(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181279
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】立体造形用樹脂組成物、立体造形物の製造方法、及び立体造形物
(51)【国際特許分類】
B29C 64/124 20170101AFI20221201BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20221201BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20221201BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20221201BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
B29C64/124
B33Y70/00
B33Y10/00
B33Y80/00
C08F290/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088143
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】和久 香緒里
(72)【発明者】
【氏名】初田 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】長島 稔
(72)【発明者】
【氏名】楊 賀
【テーマコード(参考)】
4F213
4J127
【Fターム(参考)】
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4J127BG27Z
4J127CA01
4J127EA13
4J127FA06
(57)【要約】
【課題】低臭気であり、優れた機械的特性を有しかつ所望の立体形状の造形物を安定に造形できる立体造形用樹脂組成物等の提供。
【解決手段】分子量が700以上1,300以下である多官能ウレタン(メタ)アクリレートを含有する立体造形用樹脂組成物である。前記多官能ウレタン(メタ)アクリレートがポリカプロラクトン骨格を有する態様、前記ポリカプロラクトン骨格の分子量が500以上1,000以下である態様などが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量が700以上1,300以下である多官能ウレタン(メタ)アクリレートを含有することを特徴とする立体造形用樹脂組成物。
【請求項2】
前記多官能ウレタン(メタ)アクリレートがポリカプロラクトン骨格を有する、請求項1に記載の立体造形用樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリカプロラクトン骨格の分子量が500以上1,000以下である、請求項2に記載の立体造形用樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリカプロラクトン骨格を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレートが、下記一般式(1)及び一般式(2)のいずれかである請求項2から3のいずれかに記載の立体造形用樹脂組成物。
【化1】
ただし、前記一般式(1)中、R
1は直鎖アルキル基又は直鎖アルキルエーテル基を表し、n1+n2は2以上9以下の整数であり、n3は1以上の整数である。
【化2】
ただし、前記一般式(2)中、R
2は分岐を有するアルキル基を表し、m1+m2+m3は3以上9以下の整数であり、m4は1以上の整数である。
【請求項5】
前記多官能ウレタン(メタ)アクリレートの含有量が、立体造形用樹脂組成物全量に対して90質量%以上である、請求項1から4のいずれかに記載の立体造形用樹脂組成物。
【請求項6】
光重合開始剤を含有する、請求項1から5のいずれかに記載の立体造形用樹脂組成物。
【請求項7】
25℃での粘度が0.1Pa・s以上10Pa・s以下である、請求項1から6のいずれかに記載の立体造形用樹脂組成物。
【請求項8】
光造形法による立体造形物の製造方法であって、
請求項1から7のいずれかに記載の立体造形用樹脂組成物が収容された造形槽内に造形ステージを浸漬させ、前記造形ステージの造形面で前記立体造形用樹脂組成物に活性エネルギー線を照射して硬化させる工程を含むことを特徴とする立体造形物の製造方法。
【請求項9】
造形ステージの造形面に対して重力方向に前記立体造形用樹脂組成物の硬化層を積層する、請求項8に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項10】
請求項1から7のいずれかの立体造形用樹脂組成物を含む硬化物を積層させてなる立体造形物。
【請求項11】
疑似餌である、請求項10に記載の立体造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体造形用樹脂組成物、立体造形物の製造方法、及び立体造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、樹脂を用いて立体造形物を製造する三次元(3D)プリント技術が発達してきている。このような3Dプリント技術を用いた3Dプリンターは、誰でも手軽に立体造形物を造形できるので、3Dプリンター本体の低価格化が進むにつれて一般家庭でも使用されるようになっている。
【0003】
前記3Dプリント技術の中でも、光造形法は液状の光硬化性樹脂組成物を用い、造形物の仕上がり精度が高いという特徴がある。
このような光硬化性樹脂組成物としては、例えば、数平均分子量300~900のポリカプロラクトンポリオール、脂肪族又は脂環式ジイソシアネート及び水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させた重量平均分子量3,000~30,000のウレタン(メタ)アクリレートを含有する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、分子量800~8,000のポリカプロラクトンポリオールを構造単位として含有するウレタン(メタ)アクリレート及び硬化後のガラス転移温度(Tg)が90℃以上である単官能(メタ)アクリレートを含有するフィルムコート用組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-88681号公報
【特許文献2】特開2000-219821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1及び2で用いられているウレタン(メタ)アクリレートは、本発明で用いられる多官能ウレタン(メタ)アクリレートとは構造が異なり、分子量が大きく高粘度であるため、立体造形の用途に適したものではない。更に、上記特許文献1及び2の組成物は臭気及び皮膚刺激性が強い低分子量の単官能モノマーを含んでいるため、一般家庭での使用に適したものではない。
【0006】
また、吊り下げ方式の光造形法では、
図1A及び
図1Bに示すように、リニアガイド13が矢印方向に上昇することにより造形ステージ11の造形面11aに対して重力方向に立体造形物12が造形されるので、立体造形物12が薄肉部で壊れ易いという問題がある。更に、立体造形物を短時間で硬化させるため、硬化収縮により立体造形物内に応力が残りやすく、造形中に立体造形物が壊れてしまうことがある。なお、
図1A及び
図1B中14はアーム、15はUV光源、16は造形槽、17は立体造形用樹脂組成物(液状)である。
【0007】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、低臭気であり、優れた機械的特性を有しかつ所望の立体形状の造形物を安定に造形できる立体造形用樹脂組成物、立体造形物の製造方法、及び立体造形物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 分子量が700以上1,300以下である多官能ウレタン(メタ)アクリレートを含有することを特徴とする立体造形用樹脂組成物である。
<2> 前記多官能ウレタン(メタ)アクリレートがポリカプロラクトン骨格を有する、前記<1>に記載の立体造形用樹脂組成物である。
<3> 前記ポリカプロラクトン骨格の分子量が500以上1,000以下である、前記<2>に記載の立体造形用樹脂組成物である。
<4> 前記ポリカプロラクトン骨格を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレートが、下記一般式(1)及び一般式(2)のいずれかである、前記<2>から<3>のいずれかに記載の立体造形用樹脂組成物である。
【化1】
ただし、前記一般式(1)中、R
1は直鎖アルキル基又は直鎖アルキルエーテル基を表し、n1+n2は2以上9以下の整数であり、n3は1以上の整数である。
【化2】
ただし、前記一般式(2)中、R
2は分岐を有するアルキル基を表し、m1+m2+m3は3以上9以下の整数であり、m4は1以上の整数である。
<5> 前記多官能ウレタン(メタ)アクリレートの含有量が、立体造形用樹脂組成物全量に対して90質量%以上である、前記<1>から<4>のいずれかに記載の立体造形用樹脂組成物である。
<6> 光重合開始剤を含有する、前記<1>から<5>のいずれかに記載の立体造形用樹脂組成物である。
<7> 25℃での粘度が0.1Pa・s以上10Pa・s以下である、前記<1>から<6>のいずれかに記載の立体造形用樹脂組成物である。
<8> 光造形法による立体造形物の製造方法であって、
前記<1>から<7>のいずれかに記載の立体造形用樹脂組成物が収容された造形槽内に造形ステージを浸漬させ、前記造形ステージの造形面で前記立体造形用樹脂組成物に活性エネルギー線を照射して硬化させる工程を含むことを特徴とする立体造形物の製造方法である。
<9> 造形ステージの造形面に対して重力方向に前記立体造形用樹脂組成物の硬化層を積層する、前記<8>に記載の立体造形物の製造方法である。
<10> 前記<1>から<7>のいずれかの立体造形用樹脂組成物を含む硬化物を積層させてなる立体造形物である。
<11> 疑似餌である、前記<10>に記載の立体造形物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、低臭気であり、優れた機械的特性を有しかつ所望の立体形状の造形物を安定に造形できる立体造形用樹脂組成物、立体造形物の製造方法、及び立体造形物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】
図1Aは、吊り下げ方式の光造形法による立体造形物の製造方法の一例を示す概略図である。
【
図1B】
図1Bは、吊り下げ方式の光造形法による立体造形物の製造方法の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、実施例1~3及び比較例4で立体造形した立体造形物の一例を示す写真図である。
【
図3】
図3は、比較例1で立体造形した立体造形物の一例を示す写真図である。
【
図4】
図4は、比較例3で立体造形した立体造形物の一例を示す写真図である。
【
図5】
図5は、比較例1における立体造形物の製造状態の一例を示す概略図である。
【
図6】
図6は、比較例2における立体造形物の製造状態の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(立体造形用樹脂組成物)
本発明の立体造形用樹脂組成物は、分子量が700以上1,300以下である多官能ウレタン(メタ)アクリレートを含有し、光重合開始剤を含有することが好ましく、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
【0012】
本発明の立体造形用樹脂組成物は、分子量が700以上1,300以下である多官能ウレタン(メタ)アクリレートを含有することにより、立体造形に適した粘度を有し、熱又は光によって硬化させることができ、得られた立体造形物は機械的特性(弾性率及び強度)に優れている。また、分子量が700以上1,300以下である多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、臭気及び皮膚刺激性が強い低分子量の単官能モノマーを含まないので低臭気であり、分子量が大きく皮膚内に浸透しにくいことから皮膚刺激性が小さいと考えられる。
臭気の評価については、熱重量測定(TGA)における5%重量減温度が300℃以上であると、低揮発であることから、臭気の発生が抑制され、低臭気となる。
皮膚刺激性(P.I.I.)は、ウサギを刈毛して直接皮膚に貼り付けて評価することができる。一般的にアクリレート以外(メタクリレート又は分子量の大きいウレタン(メタ)アクリレート)は皮膚刺激性が低いことが知られている。
【0013】
<多官能ウレタン(メタ)アクリレート>
前記多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、ウレタン構造を有し、かつ2以上のアクリル基又はメタクリル基を有するウレタン(メタ)アクリレートであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0014】
多官能ウレタン(メタ)アクリレートの分子量は、700以上1,300以下であり、750以上1,000以下が好ましい。
前記多官能ウレタン(メタ)アクリレートの分子量が700以上1,300以下であると、立体造形に適した粘度の立体造形用樹脂組成物とすることができる。
前記分子量の算出方法としては、例えば、水酸基価OHA、分子が有する水酸基の数OHB、水酸化カリウムの分子量(56.1)から、下記数式を用いて算出する方法などが挙げられる。水酸基価はJIS K 0070:1992に準じて測定することができる。分子が有する水酸基の数は水酸化カリウム・エタノール溶液を滴定することにより測定することができる。
【0015】
【0016】
前記多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、脂肪族ポリエステル骨格、脂肪族ポリカーボネート骨格、又はポリカプロラクトン骨格などを主骨格として有することが好ましく、立体造形物に柔軟性を付与する点から、ポリカプロラクトン骨格を有することが特に好ましい。
前記ポリカプロラクトン骨格の分子量は500以上1,000以下であることが好ましい。前記ポリカプロラクトン骨格の分子量が500未満であると、ポリカプロラクトン骨格を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレートにおける分子内に含まれるカプロラクトン骨格の比率が小さくなり、立体造形物に十分な柔軟性を付与することができず、立体造形物が硬くなりすぎてしまうことがある。
前記ポリカプロラクトン骨格の分子量は、上記多官能ウレタン(メタ)アクリレートの分子量と同様にして測定することができる。
【0017】
前記ポリカプロラクトン骨格を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレートとしては、下記一般式(1)及び一般式(2)のいずれかであることが好ましい。
【0018】
【化3】
ただし、前記一般式(1)中、R
1は直鎖アルキル基又は直鎖アルキルエーテル基を表し、n1+n2は2以上9以下の整数であり、n3は1以上の整数である。
R
1は直鎖アルキル基又は直鎖アルキルエーテル基を表し、例えば、C
2H
2、C
2H
2OC
2H
2、C
2H
4、C
2H
4OC
2H
4、C(CH
3)
2(CH
2)
2などが挙げられる。
【0019】
【化4】
ただし、前記一般式(2)中、R
2は分岐を有するアルキル基を表し、m1+m2+m3は3以上9以下の整数であり、m4は1以上の整数である。
R
2は分岐を有するアルキル基を表し、例えば、CH
2CHCH
2、CH
3C(CH
2)
3、CH
3CH
2C(CH
2)
3などが挙げられる。
【0020】
前記ポリカプロラクトン骨格を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
前記ポリカプロラクトン骨格を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレートの合成方法としては、例えば、ポリカプロラクトンポリオール(例えば、ポリカプロラクトンジオール又はポリカプロラクトントリオール)に対してイソシアネート(メタ)アクリレート(例えば、2-イソシアネートエチルアクリレート)を、ポリカプロラクトンポリオールの水酸基価に対して0.9当量となるよう配合し、密栓して60℃にて撹拌し3日間反応させることにより合成することができる。
前記ポリカプロラクトンポリオールとしては、市販品を用いることができ、前記市販品としては、例えば、プラクセル205U、プラクセル305、プラクセル308(いずれも、ダイセル株式会社製)などが挙げられる。
前記イソシアネート(メタ)アクリレートとしては、例えば、カレンズAOI、カレンズMOI(いずれも、昭和電工株式会社製)などが挙げられる。
【0021】
本発明で用いるポリカプロラクトン骨格を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、従来技術のウレタン(メタ)アクリレートのように、ポリカプロラクトンポリオールとジイソシアネートと水酸基を有する(メタ)アクリレートとを用いず、イソシアネート(メタ)アクリレートによりポリカプロラクトンポリオールの末端にウレタン結合により(メタ)アクリル基を導入するので、ポリカプロラクトン骨格を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレートの分子量を700以上1,300以下に制御することができる。
【0022】
前記多官能ウレタン(メタ)アクリレートの含有量は、立体造形用樹脂組成物の全量に対して、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。
前記多官能ウレタン(メタ)アクリレートの含有量が90質量%以上であると、臭気及び皮膚刺激性が強い低分子量の単官能モノマーを実質的に含まないので、臭気及び皮膚刺激性が低く、立体造形に適した立体造形用樹脂組成物とすることができる。
【0023】
<光重合開始剤>
光重合開始剤としては、光、特に波長220nm乃至500nmの紫外線の照射によりラジカルを生成する化合物を好適に用いることができる。
前記光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアミノアセトフェノン、ベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、p,p’-ジクロロベンゾフェノン、p,p-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン-n-プロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン-n-ブチルエーテル、ベンジルメチルケタール、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパノン、1-(4-イソプロピルフェニル)2-ヒドロキシ-2-メチルプロパノン、メチルベンゾイルフォーメート、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシドなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、光硬化型造形装置の光源のLED化(波長405nm)に伴って、可視域に吸収を有する光重合開始剤が好ましく、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォフィンオキシドなどが挙げられる。
【0024】
前記光重合開始剤の含有量は、立体造形用樹脂組成物の全量に対して、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましい。また、前記光重合開始剤の含有量は10質量%以下が好ましい。
【0025】
<その他の成分>
その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、安定化剤、表面処理剤、色材、粘度調整剤、接着性付与剤、酸化防止剤、老化防止剤、架橋促進剤、紫外線吸収剤、可塑剤、防腐剤、分散剤、pH調整剤などが挙げられる。
【0026】
本発明の立体造形用樹脂組成物の粘度としては、25℃での粘度が0.1Pa・s以上10Pa・s以下が好ましく、0.1Pa・s以上9Pa・s以下がより好ましく、0.1Pa・s以上8Pa・s以下が更に好ましい。25℃での粘度が0.1Pa・s以上10Pa・s以下であると、光造形法の立体造形物の製造方法に好適に用いることができる。
前記粘度は、例えば、立体造形用樹脂組成物を、回転レオメータ(装置名:AR-G2、TAインスツルメント社製)を用い、25℃環境下、シェアレートが100(1/s)で測定することができる。
【0027】
本発明の立体造形用樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度(Tg)は、-60℃以上50℃以下が好ましく、-20℃以上30℃以下が好ましい。ガラス転移温度が-60℃以上50℃以下であると、硬化物の形状を維持するのに十分な硬度を得ることができる。
前記ガラス転移温度は、動的粘弾性測定装置(DMA:Dynamic Mechanical Analysis、製品名:RSA-3、TAインスツルメント社製)により測定することができる。具体的には、サンプルサイズ:幅5mm×長さ20mm、周波数:1MHzの測定条件で得られたtanδ(損失弾性率/貯蔵弾性率)の最大点における温度をガラス転移温度とする。
【0028】
本発明の立体造形用樹脂組成物を用いる立体造形物の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、光造形法による立体造形物の製造方法などが挙げられる。
【0029】
(立体造形物の製造方法)
本発明の立体造形物の製造方法は、光造形法による立体造形物の製造方法であって、
本発明の立体造形用樹脂組成物が収容された造形槽内に造形ステージを浸漬させ、前記造形ステージの造形面で前記立体造形用樹脂組成物に活性エネルギー線を照射して硬化させる工程を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
本発明においては、造形ステージの造形面に対して重力方向に前記立体造形用樹脂組成物の硬化層を積層する吊り下げ方式の光造形法が好ましい。
【0030】
本発明の立体造形物の製造方法は、具体的には、造形目的である立体造形物の形状データに基づいて、所望のパターンを有する硬化層が得られるように活性エネルギー線を立体造形用樹脂組成物の層に選択的に照射して硬化層を形成し、次いで前記硬化層に接して未硬化の立体造形用樹脂組成物の層を供給し、同様に活性エネルギー線を照射して前記の硬化層と連続した新たな硬化層を形成する積層操作を繰り返すことによって最終的に目的とする立体造形物を得る方法である。
【0031】
前記活性エネルギー線としては、例えば、紫外線、電子線、X線、放射線、高周波などを挙げることができる。中でも、300nm乃至400nmの波長を有する紫外線が経済的な観点から好ましく用いられる。その際の光源としては、紫外線レーザー、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、紫外線LED(発光ダイオード)、紫外線蛍光灯などを使用することができる。紫外線レーザーとしては、例えば半導体励起固体レーザー、Arレーザー、He-Cdレーザーなどである。
【0032】
(立体造形物)
本発明の立体造形物は、本発明の立体造形用樹脂組成物を含む硬化物を積層させてなる。
前記立体造形物の用途については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スポーツ用品、医療・介護用品、義肢、義歯、義骨、産業用機械・機器、精密機器、電気・電子機器、電気・電子部品、建材用品、疑似餌(ルアー)などの様々な用途に利用可能である。これらの中でも、以下に示す利点から、疑似餌が好ましい。
【0033】
<疑似餌>
疑似餌(ルアー)は、小魚の胴体の部分を模した構造を有し、光造形法の3Dプリンターで造形可能な本発明の立体造形用樹脂組成物を用いて造形された疑似餌は、低分子量の単官能モノマー由来の臭気がないため、目的魚に対して忌避的な反応を防止することができる。また、低分子量の単官能モノマー由来の臭気がないため、魚が好む匂い(アミノ酸臭)を付け加える場合に、臭気の阻害とならない。
また、本発明の立体造形用樹脂組成物は生分解性を有しているので、水中において酵素による分解が可能である。更に、本発明の立体造形用樹脂組成物中に生分解性の色素を混合し、インクジェット式等のUV硬化型の3Dプリンターを使用して造形することにより、生分解性を維持しつつ、塗装等をせずに多数の色を一つの立体造形物に同居させたカラフルな色彩を有する疑似餌を造形することができる。
【0034】
ここで、
図7に示すように、疑似餌(ルアー)は、小魚の胴体の部分を模した構造を有する。また、釣り糸と結束する部分及び釣り針と結束するために必要に応じて、部分的に幾つかのフック1、フック7、フック8を有する。更に必要に応じて水の抵抗を加味して、いくつかの鰭(ヒレ)を有しており、鰭3、胸鰭4、腹鰭5、尾鰭6を有することが好ましい。疑似餌の大きさは、3Dプリンターの許容範囲に依存するが、大きさ(長さL、高さM)は任意に調整することが。
図7中2は魚眼である
【実施例0035】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
-ポリカプロラクトン骨格を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレートの合成-
300mLの3つ口フラスコに、プラクセル205U(PCL205U、ポリカプロラクトンジオール、分子量:530、ダイセル株式会社製)209g(0.39mol)に対して2-イソシアネートエチルアクリレート(商品名:カレンズAOI、昭和電工株式会社製)100g(0.71mol)を、ポリカプロラクトンジオールの水酸基価に対して0.9当量となるよう配合し、密栓して60℃にて撹拌し3日間反応させて、無色の液体(ポリカプロラクトン骨格を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート)を得た。
得られた液体について、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR、装置名:Nicolet iS2、Thermo社製)を用い、2,250cm-1付近のイソシアネートのピークの消失及び3,100cm-1~3,600cm-1の水酸基(OH)のピークが消失していることを確認し、1,550cm-1付近のアミド(H-N-C=O)結合のピークが新たに生成した。
【0037】
-立体造形用樹脂組成物の調製-
次に、得られたポリカプロラクトン骨格を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート100質量部に対して、光重合開始剤(Omnirad TPO-H、IGM Resins B.V.社製)4質量部を添加し、混合することにより、立体造形用樹脂組成物を調製した。
【0038】
(実施例2)
実施例1において、プラクセル205U(PCL205U、ポリカプロラクトンジオール、分子量:530、ダイセル株式会社製)209g(0.39mol)を、プラクセル305(PCL305、ポリカプロラクトントリオール、分子量:550、ダイセル株式会社製)217g(0.39mol)に変えた以外は、実施例1と同様にして、無色の液体(ポリカプロラクトン骨格を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート)を得た。
【0039】
-立体造形用樹脂組成物の調製-
次に、得られたポリカプロラクトン骨格を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート100質量部に対して、光重合開始剤(Omnirad TPO-H、IGM Resins B.V.社製)4質量部を添加し、混合することにより、実施例1の立体造形用樹脂組成物を調製した。
【0040】
(実施例3)
実施例1において、プラクセル205U(PCL205U、ポリカプロラクトンジオール、分子量:530、ダイセル株式会社製)209g(0.39mol)を、プラクセル308(PCL308、ポリカプロラクトントリオール、分子量:850、ダイセル株式会社製)335g(0.39mol)に変えた以外は、実施例1と同様にして、無色の液体(ポリカプロラクトン骨格を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート)を得た。
【0041】
-立体造形用樹脂組成物の調製-
次に、得られたポリカプロラクトン骨格を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート100質量部に対して、光重合開始剤(Omnirad TPO-H、IGM Resins B.V.社製)4質量部を添加し、混合することにより、実施例3の立体造形用樹脂組成物を調製した。
【0042】
(比較例1)
実施例1において、プラクセル205U(PCL205U、ポリカプロラクトンジオール、分子量:530、ダイセル株式会社製)209g(0.39mol)を、プラクセル303(PCL303、ポリカプロラクトントリオール、分子量:300、ダイセル株式会社製)118g(0.39mol)に変えた以外は、実施例1と同様にして、無色の液体(ポリカプロラクトン骨格を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート)を得た。
【0043】
-立体造形用樹脂組成物の調製-
次に、得られたポリカプロラクトン骨格を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート100質量部に対して、光重合開始剤(Omnirad TPO-H、IGM Resins B.V.社製)4質量部を添加し、混合することにより、比較例1の立体造形用樹脂組成物を調製した。
【0044】
(比較例2)
実施例1において、プラクセル205U(PCL205U、ポリカプロラクトンジオール、分子量:530、ダイセル株式会社製)209g(0.39mol)を、プラクセル312(PCL312、ポリカプロラクトントリオール、分子量:1250、ダイセル株式会社製)492g(0.39mol)に変えた以外は、実施例1と同様にして、無色の液体(ポリカプロラクトン骨格を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート)を得た。
【0045】
-立体造形用樹脂組成物の調製-
次に、得られたポリカプロラクトン骨格を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート100質量部に対して、光重合開始剤(Omnirad TPO-H、IGM Resins B.V.社製)4質量部を添加し、混合することにより、比較例2の立体造形用樹脂組成物を調製した。
【0046】
(比較例3)
商品名:「ELEGOO」、光造形3Dプリンター用UVレジン(灰色)、ELEGOO社製を比較例3の立体造形用樹脂組成物として用意した。
本発明者らが比較例3の「ELEGOO」の組成を分析した結果、低分子量のアクリルモノマー(アクリロイルモルフォリン)及び高分子量のウレタンアクリレートを含有することがわかった。
【0047】
(比較例4)
商品名:「eSun」、光造形3Dプリンター用LED UVレジン、光硬化可能PLA樹脂 3Dプリンター向け eSun社製を比較例4の立体造形用樹脂組成物として用意した。
本発明者らが比較例4の「eSun」の組成を分析した結果、低分子量のアクリルモノマー(アクリロイルモルフォリン)及び高分子量のウレタンアクリレートを含有することがわかった。
【0048】
次に、得られた各立体造形用樹脂組成物について、以下のようにして、諸特性を評価した。結果を表1及び表2に示した。
【0049】
<粘度>
得られた各立体造形用樹脂組成物を、回転レオメータ(装置名:AR-G2、TAインスツルメント社製)を用い、25℃環境下、シェアレートが100(1/s)のときの粘度を測定した。
【0050】
<立体造形>
得られた各立体造形用樹脂組成物を、吊り下げ方式の光造形法である立体造形物の製造装置(装置名:ELEGOO MARS PRO UV、ELEGOO社製)を用い、
図2及び
図4に示すような形状及び大きさの立体造形物を造形し、立体造形性を評価した。
実施例1~3及び比較例4は
図2に示すように正しく立体造形できた。また、比較例3は
図4に示すように正しく立体造形できた。
これに対して、比較例1は、
図3に示すように立体造形物が破壊してしまった。これは、比較例1の立体造形物は、硬すぎるために脆くなり薄肉部等で破壊し、
図5に示すように、立体造形物が上下に分断されてしまったからである。
また、比較例2は立体造形用樹脂組成物の粘度が高いので、
図6に示すように、造形ステージ11が上昇しても造形ステージ11の下に立体造形用樹脂組成物が回り込めないため、造形不能であった。
【0051】
<5%重量減温度(揮発し易さ)>
臭気の評価方法は、5%重量減温度を「揮発し易さ」と読み替えて、以下のようにして、硬化物の5%重量減温度を測定した。5%重量減温度が高いほど揮発し難く、臭気の発生が少ないことを示す。
各立体造形用樹脂組成物を2枚のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの間に挟んで塗工し、UVコンベアでUV照射(0.5J/cm2)×6回を行い、縦×横×厚みが3cm×3cm×0.5mmの各硬化物を得た。
得られた各硬化物について、熱重量測定(TGA:ThemoGarvimetric Analysis、装置名:TG-DTA 6000、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を行い、5%重量減温度を測定した。
【0052】
<ガラス転移温度Tg及び弾性率の測定方法>
動的粘弾性測定装置(DMA:Dynamic Mechanical Analysis)(装置名:RSA-3、TAインスツルメント社製)により、下記の測定条件で損失弾性率及び貯蔵弾性率を測定し、得られた損失正接tanδ(損失弾性率/貯蔵弾性率)の最大点における温度をガラス転移温度とした。また、ガラス転移温度未満での弾性率(硬化物の硬さを表す)がガラス領域での弾性率、ガラス転移温度以上での弾性率(架橋密度を反映する)をゴム平衡領域での弾性率とした。ガラス転移温度Tg未満の温度での弾性率は1GPa~2.5GPaが好ましく、ガラス転移温度Tg以上の温度での弾性率は5MPa~50MPaが好ましい。なお、サンプルは5%重量減温度と同様にして、幅5mm×長さ20mmのものを作製し、測定に用いた。
-測定条件-
・周波数:1Hz
・昇温速度:10℃/min.
・ひずみ制御:0.1%
【0053】
【0054】
【0055】
表1及び表2中の各成分の詳細については、以下のとおりである。
*PCL205U:プラクセル205U、ポリカプロラクトンジオール、分子量530、ダイセル株式会社製
*PCL303:プラクセル303、ポリカプロラクトントリオール、分子量300、ダイセル株式会社製
*PCL305:プラクセル305、ポリカプロラクトントリオール、分子量550、ダイセル株式会社製
*PCL308:プラクセル308、ポリカプロラクトントリオール、分子量850、ダイセル株式会社製
*PCL312:プラクセル312、ポリカプロラクトントリオール、分子量1250、ダイセル株式会社製
*カレンズAOI:2-イソシアネートエチルアクリレート、昭和電工株式会社製
*Omnirad TPO-H、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキシド、IGM Resins B.V.社製
【0056】
表1及び表2の結果から、実施例1~3は、低分子量の単官能モノマーを含まず、分子量が700以上1,300以下である多官能ウレタン(メタ)アクリレートの単一成分により良好な立体造形が可能であった。また、熱重量測定(TGA)における5%重量減温度が300℃以上であり、揮発し難いことから臭気の発生が抑制できる。また、分子量が大きく皮膚内に浸透しにくいことから皮膚刺激性が小さいと考えられる。また、多官能ウレタン(メタ)アクリレートがポリカプロラクトン骨格を有することから、立体造形物は脆くなく弾力性を有していた。
また、比較例1は、ポリカプロラクトン骨格を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレートの分子内に含まれるカプロラクトン骨格の比率(300/720)が小さいため、造形物の柔軟性が不足し、ガラス転移温度Tg以上の温度での弾性率が高く、立体造形物が硬くなりすぎ、造形中に立体造形物が破壊してしまった。
比較例2は、ポリカプロラクトン骨格を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレートの分子量が大きいため、立体造形用樹脂組成物の粘度が高くなり、上述したように造形不能であった。
比較例3及び4は、立体造形用樹脂組成物が低粘度であり、硬化物のガラス転移温度Tgが高く立体造形可能であったが、熱重量測定(TGA)における5%重量減温度が200℃以下であり揮発し易く、低分子量の単官能モノマー(アクリロイルモルフォリン)を含有しているため、臭気が強く、一般家庭での使用に不向きであった。
本発明の立体造形用樹脂組成物は、低臭気であり、優れた機械的特性を有しかつ所望の立体形状の造形物を安定に造形できるので、例えば、疑似餌等の立体造形物の製造に好適に用いることができる。