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特開2022-181429電動ブレーキ装置及び遊星歯車減速機構
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  • 特開-電動ブレーキ装置及び遊星歯車減速機構 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181429
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】電動ブレーキ装置及び遊星歯車減速機構
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/18 20060101AFI20221201BHJP
   F16D 55/224 20060101ALI20221201BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20221201BHJP
   F16D 121/24 20120101ALN20221201BHJP
【FI】
F16D65/18
F16D55/224 Z
B60T13/74 G
F16D121:24
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088370
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉津 力弥
【テーマコード(参考)】
3D048
3J058
【Fターム(参考)】
3D048BB59
3D048HH18
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA53
3J058AA63
3J058AA69
3J058AA73
3J058BA67
3J058CC15
3J058CD24
3J058CD33
(57)【要約】
【課題】特に、遊星歯車減速機構の軸方向に沿って小型化でき、車両への搭載性を良好にする電動ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【解決手段】電動ブレーキ装置としてのディスクブレーキ1Aに採用した不思議遊星歯車減速機構45Aは、固定内歯車70の円環状プレート部87(第1プレート部)の各遊星歯車69と対向する他端面、及び可動内歯車71の円環状プレート部103(第2プレート部)の各遊星歯車69と対向する一端面にそれぞれ設けられ、各遊星歯車69の軸部81、81が嵌合される円環状溝部90、105を備えている。その結果、不思議遊星歯車減速機構45Aをその軸方向に沿って小型化することができ、ひいては、ディスクブレーキ1A全体を小型化することができる。これにより、ディスクブレーキ1Aの車両への搭載性を良好にすることができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、
該電動モータの回転が伝達される太陽歯車と、
該太陽歯車と噛み合い、該太陽歯車の軸方向に沿って軸部を有する複数の遊星歯車と、
該各遊星歯車に噛み合う第1ギヤ部と、前記各遊星歯車の軸方向一端面に対向する第1プレート部と、を有し、ハウジングに固定される固定内歯車と、
前記各遊星歯車に噛み合う第2ギヤ部と、前記各遊星歯車の軸方向他端面に対向する第2プレート部と、を有し、回転自在に支持される可動内歯車と、
該可動内歯車の回転が伝達され、摩擦パッドを推進させる回転直動変換機構と、
前記第1プレート部、または前記第2プレート部の少なくとも一方に設けられ、前記各遊星歯車の軸部が嵌合される円環状溝部と、
を備える、電動ブレーキ装置。
【請求項2】
前記第1プレート部、または前記第2プレート部のいずれか一方に、前記各遊星歯車の軸部の軸方向一方側が嵌合される前記円環状溝部が設けられ、
他方に、前記各遊星歯車の軸部の軸方向他方側を支持するキャリアが設けられる、請求項1に記載の電動ブレーキ装置。
【請求項3】
前記第2プレート部に、前記各遊星歯車の軸部の軸方向一方側が嵌合される前記円環状溝部が設けられ、
他方に、前記第1プレート部に代わって前記キャリアが設けられる、請求項2に記載の電動ブレーキ装置。
【請求項4】
前記第1プレート部に、前記各遊星歯車の軸部の軸方向一方側が嵌合される前記円環状溝部が設けられ、
他方に、前記キャリアが設けられる、請求項2に記載の電動ブレーキ装置。
【請求項5】
回転自在に支持される太陽歯車と、
該太陽歯車と噛み合い、該太陽歯車の軸方向に沿って軸部を有する複数の遊星歯車と、
該各遊星歯車に噛み合う第1ギヤ部と、前記各遊星歯車の軸方向一端面に対向する第1プレート部と、を有し、ハウジングに固定される固定内歯車と、
前記各遊星歯車に噛み合う第2ギヤ部と、前記各遊星歯車の軸方向他端面に対向する第2プレート部と、を有し、回転自在に支持される可動内歯車と、
前記第1プレート部、または前記第2プレート部の少なくとも一方に設けられ、前記各遊星歯車の軸部が嵌合される円環状溝部と、
を備える、遊星歯車減速機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動に用いられるディスクブレーキ等の電動ブレーキ装置、及び該電動ブレーキに備えられる遊星歯車減速機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載された電動式ブレーキ装置では、減速機構として不思議遊星歯車減速機構が採用されている。当該不思議遊星歯車減速機構では、遊星歯車の軸方向両端面から軸方向にそれぞれ突設される軸部を支持する一対のキャリアが備えられている。そのために、一対のキャリアを配置できるスペースを確保する必要があり、そのキャリア相当分、不思議遊星歯車減速機構が軸方向に沿って長くなることで、電動式ブレーキ装置全体が大型化して、車両への搭載性が悪化する懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-112476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そして、上述した問題に鑑みて、本発明は、特に、遊星歯車減速機構の軸方向に沿って小型化でき、車両への搭載性を良好にする電動ブレーキ装置、及び該電動ブレーキに備えられる遊星歯車減速機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段として、本発明に係る電動ブレーキ装置は、電動モータと、該電動モータの回転が伝達される太陽歯車と、該太陽歯車と噛み合い、該太陽歯車の軸方向に沿って軸部を有する複数の遊星歯車と、該各遊星歯車に噛み合う第1ギヤ部と、前記各遊星歯車の軸方向一端面に対向する第1プレート部と、を有し、ハウジングに固定される固定内歯車と、前記各遊星歯車に噛み合う第2ギヤ部と、前記各遊星歯車の軸方向他端面に対向する第2プレート部と、を有し、回転自在に支持される可動内歯車と、該可動内歯車の回転が伝達され、摩擦パッドを推進させる回転直動変換機構と、前記第1プレート部、または前記第2プレート部の少なくとも一方に設けられ、前記各遊星歯車の軸部が嵌合される円環状溝部と、を備える。
【0006】
また、本発明に係る遊星歯車減速機構は、回転自在に支持される太陽歯車と、該太陽歯車と噛み合い、該太陽歯車の軸方向に沿って軸部を有する複数の遊星歯車と、該各遊星歯車に噛み合う第1ギヤ部と、前記各遊星歯車の軸方向一端面に対向する第1プレート部と、を有し、ハウジングに固定される固定内歯車と、前記各遊星歯車に噛み合う第2ギヤ部と、前記各遊星歯車の軸方向他端面に対向する第2プレート部と、を有し、回転自在に支持される可動内歯車と、前記第1プレート部、または前記第2プレート部の少なくとも一方に設けられ、前記各遊星歯車の軸部が嵌合される円環状溝部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電動ブレーキ装置によれば、特に、遊星歯車減速機構をその軸方向に沿って小型化でき、車両への搭載性を良好にすることができる。また、本発明の遊星歯車減速機構において、特に、軸方向に沿って小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係るディスクブレーキの主要断面図。
図2図1の要部拡大図。
図3】本実施形態に係るディスクブレーキに採用された不思議遊星歯車減速機構の分解斜視図。
図4】他の実施形態に係るディスクブレーキにおける主要部の断面図。
図5】さらに他の実施形態に係るディスクブレーキにおける主要部の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態を図1図5に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明において、車両内側(インナ側)を一端側(カバーハウジング21側)と称し、車両外側(アウタ側)を他端側(ディスクロータD側)と称して、適宜説明する。つまり、図1図2図4及び図5において、右側を一端側と称し、左側を他端側として称して、適宜説明する。
【0010】
本実施形態では、通常走行における制動時に、電動モータ43の駆動によって制動力を発生させる電動ブレーキ装置としてのディスクブレーキ1A~1Cを以下に説明する。本実施形態に係るディスクブレーキ1Aでは、図1及び図2に示すように、車両の回転部に取り付けられたディスクロータDを挟んで軸方向両側に配置された一対のインナブレーキパッド2、及びアウタブレーキパッド3と、キャリパ4と、を備えている。本ディスクブレーキ1は、キャリパ浮動型として構成されている。なお、一対のインナブレーキパッド2及びアウタブレーキパッド3と、キャリパ4とは、ブラケット5にディスクロータDの軸方向に沿って移動自在に支持されている。
【0011】
ブラケット5は、車両のナックル等の非回転部に固定され、ディスクロータDの外周側を跨ぐように設けられている。一対のインナブレーキパッド2及びアウタブレーキパッド3が摩擦パッドに相当する。インナブレーキパッド2は、ディスクロータDの軸方向におけるインナ側の面と対向して配置される。一方、アウタブレーキパッド3は、ディスクロータDの軸方向におけるアウタ側の面と対向して配置される。
【0012】
図1に示すように、キャリパ4の主体であるキャリパ本体8は、インナブレーキパッド2に対向する基端側に配置され、該インナブレーキパッド2に対向して開口する有底円筒状のシリンダ部10と、該シリンダ部10からディスクロータDを跨いでアウタ側へ延び、アウタブレーキパッド3に対向する、先端側に配置される一対の爪部11、11(一方の爪部11は図示せず)と、を備えている。キャリパ本体8のシリンダ部10内に、ピストン13がシリンダ部10に対して相対回転不能に、且つ軸方向に移動可能に収容されている。ピストン13は、インナブレーキパッド2を押圧するものであって、有底のカップ状に形成される。該ピストン13は、その底部がインナブレーキパッド2に対向するように、シリンダ部10内に収容される。ピストン13は、その底部とインナブレーキパッド2との間の回り止め係合によって、シリンダ部10、ひいてはキャリパ本体8に対して相対回転不能に支持される。なお、本実施形態では、一対の爪部11、11を採用したが、爪部11は1つであってもよい。
【0013】
シリンダ部10内には、その他端側にシール部材(図示略)が配置されている。ピストン13は、このシール部材に接触した状態で軸方向に移動可能にシリンダ部10内に収容される。ピストン13の底部側の外周面と、シリンダ部10の他端側の内周面との間にはダストブーツ17が介装されている。これらシール部材及びダストブーツ17により、シリンダ部10内への異物の侵入を防ぐようにしている。
【0014】
キャリパ本体8のシリンダ部10の底部には、ハウジング20が取り付けられている。ハウジング20の一端側の開放部分は、カバーハウジング21により気密的に閉塞されている。ハウジング20の嵌合凹部23とシリンダ部10との間にはシール部材25が設けられている。ハウジング20内は、このシール部材25によって気密性が保持されている。ハウジング20は、シリンダ部10の底部の外周を覆うようにして、主に、後述する不思議遊星歯車減速機構45Aを収容する第1ハウジング部27と、第1ハウジング部27と並ぶように一体的に接続されると共に、他端側に突設され後述する電動モータ43を収容する第2ハウジング部28と、を備えている。
【0015】
図1及び図2に示すように、第1ハウジング部27は、一端側が開放され、他端側に開口部30を有する筒状に形成される。上述したように、第1ハウジング部27の内部には、不思議遊星歯車減速機構45Aが収容される。第1ハウジング部27の他端側には嵌合凹部23が形成される。該嵌合凹部23に、シリンダ部10の底部がシール部材25により気密的に嵌合される。嵌合凹部23の底部に開口部30が形成される。図3を参照して、第1ハウジング部27内であって、開口部30から一端側には、第1環状面33及び第1周壁面34を有する第1段部35が形成される。当該第1段部35から一端側に、第2環状面38及び第2周壁面39を有する第2段部40が形成される。上述したように、第2ハウジング部28内に電動モータ43が収容される。
【0016】
キャリパ本体8には、電動モータ43と、電動モータ43からの回転トルクを増力する平歯多段減速機構44及び不思議遊星歯車減速機構45Aと、これら平歯多段減速機構44及び不思議遊星歯車減速機構45Aからの回転運動を直線運動に変換して、ピストン13に推力を付与する回転直動変換機構46と、が備えられている。電動モータ43には、その回転を制御するための電子制御ユニット(ECU)49が電気的に接続される。通常走行における制動時には、当該電子制御ユニット49により、運転者の要求に対応した検出センサやブレーキが必要な様々な状況を検出する種々の検出センサ等からの検出信号、回転角検出手段(図示略)からの検出信号、及び推力センサ(図示略)等からの検出信号に基づいて、電動モータ46の回転を制御する。
【0017】
電動モータ43は、上述したように、ハウジング20の第2ハウジング部28内に収容される。電動モータ43の回転軸53は、第2ハウジング部28の底壁部に設けた貫通孔32に挿通されて一端側に延びている。なお、キャリパ本体8のシリンダ部10と電動モータ43とは並ぶように配置されている。平歯多段減速機構44は、ハウジング20内であって、第2ハウジング部28から一端側に収容されている。平歯多段減速機構44は、ピニオンギヤ55と、減速歯車56と、を備えている。ピニオンギヤ55は、電動モータ43の回転軸53に圧入固定される。
【0018】
減速歯車56は、その径方向中心に軸方向に延びるシャフト用孔59が形成される。該減速歯車56は、ピニオンギヤ55に噛合する大径の大歯車62と、大歯車62から同心状に軸方向に沿って一端側に延びる小径の小歯車63とが一体的に接続されて構成される。大歯車62は、第2ハウジング部28の底壁部に近接して配置される。大歯車62は、その外径が軸方向長さよりも大きく形成される。一方、小歯車63は、大歯車62から一端側に向かって一体的に延びている。小歯車63は、その軸方向長さが外径よりも相当大きく形成される。小歯車63は、大歯車62からカバーハウジング21に近接する位置まで延びる。減速歯車56のシャフト用孔59にシャフト65が回転自在に挿通される。該シャフト65は、その他端が第2ハウジング部28の底壁部に一体的に固定される。その結果、減速歯車56は、シャフト65により回転自在に支持される。減速歯車56の小歯車63は、不思議遊星歯車減速機構45Aと噛合している。
【0019】
不思議遊星歯車減速機構45Aは、ハウジング20の第1ハウジング部27内に収容される。図3も参照して、不思議遊星歯車減速機構45Aは、太陽歯車68と、複数の遊星歯車69と、固定内歯車70と、可動内歯車71と、を備えている。不思議遊星歯車減速機構45Aは、固定内歯車70の内歯84と可動内歯車71の内歯101との歯数差によって減速比が設定され、通常の遊星歯車減速機構よりも大きな減速比を得ることができる。太陽歯車68と、固定内歯車70と、可動内歯車71とは、互いに同心状に配置される。太陽歯車68は、固定内歯車70に回転自在に支持される。
【0020】
太陽歯車68は、減速歯車56の小歯車63に噛合する円筒状の大歯車74と、大歯車74により小径で、該大歯車74の内側に間隔を置いて同心状に配置される円筒状の小歯車75と、大歯車74の一端と小歯車75の一端とを一体的に接続するように設けられ、円環状に延びる円環状プレート部76と、備えている。太陽歯車68の一端面は、カバーハウジング21に回転自在に支持されると共に、太陽歯車68の他端面は、第1ハウジング部27の第2段部40の第2環状面38に回転自在に支持されている。なお、太陽歯車68の大歯車74の軸方向長さと、小歯車75の軸方向長さとは略同じである。
【0021】
遊星歯車69は、太陽歯車68の小歯車75に噛合される歯車80と、その軸方向両端面から軸方向に沿ってそれぞれ突設される軸部81、81と、を備えている。遊星歯車69は、太陽歯車68の小歯車75の周りを囲むように等間隔に配置される。各遊星歯車69の周りには、固定内歯車70及び可動内歯車71が配置される。後で詳述するが、各遊星歯車69の歯車80には、固定内歯車70の内歯84と、可動内歯車71の内歯101とが噛合している。固定内歯車70は、内歯84を有する円筒状内歯部85と、該円筒状内歯部85の一端に一体的に接続され、径方向内側に向かって突設される所定幅を有する円環状プレート部87と、を備えている。円環状プレート部87が第1プレート部に相当する。
【0022】
円環状プレート部87の各遊星歯車69と対向する他端面には、各遊星歯車69の軸方向一端面からの軸部81が嵌合される円環状溝部90が形成される。円環状プレート部87の内側に開口部91が形成される。該開口部91に、太陽歯車68の小歯車75が挿入される。円筒状内歯部85の内壁面には、その一端側に内歯84が形成される。固定内歯車70(円筒状内歯部85)の内歯84が第1ギヤ部に相当する。円筒状内歯部85であって、内歯84から他端側には、その内径が内歯84よりも大径となる大径嵌合部92が形成される。円筒状内歯部85の外周壁の他端側は一部切り欠かれている。
【0023】
円筒状内歯部85の他端側の外周面には、周方向に間隔を置いて複数の係合凸部94が形成される。これら係合凸部94が、第1ハウジング部27に設けた対応する係合凹部(図示略)に嵌合することで、固定内歯車70は、ハウジング20に対する相対回転が規制される。また、固定内歯車70(円筒状歯車85)の他端側の外周面が、第1ハウジング部27の第1段部35の第1周壁面34に当接することで径方向の移動が規制される。また、固定内歯車70(円筒状歯車85)の一端面が、太陽歯車68の円環状プレート部76と当接すると共に、固定内歯車70(円筒状内歯部85)の他端面が、第1ハウジング部28の第1段部35の第1環状面33に当接することで軸方向の移動が規制される。
【0024】
一方、可動内歯車71は、後述する回転直動変換機構46のスピンドル110の多角形軸部112が嵌合される円筒状嵌合部100と、円筒状嵌合部100から同心状に一端側に延び、円筒状嵌合部100よりもはるかに大径で内歯101を有する円筒状内歯部102と、円筒状嵌合部100の一端と円筒状内歯部102の他端とを一体的に接続する円環状プレート部103と、を備えている。円筒状嵌合部100には、多角形孔107が軸方向に沿って貫通されて構成される。
【0025】
円環状プレート部103の各遊星歯車69と対向する一端面には、各遊星歯車69の軸方向他端面からの軸部81が嵌合される円環状溝部105が形成される。円環状プレート部103が第2プレート部に相当する。なお、可動内歯車71に設けた円環状プレート部103の厚みと、固定内歯車70に設けた円環状プレート部87の厚みとは略同じである。円筒状内歯部102の内壁面には、その軸方向全域に内歯101が形成される。可動内歯車71(円筒状内歯部102)の内歯101が第2ギヤ部に相当する。なお、可動内歯車71の内歯101の歯数と、固定内歯車70の内歯84の歯数とは相違している。
【0026】
そして、可動内歯車71の円筒状内歯部102が、固定内歯車70(円筒状内歯部85)の大径嵌合部92内に他端側から挿入される。すると、可動内歯車71の円筒状内歯部102が、固定内歯車70(円筒状内歯部85)の大径嵌合部92に回転自在に支持され、可動内歯車71の内歯101と、固定内歯車70の内歯84とが軸方向において連接される。なお、軸方向において、可動内歯車71の内歯101が他端側に、固定内歯車70の内歯84が一端側に配置される。また、可動内歯車71の円環状プレート部103の他端面と、固定内歯車70の円筒状内歯部85の他端面とが軸方向で一致して、可動内歯車71の円環状プレート部103が、第1ハウジング部27の第1段部35の第1環状面33に回転自在に支持される。可動内歯車71の円筒状嵌合部100は、第1ハウジング部27の開口部30内に配置される。また、太陽歯車68の小歯車75と、可動内歯車71及び固定内歯車70の各内歯101、84との間に複数の遊星歯車69が周方向に沿って間隔を置いて配置される。
【0027】
その結果、各遊星歯車69の歯車80が、太陽歯車68の小歯車75に噛合すると共に、可動内歯車71及び固定内歯車70の各内歯101、84にそれぞれ噛合する。さらに、各遊星歯車69の軸方向一端面からの軸部81が、固定内歯車70の円環状プレート部87に設けた円環状溝部90に回転自在に嵌合される。一方、各遊星歯車69の軸方向他端面からの軸部81が、可動内歯車71の円環状プレート部103に設けた円環状溝部105に回転自在に嵌合される。そして、各遊星歯車69が、固定内歯車70の円環状プレート部87と、可動内歯車71の円環状プレート部103との間に回転自在に支持される。スピンドル110は、シリンダ部10内から一端側に突出される。スピンドル110は、その一端部に多角形軸部112を有している。該多角形軸部112は、可動内歯車71の円筒状嵌合部100に設けた多角形孔107に嵌合される。これにより、可動内歯車71とスピンドル110との間で互いに回転トルクを伝達できるようになる。
【0028】
回転直動変換機構46は、平歯多段減速機構44及び不思議遊星歯車減速機構45Aからの回転運動、すなわちスピンドル110の回転運動を直線運動に変換し、そのナット部材108の前進によりピストン13に推力を付与して、ピストン13を推進させる(他端側へ移動させる)ものである。回転直動変換機構46は、シリンダ部10内であって、その底面とピストン13との間に配置される。例えば、回転直動変換機構75は、不思議遊星歯車減速機構45Aからの回転運動が伝達されるスピンドル112とねじ係合されるナット部材108等を備えて概略構成される。
【0029】
例えば、当該回転直動変換機構75では、スピンドル112がシリンダ部10に対して軸方向に移動不能に支持され、ナット部材108がシリンダ部10に対して軸方向に移動自在に、且つ相対回転不能に支持される。そして、不思議遊星歯車減速機構45Aの可動内歯車71の回転に伴ってスピンドル112が回転すると、回転直動変換機構46の作用により、そのナット部材108が他端側に向かって前進することで、該ピストン13が前進し、該ピストン13によってインナブレーキパッド2をディスクロータDに押し付けて、制動力を発生させることができる。
【0030】
次に、本実施形態に係るディスクブレーキ1Aにおいて、通常走行における制動及び制動解除の作用を説明する。
通常走行における制動時には、電子制御ユニット49からの指令により、電動モータ443がアプライ方向に回転駆動されて、平歯多段減速機構44を介して不思議遊星歯車減速機構45Aの太陽歯車68が回転する。この太陽歯車68の回転に伴って、各遊星歯車69が自身の軸心を中心に自転しながら太陽歯車68の軸心を中心に公転することで、可動内歯車71が回転する。そして、可動内歯車71からの回転がスピンドル110に伝達される。
【0031】
そこで、電動モータ43からの回転が平歯多段減速機構44を介して不思議遊星歯車減速機構45Aに伝達された際には、不思議遊星歯車減速機構45Aでは、太陽歯車68の回転に伴って、各遊星歯車69が自身の軸心を中心に自転しながら太陽歯車68の軸心を中心に公転するが、各遊星歯車69の軸方向両端面からの各軸部81、81は、それぞれ、可動内歯車71の円環状プレート部103に設けた円環状溝部105に沿って移動すると共に、固定内歯車70の円環状プレート部87に設けた円環状溝部90に沿って移動するので、可動内歯車71の回転を妨げることはない。
【0032】
続いて、不思議遊星歯車減速機構45Aの作動に伴って、スピンドル110が回転すると、回転直動変換機構46の作用により、そのナット部材108が前進してピストン13を前進させる。このピストン13が前進することで、インナブレーキパッド2をディスクロータDに押し付ける。そして、ピストン13によるインナブレーキパッド2への押圧力に対する反力により、キャリパ本体8がブラケット5に対してインナ側(図1における右方向)に移動して、各爪部11、11によってアウタブレーキパッド3をディスクロータDに押し付ける。その結果、ディスクロータDが一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3により挟みつけられて摩擦力が発生し、ひいては、車両の制動力が発生することになる。
【0033】
一方、制動解除時には、電子制御ユニット49からの指令により、電動モータ43の回転軸53が逆方向、すなわちリリース方向に回転すると共に、その逆方向の回転が平歯多段減速機構44及び不思議遊星歯車減速機構45Aを介してスピンドル110に伝達される。その結果、スピンドル110の逆方向への回転に伴って、回転直動変換機構46の作用により、そのナット部材108が後退して初期状態に戻り、ディスクロータDへの一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3による制動力が解除される。
【0034】
以上説明したように、本実施形態に係るディスクブレーキ1Aに採用した不思議遊星歯車減速機構45Aでは、固定内歯車70の円環状プレート部87(第1プレート部)の各遊星歯車69と対向する他端面には、各遊星歯車69の軸方向一端面からの軸部81が嵌合されて円環状に延びる円環状溝部90が形成され、一方、可動内歯車71の円環状プレート部103(第2プレート部)の各遊星歯車69と対向する一端面には、各遊星歯車69の軸方向他端面からの軸部81が嵌合されて円環状に延びる円環状溝部105が形成される。その結果、本実施形態に係る不思議遊星歯車減速機構45Aでは、従来(特許文献1に記載の電動式ブレーキ装置)のように、各遊星歯車69の軸方向両端面からの軸部81、81をそれぞれ支持する一対のキャリアを備えていないので、不思議遊星歯車減速機構45Aをその軸方向に沿って小型化することができ、ひいては、ディスクブレーキ1A全体を小型化することができる。これにより、ディスクブレーキ1Aの車両への搭載性を良好にすることができる。
【0035】
次に、他の実施形態に係るディスクブレーキ1Bを図4に基づいて説明する。当該実施形態に係るディスクブレーキ1Bを説明する際には、図1図3に示す実施形態に係るディスクブレーキ1Aに対して相違する箇所を主に説明する。
当該実施形態に係るディスクブレーキ1Bに採用された不思議遊星歯車減速機構45Bでは、図1図3に示す実施形態にて採用した、固定内歯車70の円環状プレート部87を備えていない。そして、不思議遊星歯車減速機構45Bでは、図1図3に示す実施形態にて採用した、固定内歯車70の円環状プレート部87の位置にキャリア116が配置されている。要するに、キャリア116は、各遊星歯車69の軸方向一端面と、太陽歯車68の円環状プレート部76との間に配置される。
【0036】
キャリア116は、円板状に形成される。キャリア116には、径方向中央に太陽歯車74の小歯車75が挿通される挿通孔117が貫通して設けられる。キャリア116には、挿通孔117の周りに、各遊星歯車69の軸方向一端面からの軸部81が嵌合され、円環状に延びる円環状孔部118が形成される。円環状孔部118は軸方向に沿って貫通される。キャリア116の厚さは、図1図3に示す実施形態にて採用した、固定内歯車70の円環状プレート部87の厚みと略同じである。そして、各遊星歯車69は、その軸方向一端面からの軸部81(軸部の軸方向他方側)がキャリア116の円環状孔部118に回転自在に嵌合されると共に、その軸方向他端面からの軸部81(軸部の軸方向一方側)が可動内歯車71(円環状プレート部103)の円環状溝部105に回転自在に嵌合される。その結果、各遊星歯車69は、可動内歯車71の円環状プレート部103と、キャリア116との間に回転自在に支持される。
【0037】
以上説明した実施形態に係るディスクブレーキ1Bに採用した不思議遊星歯車減速機構45Bでは、図1図3に示す実施形態に係るディスクブレーキ1Aに採用した不思議遊星歯車減速機構45Aと比較して、その軸方向に沿う長さが略同じである。その結果、本実施形態に係るディスクブレーキ1Bに採用した不思議遊星歯車減速機構45Bを、その軸方向に沿って小型化することができ、ひいては、ディスクブレーキ1B全体を小型化することができる。これにより、ディスクブレーキ1Bの車両への搭載性を良好にすることができる。
【0038】
次に、さらに他の実施形態に係るディスクブレーキ1Cを図5に基づいて説明する。当該実施形態に係るディスクブレーキ1Cを説明する際には、図1図3に示す実施形態に係るディスクブレーキ1Aに対して相違する箇所を主に説明する。
当該実施形態に係るディスクブレーキ1Cに採用された不思議遊星歯車減速機構45Cでは、キャリア116が、可動内歯車71の円環状プレート部103と、各遊星歯車69の軸方向他端面との間に配置される。キャリア116は円板状に形成される。キャリア116には、径方向中央に太陽歯車74の小歯車75が挿通される挿通孔117が貫通して設けられる。キャリア116には、挿通孔117の周りに、各遊星歯車69の軸方向他端面からの軸部81が嵌合され、円環状に延びる円環状孔部118が形成される。円環状孔部118は軸方向に沿って貫通される。そして、各遊星歯車69は、その軸方向他端面からの軸部81(軸部の軸方向他方側)がキャリア116の円環状孔部118に回転自在に嵌合されると共に、その軸方向一端面からの軸部81(軸部の軸方向一方側)が固定内歯車70(円環状プレート部87)の円環状溝部90に回転自在に嵌合される。その結果、各遊星歯車69は、固定内歯車70の円環状プレート部87と、キャリア116との間に回転自在に支持される。
【0039】
以上説明した実施形態に係るディスクブレーキ1Cに採用した不思議遊星歯車減速機構45Cでは、図1図3に示す実施形態に係るディスクブレーキ1Aに採用した不思議遊星歯車減速機構45Aと比較して、その軸方向に沿う長さが1枚のキャリア116の厚み相当分長くなるが、従来(特許文献1に記載の電動式ブレーキ装置)に比較すると、その軸方向に沿って小型化することができ、ひいては、ディスクブレーキ1C全体を小型化することができる。これにより、ディスクブレーキ1Cの車両への搭載性を良好にすることができる。
【0040】
なお、以上の説明では、本実施形態を、通常走行における制動時に、電動モータ43を駆動させて制動力を発生させるディスクブレーキ1A、1B、1Cに採用したが、通常制動走行の制動時には、シリンダ部の液圧室にブレーキ液を供給することで制動力を付与して、駐車ブレーキ時等に使用するパーキングブレーキを作動させる際に、電動モータ43を駆動させて制動力を発生させるディスクブレーキに採用してもよい。
【0041】
また、本実施形態に係る不思議遊星歯車減速機構45A、45B、45Cを、上述したディスクブレーキ1A、1B、1Cだけでなく、モータ等からの回転等を増力させて出力する他の装置に適用してもよい。
【符号の説明】
【0042】
1A、1B、1C ディスクブレーキ(電動ブレーキ装置),2 インナブレーキパッド(摩擦パッド),3 アウタブレーキパッド(摩擦パッド),20 ハウジング,27 第1ハウジング部,43 電動モータ,45A、45B、45C 不思議遊星歯車減速機構(遊星歯車減速機構),46 回転直動変換機構,68 太陽歯車,69 遊星歯車,70 固定内歯車,71 可動内歯車,81 軸部,84 内歯(第1ギヤ部),85 円筒状内歯部,87 円環状プレート部(第1プレート部),90 円環状溝部,101 内歯(第2ギヤ部),102 円筒状内歯部,103 円環状プレート部(第2プレート部),105 円環状溝部,116 キャリア,D ディスクロータ
図1
図2
図3
図4
図5