(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181340
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】摩擦締結装置及びその成形方法
(51)【国際特許分類】
F16D 13/60 20060101AFI20221201BHJP
F16D 25/0638 20060101ALI20221201BHJP
F16D 25/12 20060101ALI20221201BHJP
F16D 13/52 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
F16D13/60 T
F16D25/0638
F16D25/12 C
F16D13/52 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088234
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】池本 孝之
【テーマコード(参考)】
3J056
3J057
【Fターム(参考)】
3J056AA60
3J056BA05
3J056BE09
3J056BE21
3J056CA07
3J056CD10
3J056FA02
3J056FA04
3J056GA05
3J057AA04
3J057BB04
3J057CA14
3J057DA18
3J057EE05
3J057HH01
3J057JJ02
(57)【要約】
【課題】複数の油穴が生産性良く形成されることができる摩擦締結装置及びその成形方法を提供する。
【解決手段】環状の摩擦板41を支持する円筒状のドラム部2を備えた自動変速機の摩擦締結装置1において、ドラム部2は、内周側面において、摩擦板41の歯部42と嵌合するように、径方向外側に向けて窪むと共に、ドラム部2の軸21に沿って延びる溝部24を有するスプライン部25を含む円筒部22aと、円筒部22aの一端側に設けられて、且つ径方向内側に延びる縦壁部22cと、円筒部22aと縦壁部22cとの間に設けられる角部22bとを備え、角部22bの内側には、スプライン部25の溝部24と繋がると共に、ドラム部2の軸21の一端側に向けて窪むドラム凹部27が設けられ、角部22bの外側には、ドラム凹部27と繋がると共に、ドラム部2の円周方向に沿って切削された切削部29によって、ドラム凹部27が外側に開口されて、油穴26が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の摩擦板を支持する円筒状のドラム部を備えた自動変速機の摩擦締結装置であって、
前記摩擦板は、
径方向外側に向けて突出している歯部を外周側面に備え、
前記ドラム部は、
内周側面において、前記摩擦板の前記歯部と嵌合するように、径方向外側に向けて窪むと共に、前記ドラム部の軸方向に沿って延びる溝部を有するスプライン部を含む円筒部と、
前記円筒部の一端側に設けられて、且つ径方向内側に延びる縦壁部と、
前記円筒部と前記縦壁部との間に設けられる角部とを備え、
前記角部の内側には、前記スプライン部の前記溝部と繋がると共に、前記ドラム部の軸方向の一端側に向けて窪むドラム凹部が設けられ、
前記角部の外側には、前記ドラム凹部と繋がると共に、前記ドラム部の円周方向に沿って切削された切削部が設けられ、
前記切削部によって、前記ドラム凹部が外側に開口されて、油穴が形成されている、
ことを特徴とする摩擦締結装置。
【請求項2】
前記ドラム部は、ダイカスト鋳造品であることを特徴とする請求項1に記載の摩擦締結装置。
【請求項3】
前記ドラム部の前記円筒部の内側には、前記縦壁部と前記摩擦板との間において、前記円筒部の一端側に向かうにつれて径方向内側に傾斜する傾斜部を備えた円筒のピストンが配設されて、
前記ピストンの前記傾斜部には、前記傾斜部の内側と外側とを通過する潤滑油排出穴が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の摩擦締結装置。
【請求項4】
前記ドラム部の前記スプライン部の前記溝部には、前記溝部に沿って径方向外側に向けて窪むと共に、前記ドラム部の軸方向に沿って延びる溝部側面が設けられ、
前記油穴は、前記円筒部の軸方向から見て、前記溝部側面に沿って形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の摩擦締結装置。
【請求項5】
環状の摩擦板を支持する円筒状のドラム部を備えた自動変速機の摩擦締結装置の成形方法であって、
前記摩擦板は、
径方向外側に向けて突出している歯部を外周側面に備え、
前記ドラム部は、
内周側面において、前記摩擦板の前記歯部と嵌合するように、径方向外側に向けて窪むと共に、前記ドラム部の軸方向に沿って延びる溝部を有するスプライン部を有する円筒部と、
前記円筒部の一端側に設けられて、且つ径方向内側に延びる縦壁部と、
前記円筒部と前記縦壁部との間に設けられる角部とを備え、
前記角部の内側には、前記スプライン部の前記溝部と繋がると共に、前記ドラム部の軸方向の一端側に向けて窪むドラム凹部が設けられ、
前記成形方法は、
前記角部の外側において、外側に突出する押し出し部を前記ドラム凹部と対応する位置に形成するように、前記ドラム部をダイカスト鋳造するステップと、
ダイカスト鋳造された前記ドラム部の前記角部の前記押し出し部を切削することにより、前記ドラム部の円周方向に沿って、前記ドラム凹部と繋がる切削部を形成するように、前記ドラム部を切削加工するステップとを備え、
切削加工された前記切削部によって、前記ドラム凹部が外側に開口されて、油穴が形成される、
ことを特徴とする摩擦締結装置の成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦締結装置及びその成形方法、特に車両に搭載される自動変速機の摩擦締結装置及びその成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される自動変速機の摩擦締結装置として、円筒状のドラムと、ドラムの内側に同心状に配設されている円筒状のハブと、ドラムの内周とハブの外周にそれぞれ配設されている複数の環状の摩擦板と、摩擦板を互いに締結させるように押圧するピストンと、ピストンが摩擦板を押圧するための油圧を発生させる油圧室とを備えた湿式多板クラッチが知られている。
【0003】
この湿式多板クラッチは、油圧室内の油圧を制御して、ピストンが押圧する複数の摩擦板の間に生じるトルクを変化させることにより、車両の変速を実現するように構成されている。
【0004】
また、湿式多板クラッチは、摩擦板の表面が内径側から供給される潤滑油で潤滑されている。これにより、摩擦板の耐摩耗性と冷却性を向上させると共に、摩擦板が締結されるときの衝撃が吸収される。
【0005】
一方、潤滑油がドラムの内側に残ることにより、摩擦板が締結されていないとき、摩擦板に対してドラッグトルクが生じるため、複数の摩擦板の間の潤滑油を排出するように、ドラムの内側を外側と繋げる油穴を設ける必要がある。
【0006】
例えば特許文献1には、摩擦板と嵌合するように、ドラムの内周に設けられて、且つ径方向外側に向けて窪む溝部を有するスプライン部において、ドラムの内側を外側と繋げる油穴が設けられている湿式多板クラッチが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、特許文献1の摩擦締結装置は、ドラム部に対して油穴を設けるとき、例えばドリル加工によって複数の油穴を開けることが考えられるが、それぞれの油穴に対してドリルの位置を調整して加工を行うため、加工時間が長くなり、摩擦締結装置の生産性が低下するおそれがある。
【0009】
そこで、本発明は、複数の油穴が生産性良く形成されることができる摩擦締結装置及びその成形方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
【0011】
まず、本発明は、環状の摩擦板を支持する円筒状のドラム部を備えた自動変速機の摩擦締結装置であって、
前記摩擦板は、
径方向外側に向けて突出している歯部を外周側面に備え、
前記ドラム部は、
内周側面において、前記摩擦板の前記歯部と嵌合するように、径方向外側に向けて窪むと共に、前記ドラム部の軸方向に沿って延びる溝部を有するスプライン部を含む円筒部と、
前記円筒部の一端側に設けられて、且つ径方向内側に延びる縦壁部と、
前記円筒部と前記縦壁部との間に設けられる角部とを備え、
前記角部の内側には、前記スプライン部の前記溝部と繋がると共に、前記ドラム部の軸方向の一端側に向けて窪むドラム凹部が設けられ、
前記角部の外側には、前記ドラム凹部と繋がると共に、前記ドラム部の円周方向に沿って切削された切削部が設けられ、
前記切削部によって、前記ドラム凹部が外側に開口されて、油穴が形成されている、
ことを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、摩擦締結装置は、例えばダイカスト鋳造によってドラム部を成形して、旋削によってドラム部の角部の外側を円周方向に沿って切削することにより、それぞれの加工位置を調整することなく、油穴が設けられている。したがって、この油穴が設けられている摩擦締結装置は加工時間が短いため、生産性が向上する。
【0013】
また、前記ドラム部は、ダイカスト鋳造品であってもよい。
【0014】
本構成によれば、摩擦締結装置のドラム部はダイカスト鋳造によって成形されて、例えば旋削によってドラム部の角部の外側を円周方向に沿って切削することにより、それぞれの加工位置を調整することなく、油穴が設けられる。したがって、この油穴が設けられているドラム部を備えた摩擦締結装置は加工時間が短いため、生産性が向上する。
【0015】
また、前記ドラム部の前記円筒部の内側には、前記縦壁部と前記摩擦板との間において、前記円筒部の一端側に向かうにつれて径方向内側に傾斜する傾斜部を備えた円筒のピストンが配設されて、
前記ピストンの前記傾斜部には、前記傾斜部の内側と外側とを通過する潤滑油排出穴が設けられていてもよい。
【0016】
本構成によれば、ドラム部の内側の縦壁部と摩擦板との間に配設されているピストンの傾斜部に設けられている潤滑油排出穴により、ピストンが摩擦板を押圧するとき、ピストンの内側に残る潤滑油は、潤滑油排出穴を通してピストンの外側に排出されるので、潤滑油による遠心力がピストンに作用することを抑制することができる。
【0017】
また、前記ドラム部に設けられている前記スプライン部の前記溝部には、前記溝部に沿って径方向外側に向けて窪むと共に、前記ドラム部の軸方向に沿って延びる溝部側面が設けられ、
前記油穴は、前記円筒部の軸方向から見て、前記溝部側面に沿って形成されていてもよい。
【0018】
本構成によれば、油穴は、ドラム部のスプライン部の溝部側面に沿って形成されているので、開口面積が大きくなり、摩擦板と溝部との間に残る潤滑油を円滑に排出することができる。
【0019】
また、本発明は、環状の摩擦板を支持する円筒状のドラム部を備えた自動変速機の摩擦締結装置の成形方法であって、
前記摩擦板は、
径方向外側に向けて突出している歯部を外周側面に備え、
前記ドラム部は、
内周側面において、前記摩擦板の前記歯部と嵌合するように、径方向外側に向けて窪むと共に、前記ドラム部の軸方向に沿って延びる溝部を有するスプライン部を有する円筒部と、
前記円筒部の一端側に設けられて、且つ径方向内側に延びる縦壁部と、
前記円筒部と前記縦壁部との間に設けられる角部とを備え、
前記角部の内側には、前記スプライン部の前記溝部と繋がると共に、前記ドラム部の軸方向の一端側に向けて窪むドラム凹部が設けられ、
前記成形方法は、
前記角部の外側において、外側に突出する押し出し部を前記ドラム凹部と対応する位置に形成するように、前記ドラム部をダイカスト鋳造するステップと、
ダイカスト鋳造された前記ドラム部の前記角部の前記押し出し部を切削することにより、前記ドラム部の円周方向に沿って、前記ドラム凹部と繋がる切削部を形成するように、前記ドラム部を切削加工するステップとを備え、
切削加工された前記切削部によって、前記ドラム凹部が外側に開口されて、油穴が形成される、
ことを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、摩擦締結装置の成形方法は、ダイカスト鋳造によってドラム部を成形して、例えば旋削によってドラム部の角部の外側に設けられている押し出し部を円周方向に沿って切削することにより、それぞれの加工位置を調整することなく、油穴を形成することができる。したがって、この油穴を形成する成形方法は加工時間が短いため、摩擦締結装置の生産性が向上する。
【発明の効果】
【0021】
したがって、本発明に係る摩擦締結装置及びその成形方法によれば、複数の油穴を生産性良く設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態に係る摩擦締結装置を示す概略断面図である。
【
図2】
図1の摩擦締結装置のドラム部の概略正面図である。
【
図3】
図2の線III-IIIに沿った、ドラム部の概略断面図である。
【
図4】
図2の線IV-IVに沿った、ドラム部の概略断面図である。
【
図5】
図2の線V-Vに沿った、ドラム部の概略断面図である。
【
図6】
図2のドラム部の角部の油穴の成形方法を示す説明図である。
【
図7】別の実施形態に係る摩擦締結装置のドラム部の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1は、本発明の実施形態に係る摩擦締結装置を示す概略断面図である。
図1に示すように、本発明の実施形態に係る摩擦締結装置1は、車両に搭載される自動変速機の摩擦締結装置として構成されている。
【0025】
摩擦締結装置1は、円筒状のドラム部2と、ドラム部2の内側に同心状に配設されている円筒状のハブ部3と、ドラム部2の内周とハブ部3の外周において、ドラム部2の軸21とハブ部3の軸31に沿って並べて配設されている複数の環状の摩擦板4と、ハブ部3の内側に配設されている破線で示すプラネタリギヤ5と、ドラム部2の内側において、摩擦板4とプラネタリギヤ5よりもドラム部2の一端側に配設されて、且つ油圧によってドラム部2の軸21とハブ部3の軸31に沿って摺動して摩擦板4を押圧するように構成されているピストン6とを備える。
【0026】
ドラム部2は、ドラム部2の軸21周りに設けられている円筒状の第1ドラム円筒部22aと、第1ドラム円筒部22aの一端側に設けられて、ドラム部2の一端側に向かうにつれて径方向内側に傾斜する角部22bと、角部22bの一端側に設けられて、且つ径方向内側に延びる第1ドラム縦壁部22cと、第1ドラム縦壁部22cの内側端部から軸21に沿って一端側に延びる円筒状の第2ドラム円筒部22dと、第2ドラム円筒部22dの一端側に設けられて、ドラム部2の一端側に向かうにつれて径方向内側に傾斜する傾斜部22eと、傾斜部22eの一端側に設けられて、且つ径方向内側に延びる第2ドラム縦壁部22fと、第2ドラム縦壁部22fの内側端部から軸21に沿って一端側に延びる円筒状の第3ドラム円筒部22gとを備える。
【0027】
また、ドラム部2は、傾斜部22eと第2ドラム縦壁部22fとの間において、ドラム部2の軸21に沿って他端側に延びる円筒状の第1内側ドラム円筒部23aを備える。
【0028】
さらに、ドラム部2は、第3ドラム円筒部22gの他端部から軸21に沿って他端側に延びる円筒状の第2内側ドラム円筒部23bを備える。この第2内側ドラム円筒部23bの他端側には、第2内側ドラム円筒部23bの他端部及びプラネタリギヤ5の一端側と当接して、ドラム部2とプラネタリギヤ5との間の相対回転を許容するスラストベアリング8が配設されている。
【0029】
ドラム部2の第1ドラム円筒部22aの内周には、径方向外側に向けて窪むと共に、ドラム部2の軸21に沿って延びる溝部24を有する複数のスプライン部25が周方向において等間隔に設けられている。また、ドラム部2の第1ドラム円筒部22aの内周には、ドラム部2の軸21に沿って並べて配設されている複数の環状のドラム側摩擦板41が配設されている。このドラム側摩擦板41の外周には、径方向外側に向けて突出して、且つ周方向において等間隔に設けられている複数のドラム側歯部42が設けられており、ドラム部2の第1ドラム円筒部22aの内周に設けられているスプライン部25の溝部24とスプライン嵌合している。
【0030】
ハブ部3の外周には、径方向内側に向けて窪むと共に、ハブ部3の軸31に沿って延びる溝部32を有する複数のスプライン部33が周方向において等間隔に設けられている。また、ハブ部3の外周には、ハブ部3の軸31に沿って並べて配設されている複数の環状のハブ側摩擦板43が配設されている。このハブ側摩擦板43の内周には、径方向内側に向けて突出して、且つ周方向において等間隔に設けられている複数のハブ側歯部44が設けられており、ハブ部3の外周に設けられているスプライン部33の溝部32とスプライン嵌合している。
【0031】
ドラム部2の第2ドラム縦壁部22f、第1内側ドラム円筒部23a、及び第2内側ドラム円筒部23bとプラネタリギヤ5との間に形成される空間には、円筒状のピストン6が嵌合されている。ピストン6の軸61は、ドラム部2の軸21及びハブ部3の軸31と同軸になるように延びている。
【0032】
ピストン6は、第2内側ドラム円筒部23bの外周に取り付けられている環状のスナップリング62、スナップリング62の一端側に当接するように、第2内側ドラム円筒部23bの外周に取り付けられている円筒状のスプリングリテーナ63、スプリングリテーナ63と第2ドラム縦壁部22fとの間において、軸61に沿って摺動できるように、第2内側ドラム円筒部23bの外周に取り付けられている円筒状のピストン部64、及びピストン部64を軸61に沿って一端側に付勢するように、スプリングリテーナ63とピストン部64との間に配設されているリターンスプリング65を備える。
【0033】
スプリングリテーナ63は、スプリングリテーナ63の一端側において、他端側に向けて窪むスプリングリテーナ凹部63aを備える。このスプリングリテーナ凹部63aとピストン部64との間の空間には、遠心バランス油圧室66が形成されている。
【0034】
ピストン部64は、ピストン部64の他端側において、一端側に向けて窪むピストン凹部64aと、ピストン部64の外周に設けられているピストン筒部64bと、ピストン筒部64bの外周において、一端側に向かうにつれて径方向内側に傾斜するように延びるピストン外側傾斜部64cと、ピストン外側傾斜部64cの他端において、ドラム部2のドラム側摩擦板41をドラム部2の軸21に沿って押圧できるように他端側に延びるピストン押圧部64dとを備える。また、ピストン部64は、ピストン筒部64bの外周がドラム部2の第1内側ドラム円筒部23aの内周に嵌合すると共に、ピストン筒部64bの内周がスプリングリテーナ63の外周に嵌合している状態で、軸61に沿って摺動するように構成されている。
【0035】
また、ピストン部64は、ピストン部64の一端側において、他端側に向かうにつれて径方向内側に傾斜するピストン内側傾斜部64eを備える。このピストン内側傾斜部64eと第2ドラム縦壁部22fとの間の空間には、油圧室67が形成されている。
【0036】
第2内側ドラム円筒部23bには、遠心バランス油圧室66に向けて径方向に延びる遠心バランス給油穴66aと、油圧室67に向けて径方向に延びる給油穴67aとが設けられている。
【0037】
ピストン部64の内周とドラム部2の第2内側ドラム円筒部23bの外周との間、ピストン筒部64bの内周とスプリングリテーナ63の外周との間、及びピストン筒部64bの外周と第1内側ドラム円筒部23aの内周との間において、環状のオイルシール(
図1において、オイルシールを四角形状により示す)がそれぞれ設けられている。
【0038】
ドラム部2の内側には、第2内側ドラム円筒部23bの径方向内側から潤滑油が供給されている。また、ピストン6の遠心バランス油圧室66及び油圧室67も、それぞれ、遠心バランス給油穴66a及び給油穴67aから潤滑油が供給されるように構成されている。
【0039】
潤滑油が、ドラム部2の第2内側ドラム円筒部23bに設けられている給油穴67aからピストン6の油圧室67に向けて供給されることにより、ピストン6のピストン部64は、ピストン部64の他端側に配設されているリターンスプリング65を他端側に向けて圧縮すると共に、軸61に沿って他端側に向けて摺動する。これにより、ピストン部64のピストン押圧部64dがドラム部2のドラム側摩擦板41をドラム部2の軸21に沿って他端側に向けて押圧するため、ドラム側摩擦板41とハブ部3のハブ側摩擦板43とが互いに締結する。
【0040】
一方、潤滑油が、ドラム部2の第2内側ドラム円筒部23bに設けられている給油穴67aを介して、ピストン6の油圧室67から排出されることにより、圧縮されていたピストン6のリターンスプリング65は、一端側に向けて伸長して、ピストン6のピストン部64を軸61に沿って一端側に向けて摺動させる。これにより、ピストン部64のピストン押圧部64dがドラム部2のドラム側摩擦板41から離れてドラム部2の軸21に沿って一端側に向けて移動するため、ドラム側摩擦板41とハブ部3のハブ側摩擦板43との間の締結が解除される。
【0041】
潤滑油が、ドラム部2の第2内側ドラム円筒部23bに設けられている給油穴67aを介して、ピストン6の油圧室67から排出されるとき、一部の潤滑油が油圧室67に残ることがある。このとき、車両の駆動によって、摩擦締結装置1のピストン6が回転することにより、油圧室67に残っている潤滑油に遠心力が生じる。この遠心力によって、潤滑油が油圧室67から排出されたにも関わらず、ピストン6のピストン部64が軸61に沿って他端側に向けて摺動して、ピストン部64のピストン押圧部64dがドラム部2のドラム側摩擦板41をドラム部2の軸21に沿って他端側に向けて押圧するおそれがある。そのため、ピストン6は、潤滑油が油圧室67から排出されるとき、ドラム部2の第2内側ドラム円筒部23bに設けられている遠心バランス給油穴66aからピストン6の遠心バランス油圧室66に向けて潤滑油が供給されることにより、油圧室67の油圧と遠心バランス油圧室66の油圧とリターンスプリング65の復元力とがつりあうように構成されている。
【0042】
図2は、
図1の摩擦締結装置1のドラム部2の概略正面図である。ドラム部2の第1ドラム円筒部22aと第1ドラム縦壁部22cとの間に設けられている角部22bの外側には、複数の油穴26が設けられている。この油穴26は、第1ドラム円筒部22aの内周に等間隔に設けられて、径方向外側に向けて窪むと共に、ドラム部2の軸21に沿って延びる溝部24を有する複数のスプライン部25の円周方向の位置に合うように形成されている。特に、本実施形態において、油穴26は、それぞれ、隣接する1つのスプライン部25を飛ばすように間隔を空けて周方向に形成されている。
【0043】
図3は、
図2の線III-IIIに沿った、ドラム部2の概略断面図である。ドラム部2の第1ドラム円筒部22aと第1ドラム縦壁部22cとの間に設けられている角部22bの内側には、第1ドラム円筒部22aの内周に設けられているスプライン部25の溝部24と繋がると共に、ドラム部2の軸21に沿って一端側に向けて窪むドラム凹部27が設けられている。このドラム凹部27は、角部22bの外側に設けられている油穴26と繋がるように形成されている。
【0044】
第1ドラム円筒部22aの内周に設けられているスプライン部25の溝部24には、溝部24に沿って径方向外側に向けて窪むと共に、ドラム部2の軸21に沿って延びる溝部側面24aが設けられている。この溝部側面24aは、角部22bの内側に設けられているドラム凹部27と繋がるように軸21に沿って一端側に向けて延びる。
【0045】
図2に戻り、油穴26は、ドラム部2の軸21から見て、溝部側面24aに沿って形成されているため、半円状に見える。
【0046】
図1に戻り、ドラム部2の第1ドラム円筒部22aの内側に配設されているピストン6のピストン部64のピストン外側傾斜部64cには、ピストン外側傾斜部64cの内側と外側とを通過するように、ピストン6の軸61に沿って伸びる潤滑油排出穴68が設けられている。
【0047】
潤滑油が、ドラム部2の第2内側ドラム円筒部23bに設けられている給油穴67aを介して、ピストン6の油圧室67から排出されることにより、ピストン6のピストン部64が軸61に沿って一端側に向けて摺動して、ピストン部64のピストン押圧部64dにより押圧されていたドラム側摩擦板41とハブ部3のハブ側摩擦板43との間の締結が解除されるとき、ピストン6のピストン外側傾斜部64cに設けられている潤滑油排出穴68により、ピストン外側傾斜部64cの内側に残る潤滑油は、ピストン外側傾斜部64cの外側に排出されて、さらにドラム凹部27と繋がる油穴26から外部に排出されることができる。また、ドラム部2に設けられているスプライン部25の溝部24の溝部側面24aに沿って形成されている油穴26により、溝部24と、溝部24とスプライン嵌合しているドラム側摩擦板41との間に残る潤滑油は、ドラム凹部27を介して溝部24と繋がる油穴26から円滑に外部に排出されることができる。
【0048】
図4は、
図2の線IV-IVに沿った、ドラム部2の概略断面図である。特に、
図4は、第1ドラム円筒部22aの内周に設けられている、隣接する2つのスプライン部25の間の断面を示す。
図4に示すように、スプライン部25が設けられていない第1ドラム円筒部22aの径方向外側の厚みは、スプライン部25が設けられている第1ドラム円筒部22aの径方向外側の厚みよりも大きい。
【0049】
図5は、
図2の線V-Vに沿った、ドラム部2の概略断面図である。特に、
図5は、第1ドラム円筒部22aの内周に設けられている、油穴26と繋がるスプライン部25に隣接する別のスプライン部25aの断面を示す。
図5の別のスプライン部25aには、
図3に示すスプライン部25の溝部24の溝部側面24aと繋がるドラム凹部、及びドラム凹部と繋がる油穴が設けられていない。
【0050】
図6は、
図2のドラム部2の角部22bの油穴26の成形方法を示す説明図である。
【0051】
図6に示す成形方法において、ドラム部2は、初めに、角部22bの外側において、角部22bの表面と直交する方向に沿って外側に突出する押し出し部28をドラム部2のドラム凹部27と対応する位置に形成するように、ダイカスト鋳造によって形成される。図示するように、押し出し部28は、角部22bの外側において、破線で示す切削予定線28aよりも径方向外側に設けられている。
【0052】
ダイカスト鋳造されたダイカスト鋳造品であるドラム部2に対して、ドラム部2の第1ドラム円筒部22aの他端側は、モータ101により回転駆動する固定具102に固定されている。また、ドラム部2の径方向外側には、押し出し部28の外側表面と対向するように、ドラム部2の径方向に沿って延びる旋削用のバイト103が配設されている。このバイト103は、バイト103をドラム部2の軸21及びドラム部2の径方向に沿って移動させるツール移動機構104と接続されている。モータ101とツール移動機構104は、それぞれの駆動が制御されるように、外部に配設されているコントローラ105と電気的に接続されている。
【0053】
上述のように配置されているドラム部2において、油穴26がドラム部2の角部22bの外側に成形されるとき、コントローラ105から送信される電気的な信号に基づいて、モータ101が回転駆動する。このとき、第1ドラム円筒部22aを介して固定具102に固定されているドラム部2は、モータ101により回転する固定具102と共に軸21周りに回転する。
【0054】
次に、コントローラ105から送信される電気的な信号に基づいて、ツール移動機構104が駆動することにより、バイト103は、ドラム部2の軸21に沿って他端側に移動すると共に、ドラム部2の角部22bに設けられている押し出し部28に向けてドラム部2の径方向内側に移動する。ツール移動機構104によって移動するバイト103は、軸21周りに回転するドラム部2の角部22bに設けられている押し出し部28に押し当てられる。押し出し部28に押し当てられたバイト103は、ダイカスト鋳造されたドラム部2の押し出し部28、すなわち破線で示す切削予定線28aよりも径方向外側の部分を旋削することにより、ドラム部2の円周方向に沿って、ドラム凹部27と繋がる切削部29を形成するように、ドラム部2を旋削加工する。ドラム凹部27と繋がる切削部29を形成することにより、ドラム凹部27が外側に開口されて、ドラム凹部27と繋がる油穴26が形成される。
【0055】
このように、本実施形態に係る摩擦締結装置1では、第1ドラム円筒部22aと第1ドラム縦壁部22cとの間に設けられている角部22bの外側において、ドラム部2に設けられているスプライン部25の溝部24と繋がるように角部22bの内側に設けられて、且つドラム部2の軸21に沿って一端側に窪むドラム凹部27と繋がるように、ドラム部2の円周方向に沿って切削される切削部29が設けられている。この切削部29により、ドラム凹部27が外側に開口されて、ドラム凹部27と繋がる油穴26が形成されている。
【0056】
摩擦締結装置1は、ドラム部2がダイカスト鋳造によって成形されて、旋削によってドラム部2の角部22bの外側を円周方向に沿って切削することにより、それぞれの加工位置を調整することなく、油穴26が設けられる。したがって、この油穴26が設けられているドラム部2を備えた摩擦締結装置1は加工時間が短いため、生産性が向上する。
【0057】
また、ドラム部2の内側の第1ドラム縦壁部22cと摩擦板4との間に配設されているピストン6のピストン外側傾斜部64cに設けられている潤滑油排出穴68は、ドラム部2の軸21に沿って延びているので、ピストン6が摩擦板4のドラム側摩擦板41を押圧するとき、ピストン6の内側に残る潤滑油は、潤滑油排出穴68を通してピストン6の外側に排出されるので、滑油による遠心力がピストン6に作用することを抑制することができる。
【0058】
また、油穴26は、ドラム部2に設けられているスプライン部25の溝部側面24aに沿って形成されているので、開口面積が大きくなり、摩擦板4と溝部24との間に残る潤滑油を円滑に排出することができる。
【0059】
また、摩擦締結装置1の成形方法は、ダイカスト鋳造によってドラム部を成形して、旋削によってドラム部2の角部22bの外側に設けられている押し出し部28を円周方向に沿って切削することにより、それぞれの加工位置を調整することなく、油穴26を形成することができる。したがって、この油穴26を形成する成形方法は加工時間が短いため、摩擦締結装置1の生産性が向上する。
【0060】
実施形態において、油穴26は、溝部側面24aに沿って半円状に形成されているが、例えば溝部側面24aに沿って三角形状又は台形状に形成されてもよい。
【0061】
図7は、別の実施形態に係る摩擦締結装置200のドラム部202の概略図である。
図7に示すように、ドラム部202の第1ドラム円筒部222aの外周には、第1ドラム円筒部222aの内周に設けられているスプライン部の溝部と繋がるように、径方向に延びる複数の油孔290が設けられていてもよい。
【0062】
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。
【0063】
以上のように、本発明によれば、複数の油穴が容易に形成されることが可能となるから、摩擦締結装置を有する自動変速機を搭載した車両の製造技術分野において、好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0064】
1 摩擦締結装置
2 ドラム部
22a 円筒部(第1ドラム円筒部)
22b 角部
22c 縦壁部(第1ドラム縦壁部)
24 溝部
25 スプライン部
26 油穴
27 ドラム凹部
29 切削部
41 摩擦板(ドラム側摩擦板)
42 歯部(ドラム側歯部)