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特開2022-181342タンパク質間相互作用評価技術とその応用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181342
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】タンパク質間相互作用評価技術とその応用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20221201BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20221201BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20221201BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221201BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221201BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221201BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20221201BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N15/53
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12Q1/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088243
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻村 啓太
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA17
4B063QA18
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR74
4B063QR80
4B063QS28
4B063QX02
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA83X
4B065AA83Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065CA24
4B065CA27
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】DGCR8-MeCP2間相互作用をより簡便に且つより高感度で検出できる技術を提供すること。
【解決手段】(A)ドナー発光ドメイン及びDGCR8ドメインを含み且つ前記ドナー発光ドメインが前記DGCR8ドメインのN末端側に配置されているポリペプチドのコード配列を含むポリヌクレオチドA、並びに/又は(B)アクセプター発光ドメイン及びMeCP2ドメインを含み且つ前記アクセプター発光ドメインが前記MeCP2ドメインのN末端側に配置されているポリペプチドのコード配列を含むポリヌクレオチドB。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ドナー発光ドメイン及びDGCR8ドメインを含み且つ前記ドナー発光ドメインが前記DGCR8ドメインのN末端側に配置されているポリペプチドのコード配列を含むポリヌクレオチドA、並びに/又は
(B)アクセプター発光ドメイン及びMeCP2ドメインを含み且つ前記アクセプター発光ドメインが前記MeCP2ドメインのN末端側に配置されているポリペプチドのコード配列を含むポリヌクレオチドB、
を含む、キット。
【請求項2】
前記ドナー発光ドメインが基質依存性発光ドメインである、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記ドナー発光ドメインがルシフェラーゼドメインである、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項4】
前記アクセプター発光ドメインが低分子蛍光リガンド結合性ドメインである、請求項1~3のいずれかに記載のキット。
【請求項5】
前記MeCP2ドメインが変異型MeCP2タンパク質のアミノ酸配列を含む、請求項1~4のいずれかに記載のキット。
【請求項6】
前記変異型MeCP2タンパク質がレット症候群患者における変異を有する、請求項5に記載のキット。
【請求項7】
前記変異型MeCP2タンパク質がナンセンス変異及び/又はフレームシフト変異を含む、請求項5又は6に記載のキット。
【請求項8】
前記ポリヌクレオチドA及び/又は前記ポリヌクレオチドBが細胞に含まれている、請求項1~7のいずれかに記載のキット。
【請求項9】
DGCR8-MeCP2間相互作用解析に用いるための、請求項1~8のいずれかに記載のキット。
【請求項10】
レット症候群又はその関連疾患の予防又は治療薬のスクリーニングに用いるための、請求項1~9のいずれかに記載のキット。
【請求項11】
(A)ドナー発光ドメイン及びDGCR8ドメインを含み且つ前記ドナー発光ドメインが前記DGCR8ドメインのN末端側に配置されているポリペプチドのコード配列を含むポリヌクレオチドA、並びに/又は
(B)アクセプター発光ドメイン及びMeCP2ドメインを含み且つ前記アクセプター発光ドメインが前記MeCP2ドメインのN末端側に配置されているポリペプチドのコード配列を含むポリヌクレオチドB、
を含む、試薬。
【請求項12】
ドナー発光ドメイン及びDGCR8ドメインを含み且つ前記ドナー発光ドメインが前記DGCR8ドメインのN末端側に配置されているポリペプチドのコード配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項13】
アクセプター発光ドメイン及びMeCP2ドメインを含み且つ前記アクセプター発光ドメインが前記MeCP2ドメインのN末端側に配置されているポリペプチドのコード配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項14】
請求項12に記載のポリヌクレオチド及び/又は請求項13に記載のポリヌクレオチドを含む、細胞。
【請求項15】
請求項12に記載のポリヌクレオチド及び請求項13に記載のポリヌクレオチドを含む細胞の、被験物質の存在下における発光共鳴エネルギー移動のシグナル強度を指標とする、レット症候群又はその関連疾患の予防又は治療薬のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レット症候群又はその関連疾患の予防又は治療薬のスクリーニングに有用な、キット、試薬、ポリヌクレオチド、細胞等に関する。
【背景技術】
【0002】
レット症候群は、X染色体上のMeCP2遺伝子の変異により引き起こされる神経発達症であり、女児10,000~15,000人に1人の頻度で発症する指定難病 (男児は胎生致死)である。レット症候群患者は一歳半程度までは正常に発達するが、その後運動・言語能力の喪失がみられる。レット症候群の臨床症状としては、自閉スペクトラム症(ASD)、てんかん、知的能力障害、小頭症、運動機能障害、呼吸障害、全身の成長遅延等が認められる。現在のところ、レット症候群の有効な治療法は存在しない。
【0003】
非特許文献1では、レット症候群患者においては、MeCP2遺伝子の変異により、MeCP2が構成因子として含まれるDrosha複合体によるprimary miR-199aのプロセシング機能が低下し、結果として、mTORシグナルが低下することにより、興奮性シナプス伝達や神経細胞成長等が抑制されることが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tsujimura et al., 2015, Cell Reports 12, 1887-1901, September 22, 2015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レット症候群患者におけるMeCP2遺伝子の変異が、Drosha複合体におけるMeCP2の相互作用に異常を引き起こし、最終的にmiRNAの産生(生合成・プロセシング)異常を引き起こしていると考えられる。この相互作用を簡便に検出することができれば、レット症候群の予防又は治療薬或いはその候補物質をスクリーニングすることが可能である。
【0006】
本発明は、DGCR8-MeCP2間相互作用をより簡便に且つより高感度で検出できる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、(A)ドナー発光ドメイン及びDGCR8ドメインを含み且つ前記ドナー発光ドメインが前記DGCR8ドメインのN末端側に配置されているポリペプチドのコード配列を含むポリヌクレオチドA、並びに/又は(B)アクセプター発光ドメイン及びMeCP2ドメインを含み且つ前記アクセプター発光ドメインが前記MeCP2ドメインのN末端側に配置されているポリペプチドのコード配列を含むポリヌクレオチドBをツールとして用いることにより、上記課題を解決できることを見出した。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0008】
項1. (A)ドナー発光ドメイン及びDGCR8ドメインを含み且つ前記ドナー発光ドメインが前記DGCR8ドメインのN末端側に配置されているポリペプチドのコード配列を含むポリヌクレオチドA、並びに/又は
(B)アクセプター発光ドメイン及びMeCP2ドメインを含み且つ前記アクセプター発光ドメインが前記MeCP2ドメインのN末端側に配置されているポリペプチドのコード配列を含むポリヌクレオチドB、
を含む、キット。
【0009】
項2. 前記ドナー発光ドメインが基質依存性発光ドメインである、項1に記載のキット。
【0010】
項3. 前記ドナー発光ドメインがルシフェラーゼドメインである、項1又は2に記載のキット。
【0011】
項4. 前記アクセプター発光ドメインが低分子蛍光リガンド結合性ドメインである、項1~3のいずれかに記載のキット。
【0012】
項5. 前記MeCP2ドメインが変異型MeCP2タンパク質のアミノ酸配列を含む、項1~4のいずれかに記載のキット。
【0013】
項6. 前記変異型MeCP2タンパク質がレット症候群患者における変異を有する、項5に記載のキット。
【0014】
項7. 前記変異型MeCP2タンパク質がナンセンス変異及び/又はフレームシフト変異を含む、項5又は6に記載のキット。
【0015】
項8. 前記ポリヌクレオチドA及び/又は前記ポリヌクレオチドBが細胞に含まれている、項1~7のいずれかに記載のキット。
【0016】
項9. DGCR8-MeCP2間相互作用解析に用いるための、項1~8のいずれかに記載のキット。
【0017】
項10. レット症候群又はその関連疾患の予防又は治療薬のスクリーニングに用いるための、項1~9のいずれかに記載のキット。
【0018】
項11. (A)ドナー発光ドメイン及びDGCR8ドメインを含み且つ前記ドナー発光ドメインが前記DGCR8ドメインのN末端側に配置されているポリペプチドのコード配列を含むポリヌクレオチドA、並びに/又は
(B)アクセプター発光ドメイン及びMeCP2ドメインを含み且つ前記アクセプター発光ドメインが前記MeCP2ドメインのN末端側に配置されているポリペプチドのコード配列を含むポリヌクレオチドB、
を含む、試薬。
【0019】
項12. ドナー発光ドメイン及びDGCR8ドメインを含み且つ前記ドナー発光ドメインが前記DGCR8ドメインのN末端側に配置されているポリペプチドのコード配列を含むポリヌクレオチド。
【0020】
項13. アクセプター発光ドメイン及びMeCP2ドメインを含み且つ前記アクセプター発光ドメインが前記MeCP2ドメインのN末端側に配置されているポリペプチドのコード配列を含むポリヌクレオチド。
【0021】
項14. 項12に記載のポリヌクレオチド及び/又は項13に記載のポリヌクレオチドを含む、細胞。
【0022】
項15. 項12に記載のポリヌクレオチド及び項13に記載のポリヌクレオチドを含む細胞の、被験物質の存在下における発光共鳴エネルギー移動のシグナル強度を指標とする、レット症候群又はその関連疾患の予防又は治療薬のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、DGCR8-MeCP2間相互作用をより簡便に且つより高感度で検出できる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施例6の結果を示す。最左のグラフはNanoLuc / HaloTag (+/+)細胞のBRET/NanoLuc値を示し、中央のグラフはNanoLuc / HaloTag (+/-)細胞のBRET/NanoLuc値を示し、最右のグラフはNanoLuc / HaloTag (-/-)細胞のBRET/NanoLuc値を示す。
図2】実施例7の、MeCP2 WTとMeCP2 R168Xとの比較結果を示す。縦軸はBRET/NanoLuc値を示す。
図3】実施例7の、MeCP2 WTとMeCP2 R255Xとの比較結果を示す。縦軸はBRET/NanoLuc値を示す。
図4】実施例7の、MeCP2 WTとMeCP2 R270Xとの比較結果を示す。縦軸はBRET/NanoLuc値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
1.定義
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0026】
アミノ酸配列の「同一性」とは、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対するアミノ酸配列の一致の程度をいう。従って、ある2つのアミノ酸配列の一致性が高いほど、それらの配列の同一性又は類似性は高い。アミノ酸配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。若しくは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(S. Karlin,S. F. Altschul.“Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoringschemes.”Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87, 2264-2268 (1990)、S. Karlin,S. F. Altschul.“Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences.”Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 5873-5877 (1993))を用いて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のウェエブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。また、塩基配列の『同一性』も上記に準じて定義される。
【0027】
本明細書中において、「保存的置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ-分枝側鎖を有するアミノ酸残基;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
【0028】
本明細書において、DNA、RNAなどのヌクレオチドには、次に例示するように、公知の化学修飾が施されていてもよい。ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各リボヌクレオチドの糖(リボース)の2位の水酸基を、-OR(Rは、例えばCH3(2´-O-Me)、CH2CH2OCH3(2´-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等を示す)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換などが挙げられる。さらには、リン酸部分やヒドロキシル部分が、例えば、ビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等で修飾されたものなどを挙げることができるが、これに限定されない。また、ヌクレオチドの糖部の2´酸素と4´炭素を架橋することにより、糖部のコンフォーメーションをN型に固定したものであるBNA(LNA)等もまた、好ましく用いられ得る。
【0029】
2.ポリヌクレオチド
本発明は、その一態様において、
(A)ドナー発光ドメイン及びDGCR8ドメインを含み且つ前記ドナー発光ドメインが前記DGCR8ドメインのN末端側に配置されているポリペプチド(ポリペプチドA)のコード配列を含むポリヌクレオチドA、並びに
(B)アクセプター発光ドメイン及びMeCP2ドメインを含み且つ前記アクセプター発光ドメインが前記MeCP2ドメインのN末端側に配置されているポリペプチド(ポリペプチドB)のコード配列を含むポリヌクレオチドB、に関する。
【0030】
ドナー発光ドメイン及びアクセプター発光ドメインは、近接した場合に発光共鳴エネルギー移動(BRET、FRET等)が起こる組合せである限り、特に制限されない。具体的には、ドナー発光ドメインからの発光スペクトルと、アクセプター発光ドメインの励起スペクトルが重複していることができる。
【0031】
ドナー発光ドメインとしては、発光タンパク質のアミノ酸配列を含む限り、特に制限されない。ここで、本明細書において、発光タンパク質は、それ自身が発光可能なタンパク質に加えて、他の発光分子(低分子蛍光リガンド等)に結合性を有するタンパク質も包含する。発光タンパク質としては、例えば基質依存性発光タンパク質、蛍光タンパク質、低分子蛍光リガンド結合性タンパク質等が挙げられる。ドナー発光ドメインとしては、好ましくは基質依存性発光ドメイン(基質依存性発光タンパク質のアミノ酸配列を含むドメイン)が挙げられる。
【0032】
基質依存性発光タンパク質としては、例えばルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ラクタマーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-グルクロニダーゼ、β-グルコシダーゼ等が挙げられ、中でも好ましくはルシフェラーゼが挙げられる。ルシフェラーゼとしては、例えばトゲオキヒオドシエビ由来ルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、ホタルルシフェラーゼ、腔腸動物ルシフェラーゼ、北アメリカツチボタルルシフェラーゼ、コメツキムシルシフェラーゼ、レイルロードワームルシフェラーゼ、細菌ルシフェラーゼ、ガウシアルシフェラーゼ、エクオリン、ヒカリキノコバエルシフェラーゼ等が挙げられる。基質依存性発光タンパク質は基質(例えばルシフェリン(甲虫ルシフェリン等)、カルシウム、セレンテラジン、セレンテラジンの誘導体もしくは類似体等)の存在下で発光することができる。基質依存性発光タンパク質は、アミノ酸の置換、欠失、付加、挿入等の変異が導入されたものであってもよい。
【0033】
蛍光タンパク質としては、例えばGFP、Azami-Green、ZsGreen、GFP2、EGFP、HyPer、Sirius、BFP、CFP、Cerulean、Turquoise、Cyan、TFP1、YFP、Venus、ZsYellow、Banana、KusabiraOrange、RFP、mRuby、DsRed、AsRed、Strawberry、Jred、KillerRed、Cherry、HcRed、mPlum等、或いはこれらの変異蛍光タンパク質が挙げられる。変異蛍光タンパク質としては、例えばアミノ酸の置換、欠失、付加、挿入等の変異のみならず、円順列変異させた蛍光タンパク質も挙げられる。
【0034】
低分子蛍光リガンド結合性タンパク質は、低分子蛍光リガンドに対して生理的条件下で(例えば細胞内で)結合可能なタンパク質である限り、特に制限されない。特定の低分子蛍光リガンドを担体に固定し、候補となるタンパク質を接触させた後、必要に応じて洗浄し、結合したタンパク質を同定することにより、低分子蛍光リガンド結合性タンパク質又はその候補を容易にスクリーニングすることができる。また、Halo Tag等の市販品を利用することもできる。低分子蛍光リガンドとしては、例えばAlexa Fluor色素、Bodipy色素、Cy色素、フルオレセイン、ダンシル、ウンベリフェロン、蛍光性ミクロスフェア、発光性ミクロスフェア、蛍光性ナノ結晶、マリーナブルー、カスケードブルー、カスケードイエロー、パシフィックブルー、オレゴングリーン、テトラメチルローダミン、ローダミン、テキサスレッド、希土類元素キレート、またはこれらの任意の組み合わせもしくは誘導体が挙げられる。また、上記のより詳細な具体例として、或いは上記とは別の例として、618 fluorescent Ligand、7-AAD、Alexa Fluor(登録商標)488、Alexa Fluor(登録商標)350、Alexa Fluor(登録商標)546、Alexa Fluor(登録商標)555、Alexa Fluor(登録商標)568、Alexa Fluor(登録商標)594、Alexa Fluor(登録商標)633、Alexa Fluor(登録商標)647、CyTM 2、DsRED、EGFP、EYFP、FITC、PerCPTM、R-Phycoerythrin、Propidium Iodide、AMCA、DAPI、ECFP、MethylCoumarin、Allophycocyanin、CyTM 3、CyTM 5、SYBR(登録商標) Green、Rhodamine-123、Tetramethylrhodamine、Texas Red(登録商標)、PE、PE-CyTM5、PE-CyTM5.5、PE-CyTM7、APC、APC-CyTM7、オレゴングリーン、カルボキシフルオレセイン、カルボキシフルオレセインジアセテート、ピレン、HyLite等も挙げられる。
【0035】
アクセプター発光ドメインは、発光するアクセプター発光ドメインと近接した場合に発光共鳴エネルギー移動(BRET、FRET等)が起こるものである限り、特に制限されない。アクセプター発光ドメインとしては、例えば低分子蛍光リガンド結合性タンパク質(低分子蛍光リガンド結合性タンパク質のアミノ酸配列を含むドメイン)、蛍光タンパク質(蛍光タンパク質のアミノ酸配列を含むドメイン)等が挙げられ、好ましくは低分子蛍光リガンド結合性タンパク質が挙げられる。低分子蛍光リガンド結合性タンパク質、蛍光タンパク質については、上記説明のとおりである。
【0036】
DGCR8ドメインは、DGCR8のアミノ酸配列を含む限り、特に制限されない。DGCR8はDroshaに結合してDrosha複合体を構成する。DGCR8にはRNA結合ドメインがあり、pri-miRNAに結合することで、Droshaによるpri-miRNAのプロセシングを補助する。ヒトDGCR8はNCBI(National Center for Biotechnology Information)のデータベースにおいてGene ID: 54487(DGCR8, microprocessor complex subunit [Homo sapiens (human)])で登録されている。ヒトDGCR8のアミノ酸配列の一例を配列番号1に示す。DGCR8のアミノ酸配列においては、1若しくは複数個(例えば2~8個、好ましくは2~4個、より好ましくは2個)のアミノ酸が変異(例えば置換、欠失、付加、挿入等、好ましくは置換、より好ましくは保存的置換)が導入されていてもよい。
【0037】
MeCP2ドメインは、MeCP2のアミノ酸配列を含む限り、特に制限されない。MeCP2は、Drosha複合体と会合し、miRNAのプロセシングに関与する分子である。ヒトMeCP2はNCBI(National Center for Biotechnology Information)のデータベースにおいてGene ID: 4204(methyl-CpG binding protein 2 [Homo sapiens (human)])で登録されている。ヒトMeCP2のアミノ酸配列の一例を配列番号3(long isoform)、配列番号11(short isoform)に示す。MeCP2のアミノ酸配列においては、1若しくは複数個(例えば2~8個、好ましくは2~4個、より好ましくは2個)のアミノ酸が変異(例えば置換、欠失、付加、挿入等、好ましくは置換、より好ましくは保存的置換)が導入されていてもよい。
【0038】
本発明の好ましい一態様において、MeCP2ドメインは変異型MeCP2タンパク質のアミノ酸配列を含むことが好ましい。変異型MeCP2タンパク質が有する変異は、特に制限されるものではないが、好ましくはレット症候群患者における変異、すなわちレット症候群患者のMeCP2が有する変異であることが好ましい。このような変異としては、例えばR168X(配列番号3のN末端から180番目のアミノ酸(アルギニン)のナンセンス変異、配列番号11のN末端から168番目のアミノ酸(アルギニン)のナンセンス変異、又はそれらに対応する変異)、R255X(配列番号3のN末端から267番目のアミノ酸(アルギニン)のナンセンス変異、配列番号11のN末端から255番目のアミノ酸(アルギニン)のナンセンス変異、又はそれらに対応する変異)、R270X(配列番号3のN末端から282番目のアミノ酸(アルギニン)のナンセンス変異、配列番号11のN末端から270番目のアミノ酸(アルギニン)のナンセンス変異、又はそれらに対応する変異)等が挙げられる。なお、本明細書において、「対応する変異」とは、2つの配列をBLAST(設定はデフォルト)で比較した場合に、アライメント配列上同一の位置の置換であることを示す。例えば、上記の場合であれば、配列番号3のN末端から180番目のアミノ酸(アルギニン)のナンセンス変異に対応する置換とは、配列番号3と対象アミノ酸配列と配列比較して得られるアライメント配列において、対象アミノ酸配列において、配列番号3における上記180番目のアミノ酸(アルギニン)と同一の位置のアミノ酸の変異を示す。レット症候群患者における変異としては、上記以外にも、R133C、T158M、R225R、R306C等(いずれも番号は配列番号11中のアミノ酸番号)が挙げられる。また、本発明の一態様においては、変異型MeCP2タンパク質が、ナンセンス変異及び/又はフレームシフト変異を有することが好ましい。レット症候群患者における変異やナンセンス変異及び/又はフレームシフト変異を有するMeCP2ドメインを使用し、発光共鳴エネルギー移動のシグナルが正常化することを指標とすることにより、MeCP2の相互作用異常に基づく疾患やmiRNA発現量異常に基づく疾患(例えば、レット症候群、その関連疾患等)の予防又は治療薬或いはその候補物質をスクリーニングできることができる。
【0039】
ポリペプチドAにおいては、ドナー発光ドメインがDGCR8ドメインのN末端側に配置されている。すなわち、ポリペプチドAにおいては、N末端側から、ドナー発光ドメイン、DGCR8ドメインの順に配置されている。ドナー発光ドメインとDGCR8ドメインの間には他のアミノ酸配列が含まれることができる。
【0040】
ポリペプチドBにおいては、アクセプター発光ドメインがMeCP2ドメインのN末端側に配置されている。すなわち、ポリペプチドBにおいては、N末端側から、アクセプター発光ドメイン、MeCP2ドメインの順に配置されている。アクセプター発光ドメインとMeCP2ドメインの間には他のアミノ酸配列が含まれることができる。
【0041】
他のアミノ酸配列としては、特に制限されず、発現ベクターのMCSと他のドメインコード配列との間の配列や、リンカー配列等が挙げられる。他のアミノ酸配列の長さ(アミノ酸残基数)は特に制限されず、例えば0~100、0~50、0~20、又は0~10である。
【0042】
ポリペプチドA及びポリペプチドBは、発光共鳴エネルギー移動を大きく阻害しない限りにおいて、上記以外の他の配列を含んでいてもよい。その他の配列としては、例えば各種シグナル配列(例えば核移行シグナル、核外移行シグナル等)、タンパク質タグ(例えばビオチン、Hisタグ、FLAGタグ、Haloタグ、MBPタグ、HAタグ、Mycタグ、V5タグ、PAタグ等)が挙げられる。
【0043】
ポリヌクレオチドAは、ポリペプチドAのコード配列を含む。また、ポリヌクレオチドBは、ポリペプチドBのコード配列を含む。ポリペプチドAのコード配列は、ポリペプチドAをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドである限り、特に制限されない。ポリペプチドBのコード配列は、ポリペプチドBをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドである限り、特に制限されない。
【0044】
ポリヌクレオチドAとポリヌクレオチドBは、同一分子であってもよいし、互いに異なる分子であってもよい。
【0045】
ポリヌクレオチドA/ポリヌクレオチドBは、その一態様において、ポリペプチドA/ポリペプチドBの発現カセットを含む。
【0046】
ポリペプチドA/ポリペプチドBの発現カセットは、細胞内でポリペプチドA/ポリペプチドBを発現可能なポリヌクレオチドである限り特に制限されない。ポリペプチドA/ポリペプチドBの発現カセットの典型例としては、プロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置されたポリペプチドA/ポリペプチドBのコード配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0047】
対象細胞の由来生物種としては、特に制限されず、例えば腸内細菌科細菌等の細菌、酵母等の真菌、動物、植物が挙げられる。動物としては、特にヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカ等の種々の哺乳類動物以外にも、非哺乳類脊椎動物、無脊椎動物等も挙げられる。本発明の好ましい一態様において、対象細胞の由来生物種としては、哺乳類、大腸菌、酵母、枯草菌、ゼブラフィッシュ、メダカ、昆虫等が挙げられる。また、細胞の種類としても、特に制限されず、各種組織由来又は各種性質の細胞、例えば血液細胞、造血幹細胞・前駆細胞、配偶子(精子、卵子)、線維芽細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、神経細胞、肝細胞、ケラチン生成細胞、筋細胞、表皮細胞、内分泌細胞、ES細胞、iPS細胞、組織幹細胞、がん細胞等が挙げられる。本発明は、その一態様において、ポリヌクレオチドA及び/又はポリヌクレオチドBを含む細胞、に関する。
【0048】
ポリペプチドA/ポリペプチドBの発現カセットに含まれるプロモーターとしては、特に制限されず、対象細胞に応じて適宜選択することができる。プロモーターとしては、例えばpol II系プロモーターを各種使用することができる。pol II系プロモーターとしては、特に制限されないが、例えばCMVプロモーター、EF1プロモーター、SV40プロモーター、MSCVプロモーター、hTERTプロモーター、βアクチンプロモーター、CAGプロモーター等が挙げられる。その他にも、プロモーターとして、例えばtrcやtac等のトリプトファンプロモーター、lacプロモーター、T7プロモーター、T5プロモーター、T3プロモーター、SP6プロモーター、アラビノース誘導プロモーター、コールドショックプロモーター、テトラサイクリン誘導性プロモーター等が挙げられる。
【0049】
ポリペプチドA/ポリペプチドBの発現カセットは、必要に応じて、他のエレメント(例えば、マルチクローニングサイト(MCS)、薬剤耐性遺伝子、複製起点、エンハンサー配列、リプレッサー配列、インスレーター配列、薬剤耐性遺伝子コード配列などが挙げられる。)を含んでいてもよい。MCSは複数(例えば2~50、好ましくは2~20、より好ましくは2~10)個の制限酵素サイトを含むものであれば特に制限されない。ポリペプチドA/ポリペプチドBが機能性ドメインを含まない場合であれば、該MCSは、任意の機能性ドメインのコード配列を挿入に使用することができる。
【0050】
薬剤耐性遺伝子としては、例えばクロラムフェニコール耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0051】
ポリペプチドA/ポリペプチドBの発現カセットは、これのみで、或いは他の配列と共に発現ベクターを構成していてもよい。ベクターの種類は、特に制限されず、例えば動物細胞発現プラスミド等のプラスミドベクター; レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクター等が挙げられる。また、その他にも、ベクターとしては、例えば、大腸菌においてはpBR322誘導体に代表されるColE1系プラスミド、p15Aオリジンを持つpACYC系プラスミド、pSC系プラスミド、Bac系等のF因子由来ミニFプラスミドが挙げられる。
【0052】
ポリヌクレオチドA/ポリヌクレオチドBは、公知の遺伝子工学的手法に従って容易に作製することができる。例えば、PCR、制限酵素切断、DNA連結技術等を利用して作製することができる。
【0053】
3.試薬、キット
本発明は、その一態様において、ポリヌクレオチドA及び/又はポリヌクレオチドBを含む、試薬或いはキット、に関する。
【0054】
本発明の試薬は、必要に応じてさらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、特に限定されるものではないが、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、キレート剤等が挙げられる。
【0055】
本発明のキットは、必要に応じて、遺伝子導入試薬、細胞、緩衝液等、本発明の細胞や非ヒト動物の作製、本発明のスクリーニング方法の実施等に必要な他の材料、試薬、器具等を適宜含んでいてもよい。
【0056】
本発明の試薬、キットにおいては、ポリヌクレオチドA及び/又はポリヌクレオチドBは、細胞に含まれている状態であってもよい。
【0057】
本発明の試薬、キットは、DGCR8-MeCP2間相互作用解析に用いることができる。好適には、MeCP2の相互作用異常に基づく疾患やmiRNA発現量異常に基づく疾患(例えばレット症候群、その関連疾患等)の予防又は治療薬或いはその候補物質をスクリーニングに用いることができる。
【0058】
4.スクリーニング方法
本発明は、その一態様において、ポリヌクレオチドA及びポリヌクレオチドBを含む細胞の、被験物質の存在下における発光共鳴エネルギー移動のシグナル強度を指標とする、レット症候群又はその関連疾患の予防又は治療薬のスクリーニング方法、に関する。
【0059】
ポリヌクレオチドA、ポリヌクレオチドB、細胞については、上記のとおりである。
【0060】
被験物質の種類は予防又は治療薬の候補になり得る限り特に限定されない。例えば、タンパク質、ペプチド、非ペプチド性化合物(ヌクレオチド、アミン、糖質、脂質等)、有機低分子化合物、無機低分子化合物、醗酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液等が挙げられる。医薬品、栄養食品、食品添加物、農薬、香粧品(化粧品)等の既存成分或いは候補成分も好ましい被験物質の一つである。
【0061】
「被験物質の存在下」とは、ポリヌクレオチドA及びポリヌクレオチドBを含む細胞(好ましくは、被験物質接触時にポリペプチドA及びポリペプチドBを発現する細胞)に被験物質が接触できる状態である限り特に制限されない。被験物質を接触させる態様は、特に制限されず、対象の種類に応じて適宜設定することができる。接触の態様としては、例えば培地への添加等が挙げられる。
【0062】
基質依存性発光ドメイン、低分子蛍光リガンド結合性ドメイン等を採用する場合、基質、低分子蛍光リガンド等を細胞に接触させるタイミング、及び被験物質を接触させるタイミングは、特に制限されない。基質、低分子蛍光リガンド等を細胞に接触させてから、被験物質を細胞に接触させることもできるし、その逆とすることもできる。
【0063】
被験物質の接触時間は、被験物質がDGCR8/MeCP2の相互作用の調節作用を有する場合に、該被験物質がDGCR8/MeCP2の相互作用を調節できる程度の時間である限り、特に制限されない。該接触時間は、例えば1秒~72時間程度である。
【0064】
発光共鳴エネルギー移動シグナル強度の測定は、公知の方法に従って又は準じて行うことができる。例えば、ドナー発光ドメインが発光した状態で検出されるアクセプター発光ドメインの蛍光波長光の強度を測定することによって、行われる。
【0065】
本発明のスクリーニング方法は、より具体的には、下記工程(a)、及び工程(b)を含むことができる:
(a)ポリヌクレオチドA及びポリヌクレオチドBを含む細胞の1又は複数種と被験物質とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた前記細胞における被験シグナル強度を測定し、該被験シグナル強度と、被験物質を接触させない前記細胞における対照シグナル強度と比較する工程。
【0066】
本発明のスクリーニング方法は、より具体的な一態様においては、被験物質の存在下における発光共鳴エネルギー移動シグナル強度(被験シグナル強度A)を、被験物質の非存在下における発光共鳴エネルギー移動シグナル強度(対照シグナル強度A)と比較した結果、両者に差があった場合(例えば、両者の差が1.1倍以上、1.3倍以上、2倍以上、5倍以上、10倍以上、20倍以上、50倍以上、100倍以上、200倍以上、500倍以上、1000倍以上の場合)に、レット症候群又はその関連疾患の予防又は治療薬或いはその候補物質として選択することにより行うことができる。
【0067】
本発明のスクリーニング方法は、より具体的な一態様においては、
対照シグナル強度1(MeCP2ドメインが野生型MeCP2タンパク質のアミノ酸配列を含むポリペプチドBのコード配列を含むポリヌクレオチドBを含む細胞を使用する場合の、被験物質の非存在下における発光共鳴エネルギー移動シグナル強度)と、
対照シグナル強度2(MeCP2ドメインが変異型MeCP2タンパク質のアミノ酸配列を含むポリペプチドBのコード配列を含むポリヌクレオチドBを含む細胞を使用する場合の、被験物質の非存在下における発光共鳴エネルギー移動シグナル強度)
との間に差(差1)がある場合において、
被験シグナル強度1(MeCP2ドメインが変異型MeCP2タンパク質のアミノ酸配列を含むポリペプチドBのコード配列を含むポリヌクレオチドBを含む細胞を使用する場合の、被験物質の存在下における発光共鳴エネルギー移動シグナル強度)と、
対照シグナル強度1
との間の差(差2)が、
差1よりも小さい(例えば、差1の値100%に対して、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下)或いは
差2と差1の正負(対照シグナル強度1を基準とした場合の正負)が逆転する場合、に、
レット症候群又はその関連疾患の予防又は治療薬或いはその候補物質として選択することにより行うことができる。
【実施例0068】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0069】
実施例1.NanoLuc-DGCR8発現ベクターの作製
DGCR8タンパク質のN末端に発光共鳴エネルギー移動のドナー発光タンパク質であるNanoLuc(トゲオキヒオドシエビ由来ルシフェラーゼ、基質依存的に発光)が付加された融合タンパク質の発現ベクターを作製した。具体的には、NanoLucコード配列の3’側直下にマルチクローニングサイト(MCS)が配置されてなるベクター(pNLF1-N [CMV/Hygro] Vector、Accession Number KF811457)のMCSに、MCS中のEcoRIサイト及びEcoRVサイトを利用して、野生型ヒトDGCR8タンパク質(アミノ酸配列:配列番号1)のコード配列(塩基配列:配列番号2)に前記制限酵素サイトが付加されたポリヌクレオチドを挿入し、目的の発現ベクター(pNLF1-N-DGCR8)を得た。
【0070】
実施例2.HaloTag-MeCP2 WT発現ベクターの作製
MeCP2タンパク質のN末端に発光共鳴エネルギー移動のアクセプター発光タンパク質であるHaloTag(低分子蛍光リガンドである618 fluorescent Ligandに対する結合性を有する)が付加された融合タンパク質の発現ベクターを作製した。具体的には、HaloTagコード配列の3’側直下にMCSが配置されてなるベクター(pHTN Halo Tag CMV-neo Vector、Accession Number JF920304)のMCSに、MCS中のEcoRIサイト及びEcoRVサイトを利用して、野生型ヒトMeCP2タンパク質(アミノ酸配列:配列番号3)のコード配列(塩基配列:配列番号4)に前記制限酵素サイトが付加されたポリヌクレオチドを挿入し、目的の発現ベクター(pHTN-MeCP2 WT)を得た。
【0071】
実施例3.HaloTag-MeCP2 R168X発現ベクターの作製
野生型ヒトMeCP2タンパク質のコード配列に代えて、レット症候群患者における変異(R168X:R168のナンセンス変異)を有する変異型ヒトMeCP2タンパク質(アミノ酸配列:配列番号5)のコード配列(塩基配列:配列番号6)を含む以外はpHTN-MeCP2 WT(実施例2)と同じ配列の発現ベクター(pHTN-MeCP2 R168X)を、pHTN-MeCP2 WTのsite-directed mutagenesisにより作製した。
【0072】
実施例4.HaloTag-MeCP2 R255X発現ベクターの作製
野生型ヒトMeCP2タンパク質のコード配列に代えて、レット症候群患者における変異(R255X:R255のナンセンス変異)を有する変異型ヒトMeCP2タンパク質(アミノ酸配列:配列番号7)のコード配列(塩基配列:配列番号8)を含む以外はpHTN-MeCP2 WT(実施例2)と同じ配列の発現ベクター(pHTN-MeCP2 R255X)を、pHTN-MeCP2 WTのsite-directed mutagenesisにより作製した。
【0073】
実施例5.HaloTag-MeCP2 R270X発現ベクターの作製
野生型ヒトMeCP2タンパク質のコード配列に代えて、レット症候群患者における変異(R270X:R270のナンセンス変異)を有する変異型ヒトMeCP2タンパク質(アミノ酸配列:配列番号9)のコード配列(塩基配列:配列番号10)を含む以外はpHTN-MeCP2 WT(実施例2)と同じ配列の発現ベクター(pHTN-MeCP2 R270X)を、pHTN-MeCP2 WTのsite-directed mutagenesisにより作製した。
【0074】
実施例6.DGCR8-MeCP2間相互作用の検出1
pNLF1-N-DGCR8とpHTN-MeCP2 WTを導入した細胞を用いて、発光共鳴エネルギー移動のシグナルに基づいて、DGCR8-MeCP2間相互作用を検出した。具体的には以下のようにして行った。
【0075】
U2OS細胞をディッシュ(35mmガラスボトムディッシュ(Mat Tek))に、細胞密度が2.5×105 cell / dishになるように播種し、細胞を培養した。播種から約24時間後、トランスフェクション試薬(FuGENE HD(プロメガ E2311))を用いて、当該試薬のプロトコルに従って、発現ベクター(pNLF1-N-DGCR8(2μg)及び/又はpHTN-MeCP2 WT(2μg))を細胞に導入し、培養を継続した。発現ベクターの導入から約20時間後、618 fluorescent Ligand(NanoBRET Nano-Glo Detection System、Promega社製)を培地(1mL)に添加し(培地終濃度100nM)、培養を継続した。蛍光リガンドの培地添加から約24時間後、ディッシュから500μLの培地を除去し、代わりに、2μLのNanoLuc基質(NanoBRET Nano-Glo Detection System、Promega社製)を予め混合した500μLの培地ディッシュに添加し、蛍光顕微鏡(LV200、オリンパス社製)で発光共鳴エネルギー移動(BRET)シグナルを検出及び測定した。観察条件は次のとおりである:カメラ(ImagEM9100-13(浜松フォトニクス))、対物レンズ(UPlanFLN 100× oil Ph3、 UPlanFLN 40× Ph2)、結像レンズ(0.5×)、露光時間(明視野:100ms、蛍光:100ms~3s (EMゲイン100)、NanoLuc発光:2~30s (EMゲイン1200)、BRET:2~30s (EMゲイン1200))、フィルター(NanoLuc発光:BP460-495 (擬似カラー:青)、BRET:610ALP (擬似カラー:赤)、HaloTag蛍光:BP460-480GFP / 610ALP (擬似カラー:黄)、GFP蛍光:BP460-480GFP / BP495-540HQ (擬似カラー:緑))。
【0076】
撮影した1~5の視野中(すべて同じディッシュ)に存在する細胞のうち、以下の組み合わせの遺伝子発現を伴う細胞について、核と細胞質におけるBRET/NanoLuc値の算出を行った。
I.NanoLuc / HaloTag (+/+):NanoLucとHaloTagが共に発現する細胞(N=3)
II.NanoLuc / HaloTag (+/-):NanoLucのみ発現している細胞(N=3)
III.NanoLuc / HaloTag (-/-):NanoLuc、HaloTagともに発現していない細胞(N=3)。
【0077】
BRET / NanoLuc値の算出方法については次のとおりである。まず、細胞中の核と細胞質にそれぞれROIを3つずつとバックグラウンドを設定した(発光量の数値としては、ROI内の輝度値の平均値を使用)。次に、NanoLuc、BRETそれぞれのチャンネルのROIにおいて、各ROIの発光量からBGの発光量を引いた値を算出した(NanoLucの発光量からBGの値を引いた値:N-BGで表示、BRETの発光量からBGの値を引いた値:B-BGで表示)。N-BGとB-BGの数値を用いて各ROIにおけるBRET/NanoLucの値(B-BG/N-BG)を算出した。さらに、核に設定した3つのROIと細胞質に設定した3つのROIそれぞれのBRET/NanoLucの平均値を算出する。核と細胞質に設定した3つROIにおけるBRET/NanoLucの平均値を利用して、グラフを作成した。
【0078】
結果を図1に示す。図1に示されるように、NanoLuc / HaloTag (+/+)では核におけるBRET/NanoLuc値が細胞質に比べて明らかに高かった。この結果は、DGCR8及びMeCP2を含むDrosha複合体が核内で形成される知見と一致する。以上より、MeCP2とDrosha複合体との相互作用をNano-BRETシステムにより検出することに成功した。
【0079】
実施例7.DGCR8-MeCP2間相互作用の検出2
pNLF1-N-DGCR8と、pHTN-MeCP2 R168X、pHTN-MeCP2 R255X、又はpHTN-MeCP2 R270Xとを導入した細胞を用いて、発光共鳴エネルギー移動のシグナルに基づいて、DGCR8-MeCP2間相互作用を検出した。具体的には、pHTN-MeCP2 WTに代えて、pHTN-MeCP2 R168X、pHTN-MeCP2 R255X、又はpHTN-MeCP2 R270Xを使用する以外は、実施例6と同様にして行った。
【0080】
結果を図2~4に示す。レット症候群患者MeCP2ナンセンス変異体はDGCR8との異常な相互作用を示すことが分かった。この検出系を用い、発光共鳴エネルギー移動のシグナルが正常化することを指標とすることにより、レット症候群の予防又は治療薬或いはその候補物質をスクリーニングできることが分かった。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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