(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181135
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】クレードル、ボートダビット、複合艇の引き上げ方法、および、複合艇の保管方法
(51)【国際特許分類】
B63B 23/16 20060101AFI20221130BHJP
B63B 23/34 20060101ALI20221130BHJP
B63B 23/48 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
B63B23/16
B63B23/34
B63B23/48
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088000
(22)【出願日】2021-05-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】516008040
【氏名又は名称】テクノアルファ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏至
(72)【発明者】
【氏名】谷本 貴浩
(57)【要約】 (修正有)
【課題】複合艇の昇降時の安定性に優れたクレードル、当該クレードルを含むボートダビット、当該ボートダビットを用いた複合艇の引き上げ方法および保管方法を提供する。
【解決手段】ボートダビットに用いるクレードル7Aであって、該クレードルは、本体部と、本体部に取付けられ、複合艇に当接するクレードルチョック72と、を含み、クレードルチョックは、複合艇の防舷材102を収容する凹部が形成された防舷部721を含む、クレードル。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボートダビットに用いるクレードルであって、該クレードルは、
本体部と、
本体部に取付けられ、複合艇に当接するクレードルチョックと、
を含み、
クレードルチョックは、複合艇の防舷材を収容する凹部が形成された防舷部を含む、
クレードル。
【請求項2】
防舷部が、中実の弾性部材で形成されている、
請求項1に記載のクレードル。
【請求項3】
クレードルチョックが、防舷部に隣接して配置される平板状防舷板を更に含む、
請求項1または2に記載のクレードル。
【請求項4】
クレードルチョックが、離間して配置される第1クレードルチョックおよび第2クレードルチョックを含む、
請求項1~3の何れか一項に記載のクレードル。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載のクレードルと、
先端に滑車が設けられ、甲板上に互いに離れて建立されたボート支持用アームと、
滑車を介して移動する線材と、
線材を操作するためのウインチと、
を含む、ボートダビット。
【請求項6】
ボートダビットを用いた複合艇の引き上げ方法であって、
ボートダビットは、
クレードルと、
先端に滑車が設けられ、甲板上に互いに離れて建立されたボート支持用アームと、
滑車を介して移動する線材と、
線材を操作するためのウインチと、
を含み、
クレードルは、
本体部と、
本体部に取付けられ、複合艇に当接するクレードルチョックと、
を含み、
クレードルチョックは、複合艇の防舷材を収容する凹部が形成された防舷部を含み、
複合艇の引き上げ方法は、
複合艇の防舷材をクレードルチョックの防舷部の凹部に当接させる工程と、
複合艇の防舷材とクレードルチョックの防舷部の凹部が当接した状態で、複合艇を引き上げる工程と、
を含む、複合艇の引き上げ方法。
【請求項7】
防舷部が、中実の弾性部材で形成されている、
請求項6に記載の複合艇の引き上げ方法。
【請求項8】
複合艇の防舷材は補強部を含み、
当接させる工程は、補強部をクレードルチョックの防舷部の凹部に当接する、
請求項6または7に記載の複合艇の引き上げ方法。
【請求項9】
請求項6~8の何れか一項に記載の複合艇の引き上げ方法により引き上げた複合艇を、複合艇の防舷材とクレードルチョックの防舷部の凹部が当接した状態で保管する工程、
を含む、複合艇の保管方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願における開示は、クレードル、ボートダビット、複合艇の引き上げ方法、および、複合艇の保管方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の甲板上に設置された救命ボート、警備救難艇、警備艇、潜水支援艇等の搭載された船艇(以下、搭載された船艇のことを「搭載ボート」と記載することがある。)を船外に移動するため、或いは、業務を終えた搭載ボートを船内に回収するための装置として、ボートダビットが知られている。
図1および
図2は、従来から知られているボートダビットの一例を説明するための図である(特許文献1参照)。
【0003】
図1および
図2に示す例では、ボートダビットAは甲板1上に互いに離れて設けられた一対のボート支持用アーム2を有し、その先端にはそれぞれ、ロープ4を掛ける滑車3が設置されている。そしてボートダビットAは図示のように、搭載ボート9の船側に備えられたクレードル7を含み、クレードル7の上端でアーム2とほぼ同じ間隔離れた二箇所にロープ取付ブロック14が備えられ、そこに各ロープの先端6が繋がれている。また、クレードル7の両側には一連のローラー8が設置され、それらのローラー8はアーム2に沿って転がり移動するようになっている。搭載ボート9の船首および船尾近傍の二箇所にはロープを取り外し自在に取り付け得る取付具16が固定され、クレードル7の上端の取付ブロック14と搭載ボート9の取付具16との間に張られた所定長のランチングストロープ15によって搭載ボート9が支持される。
【0004】
図1および
図2に示す例では、搭載ボート9の側面17が破損することを防止するため、搭載ボート9の側面17をクレードル7に接触するようにランチングストロープ15を調整している。また、
図1および
図2では図示が省略されているが、側面17またはクレードル7には防舷材が設けられている。クレードル7に設けられる防舷材としては、断面略D字形状中空ゴムクッション材(D型防舷材)を複数個並列して設けたクレードルチョックが知られている(特許文献2参照)。
【0005】
図1および
図2に示すボートダビットを用いて搭載ボート9を下降するには、ウインチ5によりロープ4を繰出せばよく、搭載ボート9のクレードル7と共に
図1に示すように下降し、クレードルのローラー8はアーム2に沿って転がり移動し、アーム2の下端を越えると、船体の側面に沿って移動しつつ下降する。そして海面上に着水すると、ロープ4が弛むようになり、搭載ボート9の取付具16からロープ4を外せばよい。
【0006】
また、
図1および
図2に示すクレードルを用いて搭載ボートを引き上げて格納するには、下降とは逆に、クレードルのロープ取付ブロック14に取付けられたランチングストロープ15の下端を搭載ボートの取付具16に固定し、次いでロープ4をウインチ5によって巻取ればよく、それによって搭載ボートは、初めは船体の側面に沿ってクレードル7と共に上昇し、次いで一対のアーム2に沿って上昇し、その際クレードル7はそれらのアームによって案内され、所定位置に収められる。このような搭載ボート9の昇降はローラー8によって極めて円滑になされる。
【0007】
特許文献1に記載された発明では、搭載ボート9の下降はクレードルを介して一対のアームに沿って行われるので、船の運行中でも可能である。そして、その操作には従来のような搭載ボート9の船外への振出しが必要でなく、単にロープを繰出すのみであるため極めて簡単かつ迅速になし得る。さらに構造的にも船外への振出し機構が不必要であり、かつ荷重がアームの軸方向成分にかなり分散されるので、力学的にも有利であり、機構が単純になりかつコンパクト化できる。その上、搭載ボート9はクレードルと共にアームおよび船体に沿って昇降されるので、従来の吊下げ方式に比べて著しく安全性が向上する。
【0008】
ところで、近年、搭載ボート9として、従来のFRP製のボートに加え、複合艇が採用され始めている。複合艇は、インフレータブルボート(ゴムボート)を元に、船底をFRPなど硬質の素材としており、船体はディープV型など滑走船型を採用している。これにより、低速時にはインフレータブルボートと同様に大きな予備浮力によって復原力が確保される一方、高速時の波浪衝撃にも耐えられる強度も確保されている。
【0009】
複合艇は、全体を硬性素材で作製したボートよりも軽量となるので高速を発揮でき、ブルワーク兼用のゴムチューブが防舷材としての機能を兼ねる。そのため、複合艇は臨検などにおいて有用であり、また、ボートダビットで保持中はクレードル7に対する防舷材として機能する。したがって、特許文献1に記載のボートダビットAを複合艇に用いる場合、クレードル7に防舷材を設けなくてもよい。より具体的には、特許文献2に記載されているような防舷材を設けたクレードルチョックを特許文献1に記載のクレードル7に固着する必要はなく、平板状のクレードルチョックを用いることができる(以下、平板状のクレードルチョックを用いたボートダビッドを「ボートダビットA’」と記載することがある。)。
【0010】
しかしながら、ボートダビットA’を複合艇の昇降および保管に用いた場合、複合艇にはクレードル7方向への力が常に働く。したがって、複合艇を長期間保管した場合、クレードル7と接触する複合艇の側面(ゴムチューブ)が凹んで変形するという新たな問題が発生した。
【0011】
上記問題を解決するため、複合艇とボートダビットA’との間を支持部材で繋ぐことで、ボートダビットA’に対する複合艇の水平方向位置を一定に保持することができ、その結果、ボートダビットA’で格納中の複合艇の側面(ゴムチューブ)がクレードルに必要以上に押し付けられることを防止できることが知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2013-180731号公報
【特許文献2】登録実用新案第3077671号公報
【特許文献3】特開2019-182109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献3に記載の発明は、複合艇の引き上げや下降(以下、「昇降」と記載することがある。)の際には支持部材の着脱操作が必要であり、作業が煩雑になるという問題がある。当該問題を解決するため、本発明者らは複合艇のゴムチューブの一部(クレードルと当接する部分)を補強材で補強した複合艇を作製した。
【0014】
上記ボートダビットA’を用いて作製した複合艇を長期間保管した場合、補強材の補強効果により、複合艇の側面(ゴムチューブ)が凹んで変形するという問題は解決できた。しかしながら、ゴムチューブを補強材で補強するほど防舷材としての機能が失われた、換言すると、ゴムチューブの弾性変形能が小さくなった。その結果、補強材で補強した複合艇を、上記ボートダビットA’を用いて昇降すると、平板状のクレードルチョックに当接するゴムチューブの接触面積が減少したことで昇降時に複合艇が滑ってしまい、昇降時の安定性が損なわれるという新たな問題が発生した。
【0015】
本出願における開示は、上記問題を解決するためになされたものであり、鋭意研究を行ったところ、クレードルチョックに複合艇のゴムチューブ(防舷材)を収容する凹部が形成された防舷部を設けることで、補強材による補強の有無を問わず、防舷材を含む複合艇を昇降する時の安定性を向上できることを新たに見出した。
【0016】
すなわち、本出願における開示は、複合艇の昇降時の安定性に優れたクレードル、当該クレードルを含むボートダビット、当該ボートダビットを用いた複合艇の引き上げ方法および保管方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本出願における開示は、以下に示す、クレードル、ボートダビット、複合艇の引き上げ方法および複合艇の保管方法に関する。
【0018】
(1)ボートダビットに用いるクレードルであって、該クレードルは、
本体部と、
本体部に取付けられ、複合艇に当接するクレードルチョックと、
を含み、
クレードルチョックは、複合艇の防舷材を収容する凹部が形成された防舷部を含む、
クレードル。
(2)防舷部が、中実の弾性部材で形成されている、
上記(1)に記載のクレードル。
(3)クレードルチョックが、防舷部に隣接して配置される平板状防舷板を更に含む、
上記(1)または(2)に記載のクレードル。
(4)クレードルチョックが、離間して配置される第1クレードルチョックおよび第2クレードルチョックを含む、
上記(1)~(3)の何れか一つに記載のクレードル。
(5)上記(1)~(4)の何れか一つに記載のクレードルと、
先端に滑車が設けられ、甲板上に互いに離れて建立されたボート支持用アームと、
滑車を介して移動する線材と、
線材を操作するためのウインチと、
を含む、ボートダビット。
(6)ボートダビットを用いた複合艇の引き上げ方法であって、
ボートダビットは、
クレードルと、
先端に滑車が設けられ、甲板上に互いに離れて建立されたボート支持用アームと、
滑車を介して移動する線材と、
線材を操作するためのウインチと、
を含み、
クレードルは、
本体部と、
本体部に取付けられ、複合艇に当接するクレードルチョックと、
を含み、
クレードルチョックは、複合艇の防舷材を収容する凹部が形成された防舷部を含み、
複合艇の引き上げ方法は、
複合艇の防舷材をクレードルチョックの防舷部の凹部に当接させる工程と、
複合艇の防舷材とクレードルチョックの防舷部の凹部が当接した状態で、複合艇を引き上げる工程と、
を含む、複合艇の引き上げ方法。
(7)防舷部が、中実の弾性部材で形成されている、
上記(6)に記載の複合艇の引き上げ方法。
(8)複合艇の防舷材は補強部を含み、
当接させる工程は、補強部をクレードルチョックの防舷部の凹部に当接する、
上記(6)または(7)に記載の複合艇の引き上げ方法。
(9)上記(6)~(8)の何れか一つに記載の複合艇の引き上げ方法により引き上げた複合艇を、複合艇の防舷材とクレードルチョックの防舷部の凹部が当接した状態で保管する工程、
を含む、複合艇の保管方法。
【発明の効果】
【0019】
本出願で開示するクレードルを用いることで、複合艇を昇降する際の安定性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、従来のボートダビットを説明するための正面図である。
【
図2】
図2は、従来のボートダビットを説明するための側面図である。
【
図3】
図3は実施形態に係るクレードル7A、および、クレードル7Aと複合艇100が当接した状態を示す概略側面図である。
【
図4】
図4はクレードル7Aの概略を示す正面図である。
【
図5】
図5は複合艇100の概略を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本出願で開示するクレードル、ボートダビット、複合艇の引き上げ方法、および、複合艇の保管方法について説明する。なお、本明細書において、同種の機能を有する部材には、同一または類似の符号が付されている。例えば、同一の符号〇の後ろにa、bが記載されている部材、例えば、「・・・〇a」と「・・・〇b」は、同じ機能を有する部材を意味する。また、同じ機能を有する部材を説明する場合は、「・・・〇a」と「・・・〇b」の記載に替え「・・・〇」と記載することがある。更に、同一または類似の符号の付された部材について、繰り返しとなる説明が省略される場合がある。加えて、従来技術と同種の機能を有する部材には、従来技術と同一または類似の符号が記載されている。
【0022】
(方向の定義)
図3、
図4および
図7に例示されるように、本明細書において、重力方向をZ1方向と定義する。また、Z1方向とは反対方向をZ2方向と定義する。
【0023】
(クレードルの実施形態)
図3乃至
図7を参照して、クレードルの実施形態について説明する。
図3は実施形態に係るクレードル7A、および、クレードル7Aと複合艇100が当接した状態を示す概略側面図である。
図4はクレードル7Aの概略を示す正面図である。
図5は複合艇100の概略を示す上面図である。
図6A乃至
図6Dは、
図5のa-a矢視断面図である。
図7Aは
図4のb-b矢視断面図、
図7Bは
図4のc-c矢視断面図、
図7Cは
図4のd-d矢視断面図である。
図7Dは
図7Aと同方向の矢視断面図である。
【0024】
実施形態に係るクレードル7Aは、本体部71(71a、71b)と、クレードルチョック72(72a、72b)と、を少なくとも含む。本出願で開示するクレードル7Aは、クレードルチョック72部分に特徴を有する。したがって、後述するクレードルチョック72部分以外のクレードル7Aの構成は、本出願で開示する効果を奏する範囲であれば、公知のクレードルと同じ構成であってもよいし、任意の構成を付加してもよいし、或いは、任意の構成を削除してもよい。
【0025】
図3および
図4に示す例では、本体部71(71a、71b)は、略コ字状のローラー支持部711(711a、711b)で、1以上の任意の数のローラー712を回転可能に軸支している。また、
図3および
図4に示す例では、クレードル7Aは本体部71(71a、71b)に接続するアーム部73(73a、73b)を有し、本体部71およびアーム部73は略J字状に形成されている。また、
図4に示す例では、クレードル7Aの一対の本体部71(711a、711b)は横架74で連結され、一対のアーム73(73a、73b)のそれぞれには、縦架75の一端が連結し、縦架75の他端は横架74に連結している。上記連結構造により、クレードル7Aは略逆鳥居形状の一体的な構造となる。
【0026】
図3、
図5および
図6を参照して、複合艇100の概略を説明する。複合艇100は、船艇本体部101と、防舷材102と、補強部103を含む。船艇本体部101および防舷材102は、公知の複合艇100と同じであってもよい。防舷材102は、例えば、ゴムチューブ、可撓性を有し空気を吹き込むことで略筒状に変形可能な繊維強化シート等が挙げられる。防舷材102は空気等の気体を吹き込むことで中空状となり、気体圧力を調整することで防舷機能を調整できる。また、防舷機能を損なわない範囲で、防舷材102を中空状にした状態で発泡ウレタン樹脂等の発砲性樹脂を充填してもよい。
【0027】
補強部103は、防舷材102の一部に形成されていればよい。補強部103が殆ど弾性変形しない(以下、「弾性変形不能」と記載することがある。)としても、補強部103が形成されていない部分の防舷材102は弾性変形可能である。したがって、複合艇100の昇降時に、クレードルチョック72に当接する補強部103に強い力が係ったとしても、防舷部102全体で当該強い力を分散できる。また、複合艇100を長期間保管する際に、クレードルチョック72に当接する補強部103は弾性変形不能である。したがって、クレードルチョック72に当接する部分の防舷材102が変形することを防止できる。
【0028】
なお、複合艇100の防舷材102は、(1)クレードル7Aまたはボートダビッドを搭載した船舶等に複合艇100が衝突した際の衝撃吸収機能、および、(2)海難者を海から引き揚げる際の補助機能(海難者の重みにより防舷材102が変形することで、海難者を引き上げる際の落下防止機能)、を奏する。したがって、補強部103は、防舷材102の一部、より具体的には、少なくともクレードルチョック72に当接する部分に形成されていればよい。補強部103を形成する部分は、複合艇100の形状によって適宜決定すればよい。
図5には、複合艇100の防舷材102のクレードル7Aの横架74の長さに相当する当接領域(
図5の符号L1)の各舷側に補強部103を2カ所形成した例が示されている。代替的に、
図5に示すように、防舷材102の船首側領域L2(船首側に向けてテーパー形状となっており、クレードルチョック72に当接しない領域)が十分長い場合は、当接領域L1の全域に補強部103を形成してもよい。
【0029】
補強部103は、複合艇100を長期間保管した際に防舷材102の変形を防止できれば特に制限はない。
図6Aは、例えば、リング状の変形不能な補強部材103aを、防舷材102を形成するゴムまたは繊維強化シート等の内部に埋め込んだ例を示している。補強部材103aは、クレードルチョック72との当接部分が変形しなければ特に制限はなく、例えば金属、剛性樹脂または繊維強化樹脂等で形成すればよい。また、防舷材102に補強繊維を埋設(織り込む)ことで、補強繊維と防舷材102を構成する材料が共同して補強部103を形成してもよい。
図6Bは、上記したリング状の変形不能な補強部材103aの中に防舷材102を挿通した後、防舷材102に気体を挿入して補強部103を形成する例を示している。なお、補強部材103aは、
図6Cに示すように、開環リングであってもよい。
図6Dは、防舷材102の内部に補強部材103aを配置することで補強部103を形成する例を示している。
図6Dに示す補強部103は、防舷材102を形成するゴムまたは繊維強化シートで補強部材103aを覆い、ゴムまたは繊維強化シートの端部同士を接着することで形成できる。
図6Dに示す例では、補強部材103aは断面視で略半円形状で中実であるが、防舷材102の変形を防止できれば形状等に特に制限はない。例えば、補強部材102は断面視で略円形状であってもよいし、補強部材102の内部は中空状であってもよい。更に図示は省略するが、補強部材103aは螺旋状であってもよい。
【0030】
次に、
図3、
図4および
図7を参照し、クレードルチョック72について説明する。クレードルチョック72は、複合艇100の防舷材102を収容する凹部7211(7211a)を形成した防舷部721(721a、721b)を含む。
図3等には、クレードルチョック72は横架74および縦架75に固着したベース板722(722a、722b)を含み、ボルト723(723a)を用いて防舷部721をベース板722に固定した例が示されている。代替的に、ベース板722を含まず、横架74および縦架75に防舷部721を直接固着してもよい。また、ボルト723を用いず、接着剤を用いて防舷部721をベース板722に固着してもよい。
【0031】
図7Aに示す例では、凹部7211aの断面視方向の形状は略逆台形状であるが、防舷材102を収容できる範囲であれば、凹部7211aの形状に特に制限はない。例えば、
図7Aに示す断面視方向の形状は、略逆三角形状、半円状等であってもよい。換言すると、
図7Aに示す断面視方向において、防舷部721の中央部分に窪みがあればよい。
【0032】
防舷部721は、複合艇100の防舷材102を収容できれば材料に特に制限はない。しかしながら、防舷材102の補強部103は弾性変形不能であることから、ゴム等の弾性部材で形成することが望ましい。
【0033】
また、
図7Aに示す例では、防舷部721は中実状であるが、公知のD型防舷材と同様に内部に空間を含んでいてもよい。防舷部721の内部に空間を含む場合は、複合艇100の補強部103がクレードルチョック72に衝突した際の衝撃吸収機能が向上する。
【0034】
なお、上記のとおり、補強部103は複合艇100の防舷材102の一部に形成することができ、その場合、防舷材102全体で見た場合は弾性変形可能、換言すると、衝撃吸収機能を有する。そのため、防舷部721を中実状に形成した場合であっても、複合艇100の補強部103がクレードルチョック72に衝突した際に十分な衝撃吸収機能が得られる。そして、内部に空間を有する防舷材は材料の劣化が進むと形状が変化することから、所定期間ごとに交換が必要である。一方、防舷部721を中実状に形成した場合は材料が劣化しても形状は変化し難い。したがって、防舷部721を中実状に形成した場合は、防舷部721の交換頻度が少なくなるという効果が得られる。
【0035】
図4に示す例では、クレードルチョック72は、離間して配置される第1クレードルチョック72aおよび第2クレードルチョック72bを含んでいる。代替的に、クレードルチョック72は、横架74方向に長く伸びた単一のクレードルチョック72で形成してもよい。
【0036】
実施形態に係るクレードル7Aを用いて複合艇100を昇降および長期間保管することで以下の効果を奏する。
(1)クレードル7Aの防舷部721は、複合艇100の防舷材102を収容する凹部7211を含む。したがって、複合艇100の昇降時に上下方向(Z1方向、Z2方向)の力が係った場合でも、凹部7211のZ1方向端部およびZ2方向端部により、複合艇100の防舷材102がクレードル7Aから離脱し難くなる。
(2)クレードル7Aの防舷部721に複合艇100の補強部103が当接した状態で長期間保管しても、複合艇100の防舷材102が変形しない。
(3)防舷部721が中実状部材で形成される場合には、従来のD型防舷材と比較して長寿命化できる。
【0037】
(クレードルチョック72の変形例)
次に、クレードルチョック72に採用可能な任意付加的な構成および/または変形例について説明する。
【0038】
(変形例1)
図4、
図7Bおよび
図7Cに示すように、クレードルチョック72は、防舷部721(721a、721b)に隣接して配置される平板状防舷板724(724a、724b)を更に含んでもよい。上記のとおり、補強部103は複合艇100の防舷材102の一部に形成することができ、補強部103を形成していない防舷材102は弾性変形可能である。例えば、
図4、
図7Bおよび
図7Cに示す例において、複合艇100の昇降時に防舷部721に補強部103が当接し、Z1方向を中心軸とした回転方向Rの力が複合艇100に係る場合を想定する。その場合、平板状防舷板724には補強部103が形成されていない防舷材102が当接することから、防舷材102は弾性変形する。したがって、複合艇100の昇降時に回転方向Rの力が生じたとしても、平板状防舷板724と防舷材102は接触面積が増加することで摩擦力も増加することから、凹部7211が形成されていなくても、複合艇100がZ1方向またはZ2方向へ滑ることを抑制できる。平板状防舷板724は、防舷部721と同様ゴム等の弾性部材で形成すればよく、凹部7211を形成した防舷部721と比較して軽量で且つ製造コストも安い。したがって、防舷部721および平板状防舷板724を組合わせてクレードルチョック72を製造する場合、実施形態に係るクレードル7Aが奏する効果に加え、クレードルチョック72の重量および製造コストを低減できるという効果を奏する。
【0039】
なお、平板状防舷板724を組合わせてクレードルチョック72を形成する場合、
図4、
図7Bおよび
図7Cに示すように、防舷部721の両サイドに平板状防舷板724を形成すればよい。代替的に、防舷部721の任意のサイドに平板状防舷板724を形成してもよい。また、平板状防舷板724を組合わせてクレードルチョック72を形成する場合、
図7Bに示すように、防舷部721に形成した凹部7211の最も低い部分と平板状防舷板724は段差無く配置されることが好ましい。段差無く配置されることで、複合艇100の防舷材102の断面方向に局所的に力が係ることを防止できる。
【0040】
(変形例2)
図7Dは、防舷部721の変形例を示す図である。
図7Aに示す例では、凹部7211を形成した防舷部721をベース板722に固着している。代替的に、
図7Dに示すように、特許文献3に開示されている従来の防舷材18(
図7Dの平板状防舷板724に相当)に、一対の防舷部形成用部材721cを固着することで、防舷部721を形成してもよい。変形例2に示すクレードルチョック72は、実施形態に係るクレードル7Aが奏する効果に加え、既に使用されている従来のクレードルチョック72に防舷部形成用部材721cを固着することで防舷部721を製造できるという効果を奏する。
【0041】
クレードル7Aは、上記実施形態および変形例に限定されず、本出願で開示する技術思想の範囲内において、実施形態または変形例は適宜変形または変更され得ることが明らかである。また、実施形態または変形例で用いられる任意の構成要素を、他の実施形態または他の変形例に組み合わせることが可能であり、また、実施形態または変形例において任意の構成要素を省略することも可能である。例えば、
図4に示す例では、クレードルチョック72は2個設けられているが、3個、4個以上設けてもよい。
【0042】
なお、実施形態または変形例で記載のクレードル7Aは、補強部103を具備する複合艇100の昇降および長期間保管に好適に使用できるが、補強部103を含まない複合艇100の昇降にも使用できる。補強部103を含まない複合艇100の昇降時にZI方向またはZ2方向の力が係った場合でも、防舷部721に形成した凹部7211により防舷材102を保持できる。
【0043】
また、凹部7211の形成により、防舷材102と防舷部721の接触面積が増えることで当接圧力を分散できる。したがって、従来の平板状防舷板と複合艇100の防舷材102を当接した場合より、凹部7211の形成により防舷材102の変形を抑制できる。当接圧力は、複合艇100の防舷材102の外形と防舷部721の凹部7211の内形がほぼ同じ形状となるように設計するほど分散できる。したがって、補強部103を含まない複合艇100の長期間保管も可能である。また、補強部103を含まない複合艇100を引き上げた後に長期間保管する場合のみ特許文献3に記載の支持部材を用い、ボートダビッドに対して複合艇100が離間する位置で保持してもよい。
【0044】
(ボートダビットの実施形態)
図1乃至
図4および
図7を参照して、ボートダビッドの実施形態について説明する。実施形態に係るボートダビッドは、クレードルの実施形態および変形例で説明済みの何れかのクレードル7Aと、先端に滑車が設けられ甲板上に互いに離れて建立されたボート支持用アームと、滑車を介して移動する線材と、線材を操作するためのウインチと、を少なくとも含む。実施形態に係るボードダビッドは、クレードル7A以外は公知の部材を使用すればよい。例えば、先端に滑車が設けられ甲板上に互いに離れて建立されたボート支持用アームは、
図1および
図2に示すボート支持用アーム2および滑車3を用いることができる。滑車3を介して移動する線材は、
図1および
図2に示すロープ4を用いることができる。また、線材を操作するためのウインチは、
図1および
図2に示すウインチ5を用いることができる。また、既に使用中のボートダビッドのクレードル(例えば
図1のクレードル7)を、実施形態および変形例で説明済みの何れかのクレードル7Aと置き換えることで、ボートダビッドを作製してもよい。
【0045】
(複合艇の引き上げ方法の実施形態)
次に、
図1乃至
図4および
図7を参照して複合艇の引き上げ方法の実施形態について説明する。複合艇の引き上げ方法は、上記ボートダビットの実施形態において説明したボートダビッドを用いて行われる。複合艇の引き上げ方法は、
(1)複合艇100の防舷材102をクレードルチョック72の防舷部721の凹部7211に当接させる工程と、
(2)複合艇100の防舷材102とクレードルチョック72の防舷部721の凹部7211が当接した状態で、複合艇100を引き上げる工程と、
を含む。
【0046】
上記当接させる工程では、複合艇100が補強部103を含まない場合は、防舷材102を凹部7211に当接すればよい。また、複合艇100の防舷材102が補強部103を含む場合は、補強部103が凹部7211に当接するように位置の調整をすればよい。防舷部721の凹部7211に複合艇100の防舷材102が収容されることで、複合艇100の昇降時に、複合艇100に対してZ1方向またはZ2方向の力が係っても、複合艇100がボートダビッドから離脱し難いという効果が得られる。
【0047】
(複合艇の保管方法の実施形態)
次に、
図1乃至
図4および
図7を参照して複合艇の保管方法の実施形態について説明する。複合艇の保管方法は、上記した複合艇の引き上げ方法により引き上げた複合艇100を、複合艇100の防舷材102とクレードルチョック72の防舷部721の凹部7211が当接した状態で保管する工程、を含む。
【0048】
複合艇100の防舷材102が補強部103を含む場合は、補強部103が凹部7211に当接することから、長期間保管しても複合艇100の防舷材102は変形しない。また、複合艇100が補強部103を含まない場合であっても、凹部7211の形成により、防舷材102と防舷部721の接触面積が増えることで当接圧力を分散できる。したがって、従来の板状防舷部と複合艇100の防舷材102を当接した場合より、防舷材102の変形を抑制できる。また、補強部103を含まない複合艇100を引き上げた後に長期間保管する場合は、必要に応じて、支持部材等を用いてボートダビッドから複合艇100を離間し、離間した位置で複合艇100を保持する工程、を追加してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本出願で開示するクレードル7Aを用いることで、複合艇100の昇降時に複合艇100がクレードル7Aから離脱し難くなる。造船産業にとって有用である。
【符号の説明】
【0050】
1…甲板、2…一対のボート支持用アーム、3…滑車、4…ロープ、5…ウインチ、6…ロープの先端、7、7A…クレードル、8…ローラー、9…搭載ボート、14…ロープ取付ブロック、15…ランチングストロープ、16…取付具、17…搭載ボートの側面、18…防舷材、71、71a、71b…本体部、711、711a、711b…ローラー支持部、712、712a…ローラー、72、72a、72b…クレードルチョック、721、721a、721b…防舷部、7211a…凹部、721c…防舷部形成用部材、722、722a、722b…ベース板、723、723a…ボルト、724、724a、724b…平板状防舷板、73、73a、73b…アーム、74…横架、75…縦架、100…複合艇、101…船艇本体部、102…防舷材、103…補強部、103a…補強部材、