(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181168
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】異型断面繊維
(51)【国際特許分類】
H01L 41/113 20060101AFI20221130BHJP
H01L 41/193 20060101ALI20221130BHJP
D03D 15/20 20210101ALI20221130BHJP
D03D 15/37 20210101ALI20221130BHJP
D03D 15/283 20210101ALI20221130BHJP
D04B 1/16 20060101ALI20221130BHJP
D04B 21/16 20060101ALI20221130BHJP
D01F 6/00 20060101ALI20221130BHJP
D01F 6/62 20060101ALI20221130BHJP
D02G 3/02 20060101ALI20221130BHJP
【FI】
H01L41/113
H01L41/193
D03D15/20 100
D03D15/37
D03D15/283
D04B1/16
D04B21/16
D01F6/00 Z
D01F6/62 305A
D02G3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053774
(22)【出願日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2021087784
(32)【優先日】2021-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100187584
【弁理士】
【氏名又は名称】村石 桂一
(72)【発明者】
【氏名】山永 哲也
(72)【発明者】
【氏名】森 健一
(72)【発明者】
【氏名】辻 雅之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 昌由
(72)【発明者】
【氏名】海老名 亮祐
【テーマコード(参考)】
4L002
4L035
4L036
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA07
4L002AB00
4L002AB02
4L002AC00
4L002AC03
4L002BA00
4L002CA00
4L002EA00
4L002FA01
4L035DD02
4L035EE12
4L035JJ13
4L035KK05
4L036MA05
4L036MA20
4L036MA33
4L048AA20
4L048AA37
4L048AA39
4L048AA42
4L048AA52
4L048AA56
4L048AB06
4L048AC00
4L048AC13
4L048CA00
4L048CA05
4L048DA01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】繊維の長手軸を横切るように圧縮力をかけたときにより向上した電界強度が得られる電位発生フィラメントからなる異型断面繊維を提供する。
【解決手段】電位発生フィラメントからなる異型断面繊維Fであって、該繊維の長手軸に垂直な方向の断面視での輪郭形状において120°未満の角度の内角を少なくとも1つ有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電位発生フィラメントからなる繊維であって、該繊維の長手軸に垂直な方向の断面視での輪郭形状において120°未満の角度の内角を少なくとも1つ有する、異型断面繊維。
【請求項2】
前記内角の角度が108°以下である、請求項1に記載の異型断面繊維。
【請求項3】
前記内角の角度が90°以下である、請求項1に記載の異型断面繊維。
【請求項4】
前記内角の角度が60°以下である、請求項1に記載の異型断面繊維。
【請求項5】
前記内角の角度が60°以上108°以下である、請求項1に記載の異型断面繊維。
【請求項6】
前記繊維の長手軸を横切る方向に前記繊維を押圧することで電位が発生する、請求項1~5のいずれか1項に記載の異型断面繊維。
【請求項7】
前記繊維の前記輪郭形状に含まれる角部を押圧することで前記電位が発生する、請求項6に記載の異型断面繊維。
【請求項8】
前記繊維の長手軸に対して垂直な方向から斜めに傾いて前記角部を押圧することで前記電位が発生する、請求項7に記載の異型断面繊維。
【請求項9】
前記繊維の長手軸に対して垂直な方向から0°~90°の範囲で傾いて前記角部を押圧することで前記電位が発生する、請求項8に記載の異型断面繊維。
【請求項10】
前記繊維の長手軸に対して垂直な方向から45°傾いて前記角部を押圧することで前記電位が発生する、請求項9に記載の異型断面繊維。
【請求項11】
前記繊維が中空繊維である、請求項1~10のいずれか1項に記載の異型断面繊維。
【請求項12】
100kV/m以上または0.1V/μm以上の電界強度を有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の異型断面繊維。
【請求項13】
前記繊維が圧電材料を含んで成る、請求項1~12のいずれか1項に記載の異型断面繊維。
【請求項14】
前記圧電材料がポリ-L-乳酸(PLLA)を含んで成る、請求項13に記載の異型断面繊維。
【請求項15】
前記圧電材料は、添加剤を含有していない、請求項13または14に記載の異型断面繊維。
【請求項16】
前記圧電材料は、加水分解防止剤を含有する、請求項13~15のいずれか1項に記載の異型断面繊維。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載の異型断面繊維を含んで成る糸。
【請求項18】
請求項17に記載の糸を含んで成る布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は繊維断面が円形でない異型断面繊維に関する。より具体的には、本開示は電位発生フィラメントからなる異型断面繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1および2には外部からのエネルギーにより電荷を発生して電場を形成することができる繊維を含んで成る圧電糸が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6428979号公報
【特許文献2】特許第6508371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者らは、従前の圧電糸には克服すべき課題があることに気付き、そのための対策を取る必要性を見出した。具体的には以下の課題があることを本願発明者らは見出した。
【0005】
例えば特許文献1および特許文献2に開示される圧電糸は外部からのエネルギー(例えば、糸の軸方向の引っ張り)によって電荷を発生することができる。また、このような電荷の発生により形成され得る電場によって細菌よび真菌の増殖を抑制する抗菌効果が期待されている。このような圧電糸は、衣類、特に肌着や靴下において菌の発生を抑制する効果や、菌を死滅させる効果が期待されている。
【0006】
例えば靴下での用途を検討したとき、歩行時には例えば
図15に示すように足裏の中足骨および踵骨の周囲に圧力が集中することがわかった(緑色コンター部分A)。このような部分では約1.3kg/cm
2(=12.7N/cm
2)の圧力がかかり、最大で2.3kg/cm
2(=22.5N/cm
2)の圧力がかかることがわかった(赤色コンター部分B)(消費科学研究所による女性がスニーカーを履いて6歩分、歩行した際にセンサーに加わった圧力を平均化したデータに基づく(https://www.shoukaken.co.jp/news/1766/))。また、このとき、足裏には0°~90°の方向から圧縮力がかかることが本願発明者らの研究によりわかった。さらに、本願発明者らの研究によって、典型的な生地の一つである平織りの織布では22.5N/cm
2の圧力がかかると繊維1本あたり約3.5×10
-4Nの荷重がかかり、12.7N/cm
2の圧力がかかると約2.0×10
-4Nの荷重がかかることもわかった。また、ニットなどの編物や不織布においても繊維1本あたり上記と同様の負荷がかかると考えられる。
【0007】
そこで、本願発明者らは、このような荷重がかかる圧縮部分または圧縮領域において、圧電糸による電荷および電位の発生、ひいては電場のより効果的な形成によるさらなる抗菌効果の向上を検討した。
【0008】
しかし、従来の圧電糸は、外部からのエネルギー、特に糸または繊維の軸方向の引っ張りにより電場を形成して抗菌効果を奏するものであり、繊維の長手軸に対して0°~90°の方向、特に斜め45°の方向から繊維の長手軸を横切るように圧縮力をかけた場合には、その電界強度が不十分であることが本願発明者らの研究によりわかった。
【0009】
本開示はかかる課題に鑑みて為されたものである。即ち、本開示の主たる目的は、繊維の長手軸を横切るように圧縮力をかけたときにより向上した電界強度が得られる繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、従来技術の延長線上で対応するのではなく、新たな方向で対処することによって上記課題の解決を試みた。その結果、上記主たる目的が達成された繊維の開示に至った。
【0011】
本開示では、繊維の長手軸に対して斜めの方向から圧縮力をかけたときにより向上した電界強度が得られるように、繊維の断面を一般的な円形ではなく、少なくとも1つの角部を有する三角形や四角形などの異型断面に変更することを検討した。繊維の断面が少なくとも1つの角部を有することによって、繊維の斜め方向から圧縮力がかけられたときにこのような角部に圧縮力が集中することでより効率よく電位を発生して電場を形成することができると考えたからである。
【0012】
鋭意研究の結果、繊維の長手軸に垂直な方向の断面視での輪郭形状において120°未満の角度の内角が少なくとも1つ存在することによって、電界強度が顕著に向上することを本願発明者らは見出した。
【0013】
本開示では、電位発生フィラメントからなる繊維であって、該繊維の長手軸に垂直な方向の断面視での輪郭形状において120°未満の角度の内角を少なくとも1つ有する、異型断面繊維が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本開示では、繊維の長手軸を横切るように圧縮力をかけたときにより向上した電界強度を有する繊維が得られる。尚、本明細書に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものでなく、また、付加的な効果があってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本開示の異型断面繊維を模式的に示す概略図(側面図)である。
【
図2】
図2は、異型断面繊維の断面の例を模式的に示す概略図である。
【
図3】
図3は、異型断面繊維の断面および内角の例を模式的に示す概略図である。
【
図4】
図4は、異型断面繊維の断面および内角の別の例を模式的に示す概略図である。
【
図5】
図5は、異型断面繊維の断面における内角を模式的に説明するための概略図である。
【
図6】
図6は、実施例1における本開示の異型断面繊維を模式的に示す概略図である。
【
図7】
図7は、実施例1における本開示の異型断面繊維の電位を示す図である。
【
図8】
図8は、実施例1における本開示の異型断面繊維の電界を示す図である。
【
図9】
図9は、実施例1~3および比較例1~7の繊維の電界強度を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施例4における本開示の異型断面繊維(中空繊維)を模式的に示す概略図である。
【
図11】
図11は、実施例4における本開示の異型断面繊維(中空繊維)の電位を示す図である。
【
図12】
図12は、実施例4における本開示の異型断面繊維(中空繊維)の電界を示す図である。
【
図13】
図13は、実施例1および実施例4~6における本開示の異型断面繊維(三角形断面)の電界強度を示すグラフである。
【
図14】
図14は、実施例3および実施例7~9における本開示の異型断面繊維(五角形断面)の電界強度を示すグラフである。
【
図15】
図15は、スニーカーを履いて歩行したときの足圧を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示は繊維断面が円形でない異型断面繊維、好ましくは少なくとも1つの角部を有する異型断面繊維に関する。より具体的には、本開示は電位発生フィラメントからなる異型断面繊維に関する。
【0017】
本開示において「異型断面繊維」とは、概して、繊維の断面形状の輪郭が円形(楕円や卵形を含む)でないこと、換言すると非円形であることを意味する。具体的には、繊維の長手軸に対して垂直方向の断面視での輪郭形状が円形(楕円や卵形を含む)でないこと、換言すると非円形であることを意味し、繊維の輪郭形状の少なくとも一部が角部を有していても、角張っていてもよい。
【0018】
より具体的には、異型断面繊維は、例えば
図1(側面図)に示すように、繊維またはフィラメント(F)(以下、「繊維(F)」とよぶ場合もある)において直線L
1で示す繊維(F)の長手軸に対して垂直方向の直線L
2に沿う繊維の垂直方向の断面視での輪郭形状が円形(楕円や卵形を含む)でないこと、換言すると非円形である繊維を意味する。
【0019】
繊維(F)の長手軸に対して垂直方向の断面視での輪郭形状は幾何学的な形状を有していてよい。例えば
図2に示すように繊維(F)の長手軸に対して垂直方向の断面視での輪郭形状は三角形、四角形、五角形などの多角形の形状を有していてよく、星形などの形状であってもよい。繊維の断面視での輪郭形状は少なくとも1つの角部を有している限り特に制限はない。換言すると、本開示の異型断面繊維は、繊維の長手軸に対して垂直方向の断面視での輪郭形状が少なくとも1つの角部を有していてよい繊維である。輪郭形状における角部の位置に特に制限はない。
【0020】
繊維の断面視での輪郭形状が少なくとも1つの角部を有することによって、繊維の長手軸に対して斜めの方向から圧縮力がかけられたとき、この角部に力が集中することでより効率よく電位を発生して電場を形成することができる。
【0021】
本開示の異型断面繊維は、以下にて詳説する「電位発生フィラメント」からなる繊維であって、繊維の長手軸に垂直な方向の断面視での輪郭形状において120°未満の角度の内角を少なくとも1つ有することを特徴とする(以下、「本開示の繊維」とよぶ場合もある)。本開示の繊維がこのような内角または角部を少なくとも1つ有することによって、繊維の斜め方向から圧縮力がかけられたとき、このような部分により集中して力がかかることでより効率よく電位を発生して電場を形成することができる。
【0022】
本開示の繊維をより簡便に理解するために、例えば、
図3(A)に典型的な三角形の断面形状として正三角形の断面形状を示し、
図3(B)に典型的な四角形の断面形状として正方形の断面形状を示し、
図3(C)に典型的な五角形の断面形状として正五角形の断面形状を示す。
【0023】
図3(A)に示す正三角形は、全ての頂点が円に内接し、その内角αの角度は60°である。
図3(B)に示す正方形は、全ての頂点が円に内接し、その内角βの角度は90°である。
図3(C)に示す正五角形は、全ての頂点が円に内接し、その内角γの角度は108°である。
【0024】
このように本開示の繊維では、繊維の長手軸に垂直な方向の断面視での輪郭形状において内角の角度が120°未満、好ましくは108°以下の角度の内角を少なくとも1つ有する。内角の角度が120°未満であることによって、本開示の繊維は、繊維の斜め方向から圧縮力がかけられたとき、このような内角または角部により集中して力がかかることでより効率よく電位を発生して電場を形成することができる。ひいては100kV/m以上または0.1V/μm以上の電界強度を得ることができる。尚、内角の角度が120°以上であると、例えば正六角形の場合、電界強度の値が顕著に低下して100kV/mまたは0.1V/μmを下回る場合がある(
図9参照)。
【0025】
内角について、例えば
図4(A)では、繊維の長手軸に垂直な方向の断面視での輪郭形状として、
図3(A)と同様に正三角形を示しているが、
図4(A)に示す三角形の頂点または角部Paの内角αの角度は120°未満であればよく、どのような形状の三角形であってもよい。
【0026】
例えば
図4(B)では、繊維の長手軸に垂直な方向の断面視での輪郭形状の例として四角形を示すが、すべての頂点または角部が
図3(B)に示す正方形のように円周上に存在していなくてよい。したがって、
図4(B)に示す四角形の頂点または角部Pbの内角βの角度は120°未満であればよく、どのような形状の四角形であってもよい。
【0027】
例えば
図4(C)では、繊維の長手軸に垂直な方向の断面視での輪郭形状の例として五角形を示すが、すべての頂点または角部が
図3(C)に示す正五角形のように円周上に存在していなくてよい。したがって、
図4(C)に示す五角形の頂点または角部Pcの内角γの角度は120°未満であればよく、どのような形状の五角形であってもよい。
【0028】
例えば
図4(D)では、繊維の長手軸に垂直な方向の断面視での輪郭形状の例として六角形を示す。
図4(D)に示す六角形の頂点または角部Pdの内角δの角度は120°未満であればよく、どのような形状の六角形であってもよい(ただし、すべての内角が120°である正六角形は除く)。
【0029】
このように本開示の繊維では繊維の長手軸に垂直な方向の断面視での輪郭形状において120°未満の内角を少なくとも1つ有することが重要である。ただし、繊維の長手軸に垂直な方向の断面視での輪郭形状は上記の形状に限定して解釈されるべきではない。
【0030】
また、好ましい実施形態では、繊維の長手軸に垂直な方向の断面視での輪郭形状に含まれ得る角部の内角を以下のように定義してもよい。
【0031】
例えば
図5に示すように、五角形の場合、5つの頂点のうち少なくとも3つの隣接または連続する頂点(P
1,P
2,P
3)が円周上に位置し、この3つの頂点の真ん中の頂点P
1とそれに隣接する一方の頂点P
2とを結ぶ直線Qと、真ん中の頂点P
1とそれに隣接する他方の頂点P
3とを結ぶ直線Rとで形成され得る角部を「内角」と称して定義し、その角度φが120°未満であればよい。このとき、残りの2つの頂点(P
4,P
5)は、それぞれ図示するように円の外側に存在していても、円の内側に存在していてもよい。このような内角の定義は五角形などの多角形に限定されるものでなく、あらゆる幾何学的な形状において適用することができる。
【0032】
本開示の繊維において、繊維の長手軸に垂直な方向の断面視での輪郭形状が複数の角部を有する場合、その内角の角度は、それぞれ異なっていてもよく、同一であってもよい。
【0033】
本開示の繊維において、繊維の長手軸に垂直な方向の断面視での輪郭形状において内角の角度は108°以下であることが好ましい。本開示の繊維がこのような内角の角度を有することによって、繊維の斜め方向から圧縮力がかけられたとき、このような角部に力がより集中してより効率よく電位が発生して電場を形成することができる(
図9参照)。
この場合、内角の角度は0°より大きく、例えば100°以上であってよい。
【0034】
本開示の繊維において、繊維の長手軸に垂直な方向の断面視での輪郭形状において内角の角度は90°以下であることが好ましい。本開示の繊維がこのような内角の角度を有することによって、繊維の斜め方向から圧縮力がかけられたとき、このような角部に力がより集中してより効率よく電位が発生して電場を形成することができる(
図9参照)。
この場合、内角の角度は0°より大きく、例えば80°以上であってよい。
【0035】
本開示の繊維において、繊維の長手軸に垂直な方向の断面視での輪郭形状において内角の角度は60°以下であることが好ましい。本開示の繊維がこのような内角の角度を有することによって、繊維の斜め方向から圧縮力がかけられたとき、このような角部に力がより集中してより効率よく電位が発生して電場を形成することができる(
図9参照)。
この場合、内角の角度は0°より大きく、例えば50°以上であってよい。
【0036】
本開示の繊維において、繊維の長手軸に垂直な方向の断面視での輪郭形状において内角の角度は60°以上108°以下であることが好ましい。本開示の繊維がこのような範囲の内角の角度を有することによって、繊維の斜め方向から圧縮力がかけられたとき、このような角部に力がさらにより集中してより効率よく電位が発生して電場を形成することができる(
図9参照)。
【0037】
本開示の繊維では、繊維の長手軸を横切る方向に前記繊維を押圧することで電位を発生させることができる。本開示の繊維において繊維の長手軸を横切る方向に特に制限はない。
【0038】
例えば
図1に示すように、繊維(F)は、繊維本体に沿って、例えば直線L
1で示す長手軸を有していてよい。本開示の繊維では、繊維の長手軸または直線L
1を横切る方向に繊維を押圧すること(又は単に押すこと)で電位を発生させることができる。
【0039】
本開示の繊維では、例えば
図1に示す斜め方向の直線Lpに沿って繊維(F)の長手軸または直線L
1を横切る方向に繊維(F)を押圧することで電位を発生させることができる。このとき繊維(F)を押圧する位置を符号Pで示す。この符号Pで示す位置は、例えば
図4のPa~Pdまたは
図5のP
1に対応していてよい。換言すると
図1の符号Pで示す位置に
図4のPa~Pdまたは
図5のP
1で示す頂点または角部が存在していてよい。
【0040】
直線Lpの方向は上面視で繊維に沿う方向であっても繊維を横切る方向であってもよい。換言すると直線Lpの上面視での方向に特に制限はない。
【0041】
このように本開示の繊維の長手軸に垂直な方向の断面視での輪郭形状に含まれ得る少なくとも1つの角部を押圧すること又は位置Pで繊維を圧縮することで繊維に電位を発生させることができる。例えば
図1に示す繊維(F)がこのような角部または位置Pにおいて斜め方向から圧縮力がかけられるとき、角部または位置Pにおいて、より集中して繊維に力がかかることでより効率よく繊維に電位を発生して電場を形成することができる。
【0042】
本開示の繊維では、繊維の長手軸に対して垂直な方向から斜めに傾いて角部を押圧すること又は位置Pにおいて角部を圧縮することで繊維に電位を発生させることができる。例えば
図1に示すように繊維(F)の長手軸または直線L
1に対して垂直な直線L
2から斜めに傾いて又はズレて又は角度を成すように繊維(F)を押圧または圧縮することで繊維に電位を発生させることができる。より具体的には
図1に示す斜め方向の直線L
pに沿って繊維(F)を位置Pにおいて押圧または圧縮することで繊維に電位を発生させることができる。図示する形態において、直線L
pは直線L
2に対して角度θで傾いていてよい。このように繊維(F)の長手軸に対して斜めの方向の直線Lpに沿って繊維(F)を押圧または圧縮することで繊維に電位を発生させることができる。このように、繊維の長手軸方向の引張だけでなく、斜めの方向から力を付与すること、特に繊維を圧縮することでより効率よく電位を発生させることができる。
【0043】
本開示の繊維では、繊維の長手軸に対して垂直な方向から0°~90°(ただし0°および90°は含まれないことが好ましい)の範囲で傾いて角部を押圧または圧縮することで繊維に電位を発生させることができる。より具体的には、
図1に示すように繊維(F)の長手軸または直線L
1に対して垂直な直線L
2に沿う方向から0°~90°(ただし0°および90°は含まれないことが好ましい)の範囲で傾いて繊維の角部または位置Pを押圧または圧縮することでより効率よく繊維に電位を発生させることができる。換言すると、
図1に示す直線L
pと直線L
2との交点の角度θが0°~90°(ただしθは0°および90°でないことが好ましい)の範囲で直線L
pが傾いて繊維(F)の角部または位置Pを押圧または圧縮することでより効率よく繊維に電位を発生させることができる。このような角度θで斜め方向から繊維(F)を押圧または圧縮することで繊維(F)に電位を発生させることができれば、繊維(F)の長手軸方向(又は直線L
1に沿う方向)の引張や垂直方向(又は直線L
2に沿う方向)の押圧だけでなく、様々な角度から圧縮力を付与することでより効率よく繊維(F)に電位を発生させることができる。
【0044】
本開示の繊維では、繊維の長手軸に対して垂直な方向から45°傾いて繊維の角部を押圧または圧縮することで繊維に電位を発生させることができる。より具体的には、
図1に示すように繊維(F)の長手軸または直線L
1に対して垂直な直線L
2に沿う方向から45°傾いて角部または位置Pを押圧または圧縮することでより効率よく繊維(F)に電位を発生させることができる。換言すると、
図1に示す直線L
pと直線L
2との交点の角度θが45°であり、直線L
pに沿って繊維の角部または位置Pを押圧または圧縮することでより効率よく繊維に電位を発生させることができる。このような角度θで斜め方向から繊維(F)を押圧または圧縮することで繊維(F)に電位を発生させることができれば、繊維(F)の長手軸方向(又は直線L
1に沿う方向)の引張や垂直方向(又は直線L
2に沿う方向)の押圧だけでなく、様々な角度から繊維に圧縮力を付与することでより効率よく繊維に電位を発生させることができる。
【0045】
本開示の繊維は「中空繊維」であってよい。換言すると、本開示の繊維はその内部に空洞またはキャビティを有していてよい。より具体的には、断面が円形または多角形の空洞を繊維の長手軸に沿って有していてよい。本開示の繊維が中空繊維であることによって、繊維が可撓性を有し、様々な角度から圧縮力を受けやすくなり、より効率よく電位を発生させることができる。
【0046】
本開示の繊維は、「電位発生フィラメント」から構成され、上記の通り、繊維の長手軸に垂直な方向の断面視での輪郭形状において120°未満の角度の内角を少なくとも1つ有することで「100kV/m以上」または「0.1V/μm以上」の電界強度を示すことができる(
図9参照)。本開示の繊維がこのような電界強度を有することでより向上した抗菌効果などを奏することができる。したがって本開示の繊維は抗菌繊維または抗菌糸として使用することができる。
【0047】
(電位発生フィラメント)
本開示において「電位発生フィラメント」とは、外部からのエネルギー、特に圧縮力、より具体的には繊維の長手軸を横切る方向の圧縮力により電荷および電位を発生させることができ、ひいては電場を形成することができる繊維(又はフィラメント)を意味する(以下、「電位発生繊維」、「電荷発生繊維(又は電荷発生フィラメント)」または「電場形成繊維(又は電場形成フィラメント)」あるいは単に「繊維」または「フィラメント」と呼ぶ場合もある)。
【0048】
「外部からのエネルギー」として、例えば、外部からの力(以下、「外力」と称する場合もある)、具体的には繊維に変形もしくは歪みを生じさせるような力、特に圧縮力および/または繊維の軸方向にかかる力、より具体的には、張力(例えば繊維の軸方向の引張力)および/または応力もしくは歪力(繊維にかかる引張応力もしくは引張歪み)および/または繊維の横断方向にかかる力などの外力が挙げられる。
【0049】
外力の中でも特に圧縮力、なかでも繊維の長手軸を横切る方向の圧縮力によって繊維が電位を発生することが好ましい。例えば繊維の長手軸に対して垂直な方向から0°~90°の範囲で傾いて(好ましくは0°および90°は含まない)、繊維の長手軸を横切る方向の圧縮力が好ましく、繊維の長手軸に対して垂直な方向から45°傾いて繊維の長手軸を横切る方向の圧縮力がより好ましい。
【0050】
圧縮力などの外力の大きさ又は荷重は、1本の繊維あたり、例えば1×10-4N以上であり、好ましくは1.5×10-4N以上3×10-4N以下である。
【0051】
繊維は、長繊維であっても、短繊維であってもよい。繊維は、例えば0.01mm以上、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは1mm以上、さらにより好ましくは10mm以上または20mm以上または30mm以上の長さ(又は寸法)を有してよい。長さは、所望の用途に応じて、適宜、選択すればよい。長さの上限の値に特に制限はなく、例えば10000mm、100mm、50mmまたは15mmである。
【0052】
繊維の太さ又は高さ又は厚み又は単繊維径に特に制限はなく、繊維の長さに沿って、同一(又は一定)であっても、同一でなくてもよい。繊維は、例えば0.001μm(1nm)~1mm、好ましくは0.01μm~500μm、より好ましくは0.1μm~100μm、特に1μm~50μm、例えば10μmまたは30μmなどの太さ又は高さ又は厚み又は単繊維径を有してよい。これらの値は繊維断面の最大の寸法であってよい。
【0053】
繊維は、圧電効果(外力による分極現象)または圧電性(機械的ひずみを与えたときに電圧を発生する、あるいは逆に電圧を加えると機械的ひずみを発生する性質)を有する材料(以下、「圧電材料」又は「圧電体」と称する場合もある)を含んで成ることが好ましい。
【0054】
圧電材料は、圧電効果または圧電性を有する材料であれば特に制限なく使用することができ、圧電セラミックスなどの無機材料であっても、ポリマーなどの有機材料であってもよい。
【0055】
圧電材料は、「圧電性ポリマー」を含んで成ることが好ましい。
圧電性ポリマーとして、「焦電性を有する圧電性ポリマー」や、「焦電性を有していない圧電性ポリマー」などが挙げられる。
【0056】
「焦電性を有する圧電性ポリマー」とは、概して、焦電性を有し、例えば温度変化を与えることで、その表面に電荷を発生させることもできるポリマー材料(高分子材料又は樹脂材料)から成る圧電材料を意味する。このような圧電性ポリマーとして、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などが挙げられる。特に、人体の熱エネルギーによって、その表面に電荷を発生させることができるものが好ましい。
【0057】
「焦電性を有していない圧電性ポリマー」とは、概して、ポリマー材料(高分子材料又は樹脂材料)から成り、上記の「焦電性を有する圧電性ポリマー」を除く圧電性ポリマー(以下、「高分子圧電体」と称する場合もある)を意味する。このような圧電性ポリマーとして、例えば、ポリ乳酸(PLA)などが挙げられる。
ポリ乳酸(PLA)としては、L体モノマーが重合したポリ-L-乳酸(PLLA)(換言すると、実質的にL-乳酸モノマー由来の繰り返し単位のみからなる高分子)や、D体モノマーが重合したポリ-D-乳酸(PDLA)(換言すると、実質的にD-乳酸モノマー由来の繰り返し単位のみからなる高分子)およびそれらの混合物などが知られている。
【0058】
ポリ乳酸(PLA)として、L-乳酸および/またはD-乳酸と、このL-乳酸および/またはD-乳酸と共重合可能な化合物とのコポリマーを使用してもよい。
【0059】
また、ポリ乳酸(PLA)として、「ポリ乳酸(実質的にL-乳酸およびD-乳酸から成る群から選択されるモノマー由来の繰り返し単位からなる高分子)」と「L-乳酸および/またはD-乳酸と、このL-乳酸および/またはD-乳酸と共重合可能な化合物とのコポリマー」との混合物を使用してもよい。
【0060】
本開示では上記のポリ乳酸を含む高分子を「ポリ乳酸系高分子」と称する。換言すると、「ポリ乳酸系高分子」とは、「ポリ乳酸(実質的にL-乳酸およびD-乳酸から成る群から選択されるモノマー由来の繰り返し単位からなる高分子)」、「L-乳酸および/またはD-乳酸と、このL-乳酸および/またはD-乳酸と共重合可能な化合物とのコポリマー」およびそれらの混合物などを意味する。
【0061】
ポリ乳酸系高分子のなかでも特に「ポリ乳酸」が好ましく、L-乳酸のホモポリマー(PLLA)およびD-乳酸のホモポリマー(PDLA)を使用することが最も好ましい。
【0062】
ポリ乳酸系高分子は、結晶性部分を有していてよい。あるいはポリマーの少なくとも一部が結晶化していてよい。ポリ乳酸系高分子として、圧電性を有するポリ乳酸系高分子、換言すると圧電ポリ乳酸系高分子、特に圧電ポリ乳酸を使用することが好ましい。
【0063】
ポリ乳酸(PLA)は、キラル高分子であり、主鎖が螺旋構造を有する。ポリ乳酸は、一軸延伸されて分子が配向すると、圧電性を発現することができる。さらに熱処理を加えて結晶化度を高めることで圧電定数を高めておいてもよい。換言すると「結晶化度」に応じて「圧電定数」を高くすることができる(「ポリ乳酸を用いた固相延伸フィルムの高圧電性発現機構の検討」,静電気学会誌,40,1 (2016) 38-43参照)。
【0064】
ポリ乳酸(PLA)の圧電定数は、例えば5~30pC/Nである。
【0065】
ポリ乳酸(PLA)の光学純度(エナンチオマー過剰量(e.e.))は、下記式にて算出することができる。
光学純度(%)={|L体量-D体量|/(L体量+D体量)}×100
例えば、D体およびL体のいずれにおいても、光学純度は、90重量%以上、好ましくは95重量%以上または97重量%以上、より好ましくは98重量%以上100重量%以下、さらにより好ましくは99.0重量%以上100重量%以下、特に好ましくは99.0重量%以上99.8重量%以下である。ポリ乳酸(PLA)のL体量とD体量は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた方法により得られる値であってよい。
【0066】
ポリ乳酸(PLA)の結晶化度は、例えば15%以上、好ましくは35%以上、より好ましくは50%以上、さらにより好ましくは55%以上100%以下である。結晶化度は、高ければ高い程よいが、染着性の観点から、例えば35%以上50%以下、好ましくは38%以上50%以下であってよい。
【0067】
結晶化度は、例えば示差走査熱量計(DSC:Differential Scanning Calorimetry)(例えば、株式会社日立ハイテクサイエンス製のDSC7000X)を用いる方法、X線回折法(XRD:X-ray diffraction)(例えば、株式会社リガク製のultraX 18を用いたX線回折法)、広角X線回折測定(WAXD:Wide Angle X-ray Diffraction)などの測定方法により決定することができる。なお、本開示において、WAXDを用いて測定された結晶化度の測定値と、DSCを用いて測定された結晶化度の測定値は、約1.5倍異なる知見(DSC測定値/WAXD測定値≒1.5)が得られている。
【0068】
本開示の圧電材料は、ポリ乳酸系高分子以外にも、例えば、ポリペプチド系(例えば、ポリ(グルタル酸γ-ベンジル)、ポリ(グルタル酸γ-メチル)等)、セルロース系(例えば、酢酸セルロース、シアノエチルセルロース等)、ポリ酪酸系(例えば、ポリ(β-ヒドロキシ酪酸)等)、ポリプロピレンオキシド系などの光学活性を有する高分子およびその誘導体などを高分子圧電体として使用してもよい。
【0069】
本開示の電位発生繊維または電位発生フィラメントにおいて、好ましくは、可塑剤および/または滑剤等の添加剤は入っていない。一般的に、電位発生繊維または電位発生フィラメントにおいて添加剤が含有されていると、表面電位が発生し難い傾向にあることが分かっている。そこで、適切に表面電位を発生させるため、電位発生繊維または電位発生フィラメントには添加剤を含有させないことが好ましい。本明細書でいう「可塑剤」とは、電位発生繊維または電位発生フィラメントに柔軟性を与えるための材料であり、「滑剤」とは、圧電性の糸の分子の滑りを向上させる材料である。具体的には、ポリエチレングリコール、ヒマシ油系脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ステアリン酸アマイドおよび/またはグリセリン脂肪酸エステル等を意図している。これらの材料が本開示の電位発生繊維または電位発生フィラメントに含有されていない。
【0070】
本開示の電位発生繊維または電位発生フィラメントは、加水分解防止剤を含有してよい。特に、ポリ乳酸(PLA)に対する加水分解防止剤を含有してよい。加水分解防止剤の一例として、カルボジイミドを含有してよい。より好ましくは環状カルボジイミドを含有してよい。より具体的には、特許5475377号に記載の環状カルボジイミドとしてもよい。このような環状カルボジイミドによれば、高分子化合物の酸性基を有効に封止することができる。なお、環状カルボジイミド化合物に対し、高分子の酸性基を有効に封止できる程度にカルボキシル基封止剤を併用してもよい。かかるカルボキシル基封止剤としては、特開2005-2174号公報記載の剤、例えば、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物および/またはオキサジン化合物、などが例示される。
【0071】
以下、加水分解防止剤の役割について説明する。従来から一般的に知られたPLAを含有する繊維またはフィラメント(表面電位を発生させない繊維またはフィラメント)は、PLAの加水分解によって酸が発生し、当該酸が菌に作用することによって抗菌効果を奏していた。そのため、PLAに加水分解が起きると繊維またはフィラメントの劣化が生じていた。しかしながら、本開示の電位発生繊維または電位発生フィラメントは、抗菌メカニズムが従来と異なり、上述したとおり表面電位を発生させることによって抗菌効果を奏するため、加水分解を起こす必要はない。さらに、本開示の電位発生繊維または電位発生フィラメントは加水分解防止剤を含有するため、繊維またはフィラメントに加水分解が起きることを防止して繊維またはフィラメントの劣化を抑えることが可能となる。
【0072】
本開示の繊維は、複数の繊維を引きそろえた糸(引きそろえ糸または無撚糸)、撚りをかけた糸(撚り合わせ糸または撚糸)、捲縮をかけた糸(捲縮加工糸または仮撚糸)、あるいは紡いだ糸(紡績糸)の形態であってよい。換言すると、本開示は、本開示の異型断面繊維を含んで成る糸であってよい(以下、「本開示の糸」または「抗菌糸」とよぶ場合もある)。
【0073】
本開示の異型断面繊維および/または本開示の異型断面繊維を含んで成る糸は布に含まれていてよい。換言すると本開示の異型断面繊維および/または異型断面繊維は本開示の糸を含んで成る布であってよい。本開示において「布」とは、織物、編物、不織布などの布帛を意味する。
【0074】
本開示の異型断面繊維を以下の実施例で詳説する。
【実施例0075】
実施例1
ムラタソフトウェア株式会社製のシミュレーションソフト「FEMTET」(https://www.muratasoftware.com/)を用いて、
図6に示す三角形の繊維断面を有する本開示の異型断面繊維の電位(mV)および電界強度(kV/m)を以下の条件で測定した。
【0076】
モデル
三角柱
繊維断面:正三角形
内角:60°
長さ(Z軸方向の寸法):100μm
高さ(X軸方向の高さ)(YZ面から頂点までの距離):10μm
荷重:2×10-4N
材質:ポリ-L-乳酸(PLLA)フィルム(圧電(歪み)定数のテンソル成分d14=6pC/N、d25=-6pC/N)
【0077】
図6(A)の斜視図においてYZ面に対して45°の方向(換言すると、繊維の長手軸に対して垂直な方向から45°傾いた方向)に荷重をかける。
図6(B)は、
図6(A)に示す繊維の断面(XY面での断面)を示し、頂部から三角形の内部または中心方向に荷重がかかっていることを示す。
【0078】
図6に示す異型断面繊維に荷重(2×10
-4N)をかけた場合に繊維に発生する電位(mV)を
図7に示す。
図7(A)は、繊維の全体に発生した電位を示し、
図7(B)は、繊維の断面に発生した電位を示す。
図7において、発生した電位の最大値は371.591mVであり、発生した電位の最小値は-359.408mVであった。
図7(B)において示される通り、電位は、荷重のかかる繊維の頂部よりも、繊維の頂部の両側に位置する側面において顕著に高いことがわかった。
【0079】
異型断面繊維に荷重(2×10
-4N)をかけた場合に発生する電界の強度を
図8に示す。
図8は、繊維の断面(XY面での断面)を示し、繊維に発生した電界の強度(kV/m)を示す。
図8に示す通り、電界強度は、荷重のかかる繊維の頂部において顕著に高いことがわかった。
電界強度の最大値は527kV/mであった(
図9参照)。
【0080】
実施例2
モデルとして四角柱(繊維断面:正方形、内角90°)を用いたことを除いて、実施例1と同様にして電界強度を決定した。電界強度の最大値は202kV/mであった(
図9参照)。
【0081】
実施例3
モデルとして五角柱(繊維断面:正五角形、内角108°)を用いたことを除いて、実施例1と同様にして電界強度を決定した。電界強度の最大値は152kV/mであった(
図9参照)。
【0082】
比較例1
モデルとして六角柱(繊維断面:正六角形、内角120°)を用いたことを除いて、実施例1と同様にして電界強度を決定した。電界強度の最大値は36kV/mであった(
図9参照)。
【0083】
比較例2
モデルとして七角柱(繊維断面:正七角形、内角128.57°)を用いたことを除いて、実施例1と同様にして電界強度を決定した。電界強度の最大値は32kV/mであった(
図9参照)。
【0084】
比較例3
モデルとして八角柱(繊維断面:正八角形、内角135°)を用いたことを除いて、実施例1と同様にして電界強度を決定した。電界強度の最大値は50kV/mであった(
図9参照)。
【0085】
比較例4
モデルとして十角柱(繊維断面:正十角形、内角144°)を用いたことを除いて、実施例1と同様にして電界強度を決定した。電界強度の最大値は56kV/mであった(
図9参照)。
【0086】
比較例5
モデルとして十二角柱(繊維断面:正十二角形、内角150°)を用いたことを除いて、実施例1と同様にして電界強度を決定した。電界強度の最大値は58kV/mであった(
図9参照)。
【0087】
比較例6
モデルとして十四角柱(繊維断面:正十四角形、内角154.285°)を用いたことを除いて、実施例1と同様にして電界強度を決定した。電界強度の最大値は75kV/mであった(
図9参照)。
【0088】
比較例7
モデルとして十六角柱(繊維断面:正十六角形、内角157.5°)を用いたことを除いて、実施例1と同様にして電界強度を決定した。電界強度の最大値は79kV/mであった(
図9参照)。
【0089】
図9のグラフに示す通り、比較例1~7のように異型断面繊維の内角の角度が120°以上であると電界強度が著しく低下することがわかった。比較例1~7では電界強度が100kV/m未満または0.1V/μm未満であることがわかった。
対して、実施例1~3では、異型断面繊維の内角の角度が120°未満であることから、電界強度が100kV/m以上または0.1V/μm以上であることがわかった。
このような電界強度が得られることから、実施例1~3の異型断面繊維は、繊維の長手軸方向に対して斜めの方向、特に斜め45°の方向から圧縮力を受けたときに顕著に向上した電界強度(0.1V/μm以上)を示すことがわかった。
【0090】
実施例4
シミュレーションソフト「FEMTET」(ムラタソフトウェア株式会社製)を用いて、
図10に示す三角形の繊維断面を有する本開示の「中空」の異型断面繊維の電位(mV)および電界強度(kV/m)を以下の条件で測定した。
【0091】
モデル
三角柱(中空)
繊維断面:正三角形
内角:60°
長さ(Z軸方向の寸法):100μm
高さ(X軸方向の高さ)(YZ面から頂点までの距離):10μm
中空(円筒形の中空部分):中空部分の半径(以下、「中空径」と称する):3μm、Z軸方向の寸法:100μm
荷重:2×10-4N
材質:ポリ-L-乳酸(PLLA)フィルム(圧電(歪み)定数のテンソル成分d14=6pC/N、d25=-6pC/N)
【0092】
図10(A)の斜視図においてYZ面に対して45°の方向(換言すると、繊維の長手軸に対して垂直な方向から45°傾いた方向)に荷重をかける。
図10(B)は、
図10(A)に示す繊維の断面(XY面での断面)を示し、頂部から三角形の中心方向に荷重がかかっていることを示す。
【0093】
図10に示す異型断面繊維に荷重(2×10
-4N)をかけた場合に繊維に発生する電位(mV)を
図11に示す。
図11(A)は、繊維の全体に発生した電位を示し、
図11(B)は、繊維の断面に発生した電位を示す。
図11において、発生した電位の最大値は281mVであり、発生した電位の最小値は-343mVであった。
図11(B)において示される通り、電位は、荷重のかかる繊維の頂部よりも、繊維の頂部の両側に位置する側面において顕著に高いことがわかった。
【0094】
異型断面繊維に荷重(2×10
-4N)をかけた場合に発生する電界の強度を
図12に示す。
図12は、繊維の断面(XY面での断面)を示し、繊維に発生した電界の強度(kV/m)を示す。
図12に示す通り、電界強度は、荷重のかかる繊維の頂部において顕著に高いことがわかった。
電界強度の最大値は489kV/mであった(
図13参照)。
尚、
図13において、半径(中空径)0μmの場合は実施例1の繊維(中実)の電界強度を示す。
【0095】
実施例5
中空径を1μmとしたことを除いて、実施例4と同様にして電界強度を決定した。電界強度の最大値は502kV/mであった(
図13参照)。
【0096】
実施例6
中空径を2μmとしたことを除いて、実施例4と同様にして電界強度を決定した。電界強度の最大値は453kV/mであった(
図13参照)。
【0097】
図13のグラフに示す通り、実施例4~6では、中空繊維であっても、電界強度が100kV/m以上または0.1V/μm以上であることがわかった。
このような電界強度が得られることから、実施例4~6の異型断面繊維は、中空繊維であっても、繊維の長手軸方向に対して斜めの方向から圧縮力を受けたときに顕著に向上した電界強度(0.1V/μm以上)を示すことがわかった。
【0098】
実施例7
正五角形の繊維断面を有する本開示の「中空」の異型断面繊維(中空径:3μm、Z軸方向の寸法:100μm)を用いたこと以外は実施例4と同様にして電界強度を測定した。電界強度の最大値は168kV/mであった(
図14参照)。尚、
図14において、半径(中空径)0μmの場合は実施例3の繊維(中実)の電界強度を示す。
【0099】
実施例8
中空径を1μmとしたことを除いて、実施例7と同様にして電界強度を決定した。電界強度の最大値は198kV/mであった(
図14参照)。
【0100】
実施例9
中空径を2μmとしたことを除いて、実施例7と同様にして電界強度を決定した。電界強度の最大値は142kV/mであった(
図14参照)。
【0101】
図14のグラフに示す通り、実施例7~9では、中空繊維であっても、電界強度が100kV/m以上または0.1V/μm以上であることがわかった。
このような電界強度が得られることから、実施例7~9の異型断面繊維は、中空繊維であっても、繊維の長手軸方向に対して斜めの方向から圧縮力を受けたときに顕著に向上した電界強度(0.1V/μm以上)を示すことがわかった。
【0102】
・シミュレーションソフトの信頼性について
上記の実施例および比較例で使用したシミュレーションソフト「FEMTET」(ムラタソフトウェア株式会社製(https://www.muratasoftware.com/))の信頼性を確認するために以下の実験を行った。
【0103】
(確認実験)
(1)
シミュレーションソフト「FEMTET」を用いてPLLAフィルム(長手方向の寸法:40mm、長手方向に垂直な方向の寸法:20mm、厚み:0.05mm)において圧電シミュレーションを行った。
条件
ソルバ:圧電解析
境界条件:0.5%引張
ポリ-L-乳酸(PLLA)フィルム(圧電(歪み)定数のテンソル成分d14=6pC/N、d25=-6pC/N)において発生する電位は71.5Vであった。
【0104】
(2)
実際にPLLAフィルム(長手方向の寸法:40mm、長手方向に垂直な方向の寸法:20mm、厚み:0.05mm)(PLLA:光学純度99%以上、結晶化度:44%、結晶サイズ:13.5nm、配向度:90%、圧電(歪み)定数のテンソル成分d14=6pC/N、d25=-6pC/Nのポリ-L-乳酸(PLLA))を用いて、以下の条件で0.5%引張の際に発生する電位を測定した。
条件
引張:0.5%(長手方向)
電位測定:電気力顕微鏡(Electric Force Microscope (EFM))
電気力顕微鏡(EFM)(トレック社製、Model 1100TN)のプローブをカンチレバーに固定し、PLLAフィルムの長手方向にプローブを200μm走査することで0.5%引張におけるPLLAフィルムの電位を測定した。このとき、引張装置(治具)においてPLLAフィルムから治具を経由してグランド(GND)を形成し、PLLAフィルムにイオナイザー(トレック社製、MODEL 930)で1分間にわたって送風することで測定値を安定化させた。
0.5%引張におけるPLLAフィルムの電位は71.1V~72.1Vであり、ムラタソフトウェア株式会社製のシミュレーションソフト「FEMTET」で計測した上記の結果(71.5V)とほぼ同じであった。
【0105】
(シミュレーションにおける引張と圧縮と電界強度との関係について)
電界強度Eは、以下の式から求めることができる。
D=dT+εTE
D:電気変位
d:圧電定数
T:応力
εT:誘電率
E:電界強度
【0106】
シミュレーションソフト「FEMTET」を用いる場合、異型断面繊維のシミュレーションでは、D(電気変位)=0であることから、「電界強度E」は、「d(圧電定数)」と「T(応力)」と「εT(誘電率)」とから求めることができる。ここで「d(圧電定数)」および「εT(誘電率)」は一定の値であることから、「電界強度E」は、主に「T(応力)」に依存する。ここで、「T(応力)」は、その大きさ(値)が重要であり、上記の式からわかるように応力の向きは「電界強度E」に全く関与しない。したがって、「電界強度E」に関して、フィルムの長手方向の「引張」と、繊維の長手方向を横切る「圧縮」とでは、その大きさが同じであれば、「電界強度E」の値は同一となる。
【0107】
また、以下の式から「電界強度E」と「電位V」との間には以下の相関関係がある。
E=V/α
V:電位
α:距離
【0108】
このようなことからシミュレーションソフト「FEMTET」により「引張」から導き出した「電位」(V)または「電界強度」(E)の結果と、実際に「引張」から測定した「電位」または「電界強度」の結果とが一致していれば(上記の「確認実験」を参照のこと)、シミュレーションソフト「FEMTET」により「圧縮」から求めた「電位」および「電界強度」の結果は、理論上、実際に測定した値と同じといえる。
このようにムラタソフトウェア株式会社製のシミュレーションソフト「FEMTET」は確かな信頼性を有する。
【0109】
・抗菌効果について
抗菌効果に関して、対象となる菌について簡単に説明すると、細菌(bacteria)および真菌(fungus)であり、特に真菌は、細長く伸びる菌糸(hypha)と、基本的に円形の形状を有する胞子(spore)とから構成されている。また、胞子は、発芽によって増殖し、空気中などに浮遊して寄生体に付着すると菌糸を形成して有性および無性的に生殖を行うことが知られている(「あたらしい皮膚科学」、第2版、清水宏著、第469頁)。このような増殖に寄与する胞子の大きさは、概して、約2μm~10μm程度である(「食品衛生の窓」、東京都福祉保健局ホームページ)。
【0110】
次に、電気的刺激による抗菌効果について簡単に説明すると、従来から、電場により菌の増殖が抑制できることは知られていた(例えば、土戸哲明,高麗寛紀,松岡英明,小泉淳一著、講談社:微生物制御-科学と工学を参照;例えば、高木浩一,高電圧・プラズマ技術の農業・食品分野への応用,J.HTSJ,Vol.51,No.216を参照)。
【0111】
また、このような電場を生じさせる電位により、湿気等で形成された電流経路、または局部的なミクロな放電現象等で形成され得る回路を電流が流れることがあり、このような電流により菌が弱体化し、菌の増殖が抑制され得ることもわかった。
【0112】
さらに、このような電気的刺激に関連して、細胞膜破壊のメカニズムの一つとして、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)が知られていた(高電圧パルスによる細胞穿孔のメカニズム -遺伝子導入法の基礎- 葛西道生・稲葉浩子著、第1595頁)。
【0113】
上記文献によると、菌などの細胞膜を破壊するエレクトロポレーションが起こる条件は、概して、細胞に「約1.0V」の電位差(又は電圧)がかかったときであり、本願発明者らは、例えば胞子の大きさが約2μm~10μm程度の場合には、約0.1V/μm以上の電界強度の電場または電位が発生すると、最大で約10μmの大きさを有する胞子の場合であっても、約1.0V以上の電位差(又は電圧)をかけることができ、エレクトロポレーションが生じて細胞膜が破壊され得るか、あるいは生命維持のための電子伝達系に支障が生じて、細胞が弱体化または死滅または減少し得ると考えている。
【0114】
従って、実施例1~9の本開示の異型断面繊維は、いずれも0.1V/μm以上の電界強度を有することから優れた抗菌効果を奏する。また、このような0.1V/μm以上の電界強度によってウイルスに対しても作用し得ると考えられる。
【0115】
本開示の異型断面繊維は上記の実施例に限定して解釈されるべきではない。
本開示の異型断面繊維は、例えば、衣類、特に靴下などに使用することができる。本開示の異型断面繊維は、衣類に限定されず、圧縮力がかかる様々な布帛および/または糸において使用することができる。例えば、靴の中敷き(インソール)、カーペットなどの敷物、床材などにおいて使用することができる。