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特開2022-181139色素増感太陽電池、色素増感太陽電池用対極、及び色素増感太陽電池用対極の製造方法
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  • 特開-色素増感太陽電池、色素増感太陽電池用対極、及び色素増感太陽電池用対極の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181139
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】色素増感太陽電池、色素増感太陽電池用対極、及び色素増感太陽電池用対極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/20 20060101AFI20221130BHJP
【FI】
H01G9/20 115A
H01G9/20 105
H01G9/20 115Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088011
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】田口 耕造
(72)【発明者】
【氏名】藤本 良太
(72)【発明者】
【氏名】グエン トラン ダン
(57)【要約】
【課題】色素増感太陽電池のコストを低減する。
【解決手段】開示の色素増感太陽電池は、光増感色素を有する光電極と、前記光電極に対向配置された対極と、前記光電極と前記対極との間に配置された電解質と、を備え、前記対極は、カーボン粒子を含有するカーボン繊維シート材によって構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
色素増感太陽電池であって、
光増感色素を有する光電極と、
前記光電極に対向配置された対極と、
前記光電極と前記対極との間に配置された電解質と、
を備え、
前記対極は、カーボン粒子を含有するカーボン繊維シート材によって構成されている
色素増感太陽電池。
【請求項2】
前記電解質は、ゲル化電解質であり、
前記対極は、疎水性を有する
請求項1に記載の色素増感太陽電池。
【請求項3】
前記対極は、前記カーボン繊維シート材が硫黄を含有することで、疎水性を有する
請求項1又は請求項2に記載の色素増感太陽電池。
【請求項4】
前記カーボン繊維シート材は、前記カーボン粒子としてカーボンブラックを含有する
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の色素増感太陽電池。
【請求項5】
前記カーボン繊維シート材は、活性炭を更に含有する
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の色素増感太陽電池。
【請求項6】
色素増感太陽電池の光電極に対向配置される色素増感太陽電池用対極であって、
カーボン粒子を含有するカーボン繊維シート材によって構成されている
色素増感太陽電池用対極。
【請求項7】
色素増感太陽電池の光電極に対向配置される色素増感太陽電池用対極の製造方法であって、
カーボン繊維シート材を準備し、
前記カーボン繊維シート材内にカーボン粒子を導入する
ことを備える色素増感太陽電池用対極の製造方法。
【請求項8】
前記カーボン繊維シート材に疎水性を付与する
ことを更に備える請求項7に記載の色素増感太陽電池用対極の製造方法。
【請求項9】
カーボン粒子と疎水性物質を有する溶液を準備することを更に備え、
前記カーボン繊維シート材にカーボン粒子を導入すること、及び、前記カーボン繊維シート材に疎水性を付与することは、前記溶液を前記カーボン繊維シート材に浸透させることによって行われる
請求項8に記載の色素増感太陽電池用対極の製造方法。
【請求項10】
前記溶液は、前記カーボン粒子としてのカーボンブラックと、前記疎水性物質としての硫黄と、を有する
請求項9に記載の色素増感太陽電池用対極の製造方法。
【請求項11】
前記カーボン繊維シート材を準備することは、活性炭含有カーボン繊維シート材を準備することである
請求項7から請求項10のいずれか1項に記載の色素増感太陽電池用対極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、色素増感太陽電池、色素増感太陽電池用対極、及び色素増感太陽電池用対極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、色素増感太陽電池を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-34110号公報
【発明の概要】
【0004】
色素増感太陽電池は、光増感色素を有する光電極と対極との間に電解質が配置されて構成されている。
【0005】
色素増感太陽電池の対極としては、白金が用いられることが一般的である。しかし、白金は高価であり、色素増感太陽電池のコスト高を招く。したがって、色素増感太陽電池のコスト低減が望まれる。
【0006】
本開示のある側面は、色素増感太陽電池である。開示の色素増感太陽電池は、光増感色素を有する光電極と、前記光電極に対向配置された対極と、前記光電極と前記対極との間に配置された電解質と、を備え、前記対極は、カーボン粒子を含有するカーボン繊維シート材によって構成されている。
【0007】
本開示の他の側面は、色素増感太陽電池の光電極に対向配置される色素増感太陽電池用対極である。開示の対極は、カーボン粒子を含有するカーボン繊維シート材によって構成されている。
【0008】
本開示の他の側面は、色素増感太陽電池の光電極に対向配置される色素増感太陽電池用対極の製造方法である。開示の製造方法は、カーボン繊維シート材を準備し、前記カーボン繊維シート材内にカーボン粒子を導入することを備える。
【0009】
更なる詳細は、後述の実施形態として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、色素増感太陽電池の構成図である。
図2図2は、対極の製造工程を示すフロチャートである。
図3図3は、湾曲変形させた対極を側方から撮影した写真である。
図4図4は、カーボン繊維シート材のSEM画像である。
図5図5は、色素増感太陽電池の電流密度-電圧特性図である。
図6図6は、色素増感太陽電池の発電電圧の時間変化を示す図である。
図7図7は、色素増感太陽電池の電力密度-電流密度特性図である。
図8図8は、色素増感太陽電池の電力密度-時間特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<1.色素増感太陽電池、色素増感太陽電池用対極、及び色素増感太陽電池用対極の製造方法の概要>
【0012】
(1)実施形態に係る色素増感太陽電池は、光増感色素を有する光電極と、前記光電極に対向配置された対極と、前記光電極と前記対極との間に配置された電解質と、を備える。前記対極は、カーボン粒子を含有するカーボン繊維シート材によって構成され得る。カーボン粒子を含有するカーボン繊維シート材によって構成された対極は、白金に比べ安価であるにもかかわらず、白金と同程度の特性を確保し得ることを、本発明者らは、実験によって見出した。
【0013】
(2)前記電解質は、ゲル化電解質であり、前記対極は、疎水性を有するのが好ましい。この場合、耐久性に優れた色素増感太陽電池が得られる。
【0014】
(3)前記対極は、前記カーボン繊維シート材が硫黄を含有することで、前記疎水性を有するのが好ましい。
【0015】
(4)前記カーボン繊維シート材は、前記カーボン粒子としてカーボンブラックを含有するのが好ましい。
【0016】
(5)前記カーボン繊維シート材は、活性炭を更に含有するのが好ましい。この場合、色素増感太陽電池の特性をより向上させることができる。
【0017】
(6)実施形態に係る色素増感太陽電池用対極は、色素増感太陽電池の光電極に対向配置される。実施形態に係る色素増感太陽電池用対極は、カーボン粒子を含有するカーボン繊維シート材によって構成され得る。
【0018】
(7)実施形態に係る色素増感太陽電池用対極の製造方法は、カーボン繊維シート材を準備し、前記カーボン繊維シート材内にカーボン粒子を導入することを備え得る。
【0019】
(8)実施形態に係る製造方法は、前記カーボン繊維シート材に疎水性を付与することを更に備え得る。
【0020】
(9)実施形態に係る製造方法は、カーボン粒子と疎水性物質を有する溶液を準備することを更に備え得る。前記カーボン繊維シート材にカーボン粒子を導入すること、及び、前記カーボン繊維シート材に疎水性を付与することは、前記溶液を前記カーボン繊維シート材に浸透させることによって行われるのが好ましい。この場合、対極の製造工程がシンプルになって好適である。
【0021】
(10)前記溶液は、前記カーボン粒子としてのカーボンブラックと、前記疎水性物質としての硫黄と、を有するのが好ましい。
【0022】
(11)前記カーボン繊維シート材を準備することは、活性炭含有カーボン繊維シート材を準備することであるのが好ましい。カーボン繊維シート材が活性炭を含有することで、色素増感太陽電池の特性をより向上させることができる。
【0023】
<2.色素増感太陽電池、色素増感太陽電池用対極、及び色素増感太陽電池用対極の製造方法の例>
【0024】
図1は、色素増感太陽電池10の構成を示している。色素増感太陽電池10は、光電極11と、対極17と、光電極11及び対極17の間に配置された電解質19と、を備える。色素増感太陽電池10の使用時において、光電極11と対極17とには、色素増感太陽電池10から電力の供給を受ける負荷20が接続される。
【0025】
光電極11(光アノード)は、光増感色素を有する。光電極11は、例えば、透明導電性基板13上に形成されている。透明導電性基板13は、例えば、透明導電性層が表面に形成された透明ガラス基板又は透明プラスチック基板である。透明導電性基板13は、透明プラスチック基板のようにフレキシブルであり湾曲などの変形可能であるのが好ましい。
【0026】
透明導電性基板13の表面には、光増感色素が吸着された微粒子15が固定されている。光増感色素が吸着された微粒子15は、光電極11を構成する。微粒子15は、例えば、二酸化チタンの微粒子である。光増感色素は、例えば、有機色素である。有機色素は、例えば、MK-2色素である。色素増感太陽電池10は、光増感色素による可視光吸収を利用して発電する。色素増感太陽電池10は、弱い光でも効率よく発電でき、例えば、室内の照明光によっても発電することができる。
【0027】
光増感色素は、光を吸収することで電子を失い、酸化する。電解質19は、光を吸収することで、酸化された色素を還元するための還元剤を有する。電解質19は、酸化された光増感色素に電子を渡す。
【0028】
電解質19の状態は、例えば、液体又はゲルでよい。ただし、液体の電解質19は、溶媒の揮発又は電解質漏れのおそれがあり、耐久性が低い場合がある。したがって、耐久性の確保のため、電解質19の状態は、ゲルであるのが好ましい。すなわち、電解質19は、ゲル化電解質であるのが好ましい。
【0029】
実施形態に係る色素増感太陽電池10は、一例として、光電極11が上側に配置され、対極17が下側に配置されて、使用される。この場合、発電のための光は、例えば、色素増感太陽電池10の上方から照射される。
【0030】
実施形態に係る対極17は、カーボン繊維シート材を基材として有して構成されている。カーボン繊維シート材は、カーボン繊維を有するシート状の部材であり、例えば、カーボン繊維不織布である。カーボン繊維不織布は、例えば、カーボン繊維をバインダによって結合して構成されている。バインダは、例えば、セルロースである。
【0031】
対極17の基材となるカーボン繊維シート材は、フレキシブルであり湾曲などの変形可能である。対極17がフレキシブルであることで、色素増感太陽電池10をフレキシブルにでき好適である。
【0032】
図2は、対極17の製造の手順の一例を示している。まず、基材となるカーボン繊維シート材17A及びカーボン繊維シート材17Aに浸透させる溶液30の準備がなされる(ステップS21)。準備されるカーボン繊維シート材17Aは、例えば、前述のカーボン繊維不織布である。カーボン繊維シート材17Aは、溶液が内部に浸透可能であるように、カーボン繊維が結合してなる。カーボン繊維不織布を準備するには、例えば、市販のカーボン繊維不織布を購入すればよい。カーボン繊維シート材17Aは、白金に比べて安価であり、好適である。
【0033】
準備されるカーボン繊維シート材17Aは、予め活性炭が混合されたものでもよい。
【0034】
準備される溶液30は、カーボン粒子が溶媒中に分散されている。カーボン粒子は、例えば、無定形炭素の粒子である。無定形炭素の粒子は、例えば、カーボンブラックである。カーボンブラックは、カーボン主体の微粒子である。溶媒は、例えば、水又は有機溶媒である。溶液30を準備するには、例えば、カーボンブラックなどのカーボン粒子を含有する、市販のカーボンインク又は墨汁を購入すればよい。
【0035】
準備される溶液30は、カーボン粒子のほか、疎水性物質を有するのが好ましい。疎水性物質は、硫黄又はその他の物質である。市販のカーボンインク又は墨汁は、硫黄を含んでいることが多いため、実施形態に係る溶液として好適である。カーボンインク又は墨汁は安価であるため好適であり、墨汁は、カーボンインクより安価であるため、より好適である。
【0036】
続いて、基材となるカーボン繊維シート材17Aに、カーボン粒子等を有する溶液30を浸透させる(ステップS22)。溶液30をカーボン繊維シート材17Aに浸透させるには、例えば、図2に示すように、カーボン繊維シート材17Aに所定量の溶液30を滴下すればよい。滴下された溶液30は、カーボン繊維シート材17A内部に浸透する。この結果、溶液30に含まれるカーボン粒子及び疎水性物質などの物質がカーボン繊維シート材17A中に導入される。溶液が、市販のカーボンインク又は墨汁である場合、カーボン繊維シート材17Aに滴下される溶液30の量は、例えば、5cmのカーボン繊維シート材17Aあたり、0.2mL程度でよい。
【0037】
溶液30が浸透したカーボン繊維シート材17Aは、乾燥される(ステップS23)。乾燥は、例えば、室温において、24時間の自然乾燥によって行われる。乾燥によって、カーボン繊維シート材17Aに浸透した溶媒が除去され、カーボン粒子及び疎水性物質などの物質がカーボン繊維シート材17A中に含有されたまま残る。
【0038】
以上の処理によって、カーボン粒子を含有し、疎水性が付与されたカーボン繊維シート材が得られる。以上の処理によって得られた対極17は、図3に示すように、湾曲変形が可能であり、フレキシブルである。カーボン粒子を含有し、疎水性が付与されたカーボン繊維シート材は、対極17として用いられる。実施形態に係る対極17は安価な材料によって製作することができるため、色素増感太陽電池10のコストを低減することができる。
【0039】
本発明者らの実験によると、カーボン粒子等が導入される前のカーボン繊維シート材17Aを、色素増感太陽電池10の対極17として用いても、ほとんど発電ができなかった。これに対して、カーボン粒子が導入されたカーボン繊維シート材17Aを対極として用いると、発電が可能となった。カーボン粒子がカーボン繊維シート材17Aに導入されることで、対極17として機能するカーボン粒子がカーボン繊維シート材17Aの表面積が増大し、発電効率が高められたものと考えられる。
【0040】
また、疎水性物質がカーボン繊維シート材17A内に導入されることで、カーボン繊維シート材17Aに疎水性が付与される。疎水性によって色素増感太陽電池10の耐久性向上が可能である。
【0041】
なお、溶液30は、疎水性物質を有していなくても良い。この場合、基材となるカーボン繊維シート材17Aに溶液30を浸透させるステップS22によって、カーボン粒子を含有するカーボン繊維シート材が得られる。カーボン粒子を含有するが、疎水性を有しないカーボン繊維シート材に、別途、疎水性を付与したい場合には、カーボン粒子を含有するカーボン繊維シート材に疎水化処理をすればよい。疎水化処理は、例えば、カーボン粒子を含有するカーボン繊維シートに疎水化剤を塗布する処理、又は、カーボン粒子を含有するカーボン繊維シート材を疎水化剤に浸漬させる処理である。
【0042】
一方、前述のように、溶液30が、カーボン粒子のほか、疎水性物質をも含有している場合、カーボン繊維シート材17Aに溶液30を浸透させるという単一の工程(ステップS22)によって、カーボン粒子の導入と疎水性の付与との両方を同時に行える。
【0043】
対極17を構成するカーボン繊維シート材は、液体を透過させない程度の疎水性を有している。カーボン繊維シート材自体が、液体の透過が可能なものであっても、カーボン繊維シート材が疎水性を有していることで、液体の透過が防止される。対極17を構成するカーボン繊維シート材が疎水性を有していることで、対極17を通じた、電解質19の溶媒の揮発又は電解質の漏れを抑制できる。しかも、電解質19がゲル化電解質であるとともに対極17が疎水性を有していることで、電解質19の溶媒の揮発又は電解質の漏れをより効果的に抑制でき、色素増感太陽電池10の耐久性を大きく向上できる。
【0044】
図4から図8は、色素増感太陽電池10の製造例及びその色素増感太陽電池10の特性を調べた結果を示している。
【0045】
図2に示す手順に従い、色素増感太陽電池10の対極17として、第1製造例及び第2製造例を製造した。図4から図8において、「AC」は、活性炭を含有するカーボン繊維シート材を示し、「CS」は、活性炭を含有しないカーボン繊維シート材を示し、「CI」は、カーボンインクを示す。カーボンインクとしては、市販の筆記具用のカーボンインクを用いた。用いたカーボンインクは、カーボン粒子としてカーボンブラックを含有する。用いたカーボンインクの乾燥物を元素分析したところ、炭素原子(C)を77.23質量%、酸素原子(O)を22.50質量%、硫黄原子(S)を0.27質量%含有していた。つまり、用いたカーボンインクは、カーボン粒子としてのカーボンブラックのほか、硫黄を含有している。硫黄は、疎水性を持つため、用いたカーボンインクは、疎水化剤(疎水性物質)としての硫黄を含有している。なお、疎水性物質は、硫黄の化合物であってもよい。
【0046】
図4(a)は、活性炭を含有するカーボン繊維シート材(AC)を示すSEM画像であり、図4(b)は、活性炭を含有するカーボン繊維シート材(CS)を示すSEM画像である。図4(b)において、黒い線状の部材がカーボン繊維であり、カーボン繊維より太く白い線状の部材がセルロース繊維である。図4(a)では、活性炭を含有するカーボン繊維シート材(AC)では、カーボン繊維シート材(CS)に活性炭が導入されているため、図4(b)よりも全体的に黒味がかかっている。
【0047】
図4(c)は、図4(a)に示す活性炭を含有するカーボン繊維シート材(AC)に、カーボンインクを滴下し乾燥させて得られた第1製造例を示すSEM画像である。図4(d)は、図4(b)に示す活性炭を含有しないカーボン繊維シート材(CS)に、カーボンインクを滴下し乾燥させた第2製造例を示すSEM画像である。なお、図4において「+CI」は、カーボンインクの導入を示す。
【0048】
図4(c)(d)では、カーボンインクに含まれる微細なカーボン粒子が、カーボン繊維等の表面に付着していることがわかる。
【0049】
以上のように製作された第1製造例(AC+CI)及び第2製造例(CS+CI)それぞれを対極17として用いた色素増感太陽電池10に負荷として可変抵抗を接続して測定系をセットアップした。色素増感太陽電池10の発電特性を測定するため、色素増感太陽電池10に室内照明光を照射した。また、比較例として、対極17の材料として白金(Pt)を用いたものについて、発電特性を測定した。
【0050】
第1製造例(AC+CI)を対極17として用いた場合、開放端電圧Vocは、0.668[V]であり、短絡電流Iscは4.55[A]であった。また、開放電圧と短絡電流の積で割った値を曲線因子FFは、0.58であり、色素増感太陽電池10の変換効率ηは1.73であった。
【0051】
白金(Pt)の対極17を用いた場合、開放端電圧Vocは、0.645[V]であり、短絡電流Iscは4.66[A]であった。また、開放電圧と短絡電流の積で割った値を曲線因子FFは、0.56であり、色素増感太陽電池10の変換効率ηは1.67であった。
【0052】
第1製造例(AC+CI)に係る対極17は、白金(Pt)の対極17に比べて非常に安価であるにもかかわらず、白金(Pt)の対極17と同程度の特性が得られ、しかも、変換効率ηについては、白金(Pt)の対極17を上回る結果が得られた。
【0053】
また、図5は、第1製造例(AC+CI)及び比較例(Pt)それぞれを対極17として用いた場合の電流密度-電圧特性を示している。図5に示すように、電流密度-電圧特性についても、第1製造例(AC+CI)は、比較例(Pt)と同様に良好な特性を持っている。
【0054】
図6は、第1製造例(AC+CI)を対極17として用いた色素増感太陽電池10を、室内光環境下で144時間使用した場合の電圧特性を示している。なお、図6においてOCVと記載されている区間(0時間から45時間まで)は、色素増感太陽電池10に負荷を接続せずに開回路電圧(OCV)を測定した。その後(45時間から144時間まで)は、色素増感太陽電池10に120kΩの負荷を接続して、負荷の両端電圧を測定した。
【0055】
図6では、1日(24時間)周期で、電圧の高い範囲と低い範囲が繰り返し生じている。これは、昼間で室内光が点灯している状態と夜間で室内光が消灯している状態とが繰り返し生じているためである。なお、室内光の点灯時の光強度は、450ルクスから700ルクスの範囲にあった。図6に示すように、第1製造例では、光強度の変化に応じて、安定して発電ができている。
【0056】
図7は、第1製造例(AC+CI)を対極17として用いた色素増感太陽電池10の電力密度-電流密度特性を示している。図7に示す電力密度-電流密度特性から、色素増感太陽電池10の最大電力密度を求めることができる。
【0057】
図8は、色素増感太陽電池10の最大電力密度-時間特性を示している。図8に示す特性は、最大電力密度の時間経過に伴う変化を示している。図8では、色素増感太陽電池10の使用開始(0時間目)から1200時間(50日)後までの最大電力密度の変化を調べた。なお、光強度は200ルクスとした。
【0058】
図8では、第1製造例(AC+CI)及び第2製造例(CS+CI)それぞれを対極17として用いた色素増感太陽電池10の最大電力密度の変化を示している。第1製造例(AC+CI)を対極17として用いた場合、50日後においても、最大電力密度の低下は、ほとんどなく、長期間の安定性・耐久性を有していることがわかる。第2製造例(CS+CI)を対極17として用いた場合、第1製造例(AC+CI)を対極17として用いた場合に比べて、最大電力密度の低下がやや見られた。しかし、50日後においても、最大電力密度を概ね維持できており、良好な特性が確保できていることがわかる。
【0059】
以上のように、第1製造例(AC+CI)及び第2製造例(CS+CI)は、白金に比べて、非常に安価であるにもかかわらず、色素増感太陽電池10の対極17として十分な特性を有していることが確認された。第1製造例(AC+CI)の対極17及び第2製造例(CS+CI)の対極17は、いずれも疎水性を有しているため、耐久性が高く、この観点からも長期間の安定的な特性の維持が図られている。
【0060】
また、比較例として、カーボン粒子が含有されていないカーボン繊維シート材(CS)を対極17として用いた色素増感太陽電池10の最大電力密度を測定した。カーボン粒子が含有されていないカーボン繊維シート材(CS)を対極17として用いた色素増感太陽電池10の最大電力密度は、0時間(使用開始)の時点において、0.1μW/cm未満であり、非常に小さかった。したがって、カーボン粒子が含有されていないカーボン繊維シート材(CS)単体は、色素増感太陽電池10の対極17として使用するのは適さないことがわかる。
【0061】
このように、本発明者らの実験によれば、カーボン粒子が含有されていないカーボン繊維シート材(CS)単体は、色素増感太陽電池10の対極17としては適さない。しかし、驚くべきことに、カーボン粒子を導入するという簡単な操作が施されたカーボン繊維シート材(CS+CI:第2製造例)であれば、色素増感太陽電池10の対極17として好適となる。さらに、対極17に活性炭も含有されている場合(AC+CI;第1製造例)、色素増感太陽電池10の対極17としてより好適となる。
【0062】
さらに、色素増感太陽電池10の対極17として、第3製造例及び第4製造例を製造した。第3製造例は、カーボンインクに代えて墨汁を用いる点以外は、第1製造例と同様に製造した。すなわち、第3製造例に係る対極17は、活性炭を含有するカーボン繊維シート材に墨汁を浸透させたものである。第4製造例は、カーボンインクに代えて墨汁を用いる点以外は、第2製造例と同様に製造した。すなわち、第4製造例に係る対極17は、活性炭を含有しないカーボン繊維シート材に墨汁を浸透させたものである。墨汁としては、カーボンブラックが含まれる市販のものを用いた。用いた墨汁の乾燥物を元素分析したところ、炭素原子(C)を89.95質量%、酸素原子(O)を8.46質量%、ナトリウム(Na)を0.25質量%、硫黄(S)を0.90質量%、塩素(Cl)を0.44質量%含有していた。つまり、用いた墨汁は、カーボン粒子としてのカーボンブラックのほか、硫黄を含有している。硫黄は、疎水性を持つため、用いた墨汁は、疎水化剤(疎水性物質)としての硫黄を含有している。
【0063】
第3製造例(AC+墨汁)及び第4製造例(CS+墨汁)それぞれを対極17として用いた色素増感太陽電池10それぞれの特性を調べたところ、第3製造例は第1製造例とほぼ同様の特性が得られ、第4製造例は第2製造例とほぼ同様の特性が得られた。
【0064】
墨汁は、カーボンインクよりもさらに安価であり、色素増感太陽電池10の対極17のコスト低減にさらに有利である。
【0065】
<3.付記>
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0066】
10 :色素増感太陽電池
11 :光電極
13 :透明導電性基板
15 :微粒子
17 :対極
17A :カーボン繊維シート材
19 :電解質
20 :負荷
30 :溶液
FF :曲線因子
Isc :短絡電流
Voc :開放端電圧
η :変換効率
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8