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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022181454
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20221201BHJP
   H02H 6/00 20060101ALI20221201BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20221201BHJP
   G01K 1/14 20210101ALI20221201BHJP
   G01K 7/42 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
H01M10/48 301
H01M10/48 P
H02H6/00 150
H02J7/00 Q
G01K1/14 L
G01K7/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021088402
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田上 陽嗣
(72)【発明者】
【氏名】松本 潤一
【テーマコード(参考)】
2F056
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2F056CL07
5G503BA03
5G503BB01
5G503CB11
5G503EA09
5G503GD03
5G503GD04
5G503GD06
5H030AS08
5H030FF22
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
(57)【要約】
【課題】バイポーラ型のニッケル水素電池によって構成される電池システムにおいて、モジュールの中央領域に温度センサが設けられない場合であっても、中央領域の温度を取得する。
【解決手段】電池システム90は、電流センサ53と、サーミスタ80と、ECU100とを備える。電流センサ53は、電池ユニット1に入出力される電流IBを検出する。サーミスタ80は、電池モジュール4の端部領域の温度を検出する。ECU100は、電池モジュール4の中央領域の温度を推定する推定モデルを用いて、電流センサ53およびサーミスタ80の各検出値から中央領域の温度を推定する処理を繰り返し実行する。推定モデルは、端部領域の温度と、中央領域の温度の前回推定値と、端部領域の抵抗値と、中央領域の抵抗値と、電流IBと、電池モジュール4の熱容量および放熱係数とから、中央領域の温度を推定するモデルを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々がバイポーラ型のニッケル水素電池を含む複数の電池モジュールが積層されて構成される電池ユニットと、
前記電池ユニットの入出力電流を検出する電流センサと、
前記複数の電池モジュールに含まれるモジュールの第1の領域の温度を示す第1の温度を検出する温度センサと、
前記モジュールの第2の領域の温度を示す第2の温度を推定する推定モデルを用いて、前記電流センサ及び前記温度センサの各検出値から前記第2の温度を推定する処理を繰り返し実行する処理装置と、
前記モジュールにおける抵抗値と温度との関係、並びに前記モジュールにおける熱容量及び放熱係数を記憶する記憶部とを備え、
前記第1の領域は、前記モジュールを前記複数の電池モジュールの積層方向から視たときの前記モジュールの端部の領域であり、
前記第2の領域は、前記モジュールを前記積層方向から視たときの前記モジュールの中央部の領域であり、
前記推定モデルは、前記第1の温度と、前記第2の温度の前回推定値と、前記第1の領域の抵抗値を示す第1の抵抗値と、前記第2の領域の抵抗値を示す第2の抵抗値と、前記入出力電流と、前記熱容量及び前記放熱係数とから、前記第2の温度を推定するモデルを含み、
前記処理装置は、
前記関係を用いて、前記第1の温度の検出値から前記第1の抵抗値を算出するとともに、前記第2の温度の前回推定値から前記第2の抵抗値を算出し、
前記推定モデルを用いて前記第2の温度を推定する、電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2020-161340号公報(特許文献1)は、複数の電池モジュールを含んで構成される積層体と、電流センサユニットとを備える蓄電装置を開示する。電流センサユニットは、積層体に入出力される電流を測定する。各電池モジュールは、複数の電池を含んで構成される。各電池は、バイポーラ型のニッケル水素電池である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-161340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような電池モジュールが積層方向に積層される電池ユニットにおいて、電池モジュールを積層方向から視たときの、モジュールの中央領域では、モジュールの端部領域よりも熱が放出され難い。それゆえ、中央領域における放熱量は、端部領域における放熱量よりも少ない。そのため、モジュールの中央領域の温度は、端部領域の温度よりも高くなる。ここで、電池モジュールにおいて、温度が高い領域ほど、電池の反応抵抗が低下するため、電流量が増加する。よって、相対的に温度が高い中央領域における電流量は、端部領域における電流量よりも多くなる。それゆえ、中央領域における発熱量は、端部領域における発熱量よりも多くなる。その結果、中央領域の温度が端部領域の温度よりも高くなる現象がさらに顕著になる。
【0005】
電池ユニットは、モジュールにおいて温度が相対的に高い領域である中央領域の温度に従って過熱から保護されることが好ましい。そこで、モジュールの中央領域の温度を検出するための温度センサが中央領域に設けられることが好ましいようにも思われる。しかしながら、バイポーラ型電池から成る電池ユニットの構造的な理由から、温度センサは、中央領域に設けられ難い場合がある。
【0006】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、バイポーラ型のニッケル水素電池によって構成される電池システムにおいて、モジュールの中央領域に温度センサが設けられない場合であっても、中央領域の温度を取得するための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の電池システムは、電池ユニットと、電流センサと、温度センサと、処理装置と、記憶部とを備える。電池ユニットは、各々がバイポーラ型のニッケル水素電池を含む複数の電池モジュールが積層されて構成される。電流センサは、電池ユニットの入出力電流を検出する。温度センサは、複数の電池モジュールに含まれるモジュールの第1の領域の温度を示す第1の温度を検出する。処理装置は、モジュールの第2の領域の温度を示す第2の温度を推定する推定モデルを用いて、電流センサ及び温度センサの各検出値から第2の温度を推定する処理を繰り返し実行する。記憶部は、モジュールにおける抵抗値と温度との関係、並びにモジュールにおける熱容量及び放熱係数を記憶する。第1の領域は、モジュールを複数の電池モジュールの積層方向から視たときのモジュールの端部の領域である。第2の領域は、モジュールを積層方向から視たときのモジュールの中央部の領域である。推定モデルは、第1の温度と、第2の温度の前回推定値と、第1の領域の抵抗値を示す第1の抵抗値と、第2の領域の抵抗値を示す第2の抵抗値と、入出力電流と、熱容量及び放熱係数とから、第2の温度を推定するモデルを含む。処理装置は、上記関係を用いて、第1の温度の検出値から第1の抵抗値を算出するとともに、第2の温度の前回推定値から第2の抵抗値を算出し、推定モデルを用いて第2の温度を推定する。
【0008】
上記の構成により、検出可能な電池モジュールの端部の領域の温度(第1の温度)、及び電池ユニットの入出力電流から、推定モデルを用いて電池モジュールの中央部の領域の温度(第2の温度)を精度良く推定することができる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、バイポーラ型のニッケル水素電池によって構成される電池システムにおいて、モジュールの中央領域に温度センサが設けられない場合であっても、中央領域の温度を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施の形態に従う電池システムの構成を模式的に示す図である。
図2】電池ユニットの断面図である。
図3】電池ユニットの分解斜視図である。
図4】電池ユニットの使用中に電池モジュールの中央領域の温度が電池モジュールの端部領域の温度よりも高くなることを説明するための図である。
図5】電池モジュールの発熱領域が、x-y平面において複数の領域に仮想的に区分される様子を示す図である。
図6】領域A1~A9の各々における、温度と抵抗値との関係を示す図である。
図7】電池モジュールの電気回路モデルの構成を示す図である。
図8】領域A5の温度を推定するためのモデルを説明するための図である。
図9】領域A5の温度の推定に伴って実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明を繰り返さない。本開示の電池システムは、代表的には車両に適用されるが、車両以外にも適用可能である。
【0012】
図1は、本実施の形態に従う電池システムの構成を模式的に示す図である。図1を参照して、電池システム90は、電池ユニット1と、電流センサ53と、サーミスタ80と、ECU(Electronic Control Unit)100とを備える。
【0013】
電池ユニット1は、複数の電池モジュール4が積層されて構成される。各電池モジュール4は、バイポーラ型のニッケル水素電池を含んで構成される。図1の例では、7つの電池モジュール4が記載されているが、電池モジュールの数はこれに限定されるものではない。隣接する電池モジュール4の間には、電池モジュール4を冷却するための冷媒が内部に流通する冷却板(図示せず)が設けられる。電池モジュール4の詳細な構成については、後述する。
【0014】
電流センサ53は、電池ユニット1に入出力される(各電池モジュール4に入出力される)電流IBを検出する。電流IBの検出値は、ECU100に出力される。
【0015】
サーミスタ80は、電池モジュール4の端部領域(後述)の温度を検出する。この例では、サーミスタ80は、複数の電池モジュール4のうち代表的な1つの電池モジュール4(7つの電池モジュール4のうち真ん中のモジュール)に設けられて、その電池モジュールの端部領域の温度を検出するものとしているが、他の電池モジュールの温度を検出してもよい。サーミスタ80の検出値は、ECU100に出力される。サーミスタ80に代えて、他の種類の温度センサが用いられてもよい。
【0016】
また、電池システム90は、電池ユニット1を冷却するためのファン(図示せず)を備える。
【0017】
ECU100は、図示しないCPU(Central Processing Unit)と、メモリ105とを含む。CPUは、メモリ105に記憶された情報などに従って各種演算を実行する。メモリ105は、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)とを含む(いずれも図示せず)。ROMは、CPUにより実行されるプログラムなどを格納する。RAMは、CPUにより参照されるデータなどを一時的に格納する。ECU100の制御は、ソフトウェア処理により実現されるが、ECU100内に作製されたハードウェアにより実現されてもよい。
【0018】
ECU100は、各センサ信号、並びにメモリ105に記憶されたプログラム、データおよびマップなどに従って、サーミスタ80が設けられた電池モジュール4の中央領域(後述)の温度を推定する。本実施の形態では、複数の電池モジュール4のうちサーミスタ80が設けられた1つの電池モジュール4において代表的に温度が検出および推定される。
【0019】
また、電池モジュール4の中央領域の温度がしきい温度を超えた場合、ECU100は、電池ユニット1の過熱を抑制するための制御(一例として、電池ユニット1の充放電電流の制限、上記ファンの回転数の引き上げ、及び/又は、上記冷媒の量の増加など)を実行する。ECU100による制御については、後ほど詳しく説明する。
【0020】
なお、電池システム90は、負荷55に接続される。電池システム90が車両に搭載される場合、負荷55は、例えば、PCU(Power Control Unit)、またはモータなどである。
【0021】
図2および図3を参照して、電池ユニット1および電池モジュール4の構成について説明する。図2は、電池ユニット1の断面図である。図3は、電池ユニット1の分解斜視図である。
【0022】
電池ユニット1は、積層体11と、拘束具12とを含む。積層体11は、複数の電池モジュール4を含む。複数の電池モジュール4は、積層方向Zに積層される。積層体11は、積層方向Zに配列する端面13および端面14を有する。
【0023】
電池モジュール4は、複数の電極層41を含んで構成される。電極層41は、セパレータ44と、負極45と、正極43とを含む。セパレータ44は、積層方向Zに配列する上面46および下面47を有する。負極45は、上面46に設けられる。正極43は、下面47に設けられる。
【0024】
また、電池モジュール4は、正極終端電極と、負極終端電極とをさらに含む(いずれも図示せず)。そのため、電池モジュール4において、正極終端電極と、負極終端電極との間に、複数の電極層41が設けられる。
【0025】
隣接する電極層41の間に1個の電池セルが形成される。ここで、電池モジュール4に、n個の電極層(バイポーラ電極)41が設けられているものとすると、n個の電極層41の間に、合計でn-1個の電池セルが形成される(nは自然数)。また、正極終端電極に隣接する電極層41と、正極終端電極との間に1つの電池セルが形成される。負極終端電極に隣接する電極層41と、負極終端電極との間に1つの電池セルが形成される。したがって、電池モジュール4は、積層方向Zに形成されるn+1個の電池セルを含んでいる。各電池セルは、バイポーラ型のニッケル水素電池である。
【0026】
拘束具12は、積層体11を積層方向Zに拘束する。拘束具12は、押圧板20と、押圧板21と、複数の接続軸26とを含む。押圧板20は、端面13を押圧する。押圧板21は、端面14を押圧する。
【0027】
各接続軸26は、押圧板20および押圧板21の間に配置され、押圧板20および押圧板21を接続する。各接続軸26は、積層体11の周囲を取り囲むように間隔をあけて配置されている(図3)。積層体11は、外気に曝されており、積層体11における電池モジュール4の熱は、外気に放出される。
【0028】
図4は、電池ユニット1の使用中に電池モジュール4の中央領域の温度が電池モジュール4の端部領域の温度よりも高くなることを説明するための図である。
【0029】
z軸方向から電池モジュール4を視たときの電池モジュール4の中央領域505において、電池モジュール4の端部領域510よりも外部に熱が放出され難い(中央領域505および端部領域510は、z軸方向にも広がる3次元領域である)。そのため、電池モジュール4の発熱領域502(矩形領域)では、中央領域505における放熱量は、端部領域510における放熱量よりも少ない。そのため、中央領域505の温度は、端部領域510の温度よりも高くなる。
【0030】
ここで、電池モジュール4において、温度が高い領域ほど、電池の反応抵抗(内部抵抗)が小さくなるため、電流量が増加する。よって、相対的に温度が高い中央領域505における電流量は、端部領域510における電流量よりも多くなる(中央領域505における電流密度は、端部領域510における電流密度よりも高い)。それゆえ、中央領域505における発熱量は、端部領域510における発熱量よりも多くなる。その結果、中央領域505の温度が端部領域510の温度よりも高くなる現象がさらに顕著になる。電池モジュール4がx-y平面において広くなるほど、このような現象は、より顕著になる。なお、図4の例では、複数の電池モジュール4のうち、サーミスタ80が設けられている代表的な電池モジュール4が示されているが、上記の現象は、他の電池モジュール4においても同様に発生する。
【0031】
電池システム90において、ECU100は、発熱領域502において相対的に温度が高い中央領域505の温度に従って、電池ユニット1の過熱を抑制するための制御を実行することが好ましい。そこで、電池モジュール4の中央領域505の温度を検出するための温度センサが中央領域505に設けられることが好ましいようにも思われる。
【0032】
しかしながら、電池ユニット1の構造的な理由から、電池モジュール4の中央領域505に温度センサを設けることは難しい。仮に、温度センサが中央領域505に設けられる場合、電池ユニット1の構造の変更を要することがある。その結果、電池ユニット1の蓄電性能が低下してしまう可能性がある。
【0033】
そこで、本実施の形態に従う電池システム90は、上記問題を解決するための構成を備える。具体的には、ECU100は、電池モジュール4の中央領域505の温度を推定する推定モデルを用いて、電流センサ53およびサーミスタ80の各検出値から、中央領域505の温度を推定する処理を繰り返し実行する。以下、上記のモデルと、ECU100による制御とについて詳しく説明する。まず、上記モデルについて詳しく説明する。
【0034】
図5は、電池モジュール4の発熱領域502が、x-y平面において複数の領域に仮想的に区分される様子を示す図である。
【0035】
図5において、発熱領域502は、領域A1~A9に区分される(領域A1~A9は、z軸方向にも広がる3次元領域である)。本実施の形態では、x-y平面において領域A1~A9の面積が等しくなるように電池モジュール4が区分される。領域A7は、端部領域510(図4)に相当し、その温度をT1とする。領域A5は、中央領域505に相当し、その温度をT2とする。上述のように、中央部に位置する領域A5の温度T2は、端部に位置する領域A7の温度T1よりも高い。すなわち、温度T2と温度T1との温度差ΔT(=T2-T1)は、0よりも大きい。以下、領域A1~A4,A6~A9(中央領域以外の領域)の温度が全てT1であると仮定される。
【0036】
図6は、領域A1~A9の各々における、温度と抵抗値との関係を示す図である。図6に示されるように、各領域の抵抗値は、領域の温度に依存する。具体的には、各領域において、温度が上昇するほど、電池の反応抵抗が低下するため、抵抗値が低下する。例えば、温度がT2である領域A5の抵抗値R2は、温度がT1(<T2)である領域A7の抵抗値R1よりも小さい。
【0037】
この関係は、マップ600としてメモリ105に記憶されている。この関係は、領域A1~A9のいずれかについて、実験などにより予め求められる。x-y平面における領域A1~A9の面積が同じであるため、当該いずれかの領域における温度および抵抗値の関係は、他の領域における温度および抵抗値の関係と同じであるものとして利用される。
【0038】
そのため、領域A1~A9の各々について、温度が与えられれば、ECU100は、マップ600を用いて、領域の温度に従って領域の抵抗値を算出することができる。一例として、ECU100は、マップ600を用いて、領域A7(端部領域)の温度の検出値(サーミスタ80の検出値)に従って領域A7の抵抗値R1を算出する。ECU100は、マップ600を用いて、領域A5(中央領域)の温度の推定値(詳しくは後述)に従って領域A5の抵抗値を算出する。
【0039】
図7および図8は、領域A5の温度T2を推定するためのモデルを説明するための図である。以下の説明において、図5および図6を適宜参照する。
【0040】
図7は、図5のように区分された電池モジュール4の電気回路モデルの構成を示す図である。回路700は、並列接続された抵抗r1~r9を含む。抵抗r1~r9は、それぞれ、図5の領域A1~A9の抵抗に相当する。
【0041】
前述したように、領域A1~A4,A6~A9(中央領域以外の領域)の温度は、全てT1であると仮定される。そのため、マップ600の関係から、抵抗r1~r4,r6~r9の抵抗値は、全てR1である。また、抵抗r5の抵抗値は、領域A5(中央領域)の抵抗値であるR2である。
【0042】
図8を参照して、回路800は、回路700(図7)から、抵抗r7(抵抗値R1)および抵抗r5(抵抗値R2)が抜粋された回路である。回路800は、抵抗r5と、抵抗r7とが並列に接続された回路に相当する。電圧Vは、電池モジュール4の正極終端電極と負極終端電極との間の電圧である。
【0043】
電流IBAは、電池ユニット1に入出力される電流IB(図1)のうち、抵抗r5および抵抗r7に流れる電流の合計である。
【0044】
電流I1は、電流IBAのうち、抵抗r7に分流される電流である。言い換えれば、電流I1は、領域A7(端部領域)に流れる電流である。
【0045】
電流I2は、電流IBAのうち、抵抗r5に分流される電流である。言い換えれば、電流I2は、領域A5(中央領域)に流れる電流である。
【0046】
電流I1、電流I2、抵抗値R1、抵抗値R2、電圧Vおよび電流IBAの関係は、次式(1)~式(3)を用いて以下のように表される。
【0047】
【数1】
【0048】
【数2】
【0049】
【数3】
【0050】
よって、図5の領域A7(端部領域)の発熱量W1と、領域A5(中央領域)の発熱量W2とについて、それぞれ、以下の式が成立する。
【0051】
【数4】
【0052】
ここで、x-y平面における領域A1~A9の面積が等しいため、領域A1~A9の各々の熱容量は等しい。この熱容量をαと記載すると、温度T1の温度上昇量(温度変化量)は、W1/αと表される。したがって、温度T1について、以下の式が成立する。
【0053】
【数5】
【0054】
式(5)において、T1’は、周期的に繰り返される後述の式(9)における前回の演算時のサーミスタ80の検出値である。すなわち、温度T1を時間の関数としてT1(t)と記載し、ECU100による演算間隔をΔtと記載する場合、T1’=T1(t-Δt)である。ECU100は、式(9)の演算時のサーミスタ80の検出値を、メモリ105に逐次格納する。そのため、T1’は、メモリに格納されている。
【0055】
また、ECU100は、後述の式(9)の演算により、中央領域505の温度T2を繰り返し推定する。ECU100は、式(9)の演算時の温度T2の推定値をメモリ105に逐次格納する。そのため、前回演算時の温度T2の推定値は、メモリに格納されている。
【0056】
ここで、温度T2について、以下の式が成立する。
【0057】
【数6】
【0058】
上式(6)において、温度T2’は、式(9)の前回演算時の温度T2の推定値(温度T2の前回値)を表す。具体的には、時刻tにおける温度T2の推定値をT2(t)と記載すると、T2’=T2(t-Δt)である。
【0059】
Kは、電池モジュール4の放熱係数である。放熱係数Kは、温度T2と温度T1との温度差ΔT(=T2-T1)の比例定数である。領域A5(中央領域)における放熱量は、温度差ΔT’(=T2’-T1’)に比例するため、ΔT’・Kと表される。すなわち、上式(6)において、右辺第3項は、放熱による温度T2の変化量を表す。また、右辺第2項は、発熱による温度T2の変化量を表す。
【0060】
発熱量W2と発熱量W1との差について、式(3),(4)から、以下の式が成立する。
【0061】
【数7】
【0062】
したがって、温度T2と温度T1との温度差ΔT=T2-T1について、式(5)~(7)から、以下の式が成立する。
【0063】
【数8】
【0064】
式(8)において、左辺における温度T1の項が右辺に移項されると、温度T2について、以下の式が成立する。
【0065】
【数9】
【0066】
式(9)において、温度T1は、サーミスタ80の検出値である。熱容量αおよび放熱係数Kは、実験などにより予め定められる定数(領域A1~A9によらず一定)であり、メモリ105に記憶されている。温度差ΔT’は、ECU100がメモリ105に記憶されている温度T1’,T2’を読み出してそれらの温度の差を演算することによって算出される。抵抗値R1は、温度T1の関数であり(図6)、マップ600を用いて温度T1の検出値に従って定められる。抵抗値R2は、温度T2の関数であり、マップ600を用いて温度T2’に従って定められる。
【0067】
電流IBAは、電流センサ53(図2)の検出値としての電流IBと、抵抗値R1,R2とに従って定められる(図7および図8)。
【0068】
したがって、ECU100は、式(9)を用いて、温度T1および電流IBに従って温度T2を推定(取得)することができる。なお、温度T1,T2の初期値は、電池ユニット1の使用開始前(例えば、電池システム90が搭載される車両の走行開始前)に、メモリ105に記憶されていてもよい。これらの初期値は、例えば、車両の外気の温度などに従って適宜予め定められる。
【0069】
なお、代表的な電池モジュール4(図2)における温度T1および温度T2は、それぞれ、他の電池モジュール4における、温度T1および温度T2に等しいものとして利用される。このように、複数の電池モジュール4のうち一部の代表的な電池モジュール4においてのみサーミスタ80が設けられることによって、部品点数を削減することができる。
【0070】
以上のように、本実施の形態では、温度T1および電流IBから温度T2を推定するためのモデルが示された。このモデルは、温度T1と、温度T2’と、抵抗値R1と、抵抗値R2と、電流IBと、放熱係数Kおよび熱容量αとから、温度T2を推定するためのモデルである。ECU100は、マップ600を用いて、温度T1から抵抗値R1を算出するとともに、温度T2’から抵抗値R2を算出し、上記モデルを用いて温度T2を推定する。
【0071】
次に、ECU100による制御について説明する。図9は、温度T2の推定に伴って実行される処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、例えば、電池システム90が搭載される車両の走行用システム起動中(車両のスタートスイッチがオン状態である間)に所定時間ごとに実行される。
【0072】
図9を参照して、ECU100は、電流センサ53から電流IBの検出値を取得する(ステップS10)。次いで、ECU100は、サーミスタ80から温度T1の検出値を取得する(ステップS20)。そして、ECU100は、温度T1および電流IBから温度T2を推定するためのモデルを用いて、式(9)に従って温度T1の検出値から温度T2を推定する(ステップS30)。
【0073】
ステップS40において、ECU100は、温度T2の推定値がしきい温度以上であるか否かを判定する。温度T2がしきい温度以上である場合(ステップS40においてYES)、ECU100は、電池ユニット1を冷却するためのファンの回転数を、通常の回転数よりも高く設定する(ステップS50)。これにより、電池ユニット1を過熱から保護することができる。なお、「通常の回転数」とは、温度T2がしきい温度未満であるときのファンの回転数(例えば、デフォルトの回転数)である。ステップS50の処理の後、ECU100は、リターンに処理を移行する。
【0074】
他方、温度T2がしきい温度未満である場合(ステップST40においてNO)、ECU100は、ファンの回転数を、通常の回転数に設定する(ステップS60)。その後、ECU100は、リターンに処理を移行する。
【0075】
以上のように、本実施の形態に従う電池システム90において、ECU100は、電池モジュール4の領域A5(中央領域505)の温度を示す温度T2を推定する推定モデルを用いて、電流IBおよび温度T1の各検出値から温度T2を推定する処理を繰り返し実行する。
【0076】
上記の構成により、検出可能な電池モジュール4の端部領域510(領域A7)の温度T1、および電池ユニット1の電流IBから、推定モデルを用いて電池モジュール4の中央領域505(領域A5)の温度T2を精度良く推定することができる。
【0077】
したがって、バイポーラ型のニッケル水素電池によって構成される電池システム90において、電池モジュール4の中央領域505に温度センサが設けられない場合であっても、中央領域505の温度T2を取得することができる。
[変形例]
上述の実施の形態では、複数の電池モジュール4のうち代表的な電池モジュール4のみにサーミスタ80が設けられるものとした。これに対して、複数の電池モジュール4の各々にサーミスタが設けられてもよい。各サーミスタの検出値は、ECU100に出力される。
【0078】
この場合、ECU100は、温度T2の推定値を電池モジュール4ごとに演算する。そして、ECU100は、例えば、各電池モジュール4に対して演算された温度T2の7つの推定値の平均値(または、これらの推移値の少なくとも1つ)がしきい温度以上であるか否かに応じて、ステップS40の処理を分岐させてもよい。
【0079】
また、ECU100は、図9のフローチャートのステップS40の判定結果に応じて、電池ユニット1における充放電電流の上限を引き下げるか否かを決定してもよい。具体的には、ECU100は、ステップS50の処理(ファンの回転数の引き上げ)に代えて、またはこの処理に加えて、電池ユニット1における充放電電流の上限を、デフォルトの上限から(例えば所定値だけ)引き下げられた上限に設定してもよい。これにより、充放電電流が抑制されるため、電池ユニット1を過熱から保護することができる。他方、ステップS60において、ECU100は、電池ユニット1の充放電電流の上限を、デフォルトの上限に設定する。
【0080】
また、ECU100は、図9のフローチャートのステップS40の判定結果に応じて、電池ユニット1を冷却するための冷媒の量を、デフォルトの量よりも大きくするか否かを決定してもよい。
【0081】
また、メモリ105は、ECU100に含まれるものとしたが、ECU100とは異なる構成要素であってもよい。
【0082】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0083】
1 電池ユニット、4 電池モジュール、11 積層体、53 電流センサ、80 サーミスタ、90 電池システム、105 メモリ、502 発熱領域、505 中央領域、510 端部領域、600 マップ、700,800 回路。
図1
図2
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図8
図9