(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181353
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】垂直共振型面発光レーザ
(51)【国際特許分類】
H01S 5/183 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
H01S5/183
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088263
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【弁理士】
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】久保田 良輔
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AC03
5F173AC13
5F173AC35
5F173AC42
5F173AC52
5F173AF92
5F173AF96
5F173AH02
5F173AP67
5F173AR56
(57)【要約】
【課題】小さい近視野像を有するレーザ光を出射できる垂直共振型面発光レーザを提供する。
【解決手段】本開示の一側面に係る垂直共振型面発光レーザは、III-V族化合物半導体を含む主面を有する基板と、主面上に設けられたポストを有する半導体構造物と、を備える。主面は、(100)面に対して2°よりも大きいオフ角を有する。ポストは、主面に交差する第1方向に配列された活性層及び電流狭窄層を含む。電流狭窄層は、アパーチャー部と、アパーチャー部を取り囲む絶縁部と、を含む。電流狭窄層は、第1方向に直交する断面において一軸対称形状又は非対称形状を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
III-V族化合物半導体を含む主面を有する基板と、
前記主面上に設けられたポストを有する半導体構造物と、
を備え、
前記主面は、(100)面に対して2°よりも大きいオフ角を有し、
前記ポストは、前記主面に交差する第1方向に配列された活性層及び電流狭窄層を含み、
前記電流狭窄層は、アパーチャー部と、前記アパーチャー部を取り囲む絶縁部と、を含み、
前記電流狭窄層は、前記第1方向に直交する断面において一軸対称形状又は非対称形状を有する、垂直共振型面発光レーザ。
【請求項2】
前記オフ角は6°以上である、請求項1に記載の垂直共振型面発光レーザ。
【請求項3】
前記アパーチャー部は、前記断面において非対称形状を有する、請求項1又は請求項2に記載の垂直共振型面発光レーザ。
【請求項4】
前記アパーチャー部は、III族元素としてアルミニウムを含むIII-V族化合物半導体を含み、前記絶縁部は、アルミニウム酸化物を含む、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の垂直共振型面発光レーザ。
【請求項5】
前記半導体構造物は、第1分布ブラッグ反射器及び第2分布ブラッグ反射器を含み、
前記第1方向において、前記活性層は、前記第1分布ブラッグ反射器と前記第2分布ブラッグ反射器との間に配置される、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の垂直共振型面発光レーザ。
【請求項6】
前記垂直共振型面発光レーザは、前記電流狭窄層を通って前記活性層に電流が供給されることによって、複数のモードを含むレーザ光を出射するように構成され、
前記複数のモードは、最大波長を有する0次モードと、2番目に大きい波長を有する1次モードと、3番目に大きい波長を有する2次モードと、を含み、
前記電流の値が1.5mA以上10mA以下の範囲において、前記複数のモードの光出力のうち前記2次モードの光出力が最大である、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の垂直共振型面発光レーザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、垂直共振型面発光レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、III-V族化合物半導体を含む主面を有する基板と、主面上に設けられたポストを有する半導体構造物とを備える垂直共振型面発光レーザを開示する。ポストは、主面に直交する方向に配列された活性層及び電流狭窄層を含む。垂直共振型面発光レーザは、複数のモードを含むレーザ光を出射する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、基板の主面が小さいオフ角を有する場合、低次モードではなく高次モードが支配的になることを見出した。低次モードは、レーザ光の横断面の中心において大きい光出力を有する。高次モードは、レーザ光の横断面の外側において大きい光出力を有する。高次モードが支配的になると、近視野像(NFP:Near Field Pattern)が広がる傾向にある。
【0005】
本開示は、小さい近視野像を有するレーザ光を出射できる垂直共振型面発光レーザを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る垂直共振型面発光レーザは、III-V族化合物半導体を含む主面を有する基板と、前記主面上に設けられたポストを有する半導体構造物と、を備え、前記主面は、(100)面に対して2°よりも大きいオフ角を有し、前記ポストは、前記主面に交差する第1方向に配列された活性層及び電流狭窄層を含み、前記電流狭窄層は、アパーチャー部と、前記アパーチャー部を取り囲む絶縁部と、を含み、前記電流狭窄層は、前記第1方向に直交する断面において一軸対称形状又は非対称形状を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、小さい近視野像を有するレーザ光を出射できる垂直共振型面発光レーザが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る垂直共振型面発光レーザを模式的に示す平面図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係る垂直共振型面発光レーザの電流狭窄層の断面図である。
【
図4】
図4は、第1変形例に係る電流狭窄層の断面図である。
【
図5】
図5は、第2変形例に係る電流狭窄層の断面図である。
【
図6】
図6は、他の実施形態に係る垂直共振型面発光レーザの電流狭窄層の断面図である。
【
図7】
図7は、他の実施形態に係る垂直共振型面発光レーザの電流狭窄層の断面図である。
【
図8】
図8は、第1実験例、第2実験例及び第3実験例の垂直共振型面発光レーザから出射されるレーザ光の光出力分布を示す図である。
【
図9】
図9は、第1実験例の垂直共振型面発光レーザにおいて、バイアス電流とレーザ光の各モードの光出力との関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、第2実験例の垂直共振型面発光レーザにおいて、バイアス電流とレーザ光の各モードの光出力との関係を示すグラフである。
【
図11】
図11は、第3実験例の垂直共振型面発光レーザにおいて、バイアス電流とレーザ光の各モードの光出力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
一実施形態に係る垂直共振型面発光レーザは、III-V族化合物半導体を含む主面を有する基板と、前記主面上に設けられたポストを有する半導体構造物と、を備え、前記主面は、(100)面に対して2°よりも大きいオフ角を有し、前記ポストは、前記主面に交差する第1方向に配列された活性層及び電流狭窄層を含み、前記電流狭窄層は、アパーチャー部と、前記アパーチャー部を取り囲む絶縁部と、を含み、前記電流狭窄層は、前記第1方向に直交する断面において一軸対称形状又は非対称形状を有する。
【0010】
上記垂直共振型面発光レーザでは、基板の主面が比較的大きいオフ角を有する。この場合、出射されるレーザ光において、低次モードが支配的となる。よって、小さい近視野像を有するレーザ光を出射できる。低次モードが支配的となる理由は、電流狭窄層のアパーチャー部の断面における電流分布の偏りが緩和されるからと推測される。
【0011】
さらに、電流狭窄層の断面は、一軸対称形状又は非対称形状を有する。この場合、電流狭窄層の断面が2つ以上の軸に対して対称な形状を有する場合に比べて、活性層に供給される電流の値が変化しても支配的なモードが変化し難い。その結果、電流の値の変化に応じたレーザ光の光出力分布の変化を小さくすることができる。
【0012】
前記オフ角は6°以上であってもよい。
【0013】
前記アパーチャー部は、前記断面において非対称形状を有してもよい。
【0014】
前記アパーチャー部は、III族元素としてアルミニウムを含むIII-V族化合物半導体を含み、前記絶縁部は、アルミニウム酸化物を含んでもよい。この場合、アルミニウムを含むIII-V族化合物半導体を酸化させることによって絶縁部を形成できる。
【0015】
前記半導体構造物は、第1分布ブラッグ反射器及び第2分布ブラッグ反射器を含み、前記第1方向において、前記活性層は、前記第1分布ブラッグ反射器と前記第2分布ブラッグ反射器との間に配置されてもよい。この場合、第1分布ブラッグ反射器と第2分布ブラッグ反射器との間において共振器が形成される。
【0016】
前記垂直共振型面発光レーザは、前記電流狭窄層を通って前記活性層に電流が供給されることによって、複数のモードを含むレーザ光を出射するように構成され、前記複数のモードは、最大波長を有する0次モードと、2番目に大きい波長を有する1次モードと、3番目に大きい波長を有する2次モードと、を含み、前記電流の値が1.5mA以上10mA以下の範囲において、前記複数のモードの光出力のうち前記2次モードの光出力が最大であってもよい。この場合、上記範囲にわたって電流の値が変化しても、レーザ光の光出力分布の変化が小さい。
【0017】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、添付図面を参照しながら本開示の実施形態が詳細に説明される。図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号が用いられ、重複する説明は省略される。図において必要に応じてXYZ座標軸が示される。X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向は互いに交差(例えば直交)する。
【0018】
図1は、一実施形態に係る垂直共振型面発光レーザを模式的に示す平面図である。
図2は、
図1のII-II線に沿った断面図である。
図1及び
図2に示される垂直共振型面発光レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)10は、基板12と半導体構造物STとを備える。
【0019】
基板12は、III-V族化合物半導体を含む主面12aを有する。基板12は、III-V族化合物半導体基板であってもよいし、主面12aに設けられたIII-V族化合物半導体層と、III-V族化合物半導体層を支持するベース基板とを備えてもよい。III-V族化合物半導体は、例えばGaAsを含む。
【0020】
基板12の主面12aは、(100)面に対して2°よりも大きいオフ角を有する。オフ角は6°以上であってもよい。オフ角は25°以下であってもよい。主面12aの法線ベクトル(Z軸方向の正方向)は、例えば(100)面の法線ベクトルである<100>方向から<1-1-1>方向にオフ角だけ傾斜した方向である。X軸方向の正方向は、例えば<01-1>方向からオフ角だけ傾斜した方向となる。Y軸方向の正方向は、例えば<0-1-1>方向からオフ角だけ傾斜した方向となる。
【0021】
半導体構造物STは、主面12a上に設けられたポストPSを有する。ポストPSの周囲には例えばトレンチTRが設けられる。半導体構造物STは、主面12aとポストPSとの間に配置された第1下部分布ブラッグ反射器14を有してもよい。第1下部分布ブラッグ反射器14は、第1導電型(例えばn型)の半導体積層構造を有する。半導体積層構造は、Z軸方向に交互に配列された第1半導体層及び第2半導体層を含む。第1半導体層及び第2半導体層は、互いに異なる屈折率を有する。
【0022】
ポストPSは、主面12aに交差(例えば直交)する第1方向(Z軸方向)に配列された活性層20及び電流狭窄層26を含む。活性層20は例えば量子井戸構造を有する。電流狭窄層26は、アパーチャー部26aと、アパーチャー部26aを取り囲む絶縁部26bとを含む。Z軸方向に沿った第1軸線Ax1はアパーチャー部26aを通る。アパーチャー部26aは、III族元素としてアルミニウムを含むIII-V族化合物半導体を含んでもよい。アパーチャー部26aは、例えばAlGaAsを含む。絶縁部26bは、例えばアルミニウム酸化物を含む。この場合、例えば水等を用いて、アルミニウムを含むIII-V族化合物半導体を酸化させることによって絶縁部26bを形成できる。
【0023】
ポストPSは、活性層20と第1下部分布ブラッグ反射器14との間に配置された第2下部分布ブラッグ反射器16を含んでもよい。第2下部分布ブラッグ反射器16は、第1導電型(例えばn型)の半導体積層構造を有する。半導体積層構造は、Z軸方向に交互に配列された第3半導体層及び第4半導体層を含む。第3半導体層及び第4半導体層は、互いに異なる屈折率を有する。第1下部分布ブラッグ反射器14及び第2下部分布ブラッグ反射器16は、第1分布ブラッグ反射器に含まれる。活性層20は、電流狭窄層26と第2下部分布ブラッグ反射器16との間に配置され得る。活性層20と第2下部分布ブラッグ反射器16との間にスペーサ層18が配置されてもよい。活性層20と電流狭窄層26との間にスペーサ層22が配置されてもよい。
【0024】
ポストPSは、上部分布ブラッグ反射器24(第2分布ブラッグ反射器)を含んでもよい。第1下部分布ブラッグ反射器14及び第2下部分布ブラッグ反射器16と上部分布ブラッグ反射器24との間には、共振器が形成される。上部分布ブラッグ反射器24は、第2導電型(例えばp型)の半導体積層構造を有する。半導体積層構造は、Z軸方向に交互に配列された第5半導体層及び第6半導体層を含む。第5半導体層及び第6半導体層は、互いに異なる屈折率を有する。上部分布ブラッグ反射器24は、電流狭窄層26を含んでもよい。この場合、電流狭窄層26は、上部分布ブラッグ反射器24の上部と下部との間に配置される。電流狭窄層26は、上部分布ブラッグ反射器24と活性層20との間に配置されてもよい。
【0025】
ポストPSの上面及び側面上には、絶縁層50が設けられてもよい。ポストPSの上面において絶縁層50は開口50aを有する。開口50a内には、ポストPSの上面に電気的に接続された第1電極30が設けられてもよい。第1電極30は、第1軸線Ax1を取り囲むリング形状を有する。第1電極30は、配線導体32によりパッド電極34に接続される。トレンチTRの底において、第1下部分布ブラッグ反射器14に電気的に接続された第2電極40が設けられてもよい。第2電極40は、配線導体42によりパッド電極44に接続される。第1電極30及び第2電極40には、バイアス電源60が電気的に接続され得る。具体的には、バイアス電源60は、配線によってパッド電極34及びパッド電極44に接続される。バイアス電源60は、第1電極30と第2電極40との間に電圧を印加することができる。
【0026】
第1電極30と第2電極40との間に電圧が印加されると、電流狭窄層26を通って活性層20にバイアス電流が供給される。これにより、複数のモード(横モード)を含むレーザ光LがZ軸方向に出射される。垂直共振型面発光レーザ10は、電流狭窄層26を通って活性層20にバイアス電流が供給されることによって、複数のモードを含むレーザ光Lを出射するように構成される。レーザ光Lは、第1軸線Ax1に沿って出射される。複数のモードは、0次モード、1次モード、2次モード、・・・n次モードを含む。nは例えば5以上の整数である。0次モードは最大波長を有する。次数が大きくなるに連れて波長は小さくなるとすると、1次モードは2番目に大きい波長を有する。2次モードは、3番目に大きい波長を有する。n次モードはn+1番目に大きい波長を有する。垂直共振型面発光レーザ10では、バイアス電流の値が1.5mA以上10mA以下の範囲又は4mA以上8mA以下の範囲において、複数のモードの光出力のうち2次モードの光出力が最大であってもよい。
【0027】
図3は、電流狭窄層26の断面図である。
図3に示されるように、電流狭窄層26は、Z軸方向に直交する断面(XY断面)において一軸対称形状を有する。一軸対称形状は、単一軸に対して対称な形状である。電流狭窄層26は、X軸方向に沿った第2軸線Ax2のみに対して対称な形状を有する。電流狭窄層26は、XY断面において、第2軸線Ax2以外の全ての軸に対して非対称な形状を有する。第2軸線Ax2上において、第1軸線Ax1から一方の縁までの距離は、第1軸線Ax1から他方の縁までの距離よりも大きい。電流狭窄層26は、XY断面において、例えば第1軸線Ax1を中心とする円弧部分と、Y軸方向に延在する直線部分とを含む形状を有する。円弧部分の中心角は例えば180°より大きい。直線部分の長さは、例えば円弧部分の直径よりも短く、円弧部分の半径よりも大きい。ポストPSもXY断面において電流狭窄層26と同じ形状を有する。
【0028】
アパーチャー部26aは、XY断面において基板12の主面12aと同じオフ角を有する。アパーチャー部26aは、XY断面において非対称形状を有する。アパーチャー部26aは、XY断面において全ての軸に対して非対称な形状を有する。アパーチャー部26aのY軸方向における最大長さは、X軸方向における最大長さよりも大きい。アパーチャー部26aは、例えば互いに異なる長さの三辺を有する三角形の形状を有する。最も長い辺は、Y軸方向に沿って延在する。三角形の各頂点は丸められてもよい。
【0029】
図4は、第1変形例に係る電流狭窄層の断面図である。本変形例では、アパーチャー部26aは、XY断面において非対称形状を有する。アパーチャー部26aは、例えば互いに異なる長さの五辺を有する五角形の形状を有する。最も長い辺は、Y軸方向に沿って延在する。他の四辺は、Y軸方向において、最も長い辺の両端間に位置する。五角形の各頂点は丸められてもよい。
【0030】
図5は、第2変形例に係る電流狭窄層の断面図である。本変形例では、アパーチャー部26aは、XY断面において非対称形状を有する。アパーチャー部26aは、例えば互いに異なる長さの六辺を有する六角形の形状を有する。最も長い辺は、Y軸方向に沿って延在する。他の五辺は、Y軸方向において、最も長い辺の両端間に位置する。六角形の各頂点は丸められてもよい。
【0031】
アパーチャー部26aの形状及び面積は、例えばXY断面における電流狭窄層26の面積、絶縁部26bを形成する際の酸化時間、基板12の主面12aのオフ角等により調整可能である。XY断面における電流狭窄層26の面積が小さいと、アパーチャー部26aの形状は、
図3の三角形の形状に近づく。XY断面における電流狭窄層26の面積が大きいと、アパーチャー部26aの形状は、
図4の五角形の形状に近づく。XY断面における電流狭窄層26の面積が更に大きいと、アパーチャー部26aの形状は、
図5の六角形の形状に近づく。アパーチャー部26aの形状は、他の多角形の形状であってもよいし、曲線を含む形状であってもよい。アパーチャー部26aの面積は、例えば絶縁部26bを形成する際の酸化時間を短くすると、小さくなる。XY断面におけるアパーチャー部26aの面積は、例えば7μm
2以上100μm
2以下又は12μm
2以上100μm
2以下である。アパーチャー部26aの面積が7μm
2より小さいと、バイアス電流を増加させても単一横モード(0次モードのみ)のレーザ発振が維持され、レーザ光Lの中に複数のモードが含まれにくい。アパーチャー部26aの面積が12μm
2より小さいと、バイアス電流が小さいときに、レーザ光Lの中に複数のモードが含まれにくい。
【0032】
図5のXY断面において、電流狭窄層26は、電流狭窄層26の縁とアパーチャー部26aの縁との間の第1距離D1から第5距離D5を有する。第1距離D1から第5距離D5は、XY断面において、時計回りに45°ずつ回転した5つの方向に順に延在する。第1距離D1及び第5距離D5はY軸方向に沿って延在する。第5距離D5は、第2軸線Ax2に対して第1距離D1と反対側に位置する。第2距離D2及び第4距離D4はY軸方向に対して45°傾斜した方向に沿って延在する。第4距離D4は、第2軸線Ax2に対して第2距離D2と反対側に位置する。第3距離D3は、X軸方向に沿って延在する。
【0033】
第3距離D3におけるIII族元素(例えばアルミニウム)の結合手は1本である。一方、第2距離D2及び第4距離D4のそれぞれにおけるIII族元素の結合手は2本である。よって、第3距離D3における酸化プロセスの進行は、第2距離D2及び第4距離D4のそれぞれにおける酸化プロセスの進行よりも遅くなる。したがって、第3距離D3は、第2距離D2及び第4距離D4よりも小さい。
【0034】
第1距離D1及び第5距離D5のそれぞれにおけるIII族元素の結合手は、オフ角が0°である場合に1本である。第1距離D1では、オフ角を大きくするとステップ密度が増加するので、III族元素の結合手は増加する。一方、第5距離D5では、オフ角を大きくしてもIII族元素の結合手は増加しない。よって、第5距離D5における酸化プロセスの進行は、第1距離D1における酸化プロセスの進行よりも遅くなる。したがって、第5距離D5は、第1距離D1よりも小さい。
【0035】
酸化プロセスは三次元的に進行するので、第3距離D3と第5距離D5との間の第4距離D4における酸化プロセスの進行は、第3距離D3と第1距離D1との間の第2距離D2における酸化プロセスの進行よりも遅くなる。したがって、第4距離D4は、第2距離D2よりも小さい。
【0036】
垂直共振型面発光レーザ10では、基板12の主面12aが比較的大きいオフ角を有する。この場合、出射されるレーザ光Lにおいて、低次モード(例えば2次モード)が支配的となる。低次モードは、レーザ光Lの横断面の中心において大きい光出力を有する。高次モードは、レーザ光Lの横断面の外側において大きい光出力を有する。よって、小さい近視野像を有するレーザ光Lを出射できる。低次モードが支配的となる理由は、電流狭窄層26のアパーチャー部26aのXY断面における電流分布の偏りが緩和されるからと推測される。
【0037】
電流狭窄層26のXY断面は、一軸対称形状を有する。この場合、電流狭窄層のXY断面が2つ以上の軸に対して対称な形状を有する場合(例えば電流狭窄層のXY断面が円形又は矩形の場合)に比べて、活性層20に供給されるバイアス電流の値が変化しても支配的なモードが変化し難い。例えば、バイアス電流の値が1.5mA以上10mA以下の範囲において、低次モード(例えば2次モード)の光出力が最大となる。その結果、バイアス電流の値の変化に応じたレーザ光Lの光出力分布の変化を小さくすることができる。
【0038】
主面12aのオフ角が6°以上であると、より低い次数のモードが支配的となる。そのため、バイアス電流の値の変化に応じたレーザ光Lの光出力分布の変化を更に小さくすることができる。
【0039】
図6は、他の実施形態に係る垂直共振型面発光レーザの電流狭窄層の断面図である。本実施形態に係る垂直共振型面発光レーザは、電流狭窄層26に代えて電流狭窄層126を備えること以外は垂直共振型面発光レーザ10と同じ構成を備える。電流狭窄層126は、XY断面における形状が異なること以外は電流狭窄層26と同じ構成を備える。電流狭窄層126は、XY断面において一軸対称形状を有する。電流狭窄層126は、例えば第1軸線Ax1を中心とする半円部分と、Y軸方向に延在する第1直線部分と、半円部分の一端と第1直線部分の一端とを繋ぐ第2直線部分と、半円部分の他端と第1直線部分の他端とを繋ぐ第3直線部分とを含む形状を有する。
【0040】
電流狭窄層126は、アパーチャー部126aと、アパーチャー部126aを取り囲む絶縁部126bとを含む。Z軸方向に沿った第1軸線Ax1はアパーチャー部126aを通る。
【0041】
図7は、他の実施形態に係る垂直共振型面発光レーザの電流狭窄層の断面図である。本実施形態に係る垂直共振型面発光レーザは、電流狭窄層26に代えて電流狭窄層226を備えること以外は垂直共振型面発光レーザ10と同じ構成を備える。電流狭窄層226は、XY断面における形状が異なること以外は電流狭窄層26と同じ構成を備える。電流狭窄層226は、XY断面において非対称形状を有する。電流狭窄層226は、XY断面において全ての軸に対して非対称な形状を有する。電流狭窄層226は、例えば第1軸線Ax1を中心とする半円部分と、Y軸方向に延在する第1直線部分と、半円部分の一端と直線部分の一端とを繋ぐ第2直線部分と、半円部分の他端と直線部分の他端とを繋ぎ第1軸線Ax1を中心とする円弧部分とを含む形状を有する。
【0042】
電流狭窄層226は、アパーチャー部226aと、アパーチャー部226aを取り囲む絶縁部226bとを含む。Z軸方向に沿った第1軸線Ax1はアパーチャー部226aを通る。
【0043】
図6及び
図7に示される実施形態においても垂直共振型面発光レーザ10と同じ作用効果が得られる。
【0044】
以上、本開示の好適な実施形態について詳細に説明されたが、本開示は上記実施形態に限定されない。例えば、XY断面における電流狭窄層26の形状は、多角形であってもよいし、円弧以外の曲線を含む形状であってもよい。XY断面におけるアパーチャー部26aの形状は、円弧等の曲線を含形状であってもよい。
【0045】
以下、第1実験例、第2実験例及び第3実験例の垂直共振型面発光レーザについて説明するが、本開示は以下の例に限定されない。
【0046】
(第1実験例)
垂直共振型面発光レーザ10と同じ構造を有する第1実験例の垂直共振型面発光レーザを作製した。基板12として、GaAs基板を用いた。基板12の主面12aは、(100)面に対して15°のオフ角を有していた。水によりAlGaAs層を酸化することによって、AlGaAsを含むアパーチャー部26aと、アルミニウム酸化物を含む絶縁部26bとを有する電流狭窄層26を形成した。アパーチャー部26aは、XY断面において
図5の六角形の形状を有していた。XY断面におけるアパーチャー部26aの面積は、38μm
2であった。
【0047】
(第2実験例)
基板12の主面12aのオフ角を2°としたこと以外は第1実験例と同様にして、第2実験例の垂直共振型面発光レーザを作製した。
【0048】
(第3実験例)
XY断面における電流狭窄層26及びアパーチャー部26aの各形状を円形としたこと以外は第1実験例と同様にして、第3実験例の垂直共振型面発光レーザを作製した。
【0049】
(評価)
第1実験例、第2実験例及び第3実験例の垂直共振型面発光レーザについて、バイアス電流を4mA、6mA又は8mAと変化させて、Z軸方向から見たレーザ光Lの光出力分布を得た。光出力分布は、レーザ光Lに含まれる全てのモードの光出力を積算することによって得られる。結果を
図8に示す。
【0050】
図8は、第1実験例、第2実験例及び第3実験例の垂直共振型面発光レーザから出射されるレーザ光の光出力分布を示す図である。
図8において、E1の行は実験例1の光出力分布を示す。E2の行は実験例2の光出力分布を示す。E3の行は実験例3の光出力分布を示す。
図8の各光出力分布において、白色部分は、大きい光出力が得られる部分を示す。
図8に示されるように、第3実験例では、バイアス電流が変化するに連れてレーザ光Lの光出力分布が大きく変化した。第1実験例及び第2実験例では、バイアス電流が変化しても、第3実験例に比べてレーザ光Lの光出力分布の変化は小さかった。また、第1実験例では、第2実験例に比べて光出力分布の広がりが小さかった。よって、第1実験例では、第2実験例に比べて小さい近視野像が得られた。
【0051】
図9は、第1実験例の垂直共振型面発光レーザにおいて、バイアス電流とレーザ光の各モードの光出力との関係を示すグラフである。横軸はバイアス電流(mA)を示す。縦軸は光出力(mW)を示す。
図9に示されるように、第1実験例では、バイアス電流の値が1.5mA以上10mA以下の範囲において、2次モードM12の光出力が最大であった。具体的には、2次モードM12の光出力は、0次モードM10、1次モードM11、3次モードM13、4次モードM14及び5次モードM15の各光出力よりも大きかった。よって、第1実験例では2次モードM12が支配的であることが分かる。
【0052】
図10は、第2実験例の垂直共振型面発光レーザにおいて、バイアス電流とレーザ光の各モードの光出力との関係を示すグラフである。横軸はバイアス電流(mA)を示す。縦軸は光出力(mW)を示す。
図10に示されるように、第2実験例では、3次モードM23及び5次モードM25の各光出力が比較的大きかった。0次モードM20、1次モードM21、2次モードM22、4次モードM24及び6次モードM26の各光出力は比較的小さかった。よって、第2実験例では3次モードM23及び5次モードM25が支配的であることが分かる。
【0053】
図11は、第3実験例の垂直共振型面発光レーザにおいて、バイアス電流とレーザ光の各モードの光出力との関係を示すグラフである。横軸はバイアス電流(mA)を示す。縦軸は光出力(mW)を示す。
図11に示されるように、第3実験例では、3次モードM33又は4次モードM34の各光出力が比較的大きかった。0次モードM30、1次モードM31、2次モードM32及び6次モードM36の各光出力は比較的小さかった。よって、第3実験例では3次モードM33又は4次モードM34が支配的であることが分かる。また、バイアス電流を変化させると、支配的なモードが変化することも分かる。
【0054】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0055】
10…垂直共振型面発光レーザ
12…基板
12a…主面
14…第1下部分布ブラッグ反射器
16…第2下部分布ブラッグ反射器
18…スペーサ層
20…活性層
22…スペーサ層
24…上部分布ブラッグ反射器
26…電流狭窄層
26a…アパーチャー部
26b…絶縁部
30…第1電極
32…配線導体
34…パッド電極
40…第2電極
42…配線導体
44…パッド電極
50…絶縁層
50a…開口
60…バイアス電源
126…電流狭窄層
126a…アパーチャー部
126b…絶縁部
226…電流狭窄層
226a…アパーチャー部
226b…絶縁部
Ax1…第1軸線
Ax2…第2軸線
D1…第1距離
D2…第2距離
D3…第3距離
D4…第4距離
D5…第5距離
L…レーザ光
M10…0次モード
M11…1次モード
M12…2次モード
M13…3次モード
M14…4次モード
M15…5次モード
M20…0次モード
M21…1次モード
M22…2次モード
M23…3次モード
M24…4次モード
M25…5次モード
M26…6次モード
M30…0次モード
M31…1次モード
M32…2次モード
M33…3次モード
M34…4次モード
M36…6次モード
PS…ポスト
ST…半導体構造物
TR…トレンチ