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特開2022-181237並列接続半導体素子の温度バランス制御装置および温度バランス制御方法
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  • 特開-並列接続半導体素子の温度バランス制御装置および温度バランス制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181237
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】並列接続半導体素子の温度バランス制御装置および温度バランス制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/00 20070101AFI20221201BHJP
   H02M 1/08 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
H02M1/00 R
H02M1/08 341B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088055
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】比嘉 隼
(72)【発明者】
【氏名】林 孝則
(72)【発明者】
【氏名】滝口 昌司
【テーマコード(参考)】
5H740
【Fターム(参考)】
5H740BA11
5H740BB02
5H740BB07
5H740BC01
5H740BC02
5H740JA01
5H740JB01
5H740KK01
5H740MM08
(57)【要約】
【課題】並列接続された複数の半導体素子の温度をバランスさせることができる温度バランス制御装置を提供する。
【解決手段】並列接続された複数の半導体素子11a~11cのオン電圧、オン電流を検出する電圧・電流検出部と、前記検出されたオン電圧とオン電流のデータを入力とし、前記各半導体素子のオン電圧-オン電流-温度の関係から各半導体素子の温度Tja,Tjb,Tjcを推定する温度推定部21と、前記推定された複数の半導体素子の温度の平均値から各半導体素子の推定温度を差し引いて、温度差分を求める温度差分演算機能と、前記求められた温度差分を、該温度差分に相当する調整時間に変換する温度差分-調整時間変換機能と、前記変換された調整時間に応じて、前記各半導体素子のオン時間を調整するオン時間調整機能とを有したオン、オフタイミング制御部22と、を備えた。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換装置における、並列接続された複数の半導体素子の温度バランスを制御する装置であって、
前記並列接続された複数の半導体素子のオン電圧、オン電流を検出する電圧・電流検出部と、
前記電圧・電流検出部で検出されたオン電圧とオン電流のデータを入力とし、前記各半導体素子のオン電圧-オン電流-温度の関係から各半導体素子の温度を推定する温度推定部と、
前記温度推定部で推定された複数の半導体素子の温度の平均値から各半導体素子の推定温度を差し引いて、温度差分を求める温度差分演算部と、
前記温度差分演算部で求められた温度差分を、該温度差分に相当する調整時間に変換する温度差分-調整時間変換部と、
前記温度差分-調整時間変換部で変換された調整時間に応じて、前記各半導体素子のオン時間を調整するオン時間調整部と、を備えたことを特徴とする並列接続半導体素子の温度バランス制御装置。
【請求項2】
前記オン時間調整部は、前記各半導体素子の温度の大小関係に応じて、前記オン時間の調整を、半導体素子のオンタイミングで行うかオフタイミングで行うかを選択し、前記各半導体素子のターンオフ損失とターンオン損失の大小関係に応じて、前記オン時間の調整を実行する半導体素子の順番を選択することを特徴とする請求項1に記載の並列接続半導体素子の温度バランス制御装置。
【請求項3】
前記オン時間調整部は、前記各半導体素子のターンオフ損失とターンオン損失の大小関係に応じて、前記オン時間の調整を実行する半導体素子の順番を選択し、前記オン時間の調整は、半導体素子のオンタイミングのみで行うことを特徴とする請求項1に記載の並列接続半導体素子の温度バランス制御装置。
【請求項4】
前記オン時間調整部は、前記温度差分-調整時間変換部で変換された調整時間ΔTdが、ΔTd>0であればオン時間を増加し、ΔTd<0であればオン時間を低下させることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の並列接続半導体素子の温度バランス制御装置。
【請求項5】
前記温度差分-調整時間変換部で変換された調整時間を制限するリミッタを設けたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の並列接続半導体素子の温度バランス制御装置。
【請求項6】
前記電圧・電流検出部は、前記複数の半導体素子毎のオン電圧とオン電流を各々検出することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の並列接続半導体素子の温度バランス制御装置。
【請求項7】
前記電圧・電流検出部は、前記複数の半導体素子の並列体の両端間電圧と、複数の半導体素子各々のオン電流を検出することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の並列接続半導体素子の温度バランス制御装置。
【請求項8】
電力変換装置における、並列接続された複数の半導体素子の温度バランスを制御する方法であって、
前記並列接続された複数の半導体素子のオン電圧、オン電流を検出する電圧・電流検出部と、前記電圧・電流検出部で検出されたオン電圧とオン電流のデータを入力とし、前記各半導体素子のオン電圧-オン電流-温度の関係から各半導体素子の温度を推定する温度推定部と、を有し、
前記温度推定部で推定された複数の半導体素子の温度の平均値から各半導体素子の推定温度を差し引いて、温度差分を求める温度差分演算ステップと、
前記温度差分演算ステップで求められた温度差分を、該温度差分に相当する調整時間に変換する温度差分-調整時間変換ステップと、
前記温度差分-調整時間変換ステップで変換された調整時間に応じて、前記各半導体素子のオン時間を調整するオン時間調整ステップと、を備えたことを特徴とする並列接続半導体素子の温度バランス制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置における、並列接続された半導体デバイス(IGBTなど)のジャンクション温度をバランスさせる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置において、従来、並列接続された半導体素子の温度アンバランスを解消するために半導体素子の損失から半導体素子のジャンクション温度を推定し、電流指令値やゲートタイミングを制御する方式がある(例えば特許文献1)。
【0003】
また、並列接続した各半導体素子に温度検出用のダイオードを接続し、そのダイオードの順方向電圧と電流から、半導体素子付近の温度を推定し、推定した温度をバランスさせるように各素子のスイッチングタイミングをずらす方式がある(例えば特許文献2)。
【0004】
図6に、特許文献2の、並列接続した半導体スイッチング素子(IGBTなど)の温度バランスを実現するブロック図を示す。図6は、インバータなどの電力変換装置における、例えばブリッジ接続された半導体素子(半導体スイッチング素子)のうち1個の半導体素子を、並列接続した3個の半導体素子11a,11b,11cで構成し、それら3個の半導体素子の温度をバランスさせるブロックを示している。
【0005】
12は、半導体素子11a~11cに流れる電流の合計電流値iallを検出する電流検出部13の検出電流と、図示省略の熱電対もしくは温度検出用のダイオードを用いて各半導体素子11a~11cの温度を検出した温度検出信号Tca,Tcb,Tccと、コントローラ内で指令値とキャリアを比較して半導体素子11a~11cのオン又はオフのタイミングを決めたオン、オフ信号とを入力とし、ドライバ14a~14cを介して各半導体素子11a~11cのオン、オフのタイミングを遅延させることで各半導体素子11a~11cに流れる電流の大きさを調整するオン、オフタイミング制御部である。
【0006】
a~Gcは半導体素子11a~11cに入力されるゲート信号である。
【0007】
図6の構成によって半導体素子11a~11cの損失の割合が調整され、素子温度が均等化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5455756号公報
【特許文献2】特開2014-233127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記特許文献1の方法では、ユニット平均の温度は解消するが電力変換器内のデバイス温度のアンバランスは解消できない。
【0010】
また、特許文献2および図6の方法では、半導体素子のジャンクション温度が短周期で変化する場合、ジャンクション温度を正確に推定できない課題がある。同様にサーミスタや熱電対を用いた場合でも測定点からチップまでの熱抵抗によりジャンクション温度をバランスできない課題がある。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、並列接続された複数の半導体素子の温度をバランスさせることができる並列接続半導体素子の温度バランス制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための請求項1に記載の並列接続半導体素子の温度バランス制御装置は、
電力変換装置における、並列接続された複数の半導体素子の温度バランスを制御する装置であって、
前記並列接続された複数の半導体素子のオン電圧、オン電流を検出する電圧・電流検出部と、
前記電圧・電流検出部で検出されたオン電圧とオン電流のデータを入力とし、前記各半導体素子のオン電圧-オン電流-温度の関係から各半導体素子の温度を推定する温度推定部と、
前記温度推定部で推定された複数の半導体素子の温度の平均値から各半導体素子の推定温度を差し引いて、温度差分を求める温度差分演算部と、
前記温度差分演算部で求められた温度差分を、該温度差分に相当する調整時間に変換する温度差分-調整時間変換部と、
前記温度差分-調整時間変換部で変換された調整時間に応じて、前記各半導体素子のオン時間を調整するオン時間調整部と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の並列接続半導体素子の温度バランス制御装置は、請求項1において、
前記オン時間調整部は、前記各半導体素子の温度の大小関係に応じて、前記オン時間の調整を、半導体素子のオンタイミングで行うかオフタイミングで行うかを選択し、前記各半導体素子のターンオフ損失とターンオン損失の大小関係に応じて、前記オン時間の調整を実行する半導体素子の順番を選択することを特徴としている。
【0014】
請求項3に記載の並列接続半導体素子の温度バランス制御装置は、請求項1において、
前記オン時間調整部は、前記各半導体素子のターンオフ損失とターンオン損失の大小関係に応じて、前記オン時間の調整を実行する半導体素子の順番を選択し、前記オン時間の調整は、半導体素子のオンタイミングのみで行うことを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の並列接続半導体素子の温度バランス制御装置は、請求項1から3のいずれか1項において、
前記オン時間調整部は、前記温度差分-調整時間変換部で変換された調整時間ΔTdが、ΔTd>0であればオン時間を増加し、ΔTd<0であればオン時間を低下させることを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の並列接続半導体素子の温度バランス制御装置は、請求項1から4のいずれか1項において、
前記温度差分-調整時間変換部で変換された調整時間を制限するリミッタを設けたことを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の並列接続半導体素子の温度バランス制御装置は、請求項1から5のいずれか1項において、
前記電圧・電流検出部は、前記複数の半導体素子毎のオン電圧とオン電流を各々検出することを特徴としている。
【0018】
請求項7に記載の並列接続半導体素子の温度バランス制御装置は、請求項1から5のいずれか1項において、
前記電圧・電流検出部は、前記複数の半導体素子の並列体の両端間電圧と、複数の半導体素子各々のオン電流を検出することを特徴としている。
【0019】
請求項8に記載の並列接続半導体素子の温度バランス制御方法は、
電力変換装置における、並列接続された複数の半導体素子の温度バランスを制御する方法であって、
前記並列接続された複数の半導体素子のオン電圧、オン電流を検出する電圧・電流検出部と、前記電圧・電流検出部で検出されたオン電圧とオン電流のデータを入力とし、前記各半導体素子のオン電圧-オン電流-温度の関係から各半導体素子の温度を推定する温度推定部と、を有し、
前記温度推定部で推定された複数の半導体素子の温度の平均値から各半導体素子の推定温度を差し引いて、温度差分を求める温度差分演算ステップと、
前記温度差分演算ステップで求められた温度差分を、該温度差分に相当する調整時間に変換する温度差分-調整時間変換ステップと、
前記温度差分-調整時間変換ステップで変換された調整時間に応じて、前記各半導体素子のオン時間を調整するオン時間調整ステップと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
(1)請求項1~8に記載の発明によれば、並列接続された複数の半導体素子の温度をバランスさせることができる。
【0021】
(2)請求項2に記載の発明によれば、半導体素子のオンタイミング、オフタイミングを個別に調整するので、ターンオン損失+導通損失、もしくはターンオフ損失+導通損失を調整することができ、半導体素子の温度をバランスさせることができる。
【0022】
(3)請求項3に記載の発明によれば、例えばインバータのように上、下アームに半導体素子が有り、デッドタイムを必要とする装置に対して、アーム短絡を防止することができる。
【0023】
(4)請求項4に記載の発明によれば、平均温度との温度差分に相当する調整時間の大小に応じてオン時間が増加又は低下されるので、スイッチング損失を各半導体素子で調整できるため、並列接続された複数の半導体素子の温度がバランスする。
【0024】
(5)請求項5に記載の発明によれば、リミッタにより調整時間が制限されるため、短絡は発生しない。
【0025】
(6)請求項6に記載の発明によれば、並列接続された複数の半導体素子間のインダクタンスのばらつきが大きい装置であっても、高精度に温度のバランスが実現される。
【0026】
(7)請求項7に記載の発明によれば、並列接続された複数の半導体素子間のインダクタンスのばらつきが小さい装置に対して、低コストに温度のバランスが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態例の構成を示す簡易ブロック図。
図2】本発明の実施例1による温度バランス制御装置の構成図。
図3】本発明の実施例2による温度バランス制御装置の構成図。
図4】本発明の実施形態例におけるゲートタイミング制御の一例を示す説明図。
図5】本発明の実施形態例におけるゲートタイミング制御の他の例を示す説明図。
図6】従来の温度バランス制御装置のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。図6の従来手法ではケース温度もしくは温度検出用のダイオードを用いて、ダイオードの順方向電圧と電流から半導体素子付近の温度を推定し、各素子の温度にアンバランスがある場合はゲートのオンオフタイミングを制御する。
【0029】
しかし、温度検出用ダイオードによる温度推定ではチップとダイオードの間に熱抵抗があるため、ジャンクション温度が駆動中に大きく変化する条件では正確にジャンクション温度を推定できず、並列接続した半導体素子のジャンクション温度をバランスできない可能性がある。
【0030】
そこで本実施形態例では、図1に示すように、各半導体素子11a~11cの動作中のオン電圧とオン電流を検出し(図示省略の電圧・電流検出部による)、それら検出したオン電圧と電流のデータから温度推定部21(Tj推定)によって各半導体素子の温度を推定し、その推定した温度に基づいて、オン、オフタイミング制御部22によって各ゲート駆動のタイミングを補正するように構成した。
【0031】
図1において図6と同一部分は同一符号をもって示している。温度推定部21は、前記電圧・電流検出部で検出されたオン電圧とオン電流のデータを入力とし、前記各半導体素子11a~11cのオン電圧-オン電流-温度の関係から各半導体素子の温度Tja,Tjb,Tjcを推定する。
【0032】
例えば、複数の半導体素子の温度条件下におけるオン電流対オン電圧の関係と、複数のオン電流条件下における半導体素子温度対オン電圧の関係をテーブル化した二次元テーブルを設けておき、半導体素子のオン電流とオン電圧の関係が温度によって依存しないクロスポイントを含む電流領域を不感帯に設定し、前記取得されたオン電流が不感帯の範囲内にないと判定された場合に、前記二次元テーブルを読み出して半導体素子の温度推定値(Tja,Tjb,Tjc)を求めるものである。
【0033】
オン、オフタイミング制御部22は、温度推定部21で推定された推定温度Tja,Tjb,Tjcと、コントローラ内で指令値とキャリアを比較して半導体素子11a~11cのオン、オフタイミングを決めたオン、オフ信号とを入力とし、前記推定温度Tja,Tjb,Tjcに応じて半導体素子11a~11cのオンタイミング、もしくはオンおよびオフタイミングを変更することによって半導体素子11a~11cのジャンクション温度をバランスさせる。
【0034】
尚、並列接続される半導体素子の個数は図1の3個に限るものではない。
【0035】
前記各半導体素子の動作中のオン電圧とオン電流を検出する電圧・電流検出部は、例えば実施例1の図2、実施例2の図3のように構成されている。
【0036】
図2(実施例1)において、図1と同一部分は同一符号をもって示している。23a~23cは、半導体素子11a~11cに流れる電流を各々検出する電流検出器であり、24a~24cは半導体素子11a~11cのオン電圧を各々検出する電圧検出器である。
【0037】
温度推定部21は、電流検出器23a~23cで各々検出された検出電流ia,ib,icと、電圧検出器24a~24cで各々検出された検出電圧Vce_a,Vce_b,Vce_cを入力とする。その他の部分は図1と同様に構成されている。
【0038】
このように図2の実施例1では、並列接続された全素子のオン電圧、電流を検出しジャンクション温度を推定しているので、並列接続モジュール間のインダクタンスのばらつきによるオン電圧の誤差を低減できるため(半導体モジュール直近のオン電圧を検出できるため)ジャンクション温度を高精度に推定できる。したがって、本実施例1では並列接続された半導体素子間の配線インダクタンスが大きい場合でもジャンクション温度をバランスさせることができる。
【0039】
次に実施例2を示す図3において、図1と同一部分は同一符号をもって示している。23a~23cは、半導体素子11a~11cに流れる電流を各々検出する電流検出器であり、24は半導体素子11a~11cの並列体の両端間電圧を検出する電圧検出器である。
【0040】
温度推定部21は、電流検出器23a~23cで各々検出された検出電流ia,ib,icと、電圧検出器24で検出された検出電圧Vceを入力とする。その他の部分は図1と同様に構成されている。
【0041】
このように図3の実施例2では、オン電圧の検出を1台の電圧検出器24で行っており、配線インダクタンスや抵抗が小さい場合であれば、並列接続された各半導体素子のオン電圧は同じである。本実施例2では並列接続された各半導体素子間の配線インダクタンスが小さい場合に適用できる。
【0042】
図1図3のオン、オフタイミング制御部22は、前記温度推定部21で推定された複数の半導体素子の温度の平均値から各半導体素子の推定温度を差し引いて、温度差分を求める温度差分演算部と、前記温度差分演算部で求められた温度差分を、該温度差分に相当する調整時間に変換する温度差分-調整時間変換部と、前記温度差分-調整時間変換部で変換された調整時間に応じて、前記各半導体素子のオン時間を調整するオン時間調整部の各機能を備え、例えば図4のように構成されている。
【0043】
図4は、オン、オフタイミング制御部22の各機能と、実施例1、2に適用するゲートタイミング制御のようすを示している。図4において31は、温度推定部21で推定された推定温度Tja,Tjb,Tjcの平均値を計算する平均値算出器である。
【0044】
32aは、前記温度の平均値から推定温度Tjaを差し引いて温度差分ΔTjaを求める減算器であり、32bは、前記温度の平均値から推定温度Tjbを差し引いて温度差分ΔTjbを求める減算器である。
【0045】
平均値算出器31および減算器32a,32bによって本発明の温度差分演算部を構成している。
【0046】
33aは入力される温度差分ΔTjaから温度差分に相当する調整時間ΔTdaを出力するPI制御器であり、33bは入力される温度差分ΔTjbから温度差分に相当する調整時間ΔTdbを出力するPI制御器である。PI制御器33a,33bによって本発明の温度差分-調整時間変換部を構成している。尚、PI制御器33a,33bに代えてP制御器を用いてもよい。
【0047】
34a,34bは、PI制御器33a,33bから出力される調整時間ΔTda,ΔTdbに各々制限をかけ、短絡を防止するリミッタである。
【0048】
35は、リミッタ34a,34bから出力される調整時間に応じて各半導体素子11a~11cのオン時間を調整するオン時間調整部であり、各半導体素子11a~11cの温度の大小関係に応じて、前記オン時間の調整を、半導体素子のオンタイミングで行うかオフタイミングで行うかを選択し、前記各半導体素子のターンオフ損失とターンオン損失の大小関係に応じて、前記オン時間の調整を実行する半導体素子の順番を選択する機能を備えている。
【0049】
前記オン時間の調整は、基準となるゲート信号(本例では半導体素子11cのGc)に対して、ΔTda,ΔTdb>0であればオン時間を増加し、ΔTda,ΔTdb<0であればオン時間を低下させる。
【0050】
ΔTda,ΔTdb>0の場合は温度平均値よりも当該半導体素子の推定温度のほうが低い、すなわちオン時間が短いのでオン時間を増加させ、逆にΔTda,ΔTdb<0の場合は温度平均値よりも当該半導体素子の推定温度のほうが高い、すなわちオン時間が長いのでオン時間を低下させている。
【0051】
これによって、各半導体素子11a~11cの温度をバランスさせることができる。
【0052】
図4のゲート信号Ga~Gcの波形は、Gcを基準とし、ゲート信号GaをターンオンタイミングでΔTda分調整(オン時間増加)し、ゲート信号GbをターンオフタイミングでΔTdb分調整(オン時間増加)した例を示している。
【0053】
このとき、一番高い温度の半導体素子(もしくは低い素子)でオンタイミングを調整した場合、次点に温度が高い半導体素子(もしくは低い素子)はオフタイミングを調整する。半導体素子のデータシートより推定されるターンオフ損失とターンオン損失の大小関係で調整する順番を選択する。
【0054】
半導体素子が3並列以上の場合、三番目以降の素子のオンタイミングとオフタイミングの調整の選択は、一番目の素子と次点の素子の選択順番と同じようにする。例として、一番目の半導体素子でターンオンタイミングの調整、次点の素子でターンオフタイミングの調整を行ったとき、三番目の素子ではターンオンタイミングの調整、四番目の素子ではターンオフタイミングの調整を行う。
【0055】
基準となるゲート信号(図4の例ではGc)は、温度の平均値に一番近いものを選択する。
【0056】
このように、オン、オフタイミングを個別に調整することで、ターンオン損失+導通損失もしくはターンオフ損失+導通損失を調整できるため、半導体素子のジャンクション温度をバランスさせることができる。
【0057】
次に、図1図3のオン、オフタイミング制御部22の他の例(実施例3)を図5とともに説明する。図5において図4と同一部分は同一符号をもって示している。図5において図4と異なる点は、リミッタ34a,34bの出力側に、前記オン時間調整部35に代えて、各半導体素子11a~11cのターンオフ損失とターンオン損失の大小関係に応じて、前記オン時間の調整を実行する半導体素子の順番を選択し、前記オン時間の調整は、半導体素子のターンオンタイミングのみで行うオン時間調整部45を設けたことにあり、その他は図4と同様に構成されている。
【0058】
図5の手法では、ターンオンタイミングのみを調整するので、上下アームに半導体素子(IGBTなど)があり、デッドタイムを必要とする装置に対して、アーム短絡を防止することができる。
【0059】
前記オン時間の調整は、基準となるゲート信号(本例では半導体素子11cのGc)に対して、ΔTda,ΔTdb>0であればオン時間を増加し、ΔTda,ΔTdb<0であればオン時間を低下させる。
【0060】
これによって、半導体素子のスイッチング損失を各素子で調整できるため、各半導体素子11a~11cの温度をバランスさせることができる。
【0061】
図5のゲート信号Ga~Gcは、Gcを基準とし、ゲート信号Gaではターンオンタイミングにてオン時間をΔTda_on分増加させるように調整し、ゲート信号Gbではターンオンタイミングにてオン時間をΔTdb_on分低下させるように調整した例を示している。
【符号の説明】
【0062】
11a~11c…半導体素子
14a~14c…ドライバ
21…温度推定部
23a~23c…電流検出器
24、24a~24c…電圧検出器
31…平均値算出器
32a,32b…減算器
33a,33b…PI制御器
34a,34b…リミッタ
35,45…オン時間調整部
図1
図2
図3
図4
図5
図6