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特開2022-181140情報処理装置と情報処理プログラムと情報処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181140
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】情報処理装置と情報処理プログラムと情報処理方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20221130BHJP
【FI】
A61B5/055 380
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088015
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】浜本 義彦
(72)【発明者】
【氏名】荻原 宏是
(72)【発明者】
【氏名】寺井 崇二
(72)【発明者】
【氏名】横山 純二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕樹
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AA08
4C096AB44
4C096AC05
4C096AD14
4C096AD24
4C096DC11
4C096DC21
4C096DC23
4C096DC24
4C096DC32
(57)【要約】      (修正有)
【課題】被写体のサイズの変化に関する周期性(規則性)の有無に左右されることなく、被写体のサイズの変化を定量的に評価するための指標を提供する。
【解決手段】本発明に係る情報処理装置1は、等時間間隔で撮影された複数の静止画像において被写体のサイズの変化を定量的に評価するための指標である評価量を算出する。情報処理装置は、記憶部12と、記憶部に記憶されている静止画像それぞれの被写体のサイズを算出するサイズ算出部134と、連続して撮影された2つの静止画像それぞれにおけるサイズに基づいて被写体ごとの評価量を算出する評価量算出部135と、を有する。2つの静止画像は、第1静止画像とその後に撮影された第2静止画像とを含む。評価量算出部は、第1静止画像における被写体のサイズと第2静止画像における被写体のサイズとの和に対する、第2静止画像における被写体のサイズの比に基づいて、被写体ごとの評価量を算出する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
等時間間隔で撮影された複数の静止画像において被写体のサイズの変化を定量的に評価するための指標である評価量を算出する情報処理装置であって、
複数の前記静止画像を記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶されている前記静止画像それぞれに撮像されている前記被写体の前記サイズを算出するサイズ算出部と、
連続して撮影された2つの前記静止画像それぞれにおける前記サイズに基づいて、前記被写体ごとの前記評価量を算出する評価量算出部と、
を有してなり、
2つの前記静止画像は、
第1静止画像と、
前記第1静止画像よりも後に撮影された第2静止画像と、
を含み、
前記評価量算出部は、前記第1静止画像における前記被写体の前記サイズと前記第2静止画像における前記被写体の前記サイズとの和に対する、前記第2静止画像における前記被写体の前記サイズの比に基づいて、前記被写体ごとの前記評価量を算出する、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記被写体を、前記サイズの前記変化が正常ではない特定被写体と、前記サイズの前記変化が正常な非特定被写体と、のいずれかに識別する識別部、
を有してなり、
前記識別部は、前記被写体の前記サイズに基づいて抽出される前記被写体の第1特徴、および/または、前記被写体の前記評価量に基づいて抽出される前記被写体の第2特徴、に基づいて、前記被写体を識別する、
請求項1記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記第1特徴は、前記被写体の前記サイズの平均値である第1平均値と、複数の前記非特定被写体それぞれの前記サイズの平均値である第2平均値からなる分布と、の間の統計的距離に基づいて抽出される、
請求項2記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記第1特徴および/または前記第2特徴を抽出する特徴抽出部、
を有してなり、
前記特徴抽出部は、
前記第2平均値の前記分布の平均および分散を推定し、
前記第1平均値と、前記第2平均値からなる前記分布との間の前記統計的距離を算出し、
前記統計的距離に基づいて、前記第1特徴を抽出し、および/または、
前記被写体の前記評価量を成分とする多次元の動きベクトルと、前記動きベクトルの各成分を前記サイズが変化していないことを示す基準量とする基準ベクトルと、を定義し、
前記動きベクトルと前記基準ベクトルとの間の距離を前記第2特徴として抽出する、
請求項3記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記統計的距離は、マハラノビス距離であり、
前記第1特徴は、前記マハラノビス距離の対数である、
請求項4記載の情報処理装置。
【請求項6】
コンピュータを請求項1記載の情報処理装置として機能させる、
ことを特徴とする情報処理プログラム。
【請求項7】
等時間間隔で撮影された複数の静止画像において被写体のサイズの変化を定量的に評価する指標である評価量を算出する情報処理装置により実行される情報処理方法であって、
前記情報処理装置は、
複数の前記静止画像を記憶する記憶部、
を備え、
複数の前記静止画像は、
第1静止画像と、
前記第1静止画像よりも後に撮影された第2静止画像と、
を含み、
前記情報処理装置が、
前記記憶部に記憶されている前記静止画像それぞれに撮像されている前記被写体の前記サイズを算出するサイズ算出ステップと、
前記第1静止画像と前記第2静止画像それぞれにおける前記サイズに基づいて、前記被写体ごとの前記評価量を算出する評価量算出ステップと、
を含み、
前記情報処理装置が、前記評価量算出ステップにおいて、前記第1静止画像における前記被写体の前記サイズと前記第2静止画像における前記被写体の前記サイズとの和に対する、前記第2静止画像における前記被写体の前記サイズの比に基づいて、前記評価量を算出する、
ことを特徴とする情報処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置と情報処理プログラムと情報処理方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
偽性腸閉塞症(CIPO:Chronic intestinal pseudo-obstruction)は、小腸を含む消化管に内容物の移送を妨げる物理的閉塞が無いにも関わらず、消化管の運動機能が阻害される難治性の疾患の1つである。偽性腸閉塞症患者の診断は、CT(Computed Tomography)装置やX線撮像装置により撮影される静止画像に基づいて、行われている。しかしながら、このような診断では、静止画像に基づくため消化管の蠕動運動の評価が難しく、また、放射線による被爆という問題が有る。
【0003】
このような問題を解決する技術として、近年、MRI(Magnetic Resonance Imaging)画像を時系列で動画像として撮影するcine-MRI装置を用いた技術が、提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
非特許文献1に開示された技術は、MRI画像により撮像された小腸の腸管の短径長をサイズとして算出し、腸管の周期的な動きを前提として腸管の動き(サイズの変化)を周期的な短径長の増減として検出し、この動きを3つのパラメータによりモデル化するものである。同技術は、短径長の増減が周期的に変化する場合には、腸管の動きを評価し得る。しかしながら、小腸の腸管の動きにおいて、周期的な変化は稀にしか観測されず、腸管の動きが無い場合もある。したがって、前提として稀に生じる腸管の動きの周期性を捉える必要がある同技術では、追試が難しく、再現性も低い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】A. Fuyuki, etal., Clinical importance of cine-MRI assessment of small bowel motility in patients with chronic intestinal pseudo-obstruction: a retrospective study of 33 patients, Journal of Gastroenterology, 2017, Vol.52, pp.577-584.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、被写体の動き(サイズの変化)に関する周期性(規則性)の有無に左右されることなく、被写体のサイズの変化を定量的に評価するための指標を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、等時間間隔で撮影された複数の静止画像において被写体のサイズの変化を定量的に評価するための指標である評価量を算出する情報処理装置であって、複数の静止画像を記憶する記憶部と、記憶部に記憶されている静止画像それぞれに撮像されている被写体のサイズを算出するサイズ算出部と、連続して撮影された2つの静止画像それぞれにおけるサイズに基づいて、被写体ごとの評価量を算出する評価量算出部と、を有してなり、2つの静止画像は、第1静止画像と、第1静止画像よりも後に撮影された第2静止画像と、を含み、評価量算出部は、第1静止画像における被写体のサイズと第2静止画像における被写体のサイズとの和に対する、第2静止画像における被写体のサイズの比に基づいて、被写体ごとの評価量を算出する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、被写体のサイズの変化に関する周期性(規則性)の有無に左右されることなく、被写体のサイズの変化を定量的に評価するための指標を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る情報処理装置の実施の形態を示すネットワーク接続図である。
図2】本発明に係る情報処理装置の実施の形態を示す機能ブロック図である。
図3】本発明に係る情報処理方法の実施の形態を示すフローチャートである。
図4図3の情報処理方法に含まれる評価量算出処理のフローチャートである。
図5図4の評価量算出処理に用いられる静止画像とその鮮鋭化画像それぞれの例を示す画像である。
図6図4の評価量算出処理における腸管の短径長の算出のイメージを示す模式図である。
図7図3の情報処理方法に含まれる特徴抽出処理のフローチャートである。
図8図3の情報処理方法に含まれる識別器設計処理のフローチャートである。
図9図3の情報処理方法に含まれる識別・診断処理のフローチャートである。
図10】本発明の実施例において算出された評価量の時間的変化を示すグラフであり、(a)はサイズの変化のある腸管の評価量を示し、(b)はサイズの変化が少ない腸管の評価量を示す。
図11】本発明の実施例において用いられた18例からの腸管を、2つの特徴を座標とする平面上に表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る情報処理装置(以下「本装置」という。)と情報処理プログラム(以下「本プログラム」という。)と情報処理方法(以下「本方法」という。)との実施の形態について説明する。
【0011】
本発明は、等時間間隔で撮影された複数の静止画像において被写体のサイズの変化(被写体の動き)を定量的に評価するための指標である評価量を算出するものである。また、本発明は、被写体のサイズと評価量それぞれに基づいて抽出される2つの特徴に基づいて、被写体を特定被写体と非特定被写体のいずれかに識別し、その識別結果に基づいて患者を診断するものである。
【0012】
「静止画像」は、被写体が所定期間において等時間間隔で撮像された画像である。静止画像は、後述する撮像装置により、一定の撮像範囲(画角)で撮影される。本実施の形態において、静止画像はcine-MRI画像であり、所定期間は17秒間、時間間隔は0.5秒である。すなわち、本実施の形態において、1つの被写体に対して、時系列順に35枚の静止画像が連続する動画像(すなわち、映像)として撮影される。
【0013】
なお、本発明における静止画像は、一定の撮像範囲の被写体が所定期間において等時間間隔で撮像された画像であればよく、cine-MRI画像に限定されない。すなわち、例えば、静止画像は、被写体の表面や内部を定点撮像した画像でもよい。また、前述の条件を満たすのであれば、静止画像は、X線透過画像やCT画像でもよい。
【0014】
また、静止画像が撮影される所定期間および時間間隔は、本発明により適用分野において意味のある評価量を算出することができる期間および時間間隔であればよく、本実施の形態に限定されない。すなわち、例えば、被写体のサイズの変化が長時間の観測を経なければ評価できないとき、所定期間は24時間、時間間隔は1時間でもよい。あるいは、例えば、被写体が極短時間で動くとき、所定期間は17秒間、時間間隔は0.1秒でもよい。
【0015】
「被写体」は、サイズの変化が評価される対象であって、後述する撮像装置により撮像される対象である。本実施の形態において、被写体は、人体の小腸の腸管である。
【0016】
なお、本発明における被写体は、本発明により評価量を算出することができる物であればよく、本実施の形態に限定されない。すなわち、例えば、被写体は、動物の臓器(例えば、人体の大腸、胃などの消化器官、膀胱、心臓、肺、子宮)や血管、瞳孔でもよく、あるいは、撮像装置の画角の範囲内で動く機構を備える機械でもよい。
【0017】
「サイズ」は、被写体の長さ(寸法)、面積、体積など被写体の大きさを示す物理量である。本実施の形態において、サイズが計測される対象は、被写体の一部である腸管の短径長である。
【0018】
被写体の「サイズの変化」は、例えば、膨張、収縮、伸縮などの被写体の形状(輪郭)の変化である。ここで、サイズの変化は、非周期的(不規則的)な変化だけでなく、周期的(規則的)な変化をも含み得る。本実施の形態において、被写体のサイズの変化は、人体の腸管の短径長の変化である。
【0019】
「評価量」は、連続して撮影された2つの静止画像間において、撮像された被写体のサイズの変化を定量的に評価するための指標である。すなわち、評価量は、2つの静止画像間における被写体のサイズの変化の程度を定量的に示す指標である。換言すれば、評価量は、時間間隔ごとに、被写体がどれだけ動いたのかを定量的に表す指標である。評価量の詳細は、後述する。
【0020】
「連続して撮影された2つの静止画像」は、例えば、一連の静止画像(映像)のうち、映像内で隣接する2つの静止画像である。すなわち、例えば、連続して撮影された2つの静止画像は、時間「t-1」において撮影された静止画像と、時間「t-1」よりも後の時間「t」において撮影された静止画像である。
【0021】
「特定被写体」は、サイズの変化に特定の現象が生じている被写体である。本実施の形態では、特定被写体は偽性腸閉塞症患者からの腸管を意味する。すなわち、特定被写体は、サイズの変化が正常ではない(異常な)被写体である。
【0022】
「非特定被写体」は、サイズの変化に特定の現象が生じていない被写体である。本実施の形態では、非特定被写体は偽性腸閉塞症ではない患者、あるいは健常者からの腸管を意味する。すなわち、非特定被写体は、サイズの変化が正常な被写体である。
【0023】
「特定の現象」は、例えば、臓器に生ずる、サイズの変化として現れる動きに関わる症状(サイズの変化の減少、サイズの変化の増加、サイズの異常拡大など)である。本実施の形態において、特定の現象は、偽性腸閉塞症の症状を呈する腸管に見られる異常拡大およびサイズの変化の減少である。
【0024】
●情報処理装置●
先ず、本装置の実施の形態について説明する。
【0025】
図1は、本装置の実施の形態を示すネットワーク接続図である。
同図は、本装置1が、有線通信方式または無線通信方式を利用するネットワーク(通信回線)Nを介して、撮像装置2に接続されていることを示す。
【0026】
本装置1は、等時間間隔(本実施の形態では、0.5秒間隔)で撮影された複数の静止画像において被写体のサイズの変化を定量的に評価するための評価量を算出する。本装置1の具体的な構成と動作とは、後述する。
【0027】
撮像装置2は、被写体が撮像された静止画像を連続して撮影する。本実施の形態において、例えば、撮像装置2はcine-MRI装置であり、被写体は小腸の腸管である。
【0028】
なお、本発明における撮像装置は、cine-MRI装置に限定されない。すなわち、例えば、本発明における撮像装置は、X線透視装置やCT装置でもよく、あるいは、カメラが内蔵された機器(例えば、スマートホンやタブレット端末)、汎用デジタルカメラでもよい。
【0029】
ネットワークNは、例えば、インターネット、移動体通信網、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、Wi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)のような通信網である。
【0030】
●情報処理装置の構成
図2は、本装置1の実施の形態を示す機能ブロック図である。
【0031】
本装置1は、例えば、パーソナルコンピュータで実現される。本装置1では、本プログラムが動作して、本プログラムが本装置1のハードウェア資源と協働して、本方法を実現する。
【0032】
ここで、コンピュータ(不図示)に本プログラムを実行させることで、本プログラムは、同コンピュータを本装置1と同様に機能させて、同コンピュータに本方法を実行させることができる。
【0033】
本装置1は、通信部11と、記憶部12と、制御部13と、操作部14と、表示部15と、を備える。
【0034】
通信部11は、ネットワークNを介して、撮像装置2から静止画像を取得する。通信部11は、例えば、通信モジュールや通信インターフェイスにより構成される。静止画像は、例えば、所定期間ごとに1つの映像(静止画像群)としてまとめられ、記憶部12に記憶される。
【0035】
記憶部12は、本装置1が後述する本方法を実行するために必要な情報を記憶する。記憶部12は、例えば、本装置1が備えるHDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)のような記録装置、RAM(Random Access Memory)のような揮発性メモリ、および/または、フラッシュメモリのような可搬性記憶媒体、により構成される。
【0036】
制御部13は、本装置1全体の動作を制御すると共に、後述する本方法を実行する。制御部13は、例えば、本装置1が備えるCPU(Central Processing Unit)と、CPUの作業領域として機能するRAMのような揮発性メモリと、本プログラムなどの各種情報を記憶するROM(Read Only Memory)のような不揮発性メモリと、により構成される。制御部13は、画像取得部131と、画像表示部132と、画像鮮鋭部133と、サイズ算出部134と、評価量算出部135と、特徴抽出部136と、識別器設計部137と、識別部138と、診断部139と、を備える。
【0037】
画像取得部131は、後述する本方法が実行される映像、すなわち、連続して撮影された複数の静止画像(静止画像群)を取得する。画像取得部131の具体的な動作は、後述する。
【0038】
画像表示部132は、記憶部12に記憶されている静止画像を表示部15に表示させる。画像表示部132の具体的な動作は、後述する。
【0039】
画像鮮鋭部133は、静止画像に撮像された被写体(腸管)が鮮鋭化された鮮鋭化画像を生成する。画像鮮鋭部133の具体的な動作は、後述する。
【0040】
サイズ算出部134は、記憶部12に記憶されている映像(鮮鋭化された静止画像群)それぞれに撮像されている被写体のサイズを算出する。サイズ算出部134の具体的な動作は、後述する。
【0041】
評価量算出部135は、記憶部12に記憶されている静止画像のうち、連続して撮影された2つの静止画像それぞれにおける被写体のサイズに基づいて、被写体ごとの評価量を算出する。評価量算出部135の具体的な動作は、後述する。
【0042】
特徴抽出部136は、被写体のサイズに基づいて第1特徴を抽出し、被写体の評価量に基づいて第2特徴を抽出する。特徴抽出部136の具体的な動作と第1特徴および第2特徴とは、後述する。
【0043】
識別器設計部137は、識別部138による被写体の識別に用いられる識別器の設計を行う(識別器の学習を行う)。識別器設計部137の具体的な動作は、後述する。
【0044】
識別部138は、被写体の第1特徴および第2特徴に基づいて、被写体を特定被写体と非特定被写体とのいずれかに識別する。識別部138の具体的な動作は、後述する。
【0045】
診断部139は、識別部138の識別結果に基づいて、患者を診断する。診断部139の具体的な動作は、後述する。
【0046】
操作部14は、本装置1の使用者(例えば、医師。以下単に「使用者」という。)からの操作(情報の入力や選択など)を受け付ける機器(例えば、キーボードやマウス、タッチパネルなど)である。
【0047】
表示部15は、後述する本方法の実施において必要な情報(情報の選択画面や入力画面、識別結果など)を表示する。本実施の形態において、操作部14と表示部15とは、例えば、タッチパネル式ディスプレイである。
【0048】
なお、本発明における操作部はマウスやキーボードなどの入力機器でもよく、本発明における表示部は、本装置に接続されるモニタやディスプレイでもよい。
【0049】
●情報処理方法●
次に、本装置1の動作、すなわち、本装置1が実行する本方法について説明する。
【0050】
以下の本方法の説明において、静止画像は、cine-MRI装置を用いて人体の腹部の断面が撮像されたcine-MRI画像であり、被写体は、静止画像に撮像された小腸の腸管であるものとする。また、映像は、所定期間(17秒間)内に等時間間隔(0.5秒)で連続して撮影された35枚(個)の静止画像であり、予めネットワークNを介して撮像装置2から本装置1に伝送され、記憶部12に記憶されているものとする。35枚の静止画像は、1つの映像(静止画像群)を構成する。
【0051】
また、以下の本方法の説明において、1つの映像(静止画像群)を構成する全ての静止画像において視認可能に撮像されている腸管が、本方法の各処理の処理対象として、予め使用者により特定され、選択されているものとする。1つの映像(静止像画像群)における腸管の数は、1つの場合もあれば、複数(例えば、5つ程度)の場合もある。
【0052】
図3は、本方法の実施の形態を示すフローチャートである。
【0053】
本装置1は、評価量算出処理(S1)と、特徴抽出処理(S2)と、識別器設計処理(S3)と、識別・診断処理(S4)と、を実行する。
【0054】
●評価量算出処理
図4は、評価量算出処理(S1)のフローチャートである。
【0055】
「評価量算出処理(S1)」は、静止画像に撮像された腸管の評価量を算出する処理である。
【0056】
先ず、画像取得部131は、例えば、評価量算出処理(S1)の対象となる腸管が撮像されている1つの映像、すなわち、静止画像群(時系列順に連続して撮影された35枚の静止画像)を記憶部12から読み出す(取得する)(S101)。映像(静止画像群)は、例えば、使用者が操作部14を操作することにより選択される。
【0057】
次いで、画像鮮鋭部133は、静止画像に公知の画像処理を実行して、腸管の輪郭が強調された鮮鋭化画像を生成する(S102)。このとき、画像表示部132は、鮮鋭化画像を表示部15に表示させる。
【0058】
「公知の画像処理」は、例えば、画像の高周波成分を強調して画像に撮像されている被写体を鮮鋭化する公知の鮮鋭化処理(アンシャープマスク処理)である。
【0059】
図5は、静止画像とその鮮鋭化画像それぞれの例を示す画像である。
同図は、画像処理(アンシャープマスク処理)により、腸管の輪郭が強調されていることを示す。以下の説明において、特に明示しない限り、「静止画像」は、鮮鋭化処理が施された静止画像(鮮鋭化画像)を指す。
【0060】
図4に戻る。
次いで、画像表示部132は、1つの映像を構成する静止画像群(鮮鋭化画像群)のうち、後述する短径長が算出されておらず、かつ、時系列において最初の静止画像を表示部15に表示させる(S103)。
【0061】
次いで、サイズ算出部134は、静止画像に撮像されている1以上の腸管のうち、使用者により選択された腸管の短径長を算出する(S104)。ここで、使用者は、評価量算出処理(S1)の処理対象となる腸管のうち、後述する短径長が算出されていない1の腸管を選択する。
【0062】
図6は、腸管の短径長の算出のイメージを示す模式図である。
【0063】
「短径長」は、腸管の口径のうち、短手側の口径(短径)であり、本実施の形態において、腸管の輪郭への接線に対して垂直になる直線上の2点間(2画素間)の長さで表される。短径長は、本発明におけるサイズの例である。
【0064】
図4に戻る。
本実施の形態において、サイズ算出部134は、次式(1)を用いて、短径の両端点を示す2つの画素(第1画素、第2画素)の間の長さ(すなわち、2画素間のユークリッド距離)「L」を算出する。ここで、第1画素および第2画素は、例えば、使用者が操作部14を操作することにより、選択される。
【0065】
【数1】
ここで、「x」は第1画素のx座標値であり、「y」は第1画素のy座標値であり、「x」は第2画素のx座標値であり、「y」は第2画素のy座標値である。
【0066】
次いで、制御部13は、映像を構成する静止画像群のうち、時系列において(映像内において)次の静止画像の有無を判定する(S105)。
【0067】
時系列において次の静止画像が有るとき(S105の「Y」)、評価量算出処理(S1)は、処理S103に戻る。すなわち、時系列において次の静止画像が表示部15に表示される。
【0068】
一方、時系列において次の静止画像が無いとき、すなわち、35枚の静止画像の全てにおいて選択された腸管の短径長が算出されたとき(S105の「N」)、評価量算出部135は、35枚の静止画像における短径長の平均値「ML」を推定する(S106)。推定された平均値「ML」は、記憶部12に記憶される。このように、映像を構成する35枚の静止画像の全てにおいて、選択された腸管ごとの短径長が算出され、その平均値「ML」が推定され、短径長とその平均値「ML」とが記憶される。
【0069】
次いで、時系列において最初の静止画像が表示され、評価量算出処理(S1)の処理対象となる腸管のうち、短径長が算出されていない腸管(別の腸管)が有るとき(S107の「Y」)、評価量算出処理(S1)は、処理S104に戻る。
【0070】
一方、評価量算出処理(S1)の処理対象となる腸管のうち、短径長が算出されていない腸管(別の腸管)が無いとき(S107の「N」)、評価量算出部135は、評価量「J」を算出する腸管を選択する(S108)。評価量算出部135は、例えば、処理S104において選択された腸管の順に腸管を選択する。
【0071】
評価量算出部135は、次式(2)を用いて、腸管の時間「t」における評価量「J」を算出する(S109)。
【0072】
【数2】
ここで、「t」は「2」~「35」の整数であり、「L」は時間「t」における腸管の短径長であり、「Lt-1」は時間「t」の1つ前(0.5秒前)の時間「t-1」における腸管の短径長である。すなわち、時間「t-1」に撮影された静止画像は本発明における第1静止画像であり、時間「t-1」よりも後の時間「t」に撮影された静止画像は本発明における第2静止画像である。
【0073】
式(2)に示されるとおり、評価量算出部135は、第1静止画像における腸管の短径長と第2静止画像における腸管の短径長との和に対する、第2静止画像における腸管の短径長の比、すなわち、割合に基づいて、評価量「J」を算出する。このように、評価量「J」の算出には、時系列におけるサイズ(短径長)の変化を反映させるために2つの静止画像間における短径長の割合が用いられると共に、撮像装置2の静止画像のスケール、すなわち、解像度(画素数)に依存させないために短径長の相対値(比)が用いられる。その結果、腸管ごとに、1つの映像、すなわち、静止画像群(35枚の静止画像)から34個の評価量「J」が算出される。算出された評価量「J」は、例えば、評価量「J」に対応する腸管を示す情報と、同腸管が撮像されている映像(静止画像群)と、に関連付けられて、記憶部12に記憶される。
【0074】
このように算出される評価量「J」の値は、「0」~「1」までの範囲で表される。評価量「J」の値が「0.5」のとき腸管の短径長は変化せず(腸管のサイズは不変)、「0.5」より大きいとき腸管の短径長は拡大しており、「0.5」より小さいとき腸管の短径長は縮小している。
【0075】
次いで、制御部13は、映像(静止画像群)において、全ての評価量が算出されていない(未算出の)腸管の有無を判定する(S110)。同判定は、例えば、表示部15に表示された選択肢を使用者が選択することにより、実行される。
【0076】
全ての評価量が算出されていない腸管が有るとき(S110の「Y」)、評価量算出処理(S1)は、処理S108に戻る。すなわち、評価量算出部135は、次の腸管を選択し、同腸管の評価量を算出する。
【0077】
一方、全ての評価量が算出されていない腸管が無いとき(S110の「N」)、本装置1は、評価量算出処理(S1)を終了する。
【0078】
●特徴抽出処理
図7は、特徴抽出処理(S2)のフローチャートである。
【0079】
「特徴抽出処理(S2)」は、腸管の識別に用いられる特徴(腸管の異常拡大の程度を表す特徴、腸管のサイズの変化を表す特徴)を抽出する処理である。
【0080】
先ず、特徴抽出部136は、複数の健常者からの腸管の中から選択された腸管(以下、「複数の健常者からの腸管」という。)それぞれの短径長の平均値「ML」を記憶部12から読み出す(S201)。ここで、複数の健常者からの腸管それぞれの短径長の算出およびその平均値「ML」の推定は、例えば、評価量算出処理(S1)により予め実行されて、算出された短径長と推定された平均値「ML」とは記憶部12に記憶されている。複数の健常者からの腸管それぞれは、異常拡大が生じておらず、あるいは、サイズの変化が減少していない腸管(サイズの変化が正常な腸管)である。また、複数の健常者からの腸管それぞれの短径長の平均値「ML」は、本発明における第2平均値の例である。
【0081】
次いで、特徴抽出部136は、処理S201で読み出された複数の健常者からの腸管それぞれの短径長の平均値「ML」からなる分布の平均「μ」と、分散「σ」と、を推定する(S202)。推定された平均「μ」と分散「σ」とは、例えば、複数の健常者からの腸管を示す情報に関連付けられて、記憶部12に記憶される。
【0082】
特徴抽出部136は、特徴抽出処理(S2)の対象となる腸管、すなわち、被診断者からの腸管の中から選択された腸管(以下「被診断者からの腸管」という。)の短径長の平均値「ML」を記憶部12から読み出す(S203)。
【0083】
次いで、特徴抽出部136は、次式(3)と、被診断者からの腸管の短径長の平均値「ML」と、記憶部12から読み出された複数の健常者からの腸管それぞれの短径長の平均値「ML」からなる分布の平均「μ」および分散「σ」と、を用いて、以下の統計的距離(本実施の形態では、マハラノビス距離)「D(x)」を算出し、その対数値を特徴値として抽出する(S204)。被診断者からの腸管の短径長の平均値「ML」は、本発明における第1平均値の例である。
【0084】
【数3】
ここで、「x」は、被診断者からの腸管の35枚の静止画像における短径長の平均値「ML」であり、「D(x)」は、「x」と、複数の健常者からの腸管それぞれの35枚の静止画像における短径長の平均値「ML」からなる分布と、の間のマハラノビス距離である。
【0085】
「マハラノビス距離」は、例えば、Mahalanobis, Prasanta Chandra. “On the generalised distance in statistics”. Proceedings of the National Institute of Sciences of India 2 (1): 49-55, 1936.に記載されている。マハラノビス距離は、ある腸管(被診断者からの腸管)の短径長の平均値「ML」を、複数の健常者からの腸管それぞれの短径長の平均値「ML」からなる分布(正常となる分布)で正規化した距離である。マハラノビス距離は、相対値であるため、短径長の長さのスケールに依存しないという性質を有する。本実施の形態において、マハラノビス距離の対数「D1」は、被診断者からの腸管の特徴(第1特徴)として抽出される。マハラノビス距離は、本発明における統計的距離の例である。
【0086】
次いで、特徴抽出部136は、被診断者からの腸管の各評価量「J」を記憶部12から読み出す(S205)。
【0087】
次いで、特徴抽出部136は、被診断者からの腸管の評価量「J」それぞれを各成分とする34次元の動きベクトルを定義する(S206)。
【0088】
次いで、特徴抽出部136は、腸管のサイズが変化していないことを示す(腸管が動いていないことを示す)基準ベクトルを定義する(S207)。
【0089】
「基準ベクトル」は、34次元ベクトルの各成分を全て「0.5」とする多次元ベクトルである。「0.5」の値は、「L」=「Lt-1」、すなわち腸管のサイズが不変(腸管が不動)であることを意味し、本発明における基準量の例である。
【0090】
次いで、特徴抽出部136は、次式(4)を用いて、被診断者からの腸管の動きベクトルと基準ベクトルとの間の距離「D2」を被診断者からの腸管の特徴(第2特徴)として抽出する(S208)。
【0091】
【数4】
【0092】
このように特徴として抽出される距離「D2」は、その値が大きいほど基準ベクトルから離れること、すなわち、腸管のサイズ(短径長)が変化していること(腸管の動きが大きいこと)を意味し、その値が小さいほど動きベクトルが基準ベクトルに近くなること、すなわち、腸管のサイズ(短径長)が変化していないこと(腸管の動きが小さいこと)を意味する。距離「D2」は、記憶部12に記憶される。
【0093】
このように、特徴抽出部136は、被診断者からの腸管のマハラノビス距離「D(x)」の対数「D1」と、被診断者からの腸管の34次元の動きベクトルと34次元の基準ベクトルとの間の距離「D2」と、を被診断者からの腸管の特徴として抽出する。すなわち、本装置1は、後述する識別・診断処理(S4)において、腸管の異常拡大の程度を表す特徴としてマハラノビス距離の対数「D1」を用い、腸管のサイズの変化の程度を表す特徴として距離「D2」を用いる。
【0094】
●識別器設計処理
図8は、識別器設計処理(S3)のフローチャートである。
【0095】
以下の説明において、識別器設計処理(S3)により設計される識別器は、腸管ごとに、特徴値に対する閾値処理により、識別対象として選択された腸管が偽性腸閉塞症患者からの腸管か否かを識別するものとする。このように、識別に閾値処理を用いることにより、各特徴が医学的に理解可能となると共に、識別結果の解釈が容易となる。また、以下の説明において、記憶部12は、特徴抽出処理(S2)において、複数の偽性腸閉塞症患者および偽性腸閉塞症でない者それぞれからの腸管ごとのマハラノビス距離の対数「D1」の値と距離「D2」の値とを、識別器の設計用のサンプルからの腸管の中から選択された腸管(以下「サンプルからの腸管」という。)ごとの特徴値として予め記憶しているものとする。
【0096】
「識別器設計処理(S3)」は、本装置1が後述する識別・診断処理(S4)において、選択された腸管を偽性腸閉塞症患者からの腸管(特定被写体)と、偽性腸閉塞症でない者(本実施の形態では、健常者)からの腸管(非特定被写体)と、のいずれかに識別するために用いる識別器を設計する処理である。具体的には、識別は2つの特徴値それぞれに対する閾値処理であり、識別器設計処理(S3)は識別に用いる閾値の組を最適化する処理である。
【0097】
「最適化処理」は、設計用のサンプルからの腸管が偽性腸閉塞症患者からの腸管か否かの識別において、偽性腸閉塞症患者からの腸管を高精度で識別する最適な閾値「α」「β」の組を特定する処理である。閾値「α」「β」の組は、例えば、識別器に設定されるパラメータである。閾値「α」は本発明における第1閾値の例であり、閾値「β」は本発明における第2閾値の例である。
【0098】
先ず、識別器設計部137は、設計用のサンプルからの腸管から抽出された、マハラノビス距離の対数「D1」の値(第1特徴値)と距離「D2」の値(第2特徴値)とを記憶部12から読み出す(S301)。
【0099】
次いで、識別器設計部137は、閾値「α」「β」の組の最適化処理を実行する(S302)。
【0100】
本発明において、サンプルからの腸管が偽性腸閉塞症患者からの腸管か否かの識別は、サンプルからの腸管のマハラノビス距離の対数「D1」の値と距離「D2」の値とを用いて実行される。同識別では、ある閾値「α」「β」の組に対して、D1≧αかつD2≦βのとき、サンプルからの腸管は偽性腸閉塞症患者からの腸管と識別され、そうでなければ健常者からの腸管と識別される。
【0101】
最適化処理において、識別器設計部137は、leave-one-out法の分割に従って、複数の健常者および偽性腸閉塞症患者を含む「n」人の利用できるサンプルのうち、「1」人をテストサンプルとして選択し、残りの「n-1」人を設計用のサンプルとして用いる。ここで、最適化処理において、テストサンプルは用いられない。次いで、識別器設計部137は、「n-1」人の設計用のサンプルからの腸管に対して、閾値「α」「β」の組の候補を変えながら各腸管が偽性腸閉塞症患者からの腸管か否かを識別する。すなわち、「n-1」人の設計用のサンプルからの腸管それぞれが識別対象となる。次いで、識別器設計部137は、閾値の組の候補の中から、偽性腸閉塞症患者からの腸管を高精度で識別する閾値「α」「β」の組を選択する。次いで、識別器設計部137は、この組の選択を、「n」人のサンプル全てがただ1回限りテストサンプルとして選択されるまで、つまりn回独立に繰り返す。次いで、識別器設計部137は、「n」回の組の選択において用いられるn個の異なった「n-1」人の設計用のサンプル群に対して、最も選択された数が多い組、つまり、最も有効な閾値の組を最適な閾値「α」「β」の組として特定する。
【0102】
次いで、識別器設計部137は、最適な閾値「α」「β」の組を偽性腸閉塞症患者からの腸管を識別する識別器のパラメータとして記憶部12に記憶する(S303)。
【0103】
●識別・診断処理
図9は、識別・診断処理(S4)のフローチャートである。
【0104】
「識別・診断処理(S4)」は、診断対象である患者(被診断者)の映像(静止画像群)に撮像されている腸管を、偽性腸閉塞症患者からの腸管と偽性腸閉塞症でない者からの腸管とのいずれかに識別、すなわち、特定被写体と非特定被写体とのいずれかに識別し、識別結果に基づいて被診断者を診断する処理である。
【0105】
以下の説明は、被診断者の映像(静止画像群)に撮像されている腸管が、偽性腸閉塞症患者からの腸管か、偽性腸閉塞症患者ではない者(例えば、健常者)からの腸管か、を識別する場合を例とする。また、以下の説明において、患者の映像(静止画像群)内の腸管ごとのマハラノビス距離の対数「D1」の値と距離「D2」の値とは、特徴抽出処理(S2)により予め抽出され、記憶部12に記憶されているものとする。
【0106】
先ず、識別部138は、被診断者の映像(静止画像群)内の腸管の中から、すなわち、被診断者からの腸管の中から、識別対象となる腸管を選択する(S401)。
【0107】
次いで、識別部138は、被診断者からの腸管ごとのマハラノビス距離の対数「D1」の値と、距離「D2」の値と、を記憶部12から読み出す(S402)。
【0108】
次いで、識別部138は、偽性腸閉塞症患者からの腸管か否かを識別する識別器のパラメータである最適な閾値「α」「β」の組を記憶部12から読み出す(S403)。
【0109】
次いで、識別部138は、処理S301で読み出された対数「D1」の値と、距離「D2」の値と、処理S303で読み出された最適な閾値「α」「β」の組がパラメータとして設定された識別器と、に基づいて、被診断者からの腸管を識別する(S404)。
【0110】
次いで、識別部138は、識別されていない(未識別の)腸管の有無を判定する(S405)。識別されていない腸管が有るとき(S405の「Y」)、識別・診断処理(S4)は、処理S401に戻る。
【0111】
一方、未識別の腸管が無いとき(S405の「N」)、診断部139は、全ての腸管のうち、処理S404において偽性腸閉塞症患者からの腸管と識別された腸管の有無を判定する(S406)。
【0112】
診断部139は、偽性腸閉塞症患者からの腸管と識別された腸管が1つでも有るとき(S406の「Y」)、診断部139は、被診断者が偽性腸閉塞症患者であると診断する(S407)。一方、偽性腸閉塞症患者からの腸管と識別された腸管が1つも無いとき(S406の「N」)、診断部139は、被診断者が偽性腸閉塞症の者ではないと診断する(S408)。診断結果は、例えば、表示部15に表示されると共に、記憶部12に記憶される。
【0113】
●実施例●
次に、本発明の実施例について説明する。以下の説明において用いられるサンプルは、11例の健常者からの腸管が撮像された映像(静止画像群)と、7例の偽性腸閉塞症患者からの腸管が撮像された映像(静止画像群)と、により構成される18例の映像(静止画像群)である。本実施例において、撮像間隔は0.5秒、撮像期間は17秒間(0秒のタイミングで静止画像が撮影されない場合、17.5秒間)である。
【0114】
先ず、本発明の発明者は、18例内の選択された腸管それぞれに評価量算出処理(S1)と特徴抽出処理(S2)とを実行して、マハラノビス距離の対数「D1」と、動きベクトルと基準ベクトルとの間の距離「D2」と、を特徴として抽出した。ここで、各例における腸管の数は、「1」~「5」であった。次いで、本発明の発明者は、18例内の選択された腸管を用いて、識別器設計処理(S3)を実行して、偽性腸閉塞症患者からの腸管を高精度で識別する最適な閾値の組を特定した。このとき、対数「D1」と距離「D2」とを特徴とする最適な閾値「α」「β」の組は、「α:1.10」「β:0.15」であった。次いで、本発明の発明者は、最適な閾値「α:1.10」「β:0.15」の組をパラメータとする識別器を用いた識別・診断処理(S4)を実行して、18例を診断したところ、感度「1.00(=7例/7例)」、特異度「0.82(9例/11例)」という診断結果を得た。このように、本発明は、周期性の動きが無く、たとえ被写体のサイズに変化が無い場合でも、被写体が特定状態か否かを高精度に識別することができ、その識別結果を用いて患者を高感度で診断できる。このとき、「感度」は偽性腸閉塞症患者を正しく偽性腸閉塞症患者と診断する割合を意味し、「特異度」は偽性腸閉塞症患者ではない患者(あるいは健常者)を正しく偽性腸閉塞症患者ではない患者(あるいは健常者)と診断する割合を意味する。
【0115】
図10は、本発明の実施例において算出された評価量の時間的変化を示すグラフであり、(a)はサイズの変化のある腸管(健常者からの腸管)の評価量を示し、(b)はサイズの変化が少ない腸管(偽性腸閉塞症患者からの腸管)の評価量を示す。
同図は、サイズの変化のある腸管(健常者からの腸管)は不規則に拡大(J>0.5)・縮小(J<0.5)しているが、サイズの変化が少ない腸管(偽性腸閉塞症患者からの腸管)は殆ど動いていないこと、を示す。
【0116】
図11は、本発明の実施例において用いられた18例からの腸管を、特徴「D1」の値(座標値)と特徴「D2」の値(座標値)とを用いて平面状にプロットしたグラフである。
【0117】
同図の横軸(X軸)はマハラノビス距離の対数「D1」であり、同図の縦軸(Y軸)は動きベクトルと基準ベクトルとの間の距離「D2」である。同図は、Y軸の座標値が小さくなるほど腸管のサイズの変化の程度が小さく、X軸の座標値が大きいほど健常者からの腸管の分布から離れている、ことを示す。例えば、同図の「◆」は偽性腸閉塞症(CIPO)患者からの腸管のプロットであり、「「〇」:volunteers」は健常者からの腸管のプロットである。
【0118】
●まとめ
以上説明した実施の形態によれば、評価量算出部135は、前述された式(2)に基づいて、静止画像の腸管ごとの評価量を算出する。すなわち、評価量算出部135は、時間「t-1」に撮影された静止画像(第1静止画像)における被写体(腸管)のサイズ(短径長)と時間「t-1」よりも後の時間「t」に撮影された静止画像(第2静止画像)における被写体(腸管)のサイズ(短径長)との和に対する、時間「t」に撮影された静止画像(第2静止画像)における被写体のサイズの比に基づいて、腸管ごとの評価量を算出する。この構成によれば、2つの隣接する静止画像間における短径長の割合が用いられるため、評価量の算出に被写体のサイズの時系列の変化が反映されると共に、短径長の相対値(比)が用いられるため、撮像装置2の解像度(画素数)の影響が原理的に無くなる。すなわち、本装置1により算出される評価量は、実際の被写体のサイズの変化に基づいて算出される。その結果、本装置1は、被写体(腸管)の動きの周期性(規則性)の有無に左右されることなく、被写体のサイズの変化を評価するための指標となる評価量を提供することができる。
【0119】
また、以上説明した実施の形態によれば、本装置1は、ある患者(被診断者)からの被写体(腸管)が、偽性腸閉塞症患者からの腸管か否かを識別する識別部138を有してなる。換言すれば、本装置1は、被写体を、サイズの変化が正常ではない特定被写体と、サイズの変化が正常な非特定被写体と、のいずれかに識別する識別部138を有してなる。識別部138は、被写体(腸管)のサイズ(短径長)に基づいて抽出される第1特徴(マハラノビス距離の対数「D1」)と、被写体(腸管)のサイズの変化の評価量に基づいて抽出される第2特徴(距離「D2」)と、に基づいて、被写体を識別する。この構成によれば、識別部138は、腸管の短径長(異常拡大の程度)が反映される第1特徴と、腸管のサイズの変化の程度が反映される第2特徴と、に基づいて、腸管を識別することができる。そのため、本装置1は、被写体のサイズを用いる第1特徴に基づいて被写体のサイズの変化(拡大・縮小)の程度を認定することができ、被写体の評価量を用いる第2特徴に基づいて被写体のサイズの変化の程度を認定することができる。その結果、本装置1は、被写体のサイズの拡大・縮小の程度と、被写体のサイズの変化の程度と、の2つの観点(特徴)から、被写体(腸管)を特定被写体(偽性腸閉塞症患者からの腸管)と非特定被写体(偽性腸閉塞症でない者からの腸管)とのいずれかに識別することができる。
【0120】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、本装置1は、第1特徴と第2特徴とを抽出する特徴抽出部136を有してなる。特徴抽出部136は、複数の非特定被写体(健常者からの腸管)それぞれのサイズ(短径長)の平均値からなる分布の平均「μ」および分散「σ」を推定し、被診断者からの被写体のサイズの平均値と、前述の分布との間の統計的距離(マハラノビス距離)を算出し、同統計的距離に基づいて第1特徴を抽出する。また、特徴抽出部136は、被診断者からの被写体の評価量を成分とする34次元の動きベクトルと、動きベクトルの各成分をサイズが変化していないことを示す基準量とする基準ベクトルと、を定義し、動きベクトルと基準ベクトルとの間の距離を第2特徴として抽出する。被写体のサイズがユークリッド距離(本実施の形態では、短径長の両端を定める2点間の画素数に基づいて算出される)により算出されるとき、算出されたサイズは、静止画像の解像度(画素数)の影響を受ける。すなわち、静止画像における被写体のサイズの算出結果は、撮像装置2の設定・種類により異なる結果となる。しかしながら、このマハラノビス距離が用いられる構成によれば、複数の非特定被写体(複数の健常者からの腸管)それぞれのサイズの平均値からなる分布に対して被診断者からの被写体のサイズの平均値が正規化され、その対数値が特徴値として用いられる。その結果、本装置1は、静止画像の解像度に依存しない汎用性のある被写体の識別および患者の診断を可能とする。
【0121】
なお、本発明におけるサイズは、腸管の短径長に限定されない。すなわち、例えば、本発明におけるサイズは、腸管の長径長や短径長と長径長とを用いた比、例えば円形度でもよく、あるいは、腸管の周囲長でもよい。
【0122】
また、本発明における第2特徴は、動きベクトルと基準ベクトルとの間の距離「D2」に限定されず、様々な距離を採用することができる。すなわち、例えば、本発明における第2特徴は、評価量と基準値(0.5)との差分の絶対値の平均でもよい。
【0123】
さらにまた、本装置は、静止画像が高画質であれば、画像鮮鋭部を備えなくてもよい。すなわち、例えば、本装置1は、鮮鋭化画像ではなく静止画像から直接、被写体のサイズを算出してもよく、あるいは、他の画像処理装置により鮮鋭化処理が施された鮮鋭化画像を用いて被写体のサイズを算出してもよい。
【0124】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、連続して撮影された2つの静止画像は、映像内において隣接する2つの静止画像であった。これに代えて、撮像装置が高速撮影可能な機器であれば、連続して撮影された2つの静止画像は、映像内において、一定の枚数おきに連続する2つの静止画像でもよい。すなわち、例えば、2つの静止画像は、映像内において、2枚おきに連続する2つの静止画像でもよい。
【0125】
さらにまた、本発明における統計的距離は、スケールに依存しない統計的距離であればよく、マハラノビス距離に限定されない。
【0126】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、本装置1は、1つのコンピュータにより構成されていた。これに代えて、本装置は、複数のコンピュータにより構成されてもよい。すなわち、例えば、本装置は、本装置として機能する複数のコンピュータ群で構成されてもよい。具体的には、例えば、本装置(コンピュータ群)は、記憶部を備えるコンピュータと、本方法を実行する制御部を備えるコンピュータと、により構成されてもよい。また、例えば、複数のコンピュータが、画像取得部、画像表示部、画像鮮鋭部、サイズ算出部、評価量算出部、特徴抽出部、識別器設計部、識別部、診断部それぞれの機能を分散して備えてもよい。この場合、コンピュータ群を構成する複数のコンピュータは、通信回線を通じて情報の送受信をしてもよく、あるいは、可搬記憶媒体を用いて情報の譲受をしてもよい。
【符号の説明】
【0127】
1 情報処理装置
12 記憶部
134 サイズ算出部
135 評価量算出部
136 特徴抽出部
138 識別部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11