IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JRCモビリティ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-偽像信号の抑圧装置および抑圧方法 図1
  • 特開-偽像信号の抑圧装置および抑圧方法 図2
  • 特開-偽像信号の抑圧装置および抑圧方法 図3
  • 特開-偽像信号の抑圧装置および抑圧方法 図4
  • 特開-偽像信号の抑圧装置および抑圧方法 図5
  • 特開-偽像信号の抑圧装置および抑圧方法 図6
  • 特開-偽像信号の抑圧装置および抑圧方法 図7
  • 特開-偽像信号の抑圧装置および抑圧方法 図8
  • 特開-偽像信号の抑圧装置および抑圧方法 図9
  • 特開-偽像信号の抑圧装置および抑圧方法 図10
  • 特開-偽像信号の抑圧装置および抑圧方法 図11
  • 特開-偽像信号の抑圧装置および抑圧方法 図12
  • 特開-偽像信号の抑圧装置および抑圧方法 図13
  • 特開-偽像信号の抑圧装置および抑圧方法 図14
  • 特開-偽像信号の抑圧装置および抑圧方法 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181378
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】偽像信号の抑圧装置および抑圧方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/70 20060101AFI20221201BHJP
【FI】
G01S13/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088295
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】318006365
【氏名又は名称】JRCモビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141678
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】星 将広
(72)【発明者】
【氏名】大垣 翔矢
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB17
5J070AB24
5J070AC01
5J070AC06
5J070AD06
5J070AE09
5J070AF01
5J070AF03
5J070AH12
5J070AH19
5J070AH25
5J070AH31
5J070AH35
5J070AK07
5J070AK13
(57)【要約】
【課題】簡便な機器構成によって偽像成分の抑圧を高精度に行う。
【解決手段】レーダスキャン別の相対速度の値と信号強度情報の値との組み合わせデータを時系列に配列したうえで、時系列の配列を時間軸方向に1つずつシフトさせながら、もとの時系列の配列のままの状態との対比における相関値を計算して配列の先頭のスキャン実行番号と相関値との組み合わせデータを生成するとともに、配列の先頭のスキャン実行番号に基づくスキャン時間と相関値との組み合わせデータに対してフーリエ変換処理を施して周波数スペクトルを生成する特徴量計算部5と、移動体時系列クラスタ各々の周波数スペクトル同士の相関値に基づいて同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせを抽出するとともに、レーダ装置に最も近い移動体時系列クラスタ以外の移動体時系列クラスタを偽像として特定して除去する偽像抑圧部6と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知対象エリアへと電波を送信するとともに前記検知対象エリアからの電波を受信してレーダスキャンを行うレーダ装置から出力されるレーダデータを周波数解析して位置と信号強度と相対速度との組み合わせデータの集合を生成する信号処理部と、
前記位置と信号強度と相対速度との組み合わせデータの集合を用いて物標についてのレーダ信号点のクラスタを生成する物標位置検出部と、
前記クラスタのうち移動体に関するクラスタに関する前記相対速度と前記信号強度に基づく信号強度情報との組み合わせデータを生成する物標計算部と、
前記移動体に関するクラスタ各々の前記相対速度の値と前記信号強度情報の値との組み合わせデータ同士の相関値に基づいて同一の物標に関する移動体に関するクラスタの組み合わせを抽出するとともに、前記同一の物標に関する移動体に関するクラスタの組み合わせに含まれている移動体に関するクラスタの中で前記レーダ装置に最も近い移動体に関するクラスタ以外の移動体に関するクラスタを偽像として特定して除去する偽像抑圧部と、を有する、
ことを特徴とする偽像信号の抑圧装置。
【請求項2】
検知対象エリアへと電波を送信するとともに前記検知対象エリアからの電波を受信してレーダスキャンを行うレーダ装置から出力されるレーダデータを周波数解析して位置と信号強度と相対速度との組み合わせデータの集合を生成する信号処理部と、
前記位置と信号強度と相対速度との組み合わせデータの集合を用いて物標についてのレーダ信号点のクラスタを生成するとともに前記クラスタの追尾処理を行う物標位置検出部と、
前記クラスタのうち移動体に関するクラスタおよび前記移動体に関するクラスタと前記追尾処理で関連づけられている所定の時間長さぶんのクラスタの集まり(「移動体時系列クラスタ」と呼ぶ)に関するレーダスキャン別の前記相対速度と前記信号強度に基づく信号強度情報との組み合わせデータを生成する物標計算部と、
前記移動体時系列クラスタごとに、前記レーダスキャン別の前記相対速度の値と前記信号強度情報の値との組み合わせデータを時系列に配列したうえで、時系列の配列を時間軸方向に1つずつシフトさせながら、もとの時系列の配列のままの状態との対比における相関値を計算して配列の先頭のスキャン実行番号と相関値との組み合わせデータを生成するとともに、前記配列の先頭のスキャン実行番号に基づくスキャン時間と相関値との組み合わせデータに対してフーリエ変換処理を施して周波数スペクトルを生成する特徴量計算部と、
前記移動体時系列クラスタ各々の前記周波数スペクトル同士の相関値に基づいて同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせを抽出するとともに、前記同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせに含まれている移動体時系列クラスタの中で前記レーダ装置に最も近い移動体時系列クラスタ以外の移動体時系列クラスタを偽像として特定して除去する偽像抑圧部と、を有する、
ことを特徴とする偽像信号の抑圧装置。
【請求項3】
検知対象エリアへと電波を送信するとともに前記検知対象エリアからの電波を受信してレーダスキャンを行うレーダ装置から出力されるレーダデータを周波数解析して位置と信号強度と相対速度との組み合わせデータの集合を生成する処理と、
前記位置と信号強度と相対速度との組み合わせデータの集合を用いて物標についてのレーダ信号点のクラスタを生成する処理と、
前記クラスタのうち移動体に関するクラスタに関する前記相対速度と前記信号強度に基づく信号強度情報との組み合わせデータを生成する処理と、
前記移動体に関するクラスタ各々の前記相対速度の値と前記信号強度情報の値との組み合わせデータ同士の相関値に基づいて同一の物標に関する移動体に関するクラスタの組み合わせを抽出する処理と、
前記同一の物標に関する移動体に関するクラスタの組み合わせに含まれている移動体に関するクラスタの中で前記レーダ装置に最も近い移動体に関するクラスタ以外の移動体に関するクラスタを偽像として特定して除去する処理と、を有する、
ことを特徴とする偽像信号の抑圧方法。
【請求項4】
検知対象エリアへと電波を送信するとともに前記検知対象エリアからの電波を受信してレーダスキャンを行うレーダ装置から出力されるレーダデータを周波数解析して位置と信号強度と相対速度との組み合わせデータの集合を生成する処理と、
前記位置と信号強度と相対速度との組み合わせデータの集合を用いて物標についてのレーダ信号点のクラスタを生成するとともに前記クラスタを追尾する処理と、
前記クラスタのうち移動体に関するクラスタおよび前記移動体に関するクラスタと前記追尾する処理で関連づけられている所定の時間長さぶんのクラスタの集まり(「移動体時系列クラスタ」と呼ぶ)に関するレーダスキャン別の前記相対速度と前記信号強度に基づく信号強度情報との組み合わせデータを生成する処理と、
前記移動体時系列クラスタごとに、前記レーダスキャン別の前記相対速度の値と前記信号強度情報の値との組み合わせデータを時系列に配列したうえで、時系列の配列を時間軸方向に1つずつシフトさせながら、もとの時系列の配列のままの状態との対比における相関値を計算して配列の先頭のスキャン実行番号と相関値との組み合わせデータを生成する処理と、
前記配列の先頭のスキャン実行番号に基づくスキャン時間と相関値との組み合わせデータに対してフーリエ変換処理を施して周波数スペクトルを生成する処理と、
前記移動体時系列クラスタ各々の前記周波数スペクトル同士の相関値に基づいて同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせを抽出する処理と、
前記同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせに含まれている移動体時系列クラスタの中で前記レーダ装置に最も近い移動体時系列クラスタ以外の移動体時系列クラスタを偽像として特定して除去する処理と、を有する、
ことを特徴とする偽像信号の抑圧方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、偽像信号の抑圧装置および抑圧方法に関し、具体的には、レーダを用いて移動体をターゲットとして検出する際に多重反射によって生じる偽像成分を抑圧する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダから送信した電波を物標に照射することで距離,方位,速度,および強度の各情報が得られる。この測定のとき、電波は、物標から直接反射して戻ってくる反射波だけでなく、地面や壁などを介して多重反射して戻ってくる反射波を生じ、多重反射して戻ってくる反射波による(別言すると、マルチパスによる)偽像(尚、「虚像」などとも呼ばれる)が発生する。多重反射によって生じる偽像は、実像と類似する信号の位置分布(即ち、点群の集合密度),強度,および速度の成分を有するため、ノイズであるにも関わらず、あたかもそこに目的のターゲットが存在しているかのような結果を返し、周囲の正確なセンシングを煩雑化させる。このため、前述のような偽像を除去・抑圧する技術の確立が大きな課題となっている。
【0003】
実像と偽像とを区別する従来の技術として、電波が伝搬する往路と復路とが一致しているか否かを判断する手法(特許文献1参照)や、CFAR(Constant False Alarm Rate の略)アルゴリズムを用いて動的しきい値処理によってクラッタ(即ち、偽像を含むノイズ成分)とターゲットとを区別する手法(特許文献2参照)、および、検出したレーダ信号点の位置に相当する各所をカメラで撮像して画像処理にてターゲットの存在が確認できない位置のレーダ信号点は偽像であると判断する手法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-186943号公報
【特許文献2】特開2004-271262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、CFARアルゴリズムには大別してCA-CFARとOS-CFARとの2種類の手法がある。それぞれの特性として、CA-CFARは、小さい演算量で実現できるものの、しきい値計算にターゲットが含まれることがあるので実像の見逃しが発生する可能性があることが挙げられ、また、OS-CFARは、しきい値計算にターゲットが含まれる確率が小さいので安定したしきい値を得ることができるものの、演算量が大きくなることが挙げられる。そして、実像の信号特性と偽像の信号特性とが大きく異なる場合にはCFARアルゴリズムを用いるしきい値処理でクラッタ成分を有効に抑圧することができるものの、高強度の反射物によって生じるサイドローブやマルチパスによって生じる偽像は実像と同等の強度情報や速度情報を持つことがあるため、これらが偽像成分であることを識別して抑圧することは困難である、という問題がある。
【0006】
また、レーダ装置とカメラとを用いて実像と偽像とを区別する場合には、装置構成が大掛かりになる、という問題がある。
【0007】
そこで本発明は、簡便な機器構成によって偽像成分の抑圧を高精度に行うことが可能な偽像信号の抑圧装置および抑圧方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明に係る偽像信号の抑圧装置は、検知対象エリアへと電波を送信するとともに前記検知対象エリアからの電波を受信してレーダスキャンを行うレーダ装置から出力されるレーダデータを周波数解析して位置と信号強度と相対速度との組み合わせデータの集合を生成する信号処理部と、前記位置と信号強度と相対速度との組み合わせデータの集合を用いて物標についてのレーダ信号点のクラスタを生成する物標位置検出部と、前記クラスタのうち移動体に関するクラスタに関する前記相対速度と前記信号強度に基づく信号強度情報との組み合わせデータを生成する物標計算部と、前記移動体に関するクラスタ各々の前記相対速度の値と前記信号強度情報の値との組み合わせデータ同士の相関値に基づいて同一の物標に関する移動体に関するクラスタの組み合わせを抽出するとともに、前記同一の物標に関する移動体に関するクラスタの組み合わせに含まれている移動体に関するクラスタの中で前記レーダ装置に最も近い移動体に関するクラスタ以外の移動体に関するクラスタを偽像として特定して除去する偽像抑圧部と、を有する、ことを特徴とする。
【0009】
この発明に係る偽像信号の抑圧装置は、検知対象エリアへと電波を送信するとともに前記検知対象エリアからの電波を受信してレーダスキャンを行うレーダ装置から出力されるレーダデータを周波数解析して位置と信号強度と相対速度との組み合わせデータの集合を生成する信号処理部と、前記位置と信号強度と相対速度との組み合わせデータの集合を用いて物標についてのレーダ信号点のクラスタを生成するとともに前記クラスタの追尾処理を行う物標位置検出部と、前記クラスタのうち移動体に関するクラスタおよび前記移動体に関するクラスタと前記追尾処理で関連づけられている所定の時間長さぶんのクラスタの集まり(「移動体時系列クラスタ」と呼ぶ)に関するレーダスキャン別の前記相対速度と前記信号強度に基づく信号強度情報との組み合わせデータを生成する物標計算部と、前記移動体時系列クラスタごとに、前記レーダスキャン別の前記相対速度の値と前記信号強度情報の値との組み合わせデータを時系列に配列したうえで、時系列の配列を時間軸方向に1つずつシフトさせながら、もとの時系列の配列のままの状態との対比における相関値を計算して配列の先頭のスキャン実行番号と相関値との組み合わせデータを生成するとともに、前記配列の先頭のスキャン実行番号に基づくスキャン時間と相関値との組み合わせデータに対してフーリエ変換処理を施して周波数スペクトルを生成する特徴量計算部と、前記移動体時系列クラスタ各々の前記周波数スペクトル同士の相関値に基づいて同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせを抽出するとともに、前記同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせに含まれている移動体時系列クラスタの中で前記レーダ装置に最も近い移動体時系列クラスタ以外の移動体時系列クラスタを偽像として特定して除去する偽像抑圧部と、を有する、ようにしてもよい。
【0010】
また、この発明に係る偽像信号の抑圧方法は、検知対象エリアへと電波を送信するとともに前記検知対象エリアからの電波を受信してレーダスキャンを行うレーダ装置から出力されるレーダデータを周波数解析して位置と信号強度と相対速度との組み合わせデータの集合を生成する処理と、前記位置と信号強度と相対速度との組み合わせデータの集合を用いて物標についてのレーダ信号点のクラスタを生成する処理と、前記クラスタのうち移動体に関するクラスタに関する前記相対速度と前記信号強度に基づく信号強度情報との組み合わせデータを生成する処理と、前記移動体に関するクラスタ各々の前記相対速度の値と前記信号強度情報の値との組み合わせデータ同士の相関値に基づいて同一の物標に関する移動体に関するクラスタの組み合わせを抽出する処理と、前記同一の物標に関する移動体に関するクラスタの組み合わせに含まれている移動体に関するクラスタの中で前記レーダ装置に最も近い移動体に関するクラスタ以外の移動体に関するクラスタを偽像として特定して除去する処理と、を有する、ことを特徴とする。
【0011】
この発明に係る偽像信号の抑圧方法は、検知対象エリアへと電波を送信するとともに前記検知対象エリアからの電波を受信してレーダスキャンを行うレーダ装置から出力されるレーダデータを周波数解析して位置と信号強度と相対速度との組み合わせデータの集合を生成する処理と、前記位置と信号強度と相対速度との組み合わせデータの集合を用いて物標についてのレーダ信号点のクラスタを生成するとともに前記クラスタを追尾する処理と、前記クラスタのうち移動体に関するクラスタおよび前記移動体に関するクラスタと前記追尾する処理で関連づけられている所定の時間長さぶんのクラスタの集まり(「移動体時系列クラスタ」と呼ぶ)に関するレーダスキャン別の前記相対速度と前記信号強度に基づく信号強度情報との組み合わせデータを生成する処理と、前記移動体時系列クラスタごとに、前記レーダスキャン別の前記相対速度の値と前記信号強度情報の値との組み合わせデータを時系列に配列したうえで、時系列の配列を時間軸方向に1つずつシフトさせながら、もとの時系列の配列のままの状態との対比における相関値を計算して配列の先頭のスキャン実行番号と相関値との組み合わせデータを生成する処理と、前記配列の先頭のスキャン実行番号に基づくスキャン時間と相関値との組み合わせデータに対してフーリエ変換処理を施して周波数スペクトルを生成する処理と、前記移動体時系列クラスタ各々の前記周波数スペクトル同士の相関値に基づいて同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせを抽出する処理と、前記同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせに含まれている移動体時系列クラスタの中で前記レーダ装置に最も近い移動体時系列クラスタ以外の移動体時系列クラスタを偽像として特定して除去する処理と、を有する、ようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係る偽像信号の抑圧装置や偽像信号の抑圧方法によれば、レーダ以外のセンサ類を利用することなくレーダ情報のみから、実像に対応する偽像を的確に抽出して偽像成分の抑圧を高精度に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】この発明の実施の形態に係る偽像信号の抑圧装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
図2図1の偽像信号の抑圧装置における処理手順であるとともにこの発明の実施の形態に係る偽像信号の抑圧方法の処理手順を示すフローチャートである。
図3】配列VTデータの一例を示す図である。
図4】自己相関計算部における相関値の計算の仕方を説明する図である。
図5】偽像の発生メカニズムを説明する図である。(A)は実像の電波伝搬経路と偽像の電波伝搬経路との違いを説明する図である。(B)は実像のレーダ信号点と偽像に相当するレーダ信号点との現れ方の違いを説明するレーダ信号点の分布(PPI)を示す図である。
図6】検証例における測定の概要を説明する図である。
図7】検証例における解析パターン1に関するVTデータ(配列VTデータ)を示す図である。
図8】検証例における解析パターン2に関するVTデータ(配列VTデータ)を示す図である。
図9】検証例における解析パターン1に関する配列の先頭のスキャン実行番号の値と相関値との組み合わせデータを示す図である。
図10】検証例における解析パターン2に関する配列の先頭のスキャン実行番号の値と相関値との組み合わせデータを示す図である。
図11】検証例における解析パターン1に関するフーリエ変換後の周波数の値とスペクトル強度の値との組み合わせデータを示す図である。
図12】検証例における解析パターン2に関するフーリエ変換後の周波数の値とスペクトル強度の値との組み合わせデータを示す図である。
図13】検証例における移動体時系列クラスタ各々の周波数スペクトル同士の相関値の整理を示す図である。(A)は解析パターン1についての結果である。(B)は解析パターン2についての結果である。(C)は解析パターン3についての結果である。
図14】検証例における解析パターン1に関する偽像成分の抑圧の過程を説明する図である。(A)はレーダ信号点の分布(PPI)を示す図である。(B)は実像と偽像との組み合わせを示す図である。(C)は偽像に相当するレーダ信号点の抑圧結果を示す図である。
図15】検証例における解析パターン2に関する偽像成分の抑圧の過程を説明する図である。(A)はレーダ信号点の分布(PPI)を示す図である。(B)は実像と偽像との組み合わせを示す図である。(C)は偽像に相当するレーダ信号点の抑圧結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0015】
図1は、この発明の実施の形態に係る偽像信号の抑圧装置1の概略構成を示す機能ブロック図である。図2は、偽像信号の抑圧装置1における処理手順であるとともにこの発明の実施の形態に係る偽像信号の抑圧方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0016】
この偽像信号の抑圧装置1は、レーダを用いて検知対象エリア内の移動体を物標(別言すると、ターゲット)として検出するとともにレーダ信号点の分布に出現する前記物標の実像に対応する偽像を抽出して除去することにより偽像成分を抑圧する装置であり、主として、信号処理部2と、物標位置検出部3と、物標計算部4と、特徴量計算部5と、偽像抑圧部6と、を備える。
【0017】
この実施の形態に係る偽像信号の抑圧装置1は、検知対象エリアへと電波を送信するとともに検知対象エリアからの電波を受信してレーダスキャンを行うレーダ装置から出力されるレーダデータを周波数解析して位置と信号強度と相対速度との組み合わせデータの集合を生成する信号処理部2と、位置と信号強度と相対速度との組み合わせデータの集合を用いて物標についてのレーダ信号点のクラスタを生成するとともにクラスタの追尾処理を行う物標位置検出部3と、クラスタのうち移動体に関するクラスタおよび移動体に関するクラスタと追尾処理で関連づけられている所定の時間長さぶんのクラスタの集まり(「移動体時系列クラスタ」と呼ぶ)に関するレーダスキャン別の相対速度と信号強度に基づく信号強度情報との組み合わせデータを生成する物標計算部4と、移動体時系列クラスタごとに、レーダスキャン別の相対速度の値と信号強度情報の値との組み合わせデータを時系列に配列したうえで、時系列の配列を時間軸方向に1つずつシフトさせながら、もとの時系列の配列のままの状態との対比における相関値を計算して配列の先頭のスキャン実行番号と相関値との組み合わせデータを生成するとともに、配列の先頭のスキャン実行番号に基づくスキャン時間と相関値との組み合わせデータに対してフーリエ変換処理を施して周波数スペクトルを生成する特徴量計算部5と、移動体時系列クラスタ各々の周波数スペクトル同士の相関値に基づいて同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせを抽出するとともに、同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせに含まれている移動体時系列クラスタの中でレーダ装置に最も近い移動体時系列クラスタ以外の移動体時系列クラスタを偽像として特定して除去する偽像抑圧部6と、を有する、ようにしている(図1参照)。
【0018】
また、この実施の形態に係る偽像信号の抑圧方法は、検知対象エリアへと電波を送信するとともに検知対象エリアからの電波を受信してレーダスキャンを行うレーダ装置から出力されるレーダデータを周波数解析して位置と信号強度と相対速度との組み合わせデータの集合を生成する処理(ステップS1~S3)と、位置と信号強度と相対速度との組み合わせデータの集合を用いて物標についてのレーダ信号点のクラスタを生成するとともにクラスタを追尾する処理(ステップS4~S5)と、クラスタのうち移動体に関するクラスタおよび移動体に関するクラスタと前記追尾する処理で関連づけられている所定の時間長さぶんのクラスタの集まり(「移動体時系列クラスタ」と呼ぶ)に関するレーダスキャン別の相対速度と信号強度に基づく信号強度情報との組み合わせデータを生成する処理(ステップS6~S8)と、移動体時系列クラスタごとに、レーダスキャン別の相対速度の値と信号強度情報の値との組み合わせデータを時系列に配列したうえで、時系列の配列を時間軸方向に1つずつシフトさせながら、もとの時系列の配列のままの状態との対比における相関値を計算して配列の先頭のスキャン実行番号と相関値との組み合わせデータを生成する処理(ステップS9)と、配列の先頭のスキャン実行番号に基づくスキャン時間と相関値との組み合わせデータに対してフーリエ変換処理を施して周波数スペクトルを生成する処理(ステップS10)と、移動体時系列クラスタ各々の周波数スペクトル同士の相関値に基づいて同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせを抽出する処理(ステップS11)と、同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせに含まれている移動体時系列クラスタの中でレーダ装置に最も近い移動体時系列クラスタ以外の移動体時系列クラスタを偽像として特定して除去する処理(ステップS12)と、を有する、ようにしている(図2参照)。
【0019】
この発明では、例えば、レーダ方式としてFMCW(Frequency Modulated-Continuous Wave の略;周波数変調連続波)方式のレーダスキャンを行うレーダ装置によって取得されて出力されるレーダデータが用いられ得る。FMCW方式では、周波数変調した連続波を送信するとともに物標の表面で反射して戻ってくる反射波を受信し、送信信号と受信信号との間での周波数差に基づいて物標の位置や相対速度を検出する。なお、FMCW方式では、周波数が三角波状または鋸波状に変化する電波(別言すると、送信信号)が送信される。
【0020】
この発明で用いられ得るレーダデータを出力するレーダ装置としては、例えば、送信部と受信部とを備えて電波を送信するとともに受信する機能を備え、FMCW方式のレーダスキャンを行ってレーダデータを出力する装置が挙げられる。
【0021】
レーダ装置の送信部としては、例えば、所定電圧を生成して出力する電圧発生器、電圧発生器から出力される前記所定電圧に応じた周波数を有する電波(送信信号)を生成して出力する電圧制御発振器、および、電圧制御発振器から出力される電波(送信信号)を検知対象エリアへと送信波として送信する(別言すると、出射する,放射する)送信アンテナなどを含む仕組みが挙げられる。
【0022】
送信部は、例えば79GHz帯、76GHz帯、或いは60GHz帯の周波数を有する電波(尚、「ミリ波」とも呼ばれる)を生成して送信アンテナを介して送信する。なお、この発明では、高周波数帯の電波を利用することが好ましい。
【0023】
レーダ装置の受信部としては、例えば、送信アンテナから送信された電波(即ち、送信波)が検知対象エリア内の物標の表面で反射して戻ってくる電波(即ち、反射波;「ドップラ反射波」とも呼ばれる)を含む電波を受信波として受信する受信アンテナ、送信部から供給される電波(送信信号)と受信アンテナから出力される電波(別言すると、受信信号)とをミキシングして差分信号を生成して出力するミキサ、および、ミキサから出力される差分信号に対して所定のサンプリング周波数を用いてサンプリング処理(別言すると、アナログ-デジタル変換処理)を施して前記差分信号をデジタルデータに変換してデジタル信号を出力するA/D変換器(Analog to Digital converter)などを含む仕組みが挙げられる。
【0024】
なお、FMCW方式では、単数もしくは複数のアンテナによってアレーアンテナが形成され、受信アンテナとしてのアレーアンテナによって電波(反射波)を受信する。そして、ミキサおよびA/D変換器は、受信アンテナごとに設けられる。
【0025】
レーダ装置から出力されるレーダデータとしての差分信号は、送信部から供給される電波(送信信号)の周波数成分と受信アンテナから出力される電波(受信信号)の周波数成分との差の周波数成分を有する信号(つまり、ビート周波数を有する信号であり、「ビート信号」とも呼ばれる)である。
【0026】
レーダ装置は、あくまで一例として挙げると、自動車などの車両に取り付けられて車両周囲の所定範囲を検知対象エリアとしたり、建物などの構造物に取り付けられて構造体周囲や建物敷地内の所定範囲を検知対象エリアとしたりする。
【0027】
偽像信号の抑圧装置1は、レーダ装置から出力されるレーダデータを記録して格納しておく記憶部を備えて前記記憶部からレーダデータを読み込んで用いるようにしてもよく、また、レーダ装置から出力されてサーバなどの外部記憶装置に格納されているレーダデータを読み込んで用いるようにしてもよい。
【0028】
下記の信号処理部2,物標位置検出部3,および物標計算部4による処理は、ここでは、レーダ装置によるレーダスキャンのたびに出力されるレーダデータが用いられてレーダスキャンごとに行われることを前提として説明する。
【0029】
信号処理部2は、レーダ装置から出力されるレーダデータ(即ち、レーダ生データ、レーダRawデータ)としての差分信号を用いて検知対象エリア内の物標の位置および相対速度を計算する。信号処理部2は、周波数解析部21,位置計算部22,および速度計算部23を有する。
【0030】
周波数解析部21は、レーダ装置から出力されるレーダデータ(別言すると、波形データ)としての差分信号(別言すると、ビート信号;尚、デジタル信号である)の周波数解析を行う。
【0031】
周波数解析部21は、具体的には、1回のレーダスキャンあたりのサンプリング時間幅(例えば、100ミリ秒間)ぶんの波形データに対して、つまり、1回のレーダスキャンあたりのサンプリング時間幅ぶんの差分信号(ビート信号)の振幅(即ち、受信レベル)に対して、フーリエ変換処理を施して前記差分信号の振幅の周波数分布を示す周波数スペクトルを生成し、スペクトル強度および位相情報を生成する。周波数解析部21によって生成される周波数スペクトルは、差分信号に含まれる各周波数成分の振幅(受信レベル)を表す。
【0032】
フーリエ変換処理に際しては、例えば検知対象とする物標について想定される移動速度や動作速度などが考慮されるなどしたうえで、前記物標の移動や動作によって発生し得る周波数の範囲が設定されるとともに周波数間隔がドップラ周波数として設定される。周波数解析部21は、つまり、レーダ装置から出力されるレーダデータ(波形データ)についてドップラ成分、すなわち差分信号のドップラ周波数ごとのスペクトル強度と位相とを周波数解析して求める。
【0033】
位置計算部22は、周波数解析部21によって生成される周波数スペクトルにおける位相情報に基づいて、レーダ装置(具体的には、レーダ装置のアンテナ)と物標との間の距離に関する距離情報、および、レーダ装置(具体的には、レーダ装置のアンテナ)に対する前記物標の方位角度に関する角度情報を生成する。距離情報および角度情報は、ドップラ周波数ごとに求められる。
【0034】
差分信号(ビート信号)に基づく距離や方位角度の計算の仕法は、公知の手法が存在し、また、この発明では特定の手法には限定されないので、ここでは詳細の説明は省略する。例えば、レーダ装置と物標との間の距離は、送信波の周波数と受信波の周波数との差がレーダ装置と物標との間の距離に比例して増減する、ことを利用する手法などの公知の手法によって計算され得る。また、レーダ装置に対する物標の方位角度は、具体的には例えば、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification の略)法やESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques の略)法などの公知の測角方式によって計算され得る。
【0035】
速度計算部23は、周波数解析部21における周波数解析で用いられたドップラ周波数のそれぞれを用いて、レーダ装置(具体的には、レーダ装置のアンテナ)に対する物標の速度である相対速度(具体的には、送信波が物標の表面で反射した時の瞬時の相対速度)を計算する。すなわち、相対速度は、ドップラ周波数ごとに求められる。
【0036】
相対速度の計算の仕法は、公知の手法が存在し、また、この発明では特定の手法には限定されないので、ここでは詳細の説明は省略する。例えば、相対速度は、レーダに対して相対的に移動している物標の表面で反射して受信アンテナによって受信される電波(即ち、受信波)の周波数は、送信アンテナから送信される電波(即ち、送信波)の周波数に対して、前記物標の表面で反射した際に受信波が前記物標の速度による影響を受け、ドップラ効果により、前記物標とレーダ装置との間の相対速度に応じてシフトする、ことを利用する手法などの公知の手法によって計算され得る。
【0037】
信号処理部2は、上記の処理により、レーダ装置から出力されるレーダデータ(即ち、レーダ生データ、レーダRawデータ)に対して信号処理/周波数解析処理を施して、速度成分別の、直交座標系における信号強度分布を表す4次元データ(X,Y,I,V)の集合を生成する。なお、XおよびYは、x軸とy軸とが相互に直交する2次元直交座標系におけるx座標およびy座標(単位:m)である。Iは信号強度(別言すると、受信レベル)(単位:dB)であり、Vは相対速度(単位:km/h)である。信号処理部2によって生成される4次元データ(X,Y,I,V)の相対速度V[km/h]は、必要に応じ、相対速度Vの値が例えば0.1[km/h]などの所定のピッチで区分されたうえで相対速度Vの実際の値が前記区分に当てはめられて、相対速度のランクとされるようにしてもよい。
【0038】
物標位置検出部3は、信号処理部2によって生成される4次元データ(X,Y,I,V)の集合を用いて検知対象エリア内の物標に関する情報を計算する。物標位置検出部3は、信号点抽出部31,クラスタ生成部32,および追尾処理部33を有する。
【0039】
信号点抽出部31は、信号処理部2によって生成される4次元データ(X,Y,I,V)の集合に含まれるデータのうち所定の条件を満たすデータを、検知対象エリア内の物標についてのレーダ信号点として抽出する。
【0040】
信号点抽出部31による処理は、検知対象エリア内の物標についてのレーダ信号点を抽出し得る手法であれば、特定の手法には限定されない。例えば、物標についてのレーダ信号点を検出するための信号強度Iに関するしきい値(「強度しきい値」と呼ぶ)が予め設定され、信号強度Iが強度しきい値以上になっているデータが、物標についてのレーダ信号点として抽出される。
【0041】
強度しきい値は、特定の値に限定されるものではなく、例えば送信波が物標の表面で反射して戻ってくる電波(即ち、反射波)を的確に検出し得ることが考慮されるなどしたうえで、適当な値に適宜設定される。強度しきい値は、例えば、しきい値アルゴリズムの1つであるCFAR(Constant False Alarm Rate の略)アルゴリズムが用いられて設定されるようにしてもよい。
【0042】
なお、強度しきい値として、相対速度V別の信号強度Iに関するしきい値が設定されるようにしてもよく、或いは、4次元データ(X,Y,I,V)のx座標Xとy座標Yとの組み合わせごと(つまり、座標ごと)に相対速度V別の信号強度Iが積算されて算出される積算信号強度ΣIに関するしきい値が設定されるようにしてもよい。
【0043】
強度しきい値として相対速度V別の信号強度Iに関するしきい値が設定される場合は、x座標Xとy座標Yとの組み合わせごと(つまり、座標ごと)に前記組み合わせのうちのいずれかの相対速度V別の信号強度Iが強度しきい値以上になっている前記組み合わせ(つまり、座標)の4次元データ(X,Y,I,V)が物標についてのレーダ信号点として抽出されるようにすることが考えられる。
【0044】
強度しきい値として積算信号強度ΣIに関するしきい値が設定される場合は、4次元データ(X,Y,I,V)についてx座標Xとy座標Yとの組み合わせごと(つまり、座標ごと)に相対速度V別の信号強度Iが積算されて積算信号強度ΣIが算出されて、積算信号強度ΣIが強度しきい値以上になっている前記組み合わせ(つまり、座標)の4次元データ(X,Y,I,V)が物標についてのレーダ信号点として抽出されるようにすることが考えられる。
【0045】
信号点抽出部31は、検知対象エリア内の物標についてのレーダ信号点としての4次元データ(X,Y,I,V)の集合を生成する。
【0046】
クラスタ生成部32は、信号点抽出部31によって生成される物標についてのレーダ信号点としての4次元データ(X,Y,I,V)の集合を用いてクラスタリング処理を行い、空間位置を座標軸とする座標系(ここでは、x軸とy軸とが相互に直交する2次元直交座標系)における、レーダ信号点のクラスタを生成する。
【0047】
クラスタの生成の仕法は、特定の方法・方式に限定されるものではなく、例えば、信号点抽出部31によって抽出されたレーダ信号点の密度に基づくなどして物標についてのレーダ信号点の集まりをクラスタリングすることができれば、言い換えると、相互の位置関係が一定距離以内で近接しているレーダ信号点の集まりを括って抽出することができれば、どのような方法・方式であってもよい。クラスタの生成の仕法として、例えば、クラスタリングアルゴリズムの1つであるDBSCAN(Density-Based Spatial Clustering of Applications with Noise の略)が用いられるようにしてもよい。
【0048】
追尾処理部33は、過去に検出されている物標を追尾する処理を、クラスタ生成部32によって生成されるクラスタごと(即ち、物標ごと)に行う。つまり、追尾処理部33は、連続する時点それぞれにおいてクラスタ生成部32によって生成される、同一の物標に関するクラスタ同士を時系列で関連づけることにより、過去のレーダスキャンによって検出されているクラスタの追尾処理を行う。
【0049】
クラスタ/物標の追尾の仕法は、公知の手法が存在し、また、この発明では特定の手法には限定されないので、ここでは詳細の説明は省略する。例えば、クラスタ/物標の追尾は、追尾フィルタとしてα-βフィルタ、カルマンフィルタ、或いはパーティクルフィルタを用いる手法などの公知の手法によって行われ得る。
【0050】
追尾処理部33は、必要に応じ、クラスタ生成部32によって生成されるクラスタ各々の代表点を決定したうえで追尾処理を行うようにしてもよい。例えば、追尾処理部33は、1つのクラスタとして認識された信号点群について、当該の信号点群に含まれる信号点それぞれの位置における信号強度(受信レベル)I[dB]を重みとして用いた加重平均の位置を計算するなどして、前記1つのクラスタの代表点を決定したうえで追尾処理を行うようにしてもよい。
【0051】
追尾処理部33は、今回のレーダスキャンにおいてクラスタ生成部32によって生成されるクラスタのそれぞれについて、追尾処理の結果として、前回のレーダスキャンにおいてクラスタ生成部32によって生成されたクラスタとの時系列での追尾の関連づけを生成する。
【0052】
上記の信号処理部2および物標位置検出部3による処理は、従来と同様の仕法が用いられ得る。すなわち、上記の信号処理部2および物標位置検出部3による処理は、上記の内容に限定されるものではなく、レーダデータに基づいて、レーダ信号点の位置(X,Y),信号強度I,および相対速度Vが計算されたり、クラスタが生成されるとともに追尾が行われたりする種々の仕法が用いられ得る。
【0053】
ここで、従来と同様の処理が行われることにより、クラスタ生成部32による処理では、或る物標に関する実像に相当するクラスタと前記物標に関する偽像に相当するクラスタとが別個のクラスタとしてそれぞれ生成される(ことが想定される)。また、従来と同様の処理が行われることにより、追尾処理部33による処理では、或る物標に関する実像に相当するクラスタ同士が時系列の追尾で関連づけられるとともに前記物標に関する偽像に相当するクラスタ同士が時系列の追尾で関連づけられる(ことが想定される)。
【0054】
物標計算部4は、クラスタ生成部32によって生成されるクラスタごとに、当該のクラスタに関する情報を計算する。物標計算部4は、クラスタ抽出部41,信号強度特定部42,およびVTデータ生成部43を有する。
【0055】
クラスタ抽出部41は、まず、クラスタ生成部32によって生成されるクラスタごとに、当該のクラスタが、移動体に関するものであるか否かを判別する。生成されたクラスタが移動体(例えば、歩行者,車両)に関するものであるか或いは固定物(例えば、建物,不動の構造物)に関するものであるかを判別する仕法は、公知の手法が存在し、また、この発明では特定の手法には限定されないので、ここでは詳細の説明は省略する。
【0056】
移動体に関するものであると判別されたクラスタが無い場合は、偽像信号の抑圧装置1は当該のレーダスキャンに関する処理を終了する。また、移動体に関するものであると判別されたクラスタが1つのみである場合は、偽像信号の抑圧装置1は、前記クラスタは物標の実像に相当するクラスタであるとしたうえで、当該のレーダスキャンに関する処理を終了する。
【0057】
移動体に関するものであると判別されたクラスタが複数ある場合は、クラスタ抽出部41は、前記クラスタごとに、追尾処理部33による処理の結果に基づいて、所定の時間長さぶん(言い換えると、レーダスキャンの所定の回数ぶん)の、当該のクラスタについての最新の(言い換えると、今回の)レーダスキャンによる4次元データ(X,Y,I,V)の集合と、当該のクラスタと時系列の追尾で関連づけられている過去の(言い換えると、前回以前の)レーダスキャンによる4次元データ(X,Y,I,V)の集合とからなる時系列データを抽出する。
【0058】
1回の処理対象として抽出される時系列データは、特定の時間長さ(言い換えると、レーダスキャンの回数)に限定されるものではなく、検知対象の物標の特に移動速度や動作速度ならびに信号強度に纏わる特性を適切に把握し得ることが考慮されるなどしたうえで、適当な時間長さ(レーダスキャンの回数)に適宜設定される。1回の処理対象として抽出される時系列データの時間長さ(レーダスキャンの回数)は、あくまで一例として挙げると、1回のレーダスキャンあたりのサンプリング時間幅が100ミリ秒である場合に1000ミリ秒(即ち、10スキャン)に設定されることが考えられる。
【0059】
ここで、最新の(言い換えると、今回の)レーダスキャンにおけるクラスタのうち、移動体に関するものであると判別されたクラスタのことを「移動体クラスタ」と呼ぶ。また、移動体クラスタを含む、追尾処理部33によって前記移動体クラスタと時系列の追尾で関連づけられている、1回の処理対象として抽出される時系列データの時間長さぶん(レーダスキャンの回数ぶん)のクラスタの集まりことを「移動体時系列クラスタ」と呼ぶ。
【0060】
信号強度特定部42は、移動体時系列クラスタごとに、当該の移動体時系列クラスタを構成する最新(今回)および過去(前回以前)のクラスタのそれぞれについて、当該のクラスタについての4次元データ(X,Y,I,V)の集合を用いて、速度成分別に強度情報を生成する。
【0061】
信号強度特定部42は、移動体時系列クラスタを構成するクラスタそれぞれについての4次元データ(X,Y,I,V)の集合を用いて強度情報を生成するようにしてもよく、或いは、当該のクラスタを含む所定の範囲内の4次元データ(X,Y,I,V)の集合を用いて強度情報を生成するようにしてもよい。当該のクラスタを含む所定の範囲は、特定の大きさや形状に限定されるものではなく、検知対象の物標の特に動作速度や信号強度に纏わる特性を適切に把握し得ることが考慮されるなどしたうえで、適当な大きさや形状に適宜設定される。当該のクラスタを含む所定の範囲は、あくまで一例として挙げると、当該のクラスタを含む±1[m]の四角形で囲まれる範囲に設定されることが考えられる。
【0062】
信号強度特定部42は、具体的には、クラスタについての4次元データ(X,Y,I,V)の集合(尚、当該のクラスタを含む所定の範囲の4次元データ(X,Y,I,V)の集合の場合を含む)について、相対速度V[km/h](尚、所定のピッチで区分された相対速度のランクでもよい)ごとに、例えば、信号強度(受信レベル)I[dB]のうちの最大値Imax[dB]を特定して強度情報としたり、信号強度I[dB]の平均値Iavg[dB]を計算して強度情報としたりする。信号強度特定部42によって特定されたり計算されたりする所定の特性をもった信号強度[dB]のことを「信号強度情報」と呼ぶ。
【0063】
信号強度特定部42は、つまり、移動体時系列クラスタごとの、当該の移動体時系列クラスタを構成する最新(今回)および過去(前回以前)のクラスタのそれぞれについて、言い換えると、当該の移動体時系列クラスタに関する(尚、当該のクラスタを含む所定の範囲に関する場合を含む)レーダスキャン別の、相対速度Vの値と信号強度情報の値(例えば、最大値Imax,平均値Iavg[dB])との組み合わせデータを生成する。
【0064】
VTデータ生成部43は、信号強度特定部42によって生成される、移動体時系列クラスタに関するレーダスキャン別の相対速度Vの値と信号強度情報の値との組み合わせデータに対して、前記レーダスキャンの実行時刻に基づく経過時間Tの情報を付与する。
【0065】
経過時間Tの情報は、この実施の形態では、レーダスキャンが行われるたびに1ずつ増加するレーダスキャンの実行番号S[回目]とする。1回のレーダスキャンあたりのサンプリング時間幅[秒](即ち、各レーダスキャン開始の時間間隔[秒])は予め設定されるので、レーダスキャンの実行番号S[回目]はレーダスキャンの経過時間[秒]へと変換され得る。
【0066】
信号処理部2,物標位置検出部3,および物標計算部4による処理は、レーダスキャンごとに行われる。すなわち、1回のレーダスキャンが行われるたびに、移動体時系列クラスタごとの、1回の処理対象に相当する所定の時間長さぶん(言い換えると、レーダスキャンの所定の回数ぶん)の、レーダスキャンごとの相対速度V[km/h]と信号強度情報と経過時間Tの情報との組み合わせデータの集合(「VTデータ」と呼ぶ)が生成される。
【0067】
特徴量計算部5は、レーダ信号点の分布に出現する物標の実像に対応する偽像を識別するための特徴量を計算する。特徴量計算部5は、自己相関計算部51およびフーリエ変換部52を有する。下記の特徴量計算部5による処理は、ここでは、移動体時系列クラスタごとに(言い換えると、移動体時系列クラスタ各々を単位として)行われることを前提として説明する。
【0068】
自己相関計算部51は、VTデータについて自己相関分析を行う。自己相関計算部51は、具体的には、まず、VTデータについて、相対速度V[km/h]の値と信号強度情報の値との組み合わせデータを時系列(この実施の形態では、レーダスキャンの実行番号S[回目]の順番)に配列する。時系列で配列されたVTデータの集まりのことを「配列VTデータ」と呼ぶ。
【0069】
配列VTデータの一例を図3に示す。図3は、レーダスキャンの実行番号S[回目]を横軸とするとともに相対速度V[km/h]を縦軸として、レーダスキャンの実行番号S[回目]の値と相対速度V[km/h]の値との組み合わせに対応する信号強度(受信レベル)I[dB]のうちの最大値Imax[dB]を明暗で表して表示したものである。図3では、信号強度が、弱い場合は暗く表示され、強いほど明るくなるように表示されている。なお、図3は、1回のレーダスキャンあたりのサンプリング時間幅が100ミリ秒であるとともに1回の処理対象として抽出される時系列データの長さが10スキャンぶんである場合で、1秒ぶんのデータが整理されている。
【0070】
配列VTデータは、時系列の、物標に関する瞬時の相対速度の分布情報であるとも言える。そして、レーダ装置を用いて得られる相対速度の情報は、物標としての移動体である例えば人の胴体速度だけでなく、頭,上腕,前腕・手先,大腿,および下腿・足先などの様々な部位の速度成分を同時に取得している。したがって、移動している人の頭,胴体,上腕,前腕・手先,大腿,および下腿・足先などの各部位の速度の情報が内在することになるため、レーダスキャンごとの相対速度Vの値と信号強度情報の値との組み合わせデータを時系列に並べることにより、各部位の運動/動作の周期が重畳して現れるようになる。
【0071】
自己相関計算部51は、続いて、配列VTデータについて、レーダスキャンごとの相対速度Vの値と信号強度情報の値との組み合わせデータの時系列の配列を時間軸方向に1つずつ(別言すると、1スキャンずつ)シフトさせながら内積を計算して、時間軸方向にシフトする前の、もとの時系列の配列のままの状態の組み合わせデータの集合との対比における相関値を計算する(図4参照)。組み合わせデータの時系列の配列を時間軸方向に1つシフトさせる際、時系列の配列の最初に配置されている組み合わせデータは時系列の配列の最後へと配置される(図4参照)。図4に示す例では、1回の処理対象として抽出される時系列データの長さが10スキャンぶんであり、したがって、時系列で配列された組み合わせデータの数が10である。
【0072】
図4に示す例における相関値の計算では、もとの時系列の配列のままの状態(「もとの状態」と呼ぶ)を「配列の先頭のスキャン実行番号が1のデータ」とし、時間軸方向に1回シフトした状態を「配列の先頭のスキャン実行番号が2のデータ」とし、時間軸方向に2回シフトした状態を「配列の先頭のスキャン実行番号が3のデータ」とし、以降同様にして、時間軸方向に9回シフトした状態を「配列の先頭のスキャン実行番号が10のデータ」とし、さらに、時間軸方向に10回シフトした状態を「配列の先頭のスキャン実行番号が11のデータ」としている。
【0073】
つまり、自己相関計算部51による相関値の計算では、時系列で配列された組み合わせデータの数と同じだけ時間軸方向のシフト操作が繰り返し行われ、最後のシフト操作が行われた状態(図4に示す例では、10回シフトした状態)はもとの状態に戻って配列の先頭のスキャン実行番号が1のデータと一致する。
【0074】
自己相関計算部51は、時間軸方向にシフトする前の、もとの時系列の配列のままの状態である配列VTデータと、配列の先頭のスキャン実行番号が1,2,3,・・・,10,および11のデータそれぞれとの相関値を計算する。
【0075】
自己相関計算部51は、配列の先頭のスキャン実行番号Sの値と相関値との組み合わせデータを生成する。
【0076】
フーリエ変換部52は、自己相関計算部51によって生成される配列の先頭のスキャン実行番号Sの値と相関値との組み合わせデータについてフーリエ変換処理を行う。この際、フーリエ変換部52は、配列の先頭のスキャン実行番号Sを「1回のレーダスキャンあたりのサンプリング時間幅×(S-1)」に従って時間[秒]に変換したうえでフーリエ変換処理を行う。配列の先頭のスキャン実行番号Sを変換して得られる時間のことを「スキャン時間」と呼ぶ。
【0077】
フーリエ変換部52は、具体的には、1回の処理対象として抽出される時系列データの時間長さぶんのスキャン時間と相関値との組み合わせデータ(言い換えると、波形データ)に対して、つまり、1回の処理対象として抽出される時系列データの時間長さぶんのスキャン時間それぞれの相関値の大きさ(言い換えると、振幅)に対して、フーリエ変換処理を施して前記相関値の大きさ(言い換えると、振幅)の周波数分布を示す周波数スペクトルを生成し、フーリエ変換後の周波数[Hz]の値とスペクトル強度(言い換えると、振幅)の値との組み合わせデータを生成する。フーリエ変換部52によって生成される周波数スペクトルは、スキャン時間と相関値との組み合わせデータにおける各周波数成分の相関値の大きさ(言い換えると、振幅)を表す。
【0078】
特徴量計算部5による処理により、複数の移動体時系列クラスタに関し、移動体時系列クラスタごとの周波数スペクトルが、すなわちフーリエ変換後の周波数[Hz]の値とスペクトル強度(言い換えると、振幅)の値との組み合わせデータが、生成される。
【0079】
偽像抑圧部6は、特徴量計算部5によって生成される移動体時系列クラスタごとの周波数スペクトル、すなわちフーリエ変換後の周波数[Hz]の値とスペクトル強度の値との組み合わせデータに基づいて、移動体時系列クラスタそれぞれについて物標の実像に相当するクラスタであるか偽像に相当するクラスタであるかを識別して偽像成分を抑圧する。偽像抑圧部6は、ペアリング部61および偽像特定部62を有する。
【0080】
ペアリング部61は、複数の移動体時系列クラスタの中から選択した2つの移動体時系列クラスタの組み合わせのすべてについて、移動体時系列クラスタ各々の周波数スペクトル同士の相関値を計算する。具体的には、ペアリング部61は、特徴量計算部5によって生成されるフーリエ変換後の周波数[Hz]の値とスペクトル強度の値(振幅値)との組み合わせデータについて、組み合わせデータ同士の相関値を計算する。
【0081】
ペアリング部61は、続いて、複数の移動体時系列クラスタの中から選択した2つの移動体時系列クラスタの組み合わせのうち周波数スペクトル同士の相関値が所定の条件を満たす移動体時系列クラスタの組み合わせを、同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせとして抽出する。具体的には、同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせを抽出するための周波数スペクトル同士の相関値に関するしきい値(「相関しきい値」と呼ぶ)が予め設定され、周波数スペクトル同士の相関値が相関しきい値よりも大きくなっている移動体時系列クラスタの組み合わせが、同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせとして抽出される。
【0082】
ここで、物標の実像と前記実像に対応する偽像とは、どちらも同一の物標に関する像であるので、一致/類似する信号特性を有すると考えられる。特に、時系列的な情報を加味すると、実像と偽像とは運動/動作の周期性が一致したり動作が同期したりすると考えられる。例えば、移動する複数の人を検知対象とする場合、個々人の歩行動作の周期は異なり、歩行動作はばらばらで同期性は低いと考えられるので、異なる人に関する実像同士の動作の周期性や同期性には少なからず差異が生じる。これに対し、同一の人に関する実像と偽像とでは、どちらも同一の人を表しているので、動作の周期性が一致し、動作が同期する。
【0083】
つまり、実像に加えて偽像が出現する場合には、周期性や同期性に関する信号特性が一致/類似する信号点群(即ち、クラスタ)の組み合わせが存在していると考えられる。そこで、移動体時系列クラスタ各々の周波数スペクトル同士の相関が高い移動体時系列クラスタの組み合わせを同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせとして抽出し、同一の物標に関する実像に相当する移動体時系列クラスタ(特に、移動体クラスタ)と偽像に相当する移動体時系列クラスタ(特に、移動体クラスタ)との組み合わせとして特定する。
【0084】
相関しきい値は、特定の値に限定されるものではなく、例えば物標の運動/動作の周期性や同期性の一致性/類似性を適切に判別して同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせを的確に検出し得ることが考慮されるなどしたうえで、適当な値に適宜設定される。強度しきい値は、例えば、0.90~0.99程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられる。
【0085】
ペアリング部61は、また、同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせを構成する移動体時系列クラスタが、他の移動体時系列クラスタとの関係でも同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせとして抽出されている場合には、同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせとして連関してつながる移動体時系列クラスタのすべてを、同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせとする。つまり、ペアリング部61によって抽出される、同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせは、2つの移動体時系列クラスタの組み合わせからなる場合や、3つ以上の移動体時系列クラスタの組み合わせからなる場合がある。
【0086】
なお、移動体時系列クラスタ各々の周波数スペクトル同士の相関が高い移動体時系列クラスタの組み合わせとして抽出されない移動体時系列クラスタは、すなわち、他の移動体時系列クラスタとのいずれとも、周波数スペクトル同士の相関値が相関しきい値以下になる移動体時系列クラスタは、物標の実像に相当する移動体時系列クラスタ(特に、移動体クラスタ)であると判断される。
【0087】
偽像特定部62は、ペアリング部61によって抽出される同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせごとに、当該の組み合わせに含まれている移動体時系列クラスタの中でレーダ装置(具体的には、レーダ装置のアンテナ)に最も近い移動体時系列クラスタ以外の移動体時系列クラスタを偽像として特定する。
【0088】
ここで、偽像の発生メカニズムを考慮すると、偽像に相当するレーダ信号点は、必ず、実像のレーダ信号点よりも遠方に出現する(図5参照)。すなわち、物標の実像は、送信波がレーダ装置のアンテナから物標へと直接至るとともに反射波が物標からレーダ装置のアンテナへと直接至る最短経路(即ち、最短距離)を伝搬する電波による像(別言すると、レーダ信号点,クラスタ)であるのに対し、物標の偽像は、送信波がレーダ装置のアンテナから例えば地面や壁などでの反射を経て物標へと至るとともに反射波が物標から地面や壁などでの反射を経てレーダ装置のアンテナへと至る迂回経路を伝搬する電波による像(別言すると、レーダ信号点,クラスタ)である(図5(A)参照)。
【0089】
したがって、偽像の見かけ上の距離は実像の実際の距離よりも長くなり、偽像に相当するレーダ信号点は実像のレーダ信号点よりも遠方に出現する(図5(B)参照)。図5(B)は、例えば同図(A)のような場合にレーダ装置から出力されるレーダ信号点の分布の例を示すPPI(Plan Position Indicator の略;平面図表示)である。
【0090】
このため、同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせに含まれている移動体時系列クラスタの中で、レーダ装置に最も近い移動体時系列クラスタ(具体的には、移動体クラスタ)は実像であり、レーダ装置に最も近い移動体時系列クラスタ以外の移動体時系列クラスタ(具体的には、移動体クラスタ)は偽像であると判断することができる。
【0091】
偽像特定部62は、偽像であると特定した移動体時系列クラスタの移動体クラスタを、クラスタ抽出部41によって判別/特定された移動体クラスタから除去する。これにより、偽像に相当するレーダ信号点が除去されて偽像成分が抑圧される。
【0092】
次に、このような構成の偽像信号の抑圧装置1および偽像信号の抑圧方法の動作や作用などについて、この発明に係る偽像信号の抑圧装置および偽像信号の抑圧方法の作用効果の検証例と合わせて、図2ならびに図6乃至図15も用いて説明する。
【0093】
検証例では、移動する複数の人を同時に測定した条件下での偽像信号の抑圧装置や偽像信号の抑圧方法の動作や処理を検証することを目的として、具体的には、下記の条件に従って測定が行われた(図6も参照)。
・レーダ高 :3m
・レーダ俯角:20°
・使用周波数:79GHz
・取得周期 :100ミリ秒
・処理対象 :10スキャン(処理対象とする時系列データのレーダスキャンの回数)
・移動物体 :2人の被験者
・移動態様 :歩き(遅い),歩き(普通),駆け足(速い)
【0094】
検証例では、下記の3つの解析パターンが設定されてそれぞれについて測定が行われた。
〈解析パターン1〉被験者A:駆け足(速い),被験者B:歩き(遅い)
〈解析パターン2〉被験者C:歩き(普通),被験者D:歩き(遅い)
〈解析パターン3〉被験者E:歩き(普通),被験者F:駆け足(速い)
【0095】
上記の解析パターンについて、解析パターン1は被験者の移動の速度差が最大になる解析パターンであり、解析パターン2は被験者の移動の速度差が最小になる解析パターンである。
【0096】
偽像信号の抑圧装置1の動作としては、まず、信号処理部2の周波数解析部21が、レーダ装置から出力されるレーダデータとしての差分信号(ビート信号)に対してフーリエ変換を用いて周波数解析を行って周波数スペクトルを生成し、差分信号のドップラ周波数ごとのスペクトル強度および位相情報を生成する(ステップS1)。
【0097】
続いて、位置計算部22が、位相情報に基づいて、ドップラ周波数ごとに、レーダ装置と物標との間の距離を計算するとともにレーダ装置に対する前記物標の方位角度を計算し、距離情報および角度情報を生成する(ステップS2)。
【0098】
また、速度計算部23が、周波数解析部21における周波数解析で用いられたドップラ周波数のそれぞれを用いて、ドップラ周波数ごとに物標の相対速度を計算する(ステップS3)。
【0099】
上記の信号処理部2によるステップS1乃至S3の処理により、レーダスキャンごとの4次元データ(X,Y,I,V)の集合が生成される。
【0100】
次に、物標位置検出部3の信号点抽出部31が、レーダスキャンごとの4次元データ(X,Y,I,V)の集合および信号強度Iに関する強度しきい値を用いて物標についてのレーダ信号点としての4次元データ(X,Y,I,V)の集合を生成する(ステップS4)。
【0101】
続いて、クラスタ生成部32が、物標についてのレーダ信号点としての4次元データ(X,Y,I,V)の集合を用いてクラスタリング処理を行い、レーダ信号点のクラスタを生成する(ステップS5)。
【0102】
また、追尾処理部33が、連続する時点それぞれにおいて生成される、同一の物標に関するクラスタ同士を時系列で関連づけることにより、クラスタの追尾処理を行う。
【0103】
次に、物標計算部4のクラスタ抽出部41が、最新の(今回の)レーダスキャンにおける移動体クラスタを含む、前記移動体クラスタと時系列の追尾で関連づけられている、1回の処理対象として抽出される時系列データの時間長さぶんの(レーダスキャンの回数ぶんの)クラスタの集まりである移動体時系列クラスタを生成する(ステップS6)。
【0104】
続いて、信号強度特定部42が、移動体時系列クラスタごとに、当該の移動体時系列クラスタを構成するクラスタについての4次元データ(X,Y,I,V)の集合を用いて、当該の移動体時系列クラスタに関するレーダスキャン別の、相対速度Vの値と信号強度情報の値(例えば、最大値Imax,平均値Iavg[dB])との組み合わせデータを生成する(ステップS7)。
【0105】
また、VTデータ生成部43が、移動体時系列クラスタに関するレーダスキャン別の相対速度Vの値と信号強度情報の値との組み合わせデータに対して経過時間Tの情報を付与してVTデータを生成する(ステップS8)。
【0106】
検証例における解析パターン1に関するVTデータ(特に、配列VTデータ)を図7に示し、解析パターン2に関するVTデータ(特に、配列VTデータ)を図8に示す。なお、検証例では、相対速度Vの値が-20~20[km/h]の範囲のVTデータを使用した。また、実像と偽像とのうちのどちらに関するVTデータであるのかは以降の処理が行われた結果として判明する情報であるが、説明の分かり易さを考慮して実像であるのか偽像であるのかの識別結果も合わせて示す。
【0107】
図7図8に示す結果から、被験者の移動の速度差が最大である解析パターン1(図7)では被験者Aと被験者Bとの各々の相対速度Vに差違がみられるのに対し、被験者の移動の速度差が最小である解析パターン2(図8)では被験者Cと被験者Dとの各々の相対速度Vに大きな差違がみられないことが確認される。また、解析パターン1と解析パターン2とのどちらも、同一の被験者に関する実像と偽像とで、時系列における瞬時の相対速度の分布パターンが類似していることが確認される。
【0108】
次に、特徴量計算部5の自己相関計算部51が、配列VTデータについて、時系列の配列を時間軸方向に1つずつ(別言すると、1スキャンずつ)シフトさせながら、もとの時系列の配列のままの状態との対比における相関値を計算して、配列の先頭のスキャン実行番号Sの値と相関値との組み合わせデータを生成する(ステップS9)。
【0109】
検証例における解析パターン1に関する配列の先頭のスキャン実行番号Sの値と相関値との組み合わせデータを図9に示し、解析パターン2に関する配列の先頭のスキャン実行番号Sの値と相関値との組み合わせデータを図10に示す。
【0110】
図9図10に示す結果から、解析パターン1と解析パターン2とのどちらも、同一の被験者に関する実像と偽像とで、配列の先頭のスキャン実行番号Sの値と相関値との組み合わせによって現れる波形が類似していることが確認される。
【0111】
続いて、フーリエ変換部52が、配列の先頭のスキャン実行番号Sに基づくスキャン時間それぞれの相関値の大きさ(言い換えると、振幅)に対してフーリエ変換処理を施して周波数スペクトルを、すなわちフーリエ変換後の周波数[Hz]の値とスペクトル強度(言い換えると、振幅)の値との組み合わせデータを生成する(ステップS10)。
【0112】
検証例における解析パターン1に関するフーリエ変換後の周波数の値とスペクトル強度の値との組み合わせデータを図11に示し、解析パターン2に関するフーリエ変換後の周波数の値とスペクトル強度の値との組み合わせデータを図12に示す。
【0113】
図11に示す結果から、解析パターン1の被験者A(即ち、駆け足(速い))については実像と偽像とのどちらも2.7Hz付近にピークが確認される一方で、被験者B(即ち、歩き(遅い))については実像と偽像とのどちらも単調減少することが確認される。
【0114】
図12に示す結果から、解析パターン2の被験者C(即ち、歩き(普通))については実像と偽像とのどちらも1.7Hz付近にピークが確認される一方で、被験者D(即ち、歩き(遅い))については実像と偽像とのどちらも単調減少することが確認される。
【0115】
図11図12に示す結果から、自己相関の相関値をフーリエ変換して得られる周波数スペクトルについて、物標が異なる場合には特性/波形が異なり、且つ、同一の被験者に関する実像と偽像とでは特性/波形が類似することが確認される。
【0116】
次に、偽像抑圧部6のペアリング部61が、複数の移動体時系列クラスタの中から選択した2つの移動体時系列クラスタの組み合わせのすべてについて移動体時系列クラスタ各々の周波数スペクトル同士の相関値を計算するとともに、前記相関値および周波数スペクトル同士の相関値に関する相関しきい値を用いて同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせを抽出する(ステップS11)。
【0117】
複数の移動体時系列クラスタの中から選択した2つの移動体時系列クラスタの組み合わせのすべてについての、2つの移動体時系列クラスタの組み合わせごとの、移動体時系列クラスタ各々の周波数スペクトル同士の相関値に関して、検証例における解析パターン1についての結果を図13(A)に示し、解析パターン2についての結果を同図(B)に示し、さらに、解析パターン3についての結果を同図(C)に示す。
【0118】
図13に示す結果から、相関しきい値を例えば0.95とすることにより、被験者各々についての(言い換えると、同一の物標に関する)実像と偽像との組み合わせが的確に抽出され得ることが確認される。
【0119】
続いて、偽像特定部62が、同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせごとに、当該の組み合わせに含まれている移動体時系列クラスタの中でレーダ装置に最も近い移動体時系列クラスタ以外の移動体時系列クラスタを偽像として特定して除去する(ステップS12)。
【0120】
検証例における解析パターン1に関する偽像成分の抑圧の過程を図14に示し、解析パターン2に関する偽像成分の抑圧の過程を図15に示す。どちらの解析パターンに関しても、レーダ装置から出力されるレーダデータに基づくレーダ信号点の分布(各図(A)参照;具体的には、PPI)から生成される移動体時系列クラスタについての自己相関の周波数スペクトル同士の相関値に基づいて同一の物標に関する移動体時系列クラスタの組み合わせが抽出され(各図(B)参照)、各組み合わせに含まれている移動体時系列クラスタの中でレーダ装置に最も近い移動体時系列クラスタ以外の移動体時系列クラスタを偽像として除去することによって偽像に相当するレーダ信号点が適切に抑圧される(各図(C)参照)ことが確認される。
【0121】
実施の形態に係る偽像信号の抑圧装置1や偽像信号の抑圧方法によれば、移動体時系列クラスタを生成して実像と偽像との運動/動作の周期性の一致や動作の同期を利用するようにしているので、レーダ以外のセンサ類を利用することなくレーダ情報のみから、実像に対応する偽像を的確に抽出して偽像成分の抑圧を高精度に行うことが可能となる。
【0122】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0123】
例えば、上記の実施の形態では移動体時系列クラスタを生成して実像と偽像との運動/動作の周期性の一致や動作の同期を利用して実像に対応する偽像を抽出するようにしているが、検知対象が例えば二輪車や自動車である場合には車輪の回転運動の速度成分とボディの進行速度成分との運動周期から実像に対応する偽像を抽出するようにしてもよい。特に運動に伴う速度成分が大きく異なる物標が検知対象である場合は、時系列のデータにおける周期性を比較する必要はなく、一時点のデータにおける速度成分を比較することで、速度成分が一致/類似するクラスタの組み合わせを実像に相当するクラスタと偽像に相当するクラスタとの組み合わせとして抽出して偽像信号/偽像成分を抑圧するようにしてもよい。この場合には、追尾処理部33によるクラスタの追尾処理、ならびに、物標計算部4や特徴量計算部5による移動体時系列クラスタに関係する処理は不要であり、具体的には、物標計算部4は、クラスタ生成部32によって生成されるクラスタのうち移動体に関するクラスタ(即ち、移動体クラスタ)に関する相対速度と信号強度情報との組み合わせデータを生成し、偽像抑圧部6のペアリング部61は、複数の移動体クラスタの中から選択した2つの移動体クラスタの組み合わせのうち移動体クラスタ各々の相対速度の値と信号強度情報の値との組み合わせデータ同士の相関値が所定のしきい値よりも大きくなっている移動体クラスタの組み合わせを同一の物標に関する移動体クラスタの組み合わせとして抽出し、偽像特定部62は、同一の物標に関する移動体クラスタの組み合わせに含まれている移動体クラスタの中でレーダ装置に最も近い移動体クラスタ以外の移動体クラスタを偽像として特定して除去する、ようにする。
【産業上の利用可能性】
【0124】
この発明は、簡便な機器構成によって偽像成分の抑圧を高精度に行うことができるので、例えば、自動車の運転支援,周辺環境認識システム,安全監視システム,および侵入者検知などの分野において有用な技術として適用され得る。
【符号の説明】
【0125】
1 偽像信号の抑圧装置
2 信号処理部
21 周波数解析部
22 位置計算部
23 速度計算部
3 物標位置検出部
31 信号点抽出部
32 クラスタ生成部
33 追尾処理部
4 物標計算部
41 クラスタ抽出部
42 信号強度特定部
43 VTデータ生成部
5 特徴量計算部
51 自己相関計算部
52 フーリエ変換部
6 偽像抑圧部
61 ペアリング部
62 偽像特定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15