(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181402
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】抗ウイルス用組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 65/06 20090101AFI20221201BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
A01N65/06
A01P1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088323
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】517267042
【氏名又は名称】トレトレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 太郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 浩幸
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA04
4H011BB22
4H011DG05
(57)【要約】
【課題】安全性の高い天然由来成分を用いた抗ウイルス性の製剤を提供することを目的とする。
【解決手段】ヒノキ蒸留物の水溶性画分を有効成分として含有する、抗ウイルス用組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒノキ蒸留物の水溶性画分を有効成分として含有する、ウイルス抑制用組成物。
【請求項2】
前記水溶性画分が、大気との接触による酸化工程を経て得られたものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記酸化工程は、前記ヒノキ蒸留物の水溶性画分を撹拌装置により撹拌することを含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ウイルスが、エンベロープ型ウイルス、及び/又は、ノンエンベロープ型ウイルスである、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記ウイルスが、コロナウイルス科、オルトミクソウイルス科、フラビウイルス科、トガウイルス科、パラミクソウイルス科、ラフドウイルス科、ブニヤウイルス科、フィロウイルス科、ヘルペスウイルス科、ボックスウイルス科、ヘパドナウイルス科、又は、レトロウイルス科に属するウイルスである、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
ヒノキ属植物の粉砕物から蒸留物を得る蒸留工程、
該蒸留物から水溶性画分を分離する分離工程、
該水溶性画分を酸化させる酸化工程を含む、
ウイルス抑制用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス効果を有し、飲食料品、健康食品、医薬品、又は医薬部外品として有用な天然由来物に関する。
【背景技術】
【0002】
全世界において、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染し発症することや、また食中毒の症状を発症すること、それらの結果重症化や死亡する事象が数多く発生している。
【0003】
現在の感染症対策としては、感染防止のため主にアルコールを含有するスプレー噴霧等が行われているが、集中的な医療を行う場所はともかく、人が快適に過ごしていたい場面において、エタノール等による鼻を突く臭いや、肌への刺激性によって、感染防止への安心感と引き換えに、人にとって苦痛と感じてしまうような事柄が存在していることも事実である。
【0004】
また、パンデミックが生じると、エタノール等の製剤は供給が追い付かず、入手困難な状況になり得る(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】横畑 綾治ら、「接触感染経路のリスク制御に向けた新型ウイルス除染機序の科学的基盤―コロナウイルス,インフルエンザウイルスを不活性化する化学物質群のシステマティックレビュー―」、リスク学研究、30(1):5-28(2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、日常生活において快適に感染症対策を行うためには、抗ウイルス性、及び、抗菌性の効果はもとより、心地よいと感じられる香りや、刺激性がないとの利便性が必要とされている。
【0007】
そこで本発明の目的は、安全性の高い天然由来成分を用いた抗ウイルス性の製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ヒノキ蒸留物の水溶性画分が、抗ウイルス性に優れた効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の原材料はヒノキ材と水のみであり、ヒノキ材を粉砕したチップを蒸留して精油を抽出し、蒸留後に分離された水に含まれる水溶性の芳香成分を含む。
【0010】
ヒノキは古来よりヒトの生活環境で様々な形で利用され、香りが心地よく、肌への刺激もないため、日常生活において快適に感染症対策に利用することが可能となる。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の組成物に関する
【0012】
[1]
ヒノキ蒸留物の水溶性画分を有効成分として含有する、抗ウイルス用組成物。
【0013】
[2]
前記ヒノキ蒸留物の水溶性画分が、酸化処理物である、[1]に記載の組成物。
【0014】
[3]
前記酸化処理は、前記ヒノキ蒸留物の水溶性画分を撹拌装置により撹拌することを含む、[1]又は[2]に記載の組成物。
【0015】
[4]
前記ウイルスが、エンベロープ型ウイルスである、[1]~[3]のいずれか1に記載の組成物。
【0016】
[5]
前記ウイルスが、コロナウイルス科、オルトミクソウイルス科、フラビウイルス科、トガウイルス科、パラミクソウイルス科、ラフドウイルス科、ブニヤウイルス科、フィロウイルス科、ヘルペスウイルス科、ボックスウイルス科、ヘパドナウイルス科、又は、レトロウイルス科に属するウイルスである、[1]~[4]のいずれか1に記載の組成物。
【0017】
また、本発明は、下記の製造方法に関する。
【0018】
[6]
ヒノキ属植物から蒸留物を得る蒸留工程、
該蒸留物から水溶性画分を分離する分離工程、
該水溶性画分を酸化させる酸化工程を含む、
抗ウイルス用組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の抗ウイルス用組成物は、天然由来のヒノキ蒸留物の水溶性画分を有効成分として含有しており、安全性が高く、日常生活における感染症対策で効果的に利用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[抗ウイルス用組成物]
本発明の抗ウイルス用組成物は、天然由来のヒノキ蒸留物の水溶性画分を有効成分として含有する。
【0021】
(天然由来のヒノキ蒸留物の水溶性画分)
ヒノキ(Chamaecyparis obtusa)は、ヒノキ科ヒノキ属の針葉樹であり、日本、中国、台湾等に広く分布している。
【0022】
ヒノキの樹木から採取される精油成分には、ヒノキチオールが含まれており、このヒノキチオールについては、抗ウイルス活性や、抗菌活性を有することが知られている。しかしながら、ヒノキの精油成分ではなく、水溶性成分には、抗ウイルス活性や抗菌活性があるのか否かについて、これまでに報告がない。
【0023】
ヒノキの品種は、本発明の効果を奏する限り限定されず、ヒノキ科に属する植物を用いることができる。ヒノキ科植物としては、例えば、ヒノキ亜科、セコイア亜科に属する植物であってもよい。ヒノキ亜科に属する植物としては、例えば、ヒノキ(Chamaecyparis obtusa)、ヒバ、クジャクヒバ、オウゴンクジャクヒバ、スイリュウヒバ、イトヒバ、チャボヒバ、カマクラヒバ、サワラ、ヒヨクヒバ、シノブヒバ、ヒムロイブキ、ビャクシン、イブキビャクシン、カイヅカイブキ、ミヤマビャクシン、ハイビャクシン、ネズミサシ、ネズ、ムロノキ、コノテガシワ、ニオイヒバ、アスナロ、ヒノキアスナロ等が挙げられる。
【0024】
また、セコイア亜科に属する植物としては、例えば、メタセコイア、アケボノスギ、セコイア、セコイアメスギ等が挙げられる。限定はされないが、本発明の効果を顕著に奏する観点から、ヒノキの品種は、ヒノキ(Chamaecyparis obtusa)、アスナロ(Thujopsis dolabrata)、及び、サワラ(Chamaecyparis pisifera)からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0025】
ヒノキ蒸留物を製造するための原料部位は、本発明の効果を奏する限り限定されないが、例えば、ヒノキの木部、枝、葉、根等が挙げられる。本発明の効果を顕著に奏する観点から、原料部位は、ヒノキの木部、及び/又は、枝が好ましく、木部がより好ましい。この様なヒノキ原料は、製造効率の観点から、適切な大きさの木材に切断することや、1cm角~10cm角等の木片に細断して用いてもよく、破砕又は粉砕して用いてもよい。
【0026】
ヒノキ蒸留物を製造する方法としては、ヒノキ原料を熱水又は温水を投入して抽出液を得た後、常圧下又は減圧下加熱による蒸留工程で発生した蒸発分を冷却して得られる凝縮水を回収することにより、ヒノキに含まれる水溶性成分を含む画分(ヒノキウォーター)を得ることができる。
【0027】
抽出方法としては、ニーダーや抽出用タンクなどを用いたバッチ式抽出法や、抽出塔(カラム式抽出機)などを用いたカラム式抽出法などの公知の方法が挙げられる。
【0028】
抽出する際の温度や時間は、公知の技術に基づいて適宜設定すれば良いが、例えば70~100℃の温度で5~30分間抽出する条件を例示することができる。
【0029】
蒸留操作においては、減圧下で行うことも可能である。このような操作が可能な装置としては、例えば、遠心薄膜濃縮(蒸留)装置、上昇式あるいは流下式薄膜濃縮機、ロータリーエバポレーター、スピニングコーンカラムなどの気液向流接触蒸留装置などが適用できる。この中では遠心式薄膜濃縮(蒸留)装置が低温・短時間で効率的に蒸留することができるため好適である。市販の装置としては例えば、アルファ・ラバル社の「セントリサーム・エバポレーター」、大河原製作所社の「エバポール」を例示することができる。
【0030】
ここで、ヒノキの精油は、水蒸気とともに抽出され、冷却・凝縮した精油が蒸留物として蒸留水とともに溜まる。蒸留物は、水に溶解しない精油と水の中に芳香成分を取り込んだ水溶性画分(ヒノキウォーター)の2つに大きく分けられる。精油とヒノキウォーターは溶け合わず、その比重の差から上下に分離する。上部の液体が精油、その下にあるのが水溶性画分(ヒノキウォーター)となる。
【0031】
蒸留物から、精油画分と水溶性画分(ヒノキウォーター)とを分離する方法は、公知の技術に基づいて適宜設定すれば良いが、上記ヒノキ蒸留物の水溶性画分を、例えば、5分間以上、1200rpmで撹拌機を使用して撹拌し、空気中の酸素を取り込むことが例示される。限定されないが、本発明の効果を安定的に発揮させる観点から、上記ヒノキ蒸留物の水溶性画分は、空気及び/又は酸素に接触させる酸化工程を経て得られることにより、酸化処理物とすることが好ましい。
【0032】
本発明の組成物は、本発明の効果を顕著に奏する観点から、精油を含有していてもい。精油としては、公知の精油を用いることができるが、例えば、ベルガモット精油、シトロネラ精油、グレープフルーツ精油、ゼラニウム精油、ユーカリグロブルス精油、ティートゥリー精油、フランキンセンス精油、ラベンダー精油等が挙げられる。
【0033】
[抗ウイルス用組成物]
ウイルスは、ゲノムがDNAであるかRNAであるかによって、DNAウイルスとRNAウイルスとに大別される。
【0034】
DNAウイルスは、DNAが一本鎖であるか二本鎖であるかによって、主に2つに分類することができる。
【0035】
具体的には、一本鎖のDNAウイルスとして、パルボウイルス科等があり、また、二本鎖のDNAウイルスのうち、エンベロープを有するもの(エンベロープ型ウイルス)として、例えば、ヘルペスウイルス科、ポックスウイルス科及びヘパドナウイルス科等があり、エンベロープを有しないもの(ノンエンベロープ型ウイルス)として、例えば、アデノウイルス科及びパピローマウイルス科などのウイルスがある。
【0036】
一本鎖のDNAウイルスによって引き起こされるウイルス性疾患としては、ヒトパルボB19(伝染性紅班)などが挙げられ、また、二本鎖のDNAウイルスによって引き起こされるウイルス性疾患としては、単純ヘルペス(歯肉口内炎、唇ヘルペス、性器ヘルペスウイルス感染症)、水痘・帯状疱疹、痘瘡、B型肝炎、アデノ(咽頭結膜熱、急性出血性結膜炎、流行性角結膜炎)、ヒトパピローマなどが挙げられる。
【0037】
RNAウイルスは、RNAが一本鎖であるか二本鎖であるか、一本鎖RNAウイルスの場合にはゲノムのセンスがプラス鎖(+鎖)であるかマイナス鎖(-鎖)であるかによって、主に3つに分類することができる。
【0038】
具体的には、まず一本鎖の-鎖RNAウイルス(エンベロープ型ウイルス)として、オルトミクソウイルス科、ラブドウイルス科、パラミクソウイルス科、フィロウイルス科、ブニヤウイルス科及びアレナウイルス科などのウイルスが存在する。なお、インフルエンザウイルスは、オルトミクソウイルス科に属している。
【0039】
これら一本鎖の-鎖RNAウイルスによって引き起こされるウイルス性疾患としては、インフルエンザ、鳥インフルエンザ、狂犬病、麻疹、ムンプス(流行性耳下腺炎)、RS(呼吸器感染症)、エボラ(出血熱)、マールブルグ(出血熱)、クリミア・コンゴ出血熱、SFTS、ラッサ(出血熱)、フニン/サビア/ガナリト/マチュポ(出血熱)等が挙げられる。
【0040】
次に、一本鎖の+鎖RNAウイルスのうち、エンベロープを有するもの(エンベロープ型ウイルス)としてフラビウイルス科、コロナウイルス科、トガウイルス科及びレトロウイルス科などが存在し、エンベロープを有しないもの(ノンエンベロープ型ウイルス)としてカリシウイルス科及びピコルナウイルス科などのウイルスが存在する。なお、ノロウイルスは、カリシウイルス科に属している。
【0041】
これら一本鎖の+鎖RNAウイルスによって引き起こされるウイルス性疾患としては、デング、ウエストナイル、日本脳炎、C型肝炎、黄熱、SARSコロナ、MERSコロナ、風疹、ヒト免疫不全(AIDS)、ヒトTリンパ好性(成人T細胞白血病)、E型肝炎、ノロ(感染性胃腸炎)、ポリオ(急性灰白髄炎)、A型肝炎、コクサッキー(手足口病、ヘルパンギーナ)、ライノ(感冒)などが挙げられる。
【0042】
最後に、二本鎖RNAウイルス(ノンエンベロープ型ウイルス)として、レオウイルス科などが存在する。ロタウイルスは、レオウイルス科に属している。
【0043】
二本鎖RNAウイルスによって引き起こされるウイルス性疾患としては、ロタ(感性性胃腸炎)などが挙げられる。
【0044】
上記のウイルスのうち、本発明の効果を顕著に奏する観点から、エンベロープ型ウイルスを対象とすることが好ましく、コロナウイルス科、オルトミクソウイルス科、フラビウイルス科、トガウイルス科、パラミクソウイルス科、ラフドウイルス科、ブニヤウイルス科、フィロウイルス科、ヘルペスウイルス科、ボックスウイルス科、ヘパドナウイルス科、又は、レトロウイルス科に属するウイルスを対象とすることがより好ましく、新型コロナウイルス(SARS-COV-2)、MERSコロナウイルス、インフルエンザウイルス、C型肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、ジカウイルス、風疹ウイルス、麻疼ウイルス、ヒトRSウイルス、狂犬病ウイルス、クリミアーコンゴ出血熟ウイルス、エボラウイルス、マールブルグウイルス等のRNAウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、天然痘ウイルス、B型肝炎ウイルス等のDNAウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、成人T細胞白血病ウイルス等のレトロウイルスを対象とすることがより好ましく、新型コロナウイルス(SARS-COV-2)、MERSコロナウイルス、インフルエンザウイルス、C型肝炎ウイルス、及び、風疹ウイルスからなる群より選択される少なくとも一種を対象とすることが更に好ましい。
【0045】
別の実施態様において、後述の実施例に示されるように、本発明はノンエンベロープ型ウイルスに対しても抗ウイルス効果を有する観点から、ノンエンベロープ型ウイルスを対象とすることが好ましく、カリシウイルス科、ピコルナウイルス科、レオウイルス科に属するウイルスを対象とすることがより好ましく、ノロウイルス、ロタウイルス、及び、カリシウイルスからなる群より選択される少なくとも一種を対象とすることが更に好ましい。
【0046】
[製剤形態]
本発明の組成物は、限定はされないが、本発明の効果を損なわない範囲で、公知の基剤又は担体と共に混合して組成物とすることができる。
【0047】
本発明の組成物は、公知の形態として、例えば、液剤(なかでも、噴霧式スプレー剤)、懸濁剤、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、リニメント剤、ローション剤、エアゾール剤、パウダー剤、パップ剤、不織布等のシートに薬液を含浸させたシート剤等が挙げられる。中でも、好ましくは、液剤(なかでも、噴霧式スプレー剤)、懸濁剤、乳剤、ゲル剤、ローション剤の形態で用いられる。
【0048】
限定はされないが、本発明の組成物は、適用時の微粒子化により液滴の表面積が大きくなり、本発明の効果を高める観点から、噴霧式スプレー剤であることが好ましい。
【0049】
噴霧式スプレー剤である場合、限定はされないが、本発明の組成物を噴霧用レバーを有する容器に収容して使用することができる。噴霧用レバーを有する容器は、公知の容器を使用するこができ、手動式ポンプを有する容器であってもよく、電動ポンプを有する容器であってもよい。
【0050】
本発明の組成物は、物品に対して噴霧することや、塗布することや、滴下すること等によって使用することが可能である。例えば、衣類、マスク、まな板や包丁等の調理器具、調理台、食器、タオル、布巾、ダイニングテーブル、イス、ソファ、ドアノブやボタン等のヒトの接触機会が多い部位、床、壁、天井、便器、洗面台、室内空間、自動車等の車内空間等に噴霧して使用することも可能である。
【0051】
[ウイルス抑制用組成物の製造方法]
本発明のウイルス抑制用組成物の製造方法は、ヒノキ属植物から蒸留物を得る蒸留工程、該蒸留物から水溶性画分を分離する分離工程、該水溶性画分を酸化させる酸化工程を含む。
【0052】
ヒノキ属植物の種類、蒸留工程、分離工程、酸化工程等は、上述した抗ウイルス用組成物の項目の記載に準じて、適宜用いることが可能である。
【実施例0053】
次に、試験例、実施例等により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
[試験検体の調製]
(実施例1)ヒノキウォーターの調製
ヒノキ(Chamaecyparis obtusa)の木部を適切な大きさにトリミングし、木材破砕機を用いて、適度な大きさのチップを得た。水蒸気蒸留装置へ破砕したチップを仕込み、水蒸気蒸留を行って精油を抽出した。
【0055】
精油は、水蒸気とともに抽出され、冷却・凝縮した精油が蒸留物として蒸留水とともに溜まる。蒸留物は、水に溶解しない精油と水の中に芳香成分を取り込んだ水溶性画分(ヒノキウォーター)の2つに大きく分けた。精油とヒノキウォーターは溶け合わず、その比重の差から上下に分離する。上部の液体が精油、その下にあるのが水溶性画分(ヒノキウォーター)となる。
【0056】
得られた蒸留物を、空気中の酸素を取り込みながら、5分間以上、1200rpmで撹拌機を使用して撹拌し、蒸留物から精油とヒノキウォーターとを分離した。得られたヒノキウォーターを密栓して容器に保存した。
【0057】
以下の参考例では、実施例1のヒノキ蒸留物の水溶性画分(ヒノキウォーター)を用いて、本願発明の効果を奏する成分の揮発性や、極性の度合いを検討した。
【0058】
(参考例1)
上記実施例1にて得られたヒノキ蒸留物の水溶性画分(ヒノキウォーター)に対して、水を減圧留去し、その後、同量の水を添加して参考例1の試験検体とした。この参考例1によれば、本願発明の効果を奏する成分が揮発性を有するか否かを評価することができる。
【0059】
(参考例2)
上記実施例1にて得られたヒノキ蒸留物の水溶性画分(ヒノキウォーター)に対して、ジエチルエーテル抽出後、ジエチルエーテル層を45℃で窒素気流下にて除去し、同量の水を添加して参考例2の試験検体とした。この参考例2によれば、本願発明の効果を奏する成分の極性がジエチルエーテルと同様の極性化合物であるか否かを評価することができる。
【0060】
(参考例3)
上記実施例1にて得られたヒノキ蒸留物の水溶性画分(ヒノキウォーター)に対して、ジエチルエーテル抽出後、ジエチルエーテル層を減圧留去し、同量の水を添加して参考例3の試験検体とした。この参考例3によれば、本願発明の効果を奏する成分の極性がジエチルエーテルと同様の極性化合物であるか否か、及び、揮発性が高いか否かを評価することができる。
【0061】
(参考例4)
上記実施例1にて得られたヒノキ蒸留物の水溶性画分(ヒノキウォーター)に対して、ジエチルエーテル抽出後、ジエチルエーテル層を除去し、残った水層を参考例4の試験検体とした。この参考例4によれば、本願発明の効果を奏する成分がジエチルエーテルよりも極性が高いか否かを評価することができる。
【0062】
(参考例5)
上記実施例1にて得られたヒノキ蒸留物の水溶性画分(ヒノキウォーター)に対して、クロロホルム抽出後、クロロホルム層を45℃で窒素気流下にて除去し、同量の水を添加して参考例5の試験検体とした。この参考例5によれば、本願発明の効果を奏する成分の極性がクロロホルムの極性と同様の化合物であるか否かを評価することができる。
【0063】
(参考例6)
上記実施例1にて得られたヒノキ蒸留物の水溶性画分(ヒノキウォーター)に対して、クロロホルム抽出後、クロロホルム層を減圧留去し、同量の水を添加して参考例6の試験検体とした。この参考例6によれば、本願発明の効果を奏する成分の極性がクロロホルムと同様の化合物であるか否か、及び、揮発性が高いか否かを評価することができる。
【0064】
(参考例7)
上記実施例1にて得られたヒノキ蒸留物の水溶性画分(ヒノキウォーター)に対して、クロロホルム層を除去し、残った水層を参考例7の試験検体とした。この参考例7によれば、本願発明の効果を奏する成分がクロロホルムよりも極性が高いか否かを評価することができる。
【0065】
(参考例8)
上記実施例1にて得られたヒノキ蒸留物の水溶性画分(ヒノキウォーター)に対して、酢酸エチル抽出後、酢酸エチル層を45℃で窒素気流下にて除去し、同量の水を添加して参考例8の試験検体とした。この参考例8によれば、本願発明の効果を奏する成分の極性が酢酸エチルよりも極性が低いか否かを評価することができる。
【0066】
(参考例9)
上記実施例1にて得られたヒノキ蒸留物の水溶性画分(ヒノキウォーター)に対して、酢酸エチル抽出後、酢酸エチル層を減圧留去し、同量の水を添加して参考例9の試験検体とした。この参考例9によれば、本願発明の効果を奏する成分の極性が酢酸エチルと同様の化合物であるか否か、及び、揮発性が高いか否かを評価することができる。
【0067】
[試験例1.インフルエンザウイルスに対する不活化効果試験]
エンベロープ型ウイルスに対する抗ウイルス効果を検証するため、以下の試験を行った。
【0068】
(1)ウイルス液の接種及びウイルス価測定
試験実施前に、上記実施例1、及び参考例1~9の試験検体を10倍階段希釈後、MDCK細胞に接種し、37℃、5%CO2下で、5日間培養した。培養後、MDCK細胞が正常な形状を示さなかった場合、試験検体による細胞毒性有りと判定し、該当する希釈倍率を試験から除外した。
【0069】
その結果、実施例1、参考例4、及び、参考例7では、10倍希釈まで細胞毒性が確認されたため、実施例1、参考例4、及び、参考例7の本試験における検出限界は、<102.5TCID50/mLとした。なお、その他の試験検体については細胞毒性は認められなかった。
【0070】
上記実施例1、参考例1~9の試験検体1mLと、コントロールとしてMEM培地1mLを滅菌試験管に分取した。これらの試験管にそれぞれウイルス液(swine influenza virus H1N1 IOWA株)0.1mLを接種し、軽く攪拌したものを試験液とした。ウイルス液接種後、5分及び30分に、軽く攪拌した試験液を試験管から0.1mL分取し、即座にMEM培地で10倍階段希釈した。コントロールでは、ウイルス液接種直後(0分)、5分及び30分に、試験検体同様に試験管から0.1mL分取し、即座にMEM培地で10倍階段希釈した。各希釈液をMDCK細胞に接種後、37℃、5%CO2下で、5日間培養した。培養後、細胞変性効果(CPE)の有無からウイルス価(TCID50)を算出した。
【0071】
(2)評価方法
各測定時点のウイルス価測定結果について、コントロールに対する各試験液での減少率(%)を算出し、効果を確認した。なお、本試験において、減少率は以下の式で算出した。
対数減少値=Log10(コントロールの感染価/試験検体の感染価)
減少率(%)=(1-1/10対数減少値)×100
【0072】
ウイルス価測定結果を表1に、減少率を表2に示す。
【0073】
【0074】
【0075】
表1及び表2に示すように、実施例1のヒノキ蒸留物の水溶性画分(ヒノキウォーター)には、エンベロープ型ウイルスに対する抗ウイルス活性があることが認められた。参考例1の結果により、水溶性画分及び脂溶性画分の抗ウイルス活性成分は、中温真空で揮発するか、分解することが示唆された。参考例2の結果により、脂溶性画分の抗ウイルス活性成分は、中温真空で僅かに揮発するか、僅かに分解することが示唆された。参考例3の結果により、脂溶性画分の抗ウイルス活性成分は、脂溶性画分の抗ウイルス活性成分は、中温で揮発するか、分解することが示唆された。参考例4の結果により、抗ウイルス活性成分は、脂溶性成分を除去した後でも、水に溶けやすいことが示唆された。参考例5の結果により、脂溶性画分の抗ウイルス活性成分は、中温真空で僅かに揮発するか、僅かに分解することが示唆された。参考例6の結果により、クロロホルムに抽出される脂溶性画分の抗ウイルス活性成分は、中温で揮発しにくく、分解しにくいことが示唆された。参考例7の結果により、抗ウイルス活性成分は、水に溶けやすいことが示唆された。参考例8の結果により、脂溶性画分の抗ウイルス活性成分は、中温真空で僅かに揮発するか、僅かに分解することが示唆された。参考例9の結果により、水溶性画分及び脂溶性画分の抗ウイルス活性成分は、中温真空で揮発するか、分解することが示唆された。
【0076】
以上により、ヒノキウォーターの抗ウイルス効果は、水溶性及び脂溶性の化合物による効果であり、水中の酸化工程を経ることで、抗ウイルス活性を強化することができることが示唆された。
【0077】
[試験例2.ネコカリシウイルスに対する不活化効果試験]
ノンエンベロープ型ウイルスに対する抗ウイルス効果を検証するため、以下の試験を行った。ネコカリシウイルスは、ノロウイルスの代替ウイルスとして評価に用いられている。
【0078】
(実施例2)
実施例1に得られたヒノキ蒸留物の水溶性画分(ヒノキウォーター)に対して、ベルガモット精油を添加し、実施例2の試験検体とした。
【0079】
(1)試験実施前に、上記実施例1及び実施例2の試験検体を10倍階段希釈後、CRFK細胞(ネコ腎臓由来株化細胞)に接種し、37℃、5%CO2下で、5日間培養した。培養後、CRFK細胞が正常な形状を示さなかった場合、試験検体による細胞毒性有りと判定し、該当する希釈倍率を試験から除外した。
【0080】
その結果、実施例1、及び、実施例2ともに、10倍希釈まで細胞毒性が確認されたため、本試験における検出限界は、<102.5TCID50/mLとした。
【0081】
上記実施例1、実施例2の試験検体1mLと、コントロールとしてMEM培地1mLを滅菌試験管に分取した。これらの試験管にそれぞれウイルス液(feline calicivirus F9株)0.1mLを接種し、軽く攪拌したものを試験液とした。ウイルス液接種後30分に、軽く攪拌した試験液を試験管から0.1mL分取し、即座にMEM培地で10倍階段希釈した。コントロールでは、ウイルス液接種直後(0分)、30分に、試験検体同様に試験管から0.1mL分取し、即座にMEM培地で10倍階段希釈した。各希釈液をCRFK細胞に接種後、37℃、5%CO2下で、5日間培養した。培養後、細胞変性効果(CPE)の有無からウイルス価(TCID50)を算出した。
【0082】
(2)評価方法
各測定時点のウイルス価測定結果について、コントロールに対する各試験液での減少率(%)を算出し、効果を確認した。なお、本試験において、減少率は以下の式で算出した。
対数減少値=Log10(コントロールの感染価/試験検体の感染価)
減少率(%)=(1-1/10対数減少値)×100
【0083】
ウイルス価測定結果を表3に、減少率を表4に示す。
【0084】
【0085】
【0086】
表3及び表4に示すように、実施例1のヒノキ蒸留物の水溶性画分(ヒノキウォーター)には、ノンエンベロープ型ウイルスに対する抗ウイルス活性があることが認められた。また、興味深いことに、1のヒノキ蒸留物の水溶性画分(ヒノキウォーター)にベルガモット精油を添加した実施例2では、ノンエンベロープ型ウイルスに対する抗ウイルス活性が更に高まることが示された。
【0087】
[試験例3.皮膚刺激性についての安全性評価試験]
実施例1のヒノキ蒸留物の水溶性画分(ヒノキウォーター)に関し、オープン法によるヒトパッチテストを行い、皮膚接触によって生じる一次刺激性についての安全性評価を行った。
【0088】
被験者として、20歳以上59歳以下の日本人男女20名(男性4名(平均年齢29.5±6.1歳)、女性16名(平均年齢40.8±5.7歳))を選定した。
パッチテスト予定部位に湿疹やアザなどの皮膚症状を有する者、1週間以内に同部位に医薬品を外用していた者、及び、その他、医師が本試験の対象として不適当を判断する者は、被験者から除外されている。
試験は24時間閉塞パッチテスト(オープン法)にて、「化粧品・医薬部外品 製造販売ガイドブック2011-12」第4章のヒトパッチ試験に準拠して行った。
【0089】
試験第1日目に、被験者の皮膚の適格性について確認を行い、実施例1の試験検体を試験部位(上腕部内側)に薄く塗布して自然乾燥させ、5分経過後に乾燥しない過剰な試験検体があった場合は除去し、皮膚の状態を確認した。
【0090】
試験第2日目(24時間後)と更に24時間後(試験第3日目)に塗布部位の皮膚反応を評価した。
【0091】
本邦基準(川村太郎、笹川正二、増田勉、他:貼付試験標準化の基礎的研究、日皮会誌、80:301-314、1970)に従い、皮膚科専門医が判定した。判定結果より須貝の方法(須貝哲郎:Diflucortolone valerate 軟膏およびクリームの皮膚安全性の検討、皮膚、19:102-108、1977)に従って、皮膚刺激指数を24時間後、48時間後で算出し、安全性、巨用品、要改良品、危険品の判定を行った。
【0092】
(判定基準)
パッチテスト判定本邦基準に従い(以下表5参照)、皮膚反応を皮膚か専門医が判定した。
【0093】
【0094】
皮膚刺激指数は、以下の表6に従って算出し、皮膚科専門医が刺激性についての判定を行った。
【0095】
【0096】
結果を表7に示す。表7に記載の通り、実施例1のヒノキ蒸留物の水溶性画分(ヒノキウォーター)の皮膚刺激指数は0.0であり、評価は「安全品」に分類された。
【0097】