酸としては、塩基性側鎖(例えばアミノ基を含む側鎖)を有するアミノ酸である限り、特に制限されない。X2aで示される塩基性アミノ酸としては、例えばK、H、R等が挙げられ、好ましくはKが挙げられる。
【0034】
本発明のペプチドは、式(1)又は式(2)で示されるアミノ酸配列からなる3アミノ酸からなるペプチドであることができ、また式(1)又は式(2)で示されるアミノ酸配列のN末端側又はC末端側に任意のアミノ酸が付加されてなる4アミノ酸からなるペプチドであることができる。
【0035】
本発明のペプチドは、塩味発現又は増強作用の観点から、好ましくは4アミノ酸からなるペプチドである。この場合、式(1)又は式(2)で示されるアミノ酸配列のN末端側又はC末端側に付加されるアミノ酸としては、特に制限されず、例えばG、A、V、I、L等の脂肪族アミノ酸; C、M等の含硫アミノ酸; K、H、R等の塩基性アミノ酸; N、Q等のアミド基含有アミノ酸; 、S、T等のヒドロキシ基含有アミノ酸; F、Y、W等の芳香族アミノ酸; D、E等の酸性アミノ酸; P等のイミノ酸等が挙げられる。限定的な解釈を望むものではないが、後述の試験例1の結果より、アミノ酸数を3から4に増加させた場合にアミノ酸の種類にかかわらず活性の向上が認められたこと、及びアミノ酸数を5に増やすと急激に活性が低下することから、EnaCの結合ポケットには4アミノ酸のペプチドが最適であると考えられる。
【0036】
本発明のペプチドは、塩味発現又は増強作用の観点から、式(1)で示されるアミノ酸配列を含むことが好ましい。この場合、塩味発現又は増強作用の観点から、本発明のペプチドは、式(1)で示されるアミノ酸配列のN末端側に任意のアミノ酸X1bが付加されてなるアミノ酸配列を含むことがより好ましい。
【0037】
X1bは、好ましくはアミド基含有アミノ酸、ヒドロキシ基含有アミノ酸、又は芳香族アミノ酸である。
【0038】
X1bで示されるアミド基含有アミノ酸としては、アミド基(-C(=O)-NH-)を含む側鎖を有するアミノ酸である限り、特に制限されない。X1bで示されるアミド基含有アミノ酸としては、例えばN、Q等が挙げられ、好ましくはNが挙げられる。
【0039】
X1bで示されるヒドロキシ基含有アミノ酸としては、ヒドロキシ基を(好ましくは末端に)含む側鎖を有するアミノ酸である限り、特に制限されない。X1bで示されるヒドロキシ基含有アミノ酸としては、例えばS、T等が挙げられ、好ましくはSが挙げられる。
【0040】
X1bで示される芳香族アミノ酸としては、芳香族基(例えば水酸基等で置換されていてもよい1又は2員環のアリール又はヘテロアリール(ヘテロ原子は窒素原子等)基)を含む側鎖を有するアミノ酸である限り、特に制限されない。X1bで示される芳香族アミノ酸としては、例えばF、Y、W等が挙げられ、好ましくはFが挙げられる。
【0041】
本発明の一態様において、本発明のペプチドが含むアミノ酸配列としては、好ましくはVRA(配列番号1)、RAF(配列番号5)、RAK(配列番号6)、NVRA(配列番号10)、SVRA(配列番号11)、FVRA(配列番号12)、MVRA(配列番号13)、KVRA(配列番号14)、PVRA(配列番号15)、VRAN(配列番号16)、NIRA(配列番号20)、NLRA(配列番号21)、NGRA(配列番号22)、QGRA(配列番号23)等が挙げられる。これらの中でも、より好ましくは配列番号10~12及び20~23のいずれかで示されるアミノ酸配列が挙げられる。
【0042】
本発明のペプチドは、好ましくは、可食性タンパク質中の部分アミノ酸配列からなるペプチドである。ある配列aがタンパク質内の配列であるか否かは、タンパク質のアミノ酸配列(例えば、可食性タンパク質データベース(URL:http://www.uwm.edu.pl/biochemia/index.php/en/biopep)の710種のタンパク質)のアミノ酸配列の中から、残基を1残基ずつずらしながら、配列aの残基数のアミノ酸配列を抽出し、その中に配列aに該当する配列が存在するか否か調べることにより、容易に決定することができる。可食性タンパク質としては、食品素材に豊富に含まれるタンパク質である限り特に制限されず、具体的には、例えば乳タンパク質(例えばカゼイン、カゼインナトリウム、MPC(Milk Protein Concentrate)、α-カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼイン、ラクトアルブミン等、これらの分解物等)、豆タンパク質(例えばグリシニン、βコングリシニン、コンビシリン、ヒストン等)、穀類(例えば、米、小麦等)タンパク質(例えばグルテン、グルアジン、グルテリン、グルテニン貯蔵タンパク質等)、畜肉タンパク質(例えば筋肉構造タンパク、ミオシン、アクチン等)、魚肉タンパク質(例えば筋繊維タンパク、アクトミオシン、ミオシン、アクチン等)、鶏卵タンパク質(例えば卵白アルブミン、卵黄リポタンパク等)、豚皮タンパク質(例えばゼラチン等)等が挙げられる。
【0043】
本発明のペプチドの後述の試験例1の方法によって測定される塩味発現又は増強作用は、ジペプチド(RA)の塩味発現又は増強作用の、例えば1.5倍以上、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上である。
【0044】
本発明のペプチドは、好ましくは、単離、濃縮、又は精製されたペプチドである。
【0045】
本発明のペプチドは、塩味発現又は増強作用が著しく低下しない限りにおいて、末端のアミノ酸残基が化学修飾されたものも包含する。
【0046】
本発明のペプチドは、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO)、アミド(-CONH2)またはエステル(-COOR)であるもの、等も包含する。
【0047】
ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチルなどのC1-6アルキル基;例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基;例えば、フェニル、α-ナフチルなどのC6-12アリール基;例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル-C1-2アルキル基;α-ナフチルメチルなどのα-ナフチル-C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基;ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
【0048】
さらに、本発明のペプチドは、N末端のアミノ酸残基の主鎖上のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイルなどのC1-6アシル基など)で保護されているもの、ミリストイル化 、ピログルタミル化、メチル化等も包含する。
【0049】
本発明のペプチドは、塩味発現又は増強作用が著しく低下しない限りにおいて、末端以外のアミノ酸残基が、化学修飾されたものも包含するが、好ましくは、本発明のペプチドは末端以外のアミノ酸残基が化学修飾されたものを包含しない。この場合の化学修飾としては、例えばカルボキシル基のアミド化、エステル化等; 保護基によるアミノ基の保護等が挙げられる。エステル化、保護基については、上記した末端の化学修飾と同様である。
【0050】
本発明のペプチドは、酸または塩基との塩の形態も包含する。塩は、特に限定されず、酸性塩、塩基性塩のいずれも採用することができる。例えば酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩; 酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩; アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等のアミノ酸塩等が挙げられる。また、塩基性塩の例として、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩; カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0051】
本発明のペプチドは、溶媒和物の形態も包含する。溶媒は、特に限定されず、例えば水、エタノール、グリセロール、酢酸等が挙げられる。
【0052】
本発明のペプチドとしては、1種単独を採用することもできるし、2種以上を組合わせて採用することもできる。
【0053】
本発明のペプチドは、様々な方法で製造することができる。本発明のペプチドは、例えば固相合成法により製造することができる。また、本発明のペプチドが可食性タンパク質中の部分アミノ酸配列からなるペプチドである場合は、タンパク質の酵素分解により得ることができる。
【0054】
酵素は、タンパク質分解活性を有するものである限り特に限定されないが、例えばアスパラギン酸プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、スレオニンプロテアーゼ等が挙げられる。
【0055】
アスパラギン酸プロテアーゼとしては、例えばペプシン、レニン、カテプシンD、カテプシンE、ナプシン、βセクレターゼ、γセクレターゼ、シグナルペプチドペプチダーゼ、HIVプロテアーゼ、HTLVプロテアーゼ、NS3Aプロテアーゼ、プラスメプシン、サスパーゼ、キモシン等が挙げられる。
【0056】
セリンプロテアーゼとしては、例えばジペプチジルペプチダーゼ4、トリプシン、キモトリプシン、プラスミン、トロンビン、Xa因子などの血液凝固・線溶系および補体系やその制御系の各因子、好中球エラスターゼ、スブチリシン、フューリン、PACE4、PC2、PC7、ケキシン、ククミシン、ランチビオティックペプチダーゼ、テルミターゼ、アクロシン、カリクレイン、ウロキナーゼ、グランチーム、トリプターゼ、キマーゼ、カテプシンA、プロリルアミノペプチダーゼ、P型シグナルペプチダーゼ、前立腺特異抗原、HCMVプロテアーゼ、V8プロテアーゼ、プロテアーゼK等が挙げられる。
【0057】
システインプロテアーゼとしては、例えばカテプシンB、カテプシンH、カテプシンL、カテプシンS、カテプシンKなどのカテプシン類、レグメイン、アンジオテンシン変換酵素、ブレオマイシン加水分解酵素、カルパイン、カスパーゼ、ER-60、パパイン、コロナウイルス3CLプロテアーゼ、ファルシパイン、TEVプロテアーゼ、HRV3Cプロテアーゼ等が挙げられる。
【0058】
メタロプロテアーゼとしては、例えばADAM、マトリックスメタロプロテアーゼ、サーモリシン、ネプリライシン、カルボキシペプチダーゼ、エンドセリン変換酵素、KELL抗原、骨形成因子-1、メプリン、セラリシン、PAPP、ミトコンドリアプロセッシングプロテアーゼ、インスリン分解酵素、アミノペプチダーゼ、プレニルプロテアーゼ等が挙げられる。
【0059】
スレオニンプロテアーゼとしては、例えばプロテアソーム、γグルタミルトランスフェラーゼ等が挙げられる。
【0060】
酵素としては、1種単独を採用することもできるし、2種以上を組合わせて採用することもできる。
【0061】
可食性タンパク質及び酵素の組合せは、例えば、次のようにして決定することができる。すなわち、可食性タンパク質のアミノ酸配列から、酵素で分解した場合に生成される、本発明のペプチドのアミノ酸配列を探索する方法により、決定することができる。これにより、本発明のペプチドのアミノ酸配列が得られる可食性タンパク質/酵素の組合せを得ることが可能である。可食性タンパク質のアミノ酸配列及び酵素の切断特異性は、公知の情報に従って容易に決定することが可能である。
【0062】
酵素でタンパク質を分解する工程を含む方法により、タンパク質の酵素分解物を得ることができる。分解は、具体的には、例えばタンパク質及び酵素を含有する反応液をインキュベートすることにより、行うことができる。反応液の組成、反応温度、反応時間、タンパク質濃度、酵素濃度、添加剤の有無及びその種類等は、タンパク質及び酵素の種類に応じて、適宜設定することができる。
【0063】
酵素でタンパク質を分解する工程の後は、さらに、本発明のペプチドを精製する工程を行うことが好ましい。
【0064】
精製方法は、本発明のペプチドを濃縮できる(すなわち、ペプチド全体における本発明のペプチドの濃度を高めることができる)方法である限り、特に制限されない。精製方法としては、例えば、シリカゲルによる精製、合成吸着樹脂による精製、順相分配クロマトグラフィー、逆相分配クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、電気透析等による脱塩、限外ろ過膜等による分子量分画、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を用いて精製することができる。また、本発明のペプチドを、胆汁酸結合性を利用して(例えば、胆汁酸を担持させた担体を利用して)、精製することもできる。精製方法として、1種単独を採用することもできるし、2種以上を組み合わせて採用することもできる。
【0065】
2.用途
本発明の一態様において、本発明は、本発明のペプチドを含有する組成物(本発明の組成物)、に関する。なお、「組成物」は、複数の成分の混合物を意味する。
【0066】
本発明のペプチドは、塩味発現又は増強作用、より好ましくは嗜好性塩味発現又は増強作用(ENaC活性化作用、ENaCを介した塩味発現又は増強作用)を有する。このため、本発明のペプチドは、塩味発現又は増強剤(本発明の剤)の有効成分として利用することができる。塩味発現又は増強とは、塩化ナトリウムに依存せずに、塩味を発現又は増強させることを示す。塩味発現又は増強剤により、経口摂取されるものに対して、塩味を付与、塩味を増強することができる。本発明のペプチドを添加することにより、嗜好性を向上させることができる。また、嫌悪性の塩味が生じている(高濃度塩化ナトリウム存在)状態であっても、本発明のペプチドを添加することにより、嗜好性を向上させることができる。
【0067】
本発明の剤、本発明の組成物は、ペプチドとして、本発明のペプチド以外のペプチドを含む場合も包含する。本発明の剤、本発明の組成物における本発明のペプチドの含有量は、ペプチド100質量%に対して、例えば10質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、よりさらに好ましくは80質量%以上、とりわけさらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。本発明の剤、本発明の組成物は、本発明のペプチドを含むペプチドとして、タンパク質の酵素分解物又はその精製物を含有することができる。
【0068】
本発明の剤、本発明の組成物は、各種分野において、例えば食品添加剤、飲食品、医薬、健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)等に利用することができる。
【0069】
本発明の剤、本発明の組成物は、例えば経口摂取されるものに添加して、或いはそのまま経口摂取して用いることができる。
【0070】
本発明の剤、本発明の組成物の形態は、特に限定されず、用途に応じて、各用途において通常使用される形態をとることができる。
【0071】
本発明の剤、本発明の組成物の形態としては、用途が食品添加剤、医薬、健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)などである場合は、例えば溶液、ゲル、粉末、錠剤(口腔内側崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(ドリンク剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゼリー剤などが挙げられる。
【0072】
本発明の剤、本発明の組成物における本発明のペプチドの含有量は、用途、使用態様、適用対象の状態などに左右されるものであり、限定はされないが、例えば0.0001~100質量%、好ましくは0.001~50質量%とすることができる。当該含有量の下限は、例えば0.01質量%、0.1質量%、1質量%、5質量%、10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、50質量%、60質量%、70質量%、80質量%、又は90質量%である。
【0073】
本発明のペプチドを飲食品に添加して用いる場合、対象の飲食品としては、特に制限されず、例えばラーメン、うどん、そば、ポタージュ、コンソメ、ブイヨン、味噌汁、お吸い物などのスープ、ラーメン、うどん、そば、焼きそば、パスタなどの麺類やパン類、醤油、味噌、ドレッシングなどの食品用調味料、あるいはスナック菓子のシーズニングパウダーなどが挙げられる。添加量としては、例えば飲食品中の本発明のペプチド濃度が、例えば0.001~100mM、0.01~10mM、0.05~2mMとなるように添加すればよい。
【実施例0074】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0075】
以下の試験において、二群間の比較はstudent’s t-testによって行い、p値が0.05以下の場合、有意な差があると定義した。
【0076】
以下の試験において、多群間の比較は、Bartlett検定により等分散性を検定した後、一元配置分散分析 (ANOVA) を用いて評価した。続いてTukey-Kramer法 (以下、Tukey法) を用いて多重比較検定を行い、p値が0.05以下の場合、有意な差があると定義した。
【0077】
試験例1.塩味発現又は増強作用の測定(in vitro)
既知の塩味発現又は増強ペプチド(RA)にアミノ酸を付加してなるアミノ酸配列のペプチドを合成し、塩味受容体であるEnaCを発現させた細胞を用いて、細胞内Ca2+イメージングにより塩味発現又は増強作用を測定した。具体的には次のようにして行った。
【0078】
<1-1.ペプチド>
合成したペプチドのアミノ酸配列は以下のとおりである。
【0079】
<A群:1aa-RA>
・VRA(配列番号1)
・SRA(配列番号2)
・FRA(配列番号3)
・KRA(配列番号4)。
【0080】
<B群:RA-1aa>
・RAF(配列番号5)
・RAK(配列番号6)
・RAV(配列番号7)
・RAN(配列番号8)
・RAP(配列番号9)。
【0081】
<C群:1aa-V-RA>
・NVRA(配列番号10)
・SVRA(配列番号11)
・FVRA(配列番号12)
・MVRA(配列番号13)
・KVRA(配列番号14)
・PVRA(配列番号15)。
【0082】
<D群:V-RA-1aa>
・VRAN(配列番号16)。
【0083】
<E群:1aa-N-V-RA>
・VNVRA(配列番号17)
・DNVRA(配列番号18)
・PNVRA(配列番号19)。
【0084】
<F群:アミド基含有アミノ酸-脂肪族アミノ酸-RA>
・NIRA(配列番号20)
・NLRA(配列番号21)
・NGRA(配列番号22)
・QGRA(配列番号23)。
【0085】
<1-2.塩味受容体ENaCの発現>
<1-2-1.プラスミドの複製>
塩味受容体Epithelial Sodium Channel (ENaC) は3量体で構成されているため、各サブユニットの配列を含む発現プラスミド (h-alpha-ENaC (83430、addgene、USA)、h-beta-ENaC (83429、addgene、USA)、h-gamma-ENaC Myc (83428、addgene、USA) ) の3種類を用いた。プラスミドの複製は、High Efficiecy DH5α Competent cells (DH01-20、GMbiolab、Taiwan、以下Competent cells) に形質転換後、培養、精製する手順で行った。-80 ℃で保存したCompetent cells 100 μLを氷上で解凍し、プラスミド5 μLを加えて30分氷上で溶解した。その後、42 ℃の恒温槽中で45秒間インキュベートすることでヒートショックを行い、即座に氷上に戻した。チューブに室温に戻したSOC培地350 μLを添加し、10回転倒撹拌した後、37 ℃のインキュベーター内で200 rpmで1 h振とう培養を行った。培養後の菌液を懸濁した後、アンピシリン (012-23303、富士フイルム和光純薬株式会社、Osaka) 含有LB寒天培地に播種し、37 ℃のインキュベーター内で一晩培養した。2日目にコロニーを1つ爪楊枝でつつき、2 mLのアンピシリン含有LB液体培地を含むワッセルマンに植菌した後、37 ℃のインキュベーター内で200 rpmで一晩振とう培養した。3日目には、アンピシリン含有LB液体培地50 mLを200 ml 三角フラスコに分注し、そこに培養後の菌液 500 μLを植菌し、37 ℃のインキュベーター内で200 rpmで一晩振とうすることで拡大培養を行った。4日目にはGenopure Plasmid Midi Kit (03143414001、Roche、Germany) を用いて、取扱説明書に記載された方法で複製したプラスミドの精製を行い、TEバッファー 50 μLに溶解した状態で-80 ℃で保存した。
【0086】
<1-2-2.塩味受容体ENaCのHEK293細胞表面への発現>
HEK293細胞を24 well cell culture plate (TR5002、True Line、USA、以下24 well plate) に7.2×104cells/wellとなるように播種し、37 ℃、5% CO2、95% Air環境下のCO2インキュベーター内で24 h培養した。その後、リポフェクションにより塩味受容体ENaCを発現させた。リポフェクションは、Lipofectamine 3000 Transfection Kit (L3000-008、invitrogen、USA) を用いた。1 well分の試薬は表1のようにDNA溶液とLipofectamine溶液の2種類を調製した。調製したLipofectamine溶液をDNA溶液に添加後、タッピングにより混合して15分間室温でインキュベートし、培養中のHEK293細胞に50 μL/wellで添加した。リポフェクション後、37 ℃、5% CO2、95% Air下のCO2インキュベーター内で24 hインキュベートし、カルシウムイメージングを行った。
【0087】
【表1】
【0088】
<1-3.細胞内Ca2+イメージング>
<1-3-1.Ca2+イメージング試薬の調製>
細胞内Ca2+濃度の測定には、Fluo-4 DirectTM Calcium Assay Kit (F10471、invitrogen、USA) を用いた。Fluo-4 DirectTMは蛍光性Ca2+インジケーターであり、細胞内Ca2+と錯体を形成して蛍光を発する。培地に添加するFluo-4 DirectTMカルシウム試薬ローディング溶液は、2倍濃縮となるように調製した。まず、Fluo-4 DirectTMの細胞外流出を防ぐ役割を持つ水溶性プロベネシド 77 mgをFluo-4 DirectTMカルシウムバッファー 1 mLに溶解した。Fluo-4 DirectTMカルシウムアッセイ試薬のボトルにFluo-4 DirectTMカルシウムバッファー 10 mLを添加しボルテックスして溶解した。その後調製したプロベネシド溶液 200 μLを加え、ボルテックスにより試薬を完全に溶解し、遮光状態で保存した。
【0089】
<1-3-2.細胞内Ca2+イメージング>
細胞内Ca2+濃度の測定は、リポフェクションにより塩味受容体ENaCを発現させたHEK293細胞と、ENaCを発現させてないHEK293細胞に対して行った。リポフェクションを行った細胞は1-2-2の手法に従い、未処理の細胞は24 well cell culture plate (TR5002、True Line、USA) に7.2×104cells/wellとなるように播種した後、37 ℃、5% CO2、95% Air環境下のCO2インキュベーター内で48 h培養して準備した。培地を除去した後、DMEM培地 (10% FBS、1% PS) 250 μlと2×Fluo-4 DirectTMカルシウム試薬ローディング溶液 250 μlを添加し、37 ℃、5% CO2、95% Air環境下のCO2インキュベーター内で1 hインキュベートした。その後、培地と試薬を除去し、15 mM HEPES/HBSS 500 μLで2回洗浄した。洗浄した後、15 mM HEPES/HBSSを200 μL添加した状態で、蛍光顕微鏡 (IX81、OLYMPUS、Tokyo) にセットした。Metamorphイメージングソフトウェアを用い、露光時間 250 ms、倍率10x の条件で撮影を行った。タイムラプス観察 (1 sおきに150 s) を行い、30 sが経過した時点で試験溶液(ペプチド及び塩化ナトリウム含有)50 μLを、培地中終濃度がペプチド200μM且つ塩化ナトリウム200mMになるように添加した。本実験による蛍光画像は、488 nmのレーザーで励起して取得した。細胞内の蛍光強度値変化は、各タイムポイントにおける蛍光画像をImageJにより数値化して取得した。画像解像度は1228 pixel×1228 pixelであり、各ピクセルごとに16階調の輝度値に変換される。各時刻ごとに画面をスキャンし、ピクセルの総和を求めた。
【0090】
細胞内Ca2+イメージングの実験データの評価は、サンプル添加後から120秒間の蛍光強度-時間曲線下面積 (Area under the curve、以下AUC) により行い、平均値と標準偏差で示した。塩味応答は以下の式で定義した。
【0091】
【数1】
【0092】
<1-4.結果>
A群の結果を図1に、B群の結果を図2に、C群の結果を図3に、D群の結果を図4に、E群の結果を図5に、F群の結果を図6に示す。図1~6より、式(1):X1a-R-A(式中:X1aは脂肪族アミノ酸を示す)で示されるアミノ酸配列又は式(2):R-A-X2a(式中:X2aは芳香族アミノ酸又は塩基性アミノ酸を示す)で示されるアミノ酸配列を含む、3又は4アミノ酸からなるペプチド、であれば、高い塩味発現又は増強作用を発揮できることが分かった。
【0093】
試験例2.嗜好性の測定(in vivo)
マウスの行動評価に基づいて嗜好性を測定した。具体的には次のようにして行った。
【0094】
<2-1.マウスの飼育>
動物行動試験には6週齢のオスのC57BL/6JJcl (日本クレア、Tokyo、以下マウス) 8匹を用いた。おがくずを敷き詰めたプラスチックのケージ (CL-0133、 日本クレア、Tokyo、以下ケージ) にマウスを1 匹/ケージで入れ、飼育した。各マウスとも動物用飼料(CE-2、日本クレア、Tokyo、以下飼料)を自由に摂取できるように与えた。実験室は温度23±2 ℃、に保ち、照明は午前8時に点灯、午後8時に消灯されるように設定した。最初の1週間は飼料と超純水(以下水)を自由に摂取できるように設置し、環境に馴化させた。
【0095】
<2-2.摂取サンプルの調製>
塩化ナトリウム水溶液は塩化ナトリウム(191-01665、富士フイルム和光純薬株式会社、Osaka)の濃度が15 mM、30 mM、45 mM、75 mM、150 mMになるように調製した。ペプチド溶液は購入した標品のNVRAペプチド (Biologica、Aichi)を用い、終濃度が0.2 mMになるように調製した。
【0096】
<2-3.二瓶性選択試験>
二瓶性選択試験は2-1に記した環境下で行った。サンプルを提示するための瓶は、10 mL StripetteTM Serological Pipets (4488、CORNING、USA、以下ピペット) を切断し、Φ8 mm ×65 mm ボール入り先管ステンレス (TD-100、日本クレア、Tokyo、以下先管) をはめ込み、8 mm シリコンチューブ (Cole Parmer、06411-76、USA、以下シリコンチューブ) でピペットと先管を固定し作成した。中にサンプルを入れる際は、ピペットにパラフィルム M 4インチ×125 フィート (株式会社日計製作所、PM-996、Osaka、以下パラフィルム)をかぶせて蓋をした。片方の瓶に調製したサンプル、もう片方の瓶に水を入れ、サンプル入りの瓶の重量を測定した。その後、4.0 cmの間隔をあけて提示した。24 h後にサンプル入りの瓶の重量を測定し、瓶の位置を左右入れ替えた。さらに24 h後、サンプル入りの瓶の重量を測定した。
【0097】
二瓶性選択試験の実験データは、測定したサンプルの重量から1匹ずつ24 h当たりの摂取量の平均を算出し、8匹の摂取量と嗜好性を平均と標準偏差で示した。嗜好性は以下の式で定義した。
【0098】
【数2】
【0099】
<2-4.結果>
塩化ナトリウムのみの溶液を用いた場合の結果を図7に示す。高濃度の塩化ナトリウム溶液(50mM、150mM)では、嗜好性が低下することが分かった。
【0100】
水とペプチドのみの溶液との比較結果を図8に示す。また、高濃度(150mM)の塩化ナトリウム溶液と、これにさらにペプチドを添加した溶液との比較結果を図9に示す。高濃度食塩水に本発明のペプチドを加えると有意に嗜好性が上昇することが分かった。嫌悪性の塩味ではENaCとは別のレセプターが活性化されるので、本発明のペプチドを加えることによって嗜好性塩味を呈味するENaCがより活性化され、嗜好性が上昇したと考えられる。
【0101】
試験例3.塩味発現又は増強ペプチド配列の検索
NGRA及びQGRAについてタンパク質配列中に存在するか、タンパク質データベースを用いて検索した。使用したデータベースは以下の2つである。
1.BIOPEP-UWM (http://www.uwm.edu.pl/biochemia/index.php/pl/biopep) を使って独自に構築した可食性タンパク質由来ペプチドデータベースで検索し、Uniprotにリンク
2.日本の公的データベース:(財)蛋白質研究奨励会:https://www.prf.or.jp/seqdb.html。
【0102】
結果を以下に示す。
【0103】
<NGRA>
1. UniProtKB - P04405 (GLYG2_SOYBN)
2. SEQDB ID: 1313364A、Reference: 1313364
Name: glycinin A2B1a、Organism: Glycine max
前後の配列:IYALNGRALVQV
切断予測:Pepsin(pH>2)でI_Y_A_L_NGRA_LVQV(_の位置で切断)
他の同様の配列
1. UniProtKB - P04776 (GLYG1_SOYBN)
1. UniProtKB - P11828 (GLYG3_SOYBN)。
【0104】
<QGRA>
1. UniProtKB - P12615 (SSG1_AVESA) :393-936
2. SEQDB ID: 1605264A、Reference: 1605264
Name: 12S seed storage protein、Organism: Avena sativa(エンバク、オート麦)
前後の配列:MIQGRARVQV
切断予測:ProteinaseKでMI_QGRA_RV_QV。
【0105】
<QGRA>
1. UniProtKB - P07730 (GLUA2_ORYSJ) :382-385
2. SEQDB ID: 1311273A、Reference: 1311273
Name: glutelin、Organism: Oryza sativa
前後の配列:ITQGRAQVQV
切断予測:ProteinaseKでI_T_QGRA_QV_QV。
【0106】
<QGRA>
1. UniProtKB - Q09151 (GLUA3_ORYSJ):381-384
2. SEQDB ID: 1210248A、Reference: 1210248
Name: glutelin precursor、Organism: Oryza sativa
前後の配列:ITQGRARVQVV
切断予測:ProteinaseKでI_T_QGRA_RV_QV_V。
【0107】
上記の通り、NGRA及びQGRAは、可食性タンパク質(大豆コングリシニン、米グルテリン等)の配列内に存在し、またプロテアーゼ(Pepsin又はProteinaseK)で切り出し可能であることが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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