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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181252
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】触媒層
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20221201BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20221201BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/86 B
H01M8/10 101
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088080
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】工藤 憲治
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 直樹
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018AS01
5H018DD08
5H018EE05
5H018EE06
5H018EE08
5H018EE12
5H018EE17
5H018EE19
5H018HH04
5H018HH05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】低温高湿条件から高温低湿条件までの幅広い温湿度環境で高い発電性能を示す触媒層を提供すること。
【解決手段】触媒層10は、アイオノマコート触媒20と、アイオノマ/基材複合体30とを備えている。アイオノマコート触媒20は、導電性粒子22の表面に触媒粒子24が担持された電極触媒26と、少なくとも導電性粒子22の表面をコートする第1アイオノマ28とを備えている。アイオノマ/基材複合体30は、基材粒子32と、基材粒子32の表面をコートする第2アイオノマ34とを備えている。触媒層10は、[I2/C2]/[I1/C1]>1を満たす。但し、I1は、第1アイオノマ28の質量、C1は、導電性粒子22の質量、I2は、第2アイオノマ34の質量、C2は、基材粒子32の質量。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた触媒層。
(1)前記触媒層は、アイオノマコート触媒と、アイオノマ/基材複合体とを備え、
前記アイオノマコート触媒は、導電性粒子の表面に触媒粒子が担持された電極触媒と、少なくとも前記導電性粒子の表面をコートする第1アイオノマとを備え、
前記アイオノマ/基材複合体は、基材粒子と、前記基材粒子の表面をコートする第2アイオノマとを備えている。
(2)前記触媒層は、次の式(1)を満たす。
[I2/C2]/[I1/C1]>1 …(1)
但し、
1は、前記第1アイオノマの質量、
1は、前記導電性粒子の質量、
2は、前記第2アイオノマの質量、
2は、前記基材粒子の質量。
【請求項2】
前記導電性粒子は、カーボンブラック、又は、導電性酸化物粒子からなる請求項1に記載の触媒層。
【請求項3】
前記基材粒子は、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、グラフェンシート、グラファイトシート、及び、カーボンブラックからなる群から選ばれるいずれか1以上を含む請求項1又は2に記載の触媒層。
【請求項4】
前記第1アイオノマは、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマ、又は、高酸素透過アイオノマからなる請求項1から3までのいずれか1項に記載の触媒層。
【請求項5】
前記第2アイオノマは、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマ、又は、高酸素透過アイオノマからなるからなる請求項1から4までのいずれか1項に記載の触媒層。
【請求項6】
次の式(2)を満たす請求項1から5までのいずれか1項に記載の触媒層。
0.1≦I1/C1≦1.2 …(2)
【請求項7】
次の式(3)を満たす請求項1から6までのいずれか1項に記載の触媒層。
0.5≦I2/C2≦10.0 …(3)
【請求項8】
次の式(1')を満たす請求項1から7までのいずれか1項に記載の触媒層。
1<[I2/C2]/[I1/C1]≦100 …(1')
【請求項9】
空隙率が0.57以上0.80以下である請求項1から8までのいずれか1項に記載の触媒層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒層に関し、さらに詳しくは、プロトン伝導性に優れ、かつ、アイオノマによる触媒被毒が少ない触媒層に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜の両面に触媒層が接合された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly,MEA)を備えている。触媒層は、電極反応の反応場となる部分であり、一般に、白金等の電極触媒を担持したカーボンと固体高分子電解質(触媒層アイオノマ)との複合体からなる。通常、触媒層の外側には、さらにガス拡散層が配置される。ガス拡散層は、触媒層に反応ガス及び電子を供給するためのものであり、カーボンペーパー、カーボンクロス等が用いられる。
さらに、ガス拡散層の外側には、ガス流路を備えたセパレータが配置される。固体高分子形燃料電池は、一般に、このようなMEA、ガス拡散層、及びセパレータからなる単セルが複数個積層された構造(スタック構造)を備えている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、低温高湿条件から高温低湿条件までの幅広い温湿度環境で高い発電性能を示すことが求められている。これらの性能を両立させるためには、反応が生じる触媒層の改良が必要である。高温低湿条件での発電性能の向上のためには、プロトン抵抗を下げて、IRロスを低減することが必要である。また、低温高湿条件での発電性能の向上のためには、触媒層の空隙率を高くすることや、水の排出性能を高くすることでガス拡散抵抗を低減することが考えられる。
しかし、これらの性能は、トレードオフの関係にある。例えば、アイオノマの体積分率を高くすれば、プロトン抵抗は低減できるが、その分、空隙率は低下する。
【0004】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、ナフィオン(登録商標)ペレットを凍結粉砕させることにより得られる塊状の高分子電解質(固体状態のまま触媒層に添加された高分子電解質)と、触媒又は触媒を担持した担体とを含む触媒層を備えた燃料電池用電極が開示されている。
同文献には、塊状の高分子電解質は触媒層内において大きなプロトン伝導パスとして機能するので、これを含む触媒層は高温低加湿条件下においても高いプロトン伝導性を示す点が記載されている。
【0005】
特許文献2には、
(a)パーフルオロカーボンスルホン酸微粉末の表面に白金が担持された白金触媒担持パーフルオロカーボンスルホン酸微粉末を作製し、
(b)白金触媒担持パーフルオロカーボンスルホン酸微粉末と導電性カーボン粒子とを混合して触媒電極ペーストとし、
(c)触媒電極ペーストを集電体上に印刷し、乾燥させる
ことにより得られる触媒層が開示されている。
同文献には、このような方法により、高分子電解質微粉末により形成された多孔質構造の表層部分に白金が担持され、かつ、白金とカーボン粒子とが電気的に接触しているネットワーク構造を備えた触媒層が得られる点が記載されている。
【0006】
特許文献3には、アイオノマを含む繊維の集合体からなる不織布と、前記繊維の表面に付着している電極触媒とを備えた空気極触媒層が開示されている。
同文献には、
(A)基板表面へのアイオノマを含む繊維の堆積と、繊維表面への電極触媒を含む触媒インクの散布とを交互に繰り返すと、不織布を構成する繊維の表面に電極触媒が均一に付着している触媒層が得られる点、及び、
(B)このようにして得られた触媒層は、低湿度環境下においても高い酸素還元反応活性を示す点
が記載されている。
【0007】
特許文献4には、
(a)白金担持カーボンの表面を高酸素透過アイオノマでコートし、
(b)高酸素透過アイオノマでコートされた白金担持カーボン、及び、第2アイオノマを含む触媒インクを調製し、
(c)触媒インクを基材上に塗布し、乾燥させる
ことにより得られる触媒層が開示されている。
同文献には、このような方法により、触媒の表面が酸素移動抵抗が低い第1層で被覆され、その表面がさらにプロトン伝導度の高い第2層で被覆された電極触媒が得られる点が記載されている。
【0008】
さらに、特許文献5には、
(a)白金担持カーボンと、側鎖の炭素数が4以上のパーフルオロスルホン酸からなる第1のアイオノマとを含む第1インクを作製し、
(b)カーボンブラックと、側鎖の炭素数が3以下の第2アイオノマとを含む第2インクを作製し、
(c)第1インクと第2インクを混合してカソードインクとし、
(d)カソードインクを基材上に塗布し、乾燥させる
ことにより得られるカソード触媒層が開示されている。
同文献には、このような方法により、白金担持カーボンの表面が第1のアイオノマで被覆された触媒部材と、カーボンブラックの表面が第2のアイオノマで被覆されたプロトン伝導部材とが混在している触媒層が得られる点が記載されている。
【0009】
特許文献1~3に記載されているように、触媒層に塊状又は不織布状のアイオノマを添加すると、触媒層のプロトン伝導性が向上するために、高温低湿条件での性能が向上する。しかし、低温高湿条件での性能が向上するか否かは明らかではない。
特許文献4に記載の方法を用いると、高酸素透過性と高プロトン伝導性とを両立させることができる。しかし、触媒の表面を2種類のアイオノマーでコートするだけでは、幅広い温湿度環境で高い発電性能を発現させるのは難しい。
【0010】
さらに、特許文献5には、2種類のインクを混合することにより得られるカソードインクを用いると、白金担持カーボンの表面が第1のアイオノマで被覆された触媒部材と、カーボンブラックの表面が第2のアイオノマで被覆されたプロトン伝導部材とが混在している触媒層が得られる点が記載されている。しかしながら、インク工法によりこのような構造を備えた触媒層を製造するのは、実現困難と考えられる。
さらに、低温高湿条件から高温低湿条件までの幅広い温湿度環境で高い発電性能を示す触媒層が提案された例は、従来にはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005-085611号公報
【特許文献2】特開2000-260435号公報
【特許文献3】特開2020-068146号公報
【特許文献4】特開2014-216157号公報
【特許文献5】特開2019-040705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、低温高湿条件から高温低湿条件までの幅広い温湿度環境で高い発電性能を示す触媒層を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明に係る触媒層は、以下の構成を備えている。
(1)前記触媒層は、アイオノマコート触媒と、アイオノマ/基材複合体とを備え、
前記アイオノマコート触媒は、導電性粒子の表面に触媒粒子が担持された電極触媒と、少なくとも前記導電性粒子の表面をコートする第1アイオノマと備え、
前記アイオノマ/基材複合体は、基材粒子と、前記基材粒子の表面をコートする第2アイオノマとを備えている。
(2)前記触媒層は、次の式(1)を満たす。
[I2/C2]/[I1/C1]>1 …(1)
但し、
1は、前記第1アイオノマの質量、
1は、前記導電性粒子の質量、
2は、前記第2アイオノマの質量、
2は、前記基材粒子の質量。
【発明の効果】
【0014】
ドライ塗工法を用いて、I1/C1が相対的に低いアイオノマコート触媒と、I2/C2が相対的に高いアイオノマ/基材複合体との混合物を基材表面に塗工すると、低I1/C1のアイオノマコート触媒と、高I2/C2のアイオノマ/基材複合体との混合物からなる触媒層が得られる。
得られた触媒層は、主として、高I2/C2のアイオノマ/基材複合体がプロトン伝導を担うので、高温低湿条件下においても高い性能を示す。一方、電極触媒の表面は必要最小限の第1アイオノマで被覆され、かつ、アイオノマコート触媒の周囲にはアイオノマ/基材複合体が適度に分散しているために、電極触媒の周囲には適度な空隙が確保される。その結果、ガス拡散抵抗が低下し、低温高湿条件下においても高い性能を示す。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1(A)は、アイオノマコート触媒及びアイオノマ/基材複合体の模式図である。図1(B)は、本発明に係る触媒層の模式図である。
図2】空隙率と電流密度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 触媒層]
図1(A)に、アイオノマコート触媒及びアイオノマ/基材複合体の模式図を示す。図1(B)に、本発明に係る触媒層の模式図を示す。図1において、触媒層10は、アイオノマコート触媒20と、アイオノマ/基材複合体30とを備えている。触媒層10は、電解質膜40の表面に形成されている。このような触媒層10は、ドライ塗工法を用いて、電解質膜40の表面に、アイオノマコート触媒20とアイオノマ/基材複合体30との混合物を塗工することにより得られる。
なお、図1及び以下の説明において、主に触媒層10をカソード側触媒層として用いる例について説明するが、これは単なる例示である。本発明に係る触媒層10は、カソード側触媒層として特に好適であるが、アノード側触媒層としても用いることができる。
【0017】
[1.1. アイオノマコート触媒]
アイオノマコート触媒20は、
導電性粒子22の表面に触媒粒子24が担持された電極触媒26と、
少なくとも導電性粒子22の表面をコートする第1アイオノマ28と
を備えている。
【0018】
[1.1.1. 導電性粒子]
[A. 材料]
導電性粒子22は、触媒粒子24を担持するための担体である。本発明において、導電性粒子22の材料は、導電性を有し、かつ、燃料電池環境下において使用可能な材料である限りにおいて、特に限定されない。
【0019】
導電性粒子22としては、例えば、
(a)カーボンブラック、
(b)SnO2、不定比酸化チタン(TiOx)などの導電性を有する金属酸化物又は複合金属酸化物からなる導電性酸化物粒子
などがある。
導電性粒子22には、これらのいずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0020】
[B. 平均粒径]
「導電性粒子22の平均粒径」とは、レーザー回折散乱法により測定されたメディアン径(D50)をいう。
導電性粒子22の平均粒径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な粒径を選択することができる。一般に、導電性粒子22の平均粒径が小さくなりすぎると、粒子同士の繋がりが悪くなり、電子抵抗が大きくなる場合がある。従って、平均粒径は、0.1μm以上が好ましい。平均粒径は、さらに好ましくは、0.3μm以上、さらに好ましくは、0.5μm以上である。
一方、導電性粒子22の平均粒径が大きくなりすぎると、触媒層の均一性が失われ、場合によってはプレスした際に電解質膜を傷つけてしまう場合がある。従って、平均粒径は、20μm以下が好ましい。平均粒径は、さらに好ましくは、10μm以下、さらに好ましくは、5μm以下である。
【0021】
[1.1.2. 触媒粒子]
[A. 材料]
本発明において、触媒粒子24の材料は、水素酸化反応又は酸素還元反応に対する活性を有するものである限りにおいて、特に限定されない。
触媒粒子24の材料としては、例えば、
(a)貴金属(Pt、Au、Ag、Pd、Rh、Ir、Ru、Os)、
(b)2種以上の貴金属元素を含む合金、
(c)1種又は2種以上の貴金属元素と、1種又は2種以上の卑金属元素(例えば、Fe、Co、Ni、Cr、V、Tiなど)とを含む合金、
などがある。
【0022】
これらの中でも、触媒粒子24は、Pt又はPt合金が好ましい。これは、燃料電池の電極反応に対して高い活性を有するためである。
Pt合金としては、例えば、Pt-Fe合金、Pt-Co合金、Pt-Ni合金、Pt-Pd合金、Pt-Cr合金、Pt-V合金、Pt-Ti合金、Pt-Ru合金、Pt-Ir合金などがある。
【0023】
[B. 平均粒径]
「触媒粒子24の平均粒径」とは、顕微鏡観察下において無作為に選択された20個以上の触媒粒子24について測定された、触媒粒子24の最大寸法の平均値をいう。
触媒粒子24の平均粒径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な平均粒径を選択することができる。一般に、触媒粒子24の平均粒径が小さすぎると、触媒粒子24が溶解しやすくなる。従って、平均粒径は、1nm以上が好ましい。
一方、触媒粒子24の平均粒径が大きくなりすぎると、質量活性が低下する。従って、触媒粒子24の平均粒径は、20nm以下が好ましい。平均粒径は、好ましくは、10nm以下、さらに好ましくは、5nm以下である。
【0024】
[C. 担持量]
「触媒粒子24の担持量」とは、電極触媒26の総質量に対する触媒粒子24の質量の割合をいう。
触媒粒子24の担持量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な担持量を選択することができる。一般に、触媒粒子24の担持量が少なくなりすぎると、所定の目付量を得るために必要な触媒層10の厚さが厚くなり、触媒層10の電子抵抗、プロトン抵抗、及び/又は、ガス拡散抵抗が増大する。従って、触媒粒子24の担持量は、5mass%以上が好ましい。担持量は、さらに好ましくは、10mass%以上、さらに好ましくは、15mass%以上である。
一方、触媒粒子24の担持量が過剰になると、担体(導電性粒子22)表面において触媒粒子24が凝集し、かえって電極触媒26の活性が低下する。従って、触媒粒子24の担持量は、60mass%以下が好ましい。担持量は、さらに好ましくは、50mass%以下、さらに好ましくは、40mass%以下である。
【0025】
[1.1.3. 第1アイオノマ]
[A. 材料]
電極触媒26の表面は、第1アイオノマ28でコートされている。第1アイオノマ28は、導電性粒子22の表面のみをコートするものでも良く、あるいは、導電性粒子22の表面に加えて、触媒粒子24の表面をさらにコートするものでも良い。第1アイオノマ28による触媒粒子24の被毒を低減するためには、第1アイオノマ28は、導電性粒子22の表面のみをコートするものが好ましい。
【0026】
本発明において、第1アイオノマ28の材料は、特に限定されない。
第1アイオノマ28の材料としては、例えば、
(a)ナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)、アシプレックス(登録商標)、アクイヴィオン(登録商標)などのパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマ、
(b)高酸素透過アイオノマ
などがある。
【0027】
第1アイオノマ28は、これらのいずれか1種からなるものでも良く、あるいは、2種以上からなるものでも良い。第1アイオノマ28が2種以上のアイオノマを含む場合、第1アイオノマ28は、2種以上のアイオノマの混合物であっても良く、あるは、2種以上のアイオノマの積層膜であっても良い。
例えば、第1アイオノマ28は、電極触媒26の表面に形成された高酸素透過アイオノマからなる第1層と、第1層の表面に形成されたパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマからなる第2層の積層膜であっても良い。
【0028】
ここで、「高酸素透過アイオノマ」とは、その分子構造内に酸基及び環状構造を含む高分子化合物をいう。高酸素透過アイオノマは、その分子構造内に環状構造を含むために、酸素透過係数が高い。そのため、これを第1アイオノマ28として用いた時に、触媒粒子24との界面における酸素移動抵抗が相対的に小さくなる。
換言すれば、「高酸素透過アイオノマ」とは、酸素透過係数がナフィオン(登録商標)に代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマよりも高いアイオノマをいう。
【0029】
一般に、燃料電池の高電流密度域における発電性能は、触媒粒子24表面への酸素の拡散が律速となる。これに対し、触媒粒子24の表面を高酸素透過アイオノマでコートすると、触媒層10の酸素透過性が向上し、燃料電池の性能が向上する。
高酸素透過アイオノマの分子構造は、相対的に小さい酸素移動抵抗を示す限りにおいて、特に限定されない。特に、その分子構造内に環状構造(脂肪族環構造)を含むアイオノマは、環状構造を含まないアイオノマに比べて酸素移動抵抗が小さいので、電極触媒26を被覆するポリマとして好適である。
【0030】
高酸素透過アイオノマとしては、例えば、
(a)脂肪族環構造を有するパーフルオロカーボンユニットと、パーフルオロスルホン酸を側鎖に持つ酸基ユニットとを含む電解質ポリマー、
(b)脂肪族環構造を有するパーフルオロカーボンユニットと、パーフルオロイミドを側鎖に持つ酸基ユニットとを含む電解質ポリマー、
(c)脂肪族環構造を有するパーフルオロカーボンに直接、パーフルオロスルホン酸が結合したユニットを含む電解質ポリマー、
などがある(参考文献1~4参照)。
[参考文献1]特開2003-036856号公報
[参考文献2]国際公開第2012/088166号
[参考文献3]特開2013-216811号公報
[参考文献4]特開2006-152249号公報
【0031】
[B. I1/C1
「I1/C1」とは、導電性粒子22の質量(C1)に対する第1アイオノマ28の質量(I1)の比をいう。
第1アイオノマ28は、主として、触媒粒子24との間でプロトンの授受を行うためのものである。低温高湿条件から高温低湿条件までの幅広い温湿度環境で高い発電性能を得るためには、I1/C1は、所定の条件を満たしている必要がある。この点については、後述する。
【0032】
[1.2. アイオノマ/基材複合体]
アイオノマ/基材複合体30は、
基材粒子32と、
基材粒子32の表面をコートする第2アイオノマ34と
を備えている。
【0033】
[1.2.1. 基材粒子]
[A. 材料]
本発明において、アイオノマ/基材複合体30は、触媒層10内においてプロトン伝導材として機能する。そのため、基材粒子32の材料は、プロトン伝導を阻害しない限りにおいて、特に限定されない。基材粒子32の材料は、導電性材料であっても良く、あるいは、絶縁性材料であっても良い。
【0034】
基材粒子32の形状は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な形状を選択することができる。なお、図1において、基材粒子32は、シート状粒子として描かれているが、これは単なる例示である。
プロトン伝導材としてアイオノマ/基材複合体30を用いると、基材粒子32の形状に応じて、触媒層10内に導入される空隙の量を比較的広範に制御することが可能となる。また、基材粒子32として形状に異方性がある粒子を用いると、特定方向(例えば、触媒層10の厚さ方向)のプロトン伝導度を向上させることが可能となる。
【0035】
基材粒子32としては、例えば、
(a)カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、グラフェンシート、グラファイトシート、カーボンブラック、導電性金属酸化物ナノシート、導電性金属酸化物粒子などの導電性材料からなる粒子、
(b)絶縁性金属酸化物、シリカなどの絶縁性材料からなる粒子、
などがある。
基材粒子32は、これらのいずれか1種からなるものでも良く、あるいは、2種以上からなるものでも良い。
【0036】
これらの中でも、基材粒子32は、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、グラフェンシート、グラファイトシート、及び/又は、カーボンブラックが好ましい。これは、他の材料に比べてカーボンの導電性や耐食性が高いためである。
特に、基材粒子32としてグラファイトシートを用いると、低温高湿条件及び高温低湿条件の双方において、高い性能を示す。これは、基材32としてグラファイトシートを用いることによって、触媒層10内に相対的に多量の空隙が導入されるためと考えられる。
【0037】
[B. 平均粒径]
「基材粒子32の平均粒径」とは、レーザー回折散乱法により測定されたメディアン径(D50)をいう。
基材粒子32の平均粒径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な粒径を選択することができる。一般に、基材粒子32の平均粒径が小さくなりすぎると、粒子同士の繋がりが悪くなり、プロトン抵抗が大きくなる場合がある。従って、平均粒径は、0.1μm以上が好ましい。平均粒径は、さらに好ましくは、0.5μm以上、さらに好ましくは、1.0μm以上である。
一方、基材粒子32の平均粒径が大きくなりすぎると、触媒層の均一性が失われ、場合によってはプレスした際に電解質膜を傷つけてしまう場合がある。従って、平均粒径は、50μm以下が好ましい。平均粒径は、さらに好ましくは、10μm以下、さらに好ましくは、5μm以下である。
【0038】
[1.2.2. 第2アイオノマ]
[A. 材料]
基材粒子32の表面は、第2アイオノマ34でコートされている。本発明において、第2アイオノマ34の材料は、特に限定されない。
第2アイオノマの材料34としては、例えば、
(a)ナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)、アシプレックス(登録商標)、アクイヴィオン(登録商標)などのパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマ、
(b)高酸素透過アイオノマ
などがある。
第2アイオノマ34は、第1アイオノマ28と同一の材料であっても良く、あるいは、異なる材料であっても良い。第2アイオノマ34に関するその他の点については、第1アイオノマ28と同様であるので、説明を省略する。
【0039】
[B. I2/C2
「I2/C2」とは、基材粒子32の質量(C2)に対する第2アイオノマ34の質量(I2)の比をいう。
第2アイオノマ34は、主として、触媒層10の厚さ方向にプロトンを輸送するためのものである。低温高湿条件から高温低湿条件までの幅広い温湿度環境で高い発電性能を得るためには、I2/C2は、所定の条件を満たしている必要がある。この点については、後述する。
【0040】
[1.3. アイオノマ含有量]
[1.3.1. [I2/C2]/[I1/C1]]
本発明に係る触媒層10は、次の式(1)を満たしている必要がある。
[I2/C2]/[I1/C1]>1 …(1)
但し、
1は、第1アイオノマ28の質量、
1は、導電性粒子22の質量、
2は、第2アイオノマ34の質量、
2は、基材粒子32の質量。
【0041】
本発明において、触媒粒子24周辺の局所的なプロトン伝導は、主として、第1アイオノマ28が担う。しかし、第1アイオノマ28が過剰になると、電極触媒26の周囲に存在する空隙が少なくなり、ガス拡散性が低下する。
一方、触媒層10の厚さ方向のプロトン伝導は、主として第2アイオノマ34が担う。そのため、第2アイオノマ34が少なくなりすぎると、プロトン抵抗が増加する。
【0042】
触媒層10内における空隙の確保と、触媒層10内のプロトン抵抗の低減とを両立させるためには、[I2/C2]/[I1/C1]は、1超である必要がある。[I2/C2]/[I1/C1]は、好ましくは、2以上、さらに好ましくは、3以上である。
一方、[I2/C2]/[I1/C1]を必要以上に大きくしても、効果に差がなく、実益がない。従って、[I2/C2]/[I1/C1]は、100以下が好ましい。[I2/C2]/[I1/C1]は、さらに好ましくは、50以下、さらに好ましくは、20以下、さらに好ましくは、10以下である。
【0043】
本発明に係る触媒層10は、特に、次の式(1’)を満たしているものが好ましい。
1<[I2/C2]/[I1/C1]≦100 …(1')
【0044】
[1.3.2. I1/C1
本発明に係る触媒層10は、上述した式(1)に加えて、次の式(2)をさらに満たしているものが好ましい。
0.1≦I1/C1≦1.2 …(2)
【0045】
上述したように、触媒粒子24周辺の局所的なプロトン伝導は、主として、第1アイオノマ28が担う。そのため、I1/C1は、最低限のプロトン伝導性を確保できる限りにおいて、小さいほど良い。しかしながら、I1/C1が小さくなりすぎると、触媒粒子24表面へのプロトン輸送が困難となる場合がある。従って、I1/C1は、0.1以上が好ましい。I1/C1は、さらに好ましくは、0.2以上、さらに好ましくは、0.4以上である。
一方、I1/C1が大きくなりすぎると、電極触媒26周辺の空隙率が過度に小さくなり、ガス拡散抵抗が増大する。従って、I1/C1は、1.2以下が好ましい。I1/C1は、さらに好ましくは、1.0以下、さらに好ましくは、0.8以下である。
【0046】
[1.3.3. I2/C2
本発明に係る触媒層10は、上述した式(1)に加えて、次の式(3)をさらに満たしているものが好ましい。
0.5≦I2/C2≦10.0 …(3)
【0047】
上述したように、触媒層10の厚さ方向のプロトン伝導は、主として第2アイオノマ34が担う。触媒層10の厚さ方向のプロトン抵抗を低減するためには、I2/C2は、0.5以上が好ましい。I2/C2は、さらに好ましくは、1.0以上、さらに好ましくは、2.0以上である。
一方、I2/C2を必要以上に大きくしても、効果に差がなく、実益がない。従って、I2/C2は、10.0以下が好ましい。I2/C2は、さらに好ましくは、7.5以下、さらに好ましくは、5.0以下である。
【0048】
[1.4. アイオノマ質量比]
「アイオノマ質量比」とは、第1アイオノマ28、第2アイオノマ34、導電性粒子22、及び基材粒子34の総質量に対する、第1アイオノマ28及び第2アイオノマ34の総質量の比をいう。
【0049】
アイオノマ質量比は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な含有量を選択することができる。一般に、アイオノマ質量比が小さくなりすぎると、プロトン抵抗が大きくなり、高温低湿性能が低くなる場合がある。従って、アイオノマ質量比は、0.4以上が好ましい。アイオノマ質量比は、さらに好ましくは、0.43以上、さらに好ましくは、0.45以上である。
一方、アイオノマ質量比が大きくなりすぎると、導電性粒子同士の繋がりが悪くなり、電子抵抗が大きくなる場合がある。従って、アイオノマ質量比は、0.8以下が好ましい。アイオノマ質量比は、さらに好ましくは、0.75以下、さらに好ましくは、0.7以下である。
【0050】
[1.5. 空隙率]
「空隙率」とは、次の式(4)により算出される値をいう。
空隙率=(V-V0)×100/V …(4)
但し、
Vは、触媒層10の見かけの体積、
0は、触媒層10の真密度(触媒層10内の空隙がゼロと仮定した時の密度)。
【0051】
空隙率は、触媒層10のガス拡散抵抗に影響を与える。触媒層10のガス拡散抵抗を低減するためには、空隙率は、0.57以上が好ましい。空隙率は、さらに好ましくは、0.64以上、さらに好ましくは、0.67以上である。
一方、空隙率が過剰になると、導電性粒子同士、及び/又は、アイオノマ同士の繋がりが悪くなり、電子抵抗及び/又はプロトン抵抗が大きくなる場合がある。従って、空隙率は、0.8以下が好ましい。空隙率は、さらに好ましくは、0.75以下、さらに好ましくは、0.7以下である。
【0052】
本発明に係る触媒層10は、I1/C1が相対的に低いアイオノマコート触媒20と、I2/C2が相対的に高いアイオノマ/基材複合体30との混合物からなるので、電極触媒26の周囲に相対的に多量の空隙が形成されやすい。そのため、本発明に係る触媒層10は、従来の触媒層に比べて、ガス拡散抵抗が小さい。
【0053】
[2. 触媒層の製造方法]
本発明に係る触媒層10は、
(a)アイオノマコート触媒20を作製し、
(b)アイオノマ/基材複合体30を作製し、
(c)ドライ塗工法を用いて、基材表面に、アイオノマコート触媒20及びアイオノマ/基材複合体30を塗工する
ことにより得られる。
【0054】
[2.1. 第1工程]
まず、アイオノマコート触媒30を作製する(第1工程)。
アイオノマコート触媒30は、具体的には、
(a)電極触媒20及び第1アイオノマ28を溶媒に溶解又は分散させ、
(b)分散液を乾燥させる
ことにより得られる。
【0055】
溶媒の種類、分散液の濃度等の分散液の条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な条件を選択することができる。
また、分散液の乾燥方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。分散液の乾燥方法としては、例えば、スプレードライ法、凍結乾燥法などがある。
【0056】
[2.2. 第2工程]
次に、アイオノマ/基材複合体30を作製する(第2工程)。
アイオノマ/基材複合体30は、具体的には、
(a)基材粒子32及び第2アイオノマ34を溶媒に溶解又は分散させ、
(b)分散液を乾燥させる
ことにより得られる。
【0057】
溶媒の種類、分散液の濃度等の分散液の条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な条件を選択することができる。
また、分散液の乾燥方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。分散液の乾燥方法としては、例えば、スプレードライ法、凍結乾燥法などがある。
凍結乾燥法を用いて分散液を乾燥させる場合において、基材粒子32が形状異方性を有する粒子である時には、分散液を泡立てた後に分散液を凍結乾燥するのが好ましい。分散液を泡立てると、泡の膜面に形状異方性を有する基材粒子32が配向するので、形状異方性を有する基材粒子32の表面に第2アイオノマ34を均一に被覆することができる。
【0058】
[2.3. 第3工程]
次に、ドライ塗工法を用いて、基材(例えば、電解質膜40)の表面に、アイオノマコート触媒20及びアイオノマ/基材複合体30を塗工する(第3工程)。これにより、本発明に係る触媒層10が得られる。
【0059】
ここで、「ドライ塗工法」とは、溶剤を含まない乾式塗料を用いて塗膜を形成する方法をいう。本発明において、ドライ塗工法の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて種々の方法を用いることができる。ドライ塗工法としては、例えば、静電スクリーン印刷法、静電スプレー法、流動浸漬法などがある。
【0060】
[3. 作用]
ドライ塗工法を用いて、I1/C1が相対的に低いアイオノマコート触媒と、I2/C2が相対的に高いアイオノマ/基材複合体との混合物を基材表面に塗工すると、低I1/C1のアイオノマコート触媒と、高I2/C2のアイオノマ/基材複合体との混合物からなる触媒層が得られる。
得られた触媒層は、主として、高I2/C2のアイオノマ/基材複合体がプロトン伝導を担うので、高温低湿条件下においても高い性能を示す。一方、電極触媒の表面は必要最小限の第1アイオノマで被覆され、かつ、アイオノマコート触媒の周囲にはアイオノマ/基材複合体が適度に分散しているために、電極触媒の周囲には適度な空隙が確保される。その結果、ガス拡散抵抗が低下し、低温高湿条件下においても高い性能を示す。
【実施例0061】
(実施例1~2、比較例1~2)
[1. 試料の作製]
[1.1. 実施例1~2]
[1.1.1. アイオノマコート触媒の調製]
29mass%白金担持カーボン(田中貴金属工業(株)製、TEC10V30E):6.0gと、水:73.4gと、25.7mass%アイオノマ溶液(ソルベイ社製、D79):7.9gを秤量し、これらを遊星攪拌機で混合した。この混合液を高圧ホモジナイザー((株)スギノマシン製、スターバストミニ、ノズル径:100μm、圧力:150MPa)で分散させ、分散液を得た。
この分散液をスプレードライヤー(ビュッヒ社製、ミニスプレードライヤーB290、空気供給、入口温度:220℃、送液速度:5mL/min)で処理し、アイオノマコート触媒を得た。I1/C1は、0.5であった。
【0062】
[1.1.2. プロトン伝導材(アイオノマ/グラファイトシート複合体)の調製]
球状グラファイト(伊藤黒鉛工業(株)製、SG-BH8):1.0gと、水:44.5gと、25.7mass%アイオノマ溶液(ソルベイ社製、D79):11.7gを秤量し、これらを遊星攪拌機で混合した。この混合液を上記の高圧ホモジナイザー(但し、ノズル径:100μm、圧力:245MPa)で分散させ、球状グラファイトが劈開することにより形成されたグラファイトシートが分散している分散液を得た。
この分散液をフォーマーでクリーム状に泡立て、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)でコーティングされたステンレス鋼製バットに移した。これを予め冷却した真空凍結乾燥器に入れて、泡状の分散液を凍結させた。分散液が-40℃以下になったことを確認した後、24時間以上真空乾燥を行った。真空乾燥後、乾燥物をミルで粉砕し、アイオノマ/グラファイトシート複合体を得た(実施例1)。I2/C2は、3.0であった。
【0063】
[1.1.3. プロトン伝導材(アイオノマ/カーボンブラック複合体)の調製]
カーボンブラック(Vulcan(登録商標)):2.0gと、水:134.7gと、25.7mass%アイオノマ溶液(ソルベイ社製、D79):23.3gを秤量し、これらを遊星攪拌機で混合した。この混合液を上記の高圧ホモジナイザー(但し、ノズル径:100μm、圧力:150MPa)で分散させ、分散液を得た。
この分散液を上記のスプレードライヤー(但し、空気供給、入口温度:220℃、送液速度:5mL/min)で処理し、アイオノマ/カーボンブラック複合体を得た(実施例2)。I2/C2は、3.0であった。
【0064】
[1.1.4. 触媒層及びMEAの作製]
アイオノマコート触媒とプロトン伝導材とを質量比2:1で混合した。この粉体を静電スクリーン法により、ナフィオン(登録商標)膜(ケマーズ社製、NR211)の一方の面上に塗工し、カソード触媒層を得た。カソード触媒層の大きさは、10mm×10mmとした。Ptの目付量は、0.15mgPt/cm2とした。
さらに、白金担持カーボンとナフィオン(登録商標)からなる一般的な触媒シートを電解質膜の他方の面上に熱転写することでアノード触媒層を形成し、MEAを得た。
【0065】
[1.2. 比較例1]
29mass%白金担持カーボン(田中貴金属工業(株)製、TEC10V30E):3.0gと、水:13.8gと、25.7mass%アイオノマ溶液(ソルベイ社製、D79):5.95gを秤量し、これらを遊星攪拌機で混合した。この混合液を上記の高圧ホモジナイザー(但し、ノズル径:100μm、圧力:75MPa)で分散させ、触媒インクを得た。I/Cは、0.75であった。
この触媒インクをアプリケータでPTFEシート上に塗布し、室温で乾燥させることで、カソード触媒層シートを得た(比較例1)。このカソード触媒層シートと一般的なアノード触媒層シートとをナフィオン(登録商標)膜(NR211)の両面に熱転写し、MEAを得た。
【0066】
[1.3. 比較例2]
29mass%白金担持カーボン(田中貴金属工業(株)製、TEC10V30E):2.5gと、水:12.2gと、25.7mass%アイオノマ溶液(ソルベイ社製、D79):7.3gを秤量し、これらを遊星攪拌機で混合した。この混合液を上記の高圧ホモジナイザー(但し、ノズル径:100μm、圧力:75MPa)で分散させ、触媒インクを得た。I/Cは、1.1であった。
この触媒インクをアプリケータでPTFEシート上に塗布し、室温で乾燥させることで、カソード触媒層シートを得た(比較例2)。このカソード触媒層シートと一般的なアノード触媒層シートとをナフィオン(登録商標)膜(NR211)の両面に熱転写し、MEAを得た。
【0067】
[2. 試験方法]
[2.1. 発電評価]
得られたMEAを小型セルに組み込み、発電評価を行った。評価条件は、セル温度45℃/バブラー温度55℃(過加湿)、又は、セル温度82℃/バブラー温度55℃(低湿)とした。背圧は、50kPaとした。水素流量は0.5L/minとし、空気流量は2L/minとした。
【0068】
[2.2. 空隙率、及び、アイオノマ質量比]
発電評価後の触媒層を切断し、断面をSEM観察することで、触媒層の厚さを測定した。触媒層の厚さの平均値、並びに、触媒層に含まれる白金、カーボン、及び、アイオノマの構成比及び密度から、触媒層の空隙率を求めた。なお、空隙率の算出に際しては、白金の密度ρPt=21.45g/cm3、カーボンの密度ρC=2.0g/cm3、アイオノマの密度ρi=2.0g/cm3と仮定した。
また、仕込み組成に基づいて、アイオノマ質量比(=アイオノマ及びカーボンの総質量に対するアイオノマの質量の比)を算出した。
【0069】
[3. 結果]
表1に、各触媒層の工法、プロトン伝導材の種類、I1/C1、I2/C2、アイオノマ質量比、0.6Vにおける電流密度(過加湿条件及び低湿条件)、及び、触媒層の空隙率を示す。図2に、空隙率と電流密度(過加湿)との関係を示す。表1及び図2より、以下のことが分かる。
【0070】
(1)比較例1の触媒層は、従来のインク工法で作製した触媒層であり、アイオノマ質量比は約0.43であった。これが基準となる。
(2)比較例2の触媒層は、プロトン抵抗を下げ、低湿性能を向上させるために、比較例1よりもアイオノマ質量比を高くした触媒層である。しかしながら、アイオノマ質量比を高くすると、過加湿性能が低下するだけでなく、低湿性能も低下した。これは、アイオノマ質量比を高くすることで、触媒層の空隙率が減少したためと考えられる。
【0071】
(3)実施例2の触媒層は、アイオノマ/カーボンブラック複合体をプロトン伝導材として用い、アイオノマコート触媒とともにドライ工法により作製した触媒層である。実施例2は、比較例2よりも空隙率が高く、電流密度も高くなっていることが分かる。このことから、アイオノマコート触媒のI1/C1よりも高いI2/C2を持つアイオノマ/カーボンブラック複合体(プロトン伝導材)を用い、ドライ工法により触媒層を作製することで、アイオノマ質量比を高くしても高い空隙率が確保可能であることが分かる。
【0072】
(4)実施例1の触媒層は、アイオノマ/グラファイトシート複合体をプロトン伝導材として用い、アイオノマコート触媒とともにドライ工法により作製した触媒層である。プロトン伝導材としてアイオノマ/グラファイトシート複合体を用いることで、作製した触媒層の中で空隙率が最も高くなっていることが分かる。また、過加湿条件と低湿条件における電流密度も、最も高くなった。これは、空隙率が高いことで触媒粒子表面への酸素の供給パスが確保されるため、及び、屈曲性の低いプロトン伝導材がプロトンパスを確保したために、過加湿条件と低湿条件における発電性能が向上したと考えられる。
【0073】
(5)図2に示すように、触媒層にアイオノマ/グラファイトシート複合体を添加すると、空隙率が高く、かつ、過加湿性能が高い触媒層を作製できることが分かった。一方、アイオノマ/カーボンブラック複合体を添加した実施例2の触媒層と、アイオノマ/グラファイトシート複合体を添加した実施例1の触媒層との関係から、空隙率を0.57以上にすると、従来のインク工法で作製された触媒層の性能を上回ると考えられる。I/Cの低いインク工法による触媒層(比較例1)の空隙率0.62を超えれば、確実に比較例1の性能を上回ることが分かる。
【0074】
【表1】
【0075】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明に係る触媒層は、固体高分子形燃料電池や水電解装置の触媒層に用いることができる。
図1
図2