(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181428
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】精錬炉からのスラグ排出方法
(51)【国際特許分類】
C21C 5/28 20060101AFI20221201BHJP
C21C 1/02 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
C21C5/28 H
C21C1/02 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088368
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅原 紀史
(72)【発明者】
【氏名】松尾 充高
(72)【発明者】
【氏名】小川 雄司
(72)【発明者】
【氏名】内藤 憲一郎
【テーマコード(参考)】
4K014
4K070
【Fターム(参考)】
4K014AA03
4K014AE01
4K070AB03
4K070AB06
4K070AC02
4K070BA12
4K070BC11
(57)【要約】
【課題】溶鉄を精錬炉に残したまま、精錬炉1を傾動して溶鉄4の上層にある溶融スラグ5を炉口2から排出する精錬炉からのスラグ排出方法において、精錬炉からのスラグ排出量を維持しつつ、溶鉄流出量を抑制する。
【解決手段】スラグ排出中の精錬炉1の傾動パターンについて、少なくとも1回の「傾動停止-傾動-傾動停止」のパターンを設け、当該「傾動」における傾動角度変化を1.5度以下とし、その後の「傾動停止」における停止時間を2秒以上とする。これにより、精錬炉内流体表面の表面波の波高Hを軽減できるとともに、スラグ排出時における溶鉄流出量を低減できる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶鉄を精錬炉に残したまま、精錬炉を傾動して溶鉄の上層にある溶融スラグを炉口から排出するスラグ排出方法において、スラグ排出中に停止時間が0.5秒以上の傾動停止を2回以上実行し、
スラグ排出停止までの区間の一部又は全部において、
特定傾動制御として、1の前記傾動停止と次の前記傾動停止の間の傾動角度変化を1.5度以下とし、かつ、上記1.5度以下の傾動角度変化後の傾動停止時間を2秒以上とする傾動制御
を行うことを特徴とする精錬炉からのスラグ排出方法。
【請求項2】
精錬炉の正立位置(炉口が真上を向いている位置)の傾動角度θ(度)を0度とし、スラグ排出時の最大傾動角度をθend(度)とし、傾動角度が下記(1)式で定まるθa(度)になる範囲で、前記特定傾動制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の精錬炉からのスラグ排出方法。
θa≦0.95θend…(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
溶鉄を精錬炉に残したまま、精錬炉を傾動して溶鉄の上層にある溶融スラグを炉口から排出する精錬炉からのスラグ排出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼精錬において、精錬炉内に収容した溶鉄の上層に溶融スラグを形成し、溶鉄中に含まれる不純物を溶融スラグに移動することによって精錬が行われる。精錬炉として転炉を用いる場合、炉頂部に炉口を有し、炉側部に出鋼口を有し、精錬炉全体が傾動する。精錬に先立って炉口から溶鉄とスラグ原料を装入し、精錬を行い、精錬終了後は炉を傾動させて出鋼口から溶鋼のみを出鋼し、その後反対側に傾動して炉口から溶融スラグを排出する。
【0003】
近年、転炉を用いた鉄鋼精錬において、同一の転炉内において脱りん精錬と脱炭精錬とを分割する方法が広く用いられている。転炉内に溶銑を装入し、脱りん用のスラグを形成して脱りん精錬を行い、脱りん精錬終了後に転炉を出鋼口と反対側に傾動して炉口から脱りんスラグのみを炉外に排出し、その後同じ転炉で脱炭精錬を行うものである。脱炭精錬終了後は炉を傾動させて出鋼口から溶鋼のみを出鋼し、その後反対側に傾動して炉口から脱炭スラグを排出する。
【0004】
精錬炉を傾動して炉口から脱りんスラグを排出するに際し、排出後も脱りんスラグが炉内に残存すると、脱りんスラグ中に移動したりん分が続く脱炭精錬において溶鉄中に戻り、トータルとしての脱りん精錬を十分に行うことができなくなる。一方、スラグ排出時に炉内残存スラグを低減しようとすると、スラグとともに溶鉄も炉口から排出されることとなる。炉口から排出した排出スラグは、精錬炉の下方に待機する排滓鍋に受滓する。このとき、スラグとともに溶鉄が排出されると、排滓鍋中でスラグと溶鉄が反応してガスが発生し、スラグがフォーミングする。溶鉄流出が軽微であれば、スラグのフォーミングを抑える効果を持つスラグ鎮静剤を排滓鍋中に投入することでスラグ排出作業を継続できる。しかし、溶鉄流出が過大に生じると、スラグが排滓鍋からあふれ出し、設備損傷やその対応に伴う生産性の悪化を招く。そもそも、スラグ排出に伴って溶鉄が排出されると、精錬における鉄歩留りを悪化させることとなる。
【0005】
特許文献1、2においては、精錬炉を傾動して炉口からスラグを排出する際、精錬炉の傾動角度に応じて傾動速度を変更し、スラグ排出の後半で傾動速度を小さくし、あるいはスラグ排出にかける時間を前半より後半に多く確保することにより、スラグ排出時の溶鉄排出量を最小限に抑えつつ、また迅速な排出を可能にしつつ、スラグ排出率を増大するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-077481号公報
【特許文献2】特開2005-264210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のスラグ排出方法を用いた場合、スラグ排出の末期において、まだスラグ排出は続いているにもかかわらず、スラグとともに溶鉄も流出するようになる。精錬炉内スラグ残存量を極力少なくしようとすると、溶鉄流出量が過大となる。
特許文献1、2ではスラグ流によって溶鉄が随伴されて流出することを抑制する方法が提案されている。しかし特許文献1、2に記載の方法を適用しても改善には限界があった。
【0008】
本発明は、溶鉄を精錬炉に残したまま、精錬炉を傾動して溶鉄の上層にある溶融スラグを炉口から排出する精錬炉からのスラグ排出方法において、精錬炉からのスラグ排出量を維持しつつ、溶鉄流出量を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
精錬炉を傾動させて炉口からスラグを排出する際の精錬炉内の流体の挙動について、数値モデル実験を行った。その結果、傾動を行っている際の精錬炉内の流体表面には表面波が発生しており、溶鉄に生じた波の影響によってスラグ流とは無関係に溶鉄が流出しうることを知見した。そして、精錬炉の傾動パターンについて、少なくとも1回の「傾動停止-傾動-傾動停止」のパターンを設け、当該「傾動」における傾動角度変化を1.5度以下とし、その後の「傾動停止」における停止時間を2秒以上とすることにより、精錬炉内流体表面の表面波の波高さを軽減できるとともに、溶鉄流出量を低減できることがわかった。
【0010】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨とするところは以下のとおりである。
(1)溶鉄を精錬炉に残したまま、精錬炉を傾動して溶鉄の上層にある溶融スラグを炉口から排出するスラグ排出方法において、スラグ排出中に停止時間が0.5秒以上の傾動停止を2回以上実行し、スラグ排出停止までの区間の一部又は全部において、特定傾動制御として、1の前記傾動停止と次の前記傾動停止の間の傾動角度変化を1.5度以下とし、かつ、上記1.5度以下の傾動角度変化後の傾動停止時間を2秒以上とする傾動制御を行うことを特徴とする精錬炉からのスラグ排出方法。
(2)精錬炉の正立位置(炉口が真上を向いている位置)の傾動角度θ(度)を0度とし、スラグ排出時の最大傾動角度をθend(度)とし、傾動角度が下記(1)式で定まるθa(度)になる範囲で、前記特定傾動制御を行うことを特徴とする上記(1)に記載の精錬炉からのスラグ排出方法。
θa≦0.95θend…(1)
【発明の効果】
【0011】
本発明は、溶鉄を精錬炉に残したまま、精錬炉を傾動して溶鉄の上層にある溶融スラグを炉口から排出するスラグ排出方法において、スラグ排出中の精錬炉の傾動パターンについて、少なくとも1回の「傾動停止-傾動-傾動停止」のパターンを設け、当該「傾動」における傾動角度変化を1.5度以下とし、その後の「傾動停止」における停止時間を2秒以上とすることにより、精錬炉内流体表面の表面波の波高さを軽減できるとともに、スラグ排出時における溶鉄流出量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】精錬炉の傾動状況を示す概略断面図であり、(A)は精錬時、(B)は傾動時の状態を示す。
【
図2】スラグ排出中の炉内スラグ-メタル界面の波立ち状況を示す概念断面図である。
【
図3】傾動時の時間(t)と傾動角度(θ)の関係を示す図であり、(A)は基本傾動パターン、(B)は
図4に示す傾動パターンのうちのΔt
S=2秒、Δθ
M=1.5度の場合であり、(C)は
図7の実施例に示す傾動パターンである。
【
図4】スラグ排出時の傾動パターンのうち傾動停止時間Δt
Sを変化させたときの、最大波高増幅度の状況を示す図である。
【
図5】スラグ排出時の傾動パターンのうち1回あたり傾動角度Δθ
Mを変化させたときの、最大波高増幅度の状況を示す図である。
【
図6】スラグ排出時の炉内スラグ-溶鉄界面の波立ち状況を示す断面概念図であり、(A)はスラグ排出開始時(θini)、(B)は最大傾動角度(θend)を示す図である。
【
図7】スラグ排出時の傾動パターンを変化させたときの溶鉄流出量指数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
溶鉄を精錬する精錬炉として350トン転炉をモデルとし、スラグ排出時の溶鉄と溶融スラグの流体挙動を、数値流体力学に基づく数値モデル実験により解析した。数値モデル実験には、汎用熱流体解析ソフトウェアであるアンシス・ジャパン(株)製のFLUENT(登録商標)を用いた。精錬炉内の流体は、気相と溶融スラグ相との界面、溶融スラグ相と溶鉄相との界面を有しているため、FLUENTが備える混相流モデルを適用し、これら界面で発生する表面波の挙動を明らかにした。
【0014】
精錬炉内には、350トンの溶鉄と、脱りん精錬を終了した時点での脱りんスラグが収容されている。脱りんスラグはフォーミングにより嵩比重が真比重よりも小さい状況にある。
【0015】
図1に示すように、精錬炉1は、回転軸3を中心に傾動する。
図1(A)は精錬時、(B)は傾動時の状態を示す。ここでは、精錬炉をスラグ排出のための傾動方向6に傾動したときの傾動角度をθ(度)、傾動速度をω(度/秒)、傾動中の時間をt(秒)で表す。傾動速度を度/分で表示する場合はΩ(度/分)と表示する。精錬炉の正立位置(精錬時)(炉口2が真上を向いている位置)の傾動角度θ(度)を0度とし、
図6(A)に示すようにスラグ5が炉口2から排出され始める傾動角度をθini(度)、
図6(B)に示すようにスラグ排出時の最大傾動角度をθend(度)とする。
【0016】
精錬炉の傾動運動については、所定時間の停止と、所定時間・所定角度の傾動とを繰り返す運動パターンを行う。以下、停止は添え字S(Stop)、傾動は添え字M(Move)で表す。また、停止と傾動とを組み合わせた平均の傾動速度などを表す場合は、添え字A(Average)で表す。従って、精錬炉の傾動運動については、停止時間ΔtSと、傾動時間ΔtM中に傾動角度ΔθMだけ傾動を行う繰り返しパターンとなる。ΔtM中の傾動速度(度/分)をωMとする。平均傾動速度ωAは
ωA=ΔθM/(ΔtS+ΔtM)=ΔtM・ωM/(ΔtS+ΔtM)
となる。
【0017】
数値計算において、基本傾動パターンとして、
図3(A)に示すように、Δt
S=0.5秒、Δt
M=1.0秒、ω
M=1度/秒を順次繰り返すパターンを用いた。この基本傾動パターンにおいて、平均傾動速度は、
ω
A=1/1.5=0.67度/秒(Ω
A=40度/分)
となる。
【0018】
次に、スラグ排出処理において精錬炉1を傾動させ、
図6(A)に示すようにスラグ5が炉口2から排出され始める傾動角度θiniから、
図6(B)に示すようにスラグ排出時の最大傾動角度θendに至るまでの傾動パターンを種々変化させて数値モデル実験を行い、θiniからθendまでの時間経過中において、溶鉄4とスラグ5が収容された精錬炉1内の溶融スラグ相-溶鉄相界面に発生する表面波に着目し、表面波の波高Hを抽出した(
図2参照)。表面波は炉内で定在波の山部が1~5個程度存在したが、定在波の1周期の間で最大波高を形成する時点における波高を波高Hとした。θiniからθendまでについても、傾動パターンとしては、傾動停止と傾動との繰り返しを行う。そして、θini以降の繰り返し回数を添え字nで表示する。θini以降の最初の繰り返しを添え字1とする。繰り返しn回目における表面波の波高をH
nと表示する。そして、傾動パターンの繰り返し1回あたりの波高Hの増大比率を「H
n/H
n-1」で表す。θiniからθendまでにおける「H
n/H
n-1」の最大値を抽出し、「最大波高増幅度」と呼ぶ。この最大波高増幅度が小さくなるほど、精錬炉内における表面波を抑制しえる傾動パターンであると評価することとした。
【0019】
いずれのパターンにおいても、θ=0からθiniまでの間の傾動パターンとしては、上記基本傾動パターンを用いた。なお、数値モデル実験において、いずれも、θini=55度、θend=85度である。
【0020】
まず、θiniからθendまでの時間経過中の傾動パターンを種々設定し、各々の傾動パターンにおいて、Δt
Sを0.5秒から20秒までの間のいずれか一定値を採用し、最大波高増幅度を評価した。なお、いずれのパターンにおいても、ω
M=1.0度/秒一定とし、また1回あたりの傾動角度Δθ
Mは0.2度と1.5度の2水準で計算を行うこととした。
図3(B)には、Δt
S=2秒、Δθ
M=1.5度の場合の傾動パターンを示している。
【0021】
結果を
図4に示す。横軸がΔt
S、縦軸が最大波高増幅度である。Δθ
M=0.2度と1.5度のいずれにおいても、Δt
S=2秒の前後で最大波高増幅度が大きく変化し、Δt
Sが2秒未満であると最大波高増幅度が1より大きくなり、精錬炉内において表面波が増幅する傾向が見られるのに対し、Δt
Sが2秒以上であればいずれも最大波高増幅度が1より小さく、即ちθini時に炉内に表面波が発生していたとしても、その後継続して表面波の波高は減衰していくことを示している。
【0022】
ここで
図4において、Δt
S=2秒、Δθ
M=1.5度のデータ(「高速パターン1」という。)と、Δt
S=1秒、Δθ
M=0.2度のデータ(「低速パターン1」という。)の対比を行う。高速パターン1の平均傾動速度をω
A
H1、低速パターン1の平均傾動速度をω
A
L1と表す。高速パターン1においてΔt
M=1.5秒、低速パターン1においてΔt
M=0.2秒である。従って、
ω
A
H1=1.5/(2+1.5)=0.43度/秒
ω
A
L1=0.2/(1+0.2)=0.17度/秒
となる。即ち、低速パターン1は高速パターン1より平均傾動速度ω
Aが2倍以上も遅いにもかかわらず、高速パターン1(Δt
S=2秒)では表面波が減衰し、低速パターン1(Δt
S=1秒)では表面波が増幅しているのである。
【0023】
以上の数値計算結果から、スラグ排出処理中の精錬炉の傾動パターンにおいて、傾動停止と傾動とを繰り返すに際し、傾動停止時間ΔtSを2秒以上とすることにより、平均傾動速度が速いにもかかわらず、精錬炉内に発生する表面波を減衰できることが判明した。なお、ΔtSが20秒を超えると、表面波の減衰効果は飽和する。従って、ΔtSを20秒超として保持することは、溶鉄流出防止に対して悪影響は与えないものの、操業時間の延長につながる。よって、ΔtSは20秒以下であることが望ましい。
【0024】
次に、θiniからθendまでの時間経過中の傾動パターンを種々設定し、各々の傾動パターンにおいて、Δθ
Mを0.1度から1.9度までの間のいずれか一定値を採用し、最大波高増幅度を評価した。なお、いずれのパターンにおいても、Δt
S=2秒で一定とした。また、それぞれのパターンにおいて、ω
Mについては、ω
M=0.167、0.667、8度/秒(Ω
M=10、40、480度/分)の3種類それぞれで数値計算を行った。θ=0からθiniまでの間の傾動パターンとしては、前記基本傾動パターンを用いており、θini=55度、θend=85度である点は
図4の場合と同じである。
【0025】
結果を
図5に示す。横軸をΔθ
M、縦軸を最大波高増幅度とし、ω
M=0.167度/秒(△)、0.667度/秒(+)、8度/秒(●)でプロットを分けている。いずれのω
Mの条件であっても、Δθ
M=1.5度の前後で最大波高増幅度が大きく変化し、Δθ
Mが1.5度超であると最大波高増幅度が1より大きくなり、精錬炉内において表面波が増幅する傾向が見られるのに対し、Δθ
Mが1.5度以下であればいずれも最大波高増幅度が1より小さく、即ちθini時に炉内に表面波が発生していたとしても、その後継続して表面波の波高は減衰していくことを示している。
【0026】
ここで
図5において、Δθ
M=1.5度、ω
M=8度/秒のデータ(「高速パターン2」という。)と、Δθ
M=1.7度、ω
M=0.167度/秒のデータ(「低速パターン2」という。)の対比を行う。高速パターン2の平均傾動速度をω
A
H2、低速パターン2の平均傾動速度をω
A
L2と表す。高速パターン2においてΔt
M=0.19秒、低速パターン2においてΔt
M=10.2秒である。従って、
ω
A
H2=1.5/(2+0.19)=0.68度/秒
ω
A
L2=1.7/(2+10.2)=0.14度/秒
となる。即ち、低速パターン2は高速パターン2より平均傾動速度ω
Aが4倍以上も遅いにもかかわらず、高速パターン2(Δθ
M=1.5度)では表面波が減衰し、低速パターン2(Δθ
M=1.7度)では表面波が増幅しているのである。
【0027】
以上の数値計算結果から、スラグ排出処理中の精錬炉の傾動パターンにおいて、傾動停止と傾動とを繰り返すに際し、1回あたりの傾動角度ΔθMを1.5度以下とすることにより、平均傾動速度にかかわらず、精錬炉内に発生する表面波を減衰できることが判明した。なお、ΔθMが0.2度未満では最大波高増幅度の低減効果は飽和する。従って、ΔθMを0.2度未満とすることは、溶鉄流出抑制に対して悪影響は与えないものの、傾動回数の増加とスラグ排出中平均傾動速度の低下をきたし、操業時間の延長につながる。従って、ΔθMは0.2度以上であることが好ましい。
【0028】
図4に示す結果と
図5に示す結果をまとめると、スラグ排出開始からスラグ排出停止までの区間において、傾動停止と傾動とを繰り返すに際し、1の傾動停止と次の傾動停止の間の傾動角度変化を1.5度以下とし、かつ、1.5度以下の傾動角度変化後の傾動停止時間を2秒以上とすることにより、精錬炉内のスラグメタル表面に発生する表面波を抑制し、それに伴ってスラグ排出中における溶鉄の流出量を抑制できる可能性が示唆された。
【0029】
そこで次に、精錬炉を直立させたθ=0の状態から、θiniを経てθendに至るまでの傾動パターンとして前記基本傾動パターン(ΔtS=0.5秒、ΔtM=1.0秒、ωM=1度/秒を順次繰り返すパターン)を適用し、その中で、θiniからθendまでの間に1回だけ、傾動角度変化を1.5度以下とし、かつ、1.5度以下の傾動角度変化後の傾動停止時間を2秒以上とするパターンを適用することにより、精錬炉からの溶鉄流出量にどのような効果を及ぼすかについて、前記と同じ数値モデル実験を行った。なお、数値モデル実験の前提条件は、θini=55度、θend=85度である点を含め、前記数値モデル実験と同じである。
【0030】
比較例1は、θ=0からθendに至るまでの全傾動期間において、基本傾動パターン(ΔtS=0.5秒、ΔtM=1.0秒、ωM=1度/秒を順次繰り返すパターン)を適用した。平均傾動速度ωA=0.67度/秒(ΩA=40度/分)である。
【0031】
次に、実施例1~4においては、
図3(C)に示すように、上記比較例1の傾動パターン(基本傾動パターン)をベースとし、θiniからθendまでの間に繰り返し1区間だけ、基本傾動パターンと異なるパターン(「特定傾動パターン」という。)を挿入する傾動制御を実施した。即ち、基本傾動パターンの所定の傾動角度θaにおけるΔt
S=0.5秒のあとに特定傾動パターンを挿入する。ω
M=1.5度/秒でΔt
M=1秒の傾動を行ってΔθ
M=1.5度とし、その直後の傾動停止においてΔt
S=2秒の停止を行って特定傾動パターンとした。その後はω
M=0.5度/秒の傾動をΔt
M=1秒行い、次いで基本傾動パターンに戻ることとした。実施例1~4は、上記特定傾動パターンを挿入するタイミング(傾動角度θa)について以下のように定めた。
実施例1:θa=55度、θa/θend=0.647
実施例2:θa=79度、θa/θend=0.929
実施例3:θa=80.5度、θa/θend=0.947
実施例4:θa=81.5度、θa/θend=0.958
【0032】
スラグ排出処理の末期、傾動角度がθendに到達したところで傾動を停止し、比較例1、実施例1~3は0.5秒間、実施例4は2秒間停止を継続した後、精錬炉を正立に戻した。そして、傾動開始から傾動終了までに転炉炉口から流出した溶鉄量の総計を求め、比較例1における溶鉄流出量を100として規格化し、実施例1~4の溶鉄流出量指数を計算して
図7の縦軸とした。
図7から明らかなように、実施例1~4のいずれも、比較例に比較して溶鉄流出量が減少していることが明らかである。
以上の実施例1~4の結果から、スラグ排出停止までの区間の一部又は全部において、特定傾動制御として、1の前記傾動停止と次の前記傾動停止の間の傾動角度変化を1.5度以下とし、かつ、上記1.5度以下の傾動角度変化後の傾動停止時間を2秒以上とする傾動制御を行うことにより、溶鉄流出量の減少が実現できることが明らかとなった。
【0033】
即ち、本発明で規定するように、溶鉄を精錬炉に残したまま、精錬炉を傾動して溶鉄の上層にある溶融スラグを炉口から排出するスラグ排出方法において、スラグ排出中に停止時間が0.5秒以上の傾動停止を2回以上実行し、スラグ排出開始からスラグ排出停止までの区間の一部又は全部において、特定傾動制御として、1の前記傾動停止と次の前記傾動停止の間の傾動角度変化を1.5度以下とし、かつ、上記1.5度以下の傾動角度変化後の傾動停止時間を2秒以上とする傾動制御を行うことにより、スラグ排出時の溶鉄流出量を低減することが可能となる。実施例1~4、比較例1いずれも、θendを同じ値としているので、スラグ排出が終了した時点で精錬炉内に残存するスラグ量は同一であった。
【0034】
なお、上記実施例1~4のパターンは、本発明のうち、スラグ排出開始からスラグ排出停止までの区間の一部において特定傾動制御を適用した事例である。それに対して、
図4におけるΔt
S≦2秒のプロット、
図5におけるΔθ
M≦1.5度のプロットは、スラグ排出開始からスラグ排出停止までの区間の全部において特定傾動制御を適用した事例である。
【0035】
また、実施例1~4を比較すると、θa/θend>0.95の実施例4に比較して、特定傾動制御の実施時期を調整してθa/θend≦0.95とすることにより、スラグ排出時の溶鉄流出量をより一層低減できることがわかる。即ち、本発明で規定するように、精錬炉の正立位置(炉口が真上を向いている位置)の傾動角度θ(度)を0度とし、スラグ排出時の最大傾動角度をθend(度)とし、傾動角度が下記(1)式で定まるθa(度)になる範囲で、前記特定傾動制御を行うこととすると好ましい。
θa≦0.95θend…(1)
【0036】
θaを算出するには、スラグ排出時の最大傾動角度θendの値が必要となる。θendは、炉内の耐火物プロフィールを事前に計測して求められる傾動時の炉内容積と炉内の溶鉄量から、準静的に傾動した場合に溶鉄が流出する傾動角度を予測できる。ただし、実際には溶鉄の波立ちの影響を受けるため、事前に傾動方法を変更した試験を行い、θendを決定しておくと良い。
【符号の説明】
【0037】
1 精錬炉
2 炉口
3 回転軸
4 溶鉄
5 スラグ
6 傾動方向
θ 傾動角度
θini スラグが炉口から排出され始める傾動角度
θend スラグ排出時の最大傾動角度
ΔtS 傾動停止時間
ΔtM 傾動時間
ΔθM (1回あたり)傾動角度
ω 傾動速度(度/秒)
ωA 平均傾動速度
Ω 傾動速度(度/分)