(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181256
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】方法および電力量計
(51)【国際特許分類】
G01R 22/06 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
G01R22/06 130E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088087
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000205661
【氏名又は名称】大崎電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100162846
【弁理士】
【氏名又は名称】大牧 綾子
(72)【発明者】
【氏名】倉田 尚明
(72)【発明者】
【氏名】渡部 哲平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直矢
(57)【要約】
【課題】 電力量計から得られた信号に基づいて、オフセット値となるタイミングに同期したデータのセットを得ること。
【解決手段】 オフセット値となるタイミングに同期した、電力量計で測定された交流信号のデータセットを求めるための方法であって、電力量計で測定された交流信号を、電力量計のサンプリング間隔でサンプリングして得られるサンプリングデータのセットを取得するステップと、推移データを算出するステップであって、推移データはサンプリングデータの各サンプリング時刻からそれぞれ所定の時間だけシフトされる、推移データを算出するステップと、推移データを含む推移データセットを取得するステップとを備え、所定の時間は、交流信号がオフセット値となるタイミングに基づく、方法を提供する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オフセット値となるタイミングに同期した、電力量計で測定された交流信号のデータセットを求めるための方法であって、
前記電力量計で測定された交流信号を、前記電力量計のサンプリング間隔でサンプリングして得られるサンプリングデータのセットを取得するステップと、
推移データを算出するステップであって、前記推移データは前記サンプリングデータの各サンプリング時刻からそれぞれ所定の時間だけシフトされる、推移データを算出するステップと、
前記推移データを含む推移データセットを取得するステップと
を備え、前記所定の時間は、前記交流信号がオフセット値となるタイミングに基づく、方法。
【請求項2】
前記推移データを算出するステップは、さらに、
選択された1周期を中心とする交流信号が、前記オフセット値を通過する第1時刻から、次の前記オフセット値を通過する第2時刻の間に含まれるサンプリングデータのセットと、
前記第1時刻の直前のサンプリングデータと、
前記第2時刻の直後のサンプリングデータと、
を前記サンプリングデータのセットから抽出するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記推移データを算出するステップは、さらに
抽出したサンプリングデータのセットのうち、前記第1時刻を挟んで増加傾向にある隣り合う2つのサンプリングデータを結ぶ第1の近似直線を求めるステップと、
抽出したサンプリングデータのセットのうち、前記第2時刻を挟んで増加傾向にある隣り合う2つのサンプリングデータを結ぶ第2の近似直線を求めるステップと、
前記第1時刻と、前記第1時刻の直後のサンプリング時刻との差である第1の時間差を算出するステップと、
前記第2時刻の直前のサンプリング時刻と、前記第2時刻との差である第2の時間差を算出するステップと、
前記第1の時間差と、前記第2の時間差と、前記サンプリング間隔とから、前記第1時刻から前記第2時刻までのオフセット周期を算出するステップとを備える、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記推移データを算出するステップは、さらに
前記第1時刻から前記第2時刻の間に含まれるサンプリングデータのセットにおいて、第1のサンプリング時刻におけるサンプリングデータと、前記第1のサンプリング時刻の次の第2のサンプリング時刻におけるサンプリングデータとを両端とする線分を直線近似する近似式を求めるステップと、
前記近似式から、前記第1のサンプリング時刻あるいは前記第2のサンプリング時刻から前記所定の時間シフトしたときの、前記交流信号の前記推移データを算出するステップと
を備える、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記推移データセットは、前記第1時刻から前記第2時刻までのオフセット周期に基づく第1間隔の推移データを含んでおり、さらに
所定のオフセット周期において、前記推移データセットから、前記第1間隔より短い第2間隔の追加データを算出するステップと、
前記追加データを含む追加データセットを取得するステップと、
前記推移データセットに、前記追加データセットを含めるステップと
をさらに備える、請求項2から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記追加データを算出するステップは、さらに
前記所定のオフセット周期において、前記交流信号がオフセット値を通過する第1時刻から、次のオフセット値を通過する第2時刻の間に含まれるサンプリングデータのセットにおいて、第1のサンプリング時刻におけるサンプリングデータと、前記第1のサンプリング時刻の次の第2のサンプリング時刻におけるサンプリングデータとを両端とする線分を直線近似する近似式を求めるステップと、
前記近似式から、前記第1のサンプリング時刻あるいは前記第2のサンプリング時刻から、所定の第2間隔ごとの前記追加データを算出するステップと
を備える、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
オフセット値となるタイミングに同期した、電力量計で測定された交流信号のデータセットを求める電力量計であって、少なくとも1つのプロセッサを含み、前記少なくとも1つのプロセッサによって実行されたとき、前記電力量計に
前記電力量計で測定された交流信号を、前記電力量計のサンプリング間隔でサンプリングして得られるサンプリングデータのセットを取得するステップと、
推移データを算出するステップであって、前記推移データは前記サンプリングデータの各サンプリング時刻からそれぞれ所定の時間だけシフトされる、推移データを算出するステップと、
前記推移データを含む推移データセットを取得するステップと
を実行させ、前記所定の時間は、前記交流信号がオフセット値となるタイミングに基づく、
電力量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、方法および電力量計に関する。より詳細には、電力量計で測定した信号が、オフセット値となるタイミングを求め、このタイミングに同期した、交流信号のデータセットを求めるための方法および電力量計に関する。
【背景技術】
【0002】
一般家庭や、ビル、工場などの電力需要家が使用する電力量を計測して表示する電力量計が知られている。電子式電力量計は、機器に内蔵された電子回路が入力電流、入力電圧を計測して電力使用量を算出して、表示板に出力する。
【0003】
また電子式電力量計に通信機能を持たせたスマートメータの導入が進められている。スマートメータは電力使用量を計測し、計測データを所定間隔ごとに遠隔地に送信することができる。送信された計測データを管理することにより、電力会社は月ごとの電力使用量の検針が不要になる。このため、電力需要家の建物内に立ち入らなくとも電力の使用状態を計測できる。このような方式は建物内に立ち入らないという意味で非侵入型(Non-Intrusive)と呼ばれている。
【0004】
電子式電力量計では、入力された電力量計測を行うため、入力された電流、および電圧をデジタル信号に変換するためサンプリングしている。しかし、商用電源周波数の変動の影響等により、入力された電流、および電圧がオフセット値となるタイミングと、電力量計によるサンプリングのタイミングとにずれが生じることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の目的は、電力量計から得られた信号に基づいて、入力された電圧あるいは電流がオフセット値となるタイミングに同期したデータのセットを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための方法の特徴構成は、オフセット値となるタイミングに同期した、電力量計で測定された交流信号のデータセットを求めるための方法であって、前記電力量計で測定された交流信号を、前記電力量計のサンプリング間隔でサンプリングして得られるサンプリングデータのセットを取得するステップと、推移データを算出するステップであって、前記推移データは前記サンプリングデータの各サンプリング時刻からそれぞれ所定の時間だけシフトされる、推移データを算出するステップと、前記推移データを含む推移データセットを取得するステップを備え、前記所定の時間は、前記交流信号がオフセット値となるタイミングに基づく点にある。
【0007】
また、上記目的を達成するための電力量計の特徴構成は、オフセット値となるタイミングに同期した、電力量計で測定された交流信号のデータセットを求める電力量計であって、少なくとも1つのプロセッサを含み、前記少なくとも1つのプロセッサによって実行されたとき、前記電力量計に前記電力量計で測定された交流信号を、前記電力量計のサンプリング間隔でサンプリングして得られるサンプリングデータのセットを取得するステップと、推移データを算出するステップであって、前記推移データは前記サンプリングデータの各サンプリング時刻からそれぞれ所定の時間だけシフトされる、推移データを算出するステップと、前記推移データを含む推移データセットを取得するステップとを実行させ、前記所定の時間は、前記交流信号がオフセット値となるタイミングに基づく点にある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一実施形態による電力量計の概略構成図を示す。
【
図2】本開示の一実施形態による電力量計が計測した交流信号の複数時点における時間変化を表す図である。
【
図3】
図2に示す電力量計で計測した電圧の時間変化の一部を拡大した図である。
【
図4】
図2に示す電力量計で計測した電圧の時間変化の一部を拡大した図である。
【
図5】本開示の一実施形態による電力量計の制御部において実行される処理の例を示す。
【
図6A】本開示の一実施形態による、第1間隔ごとに得られる推移データのセットの例を示す。
【
図6B】本開示の一実施形態による、第1間隔ごとに得られる推移データのセットと、第2間隔ごとに得られる追加データのセットを例示する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本発明の実施形態の説明]
最初に、本発明の実施形態の内容を列記して説明する。本発明の一実施形態は、以下のような構成を備える。
【0010】
〔構成1〕
上記目的を達成するための方法の特徴構成は、
オフセット値となるタイミングに同期した、電力量計で測定された交流信号のデータセットを求めるための方法であって、前記電力量計で測定された交流信号を、前記電力量計のサンプリング間隔(Tsample)でサンプリングして得られるサンプリングデータ(電圧値、電流値)のセットを取得するステップと、推移データ(Vsft、Isft)を算出するステップであって、前記推移データは前記サンプリングデータの各サンプリング時刻(t0~tn)からそれぞれ所定の時間だけシフトされる、推移データを算出するステップと、前記推移データを含む推移データセットを取得するステップとを備え、前記所定の時間は、前記交流信号がオフセット値となるタイミングに基づく点にある。
【0011】
上記の特徴構成によれば、電力量計から得られた信号に基づいて、入力された電圧あるいは電流がオフセット値となるタイミングに同期したデータのセットを得ることができる。
【0012】
〔構成2〕
本発明に係る方法の別の特徴構成は、
前記推移データを算出するステップは、さらに、選択された1周期を中心とする交流信号が、前記オフセット値を通過する第1時刻から、次の前記オフセット値を通過する第2時刻の間に含まれるサンプリングデータのセットと、前記第1時刻(T1)の直前のサンプリングデータと、前記第2時刻(T2)の直後のサンプリングデータと、を前記サンプリングデータのセットから抽出するステップを含む点にある。
【0013】
〔構成3〕
本発明に係る方法の別の特徴構成は、
前記推移データを算出するステップは、さらに抽出したサンプリングデータのセットのうち、前記第1時刻を挟んで増加傾向にある隣り合う2つのサンプリングデータを結ぶ第1の近似直線(L1)を求めるステップと、抽出したサンプリングデータのセットのうち、前記第2時刻を挟んで増加傾向にある隣り合う2つのサンプリングデータを結ぶ第2の近似直線(L2)を求めるステップと、前記第1時刻と、前記第1時刻の直後のサンプリング時刻(t1)との差である第1の時間差(Δts)を算出するステップと、前記第2時刻の直前のサンプリング時刻(tN)と、前記第2時刻(T2)との差である第2の時間差(Δte)を算出するステップと、前記第1の時間差(Δts)と、前記第2の時間差(Δte)と、前記サンプリング間隔(Tsample)とから、前記第1時刻から前記第2時刻までのオフセット周期を算出するステップを備える点にある。
【0014】
〔構成4〕
本発明に係る方法の別の特徴構成は、
前記推移データを算出するステップは、さらに前記第1時刻から前記第2時刻の間に含まれるサンプリングデータのセットにおいて、第1のサンプリング時刻(tn)におけるサンプリングデータ(Vn)と、前記第1のサンプリング時刻の次の第2のサンプリング時刻(tn+1)におけるサンプリングデータ(Vn+1)とを両端とする線分を直線近似する近似式を求めるステップと、前記近似式から、前記第1のサンプリング時刻あるいは前記第2のサンプリング時刻から前記所定の時間シフトしたときの、前記交流信号の前記推移データを算出するステップを備える点にある。
【0015】
〔構成5〕
本発明に係る方法の別の特徴構成は、
前記推移データセットは、前記第1時刻から前記第2時刻までのオフセット周期に基づく第1間隔の推移データを含んでおり、さらに所定のオフセット周期において、前記推移データセットから、前記第1間隔(Tint1)より短い第2間隔(Tint2)の追加データを算出するステップと、前記追加データを含む追加データセットを取得するステップと前記推移データセットに、前記追加データセットを含めるステップをさらに備える、点にある。
【0016】
上記の特徴構成によれば、電力量計から得られた信号の値から、電力量計のサンプリング周波数を変えずに、電力量計のサンプリング周波数よりも高い周波数の信号を得て、信号のデータ数を増加することができる。
【0017】
〔構成6〕
本発明に係る方法の別の特徴構成は、
前記追加データを算出するステップは、さらに前記所定のオフセット周期において、前記交流信号がオフセット値を通過する第1時刻から、次のオフセット値を通過する第2時刻の間に含まれるサンプリングデータのセットにおいて、第1のサンプリング時刻におけるサンプリングデータと、前記第1のサンプリング時刻の次の第2のサンプリング時刻におけるサンプリングデータとを両端とする線分を直線近似する近似式を求めるステップと、前記近似式から、前記第1のサンプリング時刻あるいは前記第2のサンプリング時刻から、所定の第2間隔(Tint2)ごとの前記追加データを算出するステップを備える点にある。
【0018】
〔構成7〕
上記目的を達成するための電力量計の特徴構成は、
オフセット値となるタイミングに同期した、電力量計で測定された交流信号のデータセットを求める電力量計であって、少なくとも1つのプロセッサを含み、前記少なくとも1つのプロセッサによって実行されたとき、前記電力量計に前記電力量計で測定された交流信号を、前記電力量計のサンプリング間隔でサンプリングして得られるサンプリングデータのセットを取得するステップと、推移データを算出するステップであって、前記推移データは前記サンプリングデータの各サンプリング時刻からそれぞれ所定の時間だけシフトされる、推移データを算出するステップと、前記推移データを含む推移データセットを取得するステップとを実行させ、前記所定の時間は、前記交流信号がオフセット値となるタイミングに基づく、点にある。
【0019】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が本開示に含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を繰り返さない。
【0020】
<電力量計10の構成>
図1は、本開示の一実施形態による電力量計10の概略構成図を示す。電力量計10は、少なくとも、電力量計10の動作を制御する制御部12と、負荷に接続される端子部14とを備える。負荷は、電力量計10を通過した電力を使用する監視対象機器30とすることができる。電力量計10は電力量計10を通過し、監視対象機器30へ供給される電力の量を計測し、使用量情報を取得する。電力量計10は、単相用であっても三相用であってもよい。
【0021】
使用量情報は、一定時間のうち、複数時点での監視対象機器30に入力された電圧の瞬時値を含んでもよい。また、使用量情報は、一定時間のうち、複数時点での監視対象機器30に流れた電流の瞬時値を含んでもよい。
【0022】
制御部12は、電力量計10の動作を制御するものであり、少なくともプロセッサ(不図示)と、メモリ(不図示)と、ストレージ(不図示)とから構成される。制御部12が備えるこれらの構成は、バスによって互いに電気的に接続される。プロセッサ、メモリ、ストレージ等の協働は、制御部12として機能する。例えば、制御部12は、電力量計10が計測した電流と、電圧のデジタルサンプリング処理を行い、複数時点での電流と、電圧のサンプリングデータのセットを取得する。また、制御部12は、サンプリングデータのセットから、オフセット値を基準とするタイミングで得られる、推移データのセットを取得する。推移データの詳細については後述する。
【0023】
プロセッサは、読み出したプログラムをメモリに展開し実行する。一例としてプロセッサは、電力量計10が取得する信号に基づいて、メモリに展開したプログラムに含まれる一連の命令を実行する。
【0024】
メモリは主記憶装置であり、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)等の記憶装置で構成される。一例として、メモリは、プロセッサが後述するストレージから読み出したプログラムおよび各種データを一時的に記憶することにより、プロセッサに作業領域を提供する。
【0025】
ストレージは補助記憶装置である。ストレージは、プログラムおよびデータを永続的に保持する。ストレージは、例えば、ハードディスク装置、フラッシュメモリ等の不揮発性記憶装置として実現される。
【0026】
電力量計10は、スマートメータであってもよい。この場合、
図1に示すように、電力量計10はさらに、電力量計10と通信可能に接続された通信制御部16を備えてもよい。通信制御部16は、周期的に電力会社に情報(使用状況データ等)を送信する。通信制御部16は電力量計10と別体で構成されていてもよい。
【0027】
監視対象機器30は、1または複数の電気機器や電子機器で構成され、例えば、エアコン、テレビ、パーソナルコンピュータ(PC)、冷蔵庫、電子レンジ、あるいはこれらの組み合わせである。監視対象機器30は、IoT機器であってもよい。
【0028】
図2は、本開示の一実施形態における電力量計10が計測した使用量情報である交流信号の複数時点における時間変化を表す図である。以下の例では、交流信号が電圧である場合を例に説明するが、電流についても同様である。この図において縦軸は電圧、横軸は時間を表し、個々の点が各時点で計測した電圧値(サンプリングデータ)であり、略1周期分の電圧値のセット(サンプリングデータのセット)が示されている。
図2の例において、サンプリングデータのセットの時間変化は略正弦波状のカーブを描いているが、サンプリングデータのセットは周期性を有していればよく、必ずしも正弦波状を描くとは限らない。
【0029】
一例では、電力量計10は、電圧の計測間隔を1周期/秒とし、1秒ごとに計測する。電力量計10のサンプリング周波数8kHzとすると、電力量計10によるサンプリング間隔は125μSとなる。商用電源周波数が50Hzの場合、
図2の例では、商用電源周波数の影響で、計測された電圧の1周期は約0.02秒となり、1周期に約160個のサンプリングデータが得られている。
【0030】
商用電源周波数の変動等の影響で、電力量計10が計測した電圧の波形(サンプリングデータのセットの時間変化)がオフセット値と交わる時刻と、電力量計10によるサンプリングの時刻とにずれが生じることがある。したがって、必ずしも、商用電源周期と、計測された電圧の周期は一致するわけではない。例えば、商用電源周波数が50Hzの場合、商用電源の1周期は0.02秒となるが、計測された電圧の1周期は必ずしも0.02秒とはならない。本開示によると、計測されたサンプリングデータのセットの時間変化がオフセット値と交わるオフセット周期を算出することで、オフセット値を基準とする、所望の数のデータを取得するための新たな間隔(第1間隔)を算出する。さらに、制御部12は、オフセット周期を基準とする新たな間隔(第1間隔)に基づいて、電圧値のデータのセットを算出する。なお、本明細書では商用電源周波数が50Hz系統を例として説明するが、60Hz系統についても同じことが言える。
【0031】
図3は、
図2に示す電力量計10で計測した電圧の時間変化の一部300を拡大した図である。
図3は、計測された電圧の時間変化がオフセット値と交わる第1時刻T1の直前のサンプリング時刻t
0から、これに続くサンプリング時刻t
1からt
4までの電圧のサンプリングデータを示す。V
0は、サンプリング時刻t
0における電圧値、V
1は、サンプリング時刻t1における電圧値である。
図3において、隣り合う2つの電圧値は、これらを両端とする一次直線(例えば線分L1)で近似して示される。
図3に示すように、計測された電圧の時間変化(一次直線)がオフセット値となる第1時刻T1は、必ずしもサンプリング時刻t
0、t
1と一致するわけではない。
【0032】
図4は、
図2に示す電力量計10で計測した電圧の時間変化の一部400を拡大した図である。
図4は、サンプリング時刻t
N-3から、計測された電圧の時間変化がオフセット値と交わる第2時刻T2の直後のサンプリング時刻t
N+1までのサンプリングデータを示す。V
Nは、サンプリング時刻t
Nにおける電圧値、V
N+1は、サンプリング時刻t
N+1における電圧値である。
図4において、隣り合う2つの電圧値は、これらを両端とする一次直線(例えば線分L2)で近似して示される。
図4に示すように、計測された電圧の時間変化(一次直線)がオフセット値となる第2時刻T2は、必ずしもサンプリング時刻t
N、t
N+1と一致するわけではない。
【0033】
図5は、本開示の一実施形態に従う電力量計10の制御部12において実行される処理の例を示す。制御部12はプログラムの記述に応じて、
図5に示す各種処理を実行する。なお、
図5では電圧値の処理例を説明するが、電流値についても同様に
図5に示す処理を適用することができる。
【0034】
ステップS502からステップS508は、計測した電圧がオフセット値となるオフセット周期を算出し、算出したオフセット周期に基づいて、オフセット周期を基準とするタイミングに同期した電圧の推移データのセットを取得する処理に関する。
【0035】
ステップ510およびステップS512は、シフトされた電圧の推移データからさらに第1間隔の数分の1だけ時間推移させた追加データのセットを算出する処理に関する。
【0036】
図5のステップS502からステップS508について説明する。
【0037】
まず、ステップS502において、制御部12は、電力量計10で計測した電圧を、電力量計10のサンプリング間隔でサンプリングしたときの、サンプリングデータのセットを取得する。上述したように、計測した電圧がオフセット値となる時刻(第1時刻T1および第2時刻T2)と、サンプリング時刻とは必ずしも一致するわけではない。そこで、ステップS504からステップS508の処理に従って、制御部12は、ステップS502で取得したサンプリングデータから、オフセット値を基準とするタイミングで得られる推移データを求める。
【0038】
ステップS504において、制御部12は、ステップS502において取得したサンプリングデータのセットから、任意の1周期を選択し、この1周期を中心に据えた、略1周期のサンプリングデータのセットを抽出する。抽出する略1周期のサンプリングデータのセットは、(i)選択された1周期を中心とする電圧が、第1のオフセット値を通過する第1時刻T1から、次の第2のオフセット値を通過する第2時刻T2の間に含まれるサンプリングデータのセットと、(ii)第1時刻T1直前のサンプリングデータと、(iii)第2時刻T2直後のサンプリングデータを含む。第1時刻T1および第2時刻T2の詳細は、以下に
図3および
図4を用いて詳述する。
【0039】
図3に示すように、第1時刻T1は、選択された1周期を中心として得られるサンプリングデータのセットうち、第1のオフセット値を挟んで増加傾向にある2つの隣り合うサンプリングデータを結ぶ第1の近似直線L1が、第1のオフセット値と交わる初めの交点CP1に対応する時刻である。
【0040】
また、
図4に示すように、第2時刻T2は、選択された1周期を中心として得られるサンプリングデータのセットうち、第2のオフセット値を挟んで増加傾向にある2つの隣り合うサンプリングデータを結ぶ第2の近似直線L2が、第2のオフセット値と交わる、交点CP1の次の交点CP2に対応する時刻である。なお、以下において、第1のオフセット値と第2のオフセット値とを、オフセット値と総称することがある。
【0041】
図5に戻り、ステップS506において、制御部12は、電力量計10で計測した電圧がオフセット値と交わる時刻(第1時刻T1および第2時刻T2)を基準としたオフセット周期(
図2のT
cycle)を算出する。オフセット値は、電力量計10の設定、状況、機種等によって異なる。オフセット値がゼロボルトの場合、オフセット周期はゼロクロス周期となる。
【0042】
オフセット周期は、計測した電圧が、第1のオフセット値を通過する第1時刻T1から、次の第2のオフセット値を通過する第2時刻T2までの期間である。オフセット周期は、商用電源周期に一致していなくともよい。オフセット周期は、ステップS504で抽出したサンプリングデータのセットに基づいて算出される。より詳細には、オフセット周期は、以下に示す処理に従って算出される。
【0043】
まず、制御部12は、ステップS504にて抽出したサンプリングデータのセットから、第1時刻T1から、第1時刻T1直後のサンプリング時刻t
1までの差である第1の時間差Δtsを算出する(
図3)。
【0044】
具体的には、
図3に示す直線近似された電圧の波形に基づいて、第1の時間差Δtsは以下の式(1)により算出される。
【0045】
【0046】
ここで、Tsampleは電力量計10によるサンプリング間隔、Offsetは電圧のオフセット値である。V0は第1時刻T1直前のサンプリング時刻t0に得られた電圧値である。V1は第1時刻T1直後のサンプリング時刻t1に得られた電圧値、すなわちV0に続くサンプリングデータである。
【0047】
同様にして、第2時刻T2の直前のサンプリング時刻t
Nから第2時刻T2までの差である第2の時間差Δteを算出する(
図4)。
図4に示す直線近似された電圧の波形に基づいて、第2の時間差Δteは以下の式(2)により算出される。
【0048】
【0049】
ここで、VNは第2時刻T2の直前のサンプリング時刻tNに得られた電圧値、VN+1は第2時刻T2の直後のサンプリング時刻tN+1に得られた電圧値、すなわちVNに続くサンプリングされた電圧値である。
【0050】
次に、第1の時間差Δtsと、第2の時間差Δteと、選択した1周期を中心に据えた略1周期のサンプリングデータの数Nとに基づいてオフセット周期T
cycleを求める。オフセット周期T
cycleは以下の式(3)から算出できる。
【数3】
【0051】
ここで、Nは、第1時刻T1の直後のサンプリング時刻t1から第2時刻T2の直前のサンプリング時刻tNまでのサンプリングデータの数である。すなわち、Nは、サンプリング時刻t0と、サンプリング時刻tN+1におけるサンプリングデータを除く、オフセット周期Tcycleに対応するサンプリングデータの数である。
【0052】
図5に戻り、制御部12は、ステップS504にて抽出した略一周期の複数時点におけるサンプリングデータのセットから、推移データのセットを取得する(ステップS508)。推移データは、抽出した略一周期のサンプリングデータのサンプリングの開始時刻を、第1時刻T1へシフトしたときに、求められる電圧値のセットである。
【0053】
推移データのセットの算出にあたり、まず、第1時刻T1直前のサンプリング時刻t0から第2時刻T2直後のサンプリング時刻tN+1の間に亘るサンプリングデータのセットにおいて、あるサンプリング時刻tnにおけるサンプリングデータVnと、サンプリング時刻tnの次のサンプリング時刻tn+1におけるサンプリングデータVn+1とを両端とする線分を直線近似する近似式を求める。nは0以上N以下の整数である。
【0054】
つぎに、求めた近似式から、電圧がオフセット値となるタイミングを基準として、推移データを算出する。具体的には、制御部12は、近似式に基づいて、あるサンプリング時刻から、オフセット周期に基づく所定の時間だけシフトさせた推移データVsftを算出する。シフトする所定の時間は、推移データVsftを算出する第1間隔Tint1ごとの時刻から、サンプリング時刻を引いて求められる。第1間隔Tint1は、推移データVsftを算出する間隔であり、オフセット周期Tcycleに基づく。サンプリング時刻t0からサンプリング時刻tN+1まで、第1間隔Tint1ごとに推移データを算出し、推移データのセットを取得する。
【0055】
具体的には、推移データのセットは以下の式(4)から算出することができる。
【数4】
【0056】
ここで、tnは選択した1周期のうちn番目のサンプリング時刻である。Vnは、サンプリング時刻tnで計測された電圧値、Vn+1はサンプリング時刻tnの次のサンプリング時刻tn+1に計測された電圧値である。
【0057】
また、Vsftは、推移データである。推移データは、サンプリング時刻から所定のシフト時間(Tsft-tn)だけ、サンプリングされた電圧値をシフトさせたときに得られるデータである。Vsft (m)は、第1間隔Tint1ごとに求められる推移データのうちm番目の推移データである(mは1以上M以下の整数)。最初の推移データVsft(1)は、第1時刻T1における電圧値であり、オフセット値となる。mを1からMまで1ずつ増分することによって、オフセット周期Tcycleに亘る第1間隔Tint1ごとの推移データを含む推移データのセットを算出できる。
【0058】
Mは、算出したい推移データの数であり任意の整数である。Mは電源周波数に対するサンプリング周波数の値で定めることができ、求めたい推移データ間に、少なくとも1つ以上のデータがサンプリングされていることが理想である。このため、「電源周波数のサンプリング周波数×オフセット周期Tcycle」を上限とすることができる。Mは、例えば電源周波数50Hz、サンプリング周波数8kHzの場合、8kHz×20ms/2の80である。
【0059】
【0060】
Tcycle/Mは、オフセット周期TcycleをMで除算した値であり、推移データVsftを算出する間隔(第1間隔Tint1)である。第1間隔Tint1は、オフセット周期Tcycleに基づく。mは1以上M以下の整数である。
【0061】
T
sftは、推移データV
sftを算出する時刻である。すなわち、T
sftは、隣り合う2つのサンプリングデータを直線近似したときの電圧波形がオフセット値と交わる交点CP1に対応する第1時刻T1を起点として、第1間隔T
int1ずつ離れた時刻である。T
sft(m)はm番目の推移データの時刻である。例えば、最初の推移データに対応する時刻T
sft(1)は、抽出した略1周期のサンプリングデータのセットのうち、電圧値V
0とV
1を両端とする線分L1(
図3)と、オフセット値とが交わる第1時刻T1である。
【0062】
以上、式(4)および式(5)により、電圧がオフセット値を通過する第1時刻T1を起点としたオフセット周期の、第1間隔Tint1ごとに推移データを算出し、推移データのセットを算出することができる。
【0063】
あるいは、他の例において、電圧の推移データのセットを以下の式(6)から算出してもよい。
【数6】
【0064】
なお、推移データは1以上のオフセット周期Tcycleに亘って算出することができる。j個のオフセット周期に亘って算出する場合、1のオフセット周期にM個の推移データがあるので、推移データのセットに含まれる推移データの数は、M×j個となる。このとき、mは1以上M×j以下の整数である。
【0065】
以上、電力量計10による計測された電圧を例に説明したが、電圧と同様に電流についても、推移データ(のセット)を、以下の式(7)、または式(8)から算出することができる。
【数7】
【0066】
【0067】
本開示によると、推移データのセットは、ステップS504で取得したサンプリングデータから計算により求めることができる。したがって電力量計10によるサンプリング間隔の変更処理や、追加のサンプリング処理を行わなくとも、電力量計10により計測された電圧のサンプリングデータから、商用電源のオフセット周期と同期した推移データのセットを得ることができる。
【0068】
また、本開示によると、商用電源周波数による変動の影響を考慮せずに、オフセット周期に基づく推移データのセットを得ることができる。したがって、商用電源周波数が異なる地域であっても、電力量計10のサンプリング周波数に係るハードウェア構造を変更せずに、オフセット周期に同期した任意の数の推移データを得ることができる。すなわち、周波数フリーの電力量計10を、ハードウェア構造の変更なしに構成することができる。
【0069】
図5に戻り、ステップS510およびステップS512に基づいて、追加データのセットを算出する処理を説明する。追加データとは、オフセット周期を基準とするタイミングで得られるデータであって、第1間隔T
int1(T
cycle/M)よりも短い第2間隔T
int2ごとの電圧値のデータのセットである。追加データは、第1間隔T
int1にある電圧値のデータを第2間隔T
int2のデータで補間することができる。
【0070】
ステップS510において、制御部12は、所定の周期におけるサンプリングデータに基づいて、追加データからなるデータセットを算出する。追加データからなるデータセットは、オフセット値を基準として、第1間隔Tint1の数分の1の第2間隔Tint2ごとに得られる電圧値のデータのセットである。第2間隔Tint2は、式(5)に示す第1間隔Tint1(Tcycle/M)を、整数iで除算した値である。iは、1以上の整数であり、例えば3である。
【0071】
なお、
図5に示す処理は例示的なものにすぎず、その順序が変更されてもよく、処理が追加、あるいは削除されてもよい。例えば、追加データからなるデータセットは、推移データを算出したのちに、推移データのセットから算出してもよい。すなわち、
図5に示すように、ステップS508の推移データ算出処理を行った後に、ステップS510の追加データ算出処理を行ってもよい。あるいは、追加データからなるデータセットは、式(4)と、以下の式(9)とに基づき、サンプリングデータのセットから直接算出してもよい。すなわち、ステップS506に続いて、ステップS508の処理と、ステップ510の処理を同時に行ってもよい。
【0072】
追加データは、以下の式(9)から、第2間隔Tint2ごとの時刻Tsftを求め、これを上記式(4)に導入することで求められる。
【0073】
【0074】
式(9)において、mを1からiMまで1ずつ増分することによって、オフセット周期Tcycleに亘る第2間隔Tint2ごとに離れた追加データのセットを算出できる。例えばiが3の場合、第1間隔Tint1の3分の1の間隔ごとに追加データを算出でき、これによりステップS508にて算出した推移データのセットの3倍のデータのセットを取得することができる。すなわち、推移データのセットを倍加することができる。本開示によると、倍加とは整数倍に増加することをいう。
【0075】
なお、第2間隔Tint2の整数倍が第1間隔Tint1となる場合、追加データは、推移データVsftと重複してしまうため、第1間隔Tint1ごとに得られるデータは追加データから除くことができる。例えば、ステップS508において、第1間隔Tint1(=Tcycle/M)ごとに推移データVsftが求められている場合は、ステップS510にて第1間隔Tint1ごとのデータを追加データとして算出しなくともよい。
【0076】
図6Aは、本開示の一実施形態による、第1間隔T
int1ごとに得られる推移データのセットを例示する。
図6Bは推移データのセットを2倍にした第2間隔T
int2ごとに得られる追加データセット含めた、推移データのセットの例を示す。
図6Bに示す追加データのセットは、第1間隔T
int1の2分1の時刻で、第1間隔T
int1ごとに存在する。本例において推移データからなるデータセットに、追加データからなるデータセットを含めることで、推移データセットを約2倍にすることができる。
【0077】
また、一例では、ステップS510の追加データを算出するために使用された所定の周期のサンプリングデータは、ステップS508にて算出した推移データのセットに対応する電圧の第1周期のサンプリングデータである。すなわち、推移データのセットと、追加データのセットとは、同じ周期のサンプリングデータに基づいて算出される。
【0078】
他の例では、ステップS510の追加データを算出するために利用する所定の周期のサンプリングデータは、ステップS508にて算出した推移データのセットに対応する電圧の第1周期とは異なる第2周期である。制御部12は、ある所定の第1周期のサンプリングデータに基づいて推移データのセットを算出し、第1周期とは異なる周期のサンプリングデータに基づいて追加データのセットを算出する。なお、この場合、推移データのセットに対応する電圧の1周期と、第2の周期との電圧の波形(サンプリングデータによる波形)の形状は、略同一であることが好ましい。
【0079】
本開示によると、サンプリング周波数を変更せずに、商用電源周波数と同期した電圧値を表す推移データのセットを増加することができる。その結果、第1間隔Tint1で得られる推移データの複数倍(例えば3倍)のデータを得ることができる。これにより電力量計10で計測した交流信号のデジタルデータから、その交流信号の時間変化をより詳細に表現することができ、追加データのセットを利用したFFT解析等の詳細分析が可能となる。
【0080】
さらに、追加データのセットを含む推移データセットに基づく交流信号の時間変化(信号波形)を解析することで、詳細なFFT解析が可能となることで、どのような監視対象機器30が電力量計10に接続されているかを解析することができる。
【0081】
Tcycle…オフセット周期
T1…第1時刻
T2…第2時刻
tn…サンプリング時刻
10…電力量計
12…制御部
14…端子部
16…通信制御部
30…監視対象機器